説明

自動変速機

【課題】自動変速機のギヤや部材に生じたスラスト力による荷重を効果的に軽減する。
【解決手段】入力軸10からの入力をクラッチC1,C3を介して変速用プラネタリ機構G2の小径サンギヤSS,大径サンギヤLSに伝達する第1、第2連結部材M1,M2と、増速用プラネタリ機構G1のリングギヤFRに連結された第3連結部材M3と、を備えた自動変速機1で、増速用プラネタリ機構G1の増速回転が変速用プラネタリ機構G2に伝達される第5,6速段において、増速用プラネタリ機構G1のリングギヤFRで発生するスラスト力F1と、変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSで発生するスラスト力F2とが同じ向きになるようにはすば歯車の捩り方向を設定した。これにより、高速段で第1乃至第3連結部材M1〜M3を支持するベアリングBG4〜BG6などにかかる荷重を効果的に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に搭載される自動変速機に関し、特に、ギヤなどの要素から軸受などの内部構造にかかる荷重を軽減するための構造を備えた自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
プラネタリギヤを備える自動変速機では、ギヤノイズ低減のために、プラネタリギヤを構成する各ギヤ(サンギヤ、リングギヤなど)にはすば歯車を使用している。はすば歯車を使用することで、ギヤの噛み合い率が上がり、ギヤノイズを低減することができる。しかしながら、その反面、リングギヤ及びサンギヤにそれぞれ相反するスラスト力が発生するという問題がある。
【0003】
このようなはすば歯車に生じるスラスト力に対応するための技術として、特許文献1に記載の自動変速機が提案されている。この自動変速機は、入力軸に連結されて反力要素を固定することにより出力要素に減速回転を出力する減速用プラネタリギヤと、該減速用プラネタリギヤからの減速回転を入力として変速回転を出力するプラネタリギヤセットとにより多段変速を達成する自動変速機であって、減速用プラネタリギヤのリングギヤと、プラネタリギヤセットのサンギヤとにそれぞれ発生するスラスト力が伝達される共通の伝達経路を有し、該共通の伝達経路における上記リングギヤのスラスト力の方向と、上記サンギヤのスラスト力の方向とが第1速駆動時に互いに異なる方向となるように、当該リングギヤとサンギヤのねじり方向を設定したものである。
【0004】
特許文献1の自動変速機によれば、駆動力が最も大きくスラスト力による負荷がかかる第1速駆動時に、減速用プラネタリギヤとプラネタリギヤセットそれぞれのスラスト力が互いに異なる方向に設定されているため、スラスト力を受ける部材にかかる負荷を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−304107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の自動変速機は、減速用プラネタリギヤを備えた減速型の多段変速機であり、変速用プラネタリギヤに負荷が入力される変速段は、低速段側の変速段である。そのため、上記のような構成で低ベアリング負荷を実現可能であった。しかしながら、特許文献1の減速用プラネタリギヤに代えて増速用プラネタリギヤを備えた増速型の多段変速機では、変速用プラネタリギヤに増速回転が入力される変速段が高速段側となる。また、減速型の多段変速機と比較して、ベアリングで支持されたギヤなどの各部品の相対回転数が大幅に上昇し、ベアリングの両側の部品は、高速段で高差回転状態となる。そのため、特許文献1と同様のスラスト荷重方向(はすば歯車の捩れ方向)の設定では、高速段のときにベアリングに大荷重が作用する。したがって、ベアリングやケースに高い耐荷重性能を持たせる必要があり、ベアリングなどの大型化やコスト高を招くという問題がある。