説明

自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための方法

電気的に制御可能なハイドロリック弁(V1〜V8)を備えた、自動車に用いられるブレーキシステム(1)を運転するための方法が記載される。ハイドロリック弁(V1〜V8)のコイルが、ブレーキシステム(1)のハイドロリックシステムに位置するハイドロリック流体を温めるために、ハイドロリック弁(V1〜V8)の無通電の切換状態を変化させる電流で少なくとも段階的に通電される。本発明によれば、ハイドロリック流体が、このハイドロリック流体の温め段階を招くハイドロリック流体温度に関連した、第1の加熱段階と、この第1の加熱段階に続く第2の加熱段階とから成る加熱分布を介して温められる。この場合、コイルは、第1の加熱段階の間、この第1の加熱段階の終了時のコイル温度が、それぞれ予め規定されたコイル温度値に相当しているように通電される。このコイル温度値は、第2の加熱段階の間、コイルの通電によって少なくとも近似的に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための方法であって、該ブレーキシステムが、電気的に制御可能なハイドロリック弁を備えており、該ハイドロリック弁が、コイルを備えて形成されており、該コイルのうち、少なくとも1つのコイルを、ブレーキシステムに位置するハイドロリック流体を温めるために、ハイドロリック弁の無通電の切換状態を変化させる電流で少なくとも段階的に通電し、この場合、コイル側の通電によるハイドロリック流体の温めを、閾値よりも小さなハイドロリック流体温度の付与時の開始して、自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための方法に関する。
【0002】
実際の使用から知られているブレーキシステムは、快適性に向けられた機能のほかに、安全に関して重要な運転方法も有している。この運転方法は、いわゆる「ABSシステム」または「ESPユニット」によって使用される。特に車両の走行安定性を安定化するブレーキシステム側の制動介入時には、安全に関して臨界的な走行状況の認識後、ブレーキシステムのその都度の増圧動特性に関連した短い反応時間が必要となる。
【0003】
ブレーキシステムの増圧動特性は、車両の極めて低い周辺温度の場合、ブレーキシステムのブレーキフルードの、高められた粘度によって著しく損なわれ、これによって、ブレーキシステムの十分に短い反応時間が困難にしか変換可能とならない。なぜならば、ブレーキシステムのハイドロリックシステムにおけるブレーキフルードの、高められた粘度によって、高い圧力損失が生ぜしめられるからである。
【0004】
米国特許第5971503号明細書に基づき、ハイドロリックポンプと、ハイドロリック圧に関連して操作可能な装置とを備えたハイドロリック的な制御システムが公知である。この制御システムは、ハイドロリック管路と、ハイドロリック弁と、このハイドロリック弁を通電するための電子的な制御回路とを有している。これによって、ブレーキシステムに位置するハイドロリック流体が、増圧動特性を損なう粘度を有している事例において、ハイドロリック弁の領域で通電によってハイドロリック流体が温められる。
【0005】
しかし、この場合、ハイドロリック弁が、無通電の切換状態に対して等価の運転状態からブレーキシステムのハイドロリック流体の温め段階の間に逸脱せず、ハイドロリック流体の温めが僅かな加熱出力でしか実施されないように通電されることが不利である。これによって、ブレーキシステムの増圧動特性が、望ましくないほど長い時間後に初めて改善される。
【0006】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10163524号明細書に基づき公知の、電気的に制御可能なハイドロリック弁と、ハイドロリックポンプとを備えた、自動車に用いられるブレーキ装置を制御するための方法では、ハイドロリック的な制御機能に対して必要となる1つまたはそれ以上の既存の弁コイルが、このコイルを収容する1つまたはそれ以上の枠体の電気的な加熱のために、調整機能に対して必要となる期間よりも長い期間の間にかつ/または調整機能に対して必要とならない期間内に、各弁を、この弁が無通電状態で閉鎖されている場合に開放するかもしくは無通電状態で開放されている場合に閉鎖するために適した電流強さで制御される。
