説明

自在継手およびその製造方法

【課題】潤滑剤保持力に優れ、外力による変形を受けても潤滑成分の滲み出し量を必要最小限に抑制するとともに開放部位からの潤滑剤の飛散を防止でき、長寿命で低コストであり、生産性にも優れる自在継手およびその製造方法を提供する。
【解決手段】外方部材2および内方部材3に設けられたトラック溝4、5とトルク伝達部材6との係り合いによって回転トルクが伝達され、上記トルク伝達部材6が上記トラック溝4、5に沿って転動することによって軸方向移動がなされ、上記トルク伝達部材6の周囲に多孔性固形潤滑剤10が封入されてなる自在継手であって、上記多孔性固形潤滑剤10は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、該固形物からの前記潤滑成分の飛散を防止する飛散防止手段を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔性固形潤滑剤を封入した自在継手(ジョイント)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車や産業用機械に代表されるようなほとんどの機械の摺動部や回転部において潤滑剤が使用されている。潤滑剤は大別して液体潤滑剤と固形潤滑剤に分けられるが、潤滑油を増ちょうさせて保形性を持たせたグリースや、液体潤滑剤を保持してその飛散や垂れ落ちを防止できる固形潤滑剤も知られている。
例えば、潤滑油やグリースに、超高分子量ポリオレフィン、またはウレタン樹脂およびその硬化剤を混合し、樹脂の分子間に液状の潤滑成分を保持させて徐々に滲み出る物性を持たせた固形潤滑剤が知られている(特許文献1〜特許文献3参照)。
また、ポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートとを潤滑成分中で反応させた自己潤滑性のポリウレタンエラストマーが知られている(特許文献4参照)。
このような固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に滲み出させるものであり、これを用いると潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立つ場合が多い。
しかしながら、このような固形潤滑剤を、等速ジョイントの駆動部のような圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形させるために非常に大きな力が必要になり、または非常に大きな応力が固形潤滑剤に加わって、それを保持する部分にも機械的強度が必要になる。しかし、固形潤滑剤の強度と充填率は通常、相反するものであるので、潤滑剤を高充填率で保持することが困難であり、長寿命化を妨げる可能性がある。
【0003】
そのため、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し起こるような部位においても簡便に使用可能な固形潤滑剤が求められている。この対処例として、発泡した柔軟な樹脂の気孔内に潤滑油を保持させた含油発泡体を軸受や等速ジョイントの内部に充填して使用する固形潤滑剤が知られている(特許文献5参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜特許文献4による固形潤滑剤は、潤滑油保持力は大きいが、柔軟な変形性に欠ける。また、特許文献5による固形潤滑剤は外力に応じる柔軟な変形性があって圧縮や屈曲変形にも追従することはできるが、潤滑油保持力が小さく、軸受などの高速条件で使用した場合には、潤滑油が急速に抜け出て枯渇する可能性もある。
このような固形潤滑剤は、短時間での潤滑や密閉空間においては使用可能であるが、長時間の潤滑を要する部分や開放空間で使用すると、該固形潤滑剤の開放側部位から潤滑油が飛散して、潤滑油の供給不足になったり、または、油保持力が弱いと、余剰の潤滑油は気孔から放出および吸収を繰り返し、耐えず空間内を流動することになる。
このような固形潤滑剤から余剰に滲み出した潤滑油は、ゴムなどの外装材に接すると、その素材を潤滑油やその添加剤が化学的に腐食または劣化するものもある。
また、このような固形潤滑剤を製造する工程では、潤滑油やグリースを確実に含浸させるために多くの製造工程が必要になり、これでは低コスト化の要求に応えることも困難である。
【特許文献1】特開平6−41569号公報
【特許文献2】特開平6−172770号公報
【特許文献3】特開2000−319681号公報
【特許文献4】特開平11−286601号公報
【特許文献5】特開平9−42297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に対処するためになされたものであり、潤滑剤保持力に優れ、外力による変形を受けても潤滑成分の滲み出し量を必要最小限に抑制するとともに開放部位からの潤滑剤の飛散を防止でき、長寿命で低コストであり、生産性にも優れる自在継手およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自在継手は、外方部材および内方部材に設けられたトラック溝とトルク伝達部材との係り合いによって回転トルクが伝達され、上記トルク伝達部材が上記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされ、上記トルク伝達部材の周囲に多孔性固形潤滑剤が封入されてなる自在継手であって、上記多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、該固形物からの上記潤滑成分の飛散を防止する飛散防止手段を設けてなることを特徴とする。また、上記自在継手は等速自在継手であることを特徴とする。
【0007】
上記飛散防止手段は、前記外方部材の開口側に設けた仕切り板であることを特徴とする。
【0008】
上記飛散防止手段は、上記固形物の外方部材開口側端面に形成した被膜であることを特徴とする。
また、上記被膜は、上記固形物において自在継手の作動時に上記外方部材開口側に露出する外方部材接触部位にも形成することを特徴とする。
また、上記被膜は、上記樹脂成分を有する組成物を用いて形成されることを特徴とする。
【0009】