また、高差回転でベアリングなどに大荷重が作用すると、それに伴うエネルギーロスも大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、変速用プラネタリ機構に増速回転を入力する増速用プラネタリ機構を備えた自動変速機において、高差回転を有する部品によって生じる荷重を効果的に軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる自動変速機は、入力軸(10)に連結された入力要素(FS)からの入力を受けて反力要素(FS)を固定することで出力要素(FR)に増速回転を出力する増速用プラネタリ機構(G1)と、増速用プラネタリ機構(G1)からの増速回転を入力として変速回転を出力する変速プラネタリ機構(G2)と、により多段変速を達成する自動変速機(1)において、入力軸(10)からの入力を第1摩擦係合要素(C1)を介して変速プラネタリ機構(G2)の第1要素(SS)に伝達する第1部材(M1)と、入力軸(10)からの入力を第2摩擦係合要素(C3)を介して変速プラネタリ機構(G2)の第2要素(LS)に伝達する第2部材(M2)と、第2部材(M2)を固定側部材(30)に固定するための第3摩擦係合要素(B1)と、増速用プラネタリ機構(G1)の出力要素(FR)と連結された第3部材(M3)と、第1部材(M1)と第2部材(M2)との間に配置されて回転軸(10)方向の荷重を支持する第1ベアリング(BG5)と、第1部材(M1)と第3部材(M3)との間に配置されて回転軸(10)方向の荷重を支持する第2ベアリング(BG6)と、増速用プラネタリ機構(G2)の出力を変速用プラネタリ機構(G2)に伝達するための第4摩擦係合要素(C2)と、を備え、第4摩擦係合要素(C2)が係合して増速用プラネタリ機構(G1)の出力が変速用プラネタリ機構(G2)に入力される変速段のとき、増速用プラネタリ機構(G1)の出力要素(FR)で発生するスラスト力(F1)と、変速プラネタリ機構(G2)の第2要素(LS)で発生するスラスト力(F2)とが同じ向きになるように設定したことを特徴とする。本発明の一実施態様として、上記の出力要素(FR)は、増速用プラネタリ機構(G1)のリングギヤ(FR)であり、上記の第2要素(LS)は、変速プラネタリ機構(G2)のサンギヤ(LS)であり、これらリングギヤ(FR)とサンギヤ(LS)は、互いに生じるスラスト力が同じ向きとなるようにそれらの歯の捩り方向が設定されたはすば歯車であってよい。
【0009】
増速用プラネタリ機構を有する本発明の自動変速機において、第4摩擦係合要素が係合して増速用プラネタリ機構の出力が変速用プラネタリ機構に入力される変速段は、高速側の変速段である。このような高速側の変速段において、増速用プラネタリ機構の出力要素で発生するスラスト力と、変速プラネタリ機構の第2要素で発生するスラスト力とが同じ方向になるように、出力要素である増速用プラネタリ機構のリングギヤと、第2要素である変速プラネタリ機構のサンギヤの捩り方向(はすば歯車の捩り方向)を設定した。これにより、高速側の変速段で高差回転を有する第1部材乃至第3部材において、隣接する部材間で生じるスラスト力を相殺することができ、その差分を低減することができる。したがって、これら第1部材乃至第3部材の間に配置された第1、第2ベアリングにかかる負荷を大幅に低減することができる。こうして、増速型多段変速機の課題である高差回転を有するベアリングの負荷を無くすことができるか、あるいは大幅に低減可能となる。
【0010】
また、第1、第2ベアリングの負荷を低減できることにより、第1、第2ベアリングの小型化及び構成の簡素化による低コスト化を実現できる。また、第1、第2ベアリングにスラストニードルベアリングを用いた場合は、耐荷重値の低減によりニードルの長さ寸法を短くできるので、第1、第2ベアリングの径寸法、及び自動変速機の胴回り寸法の小型化を図ることが可能となる。また、第1、第2ベアリングでの滑りによるフリクションロスも低減可能となり、自動変速機の動力伝達効率の向上も図れる。さらにいえば、本願のスラスト力を発生させる捩り方向の設定によって、各要素間に高差回転が生じる高速側の変速段において、第1、第2ベアリングだけでなく、自動変速機内に配置された他のベアリングやケースなどを含む内部機構全体にかかる負荷を低減する効果も期待できる。したがって、自動変速機の動力伝達効率を向上させることができる。
【0011】
