説明

自動車運転席のフロア構造

【課題】運転席シート1に着座した運転者が操作ペダルを適正に操作できるように、簡単な構成で運転姿勢を容易かつ適正に調整できるようにする。
【解決手段】運転席シート1に着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダル4とアクセルペダル5とが車室前部に配設された自動車運転席のフロア構造であって、上記ブレーキペダル4およびアクセルペダル5の踏込ポイント4a,5aよりも後方に位置するフロア部上に、上記操作足の踵部が載置される踵載置領域が設けられ、この踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した踵載置部12,13が形成されるとともに、上記ブレーキペダル4の後方に位置する第1踵載置部12の前後寸法が、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2踵載置部13の前後寸法よりも短く設定された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席シートに着座した運転者により踏み込み操作される操作ペダルが車室前部に配設された自動車運転席のフロア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に示されるように、シート座面位置を調整するシート位置調整手段と、ペダルを操作する乗員の脚部が載置されるフロアパネル(可動フロア)の上下位置を調整するフロアパネル位置調整手段とを設け、かつ、これら両手段を操作する運転姿勢調整操作手段を設けることで、乗員の体格差に左右されることなく、適切な運転姿勢の設定と、前方視界の確保とが両立でき、またシートの前後方向への調整量が小さくても適正な運転姿勢が得られ、さらにフロア高さを調整することにより適切なペダル操作性を確保できるように構成された車両の運転姿勢調整装置が知られている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、ブレーキペダルの後方側に、運転者の右足踵部を支持する凹部からなる踵支持点を設け、この踵支持点を中心とする同心円上にブレーキペダルおよびアクセルペダルのペダル踏み面(踏込ポイント)を配設するとともに、このブレーキペダルのペダル踏み面を、アクセルペダルのペダル踏み面と同一高さに設定し、あるいはアクセルペダルのペダル踏み面よりも低い位置に設置した車両運転席の床構造が知られている。
【特許文献1】特開2005−145405号公報
【特許文献2】特開平4−129885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された車両の運転姿勢調整装置では、例えばシート位置調整手段により、運転席シートに着座する運転者の身長に応じて運転席シートを前後移動させるとともに、これに対応してシートクッションの上下位置および傾斜角度を調整可能であるため、運転席シートに着座した運転者の着座姿勢を安楽状態に維持しつつ、運転席シートの前方に配設されたアクセルペダルまたはブレーキペダル等からなる操作ペダルを適正に踏み込むことができるとともに、前方視界を適正に確保できるように運転者の着座姿勢を調整することができる。しかも、運転席シートに着座する運転者が身長の異なる者に乗り換わって、足の長さ及び足裏寸法等が変化すると、これに対応させるように上記フロアパネル位置調整手段により可動フロアの上下位置を調整可能であるため、各運転者の踵部をフロアパネル上に載置した状態で、足裏の母子球部を操作ペダルのペダル面部に対して適正に当接させることができるように、操作ペダルの踏み込み特性を調整できるという利点がある。
【0005】
しかし、上記のようにシート位置調整手段により運転席シートの前後位置と、シートクッションの上下位置および傾斜角度とを調整可能に構成するとともに、フロアパネル位置調整手段により可動フロアパネルの上下位置を調整可能に構成した場合には、調整装置の構造が複雑で製造コストが高くなる等の問題がある。特に、上記可動フロアと、その下方に位置するフロアパネルとの間に形成された狭い間隙内に、上記フロアパネル位置調整手段を設置しなければならないため、その設置スペースを充分に確保することが困難である等の問題があった。また、上記フロアパネル位置調整手段により可動フロアパネルの上下位置を適正値に調整した場合においても、シート位置調整手段により運転席シートの位置および角度を調整することによる影響を受けて運転者のペダル操作性等が変化するため、上記運転席シートの位置および角度と可動フロアパネルの上下位置との全てを適正値に調整することは極めて困難であった。
【0006】
一方、上記特許文献2に開示されているように、ブレーキペダルの後方側に、運転者の右足踵部を支持する凹部からなる踵支持点を設け、この踵支持点を中心とする同心円上にブレーキペダルおよびアクセルペダルのペダル踏み面(踏込ポイント)を配設した場合には、運転者がその踵部を移動させることなく、足先を左右に移動させることにより、ブレーキペダルおよびアクセルペダルの両方を踏込操作できるという利点がある。
【0007】
しかし、上記運転席シートに着座する運転者が身長の異なる者に乗り換わって、その着座位置および着座姿勢等が変化すると、これに対応して上記操作足の踵部を支持する踵支持点を移動させるとともに、踵部の載置高さを調整することが望ましいが、この点について上記特許文献2では何ら考慮されておらず、上記踵支持点の存在に起因して上記ブレーキペダルおよびアクセルペダルの操作性が、却って悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑み、運転席シートに着座した運転者が操作ペダルを適正に操作できるように、簡単な構成で運転姿勢を容易かつ適正に調整できる自動車運転席のフロア構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、運転席シートに着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダルとアクセルペダルとが車室前部に配設された自動車運転席のフロア構造であって、上記ブレーキペダルおよびアクセルペダルの踏込ポイントよりも後方に位置するフロア部上に、上記操作足の踵部が載置される踵載置領域が設けられ、この踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した踵載置部が形成されるとともに、上記ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部の前後寸法が、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部の前後寸法よりも短く設定されたものである。
