説明

膝関節サポータ

【課題】立ち姿勢や座り姿勢への姿勢変更時にも大腿骨顆と頸骨上部関節面との相互の動きを滑らかにする。
【解決手段】帯状部材1を膝関節付近に巻き付けるように装着可能にし、この帯状部材1の片面にエアーバッグ2を着脱自在に取り付ける構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性膝関節症による歩行時の疼痛を緩和する場合等に使用する膝関節サポータに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化が進む中で、明らかな病因のある二次性のものや一次性のものも含めて、変形性膝関節症に悩む患者が増加している。また、この変形性膝関節症の治療や療法も外科的手術を初め、関節液の注入、筋肉トレーニング、電気治療、足底板やサポータの装着など、多岐に亘っている。
【0003】
変形性膝関節症の原因の多くは、関節軟骨の病気と言われるように、関節軟骨が擦り減ることにより大腿骨顆と頸骨上部関節面とが接触して炎症が起こるというものである。このため、歩行時や階段の昇降時に疼痛が生じ、遂には歩行困難を来たすこととなる。
【0004】
一方、これに対し、変形性膝関節症や関節炎などを原因とする歩行傷害を回避すべく、膝関節部位を圧迫、拘束するサポータを用いて関節の動揺を抑制し、痛みを緩和する方法が、従来から広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7‐148199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来の膝関節サポータは、これを膝に装着して立ち続ける場合や座り続ける場合には、関節の動揺が小さいかまたは無いために、大きな痛みを感じることはない。一方、この立ち姿勢や座り姿勢からそれぞれ座り姿勢や立ち姿勢に移行するとき、膝関節に捻り回転力が作用して、サポータの前記圧迫、拘束に抗し、大腿骨顆と頸骨上部関節面との間で滑らかでない摩擦接触が発生し、これにより疼痛を来たし、遂には歩行困難になってしまうという問題があった。
【0006】
また、前記膝関節の捻り回動を防止するために、膝関節、特に筋肉が付きにくい側部に、この側部のサイズ等に合った補強材を当接させるサポータが提案されている。しかし、その補強材が硬質部材からなるため、これが原因で却って歩行が困難になる場合があるほか、膝関節のサイズ等、個人差に応じて製作されるサポータ構成が複雑になり、重量およびコストが大きくなるという不都合があった。
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題点を解消するものであり、立ち姿勢や座り姿勢への姿勢変更時にも大腿骨顆と頸骨上部関節面との相互の動きを滑らかにできるとともに、構成の簡素化とローコスト化を実現することができる膝関節サポータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的達成のために、本発明にかかる膝関節サポータは、膝関節付近に巻き付けるように装着可能な帯状部材と、該帯状部材の片面に着脱自在に取り付けられるエアーバッグと、前記帯状部材と前記エアーバッグとの間に介在されるように、該エアーバッグに一体に設けられ、該エアーバッグの膨張力を受けても局部変形しない可撓性の抵抗板と、を備え、前記帯状部材の前記片面に、前記抵抗板の下端縁を支持するポケット部材が設けられてなることを特徴とする。
【0009】
この構成により、膝を屈曲した状態でエアーバッグにエアーを注入するだけで、膝関節周辺の皮膚や筋肉を大腿骨顆と頸骨上部関節面との間できる間隙に押し込むことができ、これにより大腿骨顆と頸骨上部関節面との摩擦接触を軽減して、この摩擦接触に基づく歩行時の疼痛発生や歩行困難を回避することができる。
【0010】
また、帯状部材の膝関節付近に対する巻き付け力が大きい場合でも、その巻き付け力がエアーバッグの全面に略均等に印加される。これにより、エアーバッグの全面を膝関節の所定部位に所定圧力で密着させることができ、さらに帯状部材自体やエアーバッグ自体の局部的な捩れや変形を未然に回避することができる。
【0011】
また、ポケット部材が設けられることで、帯状部材およびエアーバッグ間への抵抗板の介在と支承を容易に行うことができ、使用直前のサポータの組み付け作業を迅速化できる。
【0012】
また、本発明にかかる膝関節サポータは、前記エアーバッグの前記帯状部材側とは反対側の面に、該エアーバッグ内部に連通する中空円錐状の複数の突起が設けられてなることを特徴とする。
【0013】
