説明

自動変速機

【課題】噛合伝達効率の良い自動変速機を提供する。
【解決手段】第1〜第3のプラネタリギヤ5,6,7を備える。第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとを連結して第1連結体Rf,Cmが構成され、第2プラネタリギヤのサンギヤSmと第3プラネタリギヤ7のリングギヤRrを連結して第2連結体Sm,Rrが構成される。出力軸3に、キャリアCfが第1ギヤ列G1を介して連結され、リングギヤRmが第2ギヤ列G2を介して連結される。サンギヤSfと入力軸2とを連結する第1係合要素C1と、第1連結体Rf,Cmと入力軸2とを連結する第2係合要素C2と、第1連結体Rf,Cmをケースに固定する第3係合要素B1と、サンギヤSrをケースに固定する第4係合要素B2と、第2連結体Sm,Rrをケースに固定する第5係合要素B3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、入力軸の回転を入力軸と同心に配置した複数のプラネタリギヤを介して複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速機として、特許文献1により、入力軸と同心に配置した第1と第2と第3の3つのプラネタリギヤと5個の係合要素とを用いて、前進6段の変速を行うものが知られている。このものでは、第1プラネタリギヤと第2プラネタリギヤとをシングルピニオン型のものとし、第3プラネタリギヤをダブルピニオン型のものとして、第1プラネタリギヤのサンギヤを入力軸に連結している。
【0003】
また、第2プラネタリギヤと第3プラネタリギヤとのリングギヤは同一部材で構成され、第2プラネタリギヤのキャリアが支持するピニオンを第3プラネタリギヤの一対のピニオンの一方を用い、第2プラネタリギヤのキャリアと第3プラネタリギヤのキャリアとを連結して、第2,第3プラネタリギヤで複式プラネタリギヤを構成している。複式プラネタリギヤは、第3プラネタリギヤのサンギヤから成る第1回転要素と、第3プラネタリギヤのリングギヤと共通の第2プラネタリギヤのリングギヤから成る第2回転要素と、第2プラネタリギヤのキャリアと第3プラネタリギヤのキャリアとを連結することで構成される第3回転要素と、第2プラネタリギヤのサンギヤから成る第4回転要素とを有する。これら第1乃至第4回転要素は、速度線図においてギヤ比に対応する間隔を存して順に並ぶ。そして、第1回転要素を第1プラネタリギヤのキャリアに連結すると共に、第3回転要素を出力部材に連結している。
【0004】
また、係合要素として、第4回転要素と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第1クラッチと、第2回転要素と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第2クラッチと、第1回転要素を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第1ブレーキと、第2回転要素を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第2ブレーキと、第1プラネタリギヤのリングギヤを変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第3ブレーキとを備えている。
【0005】
以上の構成によれば、第1クラッチと第2ブレーキとを係合することで1速段が確立され、第1クラッチと第1ブレーキとを係合することで2速段が確立され、第1クラッチと第3ブレーキとを係合することで3速段が確立され、第1クラッチと第2クラッチとを係合することで4速段が確立され、第2クラッチと第3ブレーキとを係合することで5速段が確立され、第2クラッチと第1ブレーキとを係合することで6速段が確立される。
【特許文献1】特開2003−240068号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来例の噛合伝達効率を求めると、1速段では97.8%、2速段では97.9%、3速段では98.1%、4速段では100%、5速段では97.7%、6速段では97.0%、前進段の平均は98.1%となる。
【0007】
本発明は、従来よりも伝達効率の良い自動変速機を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、入力軸の回転を入力軸と同心に配置した複数のプラネタリギヤを介して複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機であって、第1プラネタリギヤと第2プラネタリギヤと第3プラネタリギヤとを備え、第1プラネタリギヤのサンギヤ、キャリア、リングギヤから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、第2プラネタリギヤのサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、第3プラネタリギヤのサンギヤ、キャリア、リングギヤから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第7要素、第8要素及び第9要素として、第3要素と第5要素とを連結して第1連結体が構成され、第4要素と第8要素とを連結して第2連結体が構成され、第9要素が入力軸に連結され、入力軸に平行に配置した出力部材たる出力軸に、第2要素が第1ギヤ列を介して連結されると共に、第6要素が第1ギヤ列とは異なるギヤ比の第2ギヤ列を介して連結され、第1要素と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第1係合要素と、第1連結