説明

膜厚監視方法および膜厚監視装置

【課題】 水晶振動子の周波数温度特性を改善し、低レート成膜にも十分に対応できる膜厚監視方法および膜厚監視装置を提供する。
【解決手段】 センサヘッド5に保持された水晶振動子の表面に成膜材料を付着させ、この成膜材料の堆積による水晶振動子の共振周波数の変化量を測定し、被処理基板W上に堆積される成膜材料の膜厚を監視する膜厚監視方法において、センサヘッド5の温度が80℃を超えるまでは、水晶振動子10の冷却処理を行わないようにする。また、水晶振動子10としては、室温から80℃付近までにおける温度ドリフトが20ppm以下の水晶基板を用いる。これにより、室温から80℃付近までの温度範囲における共振周波数の温度ドリフトを微量に抑制し、高精度な膜厚監視および成膜レートの制御を実現できるとともに、数Å/s程度の低レート成膜にも十分に対応可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜プロセスに用いられ、水晶振動子の安定した発振を維持でき、高精度な膜厚測定および成膜速度の制御を可能とする膜厚監視方法および膜厚監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着またはスパッタリングにおいて、成膜される膜の膜厚および成膜速度を測定するために、水晶振動子法という技術が用いられている。これは、チャンバ内に配置されている水晶振動子の表面に成膜材料が付着すると結晶の質量が増加し応答周波数が減少することを利用しており、この応答周波数の変化から、被処理基板上に堆積した成膜材料の膜厚を監視したり成膜速度を制御するようにしている。
【0003】
水晶は、珪素と酸素分子で構成される三方晶系の単結晶で、結晶の成長軸(Z軸)、電気軸(X軸)および機械軸(Y軸)を有しており、用途に応じて最適なカット角で切り出されている。例えば、成膜プロセスの膜厚監視用途には、いわゆるATカット水晶振動子が好適とされている。ATカット水晶振動子は、結晶軸のX軸回りにZ軸に対して35°15’(35度15分)の角度で切り出され、周波数温度特性(温度に対する共振周波数の変動特性)が良好なカット角として知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−160057号公報
【特許文献2】特開平8−82516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、上述したように、従来の膜厚監視装置には、周波数温度特性の良好なATカット水晶振動子が用いられている。この水晶振動子は、毎秒数十オングストローム(Å/s)等といった高レート成膜時に比べて、10Å/s以下(例えば1Å/s程度)の低レート成膜時では性能が劣るという問題がある。
【0006】
これは、成膜速度が低速化するに伴って、水晶振動子の安定した発振をいかに確保するかが問題とされるが、従来の水晶振動子では、低レート成膜時における発振が不安定となり、精度の高い周波数変化の測定が困難で、設定された成膜レートを安定に維持することができないためである。
【0007】
従来では、成膜中、水晶振動子を冷却するために、水晶振動子を保持するセンサヘッドに冷却水を循環供給しているが、上述した低レート成膜においては、冷却水の僅かな温度変化により、水晶振動子の共振周波数の温度ドリフトの影響が顕著となり、これが原因で測定が更に困難化し、精密な膜厚監視あるいは成膜速度のコントロールが困難になっている。
【0008】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、水晶振動子の周波数温度特性を改善し、低レート成膜にも十分に対応することができる膜厚監視方法および膜厚監視装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題は、センサヘッドに保持された水晶振動子の表面に成膜材料を付着させ、この成膜材料の堆積による前記水晶振動子の共振周波数の変化量を測定し、被処理基板上に堆積される前記成膜材料の膜厚を監視する膜厚監視方法において、前記センサヘッドの温度が80℃を超えるまでは、前記水晶振動子の冷却処理を行わないことを特徴とする膜厚監視方法、によって解決される。
【0010】
また、以上の課題は、被処理基板を収容する成膜室に設置され、成膜材料の付着量に応じて共振周波数が変化する水晶振動子と、この水晶振動子を保持するセンサヘッドと、前記水晶振動子の周波数変化を測定するモニタ部と、前記水晶振動子を冷却する冷却手段とを備えた膜厚監視装置において、前記センサヘッドの温度が80℃を超えるまでは、前記冷却手段による前記水晶振動子の冷却動作を停止させる制御手段を備えたことを特徴とする膜厚監視装置、によって解決される。