上記多孔性固形潤滑剤は、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなる樹脂成分を具備し、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有することを特徴とする。
また、上記樹脂成分がポリウレタン樹脂であることを特徴とする。
また、上記固形物の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の自在継手の製造方法は、上記自在継手の製造方法であって、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする成分を混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物の発泡・硬化が完了する前に、上記混合物をトルク伝達部材の周囲に充填する充填工程と、上記充填した上記混合物を発泡・硬化させ固形物を得る発泡・硬化工程と、上記固形物の上記外方部材開口側端面に被膜を形成する被膜形成工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の自在継手は多孔性固形潤滑剤を使用している。この多孔性固形潤滑剤は潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、上記潤滑成分が発泡・硬化した固形成分内に吸蔵されるとともに、該潤滑成分の飛散防止手段として、固形物の外方部材開口側端面に形成される被膜や、外方部材の開口側に設けた仕切り板等を有する。このため、本発明の自在継手は、回転運動に伴う遠心力や自在継手が角度をとったときに発生する圧縮、屈曲、膨張などの外的な応力や毛細管現象によって多孔性固形潤滑剤中よりトルク伝達部材周囲に潤滑油が徐放されるとともに、外方部材開口端側への漏洩が防止できるので、潤滑剤保持力に優れ、自在継手の小型化、高性能化および長寿命化が図れる。
なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることをいう。
【0012】
固形物において潤滑油の飛散および漏洩が多い、自在継手の作動時に外方部材開口側に露出する外方部材接触部位にも被膜を形成することで、潤滑油の外方部材開口端側への飛散・漏洩を効果的に防止できる。
【0013】
上記被膜は、多孔性固形潤滑剤の樹脂成分を有する組成物を用いて形成されるので、該多孔性固形潤滑剤との密着性に優れる。また、多孔性固形潤滑剤および被膜の樹脂成分としてゴム状弾性を有する樹脂またはゴムを採用することで、圧縮・屈曲等による破損を防止できる。
【0014】
本発明の自在継手の製造方法は、上記混合工程と、充填工程と、発泡・硬化工程と、被膜形成工程とを備えるので、組み立て後に潤滑剤を封入する必要がない。その結果、生産効率が向上し、安価に製造できる。
【0015】
また、飛散防止手段を設けることで、自在継手のブーツ内に潤滑成分が存在しにくいため、回転膨張によるブーツの破損や、低温状態での起動時におけるブーツの破損やブーツバンド部のズレを防ぐことができ、耐久性を向上させることができる。また、ブーツに損傷が生じた場合、自在継手外部から侵入する塵・水分等に対し被膜や仕切り板がシールの役割をも果たすので、摺動部への塵・水分等の侵入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の自在継手は、封入した多孔性固形潤滑剤の樹脂内に潤滑成分を吸蔵させるので、樹脂の柔軟性により、例えば圧縮、膨張、屈曲、ねじりなどの外力による変形により潤滑剤を滲み出させて樹脂の分子間から外部に徐放できる。この際、滲み出す潤滑剤量は、外力の大きさに応じて弾性変形する程度を樹脂の選択などによって変えることにより、必要最小限にすることができる。
また、本発明に用いる多孔性固形潤滑剤において樹脂成分は、発泡により表面積が大きくなっており、滲み出した余剰の潤滑剤を再び発泡体の気泡内に一時的に保持することもできて滲み出す潤滑剤量は安定しており、また樹脂内に潤滑剤を吸蔵させるとともに気泡内に含浸させることによって非発泡の状態より潤滑剤の保持量も多くなる。また、固形物の外方部材開口側端面に形成された被膜や、外方部材の開口側に設けた仕切り板等の潤滑剤飛散防止手段を有するので、外方部材開口側への潤滑剤の飛散・漏洩を防止できる。
その上、本発明に用いる多孔性固形潤滑剤は、非発泡体と比較して屈曲時に必要なエネルギーが非常に小さく、潤滑油を高密度に保持しながら柔軟な変形が可能である。また、発泡部分すなわち多孔質な部分を多く持つため、軽量化の点でも有利である。
また、本発明に用いる多孔性固形潤滑剤は潤滑成分と、樹脂成分とを必須成分として含む混合物を発泡・硬化させるだけであるので、特別な設備も不要であり、任意の場所に充填して成形することが可能である。
また、上記混合物の配合成分の配合量をコントロールすることにより多孔性固形潤滑剤の密度を変化させることができる。
【0017】
本発明の飛散防止手段として、多孔性固形潤滑剤の外方部材開口側端面に形成する被膜としては、樹脂組成物を用いて塗布形成される樹脂塗膜であることが好ましい。
この被膜を形成する樹脂組成物としては、多孔性固形潤滑剤との密着性を考慮して、後述する多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分と化学的親和性に優れる樹脂成分を用いることが好ましく、多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分と同じ樹脂成分を有することが特に好ましい。
【0018】
本発明の多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなり、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。
発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂成分に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0019】
該樹脂成分としては、樹脂(プラスチック)またはゴムなどのうち、エラストマーまたはプラストマーのいずれかまたは両方を、アロイまたは共重合成分として採用できる。また、プレポリマーも採用できる。
