説明

自動変速機

【課題】自動変速機のクラッチの油圧室に作動油を供給する油路に設けられるシールリングを削減する。
【解決手段】自動変速機は、入力軸2と、単式プラネタリギヤ4と、第1サンギヤSb1と第2サンギヤSb2を備えるラビニヨ型の複式プラネタリギヤ5と、第1サンギヤSb1と入力軸2とを連結する第1油圧クラッチC1と、第2サンギヤSb2と入力軸2とを連結する第2油圧クラッチC2とを備える。第1油圧クラッチC1の第1油圧室C1cは、複式プラネタリギヤ5と第2クラッチC2の第2油圧室C2cとの間に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸の回転を変速機ケース内に配置した複式プラネタリギヤを介し複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力軸の回転を変速機ケース内に配置した単式プラネタリギヤ及び複式プラネタリギヤを介し複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のものでは、単式プラネタリギヤを、サンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤに噛合するピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成している。又、複式プラネタリギヤを、第1と第2の2つのサンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に、一方が第1サンギヤ、他方が第2サンギヤとリングギヤとに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとから成るラビニヨ型のプラネタリギヤで構成している。
【0004】
単式プラネタリギヤのキャリアは入力軸に連結された入力要素とされ、単式プラネタリギヤのサンギヤは変速機ケースに固定された固定要素とされており、単式プラネタリギヤは、入力軸の回転を増速して出力要素たるリングギヤから出力する。
【0005】
複式プラネタリギヤの第1サンギヤは入力軸に回転自在に軸支される第1中空軸に連結されている。又、複式プラネタリギヤの第2サンギヤは第1中空軸に回転自在に軸支される第2中空軸に連結されている。
【0006】
そして、係合要素として、第1サンギヤを第1中空軸を介して入力軸に解除自在に連結する第1油圧クラッチと、第2サンギヤを第2中空軸を介して入力軸に解除自在に連結する第2油圧クラッチと、単式プラネタリギヤの出力要素たるとリングギヤと複式プラネタリギヤのキャリアとを解除自在に連結する第3油圧クラッチと、単式プラネタリギヤの出力要素たるとリングギヤと複式プラネタリギヤの第1サンギヤとを第1中空軸を介して解除自在に連結する第4油圧クラッチと、第2サンギヤを変速機ケースに解除自在に固定する第1ブレーキと、複式プラネタリギヤのキャリアを変速機ケースに解除自在に固定する第2ブレーキとを備えている。
【0007】
そして、入力軸上には、流体トルクコンバータ側から順に、第1油圧クラッチ、第2油圧クラッチ、複式プラネタリギヤ、第3油圧クラッチ、第4油圧クラッチ、単式プラネタリギヤが配置されている。第1ブレーキは、第2油圧クラッチの径方向外側、第2ブレーキは、複式プラネタリギヤの径方向外側に配置されている。
【特許文献1】特開2001−82555号公報(段落番号[0052]−[0054]、第12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の自動変速機では、第2油圧クラッチが複式プラネタリギヤと第1油圧クラッチとの間に配置されている。このため、第2油圧クラッチのクラッチドラムは第1中空軸に回転自在に軸支されることとなる。この場合、第2油圧クラッチを係合させるために第2油圧クラッチの第2クラッチドラムと第2ピストンとで画成される第2油圧室に作動油を供給すべく、入力軸内に形成された潤滑油供給路から油圧室へ連通する油孔を第1中空軸に設ける必要があり、又、入力軸と第1中空軸との間、第1中空軸とクラッチハブとの間に作動油の漏れを防止するためのシールリングを夫々軸方向に一対設ける必要がある。
【0009】
従って、第1中空軸に第2油圧クラッチ用の油孔を形成し、又、シールリングを配置する分だけ、第1中空軸及び入力軸の軸長が長くなり、又、シールリングの数が多いためシールリングによるフリクションロスが大きくなってしまうという問題がある。又、油路及びシールリングの配置が複雑となるため、クラッチの配置自由度が低下し、自動変速機の小型化が困難となる。
