説明

自動車用窓ガラス

【課題】バックミラーに内蔵された車載器の赤外線通信が可能であり、且つ、赤外線遮蔽性能を有する自動車用窓ガラスを提供する。
【解決手段】車室内の前方且つ上方に設けられたバックミラーを自動車の前後方向且つ水平方向に前記自動車用窓ガラス上に投影した位置より上方に電磁波を透過する電磁波透過部を有し、電磁波透過部の幅方向の距離は、バックミラーの幅方向中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ45°で自動車用窓ガラス上に水平方向に投影された幅より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用窓ガラスに関し、特に赤外線遮蔽性能を有する自動車用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車内の温度上昇を抑え、冷房負荷を低減させる目的のため、車両用窓ガラスに赤外線遮蔽性能を有するガラス(以下、赤外線遮蔽ガラスと呼ぶことがある。)を使用することが普及しつつある。従来の赤外線遮蔽ガラスとしては、ガラス板の表面に各種の金属または金属酸化物の導電性薄膜を積層した薄膜付きガラス板が用いられ、これらの膜の作用により、車内に入射する太陽輻射エネルギーを大幅にカットすることができる。
【0003】
近年日本においては、光ビーコンを用いたVICS(登録商標)(Vehicle Information and Communication System)が普及しつつある。これは情報センタで収集された交通情報を各自動車へ通知するとともに、自動車側の情報を情報センタへ通知することにより、道路での渋滞等を防止するためのシステムである。具体的には道路に設置された装置(以下、路側アンテナという)と、自動車内に設置された装置(以下、車載器という)との間で、双方向の電磁波による通信が行われる。
【0004】
さらに、赤外線を使用したシステムとして、キーレスエントリやガレージドアオープナーなども普及している。キーレスエントリやガレージドアオープナーは、自動車内の送信機からガレージの受信機に赤外線信号を送信することにより、ドアロック又はガレージの開閉を行うシステムである。
以上のように、これらのシステムを正常に動作させるためには、ガラスが電磁波透過性能を有する必要がある。
【0005】
特許文献1に記載の自動車用窓ガラスにおいては、室内空間側の窓ガラスの一部に送信機/受信機を直接取り付け、送信機/受信機の取付位置にのみ赤外線遮蔽層を設けないことで、太陽輻射エネルギーをカットしつつも外部と送信機/受信機との赤外線通信を許容している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−210042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、VICS、ガレージドアオープナー、リモートキーレスエントリーシステムに限らず、GPSアンテナ、ETCアンテナ、タイヤ空気圧センサ等の車載器は、自動車の車室内のバックミラーに内蔵されているものがある。特許文献1に記載の自動車用窓ガラスでは、ガラスに直接取り付ける送信機/受信機には有効であるが、ガラスから離れて配置された送信機/受信機には対応できておらず、バックミラーに内蔵されたこれらの車載器の動作に支障がでるおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、バックミラーに内蔵された車載器の電磁波による通信が可能であり、且つ、赤外線遮蔽性能を有する自動車用窓ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示す態様を提供するものである。
(1)周縁部が自動車前方のボディフランジに取り付けられ、大部分に赤外線を反射又は吸収する赤外線遮蔽部を有する自動車用窓ガラスであって、
車室内の前方且つ上方に設けられたバックミラーを自動車の前後方向且つ水平方向に前記自動車用窓ガラス上に投影した位置より上方に所定の電磁波を透過する電磁波透過部を有し、
前記電磁波透過部の幅方向の距離は、前記バックミラーの幅方向中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ45°で前記自動車用窓ガラス上に水平方向に投影された幅より大きいことを特徴とする自動車用窓ガラス。
(2)前記電磁波透過部の下辺は、上方に位置する前記ボディフランジの先端部から150mm以上離れている(1)に記載の自動車用窓ガラス。