ゴムの場合は、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンエラストマー、フッ素ゴム、クロロスルフォンゴムなどの各種ゴムを採用できる。
また、プラスチックの場合は、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド4,6樹脂(PA4,6)、ポリアミド6,6樹脂(PA6,6)、ポリアミド6T樹脂(PA6T)、ポリアミド9T樹脂(PA9T)などの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを採用できる。
上記プラスチックなどに限られることなく、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォーム、半硬質ウレタンフォームなどのウレタンフォームやポリウレタンエラストマーなどを用いることもできる。
上記樹脂の中で、容易に発泡・硬化して多孔質化するポリウレタン樹脂が好ましい。
【0020】
本発明に使用できるポリウレタン樹脂は、イソシアネートとポリオールとの反応による発泡・硬化物であるが、分子内にイソシアネート基(−NCO)を有するウレタンプレポリマーの発泡・硬化物であることが好ましい。このイソシアネート基は他の置換基によってブロックされていてもよい。分子内に含まれるイソシアネート基は、分子鎖末端であっても、あるいは分子鎖内から分岐した側鎖末端に含まれていてもよい。また、ウレタンプレポリマーは分子鎖内にウレタン結合を有していてもよい。また、ウレタンプレポリマーの硬化剤はポリオールでもよいし、ポリアミンでもよい。
【0021】
ウレタンプレポリマーは、活性水素基を有する化合物とポリイソシアネートとの反応によって得ることができる。
活性水素基を有する化合物としては低分子ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ひまし油系ポリオール等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上の混合物として使用することができる。低分子ポリオールとしては、2価のもの例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA等、3価以上のもの(3〜8価のもの)例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークローズ等が挙げられる。
【0022】
ポリエーテル系ポリオールとしては上記低分子ポリオールのアルキレンオキサイド(炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド)付加物およびアルキレンオキサイドの開環重合物が挙げられ、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが含まれる。
【0023】
ポリエステル系ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリエーテルエステルポリオール等が挙げられる。ポリエステルポリオールはカルボン酸(脂肪族飽和または不飽和カルボン酸、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、ドデカン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、二量化リノール酸およびまたは芳香族カルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸)とポリオール(上記低分子ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオール)との縮合重合により得られる。
【0024】
ポリカプロラクトンポリオールは、グリコール類やトリオール類の重合開始剤にε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、ε-メチル-ε-カプロラクトン等を有機金属化合物、金属キレート化合物、脂肪酸金属アシル化物等の触媒の存在下で付加重合により得られる。ポリエーテルエステルポリオールには、末端にカルボキシル基および/またはOH基を有するポリエステルにアルキレンオキサイド例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等を付加反応させて得られる。ひまし油系ポリオールとしては、ひまし油およびひまし油またはひまし油脂肪酸と上記低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールとのエステル交換あるいは、エステル化ポリオールが挙げられる。
【0025】
ポリイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族または脂環式およびポリイソシアネート化合物がある。
芳香族ジイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネートおよびその混合物、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネートが挙げられる。
脂肪族または脂環式ジイソシアネートは、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカンジイソシアネート、1,3-シクロブタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、イソプロパンジイソシアネート、2,4-ヘキサヒドロトルイレンジイソシアネート、2,6-ヘキサヒドロトルイレンジイソシアネート、1,3-ヘキサヒドロフェニルジイソシアネート、1,4-ヘキサヒドロフェニルジイソシアネート、2,4′パーヒドロジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-パーヒドロジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。
ポリイソシアネート化合物としては、4,4′,4″-トリフェニルメタントリイソシアネート、4,6,4′-ジフェニルトリイソシアネート、2,4,4′-ジフェニルエーテルトリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが挙げられる。