体と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第2係合要素と、第1連結体を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第3係合要素と、第7要素を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第4係合要素と、第2連結体を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第5係合要素とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、後述する実施形態の説明から明らかなように、前進6段の変速を行うことができると共に、5速段、6速段等の高速段側の伝達効率が大きく向上して、全ての変速段のトータルの伝達効率が向上する。
【0010】
また、本発明において、第2連結体と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第6係合要素を備えていれば、前進8段の変速を行うことができると共に、第1係合要素と第2係合要素とを係合させる変速段及び第2係合要素と第6係合要素とを係合させる変速段との2つの変速段において、第1プラネタリギヤ又は第2プラネタリギヤがロック状態となるため、噛合伝達効率は100%になり、全ての変速段のトータルの伝達効率が向上する。
【0011】
また、本発明において、第1プラネタリギヤと前記第3プラネタリギヤとの一方及び前記第2プラネタリギヤはシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成され、第1プラネタリギヤと第3プラネタリギヤとの他方はダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成してもよく、また、第1〜第3プラネタリギヤの全てをシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成してもよい。シングルピニオン型のプラネタリギヤを用いることにより噛合回数を減少させることができるため、より伝達効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1(a)は、本発明の自動変速機の第1実施形態を示している。この第1実施形態は、変速機ケース1内に回転自在に軸支した、図外のエンジン等の動力源に連結される入力軸2と、入力軸2と平行に配置した出力部材たる出力軸3とを備えている。出力軸3の回転は、出力軸3に固定の出力ギヤ3aに噛合するファイナルドリブンギヤ4aを固定したデファレンシャルギヤ4を介して車両の左右の駆動輪に伝達される。
【0013】
また、変速機ケース1内には、第1プラネタリギヤ5と第2プラネタリギヤ6と第3プラネタリギヤ7とが入力軸2と同心に配置されている。第1プラネタリギヤ5は、サンギヤSfと、リングギヤRfと、サンギヤSfとリングギヤRfとに噛合するピニオンPfを自転及び公転自在に支持するキャリアCfとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成されている。
【0014】
図2の下段に示す第1プラネタリギヤ5の速度線図(サンギヤ、キャリア、リングギヤの3個の要素の回転速度を直線で表すことができる図)を参照して、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSf、キャリアCf及びリングギヤRfから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とすると、第1要素はサンギヤSf、第2要素はキャリアCf、第3要素はリングギヤRfになる。ここで、サンギヤSfとキャリアCf間の間隔とキャリアCfとリングギヤRf間の間隔との比は、第1プラネタリギヤ5のギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)をiとして、i:1に設定される。尚、速度線図において、下の横線と上の横線は夫々回転速度が「0」と「1」(入力軸2と同じ回転速度)であることを示している。
【0015】
第2プラネタリギヤ6は、第1プラネタリギヤ5と同様に、サンギヤSmと、リングギヤRmと、サンギヤSmとリングギヤRmとに噛合するピニオンPmを自転及び公転自在に支持するキャリアCmとから成るシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成されている。
【0016】
図2の中段に示す第2プラネタリギヤ6の速度線図を参照して、第2プラネタリギヤ6のサンギヤSm、キャリアCm及びリングギヤRmから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はサンギヤSm、第5要素はキャリアCm、第6要素はリングギヤRmになる。尚、サンギヤSmとキャリアCm間の間隔とキャリアCmとリングギヤRm間の間隔との比は、第2プラネタリギヤ6のギヤ比をjとして、j:1に設定される。
【0017】
第3プラネタリギヤ7は、サンギヤSrと、リングギヤRrと、互いに噛合すると共に一方がサンギヤSr、他方がリングギヤRrに噛合する一対のピニオンPr、Pr’を自転及び公転自在に支持するキャリアCrとから成るダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成されている。
【0018】
