説明

自動車用ウォッシャタンク及び車両の前部構造

【課題】バンパにおける衝撃吸収性能の調整の自由度を向上させることができるとともに、部品価格の低減、軽量化、省スペース化を達成できる自動車用ウォッシャタンクを提供する。
【解決手段】自動車のウインドウ等を洗浄するためのウォッシャ液Wを貯留する自動車用ウォッシャタンク38は、前端側がバンパフェース20に覆われて車幅方向に延在するエネルギ吸収部材36と、エネルギ吸収部材36を車長方向に支持するクロスメンバロア28との間に配設されて車幅方向に延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントウインドウ、リアウインドウ、ヘッドランプ等を洗浄するためのウォッシャ液を貯留する自動車用ウォッシャタンク、及び、ウォッシャタンクが車両の前部に配設される車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、ドライバの視界を確保するため、フロントウインドウやリアウインドウにウォッシャ液を噴射し、油膜や汚れを除去するウォッシャ装置が装備されている。また、照明の光量低下を防止することを目的として、ヘッドランプにウォッシャ液を噴射するように構成したウォッシャ装置もある。
【0003】
このようなウォッシャ装置において、ウォッシャ液を貯留するウォッシャタンクは、形状に対する制約が少ないことから、エンジンルーム内やフェンダ内のデッドスペースに配設されている。なお、ウォッシャタンクは、通常、5リットル程度のウォッシャ液を貯留できる容量を有している。
【0004】
ウォッシャタンクの配置として、例えば、特許文献1は、ラジエータコアとラジエータの冷却ファンとを覆うカバーであるシュラウドパネル内のスペースにウォッシャタンクを配設する先行技術を開示している。
【0005】
また、特許文献2は、フロントバンパの下部に配設されるフロントエアスポイラを中空密閉構造とし、このフロントエアスポイラ自体をウォッシャタンクとする先行技術を開示している。
【0006】
さらに、特許文献3及び特許文献4は、バンパの内部にウォッシャタンクを内蔵させる先行技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−1336号公報
【特許文献2】特開昭59−8566号公報
【特許文献3】実公昭58−26845号公報
【特許文献4】実開昭58−168952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの先行技術では、単にデッドスペースを利用してウォッシャタンクを配設しているだけであるため、構成部材を少なくして価格を低減させ、あるいは、自動車の軽量化に貢献する、といった効果が得られるものではない。特に、特許文献3の場合、バンパの内部に緩衝部材としてのリブとともにウォッシャタンクを直接内蔵させているため、ウォッシャタンクの部分での衝撃吸収性能が低下する懸念がある。
【0009】
また、フロントエアスポイラやバンパの形状は、自動車のデザインに大きな影響を与え、デザイン毎に専用品となるため、これらにウォッシャタンクを内蔵させる場合、生産性が著しく低下し、高価なものになってしまう。さらに、バンパの場合、ウォッシャタンクが内蔵されることで構造が制約されると、衝撃力の吸収性能の調整が困難となる。
【0010】
本発明は、前記の不具合を解消するためになされたものであって、バンパにおける衝撃吸収性能の調整の自由度を向上させることができるとともに、部品価格の低減、軽量化、省スペース化を達成できる自動車用ウォッシャタンク及び車両の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る自動車用ウォッシャタンクは、自動車のウインドウ等を洗浄するためのウォッシャ液を貯留する自動車用ウォッシャタンクにおいて、前端側がバンパフェースに覆われて車幅方向に延在するエネルギ吸収部材と、前記エネルギ吸収部材を車長方向に支持する車体メンバとの間に配設されて前記車幅方向に延在することを特徴とする。
【0012】
前記自動車用ウォッシャタンクにおいて、前記エネルギ吸収部材、前記ウォッシャタンク及び前記車体メンバは、路面から略同一の高さに配置されることを特徴とする。
【0013】
