説明

自動車のステアリングシステム

【課題】操舵フィーリングを改良できる、自動車の新式のステアリングシステムを提供することである。
【解決手段】少なくとも1つのセンサが、前記ステアリングモーメントアシストユニット(16)の支承体(19)に作用する支承力を測定技術的に検出し、前記ステアリングモーメントアシストユニット(16)が、運転者によって付与されたステアリングモーメントと、測定技術的に検出された支承力とに基づいてアシストステアリングモーメントを形成するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリングシステムであって、ステアリングホイールを備え、ステアリングホイールがステアリングコラムのステアリングピニオンを介してラックに係合し、ステアリングホイールを介して運転者によってステアリングモーメントがラックに付与可能であり、電気的な駆動装置と変速段とを有するステアリングモーメントアシストユニットを備え、ステアリングモーメントアシストユニットの、変速段を介してラックに係合する電気的な駆動装置を介してアシストステアリングモーメントをラックに付与可能である、自動車のステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
DE102005032037B4において自動車のためのステアリングシステムが公知となっている。このステアリングシステムでは、ステアリングコラムのステアリングピニオンを介してラックに係合するステアリングホイールを介して、ステアリングモーメントをラックに伝達できる。更に上記先行技術によるステアリングシステムは、電気的なステアリングモーメントアシストユニットを有している。ステアリングモーメントアシストユニットは電気的な駆動装置を有している。この構成において、ステアリングモーメントアシストユニットによって電気的なアシスト力をラックに付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE102005032037B4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電気的なステアリングモーメントアシストユニットを備えたステアリングシステムにおいては、ステアリングホイールにおいて運転者に重要な操舵フィーリングを提供することは困難である。なぜならば電気的なステアリングモーメントアシストユニットは大きな慣性、特に回転慣性を有しているからである。これにより走行路信号(Fahrbahnsignalen)のステアリングホイールへの伝達は著しく減じられる。これにより最終的にローパスフィルタによるフィルタリングが行われ、運転者にとっての確実な操舵フィーリングが僅かになることの原因となる。従って運転者にとって確実な操舵フィーリングを提供し、また運転者にとっての操舵フィーリングを改良することができる、電気的なステアリングモーメントアシストユニットを備えたステアリングシステムに対する需要がある。
【0005】
このことに基づいた本発明の根底にある課題は、操舵フィーリングを改良できる、自動車の新式のステアリングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係る自動車のステアリングシステムは、少なくとも1つのセンサが、ステアリングモーメントアシストユニットの支承体に作用する支承力を測定技術的に検出し、ステアリングモーメントアシストユニットが、運転者によって付与されたステアリングモーメントと測定技術的に検出された支承力とに基づいてアシストステアリングモーメントを形成するようになっている。
【0007】
本発明の有利な構成は従属請求項を対象としている。
【0008】
即ち、本発明において、好ましくは、測定技術的に検出された支承力が実際のラック力に比例している。
【0009】
好ましくは、1つ又は各センサがステアリングモーメントアシストユニットの支承体に作用する支承力を、検出される支承力がステアリングモーメントアシストユニットの回転慣性に左右されないように直接的に又は間接的に検出する。
【0010】
好ましくは、ステアリングモーメントアシストユニットの変速段が、支承体を介してステアリングケーシングに支承されており、1つ又は各センサが1つの支承体に作用する支承力を測定技術的に検出する。
【0011】
好ましくは、ステアリングモーメントアシストユニットの変速段が、弾性的な支承体を介してステアリングケーシングに支承されており、支承力が、弾性的な支承体に対する変速段の移動、及び弾性的な支承体の剛性から間接的に算出される。
【0012】
