説明

膜の後処理

高い透過性を有する親水性多孔質ポリマー膜、及びその製造方法を開示する。膜は、好ましくは親水性架橋性成分、例えばPVPを含めること(キャストする前にポリマードープに含めること、又はキャスト膜をクエンチすること又はコーティングすること);及びポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を架橋剤で処理して該架橋性成分を架橋することによって製造することができる。好ましい架橋剤は、フェントン試薬を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外濾過及び精密濾過用途における化学特性を向上するためのポリマー材料の処理に関する。特に、本発明は、他の望ましい膜特性を損失することなく、水透過性(又は透水性)を高めるための多孔質ポリマー膜の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の議論は、当業者の共通の一般的知識の状況に関する了解と解されるものではない。
【0003】
合成ポリマー膜は、脱塩、ガス分離、濾過、及び透析を含む様々な用途のため、限外濾過及び精密濾過の分野で周知である。膜の特性は、膜の形態(又はモルフォロジー)、即ち、膜を形成するために使用されるポリマー材料の対称性、孔の形状、孔のサイズ、及び化学的性質等の特性に依存して種々変わる。
【0004】
精密濾過、限外濾過及び逆浸透を含む特定の分離方法のために、各種の膜を使用することができる。精密濾過及び限外濾過は圧力駆動型の方法であり、膜が保持又は通過可能である粒子又は分子のサイズによって区別される。精密濾過は、マイクロメートル、及びサブマイクロメートルの範囲の非常に微細なコロイド状粒子を除去することができる。原則として、精密濾過は、0.05μmまでの粒子を濾過することができ、限外濾過は、0.01μm以下の小さな粒子を保持することができる。逆浸透は、更に小さいスケールで操作される。
【0005】
微孔質転相膜は、ウイルス及び細菌を除去する用途に特によく適する。
【0006】
大きな濾過液流が必要な場合には、大きな表面積が必要である。使用装置のサイズを最小にするために一般に用いられる技術は、中空多孔質繊維の形状で膜を形成することである。これらの多数の中空繊維(最大数千)は一緒に束ねられ、モジュールに収容される。これらの繊維は、精製のために、モジュール内の全ての繊維の外面と接して流れる溶液、一般には水溶液を、平行に作用して濾過する。圧力をかけることにより、水は各繊維の中央の溝(又はチャンネル)又は管腔(又はルーメン)に押しやられ、一方、微細混入物は繊維の外側に残る。濾過された水は繊維内部で集められ、端部から抜き取られる。
【0007】
この繊維モジュールの構成は、単位容積当たりの極めて高い表面積をこのモジュールに達成させることができるので、極めて望ましいものである。
【0008】
モジュール内の繊維の配置に加え、ポリマー繊維自体は、精密濾過を行えるような適当な微細構造を持つことが必要である。
【0009】
望ましくは、限外濾過膜及び精密濾過膜の微細構造は非対称であり、即ち、膜を横切って孔径勾配が均一でなく、膜の横断面の距離に関して異なる。中空繊維膜は好ましくは、一方又は両方の外面に密に集まった微孔と、膜壁の内側の端に向かって開口度のより大きな孔を有する非対称膜である。
【0010】
この微細構造は、機械的強度と濾過効率の間に良好なバランスを提供するので、有利であることが分かっている。
【0011】
微細構造だけでなく、この膜の化学的特性も重要である。膜の親水性又は疎水性は、そのような重要な特性の1つである。
【0012】
疎水性表面は「嫌水性(water hating)」と定義され、親水性表面は「好水性(water loving)」と定義される。多孔質膜のキャストに使用されるポリマーの多くは疎水性ポリマーである。水は、十分な圧力を用いることで、疎水性膜を通過させることができるが、必要な圧力は非常に高く(150〜300psi)、このような圧力では膜は損傷を受けるおそれがあり、一般的に均一には湿らない。
【0013】
疎水性微孔質膜は、典型的には、その優れた化学的耐性、生体適合性、低膨潤性、及び良好な分離特性によって特徴付けられる。従って、水濾過用途で用いる場合、疎水性膜は親水性化され又は「水に浸され(ウェットアウトされ:wet out)」、水の透過を可能とする必要がある。いくつかの親水性材料は、水分子が可塑剤の役割を果たし得るので、機械的強度と熱安定性を必要とする精密濾過及び限外濾過には適さない。
【0014】
現在、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、及びポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)が最もよく知られ、利用可能な疎水性膜材料である。しかし、適当な方法で膜を形成及び作動可能とするために必要な所望の物理的特性を保持しつつ、より良い化学安定性と性能を提供する膜材料を求めて研究が続けられている。特に、より大きな濾過性能を可能とするために、膜をより高い親水性とすることが望ましい。
【0015】
