説明

自動工具

【課題】自動工具における作業工具を簡便な操作によって被作業部に対して適切な向きに設定する。
【解決手段】電動インパクトレンチ10の本体部には、回転工具36が取り付けられる工具軸と、該工具軸を回転させるモータと、表面板における3箇所までの距離を検出する非接触距離検出センサ60a、60b及び60cとを有する。回転工具36の六角ソケット部56に装着されたナット18は表面板から垂直に突出するボルトに螺合する。非接触距離検出センサ60a〜60cにより得られた表面板から本体部までの各距離L1、L2、L3に基づいて工具軸と表面板とのなす角度を求め、該角度が適正な垂直範囲であるときにモータに対するインターロックを解除するとともに姿勢インジケータ86を点灯させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締め付け工具等の作業工具及び該作業工具を回転させる駆動手段を備え、該作業工具を駆動することにより被作業部に作用させる自動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
インパクトレンチ等の自動工具によれば工具を自動的に回転させることによりボルト・ナット等の締め付け作業を効率的に行うことができる。ハンディタイプのインパクトレンチを用いてボルトに対してナットを螺合、締め付けを行う際には、インパクトレンチの工具軸に取り付けられたアタッチメント工具の先端ソケット部にナットを挿入した状態で該ナットをボルト先端部に当接させた後、運転スイッチを操作しアタッチメント工具を回転させる。これにより、ナットはボルトに対して螺合され、被係合物に対して所定のトルクで締結される。
【0003】
ところで、ナットをボルト先端部に当接させる際には、作業者がアタッチメント工具の姿勢を目視又は手の感覚で確認しながら作業を行うため、必ずしも適切な姿勢となっていない場合がある。アタッチメント工具の姿勢が不適切である場合には、ナットがボルトに対して正常に螺合せず、ナット又はボルトのねじ山がつぶれてしまうことが懸念される。
【0004】
ボルトとナットとを正常に螺合させるため、ソケット部内側に設けられた複数の距離センサによりナットの端面までの距離を計測し、ナットが適切に収納されていることを確認するナットランナが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、ねじの締め付けトルクの精度を向上させるため、ねじの位置を検出する検出棒を設け、該検出棒の信号に基づいてねじが着座する直前にモータの回転を一旦停止させる電動ドライバが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−176852号公報
【特許文献2】実開平4−128167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記の特許文献1に記載されたナットランナによれば、ナットがソケット部に正常に装着されていることは確認可能であるが、ナットとボルトとの螺合状態を確認することはできず、結局、作業者が予め手作業でナットをボルトに対して予備螺合させておく必要があって、非効率的である。また、ナットの位置を検出するためのセンサはソケット部内側に設けるために極小サイズの特別なセンサを用いる必要があって、しかもソケット部は回転することからセンサ信号を信号処理部へ伝送することは大変困難である。
【0007】
また、インパクトレンチに限らず一般の自動工具では、回転する作業工具を被作業部に対して適切な向きに設定することが必要とされている。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、回転する作業工具を簡便な操作によって被作業部に対して適切な向きに設定することのできる自動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自動工具は、作業工具が取り付けられる工具軸と、
前記工具軸を回転させる駆動手段を備える本体部と、
前記本体部に設けられ、前記作業工具が作用する被作業部が設けられた基準面における少なくとも3箇所までの距離を検出する非接触距離検出手段と、
前記非接触距離検出手段により得られた前記基準面から前記本体部までの各距離に基づいて前記工具軸と前記基準面とのなす角度を求め、該角度が設定された適正範囲値であるときに角度適正信号を出力する基準面角度判断部と、
を有することを特徴とする。
【0010】
