説明

自動車用液化天然ガスおよびその製法

【課題】自動車の燃料として適正に使用することができる自動車用液化天然ガスおよびその製法を提供する。
【解決手段】メタン99mol%以上含有するとともに、エタン,プロパン,ブタンの少なくとも一つからなる高炭化水素を0.08mol%以上1mol%未満含有する自動車用液化天然ガスを燃料として使用する。この自動車用液化天然ガスは、製品液化天然ガス中の高炭化水素濃度を、炭化水素分析計24で検出し、その高炭化水素の濃度のばらつきを、精留塔3の精留条件の調節により、所定範囲内におさめることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用液化天然ガスおよびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、日本では、液化天然ガス(以下「LNG」と略す)を、高度に精製して都市ガス等に利用することがなされている(特許文献1,2)。しかし、LNGを自動車、特に大型トラック等の燃料とすることは実現されていない。これは、トラックに搭載するLNGタンク(以下「燃料タンク」ということがある)に対する法規制が厳しく、その法規制のもとではそのような規制をクリアするだけのLNGタンクをつくって大型トラックに搭載することができないからである。しかしながら、このようなことが将来も続くならば、石油資源の枯渇から大型トラック輸送に重大な障害が起こる確率が高い。そのため、将来、上記LNGタンクも法規則をクリアするものが開発されることが予測される。
【0003】
そこで、本発明者は、そのようなLNGタンクに供給されるLNGについて、それを燃料とする大型トラックを中心に研究を重ねた。この場合、LNGを大型トラックに搭載する燃料タンクに入れて輸送するとき、特にそのLNGの主成分である、メタン以外のエタン,プロパン,ブタンのような、高炭化水素ガス(以下、単に「高炭化水素」ということがある)の液化物がその障害になる。
【0004】
すなわち、上記液化物がメタンを主成分とするLNG中に、例えば8%程度存在すると、燃料タンク上部の気相からLNGを取り出してエンジンに供給する場合には、上記高炭化水素の液化物がタンクの底部に滞留し、これが大きな障害となる。より詳しく述べると、トラックに搭載する燃料タンクは、エンジンに燃料を供給する必要上、17kg/cm3 以上の圧力に加圧されており、この圧力下であれば、メタンは気化状態となってそのままトラックのエンジンに供給される。
【0005】
しかしながら、エタン等の高炭化水素のものは、気化しにくく燃料タンクの底面に残留する。
【0006】
そして、燃料タンクにLNGを補給するたびに、その残留高炭化水素の液化物が蓄積し、次第に、燃料タンク内の実効容量(メタン蒸気を貯留する容量)が小さくなる。その結果、大型トラックは給油を繰り返すたびに、段々少量のメタンしか使用できないこととなり、走行距離が短くなるという大きな難点がある。
【0007】
また、燃料タンクの下部の液相からLNGを取り出してエンジンに供給する場合には、LNG中において、比重の大きいエタン,プロパン等の高炭化水素の液化物(炭素数が多く燃焼エネルギーがメタンより大きい)が燃料タンクの下部に滞留していて、上部にいくに従って、その割合が低くなる関係上、取り出しの初期には、燃焼エネルギーの高いものがエンジンに供給され、次第に低くなる。すなわち、燃料タンクの上部と下部とではエネルギー密度が異なり、エンジンの燃料バランスが悪くなって、エンジンの効率が著しく低下するという難点がある。この悪現象は、燃料タンクの上部の気相からLNGを取出す場合において、液相の高炭化水素量が多くなると、液相中の高炭化水素がガス化してメタンに帯同することによっても生じる。
【0008】
また、このようなエタン等の高炭化水素の液化物は、一部がメタンガスに帯同してエンジンルームに入り、その燃焼室でメタンガスと同時に燃焼することとなる。しかしながら、エタン,プロパン等の高炭化水素は炭素数が多く、これがカーボン(スス)となって排気ガスに混入し、排気ガスの浄化触媒を悪化させたり、排気が黒煙になるという大きな難点が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−320311号公報