微孔質合成膜は、中空繊維での使用に特に適しており、転相によって生産(又は製造)される。この方法では、少なくとも1種のポリマーが適当な溶媒に溶解され、好適な粘度の溶液が達成される。このポリマー溶液はフィルム又は中空繊維としてキャストすることができ、次に水等の沈降槽に浸漬される。これにより、均一なポリマー溶液が固体のポリマーと液体の溶媒相へと分離を生ずる。沈降したポリマーは、均一な孔のネットワークを含む多孔質構造を形成する。膜の構造と特性に影響する生産パラメーターは、ポリマー濃度、沈降媒体と温度、並びにポリマー溶液中の溶媒と非溶媒の量を含む。より広い範囲の孔径(0.1未満〜20μm)、様々な化学的、熱的、及び機械的特性を有する微孔性膜を生産するために、これらの因子を変えることができる。
【0016】
中空繊維限外濾過及び精密濾過膜は、一般に、拡散誘導型相分離(DIPS法:diffusion induced phase separation)又は熱誘導型相分離(TIPS法:thermally induced phase separation)のいずれかによって生産される。
【0017】
TIPS法はPCT AU94/00198(WO94/17204)AU 653528に、より詳細に記載されており、その内容は参照することで、本明細書に組み込まれる。
【0018】
微孔質系を形成するための最も速い方法は2成分混合物の熱沈降であり、この方法では、高温でポリマーを溶解させるが、低温では溶解させない溶媒中に熱可塑性ポリマーを溶解させることで溶液が形成される。このような溶媒は、そのポリマーに対する潜溶媒と呼ばれることが多い。この溶液を冷却し、冷却速度に依存する特定の温度で相分離が起こり、ポリマーに富む相が溶媒から分離する。
【0019】
微孔質ポリマー限外濾過及び精密濾過膜は、膜を親水性にするために親水化コポリマーを配合したPVdFから製造される。これらのコポリマーは、他の疎水性の膜に一定の親水性を付与するが、混合ポリマーから形成された膜は、通常、コポリマーを用いずに形成された同等の疎水性PVdF膜よりも水透過性が低い。更に、場合により、親水化成分は時間が経つにつれ膜から漏出し得る。
【0020】
主に疎水性材料から形成された膜を親水化するための従来の試みは、疎水性膜の作製後、これらを好適な親水性材料でコーティングすることを含む。この方法を更に発展させた形態として、架橋等の方法により、疎水性膜基材に親水性コーティングを化学的に結合させる試みを含む。これらの方法は、多くの場合、親水性膜の導入をもたらすが、それらには結果として得られる膜の透過性がしばしば低下するという欠点を有する。即ち、架橋により膜を親水化する従来の試みは膜の透過性の低下を招くものであった。
【0021】
さらなる試みとしては、親水性反応性成分を含有するポリマーブレンドの作製後、その成分を反応させて膜を形成することを含む。この場合もまた、これらによりいくつかの所望の特性を備えた多孔質ポリマー膜が得られたが、このような方法は、一般に透過性の低い多孔質ポリマー膜をもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本願では、本発明者らは、PVdF等の本来疎水性のポリマーから製造される膜を親水化して、それらが使用できる用途の範囲を拡大する方法であって、同時に化学的、物理的及び機械的劣化に対する疎水性材料の良好な固有の耐性等の膜の性能の保持又は改良する方法、より具体的には、膜の水透過性等を保持又は向上する方法を見つけ出すことを試みた。
【0023】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服又は改良すること、又は特に製造方法に関して有用な代替法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
第1の要旨において、本発明は、架橋性成分(又は架橋可能成分)を含む多孔質ポリマー膜の透過性(又は透水性)を改良(又は向上)する方法であって、該親水性多孔質ポリマー膜を架橋剤で処理する工程を含む方法を提供する。
【0025】
好ましくは、多孔質ポリマー膜は、親水性多孔質ポリマー膜である。好ましくは、架橋性成分は親水性架橋性成分である。
【0026】
上述したように、架橋性成分を使用する場合、1又はそれ以上の膜成分の架橋を伴う先行技術例は、典型的には、透過性低下を伴う。更に、先行技術の方法は、通常、架橋性成分をドープ混合物中に組み込んで、他の膜形成成分と一緒に膜へとキャストするより、膜の表面に架橋性成分を付着して架橋することを開示する。この架橋性成分及び非架橋性成分は緊密に混合することが好ましい。
【0027】
第2の要旨によれば、本発明は、
i)架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を準備(又は作製)することと、
ii)該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を架橋剤で処理し、該架橋性成分を架橋させること
を含む、親水性ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜の製造(生成又は形成)方法を提供する。
【0028】
好ましくは、該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、疎水性及び/又は非架橋性成分も含む。
【0029】
好ましくは、該親水性架橋性成分は、フリーラジカル架橋が可能な任意の親水性架橋性成分である。より好ましくは、該架橋性成分は酸化条件下で架橋可能である。ヒドロキシルラジカルの存在下で架橋可能な成分がいっそうより好ましい。好適な架橋性成分の例としては、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル及び無水マレイン酸のモノマー、オリゴマー、ポリマー及びそれらの1又はそれ以上のコポリマーを例示できる。