【0010】
又、第1中空軸と第2中空軸との回転速度の差が大きい変速段を有する場合、第1中空軸と第2中空軸との間のシールリングが摩擦で劣化し易いという問題がある。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、シールリングの数を削減でき、軸長を短くできると共に、クラッチの配置自由度を向上させた自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、入力軸の回転を変速機ケース内に配置した複式プラネタリギヤを介し複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機において、複式プラネタリギヤは、複数の要素で構成され、入力軸に回転自在に軸支される第1中空軸に連結される要素を第1要素、第1中空軸に回転自在に軸支される第2中空軸に連結される要素を第2要素として、第1要素を第1中空軸を介して入力軸に解除自在に連結する第1油圧クラッチと、第2要素を第2中空軸を介して入力軸に解除自在に連結する第2油圧クラッチとを備え、第1油圧クラッチは、第1クラッチドラムと第1ピストンとで画成される第1油圧室を有し、第2油圧クラッチは、第2クラッチドラムと第2ピストンとで画成される第2油圧室を有し、第1油圧クラッチの第1油圧室が複式プラネタリギヤと第2油圧クラッチの第2油圧室との間に配置されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、第1油圧クラッチの第1油圧室を複式プラネタリギヤと第2油圧クラッチの第2油圧室との間に配置しているため、従来のように、第2油圧クラッチの第2油圧室へ作動油を供給するための油孔を第1中空軸に設ける必要がなく、又、入力軸と第1中空軸との間、及び第1中空軸と第2油圧クラッチの第2クラッチドラムとの間に第2油圧クラッチ用のシールリングも設ける必要がなくなり、シールリングの数を削減することができる。これにより、本発明の自動変速機は、軸長を短くすることができ、クラッチの配置自由度を向上させて、小型化を図ることができる。
【0014】
又、複式プラネタリギヤの第1要素と第2要素の回転速度の差が大きい変速段を有する自動変速機を構成する場合には、各要素に連結する第1中間軸と第2中間軸の回転速度の差も大きくなる。第2中間軸は第2油圧クラッチの第2クラッチドラムと連結されるため、第2クラッチドラムを第1中間軸に回転自在に軸支させると、第1中間軸と第2クラッチドラムとの間のシールリングが摩擦により劣化し易い。
【0015】
本発明は、上記の如く構成しているため、第1中間軸と第2中間軸に連結される第2油圧クラッチの第2クラッチドラムとの間にシールリングを設ける必要がない。これにより、自動変速機が、複式プラネタリギヤの第1要素と第2要素の回転速度の差が大きい変速段を有するものである場合でも、第2油圧クラッチのシールリングが摩擦により劣化することを抑制させることができる。
【0016】
本発明の具体的態様としては、例えば、変速ケース内に単式プラネタリギヤを配置し、単式プラネタリギヤを、入力軸に連結される入力要素と、変速機ケースに固定される固定要素と、出力要素とを有し、入力軸の回転を増速して出力要素から出力するように構成し、複式プラネタリギヤを、第1要素たる第1サンギヤと、第2要素たる第2サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に、一方が第1サンギヤ、他方が第2サンギヤとリングギヤに夫々噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとから成るラビニヨ型のプラネタリギヤで構成し、複式プラネタリギヤのキャリアと単式プラネタリギヤの出力要素とを解除自在に連結する第3油圧クラッチと、複式プラネタリギヤの第2サンギヤを変速機ケースに解除自在に固定する第1ブレーキと、複式プラネタリギヤのキャリアを変速機ケースに解除自在に固定する第2ブレーキとを設け、第3油圧クラッチを、単式プラネタリギヤと複式プラネタリギヤとの間に配置し、第1油圧クラッチを、第3油圧クラッチとの間で複式プラネタリギヤを挟み込む位置に配置し、第2油圧クラッチを、複式プラネタリギヤとの間で第1油圧クラッチを挟み込む位置に配置したものが挙げられる。
【0017】