【特許文献2】特開2007−24489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、LNGを大型トラックの燃料として用いる場合には、給油のたびにLNG中の燃料有効成分(メタン)の量が少なくなって走行距離がしだいに短くなり、エンジン効率が悪くなったりするという大きな問題を生ずるうえ、このような高炭化水素によって排気ガスの浄化触媒の劣化や黒煙を生じ環境を悪化するという問題も生ずる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、自動車の燃料として適正に使用することができる自動車用液化天然ガスおよびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、メタン99mol%(以下「%」と略す)以上含有するとともに、エタン,プロパン,ブタンの少なくとも一つからなる高炭化水素を含有し、その高炭化水素の含有量が0.08%以上1%未満に規定されていることを特徴とする自動車用液化天然ガスを第一の要旨とし、原料液化天然ガス貯槽から導出した液化天然ガスを精留塔に導き、精留塔の精留作用によって液化天然ガス中に含有されるエタン,プロパンおよびブタンの少なくとも一つからなる高炭化水素を除去し、得られた精製液化天然ガスを製品液化天然ガス貯槽に貯留する液化天然ガスの製法であって、上記製品液化天然ガス中の高炭化水素濃度を、検出機で検出し、その高炭化水素の濃度のばらつきを、精留塔の精留条件の調節により、所定範囲内におさめることを特徴とする自動車用液化天然ガスの製法を第二の要旨とする。
【0013】
〔発明に至る経緯〕
本発明者は、LNGの有する上記のような問題を解決すべく研究を重ねた。その結果、エタン,プロパン等の高炭化水素の量を極く少なくすることを目的として実験を重ねた。
【0014】
すなわち、上記のようなトラックの燃料タンク中におけるエタン等の高炭化水素の液化物の貯留は、そのような高炭化水素を少なくすればするほど生じないはずである。このような着想に基づいて試験を重ねた結果、LNG中におけるエタン,プロパン等の高炭化水素の含有量を低減させ、メタンを99%以上の高濃度にすると、LNGの給油ごとに、メタンの貯留容積(実効容積)が低減して、トラックの走行距離がしだいに短くなったり、エンジン効率が悪くなるという現象ならびに排気ガスの浄化触媒の劣化や黒煙を生じる現象は解消する。
【0015】
ところが、このようにエタン,プロパン等の高炭化水素を零に近く、すなわち、メタン濃度が99.99%(4N)〜99.9999(6N)程度に精製したLNGを用いて実験を行ったところ、そのような超高純度のLNGでは、かえってエンジンに不調をきたすことがわかった。この原因を究明すべく、さらに一連の研究を重ねた結果、このようなエタン,プロパン等の高炭化水素の微量の存在によって、上記エンジンの不調を解決できることがわかった。すなわち、前記高炭化水素がメタンに帯同して、エンジンのピストン内において燃焼する際、エタン,プロパン等の高炭化水素から生ずる炭素(スス)がピストン等に対する潤滑作用等をするためか、超高純度のLNGを使用した場合よりもエンジンの調子が、逆によくなることを見いだした。この場合、前記高炭化水素の量が微量であることから、トラック等の燃料タンク内において、その液化物の滞留による燃料タンク内の実効容積の減少ならびに排気ガスの触媒の劣化や黒煙の発生現象は生じない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自動車用液化天然ガスは、メタン99%以上含有するとともに、エタン,プロパン,ブタンの少なくとも一つからなる高炭化水素を0.08%以上1%未満含有しているため、超高純度のLNGを使用した場合よりもエンジンの調子をよくすることができる。
【0017】
また、本発明の自動車用液化天然ガスの製法では、製品液化天然ガス中の高炭化水素濃度を、検出機で検出し、その高炭化水素の濃度のばらつきを、精留塔の精留条件の調節により、所定範囲内におさめることによって、本発明の自動車用液化天然ガスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】発明の自動車用液化天然ガスの製造装置を示す構成図である。
【図2】本発明の自動車用液化天然ガスを燃料として用いたベンチテストの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0020】