図2の上段に示す第3プラネタリギヤ7の速度線図を参照して、第3プラネタリギヤ7のサンギヤSr、キャリアCr及びリングギヤRrから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第7要素、第8要素及び第9要素とすると、第7要素はサンギヤSr、第8要素はリングギヤRr、第9要素はキャリアCrになる。尚、サンギヤSrとキャリアCr間の間隔とキャリアCrとリングギヤRr間の間隔との比は、第3プラネタリギヤ7のギヤ比をkとして、k:1に設定される。
【0019】
第1プラネタリギヤ5のリングギヤRf(第3要素)と第2プラネタリギヤ6のキャリアCm(第5要素)とは、互いに連結して第1連結体Rf,Cmを構成している。第2プラネタリギヤ6のサンギヤSm(第4要素)と第3プラネタリギヤ7のリングギヤRr(第8要素)とは、互いに連結して第2連結体Sm,Rrを構成している。第3プラネタリギヤ7のキャリアCr(第9要素)は入力軸2に連結されている。また、第1プラネタリギヤ5のキャリアCf(第2要素)は、キャリアCfに固定の駆動ギヤG1aと、駆動ギヤG1aに噛合する出力軸3に固定の従動ギヤG1bとから成る第1ギヤ列G1を介して出力軸3に連結され、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRm(第6要素)は、リングギヤRmに固定の駆動ギヤG2aと、駆動ギヤG2aに噛合する出力軸3に固定の従動ギヤG2bとから成る第2ギヤ列G2を介して出力軸3に連結されている。
【0020】
ここで、第1ギヤ列G1のギヤ比(従動ギヤの歯数/駆動ギヤの歯数)をp、第2ギア列G2のギヤ比をqとして、p>qになっている。また、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfと第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmは、両ギヤ列G1,G2を介して出力軸3で連結されることになる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmは、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転する。
【0021】
また、第1実施形態では、係合要素として、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSf(第1要素)と入力軸2とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第1係合要素たる第1クラッチC1と、第1連結体Rf,Cm(第3要素,第5要素)と入力軸2とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第2係合要素たる第2クラッチC2と、第1連結体Rf,Cm(第3要素,第5要素)を変速機ケース1に固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第3係合要素たる第1ブレーキB1と、第3プラネタリギヤ7のサンギヤSr(第7要素)を変速機ケース1に固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第4係合要素たる第2ブレーキB2と、第2連結体Sm,Rr(第4要素、第8要素)を変速機ケース1に固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第5係合要素たる第3ブレーキB3とを備えている。尚、変速機ケース1には、第1ブレーキB1と並列に、第1連結体Rf,Cmの正転(前進方向の回転)を許容し、逆転を阻止する一方向クラッチF1が連結されている。
【0022】
第1実施形態においては、第1クラッチC1を係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度が「1」、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfの回転速度が一方向クラッチF1の働きで「0」になり、第1プラネタリギヤ5の速度線が図2に「1st」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は1/(i+1)になり、出力軸3が第1ギヤ列G1を介して1/{(i+1)p}の速度で回転して、1速段が確立される。尚、第1クラッチC1に加えて第1ブレーキB1を係合させると、エンジンブレーキを効かせられる状態で1速段が確立される。
【0023】
第1クラッチC1と第3ブレーキB3とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度が「1」、第2プラネタリギヤ6のサンギヤSmの回転速度が「0」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第1プラネタリギヤ5と第2プラネタリギヤ6の速度線は図2に「2nd」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は(j+1)p/{(i+1)(j+1)p−ijq}、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は(j+1)q/{(i+1)(j+1)p−ijq}になり、出力軸3が(j+1)/{(i+1)(j+1)p−ijq}の速度で回転して、2速段が確立される。
【0024】
