説明

膜分離処理方法

【課題】原水にフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理するに当たり、膜供給水の水質を改善して安定かつ効率的な膜分離処理を長期間継続して行う。
【解決手段】フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性で、中性域及び/又は高塩類存在下で不溶化するフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を、所定濃度に希釈して原水に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水を膜分離処理して純水を製造する際、或いは廃水の処理水を膜分離処理して純水及び/又はプロセス用水を製造する際、或いは海水及び/又はかん水を膜分離処理して飲料水等の生活水や諸工業用水を製造する際などに、膜分離処理に先立って行なわれる凝集処理の効率を高め、膜分離処理に供される水のMFF値を改善する膜分離処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離処理技術は、工業用水からの純水製造、廃水処理水からの純水やプロセス用水の製造、海水やかん水からの飲料水等の生活水や工業用水の製造等、多くの水処理分野で使用されている。
【0003】
これらの膜分離処理に当たっては、膜分離処理に先立ち、通常、被処理水(原水)の凝集・固液分離処理が行われている。この凝集処理には、通常、無機凝集剤であるポリ塩化アルミニウムや塩化第二鉄が用いられており、有機系高分子凝集剤の併用は行われていない。即ち、膜分離処理を伴わない通常の廃水や用水の凝集処理では、凝集フロックの粗大化を目的として、無機凝集剤と共にポリアクリルアミド系のアニオン性高分子凝集剤やカチオン系高分子凝集剤が併用されているが、これらの高分子凝集剤は微量でも凝集処理水中に残留すると、膜汚染を引き起こし、透過流束(フラックス)を低下させるため、膜分離処理に先立つ凝集処理には殆ど用いられることはない。
【0004】
従って、原水をMF(精密濾過)膜、UF(限外濾過)膜、RO(逆浸透)膜などで膜分離処理する際、膜分離処理に先立つ凝集、固液分離等の前処理のプロセス及びその組み合わせは多数あるが、従来一般的に採用されている基本プロセスは、以下の通りである。
(1)凝集処理プロセス
原水に無機凝集剤を添加して反応させた後、浮上装置又は沈澱装置により固液分離を行う。
(2)濾過プロセス
無機凝集剤による凝集処理水を砂濾過又は二層濾過装置に通水し、粒径5μないし2〜3μm程度までの微粒子の除去を行う。引き続き、溶解性有機物除去のために、活性炭吸着処理を行う場合もある。
【0005】
また、この前処理としては、凝集処理プロセスでの凝集剤添加の他、薬剤処理として、系内での生物の繁殖防止のための次亜塩素酸ナトリウム、有機系殺菌・制菌剤、RO膜劣化原因となる残留塩素の分解剤、RO膜でのスケール生成防止剤等が適宜、添加される。
【0006】
これらの前処理は、原水の汚濁度と膜分離処理で予測される障害、及び最終的に求められる処理水の水準により適宜選定されて用いられる。
【0007】
しかしながら、上記従来の凝集処理プロセスでは、水溶性の膜汚染物質が残留し、原水の汚濁度により程度の差はあるものの、少なからぬ膜汚染を生じ、RO膜、UF膜では処理を停止して膜の化学洗浄や、さらには膜モジュールの交換が必要となり、また、MF膜ではユニット交換が必要となる。
【0008】
この膜汚染物質は有機物と無機物に大別される。
このうち、膜汚染無機物は原水中の無機イオン及びシリカが膜分離処理での濃縮により、溶解度を越えてスケール化する他、無機凝集剤に起因するアルミニウム、鉄が極微粒子の水酸化物コロイドとして残留し、直接に膜を汚染するとともに、水中のシリカと結びついてスケール化することにより生じるものである。
一方、膜汚染有機物は、自然水界微生物活動、及び廃水の生物処理に伴って代謝生成する多糖類と考えられ、この他に、自然界の腐植に起因するフミン・フルボ系物質が、膜汚染物質とされている。
【0009】
凝集処理プロセスでは、これらの有機系膜汚染物質をできる限り除去することが求められるが、無機凝集剤による凝集処理では、除去し得ない膜汚染物質が残留する。
その具体的物質は、荷電を持たない中性多糖類や、極僅しか荷電を有しない多糖類と推察されている。
【0010】
ところで、膜分離処理される水(膜供給水)の膜濾過性(膜汚染性)の指標として「MFF値」がある。このMFF値の測定手法は以下の通りである。
(1)ジャーテスターによる凝集処理で、凝集処理水1000ml以上を得る。
(2)凝集処理水を30分静置し凝集フロックを沈澱させる。
(3)(2)の凝集処理水をNo.5A(5μm孔)濾紙で上澄みから徐々に濾過し、最終的に凝集フロックを含め凝集処理水の全量を濾過する。
(4)得られた濾液1000ml以上を500mlずつ2本のメスシリンダーに入れる。
(5)1本目のメスシリンダーの濾液500mlを、孔径0.45μm、直径47mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターを用い、66kPa(500mmHg)の減圧化で濾過し、このときの濾過に要する時間T1を計測する。続いてもう1本のメスシリンダーの濾液500mlを同様に減圧濾過し、このときの濾過に要する時間T2を測定する。
(6)下記式でMFF値を算出する。
MFF=T2/T1
【0011】
この値が1.00に近い程、膜供給水として良好な水質の水であり、膜を汚染し難い水であると評価することができる、一般的にはMFF値1.1以下が膜供給水として好適であるとされている。