この構成により、膝を屈折した状態でサポータを膝関節付近に装着する際に、複数の中空円錐状の突起がその膝関節近傍の皮膚や筋肉を大腿骨顆と頸骨上部関節面との間にできる間隙に強制的に押し込むように作用し、この結果、前記疼痛回避効果が顕著になる。
【0014】
また、本発明にかかる膝関節サポータは、前記エアーバッグに、内部に給気を行う給気バルブが設けられてなることを特徴とする。
【0015】
この構成により、給気ポンプを給気バルブに繋いで、エアーバッグ内に患者自身が選んだ所定圧力となるように給気を行うことができる。
【0016】
また、本発明にかかる膝関節サポータは、前記帯状部材の両端部に、互いに重ねて結合可能な面状ファスナが設けられてなることを特徴とする。
【0017】
この構成により、抵抗体およびエアーバッグとともに帯状部材を膝関節の所定部位に、迅速かつ簡単に装着することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、立ち姿勢や座り姿勢への姿勢変更時にも、大腿骨顆と頸骨上部関節面の相互の動きを滑らかにすることができるとともに、構成の簡素化とローコスト化を実現可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態は、膝関節付近に巻き付けられる帯状部材と、該帯状部材の片面に着脱自在に取り付けられるエアーバッグと、該エアーバッグに一体に設けられ、該エアーバッグの膨張力を受けても局部変形しない可撓性の抵抗板と、を備え、前記帯状部材の前記片面に、前記抵抗板の下端縁を支持するポケット部材を設けたことで、膝を屈曲した状態で前記エアーバッグにエアーを注入した際、膝関節周辺の皮膚や筋肉を大腿骨顆と頸骨上部関節面との間にできる間隙に押し込ませ、これにより大腿骨顆と頸骨上部関節面との摩擦接触を軽減して、歩行時の疼痛発生や歩行困難を回避するという構成である。
【0020】
図1は、本実施形態による膝関節サポータの全体を示す斜視図、図2は、図1における帯状部材を示す斜視図、図3は、図1におけるエアーバッグの斜視図、図4は、図1における抵抗板の斜視図、図5〜図7は図1における膝関節サポータの使用状況を示す説明図、図8は、図1における膝関節サポータの不使用時と使用時における大腿骨顆と頸骨上部関節面との関係を示す説明図、図9は、内反変形の矯正状況を示す説明図である。
【0021】
本実施形態による膝関節サポータは、図1に示すように、帯状部材1と、エアーバッグ2と、抵抗板3とから構成されている。これらのうち帯状部材1は、植物性繊維、動物性繊維、合成繊維などからなる織布によって構成される。また、この帯状部材1は、膝関節に容易に巻き付けることができ、かつ強靭性、柔軟性を有するものの、伸縮性はない。
【0022】
また、この帯状部材1は、膝関節を略一回りする長さで、図2に示すように、一端の外側面に雌側の面状ファスナ4が、また他端の内側に雄側の面状ファスナ5が、それぞれ一体に設けられている。なお、雄側の面状フィルタ5として起毛パイルが代用されることがある。
【0023】
面状ファスナ5部分では、帯状部材1端が2枚のファスナ5a、5bに分離されている。従って、各ファスナ5a、5bが身体の大腿部および頚部に対応する部位において、雌側の面状ファスナ4にそれぞれ接合可能となっている。
こうすることで、帯状部材1は、膝蓋骨と膝裏屈曲部を開放自在にして、膝の屈曲進展が妨げられないようになっている。
【0024】
また、帯状部材1の略中央部には、比較的大きな透孔6が穿設されており、これが膝の前部(膝頭)に当接可能にされて、その透孔6周辺部に伸縮性を持たせるとともに、その透孔6周辺部を膝頭に密接可能にしている。
帯状部材1の片面(内側面)の下部には、その帯状部材1の長手方向に延びるように矩形断面のポケット部材7が取り付けられている。このポケット部材7は後述の抵抗板の下縁を支承するように機能し、全体としてゴム、その他の柔軟材により作られている。
【0025】
さらに、帯状部材1の面状ファスナ4付近には、後述の給気バルブの一部を貫通するバルブ挿通孔8が設けられている。また、バルブ挿通孔8付近には、給気バルブを挿通させない状態のときに、このバルブ挿通孔8を塞ぐことができる開閉カバー9が設けられている。
【0026】
前記エアーバッグ2は、ゴム等の素材からなる柔軟性シートにより袋状に形成され、図3に示すように、全体として帯状部材1よりサイズが同等または僅か小さ目の長方形をなす。このエアーバッグ2は内部に給気を行って膨張させた場合にも、例えば10ミリ以下の厚みとすることが望ましい。
【0027】