【0007】
この方法では、ハイドロリック弁が、米国特許第5971503号明細書に基づき公知の方法よりも高い電流強さで通電される。これによって、ブレーキ装置のハイドロリック流体が、ブレーキシステムのより良好な増圧動特性を可能にする粘度をハイドロリック流体が有する温度の方向により迅速に温められる。
【0008】
この場合、ブレーキ装置のハイドロリック流体が、まず、第1の加熱段階の間に温められることが提案されている。この第1の加熱段階は、第1の加熱パルスと、所定の加熱段階によって続けられて、少なくとも1つの別の加熱パルスとを有している。この場合、第1の加熱段階後、少なくとも1回の温度測定が実施される。この場合、特に加熱段階の範囲内で温度測定は実施されない。さらに、温度センサによって測定された温度が、設定された閾値温度を下回っている場合に初めてまたは設定された閾値温度を下回っている場合にだけ、第2のまたは後続の加熱段階が開始されることが提案されている。
【0009】
しかし、この場合、ブレーキシステムのハイドロリック弁の領域でのブレーキシステムのハイドロリック液の温度の直接的な測定が、高い装置上の手間を要求し、したがって、高いコストを招くことが不利である。
【0010】
ハイドロリック流体の温度測定に対するコストを減少させるために、たとえばハイドロリック流体を温めるために通電されるハイドロリック弁の領域におけるハイドロリック流体の温度に対して等価の量を測定技術的にブレーキシステムの運転中に測定する可能性が存在している。このためには、たとえばブレーキシステムにすでに設けられた、可能な限りブレーキ装置のハイドロリックブロックの近くに位置決めされた温度センサを使用する可能性が存在している。
【0011】
しかし、このような温度測定には、不利には、ブレーキ装置の運転中に生ぜしめられる、このブレーキ装置の電気的な制御装置の領域における発熱によって影響が与えられる。このことは、運転中に生ぜしめられる、制御装置の領域における、ハイドロリック流体のさほどの昇温も生ぜしめない温度上昇によって、事情により、ハイドロリック流体が、悪化させられた測定結果に基づき、ブレーキ装置の増圧動特性の改善のために必要となる形式で温められないほどに、ブレーキシステムにすでに設けられた温度センサによる温度検出に影響が与えられるという事実から生ぜしめられる。なぜならば、温度センサを介して検出された温度がハイドロリック流体の温度に全く相当しておらず、ハイドロリック流体が相変わらず、ブレーキシステムの増圧動特性を悪化させる温度を有しているにもかかわらず、ブレーキシステムの加熱が終了されるからである。
【0012】
したがって、本発明の課題は、電気的に制御可能なハイドロリック流体を備えた、自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための方法を改良して、ブレーキシステムの増圧動特性が簡単にかつ廉価に改善可能となるようにすることである。
【0013】
この課題を解決するために本発明の方法では、ハイドロリック流体を、該ハイドロリック流体の温め段階を招くハイドロリック流体温度に関連した、第1の加熱段階と、該第1の加熱段階に続く第2の加熱段階とから成る加熱分布を介して温め、この場合、少なくとも1つのコイルを、第1の加熱段階の間、該第1の加熱段階の終了時のコイル温度が、それぞれ予め規定されたコイル温度値に相当しているように通電し、該コイル温度値を、第2の加熱段階の間、コイルの通電によって少なくとも近似的に保持するようにした。
【0014】
本発明の有利な実施態様によれば、コイル温度値が、ブレーキシステムの周辺温度に関連している。
【0015】
本発明の有利な実施態様によれば、コイルに流れる電流値が、第1の加熱段階および/または第2の加熱段階の間に変化する。
【0016】
本発明の有利な実施態様によれば、温め段階を最大の加熱時間の経過後に終了する。
【0017】
本発明の有利な実施態様によれば、ハイドロリック流体の温め段階を、ブレーキシステムの目下の運転状態に対して妥当でない、ブレーキシステムにおける圧力の認識時に中断する。
【0018】
本発明の有利な実施態様によれば、ハイドロリック流体の温め段階を、自動車の搭載電源の供給電圧の閾値の超過時に中断する。
