説明

自動車用の全ガラスルーフ

本発明は、フロント車両ルーフクロスメンバとリヤ車両ルーフクロスメンバとの間のルーフ領域全体を実質的に形成し、本体に堅く接続されることができ、通気開口として使用されかつガラス板によって全周的に取り囲まれるカットアウト(2)を備え、カットアウトをしっかりと密封しかつ開放され得る第2のガラス板(3)がカットアウトの中で支持される第1のガラス板(1)を備える自動車用のガラスルーフであって、第1のガラス板は、それらの縁領域において少なくとも8MPaの圧縮応力をそれぞれが有する2枚の個々のガラス板(4、5)から成る合わせガラス板から成り、通気開口(2)の隅(8)は、少なくとも15mmであるが好ましくは少なくとも60mmの半径(R)を用いて丸められ、ガラス板(1)は、3次元的な湾曲を有することを特徴とするガラスルーフに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の通気開口を備える全ガラスルーフに関する。
【背景技術】
【0002】
その最も簡単な実施例では、自動車用のガラスルーフは、ルーフパネルの残部と同一平面にある閉位置から下降位置および後退位置に向かって変位可能に、または軸の周りに傾斜可能に取り付けられ、かつ開位置では乗員室の換気を可能にする、ルーフパネルのカットアウトに差し込まれた窓から成る。
【0003】
しかしながらまた、ルーフ面の領域全体がガラスで作られる自動車用のルーフ構造体も知られている。たとえば、独国特許出願公開第102004029740号明細書では、パノラマルーフとして実施され、フロント車両ルーフクロスメンバとリヤ車両ルーフクロスメンバとの間に延在する1枚の大きなガラス板で作られる自動車用の全ガラスルーフが説明されている。この全ガラスルーフの場合、ガラス板は、車体にそのようなものとして締結されるルーフエレメントに、車両ルーフクロスメンバを使って接続される。このガラスルーフの場合には、いかなる通気開口も設けられない。
【0004】
さらに、独国特許第3725053号明細書では、ルーフパネルの全表面を覆うガラスエレメントが説明されている。この知られているガラスエレメントは、少なくとも2つの小区域に分割され、その第1の小区域は視界があり、その第2の小区域では、太陽電池が配置される。このガラスエレメントは、同様にいかなる通気開口も有さない。
【0005】
また、ルーフパネルの大部分がガラスで作られ、変位可能な通気開口が設けられる自動車用のルーフ構造体も知られている。このようなルーフ構造体は、そのそれぞれがルーフの全幅にわたって延在し、側方の長手方向ガイドレールに取り付けられる2枚以上のガラス板を含む。これらの場合、少なくとも一方のガラス板は、通常、第2のガラス板に対して車両の長手方向に変位可能に取り付けられ、閉位置では、他方のガラス板に密封当接する。この基礎構造体を有するガラスルーフは、たとえば、独国特許出願公開第19851366号明細書、独国実用新案第202005006879号明細書、米国特許第5,261,722号明細書、米国特許第4,911,496号明細書、独国特許出願公開第10255365号明細書、独国特許出願公開第19702336号明細書、および欧州特許第0306647号明細書に説明されている。
【0006】
車両サイドウインド用の窓構造体を説明する欧州特許第0857844号明細書から、前後に動くガラス板よって開閉され得る固定ガラス板内に開口を設計することが知られている。また、固定ガラス板は、車両ルーフを形成することもできる。これが全ガラスルーフとして役立つよう意図される場合、ガラス板の設計についての詳細は、この文献では分からない。
【0007】
国際公開第2008/068325号は、全ガラスルーフのための構造体に関するものであり、通気開口は、同様に、ルーフフレームに接続される大きなガラス板内に設けられ、その開口は第2のガラス板で開閉され得る。この文献は、通気開口を開閉するための機械的構造に関係する詳細に関する。大きなガラス板は、湾曲を有し、合わせガラスで作られ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102004029740号明細書
【特許文献2】独国特許第3725053号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第19851366号明細書
【特許文献4】独国実用新案第202005006879号明細書
【特許文献5】米国特許第5,261,722号明細書
【特許文献6】米国特許第4,911,496号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第10255365号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第19702336号明細書
【特許文献9】欧州特許第0306647号明細書
【特許文献10】欧州特許第0857844号明細書
【特許文献11】国際公開第2008/068325号
【特許文献12】独国特許第4033949号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、通気開口を有する大きなガラス板を備える全ガラスルーフにおいて、ガラス板がその剛性および機械的安定性に関して自動車ルーフに課される高い要件を満たすように、車体に堅く接続される大きなガラス板を設計することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、フロント車両ルーフクロスメンバとリヤ車両ルーフクロスメンバとの間の本体に堅く接続され、ガラス板によって全周的に取り囲まれる通気開口として使用されるカットアウトを有し、そのカットアウトには、カットアウトをしっかりと密封する第2の開放可能なガラス板が取り付けられる第1のガラス板を備える自動車用のガラスルーフによって達成され、第1のガラス板は、それらの縁領域において少なくとも8MPaの圧縮応力をそれぞれが有する2枚の個々のガラス板で作られる合わせガラス板を備え、カットアウトの隅は、少なくとも15mmの半径(R)で丸められ、ガラス板は、3次元的な湾曲を有する。表現「3次元的な湾曲」とは、完全に平坦な窓ガラスから逸れた形状を指している。
