説明

自在継手

【構成】 自在継手10は、受口継手12および差口継手14を備え、受口継手12と差口継手14との相対的な位置を変えて接続することにより、角度調整することが可能である。受口継手12の直管部16の一方端面は、その軸に直交する面に対して第1角度で傾斜して形成され、この傾斜面20からこれに直交する方向を軸として傾斜受口18が形成される。差口継手14の直管部30の一方端部には、傾斜差口32が設けられ、この傾斜差口32の一方端部側には、その軸が直管部30の軸に対して第2角度で傾斜した差口先端面34が形成される。また、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”には、リング部材50が設けられる。リング部材50は、中空円状に形成される板状体であり、傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間に介在される。
【効果】 自在継手の角度調整をスムーズに行うことができ、しかも安定した止水性能を発揮することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自在継手に関し、特にたとえば、管どうしを所定の接続角度を有して接続するための、自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自在継手の一例が、特許文献1に開示されている。この特許文献1の自在継手では、第1の管接続部と第2の管接続部とが、各々の軸線に対して所定角度で傾斜する傾斜面で突き合わされており、両者が互いに回動されることによって接続角度が変更される。そして、第1の管接続部の挿口と第2の管接続部の受口との間は、挿口の外面に装着された止水用ゴム輪によって止水されている。
【特許文献1】特開2002−22025号[F16J 15/32]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術では、自在継手の角度調整をスムーズに行うためには、回動の際の摺動性を考慮して、第1の管接続部の挿口と第2の管接続部の受口との間に多少の“回転しろ(あそび)”を持たせることが好ましい。
【0004】
しかしながら、“回転しろ”を持たせることにより、第1の管接続部の挿口と第2の管接続部の受口との摺動性は向上されるものの、その一方で、自在継手内を流れる水に混入している砂や土が“回転しろ”から止水用ゴム輪の部分に侵入してしまうことがあった。たとえば、侵入した砂や土が付着した状態で第1の管接続部および第2の管接続部を回動させると、止水用ゴム輪の止水性能は低下してしまう恐れがある。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、自在継手を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、角度調整をスムーズに行うことができ、しかも安定した止水性能を発揮できる、自在継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0008】
第1の発明は、管どうしを所定の接続角度を有して接続するための自在継手であって、第1角度で傾斜した接続端面を有する傾斜差口が設けられた差口継手、第2角度で傾斜した接続端面を有する傾斜受口が設けられた受口継手、および傾斜受口が傾斜差口との間をゴム輪によって密封しつつ所定寸法の回転しろを有して傾斜差口を受容した状態で、傾斜受口の接続端面と傾斜差口の接続端面との間に介在されるリング部材を備える、自在継手である。
【0009】
第1の発明では、自在継手(10)は、管どうしを所定の接続角度を有して接続するためのものであり、受口継手(12)および差口継手(14)を備えている。そして、受口継手と差口継手との相対的な位置を変えて接続することによって、角度調整することが可能である。受口継手は、所定の口径を有する直管部(16)を含み、直管部の一方端部には、その軸が直管部の軸に対して第1角度で傾斜した接続端面(20)を有する傾斜受口(18)が連続的に設けられる。また、差口継手は、所定の口径を有する直管部(30)を含み、直管部の一方端部には、傾斜差口(32)が連続的に設けられる。そして、傾斜差口の一方端部側には、その軸が直管部の軸に対して第2角度で傾斜した接続端面(34)が形成される。傾斜受口と傾斜差口との間には、ゴム輪(38)が設けられる。さらに、傾斜受口と傾斜差口との摺動性を確保するための“回転しろ”には、リング部材(54)が設けられる。リング部材は、たとえば均一な幅の中空円状に形成される板状体であり、傾斜受口の接続端面と傾斜差口の接続端面との間に介在される。たとえば、リング部材のリング本体(56)の開口(56a)は、傾斜受口の接続端面の開口(20a)や傾斜差口の接続端面の開口(34a)と略同径の真円状に形成されている。
【0010】
第1の発明によれば、受口継手と差口継手との“回転しろ”をリング部材の厚みによって吸収したり、“回転しろ”をリング部材によって分割したりすることにより、自在継手内を流れる水に混入している砂や土の“回転しろ”への侵入を妨げることができる。したがって、自在継手の止水性能の低下を回避することができる。
【0011】
しかも、リング部材の厚みを“回転しろ”の寸法よりも十分に小さくなるように調整することにより、受口継手と差口継手との回転抵抗の増加を回避しつつ、砂や土の“回転しろ”への侵入防止効果を発揮することが可能である。