【0030】
ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(酢酸ビニル)、又はビニルピロリドンと酢酸ビニルのコポリマーが特に好ましい。
【0031】
架橋性成分は、ポリマーの製造の種々の段階で加えることができるが、通常はキャスティング前の膜のポリマードープ(polymer dope)に加えることで配合される。あるいは、架橋性成分は、膜形成中にコーティング(coating)/ルーメン(lumen)又はクエンチ(quench)として加えてもよい。架橋性成分は、膜全体を構成する量又は実質的に膜全体を構成する量から、下は親水性/疎水性バランスを最小限で弱めるだけの量までの、いずれの量で加えてもよい。
【0032】
好ましくは、疎水性及び/又は非架橋性成分は、酸化耐性材料のいずれかのポリマー又はコポリマーである。下記モノマー:クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、塩化ビニル;フッ化ビニリデン/塩化ビニリデン;ヘキサフルオロプロピレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンの1又はそれ以上を含む塩基の攻撃に耐性のあるいずれのポリマーも使用可能である。非架橋性成分として特に好ましいものは、PVdFである。
【0033】
化学的架橋が好ましい。架橋法として特に好ましいものは、ポリマー限外濾過膜又は精密濾過膜をヒドロキシルラジカルで処理することである。このヒドロキシルラジカルは既知のいずれの供給源によって調製してもよい。ヒドロキシルラジカルの生成は、例えば、塩化第二鉄(又は塩化鉄(III))/過酸化水素/硫酸水素ナトリウム水溶液によるか、又は水性酸性化過酸化水素(又は酸性過酸化水素水)によるか、又は過酢酸等の水性有機ペルオキシ酸(又は有機過酸水溶液)によるか、又は紫外線照射下の水性過酸化水素(又は過酸化水素水)によるか、又はpH2〜9の範囲で、UV照射を伴う又は伴わない、過酸化水素とオゾンの組合せにより行うことができる。
【0034】
UV照射を伴う又は伴わない、pH2〜9の範囲での過酸化水素を用いて、遷移金属触媒の水溶液から調製したヒドロキシルラジカルの溶液を使用して膜を処理することが最も好ましい。好ましくは、この遷移金属触媒は鉄II/鉄IIIの混合物である。
【0035】
この処理は架橋性化合物をポリマーマトリックスに架橋させるために、浸漬、濾過又は再循環を行うことを含み得る。所望により、UV光を用いてもよい。
【0036】
好ましくは、この方法は、架橋後、未結合の過剰なコポリマーを浸出(抽出又は溶出)する工程も含む。未結合過剰コポリマーは、水又は他の好適ないずれかの溶媒で、所定の時間又は浸出物が所定のレベルになるまで洗い流すことができる。架橋(架橋された、架橋済又は架橋型)材料、即ち、非架橋性及び/又は疎水性ポリマーのマトリックスに十分埋め込まれていないオリゴマー及びより低分子のポリマー材料もいくらか洗い流される可能性がある。
【0037】
第3の要旨によれば、本発明は、
i)架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を準備(又は作製)すること;
ii)該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜をヒドロキシルラジカルで処理して、該架橋性成分を架橋すること;及び
iii)存在する場合、未結合架橋成分(又は結合していない架橋された成分)又は未結合架橋性成分(又は結合していない架橋可能成分)を浸出すること
を含む、ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を官能化する方法を提供する。
【0038】
第4の態様によれば、本発明は、
i)架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を準備(又は作製)すること;
ii)該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜をヒドロキシルラジカルで処理して、該架橋性成分を架橋すること;及び
iii)存在する場合、未結合架橋成分又は未結合架橋性成分を浸出すること
を含む、ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜の透過性を高める方法を提供する。
【0039】
第5の要旨によれば、本発明は、架橋(架橋された、架橋済又は架橋型)親水性ポリマー又はコポリマーを含む多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を提供する。
【0040】
好ましくは、この架橋親水性ポリマー又はコポリマーは、多孔質精密濾過膜又は限外濾過膜のマトリックスに組み込まれ、非架橋及び/又は疎水性成分も含む。
【0041】
好ましくは、本発明の膜は、大孔径面と小孔径面を有し、膜の断面に沿って走る孔径勾配を有する非対称膜である。これらの膜は平坦なシートであってもよく、あるいはより好ましくは、中空繊維膜である。
【0042】
もう1つの要旨では、本発明は、水及び廃水の精密濾過及び限外濾過に用いられる、本発明に基づいて製造された親水性膜を提供する。