【0019】
本発明の有利な実施態様によれば、当該方法を、運転者側でかつ/またはブレーキシステム側で要求された制動の認識時に中断する。
【0020】
本発明の有利な実施態様によれば、運転者側で要求された制動をセンサ装置の信号に関連して検出する。
【0021】
本発明の有利な実施態様によれば、ハイドロリック流体の温め段階の終了時にハイドロリック弁の通電を停止する。
【0022】
本発明の有利な実施態様によれば、ブレーキシステムが、2つの圧力回路を有しており、両圧力回路が、ハイドロリック弁を備えて形成されており、ハイドロリック流体を温めるために、圧力回路のそれぞれ少なくとも1つのハイドロリック弁を通電する。
【0023】
発明の利点
電気的に制御可能なハイドロリック弁を備えた、自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための本発明による方法では、ハイドロリック弁のコイルが、ブレーキシステムのハイドロリックシステムに位置するハイドロリック流体を加熱するために、ハイドロリック弁の無通電の切換状態を変化させる電流で少なくとも段階的に通電される。この場合、ハイドロリック流体の温めは、閾値よりも小さなハイドロリック流体温度の付与時に開始される。
【0024】
本発明によれば、ハイドロリック流体が、このハイドロリック流体の温め段階を招くハイドロリック流体温度に関連した、第1の加熱段階と、この第1の加熱段階に続く第2の加熱段階とから成る加熱分布を介して加熱される。この場合、コイルは、第1の加熱段階の間、この第1の加熱段階の終了時のコイル温度が、それぞれ予め規定されたコイル温度値に相当しているように通電される。このコイル温度値は、第2の加熱段階の間、コイルの通電によって少なくとも近似的に保持される。
【0025】
ハイドロリック弁がその切換位置を変化させる本発明による方法では、自動車のブレーキシステムの増圧動特性が、米国特許第5971503号明細書に提案された形式により運転されるブレーキシステムに比べて、より短い時間の範囲内で改善される。
【0026】
付加的には、ハイドロリック弁のコイルの通電によって熱エネルギで負荷される構成部材、すなわち、ハイドロリック弁の弁最終段に、ブレーキシステムの機能を損なう形式で不利に影響が与えられるかもしくは被害が与えられることなしに、ブレーキシステムの増圧動特性が本発明による方法よって最大の加熱出力で実施される。
【0027】
ハイドロリック流体の温め段階を招くハイドロリック流体温度に関連した、第1の加熱段階と、この第1の加熱段階に続く第2の加熱段階とを有する加熱分布によるハイドロリック流体の温め段階の実施は、ブレーキシステムひいてはハイドロリック流体をハイドロリック弁の領域で第1の加熱段階の間に短い時間の範囲内で加熱する可能性を提供する。この第1の加熱段階に続く第2の加熱段階の間、ブレーキシステムに引き続き熱エネルギが供給される。このことは、ハイドロリック弁のコイルの通電の遮断なしに、第1の加熱段階に比べて僅かな加熱出力で構成部材の過負荷なしに行われる。これによって、ハイドロリック流体が、増圧動特性の改善のために必要となる形式で構成部材に対して穏やかに温度調整される。
【0028】
さらに、本発明による方法は、ハイドロリック弁の領域におけるハイドロリック流体の温度の、高いコストを招きかつブレーキシステムの運転中に温められる構成部材に基づき悪化させられる測定を省略する可能性を簡単に提供する。なぜならば、ブレーキシステムの感温性の構成要素の、許容できない構成部材負荷を得ることなしに、ハイドロリック流体がその都度、このハイドロリック流体の温め段階の開始に対して目下のハイドロリック流体温度に関連した、有利には実用的に検出される加熱分布によって温められるからである。
【0029】
ハイドロリック弁は、有利には第1の加熱段階の間、ブレーキシステムの構成部材の温度だけでなく、ハイドロリック流体の温度も近似的に線形の上昇を有するような電流値で通電されてよい。ブレーキシステムの構成部材にそれぞれ被害を与えない構成部材温度への到達によって、ハイドロリック流体の温め段階の第2の加熱段階が開始される。この第2の加熱段階は、いわゆる「定常段階」を成している。この第2の加熱段階の間、ハイドロリック流体のコイルは、システムの感温性の構成部材の、第1の加熱段階の終了時に付与された構成部材温度が保持され、ハイドロリック流体の温度が、ブレーキシステムの良好な増圧動特性のために必要となる温度に迅速に上昇させられるような電流強さで通電されてよい。
