説明

自動車の車体上部構造

【課題】ルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントとを結合する自動車の車体上部構造において、車両側面衝突時の衝撃に対して上記結合部の境界でのルーフリィンフォースメントの座屈変形を抑制すること。
【解決手段】複数のパネル部材で構成された自動車の車体上部のルーフサイドレール1の各パネル部材1a,1b,1cの車内側の側縁部11,12,13を重ね合わせて結合せしめたフランジ部10を備え、該フランジ部10にルーフパネルRの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメント2の端部を重ね合わせて結合した結合部において、該結合部では、フランジ部10を構成する各側縁部11,12,13の車内方向への張出寸法を、下側のパネル部材1cから上側のパネル部材1aへと順次長く形成してフランジ部10の張出端を階段状に形成し、ルーフリィンフォースメント2の端部をフランジ部10の上面に一体に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体上部構造、特に車体のルーフの側縁に沿って前後方向に延びるルーフサイドレールと、上記ルーフの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメントとの結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のルーフにはルーフパネルの下面に沿って車幅方向に帯状に延び、左右のルーフサイドレール間を架け渡すルーフリィンフォースメントを設けてルーフの強度を強化することが行なわれている(例えば、特許文献1参照。)。ルーフリィンフォースメントはその先端末が、ルーフパネルの側縁フランジと一体にルーフサイドレールのフランジ部に重ね合わせて溶接結合されている。
【0003】
図4は、ワゴン車等、スライドドアにより開閉するドア開口を有する車両のドア開口まわりの骨格構造を示すもので、ドア開口9の上縁に沿うルーフサイドレール1は、前端にドア開口9の前縁をなす中間ピラー8の上端が結合され、該結合部に対応する位置には左右の中間ピラー8の上端間を架け渡すように車幅方向にルーフリィンフォースメント2が架設されている。ルーフサイドレール1の前端と中間ピラー8の上端との結合部には前方からフロントピラー80の上端が結合されている。左右の中間ピラー8の上端間を架け渡すルーフリィンフォースメント2以外にも、左右のルーフサイドレール1間および左右のフロントピラー80の上端部間に複数のルーフリィンフォースメント2aが架設されている。そしてこれらの上部にはルーフパネルRが設置される。
【0004】
ルーフサイドレール1にはスライドドアのアッパローラーを転動案内する図略のアッパレールが組み付けられ、ルーフサイドレール1の前端部は上記アッパレールの前端が車内側へ向けて湾曲しているのに対応して車内側へ向けて幅広に形成されている。そして幅広に形成された上記前端部にはルーフリィンフォースメント2の端部が結合される。
【0005】
図5に示すようにルーフサイドレール1は、ルーフサイドレールアッパパネル1a、ルーフサイドレールプレート1bおよびルーフサイドレールインナパネル1cで構成され、車内側には各パネル部材1a,1b,1cの側縁部11,12,13を上下に重ね合わせて溶接されたフランジ部10が形成されている。
ルーフリィンフォースメント2は断面ほぼ逆ハット形で、その底面部21をフランジ部10に上から重ね合わせ、底面部21から下方へ突出するスタッドボルト25をフランジ部10のボルト貫通孔に挿通せしめて下からナット26を締付けてルーフサイドレール1と結合されている。
【特許文献1】特開平11−29066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで車両の側面衝突時、中間ピラー8の下半部に車両横から衝突荷重Fが作用すると、その衝撃F1が中間ピラー8の上端からルーフリィンフォースメント2へ作用する。この場合、ルーフサイドレール1とルーフリィンフォースメント2との結合部では、ルーフサイドレール1を構成する各パネル部材1a,1b,1cの側縁部11,12,13とルーフリィンフォースメント2からなる4重のパネル構造であり、結合部からルーフリィンフォースメント2の非結合部へ移る境界Sでは厚さが急変するため、衝撃F1により境界Sでルーフリィンフォースメント2に応力が集中し、ルーフリィンフォースメント2が座屈変形するおそれがあり(図5の仮想線)、ルーフリィンフォースメント2が座屈変形すると、中間ピラー8の上部が車内側へ倒れ込む。