かかる構成によれば、従来のように入力軸と第1中空軸との間、及び第1中空軸と第2油圧クラッチの第2クラッチドラムとの間に第2油圧クラッチ用のシールリングも設ける必要がなくなり、シールリングの数を削減することができる。このため、変速機の軸長を短くすることができ、変速機の構成部品の配置自由度を向上させることができる。
【0018】
又、後述する実施形態の説明から明らかなように、第3クラッチと第1ブレーキとを係合させて確立される変速段においては、第1要素たる第1サンギヤと第2要素たる第2サンギヤとの回転速度の差が大きくなり、第1中空軸と第2中空軸に連結される第2油圧クラッチのクラッチドラムの回転速度の差も大きくなる。本発明の具体的態様では、第2油圧クラッチ及び第2油圧室を、複式プラネタリギヤとの間で第1油圧クラッチ及び第1油圧室を挟み込む位置に配置させているため、第2油圧クラッチ用のシールリングは第1中空軸上には配置されず、入力軸等の他の部材に配置されることとなる。このため、本発明の具体的態様の自動変速機によれば、第2油圧クラッチ用のシールリングの摩擦による劣化を抑制させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1(a)及び図2は、本発明の自動変速機の第1実施形態を示している。第1実施形態の自動変速機は、変速機ケース1内に回転自在に軸支した、図外のエンジン等の動力源に連結される入力軸2と、入力軸2と同心に配置された出力部材たる出力ギヤ3とを備えている。出力ギヤ3の回転は、図外のデファレンシャルギヤを介して車両の左右の駆動輪に伝達される。尚、図1(a)及び図2では、自動変速機の上半分のみを図示している。
【0020】
又、変速機ケース1内には、入力軸2の周りに位置させて、入力用の単式プラネタリギヤ4と、変速用の複式プラネタリギヤ5とが配置されている。
【0021】
入力用の単式プラネタリギヤ4は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成される。単式プラネタリギヤ4のキャリアCaは入力軸2に連結され、サンギヤSaは変速機ケース1に固定されている。従って、単式プラネタリギヤ4の入力要素はキャリアCa、固定要素はサンギヤSa、出力要素はリングギヤRaとなる。
【0022】
単式プラネタリギヤ4のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をiとした場合、キャリアCaの回転速度が入力軸2の回転速度と等速度である「1」、サンギヤSaの回転速度が「0」となり、出力要素たるリングギヤRaの回転速度N1は、(i+1)/iに増速される。
【0023】
複式プラネタリギヤ5は、第1要素たる第1サンギヤSb1と、第2要素たる第2サンギヤSb2と、リングギヤRbと、互いに噛合すると共に、一方が第1サンギヤSb1、他方が第2サンギヤSb2及びリングギヤRbに噛合する一対のピニオンPb,Pb’を自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとから成るラビニヨ型のプラネタリギヤで構成されている。第1サンギヤSb1は、入力軸2に回転自在に軸支される第1中空軸6に連結されている。第2サンギヤSb2は、第1中空軸6に回転自在に軸支される第2中空軸7に連結されている。
【0024】
複式プラネタリギヤ5は、図3の速度線図に示すように、縦線で表される4つの回転要素を備える。図2に表される各回転要素を左から順に第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素、第4回転要素とすると、第1回転要素は第2サンギヤSb2、第2回転要素はキャリアCb、第3回転要素はリングギヤRb、第4回転要素は第1サンギヤSb1で構成される。尚、複式プラネタリギヤ5の速度線図において、下方の横線は回転速度が「0」であることを示し、上方の横線は回転速度が入力軸の回転速度を「1」としてこれと同一である「1」であることを示している。
【0025】
リングギヤRbと第1サンギヤSb1のギヤ比(リングギヤRbの歯数/第1サンギヤの歯数)をj、リングギヤRbと第2サンギヤSb2のギヤ比(リングギヤRbの歯数/第1サンギヤの歯数)をkとすると、第1〜第4の各回転要素間の間隔は、k:1:j−1の割り合いとなっている。
【0026】
