説明

膨張するスラリー床内への気体の反応物質からの液体のまた任意に気体の炭化水素の生成

液体の、任意に気体の生成物を気体反応物質から生成するステップは、少なくともCOおよびHを含む気体反応物質材料を、懸濁液体中に懸濁した固体で非シフト型の炭化水素合成用触媒粒子からなる膨張するスラリー床内へ、低い高さにおいて給送するステップと、膨張するスラリー床は、アスペクト比が5未満である。気体反応物質および種々の再循環ガスは、液体の、任意に気体の生成物を形成するように、少なくとも35cm/秒のガス速度でスラリー床の中を上方に通過すると、少なくとも60%の、CO+Hの1回通過あたりの転化率で反応し得る。気体反応物質および種々の再循環ガスと、種々の気体生成物とは、懸濁液体中に懸濁した状態に固体の触媒粒子を維持することに役立つ。液体生成物は、懸濁液体とともに、スラリー床からなる液相を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体の反応物質から、液体の生成物と、任意に気体の生成物とを生成するプロセスに関する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明によれば、気体反応物質から、液体の生成物と、任意に気体の生成物とを生成するプロセスが提供され、当該プロセスは、少なくともCOおよびHを含む気体反応物質材料を、懸濁液体中に懸濁する固体で非シフト型の炭化水素合成用触媒粒子からなる膨張するスラリー床内に、低い高さから給送するステップであって、スラリー床は、容器に収容され、膨張するスラリー床は、アスペクト比が5未満である給送ステップと、任意に、再循環ガス流をスラリー床内へ給送するステップと、液体の生成物と、任意に気体の生成物とが形成されるように、気体反応物質と種々の再循環ガスとを、少なくとも35cm/秒の入口空塔速度でスラリー床の中を上方に通過させて、CO+Hの1回通過あたりの転化率を少なくとも60%で反応させ得るステップであって、気体反応物質および種々の再循環ガスと、種々の気体生成物とによって、固体の触媒粒子を懸濁状態で懸濁液体中に維持し、また、液体生成物は、懸濁液体とともにスラリー床の液相を形成する反応ステップと、種々の気体生成物および反応しなかった気体反応物質と、反応しなかった種々の再循環ガスとを、スラリー床から、気体成分として、スラリー床上方のヘッドスペース内へ遊離させ得るステップと、気体成分をヘッドスペースから引き出すステップと、スラリー床を所望の高さに維持するために液相をスラリー床から引き出すステップと、再循環ガス流を提供するように、任意に、ヘッドスペースから気体成分のいくらかを再循環させるステップと、を含んでいる。
【0003】
本明細書において、「アスペクト比」という用語は、膨張するスラリー床の高さの、床を収容する反応容器の内径に対する、円形でない柱筒形の反応容器の場合は公称内径に対する比を指す。円形でない柱筒形の容器の公称内径は、円形でない柱筒形の容器の内側の断面積と同じ面積の円の直径である。よって、スラリー床は、スラリー反応器または気泡塔などの3相反応容器の反応ゾーンに収容されまたは設けられる。スラリー反応器または気泡塔は、3相システム、すなわち、固体の触媒粒子と、液体の生成物と、気体の反応物質(どんな再循環ガスも含む)、また任意に、気体の生成物および不活性ガスとを使用する。
【0004】
入口空塔速度は、反応器の内径と、反応前の反応器の入口におけるガス流量とを用いて計算される。流量は、反応器入口における温度と圧力の作用条件に基づく。
【0005】
膨張するスラリー床の高さは、約40m未満、好ましくは約30mと約40mとの間、例えば、38mの場合がある。一般に、スラリー床の直径は、少なくとも6mである。
【0006】
CO+Hの1回通過あたりの転化率は、好ましくは少なくとも約61%、さらに好ましくは少なくとも約62%、最も好ましくは少なくとも約64%である。
【0007】
触媒粒子は、少なくとも14体積%の平均濃度で、スラリー床中に存在することが好ましい。理論に縛られることは望ましくないが、本出願人の考えでは、これらの触媒の充填時にスラリー粘度を高くすることが、本発明のプロセスの高空塔速度でのガスの混合を妨げることに役立ち、それにより、反応器の生産性が改善され得る。
【0008】