【0030】
本発明による対象の更なる利点および有利な実施態様は、明細書、図面の簡単な説明および特許請求の範囲から知ることができる。
【0031】
本発明による方法の1つの実施態様を図面にブロック回路図の形で概略的に簡単に示し、以下の説明において詳しく説明する。
【0032】
実施例の説明
図1には、車両の、ハイドロリック弁を備えて形成されたブレーキシステム1もしくは制動圧調整システム、有利にはTCSシステムまたはESPシステムの回路図が示してある。このシステム1は、第1の圧力回路2と、この第1の圧力回路2から分離された第2の圧力回路3とを有している。両圧力回路2,3は互いに同一に形成されている。したがって、圧力回路2,3の構成部材の機能性の説明では、以下の説明において、主として、第1の圧力回路2に対してのみ詳しく説明する。
【0033】
両圧力回路2,3は、図示の構成では、マスタブレーキシリンダ4に接続されていて、このマスタブレーキシリンダ4から出発して、運転者側でのブレーキペダル5の操作に関連して、ブレーキブースタ6を介して自体公知の形式で変換されたハイドロリック圧で負荷される。マスタブレーキシリンダ4は、図示の構成では、ハイドロリック流体容器もしくはブレーキフルード容器7に接続されている。この容器7は、実際の使用に基づき知られている車両においてエンジンルーム内に配置されていて、注入管片8を介して充填可能である。この場合、ブレーキフルード容器7内には、主として、周辺圧が予め形成されている。
【0034】
マスタブレーキシリンダ4の下流側では、切換弁V1と高圧切換弁V2とが、互いに並列な管路系統L1,L2に配置されており、これによって、マスタブレーキシリンダ4から出発したハイドロリック流体体積流が、第1の圧力回路2内で選択的に切換弁V1または主圧切換弁V2を介してホイールブレーキシリンダRB1,RB2の方向に案内可能となる。
【0035】
さらに、切換弁V1の下流側には、圧力回路2の管路分岐点ZP1が設けられている。この管路分岐点ZP1には、切換弁として形成された2つのホイール流入弁V3,V4が後置されている。両ホイール流入弁V3,V4と切換弁V1とは、無通電状態で開放している弁として形成されており、これによって、弁V1,V3,V4は、その制御電流で負荷されていないブレーキシステム1の通常の運転中に開放されており、これによって、運転者側でのブレーキペダル5の操作時に遅れなしの制動を実施することができる。
【0036】
さらに、高圧切換弁V2の下流側には、流れ回路2の管路分岐点ZP2が設けられている。この管路分岐点ZP2は2つのホイール流出弁V5,V6に接続されている。両ホイール流出弁V5,V6は、ホイール流入弁V3,V4とホイールブレーキシリンダRB1,RB2との間に延びる供給管路L3,L4の別の2つの分岐点ZP3,ZP4の領域でホイールブレーキシリンダRB1,RB2の制御圧によって負荷される。
【0037】
ホイール流出弁V5,V6は、無通電状態で閉鎖されている弁として形成されており、これによって、運転者側で要求されたホイールブレーキシリンダRB1,RB2内の増圧が、ブレーキシステム1の通常のブレーキ運転中に確実に保証されている。
【0038】
切換弁V1から、逆止弁RV1を備えて形成されたバイパス管路BL1が分岐しており、これによって、マスタブレーキシリンダ4とホイールブレーキシリンダRB1,RB2との間のハイドロリック的な接続が切換弁V1によって遮断されている切換弁V1の誤機能の場合に、ハイドロリック圧がバイパス管路BL1を介して引き続き提供され、切換弁V1の故障時にも、要求された制動が実施される。
【0039】
相応の装置を介して、車両の、ホイールブレーキシリンダRB1またはホイールブレーキシリンダRB2によって制御されたホイールが、望ましくない形式でロックしていることが検出されると、ホイールブレーキシリンダRB1またはホイールブレーキシリンダRB2への圧力供給が、ホイール流入弁V3またはホイール流入弁V4の領域で、該当する弁の電磁式の操作ユニットの相応の通電によって遮断され、各ホイールブレーキシリンダRB1;RB2に対応したホイール流出弁V5;V6が制御され、これによって、ホイールブレーキシリンダRB1内の圧力またはホイールブレーキシリンダRB2内の圧力が、必要となる量だけ減少させられており、ホイールのロックが解消されている。