(3)前記赤外線遮蔽部は、前記ボディフランジの先端部より内側にあり、
前記電磁波透過部は、前記赤外線遮蔽部の上側端部が内側に後退するように設けられている(1)又は(2)に記載の自動車用窓ガラス。
(4)前記電磁波透過部の幅方向の距離は、前記バックミラーの幅方向中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ60°で前記自動車用窓ガラス上に水平方向に投影した幅以上である(1)から(3)のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
(5)前記電磁波透過部は、熱線反射膜をメッシュ上に形成した周波数選択表面である(1)から(4)のいずれかに記載の自動車用窓ガラス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、赤外線遮蔽部により、赤外線遮蔽部により赤外線を反射又は吸収することで、自動車内の温度上昇を抑え、冷房負荷を低減させることができる。また、車室内のバックミラーを自動車用窓ガラス上に投影した位置より上方に電磁波透過部を設け、電磁波透過部の幅を、バックミラーの幅方向中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ45°で自動車用窓ガラス上に水平方向に投影された幅より大きいため、バックミラーに内蔵した車載器の電磁波による通信を良好に行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の自動車用窓ガラスを正面から見た図である。
【図2】図1の自動車用窓ガラスの部分断面図である。
【図3】(a)は図1の自動車用窓ガラスを上方から見た図であり、(b)は図1の自動車用窓ガラスを側方から見た図である。
【図4】電磁波透過部の開口角度と通信距離との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態の自動車用窓ガラスを正面から見た図である。本実施形態の自動車用窓ガラス101は、いわゆる合わせガラスであって、自動車のボディの略矩形状の開口部120に取り付けられフロントガラスとして用いられる。自動車用窓ガラス101は、接着剤107(図2参照)を介してフロントガラス用の開口部120から内側に突出するボディフランジ121に接着固定される。
【0013】
自動車用窓ガラス101は、図2に示すように、PVB(ポリビニルブチラール)等の透明樹脂製の中間膜101cを、車外側に位置するガラス板(外板101a)と車内側に位置するガラス板(内板101b)とで挟持した合わせガラスである。内板101bの周縁における車内側面には、スクリーン印刷等されてから焼成により作られた黒色セラミック層108が、自動車用窓ガラス101の全周にほぼ枠状に設けられている。黒色セラミック層108は、黒色または暗色のセラミック製の皮膜であり、可視光だけでなく紫外線の透過を遮ることができ、接着剤107が紫外線によって劣化するのを防ぐことができる。また、車外からは接着剤107等が見えなくなり、外観の審美性を向上させている。なお、黒色セラミック層108は、外板101aの車内側面、内板101bの車外側面の何れかに設けられていてもよい。
【0014】
導電膜102は、内板101bの車外側面にフィルムやコーティングによって設けられる。この導電膜102は、内板101bの外周縁部から全周に亘って数cm程度カットバックされ、導電膜102が形成された領域が、赤外線遮蔽性能を有する赤外線遮蔽部103をなしている。本実施形態では、このカットバック量は、開口部120に自動車用窓ガラス101が取り付けられた状態で、導電膜102が、開口部120を形成するボディフランジ121とオーバラップしない、即ち、ボディフランジ121とオフセットするように全周に亘って開口部120の内側となるように設定されている。このように設定することによって、赤外線遮蔽の効果はそのままに赤外線遮蔽部103をできるだけ小さくすることができる。
また、導電膜102は、外板101aの車内側面または中間膜101cにフィルムやコーティングによって設けてもよいし、2枚の中間膜で導電膜フィルムを挟むことによって設けてもよい。
【0015】