前記エアーバッグ2の前面側には、多数の突起10が一体に設けられている。これらの突起10は、エアーバッグ2内に連通するように中空状をなしている。各突起の形状は、先端が丸く尖り、全体として円錐状をなし、例えば基部の外径が3ミリ、高さが2ミリにされている。
【0028】
また、各突起10は、皮膚や筋肉をその突起先端に集中する押圧力により大腿骨顆と頸骨上部関節面との間に押し込むように機能する。これにより、エアーバッグ2内に規定の給気圧の給気を行うことによって、各突起10が皮膚や筋肉を、ひざを折り曲げた状態の大腿骨顆と頸骨上部関節面との間に押し込むように作用させることができる。
【0029】
エアーバッグ2の中央部には、前記帯状部材1に設けられた透孔6に対向する位置に、つまり位置的に一致する箇所に透孔11が設けられている。さらに、このエアーバッグ2の端部付近の背面側には、給気バルブ12が取り付けられている。この給気バルブ12は、エアーバッグ2と比べて同一または幾分柔らかい材料を用いて形成され、この給気バルブ12の先端から空気を圧送することにより、エアーバッグ2を所定の硬さになるまで膨張させることができる。
【0030】
前記抵抗板3は、エアーバッグ2と略同一のサイズに形成された可撓性の薄板からなる。この抵抗板3は、全体としてある程度の柔軟性を持ち、またエアーバッグ2の膨張圧力を受けても、その面内で局部的に変形することがない物理特性を有する。このため、この抵抗板3の素材として皮革類や合成樹脂シートなどが用いられる。この抵抗板3の中央部には、つまり前記帯状部材1およびエアーバッグ2に設けられた各透孔6、11に対応する位置には、同一サイズの透孔13が形成されている。
【0031】
さらに、この抵抗板3の端部には、前記エアーバッグ12に取り付けられた給気バルブ12を貫通させるバルブ挿通孔14が設けられている。このバルブ挿通孔14は、帯状部材1上のバルブ挿通孔8に対応する位置に、同一サイズに形成されている。
【0032】
これらの帯状部材1、エアーバッグ2および抵抗板3は、次のように組み付けられて、膝関節サポータを完成することができる。
まず、前記帯状部材1、エアーバッグ2および抵抗板3を用意し、エアーバッグ2の背面側に抵抗板3を、接着材を用いて接着固定しておく。このとき、抵抗板3の透孔13にエアーバッグ2の透孔11を合致させ、エアーバッグ2の給気バルブ12を抵抗板3のバルブ挿通孔14に挿通させる。
【0033】
次に、エアーバッグ2に接着された抵抗板3を、帯状部材1の前面に対し同一水平面内において重ね合わせる。これによって、給気バルブ12の先端部が帯状部材1の外(背面側)へ突出させることができる。このため、エアーバッグ2が帯状部材1および抵抗板3から脱落しないように一体保持され、図1に示すような膝関節サポータの形態になる。
【0034】
次に、この実施形態による膝関節サポータの使用例を説明する。
まず、この膝関節サポータをエアーバッグ2を内側にして、図5または図6に示すように膝に巻き付け、図6に示すように、雄側の面状ファスナ5a、5bを雌側の面状ファスナ4に接合する。
【0035】
次に、膝関節サポータの背面側に臨む給気バルブ12の先端に、図10に示すようなゴム式の手動ポンプ15のホース金具16を接続する。そして、椅子に座るなどして、膝を屈曲させる。これにより、大腿骨顆16が図8(a)の状態から図8(b)の状態に後退し、頸骨上部関節面17との間に間隙Gが作られる。
【0036】
ここで、前記手動ポンプ15を操作し、給気バルブ12を通じてエアーバッグ2内に空気(エアー)の注入を行う。この空気の注入によって、エアーバッグ2は次第に膨張していき、このエアーバッグ2表面の、中空状の各突起10の先端が皮膚や筋肉を圧迫する。
【0037】
このため、エアーバッグ2の表面と皮膚との密着度が高まり、前記大腿骨顆16と頸骨上部関節面17との間にできた間隙Gに肉部分が押し込められる状態になる。つまり、前記間隙Gに恰もコロ(転)が噛まされた(介在された)状態になる。
【0038】
従って、歩行のために図7に示すように膝を立てると(進展させると)、そのコロが大腿骨顆を円滑に死傷することとなる。この結果、大腿骨顆16と頸骨上部関節面17との直接的な摩擦接触を軽減することができる。
このように、エアーバッグ2の膨張により、膝関節付近がエアーバッグ2と一体となってコルセットで締め付けたような状態となり、膝関節サポータが膝関節への負荷(体重)を支える抵抗力となる。
【0039】
また、前記膝関節サポータは皮膚とともに筋肉をエアーバッグ2の膨張圧によって押し出す機能を持つため、図9(a)に示すような内反変形(O脚)によって大腿骨顆16と頸骨上部関節面17との間に生じた間隙G1に対しても、前記同様に機能させることができる。すなわち、図9(a)において、矢印P方向の所謂コロ噛し機能によって、膝にぶれを生じさせないようにし、無理のない長時間の矯正を可能にする。この結果、図9(b)に示すように、内反変形状態を徐々に正常状態に戻すことが可能になる。
