説明

自動合焦ズームレンズ

【課題】光学系パラメータに応じたフォーカス駆動により、違和感のない焦点合わせ動作を行う。
【解決手段】光学系パラメータを取得し(S20)、焦点深度εを算出する(S30)。測距手段の情報からフォーカス移動レンズ群の所定変化量ΔFpを算出する(S40)。テーブルデータから位置Fp及び変倍状態に応じた焦点位置変化量Δskを読み込み、S50を満足すると焦点合わせ動作を行わずに最初に戻る(S50)。
S50を満足しないときはS60の演算を行い、満足しないときはS80に進み(S60)、フォーカス移動レンズ群をΔFpだけ駆動する信号を送り、外光による自動合焦を行う(S80)。S60を満足するときはS70の演算を行い、満足しないときはS80に進み(S70)、満足するときは映像信号を受け取り(S90)、コントラスト値が最大になるようにコントラスト自動合焦を行う(S100)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像光学系とは別に測距手段を有し、焦点調整を行う自動合焦ズームレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放送用HDシステムの普及や家庭用モニタの大型化に伴い、従来の手動のピント合わせのみでは合焦精度が不足し、所謂ピンぼけが目立つ場合が増加し問題となっている。そのため、HDシステムに対応した高精度な自動合焦機能を持つレンズが必要とされている。
【0003】
自動合焦手法として、CCD等の撮像手段からの映像信号を用いたコントラスト自動合焦や、三角測距等を用いた測距手段を用いた外光自動合焦が広く知られている。更に、例えば特許文献1はこれら2つの自動合焦方式を組み合わせ、温度や絞りや焦点距離といった条件に応じて双方の自動合焦方式を切換える手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3738795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、リアフォーカス方式のズームレンズが前提であって、外光自動合焦で粗くピント合わせをした後に、コントラスト自動合焦により精度良いピント合わせを行うことにより、高速化と高精度化の両立を図っている。
【0006】
しかし、放送業界のように、画作りにこだわるユーザにとっては、フォーカス速度以上に映像に違和感がないことが重要である。コントラスト自動合焦はコントラストの最大値を見付ける際に、ピントを探る動作が必須であり、オーバシュートやぼけ像のピクつきのような違和感が映像に生ずる。従って、コントラスト自動合焦は極く限られた使用条件のみに限定することが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、ズーム、フォーカス、絞りの状態に応じて、適切なフォーカス駆動制御を行うことにより、高速、高精度かつ違和感のない焦点合わせ動作が可能な自動合焦ズームレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る自動合焦ズームレンズは、撮像装置に対して着脱可能で、物体側から順に、合焦に際して移動するフォーカス移動レンズ群と、変倍に際して移動する変倍移動レンズ群と、絞り径が可変の可変絞りとを有する自動合焦ズームレンズであって、前記フォーカス移動レンズ群の位置を検出する位置検出手段と、前記変倍移動レンズ群の位置を検出する変倍状態検出手段と、前記可変絞りの絞り値検出手段と、被写体との距離を測定する測距手段と、前記撮像装置との通信手段と、該通信手段を介して前記撮像装置から映像信号を受信する映像信号受信手段と、前記測距手段による検出に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第1の自動合焦手段と、前記撮像装置からの映像信号に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第2の自動合焦手段とを備え、前記可変絞りの絞り値Fno及び許容錯乱円δに基づいて焦点深度εを算出し、前記フォーカス移動レンズ群の位置Fp及び変倍状態Zpに応じて前記フォーカス移動レンズ群の所定の変位量ΔFp0に対する焦点位置変化量Δskを演算し、前記第1の自動合焦手段に基づく前記フォーカス移動レンズ群の所定変化量をΔFpとしたとき、第1の条件、
|ΔFp・Δsk|−ε≦0
を満足するときは、前記フォーカス移動レンズ群を駆動せず、該第1の条件を満足せず、かつ第2の条件、