一般に、本プロセスは、一段プロセスであって、すなわち、本プロセスが複数のマルチパス式炭化水素合成段階を平行して含む場合があるのは当然だが、本プロセスでは、マルチパス式炭化水素合成段階の前後に別の炭化水素合成段階を行わずに、少なくとも1つのマルチパス式炭化水素合成段階を行うことを含む。よって、再循環ガス流は、再循環ガス流/気体反応物質材料の体積比が少なくとも0.4で、存在し、スラリー床内に給送されることが好ましい。
【0009】
「非シフト型の炭化水素合成触媒」が意味するのは、炭化水素合成段階の作用状態において、スラリー床を通るCOの2%以下のCOしかCOに化学変化させない炭化水素合成触媒のことである。
【0010】
一般に、HおよびCOは、H/COのモル比が2以下、しかしながら好ましくはH/COのモル比が1.7以上で気体反応物質材料中に存在する。換言すれば、気体反応物質材料中には、炭化水素合成のための化学量論的条件を超えるCOが過剰に存在するので、合成段階における望ましくないメタンの生成を抑制することが好ましい。
【0011】
気体反応物質材料には、一般に、Nなどの不活性および希釈ガスのかなりの部分を含まれることが理解される。気体反応物質材料中に一般に存在する別のガスが、COであり、COは、あらゆる実用目的のために、触媒が非シフト型の触媒のとき、不活性ガスの場合があると考えられる。当業者には分かるように、これらの不活性または希釈ガスは、望ましくないが、これらのガスの発生を防止または除去しようとすることは不経済であるので、その存在は避けられない。
【0012】
液体生成物と、任意の気体生成物とは、フィッシャートロプシュ合成に特有の生成物、C+炭化水素、およびオキシジャネイト、例えば、エタノールなどを含み得る。本プロセスは、フィッシャートロプシュ炭化水素合成プロセスであり得る。したがって、懸濁液体は、液体生成物の場合があり、触媒は、担持コバルト触媒などの、非シフト型のフィッシャートロプシュ用触媒でもよい。触媒粒子は、望ましい粒子の大きさの範囲にし得る。例えば、300ミクロンより大きい触媒粒子はなく、触媒粒子の5体積%未満の触媒粒子が、22ミクロンより小さい。
【0013】
本プロセスは、液体生成物、例えば、液体の炭化水素および反応水を凝縮させるように、ヘッドスペースから気体成分を冷却するステップと、テールガスを供給するように気体から液体生成物を分離するステップと、任意にテールガスの少なくともいくらかを再循環ガス流としてスラリー床へ再循環させるステップと、を含み得る。
【0014】
本プロセスは、追加のガス材料として、再循環ガス流の少なくとも一部分を、気体反応物質材料がスラリー床内に給送される高さよりも上においてスラリー床内へ給送するステップを含む場合がある。追加のガス材料は、スラリー床の垂直方向の高さの約20%と約80%との間の高さにおいて、好ましくは、スラリー床の垂直方向の高さの30%を超える高さにおいて、給送され得る。
【0015】
追加のガス材料は、ガススパージャーによりスラリー床内に導入され得る。
【0016】
追加のガス材料は、スラリー床に入るガスの全体積流量の少なくとも10%を占め得る。一般に、追加のガス材料は、スラリー床に入るガスの全体積流量の60%未満である。
【0017】
よって、スラリー反応器または気泡塔は、フィッシャートロプシュ合成反応と関連した、標準の高圧および温度条件に、例えば、10から50バールの範囲の所定の作動圧力、および160℃から280℃の範囲の所定の温度、または沸点が低い生成物の生成のためにはさらに高い温度に維持され得る。温度範囲は、220℃から260℃であるのが一般的である。
【0018】
よって、スラリー床中の触媒粒子は、スラリー床を通過する、すなわち、スラリー床中を泡状で流れる(新たな、また任意に再循環された)合成ガス流により乱流が生じることによって、懸濁状態に維持される。よって、スラリー床の中における少なくとも35cm/秒の入口空塔速度は、スラリー床を乱流または懸濁状態に維持するのに十分高い。
【0019】
本プロセスは、スラリー床中の液相を再循環させるステップを含み得る。特に、本プロセスは、スラリー再分配手段またはスラリー再分配器を使用して、スラリーをスラリー床内の高い位置から下向きに低い位置へ通過させることにより、スラリー床中に熱、液体相および触媒粒子を再分配し得るステップを含み得る。
【0020】
