説明

自動化糖鎖フィンガープリント戦略

疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法は、罹患試料及び対照試料を得るステップであり、罹患試料が疾患を有すると診断された患者由来の試料であり対照試料が健常な対照由来の試料であるステップと、糖タンパク質を精製せず、罹患試料及び対照試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から全糖タンパク質の罹患グリカンプールを、対照試料から全糖タンパク質の対照グリカンプールを遊離させるステップであり、疾患試料由来の全糖タンパク質及び対照試料由来の全糖タンパク質を高処理能の形式で固定化するステップと、クロマトグラフィー、質量分析又はその組合せを使用して罹患グリカンプールの罹患糖鎖プロファイル及び対照グリカンプールの対照糖鎖プロファイルを測定するステップと、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較して疾患の1つ又は複数の前記グリコシル化マーカーを決定するステップとを含む。対象中の疾患を診断及びモニターする方法は、対象の体液又は身体組織の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せず、試料をヒドラジン分解にさらさずに、試料から全糖タンパク質のグリカンプールを遊離させるステップと、グリカンプールの糖鎖プロファイルを測定するステップとを含む。高処理能の形式に適合したグリカン遊離、及び2D−PAGEスポットからのグリコシル化の分析の方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2005年4月26日に出願されたDwekらの米国特許仮出願第60/674724号明細書の優先権を主張するものである。
【0002】
[発明の背景]
本発明は一般に疾患を診断しモニターする方法に関し、具体的には、詳細なグリカン分析に基づく、疾患を診断しモニターする自動化された方法に関する。
【0003】
特定の疾患に関連する、精製血清IgGから遊離したグリカンのグリコシル化の変化は、関節リウマチで初めて報告された(参照により本明細書に組み込まれている、Parekhら、「Association of Rheumatoid Arthritis and Primary Osteoarthritis with Changes in the Glycosylation Pattern of Total Serum IgG」 "Nature, 316, pp.452-457, 1985を参照)。その後の研究から、これらの変化が関節リウマチ(RA)の診断指標となるだけでなく、予後の指標並びにRA疾患の活動性のモニター指標として使用することもできることが示された(例えば、参照によりその全体が本明細書にすべて組み込まれている、「Galactosylation of IgG associated oligosaccharides: Reduction in patients with adult and juvenile onset rheumatoid arthritis and relation to disease activity.」, R.B. Parekh, DA. Isenberg, B.M. Ansell, LM. Roitt, RA. Dwek 及び T.W. Rademacher (1988) Lancet, 1(8592), 966-969; 「A comparative analysis of disease-associated changes in the galactosylation of serum IgG.」、R.B. Parekh, D. Isenberg, G. Rook, I. Roitt, RA. Dwek 及び T.W. Rademacher (1989) J. Autoimmunity, 2, 101-114; 3rd Jenner International Immunoglycobiology Meeting Abstract R.B. Parekh , Isenberg, D., Dwek, RA. 及び Rademacher, T.W. Glycoconjugate Journal (1994) 1, 3 195-227を参照)。後に、全血清グリコシル化における特定のグリコシル化の変化が他の疾患のバイオマーカーにもなり得ることが示された。例えば、Blockらは、全血清溶液から酵素的に遊離させたグリカンに対してグリコシル化分析を行うことによって、すなわち高処理能の形式と適合しない方法によって、B型肝炎ウイルスに感染した肝細胞癌ウッドチャックの全血清中における特定のグリコシル化の変化を決定した(参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Block, T.M., Comunale, M.A., Lowman, M., Steel, L.F., Romano, P.R., Fimmel, C, Tennant, B.C, London, W.T., Evans, A.A., Blumberg, B.S., Dwek, R.A., Mattu, T.S. 及び Mehta, A.S. (2005)、「Use of targeted glycoproteomics to identify serum glycoproteins that correlate with liver cancer in woodchucks and humans」、Proc Natl Acad Sci USA 102: 779-84を参照)。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Guile, G.R.ら、「A rapid high-resolution high-performance liquid chromatographic method for separating glycan mixtures and analyzing oligosaccharide profiles.」、Anal. Biochem. 240: 210-26, 1996;Royle, L.ら、「An analytical and structural database provides a strategy for sequencing 0-glycans from microgram quantities of glycoproteins.」、Anal. Biochem., 304:70-90, 2002を参照)と質量分析(MS)技術の組合せを使用する、患者及び健常な対照由来の全血清糖タンパク質のグリコシル化分析を最初に使用して、II型先天性グリコシル化異常症(CDG)患者の診断が確認され、診断未確定の患者において欠陥のあるグリコシル化プロセシングステップが明らかとなった(Butler, M.ら、「Detailed glycan analysis of serum glycoproteins of patients with congenital disorders of glycosylation indicates the specific defective glycan processing step and provides an insight into pathogenesis.」、Glycobiology 13: 601-22, 2003を参照)。ヒドラジン分解を使用してグリカンを遊離させていたので、グリカンのプロファイル及び分析には欠点があった。ヒドラジン分解を使用すると、かなり大きな割合の糖の脱シアリル化が生じ、アミノ糖残基からのN−アセチル基及びN−グリコリル基の消失(これはその後再度N−アセチル化され、この結果低アセチル化も過剰アセチル化も生じ得る)、並びにシアル酸におけるO−アセチル置換の消失などのアーチファクトがいくらか導入される。Callewaertらは、微小流体プラットフォーム上でのキャピラリー電気泳動による全血清グリコシル化分析で酵素的遊離を使用した(Callewaert, N., Contreras, R., Mitnik-Gankin, L., Carey, L., Matsudaira, P. 及び Ehrlich, D. (2004),「Total serum protein N-glycome profiling on a capillary electrophoresis-microfluidics platform.」、Electrophoresis 25: 3128-31、並びにCallewaert, N., Schollen, E., Vanhecke, A., Jaeken, J., Matthijs, G., and Contreras, R. (2003)、「Increased fucosylation and reduced branching of serum glycoprotein N-glycans in all known subtypes of congenital disorder of glycosylation I.」、Glycobiology 13: 367-375を参照)。Callewaertらの酵素的遊離は高処理能の形式と適合するが、彼らの分析では主要な脱シアリル化構造しか決定されなかった。したがって、体液又は身体組織の試料中での全糖タンパク質の詳細なグリコシル化分析に基づいて疾患の確実なグリコシル化マーカーを決定する、高処理能の完全に自動化された方法を開発する必要性が依然として存在する。
【0004】
[発明の概要]
本発明の一実施形態は、疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法であり、その方法は、罹患試料及び対照試料を得るステップであり、罹患試料が疾患を有すると診断された患者由来の試料であり対照試料が健常な対照由来の試料であるステップと、糖タンパク質を精製せず、罹患試料及び対照試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から全糖タンパク質の罹患グリカンプールを、対照試料から全糖タンパク質の対照グリカンプールを遊離させるステップと、クロマトグラフィー、質量分析又はその組合せを使用して罹患グリカンプールの罹患糖鎖プロファイル及び対照グリカンプールの対照糖鎖プロファイルを測定するステップと、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較して疾患の1つ又は複数の前記グリコシル化マーカーを決定するステップとを含む。
【0005】
本発明の他の実施形態は、対象中の疾患を診断及びモニターする方法であり、その方法は、対象の体液又は身体組織の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せず、又は試料をヒドラジン分解にさらさずに、試料から全糖タンパク質のグリカンプールを遊離させるステップと、グリカンプールの糖鎖プロファイルを測定するステップとを含む。
【0006】
本発明のさらなる他の実施形態は、疾患に対して既存の治療用作用物質の投与量を最適化する方法であり、その方法は、治療用作用物質を患者に投与する前に罹患対象から体液又は身体組織の第1の試料を得るステップと、治療用作用物質を患者に投与した後に罹患対象から体液又は身体組織の第2の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せず、第1及び第2の試料をヒドラジン分解にさらさずに、第1及び第2の試料から糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと、第1の試料に由来するグリカンの第1の糖鎖プロファイル、及び第2の試料に由来するグリカンの第2の糖鎖プロファイルを測定するステップと、第1の糖鎖プロファイル及び第2の糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルを比較するステップとを含む。
【0007】
本発明のさらなる他の実施形態は、疾患を治療する新たな療法又は新たな治療用作用物質を試験する方法であり、その方法は、患者を新たな療法又は新たな治療用作用物質にさらす前に罹患対象から体液又は身体組織の第1の試料を得るステップと、患者を新たな療法又は新たな治療用作用物質にさらした後に罹患対象から体液又は身体組織の第2の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せず、第1及び第2の試料をヒドラジン分解にさらさずに、第1及び第2の試料から糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと、第1の試料に由来するグリカンの第1の糖鎖プロファイル、及び第2の試料に由来するグリカンの第2の糖鎖プロファイルを測定するステップと、第1の糖鎖プロファイル及び第2の糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルを比較するステップとを含む。
【0008】
本発明のさらなる他の実施形態は、対象の試料からグリカンを遊離させる方法であり、その方法は、試料の1つ又は複数の糖タンパク質をゲル中に固定化するステップと、ゲルをバンドに分離せずにゲルから1つ又は複数の糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップとを含む。
【0009】
本発明のさらなる他の実施形態は、対象の試料からグリカンを遊離させる方法であり、タンパク質結合性膜上に試料の1つ又は複数の糖タンパク質を固定化するステップと、β脱離を使用して1つ又は複数の糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップとを含む。
【0010】
本発明のさらなる他の実施形態は、疾患を有すると診断された対象に由来する罹患試料中の全糖タンパク質の罹患グリカンプールにおけるグリカン構造を含む疾患マーカーのデータベースであり、糖タンパク質を精製せず、試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から罹患グリカンプールを遊離させる。
【0011】
[好ましい実施形態の詳細な説明]
本出願は一般に疾患を診断しモニターする方法に関し、具体的には、詳細なグリカン分析に基づく、疾患を診断しモニターする自動化された方法に関する。
【0012】
別段の指定がない限り、「1つの(a)」又は「1つの(an)」とは、「1つ又は複数の(one or more)」を意味する。
【0013】
「糖鎖プロファイル」又は「グリコシル化プロファイル」とは、グリカンのプール中に存在するグリカン構造(オリゴサッカリド)の提示状態を意味する。糖鎖プロファイルは、例えば、グリカンのプール中に存在するグリカン構造に対応する複数のピークとして提示することができる。
【0014】
「グリコシル化マーカー」とは、疾患を有すると診断された患者の試料と健常な対照由来の試料の間にあるグリコシル化の特定の違いを意味する。
【0015】
本発明は、詳細なグリコシル化分析に基づく完全に自動化された系の開発を対象とする。詳細なグリコシル化分析の一般的な方法を図1で例示する。具体的には、対象から体液又は身体組織の試料を得ることができる。全糖タンパク質の、すなわちすべて又は実質的にすべての糖タンパク質の(N−結合型グリカン及び/又はO−結合型グリカンの)グリカンプールを試料から遊離させることができる。グリカンプールを遊離するステップは、試料をヒドラジン分解にさらさず、特定の糖タンパク質を精製せずに実施することができる。グリカンプールの詳細な分析は、高速液体クロマトグラフィー、質量分析又はその組合せによって実施することができる。遊離させたグリカンを分析の前に蛍光標識することができる。詳細な分析は、弱陰イオン交換クロマトグラフィー又は関連する技術により各アリコート中のグリカンの電荷に基づいてグリカンプールをいくつかのアリコートに分離するステップを含み得る。各アリコートに対してNP−HPLC分析を行うことができる。全グリカンプール又はグリカンプールのWAXアリコートに対して行ったNP−HPLC分析により、複数のピークを含み得る糖鎖プロファイルを得ることができる。糖鎖プロファイル中の各ピークは、既知のグリカン構造のデータベースを使用して特定のグリカン構造に予備指定することができる。そのデータベースは、特定のエキソグリコシダーゼの治療を推奨して、糖鎖プロファイルの各ピークの最終的な指定を確立することができる。
【0016】
図2に、詳細な定量的グリカン分析に基づく高処理能の完全に自動化された系の考えられる一実施形態を例示する。完全に自動化された高処理能の系は、例えば、高処理能の形式に完全に適合したグリカン遊離方法を使用すべきであり、臨床的スクリーニングに適したコンピュータ支援データ分析を含むべきである。したがって、本発明は、高処理能の形式に適合したグリカン遊離の方法、データベース、及び自動化グリカン分析でデータベースを使用する方法を提供する。本発明はまた、詳細なグリコシル化分析に基づいて疾患のグリコシル化マーカーを決定する方法、及び疾患のグリコシル化マーカーを使用して疾患を診断及びモニターする関連の方法も提供する。
【0017】
本発明の一実施形態は、疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法であり、その方法は、罹患試料及び対照試料を得るステップであって、罹患試料が疾患を有すると診断された患者由来の試料であり、対照試料が健常な対照由来の試料であるステップと、糖タンパク質を精製せず、罹患試料及び対照試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から全糖タンパク質の罹患グリカンプールを、対照試料から全糖タンパク質の対照グリカンプールを遊離させるステップと、クロマトグラフィー、質量分析又はその組合せを使用して罹患グリカンプールの罹患糖鎖プロファイル及び対照グリカンプールの対照糖鎖プロファイルを測定するステップと、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較して疾患の1つ又は複数の前記グリコシル化マーカーを決定するステップとを含む。いくつかの実施形態では、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較するステップは、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルのピーク比を比較するステップを含み得る。いくつかの実施形態では、癌の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法は、疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーから疾患の最良のグリコシル化マーカーを選択する方法をさらに含み得、最良のグリコシル化マーカーは、癌を有すると診断された患者の1つ又は複数のパラメーターとの最高の相関を有する。疾患を有すると診断された患者のパラメーターは、例えば、診断結果、年齢、性別、癌の段階、治療に対する応答、病歴又はその任意の組合せでよい。いくつかの実施形態では、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較するステップは、罹患グリカンプール及び対照グリカンプールを任意の組合せの1個又は複数個のエキソグリコシダーゼ酵素で消化した後に実施することができる。例えば、罹患グリカンプール及び対照グリカンプールを消化するステップは連続的な消化でよく、罹患グリカンプール及び対照グリカンプールを消化するステップは1個又は複数個のエキソグリコシダーゼ酵素を含むアレイでの消化でよい。いくつかの実施形態では、任意の組合せの1個又は複数個のグリコシダーゼでの罹患グリカンプール及び対照グリカンプールの消化を使用して、疾患のグリコシル化マーカーを増幅及び/又は分離することができる。決定したグリコシル化マーカーを使用して、HPLC、質量分析又はその組合せを使用する詳細なグリコシル化分析に基づいて対象中の疾患を診断、モニター及び/又は予後診断することができる。決定したグリコシル化マーカーを使用して、体液又は身体組織中で、グリコシル化が変化した1つ又は複数の糖タンパク質を単離する、すなわち疾患の特異的なバイオマーカーである1つ又は複数の糖タンパク質を単離することもできる。決定したグリコシル化マーカーを使用して、グリコシル化マーカーの決定に用いた技術以外の分析技術を用いて疾患を診断、モニター及び/又は予後診断することもできる。これらの他の分析技術は、例えば、キャピラリー電気泳動又はレクチンクロマトグラフィーでよい。
