説明

膜濾過システムの運転方法

【課題】給水タンクへの給水を停止していた状態から給水を開始したときに、透過水の水質を短時間で所定の水質に回復させることができる膜濾過システムの運転方法を実現する。
【解決手段】濾過膜部4へ給水を供給して給水中の不純物を濾過し、濾過した後の前記濾過膜部4からの透過水を、ボイラ2へ供給するための給水として給水タンク6内に貯留する一方で、前記濾過膜部4からの濃縮水の一部を所定の量で系外へ排水するとともに、残部を前記濾過膜部4の上流側へ還流させる膜濾過システム1の運転方法であって、前記給水タンク6への給水を停止していた状態から給水を開始した後の所定時間、前記濾過膜部4からの濃縮水の排水量を前記所定量よりも少なくする水質回復運転を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、給水中の不純物を除去する濾過膜部と、機器へ供給するための給水を貯留する給水タンクとを備えた膜濾過システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器への給水の水処理システムとして、給水中に含まれる不純物,たとえば溶存塩類を濾過する濾過膜部と、前記機器へ供給するための給水を貯留する給水タンクとを備えた膜濾過システムがある。
【0003】
前記濾過膜部の濾過膜としては、たとえば特許文献1に、ナノ濾過膜(NF膜)を用いた例が開示されている。前記ナノ濾過膜は、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度の物質)の透過を阻止することができる液体分離膜である。前記ナノ濾過膜を用いた膜濾過システムでは、前記濾過膜部の一側から給水が流入して、前記ナノ濾過膜により、腐食促進成分およびアルカリ成分が捕捉されるとともに、腐食抑制成分が透過されるようになっている。ここで、腐食促進成分とは、たとえば前記機器が貫流ボイラである場合、非不動態化金属よりなり、ボイラ水が接触する複数の伝熱管や下部管寄せの内面に作用してその腐食を促進するものを云い、通常、硫酸イオン,塩化物イオンおよびその他の物質を含んでいる。また、前記腐食抑制成分とは、前記貫流ボイラにおいて、ボイラ水が接触する前記各伝熱管や前記下部管寄せの内面に作用して、その腐食を抑制可能なものを云い、通常、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素)を含んでいる。また、アルカリ成分としては、炭酸水素塩や炭酸塩などがあり、これらのアルカリ成分は、前記各伝熱管内や前記下部管寄せ内において熱分解により水酸化物を生成する。この水酸化物は、前記各伝熱管内や前記下部管寄せ内のボイラ水のpHを上昇させ、前記各伝熱管や前記下部管寄せの腐食を抑制する作用がある
【0004】
前記濾過膜部の他側からは、腐食抑制成分を含む透過水と腐食促進成分およびアルカリ成分を含む濃縮水とがそれぞれ分離されて流出する。そして、透過水は前記機器へ供給され、濃縮水はその一部が系外へ排水されるとともに、残部が前記濾過膜部の上流側へ還流される。
【特許文献1】特開2004−290829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記膜濾過システムでは、前記給水タンクへの給水を行うときには、前記濾過膜部の上流側に設けられたポンプによって所定の給水圧力を加えて前記濾過膜部へ給水を供給し、前記ナノ濾過膜によって逆浸透現象を利用して給水を濾過している。しかし、前記給水タンクへの給水を停止するために、前記ポンプを停止して前記濾過膜部への給水の供給を停止すると、前記ナノ濾過膜へ給水供給側からの給水圧力がかからないために、前記ナノ濾過膜付近で浸透現象が起き、透過側の不純物濃度が高くなるとともに、給水供給側の不純物濃度が低くなる。
【0006】
このように、前記ナノ濾過膜付近において、透過側の不純物濃度が高くなるとともに、給水供給側の不純物濃度が低くなっている状態で、前記濾過膜部へ給水を供給して前記給水タンクへの給水を開始すると、透過水の不純物濃度は、給水開始直後に通常よりも一旦高くなり、その後通常よりも低くなってから徐々に上昇して通常の濃度になる。給水開始直後に透過水の不純物濃度が高くなるのは、前記ナノ濾過膜付近において透過側の不純物濃度が高くなっているからである。また、給水開始後に透過水の不純物濃度が低くなるのは、前記ナノ濾過膜付近において、給水供給側の不純物濃度が低くなっているので、前記濾過膜部からの濃縮水を前記濾過膜部の上流側へ還流させても、前記濾過膜部へ供給される給水の不純物濃度が通常よりも低い状態になっているからである。さらに、透過水の不純物濃度が徐々に上昇し、通常の濃度になるのは、時間の経過とともに徐々に前記濾過膜部へ供給される給水の濃縮が進むからである。
【0007】