【0011】
本発明によるガラスルーフは、第1のガラス板が、それらの縁領域において少なくとも4MPaであるが好ましくは少なくとも8MPaの圧縮応力をそれぞれが有する、2枚の個々のガラス板で作られる合わせガラス板から成り、通気開口の隅は、少なくとも15mmであるが好ましくは少なくとも60mmの半径で丸められ、ガラス板は、3次元的な湾曲を有するという点で区別される。
【0012】
ルーフパネルに作用する力、たとえば比較的高い駆動速度のときの風力のため、および車体に作用することがある捩り荷重のために、自動車用の全ガラスルーフは、高い形状安定性および捩り剛性を有さなければならない。しかしながら、必要な強度特性を有することになる単層安全ガラスの使用は、窓ガラスが破損した場合にはルーフ開口全体が開かれさらに通気窓を開閉するための機械的構造体と共にガラスが乗員室に落下するので、安全上の理由から全く不可能である。しかしながら、幾分大きな通気開口を有する自動車ルーフの寸法を有する標準合わせガラス板は、比較的不安定な構築物であり、したがって、全ガラスルーフの製造にそのままではやはり適さない。本発明による特性を実現することによってのみ、実際の全ガラスルーフが実施され得る。ガラス板の湾曲は、求められる形状安定性に備えるものであり、一方、縁領域に予め考えた上で組み込まれる圧縮応力は、合わせガラス板の必要な強度および捩り剛性をもたらす。最後に、通気開口のカットアウトの隅を丸めることにより、全体としてルーフの安定性を低下させることになるいかなる高い張力ピークも隅に発生しないことが確保される。通常、捩り力および風力によって生じる引っ張り応力は、より大きな曲げ半径によって低減される。
【0013】
本発明によるガラスルーフは、完全なモジュールとして通気窓を開閉するための必要な機構と共に用意され、たとえば適切な接着剤ビードを用いてルーフフレームに接着することによって、他のガラス板と同じように相応じて設計される車体開口に比較的迅速に取り付けられ得る。
【0014】
カットアウトを切り取る場合、自動車ガラス板の製造のための従来の切断行程が、容易に使用され得る。この場合は、高圧ウォータージェット切断方法を用いて切断行程を行うことが推奨され、これはまた、ガラス板の切断用にも知られている(たとえば、独国特許第4033949号明細書を参照されたい)。あるいはまた、レーザビーム切断行程もこの目的のために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による全ガラスルーフの透視図である。
【図2】本発明による全ガラスルーフの変型例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1が示すように、ガラスルーフは、大きなガラス板1を備え、これは、フロントクロスメンバとリヤクロスメンバとの間の自動車車両のルーフパネル、ならびに車両ルーフの側方の長手方向部材を形成する。フロント領域において、ガラス板1は、ルーフに通気開口を形成する比較的大きなカットアウト2を有する。このカットアウト2は、ガラス板3によって閉鎖され得る。ガラス板3および/またはカットアウト2には、ガラス板3の開口を可能にする適切なフレームが設けられ、閉鎖された状態でカットアウト2の中にガラス板3のシールを確実にすることができる。
【0017】
図2は、合わせガラスの変型例を示している。内側のガラス板(5)のカットアウト(2’’)は、外側のガラス板(4)のカットアウト(2’)よりも大きい。内側のガラス板(5)のカットアウト縁と外側のガラス板(4)のカットアウト縁との間の距離dは、周縁に概ね0mmから10mmまでである。内側のガラス板(5)および外側のガラス板(4)のカットアウトの領域におけるエッジ圧縮応力が、高められる。
【0018】
ガラス板1は、合わせガラス板である。これは、たとえばポリビニルブチラールで作られる0.76mmの厚さの中間層6によって互いに接合される、2枚のケイ酸塩ガラス板4および5を備える。ガラス板4および5はそれぞれ、1.5mmから4mmまで、好ましくは概ね2.6mmの厚さを有する。これらの安定性および剛性を増大させるために、ガラス板1は、長手方向と横断方向の両方に曲げられる。2枚のガラス板4および5は、これらの表面および縁領域でこれらの安定性をさらに増大させるために、曲げ工程後に加速冷却によって発生される圧縮応力をさらに有する。冷却条件は、最も大きな荷重が発生する特に縁領域において、圧縮応力が少なくとも8MPaになるように選択されることになる。これらのエッジ圧縮応力は、Senarmont法またはFriedel法によって測定され得る。適切な測定装置には、たとえば、SHARPLESS STRESS ENGINEERS LTD社の「Edge Stress Master」がある。
【0019】
合わせガラス板1を後に形成する2枚のガラス板4および5が一対の窓ガラスとして曲げられる前に、通気開口2は、高圧ウォータージェット切断機を用いて2枚のガラス板4および5に切断され、切断縁は、知られている方式で研磨される。この工程では、予め規定された所定の寸法からのずれが+/−1mmを超えないように注意が払われなければならない。
【0020】
通気開口2は、通常、長方形の形状を有するが、これはまた、自動車ルーフの構成に応じて台形、円形、または卵形などの任意の形状に設計され得る。とにかく、ガラス板1の外縁と通気開口の内縁7との間の最近点での最も小さな距離Aが、少なくとも50mm、好ましくは150mmより以上であるように注意が払われなければならない。
【0021】