【0040】
ホイール流出弁V5,V6の開放時には、この両弁を介して案内されたハイドロリック流体が、図示の構成ではシングルピストンポンプとして形成された押退けエレメント10の吸込み側の方向に供給される。ホイール流出弁V5,V6と、定容量型ポンプもしくはコンスタントな押退け容積を備えた圧送装置を成す押退けエレメント10との間の接続管路V5内には、逆止弁RV2が配置されており、これによって、ハイドロリック流体がホイール流出弁V5,V6から押退けエレメント10の方向にしか案内可能とならない。
【0041】
さらに、ホイールブレーキシリンダRB1,RB2の領域での望ましくない圧力上昇または許容できない圧力上昇を回避するために、ホイール流入弁V3,V4をホイール流出弁V5,V6を閉鎖したまま遮断する可能性も存在している。
【0042】
第2の逆止弁RV2と押退けエレメント10との間では、高圧切換弁V2の無通電状態でこの高圧切換弁V2によって遮断された管路系統L2が、押退けエレメント10の吸込み側で接続管路L5に開口している。これによって、マスタブレーキシリンダ4から第1の圧力回路2に供給されたハイドロリック流体体積流が、高圧切換弁V2の相応の通電と同時に切換弁V1の閉鎖時に第2の逆止弁RV2と押退けエレメント10との間でこの押退けエレメント10の吸込み側に供給可能となり、ホイールブレーキシリンダRB1,RB2の領域における圧力が、必要に応じて、付加的な圧縮作業によって、ブレーキブースタから出発した圧力に対してアクティブに可変となる。
【0043】
これは、両ホイールブレーキシリンダRB1,RB2が、切換弁V1の閉鎖と同時にホイール流入弁V3,V4の開放時に押退けエレメント10の吐出し側に流体接続されており、マスタブレーキシリンダ4から出発したハイドロリック圧が、押退けエレメント10の領域で電動モータ11の回転駆動に相応して、要求された形式で、ブレーキシステム1の、快適性に向けられた種々異なる機能を実現するために必要になる圧力値に上昇させられることを意味している。
【0044】
図2には、自動車に用いられる、電気的に制御可能なかつコイルを備えて形成されたハイドロリック弁を備えたブレーキシステム、有利には図1に示したブレーキシステム1を運転するための本発明による方法の、著しく簡単に示したフローチャートが示してある。
【0045】
この場合、本発明による方法は、まず、ステップS1の間、自動車の運転者が車両の点火装置をオンにする場合に開始される。第1のステップS1に続く質問ステップS2の間、ブレーキシステム1に位置するハイドロリック流体の温度またはこれに等価の温度値が検出され、この検出された温度値が、ハイドロリック流体温度の予め規定された閾値よりも小さいかどうかが検査される。この場合、本発明による方法は、質問ステップS2の質問結果が否定的である場合に中止される。
【0046】
質問ステップS2の質問結果が肯定的である場合には、第3のステップS3に分岐される。この第3のステップS3の間、図1に示したブレーキシステム1のそれぞれ異なるハイドロリック弁のコイルが、以下に詳しく説明する形式で通電され、これによって、ハイドロリック流体温度が上昇し、これによって、ハイドロリック流体もしくはブレーキフルードの粘度が、ブレーキシステム1の増圧動特性を改善する形式でブレーキシステムのハイドロリックユニットの領域で低下させられ、ブレーキシステム1をより短い増圧動特性時間で、改善して運転することができる。
【0047】
