説明

自動変速機のロックアップクラッチ制御装置

【課題】 車両の加速中にシフトアップされた際に行われるロックアップクラッチ制御時におけるロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御する。
【解決手段】 自動変速機のシフトアップ変速制御にあわせて指示されるロックアップクラッチ指令油圧を学習する際に、変速制御終了時点から実スリップ率が所定の目標値又はそれに近い所定値に到達するまでの到達時間を計測し、該到達時間の長短に基づいて前記指令油圧の学習値を更新する。該学習値に基づいて元のイナーシャ相制御指令圧を補正し、該補正後のイナーシャ相制御指令圧に従って変速制御のトルク相からイナーシャ相への移行に伴うロックアップクラッチの制御を実行する。こうすると、車両加速中のシフトアップ時におけるロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御することができ、クラッチ滑りの余分な発生に伴う発熱や燃費の悪化あるいはショックや振動の発生等を防止することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチのスリップ量を制御する自動変速機のロックアップクラッチ制御装置に関する。特に、車両の加速中にシフトアップされた際に行われるロックアップクラッチ制御時に自動変速機のシフトアップ変速制御にあわせて指示されるロックアップクラッチ指令油圧を学習し、該学習結果に基づいて次回の同制御時における前記ロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御するようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動変速機のトルクコンバータ内に設けられているロックアップクラッチ(LC)の締結制御にあっては、単にエンジンの出力軸と自動変速機構の入力軸とを直結するロックアップオン/オフを行う制御だけでなく、燃費の向上や締結ショックの低減などを目的としてロックアップクラッチをスリップ状態に維持するスリップ制御が行われている。このスリップ制御においては、エンジン振動の伝達低減やLC伝達トルクの変動防止の観点などから、エンジンの出力軸と自動変速機構の入力軸との実差回転(実スリップ量又は実スリップ率)が所望の目標差回転(目標スリップ量又は目標スリップ率)となるように、そのスリップ量を油圧制御によってコントロールすることが好ましいが、特に運転者によるアクセル操作が一定でなくエンジントルクが変動するような場合などにおいては簡単なフィードバック制御だけで実スリップ量を目標スリップ量に制御することは難しいことである。
【0003】
そこで、前記目標スリップ量と実スリップ量とに基づきフィードバック制御値を演算するだけでなく、エンジントルクに対応するフィードフォワード制御値を算出しておき、これらのフィードフォワード制御値とフィードバック制御値とを加算した値を用いて前記スリップ制御を行うようにしたものが従来から知られている。こうした技術の一例としては、例えば特許文献1に開示されている装置などがある。この特許文献1に記載された従来の装置では、スリップ制御中のエンジントルクに対応するフィードフォワード制御値を前記目標スリップ量と実スリップ量との比較結果に従って学習補正し、該学習補正後のフィードフォワード制御値にフィードバック制御値を加算した値をロックアップクラッチ指令油圧として出力するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2985102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したような従来装置では、車両加速中にシフトアップされた際に行われるロックアップクラッチ制御時に、予め設定された目標スリップ率をいきなり達成する従来知られたフィードバック制御と同等のロックアップクラッチ指令油圧(詳しくは後述のイナーシャ相制御指令圧)を出力することから、例えば燃費を上げること等を目的として目標スリップ率をよりタイト状態(すなわち、エンジンの出力軸と自動変速機構の入力軸との間にほとんど差回転が生じていないスリップ率が例えば90〜100%である状態)に近づけるように設定すればするほど、必要以上に高いロックアップクラッチ指令油圧が出力されることになり、そうするとロックアップクラッチが急締結されて大きなショックが生じやすくまたそれに伴って音や振動が発生してしまう、という問題点があった。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、車両加速中にシフトアップされた際に行われるロックアップクラッチ制御において、自動変速機のシフトアップ変速制御にあわせて指示されるロックアップクラッチ指令油圧を学習し、該学習結果(学習値)に基づき補正されたイナーシャ相制御指令圧に従って前記ロックアップクラッチの制御を行うことによって、次回の同制御時において前記ロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御することのできるようにした自動変速機のロックアップクラッチ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る請求項1に記載の自動変速機のロックアップクラッチ制御装置は、自動変速機(1)のロックアップクラッチ(7)の実スリップ率が所定の目標値となるように、該ロックアップクラッチ(7)の締結圧を制御する自動変速機(1)のロックアップクラッチ制御装置(14)において、エンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度を検出する検出手段(3,4,11)と、前記自動変速機(1)におけるロックアップクラッチ(7)の油圧指令時にシフトアップ変速制御が開始されたか否かを判定する判定手段(E)と、ロックアップクラッチ(7)の制御中にシフトアップ制御が開始された場合に、所定の学習開始条件が成立するか否かを判定する学習開始判定手段(A1)と、前記学習開始条件が成立する場合に、前記ロックアップクラッチ(7)の締結圧を指示する指令油圧を学習する学習手段(A2)と、前記シフトアップ変速制御のトルク相からイナーシャ相への移行に従って前記ロックアップクラッチ(7)を制御する際のイナーシャ相制御圧を指示する元のイナーシャ相制御指令圧を、前記検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度に基づいて決定する決定手段(B)と、前記指令油圧の学習結果に従って、前記決定した元のイナーシャ相制御指令圧を学習補正する補正手段(B)と、前記補正したイナーシャ相制御指令圧に従って、前記ロックアップクラッチ(7)の制御を実行する制御手段(8)とを備え、前記学習手段(A2)は、前記シフトアップ変速制御の開始時点から実スリップ率が所定の目標値又はそれに近い所定値内に到達するまでに検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度の平均値に対応する学習領域毎に前記指令油圧の学習値を記憶すると共に、前記シフトアップ変速制御の終了時点から実スリップ率が所定の目標値又はそれに近い所定値内に到達するまでの到達時間を計測して、該計測した到達時間の長短に基づいて前記学習値を更新することを特徴とする。