【0010】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車運転席のフロア構造において、踵載置部の上面が前上がりの傾斜面に形成されたものである。
【0011】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の自動車運転席のフロア構造において、上記ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部の上面に形成された傾斜面の水平面に対する傾斜角度が、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部の上面に形成された傾斜面の傾斜角度よりも大きく設定されたものである。
【0012】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車運転席のフロア構造において、上記ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部と、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部との間に、両者をなだらかに接続する接続部が形成されたものである。
【発明の効果】
【0013】
上記請求項1に係る発明では、運転席シートに着座した低身長者が、操作足の踵部を上記第1踵載置部上に載置した状態で、その足首角度および足裏の傾斜角度を適正角度に維持しつつ、操作足の拇子球部をアクセルペダルの踏込ポイントに当接させることができ、上記操作足の踵部がフロア面から離間した状態で、アクセルペダルの踏込操作が行われることに起因して微妙なペダル操作が不可能となり、あるいは足首角度または足裏の傾斜角度が適正角度から大きくずれてアクセルペダルの迅速な踏込操作が困難となることを効果的に防止できるという利点がある。また、高身長者の場合には、上記第1踵載置部の後端部よりも後方側で、かつ第2踵載置部の側方側部に、操作足の踵部を位置させた状態で、上記アクセルペダルおよびブレーキペダルに対するペダル踏み換え操作等を行うことができるため、この踏み換え操作が上記第1,第2踵載置部により阻害されるという事態の発生を効果的に防止できる等の利点がある。
【0014】
上記請求項2に係る発明では、第1,第2踵載置部の上面を前上がりの傾斜面に形成したため、運転席シートに着座した低身長者がその足裏寸法の長短に応じて踵部の載置位置を前後に移動させることにより、その足首角度および足裏の傾斜角度を適正角度に維持しつつ、様々な足裏寸法を有する各低身長者が操作足の拇子球部をブレーキペダルの踏込ポイントまたはアクセルペダルの踏込ポイントに対して正確に当接させるように微調整できるという利点がある。
【0015】
上記請求項3に係る発明では、ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部の上面に形成された傾斜面の水平面に対する傾斜角度を、アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部の上面に形成された傾斜面の傾斜角度よりも大きく設定したため、上記第1踵載置部の後端部に近接した位置に、操作足の踵部を載置する可能性がある中身長者による上記アクセルペダルまたはブレーキペダルに対する踏込操作が、上記第1踵載置部の存在に起因して阻害されるという事態を生じるのを防止することができるという利点がある。しかも、上記のように低身長者がブレーキペダルを操作する場合には、上記第1踵載置部上に操作足の踵部を載置することにより、足首角度および足裏の傾斜角度を適正角度に維持しつつ、拇子球部をブレーキペダルの踏込ポイントに当接させることができる。
【0016】
上記請求項4に係る発明では、ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部と、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部との間に、両者をなだらかに接続する接続部を形成したため、通常時に上記第2踵載置部上に踵部を載置した低身長者が、上記アクセルペダルに対する操作状態からブレーキペダルに対する操作状態に移行させる際に、このペダル踏み換え操作を上記接続部に沿ってスムーズに実行できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜図5は、本発明に係る自動車運転席のフロア構造の第1実施形態を示している。この自動車には、その車室内に配設された運転席シート1のシートクッション1aをスライド変位させてその前後位置を調整する前後位置調整機構2と、上記シートクッション1aの傾斜角度を調整する傾斜角度調整機構3とを有するシート調整機構が設けられている。また、上記車室の前部には、運転席シート1に着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダル4およびアクセルペダル5からなる操作ペダルが左右に並設されている。
【0018】
上記自動車の車体には、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネル6と、このダッシュパネル6の下端部から後下がりの傾斜状態で車体の後方側に延びるキックアップ部7と、その後端部に連続して車体の後方側に延びる略平坦なフロア部8とが設けられている。このフロア部8の上面には、遮音および断熱機能等を有するフェルト材またはグラスウール等からなるインシュレータと、その上面を被覆するカーペット材等からなる表層材とを備えた従来周知のフロアトリム材(図示せず)が設置されている。
【0019】