|Δsk|−ε>0かつΔFp0−|ΔFp|>0
を満足するときは、前記第2の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動し、該第2の条件を満足しないときは、前記第1の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動することを特徴とする。
【0009】
また、本願発明に係る自動合焦ズームレンズは、撮像装置に対して着脱可能で、物体側から順に、合焦に際して移動するフォーカス移動レンズ群と、変倍に際して移動する変倍移動レンズ群と、絞り径が可変の可変絞りとを有する自動合焦ズームレンズであって、前記フォーカス移動レンズ群の位置を検出する位置検出手段と、前記変倍移動レンズ群の位置を検出する変倍状態検出手段と、前記可変絞りの絞り値検出手段と、被写体との距離を測定する測距手段と、前記撮像装置との通信手段と、該通信手段を介して前記撮像装置から映像信号を受信する映像信号受信手段と、前記測距手段による検出に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第1の自動合焦手段と、前記撮像装置からの映像信号に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第2の自動合焦手段とを備え、焦点距離F、許容錯乱円δに基づいて、近点距離Sn、遠点距離Sfを算出し、現在のフォーカス位置Obj、前記測距手段の分解能Detととしたとき、
Sf−Obj>0、又はObj−Sn>0
のときは、前記フォーカス移動レンズ群を駆動せず、
(Sf−Sn)−Det<0で、Sf−Obj<0又はObj−Sn<0
のときは、前記第2の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動し、その他の状態では前記第1の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る自動合焦ズームレンズによれば、撮影条件、及び撮像装置の特性に応じ適切な自動合焦を行うことで、様々な状況において最適な自動合焦を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のズームレンズを有する撮像装置の構成図である。
【図2】測距手段の原理図である。
【図3】フォーカス移動レンズ群の位置Fpと変倍状態(変倍移動レンズ群の位置)Zpから成るフォーカス移動レンズ群の所定の変化量変位量ΔFp0に対する焦点位置変化量Δskのテーブル例である。
【図4】測距手段の測距センサとフォーカス移動レンズ群の位置の相関図である。
【図5】フォーカス移動レンズ群の変化量に対する焦点位置変化量のテーブルデータである。
【図6】自動合焦動作のフローチャート図である。
【図7】実施例2のズームレンズを有する撮像装置の構成図である。
【図8】フローチャート図である。
【図9】実施例3のズームレンズを有する撮像装置の構成図である。
【図10】フローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は実施例1の自動合焦ズームレンズと撮像装置の構成図を示し、100は自動合焦ズームレンズ、200は撮像装置であり、ズームレンズ100は撮像装置200に着脱可能に装着されカメラ装置とされている。
【0014】
ズームレンズ100には、光軸に沿って変倍時に固定のフォーカス移動レンズ群1、複数で構成され変倍を行う変倍移動レンズ群2、可変絞り3、光路への挿脱により焦点距離を変倍するエクステンダレンズ群4が設けられている。また、フォーカス移動レンズ群1はフォーカスモータ5により駆動されるようになっている。検出手段11はフォーカス移動レンズ群1の位置検出を行い、検出手段12は変倍移動レンズ群2の変倍状態検出を行い、検出手段13は可変絞り3の絞り値検出を行い、検出手段14はエクステンダレンズ群4の挿脱を検出するようにされている。
【0015】
ズームレンズ100の演算回路20は、光学系パラメータ取得部21、深度演算部22、比較演算部23、フォーカス動作判断部24、フォーカス制御部25、映像信号受信部26、自動合焦評価値算出部27により構成されている。
【0016】
像面変化量記憶部31は演算回路20の比較演算部23に接続され、フォーカス移動レンズ群1の所定の位置変位量ΔFp0に対する焦点位置変化量Δskをテーブルデータとして記憶している。
【0017】
また、測距手段40は主に測距光学系41、測距センサ42、位相差演算部43により構成されている。測距手段40はズームレンズ100内に設けられているが、撮像装置200に設けられていても同様の効果が得られる。