前記自動車用ウォッシャタンクにおいて、剛性の強さが、前記エネルギ吸収部材<前記ウォッシャタンク<前記車体メンバの順に強くなるように設定されることを特徴とする。
【0014】
前記自動車用ウォッシャタンクにおいて、前記エネルギ吸収部材と前記ウォッシャタンクとは、一方に形成した凸部と他方に形成した凹部とを係合して連結されることを特徴とする。
【0015】
前記自動車用ウォッシャタンクにおいて、前記ウォッシャタンクは、前記ウォッシャタンクから前記車体メンバの下端側に延在するブラケットを介して前記車体メンバに固定されることを特徴とする。
【0016】
前記自動車用ウォッシャタンクにおいて、前記エネルギ吸収部材は、バンパビームの前端側に配設されるメインバンパの下部に配設される下部バンパを構成することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る車両の前部構造は、前端側がバンパフェースに覆われて車幅方向に延在するエネルギ吸収部材と、自動車のウインドウ等を洗浄するためのウォッシャ液を貯留する自動車用ウォッシャタンクと、車幅方向に延在する車体メンバとを備えた車両の前部構造において、前記自動車用ウォッシャタンクは、前記エネルギ吸収部材と前記車体メンバとの間に配設され、後端側が前記車体メンバの前端側に固定されるとともに、前端側に前記エネルギ吸収部材の後端側が固定されることを特徴とする。
【0018】
前記車両の前部構造において、剛性の強さが、前記エネルギ吸収部材<前記ウォッシャタンク<前記車体メンバの順に強くなるように設定されことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の自動車用ウォッシャタンク及び車両の前部構造によれば、前端側がバンパフェースに覆われるエネルギ吸収部材と、エネルギ吸収部材を車長方向に支持する車体メンバとの間にウォッシャタンクを配設することにより、ウォッシャタンクがエネルギ吸収部材の一部を代替することになるため、エネルギ吸収部材を小型化して部品価格を低減できるとともに、軽量化、省スペース化を同時に達成することができる。
【0020】
また、エネルギ吸収部材が小型化されるため、自動車のデザインに大きな影響を与えるエネルギ吸収部材の形状変更を容易、且つ、安価に行うことができる。さらに、ウォッシャタンクは、形状に対する制約が少ないため、ウォッシャタンクによって一部が代替されるエネルギ吸収部材の形状の自由度が向上する。従って、エネルギ吸収部材の衝撃吸収性能を所望の性能に調整することが可能となる。
【0021】
また、エネルギ吸収部材、ウォッシャタンク及び車体メンバを路面から略同一の高さに配置することにより、バンパに対する外部からの衝撃力をエネルギ吸収部材、ウォッシャタンク及び車体メンバにより効果的に吸収することができる。
【0022】
また、剛性の強さを、バンパフェース側から、エネルギ吸収部材<ウォッシャタンク<車体メンバの順に強くなるように設定することにより、バンパに対する外部からの衝撃力を徐々に吸収して、自動車の車室側に対する衝撃力の影響を好適に低減させることができる。
【0023】
また、エネルギ吸収部材とウォッシャタンクとを、一方に形成した凸部と他方に形成した凹部とを介して係合させることにより、エネルギ吸収部材をウォッシャタンクに確実に連結させ、衝突時におけるウォッシャタンクによるエネルギ吸収部材の保持力を確保することができる。この結果、エネルギ吸収部材による衝撃吸収性能が安定する。
【0024】
また、ウォッシャタンクから車体メンバの下端側に延在するブラケットを介して、ウォッシャタンクを車体メンバに固定することにより、例えば、衝撃力の小さい衝突時において、ウォッシャタンクが車体メンバから脱落するため、衝撃力による車体メンバの損壊を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態のウォッシャタンクが組み込まれた自動車前部の説明図である。
【図2】図1に示す自動車前部のII−II線断面図である。
【図3】図1に示す下部バンパ近傍の斜視説明図である。
【図4】図2に示すウォッシャタンクが組み込まれた下部バンパ近傍の拡大断面図である。
【図5】他の実施形態であるウォッシャタンクが組み込まれた下部バンパ近傍の拡大断面図である。
