説明

膜状成形体の製造方法

【課題】水蒸気、酸素、二酸化炭素、窒素等の各種ガスの透過を抑制できるフィルム等が得られるガスバリア用材料とその製造法の提供。
【解決手段】セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基板上又は基材上に膜状物を形成させる工程、前記膜状物に反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させる工程、その後、架橋反応させる工程を有している膜状成形体の製造方法であり、前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、膜状成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気、酸素、二酸化炭素、窒素等の各種ガスの透過を抑制できるフィルム等が得られるガスバリア用材料、それを用いたガスバリア性成形体とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の酸素、水蒸気等のガスバリア用材料は、主として化石資源から製造されているため、非生分解性であり、焼却処分せざるを得ない。そこで、再生産可能なバイオマスを原料として、生分解性のある酸素バリア材料を製造することが検討されている。
【0003】
特許文献1は、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明である。原料となる微結晶セルロース粉末は、平均粒径が100μm以下のものが好ましいことが記載され、実施例では、平均粒径が3μmと100μmのものが使用されているだけであり、後述の繊維の微細化処理についての記載は一切なく、塗布したコーティング剤層の緻密性や膜強度、基材との密着性に改善の余地がある。
【0004】
さらに特許文献1は、コーティング材に添加剤を加えることで、得られる塗膜の耐湿性が向上できることが記載されているが、開示されている方法は、コーティング液中に添加剤をブレンドしてから基材上に塗布する場合に限られている。
【0005】
特許文献2には微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果が示された用途については記載されていないし、耐湿化剤を添加する方法に関する記載もない。
【0006】
非特許文献1には、水蒸気バリア等のガスバリア性を発揮することについての開示は全くなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−348522号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bio MACROMOLECULES Volume7, Number6,2006年6月,Published by the American Chemical Society
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特に水蒸気バリア性に優れ、さらに酸素バリア性に優れたフィルム等を得ることができるガスバリア用材料、及びそれを用いたガスバリア性成形体とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
(1)セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基板上又は基材上に膜状物を形成させる工程、
前記膜状物に反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させる工程、
その後、架橋反応させる工程を有している膜状成形体の製造方法であり、
前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、膜状成形体の製造方法。
(2)セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基板上又は基材上に膜状物を形成させる工程、
その後、乾燥させる工程、
乾燥後の膜状物に反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させる工程、
その後、架橋反応させる工程を有している膜状成形体の製造方法であり、
前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、膜状成形体の製造方法。
(3)前記架橋剤水溶液を付着させる工程において、架橋剤水溶液の濃度が1〜30質量%である、請求項1又は2記載の膜状成形体の製造方法。
(4)前記架橋反応が30〜300℃で1〜300分間加熱する工程である、請求項1又は2記載の膜状成形体の製造方法。
(5)前記反応性官能基を有する架橋剤が、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基、ヒドラジド基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アゼチジニウム基、アルコキシド基、メチロール基、シラノール基、水酸基から選ばれる官能基であり、前記架橋剤が二つ以上の反応性官能基を含む化合物である、請求項1〜4のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
(6)前記反応性官能基を有する架橋剤が、分子量が500以下のものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
(7)前記反応性官能基を有する架橋剤が、分子量が500以下のものであり、アルデヒド基、カルボキシル基、ヒドラジド基を2つ以上含む化合物である、請求項1〜6のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