【0040】
以上のように、本実施形態にあっては、膝関節付近に巻き付けられる帯状部材1と、該帯状部材1の片面に着脱自在に取り付けられるエアーバッグ2と、該エアーバッグ2に一体に設けられ、該エアーバッグ2の膨張力を受けても局部変形しない可撓性の抵抗板3と、を備え、前記帯状部材1の前記片面に、前記抵抗板1の下端縁を支持するポケット部材7を設けたことで、膝関節サポータの組付けが簡単になり、この膝関節サポータの使用時には、膝を屈曲した状態でエアーバッグ2にエアーを注入するという簡単操作によって、膝関節周辺の皮膚や筋肉を大腿骨顆16と頸骨上部関節面17との間にできる間隙G、G1に押し込むことができ、これにより大腿骨顆16と頸骨上部関節面17との摩擦接触を軽減して、この摩擦接触に基づく歩行時の疼痛発生や歩行困難を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の膝関節サポータは、立ち姿勢や座り姿勢への姿勢変更時にも大腿骨顆と頸骨上部関節面との相互の動きを滑らかにできるとともに、構成の簡素化とローコスト化を実現することができるという効果を有し、主に変形性膝関節症による歩行時の疼痛を緩和するのに使用する膝関節サポータ等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態による膝関節サポータを示す斜視図である。
【図2】図1に示す帯状部材の斜視図である。
【図3】図1に示すエアーバッグの斜視図である。
【図4】図1に示す抵抗板の斜視図である。
【図5】本発明の実施形態による膝関節サポータの使用例を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態による膝関節サポータの使用例を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態による膝関節サポータの使用例を示す説明図である。
【図8】本発明によって大腿骨顆と頸骨上部関節面との間に間隙ができる状況を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態による膝関節サポータを内反変形の矯正に使用する例を示す説明図である。
【図10】本発明におけるエアーバッグに使用する手動ポンプを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1…帯状部材、2…エアーバッグ、3…抵抗板、4,5…平面ファスナ、7…ポケット部材、10…突起、12…給気バルブ、16…大腿骨顆、17…頸骨上部関節面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝関節付近に巻き付けるように装着可能な帯状部材と、
該帯状部材の片面に着脱自在に取り付けられるエアーバッグと、
前記帯状部材と前記エアーバッグとの間に介在されるように、該エアーバッグに一体に設けられ、該エアーバッグの膨張力を受けても局部変形しない可撓性の抵抗板とを備え、
前記帯状部材の前記片面に、前記抵抗板の下端縁を支持するポケット部材が設けられてなることを特徴とする膝関節サポータ。
【請求項2】
前記エアーバッグの前記帯状部材側とは反対側の面に、該エアーバッグ内部に連通する中空円錐状の複数の突起が設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の膝関節サポータ。
【請求項3】
前記エアーバッグは、内部に給気を行う給気バルブが設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の膝関節サポータ。
【請求項4】
前記帯状部材の両端部には、互いに重ねて結合可能な面状ファスナが設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の膝関節サポータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−161330(P2008−161330A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352475(P2006−352475)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(599070709)
【Fターム(参考)】