【0012】
第2の発明は、第1の発明に従属し、リング部材の厚みは、数1の関係に基づいて設定される。[数1]M−N<1 ただし、M:回転しろの寸法(mm),N:リング部材の厚み(mm)である。
【0013】
第2の発明では、リング部材(54)の厚みは、傾斜受口(18)と傾斜差口(32)との摺動性を確保するための“回転しろ”の寸法、たとえば傾斜受口の傾斜面(20)と傾斜差口の差口先端面(34)との距離Mから、リング部材のリング本体(56)の厚みNを差し引いた値が1mmより小さくなるように設定される。
【0014】
第2の発明によれば、粒径が1mm以上の砂や土の“回転しろ”への侵入を確実に防止することができるので、ゴム輪が損傷しにくくなり、自在継手がその止水性能をより長期的に維持できるようになる。
【0015】
第3の発明は、第1または2の発明に従属し、リング部材の表面に突出して設けられる凸部をさらに備える。
【0016】
第3の発明では、リング部材(54)のリング本体(56)の表面に、表面から突出して形成される凸部(58)が設けられる。たとえば、凸部は、断面半円形状の突起やそれをリング本体の周方向に連続させた突条である。
【0017】
第3の発明によれば、傾斜受口が傾斜差口を受容した状態で、リング部材の凸部が接続端面に対して線接触または点接触するので、受口継手および差口継手を互いに回動させる際の摩擦抵抗を軽減させることができる。したがって、自在継手の角度調整をよりスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、傾斜受口と傾斜差口との“回転しろ”にリング部材を設けるようにしたため、受口継手と差口継手との回転抵抗を増加させることなく、止水性能の低下を回避することが可能になる。
【0019】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の背景となる自在継手の構造の一例を示す図解図である。
【図2】図1の受口継手を示す平面図である。
【図3】図1の受口継手を示す断面図である。
【図4】図1の差口継手を示す平面図である。
【図5】図1の差口継手を示す断面図である。
【図6】この発明の一実施例の自在継手の構造を示す図解図である。
【図7】図6の自在継手における、受口継手および差口継手の接続部分を示す拡大断面図である。
【図8】(a)は、図6のリング部材を示す平面図であり、(b)は、(a)のリング部材を示す断面図である。
【図9】図6の受口継手および差口継手の“回転しろ”の寸法と、リング部材の厚み寸法とを示す図解図である。
【図10】(a)は、この発明の他の実施例の自在継手におけるリング部材を示す平面図であり、(b)は、(a)のリング部材を示す断面図である。
【図11】図10の自在継手における、受口継手および差口継手の接続部分を示す拡大断面図である。
【図12】(a)は、この発明のさらに他の実施例の自在継手におけるリング部材を示す平面図であり、(b)は、(a)のリング部材を示す断面図である。
【図13】この発明のさらに他の実施例の自在継手におけるリング部材を示す断面図である。
【図14】図13の自在継手における、受口継手および差口継手の接続部分を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1(a)および図1(b)にこの発明の背景となる自在継手10の一例が図解される。この自在継手10は、図示しない2つの管どうしを所定の接続角度を有して接続するためのものであり、たとえば下水道管路等において使用され、受口継手12および差口継手14を備えている。そして、受口継手12と差口継手14とを各々の軸線に対して所定角度αで傾斜する接合端面で突き合わせて、その接合端面を介して互いに回動させることにより、接続角度を0から2αの範囲で変更することができる。
【0022】
以下、図6以降の図面を参照して後述するこの発明の理解に必要な範囲で、このような自在継手10について説明する。
【0023】
図2および図3に示すように、受口継手12は、たとえば塩化ビニルのような合成樹脂等からなり、所定の口径を有する直管部16を含む。直管部16の一方端部には、その軸Pが直管部16の軸Qに対して所定の角度αで傾斜した傾斜受口18が連続的に設けられる。傾斜受口18は、所定の接続角度を有して差口継手14を受容し得るように、適宜な口径および長さに設定される。
【0024】
たとえば、この実施例では、直管部16の一方端面が、軸Qに直交する面に対して角度αで傾斜して形成され、この傾斜面20の周縁部からこれに直交する方向を軸Pとして連続的に傾斜受口18が形成されている。傾斜面20は、均一な幅の中空円となるように形成されており、詳細は後に説明するように、傾斜受口18が傾斜差口32を受容した状態で、傾斜差口32の差口先端面34がこの傾斜面20に当接ないし近接する。すなわち、傾斜受口18はその最奥部(基端部)に傾斜面20を有し、この傾斜面20が、傾斜受口18において、傾斜差口32の差口先端面34に当接ないし近接される接続端面となる。
【0025】
傾斜受口18の内面には、その先端側に傾斜面20と平行に沿う環状溝22が形成される。そして、傾斜受口18が差口継手14を受容したときに、この環状溝22に後述する係止リング42が嵌合される。
【0026】
また、受口継手12はリブ付管であり、直管部16および傾斜受口18の外面にはそれぞれ複数の周方向リブ24が間隔を隔てて形成される。直管部16の他方端部は上述した他の管との接続のための差口となっており、差口外面の所定のリブ間にはゴム輪26が装着される。