本発明で用いる自動車用LNGはつぎのようにして製造される。すなわち、原料LNGはその産地であるのブルネー,バダック,アルン,西豪州等によってメタンの含有量が89〜91%程度と変動し、エタン,プロパン等の高炭化水素の含量も8〜9%と変動する。したがって、そのようなLNGについて産地ごとにそのLNG中の各炭化水素の含量をチェック(検査)して、その値にもとづいて精留塔内の還流液量等を調節することにより、精留度合を制御するようにする。このため、図1に示すような精留装置を用いて精留を行う。
【0021】
図1において1は原料LNG貯槽、2はその供給パイプ、3は精留塔、3aはその下部塔、3bは上部塔、3cは精留棚等からなる精留ブロック、4は加熱用のリボイラーであり、窒素ガス源5と、窒素ガスパイプ6によって連結している。7はパイプ6に設けられた窒素ガス流量調節弁である。8は窒素ガス放出パイプであり、リボイラー4と連結していて、加熱作用を終えた窒素ガスを大気中に放出するようになっている。9は高炭化水素含量の多い廃液(廃LNG)を系外に放出する放出パイプ、10はその放出量調節弁である。11は精留塔3の上部塔3b内の凝縮器、12はそれに気化LNGを供給する供給パイプ、13は上部塔3b内に液体窒素を供給する液体窒素パイプ、14は供給量の制御弁、15は供給された液体窒素の気化物を系外に放出する放出パイプ、16は熱交換器内で液化したLNGを下部塔3aに還流液として供給する還流液パイプ、17は還流液量を調節する還流液調節弁、18は凝縮器11内で液化しなかった廃ガス(窒素ガス等)を系外に放出する放出パイプ、19はその廃ガス量調節弁、20は製品LNG受け皿、21は製品LNG取り出しパイプ、22はその製品流量調節弁、23は製品LNG貯槽、24は製品LNG中の高炭化水素含量を検出する炭化水素分析計で、コンピュータを内蔵しており、製品LNG中の高炭化水素の含量により、還流液調節弁17の開度を調節し、製品LNG中の高炭化水素の含量を調節する。25aはその制御ラインである。なお、上記炭化水素分析計24は、制御ライン25bで示すように、窒素ガス流量調節弁7の開度調節により、製品LNG中の高炭化水素の含量を調節することもできる。また、弁7,17の双方を同時に制御して上記高炭化水素の含量を速やかに調節することもできる。
【0022】
また、1点鎖線26は精留塔3を収容するコールドボックス(断熱タンク)である。そして、この精留装置の熱バランスは、液体窒素パイプ13より、供給される液体窒素の冷熱により保たれる。
【0023】
この精留装置において、原料LNGの精留はつぎのようにして行われる。すなわち、原料LNGを精留塔3の下部塔3aに供給する。下部塔3aに供給された原料LNGは底部に溜まり、リボイラー4で加熱され、そのうちの低沸点成分であるメタンを中心にガス化して精留塔3の下部塔3a内を上昇する。このガスは、精留ブロック3cにおいて、製品LNG受け皿20から溢流して流下する製品LNG(還流液となる)と交流接触しガス中の高沸点成分である高炭化水素が液化して除去されメタンリッチガスとなる。このガスは、供給パイプ12を通って、凝縮器11内に入り、ここで、周囲の液体窒素により冷却され、液化し、還流液パイプ16を通って製品LNGとして受け皿20上に溜まる。凝縮器11中において、液化しない成分(例えば窒素ガス)は、先に述べたように、廃ガスとして放出パイプ18から系外に放出される。
【0024】
この装置において、特徴的なのは、還流液パイプ16に還流液調節弁17を設け、炭化水素分析計24によって検出された、製品LNG中の高炭化水素の濃度により、弁17の開度を調節して製品LNG中の高炭化水素量を所定値に制御することである。すなわち、原料LNGの供給量は略一定であるので、製品LNG中の高炭化水素量が多い時には、弁17の開度を大にして還流液量を多くして、高炭化水素の液化除去量を多くする。少ないときには、その逆をする。また、上記弁17の開度の調節に代えて、リボイラー4に供給する窒素ガスパイプ6の窒素ガス流量調節弁7の開度を炭化水素分析計24によって制御してもよい。すなわち、製品LNG中の高炭化水素量が多い時には、弁17の開度を小さくして原料LNGのガス化量を少なくし、それを還流液と充分接触させ、気化ガス中の高炭化水素の液化除去量を多くする。少ない時には、その逆をする。なお、製品LNG中の高炭化水素濃度が、かなり高いときには、還流液調節弁17と窒素ガス流量調節弁7の制御を同時に行い速やかに対応するようにしてもよい。
【0025】