(8)前記架橋剤が、アジピン酸ジヒドラジド、グリオキサール、ブタンテトラカルボン酸、グルタルアルデヒド、クエン酸から選ばれるものである、請求項1〜7のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
【0011】
本発明でいうガスバリアとは、酸素、窒素、炭酸ガス、有機性蒸気、水蒸気等の各種ガス、リモネン、メントール等の香気物質に対する遮蔽機能のことをいう。本発明における膜状成形体は、前期の各種ガス全てに対してバリア性の向上を目的とするものだけでなく、ある特定のガスに対してのみバリア性を向上するものであっても良い。例えば酸素バリア性は低下するが、水蒸気バリア性が向上する膜状成形体は、水蒸気の透過を選択的に阻害するガスバリア材であり、本発明に含まれる。バリア性向上の対象となるガスは用途によって適宜選択される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、特に湿度環境下における水蒸気バリア性又は酸素バリア性、或いはその両方に優れたフィルム等のガスバリア性成形体の材料としてガスバリア用材料を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<製造原料となる特定のセルロース繊維の製造>
本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0014】
本発明で用いるセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。カルボキシル基含有量が0.1mmol/g未満であると、後述の繊維の微細化処理を行っても、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下に微細化されない。
【0015】
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
【0016】
本発明で用いるセルロース繊維は、平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものである。平均アスペクト比は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0017】
本発明で用いるセルロース繊維は、例えば、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
【0018】
原料となる天然繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0019】
次に、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0020】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
【0021】
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
【0022】
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
【0023】
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
【0024】
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
【0025】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0026】
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。この段階では反応物繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す精製法で行うことができる。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状の酸化セルロースを得ることができる。
【0027】
その後、該酸化セルロースを水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。それを超えると分散にきわめて高いエネルギーを必要とすることから好ましくない。
【0028】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができ、更に平均アスペクト比が10〜1,000、より好ましくは10〜500、さらに好ましくは100〜350のものであるセルロース繊維を得ることができる。
【0029】
その後、必要に応じて固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)又は必要に応じて乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状物であり、セルロース粒子を意味するものではない)を得ることができる。なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。
【0030】
このような酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのセルロースからなる、平均繊維径が200nm以下の微細化された高結晶性セルロース繊維を得ることができる。
【0031】
この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
【0032】
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0033】
上記の酸化処理、微細化処理によって得られたセルロース繊維は、下記の(I)、(II)、(III)の要件を満たすことができる。