非接触距離検出手段によって検出された基準面上の少なくとも3箇所までの距離を用いることにより、該工具軸と本体部とのなす角度が求められるため、被作業部に対して非接触状態を保ちながら、作業工具が被作業部に対して適正な角度であるか否かを簡便に判定することができる。また、この判定結果である角度適正信号に基づいて本体部及び工具軸を適切な向きに設定することができる。
【0011】
さらに、前記角度適正信号に基づいて前記駆動手段の駆動を有効化又は無効化するインターロック部を有すると、作業工具が被作業部に対して不適切な角度で接触することを確実に防止することができる。
【0012】
さらにまた、前記角度適正信号に基づいて、前記角度が前記適正範囲値であることを示す表示を行うインジケータを有すると、作業者は電動回転工具の姿勢を容易に把握することができ、操作が一層容易になる。
【0013】
前記工具軸を回転させることにより前記作業工具を前記被作業部に作用させている際、前記インターロック部は、前記角度適正信号に基づいて前記駆動手段を停止させることにより、作業工具が被作業部に対して接触した後にも適正な姿勢を保持することができ、適正な作業が遂行される。
【0014】
前記非接触距離検出手段は3つ以上のセンサであって、前記センサの向きを調整する角度調整機構を有すると、作業工具の長さに応じて非接触距離検出手段の向きを調整し、基準面までの距離を非接触距離検出手段の適正計測距離範囲内となるようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る自動工具によれば、非接触距離検出手段によって検出された基準面上の少なくとも3箇所までの距離に基づいて該工具軸と本体部とのなす角度が求められるため、非接触な状態の簡便な操作によって、作業工具を被作業部に対して適切な向きに設定することができる。
【0016】
また、工具軸と本体部とのなす角度に基づいて回転駆動部を有効化・無効化するインターロック部を設けることにより、作業工具が被作業部に対して不適切な角度で接触することを確実に防止することができる。さらに、角度適正信号に基いて、工具軸の角度が適正範囲値であることを示すインジケータを設けることにより、作業者は電動回転工具の姿勢を容易に把握することができ、操作が一層容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る自動工具について第1及び第2の実施形態を挙げ、添付の図1〜図6を参照しながら説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、第1の形態に係る電動インパクトレンチ(自動工具)10は、表面板12と裏面板14とをボルト16及びナット18で締結する作業に用いることができる。電動インパクトレンチ10は、インターフェースアンプ20、制御用シーケンサ22及びインターロック用コントローラ24とともに1つのシステムとして用いられる。
【0019】
電動インパクトレンチ10は、円筒状の本体部30と、該本体部30から斜め側方に延在するグリップ部32と、本体部30の先端部から同軸状にやや突出する工具軸34と、該工具軸34に対して着脱自在に取り付けられた回転工具(作業工具)36と、本体部30の先端周囲を囲むように設けられた距離計測ユニット38とを有する。電動インパクトレンチ10は、グリップ部32を握りながら操作を行うことができ、いわゆるハンディタイプである。
【0020】
グリップ部32の先端には、給電ケーブル40が接続されており外部電源から電力が供給される。グリップ部32の根元部には工具軸34の速度を連続可変的に回転させるための指操作用のトリガー41が設けられており、該トリガー41を指で引くことにより、引く量に応じて工具軸34が回転する。トリガー41は図示しない弾性体によって前方(つまり、回転工具36が延在する方向)に向かって付勢されており、トリガー41から指を放すことにより原位置に復帰し、工具軸34は停止する。
【0021】
本体部30には、トリガー41に連動して回転するモータ(駆動手段)42と、該モータ42の回転速度を減速して伝達する減速器44と、該減速器44に接続されてインパクト作用を奏する打撃機構部46とが設けられ、前記の工具軸34は打撃機構部46に接続され回転、打撃作用を奏する。また、本体部30は、工具軸34の回転方向を設定する正逆転スイッチ48と、締め付けトルクを設定するトルクスイッチ50と、回転速度を検出する回転センサ52とを有する。
【0022】