【0018】
ズームレンズ100の像面側の撮像装置200には、ズームレンズ100のフォーカス移動レンズ群1の光路上に撮像素子50が設けられている。撮像素子50の出力は演算回路60に接続され、演算回路60は映像信号処理部61、映像信号送信部62により構成されている。
【0019】
図2は測距手段40の測距原理図を示し、被写体Sが測距光学系41の前方にある場合を示している。被写体Sが有限距離にある場合には、測距センサ42のAセンサ42AとBセンサ42Bに入射する信号の間に位相差nが生ずる。この位相差nを基に被写体距離Lを算出することができ、被写体距離Lが無限遠の場合には、位相差nはゼロとなる。
【0020】
被写体距離Lは測距手段40の焦点距離をf、Aセンサ42AとBセンサ42B間の基線長をBとすると、次の(1)式が得られる。
L=f・B/n ・・・(1)
【0021】
従って、位相差nと被写体距離Lとは、次の(2)式の関係がある。
n∝1/L ・・・(2)
【0022】
図3はズームレンズ100の最も物体側に配置されているフォーカス移動レンズ群1の結像関係を示している。近軸結像を表す関係式として、焦点距離をF、焦点から被写体Sまでの距離をx、焦点から像面までの距離をx’とすると、次の(3)式で示すニュートンの公式が知られている。
x・x’=−F2 ・・・(3)
【0023】
この(3)式から、|x|≫Fのとき、xと被写体距離Lとの関係は、次の(4)式のように示すことができる。
L≒−x ・・・(4)
【0024】
また、その場合に焦点からのずれ量である距離x’を補正するために必要なフォーカス移動レンズ群1の位置Fpは、次の(5)式のようになる。
Fp≒x’ ・・・(5)
【0025】
(3)〜(5)式から、次式が導かれる。
L=F2/Fp ・・・(6)
【0026】
従って、フォーカス移動レンズ群1の位置Fpと被写体距離Lとは、次の(7)式の関係になる。
Fp∝1/L ・・・(7)
【0027】
図4は位相差nとフォーカス移動レンズ群1の変位量Fpの関係を示している。変倍移動レンズ群2の物体側にフォーカス移動レンズ群1があるため、図3における焦点距離Fに変化がない。従って、変倍によらずに被写体距離Lとフォーカス移動レンズ群1の位置が1対1で定まる。
【0028】
また、(2)、(7)式の関係から、位相差nとフォーカス移動レンズ群1の位置Fpは、何れも被写体距離Lに反比例の関係にあり、次の(8)式が得られる。
Fp∝n ・・・(8)
【0029】
図4に示すように、測距手段40から出力される位相差nとフォーカス移動レンズ群1の位置Fpは比例関係にあり、1対1で決定できる。
【0030】
ズームレンズ100の電源投入後に、検出手段11〜14で得られたフォーカス、ズーム、絞り、エクステンダの光学系パラメータは、光学系パラメータ取得部21を介して深度演算部22と比較演算部23に送られる。深度演算部22では、現在の光学系パラメータに基づいた焦点深度εが演算され、比較演算部23に焦点深度εが送られる。
【0031】
ここで、焦点深度εは次の(9)式に示されるように、可変絞り3の絞り値Fnoと許容錯乱円δから算出され、焦点深度εの片側を表している。
ε=Fno・δ ・・・(9)
【0032】
像面変化量記憶部31は図5に示すようなフォーカス移動レンズ群1の所定の変位量ΔFp0に対する焦点位置変化量Δskを、テーブルデータとして記憶している。フォーカス移動レンズ群1の位置Fp及び変倍状態(変倍移動レンズ群2の位置だけでもよいし、後述のエクステンダレンズ群4の位置を含めてもよい)Zpの2軸から成るテーブルデータが構成されている。
【0033】
比較演算部23では像面変化量記憶部31からフォーカス移動レンズ群1の位置Fp及び変倍状態Zpに応じた焦点位置変化量Δskを読み込む。このとき、像面変化量記憶部31のテーブルに位置Fp及び変倍状態Zpが等しい値がない場合に、最近傍の焦点位置変化量Δskを読み込んでもよいが、線形近似等の手法を用いて内挿補間すると、より精度が高くなるので望ましい。
【0034】
また、エクステンダレンズ群4の挿入が検出された場合に、像面変化量記憶部31の焦点位置変化量Δskにエクステンダ倍率の二乗を掛け合わせて使用する。このとき、像面変化量記憶部31はエクステンダレンズ群4用のテーブルデータを別途に有し、エクステンダレンズ群4の挿脱に伴いテーブルデータを切換えても同様の効果が得られる。
【0035】