(I):固形分0.1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中のセルロース繊維質量に対して、目開き16μmのガラスフィルターを通過できるセルロース繊維の質量分率が5%以上である、性能の良好なガスバリア用材料を得ること。
(II):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液中に、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体を含まないこと。
(III):固形分1質量%に希釈したセルロース繊維懸濁液の光透過率が、0.5%以上になること。
【0034】
要件(I):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分0.1質量%の懸濁液は、目開き16μmのガラスフィルターを通過させたときに、該ガラスフィルター通過前の懸濁液中に含まれる全セルロース繊維量に対して質量分率5%以上が該ガラスフィルターを通過できるものである(該ガラスフィルターを通過できる微細セルロース繊維の質量分率を微細セルロース繊維含有率とする)。ガスバリア性の観点から、微細セルロース繊維含有率は、好ましくは30%以上、より好ましくは90%以上である。
【0035】
要件(II):上記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%の懸濁液は、原料として用いた天然繊維が微細化されており、粒子径が1μm以上のセルロースの粒状体は含まないものが好ましい。ここで、粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。この粒状体の有無の判定は、後述の光学顕微鏡による観察で行った。
【0036】
要件(III):前記の酸化処理、微細化処理によって得られた固形分1質量%のセルロース繊維懸濁液は、光透過率が0.5%以上であることが好ましく、ガスバリア性の観点から、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0037】
本発明のセルロース繊維懸濁液は、目的に応じた成形ができるように固形分濃度を調整すればよく、例えば、固形分濃度は0.05〜30質量%の範囲にすることができる。セルロース繊維懸濁液に含まれていてもよい他の成分としては、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。
【0038】
<基板上又は基材上に膜状物を形成させる工程>
本工程は、上記方法で得られたセルロース繊維から、それを含む懸濁液を調製し、或いは上記製造方法によりセルロース繊維を含む懸濁液を得た後、目的とする膜状成形体を形成させる工程である。
【0039】
本工程では、例えば、
(i)セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基板上に膜状物を形成させる工程と、
(ii)セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基材上に膜状物を形成させ、複合フィルムを得る工程、
のいずれかの方法を適用することができる。
【0040】
〔(i)の成形方法〕
ガラス、金属等の硬質表面等の基板上に、粘度が10〜5000mPa・s程度のセルロース繊維懸濁液を流延塗布して膜状成形体を形成させる。この方法では、セルロース繊維懸濁液に含まれるセルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比及びガスバリア性成形体の厚みを制御することにより、仕様(ハイバリア性、透明性など)に応じた膜状成形体を得ることができる。
【0041】
〔(ii)の成形方法〕
基材の一面又は両面に対して、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、好ましくは塗布法又は噴霧法により、セルロース繊維懸濁液を付着させ、膜状成形体を形成させる。
【0042】
また、基材に対して、予め(I)の成形方法等で成形したセルロース繊維懸濁液からなるフィルム状の成形体を貼り合わせて積層する方法を適用することができる。貼り合わせる方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等の公知の方法を適用できる。
【0043】
セルロース繊維からなる層の厚みは、用途に応じて適宜設定することができるが、ガスバリア材として用いる場合、20〜900nmが好ましく、より好ましくは50〜700nm、更に好ましくは100〜500nmである。
【0044】
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができ、それらの中でも、紙、板紙等の植物由来材料、生分解性プラスチック等の生分解性材料又はバイオマス由来材料にすることが好ましい。基材となる成形体は、同一又は異なる材料(例えば接着性やぬれ性向上剤)の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
【0045】
基材となるプラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、セルロース等のセロハン、三酢酸セルロース(TAC)等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
【0046】
基材となる成形体の厚みは特に制限されるものではなく、用途に応じた強度が得られるように適宜選択すればよく、例えば、1〜1000μmの範囲にすることができる。
【0047】
<乾燥させる工程>
前工程にて形成された膜状物に対して、そのまま架橋剤水溶液を付着させる工程に移行してもよいが、その前に乾燥工程を付加することもできる。
【0048】
乾燥工程は、膜状成形体を、室温(20〜25℃程度)で自然乾燥又は送風乾燥するか、加熱乾燥する工程である。