また、この自動変速機では、増速用プラネタリ機構(G1)の出力要素(FR)で発生するスラスト力(F1)と、変速プラネタリ機構(G2)の第2要素(LS)で発生するスラスト力(F2)とが同じ向きになる変速段は、上記の第4摩擦係合要素(C2)の係合に加えて、第2摩擦係合要素(C3)が係合するか又は第3摩擦係合要素(B1)が係合して達成される変速段であってよい。これによれば、増速型多段変速機において各要素間に生じる高差回転が顕著になる高速側の変速段で、第1、第2ベアリングなどに生じる負荷を減らすことができるので、フリクションロスの低減に効果的である。
【0012】
また、この自動変速機では、第1部材(M1)と第2部材(M2)と第3部材(M3)は、入力軸(10)と同軸上に回転自在に支持されており、かつ、第1ベアリング(BG5)及び第2ベアリング(BG6)を挟んで入力軸(10)の軸方向に沿って並べて配置されていることが望ましい。これによれば、本願のスラスト力を発生させる捩り方向の設定によって、第1乃至第3部材間で生じる入力軸方向の荷重を効果的に逃がすことができ、第1、第2ベアリングを含む各部にかかる荷重を効果的に低減できる。
【0013】
また、この自動変速機の実施態様として、上記変速用プラネタリ機構(G2)は、上記の第1要素(LS)である小径サンギヤ(SS)と、上記の第2要素(LS)である大径サンギヤ(LS)とに噛合するピニオン(P1,P2)と、該ピニオン(P1,P2)を支持するキャリア(C)とを備えたラビニオ式遊星歯車機構であってよい。このようなラビニオ式遊星歯車機構を採用することで、変速用プラネタリ機構(G2)の小型化及び構成の簡素化が図れる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、変速用プラネタリ機構に増速回転を入力するための増速用プラネタリ機構を備えた自動変速機において、高差回転を有する部品間に配置したベアリングなどに生じる荷重を効果的に軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかる自動変速機のスケルトン図である。
【図2】自動変速機の内部構成を示す側断面図である。
【図3】自動変速機で達成される各速度段を図表化したものである。
【図4】自動変速機で達成される変速段とそのときの各ギヤの回転数比との関係を示す速度線図である。
【図5】各変速段において各ギヤに生じるスラスト荷重の方向の一覧表である。
【図6】各変速段で各スラストベアリングにかかる差回転の比較を示すグラフである。
【図7】本発明の捩り方向を適用した場合と反対の捩り方向を適用した場合とにおける各ベアリングにかかるスラスト荷重の比較を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる自動変速機の動力伝達構成を示すスケルトン図である。また、図2は、自動変速機の具体的な内部構成を示す側断面図である。これらの図に示す自動変速機1は、入力軸10の回転を増速して出力する増速用プラネタリ機構G1と、増速用プラネタリ機構G1からの増速回転を入力として変速回転を出力する変速用プラネタリ機構G2とを備え、これら増速用プラネタリ機構G1と変速用プラネタリ機構G2とによって、前進6速後進1速の変速段を達成する自動変速機である。ここでは、増速用プラネタリ機構G1及び変速用プラネタリ機構G2が備える各ギヤに、はすば歯車が用いられている。なお、以下の説明で軸方向というときは、入力軸10の軸方向を示し、左右というときは、図1又は図2における図面上での左右を示すものとする。
【0017】
増速用プラネタリ機構G1は、入力軸10に連結された入力要素としてのキャリアFCを有し、反力要素であるサンギヤFSを固定することにより出力要素であるリングギヤFRに増速回転を出力するようになっている。図2に示すように、リングギヤFRには、リングギヤFRの回転を変速用プラネタリ機構G2に伝達するための第3連結部材M3が連結されている。なお、図1のスケルトン図では、第3連結部材M3は図示されていない。この第3連結部材M3は、軸方向に対して垂直な面内でリングギヤFRの右端から入力軸10の近傍まで延びる略円盤状の部材で、入力軸10の近傍で変速用プラネタリ機構G2側へ延びている。この第3連結部材M3は、リングギヤFRと同軸上で回転自在である。また、リングギヤFRは、第3連結部材M3に繋がれたクラッチC2(第4摩擦係合要素)を介して変速用プラネタリ機構G2のキャリアC(第3要素)に連結されている。クラッチC2の係合によって、増速用プラネタリ機構G1の出力が変速用プラネタリ機構G2に入力されるようになっている。