例えば、水道水(栃木県野木町町水)のMFFは1.03〜1.06で平均1.05であり、膜供給水として有機汚染の程度からは理想的な水質であると言える。
【0012】
本出願人は、原水を生物処理し、生物処理水を膜分離処理する際の膜供給水の水質を改善する技術として、先に、生物処理水にフェノール性水酸基を有する高分子を添加した後、無機凝集剤である塩化第二鉄を添加して凝集処理し、その処理水を膜分離処理する方法、及びビニルフェノール系重合体からなる生物処理水用凝集促進剤を提案した(特許文献1)。
しかしながら、この方法による膜供給水のMFFは1.3で、満足すべき水準(MFF≦1.1)を安定して得る技術ではなかった。
さらにポリビニルフェノール系重合体は高価であることから、無機凝集剤の添加量を低減できるとしても、全体の薬剤コストを十分に低減できるものではなかった。
【0013】
また、本出願人は、ノニオン系界面活性剤の不溶化剤として、特許文献1で用いるポリビニルフェノールを提案している(特許文献2)。
この中でポリビニルフェノールに構造が類似したノボラック型フェノール樹脂を評価し、このものは、処理水のTOC(全有機炭素)が、原水(処理対象水)より高くなることから、同処理剤として不適当であるとしている。
ただし、フェノール樹脂は、安価であり、ポリビニルフェノール系重合体に比べてコスト面では有利である。
【特許文献1】特開2007−7563号公報
【特許文献2】特許第2830201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、原水にフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理するに当たり、膜供給水の水質を改善して安定かつ効率的な膜分離処理を長期間継続して行うことを可能とする膜分離処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フェノール水酸基を有するアルカリ可溶で中性域及び/又は高塩類下で不溶化するフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を所定濃度に希釈して原水に添加することにより、膜供給水のMFF値をより一層改善することができることを見出した。
【0016】
即ち、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加する凝集処理においては、このフェノール系高分子化合物が中性域で析出する性質を利用して、膜汚染有機物を凝集させて除去する。しかし、同様の理由から、析出したフェノール系高分子化合物同士が会合、析出し、被処理水中の膜汚濁物質ともはや反応しなくなり、必要なフェノール系高分子化合物の添加量が増加する問題があった。
これに対し、フェノール系高分子化合物を添加する際のフェノール系高分子化合物濃度を十分に低減し、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を十分に希釈して添加することにより、凝集処理系内でのフェノール系高分子化合物同士の会合の頻度を軽減し、これが析出して凝集剤として無効になることを防止して、膜供給水のMFF値をより一層改善することができると共に、フェノール系高分子化合物の添加量自体をも低減し、薬剤使用量及び薬剤コストの低減を図ることができる。
【0017】
また、フェノール樹脂は、前述の如く、安価ではあるが、これを添加することにより、原水よりも凝集処理水の方がTOCが高くなり、凝集処理剤として不適当であった。本発明者らの検討によれば、この原因は添加したフェノール樹脂中に中性域で析出しない樹脂成分そのものが多く残存することにあり、これが処理水のTOCを上昇させることになると考えられた。
このようなフェノール樹脂についても、本発明に従って十分に希釈して原水に添加することにより、添加量自体が少なくなり、処理水へのフェノール樹脂残留量が減り、TOC上昇の問題が解決される。
【0018】
一般に凝集処理薬剤は、物理的に可能な範囲で高濃度の条件で原水に添加される。例えば、ポリ塩化アルミニウムはAl10wt%の製品原液をそのままポンプで薬注される。
本発明で用いるフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液は、フェノール系高分子化合物濃度20wt/vol%で十分な流動性を示し、通常10〜35wt/vol%程度の濃度として調製され、これをそのまま原水に添加することができる。
従って、従来は、フェノール系高分子化合物をこのような濃度の高いアルカリ溶液として添加しているが、本発明者らの検討により、このフェノール系高分子化合物を従来にない低濃度に希釈して添加すると、凝集処理水のMFF値が格段に改善し、また、必要とされる添加量も低減できることが判明した。
【0019】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0020】
本発明(請求項1)の膜分離処理方法は、海水又は電気伝導度1000mS/m以上の高塩類含有水である被処理水に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理する方法において、該フェノール系高分子化合物が、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性で、中性域及び/又は高塩類存在下で不溶化する高分子化合物であり、該高分子化合物を高分子化合物濃度0.1wt/vol%以下のアルカリ溶液として該被処理水に添加することを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項2)の膜分離処理方法は、電気伝導度1000mS/m未満の被処理水に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理する方法において、該フェノール系高分子化合物が、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性で、中性域及び/又は高塩類存在下で不溶化する高分子化合物であり、該高分子化合物を高分子化合物濃度1wt/vol%以下のアルカリ溶液として該被処理水に添加することを特徴とする。