【0049】
乾燥の程度は、例えば、上記の(I)の成形方法を適用して膜状物を形成させた場合には、基板からフィルム状成形体を引き剥がすことができる程度であり(なお、架橋反応工程が終了するまでは、基板から引き剥がさなくてもよい)、上記の(II)の成形方法を適用して膜状物を形成させた場合には、軽く外力を加えた場合(例えば、指でつまんだ場合)基材上のフィルム状成形体がしわになったり、破れたりしない程度である。
【0050】
<未乾燥(湿潤状態)又は乾燥後の膜状物に架橋剤水溶液を付着させる工程>
膜状物に反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させる方法としては、
(a)膜状物の表面に架橋剤水溶液をスプレーする方法、
(b)膜状物の表面に架橋剤水溶液を塗布する方法、
(c)膜状物の表面に架橋剤水溶液を流延する方法、
(d)基板又は基材ごと、膜状物を架橋剤水溶液中に浸漬する方法、
等を適用することができる。
【0051】
本工程では、膜状物に架橋剤水溶液を付着させた後、架橋剤を膜状物内部に浸透させるため、室温にてしばらく放置することができ、必要に応じて、加圧雰囲気中にて放置することができる。なお、未乾燥状態の膜状物に架橋剤水溶液を塗布した場合には、膜状物内に架橋剤が浸透し易くなり、乾燥状態の膜状物に架橋剤水溶液を塗布した場合には、架橋剤は膜状物の表面ないし表面近傍に留まりやすくなる。
【0052】
あらかじめ架橋剤を添加したセルロース繊維懸濁液を用いて、基材上に膜状物を形成させる方法を適用した場合には、架橋剤によっては(例えば、ブタンテトラカルボン酸)凝集を生じて、製膜原料中に均一に混合されなくなる結果、架橋反応が不均一になり、塗膜を形成できるが、目的とする膜状成形体が得られない場合がある。しかし、本工程の方法を適用することにより、架橋剤の種類や供給量に拘わらず前記問題の発生を防止することができ、目的とする膜状成形体を得ることができる。
【0053】
(a)の方法を適用する場合には、例えば膜状物の面積が500cm2であるとき、濃度1〜30質量%の架橋剤水溶液0.1〜10mlの全部を、膜状物の表面にスプレーする方法を適用することができる。
【0054】
上記の酸化したセルロース繊維表面は水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基を有しており、これらと反応できる官能基を有した架橋剤によってセルロース繊維間に架橋構造を形成することができる。
【0055】
本工程で用いる架橋剤としては、反応性官能基として、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基、ヒドラジド基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アゼチジニウム基、アルコキシド基、メチロール基、シラノール基、水酸基の官能基を2つ以上含む化合物である。架橋剤は、前記官能基から選ばれる同じ官能基を2つ以上含んでいてもよいし、前記官能基から選ばれる異なった官能基を2つ以上含んでいてもよいが、同じ官能基を2つ以上含んでいるものが好ましい。本工程で用いる架橋剤としては、例えばポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(アゼチジニウム基)、ポリアクリル酸(カルボキシル基)、ポリイソシアネート(イソシアネート基)などが挙げられる。
【0056】
本工程で用いる架橋剤としては、膜状物に浸透させやすいため、分子量が小さいものの方が好ましく、例えば、分子量が500以下のものが好ましく、250以下のものがより好ましい。反応性官能基としては、アルデヒド基、カルボキシル基、ヒドラジド基を2つ以上の含む化合物が好ましい。
【0057】
好ましい架橋剤としては、アジピン酸ジヒドラジド(分子量174)、グリオキサール(エタンジアール)(分子量58)、ブタンテトラカルボン酸(分子量234)、グルタルアルデヒド(1,5-ペンタンジアール)(分子量100)、クエン酸(分子量192)を挙げることができる。なお、分子量が500以下のカルボジイミド基を有する架橋剤は、酸素バリア性を著しく低下させるため、本発明で用いる架橋剤としては好ましくない。
【0058】
架橋剤水溶液を付着後、常温(20〜25℃)で2時間以上乾燥させて膜状成形体が得られる。
【0059】
膜状成形体中の架橋剤の付着量は、セルロース繊維や架橋剤の官能基量や膜状物への架橋剤の浸透性によって適宜選択されるが、同面積あたりのセルロース固形分に対して、0.1〜200質量%が好ましく、10〜100質量%がより好ましい。架橋剤の付着量は、付着後の質量変化の他、熱量測定や赤外線吸収スペクトルなどから定性、定量的に分析できる。
【0060】
<架橋反応させる工程>
本工程では、必要に応じて加熱によりセルロース繊維間に架橋反応を行わせるが、加熱条件は、使用した架橋剤の種類や付着量に応じて、適宜最適な条件を選択することが好ましい。
【0061】
例えば、アジピン酸ジヒドラジド、グリオキザール、ブタンテトラカルボン酸、グルタルアルデヒド、クエン酸のような低分子量の架橋剤を用いた場合には、30〜300℃、より好ましくは60〜200℃、さらに好ましくは100〜160℃で、1〜300分間、より好ましくは5〜60分間加熱することができる。
【0062】
セルロース繊維間に反応性官能基を有する架橋剤により架橋構造が形成されることによって、セルロース繊維からなる膜状成形体は高いガスバリア性を示すことができる。
【0063】
本製造方法で得られる膜状成形体は、架橋構造を形成することで耐湿化(強度やバリア性)しているので、ガスバリア材の他にも、水浄化用分離膜やアルコール分離膜、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、ディスプレイ用フレキシブル透明基盤、燃料電池用セパレーター、結露防止シート、反射防止シート、紫外線遮蔽シート、赤外線遮蔽シート等として用いることもできる。