本明細書において、「スラリー再分配手段」または「スラリー再分配器」という用語は、スラリーおよび触媒粒子を、反応容器内に垂直方向に再分配するために使用する物理的装置のことを指すものであって、スラリーおよび触媒粒子が、スラリー床の中を上方に通過するガスを再分配することを指してはいない。よって、スラリー再分配手段は、ダウンカマーまたはドラフト管、あるいは管、ポンプおよびフィルタなどの機械的な再分配手段を含み得る。
【0021】
スラリー再分配手段にダウンカマーが含まれる場合、ダウンカマーは、第1のダウンカマー領域および第2のダウンカマー領域に配置され得、第2のダウンカマー領域は、第1のダウンカマー領域に対して垂直方向に間隔をおいて配置されている。
【0022】
よって、ダウンカマーまたはドラフト管は、スラリー床内の異なる高さまたは垂直方向の高さに配置され得る。第2のダウンカマー領域は、第1のダウンカマー領域よりも高い位置に配置される場合があり、望ましい場合、それぞれ少なくとも1つのダウンカマーまたはドラフト管を収容する別のダウンカマー領域を、第2のダウンカマー領域よりも上に設け得る。また、第3のまた次のどんなダウンカマー領域も、相互に垂直方向に間隔をおいて配置してよい。
【0023】
本発明の一実施形態では、第2のダウンカマー領域は、第1のダウンカマー領域の一部に重なる場合がある。換言すれば、第2のダウンカマー領域の1つのダウンカマーの下端または複数のダウンカマーの下端は、第1のダウンカマー領域のダウンカマーの上端の一部と重なる場合がある。しかしながら、本発明の別の実施形態では、第2のダウンカマー領域は、第1のダウンカマー領域に対して重ならない関係で配置し得る。換言すれば、第2のダウンカマー領域のダウンカマーの下端は、第1のダウンカマー領域のダウンカマーの上端から垂直方向に隙間を設けて配置され得る。
【0024】
第2のダウンカマー領域のダウンカマーは、反応器または容器を平面図で見て、第1のダウンカマー領域のダウンカマーに対してずらして配置され得る。換言すれば、第2のダウンカマー領域のダウンカマーの下端は、スラリーを、第1のダウンカマー領域のダウンカマーの上端のすぐ上において排出することが好ましい。
【0025】
各ダウンカマーは、下方輸送部と、輸送部よりも断面積が広い上方非係合または脱気部とを備え得る。これらの部分は、断面が円形であることが好ましく、円筒形であり、また、外側上方へフレアー状の連結部が、輸送部に非係合部を連結する。しかしながら、非係合部は、反応容器内の空き空間により決定されるが、望ましい場合、別の適切な形状、例えば、長方形または三角形の断面のチャネルでもよい。
【0026】
各ダウンカマーは、通常、スラリー床内、すなわち、反応器内に全体が配置され、一般的に、輸送部と軸の方向に並べられる脱気部を有しているが、その代わりに、輸送部と、任意に脱気部の一部分とは、反応器の外側に配置してよい。しかしながら、輸送部の下方出口端と、脱気部の少なくとも上方入口端とは、反応器内の、スラリー床またはスラリー床ゾーン内に配置される。望ましい場合、輸送および脱気部は、間接的な冷却手段、例えばボイラーの給水が流れる配管により冷却され得る。
【0027】
本プロセスは、スラリー床が、不均一なまたは撹拌されて乱流となった領域にあるような、また、反応ゾーンまたはスラリー床を実質的に栓流状に横断する気体反応物質および場合によっては気体生成物からなる、早く上昇する大きなボイドの希薄相を含み、かつ、液体生成物と、固体の触媒粒子と、気体反応物質および場合によっては気体生成物とからなる、同伴される比較的小さいボイドを含む液相、すなわち濃厚相を含むような炭化水素合成段階を行うステップを含み得る。
【0028】
気体反応物質材料は、石炭から誘導される合成ガスまたは合成ガスを誘導する天然ガスなどの種々のソースから誘導されるどんな合成ガスでもよい。しかしながら、本発明によって、気体反応物質材料が合成ガスを誘導する天然ガスである場合の、特定の応用が見いだされることになると思われる。
【0029】
再循環ガス流/気体反応物質材料の比は、上述のように下限が0.4で、上限が約1.5であり得る。しかしながら、下限は、約0.5では大き過ぎる場合があり、または約0.6ではさらに大き過ぎる場合がある。上限は、約1.3では小さ過ぎる場合があり、または約1という小ささの場合さえある。本発明の一実施形態では、比は、約0.8である。
【0030】
触媒粒子は、上述のように下限が14体積%で、上限が約50体積%でスラリー床中に存在し得る。上限は、約40体積%では低過ぎ、または約30体積%ではさらに低過ぎる場合がある。