又、実施形態の自動変速機では、係合要素として、第4回転要素たる第1サンギヤSb1と入力軸2とを第1中空軸6を介して解除自在に連結する第1油圧クラッチC1と、第1回転要素たる第2サンギヤSb2と入力軸2とを第2中空軸7を介して解除自在に連結する第2油圧クラッチC2と、第2回転要素たるキャリアCbと単式プラネタリギヤ4の出力要素たるリングギヤRaとを解除自在に連結する第3油圧クラッチC3と、第1回転要素たる第2サンギヤSb2を変速機ケース1に解除自在に固定する第1ブレーキB1と、第2回転要素たるキャリアCbを変速機ケース1に解除自在に固定する第2ブレーキB2とを備えている。
【0027】
第3油圧クラッチC3は単式プラネタリギヤ4と複式プラネタリギヤ5との間に配置され、第3油圧クラッチC3の第3クラッチドラムC3aが入力軸2に回転自在に軸支されている。
【0028】
本実施形態の自動変速機では、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とを係合させると、第4回転要素たる第1サンギヤSb1(第1要素)の回転速度が「1」、第2回転要素たるキャリアCbの回転速度が「0」になり、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbが「1st」で回転して、1速段が確立される。
【0029】
第1クラッチC1と第1ブレーキB1とを係合させると、第4回転要素たる第1サンギヤSb1(第1要素)の回転速度が「1」、第1回転要素たる第2サンギヤSb2(第2要素)の回転速度が「0」になり、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbが「2nd」で回転して、2速段が確立される。
【0030】
第1クラッチC1と第2クラッチC2とを係合させると、第4回転要素たる第1サンギヤSb1(第1要素)及び第1回転要素たる第2サンギヤSb2(第2要素)の回転速度が共に「1」となり、複式プラネタリギヤ5の各要素が相対回転不能なロック状態となって、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbも「1」である「3rd」で回転し、3速段が確立される。
【0031】
第1クラッチC1と第3クラッチC3とを係合させると、第4回転要素たる第1サンギヤSb1(第1要素)の回転速度が「1」、第2回転要素たるキャリアCbの回転速度が単式プラネタリギヤ4の出力要素たるリングギヤRaの回転速度と等速度であるN1となり、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbが「4th」で回転して、4速段が確立される。
【0032】
第2クラッチC2と第3クラッチC3とを係合させると、第1回転要素たる第2サンギヤSb2(第2要素)の回転速度が「1」、第2回転要素たるキャリアCbの回転速度がN1となり、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbが「5th」で回転して、5速段が確立される。
【0033】
第3クラッチC3と第1ブレーキB1とを係合させると、第2回転要素たるキャリアCbの回転速度がN1、第1回転要素たる第2サンギヤ(第2要素)の回転速度が「0」となり、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbが「6th」で回転して、6速段が確立される。
【0034】
第2クラッチC2と第2ブレーキB2とを係合させると、第1回転要素たる第2サンギヤSb2(第2要素)の回転速度が「1」、第2回転要素たるキャリアCbの回転速度が「0」となり、出力ギヤ3と連結する第3回転要素たるリングギヤRbが前進方向とは逆の後進方向である「Rev」で回転して、後進段が確立される。
【0035】
図1(b)は、上述した各変速段と各クラッチC1〜C3、ブレーキB1,B2の係合状態との関係を纏めて示したものであり、「○」は係合を表している。
【0036】
ここで、本実施形態においては、図1及び図2に示すように、第1油圧クラッチC1と第3油圧クラッチC3との間に複式プラネタリギヤ5を配置し、第2油圧クラッチC2と複式プラネタリギヤ5との間に第1油圧クラッチC1を配置している。第1油圧クラッチC1の第1クラッチドラムC1aは入力軸2に連結され、第2油圧クラッチC2の第2クラッチドラムC2aは、入力軸2に回転自在に軸支され、図外のポンプから供給される潤滑油を分配する油分配スリーブ8に回転自在に軸支されている。
【0037】
