説明

自動車の車体構造

【課題】 自動車に搭載された電波発信機から車内に発信された電波が車体を通り抜けて車外の人や動物等を誤検知しないようにする。
【解決手段】 自動車のインナパネル3とアウタパネル5とを内部空間19a(19)を有するように結合する。自動車に搭載された電波発信機から車内に発信される電波の位相を変化させる導電性シート材を基材の一側面に付着させたマット21を内部空間19a(19)に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車体構造の改良に関し、詳しくは、自動車に搭載された電波発信機から車内に発信される電波が車外の人や動物等を誤検知しないようにする対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造として、リアシート後方のリアパーセルパネルとパーセルトリムとの間に配線されたハーネスをプロテクタで覆い、ハーネスから発生した電磁波を上記プロテクタで遮断することにより、リアウインドガラスに設けられたアンテナの受信感度に上記電磁波が悪影響を及ぼさないようにした車体構造が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、最近、自動車においては、運転手が鍵をかけて自動車から離れている間に、車の盗難や車上荒しに遭うなどといった被害が後を絶たない。そのため、自動車に電波発信機を搭載し、車内に不審者が侵入して上記電波発信機から発信される電波を遮ると、例えば警報器が作動して警報音を発生させるなどして運転手や周囲にいる人に知らせるようにした盗難対策が施されている。
【特許文献1】特開平10−45036号公報(第3頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車体が樹脂製の場合には、電波発信機から発信された電波が車体を通り抜け易く、車外に出た電波を車外の人や動物等が遮ると誤検知して警報器等の機器が誤作動することになる。
【0005】
この発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、車体を通り抜けた電波が車外の人や動物等を誤検知しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、この発明は、自動車に搭載された電波発信機から車内に発信された電波が車体を通り抜けても、この通り抜けた電波が車外の人や動物等を誤検知しないように、インナパネルとアウタパネルとの間の内部空間等を有効利用したことを特徴とする。
【0007】
具体的には、この発明は、インナパネルとアウタパネルとが内部空間を有するように結合されて車室が形成される自動車の車体構造を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記インナパネル及びアウタパネルは樹脂材で成形され、上記内部空間には、自動車に搭載された電波発信機から車内に発信される電波の位相を変化させる導電性シート材を基材の一側面に付着させたマットが配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記シート材はアルミ箔であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、上記基材は吸音材であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、上記インナパネルはバックドアのインナパネルであり、上記アウタパネルはバックドアのアウタパネルであり、上記マットはアウタパネルに形成されたライセンスプレート収容部を囲むように配置され、上記ライセンスプレート収容部の裏面側にはカバーがインナパネルと内部空間を有するように配置され、上記導電性シート材を基材の一側面に付着させたマットがインナパネルとカバーとの間の内部空間にも配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、上記ライセンスプレート収容部の車幅方向両側のアウタパネルとインナパネルとの間には内部空間が形成され、上記内部空間に対応するインナパネル内面には、支柱がアウタパネルに近接するように一体に突設され、上記支柱先端とアウタパネルとの間には吸音マットが挟持され、上記ライセンスプレート収容部を囲むマットは上記吸音マットに対してインナパネル側に位置して吸音マットに部分的に重合し、上記支柱がマットを貫通していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、車内に発信される電波が車体を通り抜けても、電波の位相が物体を検知しない範囲に変化するため、車外の人や動物等を誤検知するのを防止することができる。したがって、警報器等の機器が誤作動することがない。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、アルミ箔は軽くて薄いので狭い空間にも容易に設置することができる。またアルミ箔は安価であるため、車体構造の低コスト化を図ることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、電波による誤検知防止機能と吸音機能とを併せ持ったマットを得ることができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、ライセンスプレート収容部の裏面側及びその周辺の広範囲にわたって電波による誤検知防止機能あるいはそれと吸音機能との両機能を発揮させることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、支柱が、アウタパネルの外力による凹みを防止するとともに、該支柱先端とアウタパネルとの間に吸音マットを挟持するため、該吸音マットの保持を効果的に行うことができる。
【0018】
さらに、インナパネルから突出する支柱を作業者が手で持つことができるので、インナパネルの搬送及び組付け等を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図3は自動車の車体の一部を構成するバックドア1を示し、この発明の実施の形態1に係る車体構造が上記バックドア1に適用されている。このバックドア1は、インナパネル3と、該インナパネル3の外側に結合されたアウタパネル5とで構成され、これらインナパネル3及びアウタパネル5はともに樹脂材で成形されている。