【0031】
標準または定常状態での作動中におけるスラリー床中の入口空塔速度は、上述のように下限が35cm/秒であり、上限が所望の最小限の全COの転化により決定され得る。しかしながら、下限は、約40cm/秒では高過ぎ、または約45cm/秒ではさらに高過ぎる場合がある。上限は、触媒の活性によりもたらされるが、一般に85cm/秒以下になる。
【0032】
炭化水素合成段階、すなわち、スラリー床は、CO+H全体の転化率を、80%を超え、好ましくは81%を超え、さらに好ましくは82%を超え、最も好ましくは83%さえ超える転化率にして作動され得る。これは、十分高い再循環比で作動させることによって、達成され得る。
【0033】
炭化水素合成段階は、C+炭素選択性を、85%を超え、好ましくは90%を超え、最も好ましくは92%を超える、例えば約92.6%の選択性にして作動が行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
ここで、添付の概略図を参照して、さらに詳細に本発明を説明する。この図は、本発明に係るプロセスにおいて使用し得る設備の長手方向断面図であり、この設備は、気体の反応物質から液体の生成物と、気体の生成物とを生成する。
【0035】
設備10は、直立型円筒形のフィッシャートロプシュ合成スラリー相反応器または気泡塔12を含み、当該反応器12は、反応器12内においてガスディストリビュータ(図示せず)内へ通じる底部の気体反応物質給送入口14と、反応器12の上部から通じる気体成分出口16と、を有する。液相生成物出口18は、都合のよい種々の高さにおいて反応器12に通じている。
【0036】
反応器12は、全体を参照番号20で示す第1のダウンカマー領域を含む。ダウンカマー領域20は、全体を参照番号22で示すダウンカマーを含む。ダウンカマー22は、比較的直径が小さい円筒形の輸送部24と、輸送部24の上端の、外側へフレアー状になった連結部26と、直径が大きく、下端部が連結部26に連結された脱気部28とを含む。よって、脱気部28の上端は、スラリー入口40となり、また、輸送部24の下端部は、スラリー出口42となる。冷却管29も、ダウンカマー20内に設けられる。
【0037】
反応器12はまた、全体を参照番号30で示す第2のダウンカマー領域を含む。ダウンカマー領域30は、全体を参照番号32で示すダウンカマーを含む。ダウンカマー32はまた、直径が比較的小さい輸送部34と、輸送部34の上端の、外側へフレアー状になった連結部36と、輸送部34の上端の、直径が比較的大きい脱気部38と、を含む。よって、脱気部38の下端は、連結部36に連結されている。脱気部38の上端は、スラリーの入口になっており、また、輸送部34の下端は、スラリーの出口になっている。ダウンカマー領域30内にも、冷却管39が設けられる。
【0038】
ダウンカマー32の下端は、ダウンカマー22の上端から垂直方向に隙間を伴って配置される。さらに、ダウンカマー32は、ダウンカマー22と軸方向に位置を合わせていない。換言すれば、ダウンカマー32は、反応器12を平面図で見たときに、ダウンカマー22と位置をずらして配置されている。
【0039】
反応器12は、再循環ガス流入口52も有し、この入口52は、気体反応物質給送入口14の高さにまたはそれよりも高くに設けられる。再循環ガス流入口52もまた、反応器12内において、図示していないガスディストリビュータに通じている。
【0040】
設備10は、気体成分出口16と流体連通する分離装置54と、分離装置54と流体連通する圧縮器56とをさらに含む。再循環ガス流ライン58は、圧縮器56から再循環ガス流入口52に通じている。液体生成物ライン60が、分離装置54から通じており、末端ガスライン62が、分離装置54と圧縮器56との間を流体連通させている。設備10は、望ましい場合、給送入口14に通じる再循環ガス流ライン59を含む場合がある。
【0041】
使用時の反応器12は、スラリー床70を収容するスラリー床ゾーンを提供し、このスラリー床70は、液相生成物中に懸濁した、固体で非シフト型の炭化水素合成用担持コバルト触媒粒子を20体積%含有している。スラリー床70は、スラリー床70の上方にヘッドスペース74を設けて、第2のダウンカマー領域30の上方に標準の高さの上面72を有する。
【0042】