【0007】
そこでルーフサイドレール1とルーフリィンフォースメント2との結合部の境界Sでのルーフリィンフォースメント2の座屈変形を防止するため、ルーフリィンフォースメント2の境界Sの下面に補強板を重ね合わせることも考えられるが、部品のコストおよび重量の増加となるので不経済である。
本発明は上記事情に鑑み、ルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントとの結合部のルーフリィンフォースメント側の境界において、構造簡素に車両衝突時の衝撃に対する応力集中を軽減してルーフリィンフォースメントの座屈変形を抑制し、もって中間ピラーの車内側への倒れ込みを阻止する自動車の車体上部構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車体のルーフの側縁に沿って前後方向に延び、複数のパネル部材で構成されたルーフサイドレールの各パネル部材の車内側の側縁部を重ね合わせて結合せしめたフランジ部に、上記ルーフの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメントの端部を重ね合わせて結合した車体のルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントの結合部において、上記結合部では、重ね合わせて上記フランジ部を構成する上記各パネル部材の側縁部の車内方向への張出寸法を、下側のパネル部材から上側のパネル部材へと順次長く形成して上記フランジ部の張出端を階段状に形成し、上記ルーフリィンフォースメントの端部を上記フランジ部の上面に該フランジ部と一体に結合せしめる(請求項1)。
ルーフリィンフォースメントとを一体に結合した結合部の張出端を階段状に形成し、結合部の厚さを順次ルーフリィンフォースメントの厚さに近づくようにしたので、結合部との境界でルーフリィンフォースメントに応力集中が生じずルーフリィンフォースメントの座屈変形を防止することができる。
【0009】
上記ルーフサイドレールには車体の側面に立設した中間ピラーの上端との結合位置で、張出端が階段状の上記フランジ部を形成し、上記フランジ部と対応する位置に設けたルーフリィンフォースメントの端部を上記フランジ部と一体に結合せしめる(請求項2)。
ルーフサイドレールと中間ピラーとの結合位置では側面衝突時の衝撃の影響を最も受けやすく、該結合位置でフランジ部の張出端を階段状に形成することで、中間ピラーの倒れ込み変形が防止される。
【0010】
スライドドアにより開閉される車体側面のドア開口の上縁を形成する上記ルーフサイドレールは、上記パネル部材としてルーフサイドレールアウタパネルと、ルーフサイドレールインナパネルと、これら両パネルのからなる断面内に設置されたルーフサイドレールプレートとで構成する。上記ルーフサイドレールプレートの側縁部の上下にそれぞれ上記ルーフサイドレールアウタパネルの側縁部および上記ルーフサイドレールインナパネルの側縁部を重ね合わせて上記フランジ部を形成し、上記フランジ部の張出端を階段状に形成する(請求項3)。
スライドドアのドア開口の上縁をなすルーフサイドレールではフランジ部が3層構造となるのでフランジ部の張出端を階段状に形成することで、ルーフリィンフォースメントとの結合部と非結合部との境界との急激な厚さ変化をなくすことができる。
【0011】
上記ルーフリィンフォースメントを断面ほぼ逆ハット形に形成し、その高さ寸法を、上記フランジ部との結合部分から非結合部分へ移行する部分で他の部分よりも高く形成する(請求項4)。
ルーフリィンフォースメントの応力集中による座屈変形を一層有効に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1ないし図4によりワゴン車のスライドドアにより開閉されるドア開口9の上縁をなすルーフサイドレール1に本発明を適用した実施形態を説明する。
図4に示すように、ドア開口9の上縁に沿うルーフサイドレール1には、前端に中間ピラー8の上端が結合してある。ルーフサイドレール1にはスライドドアを開閉時に移動案内する図略のアッパレールが組付けられ、ルーフサイドレール1の前端は幅が車内側へ拡大してある。そして幅広に形成した前端には、ルーフリィンフォースメント2の端部が結合してある。
【0013】
