説明

臨界水を用いた反応プロセス

【課題】超臨界水と酸を作用させる有機合成プロセスを副生成物に伴うトラブルを抑制して安定的に進めること。
【解決手段】 水ヘッダ(101)(201)から高圧ポンプ(110)(210)に水を送液し、35MPaになるよう減圧弁(324)を調整し昇圧する。反応温度が400℃となるように、プレヒータ(120)(220)、ヒータ(310)を昇温させ、原料ヘッダ(203’)から有機化合物原料(グリセリン)を、酸ヘッダ(203)から酸(硫酸)を供給して超臨界水と作用させて得られる反応液を、第1の冷却(420)にて100〜200℃に冷却した後、反応液中に含まれる固体成分を反応液からフィルタ(320)で分離除去し、次に第2の冷却(620)にて反応液を約100℃以下の温度に冷却した後、減圧(324)し、更に、第3の冷却(720)を行って、合成された製品(アクロレイン)を取り出す方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超臨界水を用いた有機物の合成方法であり、特に、水素イオン存在下においてグリセリンから1,3-プロパンジオールの原料であるアクロレインを合成する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-プロパンジオールは、ポリトリメチレンテレフタレートをはじめとする高品質なポリエステル繊維の原料であるため、近年需要が増加してきている。1,3-プロパンジオールの合成方法の一つに、非特許文献1に示されたアクロレイン水和・水添法がある。これは、石油原料であるプロピレンを、触媒存在下で空気酸化して合成したアクロレインを水和・水添反応して製造するもので、工業的製造方法として確立している。しかしながら、近年の原油価格の高騰から、バイオ原料からの合成方法の開発が望まれている。
【0003】
バイオ原料から1,3-プロパンジオールを化学合成により合成する方法は報告されていないが、前駆体であるアクロレインを合成する技術は存在し、例えば、非特許文献2に報告されている。非特許文献2が示す方法は、バイオ原料であるグリセリンを出発物質として、アクロレインを400℃、35MPaの超臨界水を用いて合成する方法であり、超臨界水に微量添加した硫酸によるプロトンがグリセリンの脱水反応を加速させる助触媒として機能する点に特徴がある。しかしながら、本方式では熱分解により副生成物としてタールやカーボン粒子の混合物が生成し、配管や弁が閉塞する可能性がある。このため、本反応では副生成物の生成量を低減するため、原料を低濃度にする必要がある。この結果、生産量あたりに必要となる水の昇温・昇圧に用いるエネルギー、コストが膨大になり、大量生産を行う工業化が困難な状況であった。
【0004】
また、塩類を中心とした固体粒子の除去を考慮した超臨界反応装置の一例について、特許文献1に報告されている。本技術は、水が常温常圧の状態では比誘電率が大きく塩類の溶解性が高いが、超臨界状態では比誘電率の低下により塩類の析出を起こしやすいことを背景に生み出されたものである。本技術では、超臨界水中で溶解度を超え析出した塩類固形物による配管閉塞を抑制するため、配管途中にハイドロサイクロンを設置し、固形物の分離回収を行う方法を採用している。しかし、上記方式でも、本発明が対象とする副生成物については、単純な適用は困難であると考えられる。これは副生成物が高粘度で付着性を有するタールを含み、配管、固体粒子の除去装置内における副生成物の付着が運転を阻害するためである。
【0005】
実際に発明者は、特許文献1に記載された装置と同等の図1に示す超臨界反応装置を試作し、グリセリン濃度が非特許文献2に記載された1.5%からその10倍の濃度である15%の条件で、アクロレインの合成実験を実施した。その結果、グリセリン濃度1.5%の低濃度条件では発生量が極めて少なかった副生成物が、15%の高濃度条件では反応液中に大量に発生し、配管、バルブ、フィルタ若しくはハイドロサイクロン等の狭隘部で閉塞しやすいことを確認した。また、運転を継続すると、副生成物の固体分がバルブ弁体・弁座へ固着し、これにより弁体・弁座の磨耗等、弁体の稼動範囲が制限されることにより、精密な圧力制御が困難になることを確認した。さらに、配管下部に堆積した副生成物の固体分による配管のエロージョンが生じることが判明した。これは副生成物粒子が、タールの付着性によりカーボン粒子が凝集して生成されるため、粒径が大きく付着性を有するためと考える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】1,3-PDO、PTTの製造 用途および経済性 (株)シーエムシープラネット事業部 2000年8月