反応器12の内径が約10mで、スラリー床70の膨張した高さが約40mで、アスペクト比は約4になる。
【0043】
使用時において、気体反応物質として主に一酸化炭素および水素を含む、気体反応物質材料または新たな合成ガスが、反応器12の底部から気体反応物質給送入口14を通って給送され、ガスは、一般に、反応器12内において、スパージャ装置またはグリッドプレート(図示せず)を通って均一に分散される。同時に、一般に水素、一酸化炭素、メタン、および二酸化炭素を含む(一般に冷却された)再循環ガス流が、気体反応物質給送入口14より上の高さにおいて、再循環ガス流入口52から反応器12内へ、反応器12内のスパージャ装置(図示せず)を通って給送される。入口52は、入口14の上方の、スラリー床70の垂直方向の高さの少なくとも約20%のところに配置されることが一般的である。
【0044】
気体反応物質は、新たな合成ガスおよび再循環ガスを含んで、スラリー床70の中を上方へ通過する。合成ガスがスラリー床70の中を気泡として通過すると、その中の気体反応物質は、触媒反応して、液体生成物が生じ、よって、この液体生成物は、スラリー床70の一部を形成する。時々または連続して、液体生成物を含む液相が、液相生成物出口18から引き出され、また、触媒粒子が、適切な内部のまたは外部の分離システム内において、例えば、フィルター(図示せず)を使用して、液体生成物から分離される。分離システムが反応器の外側に配置された場合、分離される触媒粒子を反応器に戻すように追加の装置(図示せず)が設けられる。
【0045】
気体反応物質給送(新たな合成給送ガス)および任意に再循環ガスのいくらかまたは全ては、装置内において触媒粒子の全てを沈殿させずに撹拌し懸濁させるのに十分な速度で、反応器12の底部内へ導入される。ガス流量は、スラリーの濃度と、触媒の密度と、懸濁媒質の密度および粘度と、使用する特定の粒子の大きさとによって選択されることになる。しかしながら、本発明によれば、ガス速度および再循環ガス給送場所は、ガスが、スラリー床70を上方へ、反応器12の底端部領域において少なくとも35cm/秒の空塔速度で通過するように選択される。これは、文献から明らかなこのような高速での作動は敬遠されるという観点から、またガス速度を高くすることには、反応器内にガスがさらに多く滞留して、触媒含有スラリーを収容する空間が狭くなるという欠点があるという観点からすると、驚くほど高速である。
【0046】
いくらかのスラリーが、連続してダウンカマー32、22の中を下向きに通ることにより、触媒粒子は、スラリー床70内に均一に再分布され、また、スラリー床70中の熱の分布が均一になることが保証される。
【0047】
反応器12は、スラリー床70が、不均一なまたは撹拌されて乱流の状態になるように、また、スラリー床70を実質的に栓流状に横断する気体反応物質および気体生成物からなる、早く上昇する比較的大きなボイドの希薄相を含み、かつ液体生成物と、固体触媒粒子と、気体反応物質および逆混合された気体生成物からなる、同伴される比較的小さいボイドとを含む高密度相を含むように、作動される。
【0048】
間接的な熱交換または伝達媒質としてのボイラー水が、冷却管29、39の中を循環する。熱は、スラリー床70からボイラー水へ伝達されて、蒸気および水の混合物が生成する。
【0049】
19およびそれより少ない炭素数などの軽い炭化水素生成物は、反応器12から気体成分出口16を通って引き出され分離装置54へ通過する。一般に、分離装置54は、残留気体成分から、液相の軽い炭化水素生成物、水および任意に二酸化炭素を分離するための、一連の冷却器および気液分離器を含み、任意にさらに冷却器および分離器、さらには低温装置を含む場合がある。膜装置、圧力スイング吸着装置および/または二酸化炭素およびメタンを選択的に除去する装置などの他の分離技術を用いてもよい。水素、一酸化炭素および他のガスを含む、分離されたガスは、圧縮器56により圧縮され、再循環されて、再循環ガス流になる。凝縮した液体炭化水素と反応水は、次の加工のために、フローライン60により分離装置54から引き出される。
【0050】
本発明の好ましい実施形態によれば、再循環ガス流58は、再循環ガス流入口52および/または入口14を通ってスラリー床70へ給送され、再循環ガス流と、気体反応物質給送入口14から入ってくる気体反応物質材料、との体積比は、少なくとも0.4である。よって、プロセス10は、反応器12により定められるマルチパス型炭化水素合成段階を用い、比較的大きな再循環比を用いる。