好ましくは、少なくとも2つのホールセンサが弾性的な支承体に対する変速段の移動を検出する。
【0013】
好ましくは、非弾性的な支承体を介してステアリングケーシングに支承されており、支承力が直接算出される。
【0014】
好ましくは、少なくとも2つの圧電性のセンサが支承力を検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少なくとも1つのセンサがステアリングモーメントアシストユニットの支承体に作用する支承力を測定技術的に検出し、ステアリングモーメントアシストユニットはアシストステアリングモーメントを、運転者によって与えられるステアリングモーメント及び測定技術的に検出される支承力に基づいて形成する。
【0016】
本発明の意図するところは、本発明によるステアリングシステムにおいて、電気的なステアリングモーメントアシストユニットの支承体に作用する支承力を測定技術的に検出することである。
【0017】
本発明によれば、ラックに設けられているステアリングモーメントアシストユニットによって付与されるアシストステアリングモーメントは、運転者により付与されるステアリングモーメント、更に測定技術的に検出された支承力に基づく。従って電気的なステアリングモーメントアシストユニットの大きな慣性を回避することにより、運転者に良好な操舵フィーリングを提供することができる。
【0018】
有利には、ステアリングモーメントアシストユニットの変速段は支承体を介してステアリングケーシングに支承されていてよい。この場合、1つ又は各センサは支承体に作用する支承力を測定技術的に検出する。こうしてステアリングシステムの頑丈さ及び信頼性は、特にアシストステアリングモーメントの形成を考慮して、更に改良される。
【0019】
本発明の有利な構成は、従属請求項及び以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るステアリングシステムの極めて概略的な図である。
【図2】本発明に係るステアリングシステムを明確にするためのブロック図である。
【図3】図1のステアリングシステムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1には自動車のステアリングシステムの概略図が示されている。ステアリングシステムはラック10を有している。ラック10にタイロッド(図示せず)を介してホイール11,12が係合している。更にステアリングシステムの構成部材として、ステアリングコラム15のステアリングピニオン14を介してラック10に連結されているステアリングホイール13がある。ステアリングホイール13を介して運転者によってステアリングモーメントMをラック10に付与できる。ステアリングコラム15は、例えば機械的、液圧的又は電気的なステアリングコラムであってよい。
【0023】
更に図1のステアリングシステムは電気的なステアリングモーメントアシストユニット16を有している。ステアリングモーメントアシストユニット16は電気的な駆動装置17と変速段18とを有している。この構成では、電気的な駆動装置17は変速段18を介してラック10に係合している。電気的な駆動装置17によって電気的なアシストステアリングモーメントMが、変速段18を介してラック10に付与可能である。図1によれば電気的なステアリングモーメントアシストユニット16は支承体19を介してステアリングケーシング20に支承されている。支承体19はステアリングケーシング20とステアリングモーメントアシストユニット16の変速段18との間に形成されている。
【0024】
走行中にラック10に走行路信号として、いわゆるタイロッド力FSL,FSRが作用する。電気的なステアリングモーメントアシストユニット16は大きな慣性質量体を有しているので、タイロッド力FSL,FSRは、先行技術から公知のステアリングシステムにおいては、ステアリングモーメントアシストユニット16によってフィルタリングされ、少なくとも部分的に吸収される。その結果、先行技術から公知のステアリングシステムの場合には、走行路信号は不完全にしかステアリングホイール13に伝達できない。先行技術から公知のステアリングシステムの場合には、一般的にローパスフィルタによるフィルタリングが行われる。重要な走行路信号はステアリングホイール13を介して運転者には伝達されず、運転者には確実な操舵フィーリングは伝えられない。
【0025】