上記ブレーキペダル4およびアクセルペダル5の踏込ポイント、つまり上記運転席シート1に着座した運転者の操作足の拇子球部(親指の付け根部分に位置する膨出部)によって押動される踏込ポイント4a,5aよりも車体の後方側に位置するフロア部8上には、上記操作足の踵部が載置される踵載置領域が設けられるとともに、この踵載置領域上には、適度の弾力性と剛性とを有する合成樹脂材等からなるパッド部材11が設置されている。
【0020】
このパッド部材11は、ブレーキペダル4の後方に位置する第1踵載置部12と、アクセルペダル5の後方に位置する第2踵載置部13と、両踵載置部12,13をなだらかに接続する接続部14とを有している。上記第1踵載置部12には、その上面に水平面に対して16°〜24°程度の角度αで前上がりに傾斜した傾斜面15が形成されるとともに、上記踵載置領域の一部、具体的には、上記第1踵載置部12の後端部が平均身長者の踵載置位置よりもやや前方に配設されるように、その前後寸法が設定されている。なお、上記平均身長者とは、後述するように、統計的見て運転席シート1に着座する機会が最も多い考えられる者を想定している。
【0021】
一方、上記第2踵載置部13には、その上面に、第1踵載置部12の上面よりも小さい角度、例えば水平面に対して10°〜15°程度の角度βで前上がりに傾斜した傾斜面16が形成されるとともに、その前後寸法が上記第1踵載置部12の前後寸法よりも長く設定され、これにより上記アクセルペダル5の後方側に位置する踵載置領域の略全域、つまり運転席シート1に着座する全ての運転者が操作足の踵部を載置する可能性がある前後領域の全長に亘り、上記第2踵載置部13が配設されるように、その前後寸法が設定されている。
【0022】
また、上記パッド部材11に形成された接続部14は、図2および図3に示すように、平面視で第1踵載置部12の後端部と第2踵載置部13の後端部とを円弧状に連続させることにより、第1踵載置部12の前後寸法が、第2踵載置部13よりも短いことに起因した段差が両者の間に形成されるのを防止し、かつ図5に示すように、正面視で第1踵載置部12の側端部と第2踵載置部13の側端部とをなだらかに連続させることにより、両踵載置部12,13の上面に形成された傾斜面15,16が異なる角度で傾斜していることに起因した段差が両者の間に形成されるのを防止している。
【0023】
そして、上記パッド部材11が接着剤または係止具等を介してフロア部8上に固定されることにより、上記踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した第1踵載置部12と、第2踵載置部13とが形成されている。さらに、上記第1,第2踵載置部12,13の後端と、その後方に連続する略水平なフロア部8との間には、図4および図5に示すように、谷折状の折曲部17,18が車幅方向に延びるように形成されている。
【0024】
上記運転席シート1の設置部には、図6〜図8に示すように、シートクッション1aを前後移動可能に支持する左右一対のシートスライドロアレール41が配設されるとともに、このシートスライドロアレール41に沿ってシートスライドアッパレール42がスライド変位可能に支持されている。上記シートスライドロアレール41は、上面が開口したC型鋼等からなり、その前後両端部には、取付ブラケット43,44が溶接される等により一体に接合されている。そして、上記取付ブラケット43,44が、クロスメンバ19の上面等に締結ボルト等を介して固定されることにより、上記シートスライドロアレール41がやや前上がりに傾斜した状態でフロア部8上に設置されている。
【0025】
上記左右のシートスライドロアレール41内には、図8に示すように、ねじ軸からなる回転軸45が回転自在に設置されるとともに、上記左右のシートスライドアッパレール42の前端部間には、駆動モータ46により回転駆動される駆動軸47およびこれを回転可能に支持する支持部材48が車幅方向に延びるように設置されている。また、上記駆動軸47の左右両端部には、その駆動力を上記回転軸45に伝達するベベルギア機構またはウォームホイールギア機構等からなる動力伝達部49が設けられている。
【0026】
上記シートスライドロアレール41、シートスライドアッパレール42、回転軸45、駆動モータ46、駆動軸47および動力伝達部49と、シートスライドロアレール41の底部に固定されて上記回転軸45が螺合するナットブロック41aとにより、上記運転席シート1のシートクッション1aをシートスライドロアレール41に沿ってスライド変位させて運転席シート1の前後位置を調整する前後位置調整機構2が構成されている。
【0027】
例えば、図外の前後調整スイッチが前進方向に操作された場合等には、上記駆動モータ46を正転させる制御信号が出力され、この制御信号に応じて駆動モータ46が正回転することにより、上記シートクッション1aを前進させる方向の駆動力が上記駆動軸47、動力伝達部49および回転軸45に伝達される。この回転軸45は、上記シートスライドロアレール41の底部に固定されたナットブロック41aによって支持された状態で、上記動力伝達部49から入力された駆動力により回転駆動されて車体の前方側に螺進することにより、上記シートスライドアッパレール42とともに運転席シート1のシートクッション1aが車体の前方側に駆動される。
【0028】
一方、上記前後調整スイッチが後退方向に操作された場合には、上記駆動モータ46を逆回転させる制御信号が出力され、この制御信号に応じて駆動モータ46が逆転することにより、上記シートクッション1aを後退させる方向の駆動力が上記駆動軸47、動力伝達部49および回転軸45に伝達され、この回転軸45が逆転駆動されて車体の後方側に螺進することにより、上記シートスライドアッパレール42および運転席シート1のシートクッション1aが車体の後方側に駆動されるようになっている。
【0029】
また、上記シートスライドロアレール41は、前上がりに傾斜した状態で車体フロア上に設置されているため、上記前後位置調整機構2によりシートスライドアッパレール42および運転席シート1のシートクッション1aを、上記シートスライドロアレール41に沿って車体の前方側に移動させると、これに連動してシートクッション1aが上方に押し上げられることになる。逆に、上記前後位置調整機構2によりシートスライドアッパレール42および運転席シート1のシートクッション1aを、上記シートスライドロアレール41に沿って車体の後方側に移動させると、これに連動してシートクッション1aが下降するようになっている。
【0030】