【0018】
変速用プラネタリ機構G2は、径の異なる大径サンギヤLS及び小径サンギヤSSと、大径サンギヤLSに噛合するロングピニオンP1及び小径サンギヤSSに噛合するショートピニオンP2を支持するキャリアCとからなるラビニオ型遊星歯車機構で構成されている。ロングピニオンP1は、大径サンギヤLSに噛合するとともにリングギヤRに噛合し、ショートピニオンP2は、小径サンギヤSSに噛合している。キャリアCは、クラッチC2を介して増速用プラネタリ機構G1のリングギヤFRの回転が伝達されるようになっていると共に、ブレーキB2によりケース30に対して係止可能である。また、変速回転の出力要素としてのリングギヤRは、出力ギヤ20に連結されている。
【0019】
大径サンギヤLSは、小径サンギヤSSと同軸上で回転可能に設置されている。大径サンギヤLSと小径サンギヤSSは、変速用プラネタリ機構G2における非増速回転(増速用プラネタリ機構G1を経由しない入力回転)の入力要素として機能する。小径サンギヤSSは、第1連結部材M1を介してクラッチC1(第1摩擦係合要素)に繋がれている。第1連結部材M1は、入力軸10の外周に配置された略円筒状の部材からなり、クラッチC1を介して入力軸10の回転が伝達されて、入力軸10と同軸上で回転するようになっている。したがって、入力軸10からの入力がクラッチC1及び第1連結部材M1を介して小径サンギヤSSに伝達される。
【0020】
また、大径サンギヤLSは、第2連結部材M2を介してクラッチC3(第2摩擦係合要素)に繋がれている。第2連結部材M2は、第1連結部材M1の外周に設置された略円筒状の部材からなり、クラッチC3を介して入力軸10の回転が伝達されて、入力軸10及び第1連結部材M2と同軸上で回転するようになっている。したがって、入力軸10からの入力がクラッチC3及び第2連結部材M2を介して大径サンギヤLSに伝達される。また、大径サンギヤLS及び第2連結部材M2は、ブレーキB1(第3摩擦係合要素)で自動変速機1のケース(固定側部材)30に対して固定されるようになっている。
【0021】
図2に示すように、第3連結部材M3と、第1連結部材M1及び小径サンギヤSSと、第2連結部材M2及び大径サンギヤLSとは、増速用プラネタリ機構G1に近い側からこの順で入力軸10の軸方向に沿って隣接配置されている。
【0022】
また、自動変速機1内では、軸方向において隣接する各ギヤ及び部材の間に複数のスラストベアリングが配置されている。このようなスラストベアリングとして、図1及び図2に示すベアリングBG2乃至ベアリングBG8がある。ベアリングBG2は、入力軸10とクラッチC1を繋ぐ部材21を支持するベアリングで、部材21とケース30との軸方向における隙間に配置されている。ベアリングBG3は、クラッチC1と第1連結部材M1とを繋ぐ部材22を支持するベアリングである。また、ベアリングBG4は、第2連結部材M2と部材22との隙間に配置されている。ベアリングBG4によって、大径サンギヤLS及び第2連結部材M2にかかる荷重が支持されるようになっている。
【0023】
また、ベアリングBG5(第1ベアリング)は、小径サンギヤSSの右端と大径サンギヤLSの左端との間に配置されている。このベアリングBG5によって、隣接配置された小径サンギヤSS(第1連結部材M1)と大径サンギヤLS(第2連結部材M2)が相対回転可能に支持されている。ベアリングBG6は、第3連結部材M3の右端と小径サンギヤSS(第1連結部材M1)の左端との間に配置されている。ベアリングBG6によって、軸方向で隣接配置された第1連結部材M1と第3連結部材M3が相対回転可能に支持されている。
【0024】
