説明

膜結合前駆タンパク質の構造およびプロセシングを調節する物質の同定のための方法

本発明は、目的の膜タンパク質の切断を変化させ得る分子構造の大きいライブラリーからの物質のスクリーニングと同定の方法を提供する。膜タンパク質の切断を調節する本発明の方法により同定される物質は、炎症、糖尿病、ガン、アルツハイマー病、パーキンソン病等の疾患の治療と予防に用いることができる。本方法は、セクレターゼの切断の効率が調節されるように膜タンパク質の構造の構造的変化を引き起こす目的の膜タンパク質に結合するエフェクター物質を選択し、同定する。さらに、本方法は膜タンパク質プロセシングの条件に類似または同一の生理条件をそなえるインビボシステムで実施される。膜タンパク質のセクレターゼ切断の量を減少または増加させる能力に関して、物質が選択され得る。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願)
本願は、2002年11月4日出願の米国仮出願第60/424,030号の優先権を主張し、その全体が参考として本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の背景)
膜への輸送中、または細胞表面における細胞膜タンパク質の酵素作用による転換またはプロセシングは比較的共通の存在であるように思える。例えば、タイプIとタイプIIの両トポロジーの多数の膜タンパク質は循環可溶形としても存在する。これらの可溶形は膜結合前駆体タンパク質からタンパク質分解によりしばしば得られる。これらのプロセスに関与する酵素群は集合的に「セクレターゼ」または「シェダーゼ」として知られるようになった。
【0003】
典型的には、膜結合前駆体タンパク質の切断は細胞外の膜表面近くで起こり、可溶形のタンパク質を細胞から遊離させる。通常、この分泌は、タンパク質上の膜アンカーによるプロテアーゼまたはホスホリパーゼのいずれかをともなう。この機構により分泌されるタンパク質の具体例として、アンギオテンシン転換酵素(ACE;RamchandranおよびSen,Biochemistry 34:12645−12652,1995)、βアミロイド前駆体タンパク質(APP;Selkoe,Trends Cell Biol.8:447−453,1998)および他のβアミロイド、形質転換成長因子α(TGF−α,Massague and Pandiella,Annu.Rev.Biochem.62:515−541,1993)、腫瘍壊死因子α(TNF−α,Blackら、Nature 385:729−733,1997)、腫瘍壊死因子レセプターIおよびII(TNFR−I;Mullbergら、J.Immunol.155:5198−5205,1995,and TNFR−II;Porteu and Nathan,J.Exp.Med.172:599−607,1990)、Fasリガンド(FasL;Tanakaら、Nature Med.4:31−36,1998)、インターロイキン6レセプター(IL6R;Mullbergら、J.Immunol.152:4958−4968,1994)等が挙げられる。膜タンパク質プロセシングの産物であるこれらの多くのタンパク質は、とりわけ関節炎、ガン、糖尿病、高血圧、アルツハイマー病等の多様な病状に関連する。
【0004】
治療剤のために、幾つかのプロセシング酵素の調節が現在調べられつつある。特に、病状に関連するプロセシング産物を作るセクレターゼの活性を調節する分子には大きな興味がもたれている。例えば、腫瘍壊死因子α転換酵素(TACE、ADAM17、CD156q)は「ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ」(“ isintegrin nd etalloprotease”)、すなわちADAM科の一員である。TACE発現は主に構成的であるが、酵素の表面プールは細胞活性化後にダウン調節されると思われる。TACEによる切断は、炎症に関連した可溶形の腫瘍壊死因子α(TNF−α)を作る。細胞アクチベーターは切断速度を増加し、脱落するTNFαの量を増加する。TACEの阻害剤は炎症性疾患を治療するために現在模索されている。
【0005】
別の例において、アルツハイマー病の神経病理学は細胞外タンパク質析出物の脳中の蓄積により特徴付けられる。これらの析出物としてアミロイド含有プラークや血管壁中のアミロイドが挙げられる。アミロイドプラークの主要成分はβアミロイド(Aβ)と呼ばれる39−42アミノ酸残基自己凝集ペプチドである。特に、家族性形のアルツハイマー病におけるアミロイド前駆体タンパク質(APP)およびプレセニリン(PS)遺伝子変異の同定後にこの疾患を引き起こす機構の理解に大きな進展がなされている。これらの変異は脳中のAβペプチドレベルの増加を導く(Selkoe,Physiological Rev 81:741−766,2001)。
【0006】
Aβペプチドは体内のほとんどの組織にわたって発現する経膜タンパク質であるAPPのタンパク質分解フラグメントである。図2は、APPの構造、得られたタンパク質分解フラグメントおよびこれらフラグメントを作ることが知られている各プロセシング酵素を示す。APPタンパク質は、αセクレターゼ、βセクレターゼおよびγセクレターゼを含む少なくとも三つの異なるプロテアーゼによるプロセシングを受ける。アミノ末端切断に関与するβセクレターゼは最近になって同定され、クローニングされた(Sinha,ら、Nature 402:537−540,1999)。このプロテアーゼはAsp−IとGlu−IIから始まるAβを優先的に放出する。APPのカルボキシル末端を放出するγセクレターゼ切断は、APPの予測された経膜領域において明らかに起こる。γセクレターゼは複数のタンパク質(その中で最も重要なものはプレセニリン1)の複合体からなる(Steiner,Rev.Mol.Cell.Biol.1:217−224,2000)。
【0007】
量的により少なく、さらに疎水性であるAβ種であるAβ1−42はアルツハイマー病に見られる初期の病理学的変化に最近関連付けられた。家族性形のアルツハイマー病に関連する変異はAβの細胞生産を高めることが示された。よって、Aβペプチドはアルツハイマー病を導く病理学的プロセスの鍵分子であり、ここでAβはプロトフィブリル、フィブリル、続いてアミロイドプラークを形成する。Aβの増加した生産や減少したクリアランスはアミロイドプラーク形成とその後のニューロン変質をもたらすプロセスを開始させる。最近の研究は、Aβ(プロトフィブリル)の集合体はニューロン死に寄与する毒性のある本体であることを示唆した(Gotzら、Science 293:1491−1495,2001)。よって、アルツハイマー患者の脳中のAβペプチドを減少させるいかなる治療も顕著な臨床的価値を有するだろう。図1に、アミロイドカスケードと呼ばれるプロセスにおけるこの疾患の現在の知識を要約する。
【0008】
多様な研究プログラムは、疾患に関連したAβ等の膜タンパク質の処理産物の存在の減少をめざす医薬を開発しつつある。これらのプログラムはプロセシング酵素の活性を増加または減少させることにより機能する分子や物質に主に注目するものである。例えば、βセクレターゼまたはγセクレターゼの阻害剤を同定することに多くの努力が集中している。しかしながら、ニューロン中、APP分子のわずかに5%のみがAβ発生経路を通るだけで、APP分子の95%がAβ形成を阻害する非アミロイド性経路を経てαセクレターゼによるプロセシングを受ける(Lammishら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:3922−3927,1999)。もう一つの目的はαセクレターゼ部位での切断レベルを高めることによりAβの生産を正常化することである。これらのアプローチはAβ等の目的の処理産物の形成を減少させるかもしれないが、他の重要な生物学的分子形成へのプロセシング酵素の関与のために他の健康に関連した問題を起こす危険度をも増加させるかもしれない。例えば、αセクレターゼの活性を高めることは豊富なAβの量を減少させる。しかし、αセクレターゼも、血圧の調節剤であるアンギオテンシン転換酵素(ACE)の形成に関与する(Parvathyら、Biochemistry 37:1680−1685,1998)。
【0009】
他の重要な代謝経路に影響を及ぼす危険の少ない一つの方法は、基質膜タンパク質の構造のわずかな変化により基質膜タンパク質の酵素プロセシングを変化させることで目的のプロセシング産物の量を調節することである。例えば、αセクレターゼ切断部位の近くに位置するAPP変異の研究は、局所的αヘリシティが、おそらくエンドペプチダーゼのこの構造との直接の相互作用によって切断有効性に寄与していることを示唆する(Sisodia,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6075−6079,1992)。同様に、スエーデン性変異と同定されたAPPのアミノ酸配列の変化(Mullanら、Nature Genetics 1:345−347(1992))は、APPの構造を変化させ、β切断部位でのAPPのプロセシングを増強する。
【0010】
さらに具体的には、タンパク質の構造を修飾し、よってタンパク質の活性または基質として作用するその能力を調節する分子(エフェクター)の同定は、タンパク質の固有の構造的性質や、それが生物学的システムにおいて他の構造物とどのように相互作用するのかに依存する。タンパク質機能はタンパク質のアミノ酸組成ならびにアミノ酸配列により決定される三次元構造に依存する。タンパク質は、生物学的システム中で、その構造に基づいて他のタンパク質や構造物および他の相互作用分子の構造による作用を受ける。タンパク質の構造は、タンパク質の活性または他のタンパク質による作用の受けやすさを増加または減少させることのできる他の分子との相互作用(アロステリック相互作用)によって変化させることができる。
【0011】
特定の例として、ペプチドは、タンパク質と相互作用してその構造を変化させ、よってタンパク質の活性またはこのタンパク質の他のタンパク質による作用の受けやすさを変化させることができる構造物である。非常に大きい構造的種々のライブラリーは組換え法により容易に作られ、好ましい表現型挙動を同定する操作により容易にスクリーニングできるので、エフェクターとしてのペプチドは魅力がある。これらのペプチドエフェクターは所望の構造変化を引き起こす構造の効果性を証明するために用いることができる。ペプチド構造物を模型化合物構造物として用いて、例えば、生物学的に安定で、容易に血液脳関門を通過し、経口処方に好適なペプチド擬似構造を設計、開発することができる。
【0012】
タンパク質に対する特異的な結合により細胞プロセスに影響を及ぼすペプチド(以降、「ペプチドエフェクター」ともいう)を同定するためにスクリーニング法が開発された。ランダムペプチドライブラリーの有用性は、構造的に多様なペプチドの大きなライブラリーを作り、スクリーニングするために開発された多様な方法により実証されている。化学的手法に加えて、そのような方法として、生物学的発生に依存するシステム(例えば、Scott and Smith,Science 249:386−390,1990(ファージディスプレイ);Kawasaki,US Patent 5,658,754(インビトロリボソームディスプレイ);Cullら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865−1869,1992(lacレプレッサーのC末端に発現したランダムペプチド配列);Murrayら、Biotechnology 13:366−372,1995(大腸菌のフラジェリン上に発現したチオレドキシンランダムペプチドライブラリー);Brown,Nat.Biotechnol.15:269−272,1997(細菌の表面に発現した繰返しポリペプチド);Gilchrist and Hamm,Methods Enzymol.315:388−404,2000(ペプチド・オン・プラスミド);Wilsonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:3750−3755,2001(mRNAディスプレイ);Kjaergaardら、Appl.Environ.Microbiol.67:5467−5473,2001(フィンブリア表現ペプチドライブラリー)が挙げられる。つい最近、Rigel社は哺乳類細胞の表現型を変化させるペプチドを同定するランダムペプチドライブラリーのインビボ導入の有用性を示した(例えば、Kinsellaら、J.Biol.Chem.277:37512−37518,2002を参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、現在の方法は、細胞分泌経路において膜タンパク質と相互作用するペプチドエフェクターの同定が不可能なので、分泌経路を経る移動中に膜タンパク質のプロセシングに影響を及ぼすペプチドの同定には適さない。一部の方法が、細胞質内の小さいペプチドとポリペプチドを細胞内でスクリーニングするために開発されたが(例えば、Fields and Song,Nature 340:245−46,1989;Cullら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865−69,1992;Luら、Biotechnology(NY)13:366−72,1995;国際特許公開WO99/24617;Normanら、Science 285:591−95,1999;国際特許公開WO98/39483を参照)、膜タンパク質とそれらのプロセシング酵素、すなわちAPPとAPPプロセシング酵素は、ほとんどの他の細胞質ゾル分子または細胞小器官と混合しない区画に隔離しえる。この理由のために、現在の方法は膜タンパク質の本来の分泌環境を保持しないだろう。
【0014】
さらに、現在の方法には、細胞外空間内で作用する治療に有望なペプチドの効率的な同定を限定する多様な欠点がある。したがって、現在の方法は細胞表面上のプロセシングまたは膜タンパク質に影響を及ぼすペプチドの効率的な同定には適さない。従来のペプチドライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリー、コンビナトリアルライブラリー、ペプチド擬似ライブラリーおよび一ビーズ一構造コンビナトリアルライブラリー)を用いるほとんどのスクリーニング法は標的に対する結合をインビトロでのみ示す。正常な構造、活性および必要な調節分子は、細胞外タンパク質がそれらの本来の細胞外環境から精製または除去されたときには失われる。よって、これらの方法は対応する生理学的効果を有する細胞外標的にインビボで結合するペプチドをしばしば同定することができない。
【0015】
さらに、現在のインビトロスクリーニング法は、タンパク質または他の巨大分子がそれらの本来の環境から精製または除去されたときに、正常な構造、活性および必要な調節分子が失いうる欠点もある。普通であれば先天的巨大分子のエフェクター分子であるペプチドは、構造的に変化した標的には結合しないこともある。非先天的標的は、先天的標的よりも、生理学的に無関係なペプチドに非特異的に結合しやすい。さらに、精製された標的分子が先天的構造と活性を保持していても、アッセイ条件は、インビボの局所的な細胞外環境を代表するものではないので、既存のスクリーニング法は不十分または誤った結果を生むことがある。局所的な環境は、ペプチドに対する標的分子の近づきやすさ、またはペプチド結合の特異性または親和力に顕著に影響を及ぼす。
【0016】
また、従来のスクリーニング法は典型的には、プラスチック、ガラスまたは高分子マトリックス等の非生理学的表面に付着する標的分子を利用する。非生理学的表面に対するこの結合は、タンパク質または他の巨大標的分子と特異的に相互作用するペプチドの同定に障害をもたらす。非生理学的表面に付着する多くの巨大標的分子はこの表面上で変性する。標的表面の本来の結合部位は失われ、標的表面に普通示されない他の部位が暴露され、ペプチドとは無関係な部位を露出する。この問題は標的に非特異的に結合するだけのペプチドの同定をもたらしうる。付着の態様は、標的分子が表面上で露出する程度を偏らせ、潜在的な結合部位のわずかに一組または限定された組がペプチドに露出される空間的配向をもたらしうる。これが起こると、標的上の機能的に重要なペプチド結合部位がスクリーニング時に接近しえない。もう一つの障害は、無制限に可溶性で相互作用する分子の結合動力学および結合定数は、それが非生理学的表面に直接に付着すると変化しうることである。この問題は、標的に結合するペプチドの特異性と親和力を増加または減少させ得、その後の機能性スクリーニングに効果的でないペプチドの同定をもたらすことのあるよく知られた現象である(例えば、Vijayendran and Leckband,Anal,Chem.73:471−480,2001;Butler,Methods 22:4−23,2000を参照)。
【0017】
さらに、可溶性担体分子または親水性マトリックスには付着しない小さなペプチドからなる化学系コンビナトリアルペプチドライブラリーは、多くの短いペプチドが、希釈されていない血液、血漿、血清または他の複合体液の存在下等の生理条件下で可溶性ではない欠点を有する。メタノール、エタノールまたはDMSO等の有機溶媒が、ライブラリー中の多くのペプチドの可溶性を維持するために前スクリーニングに必要とされてきた。これらの有機溶媒は多くの潜在的標的または非標的タンパク質および他の巨大分子をスクリーニング時に変性させ得、結果として品質の低いペプチド候補が同定される。
【0018】
ファージおよび細菌ディスプレイペプチドライブラリーを用いる方法で経験されるさらなる欠点は、ファージまたは細菌の標的に対する非特異的結合のために高いバックグランドが広く認められることである。そのようなバックグランドは、スクリーニングが生理的環境下で行われる場合に発生し、多くの無関係なペプチド候補が検出されうる。典型的には、ファージおよび細菌の非特異的結合は高濃度の塩、変性剤(例えば、尿素またはグアニジン塩酸)、タンパク質または洗剤の存在下、または他の非生理条件(例えば37℃を超える高温)でのスクリーニングにより低減できる。対照的に、ペプチド同定の生理学的スクリーニング条件は、通常、標的分子が正常にそれらの活性を発現する条件(例えば、37℃のヒトの血液)を再現する。しかし、生理条件下に存在する巨大分子(例えば、血液)の複雑性はペプチドを表現するファージまたは細菌の高いレベルの非特異的結合を導きうるので、ライブラリーの多様性は顕著に減少しうる。
【0019】
プロセシング酵素自体の活性に一般的に影響を及ぼす物質を同定するよりも、膜タンパク質基質に特異的に結合してそのプロセシングを変え、プロセシング産物の量を調節する分子エフェクターを同定するスクリーニング法に対する要望がある。この方法は、分泌経路の分子状および細胞状構成物を保存し、細胞外環境の複雑な生理条件を再現する条件下で、膜タンパク質のプロセシングを調節する分子エフェクターの同定を提供するものでなければならない。膜タンパク質プロセシング時に存在するものに先天的な複雑な条件を維持することは非特異的結合を減少させ、先天的な分子の立体配座と動力学を保持し、調節分子の存在を維持するので、開示された生理学的および分泌系スクリーニングは、目的のプロセシング産物の生産を変化させる物質等の、膜タンパク質プロセシングを変化させる物質を同定するのにさらに格好である。本発明は、このような方法を提供し、これは本明細書中でさらに記載される。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(発明の要旨)