【0018】
本発明の他の実施形態は、対象中の疾患を診断及びモニターする方法であり、その方法は、対象の体液又は身体組織の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せず、試料をヒドラジン分解にさらさずに、試料から全糖タンパク質のグリカンプールを遊離させるステップと、グリカンプールの糖鎖プロファイルを測定するステップとを含む。疾患を診断及びモニターする方法は、糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルから対象の臨床状態を決定するステップをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、グリコシル化マーカーは、例えば、疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法によって決定したグリコシル化マーカーでよい。糖鎖プロファイルを測定するステップは、任意の適切な技術によって実施することができ、すなわち必ずしも疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーの決定に使用する技術により実施しなくてもよい。例えば、糖鎖プロファイルを測定するステップは、キャピラリー電気泳動又はレクチンクロマトグラフィーによって実施することができる。
【0019】
本発明のさらなる他の実施形態は、疾患に対して既存の治療用作用物質の投与量を最適化する方法であり、その方法は、治療用作用物質を患者に投与する前に罹患対象から体液又は身体組織の第1の試料を得るステップと、治療用作用物質を患者に投与した後に罹患対象から体液又は身体組織の第2の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せずに、第1及び第2の試料から糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと、第1の試料に由来するグリカンの第1の糖鎖プロファイル、及び第2の試料に由来するグリカンの第2の糖鎖プロファイルを測定するステップと、第1の糖鎖プロファイル及び第2の糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルを比較するステップとを含む。
【0020】
本発明のさらなる他の実施形態は、疾患を治療する新たな療法又は新たな治療用作用物質を試験する方法であり、その方法は、患者を新たな療法又は新たな治療用作用物質にさらす前に罹患対象から体液又は身体組織の第1の試料を得るステップと、患者を新たな療法又は新たな治療用作用物質にさらした後に罹患対象から体液又は身体組織の第2の試料を得るステップと、糖タンパク質を精製せずに、第1及び第2の試料から糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと、第1の試料に由来するグリカンの第1の糖鎖プロファイル、及び第2の試料に由来するグリカンの第2の糖鎖プロファイルを測定するステップと、第1の糖鎖プロファイル及び第2の糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルを比較するステップとを含む。
【0021】
本発明の方法は、自己免疫疾患、先天性グリコシル化異常症や癌など、グリコシル化の変化を伴う任意の疾患を対象とすることができる。自己免疫疾患は、例えば、関節リウマチ、骨関節炎、若年性慢性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、移植片対宿主疾患又は強皮症でよい。癌は、例えば、前立腺癌、膵癌、乳癌、膀胱癌、腎癌、結腸癌、卵巣癌、肝細胞癌、胃癌、又は肺癌でよい。関節リウマチ及び他の自己免疫疾患を対象とする本発明の方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Dwekらの米国特許仮出願明細書「High throughput glycan analysis for diagnosing and monitoring rheumatoid arthritis and other autoimmune diseases」に記載されている。癌を対象とする本発明の方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Dwekらの米国特許仮出願明細書「Glycosylation markers for cancer diagnostics and monitoring」に記載されている。
【0022】
前記の実施形態の「対象」とは動物であり、より好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0023】
[グリカンの遊離]
全血清、血漿、尿、精液、精漿、糞便や唾液の試料などの体液又は身体組織の試料からグリカンを遊離させることができる。遊離させるグリカンは、N−グリカン又はO−グリカンでよい。いくつかの実施形態では、体液又は身体組織の試料から糖タンパク質のグリカンプールを遊離させるステップは、糖タンパク質を精製せずに実施することができる。言い換えると、遊離させるグリカンは、1つ又は複数の精製及び単離糖タンパク質のグリカンではなく、体液又は身体組織の試料中に存在するすべて又は実質的にすべての糖タンパク質のグリカンである。いくつかの実施形態では、実質的にすべての糖タンパク質とは、回収されたすべての糖タンパク質を意味し得、さらにいくつかの実施形態では、実質的にすべての糖タンパク質とは、特に除去されるもの以外すべての糖タンパク質を意味し得る。体液又は身体組織の試料をヒドラジン分解にさらさずに、グリカンを遊離させるステップを実施することができる。いくつかの実施形態では、体液の非常に少ない試料から、グリカンを遊離させるステップを実施することができる。いくつかの実施形態では、体液の試料は、100μL未満、さらに好ましくは50μL未満、さらにより好ましくは20μL未満、さらにより好ましくは10μL未満、さらに最も好ましくは5μL未満でよい。本遊離方法は、1μL未満の体液試料で働くように最適化することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、グリカンを遊離させるステップは、溶液中で体液又は身体組織の全糖タンパク質からグリカンを遊離させるステップを含み得る。さらにいくつかの実施形態では、グリカンを遊離させるステップは、体液又は身体組織の全糖タンパク質を、例えば、タンパク質結合性膜上に又はゲル中に固定化するステップを含み得る。タンパク質結合性膜は、任意のタンパク質結合性膜、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜、ナイロン膜又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜でよい。いくつかの実施形態では、グリカンを遊離させるステップは、タンパク質結合性膜上に又はゲル中に固定化された全糖タンパク質からグリカンを遊離させるステップをさらに含み得る。遊離させるグリカンがN−結合型グリカンであるとき、固定化された糖タンパク質からグリカンを遊離させるステップは、例えば、ペプチドNグリコシダーゼFでの酵素的遊離を使用して実施することができる。糖タンパク質がゲル中に固定化されているとき、グリカンを遊離させるステップは、ゲルを複数のバンドに分離するステップと、複数のバンドから1つ又は複数のバンドを選択するステップとを含み、そのバンドからグリカンをその後遊離させる(ゲル内バンド法)。いくつかの実施形態では、ゲルからグリカンを遊離させるステップは、ゲル全体から、すなわちゲルをバンドに分離せずに実施することができる。いくつかの実施形態では、グリカンを遊離させるステップは、β脱離やアンモニアに基づくβ脱離などの化学的遊離法によって実施し、その方法を使用して、溶液中の糖タンパク質から、又はタンパク質結合性膜上に固定化された糖タンパク質からN−結合型又はO−結合型グリカンを遊離させることができる。高処理能の形式で本発明の方法を使用するには、体液又は身体組織の少ない試料を使用することができるので、ゲル中に又はタンパク質結合性膜上に固定化された全糖タンパク質からグリカンプールを遊離させることが好ましい可能性がある。
【0025】
いくつかの遊離方法、及びN−グリカンとO−グリカンの両方に対するその適用性の詳細は下記で論じるが、本発明が下記で論じる遊離方法に限定されないことを理解されたい。
【0026】
ゲル内バンド:この方法を使用して、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)のゲルバンド中の単一の糖ペプチドからN−グリカンを遊離させることができ、この方法は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Kuster, B., Wheeler, S.F., Hunter, A.P., Dwek, R.A. 及び Harvey, D.J. (1997)、「Sequencing of N-linked oligosaccharides directly from protein gels: in-gel deglycosylation followed by matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry and normal-phase high- performance liquid chromatography.」、Anal-Biochem 250: 82-101に記載されている方法に基づいている。試料は、5x試料用緩衝液(5x試料用緩衝液:水2.875mL中にブロモフェノールブルー 0.04g、HClでpH6.6 に調整した0.5M Tris(100mLに6g)0.625mL、10% SDS 1mL、グリセロール0.5mL)4μL、0.5Mジチオスレイトール(DTT)2μL、及び全体で20μLにする水を添加し、それを70℃で10分間インキュベートし、次いで100mMヨードアセトアミドを2μL添加することによりアルキル化し、暗所でそれを室温で30分間インキュベートすることによって還元及びアルキル化することができる。次いで、試料をSDS−PAGEゲル上で分離し、その後タンパク質をクマシーブリリアントブルーで染色し、対象とするバンドを切り出し、脱染する。その後、ゲルバンドを1mm3片に切断し、それを2時間以上凍結する(これによりゲルマトリックスの分解を助けることができる)。或いは、次いでこのゲルバンドをアセトニトリル1mLで、次いで消化用緩衝液1mL(20mM NaHCO3、pH7)で洗浄し、それを2回反復した後、次いでゲルプラグ(gel plug)を乾燥させることができる。PNGアーゼF緩衝溶液(100U/mLを30μL)を添加し(これは10〜15mm3ゲルに十分である)、大きなゲルバンドを使用する可能性がある場合はさらなる酵素溶液を添加する。PNGアーゼF及びゲル片を37℃で1晩インキュベートすることができる。(各回でゲル片の30分間の超音波処理を伴う)3×200μLの水洗浄を行い、その後(ゲルを絞り出すために)アセトニトリルで洗浄し、もう一度水で洗浄し最後にアセトニトリルで洗浄するとともに上清を回収することができる。試料は、例えば活性化AG−50(H+)50μLを使用して脱塩し、0.45μmのLH Milliporeフィルターによりろ過し、乾燥させて蛍光標識することができる。
【0027】
ゲル内ブロック:溶液相での酵素的グリカン遊離後の試料の清浄に伴う問題を回避するために、タンパク質混合物からのゲル内ブロック遊離を使用することができる。簡潔に述べると、上記に記載のゲル内オリゴサッカリド遊離と同様に全タンパク質混合物(例えば、血清又は血漿)を還元及びアルキル化することができ、次いでそれを15% SDS−ゲル混合物に入れるが、それはブロモフェノールブルーを含まない。100U/mLのPNGアーゼF300μLとともにゲル185μLの全体積を使用することができる(最初に48穴プレートに入れ、次いで取り出して細かく切断する)。洗浄手順は、ゲル内バンド遊離で使用するものと同様でよい。この手順は、溶液中のPNGアーゼF遊離より自動化グリカン遊離に適する可能性があり、高処理能のグリカン分析に好ましい方法である可能性がある。96穴プレートに入れるより少量のゲルで働くように、容易にこの系にさらなる改変を行うことができる。
【0028】
[PVDF膜からのN−グリカンの酵素的遊離]
単純なろ過によって、還元し変性させた血清試料中の糖タンパク質を、96穴プレート中で疎水性PVDF膜と結合することができる。次いで試料を洗浄して混入物を除去し、どちらも参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Papac, D.I. ら、Glycobiology 8: 445-54, 1998及びCallewaert, N.ら、Electrophoresis 25: 3128-31, 2004に記載の方法に基づいて、PNGアーゼFとともにインキュベートしてグリカンを遊離させることができる。次いで結合したタンパク質からN−グリカンを洗浄し、収集し、乾燥させて蛍光標識に備えることができる。N−グリカンは、PNGアーゼFとのインキュベーション及び化学的手段により糖タンパク質からin situで遊離させることができる。
【0029】
N−グリカン及びO−グリカンの化学的遊離
N−グリカンの酵素的遊離ではN−グリカン分析を行う余裕があるという利点と対照的に、構造的に完全なO−グリカンを遊離させる酵素的方法は現在存在しない。分解(剥離(peeling))を防止するために、還元性β脱離による化学的遊離は、遊離させたオリゴサッカリドの、そのアルジトール誘導体への同時還元を必要とし得る(Amano, J.ら、Methods Enzymol 179: 261-70, 1989)。この還元は任意の遊離後標識の使用を妨げ、その結果、検出が、質量分析、パルス電流測定検出及び/又は放射活性に限定される。
【0030】
アンモニアに基づくβ脱離を使用して、古典的なβ脱離の変法によりN−グリカンとO−グリカンをどちらも遊離させることができ(Huang, Y.ら、Analytical Chemistry 73: 6063-6069, 2001)、それを溶液中又はPVDF膜上の糖タンパク質に適用することができる。PVDF膜からのアンモニアに基づくβ脱離を行うことができる。この戦略は、高処理能の形式に最適化することができ、その正確なモル比で、遊離後標識に適した開環形態でN−グリカンとO−グリカンをどちらも遊離させる強力な手法をもたらすことができる。
【0031】
アンモニアに基づくβ脱離によるタンパク質結合性PVDF膜からのN−グリカン及びO−グリカンの遊離
糖タンパク質の試料、糖タンパク質の混合物、全血清又は他の体液を、5×試料用緩衝液(5×試料用緩衝液:水2.875mL中に、HClでpH6.6に調整した0.5M Tris(100mLに6g)0.625mL、10% SDS 1mL、グリセロール0.5mL)4μL、0.5Mジチオスレイトール(DTT)2μL、及び全体で20μLにする水を添加し、それを70℃10分間インキュベートし、次いで100mMヨードアセトアミドを2μL添加することによりアルキル化し、暗所でそれを室温で30分間インキュベートすることによって還元及びアルキル化する。Swinnexフィルター保持器(Millipore)に入れたタンパク質結合性PVDF膜(Durapore 13mm×0.45μm HVHP、Millipore)を、全ポリプロピレン製2.5mLシリンジ(Sigma)を使用して2×2.5mLの水で予め洗浄し、その後空気で満たしたシリンジでほとんどの液体を膜から除去する。次いで、還元及びアルキル化した試料を膜に直接添加し、5分間結合させた後、2×2.5mLの水を介してシリンジでゆっくりと押すことによって洗浄し、その後空気で満たしたシリンジでほとんどの液体を膜から除去する。次いで、糖タンパク質試料が結合したフィルターをフィルター保持器から注意深く取り出し、成形PTFEキャップの付いた1.5mLスクリューキャップポリプロピレン管に入れる。炭酸アンモニウムで飽和した29.2%水性水酸化アンモニウム1mL+炭酸アンモニウム100mgを管に添加する。これを60℃で40時間インキュベートし、次いでそれを冷蔵庫で冷却する。次いで液体をきれいな管に移し、それを乾燥するまで蒸発させる。遊離させたグリカンを水に再度溶解し、ほとんどの塩が除去されるまで再度乾燥させる。0.5Mホウ酸100μLをグリカンに添加し、それを37℃で30分間インキュベートする。次いでグリカンを真空下で乾燥させ、メタノールを1mL添加し、再度乾燥させ、メタノールをさらに1mL添加し、再度乾燥させてホウ酸を除去する。
【0032】
[グリカンの定量的分析]
グリカンの標識