【0008】
この発明によると、加速状態にある車両をシフトアップした際に行われるロックアップクラッチの油圧制御において、自動変速機(1)のシフトアップ変速制御にあわせて指示されるロックアップクラッチ指令油圧を学習する際に、トルク相とイナーシャ相と段階的な過程を経るシフトアップ変速制御の終了時点から実スリップ率が所定の目標値又はそれに近い所定値に到達するまでの到達時間を計測し、該計測した到達時間の長短に基づいて学習値を更新するようにした。そして、クルーズフィードバック制御中のロックアップクラッチを前記シフトアップ変速制御のトルク相からイナーシャ相への移行に従って制御する際のイナーシャ相制御圧を指示するために、エンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度に基づいて決定される元のイナーシャ相制御指令圧を前記学習値に基づいて補正し、該補正後のイナーシャ相制御指令圧に従って前記イナーシャ相への移行に伴うロックアップクラッチの油圧制御を実行する。このように、加速制御時に指示されたロックアップクラッチ指令油圧に基づく学習値を用いることで、車両の加速中にシフトアップされた場合に行われるロックアップクラッチ制御時におけるロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御することができ、前記イナーシャ相制御指令圧が低すぎることに起因するクラッチ滑りの余分な発生に伴う発熱や燃費の悪化、あるいはイナーシャ相制御指令圧が高すぎることに起因するショックや振動の発生等を防止することができるようになる。
【0009】
本発明に係る請求項2に記載の自動変速機のロックアップクラッチ制御装置は、自動変速機(1)のロックアップクラッチ(7)の実スリップ率が所定の目標値となるように、該ロックアップクラッチ(7)の締結圧を制御する自動変速機(1)のロックアップクラッチ制御装置(14)において、エンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度を検出する検出手段(3,4,11)と、前記自動変速機(1)におけるロックアップクラッチ(7)の油圧指令時にシフトアップ変速制御が開始されたか否かを判定する判定手段(E)と、ロックアップクラッチ(7)の制御中にシフトアップ制御が開始された場合に、所定の学習開始条件が成立するか否かを判定する学習開始判定手段(A1)と、前記学習開始条件が成立する場合に、前記ロックアップクラッチ(7)の締結圧を指示する指令油圧を学習する学習手段(A2)と、前記シフトアップ変速制御のトルク相からイナーシャ相への移行に従って前記ロックアップクラッチ(7)を制御する際のイナーシャ相制御圧を指示する元のイナーシャ相制御指令圧を、前記検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度に基づいて決定する決定手段(B)と、前記指令油圧の学習結果に従って、前記決定した元のイナーシャ相制御指令圧を学習補正する補正手段(B)と、前記補正したイナーシャ相制御指令圧に従って、前記ロックアップクラッチ(7)の制御を実行する制御手段(8)とを備え、前記学習手段(A2)は、前記シフトアップ変速制御の開始時点から前記シフトアップ変速制御が終了するまでに検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度の平均値に対応する学習領域毎に前記指令油圧の学習値を記憶すると共に、前記シフトアップ変速制御終了時点の実スリップ率と前記シフトアップ変速制御終了時点における目標値との偏差を算出して、該算出した偏差の大小に基づいて前記学習値を更新することを特徴とする。こうすることによっても、車両の加速中にシフトアップされた場合に行われるロックアップクラッチ制御時におけるロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御でき、クラッチ滑りの余分な発生に伴う発熱や燃費の悪化あるいはショックや振動の発生等を防止することができるようになる。
【0010】
なお、上記で括弧内に記した図面参照符号は、後述する実施形態において対応する構成要素等を参考のために例示したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両の加速中(より詳しくはクルーズフィードバック制御中)に行われた自動変速機のシフトアップ変速制御にあわせて指示されるロックアップクラッチ指令油圧を学習し、該学習結果(学習値)に基づいてトルク相からイナーシャ相への移行にあわせてロックアップクラッチを制御する際の元のイナーシャ相制御指令圧を補正することによって、加速状態にある車両をシフトアップさせた際に行われる次回制御時におけるロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御するようにした。これにより、イナーシャ相制御指令圧が低すぎることに起因するクラッチ滑りの余分な発生に伴う発熱や燃費の悪化、あるいはイナーシャ相制御指令圧が高すぎることに起因するショックや振動の発生等を防止することができるようになる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる自動変速機のロックアップクラッチ制御装置を適用した自動変速機の一実施例を示す概略図である。
【図2】ロックアップクラッチ制御装置のブロック図である。
【図3】ロックアップクラッチ指令油圧の学習について説明するためのタイミングチャートである。
【図4】ロックアップクラッチ指令油圧学習処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図5】学習マップの一実施例を示す図である。
【図6】ロックアップクラッチ指令油圧決定処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図7】ロックアップクラッチ指令油圧学習処理の別の実施例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明にかかる自動変速機のロックアップクラッチ制御装置を適用した自動変速機の一実施例を示す概略図である。図1に示すように、動力駆動源であるエンジン2に接続される自動変速機1は、大別すると自動変速機構(AT)5、ロックアップクラッチ(LC)7を備えたトルクコンバータ(TC)6、油圧制御回路8から構成されてなり、前記エンジン2の出力軸(図示せず)と前記自動変速機構5の入力軸のメインシャフトMSとの間に前記トルクコンバータ6を介在させた構成となっている。すなわち、エンジン2によって発生された駆動力が、ロックアップクラッチ7を備えたトルクコンバータ6及び自動変速機構5等を介して車両の駆動輪(図示せず)へと伝達される構成となっている。