【非特許文献2】M. Watanabe, et al., Acrolein synthesis from glycerol in hot-compressed water, Bioresource Technology (Elsevier Ltd.) 98 (2007) pp.1285-1290
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−279976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、工業化に向け有機化合物の原料を高濃度化して超臨界水と酸を作用させる反応プロセスにおいて、副生成物の発生による配管・機器の閉塞又はエロージョンを抑制しながら、有機物の合成を安定的に進めることを可能とする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の有機物を合成する方法は、有機化合物原料に超臨界水と酸を作用させて得られる反応液を、第1の冷却にて、主反応が停止する温度であり、かつ反応液中に含まれるタール等の高粘度成分について粘度が十分低下した状態を維持できる温度である100〜200℃に冷却した後、反応液中に含まれる固体成分を反応液から分離除去し、次に第2の冷却にて、反応液を、水の沸点以下でありかつ反応液中のタール分が機器に固着しない温度である約100℃以下の温度に冷却した後、減圧することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の有機物を合成する装置は、少なくとも水を送液する高圧ポンプ、送液された前記水を加熱して超臨界水を生成するためのプレヒータ、有機化合物原料と酸の混合水溶液を送液する高圧ポンプ、送液された前記混合水溶液を予備加熱するためのプレヒータ、前記超臨界水と前記混合水溶液を混合した反応液を反応温度に保持するためのヒータ、及び減圧弁を有する反応装置であって、前記反応液の流路に沿って、第1冷却器、固形物の分離除去装置、第2冷却器、減圧弁を順に設けて、前記反応液を流通させて排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機化合物の原料を高濃度化して超臨界水と酸を作用させる反応プロセスにおいて、副生成物の発生量を低減するとともに、生成した副生成物のカーボン粒子等の固形分を、その高粘度で付着性を有するタール分を低粘度状態として、これを分離して除去することができるので、配管、弁、フィルタ又はハイドロサイクロン等の機器の機能不全やエロージョンを防止することができ、精密な圧力制御を行うことができる。
【0012】
その際に、反応終了後の第1の冷却において、反応液に冷却水を直接混合して冷却することにより、高速で反応を停止することができるので、その効果を一層高めることができる。
【0013】
また、反応から分離除去までを弁で仕切られた鉛直な配管内で実施することにより、副生成物は重力により配管の周方向に対して均一に流下するので、水平な系の場合に発生した固形物が配管底部への堆積を防止することができ、配管、減圧弁等のエロージョンの低減効果が増大する。
【0014】
また、反応液を冷却後に固体成分の分離を行うため、分離装置の熱劣化を防ぐことができるとともに、減圧操作前に、タールの付着を抑制しつつ反応液の温度を水の沸点以下に低下させるため、減圧後に反応液の気化による体積の急激な膨張を抑制でき、反応装置の安全性を向上することができる。
【0015】
また、反応液の減圧後、最終的には目的反応物質の沸点以下とならない程度に冷却しているため、目的物質を後段の蒸留工程で回収する際におけるエネルギー効率を向上することができる。さらに、反応装置から分離装置まで二系統以上用意することで、交互運転、副生成物粒子の交互排出が可能となり、連続運転性が向上しメンテナンスが容易になる。その際、反応装置前段のプレヒータは反応配管のヒータに比べて滞留時間が長く設備規模が大きいので、プレヒータを各系統共通で使用して反応配管から複数系統に分岐することで、設備コストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の超臨界実験装置。
【図2】本発明の第1の実施態様(2段階冷却)。
【図3】本発明の第2の実施態様(3段階冷却)。
【図4】本発明の第3の実施態様(2系統反応)。