このために、図示の実施態様では、ブレーキシステム1の、たとえば車両リヤアクスルに対応配置された第1の圧力回路2の切換弁V1、高圧切換弁V2ならびにホイール流入弁V3,V4を有する規定されたセットのハイドロリック弁が通電される。付加的に、車両フロントアクスルに対応配置された第2の圧力回路3の切換弁V7および第2の圧力回路3の高圧切換弁V8もハイドロリック流体の温めもしくは昇温のために通電されてよく、これによって、ハイドロリック流体にブレーキシステム1のこの領域で熱エネルギが供給可能となる。この場合、車両の車両フロントアクスルの領域での制動は妨害されない。なぜならば、ブレーキシステム1の、車両フロントアクスルのホイールに対応配置されたホイールブレーキシリンダRB3,RB4の圧力負荷が、第2の圧力回路3の、通電された高圧切換弁V8の領域で解消されているからである。当然ながら、その都度付与される使用事例に関連して、ブレーキシステムの第2の圧力回路の、車両フロントアクスルのホイールブレーキシリンダの負荷のために設けられたハイドロリック弁を、このハイドロリック弁がその無通電の切換状態を変化させるか切り換える電流値よりも小さい電流値で通電することは、当業者の裁量にある。
【0048】
この場合、ブレーキシステム1の、先に列挙したハイドロリック弁の通電は、予め規定された電流分布もしくは電圧分布によって行われる。この場合、ハイドロリック弁の通電の高さは、このハイドロリック弁が少なくとも段階的にその切換位置を変化させるように設定される。これは、無通電状態で閉鎖されているハイドロリック弁がハイドロリック流体の加熱の間に少なくとも段階的に開放され、無通電状態で開放しているハイドロリック弁が少なくとも段階的に閉鎖されることを意味している。
【0049】
ハイドロリック弁の無通電の切換状態を変化させる電流でのブレーキシステム1のハイドロリック弁の、コンセプトに起因した通電は、有利には短いプロセス時間の範囲内で、ハイドロリック弁の、ほぼハイドロリック流体の温度の線形の上昇を生ぜしめるコイル温度に繋がる。
【0050】
さらに、当該方法の実行の間のハイドロリック弁の通電は、ブレーキシステムの周辺温度が規定されている場合に、通電されたハイドロリック弁のコイルの、予め規定された最大のコイル温度が上回られないように設定されている。これによって、過度に高い温度がハイドロリック弁の弁最終段の範囲に生ぜしめられず、ブレーキシステム1の感温性の構成部材の損傷が回避され、さらに、ブレーキシステム1の全ての機能性がハイドロリック流体の温めにもかかわらず十分に提供されることが確保される。
【0051】
この場合、ブレーキシステム1のハイドロリック流体が、このハイドロリック流体の温め段階を質問ステップS2の間に招くハイドロリック流体温度に関連した加熱分布を介して温められることが提案される。この加熱分布は、第1の加熱段階と、この第1の加熱段階に続く第2の加熱段階とから成っている。この場合、ブレーキシステム1の、通電したいハイドロリック弁のコイルは、第1の加熱段階の間、この第1の加熱段階の終了時のコイル温度が、それぞれ予め規定されたコイル温度値に相当しているように通電される。このコイル温度値は、第2の加熱段階の間、コイルの第1の加熱段階の間よりも僅かな通電によって少なくとも近似的に保持される。この場合、コイル温度値は、全ての加熱分布に対してコンスタントであり、ここから逸脱して、ブレーキシステム1の周辺温度に関連して変化させることができる。
【0052】
これは、ハイドロリック弁が第1の加熱段階もしくは高電流段階の間により高い電流で通電され、次いで、第2の加熱段階の間により小さな電流で通電され、これによって、ハイドロリック弁が、主として、ハイドロリック流体の全温め段階の間、たとえば最大の温め時間が達成されるまで、常に通電されることを意味している。この温め時間の経過後、ハイドロリック流体は、ブレーキシステム1の増圧動特性を改善する温度もしくは粘度を有している。
【0053】
この場合、第1の加熱段階の加熱時間と、第2の加熱段階の加熱時間と、コイルに供給される電流強さの高さとは実用的に規定されていて、有利には、ブレーキシステム1の制御装置に格納された特性マップから、本発明による方法の開始のために付与されるハイドロリック流体温度またはブレーキシステムの、このハイドロリック流体温度に対して等価の温度値に関連して選択される。これは、ブレーキシステム1がそのハイドロリックユニットの領域で所定の加熱分布によって、ブレーキシステム1の構成部材の損傷を確実に回避する加熱出力で加熱されることを意味している。
【0054】
ハイドロリック流体をその都度最大の加熱出力で温めることができるようにするためには、コイルに供給される電流強さが、第1の加熱段階もしくは高電流段階の間だけでなく、第2の加熱段階もしくは定常段階の間でも変化する。この場合、本発明による方法の別の実施態様では、電流強さが、第1の加熱段階および/または第2の加熱段階の間、少なくとも近似的にコンスタントに保持されることが提案されていてもよい。