【0015】
前記トルクコンバータ6は、ロックアップクラッチ7を解放した状態(ロックアップオフ)において、エンジン2と自動変速機構5の入力軸との間のトルク伝達を流体を介して行うものであり、他方ロックアップクラッチ7を滑りなく完全に締結(係合)させた状態(ロックアップオン)において、エンジン2と前記入力軸のメインシャフトMSとの間で直接的にトルク伝達を行うものである。こうしたロックアップクラッチ7を締結/解放する制御(ロックアップクラッチ7をスリップ状態に維持するスリップ制御を含む)や自動変速機構5における変速制御等は、油圧制御回路8による油圧制御により行われる。前記自動変速機構5の構成及び前記油圧制御回路8による自動変速機構5の変速制御に関しては公知であることから詳しい説明を省略するが、自動変速機構5におけるシフトアップの変速制御はトルク相及びイナーシャ相の各過程を順次に経ることにより行われることが従来知られている(後述の図3参照)。なお、この明細書では、前記変速制御がトルク相の過程にあるときにロックアップクラッチ7を締結制御するための締結圧をトルク相制御圧と呼び、前記変速制御がトルク相から移行されたイナーシャ相の過程にあるときにロックアップクラッチ7を締結制御するための締結圧をイナーシャ相制御圧と呼ぶ。
【0016】
ロックアップクラッチ7を締結/解放するための前記油圧制御回路8のハード構成については、周知の構成をそのまま採用してよい。一例として、ロックアップリレーバルブ、ロックアップコントロールバルブ、リニヤソレノイドバルブ等によってロックアップクラッチ7を締結/解放する従来知られた油圧制御回路8について簡単に説明する。ロックアップリレーバルブはロックアップクラッチ7の締結/解放を切り換えるためのバルブであり、リニヤソレノイドバルブによって発生される制御油圧が所定の閾値を超えるか否かによって前記切換は行われる。前記切換え時の制御油圧をリニヤソレノイドバルブによって徐々に増減させることにより、前記ロックアップリレーバルブはロックアップコントロールバルブと相俟ってロックアップクラッチ7を滑らかに(ロックアップオフからオンへの移行時にスリップさせながら)締結させたり解放させたりすることができるようになっている。
【0017】
一方、ロックアップコントロールバルブは、ロックアップクラッチ7が締結されているとき(あるいは解放されているとき)の締結圧をそのスリップ量が所定の目標値(目標スリップ量又は目標スリップ率など)となるように制御するためのバルブであり、前記締結圧の制御はリニヤソレノイドバルブによって発生される制御油圧を制御用パイロット圧として利用することによって行われる。したがって、リニヤソレノイドバルブの制御油圧を制御することによって、エンジンの出力トルクに応じた必要且つ十分な油圧でロックアップクラッチ7を(滑り)締結させることができる。このように、前記油圧制御回路8は、ロックアップクラッチ7を単に締結/解放する切換制御を行うことができるだけでなく、ロックアップクラッチ7をスリップ状態に維持するスリップ制御を行うこともできるようになっている。こうした前記油圧制御回路8による前記切換制御やスリップ制御などのロックアップクラッチ7の制御は、ECU14からの指示によって行われる。
【0018】
ECU14は、CPU,ROM,RAM及び入出力インタフェース等を含んで構成されてなり、RAMの一時記憶機能を用いながらROMに格納されている各種制御プログラムに従って所定の機能を実現するマイクロコンピュータである。この実施例において、前記ECU14は本発明に係る自動変速機のロックアップクラッチ制御装置として機能するものであり、後述するロックアップクラッチ指令油圧学習処理(図4参照)及びロックアップクラッチ指令油圧決定処理(図6参照)などのコンピュータプログラムを実行することによって、車両加速中にシフトアップされた際に行われるロックアップクラッチ制御において自動変速機構5のシフトアップ変速制御にあわせて指示されるロックアップクラッチ指令油圧の学習を行うとともに、該学習結果(学習値)に基づいて元のイナーシャ相制御指令圧を補正し、次回以降の前記ロックアップクラッチ制御時に補正後のイナーシャ相制御指令圧を出力して前記油圧制御回路8の動作を制御するようになっている。こうした処理の詳細については後述する。
【0019】
前記ECU14には、例えばエンジン2の負荷やエンジン2及びトランスミッション1さらには自動変速機構5の状態などを反映させるために、エンジン2の出力トルクを検出するエンジントルクセンサ3からのエンジントルク信号、スロットル開度を検出するスロットルセンサ4からのスロットル開度信号、ロックアップクラッチ7から自動変速機構5へと伝達するLC伝達トルクを検出するLC伝達トルクセンサ9からのLC伝達トルク信号、自動変速機構5のメインシャフトMSの回転数を検出する回転数センサ10からのメインシャフト回転数信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ11からのアクセルペダル開度信号、シフト(変速段)位置を検出するシフトセンサ12からのシフト段信号、自動変速機構5の少なくともシフトアップ変速制御時における変速前のシフトのトルクと変速後のシフトのトルクとを検出するシフトトルクセンサ15からのシフトトルク信号などの各種信号が入力されるようになっている。また、その他信号として、車速信号、エンジン吸気温、エンジン冷却水の水温、エアコンのオン/オフ状態、トランスミッションの潤滑油の油温等の各種信号がそれぞれを検知可能なその他センサ13等から入力される。勿論、ここに記載した以外の信号が入力されてもよい。
【0020】
なお、本発明に係る自動変速機のロックアップクラッチ制御装置は、上記したECU14のようなコンピュータプログラムを実行するものに限らず、専用のハードウェアで構成されたものであってもよいことは勿論である。
【0021】
次に、上述したECU14の詳細について、図2を用いて説明する。図2は、ロックアップクラッチ制御装置(ECU14)のブロック図である。図2に示すように、この実施例において前記ECU14は、ロックアップクラッチ指令油圧学習手段A、ロックアップクラッチ指令油圧決定手段B、目標スリップ率設定手段C、実スリップ率検出手段D、シフトアップ制御開始判定手段E、学習値記憶手段Fを有する。
【0022】
シフトアップ制御開始判定手段Eは、アクセルペダル開度信号や車速信号などに基づいて、加速状態にある車両のシフトアップ操作に応じてロックアップクラッチ7の油圧制御を行うか否か、つまりはシフトアップ変速制御の開始を契機にクルーズ(加速)フィードバック制御中のロックアップクラッチ7に対して前記変速制御に対応するロックアップ制御を行うか否かを判定するものである。前記変速制御に対応するロックアップ制御を行う場合には、ロックアップクラッチ指令油圧学習手段A及びロックアップクラッチ指令油圧決定手段Bに対してシフトアップ制御開始を出力する。ロックアップクラッチ指令油圧学習手段Aは、シフト段信号によって特定される変速後の変速段(シフト段)毎にロックアップクラッチ指令油圧を学習するためのものであり、後述するロックアップクラッチ指令油圧の学習を行う。