【図5】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図6】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図7】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図8】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図9】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図10】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図11】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図12】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図13】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図14】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図15】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図16】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【図17】グリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する実施例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の基本的な実施形態は、冷却器を分割し、有機化合物原料に超臨界水と酸を作用させて得られる反応液を、第1の冷却器(420)において、主反応が停止する温度であって、反応液中に含まれるタール等の高粘度成分について粘度が十分低下した状態を維持できる温度まで冷却することにより、副生成物の発生量を低減しつつ、タール等の高粘度成分については、その粘度及び付着性を上昇させないで、カーボン粒子等の固形分が凝集しない状態を維持するものである。
【0018】
カーボン粒子等の固形分が凝集しない状態では、固形分の粒系は数μm〜数十μmであり、付着性も極めて小さいので、配管を閉塞させることはなく、また、固形物を分離除去するためのフィルタ又はハイドロサイクロンにおいても、固形物の付着や詰まりに起因する差圧上昇を低減することができる。このため、プラント運転系統の切り替えの頻度、フィルタ逆洗操作等のメンテナンス頻度を著しく低減し、停止と再起動に伴うエネルギー損失を低減するので、運転コストを低減する結果となる。
【0019】
また、400℃等の高温の反応液を冷却後に固体成分の分離を行うため、分離装置の熱劣化を防ぐことができる。第1の冷却後における反応液の粘度は0.1Pa・s以下が望ましく、この程度の低粘度を実現するだけの高さの温度、具体的には100℃以上が必要である。一方、合成反応、熱分解反応を完全に停止させるには200℃以下の温度が望ましい。このため、第1の冷却器による冷却後の温度は100〜200℃であることが望ましい。
【0020】
第1の冷却器(420)において、反応液に冷却水を直接混合することにより、ジャケット等による配管周辺からの間接的な熱交換と比べて、冷却温度での温度変化が高速化するので、熱分解反応を高速停止することができる。そのため、生成されたアクロレインが、タール、カーボン粒子等の副生成物に変化するのを停止し、原料収率の向上が期待できる。また、副生成物発生量が低減するので、これに伴う配管及び機器の閉塞、エロージョン発生の抑制、精密な圧力制御に資することができる。
【0021】
次に、反応液から固体を分離除去した後、第2の冷却器(620)において、反応液を水の沸点以下であって、反応液中のタール分が機器に固着しない温度まで冷却する。そして、その後で、減圧弁(324)により減圧する。この減圧操作においては、減圧弁の間口は極めて狭いので閉塞しやすいのであるが、固形分だけでなくタール分の付着を抑制することで、弁の開閉操作を容易かつ安定化する。こうした管、フィルタ、弁等の機器内の固形物やタールの付着が低減されることにより、減圧弁による圧力制御の精度が向上する。
【0022】
また、冷却温度が水の沸点以下に設定されることで、減圧後に反応液が気化して体積が急激に膨張するのを抑制できるため、反応装置の安全性を向上することができる。第2の冷却器による冷却後の反応液の粘度は10Pa・s以下であることが望ましく、この程度の低粘度が実現できるだけの高さの温度、具体的には53℃以上、望ましくは80℃以上が必要である。その一方、減圧後における反応液の気化、急激な膨張を抑制する観点からは温度は100℃以下が望ましい。このため、第2の冷却器による冷却後の温度は、少なくともアクロレインの沸点以上であることを考慮して、53〜100℃、望ましくは80〜100℃となる。
【0023】