本発明は、一般に、目的の膜タンパク質のプロセシングを変化させる物質の同定法に関する。一つの特徴において、この方法は、物質を、膜タンパク質またはその機能的フラグメントおよびこの膜タンパク質の少なくとも一つのプロセシング酵素を発現する動物宿主細胞に接触させ、宿主細胞の表面上の変化したプロセシング産物を検出して、膜タンパク質のプロセシングを変化させる物質を同定することからなる。宿主細胞により発現された膜タンパク質プロセシング酵素として、例えば、セクレターゼまたはシェダーゼ、すなわちプロテアーゼまたはホスホリパーゼを挙げることができる。検出された膜タンパク質プロセシングの変化は、例えば、可溶形膜タンパク質の減少生産をもたらすプロセシングであってよい。さらに、変化した膜タンパク質プロセシングの結果としての減少した生産を示す可溶性タンパク質は、例えば、炎症、糖尿病、ガン、アルツハイマー病、パーキンソン病等の疾患の増加危険度に関連する可溶性タンパク質であってよい。
【0021】
膜タンパク質および膜タンパク質プロセシング酵素を発現する動物宿主細胞は、例えば哺乳類宿主細胞であってよい。動物宿主細胞は組換え宿主細胞または内因性膜タンパク質と膜タンパク質プロセシング酵素を発現する単離宿主細胞であってよい。
【0022】
特定の実施態様において、変化した膜タンパク質プロセシングの検出が、宿主細胞の表面上のプロセスを受けた少なくとも一種類の膜タンパク質フラグメントの相対的な存在または非存在を評価することからなる。特定の例として、評価されるアミロイド前駆体タンパク質(APP)フラグメントの種類として、例えばAPPs−α、APPs−βまたはAPPs−γが挙げられ、測定することができる。少なくとも一種類の膜タンパク質フラグメントの相対的な存在または非存在の評価は、例えば、この種類の膜タンパク質フラグメントに特異的に結合する少なくとも一つの分離可能に標識されたマーカーに宿主細胞を接触し、結合した標識マーカーを検出することからなってよい。膜タンパク質フラグメントの存在または非存在の検出のためのマーカーは、例えば、膜タンパク質または膜タンパク質フラグメントの一定のエピトープに結合する抗体であってよい。特定の実施態様において、膜タンパク質フラグメントの相対的な存在または非存在の評価が、膜タンパク質または膜タンパク質フラグメントの少なくとも二つのエピトープに特異的な少なくとも二つの標識抗体の検出シグナルの比を測定することからなってよい。宿主細胞の表面上の膜タンパク質の変化したプロセシングの検出は、例えば、フローサイトメーターまたはソーターを用いることからなってよい。
【0023】
宿主細胞と接触させる物質が、例えば、低分子または生体分子であってよい。特定の実施態様において、宿主細胞と接触させる生体分子はペプチドである。この物質は、例えばコンビナトリアル化学ライブラリー、天然産物ライブラリーまたはペプチドライブラリー等の化合物ライブラリーに由来するものであってよい。この物質は膜タンパク質のアロステリックエフェクターであってよい。
【0024】
特定の実施態様において、この物質を宿主細胞と実質的に生理条件下に接触させる。実質的に生理条件として、例えば、血液、血清、血漿または脳脊髄液(CSF)等の複合体液の存在を挙げることができる。
【0025】
宿主細胞をペプチドに接触させる実施態様において、ペプチドは、例えばこのペプチドをコードするオリゴヌクレオチドの転写および翻訳により作ることができる。ペプチドをコードするオリゴヌクレオチドの長さは、例えば約18〜約120ヌクレオチド、約21〜約60ヌクレオチド、または約36〜約60ヌクレオチドであってよい。一つの実施態様において、ペプチドの宿主細胞との接触は、このペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを含む発現ベクターを宿主細胞に導入することからなる。発現ベクターが導入された宿主細胞はペプチドを分泌経路内または細胞表面上に発現し、提示する。
【0026】
宿主細胞に導入されるオリゴヌクレオチドは、例えば、リゴヌクレオチド挿入物を含む発現ライブラリーからのものであり、これらオリゴヌクレオチドの大多数は異なるペプチドをコードする異なる配列を有する。特定の実施態様において、オリゴヌクレオチドの配列がランダム化されている。発現ライブラリーは、膜タンパク質と少なくとも一つの膜タンパク質プロセシング酵素を発現する動物宿主細胞に導入される。発現ライブラリーが導入された宿主細胞は異なるペプチドを分泌経路内および細胞外の細胞表面上で発現し、提示する。特定の実施態様において、異なるペプチドが実質的に生理条件下の宿主細胞により提示される。
【0027】
他の実施態様において、変化した膜タンパク質プロセシングを示す宿主細胞の第1のサブセットが宿主細胞から選択される。このサブセットの宿主細胞から、膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドをコードする少なくとも一つのオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーのサブライブラリーを同定する。
【0028】
特定の実施態様において、発現ライブラリーが導入された宿主細胞は、異なるペプチドを示す宿主細胞のために濃厚にすることができる。この宿主細胞は、選択マーカーを発現構築物に含ませることにより濃厚にすることができる。発現構築物は、例えばV5、FLAGまたはチオレドキシンであってよい。マーカーのための選択として、例えば、磁気ビーズ選択蛍光活性化細胞分類を挙げることができる。特定の実施態様において、ペプチドを示す細胞を濃厚にした宿主細胞は高コピー数の異なるペプチドを発現することができる。
【0029】
一実施態様において、ペプチドが提示分子(presentation molecule)との融合タンパク質として示される。提示分子としては、例えば、CD24、IL−3レセプター、プロテインAまたはチオレドキシンを挙げることができる。さらに、融合タンパク質は例えばポリヒスチジン、V5、FLAGまたはmyc等のマーカーエピトープを含むことができる。融合タンパク質はさらにグリコホスファチジルイノシトール(GPI)固定部のシグナルを含むことができる。
【0030】
他の実施態様において、発現ライブラリーは、ライブラリーの宿主細胞への導入前に目的の膜タンパク質に特異的に結合するペプチドをコードするオリゴヌクレオチドに関して前富化することができる。前富化は、発現ライブラリーを、オリゴヌクレオチド配列によりコードされたペプチドをファージの表面に発現することのできるファージディスプレイベクターに導入し;異なるペプチドをファージの表面に発現させ;膜タンパク質と特異的に結合するペプチドを発現するファージ粒子のサブセットを選択し;オリゴヌクレオチド配列を選択されたファージ粒子から回収することからなる。前富化発現ライブラリーは、膜タンパク質と少なくとも一つの膜タンパク質プロセシング酵素を発現する動物宿主細胞に導入することができる。前富化ライブラリーが導入された宿主細胞は、膜タンパク質結合ペプチドを分泌経路内および細胞外の細胞表面上に発現し、提示する。変化した膜タンパク質プロセシングを示す宿主細胞のサブセットが前富化ライブラリーを発現する宿主細胞より選択される。このサブセットの宿主細胞から、膜タンパク質のプロセシングを変化させる膜タンパク質結合ペプチドをコードする少なくとも一つのオリゴヌクレオチドを含む前富化発現ライブラリーのサブセットが同定される。
【0031】
本発明の特徴と利点のさらなる理解は明細書の残りの部分を参照することにより明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(特定の実施態様の説明)
本発明は、目的の膜タンパク質のプロセシングを変え、それにより膜タンパク質のプロセシングを受けた部分の生産を変化させるペプチドや他の低分子等の分子や物質を同定するスクリーニング法を提供する。目的の膜タンパク質とは膜表面への輸送中または細胞表面でプロセシングをうけるものである。膜タンパク質のプロセシングの生成物は、炎症、ガン、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病等の病状に関連したものである。提供されるスクリーニング法は、プロセシングを受けた目的の生成物の生産に関連する、プロセシング酵素切断部位での膜タンパク質、その機能的フラグメントの切断を増加または減少させうるイエフェクター物質の同定を可能とする。これらのスクリーニング法は、目的の疾患の原因に関係するセクレターゼまたは「シェダーゼ」等の膜タンパク質プロセシング酵素の活性のアンバランスを修正または部分的に修正することにより、炎症状態、ガン、糖尿病、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病等を治療する治療分子の開発を容易にすることができる。
【0033】
本発明をさらに詳細に記載するのに先立って、以下で用いる特定の用語の定義を示すことは本発明のさらなる理解に役立つだろう。
【0034】
(定義)
「膜タンパク質プロセシング酵素」との用語は、細胞中(例えば、トランスゴルジネットワークおよび分泌小胞等)の分泌経路を経る移動中または細胞表面上で、例えばアミロイド前駆体タンパク質(APP)等の目的の膜タンパク質の翻訳後修飾に関与するタンパク質分解酵素をいう。目的の膜タンパク質のタンパク質分解プロセシングは、細胞により作られた処理膜タンパク質の相対的な量に影響を及ぼす。例えば、APPプロセシング酵素として、αセクレターゼ、βセクレターゼおよびγセクレターゼが挙げられる。
【0035】
「変化した膜タンパク質プロセシング」との用語は、細胞により作られた一つ以上の膜タンパク質フラグメントの相対的な量の変化を言う。APPフラグメントとして、例えばAPPs−α、APPs−βおよびAPPs−γ(図2を参照)が挙げられる。一つ以上のAPPフラグメントの相対的な量は作られるAβの量に関連するので、本明細書で用いられる「変化したAPPプロセシング」もまた細胞により作られるAβの量の変化をもたらすAPPプロセシングの変化をいう。
【0036】
本明細書で用いられる「物質」、「分子」および「化合物」との用語は同義語であり、例えば水素結合、イオン結合、ファンデルワールス引力または疎水性相互作用等の非共有相互作用による細胞構成物との構造的相互作用が潜在的に可能な分子を一般的にいう。例えば、物質は最も典型的にはタンパク質、糖タンパク質および/または他の巨大分子との構造的相互作用に必要な官能基、特に水素結合をともなう官能基を有する分子を挙げることができよう。
【0037】
物質として、例えば脂肪族炭素または環状炭素(例えば、複素環式または炭素環式構造物および/または芳香性または多芳香性構造物等)等の有機低分子を挙げることができる。これらの構造物は、例えばアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基等の一つ以上の官能基により置換されていてもよい。さらに、これらの構造物は、他の置換基、例えば炭化水素(例えば、脂肪族、脂環式、芳香族等)、非炭化水素ラジカル(例えば、ハロゲン、アルコキシ、アセチル、カルボニル、メルカプト、スルホキシ、ニトロ、アミド等)、またはヘテロ置換基(例えば、イオウ、酸素または窒素等の非炭素原子を有する置換基)等を含んでよい。
【0038】
物質として、生体分子を挙げることもできる。「生体分子」とは、生きているシステムに存在し、および/またはこのシステムにより作られうる種類の分子ならびにそのような分子に由来する構造物をいう。典型的には、生体分子として、例えばタンパク質類、ペプチド類、糖類、脂肪酸類、ステロイド類、プリン類、ピリミジン類、およびその誘導体、構造類似体または組み合わせが挙げられる。生体分子は、例えばアミン、カルボニル、不ヒドロキシルまたはカルボニル基等の一つ以上の官能基を含むことができる。
【0039】
物質として、合成または生物学的につくられたものが挙げられ、例えばペプチド表現融合タンパク質等の組換え生産構築物を挙げることができる。「融合タンパク質」との用語は二つ以上の配列モチーフの組換え組み合わせにより作られたアミノ酸のポリマーをいい、生成物の特定の長さには言及しない;よって、融合タンパク質は、例えば6−ヒスチジン等の親和性標識に結合させたペプチド配列を含んでもよい。
【0040】
本明細書で用いる「エフェクター物質」または「分子エフェクター」との用語は、他の巨大分子とのタンパク質相互作用に影響を及ぼす分子をいう。よって、「膜タンパク質プロセシングの分子エフェクター」は、例えば膜タンパク質またはプロセシング酵素または膜タンパク質との相互作用により目的の膜タンパク質のプロセシングに影響を及ぼす分子をいう。
【0041】
用語「特異的な結合」は、物質と膜タンパク質またはその機能的フラグメントとの直接の相互作用をいう。物質と膜タンパク質またはその機能的フラグメントとの相互作用は直接的または間接的な分析により検出することができる。
【0042】
用語「アロステリックエフェクター」は、タンパク質に特異的に結合してその立体配座を変化させることにより特定のタンパク質活性または相互作用を活性化または阻害するエフェクター物質をいう。よって、「膜タンパク質のアロステリックエフェクター」とは膜タンパク質またはその機能的フラグメントに特異的に結合し、膜タンパク質の一つ以上のプロセシング酵素によるプロセシングが変わるようにその立体配座を変化させる物質をいう。ここでは、アロステリックエフェクターの特異的な結合部位は「アロステリック部位」と称する。
【0043】
用語「宿主細胞」は、幾つかの手段により導入することのできるエフェクター物質を試験するための乗り物として働くことのできる細胞をいう。本発明に適する宿主細胞は膜タンパク質またはその機能的フラグメントおよび一つ以上の膜タンパク質プロセシング酵素を発現する細胞である。一つの特定の例において、APPと関係のあるプロセシング酵素として、例えば、α、βおよび/またはγセクレターゼが挙げられる。さらに、本発明に用いられる好適な宿主細胞は、典型的には動物細胞、特に哺乳類細胞である。宿主細胞は「組換え宿主細胞」であってもよい。本明細書で用いられる「組換え宿主細胞」は、例えば組換え膜タンパク質またはその機能的フラグメントおよび/または膜タンパク質の一つ以上のプロセシング酵素等の一つ以上の組換えタンパク質を発現する宿主細胞を意味する。好適な宿主細胞の具体例としてヒト胎児性腎臓(HEK)細胞、ヒト神経芽細胞腫細胞株のBa/F3、AC2(例えば、Carland and Kinnaird,Lymophokine Res.5:S145−S150(1986)を参照)、B9、HepG2、MES−SAおよびMES−SA/Dx5細胞が挙げられる。宿主細胞は、幾つかの操作のいずれかを用いて導入される遺伝子ライブラリーの受容者として働くことができる。遺伝子ライブラリーの受容者として働く宿主細胞はライブラリー挿入物を含有するベクターの複製または分離をしばしば可能とする。しかし、特定の実施態様において、複製および分離は無関係である;ライブラリー挿入物の発現が必要とされる全てである。
【0044】
用語「遺伝子ライブラリー」は、それぞれが約2〜3塩基対から約百万塩基対までの大きさの範囲を取りうる核酸フラグメントの集合体を言う。典型的には、本発明の文脈で用いられているように、遺伝子ライブラリーはペプチドまたはポリペプチドをコードするランダムまたはセミランダムなオリゴヌクレオチドからなる。オリゴヌクレオチドは、例えば約10塩基〜約60塩基の平均長を有することができる。特定の実施態様において、ライブラリーは細菌および/または哺乳類細胞等のある種の宿主細胞で増殖することのできるベクター中に挿入物として含有させる。
【0045】
本明細書で用いられる「化合物ライブラリー」という用語は、複数の分子構造物を含む物質の集合体を言う。化合物ライブラリーとして、例えばさらに以下に記載のコンビナトリアル化学ライブラリー、天然物ライブラリーおよびペプチドライブラリーを挙げることができる。ある種の実施態様において、ペプチドライブラリーは遺伝子ライブラリーに含まれる核酸配列の転写および翻訳により作ることができる。
【0046】
用語「サブライブラリー」は、本発明による方法により単離された化合物ライブラリーまたは遺伝子ライブラリーの一部を言う。
【0047】
遺伝子ライブラリーの文脈における「挿入物」という用語は、典型的には単一ベクター(例えば、発現ベクター)または発現構築物に挿入された個々の核酸フラグメントを言う。
【0048】
遺伝子ライブラリーの文脈における「範囲」(“coverage”)という用語は、遺伝子ライブラリーの豊富さをいう。一般に、遺伝子ライブラリーの豊富さは、特定の配列がこのライブラリーの核酸配列内に実際に存在する確率に関連することが当業者に理解されよう。範囲は、ライブラリーが表す核酸配列の全複雑性で割られた平均挿入物サイズをかけた、ペプチドをコードするオリゴヌクレオチド等のライブラリー挿入物の数の比である。
【0049】
用語「ベクター」は、特定の宿主細胞内で増殖可能であり、非相同核酸の挿入物を収容することのできる核酸配列をいう。典型的には、ベクターはインビトロで操作されて、非相同核酸をクローニング部位に挿入する。ベクターは、形質転換、トランスフェクションまたはウイルスベクターによる感染等により、安定的または過渡的に宿主細胞に導入することができる。
【0050】
用語「発現ベクター」は、挿入された核酸を発現するように設計されたベクターをいう。そのようなベクターは、例えば、核酸の挿入部位(例えば、クローニング部位)の上流に位置するプロモーター、転写終止シグナル、翻訳終止シグナルおよび/またはポリアデニル化シグナル等の操作可能に結合した要素の一つ以上を含むことができる。発現ベクターはさらに薬剤耐性遺伝子等の選択マーカー(例えば、ハイグロマイシンまたはネオマイシン耐性)を含むこともできる(例えば、Santerreら、Gene 30:147−156(1984)を参照)。発現ベクターはウイルス粒子に充填するための配列を含んでもよい。
【0051】
用語「高いコピー数」は、宿主細胞の細胞外の表面における、ライブラリー挿入物によりコードされる少なくとも数百〜数千の分子の発現をいう。
【0052】
核酸の文脈における「発現」という用語は、核酸のmRNAおよび/またはタンパク質への転写および/または翻訳をいう。
【0053】
用語「発現ライブラリー」は、発現構築物またはベクターの複数のコピーをいい、この構築物またはベクターのコピーの大多数が遺伝子ライブラリー由来の核酸フラグメントの挿入物を含む。
【0054】
用語「提示分子」は、ペプチドまたはポリペプチドを融合タンパク質の一部として示すために用いることのできるポリペプチドをいう。
【0055】
用語「安定的発現」は、本発明による方法を実施するために必要とされる時間またはそれよりも長い時間にわたる宿主細胞中の核酸配列の持続的な存在と発現を意味する。安定的発現は核酸を宿主細胞染色体に組み込むことにより、または核酸が宿主内でのその持続的な複製と分離を確実にする要素(例えば、発現ベクターまたは人工的染色体)を有するように核酸を設計することにより達成することができ、もしくは、核酸に選択マーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子)を含ませて、選択状態下(例えば、薬剤含有培地)に宿主細胞を生育させことにより核酸の安定的発現を確保するか、または核酸は宿主ゲノムに組み込まれるウイルスゲノムとして導入することができる。
【0056】
用語「特異的結合」は、物質と膜タンパク質との直接の相互作用をいう。物質と膜タンパク質との相互作用は直接的または間接的分析のいずれかにより検出することできる。
【0057】
用語「生理条件」または「実質的に生理条件」は、細胞外の空間、細胞外表面(例えば、細胞膜上)、ゴルジネットワーク、分泌小胞、および/または複合体液中に通常存在する条件、またはこれら通常存在する条件に実質的に近似する条件をいう。例えば、「実質的に生理条件」は細胞外標的が活性をもち、またはそれらの活性(例えば、酵素活性、レセプター、基質、骨格分子または他の結合パートナーに対する結合等)を発現する場合に存在する条件であってよい。
【0058】