【0023】
前記ロックアップクラッチ指令油圧学習手段Aは、学習開始判定手段A1と学習手段A2とを含む。学習開始判定手段A1は、ロックアップクラッチ指令油圧を学習するための学習開始条件の成立を判定するものである。本実施形態では、エンジン吸気温やエンジン冷却水の水温等が所定の範囲内に収まっておりかつエアコンのオフ状態が所定時間以上にわたって続いている状態にあること(エンジン側安定条件)、またトランスミッション1の潤滑油の油温等が所定の範囲内に収まっており変速制御のための油圧が遅れることなく立ち上がるトランスミッション1が安定した稼動状態にあること(トランスミッション側安定条件)、さらにはクルーズ(加速)フィードバック制御された状態にあるロックアップクラッチ7がシフトアップ変速制御に対応した制御が開始されるまでの一定時間(後述する図3に示すt0〜t1参照)前からアクセルペダル開度(又はエンジントルク又はスロットル開度)の変位が一定値以内の小さい範囲に収まっている状態にあること(エンジントルク安定条件)の全てを同時に満たしたときにのみ、学習開始条件が成立したと判定する。また、学習開始後、学習終了までの間に上記3つの安定条件が満たされなくなった場合、学習値を反映することなく学習を終了する。
【0024】
学習手段A2は、シフトアップ変速制御にあわせてロックアップクラッチ7の制御が開始された時点からクルーズフィードバック制御に至るまでを学習期間とし、該学習期間内においてロックアップクラッチ指令油圧を学習する。このロックアップクラッチ指令油圧の学習(学習値への反映)は学習開始条件が成立し、シフトアップ変速制御の度に行われて、そのときどきの学習結果(学習値)が学習値記憶手段Fに格納されている学習マップ(後述する図5参照)に反映されるようになっている。ここで、図3はロックアップクラッチ指令油圧の学習について説明するためのタイミングチャートである。以下、図3のタイミングチャートを用いてロックアップクラッチ指令油圧の学習タイミングについて説明する。
【0025】
前記学習開始判定手段A1によりエンジン側安定条件及びトランスミッション側安定条件及びエンジントルク安定条件の全てを同時に満たすといった前記学習開始条件が成立したと判定されており(ここではそれぞれに対応するフラグが全て「1」である)、かつ前記シフトアップ制御開始判定手段Eによる制御開始判定(出力)がなされた時点つまりロックアップクラッチ7のクルーズフィードバック制御中に自動変速機構5においてシフトアップ変速制御が開始された時点t2(トルク相とイナーシャ相とを含んでなる変速制御の開始時点)を学習開始時点とする。一方、シフトアップ変速制御の開始後において、ロックアップクラッチ7のクルーズフィードバック制御が開始される時点t5(つまりはトルク相及びイナーシャ相の各過程の変速制御に対応した制御とその後の加算制御が終了するまで、あるいは実スリップ率が目標スリップ率から一定値以内に近づくまで)を学習終了時点とする。
【0026】
なお、前記シフトアップ変速制御の開始時点(トルク相の開始時点ともいえる)は、例えばシフト段が変更され変更後の変速段N+1のトルクが出力し始めたことを検知した時点である。他方、前記シフトアップ変速制御の終了時点(イナーシャ相の終了時点ともいえる)は、例えば変更後の変速段N+1の回転にメインシャフトMSの回転が同期したことを検知した時点である。また、前記変速制御開始から終了までの間におけるトルク相とイナーシャ相への移行時点(つまりはトルク相の終了時点またはイナーシャ相の開始時点)は、例えば変更前の変速段Nのクラッチが滑り始めたことを検知した時点である。
【0027】
本実施形態では、例えば図示のように変動するロックアップクラッチ指令油圧に基づいて前記学習開始t2〜学習完了t5までの学習期間内において、変速前の変速段Nと変速後の変速段N+1との間でのトルクの受け渡しが完了する変速制御終了時点t4から、自動変速機構5の変速制御終了後に開始されるロックアップクラッチ7の加算制御に伴って実スリップ率が目標スリップ率からの一定値以内に到達するt5までの時間(すなわち加算制御時間)を計測し、この計測した加算制御時間の長短に応じて次回の変速制御におけるトルク相からイナーシャ相への移行に従ってロックアップクラッチ7を締結制御するためのイナーシャ相制御圧を上下させる学習が行われる。この実施例では前記加算制御時間が短い場合にイナーシャ相制御圧を下げるマイナス学習が行われ、前記加算制御時間が長い場合にイナーシャ相制御圧を上げるプラス学習が行われるようにして、学習結果(学習値)が学習マップに反映される。こうした学習マップへの学習値の反映方法については後述する(図5参照)。
【0028】
前記目標スリップ率は目標スリップ率設定手段Cにより決定され、実スリップ率は実スリップ率検出手段Dにより決定される。これら目標スリップ率設定手段Cや実スリップ率検出手段Dによる各スリップ率の決定方法は周知のどのような方法であってもよいことから、説明を省略する。
【0029】
図2の説明に戻って、ロックアップクラッチ指令油圧決定手段Bはロックアップクラッチ指令油圧を決定するものであり、この実施例では特に車両加速中にシフトアップされた際に行うロックアップクラッチ制御において、変速制御がトルク相からイナーシャ相へ移行されるのにあわせてロックアップクラッチ7を締結制御するときのイナーシャ相制御圧を決定し油圧制御回路8に対して出力する。前記イナーシャ相制御圧は、必要LC伝達トルクに応じて決定されるフィードフォワード制御に寄与するフィードフォワード指令油圧に対して、シフト段毎にアクセルペダル開度(又はエンジントルク又はスロットル開度)に応じて決定される所定の補正係数を乗算して求められる元のイナーシャ相制御圧(補正後のイナーシャ相制御圧と区別するために単に元指令油圧と呼ぶ)を、前記学習値記憶手段Fに記憶された学習マップに従って補正することにより決定する。
【0030】
次に、上述したロックアップクラッチ指令油圧を学習する処理について、図4を用いて説明する。図4は、ロックアップクラッチ指令油圧学習処理の一実施例を示すフローチャートである。なお、上述したようにロックアップクラッチ指令油圧を学習する際やロックアップクラッチの締結制御におけるイナーシャ相制御圧を決定する際には、アクセルペダル開度又はエンジントルク又はスロットル開度のいずれかの監視を行うものであるが、以下では説明を理解しやすくするために代表としてアクセルペダル開度を監視する場合を例に説明する。
【0031】