本発明の意図するところは、ステアリングモーメントアシストユニット16の支承体19に走行運転中に作用する支承力Fを、少なくとも1つのセンサによって測定技術的に検出することを提案することである。この場合、測定技術的に検出された支承力Fは、ラック10に実際に作用するラック力FSL,FSRに比例している。この場合、測定技術的に検出された支承力Fと、運転者により付与されたステアリングモーメントMとに基づき、ラック10に設けられているステアリングモーメントアシストユニット16の駆動装置17は、電気的なアシストステアリングモーメントMを提供する。こうして確実な操舵フィーリングを提供でき、運転者に走行路信号を伝達することができる。走行路信号は、例えば路面における表面状態及び/又は路面の変化を示す。
【0026】
運転者により付与されたステアリングモーメントMと、測定技術的に検出された支承力Fとに基づく、ステアリングモーメントアシストユニット16の電気的な駆動装置17による電気的なアシストステアリングモーメントMの提供は、図2に明示されている。従って図2によれば、運転者によって付与されたステアリングモーメントMは、入力量としてブロック21に供給可能である。この場合にはブロック21において、運転者によって付与されたステアリングモーメントMは、特にステアリング角及び/又はステアリング速度及び/又は走行速度に基づき増幅される。測定技術的に検出された支承力Fはブロック22に供給される。ブロック22において測定技術的に検出された支承力は対応するモーメントに換算される。ブロック21の出力量は入力量としてブロック23に供給される。ブロック23において選択的なフィルタリングが行われる。更にブロック21の出力量をブロック22の出力量と差引きし、この差引きによって算出された量がブロック24に供給される。ブロック24では同様に選択的なフィルタリングを行うことができる。この場合、ブロック23及び24の出力量は、図2によれば、駆動装置17によって提供したい電気的なアシストステアリングモーメントMの規定のために互いに差し引かれる。
【0027】
従って電気的なステアリングモーメントアシストユニット16を有する本発明のステアリングシステムでは、支承体19に作用する支承力Fは測定技術的に検出される。電気的なステアリングモーメントアシストユニット16は支承力Fによってステアリングケーシング20に支承されている。測定技術的に検出された支承力Fと、運転者により付与されたステアリングモーメントMとに基づき、電気的なアシストステアリングモーメントMは規定される。
【0028】
支承体19に作用する支承力Fの測定技術的な検出は直接的に又は間接的に、とりわけ検出される支承力Fがステアリングモーメントアシストユニット16の回転慣性に左右されずに行われる。これにより電気的なステアリングモーメントアシストユニット16は大きな慣性質量体であるにもかかわらず、ステアリングシステムのステアリングホイール13に走行路信号に基づく良好な操舵フィーリングを提供することができる。従って即ち検出された支承力Fは、実際に作用するラック力もしくは実際に作用するタイロッド力に比例している。
【0029】
支承体19に作用する支承力Fを測定技術的に検出するために、例えば以下に図3に基づき記載されているように実施することができる。図3にはボール循環式伝動装置が、ラック10と、ボール循環式ナット25と、玉軸受26と共に示されている。この場合、玉軸受26は受けとして形成されている。従って図3の実施の形態では、電気的なステアリングモーメントアシストユニット16の変速段18のボール循環式ナット25が示されている。ステアリングモーメントアシストユニット16はボール循環式ナット25を介してラック10に係合する。
【0030】
ボール循環式ナット25に係合する玉軸受26を介して、変速段18、ひいてはステアリングモーメントアシストユニット16は支承体ケーシング20に支承されている。支承体ケーシング20における支持のために介在エレメント27が設けられている。介在エレメント27は、図3に示した実施の形態では弾性的な支承部として構成されている。従って玉軸受26にエラストマが対応配置されている。玉軸受26を介してステアリングケーシング20の領域には弾性的な支承体、つまり介在エレメント27が形成されている。介在エレメント27は玉軸受26とステアリングケーシング20との間において、双方向矢印28の方向における相対運動を可能にする。
【0031】
図3によれば、支承体ケーシング20に2つのセンサ29が対応配置されている。2つのセンサ29はホールセンサとして構成されていてよく、玉軸受26に対応配置された磁石30と協働する。
【0032】
玉軸受26と対応配置された磁石30との、支承体ケーシング20に対応配置されたセンサ29に対する相対的な双方向矢印28の方向における移動に基づき、センサ29は、玉軸受26ひいては変速段18の、定置のステアリングケーシング20に対する相対的な移動に対応する信号を提供する。前記移動及びエラストマとして形成された介在エレメント27の剛性から、支承力Fが算出できる。