第1クラッチC1と第2ブレーキB2とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度と第3プラネタリギヤ7のキャリアCrの回転速度とが共に「1」になり、第3プラネタリギヤ7のサンギヤSrの回転速度が「0」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第1プラネタリギヤ5と第2プラネタリギヤ6の速度線は図2に「3rd」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は{k(j+1)+i(k−1)}p/{(i+1)(j+1)kp−ijkq}、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRrの回転速度は{k(j+1)+i(k−1)}q/{(i+1)(j+1)kp−ijkq}になり、出力軸3が{k(j+1)+i(k−1)}/{(i+1)(j+1)kp−ijkq}の速度で回転して、3速段が確立される。
【0025】
第1クラッチC1と第2クラッチC2とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度と第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfの回転速度とが共に「1」になって、第1プラネタリギヤ5がロック状態になり、第1プラネタリギヤ5の速度線は図2に「4th」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は「1」になり、出力軸3が1/pの速度で回転して、4速段が確立される。
【0026】
第2クラッチC2と第2ブレーキB2とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度と第3プラネタリギヤ7のキャリアCrの回転速度とが共に「1」になり、第3プラネタリギヤ7のサンギヤSrの回転速度が「0」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第2プラネタリギヤ6の速度線は図2に「5th」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は(1+jk)/(jk)になり、出力軸3が(1+jk)/(jkq)の速度で回転して、5速段が確立される。
【0027】
第2クラッチC2と第3ブレーキB3とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のサンギヤSmの回転速度が「0」、第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度が「1」になり、第2プラネタリギヤ6の速度線は図2に「6th」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は(j+1)/jになり、出力軸3が(j+1)/(jq)の速度で回転して、6速段が確立される。
【0028】
第1ブレーキB1と第2ブレーキB2とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度と第3プラネタリギヤ7のサンギヤSrの回転速度とが共に「0」になり、第2プラネタリギヤ6の速度線は図2に「Rvs」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は−(k−1)/jkになり、出力軸3が−(k−1)/(jkq)の速度で回転して、後進段が確立される。
【0029】
尚、図2中の点線で示す速度線は、第1〜第3のプラネタリギヤ5,6,7のうち動力伝達するプラネタリギヤに追従して他のプラネタリギヤの各要素が回転することを表している。
【0030】
図1(b)は、上述した各変速段とクラッチC1,C2、ブレーキB1,B2,B3、一方向クラッチF1の係合状態との関係を纏めて表示した図であり、「○」は係合を表している。また、図1(b)は、第1プラネタリギヤ5のギヤ比iを2.65、第2プラネタリギヤ6のギヤ比jを1.85、第3プラネタリギヤ7のギヤ比kを3.00、第1ギヤ列G1のギヤ比pを1.10、第2ギヤ列G2のギヤ比qを1.00とした場合における各変速段のギヤレシオ(入力軸2の回転速度/出力軸3の回転速度)も示している。これによれば、公比(各変速段間のギヤレシオの比)が適切になると共に、レシオレンジ(一速レシオ/6速レシオ)も適切になる。
【0031】
第1実施形態の各変速段の噛合伝達効率を図3に示す。図3では第1実施形態の欄の左側の列に噛合伝達効率(%)を示し、右側の列に従来のものに対する向上を示している。第1実施形態の各変速段の噛合率を従来のものと比較すると、右側の列に表されるように、2速段では0.3%下がっているものの、3速段及び5速段、6速段では効率が大きく向上し、前進段の平均が従来よりも0.57%向上している。
【0032】
尚、第1実施形態では、入力軸2の周りに、一端側から順に、第2クラッチC2と、第1クラッチC1と、第1プラネタリギヤ5と、第1ギヤ列G1と、第2ギヤ列G2と、第2プラネタリギヤ6及び第1ブレーキB1、一方向クラッチF1と、第3プラネタリギヤ7及び第3ブレーキB3と、第2ブレーキB2とを配置したが、これに限定されない。例えば、図4に示す第2実施形態の如く、第1クラッチC1と第2ギヤ列G2との間に、第1プラネタリギヤと第1ギヤ列G1とを配置してもよい。更に、図5に示す第3実施形態の如く、入力軸2の一端側から順に、第1ギヤ列G1と、第1プラネタリギヤ5と、第1クラッチC1と、第2クラッチC2と、第2ギヤ列G2と、第2プラネタリギヤ6及び第1ブレーキB1、一方向クラッチF1と、第3プラネタリギヤ7及び第3ブレーキB3と、第2ブレーキB2とを配置してもよい。
【0033】