また、車室内の前方且つ上方には、図3(a)及び(b)に示すようにバックミラー109が設けられている。バックミラー109は、支持部材によってフロントガラスに接着材などによって設置されている。これに限らずバックミラー109がフロントガラスの上方の車室内の天井付近や設置されていてもよい。このバックミラー109には一例としてガレージドアオープナーの赤外線送信機(以下、車載器とも呼ぶ。)が内蔵されている。この車載器は、乗員による操作スイッチへの手動操作が行なわれた場合に、ガレージドアに設けられた赤外線受信機に赤外線を送信しガレージドアの開閉を行なうものである。なお、車載器は不図示の車外器との間で電磁波による通信を行なうものであればよく、電磁波の受信のみを行なう受信機であっても電磁波の送信のみを行なう送信機であっても、両方を行なうものであってもよい。
【0016】
さらに、本実施形態の自動車用窓ガラス101には、車載器の電磁波通信を可能とするため電磁波透過部105が設けられている。なお、この電磁波透過部105は、対象の領域に導電膜102を設けないことにより形成させる。または、対象の領域の導電膜102に所定の電磁波を通すことができるメッシュ状、スリット状のパターン等を形成させた周波数選択表面(FSS: Frequency Selective Surface)を設けてもよい。導電膜102を設けないことで、または周波数選択表面を形成させることにより、赤外線を含め所定の電磁波が透過可能となる。
【0017】
この電磁波透過部105は、図1に示すように、バックミラー109を自動車の前後方向且つ水平方向に自動車用窓ガラス101上に投影した位置109’より上方であって且つ電磁波透過部の幅方向の距離は、バックミラー109の幅方向(左右方向)中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ45°(開口角度θ)で自動車用窓ガラス101上に水平方向に投影された幅より大きい。特に、バックミラー109の幅方向中央部から幅方向両側にそれぞれ60°で自動車用窓ガラス101上に水平方向に投影された幅より大きいことが好ましい。
【0018】
この電磁波透過部105の位置の決め方を図3(a)及び(b)を参照してより具体的に説明する。先ず、バックミラー109の高さ方向(上下方向)及び幅方向の中心Oから自動車の前後方向に対し幅方向に開口角度θを±45°として仮想線を引き、この仮想線と自動車用窓ガラス101とが交わる点を交点B、B’とする。そして、交点B、B’から自動車用窓ガラス101面に沿って、バックミラー109を自動車の前後方向且つ水平方向に自動車用窓ガラス101上に投影した位置より上方に電磁波透過部105の下辺の幅方向両端部となる境界点A、A’を決定する。そして、境界点A、A’を電磁波透過部105の下辺の幅方向両端部となるように電磁波透過部105を形成する。
【0019】
電磁波透過部105の下辺と上方に位置するボディフランジ121の先端部121aとの距離Dは、150mm以上であることが好ましい。ボディフランジ121の先端部121aから自動車用窓ガラス101の面に沿って150mm以上離した位置に電磁波透過部105の下辺が配置されるように構成することにより、ボディフランジ121の影響を小さくした状態で車内から送信するまたは車外から到来する電磁波が回折するため、車載器の送受信性能が改善する。
【0020】
また、赤外線遮蔽部103は、その境界線がボディフランジ121の先端部121aより自動車用窓ガラス101の面沿いに内側にあり、電磁波透過部105は、赤外線遮蔽部103の上辺である上側端部の境界線が凹状に内側に後退することで形成されていることが好ましい。つまり、電磁波透過部105は、ボディフランジ121まで形成されており、車内から送信するまたは車外から到来する電磁波がより回折しやすくなるため、車載器の送受信性能が改善する。
【実施例】
【0021】
図4は、バックミラーに内蔵した周波数帯域288MHzの赤外線で通信を行なうガレージドアオープナーにおいて、電磁波透過部の開口角度と通信可能距離の関係を調べた測定結果である。測定は、バックミラー109の高さ方向及び幅方向の中心Oから自動車の前後方向に対し幅方向に開口角度θをそれぞれ±45°、±60°、±75°、±90°として自動車用窓ガラス101上に水平方向に投影された幅を有する電磁波透過部を備えた4種類の窓ガラスで行った。また電磁波透過部105の下辺は、バックミラー109を自動車の前後方向且つ水平方向に自動車用窓ガラス101上に投影した位置より上方に且つ電磁波透過部105の下辺とボディフランジ121の先端部121aとの距離Dは150mmとし、赤外線遮蔽部103の上辺である上側端部の境界線が凹状に内側に後退するように形成させた。
【0022】