【0033】
支承体ケーシング20とステアリングモーメントアシストユニット16との間における弾性的な支承体19の、上記形式において測定技術的に算出された支承力Fは間接的にもたらされ、ステアリングモーメントアシストユニット16の回転慣性に左右されない。この場合、少なくとも2つのセンサの使用により、確実性の理由から所望の冗長性が支承力の測定において提供される。
【0034】
図示の実施の形態とは異なり、支承力を、有利には非弾性的な支承体において直接算出することもできる、即ち少なくとも1つの圧電性の、有利には圧電セラミック製のセンサを使用することによってである。
【符号の説明】
【0035】
10 ラック、 11,12 ホイール、 13 ステアリングホイール、 14 ステアリングピニオン、 15 ステアリングコラム、 16 ステアリングモーメントアシストユニット、 17 駆動装置、 18 変速段、 19 支承体、 20 ステアリングケーシング、 21,22,23,24 ブロック、 25 ボール循環式ナット、 26 玉軸受、 27 介在エレメント、 28 双方向矢印、 29 センサ、 30 磁石、 F 支承力、 FSR,FSL タイロッド力、 M ステアリングモーメント、 M アシストステアリングモーメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のステアリングシステムであって、ステアリングホイールを備え、該ステアリングホイールがステアリングコラムのステアリングピニオンを介してラックに係合し、ステアリングホイールを介して運転者によってステアリングモーメントがラックに付与可能であり、電気的な駆動装置と変速段とを有するステアリングモーメントアシストユニットを備え、該ステアリングモーメントアシストユニットの、変速段を介してラックに係合する電気的な駆動装置を介してアシストステアリングモーメントをラックに付与可能である自動車のステアリングシステムにおいて、
少なくとも1つのセンサが、ステアリングモーメントアシストユニット(16)の支承体(19)に作用する支承力を測定技術的に検出し、ステアリングモーメントアシストユニット(16)が、運転者によって付与されたステアリングモーメントと、測定技術的に検出された支承力とに基づいてアシストステアリングモーメントを形成することを特徴とする、自動車のステアリングシステム。
【請求項2】
測定技術的に検出された支承力が実際のラック力に比例している、請求項1記載のステアリングシステム。
【請求項3】
1つ又は各センサ(29)が、ステアリングモーメントアシストユニット(16)の支承体(19)に作用する支承力を、前記検出される支承力がステアリングモーメントアシストユニット(16)の回転慣性に左右されないように直接的に又は間接的に検出する、請求項1又は2記載のステアリングシステム。
【請求項4】
ステアリングモーメントアシストユニット(16)の変速段(18)が、支承体(19)を介してステアリングケーシング(20)に支承されており、1つ又は各センサ(29)が前記支承体(19)に作用する支承力を測定技術的に検出する、請求項1から3までのいずれか一項記載のステアリングシステム。
【請求項5】
ステアリングモーメントアシストユニット(16)の変速段(18)が、弾性的な支承体(19)を介してステアリングケーシング(20)に支承されており、支承力が、弾性的な支承体に対する変速段の移動、及び弾性的な支承体の剛性から間接的に算出される、請求項4記載のステアリングシステム。
【請求項6】
少なくとも2つのホールセンサ(29)が弾性的な支承体(19)に対する変速段(18)の移動を検出する、請求項5記載のステアリングシステム。
【請求項7】
ステアリングモーメントアシストユニットの変速段が、非弾性的な支承体を介してステアリングケーシングに支承されており、支承力が直接算出される、請求項4記載のステアリングシステム。
【請求項8】
少なくとも2つの圧電性のセンサが支承力を検出する、請求項7記載のステアリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269601(P2009−269601A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111380(P2009−111380)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】