【0021】
上記アウタパネル5には略矩形の開口部11が形成され、該開口部11にウインドガラス13が取り付けられている。上記アウタパネル5の車幅方向中央部には、略矩形のライセンスプレート収容部15が車体内側に凹陥するように形成されている(図1参照)。また、ライセンスプレート収容部15の上半部分の二箇所にはライセンスプレート取り付け用の取付孔15aが形成されている。図3中、17はバックドア1を車体後部の開口部上端縁(図示せず)に下開き可能に枢支するヒンジの取付部である。
【0022】
上記インナパネル3とアウタパネル5との間には、図1に示すように、内部空間19a(19)が形成されている。この内部空間19a(19)には上記ライセンスプレート収容部15を囲むようにマット21が配置されている。このマット21は、図2(a)に拡大して示すように、導電性シート材23を基材25の一側面に付着させて形成されている。上記導電性シート材23は、自動車に搭載された電波発信機(図示せず)から車内に発信される電波が車外へ通り抜ける際、この通り抜けた電波の位相が上記電波発信機から発信された電波の位相と異なった位相となるように位相を変化させるためのものである。この車外に通り抜ける電波の位相は、車内に搭載された電波検知センサー(図示せず)による検知不能な位相に設定される。つまり、導電性シート材23は、電波発信機から発信された車内の電波が人の車内への侵入等によって遮られたときには、これを電波検知センサーが検知するが、車外へ通り抜けた電波が車外で遮られても電波検知センサーがこれを検知しないような電波の位相に変化させることができるものである。この導電性シート材23としては、アルミ箔や銅箔等であるが、軽量で、かつ狭い空間での設置作業が容易なアルミ箔を採用するのが望ましい。上記基材25としては、発泡ウレタンや多孔質マット或いはフェルト等の吸音材を用いるのが望ましい。また、この基材25は、導電性シート材23が薄くて不安定であるため、導電性シート材23を保持する役割も果たしている。このように構成されたマット21は、アウタパネル5側に導電性シート材23を、インナパネル3側に基材25を向けた状態でインナパネル3に形成されたインナパネル補強用リブ等(図示せず)によって保持されている。マット21をこのような向きに設定しているが、逆であってもよい。なお、アウタパネル5とインナパネル3とは、各々の外縁部同士が接着材26により互いに一体に接合されている。
【0023】
また、上記ライセンスプレート収容部15の裏面側には、カバー27がインナパネル3と内部空間29を有するように配置されている。このカバー27下端はインナーパネル3に形成された車幅方向に延びるスリット3aに嵌めこまれ、上端はインナパネル3に着脱可能に取付けられている。なお、上記スリット3aは複数個形成されている。このカバー27も樹脂材で成形されている。また、上記内部空間29にも、上記マット21と同様に構成されたマット31がカバー27の内面に接着されて配置されており、該マット31は図2(b)に拡大して示すように、インナパネル3側に基材25を、カバー27側に導電性シート材23を向けた状態で熱溶着によりカバー27に接合保持されている。導電性シート材23をカバー27側に位置付けたのは、上記熱溶着の際、導電性シート材23とカバー27との溶着を容易にするためである。なお、上記マット21と同様の向きにしてもよい。図1中、31aは溶着痕である。
【0024】
したがって、この実施の形態1では、導電性シート材23を基材25の一側面に付着させて形成されたマット21を、バックドア1のライセンスプレート収容部15の裏面側及びその周辺に設置しているので、車内に発信される電波が車体を通り抜けても、電波の位相が電波検知センサーによる物体を検知しない範囲に変化して、車外の人や動物等を誤検知することがなく、警報器等の機器の誤作動を防止することができる。
【0025】
また、基材25として吸音材を用いているので、電波による誤検知防止機能と吸音機能との両機能を発揮させることができる。
【0026】
さらに、導電性シート材23として軽くて薄いアルミ箔を用いれば、狭い空間での設置作業を容易に行うことができるとともに、安価な車体構造とすることができる。
【0027】
(実施の形態2)
図7は実施の形態2に係るバックドア1を示す。この実施の形態2では、ライセンスプレート収容部15の車幅方向両側に吸音マット33が、それぞれ配置されている他は、実施の形態1と同様に構成されているので、同一の構成箇所には同一の符号を付してその詳細な説明を省略し、以下相違点のみを説明する。
【0028】
すなわち、上記ライセンスプレート収容部15の車幅方向両側のアウタパネル5とインナパネル3との間には、図4に示すように、内部空間19bが形成されている。この内部空間19bは、上記実施の形態1の内部空間19aに連通して一つの内部空間19を構成している。
【0029】
上記内部空間19bに対応するインナパネル3内面には、二本の支柱35がアウタパネル5に近接するように一体に突設されている。この二本の支柱35は円筒状であって、上下方向に間隔をあけ、かつ、車幅方向に若干位置をずらして突設されている。
【0030】
上記吸音マット33は、平面視略八角形の多角形状で、ライセンスプレート収容部15の車幅方向両側のインナパネル3とアウタパネル5の間の内部空間19bに配置され、上記支柱35先端とアウタパネル5との間に挟持されている。この吸音マット33のインナパネル3側には、上記ライセンスプレート収容部15を囲むマット21が位置し、該マット21は吸音マット33に部分的(略半分の領域)に重合し、車幅方向両側に形成された挿入孔21aに上記支柱35を貫通挿入することで、支柱35に支持されている。上記吸音マット33は、図5(b)に拡大して示すように、吸音材単体からなり、図5(a)に示す二層構造のマット21とは異なる構成である。その材質としては、吸音効果を有する発泡ウレタンや多孔質マット或いはフェルト、シンサレート(住友スリーエム株式会社製、商品名)などが適している。なお、支柱35は、マット21を支持することなく、単にマット21の挿入孔21aを遊嵌状態で貫通するようにしてもよい。この場合、マット21の内部空間19bに位置する部分は、インナパネル3に形成された補強用リブ等により支持するようにすることも可能である。