いくつかの実施形態では、遊離後、グリカンを例えば蛍光標識又は放射性標識で標識することができる。蛍光標識は、例えば、2−アミノピリジン(2−AP)、2−アミノベンズアミド(2−AB)、2−アミノアントラニル酸(2−AA)、2−アミノアクリドン(AMAC)又は8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸(ANTS)でよい。蛍光標識でのグリカンの標識は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているBigge, J.C.ら、「Nonselective and efficient fluorescent labeling of glycans using 2-amino benzamide and anthranilic acid.」、Anal Biochem 230: 229-38, 1995及び参照によりその全体が組み込まれているAnumula, K.R., (2000), 「High-sensitivity and high-resolution methods for glycoprotein analysis.」, Analytical Biochemistry 283: 17-26に記載されている。蛍光標識は、効率よく非選択的にすべてのグリカンを標識することができ、ピコモル以下の範囲でグリカンの検出及び定量を行うことができる。蛍光標識の選択は、使用する分離技術によって決まる。例えば、荷電した標識は、キャピラリー電気泳動を特に必要とする。具体的には、2−AB標識は、クロマトグラフィー、酵素及び質量分析の方法及び分析に好ましい可能性があるが、2−AA標識は、電気泳動分析に好ましい可能性がある。非標識グリカンを例えば質量分析によって検出することもできるが、蛍光標識するとグリカンのイオン化を助けることができる(例えば、Harvey, D.J., (1999), 「Matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry of carbohydrates.」、Mass Spectrom Rev 18: 349-450; Harvey, D.J., (2000), Electrospray mass spectrometry and fragmentation of N-linked carbohydrates derivatized at the reducing terminus., Am Soc Mass Spectrom 11: 900-915を参照)。
【0033】
遊離させたグリカンの糖鎖プロファイルの測定
グリカンの糖鎖プロファイルとは、グリカンプール中の特定のグリカン構造の提示状態を意味する。例えば、HPLCによって測定するとき、糖鎖プロファイルは、グリカンプール中のグリカン構造に対応する複数のピークを含むクロマトグラムでよい。質量分析によって測定するとき、糖鎖プロファイルは、グリカンプール中のグリカン構造に対応する複数の断片化パターンを含む質量スペクトルでよい。グリカンの糖鎖プロファイルを測定するステップは、クロマトグラフィー、質量分析、電気泳動やその組合せなどの定量分析技術によって実施することができる。具体的には、クロマトグラフィー技術は、高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)、弱イオン交換クロマトグラフィー(WAX)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相高速液体クロマトグラフィー(NP−HPLC)、逆相HPLC(RP−HPLC)、又は多孔質グラファイトカーボンHPLC(PGC−HPLC)でよい。質量分析技術は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)、電子スプレーイオン化飛行時間型質量分析(ESI−TOF−MS)、陽イオン又は陰イオン質量分析、或いは液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)でよい。電気泳動技術は、例えば、ゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動でよい。グリカンを分析するためのこれらの定量分析技術の使用は、例えば、下記の刊行物に記載されている:
1) Guile, G.R., Wong, S.Y. and Dwek, R.A. (1994). "Analytical and preparative separation of anionic oligosaccharides by weak anion-exchange high-performance liquid chromatography on an inert polymer column." Analytical Biochemistry 222: 231-5 (HPLCに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている)
2) Butler, M., Quelhas, D., Critchley, A.J., Carehon, H., Hebestreit, H.F., Hibbert, R.G., Vilarinho, L., Teles, E., Matthijs, G., Schollen, E., Argibay, P., Harvey, D.J., Dwek, R.A., Jaeken, J. and Rudd, P.M. (2003). "Detailed glycan analysis of serum glycoproteins of patients with congenital disorders of glycosylation indicates the specific defective glycan processing step and provides an insight into pathogenesis." Glycobiology 13: 601-22, (MALDI-MS、NP-HPLC、及びESI−液体クロマトグラフィー/MSに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
3) Jackson, P., Pluskal, M.G. and Skea, W. (1994). "The use of polyacrylamide gel electrophoresis for the analysis of acidic glycans labeled with the fluorophore 2-aminoacridone." Electrophoresis 15: 896-902, for polyacrylamide gel electrophoresis (PAGE), ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)に関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
4) Hardy, M.R. and Townsend, R.R. (1994). "High-pH anion-exchange chromatography of glycoprotein-derived carbohydrates." Methods Enzymol 230: 208-25., (パルスアンペロメトリック検出を使用したHPAECに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
5) Callewaert, N., Contreras, R., Mitnik-Gankin, L., Carey, L., Matsudaira, P. and Ehrlich, D. (2004). "Total serum protein N-glycome profiling on a capillary electrophoresis-microfluidics platform." Electrophoresis 25: 3128-31 (キャピラリー電気泳動に関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
6) Guile, G.R., Rudd, P.M., Wing, D.R., Prime, S.B. and Dwek, R.A. (1996). "A rapid high-resolution high-performance liquid chromatographic method for separating glycan mixtures and analyzing oligosaccharide profiles." Anal Biochem 240: 210-26, (HPLCに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
7) Caesar, J.P., Jr., Sheeley, D.M. and Reinhold, V.N. (1990). "Femtomole oligosaccharide detection using a reducing-end derivative and chemical ionization mass spectrometry," Anal Biochem 191: 247-52, for LC-MS(LC−MSに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
8) Mattu, T.S., Royle, L., Langridge, J., Wormald, M.R., Van den Steen, P.E., Van Damme, J., Opdenakker, G., Harvey, D.J., Dwek, R.A. and Rudd, P.M. (2000). "0-glycan analysis of natural human neutrophil gelatinase B using a combination of normal phase-HPLC and online tandem mass spectrometry: implications for the domain organization of the enzyme." Biochemistry 39: 15695-704, (NP−HPLC及びMSに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
9) Royle, L., Mattu, T.S., Hart, E., Langridge, J.L, Merry; A.H., Murphy, N., Harvey, D.J., Dwek, R.A. and Rudd, P. M. (2002). "An analytical and structural database provides a strategy for sequencing O-glycans from microgram quantities of glycoproteins." Anal Biochem 304: 70-90, (NP−HPLC及びMSに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
10) Anumula, K.R. and Du, P. (1999). "Characterization of carbohydrates using highly fluorescent 2- aminobenzoic acid tag following gel electrophoresis of glycoproteins." Anal Biochem 275: 236-42, (ゲル電気泳動に関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
11) Huang, Y. and Mechref, Y. (2001). "Microscale nonproductive release of 0-linked glycans for subsequent analysis through MALDI mass spectrometry and capillary electrophoresis." Analytical Chemistry 73: 6063-6069, (MALDI−MS及びキャピラリー電気泳動の組合せに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
12) Burlingame, A.L. (1996). "Characterization of protein glycosylation by mass spectrometry." Curr Opin Biotechnol 7: 4-10, (質量分析に関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
13) Costello, C.E. (1999). "Bioanalytic applications of mass spectrometry." Curr Opin Biotechnol 10: 22-8, (質量分析に関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
14) Davies, M.J. and Hounsell, E.F. (1996). "Comparison of separation modes of high-performance liquid chromatography for the analysis of glycoprotein- and proteoglycan-derived oligosaccharides." J Chromatogr A 720: 227-33, (HPLCに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
15) El Rassi, Z. (1999). "Recent developments in capillary electrophoresis and capillary electrochromatography of carbohydrate species." Electrophoresis 20: 3134-44, (キャピラリー電気泳動及びキャピラリー電気クロマトグラフィーに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
16) Kuster, B., 'Wheeler, S.F., Hunter, A.P., Dwek, R.A. and Harvey, D.J. (1997). "Sequencing of N-linked oligosaccharides directly from protein gels: in-gel deglycosylation followed by matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry and, normal-phase high-performance liquid chromatography." Anal-Biochem 250: 82-101, (NP-HPLC及びMALDI-MSに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
17) Reinhold, V.N,, Reinhold, B.B. and Chan, S. (1996). "Carbohydrate sequence analysis by electrospray ionization-mass spectrometry." Methods Enzymol 271: 377-402, (ESI−MSに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
18) Mattu, T.S., Pleass, R.J., Willis, A.C., Kilian, M., Wounald, M.R., Lellouch, A.C., Rudd, P.M., Woof, J.M. and Dwek, R.A. (1998). "The glycosylation and structure of human serum IgAl, Fab, and Fc regions and the role of N-glycosylation on Fe alpha receptor interactions." Journal of Biological Chemistry 273: 2260-72, (WAX及びNP−HPLCに関し、その全体が参照により本明細書に組み込まれている).
19) Callewaert, N., Schollen, E., Vanhecke, A., Jaeken, J., Matthijs, G., and Contreras, R. (2003). Increased fucosylation and reduced branching of serum glycoprotein N-glycans in all known subtypes of congenital disorder of glycosylation I. Glycobiology 13: 367-375(その全体が参照により本明細書に組み込まれている).
20) Block, T.M. Comunale, M.A., Lowman, M., Steel, L.F., Romano, P.R.,, Fimmel, C., Tennant, B.C. London, A.A. Evans, B.S. Blumberg, R.A. Dwek, T.S. Mattu and A. S. Mehta, "Use of targeted glycoproteomics to identify serum glycoproteins that correlate with liver cancer in woodchucks and humans." PNAS USA (2005) 102, 779-784(その全体が参照により本明細書に組み込まれている).
21) D.J. Harvey, Fragmentation of negative ions from carbohydrates: Part 1; Use of nitrate and other anionic adducts for the production of negative ion electrospray spectra from N-linked carbohydrates, J. Am. soc. Mass Spectrom., 2005, 16, 622-630, (その全体が参照により本明細書に組み込まれている).
22) D.J. Harvey, Fragmentation of negative ions from carbohydrates: Part 2, Fragmentation of high-mannose N-linked glycans, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 2005, 16, 631-646, (その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
23) D.J Harvey, Fragmentation of negative ions from carbohydrates: Part 3, Fragmentation of hybrid and complex N-linked glycans, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 2005, 16, 647-659, (その全体が参照により本明細書に組み込まれている).