また測距手段40では、測距センサ42の情報に基づいて位相差演算部43で位相差が演算され、比較演算部23に位相差が送られる。そして、比較演算部23では、送られてきた位相差に対応してフォーカス移動レンズ群1の所定変化量ΔFpを演算で求める。
【0036】
このようにして、求められた所定変化量ΔFp、変位量ΔFp0、焦点位置変化量Δsk、焦点深度εは、フォーカス動作判断部24に送られ、フォーカス動作判断部24で、下記の条件の(10)〜(12)式の演算が行われる。
|ΔFp・Δsk|−ε≦0 ・・・(10)
|Δsk|−ε>0 ・・・(11)
ΔFp0−|ΔFp|>0 ・・・(12)
【0037】
(10)式が成り立つときは、焦点合わせ動作の必要がないため、フォーカス動作判断部24から先へは何らの信号を送らない。
【0038】
(11)式又は(及び)(12)式を満足しないときには、第1の自動合焦手段に基づく外光自動合焦を行う。その場合に、フォーカス動作判断部24がフォーカス移動レンズ群1を所定変化量ΔFpだけ駆動するようにフォーカス制御部25に信号を送る。フォーカス制御部25は駆動量を回転角に換算し、フォーカスモータ5に所要変位量に相当する回転角を送り、フォーカスモータ5の回転駆動によりフォーカス移動レンズ群1を駆動する。
【0039】
(11)式と(12)式が同時に成立するときは、第2の自動合焦手段に基づくコントラスト自動合焦を行う。その場合は、撮像装置200の撮像素子50に入力した映像信号を映像信号処理部61に送り、映像信号送信部62を通してズームレンズ100の映像信号受信部26で映像信号受信を行い、更に自動合焦評価値算出部27でコントラスト値のみ抽出される。このコントラスト値が最大になるように、フォーカス動作判断部24がフォーカス制御部25を通して、フォーカスモータ5によりフォーカス移動レンズ群1を駆動する。
【0040】
実施例1では、自動合焦評価値算出部27がズームレンズ100内に設けられているが、撮像装置200に構成されていても同様の効果が得られる。
【0041】
図6は図1で示されるズームレンズ100を備えた撮像装置が、自動合焦動作をする場合のフローチャート図である。先ず、ズームレンズ100の電源を投入し初期化を行う(ステップS10)。そして、初期化が終了したと同時に、各検出手段11〜14からフォーカス、ズーム、絞り、エクステンダのパラメータを光学系パラメータ取得部21が取得する(ステップS20)。取得した光学系パラメータは深度演算部22に送られ、深度演算部22が焦点深度εを算出し、比較演算部23に送る(ステップS30)。
【0042】
一方で、測距手段40で得られた位相差nが比較演算部23に送られ、比較演算部23でフォーカス移動レンズ群1の所定変化量ΔFpが算出される(ステップS40)。
【0043】
そして、比較演算部23は像面変化量記憶部31の図5に示すテーブルデータから位置Fp及び変倍状態Zpに応じた焦点位置変化量Δskを読み込み、フォーカス動作判断部24に送る。フォーカス動作判断部24では、所定変化量ΔFp、焦点位置変化量Δsk、焦点深度εを用いて(10)式の演算を行い、(10)式が成り立つときは焦点合わせ動作を行わないため、処理の最初に戻る(ステップS50)。
【0044】
(10)式が成り立たないときは、フォーカス動作判断部24で焦点位置変化量Δsk、焦点深度εを用いて(11)式の演算を行い、(11)式が成り立たないときはステップS80に進む(ステップS60)。その場合に、フォーカス動作判断部24がフォーカス制御部25、フォーカスモータ5を通してフォーカス移動レンズ群1を所定変化量ΔFpだけ駆動するように信号を送り、第1の自動合焦手段に基づく外光自動合焦を行う(ステップS80)。
【0045】
(11)式が成り立つときは、フォーカス動作判断部24により変位量ΔFp0、所定変化量ΔFpを用いて(12)式の演算を行い、(12)式が成り立たないときは、ステップS80に進む(ステップS70)。
【0046】
(12)式が成り立つときは、第2の自動合焦手段に基づくコントラスト自動合焦を行う。その場合は、撮像装置200の撮像素子50に入力した映像信号を映像信号処理部61を通して、ズームレンズ100の映像信号受信部26が受け取る(ステップS90)。そして、自動合焦評価値算出部27でコントラスト値のみ抽出され、このコントラスト値が最大になるように、フォーカス制御部25を通してフォーカスモータ5によりフォーカス移動レンズ群1を駆動する(ステップS100)。
【0047】
なお本実施例1では、焦点深度εに対応するフォーカス移動レンズ群1の位置Fpをテーブルデータから求めたが、演算により直接被写界深度を求めても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0048】