また、上記シートスライドアッパレール42には、運転席シート1のシートクッション1aの傾斜角度を変化させる傾斜角度調整機構3が設けられている。この傾斜角度調整機構3は、図6および図7に示すように、シートクッション1aの左右両側辺部に設けられたクッションフレーム51と、シートスライドアッパレール42の前部上面に設置されて上記クッションフレーム51の前端部を支持する前部ブラケット52および前部リンク53と、シートスライドアッパレール42の後部上面に設置されて上記クッションフレーム51の後方部を支持する後部ブラケット54および三角形状の後部リンク55と、左右の後部リンク55の後端部同士および上記両クッションフレーム51の後方下端部同士を連結する連結軸56と、シートスライドアッパレール42の中央部上面に設置されて上記後部リンク55に駆動力を伝達する中央リンク57およびこれを支持する中央ブラケット58と、上記中央リンク57の上部を上記後部リンク55の前端部に連結する連結リンク59と、下記駆動軸60、駆動レバー61および傾動駆動部62とを有している。
【0031】
上記中央リンク57は、その下端部が車幅方向に延びる駆動軸60に固定されるとともに、この駆動軸60を介して上記中央ブラケット58に回動自在に支持されている。上記駆動軸60には、この駆動軸60を回動変位させる駆動レバー61が固定されている。また、左右一対のシートスライドアッパレール42の一方(車幅方向の外方側)に設けられた上記中央ブラケット58には、駆動軸60に固定された上記駆動レバー61を駆動する傾動駆動部62が設けられている。
【0032】
上記傾動駆動部62は、図9および図10に示すように、前端部が連結ピン63を介して上記駆動レバー61の先端部(下端部)に連結されたねじ軸64と、このねじ軸64を回転駆動する駆動モータ65およびギア機構66と、このギア機構66の前面に固着されたガイドブラケット67とを有し、このガイドブラケット67の基端部が支持ブラケット68を介して上記中央ブラケット58に支持されている。また、上記ギア機構66には、駆動モータ65の出力軸65aに固着されたウォームギア69と、このウォームギア69により回転駆動されるウォームナット70とが配設され、このウォームナット70には、上記ねじ軸64に螺合するねじ孔が形成されている。
【0033】
そして、上記駆動モータ65からウォームギア69を介して入力される駆動力により上記ウォームナット70が回転駆動されるのに応じ、このウォームナット70に螺合した上記ねじ軸64が回転してねじ送りされるようになっている。このねじ軸64がねじ送りされるのに応じ、その先端部に設けられた上記連結ピン63が、ガイドブラケット67に形成された支持溝71に沿って前後移動し、その駆動力が連結ピン63を介して上記駆動レバー61に伝達されることにより、この駆動レバー61が揺動変位して上記駆動軸60が回動駆動される。
【0034】
また、上記駆動軸60が回転駆動されるのに応じて上記中央リンク57が揺動変位するとともに、その駆動力が連結リンク59を介して上記後部リンク55に伝達され、この後部リンク55が揺動変位するとともに、これに対応して前部リンク53が揺動変位することにより、シートクッション1aの傾斜角度調節されるようになっている。すなわち、運転席シート1のシートクッション1aが車体の後方側に位置した状態では、図6に示すように、上記前部リンク53および中央リンク57が後傾した状態となるとともに、後部リンク55の後端部に設けられた連結軸56が下方に位置した状態となることにより、シートクッション1aの座面が大きく後傾した状態に保持されている。
【0035】
上記構成において、前後調整スイッチにより運転席シート1を車体の前方側に移動させる操作が行われた場合には、予め設定された駆動特性に基づき、上記傾斜角度調整機構3の駆動モータ65を正転駆動する制御信号が図外の制御手段から出力され、この駆動モータ65の正転駆動力が上記ギア機構66、ねじ軸64、連結ピン63、駆動レバー61および駆動軸60を介して中央リンク57に伝達され、この中央リンク57が、上記後傾状態から図11に示すように起立状態に移行する。そして、上記中央リンク57が起立状態に移行するのに応じ、その駆動力が連結リンク59を介して後部リンク55に伝達され、この後部リンク55の前端部が車体の前方側に引っ張られることにより、後部リンク55の後端部に設けられた上記連結軸56が上昇するとともに、これに応じてシートクッション1aの後端部が押し上げられるように駆動される。
【0036】
また、上記後部リンク55の揺動変位に連動して前部リンク53が後傾状態から起立状態に移行するため、これに応じてシートクッション1aの前端部が押し上げられつつ前方に移動するように駆動され、このシートクッション1aが上記下方位置から図11に示す上方位置に変位する。さらに、上記シートクッション1aの前端部の上方移動量に比べて後端部の上方移動量が大きく設定されることにより、上記シートクッション1aの上方移動に応じてその座面の後傾角度が、次第に小さくなるように変化して、水平状態に近づくように構成されている。また、これに連動して上記シートバック1bの傾斜角度が変化して鉛直状態に近付くようになっている。
【0037】
一方、前後調整スイッチにより運転席シート1を車体の後方側に移動させる操作が行われた場合には、予め設定された駆動特性に基づき、上記傾斜角度調整機構3の駆動モータ65を逆転駆動する制御信号が制御手段から出力され、この駆動モータ65の正転駆動力が上記ギア機構66、ねじ軸64、連結ピン63、駆動レバー61および駆動軸60を介して中央リンク57に伝達される。これにより図6に示すように、上記シートクッション1aが上方位置から下方位置に変位するとともに、このシートクッション1aの下方移動に応じてその座面の後傾角度が次第に大きくなるように変化するとともに、上記シートバック1bが大きく後傾した状態となるように構成されている。
【0038】
上記運転席シート1に着座する運転者が身長の異なる者に乗り換わると、その身長に略比例して運転者の座高、腕の長さおよび足の長さ等が変化するため、これに対応して運転席シート1に着座した運転者のアイポイントおよび操作ペダル等に対する操作性も変化する。したがって、新たに運転席シート1に着座した運転者は、その安楽姿勢を維持しつつ、ステアリングハンドル20を適正状態で把持するとともに、アクセルペダル5からなる操作ペダルの踏込ポイント5a等に操作足の拇子球部を適正状態で当接させ、かつそのアイポイントを適正ラインLに一致させて前方視界を適正に確保できるように、上記前後位置調整機構2および傾斜角度調整機構3を作動させて運転席シート1の前後位置等を調整しようとする。