用語「複合体液」は、例えば同原(すなわち、同じ動物からの)、相同(すなわち、同じ種の動物からの)または非相同(すなわち、異なる種からの)血液、血漿、血清、脳脊髄液(CSF)等の体液をいう。複合体液は、希釈されていないか、または実質的に希釈されていないものであってよい。「実質的に希釈されていない複合体液」との用語は、希釈されていないか、または生理学的緩衝液で典型的には50%濃度以下にならないように希釈された複合体液をいう。実質的に希釈されていない複合体液、すなわち50%以下までには希釈されていない液体は、希釈されていない溶液と実質的に同じイオン組成物とイオン強度とおよび実質的に同じ高分子構造物を溶液中に、実質的に同じ絶対濃度で有する。
【0059】
用語「形質転換」または「トランスフェクション」は、核酸を受容(例えば、宿主)細胞に導入するプロセスをいう。これは典型的には受容細胞の表現型の変化により検出される。「形質転換」との用語は通常微生物に適用されるが、「トランスフェクション」は多細胞生物に由来する細胞におけるこのプロセルを記述するために用いられる。
【0060】
「感染する」または「感染した」との用語は、ウイルスベクターにより核酸を受容(例えば、宿主)細胞に導入するプロセスをいう。
【0061】
用語「フローソーター」は、細胞または他の対象物からの発光強度を分析し、発光強度等のパラメーターによりこれらの細胞または対象物を分離する装置をいう。好適なフローソーターとしては、例えば、蛍光提示式細胞分取器(FACS)、分光光度計、マイクロタイタープレートリーダー、電荷共役装置カメラおよびリーダー、蛍光顕微鏡、または類似の装置を含む。
【0062】
フローソーターの文脈において「明るい」および「薄暗い」という用語は特定の細胞により示された蛍光(または他の態様の発光)の強度レベルをいう:明るい細胞は細胞の大部分の集団に比べて高い強度発光を有し、推論して、高いレベルのレポーターを有する;薄暗い細胞は細胞の大部分の集団に比べて低い強度発光を有し、推論して、低いレベルのレポーターを有する。
【0063】
用語「ビーズ選択」は、ビーズを用いて細胞混合物から細胞を選択的に除去することをいう。ビーズは、抗体または他の結合パートナー等の巨大分子を含むことができる。特定の実施態様において、ビーズ選択は誘導体化された磁気ビーズを用いる。例えば、FLAGエピトープを細胞表面に発現する細胞を、抗FLAG抗体で被覆された磁気ビーズにより前選択することができる。次に、強磁場を用いて磁気ビーズを集めることができる。
【0064】
(宿主細胞株の選択/確立)
本発明によるスクリーニング法に用いられる宿主細胞は、目的の膜タンパク質、例えばTGF−α、TNF−α、APP、TNFR等と、膜タンパク質の一つ以上のプロセシング酵素、例えばAPPの例におけるαセクレターゼ、βセクレターゼまたはγセクレターゼ等とを発現する。これらの宿主細胞は、膜タンパク質および/または膜タンパク質の少なくとも一つのプロセシング酵素を内在的に発現する単離細胞であってよい。さらに、宿主細胞は、適当にプロセシングを受けた膜タンパク質の機能的フラグメントを含めた、膜タンパク質の組換え形および/または一つのプロセシング酵素の少なくとも組換え形を発現する組換え宿主細胞であってよい。したがって、宿主細胞は一方の膜タンパク質または酵素分子に関して内在性発現を示すことができるが、他方の分子に関して「組換え宿主細胞」である。
【0065】
本発明の一つの例示的な実施態様において、宿主細胞は、例えば、TGF−α、TNF−α、APP、TNFR等の膜タンパク質および好適なセクレターゼであるTGF−αセクレターゼ、TNF−αセクレターゼ、α−セクレターゼおよびβセクレターゼならびにTNFRセクレターゼのそれぞれに関して組換えである。目的の膜タンパク質をコードするDNAは、例えば、American Type Culture Collection(ATCC)またはInnovative Molecular Analysis Technologies Program of the National Cancer Institute,National Institute of Health(IMAT)から得ることができ、または例えばPCR増幅およびDNA配列分析検定等の公知の方法により得られる。cDNAは例えば哺乳類発現ベクターに挿入し、例えばエレクトロポレーション等の公知の方法を用いて親哺乳類細胞株(例えば、神経芽細胞腫細胞株またはヒト胎児性腎臓細胞株(HEK))に移入する。これらの細胞株は、膜タンパク質の発現に関して、目的の膜タンパク質に特異的な抗体を用いる蛍光マイクロアッセイまたはFACS分析等の公知の方法を用いて評価する。例えば、APPs−β(例えば、APP中央領域に特異的なA3または1G7、Kooら、J.Biol.Chem.269:17386−17389,1994)、APPs−α(APPs−αのカルボキシ末端またはβ切断部位とα切断部位との間のAPPの領域に特異的な6E10、Pirttilaら、Neurol.Sci.127:90−95,1994,McLaurinら、Nat.Med.11:1263−1269,2002)およびp3(4G8、Pirttilaら、Neurol.Sci.127:90−95,1994,McLaurinら、Nat.Med.11:1263−1269,2002)等の多様なAPPフラグメントに対する抗体。次にこれらの細胞に、各発現ベクターが一つ以上のAPP発現酵素コードする一つ以上の発現ベクターを移入することができる。例えば、一つのベクターがαセクレターゼをコードし、別のベクターがβセクレターゼまたはγセクレターゼをコードするこれら二つの別々のベクターを宿主細胞に移入することができる。セクレターゼをコードするDNAは、例えば、ATCCまたはIMATから得ることができ、もしくは増幅およびDNA配列分析検定等の公知の方法により得られる。
【0066】
(化合物ライブラリー)
本発明の一実施態様において、化合物ライブラリーを宿主細胞に接触させて、目的の膜タンパク質のプロセシングを変化させるエフェクター物質をスクリーニングする。例えば医薬研究の過程において合成された化合物の歴史的集合体;例えばコンビナトリアル化学(下記のコンビナトリアル化学ライブラリーの議論を参照)によって、合理的な設計により調製された化合物誘導体のライブラリー(一般的に、本明細書に参照として組み込まれるChoら、Pac.Symp.Biocompat.305−316,1998;Sunら、J.Comput.Aided Mol.Des.12:597−604,1998を参照);天然産物ライブラリー(例えば、細菌、藻類、真菌、酵母、カビ等の微生物、多様な植物または植物の一部、動物体液、分泌物等からの複合抽出物);そのようなライブラリーは例えば医薬研究の過程で形成されたもの);ペプチドライブラリー(下記のペプチドライブラリーの議論を参照);等)から、化合物ライブラリーを調製することができる。
【0067】
コンビナトリアル化学ライブラリー:他の実施態様において、化合物ライブラリーはコンビナトリアル化学ライブラリーの合成により調製することができる(一般に、DeWittら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909−6913,1993;International Patent Publication WO 94/08051;Baum,Chem.& Eng.News,72:20−25,1994;Burbaumら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6027−6031,1995;Baldwinら、J.Am.Chem.Soc.117:5588−5589,1995;Nestlerら、J.Org.Chem.59:4723−4724,1994;Borehardtら、J.Am.Chem.Soc.116:373−374,1994;Ohlmeyerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10922−10926,1993;and Longman,Windhover’s In Vivo The Business & Medicine Report 12:23−31,1994を参照;これらすべてが参照として本明細書に組み込まれる)。
【0068】
下記の論文は出発材料の選択方法および/またはそれらの選択に用いられる基準を記載する:Martinら、J.Med.Chem.38:1431−1436,1995;Domineら、J.Med.Chem.,37:973−980,1994;Abrahamら、J.Pharm.Sci.83:1085−1100,1994;それぞれが参照として本明細書に組み込まれる。コンビナトリアルライブラリーを作る方法は公知であり、米国特許第5,958,792号、米国特許第5,807,683号、米国特許第6,004,617号、米国特許第6,077,954号(それぞれが参照として本明細書に組み込まれる)を含む。
【0069】
「コンビナトリアルライブラリー」は、化合物の集合体であり、この集合体の化合物は一種類以上のサブユニットからなる。このサブユニットは、ジエン、芳香族または多芳香族化合物、アルカン、シクロアルカン、ラクトン、ジラクトン、アミノ酸等の天然または非天然部分から選択することができる。コンビナトリアルライブラリーの化合物は、この化合物からなる一つ以上のサブユニットに対してなされた修飾の数、順番、種類に関して一つ以上で異なる。もしくは、コンビナトリアルライブラリーは、「核分子の集合体」を言い、それらが含有するR基の数、種類または位置および/または核分子からなる分子の同一性に関して異なる。化合物の集合体は典型的には系統的に作られる。上記に記載の一つ以上の点で互いに異なる化合物の集合体を作る方法はコンビナトリアルライブラリーとなりうる。
【0070】
コンビナトリアルライブラリーは、固相に結合した一種類以上の出発材料から固体支持体上で合成することができる。ライブラリーは、互いに異なる10以上、典型的には50以上の有機分子(すなわち、10個の異なる分子であって同じ分子の10コピーではない)を含むことができる。異なる分子(異なる塩基構造および/または異なる置換基)のそれぞれが、その存在がある手段により決定できる(例えば、結合パートナーまたは好適なプローブにより単離、分析、検出できる)量で存在するだろう。分子の存在が決定できるために必要とされるそれぞれの異なる分子の実際の量は使用される操作により異なり、単離、検出および分析技術が発達するにしたがって変化しうる。分子が実質的に等モル量で存在する場合、例えば100ピコモル以上の量を検出することができる。典型的なライブラリーは、実質的に等モル量の各所望の反応生成物を含んでいて、一定の分子の存在が優位を占めたり、アッセイで完全に抑制されるような比較的多いまたは少ない量の一定の分子を含まない。
【0071】
コンビナトリアルライブラリーは、通常、出発化合物を固相支持体(ビーズ等)上に誘導体化することにより調製する。一般的に、固体支持体は、リンク樹脂またはメリフィールド樹脂等の市販の樹脂を付着させている。出発材料の付着後、置換基を出発化合物に付着させる。例えば、芳香族(例えば、ベンゼン)化合物はリンク樹脂を経て支持体に結合させることができる。芳香環は同時に置換基(例えば、アミド)と反応する。置換基は出発化合物に付加され、置換基に付加する反応物の混合物を提供することにより多様化することができる。好適な置換基としては下記のものがあるが、これらに限定されない:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキルまたはシクロアルケニル)置換基、芳香族、脂肪族および脂環式置換芳香核等、ならびに環式置換基;
(2)置換炭化水素置換基、すなわち、主に炭化水素置換基を変えない非炭化水素ラジカルを含む置換基;当業者はそのようなラジカル(例えば、ハロゲン(特にクロロとフルオロ)、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)を知っているであろう;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主にハイドロカルビル特性を有しながら、炭素原子以外を含有する置換基。好適なヘテロ原子は当業者には明らかであり、例えば、イオウ、酸素、窒素が挙げられ、ピリジル、フラニル、チオフェニル、イミダゾリル等の置換基が挙げられる。
【0072】
天然産物ライブラリー:本発明のもう一つの実施態様において、化合物ライブラリーは天然産物ライブラリーである。天然産物ライブラリーは例えば多様な天然産物源(例えば、医薬研究の過程中に蓄積された天然産物等)からの天然産物のライブラリー、もしくは単一の天然産物源(例えば、微生物、植物、動物体液、または例えば土または泥炭中に発見された他の生物学的材料からの一種類以上の分解物、ホモジネートまたは化学抽出物)に由来する化合物の集合体であってよい。
【0073】
一つの実施態様において、天然産物を作る源は泥炭材料である。これらの材料は共通して非常に多くの多様な化合物を含有する。一つの具体的な実施態様において、天然産物ライブラリーは米国ワシントンのボナパート湖近くの泥炭沼であるボナパート低湿地から得られた泥炭材料に由来する(米国特許第6,267,962号を参照)。ある使用のための泥炭材料の使用とスクリーニングに関連する操作は一般に知られている(参照として本明細書に組み込まれる、例えば、米国特許第6,267,962号および米国特許第6,365,634号を参照)。例えば、泥炭材料抽出と分画の一つの一般的なスキームは、非極性から極性までの広い範囲の特徴を有する分子を抽出するエタノールの最初の暴露をともなう。その後の画分は、例えば、酸性化またはアルカリ化され、例えばクロロホルムによる相分離に供された画分である。得られた画分は例えばシリカゲルクロマトグラフィーおよび/または逆相HPLCによりさらに分画することができる。所望の画分が得られたら、例えば標準的な操作を用いて緩衝液の交換を行い、用いる特定のスクリーニング法にしたがってその使用を容易にできる。
【0074】
ペプチドライブラリー:一つの実施態様において、化合物プールをペプチドライブラリーから調製することができる。一般に、約4アミノ酸〜約100アミノ酸範囲の大きさのペプチド、典型的には約6〜約40アミノ酸、さらに典型的には約7〜12アミノ酸から約20までの大きさのペプチドを用いることができる。
【0075】
いくつかの実施態様において、ライブラリーは合成ペプチドからなることができる。例えば、長さN(Nは正の整数である)のすべての可能なアミノ酸配列を表す合成ペプチドの集団またはすべての可能な配列のサブセットはペプチドライブラリーを構成することができる。そのようなペプチドは、例えば、自動ペプチド合成機等による公知の標準的な化学的方法により合成することができる(例えば、Hunkapillerら、Nature 310:105−111,1984;Stewart and Young,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd Ed.,Pierce Chemical Co.,Rockford,II,(1984)を参照)。さらに、所望であれば、非伝統的アミノ酸または化学アミノ酸類似体を伝統的アミノ酸への置換または付加に用いることができる。非伝統的アミノ酸として、普通のアミノ酸のD異性体、αアミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、ザルコシン、シトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β−アラニン、セレノシステイン、フルオロ−アミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えばβ−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、Nα−メチルアミノ酸および一般のアミノ酸類似物が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、アミノ酸はD(右旋性)またはL(左旋性)であってよい。
【0076】
他の実施態様において、ペプチドライブラリーは核酸配列のライブラリーの転写または翻訳により作ることができる。一つの例示的な実施態様において、ライブラリーペプチドをコードするオリゴヌクレオチドからなる発現ライブラリーを宿主細胞に導入する(下記の遺伝子ライブリー、発現カセットとベクター、および核酸転移を参照)。
【0077】
(遺伝子ライブラリー)
本発明の一局面において、スクリーニング方法は、発現ライブラリーを、目的の膜タンパク質、またはその機能フラグメント、例えばTGF−α、TNF−α、APP、TNFR等、および膜タンパク質の一種類以上のプロセシング酵素を発現する宿主細胞に導入することからなる。
【0078】
本発明による遺伝子ライブラリーは少なくとも部分的に異種の核酸フラグメントの集合体を含む。そのような核酸フラグメントとして、例えば合成DNAまたはRNA、遺伝子DNA、cDNA、mRNA、cRNA、異種RNA等を挙げることができる。核酸フラグメントは、例えば、mRNAの集合体の、ゲノム等の核酸集合体の全てまたは一部、または目的の核酸配列を含有する核酸の別の組を代表することができる。遺伝子ライブラリーは、操作されうる形での配列を含む。
【0079】
本発明は典型的には合成DNAまたは特定の生物からの染色体DNAおよび/またはcDNAのフラグメントに由来する遺伝子ライブラリーを用いる。そのようなライブラリー配列は典型的には約10塩基〜約10キロ塩基の範囲にある。ライブラリー配列は任意に例えば約10塩基〜約60塩基の平均長を有するオリゴヌクレオチドであってよい。
【0080】
合成DNAを作る方法は当業者に公知である(例えば、Glick and Pasternak,Molecular Biotechnology: Principals and Applications of Recombinant DNA,ASM Press,Washington,D.C.(1998)を参照されたい)。ランダムにせん断された染色体DNAおよび/またはcDNAを作る方法およびそれらDNAを操作する方法も公知である(例えば、参照として本明細書に組み込まれるSambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Publish.,Cold Spring Harbor,NY(2001);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology,4th ed.,John Wiley and Sons,New York(1999)を参照)。ライブラリーの構築、操作および維持の詳細も公知である(例えば、上記のAusubelら、Sambrookらを参照)。
【0081】
幾つかの局面において、ライブラリーは合成核酸フラグメントからなる。例えば、長さN(Nは正の整数である)の全ての可能性のある配列を表す合成オリゴヌクレオチドの集団、もしくはすべての可能性のある配列のサブセットがライブラリー用の核酸となりうる。長さNのすべての可能性のある核酸配列をコードする合成オリゴヌクレオチドの集団、またはすべての可能性のある配列のサブセットもライブラリーの核酸となりうる。もしくは、セミランダムライブラリーを用いることができる。例えば、セミランダムライブラリーは宿主細胞のコドン利用優先にしたがって、またはコードされたアミノ酸配列中への翻訳終止コドンの包含を最小化するように設計することができる。後者の実例として、各コドンの最初の位置で、等モル量のC、AおよびGおよび二分の一モル量のTが用いられよう。第二の位置において、Aは二分の一モル量で用いられ、一方、C、TおよびGは等モル量で用いられよう。第三の位置において、等モル量のみのGおよびCが用いられよう。
【0082】