【0034】
疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法における糖鎖プロファイルを測定するステップに多数の技術を使用することができるが、単独での又は質量分析と組み合わせた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって糖鎖プロファイルを測定することが好ましい可能性がある。例えば、糖鎖プロファイルを測定するステップは、ゲル電気泳動(Jackson, P., Pluskal, M.G.及びSkea, W. (1994)、「The use of polyacrylamide gel electrophoresis for the analysis of acidic glycans labeled with the fluorophore 2-aminoacridone.」、Electrophoresis 15: 896-902を参照)、パルス電流測定検出(PAD)を使用するHPAEC(Townsend, R.R., Hardy, M.R., Hindsgaul, O.及びLee, Y.C., (1988)、「High-performance anion- exchange chromatography of oligosaccharides using pellicular resins and pulsed amperometric detection.」、Anal Biochem 174: 459-70;並びにHardy, M.R.及びTownsend, R.R. (1994)、「High-pH anion-exchange chromatography of glycoprotein- derived carbohydrates.」、Methods Enzymol 230: 208-25)、又はキャピラリー電気泳動(El Rassi, Z. (1999)、「Recent developments in capillary electrophoresis and capillary electrochromatography of carbohydrate species.」、Electrophoresis 20: 3134-44を参照)によって行うことができるが、これらの技術は、理想的には大規模な自動化にも適さず、完全な定量的構造分析ももたらさない。一般に、これらは検出限界が劣り、再現性が低く、オリゴサッカリドの完全な構造的特徴を得る固有の困難性によって制限を受け、新規な構造に対して予備指定を行うことが可能であることを必要とする予測性が欠如している。
【0035】
蛍光標識したグリカン(例えば、2ABで標識したグリカン)の糖鎖プロファイルをHPLCにより測定すると、クロマトグラム中のピークの積分によってグリカンプール中のグリカン構造の正確な定量及び構造的指定が可能となる。HPLCで測定した糖鎖プロファイルでは、分析したグリカンプール中に存在するグリカン構造が、その溶出時間に基づいて分離される。NP-HPLCでは、標準デキストラン加水分解物ラダーとの比較によって溶出時間をグルコース単位に転換することができる。HPLCで測定した糖鎖プロファイルは、正確なモル比でグリカンプール中に存在するグリカン構造をすべて追跡することができる。HPLCの固定相の極性官能基は、特異的な形で結合した特定のモノサッカリドについて再現可能な形でグリカンのヒドロキシル基と相互作用することができる。例えば、外腕フコース付加の寄与は、コアフコース残基の付加よりはるかに大きく、コアフコース残基は、溶出位置全体に0.5グルコース単位(gu)を常に与える。異なるモノサッカリド付加と関係する特徴的な増分値によって、糖鎖プロファイル中に存在する特定のピークについて予測される構造の予備指定が可能となる。次いで、エキソグリコシダーゼアレイでの消化及び/又は質量分析によってこの構造を確認することができる。キャピラリー電気泳動などの他の技術は、NP-HPLCほどの予測可能性がない。CE移動時間を標準物質で較正することができるが、不明な構造の移動時間は容易に予測することができない。NP-HPLCによる糖鎖プロファイルの測定はまた、下記の理由で好ましい可能性がある。1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでのグリカンプールの消化によりモノサッカリド残基が除去され、それによって、NP−HPLCにより測定した糖鎖プロファイルにおいて保持時間又は関連するgu値が低下する。いくつかの実施形態では、これによって、グリコシル化の変化と関係しないピークを糖鎖プロファイルの測定領域から移すことにより1つ又は複数のグリコシル化マーカーと関係するピークを分離することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、逆相高速液体クロマトグラフィーを使用して、糖鎖プロファイルを測定するステップを実施することができる。RP−HPLCで測定した糖鎖プロファイルでは、標準アラビノースラダーを使用して溶出時間をアラビノース単位に転換することができる。グリコシル化プロファイルを測定するためのRP-HPLCの使用は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Guile, G.R., Harvey, D.J., O'Donnell, N., Powell, A.K., Hunter, A.P., Zamze, S., Fernandes, D.L., Dwek, R.A., 及び Wing, D. R. (1998).、「Identification of highly fucosylated N-linked oligosaccharides from the human parotid gland.」、European Journal of Biochemistry" 258: 623-656; Royle, L., Mattu, T.S., Hart, E., Langridge, J.L, Merry, A.H., Murphy, N., Harvey, D.J., Dwek, R. A., 及び Rudd, P.M. (2002).、An analytical and structural database provides a strategy for sequencing o-glycans from microgram quantities of glycoproteins. Analytical Biochemistry 304: 70-90 に記載されている。RP−HPLCで測定した糖鎖プロファイルを使用して、NP−HPLCにより測定した糖鎖プロファイルを補足することができる。例えば、RP−HPLCは、バイセクティングN−アセチルグルコサミン残基を含まないグリカン構造からバイセクト型グリカン構造を分離することができる。NP−HPLCで測定した糖鎖プロファイルでは、これらの構造は近すぎて分解することができない可能性がある。いくつかの実施形態では、RP−HPLCによる糖鎖プロファイルを測定するステップは、1つ又は複数の緩衝液の使用を含み得る。移動相は、例えば測定の再現性を向上させるものでよい。緩衝液は、例えば溶媒A:トリエチルアミンでpH5に調整した50mMのギ酸アンモニウム、並びに溶媒B:50/50で混合した溶媒A及びアセトニトリルでよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、グリカンを収集する調製方法としてHPLCを使用することができ、すなわち、HPLCを使用して、例えば質量分析によるさらなる分析のための、並びにグリカンデータベース用のパラメーターを得るための珍しいグリカンを単離することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、グリカン中のグリカン構造に対応する複数のピークとしてそれぞれの糖鎖プロファイルを提示することができる。1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法では、ピーク比は、同じグリコシル化プロファイル内の任意の1つ又は複数のピークと任意の他の1つ又は複数のピークとの間の比を意味する。グリコシル化マーカーを決定する方法では、ピーク比の比較は、ピークの強度の比較、又はピーク下の積分面積の比較を意味し得る。グリコシル化マーカーを決定する方法のいくつかの実施形態では、1個又は複数個のエキソグリコシダーゼで消化しなかった罹患試料及び対照試料のグリカンについて、ピーク比を比較するステップを実施することができる。いくつかの実施形態では、1個又は複数個のエキソグリコシダーゼで消化したグリカンに対して、ピーク比を比較するステップを実施することができる。いくつかの実施形態では、エキソグリコシダーゼで消化しなかったグリカン及び1個又は複数個のエキソグリコシダーゼで消化したグリカンについて、ピーク比を比較するステップを実施することができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、HPLCでの糖鎖プロファイルを測定するステップを、質量分析の測定で補足することができる。MALDI、ESIやLC/MSなどの補足的な質量分析データは、例えば、十分な量の体液又は身体組織の試料が入手可能であるときにより複雑なグリカンの構造を分解できる別々の直交的な技術として、HPLCで測定した糖鎖プロファイルの検証に使用することができる。HPLCと組み合わせて使用する質量分析は、糖タンパク質の構造分析にとって強力な手段となり得る。単独の質量分析は、グリカンの構造分析に使用することができ、グリカンのモノサッカリド組成をもたらす。しかし、単独で使用する質量分析では、同重モノサッカリドが(したがって、オリゴサッカリド又はグリカンも)区別されず、グリカン中のモノサッカリド結合についての情報がもたらされない。LC-MS/(MS)技術は、質量分析技術を超えて、情報性のあるデータのほとんどをもたらすことができる(Caesar, J.P., Jr., Sheeley, D.M. and Reinhold, V.N. (1990)、「Femtomole oligosaccharide detection using a reducing-end derivative and chemical ionization mass spectrometry.」、Anal Biochem 191: 247-52; Mattu, T.S., Pleass, R.J., Willis, A.C, Kilian, M., Wormald, M.R., Lellouch, A.C, Rudd, P. M., Woof, J.M. and Dwek, R.A. (1998)、「The glycosylation and structure of human serum IgAl, Fab, and Fc regions and the role of N-glycosylation on Fc alpha receptor interactions.」、Journal of Biological Chemistry 273: 2260-72;並びにRoyle, L., Mattu, T.S., Hart, E., Langridge, J.L, Merry, A.H., Murphy, N., Harvey, D.J., Dwek, R.A. 及び Rudd, P.M. (2002)、「An analytical and structural database provides a strategy for sequencing 0-glycans from microgram quantities of glycoproteins.」Anal Biochem 304: 70-90を参照)。いくつかの実施形態では、LC/MSによる糖鎖プロファイルを測定するステップは、LC/MSのMS段階に入る前のグリカンの清浄及び予備的分離のためだけでなく、グリカン中のグリカン構造の予備指定を得るためにLC/MSのLC段階を使用するステップを含み得る。これは、例えば、LC/MSのLCカラム中で、NP−HPLCマトリックス、例えばTSKゲルアミド80マトリックスを用いたNP-HPLCを使用することにより実現することができる。TSKゲルアミド80マトリックスを用いたNP−HPLCでは、グリカンのヒドロキシル基がアミド官能基と相互作用し、したがって、溶出の順序が、特定のグリカン中のヒドロキシル基の数、その分子配座、及び移動相でのその相対的溶解性によって決まる。第一選択の手法として、特に体液又は身体組織の量が限られているとき、質量分析は、単独では、グリカンのプール中のグリカン構造の結合及びモノサッカリド配列を含めた正確な定量的特徴付け及び完全な構造的指定には十分でない可能性がある。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、グリカンプールが荷電グリカンを含むとき、電荷に基づいてグリカンプールをいくつかのアリコートに分画化することができる。グリカンプールの分画化は、例えば、弱イオン交換(WAX)クロマトグラフィーによって実施することができる。次いで、エキソグリコシダーゼ消化と組み合わせたNP−HPLCによって、各WAXアリコートをそれぞれ独立に分析することができる。WAX HPLCによる糖鎖プロファイルの測定は、例えば、Guile, G.R., Wong, S.Y. 及び Dwek, R.A. (1994)、「Analytical and preparative separation of anionic oligosaccharides by weak anion-exchange high-performance liquid chromatography on an inert polymer column.」Analytical Biochemistry 222: 231-5に記載されている。
【0041】
上記に記載の方法を用いたグリカンの糖鎖プロファイルの測定により、ピコモル以下のレベルでの、グリカン中に存在する特定のグリカン構造の検出が可能となる。したがって、いくつかの実施形態では、グリカンの糖鎖プロファイルを測定するステップは、1ピコモル、好ましくは0.1ピコモル、さらにより好ましくは0.01ピコモルの量の、グリカン中に存在するグリカン構造を検出できる技術を使用して実施する。
【0042】
エキソグリコシダーゼ消化
いくつかの実施形態では、遊離させたグリカンに1つ又は複数の酵素でのさらなる酵素的消化を施すことができる。酵素的消化は、グリコシダーゼなどの任意の適切な酵素を使用して行うことができる。適切なグリコシダーゼの例には、それだけに限らないが、N−グリコシダーゼF(PNGアーゼF)、シアリダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、フコシダーゼα1−6,2>>3,4,α1−3,4,α1−2フコシダーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルカン1,4−α−グルコシダーゼ、セルラーゼ、エンド−1,3(4)−β−グルカナーゼ、イヌリナーゼ、エンド−1,4−β−キシラナーゼ、オリゴサッカリドα−1,6−グルコシダーゼ、デキストラナーゼ、キチナーゼ、ポリガラクトウロナーゼ、リゾチーム、エキソ−α−シアリダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−マンノシダーゼ、β−マンノシダーゼ、β−フルクトフラノシダーゼ、α,α−トレハラーゼ、β−グルクロニダーゼ、キシランエンド−1,3−β−キシロシダーゼ、アミロ−α−1,6−グルコシダーゼ、ヒアルロノグルコサミニダーゼ、ヒアルロノグルクロニダーゼ、キシラン1,4−β−キシロシダーゼ、β−D−フコシダーゼ、グルカンエンド−1,3−β−D−グルコシダーゼ、α−L−ラムノシダーゼ、プルラナーゼ、GDP−グルコシダーゼ、β−L−ラムノシダーゼ、フコイダナーゼ、グルコシルセラミダーゼ、ガラクトシルセラミダーゼ、ガラクトシルガラクトシルグルコシルセラミダーゼ、スクロースα−グルコシダーゼ、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ、α−L−フコシダーゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ、β−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、シクロマルトデキストリナーゼ、α−L−アラビノフラノシダーゼ、グルクロノシル−ジスルホグルコサミングルクロニダーゼ、イソプルラナーゼ、グルカン1,3−β−グルコシダーゼ、グルカンエンド−1,3−α−グルコシダーゼ、グルカン1,4−α−マルトテトラヒドロラーゼ、ミコデキストラナーゼ、グリコシルセラミダーゼ、1,2−α−L−フコシダーゼ、2,6−β−フルクタン6−レバンビオヒドロラーゼ、レバナーゼ、クエルシトリナーゼ、ガラクトウラン1,4−α−ガラクトウロニダーゼ、イソアミラーゼ、グルカン1,6−α−グルコシダーゼ、グルカンエンド−1,2−β−グルコシダーゼ、キシラン1,3−β−キシロシダーゼ、リケニナーゼ、グルカン1,4−β−グルコシダーゼ、グルカンエンド−1,6−β−グルコシダーゼ、L−イドウロニダーゼ、マンナン1,2−(1,3)−α−マンノシダーゼ、マンナンエンド−1,4−β−マンノシダーゼ、フルクタンβ−フルクトシダーゼ、アガラーゼ、エキソ−ポリ−α−ガラクトウロノシダーゼ、κ−カラギナーゼ、グルカン1,3−α−グルコシダーゼ、6−ホスホ−β−ガラクトシダーゼ、6−ホスホ−β−グルコシダーゼ、莢膜ポリサッカリドエンド−1,3−α−ガラクトシダーゼ、β−L−アラビノシダーゼ、アラビノガラクタンエンド−1,4−β−ガラクトシダーゼ、セルロース1,4−β−セロビオシダーゼ、ペプチドグリカンβ−N−アセチルムラミダーゼ、α,α−ホスホトレハラーゼ、グルカン1,6−α−イソマルトシダーゼ、デキストラン1,6−α−イソマルトトリオシダーゼ、マンノシル−糖タンパク質エンド−β−N−アセチルグルコサミダーゼ、糖ペプチドα−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、グルカン1,4−α−マルトヘキサオシダーゼ、アラビナンエンド−1,5−α−L−アラビノシダーゼ、マンナン1,4−β−マンノビオシダーゼ、マンナンエンド−1,6−β−マンノシダーゼ、血液型物質エンド−1,4−β−ガラクトシダーゼ、ケラタン硫酸エンド−1,4−β−ガラクトシダーゼ、ステリル−β−グルコシダーゼ、ストリクトシジンβ−グルコシダーゼ、マンノシル−オリゴサッカリドグルコシダーゼ、タンパク質−グルコシルガラクトシルヒドロキシリシングルコシダーゼ、ラクターゼ、エンドガラクトサミニダーゼ、ムシナミニルセリンムシナミニダーゼ、1,3−α−L−フコシダーゼ、2−デオキシグルコシダーゼ、マンノシル−オリゴサッカリド1,2−α−マンノシダーゼ、マンノシル−オリゴサッカリド1,3−1,6−α−マンノシダーゼ、分枝デキストランエキソ−1,2−α−グルコシダーゼ、グルカン1,4−α−マルトトリオヒドロラーゼ、アミグダリンβ−グルコシダーゼ、プルナシンβ−グルコシダーゼ、ビシアニンβ−グルコシダーゼ、オリゴキシログルカンβ−グリコシダーゼ、ポリマンヌロン酸ヒドロラーゼ、マルトース−6’−リン酸グルコシダーゼ、エンドグリコシルセラミダーゼ、3−デオキシ−2−オクツロソニダーゼ、ラウカフリシンβ−グルコシダーゼ、コニフェリンβ−グルコシダーゼ、1,6−α−L−フコシダーゼ、グリチルリジン酸β−グルクロニダーゼ、エンド−α−シアリダーゼ、糖タンパク質エンド−α−1,2−マンノシダーゼ、キシランα−1,2−グルクロノシダーゼ、キトサナーゼ、グルカン1,4−α−マルトヒドロラーゼ、ジフルクトース無水物シンターゼ、ネオプルラナーゼ、グルクロノアラビノキシランエンド−1,4−β−キシラナーゼ、マンナンエキソ−1,2−1,6−α−マンノシダーゼ、アンヒドロシアリダーゼ(anhydrosialidase)、α−グルコシドウロナーゼ、ラクト−N−ビオシダーゼ、4−α−D−{(1−>4)−α−D−グルカノ}トレハローストレハロヒドロラーゼ、限界デキストリナーゼ、ポリ(ADP−リボース)グリコヒドロラーゼ、3−デオキシオクツロソナーゼ、ガラクタン1,3−β−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトフラノシダーゼ、チオグルコシダーゼ、リボシルホモシステイナーゼ、β−プリメベロシダーゼがある。