【0043】
別の要旨では、本発明は、親和性膜(又はアフィニティー膜:affinity membrane)として用いられる、本発明に基づいて製造された親水性膜を提供する。
【0044】
別の要旨では、本発明は、タンパク質吸着材として用いられる、本発明に基づいて製造された親水性膜を提供する。
【0045】
別の要旨では、本発明は、生体適合性官能化(又は官能性)膜を必要とする方法で用いられる、本発明に基づいて製造された親水性膜を提供する。
【0046】
「親水性」とは相対的であり、本明細書では、ベース(又は基本)膜成分に加えると、膜がその化合物を含まない場合より、膜全体をより親水性にする化合物に言及して用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
上述したように、本発明は、架橋して親水化膜を生成することができる架橋性部分、モノマー、オリゴマー、ポリマー及びコポリマーを含むいずれのポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜に関しても行うことができる。
【0048】
本発明の膜は親水性膜に関して期待される特性を有する。しかし、他の親水化膜と異なり、本発明の膜はいずれの種類の濾過に対しても、しかし特に水の濾過に対して向上した透過性と低下した圧力損失を示す。これにより、本発明の膜は地表水、地下水及び二次処理水等の濾過等の用途に、又は膜バイオリアクターでの使用に好適となる。
【0049】
好ましくは、架橋は、酸性条件下、過酸化水素を用いて、遷移金属イオンの水溶液から生成されたヒドロキシルラジカルによって行われる。これらの条件は、フェントン試薬(Fenton's reagent)の生成と記載される場合もある。
【0050】
好ましくは、該遷移金属イオンは鉄II及び/又は鉄IIIである。好ましくは、この酸性条件は、約pH2〜6の間のpHである。
【0051】
鉄だけではなく、いずれの遷移金属も使用可能である。モリブデン、クロム、コバルトも好ましい。容易に還元/酸化できるいずれの水性金属イオン又はコンプレックス(又は複合体)を、本発明の洗浄方法の触媒系として使用することができる。また、遷移金属イオンの組合せを用いてもよく、種々の供給源からのものであってよく、必要に応じて追加のイオン又は種を用いて補うことができる。
【0052】
PVdFを含むいくつかのポリマー膜は、良好なヒドロキシルラジカル耐性を持つことが見出された。PVdF等のポリマー膜はオゾンに対してあまり安定でなく、ヒドロキシルラジカルは、例えば汚れた膜から有機物を洗浄する場合、オゾンよりも強力な酸化剤であると考えられることから、このことは驚くべきことである。特定の理論に拘束されるものではないが、この理由は、ヒドロキシルラジカルの寿命が短いことによる可能性がある。
【0053】
1つの好ましい形態において、ヒドロキシルラジカルの溶液は、低pHで過酸化水素を用いて、M(n+)及び/又はM(n+1)+(例えば、鉄II及び/又は鉄III系)の水溶液から準備(調製又は容易)される。M(n+)及び/又はM(n+1)+のいずれかで始めると、この2種の間で適当な平衡状態に至る。例えば、鉄II種又は鉄III種のいずれかを用いて始めても、同じ触媒系を得ることができる。他の実用性から、一方を他方より指定してよく、例えば、金属が鉄である場合、鉄II種は対応する鉄III種よりも溶解性が高い傾向があるので、鉄II種を用いて反応を開始させることが好ましい。ゆえに、鉄IIの溶液から始めると、未溶解の鉄III塩が存する可能性が減少する。
【0054】
本発明は、鉄IIと鉄IIIに関して述べるが、ヒドロキシルラジカルが生成するいずれの系にも当てはまると理解される。
【0055】
本発明の酸化還元触媒/過酸化物/H系によって、ヒドロキシルラジカルを生成する一般式は下記に示す通りである。鉄II又は鉄IIIはいずれも過酸化水素と反応することができ、相補的な鉄種を生じる。
Fe2++H → Fe3++OH+HO
Fe3++H → Fe2+OOH+H
全体として:
2H → HO+HOOOH
【0056】
ヒドロキシルラジカルは強力な酸化剤であり、塩素の2倍の相対的酸化力を持ち、酸化強度ではFのみに次ぐ。
【0057】
個々の酸化還元触媒/過酸化物/H試薬成分は、架橋性膜に一緒に加えてもよいし、又は好ましくは、別に、繊維膜を取り囲む水に直接添加してもよい。
【0058】
典型的には、300ppm未満の濃度のFeを使用することができる。15〜20ppmの低濃度のFeも有効であるが、所望の架橋度を達成するための反応時間がより長くなり、例えば、24時間を超える。好ましい濃度は50〜5000ppm FeSOであり、より好ましくは300〜1200ppmの間である。反応時間は、存在する架橋剤の量及び利用できるヒドロキシルラジカルの濃度、並びに温度によって異なる。架橋を達成するための典型的な反応時間は、0.5〜24時間、より好ましくは、2〜4時間である。
【0059】
100〜20000ppmの間、より好ましくは、400〜10000ppmの間、より好ましくは、1000〜5000ppmの間の過酸化物濃度を利用できる。Fe:Hの比が1:4〜1:7.5の間、より好ましくは、1:5〜1:25の間であることも好ましい。
【0060】
好ましくは、pHは2〜6の範囲、より好ましくは、3〜5の範囲である。
【0061】