【0064】
本発明の製造方法では、架橋反応後において、必要に応じて、更に防湿層を形成して、より防湿性を高めることもできる。
【0065】
防湿層を積層する方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等で貼り合わせる方法や、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法を適用できる。ここで、高い防湿性能を有する基材や防湿層は、ポリオレフィンやポリエステル等のプラスチック、これらに無機酸化物(酸化アルミや酸化ケイ素等)を蒸着したもの、これらを板紙に積層したもの、ワックスやワックスを紙にコートしたもの等を用いることができる。高い防湿性能を有する基材や防湿層は、水蒸気透過度が0.1〜600g/m2・day、好ましくは0.1〜300g/m2・day、より好ましくは0.1〜100g/m2・dayのものを用いることが好ましい。前記の高い防湿性能を有する基材や防湿層を有する成形体にすることで、ガスバリア層への水蒸気の溶解、拡散を抑制することができるため、ガスバリア性をより一層高めることができる。
【実施例】
【0066】
(1)セルロース繊維の平均繊維径、平均アスペクト比
セルロース繊維の平均繊維径は、0.0001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さから平均繊維径を求めた。
【0067】
平均アスペクト比は、セルロース繊維を水で希釈した希薄懸濁液(0.005〜0.04質量%)の粘度から算出した。粘度の測定には、レオメーター(MCR300、DG42(二重円筒)、PHYSICA社製)を用いて、20℃で測定した。セルロース繊維の質量濃度とセルロース繊維懸濁液の水に対する比粘度の関係から、次式でセルロース繊維のアスペクト比を逆算し、セルロース繊維の平均アスペクト比とした。
【0068】
【数1】

【0069】
(The Theory of Polymer Dynamics, M.DOI and D.F.EDWARDS, CLARENDON PRESS・OXFORD,1986,P312に記載の剛直棒状分子の粘度式(8.138)を利用した(ここでは、剛直棒状分子=セルロース繊維とした)。(8.138)式と Lb2×ρ0=M/NAの関係から数式1が導出される。ここで、ηspは比粘度、πは円周率、lnは自然対数、Pはアスペクト比(L/b)、γ=0.8、ρsは分散媒の密度(kg/m3)、ρ0はセルロース結晶の密度(kg/m3)、Cはセルロースの質量濃度(C=ρ/ρs)、Lは繊維長、bは繊維幅(セルロース繊維断面は正方形とする)、ρはセルロース繊維の濃度(kg/m3)、Mは分子量、NAはアボガドロ数を表す)。
【0070】
(2)セルロース繊維のカルボキシル基含有量(mmol/g)
酸化したパルプの絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
【0071】
天然セルロース繊維は、セルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
【0072】
(3)光透過率
分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)を用い、濃度1質量%の懸濁液の波長660nm、光路長1cmにおける光透過率(%)を測定した。
【0073】
(4)セルロース繊維懸濁液中の微細セルロース繊維の質量分率(微細セルロース繊維含有率)(%)
セルロース繊維懸濁液を0.1質量%に調製して、その固形分濃度を測定した。続いて、そのセルロース繊維懸濁液を目開き16μmのガラスフィルター(25G P16,SHIBATA社製)で吸引ろ過した後、ろ液の固形分濃度を測定した。ろ液の固形分濃度(C1)をろ過前の懸濁液の固形分濃度(C2)で除した(C1/C2)値を微細セルロース繊維含有率(%)として算出した。
【0074】
(5)懸濁液の観察
固形分1質量%に希釈した懸濁液をスライドガラス上に1滴滴下し、カバーガラスをのせて観察試料とした。この観察試料の任意の5箇所を光学顕微鏡(ECLIPSE E600 POL NIKON社製)を用いて倍率400倍で観察し、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体の有無を確認した。粒状体とは、略球状であり、その形状を平面に投影した投影形状を囲む長方形の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が最大でも3以下であるものとする。粒状体の粒子径は、長軸と短軸の長さの相加平均値とする。このときクロスニコル観察によって、より明瞭に確認することもできる。
【0075】
(6)水蒸気透過度(g/m2・day)
JIS Z0208に基づき、カップ法を用いて、40℃、90%RHの環境下の条件で測定した。
(7)酸素透過度(等圧法)(cm3/m2・day・Pa)
JIS K7126−2 付属書Aの測定法に準拠して、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(型式ML&SL、MODERN CONTROL社製)を用い、23℃、湿度50%RHの条件で測定した。具体的には、23℃、湿度50%RHの酸素ガス、23℃、湿度50%の窒素ガス(キャリアガス)環境下で測定を行った。なお、酸素透過度は膜状成形体を形成後、23℃、50%RHの環境下に24時間以上放置したものを測定した。
【0076】
実施例1〜3
〔セルロース繊維懸濁液の調製〕
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
【0077】
(2)製造手順