【0043】
最も好ましくは、酵素的消化は、表1に列挙した1個又は複数個のエキソグリコシダーゼで実施する。
【表1】


例えば、図3に、エキソグリコシダーゼのアレイで消化した後全血清から遊離した2−AB標識N-結合型グリカンの、NP−HPLCで測定した糖鎖プロファイルを例示する。図3では主要なピークのみに注釈を付けており、使用した略語は表2に対応している。
【0044】
いくつかの実施形態では、酵素的消化は、連続的な消化でよく、その場合すべてのモノサッカリドが一度に切り離されるわけではない。各消化ステップ後に消化したグリカンを分析してグリコシル化プロファイルを得ることができる。いくつかの実施形態では、酵素的消化は1個又は複数個のエキソグリコシダーゼを含むアレイでの消化でよい。アレイでの消化とは、様々な組合せのエキソグリコシダーゼのパネルを使用して、グリカンのプールのアリコートに対するいくつかの消化プロファイルを得ることを意味する。各エキソグリコシダーゼ酵素は、定められた結合で結合している特定の末端モノサッカリドを切り離す。アレイ中で、エキソグリコシダーゼ酵素はその特異性に応じて連続的に作用する。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態では、任意の組合せの1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでの消化を使用して、マーカーを含まないグリカン構造を糖鎖プロファイルの測定領域から移すことにより(複数の)グリコシル化マーカーを分離することができる。本発明のいくつかの実施形態では、任意の組合せの1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでの消化を使用して、何らかのマーカーオリゴサッカリドと結合しているが、それがマーカーの必須の特徴ではないモノサッカリドを消化して除くことにより(複数の)グリコシル化マーカーを増幅することができる。本発明のいくつかの実施形態では、1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでの消化を使用して、(複数の)グリコシル化マーカーを増幅することもでき、分離することもできる。グリコシル化マーカーを分離及び/又は増幅するための1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでの消化の使用は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、Dwekらが出願した米国特許仮出願明細書「Glycosylation Markers for Cancer Diagnostics and Monitoring」で例示されている。
【0046】
いくつかの実施形態では、糖鎖プロファイルを測定すると、以前に報告されたグリカン構造、又は酵素アレイパネルによって完全に消化されない構造に指定することができない1つ又は複数のピークを明らかにすることができる。この場合、1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでの消化を使用して、これらの1つ又は複数のピークを分離してさらなる分析を行うことができる。HPLCに基づく技術によって、そのようなグリカンをHPLC溶出液から回収してさらなる分析を行うことが可能となる。
【0047】
データベース
グリカンの糖鎖プロファイルを測定するステップは、グリカンのグリカン構造のデータベースを構築するステップを含み得る。このデータベースのパラメーターは、例えば、(HPLCデータ由来の)溶出時間;(MSデータ由来の)質量及び組成;エキソグリコシダーゼ酵素での処理後実験的に決定及び/又は予測されたグリカン構造、溶出時間、質量及び組成;MS断片化後実験的に決定及び/又は予測されたグリカン構造、質量及び組成を伴うグリカン構造でよい。データベースは、例えば、グリカン構造の予備指定及び最終指定を行うこともでき、適当なエキソグリコシダーゼアレイを推奨して予備指定を確認することもできる。糖鎖プロファイルの測定におけるデータベースの使用は、例えば、下記の参照文献に記載されている:
1) Mattu, T.S., Royle, L., Langridge, J., Wormald, M.R., Van den Steen, P. E., Van Damme, J., Opdenakker, G., Harvey, D.H., Dwek, R.A. and Rudd, P.M. (2000). "The O-glycan analysis of natural human neutrophil gelatinase B using a novel strategy combining normal phase- HPLC and on-line tandem mass spectrometry: implications for the domain organization of the enzyme." Biochemistry 39: 15695-704.," (その全体が参照により本明細書に組み込まれている)
2) Royle, L., Mattu, T.S., Hart, E., Langridge, J.I., Merry, A.H., Murphy, N., Harvey, D.J., Dwek, R.A. and Rudd, P.M. (2002). "An analytical and structural database provides a strategy for sequencing 0-glycans from microgram quantities of
glycoproteins." Anal Biochem 304: 70-90, (その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
3) Butler, M., Quelhas, D., Critchley, A.J,, Carchon, H., Hebestreit, H, F., Hibbert, R.G., Vilarinho, L., Teles, E., Matthijs, G., Schollen, E., Argibay, P., Harvey, D.J., Dwek, R A., Jaeken, J. and Rudd, P.M. (2003). "Detailed glycan analysis of serum glycoproteins of patients with congenital disorders of glycosylation indicates the specific defective glycan processing step and provides an insight into pathogenesis." Glycobiology 13: 601-22, (その全体が参照により本明細書に組み込まれている)
4) Peracaula, R., Royle, L., Tabares, G., Mallorqui-Fernandez, G., Barrabes, S., Harvey, D.J., Dwek, R.A., Rudd, P.M. and de Llorens, R. (2003). "Glycosylation of human pancreatic ribonuclease: differences between normal and tumor states." Glycobiology 13: 227-44, (その全体が参照により本明細書に組み込まれている);
5) Peracaula, R., Tabares, G., Royle, L., Harvey, D.J., Dwek, R.A., Rudd, P.M. and de Llorens, R. (2003). "Altered glycosylation pattern allows the distinction between prostate-specific antigen (PSA) from normal and tumor origins." Glycobiology 13: 457-70.
【0048】
グリカンデータベースの一例は、オックスフォード糖鎖生物学研究所(Oxford Glycobiology Institute)で陰イオン質量分析によって決定されたグリカン構造を含むデータベースでよい。グリカン分析を行うための陰イオン質量分析の使用は、例えば、
1) D.J. Harvey, Fragmentation of negative ions from carbohydrates: Part 1; Use of nitrate and other anionic adducts for the production of negative ion electrospray spectra from N-linked carbohydrates, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 2005,16, 622-630(その全体が参照により本明細書に組み込まれている)

2) D.J. Harvey, Fragmentation of negative ions from carbohydrates: Part 2, Fragmentation of high-mannose N-linked glycans, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 2005, 16, 631-646(その全体が参照により本明細書に組み込まれている)

3) D.J. Harvey, Fragmentation of negative ions from carbohydrates: Part 3, Fragmentation of hybrid and complex N-linked glycans, J. Am. Soc. Mass Spectrom., 2005, 16, 647-659(その全体が参照により本明細書に組み込まれている)
に記載されている。そのデータベースは現在、個々のオリゴサッカリド及びオリゴサッカリド混合物の質量分析プロファイルに由来するグリカン構造60種の断片化パターンを含む。このデータベースのパターンを、市販されているソフトウェアを使用するパターン照合によって実験MSプロファイルと照合することができる。
【0049】
グリカンデータベースの例は、図10に例示するオックスフォード糖鎖生物学研究所(OGBI)のグリカンデータベースであるGlycobaseでよい。Glycobaseは、290種を超えるグリカン構造の分析データを含み、図10に例示するように、それを使用して、予備的構造と最終構造の両方を指定することもでき、適当なエキソグリコシダーゼアレイを推奨して予備指定を確認することもできる。図10のパネル(a)及び(b)は命名法を示し、それを使用してグリカン構造を描き、エキソグリコシダーゼ消化を説明することができる。パネル(c)は、Glycobaseで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;パネル(d)〜(g)は、エキソグリコシダーゼでの一連の消化を通じてグリカン構造A2G2S2(使用した略語は表2で説明されている)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【0050】
例えば、PeakTimeアドオンソフトウェアパッケージを使用して、個々のピークのGU値を得ることができる。PeakTimeソフトウェアは、例えば、デキストランラダー標準物質との比較に基づいて各試料ピークのGU値を自動的に計算することができ、標準データベースのデータを使用して各ピークに対する予備指定を列挙することができる。OGBIのPeakShiftのようなさらなるソフトウェアを使用して、酵素消化産物に構造を指定し、PeakTimeによって行われた最初の指定のどれが正しいかを確認することができる。PeakShiftソフトウェアは、個々のモノサッカリド残基のピーク面積と増分値の組合せを使用する。
【0051】
所与の分散を有するクロマトグラムのピークの組に対する一般化した変換のモデルに基づくアルゴリズム(図11)を、グリコシル化プロファイルのさらなる分析に適用することができる。糖鎖生物学の分野では、これらの変換は酵素、例えばエキソグリコシダーゼの作用に相当し得るが、そのアルゴリズムの一般性から、類似した方法を使用する化学又は生化学の任意の分野へと、その分野外にそれを適用することが可能である。アルゴリズムを構成要素に分解することができる。最初に、多項式曲線適合技術を使用して、各クロマトグラムを一連の標準ピークで較正することができる。次いで、標準値のデータベースに対する表索引によって、考えられる指定の最初のリストを各ピークについて決定することができる。統計上妥当な手順を比較で使用することができ、不明な物質と標準物質両方の既知の分散を使用する。最終ステップは、標準物質の格納された酵素消化フットプリントとの比較でよい。
【0052】
新たなデータが得られたとき、OGBIで現在使用中のデータベースは絶えず更新される。データベースは、構造の略語、概略図、(その構造について入力されたデータから平均を計算した)コンセンサスGU値及び(一連のエキソグリコシダーゼ消化について入力された)消化産物を表示することができる。データベースの下位区分は、N−結合 動物;N−結合 植物;N−結合 高マンノース;O−結合 コア 1&2;O−結合 コア 3&4;O−結合 他;GSL;及びその他でよい。データベースのさらなる改変によって、より大きな範囲の下位区分を選択することが可能となる。データベースによって、使用者が、どの糖(例えば、フコース)を含むかや、すべてN−グリカン二分岐構造のみなどの選択によってどのグリカンを見るかを選択することが潜在的に可能となる。
【0053】
血清グライコームデータベース
糖タンパク質を精製せずに全血清で遊離させたグリカンについて別々のデータベースを構築することができる。例えば、現在のところ図4上及び表2中で同定された38種のグリカンを有する、シアリル化グリカンと中性グリカンの両方についてのNP−HPLC血清グリカンプロファイルを含む特定のデータベースを構築することができる。
【0054】
下記の機能を全部そろえ、十分に試験し、オックスフォード糖鎖生物学研究所で現在使用中である:
1) 酵素の特異性並びに標準GU値及び分散を保持するデータベース。データベースの構造は柔軟なものであり、それによって、異なるカラム及びメソッドごとに異なる値を格納することが可能となり、異なる化学基、或いは異なる使用者又は計画についての領域に記憶域を容易に分割することが可能となる。
2) グラフの表示。最新版のPeakTimeは、同じ縮尺で上下に複数のプロットを表示し、それらのピークの間に入る酵素による変換を示すことができる。
3) 較正した縮尺で再計算した時間軸でクロマトグラムを描くことができる。これによって、特にデータベースの値を同じ縮尺の棒グラフとして表示することができるとき、複数プロット間で直接比較を行うことが可能となる。
4) 提供されるグラフ機能には、ズームイン、棒グラフ又は未加工の曲線としての表示、ピークの面積と高さの切替え、及び配列決定から決定した化学種名などの情報の注釈付けがある。
5) 表の表示。グラフで示したものの大部分は、表の形で表示することもできる。表のセルの幅及び高さを調整することができ、スプレッドシートの使用者が慣れている形で個々のカラムを隠すことができる。
6) ログイン名及びパスワードのセキュリティシステムを提供し、それによって、標準データを無許可の変更から保護し、個々の使用者についてその個人用データにアクセスを制限することが可能となる。
7) 多項式写像を用いたカラム較正機能。実施する様々な較正の型の範囲には、グルコース単位(GU)とアラビノース単位(AU)の縮尺がどちらも含まれる。
8) クロマトグラム上での操作。和と差の機能が提供される。そのようなプロットは、PeakTimeが行う較正がないと、解釈することが困難となる。
9) 実験データをクロマトグラムからマウスを用いてドラッグアンドドロップによりデータベースに直接加えることができる迅速なデータ入力機構。これは、短命な毎日の値についてデータベースの使用を促し、そのようにして紙の記録の保持への依存性を低下させるように設計されている。
10) ロック機能。較正した後クロマトグラムをロックすることができ、その結果、不注意による変更を回避することができる。
11) エクスポート。グラフをビットマップ又はベクトル形式でファイルにエクスポートすることもでき、或いはビットマップとしてウインドウのクリップボードにエクスポートすることもできる。すべての表を、Microsoft Access又はExcelなどのツールに転送する標準の形式でファイルにエクスポートすることができる。
12) 印刷。グラフの表示も表の表示もPeakTime内から印刷することができ、ある場合には印刷プレビュー機能が提供される。フォント、線の太さやカラムの幅などの様々な表示の選択が提供される。
【0055】
糖タンパク質を同定及び単離するための、疾患のグリコシル化マーカーの使用
いくつかの実施形態では、決定した疾患のグリコシル化マーカーを、1つ又は複数の糖タンパク質バイオマーカー、すなわち疾患に特異的な糖タンパク質の同定及び単離に使用することができる。疾患の糖タンパク質バイオマーカーは、疾患のグリコシル化マーカーを有する。疾患の糖タンパク質バイオマーカーの分離は、レクチン又はモノクローナル抗体を使用して実施することができる。例えば、「Use of targeted glycoproteomics to identify serum glycoproteins that correlate with liver cancer in woodchucks and humans.」、T.M. Block, M.A. Comunale, M. Lowman, L.F. Steel, P.R. Romano, C. Fimmel, B.C. Tennant, W.T. London, A.A. Evans, B.S. Blumberg, R.A. Dwek, T.S. Mattu 及び A.S. Mehta (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 779-784.で、レクチンを使用して、肝癌と関係するB型肝炎の糖タンパク質マーカーであるgp73が単離された。
【0056】
下記の実施例は、疾患のグリコシル化マーカーを決定する方法、並びに肝細胞癌及び関節リウマチの詳細なグリカン分析におけるデータベースの使用について例示するものである。しかし、本発明がそれに限定されないことを理解されたい。
【0057】
それに全く限定されないが、下記の実施例によって本発明をさらに例示する。
【0058】
[実施例1.C型肝炎ウイルス感染患者における肝細胞癌]