本発明の典型的な酸化還元触媒/過酸化物/H系は、pH2で、0.12重量%のFeSO濃度と、5000ppm〜9000ppmの間の過酸化物濃度を有する。
【0062】
は全てを一度に加えることができるが、通常は、Hはその反応時間にわたって加えることが好ましい。例えば、4時間の継続期間に、H濃度が4000ppmの場合、Hは1時間につきおよそ1000ppm添加する。
【0063】
pHを制御するために、硫酸水素ナトリウム(NaHSO)を使用できる。あるいは、そのpHが適切な範囲であるという条件で、いずれの酸を用いてもよい。クエン酸又は硫酸を、単独で、又は例えばNaOH等の塩基で緩衝させて使用して、所望のpHとすることができる。好ましい一の態様では、pHは硫酸/苛性アルカリの組合せ又は硫酸/硫酸水素ナトリウムの組合せにより制御される。極めて好ましい態様では、pHは、クエン酸を単独で、又は他の種と組み合わせて使用することによって制御される。塩素イオンは、例えばFeCl又はHClの形で存在し得る。
【0064】
PVdF及び非架橋PVPを含む精密濾過/限外濾過膜を塩化第二鉄(又は塩化鉄(III))/過酸化水素及び硫酸水素ナトリウムの水溶液中に浸漬し、室温で4時間この攪拌溶液と接触させた後、取り出して蒸留脱イオン水ですすいだ。
【0065】
洗液中にそれ以上の材料が浸出しなくなるまで洗浄を続けた。架橋性成分は好ましくはPVPである。この架橋性成分は好ましくは、膜中に0.1〜10重量%、より好ましくは、2〜7重量%の量で存在する。架橋性成分は0.1〜10重量%のPVP、より好ましくは、2〜7重量%のPVPであることが極めて好ましい。
【0066】
下記の表及び実施例に示すように、本発明の方法により実質的に影響を受ける膜の唯一の特性は透過性である。
【0067】
従って、孔径又は機械的完全性(又は強度)を犠牲にすることなく、膜の透過性(流量)を改良することが可能である。これは、上記で説明したように、架橋、及びまた「架橋性成分」のいくらかの浸出によって達成される。
【実施例】
【0068】
下記実施例は非改良型との間の透過性(又は透水性)の違いを示す。
ヒドロキシルラジカルにより架橋した成分を含む膜の改良された性質を、下記の例で説明する。
【0069】
架橋性成分を含むPVDF膜を1重量%H溶液又はフェントン試薬で処理した。このフェントン試薬は、下記濃度を有する。
0.12重量%FeSO・7H
0.1重量%NaHSO
0.9重量%H
【0070】
膜の処理方法は次の通りである。
1.RO水で、膜を洗浄(1時間)
2.規定時間、膜を処理溶液に浸漬
3.RO水中で、膜をすすぐ(1時間)
4.20重量%グリセロール(水溶液)に、膜を浸漬
5.室温で膜を乾燥
【0071】
結果を表1に示す。架橋を達成する過酸化物処理は、透過性を約20%上昇させたが、破壊伸張度(break extension)にわずかな低下が見られただけであった。
【0072】
架橋剤としてフェントン試薬を用いたところ、1時間後、透過性に30%の上昇が得られ、破壊伸張度にわずかな低下(179%〜169%)が見られただけであり、従って、なお極めて柔軟であった。
【0073】
フェントン試薬での処理を長くすると破壊伸張度が120%前後に低下したが、それでも極めて柔軟であった。しかし、非処理膜に比べ、透過性の劇的な上昇、即ち透過性の200%前後の上昇が見られた。
【0074】
その他の点では、フェントン試薬又は過酸化物架橋法のいずれかによって得られた膜の形態に変化は無かった。
【表1】

【0075】
次の実施例はヒドロキシルラジカルの架橋能を示す。
【0076】
PVP K90(10重量%)及びPVP K120(9.3重量%)のサンプルをそれぞれ、NaHSOでpH2に調整したRO水に溶解させた。FeCl(0.04重量%)を加え、この溶液を十分混合した。次に、この混合物にH(0.32重量%)を加えたところ、加えた時点で、直ちにゲルが形成された。この実験を、FeClをFeSO・7HOに置き換えて、2.5〜20重量%の範囲のPVP K120溶液を用いて繰り返した。各場合、2.5重量%溶液を除き、不溶性のゲルが形成された。不溶性ゲルを形成するには、溶液中に単一の成分としては、この濃度では低すぎると考えられる。しかし、この溶液は目に見えて粘度が高まり、ある程度の架橋が起こっていることが示唆される。
【0077】
本発明に基づいて製造された膜は、向上した多孔度と透過性を有し、膜の水濾過力が高まっている。しかしながら、本発明の膜は同等の孔径、濾過過程での非改良膜の良好なpH(酸及び塩基)耐性及び酸化(塩素)耐性を保持する。
【0078】
本発明は、孔径又は機械的強度を犠牲にすることなく、改良された透過性と多孔度をもたらす。
【0079】
本発明を具体的な態様を参照して説明したが、当業者であれば、本明細書に記載の発明の概念は、開示されている特定の態様だけに限定されないことが理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を準備する工程;及び、
ii)該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を架橋剤で処理して、該架橋性成分を架橋させる工程
を含む、親水性ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜の製造方法。
【請求項2】
架橋性成分は親水性架橋性成分である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