【0051】
上に示したように、再循環ガスの一部分は、気体反応物質給送入口14を通って反応器12内へ給送される気体反応物質材料と化合し得る。一般に、スラリー床70に入るガスの全体積供給量の約10%と約60%との間のガスが、再循環ガス流入口52を通って給送され、その残りが、気体反応物質給送入口14を通って入ってくる。
【0052】
反応容器12は、一般に、約10バールと約50バールとの間、さらに一般的には約20バールと約30バールとの間の作動圧力に、かつ160℃と280℃との間、一般的には約220℃と260℃との間の作動温度に維持される。選択される作動圧力および作動温度は、必要とされる気体生成物および液体生成物の性質および拡散と、使用する触媒のタイプとにより異なる場合がある。当然ながら、反応容器12には、反応温度を制御するための冷却管29、39などの適切な温度制御手段と、1つまたはそれ以上の圧力制御弁(図示せず)などの適切な圧力制御手段とが設けられている。
【0053】
反応容器12内において、合成ガスがスラリー床70を通過すると、一酸化炭素および水素が、反応して、既知のフィッシャートロプシュ反応によってある種類の生成物が生成される。これらの生成物のいくつかは、上述のように、反応器12が作動している状態では気体状であり、上述のように、気体成分出口16を通って気体成分として引き出される。生成された生成物のいくつかは、反応器12が作動している状態では、液体状、例えば、蝋状であり、上述のように、触媒粒子の懸濁媒質として作用する。しかしながら、反応器12は、CO+Hの1回通過あたりの転化が少なくとも60%行われるように作動させる。
【0054】
例として、本出願人は、59.4体積%の水素と、31.3体積%の一酸化炭素とを含む合成ガスを781940m/時で処理するように、マルチパス型フィッシャートロプシュスラリー相反応器を設計した。反応器の設計では、米国特許第5,733,839号明細書の教示によって調製される、非シフト型の担持コバルトフィッシャートロプシュ用触媒の41重量%(22体積%)の平均濃度が、用いられ、米国特許第5,733,839号明細書は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。本設計における膨張したスラリー床は、アスペクト比が約4である。反応器底部において24.7バール(a)、230℃の条件で、41cm/秒の入口空塔速度を適用した。本設計について、0.8の、再循環ガス流または気体反応物質材料の再循環比を適用する。全再循環ガス流は、反応器底部に気体反応物質材料とともに給送される。本設計によれば、CO+Hの全転化率が89%に、またCO+Hの1回通過あたりの転化率が61%になり、また、C+炭素の選択性は92.6%になり、C+炭化水素生成物の生成速度は、1日あたり22000バレルを超える。これは、驚くほど高生成速度であり、これまで考えられていた以上にずっと高い生成速度である。この設計について、研究所の条件下で得られる触媒活性はまた、商業規模の反応器において得られると仮定される。しかしながら、市販の触媒の活性が低い場合、同じ反応器の設計および性能は、より高い平均触媒濃度を用いることにより達成され得ることが理解される。
【0055】
本出願人は、驚くべきことに、反応器の底部の35cm/秒を超える空塔速度で、60%を超える、CO+Hの1回通過あたりの転化率(すなわち、合成ガスの転化)を得られることを発見した。これによって、ガスを再循環させることにより、一段反応器内において80%を超える全合成ガスの転化を達成でき、これには、コスト上の利点がある。高速でどんどん混合が行われた結果として、ガス速度が増すにつれて、転化は急速に減少するという、当業者の一般的な見方とは逆に、本出願人は、驚くべきことに、5未満の小さいアスペクト比の反応器内においてさえ、ガスが高ガス速度で栓流の挙動を保持すること、および転化が物質移動の限定により制限されないことを発見した。換言すると、驚くべきことに、先行技術の教示とは逆に、空時収量が、これらの高空塔速度で著しく上がり続けたのである。結果として、CO+Hの1回通過あたり60%を超える転化率、35cm/秒を上回る入口空塔速度で、1時間あたり1kgの触媒で420gを超える炭化水素が得られる、反応器の生産性を達成できる。
【0056】