また、これらイソシアネートの一部をビウレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリドン、アミド、イミド等に変性したものが挙げられる。
【0026】
本発明に好適なウレタンプレポリマーとしては、注型用ウレタンプレポリマーとして知られている、ポリラクトンエステルポリオール、ポリエーテルポリオールにポリイソシアネートを付加重合させて得られるプレポリマー等が挙げられる。
上記ポリラクトンエステルポリオールはカプロラクトンを開環反応させて得られるポリラクトンエステルポリオールに短鎖ポリオールの存在下、ポリイソシアネートを付加重合させたウレタンプレポリマーが好ましい。
上記ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイドの付加物または開環重合物が挙げられ、これらとポリイソシアネートを付加重合させたウレタンプレポリマーが好ましい。
【0027】
本発明に好適に使用できるウレタンプレポリマーの市販品を例示すれば、ダイセル化学社製の商品名プラクセルEP、日本ポリウレタン社製の商品名コロネート4090などが挙げられる。プラクセルEPは室温以上の融点を有する白色固体のウレタンプレポリマーである。
【0028】
上記ウレタンプレポリマーを硬化させる硬化剤としては、3,3′-ジクロロ-4,4′-ジアミノジフェニルメタン(以下、MOCAと記す)や4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5′-ジメチルジフェニルメタン、トリメチレン-ビス-(4-アミノベンゾアート)、ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、メチルチオトルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミンに代表される芳香族ポリアミン、上記ポリイソシアネート、1,4-ブタングリコールやトリメチロールプロパンに代表される低分子ポリオール、ポリエーテルポリオール、ひまし油系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、水酸基末端液状ポリブタジエン、水酸基末端液状ポリイソプレン、水酸基末端ポリオレフィン系ポリオールやこれら化合物の末端水酸基をイソシアネート基やエポキシ基などで変性した化合物に代表される2個以上の水酸基を有する液状ゴム等を単独でまたは併用して用いることができる。これらの中でコストおよび物性の点で優位であることから、芳香族ポリアミンがポリラクトンエステルポリオールとポリイソシアネートを付加重合させたウレタンプレポリマーを硬化させるのに好ましい。
【0029】
また、上記樹脂成分に限られることなく、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリイミド系接着剤など各種接着剤を発泡および硬化させて使用することもできる。
【0030】
本発明において樹脂成分中には必要に応じて各種添加剤を用いることができる。添加剤としてはヒンダードフェノール系に代表される酸化防止剤、補強剤(カ−ボンブラック、ホワイトカーボン、コロイダルシリカなど)、無機充填剤(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレイ、硅石粉など)老化防止剤、難燃剤、金属不活性剤、帯電防止剤、防黴剤やフィラーおよび着色剤などが挙げられる。
【0031】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、圧縮、屈曲、遠心力および温度上昇に伴う気泡の膨張などの外力によって潤滑剤を外部に供給することが可能なものである。
潤滑成分を樹脂内部に吸蔵するには、潤滑剤の存在下で発泡反応と硬化反応とを同時に行なわせる反応型含浸法を採用することが望ましい。このようにすると潤滑剤を樹脂内部に高充填することが可能となり、その後には潤滑剤を含浸して補充する後含浸工程を省略できる。
これに対して発泡固形体をあらかじめ成形しておき、これに潤滑剤を含浸させる後含浸法だけでは、樹脂内部に充分な量の液体潤滑剤が染み込まないので、潤滑剤保持力が充分になく、短時間で潤滑剤が放出されて長期的に使用すると潤滑剤が供給不足となる場合がある。このため、後含浸工程は、反応型含浸法の補助手段として採用することが好ましい。
【0032】
本発明に使用できる潤滑成分は、発泡体を形成する樹脂成分を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができる。潤滑成分としては、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して使用できる。
潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等が挙げられる。これらは単独でも混合油としても使用できる。
樹脂材料と潤滑油が極性などの化学的な相性によって溶解、分散しない場合には、粘度の近い潤滑油を使用することで、物理的に混合しやすくなり、潤滑油の偏析を防ぐことが可能となる。
【0033】
グリースは、基油に増ちょう剤を加えたものであり、基油としては上述の潤滑油を挙げることができる。増ちょう剤としては、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウム石けん、アルミニウムコンプレックス石けん等の石けん類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
【0034】
上記グリースにおける基油の配合割合は、グリース成分全体に対して、基油が 1〜98 重量%、好ましくは 5〜95 重量%である。基油が 1 重量%未満であると、潤滑油を必要箇所に十分に供給することが困難になる。また 98 重量%より多いときには、低温でも固まらずに液状のままとなる。
【0035】
本発明に使用するワックスとしては、炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などを挙げることができる。これらのワックスに油を混合してもよく使用する油成分としては上述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0036】