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。
【0078】
次に、120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、脱水処理を行った。その後、酸化パルプ3.9gとイオン交換水296.1gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)にて120分間攪拌することにより、繊維の微細化処理を行い、懸濁液を得た。得られたセルロース繊維懸濁液中の固形分濃度は、1.3質量%であった。セルロース繊維は、平均繊維径3.1nm、平均アスペクト比240、カルボキシル基量1.2mmol/gであり、粒子径が1μm以上のセルロース粒状体は存在しなかった。またセルロース繊維懸濁液の光透過率は97.1%で、微細セルロース繊維含有率は90.9%であった。
【0079】
〔膜状物の形成工程〕
前工程で得られたセルロース繊維懸濁液を使用し、基材シートとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み25μm)の片側面上に、前工程で得られたセルロース繊維懸濁液をバーコーター(#50)で塗布した。
【0080】
〔架橋剤水溶液の付着工程〕
表1に示す濃度のアジピン酸ジヒドラジド水溶液を、前工程で得られた膜状物に対して、市販の霧吹きにより噴霧した。前工程で得られた膜状物500cm2あたり、架橋剤が約0.06g(乾燥重量)含まれるように噴霧した。実施例1〜2はセルロース繊維層が湿潤状態のまま(塗布後3分以内)、実施例3は常温(23℃)で120分乾燥後に架橋剤水溶液を噴霧した。
【0081】
〔架橋工程〕
架橋剤水溶液の付着後、常温(23℃)で120分乾燥した。その後、実施例2,3は恒温槽で110℃、30分間加熱処理後、放熱して膜状成形体を得た。得られたセルロース繊維層の膜厚は800nmであった。これは、セルロース繊維の比重を1.5として、湿潤膜厚とセルロース繊維懸濁液の固形分濃度から算出した値である。この値は原子間力顕微鏡で測定した膜厚とよく一致していた。水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0082】
実施例4〜6
実施例1〜3と同様にして、膜状物を形成後、表1に示す条件でグリオキサール水溶液の付着、加熱工程を行い、膜状成形体を得た。水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0083】
実施例7〜9
実施例1〜3と同様にして、膜状物を形成後、表1に示す条件でブタンテトラカルボン酸水溶液の付着、加熱工程を行い、膜状成形体を得た。水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0084】
実施例10〜13
実施例1〜2と同様にして、膜状物を形成後、セルロース繊維層が湿潤状態のまま(3分以内)、表1に示す条件で架橋剤水溶液の付着、加熱工程を行い、膜状成形体を得た。得られた膜状成形体の水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0085】
比較例1
基材として用いたPETシート(膜厚25μm)の水蒸気透過度の測定結果を表2に示す。
【0086】
比較例2
実施例1と同様にして、膜状物を形成後、架橋剤水溶液を付着させずに、常温(23℃)で120分間乾燥した膜状成形体の水蒸気透過度の測定結果を表2に示す。
【0087】
比較例3
実施例1と同様にして得られたセルロース繊維懸濁液を100g採取し、架橋剤として、5質量%に希釈されたBTC水溶液を1.3g(セルロース繊維固形分100質量部に対するBTC量が5質量部)加えてよく攪拌した。実施例1と同様にPETシートに塗布したが、凝集を生じてしまい、均一な塗布面ができなかった。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
CSNF:実施例で製造したセルロース繊維
ADH:アジピン酸ジヒドラジド、大塚化学(株)社製(分子量174)
Gly:グリオキサール,和光純薬工業(株)製(分子量58)
BTC:ブタンテトラカルボン酸,和光純薬工業(株)製(分子量234)
APA-P280:アクリルアミド−アクリル酸ヒドラジド共重合体,大塚化学(株)製(分子量約2万、メーカーカタログ参照)
PAE:製品名WS4030、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、星光PMC(株)製(分子量 数十万)
表1、2に示す通り、架橋剤水溶液を付着した実施例1〜11は比較例1〜3に比べて水蒸気バリア性が向上した。これは付着させた架橋剤が、微細セルロース繊維間に浸透しながら架橋構造が形成していることを示している。特に低分子量架橋剤を塗布した実施例1〜9では水蒸気透過度が20g/m2・dayを下回った。樹脂タイプの架橋剤水溶液を付着した実施例10〜11にくらべて低分子量架橋剤の塗布が水蒸気バリア性の観点から良好なのは、高分子量の架橋剤にくらべて微細セルロース繊維間への浸透性が高く、架橋構造が形成されやすいためと考えられる。
【0091】
実施例3、6、9は、塗布したセルロース懸濁液を乾燥した後に架橋剤水溶液を付着させた膜状成形体である。表1から明らかなように、実施例3、6、9でも水蒸気バリア性の向上が確認できた。付着させた架橋剤が水溶液であるため、乾燥後のセルロース繊維層でも水により膨潤され、架橋剤成分が浸透していることを示している。
【0092】
実施例1〜9は、あらかじめ架橋剤を添加したセルロース繊維懸濁液を基材に塗布して得られた比較例3にくらべて、明らかに高い水蒸気バリア性を示している。特に比較例3ではセルロース繊維懸濁液が凝集して、均一な塗膜面が塗布できない。このように、架橋の反応性の面で好ましくても、セルロース懸濁液に添加した場合に塗工可能な流動性を維持できないような種類、添加量の架橋剤を膜状成形体へ供給することができる。このことからもセルロース繊維懸濁液から膜状成形体を形成後に架橋剤を付着させる製造工程が、水蒸気バリア性を有するフィルム等の製造方法として好適であることが分かる。