図2は、本発明の上記の実施態様の基本構造を示す。図2において、水ヘッダ(101)及び(201)から高圧ポンプ(110)及び(210)に水を供給し、合成反応時と同程度の所定の流量で水を送液する。流量が安定した後、管路に設けた圧力計(図示省略)が反応圧力である35MPaを指示するまで減圧弁(324)を調整し昇圧する。圧力が安定した後、第1の冷却器(420)の上流側に設けた温度計(図示省略)が反応温度である400℃を指示するように、高圧ポンプ(110)及び(210)の各流量に応じて、プレヒータ(120)及び(220)を加熱する。同時に反応温度を保持するため、ヒータ(310)を400℃に昇温する。
【0024】
冷却水ヘッダ(401)及び(601)から冷却水が、フィルタ又はハイドロサイクロン(320)の上流側と下流側の冷却器(420)及び(620)にそれぞれ供給され、反応液と混同し、反応液の温度を低下させる。冷却水ヘッダ(401)及び(601)から供給される冷却水の各流量は、混合後の反応液の温度が、それぞれ100〜200℃、53〜100℃(望ましくは80〜100℃)となるように、冷却水の供給ポンプ(図示省略)を制御する。
【0025】
直接混合式の第1の冷却器(420)の上流側の温度が400℃、圧力が35MPaで安定した後、水ヘッダ(201)のバルブ(図示省略)を閉じ、酸ヘッダ(203)及び原料ヘッダ(203’)のバルブ(図示省略)を開いて、それぞれ硫酸及びグリセリンを供給すると、反応が開始し、アクロレインが合成されて製品回収ライン(302)から取り出される。
【0026】
本発明の別の実施態様では、減圧弁(324)の下流側に第3の冷却器を置いて、減圧後の反応液を目的反応物質の沸点又はそれに近い温度まで冷却することにより、第3の冷却器から排出された反応液から目的物質が容易に気化してくる。このため、後段の蒸留工程で再加熱する際のエネルギー効率を向上することができる。第3の冷却器による冷却温度は、製品がアクロレインの場合、その沸点である53℃以上の近傍の範囲にあることが望ましい。
【0027】
図3は、減圧弁(324)の下流側に第3の冷却器(720)を置き、これに冷却水を供給する冷却水ヘッダ(701)を備えた別の実施態様の基本構造を示す。
図2、図3のいずれの実施態様の場合においても、反応の開始の段階からフィルタ又はハイドロサイクロン(320)における副生成物である固形物の分離除去の段階までを、弁で仕切られた鉛直な配管内で実施することが望ましい。これにより、副生成物を含む反応液は重力により配管の周方向に対して均一に流下するので、配管内面における固形物粒子との接触は平滑化され、水平な系の場合に起こり易い固形物の堆積による配管や減圧弁等の底部でのエロージョンを、低減することができる。
【0028】
さらに、反応装置から減圧弁までのプロセスを並列に複数系統を備えることで、系統の切替えによる交互運転、休止中の系統の洗浄による堆積物の排出等のメンテナンスが可能となる。また、複数の系統を備えるので、一つの系統がメンテナンス作業に入っても、他の系統を実施することにより、プラント全体を停止することなく、連続運転が可能となるし、メンテナンス作業に時間をかけて実施することも可能となる。
【0029】
図4は、反応装置から減圧弁までのプロセスを並列に2系統(a系及びb系ライン)を備えた第3の実施態様の基本構造を示す。この実施態様では、まず、a系を起動し、製品を回収する。このa系の運転中に、フィルタ若しくはハイドロサイクロン(320a)の下流に設けた圧力計(図示省略)による計測された圧力と、高圧ポンプ(110)及び(210a)の下流にそれぞれ設けられた圧力計(図示省略)による計測された圧力のいずれかとの差圧が所定値超えた場合、すなわち、主に炭素粒子から構成される反応副生成物によりフィルタ若しくはハイドロサイクロン(320a)に閉塞の兆候が見られる場合には、b系の起動を開始する。
【0030】
b系の起動後の実施中、a系はメンテナンス作業に入る。プレヒータ(220a)及びヒータ(310a)の各温度が所定の温度まで低下した後、a系の冷却を継続し、その後でa系ラインの洗浄を行なう。ラインの洗浄が終了後、ポンプ(210a)を停止し、洗浄液によるフィルタ(320a)の逆洗を行う。その後、水によるフィルタ(320a)の逆洗を行う。次にa系ラインの水洗浄を行う。
【0031】
b系の運転中に、フィルタ若しくはハイドロサイクロン(320b)の下流に設けた圧力計(図示省略)による計測された圧力と、高圧ポンプ(110)及び(210b)の下流にそれぞれ設けられた圧力計(図示省略)による計測された圧力のいずれかとの差圧が所定値超えた場合、すなわち、主に炭素粒子から構成される反応副生成物によりフィルタ若しくはハイドロサイクロン(320b)に閉塞の兆候が見られる場合には、a系の起動を開始し、b系がメンテナンス作業に入る。このように、a系とb系を交互に切り替えて、プラントの連続生産を可能としている。