図7は実施例2の構成図である。図1の構成図に対して、ズームレンズ100の演算回路20にはSD・HD受信部28が設けられ、撮像装置200には撮像装置200がSD(標準画質)なのかHD(高精度画質)なのかを送信するSD・HD送信部63が設けられている。
【0049】
ズームレンズ100の電源投入後に、フォーカス、ズーム、絞り、エクステンダの光学系パラメータを、それぞれの検出手段11〜14からの光学系パラメータ取得部21に送る。光学系パラメータ取得部21が受け取った情報は、深度演算部22と比較演算部23に送られる。一方、撮像装置200との通信確立後に、SD・HD送信部63から撮像装置200がHDであるのかSDであるのか、ズームレンズのSD・HD受信部28を通し深度演算部22に送られる。深度演算部22では、現在の光学系パラメータと撮像装置200の形式に基づいた焦点深度εが演算され、比較演算部23に得られた焦点深度εが送られる。
【0050】
焦点深度εは(9)式に示すように許容錯乱円δに依存する値であり、許容錯乱円δは撮像装置200のタイプによって異なる。以後の処理は実施例1と同様である。
【0051】
図8は図7で示されるズームレンズ100を備えた撮像装置が、自動合焦動作する場合のフローチャート図である。なお、図6と同じステップ番号Sは同じ内容を示している。各検出手段11〜14からフォーカス、ズーム、絞り、エクステンダのパラメータを光学系パラメータ取得部21が取得する(ステップS20)。次に、SD・HD送信部63から撮像装置200がHDであるのかSDであるのか、ズームレンズ100のSD・HD受信部28が信号を受け取る(ステップS21)。取得した光学パラメータと撮像装置200の形式情報は、共に深度演算部22に送られ、深度演算部22が焦点深度εを算出し比較演算部23に送る(ステップS30)。以後の処理は実施例1と同様である。
【0052】
なお実施例2では、SD・HD送信部63が撮像装置200に構成されている場合を示したが、ズームレンズ100がモード切換装置を備え、ユーザが手動で切換えても同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0053】
図9は実施例3の構成図である。図7に示す実施例2の構成図に対し、光学系のエクステンダレンズ群4、検出手段14の代りに、焦点方向の判別用として光軸に沿って微小移動するウォブリングレンズ群6が配置されている。このウォブリングレンズ群6はウォブリングモータ7により駆動されるようにされている。また図7における深度演算部22、比較演算部23、像面変化量記憶部31が省略され、新たにウォブリング制御部29、近点・遠点等演算部30、フォーカス変化量記憶部32が追加されている。
【0054】
フォーカス変化量記憶部32は、フォーカス移動レンズ群1の所定変位量ΔFp0と測距手段40の検出分解能の関係を記録している。この変位量ΔFp0は測距手段40の検出分解能とフォーカス移動レンズ群1の変位量を同ピッチとしたときの最小変位量に設定しているため、図5で示すように測距センサ42の画素(測距値)とフォーカス移動レンズ群1の位置が一義的に決定される。
【0055】
これにより、フォーカス移動レンズ群1の位置を決定する際に、実施例1、2のように各焦点距離・物体距離に応じたフォーカス位置のメモリテーブルを持つ必要がなく、処理の高速化も可能である。
【0056】
ズームレンズ100の電源投入後に、フォーカス、ズーム、アイリスの光学パラメータを、それぞれの検出手段11〜13が光学系パラメータ取得部21に送る。光学系パラメータ取得部21から、フォーカス位置Objは比較演算部23に、焦点距離F、FナンバFnoは近点・遠点等演算部30に送られる。一方、撮像装置200との通信確立後に、SD・HD送信部63から、撮像装置200がHDであるのか、SDであるのかズームレンズ100のSD・HD受信部28を通し、近点・遠点等演算部30に送られる。
【0057】
許容錯乱円δは撮像装置200のタイプによって異なり、受信したタイプ情報に基づいて許容錯乱円δが適切に選択される。
【0058】
また、測距手段40では、測距センサ42の情報に基づいて位相差演算部43で位相差が演算され、近点・遠点等演算部30に被写体距離Lが送られる。近点・遠点等演算部30では、下記の(13)〜(17)式の演算が行われ、過焦点距離H、近点距離Sn、遠点距離Sf、測距手段40の分解能Det、被写界深度(Sf−Sn)が算出され、フォーカス動作判断部24に情報が送られる。