また、通気開口2の隅部8の設計はガラス板1の安定性に実質的に重要であることが明らかにされている。したがって、通気開口2は、いかなる顕著な隅も有さないようにしなければならないが、むしろ隅8は、少なくとも15mmであるが好ましくは少なくとも60mmの半径Rで丸められなければならないことが重要である。いずれにしても、通気開口の隅8の半径Rが80mm以上の場合には、高荷重に対する適切な安定性が生じる。
【0022】
通気開口を覆うガラス板3は、平坦なガラス板であることができるが、これは、ルーフ面の領域の湾曲に対応して曲げられることが好ましい。これは、標準合わせガラス板で作られ得る。しかしながら、これはまた、少なくとも縁領域に圧縮応力を有する個々のガラス板の合わせガラスで作られ、ガラス板1と同じ構造を有することが好ましい。合わせガラスで作られる代わりに、これはまた、熱強化単層安全ガラス、またはポリカーボネートなどの透明耐衝撃性ポリマーから作られることもできる。さらにガラス板3の場合は、これが可能な限り最も均一に小さな隙間で通気開口に嵌合するように、高い寸法精度が確保されなければならない。
【0023】
ガラス板1は、合わせガラス板のうちの1枚または両方の個々の窓ガラスが着色熱遮蔽ガラスで作られた熱遮蔽板として設計され、かつ/または熱線反射コーディングが形成されることが好ましい。もちろん、この場合には、それに応じてルーフ面の領域に均一な外観を与えるように内側のガラス板3を設計することも当を得ている。
【0024】
ガラス板1は、車体に取付け中にルーフフレームに接着される。接着剤ビードを隠すために、ガラス板1には、たとえば自動車ガラス板の接着によってこれまで通り通例の黒エナメルが、周縁に形成されることが好ましい。さらに、ガラス板1には、接着面にプライマー被覆が設けられ、または、ガラス板の取付け後にガラス板の縁とルーフフレームとの間の隙間を覆うポリマー製のプロファイルが既に設けられ得る。
【0025】
大きな寸法の場合には、ガラス板1には、ガラス板の下側に接着される適切な補強要素が設けられ得る。最後に、車体に取り付ける前に、ガラス板3を取り付け、開閉するために必要なガスケットおよび機構を有するガラス板1を設けることも当を得ている。したがって、特に、ルーフフレームにただ挿入されるだけでよい完全なガラスルーフモジュールが、製造され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロント車両ルーフクロスメンバとリヤ車両ルーフクロスメンバとの間のルーフ領域全体を実質的に形成し、車体に堅く接続可能であり、ガラス板によって全周的に取り囲まれる通気開口として使用されるカットアウト(2)を有し、そのカットアウトには、カットアウトをしっかりと密封する第2の開放可能なガラス板(3)が取り付けられる第1のガラス板(1)を備える自動車用のガラスルーフであって、第1のガラス板が、それらの縁領域において少なくとも8MPaの圧縮応力をそれぞれが有する2枚の個々のガラス板(4、5)で作られる合わせガラス板を備え、通気開口(2)の隅(8)が、少なくとも15mmであるが好ましくは少なくとも60mmの半径(R)で丸められ、ガラス板(1)が、3次元的な湾曲を有することを特徴とする、ガラスルーフ。
【請求項2】
ガラス板(1)の外縁と通気開口(2)の内縁(7)との間の距離(A)が、少なくとも50mmであることを特徴とする、請求項1に記載のガラスルーフ。
【請求項3】
内側のガラス板(5)のカットアウト(2’’)が、外側のガラス板(4)のカットアウト(2’)よりも周縁に概ね0.1mmから10mmまで大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載のガラスルーフ。
【請求項4】
カットアウト(2)の隅(8)が、少なくとも60mmの半径(R)で丸められることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項5】
カットアウト(2)を密封するガラス板(3)が、単層安全ガラスで作られることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項6】
カットアウト(2)を密封するガラス板(3)が、合わせ安全ガラスで作られることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項7】
カットアウト(2)を密封するガラス板(3)が、耐衝撃性ポリマーで作られることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項8】
カットアウト(2)を密封するガラス板(3)が、3次元的な湾曲を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項9】
ガラス板(1)には、縁部に不透明エナメルが設けられることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項10】
カットアウト(2)を有するガラス板(1)には、その下側に補強要素が設けられることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のガラスルーフ。
【請求項11】
補強要素が、開放可能なガラス板(3)を取り付け、操作するための機構を形成することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のガラスルーフ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−519620(P2012−519620A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552448(P2011−552448)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052752
【国際公開番号】WO2010/100223
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【出願人】(511181382)
【Fターム(参考)】