親水性架橋性成分は、フリーラジカル架橋可能である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
親水性架橋性成分は、酸化条件下で架橋可能である請求項2に記載の方法。
【請求項5】
親水性架橋性成分は、ヒドロキシルラジカルの存在下、架橋可能である請求項2に記載の方法。
【請求項6】
架橋性成分を、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル及び無水マレイン酸のモノマー、オリゴマー、ポリマー及びそれらの1又はそれ以上のコポリマーから成る群から選択する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
架橋性成分は、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(酢酸ビニル)、又はビニルピロリドンと酢酸ビニルのコポリマーから選択される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜としてキャスティング前のポリマードープに、架橋性成分を加えた後、多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を架橋剤で処理して、該架橋性成分を架橋する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を、膜形成中に、架橋性成分を含有するクエンチ、流体形成ルーメン又はコーティングで処理した後、架橋剤で処理して該架橋性成分を架橋する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
架橋性成分は、膜の親水性/疎水性バランスを最小限で弱めるだけの量で加えられる請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、疎水性成分を含む請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、非架橋性成分を含む請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
疎水性及び/又は非架橋性成分は、酸化耐性材料のポリマー又はコポリマーである請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
疎水性及び/又は非架橋性成分は、塩基の攻撃に耐性のポリマー又はコポリマーである請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
疎水性及び/又は非架橋性成分は、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、塩化ビニル;フッ化ビニリデン/塩化ビニリデン;ヘキサフルオロプロピレン、エチレン−クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンの1又はそれ以上を含む請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
疎水性及び/又は非架橋性成分は、PVdFである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
架橋は、ヒドロキシルラジカルでポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を処理することによる請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ヒドロキシルラジカルは、塩化第二鉄/過酸化水素/硫酸水素ナトリウム水溶液によって生成する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒドロキシルラジカルは、水性酸性化過酸化水素によって生成する請求項17に記載の方法。
【請求項20】
ヒドロキシルラジカルは、水性有機ペルオキシ酸によって生成する請求項17に記載の方法。
【請求項21】
ヒドロキシルラジカルは、過酢酸によって生成する請求項17に記載の方法。
【請求項22】
ヒドロキシルラジカルは、紫外線照射下、水性過酸化水素によって生成する請求項17に記載の方法。
【請求項23】
ヒドロキシルラジカルは、pH2〜9の範囲で、UV照射を伴う又は伴わない、過酸化水素とオゾンの組合せによって生成する請求項17に記載の方法。
【請求項24】
pH2〜9で、過酸化水素を用いて、遷移金属触媒の水溶液から準備したヒドロキシルラジカルの溶液を使用して膜を処理することを含む請求項17に記載の方法。
【請求項25】
UV照射を更に含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
遷移金属触媒は、鉄II/鉄IIIの混合物である請求項24に記載の方法。
【請求項27】
架橋性化合物をポリマーマトリックスに架橋させるために浸漬、濾過又は再循環の一又はそれ以上を行う請求項24に記載の方法。
【請求項28】
架橋後、存在する場合、未結合の過剰なコポリマーを、多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜から浸出する工程を更に含む請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