合成オリゴヌクレオチドは、好適なcis調節配列、例えば、プロモーター、翻訳開始コドン、翻訳停止シグナル、転写停止シグナル、ポリアデニル化シグナル、クローニング部位(例えば、制限酵素部位または粘着末端)、エピトープをコードする配列および/またはプライミングセグメントを任意に有することができる。例えば、ライブラリーはATG開始コドンに操作可能に結合させた一末端近傍に制限酵素部位を有し、Nヌクレオチドのランダムまたはセミランダム配列、翻訳終止コドン、プライマー結合部位および制限酵素部位を他末端に有するDNAフラグメントを挙げることができる。そのようなフラグメントの集合体は発現構築物、ベクター、発現ベクター等に直接連結できる。フラグメントは一本鎖または二本鎖DNAとして、およびセンスまたはアンチセンス鎖として導入することができる。当業者には理解されるように、二本鎖核酸は、例えば相補性一本鎖核酸同士をアニーリングするか、または相補性プライマーを核酸にアニーリングし、次に二本鎖核酸を形成するポリメラーゼとヌクレオチド(例えば、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドトリフォスフェート)を加えることにより形成することができる。二本鎖核酸は一本鎖核酸(例えば、DNA)を、5’および3’オーバーハング末端に連結し、次に部分一本鎖核酸をポリメラーゼおよびヌクレオチドトリフォスフェートで埋めることで形成することができる。オリゴヌクレオチドの操作とクローニングの詳細は公知である(例えば、上記のAusubelら、Sambrookらを参照)。
【0083】
ライブラリーは最も典型的にはライブラリー配列の核酸の可能な配列を超える範囲を有する核酸からなる。例えば、ライブラリーは核酸配列の可能な配列を約5倍超える多数の核酸からなることができるが、その増減量は本発明の範囲内である。ライブラリーの構築、操作および維持の詳細は公知である(例えば、上記のAusubelら、Sambrookらを参照)。
【0084】
例示的な実施態様において、ライブラリーはよく知られた方法を用いる下記の操作にしたがって作られる。二本鎖DNAフラグメントはランダムまたはセミランダム合成オリゴヌクレオチド、ランダムに切断された染色体DNAおよび/またはランダムに切断されたcDNAから調製する。これらのフラグメントは必要に応じて酵素により処理して、それらの末端を修復し、および/または発現ベクター中のクローニング部位と適合する末端を形成する。次に、DNAフラグメントを発現ベクターのコピーのクローニング部位に連結して発現ライブラリーを形成する。発現ベクターを大腸菌系統等の好適な宿主系統に導入して、クローンを選択する。個々のクローンの数は典型的には出発材料の可能な配列の合理的な範囲を達成するには十分である。このクローンは一緒にし、内在するベクターとそれらの挿入物の単離のために大量培養またはプールにて生育させる。このプロセスにより、ここで記載される次の操作のために、大量の発現ライブラリーを調製物中に得ることができる。
【0085】
(発現カセット及びベクター)
別の局面において、発現カセットおよび/またはベクターを用いて、発現ライブラリーの配列によりコードされたペプチドおよび/または融合タンパク質を発現させる。使用のために容易に利用できる公知の多くの発現カセットとベクターが存在する(例えば、上記のAusubelら、Sambrookらを参照)。これらのカセットとベクターの一部は特定の細胞タイプでの使用に合わせられているが、他のものは多様な細胞タイプに用いることができる。哺乳細胞において、ウイルス転写調節要素が、ライブラリー配列等の外因性のコード配列の発現を駆動するための典型的な選択物である。発現カセットまたはベクターは、発現ベクターおよび/または発現ライブラリーを有する宿主細胞を同定するための一種類以上の選択マーカーを含むこともできる。
【0086】
ペプチドの発現を達成するために、発現カセットは、例えば、任意にポリアデニル化(ポリA)配列を有するライブラリー配列と転写終止領域の挿入のためのクローニング部位に操作可能に連結させたプロモーター領域を、転写の方向に対して5’〜3’の方向で含むことができる。発現カセットは、任意にリボソーム結合配列、翻訳開始コドンおよび/または翻訳終止コドンを含むことができる。分泌シグナル、および/または発現ペプチドを細胞表面に固定する領域は典型的にはクローニング部位に隣接させて含ませる。
【0087】
好適な分泌シグナルとしては、例えば、CD24に由来するものが挙げられる。好適な細胞表面固定領域としては、例えば、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーのシグナルまたは経膜領域(例えば、CD24、IL−3レセプター等の経膜領域)が挙げられる。
【0088】
特定の種類の宿主細胞中におけるライブラリー配列の発現を行うために、ライブラリー挿入物の活発で高いか比較的高い発現を付与することのできるプロモーターが望ましい。好適なプロモーターとしては、例えば、エンハンサー、および/またはRNAポリメラーゼ(RNAポリメラーゼII等)に結合できるTATAボックス配列を挙げることができる。プロモーターは(ウイルスプロモーターのように)本質的に活性があるものか、または誘導可能なものであってよい。ライブラリー配列の調節発現が望ましい場合、および/またはペプチド配列および/または融合タンパク質の発現または過剰発現に関連した毒性のある副作用を避けるために、誘導可能なプロモーターを用いることができる。好適な誘導可能なプロモーターとして、インターフェロン誘導プロモーターシステム、3’−5’ポリ(A)合成酵素またはMxタンパク質のプロモーター(例えば、Schumacherら、Virology 203:144−148,1994を参照)、HLV−LTR、メタロチオネンプロモーター(例えば、Haslingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:8572−8576,1985を参照)、SV40初期プロモーター領域(Bernoist and Chambon,Nature 290:304−310,1981)、ラウス肉腫ウイルスの3’長末端リピートに含まれるプロモーター(Yamamotoら、Cell 22:787−797,1980)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:1441−1445,1981)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
他の好適なプロモーターは高いレベルまたは適度に高いレベルで発現されるハウスキーピング遺伝子から得ることができる。例えば、βアクチンのプロモーターは高発現に有用である(例えば、Qinら、J.Exp.Med.178:355−360,1993を参照)。同様に、シトメガロウイルスプロモーターと翻訳延長因子EF−1αプロモーターが発現に有用な他の強力なプロモーターである。一般的に、ハウスキーピングまたはウイルス遺伝子プロモーター等の好適なプロモーターはよく知られた分子遺伝子法を用いて同定することができる。
【0090】
特定の実施態様において、得られる発現ペプチドの長さがライブラリー配列のコード領域と実質的に同じとなるように、クローニング部位を一つ以上の翻訳停止配列に隣接させる。本明細書で用いられる「実質的に同じ長さ」との言葉は、発現ペプチドの長さがライブラリー配列中のコード領域の長さに相応し、例えば開始コドンに対応するメチオニン残基、コード領域内のリンカー核酸に由来する付加的アミノ酸、翻訳または翻訳後修飾物、一つ以上のエピトープ等をさらにコードできることを意味する。
【0091】
幾つかの実施態様において、クローニング部位はエピトープに隣接する。好適なエピトープとして、例えばXpress(商標)リーダーペプチド(Asp−Leu−Tyr−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、配列番号1;インビトロゲン)、mycエピトープ(Glu−Gln−Lys−Leu−Ile−Ser−Glu−Glu−Asp−Leu−Asn、配列番号2;インビトロゲン)、V5エピトープ(Gly−Lys−Pro−Ile−Pro−Asn−Pro−Leu−Leu−Gly−Leu−Asp−Ser−Thr、配列番号3)、FLAGタグ(Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、配列番号4(例えば、Hoppら、Biotechnology 6:1205−1210,1988を参照))、lexAタンパク質、チオレドキシン、FLAG、ポリヒスチジン等を挙げることができる。
【0092】
例示的な実施態様において、付加的な構造を発現ペプチド配列に加えるために、発現ペプチドがシステイン残基を末端に有するように、クローニング部位をシステインをコードする配列に隣接させることができる。
【0093】
特定の実施態様において、クローニング部位は、ペプチドの細胞外表現のための融合タンパク質(「提示分子」ともいう)のコード領域をともなう。そのような融合タンパク質として、例えば、(I)相同タンパク質領域、タンパク質フラグメント、または宿主細胞中または宿主細胞表面上に見られるタンパク質、および/または(2)非相同タンパク質領域、タンパク質フラグメント、または別の種類の細胞に由来するタンパク質が挙げられる。融合タンパク質の選択は宿主細胞の種類、融合タンパク質の安定性、発現ペプチドの所望の立体配座(例えば、束縛されているか否か)に依存する。そのような提示分子は典型的にはシグナル配列と経膜領域を含む。
【0094】
提示分子はN末端またはその近傍、C末端またはその近傍、または提示分子の内部にペプチドを示すことができる。例示的な実施態様において、提示分子はペプチドをN末端に示し、提示分子のC末端部分を経膜領域またはGPIアンカーにより細胞膜に固定する。提示分子は、ペプチドと目的の膜タンパク質との特異的結合に適する立体的な配向を達成する確率を高めるために、宿主細胞表面からいろいろな距離でペプチドを配置するように修飾することができる。さらに、柔軟性を付与し、膜タンパク質または膜タンパク質のプロセス酵素とのペプチドの相互作用等、細胞外空間または分泌経路におけるペプチド相互作用を有する提示分子からの立体障害を最小化するために、提示分子とペプチドとの間にスペーサー(例えばグリシンスペーサー)を含ませることができる。そのようなスペーサーは、細胞表面で柔軟性を付与するために、提示分子と細胞表面固定領域との間に含めることもできる。
【0095】
好適な提示分子は、例えば、リンパ球抗原CD20、修飾IL−3レセプター、CD24(例えば、Poncetら、Acta Neuropathol.(Berl)91:400−408,1996)、プロテインA等を挙げることができる。図6を参照すると、pIcoDualベクターは例示発現カセットを含む。例えば、一つの発現カセットはCD24−V5融合タンパク質をコードし、かつライブラリー配列の挿入用に一つ以上の独自の制限部位を含む。もう一つの好適な融合タンパク質として大腸菌チオレドキシンとFLAGエピトープが挙げられる。チオレドキシンとFLAGコード配列との間の結合部において、独自のXbaI制限部位によりライブラリー配列が融合タンパク質をコードする領域に挿入できる。
【0096】
発現カセットは任意に発現ベクターの一部であってよい。好適な発現ベクターは公知である(例えば、上記のAusubelら、上記のSambrookらを参照)。特定の実施態様において、調節されたプラスミド増幅システムを哺乳類細胞の発現に用いる。そのようなシステムによって、調節されたプラスミド増幅が多様な細胞において可能である。また、増加したプラスミドコピー数はコードされたペプチドの増加した発現を導くことができる。ペプチドの高レベル発現は細胞外表面上に示されるペプチドの数を増加させることができる。そのような調節増幅システムは哺乳類細胞中の維持された過渡的な発現も可能とする。維持された過渡的な発現は、効果的にスクリーニングされるペプチドのさらに高い数を可能とする安定的なトランスフェクションに比較して、典型的には10倍の細胞が過渡的な発現を示すために有利であろう。プラスミド増幅も、プラスミドまたは目的のペプチドをコードする配列の回収を容易とする。
【0097】
例示的な実施態様において、調節された増幅システムはSV40複製システムを利用する。発現ベクターはSV40の初期プロモーターとラージT抗原のコード領域の融合物を含有するので、ラージT抗原の転写はSV40の初期プロモーターの調節下にある。また、ベクターはSV40複製開始点を含む。このベクターが細胞に入ると、SV40初期プロモーターはラージT抗原RNAの転写を促進する。このRNAはラージT抗原へと翻訳される。ラージT抗原はSV40開始点に結合して、プラスミドの増幅を引き起こす。ラージT抗原濃度が細胞中で上昇するにしたがって、ラージT抗原のSV40初期プロモーターへの結合はSV40初期プロモーターを抑制し、よってラージT抗原RNA合成を抑制する。従って、このシステムは自己調節的である。プラスミドのコピー数が上昇するにしたがって、プラスミド増幅を細胞死の時点まで上昇し続けるラージT抗原の産生増加は起こらないだろう。細胞中のラージT抗原の量は、ラージT抗原RNAの量、ラージT抗原RNAの安定性、ラージT抗原タンパク質の安定性、複製開始点およびSV40初期プロモーターに対する相対親和性、および細胞分裂によるベクター、ラージT抗原RNAおよびラージT抗原の量減少の関数となる。増幅システムはベクターに含まれるので、プラスミド増幅は典型的にはCOS7宿主細胞の使用に限定されず、むしろプラスミド増幅はほとんどの哺乳類細胞種に用いることができる。
【0098】
他の複製システムに関して、ウイルス起源である場合の発現ベクターは細菌宿主中で増殖を必要としないだろう。しかし、さらに典型的には、ベクターは細菌宿主で増殖し、大腸菌中での複製と選択を必要とする配列、例えばcolElレプリコンと抗生物質耐性遺伝子を含有する。
【0099】
発現ベクターは任意に一つ以上の選択マーカーを含有することができる。例えば、真核細胞トランスフェクション用の好適な選択マーカーとしては、ハイルロマイシン耐性、ネオマイシン耐性、ブラスチシジン耐性、ゼオシン耐性、ドコソルビシン耐性などの遺伝子が挙げられる。他の細胞のための好適な選択マーカーとしては他の抗生物質耐性遺伝子、および栄養素要求性(例えば、アミノ酸栄養素要求性)を補足するものが挙げられる。また、発現ベクターは、宿主細胞が発現ベクターを有するとのシグナルを出す選択マーカーを任意に含むことができる。好適な選択マーカーとして、緑蛍光タンパク質またはエピトープ、例えばポリヒスチジン、Xpress(商標)リーダーペプチド(Asp−Leu−Tyr−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、配列番号1;インビトロゲン)、mycエピトープ(Glu−Gln−Lys−Leu−Ile−Ser−Glu−Glu−Asp−Leu−Asn、配列番号2;インビトロゲン)、V5エピトープ(Gly−Lys−Pro−Ile−Pro−Asn−Pro−Leu−Leu−Gly−Leu−Asp−Ser−Thr、配列番号3)、FLAGタグ(Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys、配列番号4(例えば、Hoppら、Biotechnology 6:1205−1210,1988を参照))、lexAタンパク質または細菌チオレドキシンを挙げることができよう。そのようなマーカーは、例えば、エンザイムアッセイにより、フローソーターまたは類似の装置を用い、抗体(例えば、モノクローナルまたはポリクローナル)を用い、ビーズ選択等を用いる蛍光により検出することができる。そのようなマーカーが細胞表面に存在する場合、それらはマーカーを発現する細胞を単離または富化するために用いることができる。
【0100】
(核酸転移)
多様な方法が、ライブラリー配列を宿主細胞に転移するために用いることができる(一般的には、例えば上記のAusubelら、Sambrookらを参照)。幾つかの方法は宿主細胞で主に過渡的な発現をもたらす(すなわち、この発現は細胞集団から徐々に失われる)。他の方法はライブラリー配列を安定に発現する細胞を作ることができるが、安定的な発現細胞の比は典型的には過渡的な発現よりも低い。そのような方法として、核酸転移に関してウイルスまたは非ウイルス機構を有する。
【0101】
好適な哺乳類細胞として、例えば、ヒト胎児性腎臓(HEK)細胞、ヒト神経芽細胞腫細胞株のK562、COS7、Ba/F3、AC2(例えば、Garland and Kinnaird,Lymphokine Res.5:S145−S150,1986を参照)、B9、HepG2、MES−SA、MES−SA/Dx5細胞等が挙げられる。動物宿主細胞としては、メラニン細胞、結腸、前立腺、白血球、肝臓、腎臓、子宮等のガン組織および腫瘍から単離された細胞が挙げられるが、これに限定されない。ある種の細胞および細胞株は、例えば、American Type Culture Collectionから市販されている。
【0102】
ウイルスベクターに関して、ライブラリー配列は典型的にはウイルスパッケージの一部として宿主細胞中に導入される。ウイルスの種類により、核酸は染色体外要素(例えば、アデノウイルス(例えば、Amalfitanoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:3352−3356,1996を参照)またはアデノ随伴ウイルス)として保たれるか、または宿主染色体へ導入され得る(例えば、レトロウイルス(Iidaら、J.Virol.70:6054−6059,1996))。
【0103】
非ウイルス発現ベクターの転移のために多くの方法を用いることができる(例えば、上記のAusubelら、Sambrookらを参照)。核酸転移の一つの方法は核酸のリン酸カルシウム共沈殿である。この方法は、培養皿の底の粘着細胞の表面に沈殿する比較的不溶性のリン酸カルシウム複合体中にカルシウムおよびリン酸イオンとともに共沈殿できる核酸の能力に依存する。他の方法は、脂質ミセルを形成しながら、電荷相互作用により核酸に結合する親油性カチオンを用いる。これらのミセルは細胞膜と融合し、核酸をそれが発現される宿主細胞へ導入する。核酸転移のもう一つの方法は、核酸と宿主細胞を含む緩衝液へのコンデンサー板からの電圧放電からなるエレクトロポレーションである。このプロセスは細胞膜を十分に乱すので、緩衝液に含まれる核酸は細胞膜を通過できる。もう一つの方法は、核酸導入と培養細胞での発現を仲介するDEAEデキストラン等のカチオン性ポリマーを用いることからなる。もう一つの方法は核酸の細胞への衝動供給を用いる。最後に、核酸のマイクロインジェクションを用いることができる。
【0104】
多コピーベクターを有する細菌のスフェロプラストに動物細胞を融合させることにより、多くの同一ベクター(例えば、ライブラリー配列を含む発現ベクター)を細胞に導入することができる。この融合は、平均して一つのスフェロプラストを一つの動物細胞に融合させるように行われる。例えば、pUCプラスミドの誘導体等の高コピー数プラスミドを用いる場合、多くの同一のプラスミドは典型的には各動物細胞に導入される。この方法は動物宿主細胞中でベクターの増幅の必要性を必要とせず、宿主細胞中の高コピー数、およびライブラリー配列の得られる高いレベルの発現を可能とする。この操作は、動物宿主細胞中のベクターを増幅する必要性のない長時間の過渡的な発現をも提供することができる。また、ベクターの高コピー数により、レポーター発現の変化を示す動物宿主細胞からライブラリー配列をさらに容易に回収できる。
【0105】
これらの方法の幾つかで、標的分子と相互作用するであろうポリペプチドをコードすることのできる多様な核酸を個々の細胞に導入する。多様なフラグメントの転移を最小化する方法は公知である。例えば、「キャリヤー」核酸(例えば、サケまたはニシン精子DNA、tRNA等)を用いるか、または宿主細胞に適用される核酸の全量を減少させることにより、多様なフラグメントの導入という問題を緩和することができる。さらに、各受容細胞は多様な核酸フラグメントを受容しうる。ライブラリーの宿主細胞の継代により、目的の配列を、当初偽陽性として存在しうる他の配列から最終的に分離することができる。
【0106】
好ましい実施態様において、レトロウイルスベクターは一つのペプチド配列を各細胞に導入する。これは活発なシグナルを提供し、所与の細胞中の多様な発現ベクターのシグナルに対する希薄効果を減少させる。