工具軸34には、前記の回転工具36がクリックボール機構によって着脱自在に取り付けられている。該回転工具36は中空円筒形状であって、先端部内側には、ナット18を挿入可能な六角ソケット部56を有する。六角ソケット部56には、ナット18を確実に吸着保持するための磁石が設けられていてもよい。
【0023】
図2に示すように、距離計測ユニット38は正面視で六角形状であって、工具軸34を中心として120°間隔の放射状に3つの非接触距離検出センサ(非接触距離検出手段)60a、60b、60cが設けられており、それぞれ前方に設けられた物体との距離を非接触で検出することができる。したがって、非接触距離検出センサ60a〜60cによれば、回転工具36がボルト16に対して略同軸状となるように保ちながら電動インパクトレンチ10をボルト16に接近させる際に、表面板12の面から電動インパクトレンチ10までの距離を3箇所で検出することができる。
【0024】
非接触距離検出センサ60a〜60cは汎用のレーザ式であって、投光部62から発されて表面板12で反射したレーザを受光部64で受光処理を行い対象物である表面板12までの距離L1、L2、L3(図1参照)を計測することができる。非接触距離検出センサ60a〜60cの適正計測可能な距離範囲はLL〜LH(図1参照)である。
【0025】
図3に示すように、非接触距離検出センサ60aは、ベース板66から前方に突出した支持フォーク68により回転可能に支持されており、該支持フォーク68に設けられた角度調整機構70により傾動角度が調整可能である。つまり、角度調整機構70は、非接触距離検出センサ60aに固定されたホイールギア72と、支持フォーク68の一部により保持されてホイールギア72と螺合するウォームギア74と、該ウォームギア74を回転させるつまみ76とを有する。つまみ76は、ベース板66よりも後方に設けられており、ベース板66を貫通する軸78によってウォームギア74の後端部に連結されている。このようの角度調整機構70は、いわゆるウォームホイール機構を構成し、つまみ76を回転させることによって非接触距離検出センサ60aの傾動角度を調整することができる。
【0026】
非接触距離検出センサ60aには円弧状の目盛79が設けられており、支持フォーク68の側面に印されたポインタ80が示す目盛79の位置により非接触距離検出センサ60aの傾動角度が確認可能である。なお、他の非接触距離検出センサ60b及び60cについても、同様の角度調整機構70を有しており傾動角度が調整可能である。角度調整機構70は、1つのつまみを回転させることによって非接触距離検出センサ60a〜60cを連動させながら調整可能な構成にしてもよく、また、適当なアクチュエータによって自動調整可能な構成にしてもよい。
【0027】
角度調整機構70によれば、回転工具36の長さLT(図1参照)に応じて、各非接触距離検出センサ60a〜60cから表面板12までの距離Lが適正計測距離範囲LL〜LHとなるように調整することができる。つまり、回転工具36が長いときには表面板12に対して略垂直となるように非接触距離検出センサ60a〜60cの角度を設定し、逆に回転工具36が短いときには表面板12に対して適正反射が得られる角度の範囲内で傾斜させるように設定し、表面板12までの距離Lを正確に計測することができる。表面板12上に突起等の障害物がある場合には、レーザの反射位置が該障害物と重ならないように非接触距離検出センサ60a〜60cの向きを調整してもよい。
【0028】
非接触距離検出センサ60a〜60cは、ベース板66及び該ベース板66に対して着脱可能なカバー82によって覆われ、保護されている。カバー82は、各目盛79が目視可能な3つの側面孔82aと、前面の各投光部62及び受光部64の正面に開口する前面孔82bが設けられている。
【0029】
側面孔82aから目盛79を目視することにより非接触距離検出センサ60a〜60cの傾動角度を確認することができ、また、前面孔82bを通してレーザ光の投受光が可能である。カバー82は、例えば透明な樹脂として目盛79やボルト16の視認性向上を図るようにしてもよい。
【0030】
ベース板66の上面には、パイロットインジケータ84、姿勢インジケータ86及び着座距離インジケータ88が設けられている。パイロットインジケータ84、姿勢インジケータ86及び着座距離インジケータ88は異なる色(又は、異なる形状)を有し識別が容易である。距離計測ユニット38はインターフェースアンプ20を介して制御用シーケンサ22に接続されており、非接触距離検出センサ60a〜60cで検出された距離信号は制御用シーケンサ22に伝達されて計算処理に供せられ、パイロットインジケータ84、姿勢インジケータ86及び着座距離インジケータ88は制御用シーケンサ22の作用下に点灯する。制御用シーケンサ22には前記の回転センサ52の信号も供給される。