【0027】
さらに、直管部16の外面の所定位置(この実施例では、傾斜受口18側の端部)には、2つの取手28が周方向に180度間隔を隔てて設けられる。取手28は、接続角度を変更する際に作業者によって把持されるまたは治具が取り付けられる等して用いられる。
【0028】
図4および図5に示すように、差口継手14は、受口継手12と同様に、たとえば塩化ビニルのような合成樹脂からなり、所定の口径を有する直管部30を含む。直管部30の一方端部には、傾斜差口32が連続的に設けられ、傾斜差口32の一方端部側には、その軸Sが直管部30の軸Rに対して所定の角度αで傾斜した差口先端面34が形成される。傾斜差口32は、所定の接続角度を有して傾斜受口18に受容され得るように、適宜な口径および長さに設定される。
【0029】
たとえば、この実施例では、傾斜差口32の外面は、差口先端面34を基準面としこれに直交する方向を軸線方向としたテーパ状に形成されている。また、傾斜差口32の開口(内径部分)は、直管部30の軸Rと同軸の断面円形の短管状に形成され、その口径は、受口継手12の直管部16と同じに設定される。さらに、差口先端面34は、傾斜差口32において、傾斜受口18の傾斜面20に当接ないし近接される接続端面となり、前述した傾斜受口18の傾斜面20と同様に、均一な幅の中空円となるように形成される。また、差口先端面34の開口(内径部分)34aは、傾斜受口18の傾斜面20の開口20aと同径の略真円状に形成されている(図1参照)。したがって、傾斜受口18が差口継手14を受容したときに、内面に段差が生じることなく受口継手12と差口継手14とが接続されることとなる。
【0030】
また、傾斜差口32の外面には、差口先端面34と平行に沿うようにゴム輪収容部36が形成され、このゴム輪収容部36にゴム輪38が装着される。ゴム輪38には、従来公知のものを適宜用いることができ、この発明の要旨ではないので、その詳細な説明は省略する。なお、このようなゴム輪38については、上述した特許文献1に詳述されているので、必要であればそれを参照されたい。
【0031】
傾斜差口32の外面には、傾斜受口18の環状溝22に対応する位置に、差口先端面34と平行に沿うように環状溝40が形成され、この環状溝40に、係止リング42が装着される。
【0032】
係止リング42は、たとえば塩化ビニル等からなる、断面矩形状に形成されるリングであり、傾斜受口18が差口継手14を受容したときに、傾斜受口18の内面の環状溝22と傾斜差口32の外面の環状溝40とに嵌まり合ってそれらに係止するように所定の周方向幅、軸方向長さおよび高さに設定される。ただし、係止リング42は、傾斜受口18の環状溝22に装着されていてもよい。
【0033】
また、差口継手14は、リブ付管であり、直管部30の外面には複数の周方向リブ44が間隔を隔てて形成される。直管部30の口径は、受口継手12の直管部16の口径よりもやや大きくなるように設定されていて、その他方端部が、上述した他の管との接続のための受口となる。直管部30の他方端部には、先端側に向かって拡径するテーパ部46が形成される。
【0034】
さらに、直管部30の外面の所定位置(この実施例では、傾斜差口32側の端部)には、2つの取手48が周方向に180度間隔を隔てて設けられる。取手48は、接続角度を変更する際に作業者によって把持されるまたは治具が取り付けられる等して用いられる。
【0035】
図1を参照して、このような受口継手12と差口継手14とを接続する際には、差口継手14の傾斜差口32を受口継手12の傾斜受口18に差し込んで、傾斜受口18に傾斜差口32を受容させる。このとき、傾斜受口18が“回転しろ(または、あそび)”を有した状態で傾斜差口32を受容するようにする。すなわち、傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間に多少の隙間を設けておくことによって、傾斜受口18と傾斜差口32との摺動性を確保する。
【0036】
傾斜差口32の差口先端面34を傾斜受口18の傾斜面20に当接または近接させると、傾斜受口18と傾斜差口32とがゴム輪38によってゴム輪接合されるとともに、係止リング42が環状溝22および環状溝40に嵌まり合ってそれらを係止し、傾斜受口18からの傾斜差口32の抜けが防止される。
【0037】
また、このような自在継手10は、受口継手12と差口継手14との相対的な位置を変えて接続することによって、0から2α度までの範囲で角度調整することが可能である。
【0038】
たとえば、図1(a)に示すような接続角度0度の状態を得るには、受口継手12の傾斜受口18内に差口継手14の傾斜差口32を差し込んで、受口継手12の直管部16の軸Qと差口継手14の直管部30の軸Rとが平行となるように両者を回転させる。そして、図1(a)の配置から差口継手14をその軸S周りに180度回転させると、図1(b)に示すように、最大角度2α度での接続状態を得ることができる。
【0039】
なお、自在継手10を製造する際には、受口継手12と差口継手14とを個別に製造して両者を接続するとよく、受口継手12および差口継手14は、射出成形その他によって製造する。
【0040】
以上で、この発明の背景技術としての自在継手10を説明した。以下に、このような背景技術を前提にして、必要に応じてそれらを援用しながら、この発明の実施例または実施形態について説明する。