【0055】
付加的に、加熱分布は、ブレーキシステム1の自体公知の機能性がハイドロリック弁の加熱によって損なわれないようにも規定されている。なぜならば、ブレーキシステム1の、ハイドロリック流体の温めによって熱エネルギで負荷される構成部材が、ブレーキシステム1の機能を保証するために必要となる温度未満に保持されるからである。
【0056】
第3のステップには、質問ステップS4が続いている。この質問ステップS4の間には、ハイドロリック流体の温め段階を終了するために1つまたはそれ以上の中止基準が付与されるかどうかが検査される。質問ステップS4の質問結果が否定的である場合には、ステップS3に戻され、弁が引き続き通電される。
【0057】
質問ステップS4の質問結果が肯定的である場合には、ハイドロリック流体の温め段階が、ブレーキシステム1の弁の通電の停止によってステップS5の間に中止される。
【0058】
この場合、質問ステップS4の間、特に予め規定された最大の加熱時間が上回られているかどうかが検査される。
【0059】
ハイドロリック流体の温め段階の中断に通じる基準は、車両搭載電源の、いわゆる「不足電圧」の認識、ブレーキシステム1の圧力回路2,3内の、妥当でないハイドロリック圧の検出ならびに車両の、妥当でない遅れの付与である。
【0060】
したがって、たとえば車両の運転中にブレーキシステムの制御装置の端子で車両の搭載電源の供給電圧が検出され、予め規定された閾値を上回った場合に、搭載電源による別の消費器への電気的な供給を危険にさらさないかもしくは損なわないために、ハイドロリック弁の通電が中断される。
【0061】
特にハイドロリック流体の温めのために通電されるハイドロリック弁がその無通電の切換状態から切り換えられ、この場合に閉鎖されたホイール流入弁V3,V4と、ホイールブレーキシリンダRB1,RB2との間で、ブレーキシステム1のブレーキドラムまたはブレーキディスクへのブレーキライニングの当付けと、場合により、これに基づき生ぜしめられる望まれていない制動出力とに繋がる圧力値が増加させられ得るので、ハイドロリック流体の温めの間のブレーキシステム1における圧力が検査される。
【0062】
一般的に、本発明による方法は、ブレーキシステム1の制動またはフルアクティブな介入に対する運転者側の要求が行われる場合に、任意の各プロセス段で中断される。これによって、ブレーキシステム1の自体公知の機能性が本発明による方法によって損なわれないことが確保される。車両側で要求された制動は、図示の実施態様では、有利には、ブレーキシステム1の主圧シリンダ4の圧力センサの圧力信号またはブレーキペダル5またはブレーキランプスイッチに対応配置されたセンサ装置に関連して、図示しない形式で検出される。
【0063】
前述した本発明による方法は、ハイドロリック流体の不利な運転温度の場合の増圧動特性を改善するために、あらゆるブレーキシステム、特に慣用のリターンハイドロリック装置、たとえばESPユニットに簡単に使用可能であり、ほんの僅かな手間で既存のブレーキシステムに実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明により運転されるブレーキシステムの回路図である。
【図2】本発明による方法の著しく簡単なフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 ブレーキシステム、 2 圧力回路、 3 圧力回路、 4 マスタブレーキシリンダ、 5 ブレーキペダル、 6 ブレーキブースタ、 7 ブレーキフルード容器、 8 注入管片、 10 押退けエレメント、 11 電動モータ、 BL1 バイパス管路、 L1 管路系統、 L2 管路系統、 L3 供給管路、 L4 供給管路、 L5 接続管路、 RB1 ホイールブレーキシリンダ、 RB2 ホイールブレーキシリンダ、 RB3 ホイールブレーキシリンダ、 RB4 ホイールブレーキシリンダ、 RV1 逆止弁、 RV2 逆止弁、 S1 ステップ、 S2 質問ステップ、 S3 ステップ、 S4 質問ステップ、 S5 ステップ、 V1 切換弁、 V2 高圧切換弁、 V3 ホイール流入弁、 