【図6】さらに他の実施形態であるウォッシャタンクが組み込まれた下部バンパ近傍の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本実施形態のウォッシャタンクが組み込まれた自動車前部10の説明図である。図2は、図1に示す自動車前部10のII−II線断面図である。
【0028】
自動車前部10には、フロントグリル12と、メインバンパ14と、下部バンパ16とが配置される。メインバンパ14と下部バンパ16との間には、冷却風Cを取り入れる冷却風取入口18が形成される(図2参照)。フロントグリル12から下部バンパ16に至る自動車の前面には、バンパフェース20が装着される。また、自動車のエンジンルームEには、ラジエータ22が配設される。ラジエータ22は、フロントグリル12及び冷却風取入口18から取り入れた冷却風Cによって冷却される。
【0029】
メインバンパ14は、図2に仮想線で模式的に示す歩行者の脚部Kのうち、膝部Hの近傍の高さ位置に配置される。また、下部バンパ16は、脚部Kの下腿部Kaの近傍の高さ位置に配置される。メインバンパ14及び下部バンパ16を設ける理由は、衝突の際に歩行者の脚部Kに加わる衝撃を分散させるとともに、歩行者の巻き込み事故を回避するためである。衝突の際、歩行者の脚部Kは、メインバンパ14及び下部バンパ16に略同時に当たるため、脚部Kが払われるような状態となり、この結果、巻き込み事故が回避されることが期待される。
【0030】
メインバンパ14は、車幅方向に延在するバンパビーム24の前端側に装着されるエネルギ吸収部材26を有する。エネルギ吸収部材26は、ポリウレタン、ポリプロピレン等の樹脂発泡体により形成することができる。また、エネルギ吸収部材26の前端側に配設されるバンパフェース20は、エネルギ吸収部材26よりも剛性が弱い軟質樹脂で形成することができる。
【0031】
下部バンパ16は、図3の下部バンパ近傍の斜視説明図に示すように、車幅方向に延在するクロスメンバロア28(車体メンバ)に装着され、車長方向に支持される。なお、クロスメンバロア28の上部には、ブラケット30a、30b及びリンホースメンバ32を介してクロスメンバアッパ34が連結される。エンジンルームEには、クロスメンバロア28及びクロスメンバアッパ34に近接してラジエータ22が配設される。
【0032】
下部バンパ16は、図3及び図4の下部バンパ近傍の拡大断面図に示すように、車幅方向に延在するエネルギ吸収部材36と、車幅方向に延在し、ウォッシャ液Wを貯留するウォッシャタンク38とを備える。
【0033】
エネルギ吸収部材36は、所望の間隔で格子状に配列される複数のリブ40を有し、衝撃を吸収する軟質樹脂から形成される。エネルギ吸収部材36は、リブ40の数、間隔、厚み、材質を適宜選択することで、所望の剛性の強さに調整することができる。また、エネルギ吸収部材36の上面部は、車両前方側から車両後方側に向かって徐々に高くなる傾斜面42となっている。エネルギ吸収部材36の下端側には、ボルト44によりバンパフェース20が固定され、また、車長方向の後端側がウォッシャタンク38の前端側に当接した状態で固定される。なお、エネルギ吸収部材36とウォッシャタンク38とは、車長方向の端面同士を接着剤により接合し、あるいは、摩擦力のみにより連結してもよく、ボルト等の締結部材を用いて締結してもよい。
【0034】
ウォッシャタンク38は、ウォッシャ液Wを貯留する密閉構造からなり、且つ、エネルギ吸収部材36と同様に、衝撃を吸収する軟質樹脂から形成される。ウォッシャタンク38には、側端側から車両後方に延びる接続部39(図3参照)を介して、外部からウォッシャ液Wを供給するとともに、図示しないポンプによりフロントウインドウ等にウォッシャ液Wを噴射するためのパイプ46が連結される。ウォッシャタンク38は、タンクの厚みや材質を選択することにより、所望の剛性の強さに調整することができる。
【0035】
また、ウォッシャタンク38の上面部は、冷却風取入口18から取り入れた冷却風CをエンジンルームEのラジエータ22に導くように、車両前方側から車両後方側に向かって徐々に高くなる傾斜面48となっている(図3及び図4参照)。具体的には、エネルギ吸収部材36の上面部である傾斜面42と、ウォッシャタンク38の上面部である傾斜面48とが一体として、冷却風取入口18の下端及びラジエータ22の下端を結んだ平面と略平行となるように構成することにより、冷却風取入口18から取り入れた冷却風Cがラジエータ22にスムーズに導風されるようになっている。ウォッシャタンク38は、クロスメンバロア28の前端側に固定される。