対照と、肝細胞癌であるC型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の全血清から遊離させたグリカンのグリコシル化プロファイルを比較して、2群を区別する潜在的なグリコシル化マーカーを検出した。2名の個人由来の健常な対照の血清試料、及び1つのプール試料を分析した。シアリル化グリカンと中性グリカンの両方についてのNP−HPLC血清グリカンプロファイルを含む特定のデータベースを構築し、38種のグリカンを同定した(図4、表2)。同じ手順を患者血清に適用し、HCV患者における肝細胞癌のグリコシル化マーカーを、HCV感染患者の全血清から遊離させたグリカンのデータベースを健常な対照の全血清から遊離させたグリカンのデータベースと比較することによって同定した。
【0059】
表2.健常な対照の血清中で同定されたグリカン構造。ピーク番号は、図4中のピーク番号に対応したものである。使用した略語:M5−9: GlcNAc2Manx、式中xはマンノースの数である;Ax:分岐の数、すなわちA2は二分岐である;Gx:ガラクトースの数、[3]及び[6]は、ガラクトースがどの腕と結合している(3又は6結合している)かを示す;Sx:シアル酸の数;B:バイセクティングGIcNAc; Fc: αl−6コアフコース。例えば、GUが6.17であるピーク5はMan5であり、これはGlcNAc2Man5と書くこともできる;ピーク33はMan9であり、これはGlcNAc2Man9と書くこともできる。
【表2】

【0060】
肝細胞癌であるHCV感染患者由来の血清の試料は、中等度又は重度の線維化/硬変を伴うHCV感染患者から得た。健常な対照の血清の試料は、定期健康診断を受けた個人の廃棄された臨床材料として得た。
【0061】
還元し変性させた血清試料中の糖タンパク質を、96穴プレート中の疎水性PVDF膜(Multiscreen_IP、0.45μm、疎水性高ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜、Millipore、米国マサチューセッツ州 Bedford)に、単純なろ過によって結合した。次いで、試料を洗浄して混入物を除去し、どちらも参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Papac, D.I.ら、Glycobiology 8: 445-54, 1998、及びCallewaert, N.ら、Electrophoresis 25: 3128-31, 2004に記載の方法に基づいて、それをPNGアーゼFとともにインキュベートしてグリカンを遊離させた。次いで、結合したタンパク質からN−グリカンを洗浄し、収集し、乾燥させて蛍光標識に備えた。
【0062】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれているBigge, J.C.,Patel, T.P., Bruce, J.A.,Goulding, P.N., Charles, S.M., 及び Parekh, R.B. (1995), Nonselective and efficient fluorescent labeling of glycans using 2-amino benzamide and anthranilic acid., Analytical Biochemistry 230: 229-238に記載のように、遊離させたグリカンを(例えば、Ludger Ltd、英国Oxfordの)市販のキットを用いて又は用いずに2−アミノベンズアミド(2−AB)蛍光標識で標識し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれているGuile, G.R., Rudd, P.M., Wing, D.R., Prime, S.B., 及び Dwek, R.A. (1996). A rapid high-resolution high-performance liquid chromatographic method for separating glycan mixtures and analyzing oligosaccharide profiles. Analytical Biochemistry 240: 210-226に記載のように、Waters 2475蛍光検出器を備えた Waters 2695分離モジュール(Waters、米国マサチューセッツ州 Milford)を使用した4.6x250mm TSK Amide−80カラム(Anachem, 英国 Luton)上での順相高速液体クロマトグラフィー(NP−HPLC)でそれを流した。NP−HPLC分析の前に、グリカンを一連のエキソグリコシダーゼで連続的に消化した。
【0063】
図5に、対照試料Con_9及び肝細胞癌であるHCV感染患者の試料HCV_42から遊離させたグリカンのNP−HPLCプロファイルを提示する。図5で、パネル(A)は、エキソグリコシダーゼ消化に全くさらさなかった全血清グリカンの糖鎖プロファイルに対応し、パネル(B)は、α2−3,6,8−シアリダーゼ、β1−4ガラクトシダーゼ及びβ−N−アセチルグルコサミニダーゼのアレイでの消化後の糖鎖プロファイルに対応する。図5のパネル(C)は、HCV患者の肝細胞癌の診断と相関するマーカーが、α2−3,6,8−シアリダーゼ、β1−4ガラクトシダーゼ及びβ−N−アセチルグルコサミニダーゼでの消化後に測定されたコアフコシル化グリカンの百分率であることを実証するものである。健常な対照の血清はこれらのグリカンを15から17%含むが、肝細胞癌であるHCV感染患者の血清は、19%を上回るこれらのグリカンを含んでいた。相関はまた、疾患の段階と、α2−3,6,8−シアリダーゼ、β1−4ガラクトシダーゼ及びβ−N−アセチルグルコサミニダーゼでの消化後に測定されたコアフコシル化グリカンの百分率との間でも観察された。肝細胞癌の中等度の段階にあるHCV感染患者では、α2−3,6,8−シアリダーゼ、β1−4ガラクトシダーゼ及びβ−N−アセチルグルコサミニダーゼでの消化後に測定されたコアフコシル化グリカンの百分率が20〜22%であったが、重度の線維化/硬変など、疾患の重度の段階にある患者では、このグリカンマーカーが平均して25%を上回った。
【0064】
結論:HCV患者での肝細胞癌のグリコシル化マーカーが、肝細胞癌であるHCV患者の全血清から遊離させたグリカンと健常な対照の全血清から遊離させたグリカンのグリコシル化プロファイルを比較することによって同定された。HCV患者の肝細胞癌のグリコシル化マーカーは、α2−3,6,8−シアリダーゼ、β1−4ガラクトシダーゼ及びβ−N−アセチルグルコサミニダーゼでの消化後に測定されたコアフコシル化グリカンの百分率である。そのマーカーは、疾患の診断及び疾患の重症度と相関する。エキソグリコシダーゼでのグリカンの消化によって、HCV患者での肝細胞癌のグリコシル化マーカーが増幅/分離される。
【0065】
[実施例2.関節リウマチ]
全血清から遊離させた非消化グリカンからのG0/三重−G1比の直接測定を、シアリダーゼ及びフコシダーゼ消化後に精製IgGから遊離させた全グリカンの百分率としてのG0グリカンの量の「古典的」測定と比較した。精製IgGから遊離させたG0が疾患(RA)特異的マーカーであり、それが疾患の進行と相関し、疾患の予後の指標としてそれを使用できることが示されている(例えば、1987年4月21日に発行されたDwekらの米国特許第4659659号明細書「Diagnostic Method for Diseases Having an Arthritic Component」;Parekhら、「Association of Rheumatoid Arthritis and Primary Osteoarthritis with Changes in the Glycosylation Pattern of Total Serum IgG」、Nature、316、pp.452-457、1985;及びParekhら、「Galactosylation of IgG Associated Oligosaccharides Is Reduced in Patients with Adult and Juvenile Onset Rheumatoid Arthritis and Is Related to Disease Activity」、Lancet、No.8592、vol.1、pp.966-969, 1988を参照)。この研究を用いて、全血清から遊離させた非消化グリカンのG0/三重−G1比と精製IgGから遊離させた全グリカンの百分率としてのG0グリカンの量との相関により、全血清から遊離させたグリカンの直接測定を、IgGを精製せずに関節リウマチのマーカーとして使用できることを実証する。
【0066】
患者試料の選択
対照患者血清は、定期従業員健康診断を受けた個人からプールした廃棄臨床材料であった。医師による全般活動性スコア(physician global activity score)、リウマチ因子血清反応陽性及び活動性関節数の組合せに基づいてRA患者を選択した。
【0067】
IgG精製:
どちらも参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、「Antibodies: A laboratory manual」、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, 1988、及びP. L. Eyら、「Isolation of pure IgG1, IgG2a, and IgG2b immunoglobulins from mouse serum using protein A-Sepharose」、Molecular Immunology、vol.15、pp.429、 1978に記載のように、プロテインGセファロースを使用するアフィニティークロマトグラフィーを介して全血清からIgGを単離した。簡潔に述べると、全血清100μLを300μLの100mM Tris pH 8.0で希釈し、それをプロテインGセファロースビーズ(Amersham Bioscience)の1mLカラムに通過させた。結合した物質をカラムの15倍容量の100mM Tris pH 8.0で洗浄した。100mMグリシン、pH 2.6緩衝液を使用してIgGを直接1/10容量の1M Tris pH 8.0中に溶出させ、1mL分画中に収集した。溶出させた分画のタンパク質含有量を280nM(UV)の吸光度(Beckman Coulter Model DU640分光光度計)によって決定した。タンパク質を含む溶出させた分画を貯留し、それをリン酸緩衝食塩水中に透析した。(例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Laemmli、「Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4」、Nature, 227, 680-685, 1970に記載の)還元条件下での10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)及び西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ロバ抗ヒトIgG(Jackson Immunochemicals)を利用し、Western Lightning Chemiluminescence Reagent Plus(Perkin Elmer)で視覚化するウェスタンブロット(参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Current Protocols in Immunology、John Wiley and Sons, 1994)を介して、溶出させた分画中のIgGの存在を確認した。カラムに流した物質中に血清IgGが定量上喪失していることを、ウェスタンブロット分析を介して確認した。
【0068】
グリカン遊離:
参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Kuster, B., Wheeler, S.F., Hunter, A.P., Dwek, R.A:, 及び Harvey, D. J. (1997), Sequencing of N-linked oligosaccharides directly from protein gels: in-gel deglycosylation followed by matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry and normal-phase high-performance liquid chromatography、Analytical Biochemistry 250: 82-101に記載のように、還元及びアルキル化した試料をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)上で泳動し、重鎖を切断し、ペプチドN−グリコシダーゼF(PNGアーゼF)で消化することによって、精製IgGからグリカンを遊離させた。還元及びアルキル化した血清を96穴プレート形式のMultiscreen_IP, 0.45μm疎水性高タンパク質結合性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Millipore、米国マサチューセッツ州Bedford)と結合させた後、全血清5μLからグリカンをPNGアーゼFで遊離させた。参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Bigge, J.C, Patel, T.P., Bruce, J.A., Goulding, P.N., Charles, S.M., 及び Parekh, R.B. (1995)、Nonselective and efficient fluorescent labeling of glycans using 2-amino benzamide and anthranilic acid.、Analytical Biochemistry 230: 229-238に記載のように、遊離させたグリカンを2AB蛍光標識(Ludger Ltd、英国Oxford)で標識し、Guile, G.R., Rudd, P.M., Wing, D.R., Prime, S.B., 及び Dwek, R.A. (1996)、A rapid high-resolution high-performance liquid chromatographic method for separating glycan mixtures and analyzing oligosaccharide profiles、 Analytical Biochemistry 240: 210-226に記載のように、Waters 2475蛍光検出器を備えたWaters 2695分離モジュール(Waters、米国マサチューセッツ州Milford)を使用した4.6x250mm TSK Amide−80カラム(Anachem、英国Luton)上での順相高速液体クロマトグラフィー(NP−HPLC)でそれを流した。精製した2AB標識IgG重鎖グリカンもシアリダーゼ及びフコシダーゼで消化して、すべての構造を還元してG0、G1又はG2+/−バイセクトにし、次いでNP−HPLCでそれを流した。[G0はガラクトース無し、G1は1つのガラクトース、G2は2つのガラクトースを示し、すべて二分岐の複雑なN−グリカン上にあるものである。]
【0069】
統計分析
グリカン比のデータをすべて表3に列挙する。図9の左上、左下、右上のパネルは、これらのデータ間の相関を示すプロットである。Microsoft Excelを使用した線形回帰分析によってR2値を得た。
【0070】
実験結果
図6に、試料GBRA13及びGBRA1のSDS−PAGE及びNP−HPLCのプロファイルを示す。具体的には、図6の挿入図(a)及び(b)に、重(H)鎖と軽(L)鎖のバンドに分離した、それぞれの試料から精製したIgGのSDS−PAGEゲルの写真を示す。図6の挿入図(c)及び(d)に、(a)及び(b)に示すゲルバンドから遊離させ、シアリダーゼ及びフコシダーゼでの消化を施さなかった重鎖及び軽鎖グリカンのNP−HPLCプロファイルを示す。軽鎖上でグリカンが検出されなかったので、分析には重鎖しか必要でなかった。
【0071】
図7に、(a)精製IgGから遊離させた非消化グリカンからのG0/三重−G1比の直接測定、並びに(b)精製IgGから遊離させ、シアリダーゼ及びフコシダーゼで消化した全グリカンに対するG0グリカンの比の「古典的」測定の詳細を例示する。具体的には、図7に、試料GBRA15のNP−HPLCプロファイルを示す。各ピークは特定の(複数の)グリカンに対応する。各プロファイルにおけるピークを積分して、各ピークの曲線下面積を得る。G0/三重−G1比の測定では、G0グリカンに対応するピーク下面積(図7の挿入図(a)の左の囲い)を、G1グリカンに対応する三つ組のピーク下面積(図7の挿入図(a)の右の囲い)で割る。これらの実験で認められたグリカンの大部分がコアフコシル化されていたので、コアフコシル化グリカンだけをこれらの測定中に含め、すなわち、G0/三重−G1比は、実際には、FcA2Gl [6]+FcA2Gl [3]+FcA2BGl [6]+FcA2BGl [3](三つ組として溶出する)のピーク面積で割ったFcA2G0のピーク面積である。
【0072】
「古典的」測定では、G0ピークに対応するピーク下面積をプロファイル中の全ピーク下の合計面積で割り、それを百分率として表す。
【0073】
図8に、対照試料及び試料GBRA15のNP−HPLCプロファイルを例示する。具体的には、挿入図(a)及び(d)にそれぞれの試料の全血清から遊離させたグリカンを示し、挿入図(b)及び(e)にそれぞれの精製IgGから遊離させた非消化重鎖グリカンを示し、挿入図(c)及び(f)に、それぞれの精製IgGから遊離させ、シアリダーゼ及びフコシダーゼで消化した重鎖グリカンを示す。
【0074】
表3に、RA患者15名及びプール対照1つに由来する全血清及び同じ血清試料から精製したIgGの、三重−G1ピークに対するG0の比を列挙する。精製IgGの全グリカン(G0+G1+G2)の百分率としてのG0グリカンの量の「古典的」測定も示す。精製IgGから得られた2つの異なる測定の結果を比較すると高い相関(R2=0.9649)が認められ、このことから、G0/三重−G1比が、全グリカンプール中でのG0グリカンの百分率の「古典的」測定と同程度の良好な測定であることが示唆される(図9、左上パネル)。精製IgGと全血清グリカンの間でのG0/三重−G1比の比較からR2=0.8785の相関が得られるが(図9、右上パネル)、全血清グリカンのG0/三重−G1比を精製IgGのG0グリカンの百分率と比較するとR2=0.8174の相関が得られる(図9、左下パネル)。図9の右下パネルは、全血清及びIgG試料のG0/三重−G1比を示すヒストグラムである。
【表3】

【0075】
結論
RA疾患の状態の指標として、エキソグリコシダーゼ処理後に決定される、精製IgGから遊離させたグリカン中のG0グリカンの百分率を測定するより冗長な手順の代わりに、G0/三重−G1比の直接測定用のグリカンを得るのに使用する全血清を5μLしか用いない高処理能のPVDF膜96穴プレート形式の使用が示された。したがって、RA疾患の状態をモニターするのに、全血清を用いたPVDF膜の方法を使用することによって試料調製から結果までの作業時間を効率よく減らすこともでき、使用する材料(血清)の量を減らすこともできる。
【0076】
2D−PAGEからの個々のタンパク質スポット又はプールタンパク質スポットのグリカンプロファイル測定
本発明者らはまた、ヒトや哺乳動物など疾患を有する対象の血清或いは他の体液又は身体組織中の糖タンパク質が、正常細胞並びに疾患の結果直接変化したものに由来し、又は病因に反応して分泌される別個のグライコフォームの混合物を含み得ることも理解していた。2D−PAGEゲルを使用してタンパク質レベルでグライコフォームのサブセットを分離すると、そのグリコシル化の変化によって疾患に関連するスポットを同定することができる。疾患により変化した形態のみを分析するので、疾患マーカーの感度を上げることができる。これによって、グリコシル化に関連する疾患マーカーを決定し、例えば疾患の進行又は寛解或いは薬剤投与に伴うその変化をモニターする方法がもたらされる。