ステップS1は、エンジン側安定条件フラグが「1」であるか否かを判定する。エンジン側安定条件フラグが「1」であると判定された場合には(ステップS1のYES)、トランスミッション側安定条件フラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS2)。トランスミッション側安定条件フラグが「1」であると判定された場合には(ステップS2のYES)、アクセルペダル開度(又はエンジントルク又はスロットル開度、以下同じ)においてその変位が予め決められた一定値内であってかつ一定時間以上にわたって継続した状態つまりはエンジントルクが安定した状態であるか否かを判定する(ステップS3)。他方、エンジン側安定条件フラグが「1」でない、又はトランスミッション側安定条件フラグが「1」でない、又はエンジントルクが安定した状態でないと判定した場合には(ステップS1〜S3のいずれかがNO)、当該処理を終了する。すなわち、上記ステップS1〜S3までの処理はそれぞれがエンジン側安定条件、トランスミッション側安定条件、エンジントルク安定条件が成立しているか否かを判定する処理であって、これらの条件の1つでも成立しない場合には、ロックアップクラッチ指令油圧の学習を行うことなく当該処理を終了する。
【0032】
一方、エンジン側安定条件、トランスミッション側安定条件、エンジントルク安定条件の全てが成立している場合には(ステップS1〜S3が全てYES)、エンジントルクが安定状態にありシフトアップ変速開始時に学習開始時点t2が確定されて学習を開始する。まず、自動変速機構5のシフトアップ変速制御中又はロックアップクラッチ7の締結制御が加算制御中であるか否か、あるいは自動変速機構5のシフトアップ変速制御中又はロックアップクラッチ7の締結制御において目標スリップ率から実スリップ率を減算した値が予め決められた所定値より小さいか否か(つまりは、実スリップ率が目標スリップ率から一定値以内に到達したか否か)を判定する(ステップS4)。シフトアップ変速制御中又は加算制御中である、あるいはシフトアップ変速制御中又は目標スリップ率から実スリップ率を減算した値が所定値より小さいと判定した場合には(ステップS4のYES)、シフトアップ変速制御開始から前記判定時点までにおけるアクセルペダル開度の平均値を算出する(ステップS5)。ステップS6は、そのときに実測されたアクセルペダル開度に基づいてシフトアップ変速制御終了後に実行される加算制御の実行時間の目安となる目標加算制御時間T1及びT2(ただし、ここではT1<T2)を算出する。この目標加算制御時間T1及びT2は、例えば適正なロックアップクラッチ制御が行われた実際のテスト結果等から得られる、アクセルペダル開度に応じた加算制御時間を予めマップ化しておいたデータを参照することによって求められる。
【0033】
上記ステップS4において、シフトアップ変速制御中でも加算制御中でもない、あるいはロックアップクラッチ制御が変速制御に対応した締結制御中でなくまた目標スリップ率から実スリップ率を減算した値が所定値より小さくないと判定されて学習完了時点t5が確定された場合には(ステップS4のNO)、前記目標加算制御時間T1,T2と実行中のロックアップクラッチ制御において加算制御に要した加算制御時間(実測値)とを比較し(ステップS7及びステップS9)、それらの比較結果に応じた異なる処理を実行する。実測した加算制御時間が目標加算制御時間T1よりも短い場合には(ステップS7のYES)、学習値記憶手段Fに記憶された学習マップにおいて前記ステップS5で求めたアクセルペダル開度の平均値(平均アクセルペダル開度)に基づく該当領域の学習値をマイナスすることで学習結果を反映させる(ステップS8)。すなわち、実測の加算制御時間が目標加算制御時間T1よりも短いということは、目標よりも短い時間で実スリップ率が目標スリップ率に到達したことを示しており、こうした動作は急激な締結であることからそうした動作を次回に補正すべく、より詳しくは比較的に長い時間をかけて加算制御を実行させて前記急激な締結を生じさせないようにするべく学習値をマイナスするマイナス学習を行う。
【0034】
一方、実測した加算制御時間が目標加算制御時間T2よりも長い(当然に目標加算制御時間T1よりも長い)場合には(ステップS7がNOであってステップS9がYES)、学習値記憶手段Fに記憶された学習マップにおいて前記ステップS5で求めたアクセルペダル開度の平均値(平均アクセルペダル開度)に基づく該当領域の学習値をプラスすることで学習結果を反映させる(ステップS10)。すなわち、実測の加算制御時間が目標加算制御時間T2よりも長いということは、目標よりも長い時間で実スリップ率が目標スリップ率に到達したことを示しており、こうした動作は発熱を伴う滑りが長い時間にわたって生じ得る緩やかな締結であることからそうした動作を次回に補正すべく、より詳しくは短い時間で加算制御を終わらせて前記発熱を伴う滑りを生じさせないようにするべく学習値をプラスするプラス学習を行う。このようにして、自動変速機構5のシフトアップ変速制御が開始されてからロックアップクラッチ7のクルーズフィードバック制御に至るまでを学習期間とし、該学習期間内においてロックアップクラッチ指令油圧の学習が行われる。なお、実測した加算制御時間が目標加算制御時間T1,T2の範囲内にある場合には(ステップS7及びS9が共にNO)、クラッチ滑りの余分な発生に伴う発熱や燃費の悪化あるいは締結ショックの発生等を生じることのない適正なロックアップクラッチ制御が行われたものとして、前記マイナス学習やプラス学習によるロックアップクラッチ指令油圧の学習を行わない。
【0035】
ここで、学習結果(学習値)の学習マップへの反映方法について説明する。図5は、学習マップの一実施例を示す図である。本学習マップはシフト段毎に用意されている。学習マップはアクセルペダル開度に基づく学習領域(アクセルペダル開度領域)と学習値との関係をマップ化したデータであり、図5では前記学習領域を9つの領域(0/8〜8/8)に分割したものを示している。このように学習領域を複数の領域に分割するのは、例えばアクセルペダル開度の各開度において必ずしもエンジントルクのばらつきが同等に生じているとは限らないことによる。例えば、アクセルペダル開度が全開の付近の領域でのみエンジントルクが小さめにばらついていた場合には、これを基準にアクセルペダル開度の全領域で学習値の反映を行ってしまうと、他の領域に対しては却って不適切な学習が行われてしまうことになる。そのため、アクセルペダル開度を9分割し、これに該当する過去の加算制御時間に基づいてこれに該当する部分のみの学習値を更新するようにしたものである。
【0036】
なお、前記分割数はこれをあまり多く設定すると学習補正するためのその領域に対応する情報量が少なくなって学習補正が適正に行われる領域と行われない領域とがでてくる恐れがあるため適当でなく、また少なすぎても上述した理由により適当でない。そのため、この実施例においては9分割を採用している。
【0037】
ロックアップクラッチ指令油圧の学習が行われるたびに学習値は反映されるが、そのときどきに学習値を反映するアクセルペダル開度領域は前記平均アクセルペダル開度に基づき決定される。前記平均アクセルペダル開度が例えば「1.5/8」である場合にはアクセルペダル開度領域「1/8」と「2/8」の両領域が、前記平均アクセルペダル開度が例えば「6.2/8」である場合にはアクセルペダル開度領域「6/8」と「7/8」の両領域(図示せず)が学習値を反映する領域に決定される。