したがって、前記給水タンクへの給水を停止していた状態から給水を開始したとき、給水の開始後の所定時間は、通常よりも不純物濃度が低い透過水が、給水として前記給水タンク内に貯留される。この結果、通常よりも腐食抑制成分濃度とアルカリ成分濃度が低い透過水が前記給水タンク内に貯留されることになる。ここで、腐食抑制成分濃度が低い給水が前記貫流ボイラへ供給されると、前記各伝熱管や前記下部管寄せの腐食が起きやすくなり、またアルカリ成分濃度が低い給水が前記貫流ボイラへ供給されると、原水のアルカリ成分濃度が低い地域においては、ボイラ水のpHが上昇せず、前記各伝熱管や前記下部管寄せの腐食が起きやすくなる。とくに、前記給水タンクへの給水の停止が頻繁に起きたり、給水を停止している時間が長くなったりする場合や、前記給水タンクの容量が小さい場合には、腐食抑制成分濃度が低いことによる前記各伝熱管や前記下部管寄せの腐食の問題が顕著になり、さらにボイラ水のpHが上昇しないことによる前記下部管寄せや前記各伝熱管の腐食の問題が顕著になる。したがって、前記給水タンクへの給水を停止していた状態から、給水を開始したときに、できるだけ早く透過水の水質を所定の水質に回復させることが望まれる。
【0008】
この発明は、前記の事情に鑑みてなされたもので、その解決しようとする課題は、給水タンクへの給水を停止していた状態から給水を開始したときに、透過水の水質を短時間で所定の水質に回復させることができる膜濾過システムの運転方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、濾過膜部へ給水を供給して給水中の不純物を濾過し、濾過した後の前記濾過膜部からの透過水を、機器へ供給するための給水として給水タンク内に貯留する一方で、前記濾過膜部からの濃縮水の一部を所定の量で系外へ排水するとともに、残部を前記濾過膜部の上流側へ還流させる膜濾過システムの運転方法であって、前記給水タンクへの給水を停止していた状態から給水を開始した後の所定時間、前記濾過膜部からの濃縮水の排水量を前記所定量よりも少なくする水質回復運転を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明では、前記給水タンクへの給水を開始してから所定時間、前記水質回復運転を行って前記濾過膜部からの濃縮水の排水量を前記所定量よりも少なくすることにより、前記濾過膜部へ供給される給水の濃縮が進む。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法において、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温に基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明では、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温に基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さが設定される。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法において、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質に基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定することを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明では、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質に基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さが設定される。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法において、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さに基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定することを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明では、前記濾過膜部への給水を停止していた時間の長さに基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さが設定される。
【0017】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法において、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温と、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質と、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さとのうち、いずれか2つ以上に基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明では、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温と、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質と、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さとのうち、いずれか2つ以上に基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さが設定される。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、前記給水タンクへの給水を開始してから所定時間、前記水質回復運転を行うことによって、前記濾過膜部へ供給される給水の濃縮が進み、その不純物濃度が高くなり、透過水の水質を短時間で所定の水質まで回復させることができる。したがって、前記給水タンクへの給水の停止が頻繁に起きたり、給水を停止している時間が長くなったりしても、また前記給水タンクの容量が小さくても、前記機器へ供給される給水について、所定の水質を維持することができる。