また、第1実施形態では、第1と第2の各プラネタリギヤ5,6をシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成し、第3プラネタリギヤ7をダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成したが、ダブルピニオン型のプラネタリギヤで第1プラネタリギヤ5や第2プラネタリギヤ6を構成し、または、シングルピニオン型のプラネタリギヤで第3プラネタリギヤ7を構成することも可能である。第1プラネタリギヤ5をダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成した場合、サンギヤとキャリアとの一方が第1要素、リングギヤが第2要素、サンギヤとキャリアとの他方が第3要素になる。また、第2プラネタリギヤ6をダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成した場合、サンギヤとキャリアとの一方が第4要素、リングギヤが第5要素、サンギヤとキャリアとの他方が第6要素になる。また、第3プラネタリギヤ7をシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成した場合、サンギヤとリングギヤとの一方が第7要素、キャリアが第8要素、サンギヤとリングギヤとの他方が第9要素となる。
【0034】
図6に示す第4実施形態の如く、第3プラネタリギヤ7をシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成した場合、第3プラネタリギヤ7を動力伝達に用いる際に噛合回数が減少するため、さらに噛合伝達効率を向上させることができる。図7に示す如く第4実施形態においては、第3プラネタリギヤ7のキャリアCrが第8要素、リングギヤRrが第9要素となる。図6(b)は、第3プラネタリギヤ7のギヤ比kを2.00、他のギヤ比を第1実施形態と同一とした場合における各変速段のギヤレシオ(入力軸2の回転速度/出力軸3の回転速度)も示している。これによれば、公比(各変速段間のギヤレシオの比)が適切になると共に、レシオレンジ(一速レシオ/6速レシオ)も適切になる。
【0035】
第4実施形態の各変速段の噛合伝達効率を図3に示す。従来のものと比較すると、2速段では0.3%下がっているものの、3速段及び5速段、6速段では効率が大きく向上し、前進段の平均が従来よりも0.65%向上している。
【0036】
また、図8に示す第5実施形態の如く、第4実施形態の第1プラネタリギヤ5をダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成してもよい。また、図9に示す第6実施形態の如く、第5実施形態の第1連結体Cf,Cmを変速機ケース1に固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第3係合要素たる第1ブレーキB1及び一方向クラッチF1を、第1クラッチC1及び第2クラッチC2の位置に配置してもよい。
【0037】
また、図10に示す第7実施形態の如く、第4実施形態の第1ギヤ列G1を第1クラッチC1と第1プラネタリギヤ5との間に配置し、第1連結体Rf,Cmを変速機ケース1に固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第3係合要素たる第1ブレーキB1及び一方向クラッチF1を、第1プラネタリギヤ5の位置に配置してもよい。また、図11に示す第8実施形態の如く、第7実施形態の第1クラッチC1と第2クラッチC2と第1プラネタリギヤ5と第2ギヤ列G2との間に配置してもよい。
【0038】
次に、図12(a)に示す第9実施形態について説明する。第9実施形態は、第4実施形態に第6係合要素たる第3クラッチC3を追加したものである。第3クラッチC3は、第2プラネタリギヤ6の第4要素たるサンギヤSm及び第3プラネタリギヤ7の第8要素たるキャリアCrを連結した第2連結体Sm,Crと入力軸2とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在に構成されている。他の構成は第4実施形態と同一である。
【0039】
このものでは、第1クラッチC1を係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度が「1」、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfの回転速度が一方向クラッチF1の働きで「0」になり、第1プラネタリギヤ5の速度線が図13に「1st」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は1/(i+1)になり、出力軸3が第1ギヤ列G1を介して1/{(i+1)p}の速度で回転して、1速段が確立される。尚、第1クラッチC1に加えて第1ブレーキB1を係合させると、エンジンブレーキを効かせられる状態で1速段が確立される。
【0040】
第1クラッチC1と第3ブレーキB3とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度が「1」、第2プラネタリギヤ6のサンギヤSmの回転速度が「0」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第1プラネタリギヤ5と第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「2nd」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は(j+1)p/{(i+1)(j+1)p−ijq}、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は(j+1)q/{(i+1)(j+1)p−ijq}になり、出力軸3が(j+1)/{(i+1)(j+1)p−ijq}の速度で回転して、2速段が確立される。
【0041】