【0039】
上記運転席シート1には、身長が150cm未満の者から186cm以上の者まで様々な身長を有する運転者が着座する可能性があるため、これらの者が上記運転席シート1に安楽姿勢で着座して適正に運転操作を行い得るように構成する必要がある。例えば、米国において運転席シート1に着座する機会が最も多い考えられる平均身長者Mの身長を、米人男性の平均値に基づいて173cmと設定し、この平均身長者Mの安楽姿勢を統計的に解析した結果、以下のようなデータが得られた。
【0040】
上記運転席シート1に着座した乗員の安楽姿勢とは、長期間に亘りその着座状態を維持できるとともに、ハンドル操作およびペダル操作等に適した着座姿勢である。具体的には、図12に示すように、操作足の足首角度θ1が85°〜95°程度、膝角度θ2が115°〜135°程度、腰骨部から肩部までの上半身と大腿部との折曲角度θ3が約95°である。また、上記平均身長者Mの場合には、水平線に対して太腿部がなす角度であるサイ角θ4の適正角度が、シートクッション1aの傾斜角度に約1.5°を加算した値であることが、人間工学的実験により確認されている。さらに、上記ステアリングハンドル20を適正に操作することができる肘角θ5は100°〜130°程度、脇角θ6は20°〜45°程度であり、かつ上記アクセルペダル5を適正に操作することができる足裏角度、つまり水平線に対する足裏の傾斜角度θ7は約52°である。
【0041】
したがって、上記平均身長者Mが、例えば足首角度θ1を90°、膝角度θ2を125°、腰骨部から肩部までの上半身と大腿部との折曲角度θ3を95°に設定し、かつサイ角θ4を17°に設定して運転席シート1に着座した場合に、平均身長者MのアイポイントImを、約8°の角度で前下がりに傾斜する適正ラインLに一致させることができるように、上記シートクッション1aの前後基準位置、上下基準高さおよび基準傾斜角度が設定されている。この平均身長者Mの基準着座状態では、上記肘角θ5および脇角θ6が上記範囲内に設定されてステアリングハンドル20を適正に把持することが可能であり、かつ上記操作足の踵部Kmが予め設定された基準位置に載置された状態でアクセルペダル5の踏込ポイント5aに足裏の拇子球部Bmを適正角度θ7(52°)で当接させることができるようになっている。
【0042】
なお、上記図12において、Hmは、運転席シート1に着座した平均身長者Mのヒップポイント(着座基準点)である。また、上記平均身長者Mの踵部Kmが載置される前後基準位置は、運転席シート1に着座した低身長者の踵部が載置される踵載置領域に形成された上記第1踵載置部12の後端よりも前方側で、第2踵載置部13の後端よりもやや前方側に設定されている。
【0043】
上記運転席シート1に着座する運転者が平均身長者Mから、図12の仮想線で示すように、女性ドライバー等からなる低身長者Sに乗り換わった場合、この低身長者Sは、上記ハンドル操作性およびペダル操作性を確保しつつ、アイポイントIsを適正ラインLに一致させ得るように、上記前後位置調整機構2および傾斜角度調整機構3を作動させて運転席シート1のシートクッション1aを前方に移動させるとともに、これに対応してシートクッション1aの設置高さを上昇させ、かつ水平線に対するシートクッション1aの傾斜角度を減少させる操作を行う。
【0044】
例えば、150cmの身長を有する低身長者Sが上記運転席シート1に着座した場合には、シートクッション1a上に位置するヒップポイントHsを、上記平均身長者M用の前後基準位置Hmから105mm程度前方に移動させるとともに、これに連動して上記ヒップポイントHsを25mm程度上方に移動させ、かつそのサイ角θ4を10.5°程度とするようにシートクッション1aの傾斜角度を変化させるように操作する。この結果、上記平均身長者Mに比べて手の短い低身長者Sの上半身を前方に移動させて上記ステアリングハンドル20を適正状態で把持できるとともに、上記平均身長者Mに比べて座高の低い低身長者SのアイポイントIsを、車体の前部上方側に移動させることにより、適正ラインLに一致させることができる。
【0045】
また、上記シートクッション1aの前方移動および上方移動に応じて低身長者Sの操作足が車体の前部上方に移動する傾向があるため、これに対応させて上記膝角度θ2を130°程度に増大させることにより、足首角度θ1を90°に維持するとともに、足裏の傾斜角度θ7を適正角度(52°)に維持しつつ、上記低身長者Sの拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることが可能となる。
【0046】
図13に示すように、上記低身長者Sの踵部Ksから拇子球部Bsまでの距離(15.5cm程度)は、平均身長者Mの同距離(18.0cm程度)に比べて約2.5cm短いため、上記低身長者Sの足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を上記角度(52°)に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させた状態に維持しようとすると、操作足の踵部Ksを、平均身長者Mの踵部Kmよりも約2cm(=sin52°×2.5cm)だけ上方に位置させる必要がある。
【0047】
上記実施形態では、10°〜15°の傾斜角度βで前上がりに傾斜する傾斜面16を有する第2踵載置部13を上記アクセルペダル5の後方に形成したため、運転席シート1に着座した低身長者Sが、図13の仮想線で示すように、操作足の踵部Ksを上記第2踵載置部13上に載置した状態で、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることにより、その踏込操作を行うことが可能である。
【0048】