H=f2/(δ・Fno) ・・・(13)
Sf=H・L/(H−L) ・・・(14)
Sn=H・L/(H+L) ・・・(15)
Det=2L/(n2−1) (nは測距手段40の位相差) ・・・(16)
(Sf−Sn)=2H・L2/(H2−L2) ・・・(17)
【0059】
一方で、フォーカス動作判断部24では、送られてきた位相差に対応し、フォーカス移動量変化メモリ35の情報に基づいて、フォーカス移動レンズ群1の所定変化量ΔFpを求める。
【0060】
(14)〜(17)式で求められた距離Sf、Sn、分解能Det、被写界深度(Sf−Sn)と、光学系パラメータ取得部21からのフォーカス位置Objはフォーカス動作判断部24に送られる。フォーカス動作判断部24において、下記の(18)〜(20)式の演算がなされる。
Sf−Obj>0 又は Obj−Sn>0 ・・・(18)
(Sf−Sn)−Det<0 ・・・(19)
Sf−Obj<0 又は Obj−Sn<0 ・・・(20)
【0061】
(18)式が成立するときはフォーカス動作をしないため、フォーカス動作判断部24から先には何らの信号も出力しない。(19)式又は(20)式が成立しないときには、第1のAF手段に基づく自動合焦動作(外光AF)を行う。その場合に、フォーカス動作判断部24がフォーカス移動レンズ群1を所定の変化量ΔFpだけ駆動するようにフォーカス制御部25に信号を送る。フォーカス制御部25は駆動量を回転角に換算し、フォーカスモータ5に所要変位量に相当する回転角を送る。そして、フォーカスモータ5が回転駆動することでフォーカス移動レンズ群1が駆動する。
【0062】
(18)式と(19)式が同時に成立するときは、第2の自動合焦手段に基づく自動合焦動作(コントラストAF)を行う。その場合は、撮像装置200の撮像素子50に入力された映像信号を映像信号処理部61に送り、更に映像信号送信部62を通して、ズームレンズ100の映像信号受信部26が受け取る。そして、更に自動合焦評価値算出部27でコントラスト値のみ抽出される。このコントラスト値がより大きくなるフォーカス移動方向を判定するために、フォーカス動作判断部24がウォブリング制御部29を通してウォブリングモータ7に指示を出力し、ウォブリングレンズ群6を光軸に沿って微小駆動する。
【0063】
そして、方向判定の指示に従い、コントラスト値が最大となるようにフォーカス動作判断部24がフォーカス制御部25を通してフォーカスモータ5に指示を出力し、フォーカス移動レンズ群1を駆動する。
【0064】
このように、実施例3は実施例1、2と比較して、ウォブリングレンズ群6が追加されることで、主に自動合焦動作の高速化が図られる。この実施例3では、自動合焦評価値算出部27がズームレンズ100内に設けられているが、撮像装置200に設けられていても同様の効果が得られるため支障はない。
【0065】
図10は図9で示されるズームレンズ100を有する撮像装置200が、自動合焦動作動作をする場合のフローチャート図である。先ず、ズームレンズ100の電源を投入し、初期化を行う(ステップS10)。そして、初期化が終了したと同時に各検出手段11〜13からフォーカス、ズーム、アイリスのパラメータを光学系パラメータ取得部21が取得する(ステップS20)。
【0066】
撮像装置200との通信確立後に、SD・HD送信部63から撮像装置200がHDであるのか、SDであるのかズームレンズ100のSD・HD受信部28が信号を受け取る(ステップS21)。近点・遠点等演算部30は光学パラメータ値、撮像装置200のタイプ情報を取得する。更に、近点・遠点等演算部30は測距手段40から被写体距離Lを得て、遠点距離Sf、近点距離Sn、測距手段40の検出精度Det、被写界深度(Sf−Sn)を算出し、フォーカス動作判断部24に送る(ステップS31)。
【0067】
一方で、フォーカス動作判断部24では、測距手段40から送られてきた位相差に対応し、フォーカス移動量変化メモリ35の情報に基づいて、フォーカス移動レンズ群1の所定変化量ΔFpを求める(ステップ40)。
【0068】
そして、フォーカス動作判断部24では距離Sf、Snと、光学系パラメータ取得部21からフォーカス位置Objを取得し、(18)式の演算を行い、(18)式が成り立つときはフォーカス動作を行わないため、処理の最初に戻る(ステップS51)。
【0069】