第1油圧クラッチC1は、第1クラッチドラムC1aと第1ピストンC1bとで画成される第1油圧室C1cを備え、第2油圧クラッチC2は、第2クラッチドラムC2aと第2ピストンC2bとで画成される第2油圧室C2cを備える。第1油圧室C1cは、第2油圧室C2cと複式プラネタリギヤ5との間に配置される。第2油圧クラッチC2の第2油圧室C2cには、油分配スリーブ8から直接作動油が供給されるように構成されており、油分配スリーブ8と第2油圧クラッチC2の第2クラッチドラムC2aとの間には軸方向への作動油の漏れを防止する一対のシールリング92,92(図2参照)が設けられている。
【0038】
このように構成することにより、第2油圧クラッチC2の第2油圧室C2cに作動油を供給する油孔を第1中空軸6に形成する必要がなく、又、第2油圧クラッチC2用のシールリング92,92を、入力軸2と第1中空軸6との間、及び第1中空軸6と第2油圧クラッチC2のクラッチドラムC2aとの間に設ける必要もなくなる。従って、本実施形態においては、第1油圧クラッチC1用のシールリング91,91は、油分配スリーブ8から入力軸2内の第1油圧クラッチC1用の潤滑油供給路2aに作動油を供給する際に、油分配スリーブ8と入力軸2との間から軸方向への漏れを防止するために2つ設けられ(入力軸2と第1油圧クラッチC1のクラッチドラムC1aとは連結されているため、入力軸2とクラッチドラムC1aとの間にはシールリングは必要ない)、第2油圧クラッチC2用のシールリング92,92の2つと合わせて、両クラッチC1,C2用のシールリング91,92は合計4つとなる。
【0039】
これに対し、第1油圧クラッチC1と第2油圧クラッチC2との配置を入れ替えた場合と比較すると、第1油圧クラッチC1の油圧室C1cへの作動油の供給は油分配スリーブ8から直接供給するとして、第1油圧クラッチC1用のシールリングが2つ、第2油圧クラッチC2用のシールリングは、油分配スリーブ8と入力軸2との間、入力軸2と第1中空軸6との間、第1中空軸6と第2油圧クラッチC2の第2クラッチドラムC2aとの間に夫々2つ必要となるため6つとなり、両油圧クラッチ用のシールリングは合計8つとなる。
【0040】
従って、本実施形態によれば、第1油圧クラッチC1と第2油圧クラッチC2との配置を入れ替えたものと比較して、シールリングを4つ減少させることができる。これにより、シールリングによるフリクションロスを低減させ、燃費の向上を図ることができる。又、第1中空軸6に油孔及びシールリングを設ける必要く、又、第1油圧クラッチC1の第1クラッチドラムC1aは入力軸2に連結されているため、入力軸2と第1クラッチドラムC1aとの間にシールリングを設ける必要がないため、第1油圧クラッチC1を、シールリングの配置スペースを考慮することなく配置することができる。従って、第1油圧クラッチC1の配置自由度を向上させることができ、自動変速機の小型化を図ることができる。
【0041】
又、図3の複式プラネタリギヤ5の速度線図からも分かるように、第1中空軸6に連結される第4回転要素たる第1サンギヤSb1(第1要素)と、第2中空軸7に連結される第1回転要素たる第2サンギヤSb2(第2要素)とは、6速段を確立した際に回転速度の差が極端に大きくなる。従って、第2油圧クラッチC2の第2クラッチドラムC2aを第1中空軸6に回転自在に軸支させ、第2油圧室C2cを第1中空軸6上に配置した場合、第1中空軸6と第2クラッチドラムC2aとの間に配置される第2油圧クラッチ用のシールリングには大きな摩擦力が加わり、シールリングが劣化し易い。本実施形態によれば、第1中空軸6と第2中空軸7に連結する第2クラッチドラムC2aとの間の大きな摩擦力が発生する箇所に第2油圧クラッチC2用のシールリング92,92が設けられていないため、第2油圧クラッチC2用のシールリング92,92の劣化を抑制させることができる。
【0042】
又、第2油圧クラッチC2の第2油圧室C2cには、油分配スリーブ8から直接作動油が供給されるように構成しているため、第2油圧クラッチC2用のシールリング92,92は2つで足りる。これに対し、入力軸2の潤滑油供給路2aを介して作動油を第2油圧クラッチC2の油圧室C2cに供給する場合には、油分配スリーブ8と入力軸2との間、入力軸2とクラッチドラムC2aとの間に夫々2つシールリングが必要となり、シールリングは合計4つとなる。従って、本実施形態によれば、第2油圧クラッチC2用の作動油を入力軸2を介して供給する場合と比較してシールリング92を2つ削減することができる。これにより、更にフリクションロスを低下させることができ、燃費を向上させることができる。