【0011】
本発明では、センサヘッドの温度が80℃を超えるまでは、水晶振動子の冷却処理を行わないようにしている。これにより、冷却水温度の微小変化に起因する水晶振動子の共振周波数の温度ドリフトの影響を回避し、膜厚及び成膜レートの監視あるいは制御を高精度に行うことができるとともに、10Å/s以下(例えば1Å/s)の低レート成膜も安定して行うことができるようになる。
【0012】
なお、センサヘッドの温度が80℃を超えると、水晶振動子自体の昇温により共振周波数の温度ドリフトが大きくなるので、これを防ぐために、冷却処理を実行する。センサヘッドの温度が80℃を超えないプロセスであれば、水晶振動子の冷却機構は不要となる。
【0013】
また、共振周波数の温度ドリフトは、温度の関数として表せる水晶振動子の共振周波数のシフト量(ドリフト量)であり、成膜材料の堆積量に依らない周波数変化量である。この共振周波数の温度ドリフトは、水晶振動子の共振周波数−温度特性上の3次曲線で表される。
【0014】
そこで、本発明に適用される水晶振動子としては、上記温度ドリフトが室温から80℃付近までにおいて20ppm以下であるカット角の水晶を用いることによって、従来のATカット水晶振動子よりも周波数温度特性を改善し、安定した発振動作と高精度な膜厚測定を可能としている。本発明の水晶振動子のカット角の具体例としては、結晶のr面に対して3°05’±03’が好適である。
【0015】
更に、水晶振動子の安定した発振動作を維持するために、本発明では、水晶振動子を一方の面が平面形状で他方の面が凸面形状のものが用いられ、その平面形状の一方側の表面を成膜材料の付着面としている。更に、当該平面形状の一方側の表面に形成される電極パターンを島状に形成することによって、副振動の発生を抑えて安定した厚みすべり振動(主振動)を維持することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、水晶振動子の共振周波数の温度ドリフトを微量に抑えることができるようになり、これにより、周波数測定の安定化が図られ、高精度な膜厚監視および成膜レートの制御を実現できる。また、10Å/s以下(例えば1Å/s程度)の低レート成膜も安定して行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態による成膜装置1の概略構成を示している。本実施の形態の成膜装置1は真空蒸着装置として構成され、真空チャンバ2の内部の成膜室には、抵抗加熱源や電子ビーム加熱源等の成膜材料の蒸発源3と、半導体ウェーハやガラス基板、セラミック基板等の被処理基板Wを支持するサセプタ4と、膜厚監視用のセンサヘッド5とが設置されている。
【0019】
センサヘッド5は、蒸発源3から見て、被処理基板Wと幾何学的に略等距離の位置に設置されている。被処理基板Wは、一枚に限らず、同一サセプタ4上に複数枚の被処理基板Wが並置されていてもよい。
【0020】
センサヘッド5の出力は、モニタ部6に供給される。このモニタ部6では、センサヘッド5の水晶振動子に付着した成膜材料の堆積量に応じた周波数変化に基づいて、被処理基板W上の堆積膜の膜厚を測定、監視する。また、測定した水晶振動子10の周波数変化から成膜速度を算出し、これが所定の設定値を維持するようにコントローラ7を介して蒸発源3のパワーを制御する。
【0021】
図2は、センサヘッド5の概略構成図である。センサヘッド5は、成膜材料の付着量に応じて共振周波数が変化する水晶振動子10を保持し、金属等の導電性材料でなるヘッド本体11を備えている。水晶振動子10はコンベクス(平凸)型の円形基板でなり、その平面側の表面10aを蒸発源3側に向けてヘッド本体11に保持されている。ヘッド本体11の内部において、水晶振動子10は、その凸面側の裏面10bに弾接する付勢板12と、表面10aの周縁に当接する保持爪13との間に挟まれるようにして、保持されている。図において符号17は、筒状の絶縁体である。なお、センサヘッド5は勿論、上述の構成に限られない。
【0022】
ヘッド本体11の周囲に取り付けられた冷却水循環パイプ14は、プロセス中にヘッド本体11が80℃を超えた場合に冷却水循環ポンプ8(図1)から送出される冷却水の流路として機能し、ヘッド本体11及び水晶振動子10の冷却処理を行う。冷却水循環ポンプ8及びパイプ14は本発明の「冷却手段」を構成し、コントローラ7によって動作がオン/オフ制御されるようになっている。なお、冷却手段として冷却水循環パイプ14を設ける代わりに、ヘッド本体11の内部に直接流路を形成してもよい。