(18)式が成り立たないときは、フォーカス動作判断部24で分解能Det、被写界深度(Sf−Sn)を用いて(19)式の演算を行い、(19)式が成り立たないときは第1の自動合焦手段に基づく自動合焦動作(外光AF)を行う(ステップS61)。その場合に、フォーカス動作判断部24がフォーカス制御部25、フォーカスモータ5を通してフォーカス移動レンズ群1を所定変化量ΔFp駆動するように信号を送る(ステップS80)。
【0070】
(19)式が成り立つときは、第2の自動合焦手段に基づく自動合焦動作(コントラストAF)を行う。その場合は、撮像装置200の撮像素子50に入力された映像信号を映像信号処理部61、映像信号送信部62を通して、ズームレンズ100の映像信号受信部26が受け取る(ステップS90)。そして、自動合焦評価値算出部27でコントラスト値のみ抽出される。
【0071】
このコントラスト値がより大きくなるフォーカス移動方向を判定するために、フォーカス動作判断部24がウォブリング制御部29を通してウォブリングモータ7に出力し、ウォブリングレンズ群6を光軸に沿って微小駆動し方向判定を行う(ステップS91)。
【0072】
この方向判定の指示に従い、コントラスト値が最大となるように、フォーカス動作判断部24がフォーカス制御部25を通してフォーカスモータ5に指示を出力し、フォーカス移動レンズ群1を駆動する(ステップS101)。
【0073】
以上の説明では、本発明の好ましい実施例について述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは云うまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 フォーカス移動レンズ群
2 変倍移動レンズ群
3 可変絞り
4 エクステンダレンズ群
6 ウォブリングレンズ群
21 光学系パラメータ取得部
24 フォーカス動作判断部
27 自動合焦評価値算出部
31 像面変化量記憶部
32 フォーカス変化量記憶部
40 測距手段
50 撮像素子
100 ズームレンズ
200 撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置に対して着脱可能で、物体側から順に、合焦に際して移動するフォーカス移動レンズ群と、変倍に際して移動する変倍移動レンズ群と、絞り径が可変の可変絞りとを有する自動合焦ズームレンズであって、
前記フォーカス移動レンズ群の位置を検出する位置検出手段と、前記変倍移動レンズ群の位置を検出する変倍状態検出手段と、前記可変絞りの絞り値検出手段と、被写体との距離を測定する測距手段と、前記撮像装置との通信手段と、該通信手段を介して前記撮像装置から映像信号を受信する映像信号受信手段と、前記測距手段による検出に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第1の自動合焦手段と、前記撮像装置からの映像信号に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第2の自動合焦手段とを備え、
前記可変絞りの絞り値Fno及び許容錯乱円δに基づいて焦点深度εを算出し、前記フォーカス移動レンズ群の位置Fp及び変倍状態Zpに応じて前記フォーカス移動レンズ群の所定の変位量ΔFp0に対する焦点位置変化量Δskを演算し、前記第1の自動合焦手段に基づく前記フォーカス移動レンズ群の所定変化量をΔFpとしたとき、第1の条件、
|ΔFp・Δsk|−ε≦0
を満足するときは、前記フォーカス移動レンズ群を駆動せず、
該第1の条件を満足せず、かつ第2の条件、
|Δsk|−ε>0かつΔFp0−|ΔFp|>0
を満足するときは、前記第2の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動し、該第2の条件を満足しないときは、前記第1の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動することを特徴とする自動合焦ズームレンズ。
【請求項2】
前記撮像装置に装着して通信を行い、前記撮像装置からの情報に基づいて前記許容錯乱円δを切換えることを特徴とする請求項1に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項3】
モード切換手段を有し、前記モードに基づいて前記許容錯乱円δを切換えることを特徴とする請求項1に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項4】