図4のグラフの横軸は、電磁波透過部の横幅であり、バックミラー109の自動車用窓ガラス101上への幅方向の投影する開口角度(°)とした。縦軸は、バックミラーに内蔵したガレージドアオープナーとガレージ側の受信機との間の通信が出来た通信距離とした。通信距離の測定方法は、電波暗室に、測定対象の窓ガラスを自動車の前方の窓枠にフロントガラスとして設置された自動車を配置して、バックミラーに内蔵したガレージドアオープナーから信号を送信し、受信機と自動車との距離を変更することにより測定した。
【0023】
図4によれば、開口角度θが±45°のとき、通信距離は28.5mであり、開口角度θが±45°より大きければ通信距離が大幅に長くなる。従って、電磁波透過部105の幅方向の距離は、開口角度θが、θ>±45°であるとき通信距離が大幅に改善されることが分かる。好ましくは、θ≧±60°であり、より好ましくは60°≦θ≦75°である。また、開口角度θは大きくてもよいが、大きくすればするほど赤外線遮蔽性能が悪化するため、開口角度θは90°以下であることが好ましい。なお、周波数帯域390MHzの赤外線で通信を行なうガレージドアオープナーにおいても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の自動車用窓ガラス101は、赤外線遮蔽部103により赤外線を反射又は吸収することで、自動車内の温度上昇を抑え、冷房負荷を低減させることができる。一方で、電磁波透過部105がバックミラー109に内臓されたガレージドアオープナー等の車載器の電磁波を透過させることで、電磁波による通信を良好に行なわせることができる。
【0025】
また、電磁波透過部105は、バックミラー109を投影した位置109’より上方に設けられているので、赤外線遮蔽部との境界線が、乗員の視認性を妨げるものではない。
【0026】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。また、車載器として、ガレージドアオープナーを例示したが、これに限らず、GPSアンテナ、ETCアンテナ、タイヤ空気圧センサ、リモートキーレスエントリーシステム等をバックミラーに内蔵させてもよい。
【符号の説明】
【0027】
101 自動車用窓ガラス
101a 外板
101b 内板
101c 中間膜
102 導電膜
103 赤外線遮蔽部
105 電磁波透過部
107 接着剤
108 黒色セラミック層
109 バックミラー
109’ バックミラーの投影位置
120 開口部
121 ボディフランジ
121a 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部が自動車前方のボディフランジに取り付けられ、大部分に赤外線を反射又は吸収する赤外線遮蔽部を有する自動車用窓ガラスであって、
車室内の前方且つ上方に設けられたバックミラーを自動車の前後方向且つ水平方向に前記自動車用窓ガラス上に投影した位置より上方に所定の電磁波を透過する電磁波透過部を有し、
前記電磁波透過部の幅方向の距離は、前記バックミラーの幅方向中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ45°で前記自動車用窓ガラス上に水平方向に投影された幅より大きいことを特徴とする自動車用窓ガラス。
【請求項2】
前記電磁波透過部の下辺は、上方に位置する前記ボディフランジの先端部から150mm以上離れている請求項1に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項3】
前記赤外線遮蔽部は、前記ボディフランジの先端部より内側にあり、
前記電磁波透過部は、前記赤外線遮蔽部の上側端部が内側に後退するように設けられている請求項1又は2に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項4】
前記電磁波透過部の幅方向の距離は、前記バックミラーの幅方向中央部から自動車の前後方向に対し幅方向両側にそれぞれ60°で前記自動車用窓ガラス上に水平方向に投影した幅以上である請求項1から3のいずれか1項に記載の自動車用窓ガラス。
【請求項5】
前記電磁波透過部は、熱線反射膜をメッシュ上に形成した周波数選択表面である請求項1から4のいずれか1項に記載の自動車用窓ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144218(P2012−144218A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6020(P2011−6020)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】