【0107】
(ペプチドを提示する宿主細胞)
例示的な実施態様において、発現ライブラリーを構成するオリゴヌクレオチドによりコードされたペプチドは、分泌経路内や、発現ライブラリーが導入された宿主細胞の細胞外表面に示される。発現ライブラリー配列を移入した宿主細胞は、エフェクターペプチドとともに同時に分泌経路を経て、膜タンパク質とともに細胞表面に繋がれた目的の膜タンパク質をペプチド分子とともに共発現する。よって、発現されるペプチドはプロセシング中の膜タンパク質分子とともに存在するために、これらのペプチドは目的の膜タンパク質、この膜タンパク質のプロセシング酵素、または膜タンパク質のプロセシングに関与する他の高分子と相互作用するのに有用である。さらに、分泌経路を経る輸送中、ライブラリーペプチドは膜タンパク質のプロセシングに特有な生理条件下に発現されるだろう。同様に、宿主細胞の細胞外環境が実質的に生理条件下に維持されている場合、細胞外表面上のライブラリーペプチドも、細胞外環境下の膜タンパク質プロセシングに特有の環境を保存またはそれに近似する環境下で発現されるだろう。
【0108】
ペプチドは典型的には実質的に生理条件下に、哺乳類細胞等の宿主細胞の表面上に示される。各宿主細胞はその表面上に一種類以上のライブラリーペプチドの数百、おそらくは数千のコピーを発現することができ、このペプチドのほとんどが細胞外の膜タンパク質標的分子との結合に典型的に利用可能である。ペプチドは典型的には長期間にわたって細胞の表面に存在する。
【0109】
特定の実施態様において、ペプチドライブラリーを発現する宿主細胞は新しく調製した細胞または生きた細胞である。他の実施態様において、ペプチドライブラリーを発現する細胞はパラホルムアルデヒドまたは他の好適な固定剤等で固定することができる。そのような固定されたペプチドライブラリー発現細胞は使用前に好適な温度(例えば、4℃)で使用するまで任意に保存できる。ペプチドは典型的には長期間にわたって細胞の表面上に示される。
【0110】
幾つかの実施態様において、発現ライブラリーを移入した宿主細胞は発現ベクターを有し、任意にライブラリーペプチドを発現する細胞に富む。それらの選択はライブラリー発現ベクター(発現カセットとベクターを参照)内に含まれる選択マーカーに基づく。選択マーカーを用いる選択方法は公知である。例えば、FACSは発現ベクターによりコードされたエピトープ(例えば、V5、FLAG、チオレドキシン等)または提示分子自体(例えば、CD24)に対する蛍光標識抗体を検出するために用いることができる。さらに、磁気ビーズ選択を公知の方法にしたがって用いることができる。
【0111】
(膜タンパク質に特異的に結合する物質のための物質の前スクリーニング)
特定の実施態様において、目的の膜タンパク質に特異的に結合する物質を同定するために、化合物ライブラリーおよび発現ライブラリーを前スクリーニングすることができる。前スクリーニングは実質的に生理条件下に実施することができる。目的の膜タンパク質に特異的に結合すると同定された物質、またはその機能的フラグメントを用いて、膜タンパク質結合物質が富化された化合物ライブラリーまたは発現ライブラリー(「前富化化合物ライブラリー」または「前富化発現ライブラリー」)を作ることができる。一つの実施態様において、富化はAPPの外部領域(APP外部領域)を、親和性タグ(Hisタグ等)とともに発現させ、APP外部領域をカラムに結合させ、化合物ライブラリーをカラムに流し、富化化合物をカラムから溶出することにより行うことができる。次に、富化化合物を宿主細胞に対して調べることができる。
【0112】
さらに、特定の実施態様において、N末端が切除された形のAPPを用いて、APPに特異的な結合をする物質を前スクリーニングする。これらの末端切除形はペプチド富化のためのさらに特異的な標的であるという利点がある。末端切除形を用いる有用性は、αおよびβ決断部位はほとんどのN末端配列APPの除去によって著しく影響を受けないということから理解できる(De Stooperら、J.Biol.Chem.270:30310−30314,1995;Lammichら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:3922−3927,1999を参照)。
【0113】
本発明の例示的な実施態様において、ペプチド発現ライブラリーを前スクリーニングして、目的の膜タンパク質もしくはその機能的フラグメントに特異的に結合するペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを同定する。膜タンパク質結合ペプチドをコードすると同定されたクローンは、公知の方法を用いて回収、増幅して、前富化発現ライブラリーを作ることができる。この前富化発現ライブラリーは目的の膜タンパク質に結合するペプチドをコードする配列に富む(富化された)オリゴヌクレオチド配列の集団からなる。次に、オリゴヌクレオチド配列の富化ライブラリーを本発明の方法にしたがって宿主細胞に導入して、目的の膜タンパク質のプロセシングを変化させる膜タンパク質結合ペプチドを同定することができる。
【0114】
例えば、公知の方法を用いて、発現ライブラリーを発現用の動物宿主細胞に導入するか、もしくは非動物システム、例えばファージディスプレイ等を用いて発現することができる。次に、発現ペプチドを、可溶形(例えば、膜タンパク質の細胞外領域またはN末端切除形)か動物宿主細胞の表面に発現した標識膜タンパク質および/または目的の膜タンパク質のN末端切除形と接触させることができる。好適な標識として、例えば、放射性標識(例えば、H、14C、32P、35S、125I、131I等)、蛍光分子(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、フィコエリスリン(PE)、フィコシアニン、アロフィコシアニン、オルト−フタルデヒド、フルオレスカミン、ピリジニン−クロロフィルa(PerCP)、Cy3(インドカルボシアニン)、Cy5(インドジカルボシアニン)、ランタニドホスファー等)、酵素(例えば、西洋ワサビパーオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、ビオチニル基、上記のタグエピトープ等が挙げられる。幾つかの実施態様において、潜在的な立体障害を減少させるために、検出可能な標識を多様な長さのスペーサーアームにより結合させる。もしくは、標的分子に結合する標識結合パートナー、例えば、抗体等を用いることができる。一つの例示的な実施態様において、APP分子をHigタグエピトープ標識で標識する。
【0115】
次に、目的の膜タンパク質またはその末端切除形の一つに結合する発現ペプチドを公知の標識と方法を用いて同定することができる。例えば、ペプチドを発現し、膜タンパク質のHisタグ細胞外領域に露出させたファージまたは細胞をHisタグアフィニティーカラムに通すことにより、膜タンパク質結合ペプチドを発現するファージまたは細胞を富化することができる。もしくは、例えば、ペプチド発現動物細胞を蛍光タグ細胞外膜タンパク質または末端切除形の膜タンパク質に露出させ、膜タンパク質結合細胞をFACSにより同定、選択して、目的の膜タンパク質に特異的に結合するペプチドを発現する細胞を得ることができる。そのような富化を複数回実施できる。
【0116】
膜タンパク質結合ペプチドを発現する細胞またはファージの富化後に、ペプチドをコードする配列が、前富化に用いた発現ベクターから切り取られ、公知の方法を用いて、膜タンパク質のプロセシングを変化させる膜タンパク質結合ペプチドのスクリーニング用の好適なベクター(下記の発現カセットとベクターを参照)に転移させる。動物宿主細胞が前富化に用いられる本発明の一部の実施態様において、膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドのスクリーニングに用いられた発現ベクターは前スクリーニング時のペプチド発現に用いられたものと同じであってよい。
【0117】
(膜タンパク質のプロセシングを変化させる物質の検出)
別の局面において、化合物ライブラリーまたは発現ライブラリー内の物質の膜タンパク質プロセシングに対する効果を評価する。目的の膜タンパク質、例えばTGF−α、TNF−α、APP、TNFR等および少なくとも一つのプロセシング酵素、例えば、TGF−αセクレターゼ、TNF−αセクレターゼ、α−セクレターゼ、β−セクレターゼ、γ−セクレターゼまたはTNFRセクレターゼをそれぞれ発現する宿主細胞をこの物質と接触させ、次に宿主細胞について宿主細胞により発現させた膜タンパク質のプロセシングに対する効果を評価する。幾つかの実施態様において、宿主細胞を物質と実質的に生理条件において接触させる。例示的な実施態様において、宿主細胞に導入したペプチド発現ライブラリー(上記の遺伝子ライブラリー、発現カセットとベクター、核酸移入、およびペプチドを示す宿主細胞を参照)を構成するペプチドのAPPプロセシングに対する効果を評価する。もう一つの実施態様において、本発明の物質を含む、例えば植物の抽出物、例えば泥炭抽出物を、効果を検出するのに十分な時間宿主と混合する。
【0118】
ライブラリー内の物質の膜タンパク質プロセシングに対する効果を、例えば膜タンパク質の特定のフラグメントに特異的に結合するマーカーの使用等の好適な検出手段により検出することができる。APPの特定の例において、そのフラグメントは例えばAPPs−α、APPs−β、APPs−γであってよい。TGF−α、TNF−αおよびTNFRの例において、可溶形の膜タンパク質に特異的に結合するマーカーを用いることができる。そのようなマーカーを用いて、物質と接触させなかったか、またはライブラリーペプチド配列を発現しない宿主細胞に比較して、プロセシングに関係する特定の膜タンパク質フラグメントの相対的な存在または非存在を決定することができる。例えば、膜タンパク質フラグメントに特異的な結合マーカーは蛍光タグで標識することができ、宿主細胞について、例えば(FACS)分析等の公知の方法によりマーカーの相対的な存在または非存在が評価できる。例示的な実施態様において、マーカーは膜タンパク質または膜タンパク質フラグメントの特定のエピトープに特異的な抗体である。APPs−β(例えば、APP中央領域に特異的なA3または1G7、Kooら、J.Biol.Chem.269:17386−17389,1994)、APPs−α(APPs−αのカルボキシ末端またはβとα切断部位間のAPPの領域に特異的な6E10、Pirttilaら、Neurol Sci.127:90−95,1994,McLaurinら、Nature Med.8:1263−1269,2002およびp3(4G8,Pirttilaら、Neurol Sci.127:90−95,1994,McLaurinら、Nature Med.8:1263−1269,2002)等、定のAPPフラグメントに対する抗体。
【0119】
宿主細胞が二つ以上の膜タンパク質プロセシング酵素を発現する例示的な実施態様において、少なくとも二つの異なる膜タンパク質フラグメントに特異的な少なくとも二つの標識マーカーの検出シグナルの比を決定することができる。例えば、異なるAPPプロセシングはライブラリー配列を発現する宿主細胞中のこの比の変化を検出することにより決定できる。α−とβ−セクレターゼの両方を発現する宿主細胞において、APPs−αとAPPs−βに特異的な抗体は二つの異なる蛍光タグ(例えば、FITCとPE)により標識でき、結合し、標識化された抗体の存在はFACSにより決定される。次に、ライブラリーペプチドを発現する宿主細胞を、βセクレターゼプロセシングの減少を示すAPPs−β:APPs−αシグナル比の増加により選択できる。
【0120】
幾つかの実施態様において、膜タンパク質のプロセシングに対する効果を有すると同定された物質を用いて、プロセシングに影響を及ぼす物質を富化したサブライブラリーを作ることができる。次に、このサブライブラリーをその後のスクリーニングで宿主細胞と接触させて、所望の特徴を有する物質を同定することができる(下記のライブラリー構成物の特徴付けを参照)。
【0121】
例示的な実施態様において、ここに記載のいずれかの方法により単離または集められた、ペプチドライブラリーを発現する宿主細胞を用いてプロセシングに影響を及ぼす配列が富化された配列のサブライブラリーを作るように遺伝子ライブラリー配列を再単離することができる。当業者が理解するように、そのような配列は他の方法の中で、選択されたクローンから発現ベクター核酸を回収し、それらによって好適な細菌宿主系を形質転換することにより、オリゴヌクレオチド挿入物に隣接する好適なプライム部位を用いるPCRによりライブラリーオリゴヌクレオチドをクローニングすることにより、本来の発現ベクターからのオリゴヌクレオチドを別のベクターにサブクローニングする等により単離することができる。オリゴヌクレオチドのサブライブラリーは任意に必要に応じて発現カセットまたはベクターに再クローニングすることができ、その後のスクリーニングで宿主細胞に再導入することができる。スクリーニング/選択サイクルは必要に応じて多数回繰り返すことができる。
【0122】
特定の実施態様において、十分な回数のサイクル後、ペプチド配列の富化サブライブラリーと元のペプチドライブラリーとの間で膜タンパク質フラグメントの存在の(例えば、強度分布における)変化を示すアッセイシグナルまたはその比に実質的な違いが観察される。続いての発現ライブラリーまたはその一部の導入、フローソーターまたは類似の装置による選別または所望のアッセイ結果を示す宿主細胞からの核酸の単離といったプロセスにより、所望のペプチドをコードするライブラリーオリゴヌクレオチドの集団を同定することができる。次に、オリゴヌクレオチドを分子クローニングや核酸配列分析により単離し、個々に研究することができる。十分な回数のサイクルが実施された場合、多くの、典型的にはほとんどのオリゴヌクレオチドが、宿主細胞で発現された際にほぼ同じ効果結合を作るペプチドをコードしているにちがいない。
【0123】
(アロステリックエフェクターの同定)
特定の実施態様において、エフェクター物質をアッセイして目的の膜タンパク質のアロステリックエフェクター同定することができる。アロステリックエフェクターの同定は膜タンパク質プロセシングのエフェクターとして同定された物質に対して第二のスクリーニングとして実施することができる。もしくは、化合物ライブラリーまたはペプチド発現ライブラリーを前スクリーニングすることにより膜タンパク質上の潜在的なアロステリック部位に結合する物質を同定することができる。前スクリーニングは物質に結合した膜タンパク質の立体配座の変化を検出することからなる。アロステリックエフェクターの同定は、セクレターゼ、膜タンパク質、例えばAPP(アロステリック)のエフェクター、およびいずれかのプロセシング部位で示差プロセシングを引き起こす他の相互作用が同定される細胞アッセイを用いて直接に行うことができる。膜タンパク質に結合することにより示差プロセシングを引き起こす相互作用とはこのグループから同定することができる。さらに、膜タンパク質結合化合物の前スクリーニングとその後の細胞に基づくアッセイによるスクリーニングにより、このシステムは膜タンパク質のアロステリックエフェクターの同定を容易にする。
【0124】
(ライブラリー構成物の特徴付け)
ここに記載のいずれかの操作を用いて同定されたエフェクター物質はさらに特徴付けることができる。発現ライブラリーが、分泌経路内または宿主細胞の細胞外表面上にペプチドを示すために用いられる場合、ライブラリー配列は、例えばHIRT分解等の好適な方法と細菌宿主細胞中のベクターの回収、ポリメラーゼ連鎖反応等により宿主細胞から単離することができる(例えば、参照によりここに編入されるHirt,J.Mol.Biol.26:365−369,1967;U.S.Patent Nos.4,683,202,4,683,195 and 4,800,159;Innisら、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press,Inc.,San Diego,CA(1989);Innisら、PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press Inc.,San Diego,CA(1999);White(ed.),PCR Cloning Protocols: From Molecular Cloning to Genetic Engineering,Humana Press,(1996);EP 320 308;上記のAusubelら;上記のSamprookらを参照されたい)。
【0125】
膜タンパク質のプロセシングを変化させる物質の富化のために、その後にスクリーニングを任意に行うことができる。化合物のサブライブラリーまたは発現ライブラリーは、さらに所望の性質を有する物質またはオリゴヌクレオチド配列を富化するさらなるスクリーニングおよび/または選択にかけることができる。さらに好ましい性質を有するエフェクター物質の富化のため、(上記方法のいずれかにより単離された)サブライブラリーを、例えば膜タンパク質に対する向上特異性または親和力を有するか、または膜タンパク質のプロセシングに対して増強効果を有する物質を富化するさらなるスクリーニングに供することが望ましい。例えば、望まれない分泌または細胞外相互作用に対する小さな効果は好適な第二スクリーニングにより排除することができる。所望であれば、さらなる標識を用いて、分泌または細胞外分子相互作用に影響を及ぼすライブラリーペプチド配列を同定することができる。さらに、化合物サブライブラリーまたは個々のエフェクター物質を、膜タンパク質または膜タンパク質プロセシング酵素の発現を欠如する異なる宿主細胞と接触させ(または発現サブライブラリーまたは個々のライブラリーペプチド配列をこの宿主細胞に通し)、次にプロセシング変更または他の非膜タンパク質分泌または細胞表面分子に対する他の効果についてアッセイするこの細胞上でのスクリーニングを行うことにより、分泌または細胞外相互作用に対して一般化された非特異的効果を有するエフェクター物質を同定することができる。
【0126】
ある場合では、本発明にしたがって同定されたエフェクター物質を用いて膜タンパク質のプロセシングを変化させる他の物質を同定することができる。例えば、膜タンパク質プロセシングの分子エフェクターとして同定された有機低分子は、例えば、低下毒性または増強効果等の改善特性を有する物質を同定するための直接のスクリーニング法に用いることができる。例えば、エフェクター物質を構成する一つ以上のサブユニットに対して修飾を行うことができる。修飾としては、R基の種類、数または位置に関する変更を挙げることができる。次に、修飾された小さな分子エフェクター物質は、改善特性を有する物質に関してここに記載した方法を用いてスクリーニングできる。
【0127】
さらに、ペプチド発現ライブラリー等のペプチドライブラリーを用いる場合、ペプチドまたはオリゴヌクレオチド配列が修飾できる。ある場合では、元のライブラリーは長さNのアミノ酸配列のすべての可能な配列を含まなくともよい(例えば、元のライブラリーがセミランダムライブラリーである場合)。そのような場合、元のペプチドと比較して付加的なペプチドまたは増強機能(例えば、高親和力または親和性)を有するペプチドを同定するために、同定ペプチドを出発材料(「先導物質」)として単離し、使用することができる。ライブラリー配列の変異体を単離するために、(例えばポリメラーゼチェインリアクションによる)核酸の増幅を用いて複製プロセス中に配列変化を導入することができる(例えば、Clineら、Nucleic Acids Res.24:3546−3551,1996を参照)。そのような変異はさらに効果的な性質を有する配列変異体をもたらすことができる。もしくは、核酸の変異および/または組換えを例えばインビトロ変異誘発、エラーの傾向があるPCRおよび/または組換えPCRにより増強させる条件に増幅プロセスを計画的に供することによって、存在する配列の改善変異体を求めることが望ましい(例えば、上記のAusubelら;Stemmer,Nature 370:389−391,1994を参照)。そのような条件は公知であり、元のライブラリーにより発現された配列と比較して、低濃度で活性があり、および/または増強特異性および/または活性を示す配列を探す手段を提供する。