【0036】
ウォッシャタンク38は、傾斜面48から上方に向かって延在するブラケット50を介して、ボルト52によりクロスメンバロア28の上端部に設けられたブラケット54に固定される。また、ウォッシャタンク38は、車長方向の後端側に形成され、クロスメンバロア28の下端側に延在するブラケット56を介して、ボルト58によりクロスメンバロア28の下端側に固定される。
【0037】
エネルギ吸収部材36、ウォッシャタンク38及びクロスメンバロア28は、車両前方からこの順番で配設される。また、下部バンパ16を構成するバンパフェース20、エネルギ吸収部材36、ウォッシャタンク38及びクロスメンバロア28は、剛性の強さが、バンパフェース20<エネルギ吸収部材36<ウォッシャタンク38<クロスメンバロア28の順に強くなるように設定される。
【0038】
本実施形態のウォッシャタンク38が組み込まれた自動車前部10は、基本的には以上のように構成される。次にその作用効果について説明する。
【0039】
ウォッシャタンク38に貯留されたウォッシャ液Wは、パイプ46を介して図示しないポンプにより吸引され、例えば、フロントウインドウに噴射されることで洗浄が行われる。また、ウォッシャ液Wの残量が少なくなった場合には、パイプ46を介して外部からウォッシャタンク38にウォッシャ液Wを補給することができる。ウォッシャタンク38は、下部バンパ16を構成するものであるから、エンジンルームE内の下方に位置するため、パイプ46やウォッシャタンク38にウォッシャ液を供給するためのパイプ46の接続部39を、車両組み立て時や補修時において外部から比較的作業し易い位置に設置することができる。
【0040】
また、自動車の走行中に発生する走行風は、冷却風Cとしてフロントグリル12及び冷却風取入口18からエンジンルームEのラジエータ22に供給され、ラジエータ22を冷却する。この場合、冷却風取入口18の下部に配設されている下部バンパ16を構成するウォッシャタンク38は、図2及び図3に示すように、冷却風取入口18側の上面部がラジエータ22に向かって傾斜する傾斜面48となっているため、冷却風取入口18から取り入れられた冷却風Cをラジエータ22に効率的に導くことができる。この結果、ラジエータ22を効果的に冷却することができる。
【0041】
次に、自動車に衝撃力Fが加わる場合について説明する。
【0042】
自動車の走行中において、例えば、自動車の前部が歩行者の脚部Kに衝突した場合、図2に示すように、衝撃力Fは、上部のメインバンパ14と、下部の下部バンパ16とに分散される。歩行者の膝部Hからメインバンパ14に加わった衝撃力Fは、バンパフェース20の変形によって一部が吸収された後、エネルギ吸収部材26の変形によってさらに吸収される。また、歩行者の下腿部Kaから下部バンパ16に加わった衝撃力Fは、バンパフェース20の変形によって一部が吸収された後、エネルギ吸収部材36、ウォッシャタンク38及びクロスメンバロア28の圧縮変形によってさらに吸収される。そして、歩行者の脚部Kは、メインバンパ14及び下部バンパ16により払われ、巻き込み事故のような重大な事故が回避されることが期待される。
【0043】
また、下部バンパ16は、剛性の強さが、バンパフェース20<エネルギ吸収部材36<ウォッシャタンク38<クロスメンバロア28の順に強くなるように設定されているため、バンパフェース20側からこの順で圧縮変形し、衝撃力Fが徐々に吸収される。従って、衝突の際のエンジンルームE側及び車室側に対する衝撃力の影響が好適に低減され、これらの損壊が最小限に抑えられる。
【0044】
また、エネルギ吸収部材36、ウォッシャタンク38及びクロスメンバロア28が、これらの順で車長方向に配列され、且つ、路面から略同一の高さに配置されているため、ウォッシャタンク38は、エネルギ吸収部材36を圧縮する抗力を発生させながら、エネルギ吸収部材36の上下方向への動きを規制し、衝撃力Fを安定した状態で吸収することができる。この結果、下部バンパ16に対する外部からの衝撃力Fは、エネルギ吸収部材36、ウォッシャタンク38及びクロスメンバロア28により効果的に吸収することができる。
