説明

自動検査システムにおける、吸引液量を検証する方法

【課題】吸引される流体量を数量化することによって試料流体量を検証する方法および試料中の気泡あるいはクロットの存在のような非理想的条件を検出することによって試料の均一性を検証する方法を提供する。
【解決手段】試料液量を検証する方法は吸引された流体量を定量し、および試料の均一性を試料中の気泡あるいはクロットを検出することにより、検証する。吸引後、圧力センサは、プローブ先端に流体柱を保持するために必要な減圧を測定するために使用される。プローブ先端の幾何学的形状を知ることにより、その減圧は、試料密度に基づいて試料重量および流体量に換算され得る。非理想的条件、例えば流体表面の気泡あるいは流体中のクロットにより、気泡の場合には試料流体量が予想よりも非常に小さくなり、クロットの場合には試料流体量が予想よりも非常に大きい結果となる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(連邦により支援された研究の記載)
なし
(関連出願)
適用可能なし
(発明の背景)
自動分析機は、例えば全血、血清、血漿、脳髄液、尿などの、患者から得られる、体液の様々な化学的成分を測定するために、臨床の検査室で使用される。自動分析機は臨床の検査室で検査を行うために必要とされる熟練者の数を減らし、検査の正確性を改善し、検査ごとのコストを軽減する。
【0002】
典型的に、自動分析機は、患者の検体容器から体液のサンプルを吸い込み反応キュベットの中に分配する、自動流体移動システムを備える。その流体移動システムは典型的に、吸引および分配機能をなすためのロボット制御のアーム上に、ピペットあるいは試料プローブを備える。
【0003】
行われる検査に特異的な化学試薬は、試料を含むキュベットの中に入れられ、それにより試料と化学試薬が混合する。試料と試薬との混合の結果生じた反応生成物を検査することにより、自動分析機は検査される特定の化学成分の濃度を決定する。検査の終了後、自動分析機は典型的に検査結果を印刷する。その検査結果には、試料の識別名、検査の数値結果、および検査によって測定される化学成分に関する値の範囲を含む。
【0004】
吸引操作の間、そのロボットアームは、システム制御装置のコマンドにより、試料プローブを検体容器の上に配置させ、そのプローブが容器の流体に達するまでプローブをその容器の中に移動させる。シリンジ型のポンプが起動されると試料の流体を検体容器からプローブの中に吸い込む。その検査において正確な結果が得られることを確実にするために、一定の既知容量の試料が正確に吸引され、反応キュベットに分配されなければならない。理想的条件の下では、電動シリンジは要求される正確さでその容量を分配し得る。しかし、条件がいつも理想的とは限らず、試料流体量を検証する方法が必要とされる。
【0005】
先行技術の方法は、非理想的条件を検出することに焦点をあてていた。一つの方法では、吸引量の各増大後に圧力が測定される。所定の圧力範囲外の圧力値はその試料における不均一性を表す。非特許文献1に記載されている。欧州特許出願第341,438号は、圧力がまた吸引中にモニタされるシステムについて記述している。気泡、クロットあるは圧力漏れが一つ以上のスパイクとして表示画面に示される。欧州特許出願第215,534号は、吸引操作後の圧力が測定されおよび期待される正常値と比較されるシステムについて記述している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Khalil,OmarS.、「Abbott Prism:A Multichannel Heterogeneous Chemiluminescence Immunoassay Analyzer」、Clin.Chem.,37/9,1540−47(1991)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、吸引される流体量を数量化することによって試料流体量を検証する方法および試料中の気泡あるいはクロットの存在のような非理想的条件を検出することによって試料の均一性を検証する方法を提供する。
【0008】