【0038】
一方、各領域に反映する学習結果(学習値)は平均アクセルペダル開度に基づく所定比率に従って決定される。なお、学習を1回も行っていない初期状態の学習マップにおいては、全てのアクセルペダル開度領域の学習値は全て「0」となっている。具体的に説明すると、前記平均アクセルペダル開度が例えば「1.5/8」である場合にはアクセルペダル開度領域「1/8」と「2/8」の両領域に反映する学習値は「0.5(1-0.5)」となり、前記平均アクセルペダル開度が例えば「6.2/8」である場合には領域「6/8」及び領域「7/8」に反映する学習値はそれぞれ「0.8(1-0.2)」と「0.2(1−0.8)」となる。
【0039】
そして、学習マップに前記学習結果を反映する際には、マイナス学習であれば前記反映すべき学習値をマイナスし(図4のステップS8参照)、プラス学習であれば前記反映すべき学習値をプラスする(図4のステップS10参照)。上記方法に従うと、例えば1回目の学習が行われてその際の平均アクセルペダル開度が「1.5/8」でありかつマイナス学習であった場合には、図5(a)に示すように領域「1/8」及び領域「2/8」にそれぞれの学習結果である「-0.5」の学習値がそのまま反映される(初期状態の学習マップの学習値が全て「0」である場合)。引き続き2回目の学習が行われてその際の平均アクセルペダル開度が「1.25/8」でありかつプラス学習であった場合には、1回目と同じ領域「1/8」及び領域「2/8」の学習値に対して2回目の学習結果である「+0.75(1-0.25)」と「+0.25(1-0.75)」をそれぞれ反映させることになるので、図5(b)に示すようにして2回目の学習終了時点において領域「1/8」は「-0.5+0.75=0.25」、領域「2/8」は「-0.5+0.25(1-0.75)=-0.25」にそれぞれの学習値が更新されることになる。このようにして、前記ロックアップクラッチ指令油圧の学習が複数回繰り返されると、例えば図5(c)に示すような全ての領域に学習値が記録された学習マップを得る。
【0040】
次に、ロックアップクラッチ指令油圧を決定する処理について説明する。図6は、ロックアップクラッチ指令油圧決定処理の一実施例を示すフローチャートである。ステップS11は、自動変速機構5の変速制御中(シフトアップ)であるか否かを判定する。変速制御中であると判定した場合には(ステップS11のYES)、変速制御中の初回処理であるか否かを判定する(ステップS12)。変速制御中の初回処理であると判定した場合には(ステップS12のYES)、必要LC伝達トルクに基づいてマップを参照してフィードフォワード指令油圧PFSを算出する(ステップS13)。ステップS14は、変速開始ロックアップラッチ指令油圧PCSを決定する。
【0041】
変速制御中の初回処理でないと判定した場合には(ステップS12のNO)、必要LC伝達トルクに基づいて予め用意されたマップに従ってフィードフォワード指令油圧PFを算出する(ステップS15)。ステップS16は、自動変速機構5の変速制御がイナーシャ相の過程での制御中であるか否かを判定する。イナーシャ相での変速制御中であると判定した場合には(ステップS16のYES)、シフト段毎にアクセルペダル開度(又はエンジントルク又はスロットル開度、以下同じ)に基づき補正係数Kを算出する(ステップS17)。ステップS18は、シフト段毎にその時点で実測されたアクセルペダル開度に基づき学習圧PS(補正圧)を算出する。ステップS19は、前記算出したフィードフォワード指令油圧PFに前記補正係数Kを乗算して求められる元のイナーシャ相制御圧(元指令油圧)を前記算出した学習圧PSにより補正することで、ロックアップクラッチ指令油圧PC(イナーシャ相制御圧)を決定する。
【0042】
ここで、前記学習圧PS(補正圧)の算出方法について図5(c)を用いて具体的に説明する。前記学習圧PSを算出するために学習値を参照するアクセルペダル開度領域は、前記実測されたアクセルペダル開度に基づき決定される。そして、前記決定された各領域の学習値はアクセルペダル開度に基づく所定比率分に応じて学習圧PSを算出する際に寄与される。具体的に説明すると、前記アクセルペダル開度が例えば「1.25/8」である場合にはアクセルペダル開度領域「1/8」と「2/8」の両領域が学習値を参照するアクセルペダル開度領域に決定され、領域「1/8」の学習値の寄与分は「-0.45{(-0.6)×(1-0.25)}」、領域「2/8」の学習値の寄与分は「-0.125{(-0.5)×(1-0.75)}」となり、全体として学習圧PSへ寄与される全体寄与分は「-0.575」とされる。あるいは、前記アクセルペダル開度が例えば「2.75/8」である場合にはアクセルペダル開度領域「2/8」と「3/8」の両領域が学習値を参照するアクセルペダル開度領域に決定され、領域「2/8」の学習値の寄与分は「-0.125{(-0.5)×(1-0.75)}」、領域「3/8」の学習値の寄与分は「1.5(2×0.75)」となり、全体として学習圧PSへ寄与される全体寄与分は「1.375(1.5-0.125)」とされる。アクセルペダル開度に基づき特定される学習圧に基づき、前記全体寄与分に応じただけの制御圧を加算(全体寄与分がプラスである場合)又は減算(全体寄与分がマイナスである場合)することによって、学習圧PS(補正圧)は算出される。
【0043】
一方、イナーシャ相での変速制御中でないつまりはトルク相での変速制御中であると判定した場合には(ステップS16のNO)、前記算出した変速開始ロックアップラッチ指令油圧PCSに前記算出したフィードフォワード指令油圧PFを加算し、さらに初回処理時に算出したフィードフォワード指令油圧PFSを減算することにより、ロックアップクラッチ指令油圧PC(トルク相制御圧)を決定する。このように、自動変速機構5のシフトアップ変速制御開始にあわせてクルーズフィードバック制御中のロックアップクラッチ7の制御を開始する際の締結圧(トルク相制御圧)は、変速制御開始にあわせて決定される変速開始ロックアップラッチ指令油圧PCSに、必要LC伝達トルクに基づき算出されるフィードフォワード値の差分(PF−PFS)だけ加減圧が追加されることによって決定される。
【0044】
ステップS11において、変速制御中でないと判定した場合つまり変速制御が終了しておりロックアップクラッチ7の制御が変速制御のトルク相及びイナーシャ相に対応して行われる制御でなくて、それ以降の制御である加算制御中又はクルーズフィードバック制御中である場合には(ステップS11のYES)、従来知られた加算制御やクルーズフィードバック制御の処理を実行する(ステップS21〜S29)。すなわち、ステップS21は、目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値が予め決められた所定値より大きいか否かを判定する。目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値が所定値より大きいと判定した場合には(ステップS21のYES)、目標スリップ率が実スリップ率よりも大きいか否かを判定する(ステップS22)。