【0045】
また、ウォッシャタンク38は、傾斜面48から上方に向かって延在するブラケット50を介してクロスメンバロア28のブラケット54に固定されるとともに、後端側からクロスメンバロア28側に延在するブラケット56を介してクロスメンバロア28の下端側に固定されている。この場合、ブラケット56は、車長方向に加わる衝撃力Fの方向と略平行に形成されている。衝撃力の小さい、例えば、低速度での衝突時では、ブラケット50、56の脆弱部や衝撃力が集中する部分(例えば、ボルト52、58で締結されている部分や、ブラケット50、56とウォッシャタンク38の本体部との接続部分)から破壊され、ウォッシャタンク38がクロスメンバロア28から路面方向に脱落することになるため、クロスメンバロア28の損壊は最小限に抑えられる。この結果、自動車のエンジンルームE側及び車室側が大きく損壊するような事態が回避される。
【0046】
次に、ウォッシャタンク38をエネルギ吸収部材36の一部とすることによる効果について説明する。
【0047】
ウォッシャタンク38は、エネルギ吸収部材36とともに衝撃力Fを吸収する部材として機能している。この場合、エネルギ吸収部材36及びウォッシャタンク38を1つの「エネルギ吸収部材」として構成する場合に比較すると、ウォッシャタンク38が前記「エネルギ吸収部材」の一部を代替することになるため、エネルギ吸収部材36を小型化して軽量化を図ることができる。また、小型化されることにより、エネルギ吸収部材36の部品価格を低減することができる。さらに、ウォッシャタンク38が前記「エネルギ吸収部材」の一部として下部バンパ16に組み込まれるため、省スペース化も同時に達成される。
【0048】
また、自動車のフロントデザインを変更する際や多様なフロントデザインの自動車を製造するためには、従来、エネルギ吸収部材の全体をその都度製作する必要があった。これに対して、本発明に係る車両の前部構造によれば、ウォッシャタンク38を共用化しつつ、エネルギ吸収部材36の形状等を変更するだけでよいため、フロントデザインの形状変更や多様化を容易、且つ、安価に実現することができる。
【0049】
さらに、ウォッシャタンク38は、ウォッシャ液を貯留する機能を有していればよく、形状に対する制約が少なく、比較的自由に調整することができる。そのため、ウォッシャタンク38のエネルギ吸収部材としての機能を適宜調整することで、ウォッシャタンク38に連結されるエネルギ吸収部材36の形状や構造を、自動車のデザインや所望の衝撃吸収性能に応じて容易に調整することができる。
【0050】
図5は、他の実施形態である下部バンパ60の構成を示す。下部バンパ60を構成するエネルギ吸収部材62とウォッシャタンク64とは、エネルギ吸収部材62の後端側に形成された複数の凸部66と、ウォッシャタンク64の前端側に形成された複数の凹部68とを係合して連結される。
【0051】
エネルギ吸収部材62とウォッシャタンク64とを凸部66及び凹部68を介して係合させることにより、エネルギ吸収部材62をウォッシャタンク64に確実に連結させ、衝突時におけるウォッシャタンク64によるエネルギ吸収部材62の保持力を確保することができる。この結果、衝突時にエネルギ吸収部材62が圧壊・変形する途中において、エネルギ吸収部材62とウォッシャタンク64との相対位置がずれ難くなるため、エネルギ吸収部材62による所望の安定したエネルギ吸収性能が発揮される。
【0052】
また、凸部66をウォッシャタンク64側に形成し、凹部68をエネルギ吸収部材62側に形成してもよい。また、凸部66及び凹部68は、車幅方向に延在して形成して、ウォッシャタンク64によるエネルギ吸収部材62の保持力を確保するようにしてもよい。
【0053】
図6は、さらに他の実施形態である下部バンパ70の構成を示す。下部バンパ70を構成するエネルギ吸収部材72とウォッシャタンク74とは、エネルギ吸収部材72の後端側に形成された1つの凸部76と、ウォッシャタンク74の前端側に形成された1つの凹部78とを係合して連結される。
【0054】
また、凸部76をウォッシャタンク74側に形成し、凹部78をエネルギ吸収部材72側に形成してもよい。また、図5に示す実施形態と同様に、凸部76及び凹部78を、車幅方向に延在して形成してもよい。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することが可能である。