V4 ホイール流入弁、 V5 ホイール流出弁、 V6 ホイール流出弁、 V7 切換弁、 V8 高圧切換弁、 ZP1 管路分岐点、 ZP2 管路分岐点、 ZP3 分岐点、 ZP4 分岐点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に用いられるブレーキシステム(1)を運転するための方法であって、該ブレーキシステム(1)が、電気的に制御可能なハイドロリック弁(V1〜V8)を備えており、該ハイドロリック弁(V1〜V8)が、コイルを備えて形成されており、該コイルのうち、少なくとも1つのコイルを、ブレーキシステム(1)に位置するハイドロリック流体を温めるために、ハイドロリック弁(V1〜V8)の無通電の切換状態を変化させる電流で少なくとも段階的に通電し、この場合、コイル側の通電によるハイドロリック流体の温めを、閾値よりも小さなハイドロリック流体温度の付与時の開始して、自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための方法において、ハイドロリック流体を、該ハイドロリック流体の温め段階を招くハイドロリック流体温度に関連した、第1の加熱段階と、該第1の加熱段階に続く第2の加熱段階とから成る加熱分布を介して温め、この場合、少なくとも1つのコイルを、第1の加熱段階の間、該第1の加熱段階の終了時のコイル温度が、それぞれ予め規定されたコイル温度値に相当しているように通電し、該コイル温度値を、第2の加熱段階の間、コイルの通電によって少なくとも近似的に保持することを特徴とする、自動車に用いられるブレーキシステムを運転するための方法。
【請求項2】
コイル温度値が、ブレーキシステム(1)の周辺温度に関連している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
コイルに流れる電流値が、第1の加熱段階および/または第2の加熱段階の間に変化する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
温め段階を最大の加熱時間の経過後に終了する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ハイドロリック流体の温め段階を、ブレーキシステム(1)の目下の運転状態に対して妥当でない、ブレーキシステム(1)における圧力の認識時に中断する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ハイドロリック流体の温め段階を、自動車の搭載電源の供給電圧の閾値の超過時に中断する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
当該方法を、運転者側でかつ/またはブレーキシステム側で要求された制動の認識時に中断する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
運転者側で要求された制動をセンサ装置の信号に関連して検出する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ハイドロリック流体の温め段階の終了時にハイドロリック弁の通電を停止する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ブレーキシステム(1)が、2つの圧力回路(2,3)を有しており、両圧力回路(2,3)が、ハイドロリック弁(V1〜V8)を備えて形成されており、ハイドロリック流体を温めるために、圧力回路(2,3)のそれぞれ少なくとも1つのハイドロリック弁(V1〜V8)を通電する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−509837(P2009−509837A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532715(P2008−532715)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066390
【国際公開番号】WO2007/036438
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】