【0020】
請求項2,3または4に記載の発明によれば、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質を所定の水質まで回復させるように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを最適なものに設定することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さが、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温と、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質と、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さとのうち、いずれか2つ以上に基づいて設定されるので、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質を所定の水質まで回復させるように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または前記水質回復運転の運転時間の長さを、より最適なものに設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態に係る膜濾過システムの運転方法は、機器への給水ラインと接続された濾過膜部と、この濾過膜部と接続された濃縮水の排水ラインと、この排水ラインと前記濾過膜部の上流側の前記給水ラインとを接続する循環水ラインと、この濾過膜部の下流側の前記給水ラインと接続された給水タンクとを備えた膜濾過システムにおいて実施される。
【0023】
前記機器としては、蒸気ボイラ,温水ボイラ,クーリングタワー,給湯器などの熱機器を挙げることができる。
【0024】
前記濾過膜部は、濾過膜により、給水中に含まれる不純物を濾過するものである。前記濾過膜は、具体的にはナノ濾過膜(NF膜)である。このナノ濾過膜は、2nm程度より小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度の物質)の透過を阻止することができる液体分離膜であり、濾過機能の点において、限外濾過膜(分子量が1,000〜300,000程度の物質を濾別可能な膜)と逆浸透膜(分子量が数十程度の物質を濾別可能な液体分離膜)との中間に位置する機能を有する液体分離膜である。
【0025】
前記濾過膜部へは、一側から給水が流入し、この給水中に含まれる不純物が前記ナノ濾過膜によって濾過されるようになっている。具体的には、前記ナノ濾過膜により、腐食促進成分およびアルカリ成分が捕捉されるとともに、腐食抑制成分が透過されるようになっている。
【0026】
ここで、腐食促進成分は、背景技術の欄において説明したものであり、通常、硫酸イオン,塩化物イオンおよびその他の物質を含んでいる。ちなみに、腐食促進成分として重要なものは、硫酸イオンおよび塩化物イオンの両者である。ところで、JIS B 8223:1999は、貫流ボイラを含む特殊循環ボイラの腐食を抑制する観点から、これらのボイラにおけるボイラ水の水質に関する各種の管理項目および推奨基準を規定し、その中で、塩化物イオン濃度の基準値を設けている。一方、ボイラ水の硫酸イオン濃度には言及されていないが、本願出願人においては、ボイラ水に含まれる硫酸イオンが、腐食促進成分として貫流ボイラの各伝熱管や下部管寄せなどに作用していることを確認している。
【0027】
また、腐食抑制成分も背景技術の欄において説明したものである。この腐食抑制成分は、通常、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素)を含んでいる。ところで、給水に含まれるシリカは、給水として用いる水道水,工業用水,地下水などにおいて、通常含有されている成分で、一般に、前記各伝熱管や前記下部管寄せにおけるスケール生成成分と認識されており、可能な限りその濃度を抑制することが好ましいと考えられている。しかし、本願出願人においては、ボイラ水に含まれるシリカが、腐食抑制成分として前記各伝熱管や前記下部管寄せなどに作用していることを確認している。
【0028】
さらに、アルカリ成分としては、炭酸水素塩や炭酸塩などを挙げることができる。
【0029】