【0128】
(膜タンパク質プロセシングの分子エフェクターの適用)
本発明による方法は、結合し、膜タンパク質のプロセシングを特に生理条件下に変化させる生理学関連エフェクター物質を同定する能力を提供する。
【0129】
APPプロセシングに関してここに記載された方法を用いて同定されたエフェクター物質は、プラーク阻害でのそれらの有効性およびCSF、脳細胞および血清中のAβレベルを減少させる能力を研究するために、例えばTg(HuAPP695.K670N/M671L)(Hasioら、Science 274:99−102,1996)またはPDAPP(V171F)(Gamesら、Nature 373:523−527,1995)等のトランスジェニックマウス模型で調べることができる。エフェクター物質は注射により、または経口に投与することができる。さらに、エフェクター物質がペプチドである場合、同定されたペプチドも、このペプチドをマウス模型で発現させることにより調べることができる。また、同定されたエフェクターペプチドを発現させ、細胞外に示し、または特定の組織において発現または分泌させることができる。他のトランスジェニックおよび非トランスジェニック動物模型は、ここに開示された方法により同定されたエフェクターを調べるために用いることのできる本発明の他の分泌タンパク質に関してよく知られている。
【0130】
(ペプチドエフェクターの機能を増強する付加的修飾)
上記のように、膜タンパク質の示差プロセシングに影響を及ぼすペプチド配列は多様な方法でそれらの効果を及ぼすことができる。当業者により理解されるように、ペプチド変異体または類似体を合成することによりペプチドの有効性を向上することができる。例えば、ペプチドの有効性はペプチド自体(すなわち、余計な配列なしに)投与することにより向上させることができよう。
【0131】
当業者は、ペプチドの構造類似体および誘導体(例えば、保存アミノ酸挿入、欠損または置換、ペプチド模倣物、ジスルフィド架橋、人工的架橋等を有するペプチド)も治療剤として有用であることを理解しよう。例えば、天然アミノ酸から構成されうる上記ペプチドに加えて、ペプチド類似体を、鋳型ペプチドに似た特徴を有する非ペプチド医薬として用いることができる。これらの種類の非ペプチド化合物は例えばコンピュータ化分子模型を用いて開発することができる(例えば、Fauchere,Adv.Drug Res.15:29,1986;Veber and Freidinger,TINS 392,1985;Evansら、J.Med.Chem.30:1229,1987を参照)。そのような類似体またはペプチド模倣物は治療または予防に有用なペプチドに構造的に類似し、等価の治療または予防効果を得るために用いることができる。ある場合では、ペプチド模倣物は、例えばさらに経済的な生産、さらに高い化学安定性、増強薬理学的性質(例えば、半減期、吸収、力価、有効性等)、変化した特異性(例えば、広い範囲の生物学的活性)、増加、減少抗原性、血液脳関門の高まった通過および他の所望の性質等でペプチド以上の顕著な利点がある。
【0132】
ペプチド模倣物は公知の方法およびさらに下記の文献に記載された方法により作ることができる:Spatola,Chemistry and Biochemistry of Amino Acids,Peptides,and Proteins(Weinstein,ed.)267,1983;Spatola,Vega Data,Vol.1,Issue 3,“Peptide Backbone Modifications”(March 1983);Morley,Trends Pharm Sci.,pp.463−468,1980;Hudsonら、Int.J.Pept.Prot.Res.14:177−185,1979;Spatolaら、Life Sci.38:1243−1249,1986;Hann,J.Chem.Soc.Perkin Trans.I,pp.307−314,1982;Alnquistら、J.Med.Chem.23:1392−1398,1980;Jennings−Whiteら、Tetrahedron Lett.23:2533,1982;European Patent Application EP 45665;Chemical Abstract 97:39405,1982;Holladayら、Tetrahedron Lett.24:4401−4404,1983;およびHruby,Life Sci.31:189−199,1982.
一局面において、ペプチド(または類似体または模倣物)の薬学的に許容される塩は慣用の方法により容易に調製することができる。例えば、そうした塩は、所望の薬学的に許容される金属水酸化物または他の金属塩基の水溶液でペプチドを処理し、次に得られた溶液を典型的には窒素雰囲気の減圧下で蒸発乾固することにより調製することができる。もしくは、ペプチドの溶液を所望の金属のアルコキシドと混合し、次に溶液を蒸発乾固させる。薬学的に許容される水酸化物、塩基およびアルコキシドは、この目的のためにカリウム、ナトリウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム等の、しかしこれに限定されないカチオンとの物質を含む。他の代表的な薬学的に許容される塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩等が挙げられる。
【0133】
保存寿命や薬物動態半減期を増加させるためにペプチドまたはそれらの類似体または誘導体を安定化することも望ましい。保存寿命安定性は、a)疎水性物質(例えば、グリセロール);b)糖(例えば、スクロース、マンノース、ソルビトール、ラムノールまたはキシロース);c)複合炭水化物(例えば、ラクトース);および/またはd)細菌発育阻止剤等の賦形剤を加えることにより向上させることができる。ペプチドの薬物動態半減期は、化学誘導体化(例えば、側鎖またはNまたはC末端残基を結合させることによる)を用いてキャリヤーペプチド、ポリペプチドおよび炭水化物に結合させることにより、または対象ペプチドのアミノ酸を化学的に変化させることにより修飾することができる。これらのペプチドの薬物動態半減期と薬力学は、a)(例えば、リポソーム中への)カプセル化;b)(例えば、ペプチドのグリコシル化の程度や種類を調節することによる)水和度の調節;c)ペプチドの静電荷および疎水性の調節;およびd)ポリ酢酸、ポリグリコール酸、ポリ酢酸共グリコール酸等との薬理学的に許容される析出物中への配合によっても修飾することができる。
【実施例】
【0134】
以下の実施例は本発明の多様な特徴を単に例示のために提供されるものであり、決して本発明を限定することを意図するものではない。
【0135】
(実施例1:遺伝子ライブラリーの宿主細胞での調製)
遺伝子ライブラリーは、ランダムオリゴヌクレオチドを発現ベクターのクローニング部位に挿入することにより調製する。発現ベクターは、転写の方向に対して5’方向で、プロモーター、シグナル配列をコードする核酸、提示分子をコードする核酸、提示分子をコードする核酸の5’末端に位置するクローニング部位、経膜領域をコードする核酸および転写ターミネーターからなる遺伝子カセットを有する。発現ベクターは、複製開始点(ColEI)および大腸菌での選択ために抗生物質耐性マーカーを含む。ランダムオリゴヌクレオチドは約7個〜約20個のアミノ酸残基のペプチドをコードする。オリゴヌクレオチドを有するベクターで宿主細菌を形質転換し、選択可能な条件下で生育させて約一千万〜数十億の独立した単離物のライブラリーを確立する。ベクターDNAはこのライブラリーから調製する。このベクターDNAを動物細胞、例えばヒト細胞、哺乳類細胞または他の動物細胞に導入する。
【0136】
(実施例2:APPエフェクターの発現用ランダムペプチドベクターの設計)
APPエフェクターの発現の好ましいランダムペプチドベクターは図3に示されたカセット挿入物を有するレトロウイルスベクターである。このカセットはプロモーター;タンパク質を分泌経路に導く分泌配列;ランダムアミノ酸配列にジスルフィド架橋形成構造を付与する、ランダム配列の末端のシステインをコードするランダムペプチド配列;表現タンパク質;細胞表面で柔軟性を付与する第二のグリシンスペーサー;および融合タンパク質を細胞表面に繋ぐGPIリンカーをコードする。表現タンパク質は、ランダムペプチドが繋がれ示される球状の不活性タンパク質である。この立体配置によって、ランダムアミノ酸のペプチド環は柔軟性を提供するグリシン鎖の末端に繋がれる。また、細胞と表現タンパク質との間のグリシンスペーサーによって、繋がれた全分子の柔軟性が可能となる。ペプチド環の柔軟性により、ランダムアミノ酸配列のAPPへの結合の際に表現タンパク質からの立体障害が最小化される。
【0137】
(実施例3:発現ベクターの構築)
宿主細胞の表面上にライブラリーペプチドの高い発現レベルを達成するために、発現ベクターを用いる。発現ベクターは、細菌中での増殖と選択に必要とされるマーカー、哺乳類細胞転写プロモーター(例えば、シトメガロウイルスまたはEF−1αプロモーター等)を含む発現カセット、提示分子をコードする核酸および転写ターミネーターを含む。ランダムライブラリー配列はN末端、C末端または提示分子をコードする核酸内に挿入することができ、直鎖または拘束ループアレイ中、または提示分子の露出ループ中にあってよい。
【0138】
提示分子を宿主細胞の表面に付着させるために、提示分子をコードする核酸は、分泌シグナル配列および融合タンパク質を細胞表面に繋げる要素(例えば、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーまたは経膜または細胞内領域)をコードする配列を含む。好適な提示分子としては、例えば、IL−3レセプター、プロテインA、チオレドキシン、CD4、CD20またはCD24が挙げられる。さらに、提示分子は、例えばFLAG、V5またはポリヒスチジン等の一つ以上のエピトープを含むことができる。転写ターミネーターは例えばヒト成長ホルモンからのものであってよい。
【0139】
二つの異なる発現ベクターを構築して、COS7やK562細胞等の哺乳類細胞の細胞表面上にペプチドライブラリーを示した。一つの構築物は、7アミノ酸残基を有するペプチドをN末端に直鎖構造として配置し、一方、他の構築物はシステイン残基をペプチド配列の各末端に有し、拘束ループをN末端に形成する。各構築物は、チオレドキシン等の表現配列、V5またはFLAGエピトープ、分泌のためにCD24由来の分泌シグナル配列、および宿主細胞の表面に付着させるためのCD24由来のGPI結合配列をコードする。完成したペプチド発現ベクターのそれぞれのおおよその多様性は約1×10個の独自のペプチドであるが、かなり高い多様性のあるライブラリーを作ることができる。
【0140】
(実施例4:APPエフェクターの同定のためのアッセイ細胞株の確立)
APPのエフェクターを同定するためにアッセイ細胞株には4つの主要な要件がある:1)細胞はAPPプロセシング酵素の天然の補足物を持たなければならない、2)細胞はAPPを構成的に作らなければならない、3)細胞はこれらの実験の高い処理要件を容易にする懸濁細胞である、4)スクリーニング系は、APP発現に関連した自然の生理条件に擬似的なことを必要とする。
【0141】
APP発現細胞株は、APPをコードする哺乳類発現ベクターを構築し、この発現ベクターを親細胞株に導入することにより調製する。二つの細胞株である神経芽細胞腫細胞株とヒト胎児性腎臓細胞株(HEK)がこれらの実験に望ましい。これらの細胞株はともにAPP実験に用いられている(Cedazo−Minguezら、Neurochem.Int.35:307−315,1999;Lopez−Perezら、J.Neurochem.73:2056−2062,1999)。HEK細胞株は神経芽細胞腫細胞株よりも容易に成育し、問題が少ないために、これらの実験に好ましい。神経芽細胞腫細胞株は代用の細胞株である。
【0142】
これらの実験を容易にするために、HEK細胞を攪拌培養条件に適合させる。適合は、細胞が無血清培地中で成育できるまで、静置培養物中の培養培地中の血清の量を徐々に減らすことによって達成することができる。次に、細胞を攪拌培養皿に移して生育する。これらの操作はともに顕著な細胞死が存在するが、一部細胞は生き残り生育する。これらの条件下に最もよく生育する細胞は、成長の少ない細胞よりも早く成長し、無血清攪拌培養条件下でよく生育するように適合した細胞を作る。これらの操作は当業者にはよく理解されていよう。
【0143】
APPをコードするcDNAはATCCまたはIMATから得られるか、もしくはPCR増幅により得られ、DNA配列分析により証明される。APPをコードするcDNAは哺乳類発現ベクターに挿入され、親哺乳類細胞株にエレクトロポレーションにより導入される。エレクトロポレーションを受けた細胞は、ネオマイシン選択下にウエルの50%の細胞生育を可能とする密度でマイクロタイタープレートに塗布し、クローン単離を可能とする条件を提供する。これらの細胞株について、蛍光マイクロスコピーと下記の抗APP抗体を用いるFACS分析によってAPP発現を評価する。
【0144】
本出願に記載されたようにスクリーニング手法をうまく実行するために、多くの細胞とペプチド配列の操作とスクリーニングができることが重要である。懸濁培養細胞と攪拌培養皿を利用することにより、一日当たり数十億の細胞を生育させ、処理し、利用する方法を行うことができる。
【0145】
(実施例5:APPのインビトロ発現と産物の分析)
野生型APPまたはスエーデン性、北極性および/またはオランダ性変異を有するAPPのクローンをHEK−293細胞で発現させた。変異体クローンの発現はAPPプロセシングのエフェクターのインビトロスクリーニングアッセイでのプロセシングの違いを示すコントロールとして有用である。
【0146】
発現プラスミドを構築するために、全長野生型695アミノ酸ヒトAPPをコードするクローン(Kangら、Nature,325:733−736,1987)を得た。エキソンIのNruI部位から3’UTRのSmaIまでの3kbのフラグメントをpcDNA3.1ベクターにサブクローニングした。このベクターはCMVプロモーターとSV40ポリアデニル化配列を有する。同じく、APPSweとAPPArcをコードするクローンはCMV−APPSweとCMV−APPSweArcの構築物の出発材料として用いた。これらの構築物をHEK−293細胞に導入した。内在性セクレターゼによる切断により、APPタンパク質のプロセシングが起こって幾つかのフラグメントとなる。APPタンパク質発現とプロセシングは擬似移入した(すなわち、APP配列を欠くプラスミドを移入した)細胞とAPPSweを移入した細胞の溶解物と馴化培地のウエスタンブロット分析により評価した。全長APPならびにC末端フラグメントC99、Aβ、APPs−αおよびAPPs−βが、Aβ配列のアミノ酸1−16を認識する6E10抗体を用いて検出された。全長APP、C99およびAβがAPPSwe移入物からの細胞溶解物中に見られた。細胞溶解物中のAβの同定は分泌経路内のプロセシングの結果であると思われる。APPs−αとAβはAPPSwe移入物の馴化培地に検出された。APPs−αとAPPs−βも、6E10抗体とSw192抗体をそれぞれ用いるスエーデン性またはスエーデン性/北極性変異を移入した細胞の馴化培地でも検出された。抗体Sw192(Elan Pharmaceuticals)は、βセクレターゼで切断された場合のAPPSweのみのアミノ酸590〜596を認識する。
【0147】
(実施例6:レトロウイルス感染)
レトロウイルス発現ベクターをパッキング細胞株に詰込み(Millerら、Methods Enzymol.217:581−599,1993)、セクレターゼプロセシング酵素とAPPを有するアッセイ細胞に感染させるために利用した。融合タンパク質は細胞表面で表現を終わらせる分泌シグナルの影響下分泌経路に入り通過する。細胞表面で、表現タンパク質、グリシンスペーサーおよびランダムアミノ酸配列(提示複合体)からなる融合タンパク質はGPI結合により細胞に付着するものとなる。いくつかのセクレターゼによるAPPのプロセシングは分泌経路を経る間ならびに細胞表面で存在するようである(Selkoe,Physiological Rev.81:741−767,2001)。提示複合体とAPPは同じように分泌経路を通り、共通するプロセスで細胞の表面に示される。従って、ランダムアミノ酸配列が存在し、効果的なペプチドは分泌経路内ならびに細胞表面でその構造を変化させるAPPと結合する機会を持つだろう。図4は提示複合体の立体配置を示す。
【0148】
(実施例7:移入細胞の富化)
細胞によりDNAの取り込みとその発現効率は異なる。発現可能なDNAの導入があまり効率的でない場合、発現ベクター(例えばプラスミド)を含有し、任意にDNAを発現している細胞を任意に富化することができる。遺伝子ライブラリーを有する細胞の富化のために、マーカーをコードする配列等の標識を発現ベクターに含ませる。そのようなマーカーは典型的には細胞に付着し保たれる。マーカーをコードするこの配列は、例えば、転写プロモーターとターミネーター、分泌シグナル配列(例えば、CD24)をコードする配列、一つ以上の細胞外領域(例えば、V5、FLAG等)およびマーカーを細胞表面に繋ぐ配列(例えば、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー用シグナル)であってよい。二つの異なるマーカー(例えば、V5とFLAG)間へのペプチドライブラリーの配置は、提示分子中で両マーカーを含み、宿主細胞の表面で発現される細胞のみを選択することによりペプチドライブラリーの完全さを確保することができる。
【0149】
実施例3に記載の発現ベクターを用いて、一細胞あたり平均わずかに一個または数個のベクターを導入する条件を用いるエレクトロポレーションによりDNAをCOS7細胞に移入した。細胞は、トランスフェクション後の培養物に置き、FACSにより多様な時間で分析し、細胞の表面または内部のチオレドキシンまたはFLAGの発現を検出した。それぞれの場合で、比較的高い比の細胞が提示分子(例えば、チオレドキシン、抗チオレドキシン抗体を用いて検出)をトランスフェクションの1日後に発現し、この分子は次の週にわたって存続した。これらの結果は提示分子が比較的高いレベルで数日間にわたって発現することを示している。
【0150】
また、ペプチドライブラリーを発現する移入宿主細胞は、FACS分析または磁気ビーズによる選択前にパラホルムアルデヒドで固定した。その結果は、マーカーエピトープは固定後も抗体にまだ接近性を示し、ライブラリーペプチドが標的分子の結合に利用可能なことを示した。
【0151】
同様の実験は、プラスミドライブラリーをコードするプラスミドベクターをエレクトロポレーションにより移入したK562細胞は、約80%の細胞生存で約50%の効率で移入を受けたことを示した。最適発現期間はトランスフェクション後の一日〜二日であった。K562細胞上の発現された提示分子のレベルはCOS7よりも低かったが、これは、K562細胞はCOS7細胞のようにプラスミドベクターを増幅しないためである。しかし、標識抗FLAG抗体の局在化により示されたように、十分な提示分子がK562の表面に発現した。
【0152】
その結果は、ペプチドライブラリーを哺乳類細胞の表面上に示す強力なシステムを実証する。提示分子のGPI結合による細胞への繋ぎとめとチオレドキシンとCD24のドメインの利用は、ペプチドライブラリーの持続的で安定な発現をもたらす。さらに、ペプチドの提示分子のN末端での配置は、細胞表面から比較的離れ、かなり好適な親水性環境下で潜在的標的分子に対するペプチドの妨げられない接近を確保する。
【0153】
(実施例8:APPに結合するペプチドの前スクリーニング)