【0031】
インターロック用コントローラ24は、制御用シーケンサ22から供給される角度適正信号R(図4参照)に基づいて、電動インパクトレンチ10のモータ42に作用して該モータ42の回転を停止させることができる。
【0032】
図4に示すように、制御用シーケンサ22は、パラメータ入力設定部90と、プログラム動作により実行される処理部である基準面角度判断部92、トルク算出部94及び着座判定部96を有する。パラメータ入力設定部90には、非接触距離検出センサ60a〜60cの各傾動角度、回転工具36の長さLT等のパラメータが入力可能である。長さLTは、工具軸34の先端部を基準にして規定される(図1参照)。トルク算出部94は、回転センサ52から供給される速度信号等に基づいて工具軸34が発生するトルクTを算出する。算出されたトルクTは、作業単位毎に所定のファイルに記録される。
【0033】
基準面角度判断部92は、角度算出部92aと角度適否判定部92bとを有する。角度算出部92aはパラメータ入力設定部90から得られる各非接触距離検出センサ60a〜60cの傾動角度及び該非接触距離検出センサ60a〜60cによって計測された表面板12までの距離L1〜L3(図5参照)に基づいて演算を行い、工具軸34の軸心Cを基準として表面板12の電動インパクトレンチ10に対する傾斜角度θ(図5参照)及び基準位置(例えば、工具軸34の先端等)から工具軸34の軸線C上の距離L(図1参照)を算出し、角度適否判定部92bに供給する。
【0034】
このうち傾斜角度は、例えば、表面板12の表面が面S1として表される場合、図5に示すように、面S1における3点P1、P2及びP3までの距離L1、L2及びL3が非接触距離検出センサ60a〜60cによって計測されて、面S1を底面とする三角錐台Aが空間上で特定される。次に面S1を示す方程式から法線Nを算出する。次いで、上面S2の重心点を通り上面S2に垂直な軸線Cと法線Nとのなす傾斜角度θをベクトルの内積又は外積等を用いて算出する。このように、角度算出部92aは、3つの非接触距離検出センサ60a〜60cにより表面板12の3箇所の位置が特定され、該表面板12の向きを一意的に決定することができる。
【0035】
角度適否判定部92bでは、算出された傾斜角度θが所定の閾値範囲内であるか否かを確認し、閾値範囲内であるときに角度適正信号R(図4参照)をインターロック用コントローラ24に供給する。
【0036】
傾斜角度は、例えば、ヨー角度及びピッチ角度として表わし、これら2つの角度に基づいて処理を行ってもよい。基準面角度判断部92における角度算出部92aと角度適否判定部92bとの機能は明確に分かれている必要はなく、例えば、各非接触距離検出センサ60a〜60cの傾動角度が一致していて、距離L1〜L3がボルト16を中心とした等距離の位置を計測している場合であって、L1=L2=L3であるときに傾斜角度θが適正であると判断してもよい。
【0037】
着座判定部96は、算出されたトルクT及び距離Lに基づいてナット18が表面板12に適正に着座したか否かを監視、判定する。つまり、トルクTが適正値となったときの距離Lを、回転工具36の長さLT(図2参照)とナット18の突出量LNとの合計値と比較し、その差が所定の閾値範囲以内であるときにはナット18が適正に着座したことが判定され、この情報がインターロック用コントローラ24を介して着座距離インジケータ88を点灯させる。
【0038】
インターロック用コントローラ24では、基準面角度判断部92から角度適正信号Rが供給されているときには、インターロックを解除してモータ42を駆動可能にするとともに姿勢インジケータ86を点灯させる。また角度適正信号Rが検出されないときには、モータ42の電源を遮断する等のインターロックを施すとともに姿勢インジケータ86を消灯させる。
【0039】
また、制御用シーケンサ22は所定のウォッチドック機能により各部の作用が正常に動作しているか否かを自己診断し、正常であるときにはインターロック用コントローラ24を介してパイロットインジケータ84を点灯させる。
【0040】