ベアリングBG7は、第3連結部材M3の左側を支持している。ベアリングBG8は、増速用プラネタリ機構G1のサンギヤFSの右側を支持している。また、図1及び図2に示すベアリングBG1は、出力ギヤ20をその内周側から支持しており、出力ギヤ20に生じる径方向の荷重を支持するベアリングである。
【0025】
上記構成の自動変速機1では、図示しない制御機構による制御で、運転者によって選択されたレンジに応じた変速段が達成される。図3は、自動変速機1でクラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2の係合により達成される各変速段を図表化したものである。また、図4は、自動変速機1で達成される変速段(第1速段〜第6速段及び後進段)と、そのときの各変速要素の回転数比との関係を示す速度線図である。自動変速機1では、図3に示すクラッチC1〜C3及びブレーキB1,B2の係合及び解放(○印は係合、無印は解放を示す)によって各変速段が達成される。以下、各変速段について順に説明する。
【0026】
第1速段(1st)は、クラッチC1とブレーキB2の係合で達成される。この場合、変速用プラネタリ機構G2では、入力軸10からクラッチC1を経由した非増速回転のみが小径サンギヤSSに入力される。そして、ブレーキB2の係合により係止されたキャリアCに反力を取り、リングギヤRの回転が出力ギヤ20に出力される。ここでのリングギヤRの回転は、最大減速比の減速回転となる。なお、第1速段では、クラッチC2が係合していないため、増速用プラネタリ機構G1から変速用プラネタリ機構G2への増速回転の入力は無い。
【0027】
第2速段(2nd)は、クラッチC1とブレーキB1の係合で達成される。この場合、変速用プラネタリ機構G2では、入力軸10からクラッチC1を経由した非増速回転のみが小径サンギヤSSに入力される。そして、ブレーキB1の係合により係止された大径サンギヤLSに反力を取り、リングギヤRの減速回転が出力ギヤ20に出力される。このときの減速比は、第1速段よりも小さくなる。なお、第2速段でも、クラッチC2が係合していないため、増速用プラネタリ機構G1から変速用プラネタリ機構G2への増速回転の入力は無い。
【0028】
第3速段(3rd)は、クラッチC1とクラッチC3の同時係合で達成される。この場合、入力軸10の非増速回転がクラッチC1とクラッチC3経由で同時に変速用プラネタリ機構G2の小径サンギヤSSと大径サンギヤLSに入力され、変速用プラネタリ機構G2が直結状態となる。そのため、小径サンギヤSS及び大径サンギヤLSへの入力回転と同回転であるリングギヤRの回転が出力ギヤ20に出力される。このリングギヤRの回転は、入力軸10の回転と同じ回転となっている。なお、第3速段でも、クラッチC2が係合していないため、増速用プラネタリ機構G1から変速用プラネタリ機構G2への増速回転の入力は無い。
【0029】
第4速段(4th)は、クラッチC1とクラッチC2の同時係合で達成される。この場合、入力軸10から増速用プラネタリ機構G1を経た増速回転がクラッチC2経由で変速用プラネタリ機構G2のキャリアCに入力されると共に、入力軸10からクラッチC1経由で入力された非増速回転が小径サンギヤSSに入力される。したがって、これら2つの入力の中間の回転がリングギヤRの回転として出力ギヤ20に出力される。このリングギヤRの回転は、入力軸10の回転に対して僅かに増速された回転となっている。
【0030】
第5速段(5th)は、クラッチC2とクラッチC3の同時係合で達成される。この場合、入力軸10から増速用プラネタリ機構G1を経た増速回転がクラッチC2経由で変速用プラネタリ機構G2のキャリアCに入力されると共に、入力軸10からクラッチC3経由で入力された非増速回転が大径サンギヤLSに入力される。これら2つの入力に応じた回転がリングギヤRの回転として出力ギヤ20に出力される。このリングギヤRの回転は、入力軸10の回転に対して増速された回転となっている。
【0031】
第6速段(6th)は、クラッチC2とブレーキB1の係合で達成される。この場合、入力軸10から増速用プラネタリ機構G1を経た増速回転がクラッチC2経由で変速用プラネタリ機構G2のキャリアCに入力される。そして、ブレーキB1の係合により係止された大径サンギヤLSに反力を取り、リングギヤRの更に増速された回転が出力ギヤ20に出力される。