【0077】
したがって、本発明は、疾患の1つ又は複数のバイオマーカーを同定する方法を提供し、前記方法は、二次元電気泳動を使用して疾患を有する対象の体液又は身体組織に由来するタンパク質プールを個々のスポット或いはスポットの1つ又は複数の列に分離するステップであり、個々のスポット又は列のスポットのそれぞれがタンパク質プールの1つ又は複数のタンパク質を含むステップと、個々のスポット或いは個々の列の単独又はプールスポットから遊離させたグリカンプールの詳細な糖鎖プロファイルを測定するステップと、測定したスポットから疾患の1つ又は複数の前記バイオマーカーとして疾患に関係する1つ又は複数のスポットを同定するステップであり、疾患に関係する前記スポットではその対応するグリコシル化プロファイルが変化しているステップとを含む。いくつかの実施形態では、同定する前記ステップは、同じ型のタンパク質に対応するスポット間でグリコシル化プロファイルを比較するステップを含み得る。いくつかの実施形態では、同定する前記ステップは、疾患に特有の1つ又は複数のタンパク質を同定するステップを含み得る。タンパク質プールは、体液又は身体組織の試料中に存在するすべて又は実質的にすべてのタンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、実質的にすべてのタンパク質とは、回収されたすべてのタンパク質を意味し得、さらにいくつかの実施形態では、実質的にすべてのタンパク質とは、特に除去されるもの以外すべてのタンパク質を意味し得る。二次元電気泳動は、例えば、どちらも参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Gorg,A.及びWeiss,W.、Methods Mol. Biol、112、235-244、1999又はGorg, A.、Weiss, W.、Dunn, M.J.、Proteomics、4、3665-3685、2004に記載の二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動でよい。糖鎖プロファイルを測定するステップは、上記に記載したクロマトグラフィーの方法又は他の方法を使用して実施することができる。グリカンプール中のグリカンは、2−ABなどの蛍光標識で標識することができる。N−グリカンプールは、列中の個々のスポット又はプールスポットから、PNGアーゼF或いは上記で論じた他の酵素的又は化学的遊離方法を使用して遊離させることができる。その方法は、関節リウマチ又は他の自己免疫疾患、癌や先天性グリコシル化異常症などグリコシル化の変化と関係する疾患の疾患バイオマーカー(疾患に関係するスポット)の同定を対象とすることができる。関節リウマチ患者におけるグリコシル化の変化は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、2005年4月26日に出願された米国特許仮出願第60/674,722号明細書で開示されている。癌患者におけるグリコシル化の変化は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、2005年4月26日に出願された米国特許仮出願第60/674,723号明細書で開示されている。いくつかの実施形態では、測定したスポットは、IgGなどの非常に豊富な糖タンパク質に対応し得る。いくつかの実施形態では、測定したスポットは、IgG以外の糖タンパク質に対応し得る。例えば、糖鎖プロファイルは、糖タンパク質の量が約100ng未満であり、より好ましくは約10ng未満であり、より好ましくは約5ng未満であり、より好ましくは約2ng未満であり、最も好ましくは約1ng未満である少量のスポットから測定することができる。
【0078】
下記の実施例は、2D−PAGEゲルからの個々のスポット又はプールスポットの糖鎖プロファイル測定を例示するものである。しかし、本発明がそれに限定されないことを理解されたい。
【0079】
2D−PAGEゲルスポットからのグリカン分析
2D−PAGE法
基本的に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Gorg, A. 及びWeiss,W.(1999、Horizontal SDS-PAGE for IPG-Dalt., Methods Mol Biol 112: 235-244)による記載の通りに2D−PAGEを行った。カテゴリーI:クラス100,000のクリーンルーム条件下で、試料調製、電気泳動、染色、スキャン及びスポットの切り出しを実施した。ドライストリップカバーミネラルオイル、Immobiline(登録商標)IPG DryStrip、電極芯及び一次元目の泳動用の電気泳動装置(再膨潤用トレイMultiphorII、EPS3500XL電源)はすべてGE Healthcare(英国Buckinghamshire)のものであった。二次元目の泳動槽、染色槽、OGT1238蛍光色素、Apollo線形蛍光スキャナー及びLIMSシステムは、Oxford GlycoSciences(英国Abingdon)により提供された。MelanieII画像分析ソフトウェア(2.3公開版)はBio-Rad/The Melanie Group(スイス、Geneva)のものであるが、Oxford GlycoSciencesによってカスタマイズされた。POLARstar Galaxyプレートリーダー(ファームウェア4.30-0版)及び関連するFLUOstarソフトウェア(ソフトウェア4.30-0版)はBMG Labtechnologies GmbH(ドイツ、Offenburg)のものであった。化学物質はすべて最高純度のものであった。
【0080】
一次元目:固定化pH勾配−等電点電気泳動
健常な対照のヒト血清試料をこの実験で使用した。タンパク質濃度は、Smithらのビシンコニン酸(BCA)アッセイ法(Smith, P.K.、Krohn, R.I.、Hermanson, G.T.、Mallia,A.K.、Gartner,F.H.、Provenzano,M.D.、Fujimoto,E.K.、Goeke,N.M.、Olson,B.J.、及びKlenk,D.C.(1985)、Measurement of protein using bicinchoninic acid.、Anal Biochem 150:76-85)を使用して、72.5mg/mLと決定された。500μg(6.9μL)のアリコートを使用した。
【0081】
375μLの5M尿素、2Mチオ尿素、4%(w/v)3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、65mMジチオスレイトール(DTT)、2mMトリブチルホスフィン(TBP)、150mM NDSB−256(ジメチルベンジルアンモニウムプロパンスルホネート、非洗浄性スルホベタイン−256−NDSB−256、Merck Biosciences、英国Nottingham)及び0.002%(w/v)ブロモフェノールブルー中の試料を、0.45%(v/v)のpH2-4担体両性電解質(SERVALYT(登録商標)SERVA、ドイツHeidelberg)、0.45%(v/v)のpH9-11担体両性電解質及び0.9%(v/v)のpH3-10担体両性電解質とボルテックスで混合し、次いでそれを室温で1時間放置して、完全な変性及び可溶化が確実に生じるようにし、次いでそれを16,000gで15分間遠心した。上清を注意深くピペットで取り、再膨潤用トレイ中のレーンに入れた。3mm幅、pH3-10NL、18cmのImmobiline(登録商標)IPG DryStripを、面を下にして試料上に置き、それにドライストリップカバーミネラルオイルを2mL重層した。再水和を室温で20時間行った。
【0082】
再水和後、ストリップの過剰なミネラルオイルを簡単に落とし、ゲルの面を上に向けてそれをMultiphorIIに移した。長さ2cmの電極芯を水100μLに浸しブロットして、確実にそれを湿らせるが過度にぬれないようにした。この湿った芯をIPGストリップのどちらかの端に置いた。電極棒をIPGストリップのどちらかの端にある芯の上に固定し、ストリップが浸るまでミネラルオイルを試料トレイ中に注いだ。Sanchezら(参照によりその全体が本明細書に組み込まれている、Sanchez,J.C.、Rouge,V.、Pisteur,M.、Ravier,F.、Tonella,L.、Moosmayer,M.、Wilkins,M.R. 及びHochstrasser,D.F.(1997)、Improved and simplified in-gel sample application using reswelling of dry immobilized pH gradients.、Electrophoresis 18:324-327)に従って、EPS3500XL電源を使用して300Vで2時間、次いで3500Vで最大75kVhまでIEFを実施した。再循環式恒温水槽を使用して温度を17℃に維持した。
【0083】
二次元目:SDS−PAGE
IEFの直後に、還元平衡溶液(4M尿素、2Mチオ尿素、50mM 2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(Tris)HCl、pH6.8、30%(v/v)グリセロール、2%(w/v)SDS、130mM DTT、0.002%(w/v)ブロモフェノールブルー)中でIPGストリップを20℃で15分間インキュベートした。ストリップの平衡溶液を落とし、ストリップを厚さ1mm、20cm×18cm、9〜16%T、2.67%C勾配ゲルの上に重ね、25mM Tris 192mMグリシン、0.1%(w/v)SDS(貯蔵緩衝液)中の90℃の0.5%(w/v)アガロースを入れてそれを封入した。アガロースを入れた後、二次元電気泳動を実施した。
【0084】
貯蔵緩衝液(Laemmli,U.K.(1970)、Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4.、Nature 227: 680-685)を使用した。Amess及びTolkovsky(Amess,B. 及びTolkovsky,A.M.(1995)、Programmed cell death in sympathetic neurons: a study by two-dimensional polyacrylamide gel electrophoresis using computer image analysis.、Electrophoresis 16: 1255-1267)により記載のものと類似する電気泳動槽中で電気泳動を実施した。電流を、ゲル1枚あたり20mAを1時間、その後ゲル1枚当たり40mAを4時間に設定した。再循環式恒温水槽を使用して温度を10℃に維持した。ブロモフェノールブルー追跡用色素がゲルの下部に達した後に電気泳動を終了した。
【0085】
染色及び画像分析
固定する前に、ゲルを水中で簡単に洗浄して泳動緩衝液を除去した。ゲル上のタンパク質を40%(v/v)エタノール、10%(v/v)酢酸中で1晩固定した。蛍光色素OGT1238を使用してゲルを染色した。488nm Apollo線形蛍光スキャナーで2D−PAGEゲルを画像化した(16ビット単色蛍光画像、解像度200μm)。次いでカスタマイズ版のMelanie IIでそれを分析した。
【0086】
ゲルスポットからのグリカン遊離
グリコシル化されないことが知られている、以前に同定された糖タンパク質のα2マクログロブリン、α2酸性糖タンパク質、α1酸性糖タンパク質、IgG重鎖及びハプトグロビンβ鎖+ハプトグロビンα2、並びにゲルの空白をMelanie IIソフトウェア上で強調し、Dark Readerトランスイルミネーターを使用して手作業でそれを切り出し、個々の1.5mL管にそれを入れた。ゲルを1晩凍結させた。
【0087】
ゲル片を20mM炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)1mLで20分間、その後アセトニトリル1mLで10分間洗浄した。20mM NaHCO3中の10mM DTTを100μL添加し、70℃で10分間インキュベートすることによってタンパク質を還元した。DTT溶液を除去し、20mM NaHCO3中の50mMヨードアセトアミドを100μL添加し、暗所で30分間インキュベートすることによって遊離チオールをアルキル化した。代替方法として、ゲル片を次いでアセトニトリル1mLで、次いでpH7の20mM NaHCO31mLで洗浄し、それを2回反復し、次いでゲルを乾燥させた。PNGアーゼF緩衝溶液を添加し(100U/mLを60μL)、それを37℃で1晩インキュベートした。(30分間の超音波処理を伴う)3×200μLの水洗浄を行い、その後アセトニトリルで洗浄し、もう一度水で洗浄し最後にアセトニトリルで洗浄するとともに上清を回収した。0.45μmのLH Milliporeフィルターを通して試料をろ過し、蛍光標識するために乾燥させた。試料を2ABで標識し、順相HPLCによりそれを分析した。
【0088】
図12(a)に、対照ヒト血清6.9μL(タンパク質500mg)の2D−PAGE(二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動)ゲルを示し、図12(b〜i)に、2D−PAGEゲル中の個々のタンパク質スポット又はプールタンパク質スポットから得られたN−グリカン糖鎖プロファイルを示す。印をつけたゲルスポットを切断し、それが同じタンパク質である場合には(最初の3スポットのみをプールし4番目のスポットを個々のスポットとして分析するときにはIgG重鎖を除いて)それをプールした。測定したゲルスポット(個々のスポット又はプールスポット)中のタンパク質の量は20〜50ngであった。PNGアーゼFを使用してグリカンを遊離させ、遊離させたグリカンプールの10%をNP−HPLCで流した。糖タンパク質でないハプトグロビンα2鎖は検出可能なグリコシル化を有さなかった(h)が、他のタンパク質はすべて、異なるグリコシル化を示した。
【0089】
これらのデータから、2D−PAGEゲル電気泳動によって分離したプールタンパク質スポットと個々のタンパク質スポットのどちらのグリコシル化も決定することが可能であることが示唆される。遊離させたグリカンプールの10%しかNP−HPLCで流さなかったので、2ng未満のタンパク質を含む個々のスポット又はプールスポットからグリコシル化を測定できることもこれらの結果から示される。
【0090】
前記では特定の好ましい実施形態について言及しているが、本発明がそれに限定されないことが理解されるであろう。開示された実施形態に様々な改変を加えることができ、そのような改変が本発明の範囲内にあることが意図されることが当業者には思い浮かぶであろう。
【0091】
本明細書で引用したすべての刊行物、特許出願及び特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】多次元グリカン構造分析の戦略を示す図である。
【図2】血清糖タンパク質のグリカンの高処理能分析を示す図である。
【図3】エキソグリコシダーゼのアレイでの消化後に全血清から遊離させた2−AB標識N−グリカンの順相高速液体クロマトグラフィー(NP−HPLC)プロファイルを示す図である。
【図4】NP−HPLCによって分析した、全血清から遊離させた2−AB標識グリカンの糖鎖プロファイルを示す図である。糖鎖プロファイルを、溶出時間とグルコース単位の尺度をどちらも使用するクロマトグラムとして提示する。
【図5】HCV患者の全血清中のコアフコシル化グリカンの百分率を示す図である。
【図6】試料GBRA1及びGBRA13の精製イムノグロブリンG(IgG)から遊離させたグリカンのドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及びNP−HPLCプロファイルを示す図である。
【図7】試料GBRA15の精製IgGから遊離させたグリカンのNP−HPLCプロファイルを示す図である。
【図8】対照及び試料GBRA15のNP−HPLCプロファイルを示す図である。
【図9】全血清から遊離させたグリカンで決定した関節リウマチのグリコシル化マーカー(G0/三重−G1比)と、(精製IgGから遊離させた全グリカン中のG0グリカンの百分率として決定される)関節リウマチの診断との相関を示す図である。
【図10(a)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図10(b)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図10(c)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図10(d)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図10(e)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図10(f)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図10(g)】オックスフォード糖鎖生物学研究所のグリカンデータベースを示す図である:(a)及び(b)は、グリカン構造を描きエキソグリコシダーゼ消化を説明するのに使用する命名法を示す;(c)は、データベースで列挙されているGU値を伴ういくつかの構造を示す;(d)〜(g)は、一連の消化を通じて構造A2G2S2(d)を追跡するものであり、各場合で(実験的に決定された、列挙されているGU値から計算された)コンセンサスGU値を、考えられる消化及び産物とともに示す。
【図11】グリカンデータベースを使用して糖鎖プロファイル中のグリカン構造を指定するアルゴリズムを示す図である。
【図12】個々のタンパク質スポット又はプールタンパク質スポットからのグリカンプロファイルの測定を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の1つ又は複数のグリコシル化マーカーを決定する方法であって、
罹患試料及び対照試料を得るステップであり、罹患試料が疾患を有すると診断された対象由来の試料であり対照試料が健常な対照由来の試料であるステップと、
糖タンパク質を精製せず、罹患試料及び対照試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から全糖タンパク質の罹患グリカンプールを、対照試料から全糖タンパク質の対照グリカンプールを遊離させるステップであり、疾患試料由来の全糖タンパク質及び対照試料由来の全糖タンパク質を高処理能の形式で固定化するステップと、
クロマトグラフィー、質量分析又はその組合せを使用して罹患グリカンプールの罹患糖鎖プロファイル及び対照グリカンプールの対照糖鎖プロファイルを測定するステップと、
罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較して疾患の1つ又は複数の前記グリコシル化マーカーを決定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルを比較するステップが、罹患糖鎖プロファイルと対照糖鎖プロファイルのピーク比を比較するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疾患の1つ又は複数の前記グリコシル化マーカーから最良のグリコシル化マーカーを選択するステップをさらに含み、最良のグリコシル化マーカーが、疾患を有すると診断された対象の1つ又は複数のパラメーターとの最高の相関を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