このように構成される電動インパクトレンチ10によれば、先ず、工具軸34に回転工具36を取り付けるとともに、該回転工具36の先端にナット18を装着する。このとき、パラメータ入力設定部90には所定のパラメータが予め入力されており、角度調整機構70は回転工具36の長さLTに応じて適切に設定されているものとする。次に、作業者はパイロットインジケータ84が点灯していること視認することで、制御用シーケンサ22が正常に作用していることが確認できる。
【0041】
次いで、電動インパクトレンチ10を表面板12に接近させ、姿勢を適切に設定することにより姿勢インジケータ86が点灯し、工具軸34の軸線Cが表面板12に対して垂直な状態となっていることが確認される。これは、換言すれば回転工具36及びナット18がボルト16に対して適切な向きに設定されており、ナット18とボルト16がかじることなくスムーズに螺合可能な状態であることを示す。
【0042】
姿勢インジケータ86の点灯を確認した後、作業者はトリガー41を操作して工具軸34及び回転工具36を回転させてナット18をボルト16に螺合させる。この際、回転工具36が表面板12に対して垂直に設定されていない場合(つまり、姿勢インジケータ86が消灯している場合)には、前記のインターロック機能によって回転工具36の回転が阻止され、ボルト16とナット18とがかじることが確実に防止される。
【0043】
ナット18はボルト16に螺合することにより次第に前進する。この螺合作業時においてもインターロック機能は有効であって、前記のクリックボール機構により発生するがた等に基づいて、電動インパクトレンチ10の姿勢が当初の姿勢から大きくずれたり、不自然に振動するような場合にはモータ42を停止させて、ナット18とボルト16とのかじりを未然に防止することができる。
【0044】
ナット18はボルト16に螺合し、やがて表面板12に着座して締結される。このとき、締結に伴ってトルクTが適正な値まで上昇し、該トルクTの値はトルク算出部94で算出されて着座判定部96に供給される。また、工具軸34の先端から表面板12までの距離Lは回転工具36の長さLT及び突出量LNに応じた適正な値となり、該距離Lは基準面角度判断部92で算出されて着座判定部96に供給される。着座判定部96では、トルクT及び距離Lに基づいてナット18が表面板12の表面に適正に着座したことを判定し、着座距離インジケータ88を点灯させ、作業者に対して締結作業が正常に終了したことを知らせる。
【0045】
これにより、例えば、トルクTが適正値まで上昇していても、ナット18とボルト16が不測の事態によってかじりついてナット18が表面板12に達していないときには、距離Lが適正値未満となっていないため、着座距離インジケータ88を消灯させて不適正な締結であることを作業者に知らせることができる。逆に、ナット18が表面板12に達して距離Lが適正値となっていても、なんらかの理由によりトルクTが適正値まで上昇していないときについても着座距離インジケータ88を消灯させて不適正な締結であることを作業者に知らせることができる。
【0046】
この後、制御用シーケンサ22は作業単位毎にトルクTを所定のファイルに記録する。
【0047】
上記したように、第1の実施の形態に係る電動インパクトレンチ10によれば、表面板12から垂直に突出したボルト16に対してナット18を簡便かつ適正に螺合、締結させることができる。実際上、ボルト16は表面板12から垂直に突出していることが多く、電動インパクトレンチ10は多くの場合に適用可能である。仮に、ボルト16が表面板12に対して垂直ではなく、又は表面板12が曲面状である場合には、インターロック用コントローラ24に設けられた解除スイッチ(図示せず)を操作してインターロック機能を解除すればよい。
【0048】
また、電動インパクトレンチ10で用いられる回転工具36は汎用品を用いることができる。さらに、ナット18は六角ソケット部56に装着しておけばよく、ボルト16に対して予め手作業で予備的螺合をさせておく必要がないため、螺合、締め付け作業を効率的に行うことができる。
【0049】
電動インパクトレンチ10は、非接触距離検出センサ60a〜60cを用いることにより、表面板12に対して非接触状態で作業を行うことができ扱いやすく、回転工具36やボルト16は常に露呈されており視認性がよい。非接触距離検出センサ60a〜60cは汎用品を使うことでも良いが、更に出力センサ60a〜60cを小型化して専用に設計することでもよい。
【0050】
電動インパクトレンチ10は、姿勢が不適当であるときには姿勢インジケータ86が消灯するとともにインターロックによってモータ42の駆動が停止されるため、習熟を要さずに確実な螺合、締め付け作業が可能となり、作業の効率及び信頼性向上を図ることができる。