【0032】
後進段(Rvs)は、クラッチC3とブレーキB2の係合により達成される。この場合、入力軸10からクラッチC3を経由した非増速回転が変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSのみに入力され、ブレーキB2の係合により係止されたキャリアCに反力を取り、リングギヤRの逆回転が出力ギヤ20に伝達される。なお、後進段でも、クラッチC2が係合していないため、増速用プラネタリ機構G1から変速用プラネタリ機構G2への増速回転の入力は無い。
【0033】
図5は、上記の各変速段において、増速用プラネタリ機構G1のサンギヤFSとリングギヤFR、及び変速用プラネタリ機構G2の小径サンギヤSS、大径サンギヤLS、リングギヤRの各ギヤに生じるスラスト荷重の方向の一覧を示す表である。なお、同図では、出力ギヤ20とそれに連結されたドリブンギヤ(図示せず)に生じるスラスト荷重の方向も併記している。同図に示すように、増速用プラネタリ機構G1のサンギヤFSとリングギヤFRは、入力軸10からの入力を受けて回転する際、それらに生じるスラスト力が互いに反対向きになるように各々の捩り方向(はすば歯車の回転方向に対する歯の捩り方向を示す、以下同じ。)が設定されている。これにより、サンギヤFSとリングギヤFRで生じるスラスト力が増速用プラネタリ機構G1の内部で相殺されるようになっている。
【0034】
また、この自動変速機1において、入力軸10から増速用プラネタリ機構G1を経た増速回転が変速用プラネタリ機構G2に入力されるのは、クラッチC2が係合している第4速段,第5速段,第6速段の各変速段、すなわち高速側の変速段である。そして、このような変速用プラネタリ機構G2に増速回転が入力される第4,5,6速段で、増速用プラネタリ機構G1のリングギヤFRで発生するスラスト力F1と、変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSで発生するスラスト力F2とが同じ向き(ここでは左向き)となるように、リングギヤFR及び大径サンギヤLSの捩り方向を設定している。
【0035】
さらに詳しく述べると、増速用プラネタリ機構G1のリングギヤFRで発生するスラスト力F1と、変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSで発生するスラスト力F2とが同じ向きになるのは、増速用プラネタリ機構G1から変速用プラネタリ機構G2への入力がある第4,5,6速段のうち、クラッチC3の係合によって入力軸10の回転が変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSに伝達される第5速段、又はブレーキB2の係合によって大径サンギヤLSがケース30に固定される第6速段のときである。
【0036】
図5に示すスラスト力の方向を参照すると、本実施形態の自動変速機1では、第5,6速段で変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSに発生するスラスト力は、ベアリングBR5に対する荷重として作用する。また、第1速段〜第4速段で変速用プラネタリ機構G2の小径サンギヤSSに発生するスラスト力、及び第5,6速段で変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSに発生するスラスト力は、ベアリングBR6に対する荷重として作用する。
【0037】
図6は、第1速段〜第6速段においてベアリングBG2〜BG8にかかる差回転の比較を示すグラフである。また、図7は、本発明の捩り方向の組み合わせ(図5のスラスト荷重を生じる各ギヤの捩り方向)を適用した場合と、それとは反対の捩り方向の組み合わせを適用した場合とにおける、第5速段と第6速段でのベアリングBG4及びベアリングBG5にかかるスラスト荷重の比較を示す表である。なお、図7では、第6速段でベアリングBG5にかかるスラスト荷重を1とした相対値でベアリングBG4及びベアリングBG5のスラスト荷重を表している。