以上述べた潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系化合物などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系化合物などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の自在継手を等速ジョイントに利用した例としては、ボールフィクストジョイント(以下、BJと記す)の他、アンダーカットフリージョイント(以下、UJと記す)などが挙げられる。このようなBJやUJのボール数は6個または8個の場合がある。
BJやUJに多孔性固形潤滑を封入した場合、潤滑剤が必要な部位のみに充填されることになるため、低コスト化・軽量化に寄与できると共に、使用される作動角が大きいことから圧縮・屈曲を受けやすく、摺動部へ潤滑剤が供給されやすい。
また、摺動式等速ジョイントに利用した例としては、ダブルオフセットジョイント、トリポードジョイント、クロスグルーブジョイントなどが挙げられる。
また、不等速ジョイントとしては、クロスジョイントなどが挙げられる。
【0038】
本発明の自在継手の一実施例を図1に基づいて説明する。図1は本発明の一実施例であるBJの一部切欠断面図を示す。
図1に示すように、BJ1は外方部材(外輪ともいう)2の内面および球形内方部材(内輪ともいう)3の外面に軸方向の六本のトラック溝4、5を等角度に形成し、そのトラック溝4、5間に組み込んだボール6をケージ7で支持し、このケージ7の外周を球面7aとし、かつ内周を内方部材3の外周に適合する球面7bとしている。
また、外方部材2の外周とシャフト8の外周とをブーツ9で覆い、外方部材2と、球形内方部材3と、トラック溝4、5と、ボール6と、ケージ7と、シャフト8とに囲まれた空間に多孔性固形潤滑剤10が封入され、多孔性固形潤滑剤10は外方部材開口側端面に被膜10aが形成されている。
【0039】
また、本発明の自在継手の他の実施例を図2に基づいて説明する。図2は本発明の他の実施例であるBJの一部切欠断面図を示す。
図2に示すように、BJ11は外方部材12の内面および球形内方部材13の外面に軸方向の六本のトラック溝14、15を等角度に形成し、そのトラック溝14、15間に組み込んだボール16をケージ17で支持し、このケージ17の外周を球面17aとし、かつ内周を内方部材13の外周に適合する球面17bとしている。
また、外方部材12の外周とシャフト18の外周とをブーツ19で覆い、外方部材12と、球形内方部材13と、トラック溝14、15と、ボール16と、ケージ17と、シャフト18とに囲まれた空間に多孔性固形潤滑剤20が封入され、多孔性固形潤滑剤20は外方部材12の開口端面に被膜20aが形成されている。被膜20aは、BJ11の作動時に外方部材開口側に露出し、作動に伴なう応力により潤滑油が飛散および漏洩しやすい、外方部材開口端12aと接触する外方部材接触部位にも形成されている。
【0040】
本発明の自在継手の製造方法は、上記自在継手の製造方法であって、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする成分を混合して混合物を得る混合工程と、上記混合物の発泡・硬化が完了する前に、混合物をトルク伝達部材の周囲に充填する充填工程と、上記充填した混合物を発泡・硬化させ固形物を得る発泡・硬化工程と、上記固形物の外方部材開口側端面に被膜を形成する被膜形成工程とを備える。
本発明の自在継手は、上記各種自在継手のトルク伝達部材周りのみ組み立てたサブアッシーの所定空間に潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を充填し、発泡・硬化させた固形物の外方部材開口側端面に被膜を形成した後、ブーツ等の部材を組み付けることで得られる。混合物を自在継手サブアッシーに充填し発泡・硬化させた固形物の外方部材開口側端面に被膜を形成するだけであるので、形状が複雑な自在継手内の任意の部位にも容易に充填することが可能であり、得られる自在継手には既に潤滑剤が含浸されている。このため発泡成形体を得るための成形金型や潤滑剤の後含浸工程等も不要である。
【0041】
上記混合工程は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を混合する工程である。潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を混合する方法は、特に限定されることなく、例えばヘンシェルミキサー、リボンミキサー、ジューサーミキサー、ミキシングヘッド等、一般に用いられる撹拌機を使用して混合することができる。
上記混合物は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させておくことが望ましい。また、この整泡剤の種類によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類を連続気泡または独立気泡に制御することが可能となる。このような界面活性剤としては陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0042】
混合物において潤滑成分の配合割合は、混合物全体に対して、潤滑油が 1 重量%〜90 重量%、好ましくは 5 重量%〜80 重量%である。潤滑成分が 1 重量%未満であると、潤滑成分を必要箇所に充分に供給することが困難になる。また90 重量%より多いときには、低温でもグリースなどでは固まらずに液状のままとなり、固形潤滑剤に特有の機能を果たさない場合がある。
また、樹脂成分の配合割合は、混合物全体に対して、8〜98 重量%、好ましくは 20〜80 重量%である。8 重量%より少ないときは固化せず、98 重量%より多いときには潤滑成分の供給量が少なく、多孔性固形潤滑剤としての機能を発揮できない。
なお、硬化剤の配合割合は、樹脂の配合量と後述する発泡倍率により定まる。
【0043】
上記充填工程は、混合物が発泡・硬化する前にこの混合物を自在継手サブアッシーの任意の部位に充填する工程である。発泡・硬化する前の混合物は流動性があるので形状が複雑な自在継手内の任意の部位にも容易に充填することが可能である。なお、混合物を充填する際は、必要に応じて自在継手サブアッシー内の所定空間の側面に治具で蓋をすることにより、所定の形状に成形することができる。この場合蓋として後述する仕切り板を用い、発泡・硬化後、取り外さずにそのまま仕切り板として使用することもできる。