【0023】
ここで本発明では、センサヘッド5の温度が80℃を超えるまでは、ポンプ8の駆動を停止し、冷却水の供給を行わないようにしている。これにより、後述するように、冷却水温度の微小変化に起因する水晶振動子の共振周波数の温度ドリフトの影響を回避し、膜厚及び成膜レートの監視あるいは制御を高精度に行うことができるとともに、数Å/s程度の低レート成膜も安定して行うことができるようになる。
【0024】
ヘッド本体11の背面側には、例えば熱電対等で構成される温度センサ9が設置されている。この温度センサ9の出力はコントローラ7へ供給され、冷却水循環ポンプ8の動作制御に参照される。
【0025】
以上、温度センサ9を含むセンサヘッド5、モニタ部6、コントローラ7及び冷却水循環ポンプ8により本発明の膜厚監視装置が構成される。また、コントローラ7は、本発明の「制御手段」に対応する。
【0026】
図3A〜Cは水晶振動子10の構成を示しており、Aは側面図、Bは表面10a側の平面図、Cは裏面10b側の平面図である。本実施の形態において、水晶振動子10の基本発振周波数は5MHzであるが、6MHzでもよく、それ以外でもよい。
【0027】
水晶振動子10の表面10a及び裏面10bには金(Au)、銀(Ag)等でなる電極パターン15a,15bが形成されている。特に本実施の形態では、水晶振動子10の表面10a側の電極パターン15aが島状に形成され、裏面10b側の電極パターン15bがベタ状に形成されている(図3B,Cにおいて電極パターンの形成領域をハッチングで示す)。
【0028】
水晶振動子10の表面10a側の島状の電極パターン15aは、水晶振動子10の表面10a略中央部に形成された主電極パターン15a1と、表面10aの周縁2カ所に部分的に形成された接点用電極パターン15a2,15a2と、主電極パターン15a1と接点用電極パターン15a2,15a2との間を連絡する連絡用電極パターン15a3,15a3とで構成されている。
【0029】
接点用電極パターン15a2は、ヘッド本体11の保持爪13と接触する領域に形成されており、この接点用電極パターン15a2と連絡用電極パターン15a3とを介して、主電極パターン15a1をヘッド本体11に電気的に接続させる。ヘッド本体11は図2に示すように発振器16の一方端に電気的に接続されている。なお、接点用電極パターン15a2の形状及び形成位置は図示する例に限られない。
【0030】
一方、水晶振動子10の裏面10b側のベタ状の電極パターン15bは、ヘッド本体11の内部において付勢板12と電気的に接続される。付勢板12は金属等の導電材料でなり、付勢バネ12aを介して、発振器16の他方端に電気的に接続されている(図2)。なお、電極パターン15bはベタ状に限らず、表面10a側の電極パターン15aと同様に島状に形成されていてもよい。
【0031】
上述のように、水晶振動子10は、その表面10a側が平面状で裏面10b側が凸面状のコンベクス型で形成されており、平面状の表面10a側が蒸発源3に対向する向きにヘッド本体11にセットされている。つまり、表面10aが成膜材料の付着面(成膜面)とされている。発振器16は、水晶振動子10の表裏の電極パターン15a,15bに交流電圧を印加することにより水晶振動子10を所定周波数で振動、共振させる。なお、発振器16は、真空チャンバ2の外側であって、センサヘッド5とモニタ部6との間に取り付けられている(図1)。
【0032】
ここで、本実施の形態においては、水晶振動子10の表面10a側に形成されている電極パターン15aが島状に形成され、例えば主電極パターン15a1と接点用電極パターン15a2との間の領域が、連絡用電極パターン15a3の形成領域を除いて非連結とされているので、副振動(スプリアス(spurious)振動)の発生を効果的に抑制し、水晶振動子10をその主振動である厚みすべり振動で安定に発振させることができるようになる。
【0033】
また、水晶振動子10の平面側の表面10aを蒸発源3に対向させ、当該表面10a側に成膜材料を付着させて水晶振動子10の周波数変動を測定するようにしているので、凸面側の裏面10bを蒸発源3に対向させる構成に比べて、水晶振動子10に対して成膜材料を均一に付着させることができるとともに、付着した成膜材料の割れ、剥がれを抑え、水晶振動子10の安定した発振を維持して、モニタ部6における高精度な周波数測定を実現することが可能となる。
【0034】
一方、水晶振動子10の凸状裏面10bの曲率半径を小さくするほど、発振が水晶振動子10の中心に集中して発振強度が強くなり、共振の鋭さを示すQ値が大きくなる。Q値が大きいほど、発振をより安定させることができる。