【0038】
変速用プラネタリ機構G2に増速回転を入力する増速用プラネタリ機構G1を備えた本実施形態の自動変速機1では、図6に示すように、ベアリングBG2〜BG8に生じる差回転(ベアリングBG2〜BG8それぞれの両側に配置された部材の回転差)を比較すると、高速側の変速段である第5速段及び第6速段でベアリングBG4,BG5,BG6に生じる差回転が比較的顕著になっている。特に、第6速段では、ベアリングBG4,BG5,BG6に生じる差回転がいずれも最大になっている。したがって、自動変速機1の内部負荷を効果的に低減するという観点に立てば、第5速段及び第6速段で高差回転を生じるベアリングBG4,BG5,BG6にかかるスラスト荷重を可能な限り低減することが有効である。
【0039】
そこで、本発明の捩れ方向を適用して、第5速段及び第6速段のときに増速用プラネタリ機構G1のリングギヤFRで発生するスラスト力F1と、変速用プラネタリ機構G2の大径サンギヤLSで発生するスラスト力F2とが同じ向きになるように設定すれば、それとは逆の捩れ方向を適用した場合と比較して、第5速段及び第6速段でベアリングBG4,BG5,BG6(特に、ベアリングBG4,BG5)にかかるスラスト荷重を大幅に低減することができる(図7参照)。すなわち、高速側の変速段で高差回転を有する第1連結部材M1と第2連結部材M2の間、及び第1連結部材M1と第3連結部材M3の間などで生じるスラスト力を低減することができる。これにより、これら第1連結部材M1、第2連結部材M2、第3連結部材M3の間に配置された各ベアリングBG4,BG5,BG6などにかかる負荷を効果的に低減することができる。したがって、本実施形態のような増速型の自動変速機1の課題である高差回転を有するベアリングの負荷を大幅に低減可能となる。
【0040】
また、ベアリングBG4,BG5,BG6の小型化や構成の簡素化による低コスト化を図ることが可能となる。特に、ベアリングBG4,BG5,BG6にスラストニードルベアリングを用いる場合、耐荷重値の低減により、ニードルの長さ寸法を短くできるので、ベアリングBG4,BG5,BG6の径寸法、及び自動変速機1の胴回り寸法の小型化を図ることが可能となる。また、ベアリングBG4,BG5,BG6での滑りによるフリクションロスも低減可能となり、自動変速機1による動力伝達効率の向上も図れる。
【0041】
さらにいえば、本願のスラスト力を発生させるギヤの捩り方向の設定によれば、高速側の変速段において高差回転が生じる第1連結部材M1、第2連結部材M2、第3連結部材M3を直接的に支持するベアリングBG4,BG5,BG6だけでなく、自動変速機1内に配置された他のベアリングやケース30などを含む内部機構の全体の負荷を低減する効果が期待できる。したがって、自動変速機1の内部でのエネルギーロスを効果的に低減でき、動力伝達効率を改善することができる。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の自動変速機1によれば、高速側の変速段で、リングギヤFRで発生するスラスト力F1と、大径サンギヤLSで発生するスラスト力F2とが同じ向きになるように設定したことで、高差回転を有する第1連結部材M1、第2連結部材M2、第3連結部材M3を支持するベアリングBG4,BG5,BG6などにかかる荷重を軸方向へ逃がすことができる。したがって、高速側の変速段でベアリングBG4,BG5,BG6などにかかる負荷を大幅に低減することができる。
【0043】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、本発明にかかる自動変速機は、変速用プラネタリ機構に増速回転を入力するための増速用プラネタリ機構を備えた自動変速機であれば、その具体的な構成は、必ずしも上記実施形態に示すものには限定されない。したがって、本願の構成要件を備えた範囲内であれば、増速用プラネタリ機構あるいは変速用プラネタリ機構が備えるギヤの数やその配置などの具体的な構成は、適宜他の構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 自動変速機
10 入力軸
20 出力ギヤ