【0045】
目標スリップ率が実スリップ率よりも大きいと判定した場合には(ステップS22のYES)、シフト段毎にアクセルペダル開度に基づいてマップを参照して加算油圧傾きP1を算出する(ステップS23)。ステップS24は、前記算出した加算油圧傾きP1に基づく制御圧を現在のロックアップクラッチ指令油圧PCに加算して、ロックアップクラッチ指令油圧PCを決定(更新)する。一方、目標スリップ率が実スリップ率よりも大きくないと判定した場合には(ステップS22のNO)、シフト段毎にアクセルペダル開度に基づいてマップを参照して減算油圧傾きP2を算出する(ステップS25)。ステップS26は、前記算出した減算油圧傾きP2に基づく制御圧を現在のロックアップクラッチ指令油圧PCから減算して、ロックアップクラッチ指令油圧PCを決定(更新)する。
【0046】
ステップS21において、目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値が所定値以下であると判定した場合には(ステップS21のNO)、必要LC伝達トルクに基づいてマップを参照してフィードフォワード指令油圧PFを算出する(ステップS27)。ステップS28は、目標スリップ率と実スリップ率との差を埋めるフィードバック指令油圧PFBを算出する。ステップS29は、前記算出したフィードバック指令油圧PFBと前記算出した必要LC伝達トルクに基づくフィードフォワード指令油圧PFとを加算して、ロックアップクラッチ指令油圧PCを決定(更新)する。
【0047】
以上説明したように、本発明にかかる自動変速機のロックアップクラッチ制御装置(ECU14)では、自動変速機構5における変速制御終了時点からロックアップクラッチ7の制御において実スリップ率が目標スリップ率までの一定範囲内に到達するまでの時間(すなわち加算制御が行われた時間)を計測して、この計測された加算制御時間の長短に従って次回のロックアップクラッチ制御時におけるイナーシャ相制御圧をマイナス補正又はプラス補正するための学習圧PS(補正圧)を決める学習値を更新することによって、ロックアップクラッチ指令油圧の学習を行うようにしている。
【0048】
具体的には、加算制御時間が一定値以下の時はクラッチをつかみすぎた状態となるので、次回の締結制御時にイナーシャ相制御圧を減算する学習を行っておき、適正な時間をかけてクラッチをつかむ状態にできるようにする。他方、加算制御時間が一定値以上の時はクラッチの滑りが大きく発熱を生じやすい状態なので、次回の締結制御時にイナーシャ相制御圧を加算する学習を行っておき、より短い時間でクラッチをつかむ状態にできるようにする。
【0049】
このようにして、車両加速中にシフトアップされた際に行われるロックアップクラッチ制御においてシフトアップに応じて指示されるロックアップクラッチ指令油圧を学習し、該学習値に基づいてクルーズフィードバック制御状態にあるロックアップクラッチの締結制御をシフトアップ変速制御にあわせて行う際に元のイナーシャ相制御指令圧を学習圧PS(補正圧)によって補正することによって、シフトアップ時におけるロックアップクラッチのスリップ量を適正に制御する。これにより、前記イナーシャ相制御指令圧が低すぎることに起因するクラッチ滑りの余分な発生に伴う発熱や燃費の悪化、あるいは前記イナーシャ相制御指令圧が高すぎることに起因するショックや振動の発生等を防止することができるようになる。
【0050】
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。上述した実施例においては、図3に示すように変速制御開始t2から加算制御終了時t5までを学習期間とし、該学習期間内における加算制御時間(t4〜t5)の長短に応じて次回のロックアップクラッチ変速制御時のイナーシャ相制御圧を上下させる学習を行うものを示したがこうした学習方法に限らない。こうした異なる学習方法について、図7を用いて説明する。
【0051】
図7は、ロックアップクラッチ指令油圧学習処理の別の実施例を示すフローチャートである。この図7に示す処理においてステップS31〜S33までの処理については、上述した図4のステップS1〜S3までの処理と同じであることから説明を省略する。
【0052】
ステップS34は、変速制御中であるか否かを判定する。変速制御中であると判定した場合には(ステップS34のYES)、アクセルペダル開度(又はエンジントルク又はスロットル開度、以下同じ)の平均値を算出する(ステップS35)。ステップS36は、そのときに実測されたアクセルペダル開度に基づいてマップを参照し目標スリップ差D1及びD2(ただし、D1<D2とする)を算出する。この目標スリップ差D1及びD2は、変速制御終了時t4における目標スリップ率と実スリップ率との偏差の目標値である。
【0053】
変速制御中でないと判定した場合つまり変速制御終了時点である場合には(ステップS34のNO)、前記算出した目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値つまり変速制御終了時点t4における実スリップ率と目標スリップ率との偏差(図中のスリップ差Y)が前記算出した目標スリップ差D1よりも小さいか否かを判定する(ステップS37)。目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値(スリップ差Y)が前記算出した目標スリップ差D1よりも小さいと判定した場合には(ステップS37のYES)、学習値記憶手段Fに記憶した学習マップにおいて平均アクセルペダル開度に基づく該当領域の学習値をマイナスすることで学習結果を反映させる(ステップS38)。
【0054】
目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値(スリップ差Y)が前記算出した目標スリップ差D1よりも小さくないと判定した場合には(ステップS37のNO)、目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値(スリップ差Y)が前記算出した目標スリップ差D2よりも大きいか否かを判定する(ステップS39)。目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値(スリップ差Y)が前記算出した目標スリップ差D2よりも大きいと判定した場合には(ステップS39のYES)、学習値記憶手段Fに記憶した学習マップにおいて平均アクセルペダル開度に基づく該当領域の学習値をプラスすることで学習結果を反映させる(ステップS40)。目標スリップ率と実スリップ率との差の絶対値(スリップ差Y)が前記算出した目標スリップ差D2よりも大きくないと判定した場合には(ステップS39のNO)、当該処理を終了する。
【0055】