前記濾過膜部の他側からは、腐食抑制成分を含む透過水と腐食促進成分およびアルカリ成分を含む濃縮水とが流出するようになっている。そして、透過水は、前記給水ラインを流れて、前記機器へ供給するための給水として前記給水タンク内に貯留されるようになっている。一方、濃縮水は、一部が前記排水ラインから所定の量で系外へ排水されるとともに、残部が前記循環水ラインを通って前記濾過膜部の上流側へ還流されるようになっている。
【0030】
さて、前記膜濾過システムでは、前記給水タンクへの給水を行うときには、前記濾過膜部へ給水を供給し、この給水中の腐食促進成分およびアルカリ成分を前記ナノ濾過膜によって濾過する。そして、腐食抑制成分が含まれる透過水を、前記給水タンク内に貯留する。また、腐食促進成分およびアルカリ成分が含まれる濃縮水の一部を前記排水ラインから所定の量で排水するとともに、残部を前記循環水ラインを介して前記濾過膜部の上流側の前記給水ラインへ還流させる。
【0031】
前記給水タンクへの給水を行うことにより、この給水タンク内の水位が上昇し、給水を停止する所定の水位になると、前記濾過膜部への給水の供給を停止して、前記給水タンクへの給水を停止する。そして、前記給水タンク内の水位が所定の水位まで下降すると、前記濾過膜部への給水の供給を開始して、この濾過膜部で給水を濾過し、前記給水タンクへの給水を開始する。
【0032】
前記給水タンクへの給水を開始すると、前記濾過膜部からの濃縮水の排水量を前記所定量よりも少なくする水質回復運転を所定時間行う。すなわち、この水質回復運転においては、透過水量と排水量との和に対する透過水量の割合(以下、「回収率」と云う。)を、通常よりも高くする。このように回収率を高くする前記水質回復運転を行うことにより、前記濾過膜部へ供給される給水の濃縮が進み、その不純物濃度が高くなる。この結果、透過水の腐食抑制成分濃度が高くなるとともに、前記ナノ濾過膜を透過するアルカリ成分の量も増えてその濃度が高くなり、透過水の水質が所定の水質まで短時間で回復する。
【0033】
前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さは、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するような量,長さに設定する。
【0034】
具体的には、水温によって、腐食抑制成分であるシリカの溶解度や、アルカリ成分である炭酸水素塩,炭酸塩の溶解度が異なるので、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温に基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定する。
【0035】
また、原水の水質(ここでは不純物濃度)は、地域や季節によって異なるので、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質に基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定してもよい。
【0036】
また、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間が長くなるほど、前記ナノ濾過膜付近において、給水供給側の不純物濃度が低くなる。すなわち、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間によって、前記ナノ濾過膜付近における給水供給側の不純物濃度が異なってくるので、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さに基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するよう、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定してもよい。
【0037】
さらに、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温と、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質と、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さとのうち、いずれか2つ以上に基づいて、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復するように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを設定してもよい。
【0038】
この実施形態の膜濾過システムによれば、前記給水タンクへの給水を開始してから所定時間、通常よりも回収率を高くする水質回復運転を行うことにより、前記濾過膜部へ供給される給水の濃縮が進み、透過水の腐食抑制成分濃度およびアルカリ成分濃度が高くなり、透過水の水質を短時間で所定の水質まで回復させることができる。したがって、前記給水タンクへの給水の停止が頻繁に起きたり給水を停止している時間が長くなったりしても、また前記給水タンクの容量が小さくても、前記機器へ供給される給水について、所定の水質を維持することができる。
【0039】