【0051】
なお、電動インパクトレンチ10の本体部30、インターフェースアンプ20、制御用シーケンサ22及びインターロック用コントローラ24の間で行われる信号の授受は無線を用いてもよい。
【0052】
次に、第2の実施の形態に係る電動インパクトレンチ10aについて、図6を参照しながら説明する。電動インパクトレンチ10aは、基本的な構成は前記電動インパクトレンチ10と同様であって、同機構の部分には同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0053】
電動インパクトレンチ10aは、前記電動インパクトレンチ10で外付けとして設けられていたインターフェースアンプ20、制御用シーケンサ22及びインターロック用コントローラ24と略同機能を有する制御部100が本体部30の上面に設けられており、外付けの構成品のない一体型となっている。また、電動インパクトレンチ10aは、前記距離計測ユニット38に相当する距離計測ユニット102を有する。該距離計測ユニット102は、正面視で八角形状であって、工具軸34を中心として90°間隔の縦横放射状に4つの非接触距離検出センサ(非接触距離検出手段)104a、104b、104c及び104dが設けられている。これらの非接触距離検出センサ104a〜104dは、前記の非接触距離検出センサ60a〜60cと同じセンサであって、表面板12までの距離をそれぞれ検出することができる。非接触距離検出センサ104a及び104cは縦方向に対象な位置に設けられており、非接触距離検出センサ104b及び104dは横方向に対象な位置に設けられている。
【0054】
距離計測ユニット102の背面側には、縦横放射状に4つの傾斜修正指示インジケータ106a、106b、106c及び106dが設けられており、このうち、傾斜修正指示インジケータ106a及び106cは縦方向に対象な位置に設けられており、傾斜修正指示インジケータ106b及び106dは横方向に対象な位置に設けられている。各傾斜修正指示インジケータ106aから106cは外方を指向する矢印形状となっており、それぞれ順に非接触距離検出センサ104a〜104dの背後近傍に設けられている。
【0055】
制御部100は、非接触距離検出センサ104a〜104dから供給される4つの計測距離、及び回転センサ52(図2参照)から供給される速度信号等に基づいて表面板12に対する工具軸34の傾斜角度を算出し、適正角度であると判断される場合(つまり、表面板12が回転工具36に対して垂直である場合)には、姿勢インジケータ86を点灯させるとともに、モータ42をインターロックする。このような判断は、例えば、4つの計測距離が全て等しい場合に適正角度であると判断すればよい。
【0056】
さらに、制御部100は、表面板12に対する電動インパクトレンチ10aの傾斜角度が不適正であると判断される場合には、傾斜修正指示インジケータ106a〜106dのうち修正すべき方向を示す1又は2つを点灯させる。このような判断は、例えば、上方に設けられた非接触距離検出センサ104aによって検出される上方距離と、下方に設けられた非接触距離検出センサ104cによって検出される下方距離とを比較し、上方距離が短ければ下方の傾斜修正指示インジケータ106cを点灯させ、下方距離が短ければ上方の傾斜修正指示インジケータ106aを点灯させればよい。また、右方に設けられた非接触距離検出センサ104bによって検出される右距離と、左方に設けられた非接触距離検出センサ104dによって検出される左距離とを比較し、右距離が短ければ左側の傾斜修正指示インジケータ106dを点灯させ、左距離が短ければ右側の傾斜修正指示インジケータ106bを点灯させればよい。
【0057】
このような簡便な比較判断に基づいて傾斜修正指示インジケータ106a〜106dを点灯させることにより、作業者は電動インパクトレンチ10aの姿勢を修正すべき方向を極めて容易に確認することができ、しかも修正する方向は上下左右の四方向(つまり、ピッチ方向とヨー方向)で示されることから感覚的に操作しやすい。
【0058】
さらにまた、制御部100は、工具軸34の先端部を基準とした距離L(図1参照)を計測するとともに、該距離L及びトルクTに基づいてナット18が表面板12に対して適正に着座したか否かを監視及び判断し、適正に着座したと判断されたときには、着座距離インジケータ88を点灯させる。