30 ケース(固定側部材)
B1 ブレーキ(第3摩擦係合要素)
B2 ブレーキ
BG2〜BG8 ベアリング(スラストベアリング)
C1 クラッチ(第1摩擦係合要素)
C2 クラッチ(第4摩擦係合要素)
C3 クラッチ(第2摩擦係合要素)
G1 増速用プラネタリ機構
G2 変速用プラネタリ機構
SS 小径サンギヤ(第1要素)
LS 大径サンギヤ(第2要素)
M1 第1連結部材(第1部材)
M2 第2連結部材(第2部材)
M3 第3連結部材(第3部材)
P1 ロングピニオン
P2 ショートピニオン
C キャリア(第3要素)
R リングギヤ
FC キャリア(入力要素)
FR リングギヤ(出力要素)
FS サンギヤ(反力要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に連結された入力要素への入力を受けて反力要素を固定することで出力要素に増速回転を出力する増速用プラネタリ機構と、
前記増速用プラネタリ機構からの増速回転を入力として変速回転を出力する変速プラネタリ機構と、により多段変速を達成する自動変速機において、
前記入力軸からの入力を第1摩擦係合要素を介して変速プラネタリ機構の第1要素に伝達する第1部材と、
前記入力軸からの入力を第2摩擦係合要素を介して変速プラネタリ機構の第2要素に伝達する第2部材と、
前記第2部材を固定側部材に固定するための第3摩擦係合要素と、
前記増速用プラネタリ機構の前記出力要素と連結された第3部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置されて前記回転軸方向の荷重を支持する第1ベアリングと、前記第1部材と前記第3部材との間に配置されて前記回転軸方向の荷重を支持する第2ベアリングと、
前記増速用プラネタリ機構の出力を前記変速用プラネタリ機構に伝達するための第4摩擦係合要素と、
を備え、
前記第4摩擦係合要素が係合して前記増速用プラネタリ機構の出力が前記変速用プラネタリ機構に入力される変速段のとき、前記増速用プラネタリ機構の前記出力要素で発生するスラスト力と、前記変速プラネタリ機構の前記第2要素で発生するスラスト力とが同じ向きになるように設定した
ことを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記増速用プラネタリ機構の前記出力要素で発生するスラスト力と、前記変速プラネタリ機構の前記第2要素で発生するスラスト力とが同じ向きになる変速段は、
前記第4摩擦係合要素の係合に加えて、前記第2摩擦係合要素が係合するか又は前記第3摩擦係合要素が係合して達成される変速段である
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記出力要素は、前記増速用プラネタリ機構のリングギヤであり、前記第2要素は、前記変速プラネタリ機構のサンギヤであり、
前記リングギヤと前記サンギヤは、互いに生じるスラスト力が同じ向きとなるようにそれらの歯の捩り方向が設定されたはすば歯車である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機。
【請求項4】
前記第1部材と前記第2部材と前記第3部材は、前記入力軸と同軸上に回転自在に支持されており、かつ、前記第1ベアリング及び前記第2ベアリングを挟んで前記入力軸の軸方向に並べて配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の自動変速機。
【請求項5】
前記変速用プラネタリ機構は、前記第1要素である小径サンギヤと前記第2要素である大径サンギヤとに噛合するピニオンと、該ピニオンを支持するキャリアと、を備えたラビニオ式遊星歯車機構である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−249261(P2010−249261A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100720(P2009−100720)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】