APPの構造に結合およびそれを変化させるペプチド配列中に興味があるために、またAPPに結合するするすべてのペプチドがこのタンパク質のタンパク質分解プロセシングを調節するわけではないが、プロセシングに影響を及ぼすすべてのペプチドがAPPに対する高い結合性を有すると予想することができるので、APPに単に結合するペプチドの前富化を行う。ファージディスプレイがこの富化プロセスに用いる。なぜなら、この方法より作られ、スクリーニングされる構造物は多いからである。APP細胞外領域および二つのN末端切除形、すなわち、Kunitzプロテアーゼインヒビター配列のちょうど3’のヌクレオチド457で始まる第一のものと、ヌクレオチド550で始まる第二のものを、精製を容易にするHisタグとともに細菌およびCHO−DG44細胞にて発現させる。これらの親和性分子の生産、安定性および精製の容易さが選択の親和性分子を決定する。
【0154】
ランダムペプチド配列を発現するファージをHisタグ細胞外領域APPsに露出させて、Hisアフィニティカラムに通す。2〜3回の富化の後、ランダムペプチドをコードする塩基配列を富化ファージのDNAから切断し、レトロウイルスベクターに移入する。この富化工程は、プロセシング酵素の活性の変化または他の方法でプロセシングの変化を起こすことによるよりも、APPに結合することによりAPPプロセシングを変化させるペプチドの同定の確率を高める。
【0155】
(実施例9:エフェクターペプチドのスクリーニング)
およそ10億以上の大きな数のアッセイ細胞を生育させる。ペプチドライブラリーをコードするレトロウイルスを細胞に感染させる。二日間の生育後、ビオチニル化抗表現タンパク質抗体およびストレプアビジン被覆ビーズ(Miltenyi Biotec、ドイツ)を利用してディスプレイ複合体を発現する細胞の磁気ビーズによる選択によって細胞を選択する。選択は細胞表面上のディスプレイ複合体を発現する細胞を富化にする。これにより、感染されていない細胞およびランダムDNA配列中の終止コドンによって時期早に終結する配列を発現する細胞が排除される。ランダムペプチド配列をコードするセミランダムDNAを用いて終止コドンを最小限にするが、それを完全に排除することはない(LaBeanおよびKauffman,Protein Sci.2:1249−1254,1993)。終止コドンの頻度はランダムペプチド配列の長さに関連する。約7〜約12個、または典型的には約16個のアミノ酸の長さが用いられる。
【0156】
また、磁気ビーズ選択も、感染され、繋げられた全長ディスプレイ複合体を合成する能力を有するが、例えば染色体中の活動していない発現部位への組込みのために十分な量のディスプレイ複合体を発現しない細胞を排除する。したがって、選択はAPPの構造を変化させるのに効果的な十分な量のディスプレイタンパク質を発現する細胞を提供する。この立体配置の重要性は、繋げられたエフェクターペプチド配列を、トロンボポイエチンレセプターを発現する成長依存Ba−F3細胞中に発現させることで実証された。繋げられたイフェクターペプチドは成長の独立性を先の成長依存細胞株に付与する。これは、繋げられたペプチドが、レセプターの活性化と細胞生存を引き起こす細胞表面レセプターの構造を変化させることができることを示す。
【0157】
ビーズで富化された細胞は、APPの異なるフラグメントを認識する示差的に標識された抗体を用いる蛍光提示式細胞分取(FACS)により選別する。増強αセクレターゼプロセシングを引き起こすペプチドを富化するために、PPs−αのC末端に対応するAβのアミノ酸3−10を認識するPE標識抗体(6E10,Pirttilaら、Neurol.Sci.127:90−95,1994,McLaurinら、Nat.Med.8:1263−1269,2002)とp3のN末端に対応するAβのアミノ酸16−24を認識するFITC標識抗p3抗体(4G8,Pirttilaら、Neurol.Sci.127:90−95,1994,McLaurinら、Nature Med.8:1263−1269,2002)との蛍光の比の変化に基づいて選別を行う(図5を参照)。ランダムペプチド配列のない発現ベクターに感染したコントロール細胞はコントロールPE/FITC比を提供する。低いPE/FITC蛍光比を有する細胞を選択する。
【0158】
同様に、βセクレターゼプロセシングの減少を引き起こすペプチドについて、PE標識抗体(6E10)抗APPs−α蛍光に対するFITC標識抗APP−β(APP中央領域に特異的なA3またはIG7、Kooら、J.Biol.Chem.269:17386−17389,1994)蛍光の比が高い細胞を選択することにより細胞を選別する(図5を参照)。
【0159】
APPエフェクターアッセイシステムを設定し、試験するために、アッセイの感度と有効性を示すために、α部位とβ部位での切断量に影響を及ぼす試薬と条件を用いる。例えば、アッセイ細胞にαまたはβセクレターゼをコードする発現ベクターを移入する。これはこれらの部位でのプロセシングを増強し、細胞アッセイにより明らかにされる。富化細胞がFACSによりいったん得られたら、ランダムペプチドをコードするDNAを、PCR増幅により細胞から回収し、ペプチドライブラリー発現ベクターに再クローニングする。これらは当業者には公知の操作である。単離されたクローンを細菌中で増幅させ、レトロウイルスパッキング細胞に再度詰込み、これを用いて無処理のアッセイ細胞を感染させ、この富化プロセスを、真のエフェクターペプチドをコードするクローンが得られるまで繰り返す。ランダムペプチド配列をコードするクローンのDNA配列分析はエフェクターペプチドの配列を明らかにする。
【0160】
一つ以上のエフェクターペプチドがいったん同定されたら、このエフェクターペプチドについてAPPの構造に影響を及ぼすそれらの能力を調べることができる。エフェクターペプチドの結合の試験方法または分析方法はよく知られており、ペプチドライブラリーの前スクリーニングの上記方法が挙げられる。
【0161】
(実施例10:エフェクターペプチドの特徴付け)
エフェクターペプチドは特長付けられ、可溶性Aβが培養物中エフェクターペプチドの影響下に減少することを示す。エフェクターペプチドの発現がある、またはないアッセイ細胞の培養培地のELISAとウエスタンブロット分析を用いることで所望の効果を実証することができる。
【0162】
一アッセイにおいて、APPのαセクレターゼプロセシングを高めるエフェクターペプチド(ここでは「EMαペプチド」という)を、HEK293細胞またはSH−SY5Y細胞中でヒトAPPとともに共発現させる。全長APPの発現レベルはエフェクターペプチドの存在下または非存在下でウエスタンブロット分析(抗体6E10または22C11)により決定する。さらに、エフェクターペプチドの効能試験は、ペプチド発現後の培地中のプロトフィブリルおよび単量体の可溶性Aβ1−40とAβ1−42レベルを減少させる能力を評価する。AβプロトフィブリルとAβ1−40/42のレベルは異なる抗体を用いるELISAにより決定する。市販の抗体(すなわち、バイオソース/QCBカタログ#44−348と44−344)を用いてAβ40とAβ42をそれぞれ特異的に定量する。
【0163】
同様に、APPのβセクレターゼプロセシングを減少させるペプチド(以下、「EMβペプチド」という)のAPPとAβ40およびAβ42の発現に対する効果を同じように特徴付ける。
【0164】
近くでのプロセシング活性に対するEMαとEMβペプチドの効果も特徴付ける。EMαペプチドを発現する細胞において、APPsβ、APPsγならびにC末端フラグメントCT99の放出を、EMαペプチドを発現していない場合のこれらフラグメントの放出と比較する。異なるフラグメントパターンは干渉を示す。同様に、APPsα、APPsγ、p3およびCT57/59の放出をEMβペプチドの存在下、非存在化で決定する。
【0165】
また、EMαまたはEMβペプチドの特異性または効能が家族性AD変異で変わるかどうかを決定する。以下のAPP変異をこの研究のために用いる:
(a)スエーデン性(Lys670Asn;Met671Leu)、N末端〜β切断部位の2アミノ酸;
(b)フランダース性(Ala692Gly)、C末端〜α切断部位の5アミノ酸;
(c)オランダ性(Glu693Gln)、C末端〜α切断部位の6アミノ酸;
(d)北極性(Glu693Gly)、C末端〜α切断部位の6アミノ酸;および
(e)アイオワ性(Asp694Asn)、C末端〜α切断部位の7アミノ酸。
【0166】
さらに、APP変異がAPPタンパク質とAPPプロセシング速度に対するEMαまたはEMβペプチドの親和性または会合動力学に影響を及ぼすかどうかを評価する。結合研究は、野生型APPまたは変異形のAPPを発現するHEK293細胞とともに放射能標識EMαまたはEMβペプチドをインキュベートすることにより行われる。
【0167】
APPがスエーデン性変異を有する場合、β部位でのプロセシングが顕著に増加する(例えば、Mullanら、Nat.Genet.1:345−347,1992を参照)。例えば、スエーデン性変異を有するヒトAPP(ハムスタープリオンプロモーター−hAPPSwe)を発現するトランスジェニックマウスにおいて、SDS可溶性Aβ40およびAβ42ペプチドは、それぞれ5ヶ月齢で21および6pmol/gから、21ヶ月齢で11,100および2,000pmol/gまで増加する(Kawarabayashiら、J.Neurosci.15:372−381,2001)。EMβペプチドのAPPSweによる共トランスフェクションは、スエーデン性変異がβ部位切断に対するEMβペプチドの阻害作用に影響を及ぼすかどうかを示す。同様に、EMαペプチド刺激α切断に対するα部位近くのAPP変異(b)〜(e)の効果(上記を参照)をさらに評価する。
【0168】
また、Aβの量を減少させるエフェクターペプチド(EP)の効能を、Aβ、例えばTg(HuAPP695.K670N/M671L)2567またはPDAPPを過剰発現する好適なトランスジェニック動物模型で評価することができる(例えば、下記の実施例11と12も参照)。
【0169】
さらなる特徴付けはペプチドの標的の同定をともなう。これらのアッセイはディスプレイ複合体(繋がれたペプチドを有する提示分子)ならびに親和性標識としてのペプチドのみを利用する。ペプチドのAPPへの結合は、ペプチドを標識し、APPの細胞外領域への結合を評価することより評価することができる。また、蛍光標識されたペプチドを用いて、APPを発現するアッセイ細胞への結合を評価して、APPを発現しないコントロールアッセイ細胞と比較する。
【0170】
プロセシング酵素への結合を評価するために、標識されたペプチドを用いて親アッセイ細胞へのペプチド結合を決定し、プロセシング酵素を発現しないことが知られている細胞へのペプチド結合と比較する。さらなる特徴付けは、可溶化細胞溶解物と混合し、イオン交換とサイズ排除クロマトグラフィーにより分画した標識ペプチド、二次元電気泳動およびタンパク質スポットの質量分析からなり、他の細胞成分に対する結合を決定することができる。エフェクターペプチドは結合して、APPと結合することなしに、または他の重要な生物学的分子のプロセシングを変化させることなしに、Aβの減少を引き起こす別の細胞分子の機能を変化させることもおこりうる。
【0171】
(実施例11:トランスジェニックマウスでのエフェクターのインビトロ効能試験−直接のプチド投与)
EMαペプチドのインビボ効能試験は、APPαセクレターゼ切断速度を促進する能力および脳中のAβプロトフィブリルとAβ40/42レベルの低下を評価する。プロトフィブリルのレベルと脳分布を、ELISAおよびプロトフィブリルに特異的なモノクローナル抗体を用いる免疫組織化学により評価する。プラークの負担を、灌流および脳組織の4%パラフォルムアルデヒドによる固定ならびにAβ抗体(例えば、上記のように6E10による(Nilssonら、J.Neurosci.,21:1444−1451,2001を参照))による抗体染色等の標準的操作を用いて決定する。
【0172】
EMαとEMβペプチドの最初の試験は、血液脳関門通過性を測定するためTgマウスへの皮下または腹腔内注射によるペプチドの直接投与をともなう。通過は、CSF中のEMαまたはEMβペプチドの測定、および抗EMαまたは抗EMβペプチドELISA法を用いる脳灌流後の脳ホモゲネートの測定により評価する。異なる投与量レベルを調べ、脳およびCSF中に得られるペプチドレベルと関連付ける。インビトロ実験は、αセクレターゼの顕著な刺激またはβセクレターゼの阻害を得るためにそれぞれ必要とされるEMαまたはEMβペプチドの濃度に関する情報を提供する。それ以外のさらに感度の高い方法はペプチドを放射能標識し(ヨード化)、CSFと脳ホモゲネート中の放射能を測定することである。この方法はより感度が高いが、ペプチドの修飾のために誤った結果を与えうる。さらに、標準的操作を用いて、CSF、脳および血清中のEMαまたはEMβペプチドの半減期を動物効能研究における投薬頻度の指標として決定する。EMαまたはEMβペプチドの経時的に一定のCSF/脳濃度が典型的に望ましい。EMαまたはEMβペプチドが十分な通過性を示す場合、効能試験が行われる。しかし、EMαまたはEMβペプチドの通過性が十分でない場合、ペプチドの直接の皮下または腹腔内投与による効能試験は行わない。それ以外の方法は、浸透ポンプ(Alzet)を用いたi.c.v.によりペプチドを投与するか、Tgマウスの脳中でペプチドを直接発現することである(下記を参照)。
【0173】
一つの研究において、EMαまたはEMβペプチドの効能試験は直接のペプチド投与による。直接投与による効能試験は、Aβ40/42とAβプロトフィブリルレベルの減少を終点として、EMαまたはEMβペプチドのTgマウスへの4〜6ヶ月間の投与を行う。プロトフィブリルの形成はAβ1−40およびAβ1−42濃度に依存するので、Aβレベルの減少はAβプロトフィブリルの減少を導くようである。好適なマウス系は、本研究室の進行中のプロジェクトであるスエーデン性変異を有するヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の695アミノ酸のイソ型タンパク質をコードするトランスジーンを有し、十分に確立したAD模型に類似のmThy−hAPPSweである(Hsiaoら、Science 274:99−102,1996を参照)。よって、mThyl−hAPPSweはAβ1−40とAβ1−42の顕著な時間依存増加、大きなアミロイド堆積物、脳コレステロールおよびApoEの年齢関連上昇、ならびに変化したシナプス有効性を示すようである(Kawarabayashiら、J.Neurosci.15:372−381,2001を参照)。また、この「Hsiao−APPマウス」模型は行動欠損を発現することが示されている(Westermanら、J.Neurosci.22:1858−1867,2002を参照)。
【0174】
また、効能試験は、スエーデン性および北極性変異の両方を有する二重トランスジェニック模型(mThy1−hAPPSweArc)で行う。この模型は、脳中で高レベルのAβArcプロトフィブリルを作る模型を確立するために開発された。Aβプロトフィブリルは神経毒性があり(Hartleyら、J.Neurosci.19:8876−8884,1999を参照)、初期シナプス機能に影響を及ぼす(Selkoe,Science 298:789−791,2002を参照)。Nilsberthらは(Nat.Neurosci.4:887−893,2001)、北極性変異がさらに高いプロトフィブリル安定性と形成速度を付与し、ADの初期発生を導くことを示した。
【0175】
アミロイド堆積前でAβレベルが年齢依存増加をほとんど示さないときの初期年齢でのEMαまたはEMβペプチドの短期投与(2〜3週)により、インビボでAPPプロセシングを変化させるそれらの機械的能力を評価する。さらに、EMαまたはEMβペプチドの予防効果は、若いTgマウスでアミロイド堆積の開始前に始めて、トランスジェニックマウス模型が活発なアミロイド堆積を示すことが知られる時点まで続ける長期投与により評価する。最後に、EMαおよびEMβペプチドの治療有効性をアミロイド堆積の発生後の年とったマウスへの長期投与により調べる。アミロイド病理学の多様な手段を決定して効能と安全性を評価する(例えば、逐次的抽出(TBS、トリトンX−100、SDSおよびギ酸)とELISAにより評価されるAβとチオフラビンSプラーク負担、抽出性Aβ1−40およびAβ1−42、Aβプロトフィブリル)。また、神経変性変化(神経炎ジストロフィー、シナプス損失、酸化的損傷)等の第二の組織損傷は好ましくは免疫組織化学と定量画像分析により分析する。GFAP(アストログリオシス)およびMAC−1/CD11およびIL−1(マイクログリオシス)等の大脳炎症の伝統的マーカー、ならびにγ−IFN、IL−2およびIL−6等の他の前炎症サイトカイン類やTGF−α、IL−4およびIL−10等の抗炎症性サイトカイン類を測定する。認識機能障害の予防は、「エピソード様」記憶に対して古典的Morris Water Mazeよりも感度の高いRadial Arm Water Mazeで研究されている。
【0176】
(実施例12:トランスジェニックマウスにおけるAPPプロセシングのエフェクターのインビボ効能試験−インビボでのペプチド発現)
EMαまたはEMβペプチドの血液脳関門通過性が十分でない場合、効能試験のそれ以外の方法はトランスジェニックマウス脳中でのエフェクターペプチドの直接のインビボ発現により行われる。二つの異なる発現ベクター構築物が作られ、両者においてEMαまたはEMβペプチドをコードする配列を、ニューロン中で例えばThy−1プロモーターを用いて発現する。一つのDNA構築物(ここではThy1−Emα/EMβsという)は、エフェクターペプチドを脳中で分泌(S)形で発現するように設計され、もう一つのDNA構築物(ここではThy1−Emα/EMβという)はGPI−リンカーを有することで、発現ペプチドをニューロン膜(M)に向けさせる(図8を参照)。次に、Thy1−Emα/EMβおよびThy1−Emα/EMβトランスジェニックマウスを標準的な操作を用いて作る。
【0177】
Thy1−Emα/EMβおよびThy1−Emα/EMβトランスジェニックマウスをThy1−hAPPSweおよびmThy1−hAPPSweArcトランスジェニックマウスと交配して、EMαまたはEMβペプチドの効能をインビボで決定する。また、これらの複数のトランスジェニック模型を用いて、APPプロセシングの区分化に対するペプチドの効果を特徴付ける。分泌性または膜結合性(例えば、ER−、ゴルジ−、血漿膜結合)EMαペプチドのAPPαセクレターゼ切断速度に対する効果を決定する。同様に、分泌性または膜結合性EMβペプチドのβセクレターゼ切断速度に対する効果も調べる。これらの研究は、高められたα部位プロセシングまたは減少させたβ部位プロセシングが結果として、例えばAβプロトフィブリルおよびAβ40/42レベルの減少、少ないアミロイド堆積、少ない炎症および/または改善認識機能となるのかどうかという重要なインビボデータを提供する。
【0178】
上記の実施例は特許請求の範囲に記載の発明の範囲を例示するために提供されるのであって、限定するためではない。本発明の他の改変は当業者に明らかであり、これらは添付の特許請求の範囲に包含されるものである。また、本明細書中で引用されたすべての刊行物、特許、特許出願および他の文献は、その全体が参考として本明細書中に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】図1は、アルツハイマー病に導くアミロイドカスケードを示す。
【図2】図2は、βアミロイド前駆体タンパク質(APP)とその原理的な代謝誘導体の模式図を示す。一番上の図は、770アミノ酸からなる、最も大きい公知のAPPのもう一つのスプライシング形を示す。アミノ酸700−723の単一の経膜領域(TM)は垂直の破線により示す。βアミロイド(Aβ)フラグメントは膜外に28アミノ酸およびTM領域の最初の12〜14残基を有する。矢印はプロセシング酵素によるタンパク質分解切断の部位を示す。多様なタンパク質分解フラグメントを標識する(Selkoe,Physiological Rev.81:741−767,2001)。