【0022】
請求項3の膜分離処理方法は、請求項1又は2において、前記フェノール系高分子化合物を1〜35wt/vol%含むアルカリ溶液を、ポンプで定量吐出させた後、前記被処理水に添加する直前に水で希釈して該被処理水に添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、原水の凝集処理剤として、フェノール水酸基を有するアルカリ可溶で中性域及び/又は高塩類下で不溶化するフェノール系高分子化合物(以下、単に「フェノール系高分子化合物」と称す場合がある。)のアルカリ溶液を、希釈して原水に添加することにより、添加したフェノール系高分子化合物が膜汚染有機物ないしはTOC成分となることが防止され、MFF値の低い高水質の膜供給水を得ることができ、これにより、膜汚染を防止して、膜の化学洗浄や交換頻度を低減し、長期に亘り安定かつ効率的な膜分離処理を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
[原水の種類]
本発明で処理対象とする原水としては特に制限はなく、膜分離処理に供される各種の工業用水、廃水の処理水、海水、かん水などが挙げられる。
【0026】
[フェノール系高分子化合物の種類]
本発明において用いるフェノール系高分子化合物は、フェノール性水酸基を有し、アルカリ可溶性で、中性域及び/又は高塩類存在下で不溶化するものであり、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0027】
<フェノール系樹脂>
(1) フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物
(2) クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物
(3) キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物
(4) 上記(1)〜(3)のフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性
フェノール系樹脂
【0028】
これらのフェノール系樹脂はノボラック型であってもレゾール型であっても良く、両者の混合物であっても良い。いずれかのフェノール系樹脂を用いるかは、原水の種類によって、より効果的なものが選択使用される。
【0029】
なお、ノボラック型フェノール系樹脂、レゾール型フェノール系樹脂の重量平均分子量(Mw)は1,000以上であることが好ましい。
【0030】
<ポリビニルフェノール系重合体>
(5) ビニルフェノールの単独重合体
(6) 変性ビニルフェノールの単独重合体
(7) ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの
共重合体
【0031】
上記(6)の変性ビニルフェノールとしては、例えば、アルキル基やアリル基等で置換されたビニルフェノール、ハロゲン化ビニルフェノール等、フェニル基が何らかの化合物で化学修飾されたビニルフェノールが挙げられる。
【0032】
また、(7)の疎水性ビニルモノマーとしては、例えばエチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル等の水不溶性又は水難溶性のビニルモノマーが挙げられる。このような疎水性ビニルモノマーと、ビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールとの共重合体中のビニルフェノール及び/又は変性ビニルフェノールの割合は、モル比で0.5以上、特に0.7以上であることが好ましい。
【0033】
前記(5)〜(7)のビニルフェノール系重合体は、その重量平均分子量(Mw)が1000以上例えば1000〜100000であることが好ましく、このような分子量の重合体は、通常、粉末で提供される。
【0034】
これらのフェノール系高分子化合物は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
[フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液]
上述のフェノール系高分子化合物は水に不溶又は難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させるなどして溶液状又はエマルジョンとして提供される。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられるが、本発明では、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)等のアルカリ剤を用いて溶液とする。
【0036】
希釈前のフェノール系高分子化合物のアルカリ水溶液は、通常、アルカリ剤濃度3〜25wt/wt%、フェノール系高分子化合物濃度10〜35wt/wt%として調製される。
【0037】
[フェノール系高分子化合物の添加時の濃度]