【0056】
例えば、ウォッシャタンク38は、自動車の前部に配設される下部バンパ16ではなく、後部に配設される下部バンパに配置してもよい。また、ウォッシャタンク38は、衝撃力を吸収するための必要な範囲であれば、車幅方向に対するエネルギ吸収部材36の長さと異なっていてもよく、また、車長方向の軸線に対して非対称であってもよい。
【0057】
さらに、エネルギ吸収部材36、62、72とウォッシャタンク38、64、74とは、連結可能な構造であればよく、上述した連結構造に限定されるものではない。例えば、一方を他方に対してスライド可能な状態で連結する構造や、凹凸以外の嵌合手段により連結する構造とすることもできる。
【0058】
また、エネルギ吸収部材36、62、72に形成される複数のリブ40は、衝撃力を効率的に吸収できるものであれば、格子状に配列される場合に限定されない。
【符号の説明】
【0059】
10…自動車前部
12…フロントグリル
14…メインバンパ
16、60、70…下部バンパ
18…冷却風取入口
20…バンパフェース
22…ラジエータ
24…バンパビーム
26、36、62、72…エネルギ吸収部材
28…クロスメンバロア
38、64、74…ウォッシャタンク
40…リブ
46…パイプ
42、48…傾斜面
66、76…凸部
68、78…凹部
C…冷却風
F…衝撃力
W…ウォッシャ液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のウインドウ等を洗浄するためのウォッシャ液を貯留する自動車用ウォッシャタンクにおいて、
前端側がバンパフェースに覆われて車幅方向に延在するエネルギ吸収部材と、前記エネルギ吸収部材を車長方向に支持する車体メンバとの間に配設されて前記車幅方向に延在することを特徴とする自動車用ウォッシャタンク。
【請求項2】
請求項1記載の自動車用ウォッシャタンクにおいて、
前記エネルギ吸収部材、前記ウォッシャタンク及び前記車体メンバは、路面から略同一の高さに配置されることを特徴とする自動車用ウォッシャタンク。
【請求項3】
請求項1又は2記載の自動車用ウォッシャタンクにおいて、
剛性の強さが、前記エネルギ吸収部材<前記ウォッシャタンク<前記車体メンバの順に強くなるように設定されることを特徴とする自動車用ウォッシャタンク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用ウォッシャタンクにおいて、
前記エネルギ吸収部材と前記ウォッシャタンクとは、一方に形成した凸部と他方に形成した凹部とを係合して連結されることを特徴とする自動車用ウォッシャタンク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用ウォッシャタンクにおいて、
前記ウォッシャタンクは、前記ウォッシャタンクから前記車体メンバの下端側に延在するブラケットを介して前記車体メンバに固定されることを特徴とする自動車用ウォッシャタンク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車用ウォッシャタンクにおいて、
前記エネルギ吸収部材は、バンパビームの前端側に配設されるメインバンパの下部に配設される下部バンパを構成することを特徴とする自動車用ウォッシャタンク。
【請求項7】
前端側がバンパフェースに覆われて車幅方向に延在するエネルギ吸収部材と、自動車のウインドウ等を洗浄するためのウォッシャ液を貯留する自動車用ウォッシャタンクと、車幅方向に延在する車体メンバとを備えた車両の前部構造において、
前記自動車用ウォッシャタンクは、前記エネルギ吸収部材と前記車体メンバとの間に配設され、後端側が前記車体メンバの前端側に固定されるとともに、前端側に前記エネルギ吸収部材の後端側が固定されることを特徴とする車両の前部構造。
【請求項8】
請求項7記載の車両の前部構造において、
剛性の強さが、前記エネルギ吸収部材<前記ウォッシャタンク<前記車体メンバの順に強くなるように設定されことを特徴とする車両の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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