【0032】
また、反応装置の前段を構成するプレヒータ(120)は、反応配管のヒータ(310)に比べて滞留時間が長く設備規模が大きくなる。また、プレヒータ(120)部分には原料等の有機物がないので副生成物の発生がない。このことは、プレヒータ部分では全体工程の中でエネルギー使用の割合が大きい一方、その下流側工程と比べて副生成物によるトラブルの心配が極めて小さいことを意味する。そこで、複数系統の方式を考える上で、プレヒータ(120)を各系統共通で使用して反応配管から複数系統に分岐することで、プレヒータ部分(120)はその下流側工程においてメンテナンス作業をしている系統があっても連続運転が可能となり、停止・再起動でのエネルギー損失が最小限にできるので、設備コスト、運転コストの両方を低減することができる。
【0033】
以上の見地から、図4に示された第3の実施態様においては、水ヘッダ(101)、高圧ポンプ(110)、プレヒータ(120)からなるラインを、a系及びb系ラインに共通化しているのである。
【0034】
アクロレインからは、アクリル素材を合成することができるし、水和、水素添加反応させることにより、1,3-プロパンジオールを合成し、これをテレフタル酸と重合することにより繊維等に用いられる高級ポリエステルの一つであるPTTを生産することができる。そのため、上記の実施態様をアクロレインの製造に適用する場合、本発明は、PTT原料をバイオマス由来にすることを可能とし、埋蔵量に限度がある化石燃料の消費量の低減に寄与することができる。
【0035】
以下、本発明の具体的な実施例について、一層詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
図5〜17は、本発明の合成方法に関する実施例を示す図である。これらの図を用いてグリセリンに超臨界水及び酸を作用させてアクロレインを合成する際の運転方法を説明する。
【0037】
反応系統はa系とb系の2系統があり、まず、a系の起動を行う。図5に示すように、水ヘッダ(101)、(201a)、(401a)、(601a)、(701a)からそれぞれ高圧ポンプ(110)、(210a)、(410a) 、(610a)、(710a)に水を供給し、合成反応時と同程度の所定の流量で水を送液する。配管容積以上の水を送液し、流量が安定した後、圧力計(332a)が反応圧力である35MPaを指示するまで減圧弁(324a)を調整し昇圧する。圧力が安定した後、温度計(311a)が反応温度である400℃を指示するように、高圧ポンプ(110)、(210a)の流量比に応じて、プレヒータ(120)、(220a)を所定の温度に加熱する。同時に反応温度を保持するため、ヒータ(310a)を400℃に昇温しする。高圧ポンプ(410a)、(610a)、(710a)の流量は、温度計(331a)、(325a)、(337a)がそれぞれ200℃、80℃、53℃になるように制御を行う。なお、第1段の冷却の後の目標温度を200℃としたが、これを200℃未満で100℃までの温度としてもよい。
【0038】
温度計(311a)及び圧力計(332a)の指示値がそれぞれ400℃、35MPaで安定した後、図6に示すように原料ヘッダバルブ(213a)を開き、水ヘッダバルブ(211a)を閉じ、グリセリンと硫酸の水溶液を送液し反応を開始する。次に送液量が配管容積の3倍量に達した後、図7に示すように、バルブ(335a)を開くと同時にバルブ(336a)を閉じて反応液の回収を開始する。
【0039】
圧力計(215a)もしくは(113)と圧力計(332a)の差圧が所定値を超えた場合、即ち、主に炭素粒子から構成される反応副生成物によりフィルタ、もしくはハイドロサイクロン(320a)に閉塞の兆候が見られた場合、図8に示すようにb系の起動を開始する。a系の起動と同様に、水ヘッダ(104)、(201b)、(410b)、(601b)、(701b)からそれぞれ高圧ポンプ(130)、(210b)、(410b)、(610b)、(710b)に水を供給し、合成反応時と同一の流量で水を送液する。配管容積以上の水を送液し、流量が安定した後、圧力計(332b)が反応圧力である35MPaを指示するまで減圧弁(324b)を調整し昇圧する。
【0040】
次に、b系統の配管の予熱を行う。圧力計(332b)の指示値が安定した後、温度計(141)が200℃になるようにヒータ(140)で配管を加熱する。また、温度計(221b)が実際に合成反応を行う時と同一の温度を指示するようにヒータ(220b)の出力を調整する。同時に、温度計が(311b)が200℃程度を指示するようにヒータ(310b)の出力を調整する。