本実施形態では、学習手段A2は図3に示すように変速制御開始時t2(学習開始)から変速制御終了時t4(学習完了)までを学習期間とし、前記学習期間の終了時t4における目標スリップ率に対する実スリップ率の到達達成度合い(つまり目標スリップ率と実スリップ率との偏差)を計測し、この計測した偏差の大小に応じて次回のロックアップクラッチ制御時のイナーシャ相制御圧を上下させる学習を行う。この実施例では前記偏差が小さい場合にイナーシャ相制御圧を下げるマイナス学習が行われ、前記偏差が大きい場合にイナーシャ相制御圧を上げるプラス学習が行われて、これらの学習結果(学習値)が学習マップに反映される。
【0056】
具体的には、変速制御終了時点における前記偏差が一定値よりも小さい時は実スリップ率と目標スリップ率とがほぼ同じでありその後の加算制御においてクラッチをつかみすぎた状態になる恐れが大きいと推定できることから、次回の締結制御時にイナーシャ相制御圧を減算するように学習しておき、変速制御終了時点において実スリップ率が目標スリップ率に近づきすぎないようにないようにロックアップクラッチ制御時のイナーシャ相制御圧を適正に補正して、その後において適正にクラッチをつかんだ状態にできるようにする。他方、変速制御終了時点における前記偏差が一定値よりも大きい時は実スリップ率と目標スリップ率とが大きく離れておりその後の加算制御においてもクラッチの滑りが大きく発熱を生じやすい状態が続くことが推定できることから、次回の締結制御時にイナーシャ相制御圧を加算するように学習しておき、変速制御終了時点において実スリップ率を目標スリップ率に近づけるようにロックアップクラッチ制御時のイナーシャ相制御圧を適正に補正して、その後において適正にクラッチをつかんだ状態にできるようにする。
【0057】
なお、上述した実施例においては、エンジントルクやLC伝達トルクを実測するものを示したがこれに限らず、例えばスロットル開度とエンジン回転速度とによってエンジントルクを推定するなど、実測によらずに推定する方法であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…自動変速機
2…エンジン
3…エンジントルクセンサ
4…スロットルセンサ
5…自動変速機構
6…トルクコンバータ
7…ロックアップクラッチ
8…油圧制御回路
9…LC伝達トルクセンサ
10…回転数センサ
11…アクセルペダルセンサ
12…シフトセンサ
13…その他センサ
14…ECU
15…シフトトルクセンサ
A…ロックアップクラッチ指令油圧学習手段
A1…学習開始判定手段
A2…学習手段
B…ロックアップクラッチ指令油圧決定手段
C…目標スリップ率設定手段
D…実スリップ率検出手段
E…シフトアップ制御開始判定手段
F…学習値記憶手段
MS…メインシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機のロックアップクラッチの実スリップ率が所定の目標値となるように、該ロックアップクラッチの締結圧を制御する自動変速機のロックアップクラッチ制御装置において、
エンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度を検出する検出手段と、
前記自動変速機におけるロックアップクラッチの油圧指令時にシフトアップ変速制御が開始されたか否かを判定する判定手段と、
ロックアップクラッチの制御中にシフトアップ制御が開始された場合に、所定の学習開始条件が成立するか否かを判定する学習開始判定手段と、
前記学習開始条件が成立する場合に、前記ロックアップクラッチの締結圧を指示する指令油圧を学習する学習手段と、
前記シフトアップ変速制御のトルク相からイナーシャ相への移行に従って前記ロックアップクラッチを制御する際のイナーシャ相制御圧を指示する元のイナーシャ相制御指令圧を、前記検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度に基づいて決定する決定手段と、
前記指令油圧の学習結果に従って、前記決定した元のイナーシャ相制御指令圧を学習補正する補正手段と、
前記補正したイナーシャ相制御指令圧に従って、前記ロックアップクラッチの制御を実行する制御手段と
を備え、
前記学習手段は、前記シフトアップ変速制御の開始時点から実スリップ率が所定の目標値又はそれに近い所定値内に到達するまでに検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度の平均値に対応する学習領域毎に前記指令油圧の学習値を記憶すると共に、前記シフトアップ変速制御の終了時点から実スリップ率が所定の目標値又はそれに近い所定値内に到達するまでの到達時間を計測して、該計測した到達時間の長短に基づいて前記学習値を更新することを特徴とする自動変速機のロックアップクラッチ制御装置。
【請求項2】
自動変速機のロックアップクラッチの実スリップ率が所定の目標値となるように、該ロックアップクラッチの締結圧を制御する自動変速機のロックアップクラッチ制御装置において、
エンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度を検出する検出手段と、
前記自動変速機におけるロックアップクラッチの油圧指令時にシフトアップ変速制御が開始されたか否かを判定する判定手段と、
ロックアップクラッチの制御中にシフトアップ制御が開始された場合に、所定の学習開始条件が成立するか否かを判定する学習開始判定手段と、
前記学習開始条件が成立する場合に、前記ロックアップクラッチの締結圧を指示する指令油圧を学習する学習手段と、
前記シフトアップ変速制御のトルク相からイナーシャ相への移行に従って前記ロックアップクラッチを制御する際のイナーシャ相制御圧を指示する元のイナーシャ相制御指令圧を、前記検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度に基づいて決定する決定手段と、
前記指令油圧の学習結果に従って、前記決定した元のイナーシャ相制御指令圧を学習補正する補正手段と、
前記補正したイナーシャ相制御指令圧に従って、前記ロックアップクラッチの制御を実行する制御手段と
を備え、
前記学習手段は、前記シフトアップ変速制御の開始時点から前記シフトアップ変速制御が終了するまでに検出したエンジントルク又はアクセルペダル開度又はスロットル開度の平均値に対応する学習領域毎に前記指令油圧の学習値を記憶すると共に、前記シフトアップ変速制御終了時点の実スリップ率と前記シフトアップ変速制御終了時点における目標値との偏差を算出して、該算出した偏差の大小に基づいて前記学習値を更新することを特徴とする自動変速機のロックアップクラッチ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62998(P2012−62998A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209889(P2010−209889)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】