圧力センサは、吸引された流体柱をプローブ先端で保持するために必要な減圧を測定するために使用される。この値は、吸引開始と吸引終了の間の圧力差を決定することによって測定される。吸引開始時の圧力および吸引終了時の圧力は、開始時に上昇し終了時に下降する顕著な圧力変化率を見出すことによって決定される。プローブ先端の幾何学的形状を知ることによって、圧力差は試料重量に換算され得る。試料密度を仮定することによって、試料重量は試料流体量に換算され得る。その算出された流体量は、所定のプローブの幾何学的形状に関して予測された流体量と比較し得る。流体表面の気泡あるいは流体中のクロットのような非理想的条件のために、明らかに試料の液量は気泡の場合には予想よりもずっと小さく、あるいはクロットの場合には予想よりもずっと大きい結果となる。また、試料中に気泡が存在する場合には、圧力の減衰が通常の試料において予想されるよりもかなり早く始まる。一方、試料中にクロットが存在する場合には、圧力の減衰は通常の試料において予想されるよりもかなり遅く始まる。したがって、測定された吸引の経過時間と予想された経過時間とを比較することによって、試料の不均一性の別の兆候が提供される。
【0009】
本発明の方法により吸引された流体量を直接定量することができる。圧力測定の変化率を使うことによって、本発明の方法は流体の特質である通常のバリアンスの影響をそれほど受けない。さらに、本発明の方法は、組み合わされた方法を使用して、正確な流体量が吸引されたことを検証する。
【0010】
本発明はさらに、以下の項目を提供する。
(項目1) 試料プローブを試料流体の容器内に設置し、その試料プローブが所定の幾何学的形状を有し、およびその試料流体が所定の見かけの密度を有する工程と、
その流体を吸引するその試料プローブ内に流体を汲み上げるための、その試料プローブ内を減圧にする工程と、
圧力特性を得るために、その流体の吸引中にその試料プローブ内のその圧力を測定する工程と、
その圧力特性の減圧における最初の上昇時間を決定する工程と、
その圧力特性の減圧における最初の減衰時間を決定する工程と、
その最初の上昇前の圧力を決定する工程と、
その最初の減衰後の圧力を決定する工程と、
その最初の上昇前のその圧力とその最初の減衰後のその圧力との圧力差を算出する工程と、
その圧力差とその所定のプローブ幾何学的形状とその試料流体密度から、その試料プローブ内の流体量を算出する工程、とを包含する吸引された流体量を検証する方法。
(項目2) 上記算出された流体量を所定の基準量と比較する工程を更に包含する項目1に記載の方法。
(項目3) 上記算出された流体量が上記所定の基準量から、所定量だけ異なる場合、信号を提供する工程を更に包含する項目2に記載の方法。
(項目4) 上記最初の上昇時間を決定する工程が、所定の期間少なくとも規定値の圧力変化率を検出する工程を更に包含する項目1に記載の方法。
(項目5) 上記最初の減衰時間を決定する工程が、所定の期間少なくとも規定値の圧力変化率を検出する方法を更に包含する項目4に記載の方法。
(項目6) 上記最初の上昇の上記時間と上記最初の減衰の上記時間との間の経過時間を算出する工程と、
その経過時間と所定の時間基準値とを比較する工程、
とを更に包含する項目1に記載の方法。
(項目7) 上記算出された経過時間が上記所定の基準値から、所定量だけ異なる場合、信号を提供する工程を更に包含する項目5に記載の方法。
(項目8) 上記試料プローブ内で測定された上記圧力を、上記流体の吸引前に基準値に規準化する方法を更に包含する項目1に記載の方法。
(項目9) 上記基準値が0psiである、項目8に記載の方法。
【0011】
本発明は次の図面と組み合わせて、発明の詳細な説明を参照することでより良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明による吸引および分配システムの概略図である。
【図2】図2は、圧力センサシステムのブロック図である。
【図3】図3は、時間に対する圧力(減圧)のグラフであり、通常の試料の吸引を破線で、気泡を含む試料の吸引を実線で例示している。
【図4】図4は、時間に対する圧力(減圧)のグラフであり、通常の試料の吸引を破線で、クロットを含む試料の吸引を実線で例示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
図1を参照して、吸引および分配システム10は、通気孔14を通してアキュミュレータ16に接続している空気ポンプ12のような空気源を備える。その空気源は所定の割合および圧力で一定の空気流を提供する能力が必要である。空気ポンプは小型の回転式ポンプであり得る。アキュミュレータは典型的に、シリンダの周りに巻きつけられた、長い管状材料のコイルを備え、ポンプからの脈動を抑える役目をする。この方法において、アキュミュレータからの出力は脈動のほとんどない、あるいは全くない一定の空気の流れである。