【0093】
実施例14
架橋工程として、恒温槽で150℃、30分間加熱処理した以外は、実施例4と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す。
【0094】
実施例15
架橋剤としてグルタルアルデヒド(和光純薬工業(株)製)を用いた以外は実施例14と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す
【0095】
実施例16
架橋剤としてADH(アジピン酸ジヒドラジド、大塚化学(株)社製)を用いた以外は実施例14と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す
【0096】
実施例17
架橋剤としてBTC(ブタンテトラカルボン酸,和光純薬工業(株)製)を用いた以外は実施例14と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す
【0097】
実施例18
架橋剤としてクエン酸(和光純薬工業(株))社製)を用いた以外は実施例14と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す
【0098】
実施例19
架橋剤としてAPA-P280(アクリルアミド−アクリル酸ヒドラジド共重合体,大塚化学(株)製)を用いた以外は実施例14と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す
【0099】
実施例20
架橋剤としてE−02(ポリカルボジイミド、日清紡(株)社製)を用いた以外は実施例14と同様にして、膜状成形体を得た。水蒸気透過度、酸素透過度の測定結果を表3に示す
【0100】
【表3】

実施例14〜20は、反応性架橋剤を付着させていない比較例2に比べて、酸素バリア性、水蒸気バリア性が向上している。特に架橋剤が低分子量である実施例14〜18において高いバリア性の向上効果が見られた。水蒸気バリア性に関しては、反応性架橋剤の官能基がカルボキシル基である実施例17、18及びアルデヒド基である実施例14において大幅な向上が見られた。酸素バリア性に関しては、反応性架橋剤の官能基がカルボキシル基である実施例17、18及びアルデヒド基である実施例14、ヒドラジド基である実施例16において大幅な向上が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基板上又は基材上に膜状物を形成させる工程、
前記膜状物に反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させる工程、
その後、架橋反応させる工程を有している膜状成形体の製造方法であり、
前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、膜状成形体の製造方法。
【請求項2】
セルロース繊維を含む懸濁液を用いて、基板上又は基材上に膜状物を形成させる工程、
その後、乾燥させる工程、
乾燥後の膜状物に反応性官能基を有する架橋剤水溶液を付着させる工程、
その後、架橋反応させる工程を有している膜状成形体の製造方法であり、
前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gのものである、膜状成形体の製造方法。
【請求項3】
前記架橋剤水溶液を付着させる工程において、架橋剤水溶液の濃度が1〜30質量%である、請求項1又は2記載の膜状成形体の製造方法。
【請求項4】
前記架橋反応が、30〜300℃で1〜300分間加熱する工程である、請求項1又は2記載の膜状成形体の製造方法。
【請求項5】
前記反応性官能基を有する架橋剤が、エポキシ基、アルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基、イソシアネート基、ヒドラジド基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アゼチジニウム基、アルコキシド基、メチロール基、シラノール基、水酸基から選ばれる官能基であり、前記架橋剤が二つ以上の反応性官能基を含む化合物である、請求項1〜4のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
【請求項6】
前記反応性官能基を有する架橋剤が、分子量が500以下のものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
【請求項7】
前記反応性官能基を有する架橋剤が、分子量が500以下のものであり、アルデヒド基、カルボキシル基、ヒドラジド基を2つ以上含む化合物である、請求項1〜6のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤が、アジピン酸ジヒドラジド、グリオキサール、ブタンテトラカルボン酸、グルタルアルデヒド、クエン酸から選ばれるものである、請求項1〜6のいずれか1項記載の膜状成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−167411(P2010−167411A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291855(P2009−291855)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク先端部材実用化研究開発」委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】