【0041】
b系の配管温度が安定した後、図9に示すように、水によるb系の本加熱とa系の冷却を行う。バルブ(123b)を開けると同時にバルブ(123a)を閉じた後、温度計(311b)が反応温度である400℃を指示するように、高圧ポンプ(210b)、(110)の流量比に応じて、プレヒータ(120)、(220b)の出力を調整する。同時に、反応配管の温度を反応温度である400℃に保持するため、ヒータ(310b)を400℃に昇温し、b系の本加熱を行う。また、バルブ(141a)を開けると同時にバルブ(141b)を閉じた後、プレヒータ(220a)、(140)、ヒータ(310a)を停止し、a系の冷却を行う。また、高圧ポンプ(410b)、(610b)、(710b)の流量は、温度計(331b)、(325b)、(337b)が、それぞれ200℃、80℃、53℃になるように制御を行う。
【0042】
温度計(311b)及び圧力計(332b)の指示値がそれぞれ400℃、35MPaで安定した後、図10に示すように原料ヘッダバルブ(213b)を開き、水ヘッダバルブ(211b)を閉じ、グリセリンと硫酸の水溶液を送液しb系で反応を開始する。次に送液量が配管容積の3倍量に達した後、図11に示すように、バルブ(335b)を開くと同時にバルブ(336b)を閉じて反応液の回収を開始する。
【0043】
プレヒータ(220a)、(140)とヒータ(310a)の各温度計(221a)、(141)、(311a)が所定の温度まで低下した後、プレヒータのバイパスラインのバルブ(222a)、(142)を開け、a系の冷却を継続する(図12)。プレヒータの温度計(311a)が所定の温度に冷却された後、洗浄液ヘッダ(202a)のバルブ(212a)を開けると同時に水ヘッダ(201a)のバルブ(211a)を閉じ、a系ラインの洗浄を開始する(図13)。
【0044】
ラインの洗浄が終了後、ポンプ(210a)を停止し、バルブ(322a)と(323a)を閉じ、バルブ(512)、(516a)を開けて、洗浄液によるフィルタ(320a)の逆洗を行う(図14)。その後、水ヘッダ(501)のバルブ(511)を開き、洗浄液(502)のバルブ(512)を閉じて、水によるフィルタ(320a)の逆洗を行う(図15)。次にa系ラインの水洗浄を行う(図16)。その後、ポンプを停止する(図17)。圧力計(215b)もしくは(113)と圧力計(332b)の差圧が所定値を超えた場合、即ち、主に炭素粒子から構成される反応副生成物によりフィルタ、もしくはハイドロサイクロン(320b)に閉塞の兆候が見られた場合、上記したのと同様にa系の再起動を行い、連続生産を実施する。
【実施例2】
【0045】
実施例1の手法により、原料グリセリン濃度15wt%、反応温度400℃、反応圧力35MPa、反応時間2s(秒)の条件にてアクロレインの連続合成実験を、活性炭による排気処理設備が設けられた局所排気を有するグローブボックス内において、2h(時間)程度行った。その結果、得られた反応液において、アクロレインの収率70%、タール等の熱分解により生成した液体の収率20%、カーボン粒子の収率10%となった。
【0046】
タール等の熱分解により生成した液体は、GC分析により炭素数10〜50の分子であり、その溶融粘度は、70、80、90及び100℃で、それぞれ300、10、1及び0.1Pa・s以下となった。本実験では反応液をほぼ同量の冷却水と混合し、温度を200℃程度に低下させて3μmのスウェジロック製フィルタに流すが、その際、フィルタ差圧は上昇せず、また、実験終了後においてフィルタ面には固形物、タールの付着は見られず、特に問題がなかった。その際、10μm径程度のカーボン粒子が効率95%で分離除去された。
【0047】
本実験では更に、カーボン粒子除去後の反応液を長さ1mの二重管に流し、冷却水による間接冷却を行うことで反応液の温度を80℃まで低下させた後、減圧弁により、圧力を5MPa以下に低下させる運転を行った。
【0048】
実験終了後、二重管、減圧弁の内部には、固形物、タールの付着は認められなかった。さらに、本実験では反応液を二重管に流し、冷却水による間接冷却を行うことで反応液の温度を53℃にした後、系外排出した。これにより、アクロレインに少量の同伴水を含む蒸気が発生し、これを凝縮させることで、高濃度のアクロレイン水溶液を回収した。
【0049】
(比較例)
実施例2と同様のアクロレイン合成実験を行い、反応液を長さ2mの二重管に流し、冷却水による間接冷却を行うことで、反応液の温度を20℃まで低下させた後、3μmのスウェジロック製フィルタに流し、さらに減圧弁により圧力を5MPa以下に低下させた。その結果、フィルタ差圧は運転10分程度で上昇したので実験を中止した。実験終了後、粒径数mmオーダーの副生成物がフィルタ面に付着していた。副生成物を回収し、アセトン洗浄したところ、粒子は10μm径程度のカーボン粒子に分かれた。