存在する場合、未結合過剰コポリマーを、水又は他の好適ないずれかの溶媒で、所定の時間又は浸出物が所定のレベルになるまで浸出する請求項28に記載の方法。
【請求項30】
i)架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を準備すること;
ii)該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜をヒドロキシルラジカルで処理して、該架橋性成分を架橋すること;及び
iii)存在する場合、未結合架橋成分又は未結合架橋性成分を浸出すること
を含む、ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を官能化する方法。
【請求項31】
架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、架橋性成分を含んで成るポリマードープから作製される請求項30に記載の方法。
【請求項32】
架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、キャストポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を架橋性成分で処理することで作製される請求項29に記載の方法。
【請求項33】
i)架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を準備すること;
ii)該ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜をヒドロキシルラジカルで処理して、該架橋性成分を架橋すること;及び
iii)存在する場合、未結合架橋成分又は未結合架橋性成分を浸出すること
を含む、ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜の透過性を高める方法。
【請求項34】
架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、架橋性成分を含んで成るポリマードープから作製する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
架橋性成分を含むポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜は、キャストポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜を架橋性成分で処理することで作製する請求項34に記載の方法。
【請求項36】
架橋親水性ポリマー又はコポリマーを含む多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項37】
架橋親水性ポリマー又はコポリマーは、多孔質精密濾過膜又は限外濾過膜のマトリックスに組み込まれ、非架橋及び/又は疎水性成分も含む請求項36に記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項38】
大孔径面と小孔径面を有し、膜の断面に沿って走る孔径勾配を有する非対称膜である請求項36又は37に記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項39】
平坦なシートの形態である請求項36〜38のいずれかに記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項40】
中空繊維膜の形態である請求項36〜38のいずれかに記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項41】
水及び廃水の精密濾過及び限外濾過に用いられる請求項36〜40のいずれかに記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項42】
親和性膜として用いられる請求項36〜40のいずれかに記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項43】
タンパク質吸着材として用いられる請求項36〜40のいずれかに記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。
【請求項44】
生体適合性官能化膜を必要とする方法で用いられる請求項36〜40のいずれかに記載の多孔質ポリマー精密濾過膜又は限外濾過膜。

【公表番号】特表2008−521598(P2008−521598A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543655(P2007−543655)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【国際出願番号】PCT/AU2005/001820
【国際公開番号】WO2006/058384
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(507053714)シーメンス・ウォーター・テクノロジーズ・コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS WATER TECHNOLOGIES CORP.
【Fターム(参考)】