本発明においては、被処理水が海水又は電気伝導度1000mS/m以上の高塩類含有水の場合、フェノール系高分子化合物を、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液中濃度が0.1wt/vol%以下となるように希釈して被処理水に添加する。被処理水へのフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液添加時のフェノール系高分子化合物濃度が1wt/vol%を超えると、本発明による前述の効果を得ることができない。
一方、被処理水が電気伝導度1000mS/m未満の水の場合は、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液の添加時のフェノール系高分子化合物濃度は1wt%/vol%以下でよいため、このような濃度となるように、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を希釈する。
【0038】
なお、希釈による有効性は、フェノール系高分子化合物が析出し易い原水において顕著であり、塩類濃度の高い海水や電気伝導度が1000mS/m以上の高塩類濃度の水において、特に有効である。
このような高塩類濃度の原水の場合、フェノール系高分子化合物添加時の濃度はより一層低いことが好ましく、アルカリ溶液中のフェノール系高分子化合物濃度は0.1wt/vol%以下、例えば0.01〜0.1wt/vol%程度とすることが好ましい。
【0039】
塩類濃度が海水ほど高くなく、電気伝導度が300mS/m以下の原水であれば、アルカリ溶液中のフェノール系高分子化合物の添加時濃度は0.1〜1.0wt/vol%程度であることが好ましい。
【0040】
いずれの場合もフェノール系高分子化合物濃度が高いと本発明による前述の効果を十分に得ることができず、逆に低過ぎると添加するフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液の希釈水量が多くなり、好ましくない。
【0041】
[フェノール系高分子化合物の希釈方法]
本発明に従って、上述のような希釈溶液を原水に添加するには、従来、アルカリ剤濃度3〜25wt/wt%で、10〜35wt/wt%程度のフェノール系高分子化合物濃度とされているフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を、そのまま、或いは、フェノール系高分子化合物濃度3〜10wt/vol%程度に一旦希釈して、ポンプで定量吐出させ、原水に添加する直前に更に希釈水でフェノール系高分子化合物を所定濃度以下に希釈して原水に添加するようにすることが好ましい。一方、予めフェノール系高分子化合物を所定濃度以下に希釈したフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を準備して原水に添加する方法では、希釈溶液の貯留、添加に大型の設備が必要となり、また、希釈溶液中に不溶化物が生成し、凝集効果が低減するため好ましくない。
【0042】
また、このように、フェノール系高分子化合物を所定濃度以下に希釈後、原水に添加するまでの時間は短い程好ましく、概ね数秒〜10秒であることが好ましい。この時間が長いと希釈溶液中に不溶化物を生成し、凝集効果が低減するため好ましくない。
【0043】
なお、希釈に用いる水は、塩類濃度の低い水であることが好ましく、電気伝導度として、100mS/m以下、pH6以上の水であることが好ましい。海水のような塩類濃度の高い水や酸性の水では、フェノール系高分子化合物が会合、析出するため好ましくない。
【0044】
[フェノール系高分子化合物の添加量]
原水へのフェノール系高分子化合物の添加量は、原水の水質、用いるフェノール系高分子化合物の種類、アルカリ溶液中のフェノール系高分子化合物濃度等によっても異なり、一概には言えないが、通常フェノール系高分子化合物添加量として0.1〜20mg/L、特に0.3〜10mg/L程度であり、例えば、原水及びフェノール系高分子化合物及びそのアルカリ溶液中濃度に応じて、次のような添加量とすることが好ましい。
【0045】
【表1】

【0046】
[フェノール系高分子化合物添加後の反応時間]
原水にフェノール系高分子化合物を添加してから無機凝集剤を添加するまでの時間、即ち、フェノール系高分子化合物の反応時間は1分以上とすることが好ましい。この反応時間は反応槽、貯留槽又は中継槽容量などが許容されるならば長い程好ましく、例えば5分〜10時間程度とすることが好ましい。また、この反応槽は適宜攪拌することが好ましいが、最初に被処理水全体にフェノール系高分子化合物のアルカリ液を行き渡らせる混合を行えば、その後の攪拌はなくともよい。
【0047】
[フェノール系高分子化合物と無機凝集剤の添加順序]
本発明では、原水にフェノール系高分子化合物を添加した後無機凝集剤を添加する。原水に対して、フェノール系高分子化合物と無機凝集剤とを同時に添加したり、無機凝集剤をフェノール系高分子化合物の添加箇所に近接した箇所に添加すると、フェノール系高分子化合物と無機凝集剤とが直接反応する結果、フェノール系高分子化合物の添加効果が得られず、反応により消費された分を補うために薬剤の必要添加量が増大する。
なお、フェノール系高分子化合物を無機凝集剤よりも後に添加するとフェノール系高分子化合物が未凝集の状態で残留し、膜分離阻害物となり、MFF値を悪化させる。
【0048】
[無機凝集剤]
フェノール系高分子化合物添加後に添加する無機凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等のアルミニウム系凝集剤や、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系凝集剤を用いることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0049】