【0014】
排液弁18はアキュミュレータの下流に設置されている。その排液弁の下流にはポンプバルブ20がある。そのポンプバルブは三方向弁であり、下流方向に通常は開いたポート22および通気孔方向に通常は閉じたポート24を備える。T字コネクタ26はポンプバルブの下流ポートに接続されている。そのT字コネクタの一つの枝が、電動シリンジ型ポンプあるいは希釈器28に接続され、そのT字コネクタの他の枝が、試料プローブ30に接続されている。
【0015】
通過フロー圧力センサあるいはトランスデューサ32は、T字コネクタ26と試料プローブ30との間に提供される。Micro Switch Division of Honeywell Corporationによって適切な圧力センサが製造され、26PCシリーズ圧力トランスデューサとして識別されている。そのセンサの感度は、圧力差で約16mV/psiに相当する。適切な流体特性および電気特性を有する他の圧力センサが使用され得る。好ましくは、圧力センサは試料プローブの近くに設置され、圧力測定の信号対ノイズ比を改善する。
【0016】
試料プローブはロボットアーム34に据え付けられている。典型的に、そのプローブはプローブ本体36およびプローブ先端38を備える。その先端は通常は使い捨てであり、取り外し可能な状態でプローブ本体と接続されている。先端の在庫はロボットアームによる動作中のプローブによって接近可能な場所に保管されている。しかし、いくつかの適用においては、永久的にプローブ本体に取り付けられた使い捨て不可能な先端が使用され得る。
【0017】
システム制御装置40は、そのシステムの作動を制御するために、空気ポンプ12、排液弁18、ポンプバルブ20、希釈器28およびロボットアーム34と連結して、および圧力測定を受け持つ圧力センサ32と連結して、提供される。本発明のタイプの吸引および分配システムはまた、1995年7月13日に提出され、「試料液体を吸引し、分配するための方法および装置」という発明の名称の、その出願の譲受人に譲渡された、特許出願第08/501,806号に記載されている。特許出願第08/501,806号の開示は、参考として本明細書に援用されている。
【0018】
吸引中の操作では、空気ポンプ12をオンにし、プローブ30に空気を通す。ロボットアーム34は、プローブ先端を取り付けて、検体容器42の上でプローブの位置を合わせ、プローブがその中に入っている流体に到達するまでプローブを容器の中へ移動させる。そのプローブが流体に触れると、圧力センサは圧力の上昇を検出する。空気ポンプをオフにし、排液弁18を開いてシステムの圧力を下げる。次いでポンプバルブ20を閉じてポンプ12およびアキュミュレータ16をプローブ30および希釈器28から切り離し、ある流体量の試料をプローブの中に吸い込むように希釈器を操作する。
【0019】
図2を参照して、圧力センサ32は、一対の流体ポート52および54、ならびに増幅回路60に接続されている一対の電気信号端子56および58を備える。センサ32で測定される空気圧は、対応する差電圧信号を増幅回路60に供給し、単一の増幅された出力信号を端子62に提供する。増幅回路は好ましくは、圧力規準化回路64に接続される。その圧力規準化回路は、試料を使用し、本技術分野で公知である回路構成を備え、増幅された圧力信号を基準レベル(通常0ボルト)に対して、制御装置からの信号に基づいて規準化する。システムが、プローブに流体柱を保持するために必要な減圧量を測定する場合、相対的な圧力測定が必要とされる。
【0020】
流体柱を保持するために必要な減圧量を決定する場合、吸引圧力が長時間にわたって測定される。通常の試料の圧力特性は、図3および図4に図示され、破線および「通常試料の吸引(1)」という表記によって示されている。吸引が始まると、基準レベルからの最初の減圧上昇が生じる。その圧力上昇が頭打ちになり始め、ある時間経過後、減圧は落ち込む。それは、図3および図4に「最初の減衰(1)」という表記によって示されている。その圧力は最終レベルにとどまり、「最終レベル」という表記によって示されている。この圧力はプローブの中に流体を保持するために必要な減圧量である。
【0021】
測定された圧力特性から、四つの重要な基準値が決定される:
1)Trise 最初の圧力信号の上昇が生じる時間;
2)Pinit 好ましくは0psiに規準化された、最初の減圧上昇直前の減圧;
3)Tdecay 圧力信号において最初の減衰が生じる時間;および
4)Pfinal 最初の減衰後の指定時間における減圧。
【0022】