【0035】
図3Aに示すように、凸状裏面10bの曲率半径Rは、水晶振動子10の直径d、全厚t、最小厚aから、以下の式で算出することができる。
R=d2/8(t−a)
ここで、例えばd=12.4mm、t=0.33mm、a=0.15mmとした場合、Rは最小で約107mmとなる。なお本実施の形態では、R=100mmとなるように、各部寸法が設定されている。
【0036】
次に、本発明に係る水晶振動子10の周波数温度特性について説明する。
【0037】
通常のATカット基板は、図4に示すように、結晶のX軸(電気軸)回りにZ軸(成長軸)に対して35°15’の角度で切り出して形成されている。一方、結晶のZ軸に対して所定角度をなすr面(面指数(01−11))及びR面(面指数(10−11))は、図5Aに示すように、Z軸を中心に正六角形を描くように交互に位置している。これらr面及びR面のZ軸に対する角度は、図5Bに示すように、いずれも38°13’である。
【0038】
実際に水晶振動子を得るには、結晶から水晶片を切断し、ブランクを得る必要がある。この場合、水晶ブランクは薄くなるため、Z軸が不明確となる。しかし、結晶のr面は確認できるので、このr面を基準として水晶ブランクを切り出すことができる。このr面に対するATカット基板のカット角は、(38°13’)−(35°15’)=2°58’である。
【0039】
水晶振動子の周波数温度特性は、水晶のカット角に大きく依存する。図6は、水晶のr面に対してカット角を異ならせて切り出した水晶振動子の周波数温度特性を示している。各水晶振動子の基本発振周波数はそれぞれ5MHzであり、測定に用いたオッシレータ回路(発振器16)は、(株)アルバック社製「OSC−12B/D」である。
【0040】
図6に示すように、共振周波数の温度ドリフトは、水晶のカット角に大きく依存しており、r面に対するカット角が大きいものほど、センサヘッド5の温度上昇に伴って、温度ドリフトがマイナス側からプラス側へ大きくシフトする。
【0041】
そこで、本実施の形態では、共振周波数の温度ドリフトが室温(25℃)から80℃付近の範囲で20ppm以下のカット角の水晶基板で、水晶振動子10を構成している。このようなカット角としては、本例では、r面に対して3°05’±03’の角度範囲となる。これにより、周波数測定の安定化が図られ、高精度な膜厚監視と成膜レートの制御を実現できるようになる。
また、発振器16(アルバック社製「OSC−12B/D」)の特性に合わせて、カット角を3°05’±01’に制御することにより、室温から80℃の範囲で温度ドリフトを±10ppm以下に抑えることができる。この場合、水晶振動子の共振周波数の温度ドリフトは、70℃〜80℃付近で0に復帰する。このようなカット角の水晶振動子を用いることにより、膜厚監視と成膜レートの制御を更に高精度に実現できるようになる。
【0042】
次に、以上のように構成される本発明の水晶振動子10の周波数温度特性の実験例の結果を、従来のATカット基板製の水晶振動子(カット角:2°59’、コンベクス型、電極パターン表裏共にベタ)と比較して説明する。本実験例では、室温(25℃)で発振している水晶振動子をランプ加熱したときの共振周波数安定性と、これを成膜レートに換算したレート安定性について検討した。測定環境の条件としては、チャンバ内の到達真空圧力を2.9×10-3Pa、冷却水の循環供給は無しとし、環境温度最大値は128.9℃、センサヘッド温度最大値は69.6℃であった。
【0043】
図7及び図8は従来の水晶振動子についての実験結果を示しており、それぞれ水晶振動子の加熱による共振周波数安定性と、この周波数変化を成膜速度に換算したときのレート安定性を示している。同様に、図9及び図10は、本実施の形態の水晶振動子10についての実験結果を示しており、それぞれ熱による共振周波数安定性と、レート安定性を示している。
【0044】
図7から明らかなように、従来の水晶振動子は、加熱ランプ点灯直後、共振周波数が瞬間的に大きく上昇した後、時間の経過とともに発振周波数が徐々に減少し、一定の周波数に落ち着くまでに1時間以上要することが確認された。また、図8に示すように、レート安定性も同様な傾向を示しており、成膜の有無に関係なく温度に対して大きく影響を受けやすいことが確認できる。
【0045】
これに対して本実施の形態の水晶振動子10によれば、図9及び図10に示すように、加熱ランプ点灯後、短時間(約20分)で一定の周波数に安定に推移し、レート安定性は従来の水晶振動子に比べて著しく改善されていることが確認できる。
【0046】