反応器の設計の評価によって、本出願人が知っている先行技術の反応器の設計のどの設計よりも、または本出願人に既知の特定の非シフト型のフィッシャートロプシュ用触媒を用いたこの特定のフィッシャートロプシュ合成応用のために本出願人が考えた他のどんな設計の提案よりも低コストであることが、確認されたことが有利である。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の反応物質から、液体の生成物と、任意に気体の生成物とを生成するプロセスであって、
少なくともCOおよびHを含む気体反応物質材料を、懸濁液体中に懸濁する固体で非シフト型の炭化水素合成用触媒粒子からなる膨張するスラリー床内に、低い高さから給送するステップであって、前記スラリー床は、容器に収容され、膨張するスラリー床は、アスペクト比が5未満である給送ステップと、
任意に、再循環ガス流を前記スラリー床内へ給送するステップと、
液体の生成物と、任意に気体の生成物とが形成されるように、前記気体反応物質と種々の再循環ガスとを、少なくとも35cm/秒のガス速度で前記スラリー床の中を上方に通過させて、CO+Hの1回通過あたりの転化率を少なくとも60%で反応させ得るステップであって、前記気体反応物質および種々の再循環ガスと、前記種々の気体生成物とによって、前記固体の触媒粒子を懸濁状態で前記懸濁液体中に維持し、また、前記液体生成物は、前記懸濁液体とともに前記スラリー床の液相を形成する反応ステップと、
種々の気体生成物および反応しなかった気体反応物質と、反応しなかった種々の再循環ガスとを、前記スラリー床から、気体成分として、前記スラリー床上方のヘッドスペース内へ遊離させ得るステップと、
前記気体成分を前記ヘッドスペースから引き出すステップと、
前記スラリー床を所望の高さに維持するために液相を前記スラリー床から引き出すステップと、
前記再循環ガス流を提供するように、任意に、前記ヘッドスペースから前記気体成分のいくらかを再循環させるステップと、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記膨張するスラリー床は、高さが約40m未満、直径が少なくとも約6mである請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記触媒粒子は、少なくとも14体積%の平均濃度で前記スラリー床中に存在する請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
一段プロセスである請求項1から3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記再循環ガス流は、少なくとも0.4の、再循環ガス流/気体反応物質材料の体積比で、存在し、前記スラリー床内に給送される請求項1から4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
フィッシャートロプシュ炭化水素合成プロセスである請求項1から5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記再循環ガス流が存在し、少なくとも前記再循環ガス流の一部分を、追加のガス材料として、前記気体反応物質材料が前記スラリー床内へ給送される高さよりも上において、前記スラリー床内へ給送するステップを含む請求項1から6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記再循環比は、CO+Hの全ての転化率が約80%よりも高い転化率で前記スラリー床が作動するのに十分大きい請求項1から7のいずれかに記載のプロセス。

【公表番号】特表2007−536376(P2007−536376A)
【公表日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512614(P2007−512614)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【国際出願番号】PCT/IB2005/051382
【国際公開番号】WO2005/107935
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(500159211)サソール テクノロジー(プロプライエタリー)リミテッド (25)
【Fターム(参考)】