【0059】
上記したように、本実施の形態に係る電動インパクトレンチ10及び10aによれば、工具軸34及び回転工具36を簡便な操作によってボルト16に対して適切な向きに設定することができ、回転工具36の六角ソケット部56に装着されたナット18を適正に螺合、締結することができる。
【0060】
また、距離計測ユニット38及び102は本体部30に対して一体式であってもよいし、着脱可能であってもよい。回転工具36の着脱機構はクリックボール機構に限らずチャック締め付け式であってもよい。
【0061】
さらに、インターロック機構は必ずしも必要ではなく、作業者は姿勢インジケータ86のみで工具軸34の角度を判断するようにしてもよい。
【0062】
本発明に係る自動工具は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんであり電動ドライバ、電動ドリル、電動研磨工具等であってもよく、被作業体の面に対して規定された向きに設定して作業を行う自動工具に適用可能である。駆動方式は電動に限らず、エアー等の流体駆動方式等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施の形態に係る電動インパクトレンチと外付け機器を示すシステム図である。
【図2】第1の実施の形態に係る電動インパクトレンチの正面図である。
【図3】非接触距離検出センサ及びその角度調整機構を示す斜視図である。
【図4】制御用シーケンサの機能ブロック図である。
【図5】非接触距離検出センサの位置と表面板における計測位置との関係を幾何学的に示す説明図である。
【図6】第2の実施の形態に係る電動インパクトレンチの斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
10、10a…電動インパクトレンチ 12…表面板
16…ボルト 18…ナット
20…インターフェースアンプ 22…制御用シーケンサ
24…インターロック用コントローラ 30…本体部
34…工具軸 36…回転工具
38、102…距離計測ユニット 41…トリガー
42…モータ 56…六角ソケット部
60a〜60c、104a〜104d…非接触距離検出センサ
62…投光部 64…受光部
84…パイロットインジケータ 86…姿勢インジケータ
88…着座距離インジケータ 92…基準面角度判断部
92a…角度算出部 92b…角度適否判定部
94…トルク算出部 96…着座判定部
106a〜106d…傾斜修正指示インジケータ
C…軸線 L…距離
N…法線 R…角度適正信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業工具が取り付けられる工具軸と、
前記工具軸を回転させる駆動手段を備える本体部と、
前記本体部に設けられ、前記作業工具が作用する被作業部が設けられた基準面における少なくとも3箇所までの距離を検出する非接触距離検出手段と、
前記非接触距離検出手段により得られた前記基準面から前記本体部までの各距離に基づいて前記工具軸と前記基準面とのなす角度を求め、該角度が設定された適正範囲値であるときに角度適正信号を出力する基準面角度判断部と、
を有することを特徴とする自動工具。
【請求項2】
請求項1記載の自動工具において、
さらに、前記角度適正信号に基づいて前記駆動手段の駆動を有効化又は無効化するインターロック部を有することを特徴とする自動工具。
【請求項3】
請求項2記載の自動工具において、
さらに、前記角度適正信号に基づいて、前記角度が前記適正範囲値であることを示すインジケータを有することを特徴とする自動工具。
【請求項4】
請求項1記載の自動工具において、
前記工具軸を回転させることにより前記作業工具を前記被作業部に作用させている際、前記インターロック部は、前記角度適正信号に基づいて前記駆動手段を停止させることを特徴とする自動工具。
【請求項5】
請求項1記載の自動工具において、
前記非接触距離検出手段は3つ以上のセンサであって、前記センサの向きを調整する角度調整機構を有することを特徴とする自動工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−95626(P2006−95626A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283157(P2004−283157)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】