このように、本実施の形態の水晶振動子10によれば、従来の水晶振動子よりも周波数温度特性に優れ、レート安定性の熱による影響を従来よりも抑制でき、成膜レートの測定をより高精度に行うことが可能となる。
【0047】
次に、従来の水晶振動子および本実施の形態の水晶振動子10の各々について、センサヘッドに冷却水を供給した場合と供給しない場合とでのレート安定性の変動特性を説明する。図11は従来の水晶振動子の場合を示し、図12は本実施の形態の水晶振動子の場合を示している。
【0048】
センサヘッドへの冷却水の供給は、水晶振動子の温度上昇による共振周波数の温度ドリフトの増大を抑制することを目的としている。ところが、図11及び図12からも明らかなように、冷却水の全導入期間に亘って、レートのバラツキ量が大きい。これは、供給された冷却水の温度変化が原因で水晶振動子の周波数変動が誘発され、これがノイズとなってレート安定性を損なわせていると考えられる。
【0049】
なお、図11と図12を比較すると、冷却水の供給の有無に関係なく、従来の水晶振動子(図11)に比べて、本実施の形態の水晶振動子10(図12)の方が、レートのバラツキ量が小さい。これは、上述したように、本実施の形態の水晶振動子10の方が、周波数温度特性に優れているからである。
【0050】
以上のように、冷却水を供給した場合と供給しない場合とでは、レート安定性に明らかな相違が生じており、冷却水を供給する場合に比べて、冷却水を供給しない場合の方がレート安定性に優れている。
【0051】
そこで、本発明においては、センサヘッド5の温度が80℃に達する前までは、コントローラ7により冷却水循環ポンプ8の駆動を停止し、水晶振動子10の冷却処理を行うことなく被処理基板Wの膜厚監視を行う。センサヘッド5の温度が80℃以下の場合、図6に示したように、水晶振動子10の共振周波数の温度ドリフトは20ppm以下であるので、精度の高い膜厚監視および成膜レート制御が可能である。
【0052】
一方、センサヘッド5の温度が80℃を超えると、冷却水の供給による共振周波数の変動に増して、水晶振動子の温度ドリフトが大きくなる。従って、センサヘッド5の温度が80℃を超えたときは、コントローラ7により冷却水循環ポンプ8の駆動を開始し、センサヘッド5へ冷却水を供給して水晶振動子10の冷却処理を行う。これにより、水晶振動子10の過度の温度上昇による共振周波数の温度ドリフトを制限し、安定した膜厚監視動作を継続させることができる。
【0053】
以上のように、本実施の形態によれば、センサヘッド5が80℃以下の温度では冷却水の供給を停止させることにより、室温から80℃付近までの温度範囲における共振周波数の温度ドリフトを微量(20ppm以下)に抑えることができる。これにより、従来よりも周波数温度特性を改善でき、安定した周波数測定を可能とし、高精度な膜厚監視および成膜レートの制御を実現できる。
【0054】
また、本実施の形態の水晶振動子10によれば、従来よりも安定した周波数測定が可能であるので、例えば図13Aに示すように、10Å/s以下(図では約1Å/s)の低レート成膜も安定してモニタリングすることができる。比較のため、図13Bに従来の水晶振動子で低レート成膜を行ったときの様子を示す。従来の水晶振動子に比べ、本発明によればレート安定性を大きく改善でき、例えば有機EL(エレクトロルミネッセンス)材料等の低レート成膜が要求されるプロセスにおいて、高精度な膜厚測定および成膜レート制御を行うことが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0056】
例えば以上の実施の形態では、水晶振動子10の表裏面10a,10bに形成した電極パターン15a,15bとして、図3B,Cに示した例を説明したが、これに限らない。例えば図14A,Bは、水晶振動子10の平坦な表面10a側には島状の電極パターン18aが形成され、凸状の裏面10b側にも島状の電極パターン18bが形成された例を示している。
【0057】
一方の表面側の電極パターン18aは、主電極パターン18a1と、接点用電極パターン18a2と、連絡用電極パターン18a3とでなり、特に、接点用電極パターン18a2は、図3Bに示した電極パターン15a2に比べて、形成範囲が狭くなっている。他方の裏面側の電極パターン18bは、主電極パターン18b1と、第1,第2の副電極パターン18b2,18b3とでなり、特に、主電極パターン18b1は、表面側の主電極パターン18a1よりも小面積とされ、副電極パターン18b2,18b3は、表面側の接点用及び連絡用電極パターン18a2,18a3と重ならない領域に形成されている。このような構成によっても、副振動を抑えて安定した発振動作を確保することができる。