このようにして、製品LNG中の高炭化水素の濃度を一定範囲に制御する。
【0026】
上記のように、原料LNGの精留を精密に行うのはつぎの理由による。すなわち、原料LNGは船舶等によって運ばれて港湾等に設けられた原料LNGタンクに貯留され、その原料LNGタンクに貯留された原料LNGが本発明で用いる精留塔の原料となる。
【0027】
ところが、原料LNGタンク内において、LNGを長期間保存すると、沸点の低い成分が揮発して組成が変化するウエザリング現象が生じる。このようなウエザリング現象が生ずるとLNGの組成が変化することから、そのまま精留塔で精留すると、本発明の目的とする、メタン99%以上であって、しかもエタン,プロパン,ブタン等の高炭化水素が0.08%以上1%未満になるよう設定することができない。特に、精製度が進んでしまうと、前記高炭化水素が精製によって除去され、得られた製品LNGには、メタンが4N(99.99%)ないし6N(99.9999%)等の高純度なものとなってしまい、本発明の求める製品LNGとはならないからである。
【0028】
したがって、本発明に用いる装置では、ウエザリング現象による、原料LNGの組成変化に対応するため、好ましくは、常時ないしは一定間隔ごとに炭化水素分析計24で、製品LNG中の各炭化水素の成分を検出し、製品LNG中におけるメタンおよびその他の高炭化水素の含量が本発明の範囲内になるよう制御し、本発明の目的とする製品LNGを得るようにしている。
【0029】
つぎに、本発明の製品LNGを用いた実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例】
【0030】
〔ベンチテスト〕
図2に示すように、エンジンAをベンチ(図示せず)に固定し、下記の表1に示すような組成の異なるLNGを燃料として、回転速度2000rpmで10分間、エンジンAを作動させた。
【0031】
〔冷却水の温度〕
上記ベンチテストにおいて、エンジンを作動させる前後でエンジン内の冷却水の温度を測定した。その結果を下記の表1に記載した。
【0032】
〔排気ガスの状態〕
上記ベンチテストにおいて、エンジンからの排気ガスを目視にて観察した。その結果、排気ガスが白色透明なものを○、黒色を帯びているものを×と評価し、下記の表1に併せて記載した。
【0033】
【表1】

【0034】
上記表1の結果より、実施例1〜3は、比較例1,2と比較して、水温の上昇温度が低いことから、エンジンのピストン運動の円滑性に優れていることがわかる。また、排気ガスの状態から、実施例1〜3は、比較例1に比べて、排気ガスもきれいである。このように、実施例1〜3は、総合的に比較例1,2より優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の自動車用液化天然ガスは、自動車の燃料として適正に使用することができる。その自動車用液化天然ガスは、本発明の自動車用液化天然ガスの製法により、得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
3 精留塔
24 炭化水素分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンを99mol%以上含有するとともに、エタン,プロパン,ブタンの少なくとも一つからなる高炭化水素を含有し、その高炭化水素の含有量が0.08mol%以上1mol%未満に規定されていることを特徴とする自動車用液化天然ガス。
【請求項2】
原料液化天然ガス貯槽から導出した液化天然ガスを精留塔に導き、精留塔の精留作用によって液化天然ガス中に含有されるエタン,プロパンおよびブタンの少なくとも一つからなる高炭化水素を除去し、得られた精製液化天然ガスを製品液化天然ガス貯槽に貯留する液化天然ガスの製法であって、上記製品液化天然ガス中の高炭化水素濃度を、検出機で検出し、その高炭化水素の濃度のばらつきを、精留塔の精留条件の調節により、所定範囲内におさめることを特徴とする自動車用液化天然ガスの製法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236378(P2011−236378A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110984(P2010−110984)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】