前記フォーカス移動レンズ群の前記焦点位置変化量Δskの演算では、前記位置Fp及び前記変倍状態Zpの2軸から成り、前記変位量ΔFp0に対する焦点位置変化量として前記焦点位置変化量Δskが記憶されているテーブルデータを用いて、前記フォーカス移動レンズ群が前記所定変化量ΔFpだけ変化したときの焦点位置変化量Δskを算出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項5】
前記変位量ΔFp0は、前記測距手段の検出分解能と前記フォーカス移動レンズ群の変位量を同ピッチにしたときの最小変位量であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項6】
エクステンダレンズ群を有し、前記エクステンダレンズ群の挿脱に伴って、前記焦点位置変化量Δskを切換えることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項7】
撮像装置に対して着脱可能で、物体側から順に、合焦に際して移動するフォーカス移動レンズ群と、変倍に際して移動する変倍移動レンズ群と、絞り径が可変の可変絞りとを有する自動合焦ズームレンズであって、
前記フォーカス移動レンズ群の位置を検出する位置検出手段と、前記変倍移動レンズ群の位置を検出する変倍状態検出手段と、前記可変絞りの絞り値検出手段と、被写体との距離を測定する測距手段と、前記撮像装置との通信手段と、該通信手段を介して前記撮像装置から映像信号を受信する映像信号受信手段と、前記測距手段による検出に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第1の自動合焦手段と、前記撮像装置からの映像信号に基づき前記フォーカス移動レンズ群を駆動する第2の自動合焦手段とを備え、
焦点距離F、許容錯乱円δに基づいて、近点距離Sn、遠点距離Sfを算出し、現在のフォーカス位置Obj、前記測距手段の分解能Detととしたとき、
Sf−Obj>0、又はObj−Sn>0
のときは、前記フォーカス移動レンズ群を駆動せず、
(Sf−Sn)−Det<0で、Sf−Obj<0又はObj−Sn<0
のときは、前記第2の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動し、その他の状態では前記第1の自動合焦手段に基づいて前記フォーカス移動レンズ群を駆動することを特徴とする自動合焦ズームレンズ。
【請求項8】
前記測距手段は前記ズームレンズからの物体までの被写体距離L、前記測距手段の位相差n、前記ズームレンズの過焦点距離Hとしたとき、
Sf=H・L/(H−L)
Sn=H・L/(H+L)
Det=2L/(n2−1)
(Sf−Sn)=2H・L2/(H2−L2
とすることを特徴とする請求項7に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項9】
前記撮像装置に装着して通信を行い、前記撮像装置からの情報に基づいて前記許容錯乱円δを切換えることを特徴とする請求項8に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項10】
モード切換手段を有し、前記モードに基づいて前記許容錯乱円δを切換えることを特徴とする請求項7〜9の何れか1つの請求項に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項11】
エクステンダレンズ群を有し、該エクステンダレンズ群の挿脱に伴って前記焦点距離Fを切換えることを特徴とする請求項7に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項12】
前記フォーカス移動レンズ群とは別に、前記第2の自動合焦手段の焦点方向の判定用に前記変倍移動レンズ群の像面側にウォブリングレンズ群を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか1つの請求項に記載の自動合焦ズームレンズ。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか1つの請求項に記載の自動合焦ズームレンズと、該自動合焦ズームレンズの像面側に配置された撮像装置とを有することを特徴とするカメラ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−215249(P2011−215249A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81437(P2010−81437)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】