【0043】
尚、本実施形態においては、第2油圧クラッチC2と複式プラネタリギヤ5との間に第1油圧クラッチC1を配置したものを説明したが、第2油圧クラッチC2を第1油圧クラッチC1の径方向外側に配置したものにも同様に本発明を適用することができる。これによれば、自動変速機の軸長をより短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(a)は本発明の自動変速機の実施形態のスケルトン図。(b)は実施形態の各変速段と係合要素たるクラッチ及びブレーキの係合状態との関係を纏めて示す説明図。
【図2】実施形態の自動変速機の断面図。
【図3】実施形態の複式プラネタリギヤの速度線図。
【符号の説明】
【0045】
1…変速機ケース、2…入力軸、2a…潤滑油供給路、3…出力ギヤ(出力部材)、4…単式プラネタリギヤ、Sa…サンギヤ、Ra…リングギヤ、Pa…ピニオン、Ca…キャリア、5…複式プラネタリギヤ、Sb1…第1サンギヤ(第1要素)、Sb2…第2サンギヤ(第2要素)、Rb…リングギヤ、Pb,Pb’…ピニオン、Cb…キャリア、6…第1中空軸、7…第2中空軸、8…油分配スリーブ、C1…第1油圧クラッチ、C1a…第1クラッチドラム、C1b…第1ピストン、C1c…第1油圧室、C2…第2油圧クラッチ、C2a…第2クラッチドラム、C2b…第2ピストン、C2c…第2油圧室、C3…第3油圧クラッチ、C3a…第3クラッチドラム、C3b…第3ピストン、C3c…第3油圧室、B1…第1ブレーキ、B2…第2ブレーキ、91〜93…第1〜第3油圧クラッチ用のシールリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転を変速機ケース内に配置した複式プラネタリギヤを介し複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機において、
複式プラネタリギヤは、複数の要素で構成され、入力軸に回転自在に軸支される第1中空軸に連結される要素を第1要素、第1中空軸に回転自在に軸支される第2中空軸に連結される要素を第2要素として、第1要素を第1中空軸を介して入力軸に解除自在に連結する第1油圧クラッチと、第2要素を第2中空軸を介して入力軸に解除自在に連結する第2油圧クラッチとを備え、
第1油圧クラッチは、第1クラッチドラムと第1ピストンとで画成される第1油圧室を有し、第2油圧クラッチは、第2クラッチドラムと第2ピストンとで画成される第2油圧室を有し、
第1油圧クラッチの第1油圧室が、複式プラネタリギヤと第2油圧クラッチの第2油圧室との間に配置されることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1記載の自動変速機であって、
変速ケース内に単式プラネタリギヤを配置し、単式プラネタリギヤは、入力軸に連結される入力要素と、変速機ケースに固定される固定要素と、出力要素とを有し、入力軸の回転を増速して出力要素から出力するように構成され、
複式プラネタリギヤは、第1要素たる第1サンギヤと、第2要素たる第2サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合すると共に、一方が第1サンギヤ、他方が第2サンギヤとリングギヤに夫々噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとから成るラビニヨ型のプラネタリギヤで構成され、
複式プラネタリギヤのキャリアと単式プラネタリギヤの出力要素とを解除自在に連結する第3油圧クラッチと、複式プラネタリギヤの第2サンギヤを変速機ケースに解除自在に固定する第1ブレーキと、複式プラネタリギヤのキャリアを変速機ケースに解除自在に固定する第2ブレーキとを備え、
第3油圧クラッチは単式プラネタリギヤと複式プラネタリギヤとの間に配置され、第1油圧クラッチは複式プラネタリギヤを第3油圧クラッチとの間で挟み込む位置に配置され、第2油圧クラッチは第1油圧クラッチを複式プラネタリギヤとの間で挟み込む位置に配置されることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−144792(P2010−144792A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321016(P2008−321016)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】