【図3】図3は、ランダムペプチドおよび膜タンパク質のエフェクターペプチドの同定用レトロウイルス構築物の提示タンパク質発現用の発現カセットの模式図を示す。
【図4】図4は、システインループの立体配置でのランダムペプチド配列とともに細胞表面に発現した表現タンパク質の模式図を示す。
【図5】図5は、標識されたフラグメント、切断部位、APPの抗体認識フラグメントとともに、細胞表面上のAPP、ならびにAPPの変化したプロセシングを検出する蛍光の比を用いる方法を示す。
【図6】図6は、本発明の利用に適するCD24 V5融合タンパク質とチオレドキシン−FLAG融合タンパク質をコードするpIcoDualと命名された発現ベクターの一例の模式図を示す。
【図7】図7は、CD24 V5融合タンパク質とチオレドキシン−FLAG融合タンパク質をコードするpIcoFLAGXaと命名された発現ベクターの一例の模式図を示し、因子X制限切断アミノ酸配列のIle−Glu−Gly−Arg−X(配列番号5)がランダムペプチド部位に挿入されている。
【図8】図8は、トランスジェニックマウスにおけるエフェクターペプチドのインビボ発現用のThy1−EMα/EMβ(S)およびThy1−EMα/EMβ(M)発現構築物の模式図を示す。「EMα/EMβ配列」はEMαペプチド(すなわち、βセクレターゼによるAPPプロセシングを阻害するエフェクターペプチド)をコードする塩基配列を示す。
【配列表】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の膜タンパク質のプロセシングを変化させる物質を同定するための方法であって、以下:
該物質を、該膜タンパク質を発現する動物宿主細胞および該膜タンパク質の少なくとも1つのプロセシング酵素と接触させる工程、および
該膜タンパク質のプロセシングを検出して、該膜タンパク質のプロセシングを変化させる物質を同定する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記変化した膜タンパク質プロセシングを検出する工程が、前記宿主細胞の表面上の膜タンパク質フラグメントまたは該宿主細胞の表面から放出される膜タンパク質フラグメントのうちの、少なくとも1種の相対的な存在もしくは非存在を評価することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膜タンパク質フラグメントのうちの少なくとも1種が、前記宿主細胞の表面から放出される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの膜タンパク質プロセシング酵素が、プロテアーゼまたはホスホリパーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記変化した膜タンパク質プロセシングが、前記細胞表面から放出された膜タンパク質のフラグメントの減少した生産を生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記放出されたフラグメントが、疾患の増加した危険度に関連する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患が、炎症性疾患、ガン、糖尿病、アルツハイマー病、またはパーキンソン病である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記物質が、化合物ライブラリーに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物ライブラリーが、コンビナトリアル化学ライブラリーである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物ライブラリーが、天然産物ライブラリーである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物ライブラリーが、ペプチドライブラリーである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記物質が低分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記物質が生体分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記生体分子がペプチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチドが、該ペプチドをコードするオリゴヌクレオチドからの転写および翻訳によって産生される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記オリゴヌクレオチドが、約18〜約120ヌクレオチドの長さを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチドが、約36〜約60ヌクレオチドの長さを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドを前記宿主細胞と接触させる工程が、発現ベクターを前記宿主細胞に導入する工程を包含し、該発現ベクターは、該ペプチドをコードする前記オリゴヌクレオチドを含み、これによって、該宿主細胞が、該ペプチドを分泌経路内および細胞外細胞表面上に発現し、そして提示する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記オリゴヌクレオチドが、複数のオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーに由来し、該オリゴヌクレオチドの少なくとも大多数は、異なるペプチドをコードする異なる配列を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記複数のオリゴヌクレオチドの配列が、ランダム化されている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記発現ライブラリーが、前記膜タンパク質に特異的に結合するペプチドをコードするオリゴヌクレオチドについて前富化されている、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ペプチドを前記宿主細胞と接触させる工程が、前記発現ライブラリーを、前記膜タンパク質および該膜タンパク質の少なくとも1つのプロセシング酵素を発現する第1の複数の動物宿主細胞に導入することを包含し、これによって、該宿主細胞が、異なるペプチドを分泌経路内および細胞外細胞表面上に発現し、そして提示する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、以下:
異なるペプチドを提示する前記第1の複数の宿主細胞から、変化した膜タンパク質プロセシングを示す宿主細胞の第1のサブセットを選択する工程;および
該宿主細胞の第1のサブセットから、該膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドをコードする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含む前記発現ライブラリーの第1のサブライブラリーを同定する工程
をさらに包含する、方法。
【請求項24】
前記異なるペプチドを提示する第1の複数の宿主細胞が、選択可能マーカーを用いて富化されている、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記選択可能マーカーが、V5、FLAG、またはチオレドキシンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記富化が、磁気ビーズ選択を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記富化が、蛍光活性化細胞分類による選択を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
細胞外細胞表面上に異なるペプチドを発現し、そして提示する前記宿主細胞が、高コピー数の異なるペプチドを発現する、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記ペプチドが、提示分子を有する融合タンパク質として提示される、請求項15に記載の方法。
【請求項30】
前記提示分子がCD24である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記提示分子がIL−3レセプターである、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記提示分子がチオレドキシンである、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記融合タンパク質が、マーカーエピトープをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記マーカーエピトープが、ポリヒスチジン、V5、FLAG、またはmycである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記融合タンパク質が、グリコホスファチジルイノシトール(GPI)固定のためのシグナルをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記動物宿主細胞が、哺乳類宿主細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記動物宿主細胞が、組換え宿主細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記動物宿主細胞が、単離された細胞である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記物質が、実質的に生理条件下で宿主細胞と接触する、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
前記実質的に生理条件が、複合体液の存在を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記複合体液が、血液、血清、血漿、または脳脊髄液(CSF)である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞表面における膜タンパク質フラグメントのうちの少なくとも1種の相対的な存在または非存在の評価が、宿主細胞を、該少なくとも1種の膜フラグメントに特異的に結合する少なくとも1つの検出可能に標識されたマーカーと接触させること、および該結合した標識マーカーを検出することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1つのマーカーが、膜タンパク質または膜タンパク質フラグメントのうちの予め決められたエピトープに結合する抗体である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞表面における少なくとも1種の膜タンパク質フラグメントの相対的な存在または非存在の評価が、該膜タンパク質または膜タンパク質フラグメントのうちの少なくとも2つのエピトープに特異的な、少なくとも2つの標識抗体の検出シグナルの比を決定することをさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記物質が、前記膜タンパク質のアロステリックエフェクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項46】
前記宿主細胞の表面における前記膜タンパク質の変化したプロセシングを検出する工程が、フローソーターの使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項47】
アンギオテンシン転換酵素(ACE)膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドを同定するための方法であって、以下:
複数のオリゴヌクレオチド、異なるペプチドをコードする異なる配列を有する少なくとも大多数のオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーを、ACE膜タンパク質および少なくとも1つのACEプロセシング酵素を発現する第1の複数の動物宿主細胞に導入する工程であって、それによって、該宿主細胞は、異なるペプチドを分泌経路内および細胞外細胞表面上に発現し、そして提示する、工程;
該異なるペプチドを提示する該第1の複数の宿主細胞から、変化したACEプロセシングを示す宿主細胞の第1のサブセットを選択する工程;および
該宿主細胞の第1のサブセットから、該ACEのプロセシングを変化させるペプチドをコードする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーの第1のサブライブラリーを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項48】
前記動物宿主細胞が、哺乳類動物細胞である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記動物宿主細胞が、組換え宿主細胞である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
前記動物宿主細胞が、単離された細胞である、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記第1の複数の宿主細胞が、実質的に生理条件下で異なるペプチドを提示する、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
ACE膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドを同定するための方法であって、以下:
複数のオリゴヌクレオチド、異なるペプチドをコードする異なる配列を有する少なくとも大多数のオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーを、ACEに特異的に結合するペプチドをコードする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドについて前富化する工程であって、該前富化が、以下:
該発現ライブラリーを、ファージの表面におけるオリゴヌクレオチドの配列によってコードされるペプチドを発現し得るファージ提示ベクターに誘導することを包含する、工程;
該ファージの該表面において異なるペプチドを発現する工程;
ACE膜タンパク質に特異的に結合するペプチドを発現するファージ粒子のサブセットを選択する工程;
分泌されたファージ粒子からオリゴヌクレオチド配列を回収して、前富化した発現ライブラリーを形成する工程;
該前富化した発現ライブラリーを、ACE膜タンパク質およびACE膜タンパク質および少なくとも1つのACE膜タンパク質プロセシング酵素を発現する第1の複数の動物宿主細胞に導入する工程であって、これによって、該宿主細胞が、該少なくとも1つのACE結合ペプチドを分泌経路内および細胞外細胞表面上に発現し、そして提示する、工程;
ACE膜タンパク質結合ペプチドを提示する該第1の複数の宿主細胞から、ACEプロセシングを変化させる宿主細胞の第1の細胞を選択する工程;ならびに
該宿主細胞の第1のサブセットから、ACEのプロセシングを変化させるペプチドをコードする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含む前富化された発現ライブラリーの第1のサブライブラリーを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項53】
ACE膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドを同定するための方法であって、以下:
複数のオリゴヌクレオチド、異なるペプチドをコードする異なる配列を有する少なくとも大多数のオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーを、ACE膜タンパク質および少なくとも1つのACE膜タンパク質プロセシング酵素を発現する第1の複数の動物宿主細胞に導入する工程であって、これによって、該宿主細胞が、該異なるペプチドを分泌経路内および細胞外細胞表面上に発現し、そして提示する、工程;
該異なるペプチドを提示する該第1の複数の宿主細胞から、変化したACEプロセシングを示す宿主細胞の第1のサブセットを選択する工程であって;ここで、該変化したACEプロセシングが、該宿主細胞を、ACEフラグメントのうちの少なくとも1種に特異的に結合する少なくとも1つの検出可能に標識されたマーカーに接触させ、そして該結合した標識マーカーを検出することにより、異なるペプチドを提示する該宿主細胞の表面から放出されるACEのうちの少なくとも1種の相対的な存在または非存在を評価することによって決定される、工程;ならびに
該宿主細胞の第1のサブセットから、ACE膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドをコードする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含む該発現ライブラリーの第1のサブライブラリーを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項54】
ACE膜タンパク質のプロセシングを変化させるペプチドを同定するための方法であって、以下:
複数のオリゴヌクレオチド、異なるペプチドをコードする異なる配列を有する少なくとも大多数のオリゴヌクレオチドを含む発現ライブラリーを、ACE膜タンパク質および少なくとも1つのACEプロセシング酵素を発現する第1の複数の動物宿主細胞に導入する工程であって、これによって、該宿主細胞が、実質的な生理条件下で、該異なるペプチドを分泌経路内および細胞外細胞表面上に発現し、そして提示する、工程;
該異なるペプチドを提示する該第1の複数の宿主細胞から、変化したACEプロセシングを示す宿主細胞の第1のサブセットを選択する工程であって;ここで、該変化したACEプロセシングが、該宿主細胞を、ACEフラグメントのうちの少なくとも1種に特異的に結合する少なくとも1つの検出可能に標識されたマーカーに接触させ、そして該結合した標識マーカーを検出することにより、異なるペプチドを提示する該宿主細胞の表面における、または該表面から放出されるACEのうちの少なくとも1種の相対的な存在または非存在を評価することによって決定される、工程;ならびに
該宿主細胞の第1のサブセットから、ACE膜タンパク質のプロセシングを変化させる該ペプチドをコードする少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含む該発現ライブラリーの第1のサブライブラリーを同定する工程
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−505271(P2006−505271A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550518(P2004−550518)
【出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/035289
【国際公開番号】WO2004/042074
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(505163660)アイコジェネックス コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】