【0044】
上記発泡・硬化工程は、充填された潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする混合物を自在継手サブアッシー内で発泡・硬化させる工程である。
樹脂成分を発泡させる手段としては周知の発泡手段を採用すればよく、例えば、水、アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱し、気化させる物理的手法や、窒素などの不活性ガスや空気を外部から吹き込む機械的発泡方法、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボンアミド(ADCA)等のように加熱処理や光照射によって化学分解させ、窒素ガスなどを発生させる分解型発泡剤を使用するなどの方法が挙げられる。また、原料として反応性の高いイソシアネート基を持つ化合物を使用する場合には、イソシアネート化合物と水分子との化学反応によって生じる二酸化炭素による化学的発泡を用いてもよい。この方法は連続気泡が生成しやすいので好ましい。
【0045】
また、このような反応を伴う発泡を用いる場合には必要に応じて触媒を使用することが好ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンメルカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジメルカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸塩などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いてもよい。
【0046】
発泡・硬化工程において発泡により多孔質化される際に生成させる気泡は気泡が連通している連続気泡であることが好ましく、外部応力によって潤滑成分を樹脂の表面から連続気泡を介して外部に直接供給するためである。気泡間が連通していない独立気泡の場合は固形成分中の潤滑油の全量が一時的に独立気泡中に隔離され気泡間での移動が困難となり、必要なときにトルク伝達部材の周囲に十分供給されない場合がある。
【0047】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤の連続気泡率は 50%以上が好ましく、より好ましくは 70%以上である。連続気泡率が 50%未満の場合は、発泡・硬化して多孔質化した樹脂内の潤滑油が一時的に独立気泡中に取り込まれている割合が多くなり、必要な時に外部へ供給されない場合がある。
【0048】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤の連続気泡率は以下の手順で算出できる。
(1)発泡硬化した多孔性固形潤滑剤を適当な大きさにカットし、試料Aを得る。試料Aの重量を測定する。
(2)試料Aを 3 時間ソックスレー洗浄(溶剤:石油ベンジン)する。その後 80℃で 2 時間恒温槽に放置し、有機溶剤を完全に乾燥させ、試料Bを得る。試料Bの重量を測定する。
(3)連続気泡率を以下の手順で算出する。
連続気泡率=(1−(試料Bの樹脂重量−試料Aの樹脂重量)/試料Aの潤滑成分重量)×100
なお、試料A、Bの樹脂重量、潤滑成分重量は、試料A、Bの重量に組成の仕込み割合を乗じて算出する。
連続していない独立気泡中に取り込まれた潤滑成分は 3 時間ソックスレー洗浄では外部へ放出されないため試料Bの重量を減少させることがないので、上記の操作で試料Bの重量減少分は連続気泡からの潤滑成分の放出によるものとして連続気泡率が算出できる。
【0049】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤の発泡倍率は 1.1〜100 倍であることが好ましい。さらに好ましくは 1.1〜10 倍である。なぜなら発泡倍率 1.1 倍未満の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できないし、または固形物が硬すぎるため、外部応力に追随した変形ができないなどの不具合がある。また、100 倍をこえる場合は外部応力に耐える強度を得ることが困難となり、破損や破壊に至ることがある。
【0050】
上記被膜形成工程は、発泡・硬化した固形物の外方部材開口側端面に潤滑成分の飛散防止手段として樹脂被膜等の被膜を形成する工程である。樹脂被膜は、樹脂と有機溶剤とを含む樹脂組成物を、発泡・硬化した固形物に塗布して、乾燥固化させて形成する方法や、熱硬化性エラストマーや樹脂を発泡・硬化した固形物に直接塗布して、加熱もしくは紫外線等で硬化させる方法などがある。
樹脂組成物を構成する樹脂としては、上述したように多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分との化学的親和性から、多孔性固形潤滑剤に用いた樹脂成分と同様のものを使用することが好ましい。有機溶剤は選択した樹脂成分を溶解または分散できるものであれば任意の溶剤を使用できる。
【0051】
樹脂組成物を固形物に塗布する方法としては、刷毛やへらを用いる方法、スプレーによる方法等塗布する固形物の形状に合わせて選択することができる。塗布後の乾燥固化条件については、使用した樹脂組成物から有機溶剤が完全に蒸発して、樹脂被膜を形成できる温度、時間を選択すればよい。
熱硬化性エラストマーや樹脂を固形物に塗布する方法としては、刷毛やへらを用いる方法等塗布する固形物の形状に合わせて選択することができる。塗布後の硬化条件としては、使用したエラストマーや樹脂が完全に硬化して樹脂被膜を形成できる温度条件、紫外線照射条件、時間等を選択すればよい。
また、自在継手の外方部材開口側に被膜として樹脂またはゴムシートを設置した後、継手内に混合物を充填し発泡硬化させ、潤滑剤に密着した被膜として形成することもできる。また、自在継手内に混合物を充填し発泡硬化させた後に、被膜として樹脂またはゴムシートを設置してもよい。
樹脂被膜を形成した後、自在継手サブアッシーにブーツ等の所定の部材を組み付けて本発明の自在継手を得ることができる。
【0052】