この二つの時間に基づく基準値、TriseおよびTdecayは、第1の顕著な上昇圧力および下降圧力の変化に関して、それぞれ圧力センサを調査することによって好ましくは数値的に決定される。圧力センサは所定の時間間隔、例えば、2ミリ秒ごとにサンプリングされる。圧力変化は、例えば、3〜4ミリ秒の時間間隔で生じる約1psi/秒の変化率によって、トリガされる。各変化の開始時間が記録され、これら二つの時間差として吸引のための経過時間が算出される。
【0023】
例えば、約100μlの通常の吸引では、Pfinalは約0.07psig(ここでPinitは0psiに規準化されている。)であり得る。経過時間は約500ミリ秒であり得る。吸引中の平均圧力変化は約0.14psi/秒である。したがって、TriseおよびTdecayは期待される平均圧力が吸引中に変化する約10回の圧力変化により誘発される。
【0024】
圧力Pinitは最初の上昇の開始時間直前に読み取られる。圧力Pfinalは最初の減衰後、指定時間に読み取られる。典型的にこの読み取りは最初の減衰の300ミリ秒後、システムの安定化を考慮して行われる。圧力の読みをより良く特徴づけるために、各読みの時間平均値を決定することが好ましい。その時間平均の読みは、例えば50から500ミリ秒の所定の時間間隔の圧力の読みの平均をとることによって、数値的に決定される。
【0025】
圧力の読みPinitとPfinalとの差は吸引による圧力変化として記録される。その吸引による圧力変化は、試料先端の流体量を決定するために使用される。それは、流体の密度と試料先端の幾何学的形状が既知である場合、使用され得る。圧力差Pfinal−Pinitは、その密度が既知である場合、流体柱の高さに換算され得る。その流体量は、試料先端の幾何学的形状に基づいて流体柱の高さから算出され得る。例えば血清のような、さまざまな試料の密度がほぼ知られている。典型的に既知の密度範囲を有し得る試料に関しては、その既知の範囲内の中間値がその計算用に選択され得る。試料表面の気泡あるいは試料中のクロットのような非理想的条件は期待値から外れた流体量を算出する。気泡により試料流体量は予想よりも小さい結果となる。クロットにより試料流体量は予想よりも大きい結果となる。
【0026】
図3はまた、気泡を含む試料の圧力特性を図示している。それは、実線および「気泡を含む試料の吸引(2)」という表記によって示されており、吸引流体量が小さく算出される結果となる。この場合、「最初の減衰(2)」によって示された最初の減衰は、最初の上昇の直後に生じる。従って吸引の経過時間は、通常より少ない。また、最終圧力の読みは、「最終レベル(2)」によって示されており、通常試料の最終圧力の読みより少ない。
【0027】
図4はまた、クロットを含む試料の圧力特性を図示する。それは、実線および「クロットを含む試料の吸引(3)」という表記によって示されており、吸引流体量が高く計算される結果となる。この場合圧力の読みは、減衰前に、通常の試料から予想される値よりも大きい値まで上昇し続け、「最初の減衰(3)」に示されている。最終圧力の読みは、「最終レベル(3)」に示されており、通常試料の最終圧力の読みよりも大きい。
【0028】
特定の試料の予想値とは異なる流体量あるいは経過時間の検出時に、そのシステムは信号を提供する。その信号は警報ランプあるいは警報音であり得る。試料流体量および経過時間の算出は任意の適切な方法、例えばプログラムされたマイクロプロセッサによって、あるいは回路機構によってなされ得る。
【0029】
本発明の好ましい実施態様を示せば、特許請求の範囲に記載された発明の範囲および精神の範囲内で、当業者は多くの変形が可能であることを理解する。したがって、本発明を特許請求の範囲によって示されるのみに限ることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−2423(P2010−2423A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190542(P2009−190542)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【分割の表示】特願2000−524677(P2000−524677)の分割
【原出願日】平成10年12月2日(1998.12.2)
【出願人】(500046243)バイエル コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】