また、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質を所定の水質まで回復させるように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを最適なものに設定することができる。
【0040】
さらに、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温と、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質と、前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さとのうち、いずれか2つ以上に基づいて設定すれば、前記濾過膜部へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質を所定の水質まで回復させるように、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間の長さを、より最適なものに設定することができる。
【実施例】
【0041】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明を実施するための膜濾過システムの構成の一例を示す概略的な説明図である。
【0042】
図1に示す膜濾過システム1は、水道水,工業用水,地下水などの水源から供給される原水を水処理して得られた給水をボイラ2へ供給するものである。この膜濾過システム1は、前記ボイラ2への給水ライン3を備え、さらにこの給水ライン3と接続された濾過膜部4および脱気膜部5を上流側からこの順で備えている。また、前記膜濾過システム1は、給水を貯留する給水タンク6と前記濾過膜部4の上流側に設けられ、給水を前記濾過膜部4へ供給するポンプ7とを備えている。
【0043】
さらに、前記膜濾過システム1は、バルーンA,A′,A″のうち、いずれかの位置に接続されている温度センサ8,8′,8″およびバルーンB,B′,B″のうち、いずれかの位置に接続されている水質センサ9,9′,9″を有している。これら水質センサ9,9′,9″は、それぞれ前記濾過膜部4への給水の水質情報,前記濾過膜部4からの透過水の水質情報および前記濾過膜部4からの濃縮水の水質情報を得るための測定機器であり、たとえば水の電気伝導度を測定する電気伝導度センサである。
【0044】
前記濾過膜部4は、ナノ濾過膜(図示省略)を備えて構成されている。このナノ濾過膜は、ポリアミド系,ポリエーテル系などの合成高分子膜であり、2nmよりも小さい粒子や高分子(分子量が最大数百程度の物質)の透過を阻止することができる液体分離膜である。前記ナノ濾過膜は、通常、濾過膜モジュールとして構成されている。この濾過膜モジュールの形態には、スパイラルモジュール,中空糸モジュール,平膜モジュールなどがある。
【0045】
前記濾過膜部4の一側へは、前記ポンプ7から送り出された給水が流入するようになっている。前記濾過膜部4へ流入した給水は、前記ナノ濾過膜により、腐食促進成分およびアルカリ成分が捕捉されるとともに、腐食抑制成分が透過するようになっている。
【0046】
前記濾過膜部4の他側からは、腐食抑制成分を含む透過水と腐食促進成分およびアルカリ成分を含む濃縮水とがそれぞれ分離されて流出するようになっている。そして、透過水は、前記給水ライン3を流れて前記給水タンク6内に貯留されるようになっている。一方、濃縮水は、一部が排水ライン10から所定の量で排水されるとともに、残部が前記排水ライン10と前記ポンプ7の上流側の前記給水ライン3とを接続する循環水ライン11を流れて前記ポンプ7の上流側へ還流されるようになっている。
【0047】
前記排水ライン10は、前記循環水ライン11の接続箇所よりも下流側が、第一排水ライン12,第二排水ライン13,第三排水ライン14に分岐している。そして、これらの各排水ライン12,13,14には、それぞれ第一排水弁15,第二排水弁16,第三排水弁17が設けられている。
【0048】
ここで、前記各排水弁15,16,17は、それぞれ定流量弁機構(図示省略)を備えている。この定流量弁機構は、前記各排水弁15,16,17において、それぞれ異なる流量値に設定されている。前記各排水弁15,16,17からの排水量は、たとえばつぎのように設定される。すなわち、前記第一排水弁15のみを開状態にしたときの排水量は、回収率が95%となるように設定され、また前記第二排水弁16のみを開状態にしたときの排水量は、回収率が90%となるように設定され、さらに前記第三排水弁17のみを開状態にしたときの排水量は、回収率が80%となるように設定される。ここで、以下の説明では、排水量を透過水量と排水量との和に対する排水量の割合で述べる。たとえば、前記第一排水弁15のみを開状態にしたときの排水量,すなわち回収率が95%のときの排水量を5%排水と云い、また前記第二排水弁16のみを開状態にしたときの排水量,すなわち回収率が90%のときの排水量を10%排水と云い、さらに前記第三排水弁17のみを開状態にしたときの排水量,すなわち回収率が80%のときの排水量を20%排水と云う。
【0049】