上記製造方法において、混合物を自在継手サブアッシーに充填する以外の方法として、成形用金型内に充填後、発泡・硬化させて成形した多孔性固形潤滑剤を自在継手に組み込む方法がある。組み込んだ後、上述の方法で被膜を形成することができる。また、成形用金型内の外方部材開口側に樹脂として樹脂シートをインサートした後、混合物を金型に充填して一体成形し、樹脂被膜付の多孔性固形潤滑剤を得ることもできる。
また、成形用金型を用いずに常圧で混合物を発泡・硬化させる方法もあるが、この場合は発泡・硬化物を裁断や研削等で目的の形状に後加工して、自在継手に組み込む必要がある。なお常圧で得られた発泡・硬化物には潤滑剤の含有量が不足する場合があるので、この場合は樹脂被膜を形成する前に後含浸して所定量の潤滑剤を確保しておく必要がある。
これらの方法は成形用金型を必要としたり、研削や後含浸、組み込み等の後加工が必要となる。また、硬化した発泡体に潤滑剤を後含浸して追加しても、潤滑剤保持性が低いことや、自在継手に組み込むためのハンドリング時に発泡体から潤滑剤が漏出しやすい等の不具合が生じやすい。
以上のことから本発明においては、品質面、作業面、コスト面で混合物を自在継手サブアッシーに充填して発泡・硬化させる方法を採用することが好ましい。
【0053】
本発明の自在継手の他の実施例として、飛散防止手段として仕切り板を設ける場合の例を図3に基づいて説明する。図3は本発明の他の実施例であるBJの一部切欠断面図を示す。図4は図3のブーツを外し、A側から見た仕切り板を示す図面である。
図3に示すように、BJ21は外方部材22の内面および球形内方部材23の外面に軸方向の六本のトラック溝24、25を等角度に形成し、そのトラック溝24、25間に組み込んだボール26をケージ27で支持し、このケージ27の外周を球面27aとし、かつ内周を内方部材3の外周に適合する球面27bとしている。
また、外方部材22の外周とシャフト28の外周とをブーツ29で覆い、外方部材22と、球形内方部材23と、トラック溝24、25と、ボール26と、ケージ27と、シャフト28とに囲まれた空間に多孔性固形潤滑剤30が封入され、シャフト28を貫通する仕切り板31が外方部材22の開口側に設けられている。
【0054】
仕切り板31の材質としては、貫通しているシャフト28が作動角をとって変位してもシャフトの動作にスムーズに対応できる柔軟性やゴム状弾性を有する材料が好ましく、潤滑剤に対する耐油性を備えた材料であれば特に制限なく使用することができる。例えば、上述した多孔性固形潤滑剤を構成するエラストマーやゴムを挙げることができる。これらは単独でも使用できるし、アロイ化しても使用できる。
熱可塑性エラストマーやゴムは、構造体としての強度を保ちながら柔軟性を付与できるので、圧縮や屈曲などの外部応力が高い頻度で繰り返し加わる部位に使用すると、圧縮や屈曲に追従して変形しやすくなる。
【0055】
また、仕切り板31はシャフト28の作動角度にスムーズに対応することができる柔軟性のある材料で製造されるが、材料物性だけでシャフト28の作動角度にスムーズに対応することができない場合には、図4に示すようにシャフト28側に切り込み32を設けることにより、シャフト28の作動角度に対応する柔軟性を増強することができる。
【0056】
本発明の自在継手において、飛散防止手段の仕切り板を取り付ける方法は特に制限されない。例えば、自在継手内に充填した混合物の発泡・硬化が終了して多孔性固形潤滑剤を得た後、外方部材の開口側に仕切り板を取り付けることができる他、自在継手内に混合物を充填した後、外方部材の開口側を塞ぐ蓋として仕切り板を取り付け混合物の発泡・硬化後も、取り外さずにそのまま仕切り板として使用することもできる。
なお、本発明の自在継手の飛散防止手段としては、上記被膜と仕切り板とを併用してもよい。
【0057】
本発明の自在継手において、多孔性固形潤滑剤から潤滑剤が徐放されるとともに被膜や仕切り板で飛散・漏洩が防止されるため、従来の自在継手ではブーツ破損などでグリースが流出し、その結果潤滑不良にいたるような場合でも、本発明では寿命に直接的な要因とはならず、また、外部からの塵や水分等の侵入に対してはシールの役割をも果たす。
【0058】
本発明の自在継手において、多孔性固形潤滑中に含浸された状態で含まれる潤滑成分は、外力による発泡体の変形によっても急激に滲み出すことがなく、潤滑成分を効率よく摺動面に滲み出させて用いることができる。その結果、潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長寿命でゴム製ブーツの劣化も少ない自在継手が得られる。このため各種自在継手に、好ましくは自動車用自在継手に、特に好ましくは自動車用等速ジョイントに用いることができる。
【実施例】
【0059】
実施例1〜実施例2
表1に示す配合割合で、樹脂成分としてウレタンプレポリマー、整泡剤、潤滑油、グリースを 80℃でよく混合し、次に、120℃で溶解した硬化剤を加えて素早く混合した。最後に発泡剤およびアミン触媒を投入し撹拌した後、固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN株式会社製、EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )に 17.0 g 充填した。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30分間放置し発泡・硬化させた。その後、表1の飛散防止膜成分に示す割合で、ウレタンプレポリマーを 80℃でよく混合し、次に、120℃で溶解した硬化剤を加えて素早く混合し、この混合物が硬化する前に、多孔性固形潤滑剤の等速ジョイントの開口側端面に適量塗布し、飛散防止膜を形成した。次に、ブーツ、シャフトなど他の部材を組み付け多孔性固形潤滑剤を封入した試験用等速ジョイントを得た。
得られた試験用等速ジョイントを用いて以下に示す潤滑剤放出試験を行ない、試験前後で、ジョイント内の多孔性固形潤滑剤からブーツ側へ移動してしまった潤滑剤成分を測定し、潤滑剤損失量として評価した。結果は表1に併記した。また前述の連続気泡率の算出法に基づき多孔性固形潤滑剤の連続気泡率を測定した。結果は表1に併記した。
【0060】
<潤滑剤放出試験>
試験用等速ジョイントをトルク負荷 186 N・m 、回転数 1000 rpm、角度 6 deg にて運転時間 10 時間の条件で運転し、潤滑剤放出試験を行なった。試験前後で、ジョイント内の多孔性固形潤滑剤からブーツ側へ移動してしまった潤滑剤成分を測定し、潤滑剤損失量とした。