一方、図14に示すように、例えば186cmの身長を有する高身長者Tが上記運転席シート1に着座した場合には、シートクッション1a上に位置するヒップポイントHtを、上記平均身長者Mに対応した前後基準位置Hmから85mm程度後方に移動させるとともに、これに連動して上記ヒップポイントHsを20mm程度下方に移動させ、かつ上記サイ角θ4を20.0°程度とするようにシートクッション1aの傾斜角度を変化させるように操作する。これにより上記平均身長者Mに比べて手の長い高身長者Tの上半身を後方に移動させて上記ステアリングハンドル20を適正状態で把持できるとともに、上記平均身長者Mに比べて座高の高い高身長者TのアイポイントItを、車体の後部下方側に移動させることにより、適正ラインLに一致させることができる。
【0049】
また、上記シートクッション1aの後方移動および下方移動に応じて高身長者Tの操作足が車体の後部下方に移動する傾向があるため、これに対応させて上記膝角度θ2を120°程度に減少させることにより、足首角度θ1を90°に維持するとともに、足裏の傾斜角度θ7を約52°の適正角度に維持しつつ、上記高身長者Tの拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることが可能となる。
【0050】
なお、図15に示すように、上記高身長者Tの踵部Ktから拇子球部Btまでの距離(19.5cm程度)は、平均身長者Mの同距離(18.0cm程度)に比べて約1.5cm長いため、上記高身長者Tの足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を上記角度に維持しつつ、操作足の拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させた状態に維持しようとすると、その踵部Ktを、上記平均身長者Mの踵部Kmよりも約1.2cm(=sin52°×1.5cm)だけ下方に位置させる必要がある(図15の仮想線参照)。しかし、図15の実線で示すように、高身長者Tの足裏傾斜角度θ7を適正角度(52°)から4°程度減少させて約48°に変化させることにより、高身長者Tの踵部Ktを、上記第1踵載置部12の後方に位置する略水平なフロア部8上に載置した状態で、操作足の拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることが可能である。
【0051】
また、上記足裏の傾斜角度θ7が52°から48°に変化するのに対応して足首角度θ1が90°よりも大きくなる傾向があるが、上記足裏傾斜角度θ7の減少に対応して膝角度θ2を120°よりも小さくして膝を曲げ気味状態とすることにより、足首角度θ1が適正範囲を超えて大きくなること、例えば95°以上となることを防止することができる。さらに、上記操作足の拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aよりもやや上方に位置させるようにすれば、上記足首角度θ1の変化を、より効果的に抑制できるという利点がある。
【0052】
上記のように運転席シート1に着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダル4とアクセルペダル5とが車室前部に配設された自動車運転席のフロア構造において、上記ブレーキペダル4およびアクセルペダル5の踏込ポイント4a,5aよりも後方に位置する略水平なフロア部8上に、上記操作足の踵部が載置される踵載置領域を設け、この踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した第1,第2踵載置部12,13を形成するとともに、上記ブレーキペダル4の後方に位置する第1踵載置部12の前後寸法を、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2踵載置部13の前後寸法よりも短く設定したため、運転席シート1に着座した運転者がブレーキペダル4およびアクセルペダル5等からなる操作ペダルを適正に操作できるように、簡単な構成で運転姿勢を容易かつ適正に調整することができる。
【0053】
すなわち、150cm台の身長を有する3名の被験者と、160cm台の身長を有する6名の被験者と、170cm台の身長を有する3名の被験者とにより、それぞれの平面視における通常の踵載置位置がどのようになるかを調査したところ、図16に示すようなデータが得られた。このデータから、150cm台の身長を有する被験者では、アクセルペダル5の後方側であって、その比較的に前方寄りの位置に通常の踵載置位置が集中し、170cm台の身長を有する被験者では、ブレーキペダル4とアクセルペダル5との間の後方側であって、その比較的に後方寄りの位置に通常の踵載置位置が集中し、かつ160cm台の身長を有する被験者では、その踵載置位置が広範囲に分散していることが分かる。
【0054】
これは、足裏寸法の短い低身長者Sは、図17に示すように、踵部Ksの載置位置を大きく移動させなれば、アクセルペダル5の操作状態からブレーキペダル4の操作状態へとペダルの踏み換え操作を行うことができないので、通常時にはアクセルペダル5を容易に操作し得るように、アクセルペダル5の後方側に通常の踵載置位置を設定することが多いためである。これに対して足裏寸法の長い高身長者Tは、図18に示すように、踵部Ktの載置位置を大きく移動させることなく、アクセルペダル5の操作状態からブレーキペダル4の操作状態へとペダルの踏み換え操作を行うことが可能であるため、この踏み換え操作を容易に行い得るようにすることを意図して、ブレーキペダル4とアクセルペダル5との間の後方側に、通常の踵載置位置を設定するためであると考えられる。
【0055】
したがって、上記実施形態に示すように、第1踵載置部12よりも前後寸法の大きい上記第2踵載置部13を平面視でアクセルペダル5の踏込ポイント5aよりも後方側に位置する部位に形成することにより、アクセルペダル5の踏込ポイント5aに向けて前上がりに傾斜した傾斜面16を形成した場合には、高身長者T等に比べて足裏寸法の短い低身長者Sが、操作足の踵部Ksを上記傾斜面16上に載置した状態で、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、その拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させることができる。このため、低身長者Sの踵部Ksがフロア面から離間した状態で、アクセルペダル5の踏込操作が行われることに起因して微妙なペダル操作が不可能となったり、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7が適正角度から大きくずれることに起因してアクセルペダル5の迅速な踏込操作が困難となったりすることなく、上記アクセルペダル5を容易かつ適正に踏込操作できるという利点がある。