【0058】
また、以上の実施の形態では、水晶振動子10として、結晶のr面に対して3°05’±03’のカット角で切り出した水晶基板で構成したが、これ限らず、プロセスや発振器16の回路特性等に応じて、最適なカット角に調整することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】センサヘッド5の構成を示す側断面図である。
【図3】水晶振動子10の構成を示す図で、Aは側面図、Bは平面図、Cは裏面図である。
【図4】一般的なATカット基板のカット角を説明する図である。
【図5】一般的なATカット基板のカット角を説明する水晶の図である。
【図6】水晶の共振周波数の温度ドリフトとカット角との関係を示す図である。
【図7】従来の水晶振動子の熱による共振周波数変動特性を示す図である。
【図8】図7の結果を成膜レートに換算した図である。
【図9】本発明の水晶振動子10の熱による共振周波数変動特性を示す図である。
【図10】図9の結果を成膜レートに換算した図である。
【図11】従来の水晶振動子に関して冷却水の供給の有無によるレート安定性を示す図である。
【図12】本発明の水晶振動子10に関して冷却水の供給の有無によるレート安定性を示す図である。
【図13】低レート成膜時におけるレート安定性を示す図で、Aは本発明の水晶振動子を用いた例を示し、Bは従来の水晶振動子を用いた例を示している。
【図14】本発明の水晶振動子の電極パターンの一変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 成膜室
2 真空チャンバ
3 蒸発源
4 サセプタ
5 センサヘッド
6 モニタ部
7 コントローラ
8 冷却水循環ポンプ
9 温度センサ
10 水晶振動子
11 ヘッド本体
12 付勢板
13 保持爪
14 冷却水循環パイプ
15a,15b,18a,18b 電極パターン
16 発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサヘッドに保持された水晶振動子の表面に成膜材料を付着させ、この成膜材料の堆積による前記水晶振動子の共振周波数の変化量を測定し、被処理基板上に堆積した前記成膜材料の膜厚を監視する膜厚監視方法において、
前記センサヘッドの温度が80℃を超えるまでは、前記水晶振動子の冷却処理を行わないことを特徴とする膜厚監視方法。
【請求項2】
前記水晶振動子として、室温から80℃付近までにおける温度ドリフトが20ppm以下の水晶基板を用いる請求項1に記載の膜厚監視方法。
【請求項3】
前記水晶振動子として、結晶のr面に対して3°05’±03’の角度で切り出した水晶基板を用いる請求項2に記載の膜厚監視方法。
【請求項4】
前記成膜材料の成膜速度を10Å/s以下とする請求項1に記載の膜厚監視方法。
【請求項5】
前記水晶振動子は、一方側の面が平面形状で他方側の面が凸面形状であり、前記一方側の面を前記成膜材料の付着面とする請求項1に記載の膜厚監視方法。
【請求項6】
被処理基板を収容する成膜室に設置され、成膜材料の付着量に応じて共振周波数が変化する水晶振動子と、この水晶振動子を保持するセンサヘッドと、前記水晶振動子の周波数変化を測定するモニタ部と、前記水晶振動子を冷却する冷却手段とを備えた膜厚監視装置において、
前記センサヘッドの温度が80℃を超えるまでは、前記冷却手段による前記水晶振動子の冷却動作を停止させる制御手段を備えたことを特徴とする膜厚監視装置。
【請求項7】
前記水晶振動子は、室温から80℃付近までにおける温度ドリフトが20ppm以下である請求項6に記載の膜厚監視装置。
【請求項8】
前記水晶振動子は、結晶のr面に対して3°05’±03’の角度で切り出されている請求項7に記載の膜厚監視装置。
【請求項9】
前記水晶振動子は、一方側の面が平面形状で他方側の面が凸面形状であり、その何れの面にも電極パターンが形成されており、少なくとも前記一方側の面の電極パターンが島状に形成されている請求項6に記載の膜厚監視装置。
【請求項10】
前記水晶振動子は、前記一方側の面が成膜材料の付着面とされている請求項9に記載の膜厚監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−78302(P2006−78302A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261815(P2004−261815)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】