疾患を有すると診断された対象のパラメーターが、診断結果、疾患の段階、疾患の重症度、年齢、性別、病歴、治療に対する応答又はその任意の組合せである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
パラメーターが診断結果である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
疾患が、癌、自己免疫疾患又は先天性グリコシル化異常症である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
癌が、膵癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌、結腸癌、胃癌又は肺癌である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、骨関節炎、若年性慢性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、移植片対宿主疾患又は強皮症である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
罹患グリカンプール及び対照グリカンプールを0個、1個又は複数個のエキソグリコシダーゼで消化するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
消化する前記ステップが連続的な消化である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
罹患グリカンプール及び対照グリカンプールを消化する前記ステップが、1個又は複数個のグリコシダーゼを含むアレイでの消化である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
罹患グリカンプール及び対照グリカンプールがN−結合型グリカンのプールである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
罹患グリカンプール及び対照グリカンプールがO-結合型グリカンのプールである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
罹患試料の全糖タンパク質及び対照試料の全糖タンパク質をゲル中に固定化する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
遊離させる前記ステップが、ゲルをバンドに分離せずにゲルから遊離させるステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
罹患試料の全糖タンパク質及び対照試料の全糖タンパク質をポリフッ化ビニリデン膜上に固定化する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
遊離させる前記ステップが、ポリフッ化ビニリデン膜からのアンモニアに基づくβ脱離による遊離である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
罹患グリカンプール及び対照グリカンプール中のグリカンを放射性標識又は蛍光標識で標識するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
蛍光標識が、2−アミノピリジン、2−アミノベンズアミド、2−アミノアントラニル酸、2−アミノアクリドン又は8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
蛍光標識が2−アミノベンズアミドである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
罹患試料及び対照試料が体液の試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
体液が全血清、血漿、尿、精液又は唾液である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
体液が全血清である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
罹患糖鎖プロファイル及び対照糖鎖プロファイルを測定するステップが、罹患データベース及び対照データベースを構築するステップを含み、罹患データベースが罹患グリカンプール中に存在するグリカン構造を含み、対照データベースが対照グリカンプール中に存在するグリカン構造を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
対象中の疾患を診断及びモニターする方法であって、
対象の体液又は身体組織の試料を得るステップと、
糖タンパク質を精製せず、試料をヒドラジン分解にさらさずに、試料から全糖タンパク質のグリカンプールを遊離させるステップと、
グリカンプールの糖鎖プロファイルを測定するステップと
を含む方法。
【請求項26】
糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルから対象の臨床状態を決定するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
疾患が、癌、自己免疫疾患又は先天性グリコシル化異常症である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
癌が、膵癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌、結腸癌、胃癌又は肺癌である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、骨関節炎、若年性慢性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、移植片対宿主疾患又は強皮症である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
体液が全血清、血漿、尿、精液又は唾液である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
体液が全血清である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
グリカンプールを遊離させるステップが、試料からゲルを調製するステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
グリカンプールがN-結合型グリカンのプールであり、グリカンプールを遊離させるステップが、PNGアーゼF酵素を使用してゲルからN−グリカンのプールを遊離させるステップをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
グリカンプールを遊離させるステップが、全糖タンパク質をポリフッ化ビニリデン膜と結合するステップを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
グリカンプールがN−グリカンのプールであり、グリカンプールを遊離させるステップが、PNGアーゼF酵素とともにポリフッ化ビニリデン膜をインキュベートするステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
グリカンプールを遊離させるステップが、β脱離によってグリカンプールを化学的に遊離させるステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
グリカンプールを遊離させるステップが、アンモニアに基づくβ脱離によってグリカンプールを遊離させるステップをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでグリカンを消化するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項39】
1個又は複数個のエキソグリコシダーゼでグリカンを連続的に消化するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項40】
複数個のエキソグリコシダーゼを含むアレイでグリカンを消化するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項41】
複数個のエキソグリコシダーゼを含むアレイでグリカンを消化するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項42】
糖鎖プロファイルを測定するステップを、クロマトグラフィー、質量分析又はその組合せによって実施する、請求項25に記載の方法。
【請求項43】
疾患に対して既存の治療用作用物質の投与量を最適化する方法であって、
治療用作用物質を患者に投与する前に罹患対象から体液又は身体組織の第1の試料を得るステップと、
治療用作用物質を患者に投与した後に罹患対象から体液又は身体組織の第2の試料を得るステップと、
糖タンパク質を精製せず、第1及び第2の試料をヒドラジン分解にさらさずに、第1及び第2の試料から糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと、
第1の試料に由来するグリカンの第1の糖鎖プロファイル、及び第2の試料に由来するグリカンの第2の糖鎖プロファイルを測定するステップと、
第1の糖鎖プロファイル及び第2の糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルを比較するステップと
を含む方法。
【請求項44】
疾患を治療する新たな療法又は新たな治療用作用物質を試験する方法であって、
患者を新たな療法又は新たな治療用作用物質にさらす前に罹患対象から体液又は身体組織の第1の試料を得るステップと、
患者を新たな療法又は新たな治療用作用物質にさらした後に罹患対象から体液又は身体組織の第2の試料を得るステップと、
糖タンパク質を精製せず、第1及び第2の試料をヒドラジン分解にさらさずに、第1及び第2の試料から糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと、
第1の試料に由来するグリカンの第1の糖鎖プロファイル、及び第2の試料に由来するグリカンの第2の糖鎖プロファイルを測定するステップと、
第1の糖鎖プロファイル及び第2の糖鎖プロファイルにおける疾患のグリコシル化マーカーのレベルを比較するステップと
を含む方法。
【請求項45】
疾患を有すると診断された対象に由来する罹患試料中の全糖タンパク質の罹患グリカンプールにおけるグリカン構造
を含む疾患のデータベースであって、糖タンパク質を精製せず、試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から罹患グリカンプールを遊離させる、データベース。
【請求項46】
グリカンがN−グリカンである、請求項45に記載のデータベース。
【請求項47】
グリカンがO−グリカンである、請求項45に記載のデータベース。
【請求項48】
健常な対照に由来する対照試料中の全糖タンパク質の対照グリカンプールにおけるグリカン構造をさらに含み、糖タンパク質を精製せず、試料をヒドラジン分解にさらさずに、罹患試料から対照グリカンプールを遊離させる、請求項45に記載のデータベース。
【請求項49】
疾患が、癌、自己免疫疾患又は先天性グリコシル化異常症である、請求項45に記載のデータベース。
【請求項50】
癌が、膵癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌、結腸癌、胃癌又は肺癌である、請求項49に記載のデータベース。
【請求項51】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、骨関節炎、若年性慢性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、移植片対宿主疾患又は強皮症である、請求項49に記載のデータベース。
【請求項52】
対象の試料からグリカンを遊離させる方法であって、
試料の1つ又は複数の糖タンパク質をゲル中に固定化するステップと、
ゲルをバンドに分離せずにゲルから1つ又は複数の糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと
を含む方法。
【請求項53】
1つ又は複数の糖タンパク質が試料の全糖タンパク質である、請求項53に記載の方法。
【請求項54】
1つ又は複数の糖タンパク質が精製糖タンパク質である、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
ゲルがポリアクリルアミドゲルである、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
1個又は複数個の酵素を使用してグリカンプールを遊離させるステップを実施する、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
グリカンがN−グリカンであり、酵素がPNGアーゼFである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
対象の試料からグリカンを遊離させる方法であって、
タンパク質結合性膜上に試料の1つ又は複数の糖タンパク質を固定化するステップと、
β脱離を使用して1つ又は複数の糖タンパク質のグリカンを遊離させるステップと
を含む方法。
【請求項59】
1つ又は複数の糖タンパク質が試料の全糖タンパク質である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
1つ又は複数の糖タンパク質が1つ又は複数の精製糖タンパク質である、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
膜がポリフッ化ビニリデン膜である、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
β脱離がアンモニアに基づくβ脱離である、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
疾患の1つ又は複数の糖タンパク質バイオマーカーを同定する方法であって、
体液又は身体組織中の全糖タンパク質のグリカンプールの詳細な定量的分析によって疾患のグリコシル化マーカーを決定するステップであり、糖タンパク質を精製せず、体液又は身体組織をヒドラジン分解にさらさずにグリカンプールを遊離させるステップと、
全糖タンパク質から疾患の1つ又は複数の糖タンパク質バイオマーカーを抽出するステップであり、1つ又は複数の糖タンパク質バイオマーカーが疾患のグリコシル化マーカーを示すステップと
を含む方法。
【請求項64】
レクチン又はモノクローナル抗体を使用して、抽出する前記ステップを実施する、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
疾患の1つ又は複数のバイオマーカーを同定する方法であって、
二次元電気泳動を使用して疾患を有する対象の体液又は身体組織に由来するタンパク質プールを個々のスポット又はスポットの列に分離するステップであり、個々の各スポット及び列中の各スポットがタンパク質プールの1つ又は複数のタンパク質を含むステップと、
個々のスポット或いは個々のスポットの列中の単独又はプールスポットから遊離させたグリカンプールの詳細な糖鎖プロファイルを測定するステップと、測定したスポットから疾患の1つ又は複数の前記バイオマーカーとして疾患に関係する1つ又は複数のスポットを同定するステップであり、疾患に関係する前記スポットでは対応するグリコシル化プロファイルが変化しているステップと
を含む方法。
【請求項66】
同定する前記ステップが、タンパク質プール中の1つ又は複数の特定の糖タンパク質と関係するスポットに対応するグリコシル化プロファイルを比較するステップを含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
測定する前記ステップがクロマトグラフィーを使用するステップを含む、請求項65に記載の方法。
【請求項68】
測定する前記ステップが、グリカンプールのグリカンを蛍光標識で標識するステップを含み、前記蛍光標識が、2−アミノピリジン、2−アミノベンズアミド、2−アミノアントラニル酸、2−アミノアクリドン又は8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸である、請求項65に記載の方法。
【請求項69】
体液が全血清、血漿、尿、精液又は唾液である、請求項65に記載の方法。
【請求項70】
前記グリカンプールがN−グリカンプールである、請求項65に記載の方法。
【請求項71】
PNGアーゼF酵素を使用して前記N−グリカンプールを遊離させる、請求項69に記載の方法。
【請求項72】
測定する前記ステップを、約100ng未満のタンパク質を含むスポットに対応するグリコシル化プロファイルを測定することができる技術によって実施する、請求項65に記載の方法。
【請求項73】
測定する前記ステップを、約10ng未満のタンパク質を含むスポットに対応するグリコシル化プロファイルを測定することができる技術によって実施する、請求項65に記載の方法。
【請求項74】
測定する前記ステップを、約5ng未満のタンパク質を含むスポットに対応するグリコシル化プロファイルを測定することができる技術によって実施する、請求項65に記載の方法。
【請求項75】
測定する前記ステップを、約2ng未満のタンパク質を含むスポットに対応するグリコシル化プロファイルを測定することができる技術によって実施する、請求項65に記載の方法。
【請求項76】
疾患が、癌、自己免疫疾患又は先天性グリコシル化異常症である、請求項65に記載の方法。
【請求項77】
癌が、膵癌、前立腺癌、乳癌、肝細胞癌、卵巣癌、膀胱癌、腎癌、結腸癌、胃癌又は肺癌である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、骨関節炎、若年性慢性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、多発性硬化症、炎症性腸疾患、移植片対宿主疾患又は強皮症である、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
対象がヒトである、請求項65に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図10(c)】
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【図10(d)】
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【図10(e)】
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【図10(f)】
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【図10(g)】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−539413(P2008−539413A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508314(P2008−508314)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【国際出願番号】PCT/IB2005/002995
【国際公開番号】WO2006/114663
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(507355216)
【出願人】(507355250)
【出願人】(507355272)
【出願人】(507355249)
【出願人】(507355261)
【Fターム(参考)】