【0056】
また、上記低身長者Sがブレーキペダル4をゆっくりと操作する場合には、その踵部Ksを上記第1踵載置部12上に移動させることにより、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を略適正角度に維持しつつ、拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイント4aに当接させて適正にこれを操作できるという利点がある。しかも、上記アクセルペダルの後方に形成された第2踵載置部13に比べて上記第1踵載置部12の前後寸法が短く設定されているため、低身長者Sがブレーキペダル4を急操作する場合には、その踵部Ksが上記第1踵載置部12の後端に干渉するのを効果的に防止しつつ、拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイントに当接させて急ブレーキ操作を行うことができる。
【0057】
一方、高身長者Tの場合は、図14および図15に示すように、足裏傾斜角度θ7を減少させるとともに、膝角度θ2を小さくすれば、操作足の踵部Ktを下方に移動させることなく、その拇子球部Btをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに対して容易かつ適正に当接させることが可能である。したがって、ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部12の前後寸法を、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2踵載置部13よりも短く設定することにより、上記高身長者Tが操作足の踵部Ktを載置する踵載置領域を上記第2踵載置部13の後方に位置する略水平なフロア部8上に設定しても、上記アクセルペダル5の踏込操作性に悪影響が与えられることはない。しかも、高身長者Tの踵載置領域を略水平なフロア部8により構成することにより、高身長者Tに対してその踵部Ktを載置すべき位置を容易に認識させることができる。
【0058】
さらに、高身長者Tの場合には、上記ブレーキペダル4およびアクセルペダル5の間の後方側部、つまり上記第1踵載置部12の後端部よりも後方側で、かつ第2踵載置部13の側方側部に、操作足の踵部Ktを位置させた状態で、上記アクセルペダル5およびブレーキペダル4に対する踏み換え操作を行うことができるため、このペダル踏み換え操作が上記第1,第2踵載置部12,13により阻害されるという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0059】
なお、上記第1,第2踵載置部12,13の上面に、前上がりの傾斜面15,16を形成した上記実施形態に代え、上面が水平に形成された第1,第2踵載置部を踵載置領域に形成し、あるいは図19に示す第2実施形態のように、前上がりの階段状段部からなる第1,第2踵載置部12a,13aを上記踵載置領域に形成した構造とすることも可能である。しかし、上記第1実施形態(図13等)に示すように、第1,第2踵載置部12,13の上面に前上がりの傾斜面15,16を形成した場合には、運転席シート1に着座した低身長者Sがその足裏寸法の長短に応じて踵部Ksの載置位置を前後に移動させることにより、操作足の足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、様々な足裏寸法を有する各低身長者Sがその拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイント4aまたはアクセルペダル5の踏込ポイント5aに対して正確に当接させるように微調整できるという利点がある。
【0060】
特に、上記第1実施形態では、ブレーキペダル4の後方に位置する第1踵載置部12の上面に形成された傾斜面15の水平面に対する傾斜角度αを、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2踵載置部13の上面に形成された傾斜面16の傾斜角度βよりも大きく設定したため、上記第1踵載置部12の高さを維持しつつ、その前後寸法を効果的に短くすることができる。したがって、この第1傾斜面部12の後端部に近接した位置に、操作足の踵部を載置する可能性がある中身長者による上記アクセルペダル5またはブレーキペダル4に対する踏込操作が、上記第1踵載置部12の存在に起因して阻害されるという事態を生じるのを防止できるという利点がある。しかも、上記のように低身長者Sがブレーキペダル4を操作する場合には、上記第1踵載置部12上に操作足の踵部Ksを載置することにより、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を適正角度に維持しつつ、拇子球部Bsをブレーキペダル4の踏込ポイント4aに当接させることができる。
【0061】
さらに、上記実施形態に示すように、ブレーキペダル4の後方に位置する第1踵載置部12と、上記アクセルペダル5の後方に位置する第2踵載置部13との間に、両者をなだらかに接続する接続部14を形成した場合には、通常時に上記第2踵載置部13上に操作足の踵部Ksを載置した低身長者Sが、上記アクセルペダル5に対する操作状態からブレーキペダル4に対する操作状態に移行させる際に、このペダル踏み換え操作を上記接続部14に沿ってスムーズに実行できるという利点がある。
【0062】
なお、上記第1,第2踵載置部12,13を構成するパッド部材11の後端部に円弧状の連設部を設ける等により、第1,第2踵載置部12,13と、その後方の略水平面(フロア部8)とを緩やかに連続させることもできる。しかし、上記実施形態に示すように(図3および図4参照)、第1,第2踵載置部12,13とフロア部8との間に、車幅方向に延びる谷折状の折曲部17,18を形成した場合には、上記第1,第2踵載置部12,13とフロア部8との境界部を運転席シート1に着座した運転者に認識させることが可能である。したがって、上記谷折状の折曲部17,18を基準として何れの位置に操作足の踵部を載置すべきかを運転者に対して適格に把握させることができる。
【0063】