またルーフサイドレール1の前端と中間ピラー8の上端との結合部には前方からフロントピラー80の上端が結合してある。そしてフロントピラー80の上半部や、ルーフサイドレール1の一般部にも、上記ルーフリィンフォースメント2以外に、所定の間隔をおいて車幅方向に複数のルーフリィンフォースメント2aが架設してある。そしてこれら上部にはルーフパネルRが設置される。
【0014】
図1および図2に示すように、ルーフサイドレール1は、これを構成するパネル部材たる上側のルーフサイドレールアウタパネル1aと下側のルーフサイドレールインナパネル1cおよび両パネル1a,1c間に設けられたルーフサイドレールプレート1bとで閉断面構造をなす。
【0015】
ルーフサイドレール1にはその車内側に、ルーフサイドレールアウタパネル1aの側縁部11、ルーフサイドレールプレート1bの側縁部12およびルーフサイドレールインナパネル1cの側縁部13を上下に重ね合わせて一体に溶接結合したフランジ部10が形成してある。フランジ部10はその前端部において一般部よりも車内側へ張り出す形状としてある。
【0016】
フランジ部10の前端部の張り出し形状は全体として丸味のある三角形状で、頂部がそのまわりよりも車内側へ突出した形状としてある。頂部の張出寸法は、ルーフサイドアウタパネル1aに突出部110を設けて、ルーフサイドレールプレート1bよりも長くしてある。ルーフサイドインナパネル1cは頂端に車内側へ向けて開口するほぼコ字形の切欠き130を設けて、張出寸法がルーフサイドレールプレート1bよりも短くしてある。
【0017】
ルーフサイドアウタパネル1aとルーフサイドレールプレート1bの張出寸法差、およびルーフサイドレールプレート1bとルーフサイドレールインナパネル1cの張出寸法差はそれぞれ10mm程度である。
またフランジ部10の頂部には、ルーフサイドレールアウタパネル1aとルーフサイドレールプレート1bとの重合部に、両者を一連に貫通するボルト貫通孔14が形成してある。
【0018】
ルーフリィンフォースメント2は車幅方向に延びる帯状の金属板で構成してあり、底壁21と前後の側壁22,22とを備えた断面ほぼ逆ハット形をなす。上記フランジ部10に結合するルーフリィンフォースメント2の端部は、前後の側壁22,22を高くして、長さ方向中間のリィンフォースメント一般部よりも高さ寸法が高く形成してある。また端部の底壁21には、フランジ部10のボルト貫通孔14と対応する位置に、下方へ突出するスタッドボルト25が固着してある。
ルーフリィンフォースメント2の先端末20は平坦な板状に形成してある。
【0019】
ルーフリィンフォースメント2は端部を、ルーフサイドレール1のフランジ部10の頂部にその上方よりスタッドボルト25をボルト貫通孔14に挿通しつつ、底壁21をフランジ部10の頂部上面に重ね合わせて、下からスタッドボルト25にナット26を締付けて一体に結合してある。
尚、かかる結合は底壁21にウエルドナットを固着して下からボルトで締付けて一体に結合する形態でもよい。
【0020】
またルーフリィンフォースメント2は、上方を覆うルーフパネルRの下面に、前後の側壁22,22の上縁フランジ23,23がマスチックシーラ等で固着してある。ルーフリィンフォースメント2の先端末20はルーフパネルRの側端縁と一体にルーフサイドレール1のルーフサイドレールアウタパネル1a,ルーフサイドレールプレート1bと重ね合わせて溶接してある。
【0021】
車両の側面衝突時、中間ピラー8の下半部に車両横から衝突荷重F(図4)が作用すると、中間ピラー8が結合されたルーフサイドレール1の前端からルーフリィンフォースメント2側へ衝撃F1が作用する。
本実施形態によれば、ルーフリィンフォースメント2の端部が重ね合わされた結合部では、ルーフサイドレール1のフランジ部10の厚さが車内側へ順次薄くなり、断面積がルーフリィンフォースメント2の底壁21の断面積に近づく構造としてあるから、結合部からルーフリィンフォースメント2側へ移行する境界S(非結合部)で断面積の急激な変化がなく応力が集中せず、ルーフリィンフォースメント2の座屈変形が生じない。これにより左右のピラー8の上端間でルーフリィンフォースメント2が支えとなって中間ピラー8の車内側への倒れ込み変形を抑えることとなる。
【0022】
また本実施形態によれば、側面衝突に対するルーフリィンフォースメント2の補強に従来構造のように別部材を付設することなく、結合部におけるフランジ部10の寸法形状を改変することで対応することができる。
【0023】
またルーフサイドレール1とルーフリィンフォースメント2との結合部からルーフリィンフォースメント2側へ移行する部分で、ルーフリィンフォースメント2の高さ寸法を高くすることで、ルーフリィンフォースメント2の座屈変形をより確実に防止できる。