濃縮水の排水量は、前記各排水弁15,16,17をそれぞれ開閉することにより、段階的に調節することができるようになっている。たとえば、前記第二排水弁16のみを開状態とし、前記第一排水弁15および前記第三排水弁17を閉状態とすることにより、10%排水とすることができる(すなわち、回収率90%)。また、たとえば前記第一排水弁15および前記第二排水弁16を開状態とし、前記第三排水弁17のみを閉状態とすることにより、15%排水とすることができる(すなわち、回収率85%)。したがって、濃縮水の排水量は、前記各排水弁15,16,17の組合わせにより、5%排水から35%排水まで、5%毎に段階的に調節することができ、換言すれば、回収率は、65%から95%まで、5%毎に段階的に調節することができるようになっている。
【0050】
ここで、前記循環水ライン11には、前記ポンプ7の上流側への濃縮水の還流量を一定にするための流量制御弁(図示省略)が設けられていてもよい。この場合、濃縮水の排水量が調節されたときにおいても、前記流量制御弁によって前記ポンプ7の上流側への濃縮水の還流量が一定になるよう調節される。
【0051】
前記脱気膜部5は、気体透過膜を多数備えた気体透過膜モジュール(図示省略)と、給水中の溶存気体,具体的には溶存酸素を前記気体透過膜モジュールを通して真空吸引する水封式真空ポンプ(図示省略)とを備えている。
【0052】
前記脱気膜部5を通過した給水は、前記給水タンク6内に貯留され、この給水タンク6から前記ボイラ2へ供給されるようになっている。前記給水タンク6には、水位センサ18が設けられている。
【0053】
つぎに、前記膜濾過システム1の運転方法について説明する。前記膜濾過システム1において、前記給水タンク6への給水を行うときには、前記ポンプ7により、まず前記濾過膜部4へ給水を供給し、この給水中の腐食促進成分およびアルカリ成分を前記ナノ濾過膜(図示省略)によって濾過する。このとき、給水中の腐食抑制成分は、前記ナノ濾過膜を透過する。つぎに、前記濾過膜部4から流出した透過水に含まれる溶存酸素を前記脱気膜部5で脱気し、この水を前記ボイラ2へ供給する給水として前記給水タンク6内に貯留する。
【0054】
一方、前記濾過膜部4からは濃縮水も流出し、この濃縮水は、一部を前記排水ライン10から所定の量で排水するとともに、残部を前記循環水ライン11を介して前記ポンプ7の上流側へ還流させる。
【0055】
前記給水タンク6への給水を行うことにより、前記給水タンク6内の水位が上昇し、給水を停止する所定の水位になったことが前記水位センサ18によって検知されると、前記ポンプ7の稼動を停止して前記濾過膜部4への給水の供給を停止し、前記給水タンク6への給水を停止する。そして、前記給水タンク6への給水を停止しているときに、前記給水タンク6の水位が所定の水位まで下降したことが前記水位センサ18によって検知されると、前記ポンプ7を稼動させて前記濾過膜部4への給水を供給し、前記給水タンク6への給水を開始する。
【0056】
前記給水タンク6への給水を開始すると、前記濾過膜部4からの濃縮水の排水量を前記所定量よりも少なくして、回収率を通常よりも高くする水質回復運転を所定時間行う。これにより、前記濾過膜部4へ供給される給水の濃縮が進み、その不純物濃度が高くなる。この結果、透過水の腐食抑制成分濃度が高くなるとともに、前記ナノ濾過膜を透過するアルカリ成分の量も増えてその濃度が高くなり、透過水の水質が回復する。
【0057】
前記水質回復運転における濃縮水の排水量および運転時間の長さは、前記濾過膜部4へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復することができる量および長さに設定する。
【0058】
具体的には、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および運転時間の長さは、前記濾過膜部4へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復することができるように、前記各温度センサ8,8′,8″の検出値に基づいて設定する。すなわち、腐食抑制成分であるシリカの溶解度は、水温が高くなるほど高くなり、水温が低くなるほど低くなるので、前記各温度センサ8,8′,8″の検出値が高ければ、前記水質回復運転における濃縮水の排水量の減少量を多くして回収率をより高めにする。一方、前記各温度センサ8,8′,8″の検出値が低ければ、前記水質回復運転における濃縮水の排水量の減少量を少なくして高温時よりも回収率を低くする。また、前記各温度センサ8,8′,8″の検出値が高くなれば、前記水質回復運転の運転時間を短くし、一方で前記各温度センサ8,8′,8″の検出値が低くなれば、前記水質回復運転の運転時間を長くする。
【0059】
また、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および運転時間の長さは、前記濾過膜部4へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復することができるように、前記各水質センサ9,9′,9″の検出値に基づいて設定してもよい。すなわち、原水の水質は、地域や季節によって異なるので、前記各水質センサ9,9′,9″である電気伝導度センサの検出値が低くなれば、前記水質回復運転における濃縮水の排水量の減少量を多くして回収率をより高めにする。一方、前記各水質センサ9,9′,9″の検出値が高くなれば、前記水質回復運転における濃縮水の排水量の減少量を少なくして検出値が低いときよりも回収率を低くする。また、各水質センサ9,9′,9″の検出値が高くなれば、前記水質回復運転の運転時間を短くし、一方で前記各水質センサ9,9′,9″の検出値が低くなれば、前記水質回復運転の運転時間を長くする。