【0031】
また、アウタパネル5の裏面には、上下二本の支柱35にそれぞれ接近するように溶着部37が設けられている。これら溶着部37は、図6に拡大して示すように、互いに平行に接近して突設された複数の溶着用リブ37aで構成されたリブ群からなる。その溶着の要領は、溶着部37の溶着用リブ37aに吸音マット33をあて、吸音マット33の溶着用リブ37aに接している部分を溶着機で押圧することにより、溶着マット33をアウタパネル5に溶着させる。図4中、33aはその溶着痕である。
【0032】
したがって、この実施の形態2では、実施の形態1と同様の作用効果を奏することができる。
【0033】
加えて、この実施の形態2では、ライセンスプレート収容部15を囲むマット21と吸音マット33とを部分的に重合させて支柱35で両者を一緒に保持しているので、両者を別々に保持する場合に比べて支柱35の数を半減することができるとともに、吸音マット33をアウタパネル5に熱溶着する溶着部37の個数を減少することができる。さらに、支柱35が吸音マット33をアウタパネル5側に押さえて挟持しているので、アウタパネル5が外力によって凹むのを防止することができる。上記支柱35が、アウタパネル5の外力による凹みを防止するとともに、該支柱35先端とアウタパネル5との間に吸音マット33を挟持するため、該吸音マット33の保持を効果的に行うことができる。また、複数の溶着用リブ37aが密集したリブ群(溶着部37)のところで溶着するので、個々の溶着用リブ37aに対応するアウタパネル5表側に熱収縮によるヒケを目立たないようにでき、アウタパネル5表側に溶着痕が残らず外観見栄えの低下を防止することができる。
【0034】
さらに、インナパネル3から突出する支柱を作業者が手で持つことができるので、インナパネル3の搬送及び組付け等を容易に行うことができる。なお、上記各実施の形態では、バックドアについて説明したが、インナパネルとアウタパネルとを共に樹脂材で成形したサイドドアや車室を形成する車体側部等に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、自動車に搭載された電波発信機から車内に発信される電波が車外の人や動物等を誤検知しないようにする自動車の車体構造について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図3のA−A線における断面図である。
【図2】(a)は実施の形態1において、アウタパネルとインナパネルとの間の内部空間に配置されたマットの部分拡大図、(b)は実施の形態1において、インナパネルとカバーとの間の内部空間に配置されたマットの部分拡大図である。
【図3】実施の形態1に係るバックドアの斜視図である。
【図4】図7のB−B線における断面図である。
【図5】(a)は実施の形態2において、インナパネルの支柱に保持されたマットの部分拡大図、(b)は実施の形態2において、アウタパネルとインナパネルの支柱との間に挟持された吸音マットの部分拡大図である。
【図6】実施の形態2における溶着部の拡大図である。
【図7】実施の形態2に係るバックドアの斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 バックドア
3 インナパネル
5 アウタパネル
15 ライセンスプレート収容部
19,19a,19b,29 内部空間
21,31 マット
33 吸音マット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナパネルとアウタパネルとが内部空間を有するように結合されて車室が形成される自動車の車体構造であって、
上記インナパネル及びアウタパネルは樹脂材で成形され、
上記内部空間には、自動車に搭載された電波発信機から車内に発信される電波の位相を変化させる導電性シート材を基材の一側面に付着させたマットが配置されていることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の車体構造において、
上記シート材はアルミ箔であることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動車の車体構造において、
上記基材は吸音材であることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動車の車体構造において、
上記インナパネルはバックドアのインナパネルであり、上記アウタパネルはバックドアのアウタパネルであり、
上記マットはアウタパネルに形成されたライセンスプレート収容部を囲むように配置され、
上記ライセンスプレート収容部の裏面側にはカバーがインナパネルと内部空間を有するように配置され、
上記導電性シート材を基材の一側面に付着させたマットがインナパネルとカバーとの間の内部空間にも配置されていることを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項5】
請求項4に記載の自動車の車体構造において、
上記ライセンスプレート収容部の車幅方向両側のアウタパネルとインナパネルとの間には内部空間が形成され、
上記内部空間に対応するインナパネル内面には、支柱がアウタパネルに近接するように一体に突設され、
上記支柱先端とアウタパネルとの間には吸音マットが挟持され、
上記ライセンスプレート収容部を囲むマットは上記吸音マットに対してインナパネル側に位置して吸音マットに部分的に重合し、上記支柱がマットを貫通していることを特徴とする自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−131039(P2006−131039A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320840(P2004−320840)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(300084421)ジー・ピー・ダイキョー株式会社 (50)
【Fターム(参考)】