無機凝集剤の選定は、例えば、原水に対して、当該無機凝集剤を単独で添加した場合に、最も優れた効果が得られる無機凝集剤とし、その添加量は、凝集処理水のMFF値が無機凝集剤をそれ以上添加しても改善しないか、或いは僅かの改善しか得られない添加量とすることが好ましい。
【0050】
この無機凝集剤の添加量は、原水の水質や無機凝集剤の種類、要求されるMFF値によっても異なるが、通常、原水に対して30〜500mg/L程度である。
【0051】
[膜分離処理]
本発明において、膜分離処理に用いる分離膜としては、MF(精度濾過)膜、UF(限外濾過)膜、RO(逆浸透)膜、NF(ナノ濾過)膜などのいずれでもよい。膜の形態は、平膜、管状膜、中空糸などのいずれであっても良く、浸漬膜であっても良い。膜の材質としては、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等が例示されるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0052】
以下に実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
なお、以下において、フェノール系高分子化合物としては次のものを用いた。
PVF2000:ポリビニルフェノール(Mw=2000)
FR6000:ノボラック型フェノール樹脂(Mw=6000)
FR2000:ノボラック型フェノール樹脂(Mw=2000)
【0054】
上記のフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液としては、PVF2000は、18wt/wt%の苛性ソーダ水溶液として用い、FR6000及びFR2000は30wt/wt%の苛性ソーダ水溶液として用い、これらのフェノール系高分子化合物のアルカリ溶液の希釈は、フェノール系高分子化合物の析出を防止するために純水で行い、濃度はそれぞれの実験毎に調整した。
【0055】
また、無機凝集剤としては以下のものを用い、市販品を純水で製品濃度10w/v%に希釈して用いた。
FC:塩化第二鉄市販品(FeCl濃度38wt%)
LAC:液体塩化アルミニウム市販品(Al濃度10.4wt%)
LAS:液体硫酸アルミニウム市販品(Al(SO濃度27wt%)
PAC:ポリ塩化アルミニウム(Al濃度10.5wt%)
【0056】
[実験例1:低濃度添加による効果の実証]
PVF2000、FR6000、及びFR2000のアルカリ水溶液を、それぞれ純水でフェノール系高分子化合物濃度3600mg/L(0.36wt/vol%)に希釈し、この希釈液1mlを、アルカリの添加により5.8〜9.0の様々なpHに調整した海水又は野木町水にそれぞれ滴下して混合し、水中のフェノール系高分子化合物濃度が36mg/Lとなるようにして、それぞれpHと濁度を測定し、結果を図1(海水の場合)及び図2(野木町水)に示した。
【0057】
図1,2より次のことが分かる。
海水にフェノール系高分子化合物のアルカリ水溶液を添加するとpH5.8〜9.0の条件で激しい濁り(濁度=22〜30)を生じ、pHによらずその程度は同程度である。即ち、海水中の高濃度塩類の作用で、乖離していたフェノール性水酸基のマイナス荷電が封鎖され、溶解性を失い、フェノール系高分子化合物同士が会合し、不溶化して濁質を生ずる。
このように原水が海水の場合、有効成分が、本来作用させたい膜汚染物質と反応する前に添加したフェノール系高分子化合物同士が結合してしまうため、MFFの改善は得られない。
【0058】
この時、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を十分に希釈すると、フェノール系高分子化合物の密度が減少し、フェノール系高分子化合物同士の会合の確率が減少し、膜汚染物質に達して反応する、即ち、膜汚染物質とフェノール系高分子化合物とが反応することができるようになり、本発明による効果が得られることが推察される。
【0059】
一方、野木町水の場合、中性域ではいずれのフェノール系高分子化合物も濁度を生ずるが、pH7.5〜8.5或いはそれ以上のアルカリ性では濁度発生が少なく、ゼロに近づく。
濁度発生pHを比較するとポリビニルフェノール(PVF2000)がより高pHから発生する。ノボラック型フェノール樹脂(FR6000,2000)では分子量の大きい方が濁度値、濁度発生pHがやや高い。
しかし、いずれのフェノール系高分子化合物も中性域で、フェノール系高分子化合物同士の会合、不溶化が起こることが示される。
このことが、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を低濃度で添加した方が、MFFがより改善し、必要な添加量も低減する理由と推察される。
【0060】
[実施例及び比較例]
以下の実施例及び比較例では、以下の実験方法で行った。
【0061】
<実験方法>
(1)原水は24±2℃に調整し、その1100mlをビーカーに取り、宮本製作所製MJS−6Nを用いたジャーテストで凝集処理を行う。
ジャーテストの攪拌、反応条件は、次の通りとした。
・フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液は、150rpm攪拌下に添加し、150rpmで5分の攪拌反応を行った。
・無機凝集剤は150rpm攪拌下に添加し、150rpmで10分の急速攪拌と50rpmで10分の緩速攪拌を行った。
・処理pHはアルミニウム系凝集剤ではpH6以上とし、凝集剤添加後pHが6未満になる場合は、概ねpH6.1になるように5wt/vol%苛性ソーダ水溶液で中和した。鉄系凝集剤ではpH5以上とし、pHが5未満になる場合は、概ねpH5.2になるように5wt/vol%苛性ソーダ水溶液で中和した。