【0060】
また、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および運転時間の長さは、前記濾過膜部4へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復することができるように、前記濾過膜部4への給水の供給を停止していた時間に基づいて設定してもよい。すなわち、前記濾過膜部4への給水の供給を停止していた時間が長くなるほど、前記ナノ濾過膜付近において、給水供給側の不純物濃度が低くなる。したがって、前記濾過膜部4への給水を停止していた時間が長ければ、前記水質回復運転における濃縮水の排水量の減少量を多くして回収率をより高くする。一方、前記濾過膜部4への給水を停止していた時間が短ければ、前記水質回復運転における濃縮水の排水量の減少量を少なくして停止時間が長いときよりも回収率を低くする。また、前記濾過膜部4への給水を停止していた時間が長ければ、前記水質回復運転の運転時間を長くし、一方で前記濾過膜部4への給水を停止していた時間が短ければ、前記水質回復運転の運転時間を短くする。
【0061】
さらに、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および運転時間の長さは、前記濾過膜部4へ供給される給水を過度に濃縮しない範囲で濃縮させて、透過水の水質が所定の水質まで回復することができるように、前記各温度センサ8,8′,8″の検出値と、前記各水質センサ9,9′,9″の検出値と、前記濾過膜部4への給水の供給を停止していた時間とのうち、いずれか2つ以上に基づいて設定してもよい。
【0062】
以上のようにして濃縮水の排水量を設定すると、設定された排水量になるように、前記各排水弁15,16,17を開閉させる。
【0063】
以上、この発明を実施例により説明したが、この発明は、その趣旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明を実施するための膜濾過システムの構成の一例を示す概略的な説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 膜濾過システム
2 ボイラ(機器)
4 濾過膜部
6 給水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過膜部へ給水を供給して給水中の不純物を濾過し、濾過した後の前記濾過膜部からの透過水を、機器へ供給するための給水として給水タンク内に貯留する一方で、前記濾過膜部からの濃縮水の一部を所定の量で系外へ排水するとともに、残部を前記濾過膜部の上流側へ還流させる膜濾過システムの運転方法であって、
前記給水タンクへの給水を停止していた状態から給水を開始した後の所定時間、前記濾過膜部からの濃縮水の排水量を前記所定量よりも少なくする水質回復運転を行うことを特徴とする膜濾過システムの運転方法。
【請求項2】
前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温に基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法。
【請求項3】
前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質に基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法。
【請求項4】
前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さに基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法。
【請求項5】
前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水温と、前記濾過膜部への給水,前記濾過膜部からの透過水および前記濾過膜部からの濃縮水のいずれかの水質と、あるいは前記濾過膜部への給水の供給を停止していた時間の長さとのうち、いずれか2つ以上に基づいて、前記水質回復運転における濃縮水の排水量および/または運転時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の膜濾過システムの運転方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−175623(P2007−175623A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376911(P2005−376911)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】