また、上記実施形態では、運転席シート1を前後移動させるとともに、この運転席シート1の前方移動に応じてそのシートクッション1aの後傾角度を低減する前後位置調整機構2および傾斜角度調整機構3等からなるシート調整機構を設けたため、運転席シート1に着座する運転者が、その身長に応じて上記前後位置調整機構2および傾斜角度調整機構3等の駆動特性を適正に設定することにより、運転者の着座姿勢を維持しつつ、そのアイポイントを適正ラインLに一致させるとともに、優れたハンドル操作性およびペダル操作性が得られるように、運転席シート1の前後位置およびシートクッション1aの傾斜角度等を自動的に調整できるという利点がある。
【0064】
そして、上記運転席シート1の前後位置およびシートクッション1aの傾斜角度の調整動作に応じて運転席シート1に着座した運転者の着座位置等が変化した場合においても、運転者の踵部が載置される踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した第1,第2踵載置部12,13を形成することにより、足裏寸法の短い低身長者Sが操作足の踵部Ksを上記第1,第2踵載置部12,13上に載置した状態で、足首角度θ1および足裏の傾斜角度θ7を、アクセルペダル5の操作に適した角度に維持しつつ、上記低身長者Sの拇子球部Bsをアクセルペダル5の踏込ポイント5aに当接させてペダル操作性を確保できる等の利点がある。
【0065】
なお、上記実施形態では、前後位置調整機構2および傾斜角度調整機構3等からなるシート調整機構により、運転者のスイッチ操作に応じて自動的に運転席シート1を前後移動させるとともに、この運転席シート1の前方移動に応じてそのシートクッション1aの後傾角度を低減するように構成した例について説明したが、運転者の手動操作で運転席シート1の前後位置およびシートクッション1aの後傾角度を変化させるように構成してもよい。
【0066】
また、上記パッド部材11を接着剤または固定ボルト等を介してフロア部8上に固定することにより、運転者の踵部が載置される踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した第1,第2踵載置部12,13を形成してなる上記実施形態に代え、上記フロア部8上に敷設されて係止される運転席用フロアマット材に上記第1,第2踵載置部12,13等を設けた構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る自動車運転席のフロア構造の第1実施形態を示す説明図である。
【図2】パッド部材の具体的構成を示す平面図である。
【図3】パッド部材の具体的構成を示す斜視図である。
【図4】パッド部材の具体的構成を示す側面断面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】シート調整機構の具体的構成を示す側面図である。
【図7】シート調整機構の具体的構成を示す斜視図である。
【図8】図6のF−F線断面図である。
【図9】傾斜角度調整機構の具体的構成を示す側面断面図である。
【図10】傾斜角度調整機構の具体的構成を示す平面断面図である。
【図11】シートクッションを車体の前方側に移動させた状態を示す側面図である。
【図12】平均身長者および低身長者の着座状態を示す側面図である。
【図13】平均身長者および低身長者の踵載置状態を示す説明図である。
【図14】高身長者および平均身長者の着座状態を示す側面図である。
【図15】高身長者の踵載置状態を示す説明図である。
【図16】踵載置位置のバラツキを示す平面図である。
【図17】低身長者のペダル操作状態を示す平面図である。
【図18】高身長者のペダル操作状態を示す平面図である。
【図19】本発明の第2実施形態を示す図4相当図である。
【符号の説明】
【0068】
1 運転席シート
1a シートクッション
2 前後位置調整機構
3 傾斜角度調整機構
4 ブレーキペダル
5 アクセルペダル
4a,5b 踏込ポイント
8 略水平なフロア部
12 第1踵載置部
13 第2踵載置部
14 接続部
15,16 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席シートに着座した運転者の操作足により踏み込み操作されるブレーキペダルとアクセルペダルとが車室前部に配設された自動車運転席のフロア構造であって、上記ブレーキペダルおよびアクセルペダルの踏込ポイントよりも後方に位置するフロア部上に、上記操作足の踵部が載置される踵載置領域が設けられ、この踵載置領域の一部に、上面が他の領域よりも隆起した踵載置部が形成されるとともに、上記ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部の前後寸法が、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部の前後寸法よりも短く設定されたことを特徴とする自動車運転席のフロア構造。
【請求項2】
上記踵載置部の上面が前上がりの傾斜面に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車運転席のフロア構造。
【請求項3】
上記ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部の上面に形成された傾斜面の水平面に対する傾斜角度が、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部の上面に形成された傾斜面の傾斜角度よりも大きく設定されたことを特徴とする請求項2に記載の自動車運転席のフロア構造。
【請求項4】
上記ブレーキペダルの後方に位置する第1踵載置部と、上記アクセルペダルの後方に位置する第2踵載置部との間に、両者をなだらかに接続する接続部が形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車運転席のフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−208638(P2009−208638A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53872(P2008−53872)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】