(2)(1)で得られた凝集処理水を30分静置し、凝集フロックを沈澱させた。
(3)(2)の凝集処理水をNo.5(5μm孔)濾紙で上澄みから徐々に濾過し、最終的に凝集フロックを含め、凝集処理水の全量を濾過した。
(4)得られた濾液1000ml以上を500mlずつ2本のメスシリンダーに入れた。
(5)1本目のメスシリンダーの濾液500mlを、ミリポア社製の孔径0.45μm、直径47mmのニトロセルロース製メンブレンフィルターを用い、66kPa(500mmHg)の減圧下で濾過し、濾過に要する時間T1を計測した。続いてもう1本メスシリンダーの濾液の500mlを同様に減圧濾過し、濾過に要する時間T2を測定し、MFF=T2/T1を算出した。
水温は測定時24±2℃になるよう、実験室温度を調整するとともに、測定時水温を記録した。
なお、濾過時間は、水の粘性係数で変化する、すなわち水温で変化するが、同一温度で計測すればT2/T1=MFFは温度影響が相殺される。
(6)残余の濾液の紫外吸光度(波長260nm,50mmセル)及びTOC(全有機炭素)濃度を測定した。
260nm紫外吸光度(UV吸光度)は主にC=C二重結合を有する有機物の吸収で、フェノール系高分子化合物の処理水中の残留量の目安として計測した。
【0062】
[実施例I及び比較例I(海水)]
東京都大田区城南島(城南島公園)で採取した海水(電気伝導度3400mS/m,pH8.38)を原水とした。この原水の凝集処理には、塩化第二鉄(FC)が適切である。凝集剤としてFCを用い、FC添加量とMFFの関係を調べたところ図3のようになり、FC添加量を増加してもMFFは1.14が限界であった。この結果からフェノール系高分子化合物の評価におけるFC添加量は80mg/Lに設定した。この時のMFFは1.158であった。
【0063】
次に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を純水で希釈することにより、表2に示す各フェノール系高分子化合物濃度に調整したものを用い、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を表2に示す各フェノール系高分子化合物添加量で海水に添加した後、FCを80mg/L添加するジャーテストを行い、MFF及びUV吸光度の測定を行い、MFF改善率を調べた。
これらの結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2より次のことが分かる。
実施例I−1,2でノボラック型フェノール樹脂FR2000のアルカリ溶液濃度を0.03wt/vol%(表中では「w/v%」、以下同様)、0.1wt/vol%とすると1.2mg/Lの添加量でMFFは1.07程度と良好になり、塩化第二鉄単独のMFFに対し、MFF改善率50%以上が得られた。
なお、MFF改善率は、無機凝集剤単独時のMFF(1.158)と計測MFF値(実施例I−1で1.066)との差(0.092)を改善値として、これを全く膜濾過阻害物がない場合のMFF1.000と無機凝集剤単独時のMFF値との差(0.158)で割り、100を乗じてMFF改善率(0.092÷0.158×100=58(%))として表示した。以下においても同様である。
また、FR2000添加時のアルカリ溶液中濃度を0.3wt/vol%とすると、MFF改善率20%に、また、1.0wt/vol%とするとMFF改善率4%に低下した。
【0066】
分子量の大きいFR6000でも同様に、アルカリ溶液中濃度0.03wt/vol%、0.1wt/vol%ではMFF改善率50%以上であるが、0.3wt/vol%、1.0wt/vol%ではほとんど改善しなかった。また、1.0wt/vol%時に添加量を2倍の2.4mg/Lに増加しても改善効果は得られなかった。
ポリビニルフェノールのPVF2000でもFR6000と同様の結果であった。
【0067】
[実施例II及び比較例II(下水処理水)]
A市標準活性汚泥法下水処理水(高速濾過後、電気伝導度58mS/m)の凝集処理には、液体塩化アルミニウム(LAC)が適切である。凝集剤としてLACを用い、LAC添加量とMFFの関係を調べたところ、図4のようになり、LAC添加量を増加してもMFFは1.18が限界であった。この結果から、フェノール系高分子化合物の評価におけるLAC添加量は100mg/Lに設定した。この時のMFFは1.178であった。
【0068】
次に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を純水で希釈することにより、表3に示す各フェノール系高分子化合物濃度に調整したものを用い、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を表3に示す各フェノール系高分子化合物添加量で下水処理水に添加した後、LACを100mg/L添加するジャーテストを行い、MFF、及びTOCとUV吸光度測定を行い、MFF改善率を調べた。
これらの結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3より次のことが分かる。
実施例II−1,2でノボラック型フェノール樹脂FR2000のアルカリ溶液中濃度を0.3wt/vol%、1wt/vol%とすると2.0mg/Lの添加量でMFFは1.07程度と良好になり、液体塩化アルミニウム単独のMFFに対し、MFF改善率は60%程度が得られた。
また、FR2000添加時のアルカリ溶液中濃度を3wt/vol%とすると、MFF改善率19%、10wt/vol%とするとMFF改善率15%に低下した。
分子量の大きいFR6000でも同様に、アルカリ溶液中濃度0.3wt/vol%、1wt/vol%でのMFF改善率70%程度が、3wt/vol%でMFF改善率22%、10wt/vol%でMFF改善率11%と低下した。