【0061】
実施例3
表1に示す配合割合で、樹脂としてウレタンプレポリマー、整泡剤、潤滑油、グリースを 80℃でよく混合し、次に、120℃で溶解した硬化剤を加えて素早く混合した。最後に発泡剤およびアミン触媒を投入し撹拌した後、固定式8個ボールジョイントサブアッシー(NTN株式会社製、EBJ82 外径サイズ 72.6 mm )に 17.0 g 充填し、外方部材の開口側に仕切り板(材質:熱可塑性ポリエステルエラストマー、外径サイズ 72.6 mm、厚み 1 mm )で蓋をした。数秒後に発泡反応が始まり、100℃で 30分間放置し発泡・硬化させた。次に、ブーツ、シャフトなど他の部材を組み付け多孔性固形潤滑剤を封入した試験用等速ジョイントを得た。実施例1と同様の項目を測定した。結果は表1に併記した。
【0062】
比較例1〜比較例2
飛散防止膜を形成しなかったこと以外は実施例1と同様に処理して試験用等速ジョイントを得て、潤滑剤損失量を評価した。結果は表1に併記した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示した結果でわかるように、飛散防止手段を設けた固形潤滑剤入り等速ジョイントである各実施例は、潤滑剤がブーツ側へ移動してしまう潤滑剤損失量が少ない。このため、ジョイント内部に留まって潤滑に寄与する潤滑剤量が多くなり、等速ジョイントの寿命や性能を長期にわたって保つことができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の自在継手は、潤滑成分の不要部位への漏出を防止でき潤滑成分量は必要最小限でよく、しかも長期間潤滑性を保持できるので、撚線機、電動機器、印刷機、自動車部品、電装補機、建設機械等の各種産業用機械用の自在継手として、特に自動車用等速ジョイントとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施例に係る等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図2】本発明の他の実施例に係る等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図3】本発明の他の実施例に係る等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図4】図3のブーツを外し、A側から見た仕切り板を示す図面である。
【符号の説明】
【0067】
1、11、21 等速ジョイント
2、12、22 外方部材
3、13、23 内方部材
4、5、14、15、24、25 トラック溝
6、16、26 ボール(トルク伝達部材)
7、17、27 ケージ
7a、17a、27a 球面
7b、17b、27b 球面
8、18、28 シャフト
9、19、29 ブーツ
10、20、30 多孔性固形潤滑剤
10a 被膜
20a 被膜
31 仕切り板
32 切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材および内方部材に設けられたトラック溝とトルク伝達部材との係り合いによって回転トルクが伝達され、前記トルク伝達部材が前記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされ、前記トルク伝達部材の周囲に多孔性固形潤滑剤が封入されてなる自在継手であって、
前記多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、該樹脂成分を発泡・硬化して多孔質化した固形物であり、該固形物からの前記潤滑成分の飛散を防止する飛散防止手段を設けてなることを特徴とする自在継手。
【請求項2】
前記飛散防止手段は、前記外方部材の開口側に設けた仕切り板であることを特徴とする請求項1記載の自在継手。
【請求項3】
前記飛散防止手段は、前記固形物の外方部材開口側端面に形成した被膜であることを特徴とする請求項1記載の自在継手。
【請求項4】
前記被膜は、前記固形物において自在継手の作動時に前記外方部材開口側に露出する外方部材接触部位にも形成することを特徴とする請求項3記載の自在継手。
【請求項5】
前記被膜は、前記樹脂成分を有する組成物を用いて形成されることを特徴とする請求項3または請求項4記載の自在継手。
【請求項6】
前記多孔性固形潤滑剤は、ゴム状弾性を有する樹脂またはゴムからなる樹脂成分を具備し、外力による変形により潤滑成分の滲出性を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の自在継手。
【請求項7】
前記樹脂成分がポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の自在継手。
【請求項8】
前記固形物の連続気泡率が 50%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の自在継手。
【請求項9】
前記自在継手は、等速自在継手であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項記載の自在継手。
【請求項10】
請求項3ないし請求項9のいずれか一項記載の自在継手の製造方法であって、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とする成分を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物の発泡・硬化が完了する前に、前記混合物をトルク伝達部材の周囲に充填する充填工程と、前記充填した前記混合物を発泡・硬化させ固形物を得る発泡・硬化工程と、前記固形物の前記外方部材開口側端面に被膜を形成する被膜形成工程とを備えることを特徴とする自在継手の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−32217(P2008−32217A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142656(P2007−142656)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】