第1クラッチC1と第2ブレーキB2とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度と第3プラネタリギヤ7のリングギヤRrの回転速度とが共に「1」になり、第3プラネタリギヤ7のサンギヤSrの回転速度が「0」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第1プラネタリギヤ5と第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「3rd」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は{k(j+1)+i(k−1)}p/{(i+1)(j+1)kp−ijkq}、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRrの回転速度は{k(j+1)+i(k−1)}q/{(i+1)(j+1)kp−ijkq}になり、出力軸3が{k(j+1)+i(k−1)}/{(i+1)(j+1)kp−ijkq}の速度で回転して、3速段が確立される。
【0042】
第1クラッチC1と第3クラッチC3とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度と第2プラネタリギヤ6のサンギヤSmの回転速度とが共に「1」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第1プラネタリギヤ5と第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「4th」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は(i+j+1)p/{(i+1)(j+1)p−ijq}になり、出力軸3が(i+j+1)/{(i+1)(j+1)p−ijq}の速度で回転して、4速段が確立される。
【0043】
第1クラッチC1と第2クラッチC2とを係合させると、第1プラネタリギヤ5のサンギヤSfの回転速度と第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfの回転速度とが共に「1」になって、第1プラネタリギヤ5がロック状態になり、第1プラネタリギヤ5の速度線は図13に「5th」で示す線になる。そして、第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度は「1」になり、出力軸3が1/pの速度で回転して、5速段が確立される。
【0044】
第2クラッチC2と第3クラッチC3とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のサンギヤSmの回転速度と第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度とが共に「1」になって、第2プラネタリギヤ6がロック状態になり、第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「6th」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は「1」になり、出力軸3が1/qの速度で回転して、6速段が確立される。
【0045】
第2クラッチC2と第2ブレーキB2とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度と第3プラネタリギヤ7のリングギヤRrの回転速度とが共に「1」になり、第3プラネタリギヤ7のサンギヤSrの回転速度が「0」になると共に、第1プラネタリギヤ5のリングギヤRfと第2プラネタリギヤ6のキャリアCmとが等速度で回転し、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmが第1プラネタリギヤ5のキャリアCfの回転速度のq/pの速度で回転して、第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「7th」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は{j(k+1)+1}/{j(k+1)}になり、出力軸3が{j(k+1)+1}/{j(k+1)q}の速度で回転して、7速段が確立される。
【0046】
第2クラッチC2と第3ブレーキB3とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のサンギヤSmの回転速度が「0」、第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度が「1」になり、第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「8th」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は(j+1)/jになり、出力軸3が(j+1)/(jq)の速度で回転して、8速段が確立される。
【0047】
第1ブレーキB1と第2ブレーキB2とを係合させると、第2プラネタリギヤ6のキャリアCmの回転速度と第3プラネタリギヤ7のサンギヤSrの回転速度とが共に「0」になり、第2プラネタリギヤ6の速度線は図13に「Rvs」で示す線になる。そして、第2プラネタリギヤ6のリングギヤRmの回転速度は−k/{(k+1)j}になり、出力軸3が−k/{(k+1)jq}の速度で回転して、後進段が確立される。
【0048】
図12(b)は、上述した各変速段とクラッチC1,C2,C3、ブレーキB1,B2,B3、一方向クラッチF1の係合状態との関係を纏めて表示した図であり、「○」は係合を表している。第9実施形態によれば、第3クラッチC3を設けるだけで、前進8段の変速機を構成することができる。