FR2000、FR6000ともに、アルカリ溶液中濃度10wt/vol%の場合、アルカリ溶液中濃度0.3〜1.0wt/vol%と同等の効果を得るには、添加率を3倍程度にする必要があった。
この結果、凝集・濾過処理水のUV吸光度、TOCともに添加量増加に応じて増加した。
【0071】
ポリビニルフェノールのPVF2000もアルカリ溶液中濃度0.3〜1.0wt/vol%、添加率2.0mg/LでMFF改善率約70%が得られたが、3〜10wt/vol%ではMFF改善率19〜12%に低下した。
アルカリ溶液中濃度10wt/vol%の場合に濃度0.3〜1wt/vol%の場合と同じ効果を得るには、FR2000、FR6000と同様に約3倍の添加量を必要とした。
【0072】
[実施例III及び比較例III(生物担体法処理水)]
B工場廃水生物担体法処理水(高速濾過後、電気伝導度104mS/m)の凝集処理には液体硫酸アルミニウム(LAS)が適切である。凝集剤としてLASを用い、LAS添加量とMFFの関係を調べたところ図5のようになり、LAS添加量を増加してもMFFは1.30が限界で、無機凝集剤で除去できない膜汚染物質の多い水であった。
そこで、フェノール系高分子化合物の評価におけるLAS添加量は318mg/Lに設定した。この時のMFFは1.322であった。
【0073】
次に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を純水で希釈することにより、表4に示す各フェノール系高分子化合物濃度に調整したものを用い、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を表4に示す各フェノール系高分子化合物添加量で生物担体法処理水に添加した後、LASを318mg/L添加するジャーテストを行い、MFF、及びTOCとUV吸光度測定を行い、MFF改善率を調べた。
これらの結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4より次のことが分かる。
実施例III−1,2でノボラック型フェノール樹脂FR2000のアルカリ溶液中濃度を0.3wt/vol%、1wt/vol%とすると5.0mg/Lの添加量でMFFは1.1程度と良好になり、液体硫酸アルミニウム単独のMFFに対し、MFF改善率は70%程度が得られた。
また、添加時のアルカリ溶液中濃度を3wt/vol%とすると、MFF改善率42%、10wt/vol%とするとMFF改善率37%に低下した。
【0076】
分子量の大きいFR6000でも同様に、アルカリ溶液中濃度0.3wt/vol%、1wt/vol%でのMFF改善率70%程度が得られ、3wt/vol%でMFF改善率40%、10wt/vol%で30%と低下した。
FR2000、FR6000ともに、アルカリ溶液中濃度10wt/vol%の場合、アルカリ溶液中濃度0.3〜1.0wt/vol%と同等効果を得るには、添加率を2〜3倍程度にする必要があった。
この結果、凝集・濾過処理水のUV吸光度、TOCともに添加量増加に応じて大きく増加した。
【0077】
ポリビニルフェノールのPVF2000もアルカリ溶液中濃度0.3〜1.0wt/vol%、添加率5.0mg/LでMFF改善率60〜70%が得られたが、アルカリ溶液中濃度3〜10wt/vol%ではMFF改善率37〜25%に低下した。
アルカリ溶液中濃度10wt/vol%の場合に濃度0.3〜1wt/vol%と同じ効果を得るには、約3倍の添加量を必要とした。
【0078】
[実施例IV及び比較例IV(C市工業用水)]
C市工業用水(電気伝導度26mS/m)の凝集処理には、ポリ塩化アルミニウム(PAC)が適切である。凝集剤としてPACを用い、PAC添加量とMFFとの関係を調べたところ、図6のようになり、PAC添加量45mg/LでMFF1.10を得た。しかしそれ以上添加量を増加してもMFFの改善は見られなかった。
そこで、フェノール系高分子化合物の評価におけるPAC添加量は45mg/Lに設定した。この時のMFFは1.097であった。
【0079】
次に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を純水で希釈することにより、表5に示す各フェノール系高分子化合物濃度に調整したものを用い、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を表5に示す各フェノール系高分子化合物添加量で工業用水に添加した後、PACを45mg/L添加するジャーテストを行い、MFF、及びTOCとUV吸光度測定を行い、MFF改善率を調べた。
これらの結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5より次のことが分かる。
実施例IV−1,2でノボラック型フェノール樹脂FR2000のアルカリ溶液中濃度を0.3wt/vol%、1wt/vol%とすると0.3mg/Lの添加量でMFFは1.05以下と非常に良好になり、ポリ塩化アルミニウム単独のMFFに対し、MFF改善率は50%以上が得られた。
本例では、フェノール系高分子化合物の必要添加量は下水処理水や工場廃水生物担体処理水に比較して1/5〜1/10と相当に少ない。これは無機凝集剤PAC単独の添加量が少なく、その達成MFFも1.0とかなり良いことから、膜汚染物質の絶対量が前2種の水より相当に少ないためと考えられる。
FR2000添加時のアルカリ溶液中濃度を3wt/vol%とすると、MFF改善率32%、10wt/vol%とするとMFF改善率26%に低下した。
【0082】