【符号の説明】
【0050】
101 … 水ヘッダ、
106 … 廃液ライン、
110 … 高圧ポンプ、
120 … プレヒータ、
201,201a,b … 水ヘッダ、
203,203a,b … 酸ヘッダ、
203’,203a’,b’ … 原料ヘッダ、
204a,b … 廃液ライン、
210a,b … 高圧ポンプ、
214a,b … 安全弁、
220,220a,b … プレヒータ、
302 … 製品回収ライン、
303 … 廃液ライン、
310,310a,b … ヒータ、
320,320a,b … フィルタ(もしくはハイドロサイクロン)、
324,324a,b … 減圧弁(圧力調節弁)、
401a,b … 冷却水ヘッダ、
402a,b … 廃液ライン、
410a,b … 高圧ポンプ、
412a,b … 安全弁、
420a,b … 第1の冷却器(冷却水直接混合型)、
601a,b … 冷却水ヘッダ、
620,620a,b … 第2の冷却器、
701,701a,b … 冷却水ヘッダ、
720,720a,b … 第3の冷却器、
901,901a,b … 原料・超臨界水合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物原料に超臨界水と酸を作用させて得られる反応液を、第1の冷却にて100〜200℃に冷却した後、反応液中に含まれる固体成分を反応液から分離除去し、次に第2の冷却にて反応液を約100℃以下の温度に冷却した後、減圧することを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項2】
請求項1に記載された方法において、
反応液を減圧した後に、第3の冷却を行うことを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された方法において、
第1の冷却方法が冷却水の直接混合による冷却方法であることを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された方法において、
第1の冷却の後における反応液が粘度約0.1Pa・s以下の物質で構成されること、第2の冷却の後における反応液が粘度約10Pa・s以下の物質で構成されること、第3の冷却により目的反応物質の沸点以上の温度まで冷却することを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかの請求項に記載された方法において、
第3の冷却温度が約53℃以上であることを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの請求項に記載された方法において、
反応から分離除去までを弁で仕切られた鉛直な配管内で実施することを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの請求項に記載された方法において、
反応から分離除去までを弁で仕切られた複数系統の鉛直な配管内で実施することを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかの請求項に記載された方法において、
有機化合物原料がグリセリンであること、目的反応物がアクロレインであることを特徴とする有機物を合成する方法。
【請求項9】
少なくとも水を送液する高圧ポンプ、送液された前記水を加熱して超臨界水を生成するためのプレヒータ、有機化合物原料と酸の混合水溶液を送液する高圧ポンプ、送液された前記混合水溶液を予備加熱するためのプレヒータ、前記超臨界水と前記混合水溶液を混合した反応液を反応温度に保持するためのヒータ、及び減圧弁を有する反応装置であって、
前記反応液の流路に沿って、第1冷却器、固形物の分離除去装置、第2冷却器、減圧弁を順に設けて、前記反応液を流通させて排出することを特徴とする有機物を合成する装置。
【請求項10】
請求項9に記載された装置において、
前記の第1冷却器、固形物の分離除去装置、第2冷却器、減圧弁を順に設けた前記流路を、並列に複数系統設けたことを特徴とする有機物を合成する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−184897(P2010−184897A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30234(P2009−30234)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】