【0024】
上述の実施形態では、フランジ部を3層構造としてあるものの下方の側縁部13はボルト締めしていないが、下方の側縁部13を含むフランジ部10全体の車内側へ張出寸法を大きくして下方の側端部13を他の側端部11,12と一体に締結してもよい。またフランジ部は3層構造に限らず、4層ないしそれ以上の多層構造や2層構造のフランジ部に適用してもよい。またフランジ部とルーフリィンフォースメントの結合構造はボルト締めに限らず溶接でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の自動車の車体上部構造を示すもので、図5のI−I線に沿う位置でのルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントとの結合部の断面図である。
【図2】上記車体上部構造のルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントとの結合部の分解斜視図である。
【図3】上記結合部を車内側下方から観た斜視図である。
【図4】本発明を適用するワゴン車のルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントとの結合部およびその周辺を示す概略斜視図である。
【図5】図1に対応する従来のルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントとの結合部の断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ルーフサイドレール
1a ルーフサイドレールアウタパネル(パネル部材)
1b ルーフサイドレールプレート(パネル部材)
1c ルーフサイドレールインナパネル(パネル部材)
10 フランジ部
11 ルーフサイドレールアウタパネルの側縁部
12 ルーフサイドレールプレートの側縁部
13 ルーフサイドレールプレートの側縁部
2 ルーフリィンフォースメント
8 中間ピラー
9 ドア開口
S 境界(非結合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のルーフの側縁に沿って前後方向に延び、複数のパネル部材で構成されたルーフサイドレールの各パネル部材の車内側の側縁部を重ね合わせて結合せしめたフランジ部に、上記ルーフの下面に沿って車幅方向に延びるルーフリィンフォースメントの端部を重ね合わせて結合した車体のルーフサイドレールとルーフリィンフォースメントの結合部において、
上記結合部では、重ね合わせて上記フランジ部を構成する上記各パネル部材の側縁部の車内方向への張出寸法を、下側のパネル部材から上側のパネル部材へと順次長く形成して上記フランジ部の張出端を階段状に形成し、上記ルーフリィンフォースメントの端部を上記フランジ部の上面に該フランジ部と一体に結合せしめたことを特徴とする自動車の車体上部構造。
【請求項2】
上記ルーフサイドレールには車体の側面に立設した中間ピラーの上端との結合位置で、張出端が階段状の上記フランジ部を形成し、上記フランジ部と対応する位置に設けたルーフリィンフォースメントの端部を上記フランジ部と一体に結合せしめた請求項1に記載の自動車の車体上部構造。
【請求項3】
スライドドアにより開閉される車体側面のドア開口の上縁を形成する上記ルーフサイドレールは、上記パネル部材としてルーフサイドレールアウタパネルと、ルーフサイドレールインナパネルと、これら両パネルで形成する閉断面内に設置されたルーフサイドレールプレートとで構成し、
上記ルーフサイドレールプレートの側縁部の上下にそれぞれ上記ルーフサイドレールアウタパネルの側縁部および上記ルーフサイドレールインナパネルの側縁部を重ね合わせて上記フランジ部を形成し、上記フランジ部の張出端を階段状に形成した請求項1または2に記載の自動車の車体上部構造。
【請求項4】
上記ルーフリィンフォースメントを断面ほぼ逆ハット形に形成し、その高さ寸法を、上記フランジ部との結合部分から非結合部分へ移行する部分で他の部分よりも高く形成した請求項1ないし3のいずれかに記載の自動車の車体上部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−213694(P2008−213694A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55085(P2007−55085)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】