分子量の大きいFR6000でも同様に、アルカリ溶液中濃度0.3wt/vol%、1wt/vol%でのMFF改善率50%以上が、3wt/vol%でMFF改善率27%、10wt/vol%でMFF改善率21%と低下した。
FR2000、FR6000ともに、アルカリ溶液中濃度10wt/vol%の場合、アルカリ溶液中濃度0.3〜1.0wt/vol%と同等効果を得るには、添加率を3倍程度にする必要があった。
【0083】
ノボラック型フェノール樹脂では、凝集・濾過後、樹脂成分の一部が処理水中に残留するが、アルカリ溶液中濃度を1wt/vol%以下として添加することで、0.3mg/Lの極少ない添加量で十分な膜濾過性の改善が図れ、この結果、処理水中のTOCの上昇を防げることができる。
【0084】
ポリビニルフェノールのPVF2000もアルカリ溶液中濃度0.3〜1.0wt/vol%、添加率0.3mg/LでMFF改善率45%程度が得られ、濃度3〜10wt/vol%とするとMFF改善率は24〜20%に低下した。
また、アルカリ溶液中濃度10wt/vol%の場合に濃度0.3〜1wt/vol%と同じ効果を得るには、約3倍の添加量を必要とした。
【0085】
以上の実施例及び比較例の結果から、次のことが分かる。
(1) 膜分離処理に先立ち行われる凝集処理において、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を、フェノール系高分子化合物濃度1wt/vol%以下の希釈溶液として添加し、さらに無機凝集剤を添加して凝集処理することで、処理水の膜濾過性指標であるMFFを、無機凝集剤単独での達成値から50%以上改善することができる。
フェノール系高分子化合物添加時のアルカリ溶液中濃度が10wt/vol%の場合は、同じ膜濾過性改善率を得るための必要添加量は3倍から2倍量となる。
本発明によれば、膜濾過性改善に必要なフェノール系高分子化合物添加量が大きく低減できることで、処理費用が大きく削減できる。
【0086】
また、フェノール系高分子化合物のうち、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液は、凝集処理水側に樹脂成分が残留し、添加量が多いと、処理水TOCを上昇させるため、凝集・清澄化薬剤として不適当とされていたが、本発明に従って、希薄溶液として添加することにより、必要添加率低減により、特に膜分離処理の前処理としての凝集剤として有効性を発揮することができた。
また、海水の膜分離処理の前処理としての凝集処理では、フェノール系高分子化合物アルカリ溶液の濃度を0.1wt/vol%以下の更に希薄な溶液として添加することで、無機凝集剤単独の凝集処理の場合に対して膜濾過性指標MFFを50〜60%改善できた。
フェノール系高分子化合物アルカリ溶液の濃度が1wt/vol%を超える場合は、添加量を増加してもほとんどMFF値を改善することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】実験例1における海水のpHとフェノール系高分子化合物添加時の濁度との関係を示すグラフである。
【図2】実験例1における野木町水のpHとフェノール系高分子化合物添加時の濁度との関係を示すグラフである。
【図3】実験例I及び比較例IにおけるFC添加量とMFFとの関係を示すグラフである。
【図4】実験例II及び比較例IIにおけるLAC添加量とMFFとの関係を示すグラフである。
【図5】実験例III及び比較例IIIにおけるLAS添加量とMFFとの関係を示すグラフである。
【図6】実験例IV及び比較例IVにおけるPAC添加量とMFFとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水又は電気伝導度1000mS/m以上の高塩類含有水である被処理水に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理する方法において、
該フェノール系高分子化合物が、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性で、中性域及び/又は高塩類存在下で不溶化する高分子化合物であり、該高分子化合物を高分子化合物濃度0.1wt/vol%以下のアルカリ溶液として該被処理水に添加することを特徴とする膜分離処理方法。
【請求項2】
電気伝導度1000mS/m未満の被処理水に、フェノール系高分子化合物のアルカリ溶液を添加した後、無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を固液分離し、得られた分離水を膜分離処理する方法において、
該フェノール系高分子化合物が、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性で、中性域及び/又は高塩類存在下で不溶化する高分子化合物であり、該高分子化合物を高分子化合物濃度1wt/vol%以下のアルカリ溶液として該被処理水に添加することを特徴とする膜分離処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記フェノール系高分子化合物を1〜35wt/vol%含むアルカリ溶液を、ポンプで定量吐出させた後、前記被処理水に添加する直前に水で希釈して該被処理水に添加することを特徴とする膜分離処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−131469(P2010−131469A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302635(P2008−302635)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】