【0049】
尚、第9実施形態のものにおいても、各係合要素や各ギヤ列の配置位置を変更することができる。
【0050】
また、上記実施形態はFF車用の自動変速機であるが、出力軸3にプロペラシャフトを連結すれば、FR車用の自動変速機とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)本発明変速機の第1実施形態のスケルトン図、(b)各変速段での各係合要素の係合状態を纏めて示した図。
【図2】第1実施形態の第1〜第3プラネタリギヤの速度線図。
【図3】第1実施形態及び第4実施形態の各変速段の噛合伝達効率を示す表。
【図4】本発明変速機の第2実施形態のスケルトン図。
【図5】本発明変速機の第3実施形態のスケルトン図。
【図6】(a)本発明変速機の第4実施形態のスケルトン図、(b)各変速段での各係合要素の係合状態を纏めて示した図。
【図7】第4実施形態の第1〜第3プラネタリギヤの速度線図。
【図8】本発明変速機の第5実施形態のスケルトン図。
【図9】本発明変速機の第6実施形態のスケルトン図。
【図10】本発明変速機の第7実施形態のスケルトン図。
【図11】本発明変速機の第8実施形態のスケルトン図。
【図12】(a)本発明変速機の第9実施形態のスケルトン図、(b)各変速段での各係合要素の係合状態を纏めて示した図。
【図13】第9実施形態の第1〜第3プラネタリギヤの速度線図。
【符号の説明】
【0052】
1…変速機ケース、2…入力軸、3…出力軸、5…第1プラネタリギヤ、Sf…第1プラネタリギヤのサンギヤ(第1要素)、Cf…第1プラネタリギヤのキャリア(第2要素又は第3要素)、Rf…第1プラネタリギヤのリングギヤ(第3要素又は第2要素)、6…第2プラネタリギヤ、Sm…第2プラネタリギヤのサンギヤ(第4要素)、Cm…第2プラネタリギヤのキャリア(第5要素)、Rm…第2プラネタリギヤのリングギヤ(第6要素)、7…第3プラネタリギヤ、Sr…第3プラネタリギヤのサンギヤ(第7要素)、Cr…第3プラネタリギヤのキャリア(第9要素又は第8要素)、Rm…第3プラネタリギヤのリングギヤ(第8要素又は第9要素)、G1…第1ギヤ列、G2…第2ギヤ列、C1…第1クラッチ(第1係合要素)、C2…第2クラッチ(第2係合要素)、C3…第3クラッチ(第6係合要素)、B1…第1ブレーキ(第3係合要素)、B2…第2ブレーキ(第4係合要素)、B3…第3ブレーキ(第5係合要素)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転を入力軸と同心に配置した複数のプラネタリギヤを介して複数段に変速して出力部材に伝達する自動変速機であって、
第1プラネタリギヤと第2プラネタリギヤと第3プラネタリギヤとを備え、
第1プラネタリギヤのサンギヤ、キャリア、リングギヤから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第1要素、第2要素及び第3要素とし、第2プラネタリギヤのサンギヤ、キャリア及びリングギヤから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第4要素、第5要素及び第6要素とし、第3プラネタリギヤのサンギヤ、キャリア、リングギヤから成る3個の要素を、速度線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に夫々第7要素、第8要素及び第9要素として、
第3要素と第5要素とを連結して第1連結体が構成され、第4要素と第8要素とを連結して第2連結体が構成され、第9要素が入力軸に連結され、入力軸に平行に配置した出力部材たる出力軸に、第2要素が第1ギヤ列を介して連結されると共に、第6要素が第1ギヤ列とは異なるギヤ比の第2ギヤ列を介して連結され、
第1要素と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第1係合要素と、
第1連結体と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第2係合要素と、
第1連結体を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第3係合要素と、
第7要素を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第4係合要素と、
第2連結体を変速機ケースに固定する状態とこの固定を解除する状態とに切換自在な第5係合要素とを備えることを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記第2連結体と入力軸とを連結する状態とこの連結を断つ状態とに切換自在な第6係合要素を備えることを特徴とする請求項1記載の自動変速機。
【請求項3】
前記第1プラネタリギヤと前記第3プラネタリギヤとの一方及び前記第2プラネタリギヤはシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成され、第1プラネタリギヤと第3プラネタリギヤとの他方はダブルピニオン型のプラネタリギヤで構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動変速機。
【請求項4】
前記第1〜第3プラネタリギヤはシングルピニオン型のプラネタリギヤで構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−60096(P2010−60096A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228294(P2008−228294)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】