【0041】
ただし、この発明は上述の背景技術の受口継手12と差口継手14との接続に関するものであり、残余の部分を背景技術と同じにしても背景技術とは変更してもよいので、以下の実施例においては、いずれも、受口継手12の傾斜受口18と差口継手14の傾斜差口32とを中心に図解しかつ説明していることに予め留意されたい。
【0042】
図6を参照して、この発明の一実施例の自在継手10は、受口継手12と差口継手14との接続に新しい考え方を取り入れているという点で、図1の自在継手10と異なる。この自在継手10では、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”に、リング部材50が設けられる。
【0043】
図7および図8に示すように、リング部材50は、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”への砂や土の侵入を防止するために、傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間に介在されるものであり、リング本体52を含む。ただし、図8では、図解のために、リング本体52の厚みを実際よりも大きく図示していることに留意されたい。以下、同様である。
【0044】
リング本体52は、均一な幅の中空円の板状体であり、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなり、たとえば打ち抜きや射出成形によって製造される。ただし、リング本体52の材質は、それ以外の材質としてもよく、たとえばポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂、またはステンレス等の金属としてもよい。
【0045】
リング本体52の外径は、傾斜受口18の傾斜面20や差口継手14の差口先端面34と略同径になるように設定されている。また、リング本体52の開口(内径部分)52aは、傾斜面20の開口20aや差口先端面34の開口34aと略同径かそれよりも大きい径の真円状に形成されている。
【0046】
リング本体52の厚みは、図9に示すように、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”の軸方向寸法、すなわち傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との距離Mから、リング本体52の厚みNを差し引いた値が1mmより小さくなるように設定される(M−N<1)。なお、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”の軸方向寸法Mには、その周方向においてコンマ数ミリ程度のばらつきが生じるが、ここでいう傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”の軸方向寸法Mには、それらの最大値を用いるようにする。この実施例では、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”の軸方向寸法Mは、たとえば1.2mm〜1.5mmであり、リング本体52の厚みは、たとえば0.5〜0.8mmである。
【0047】
このような自在継手10では、傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間にリング部材50を介在させるようにしたため、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”をリング部材50(のリング本体52)の厚みによって吸収したり、“回転しろ”をリング部材50によって分割したりすることにより、“回転しろ”の寸法を実質的に小さくして、自在継手10内を流れる水に混入している砂や土の“回転しろ”への侵入を妨げることができる。
【0048】
したがって、砂や土が自在継手10のゴム輪34へ到達することがなくなるまたは低減されるので、ゴム輪34の損傷に起因する自在継手10の止水性能の低下を回避することができる。
【0049】
しかも、この実施例では、たとえリング部材50を“回転しろ”の寸法よりも十分に薄い板状に成形した場合であっても、リング部材50によって“回転しろ”を分割することにより、“回転しろ”に侵入可能な砂や土のサイズを制限して、砂や土の“回転しろ”への侵入防止効果を発揮することが可能である。すなわち、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”を狭小にしなくても、砂や土の“回転しろ”への侵入防止効果を発揮することが可能である。
【0050】
したがって、たとえば、“回転しろ”を狭小にすると、それに伴って、受口継手12と差口継手14との回転抵抗が増加することになるが、この実施例によれば、リング部材50の厚みを適宜調整することにより、受口継手12と差口継手14との回転抵抗の増加を回避しつつ、砂や土の“回転しろ”への侵入防止効果を発揮することが可能である。
【0051】
以上のように、この実施例によれば、自在継手10の角度調整をスムーズに行うことができ、しかも安定した止水性能を発揮できるようになる。
【0052】
さらに、この実施例では、成形時に受口継手12の傾斜面20や差口継手14の差口先端面34にヒケや反りが生じることで、受口継手12および差口継手14の接続端面が不均一な形状になった場合であっても、その不均一な形状にリング部材50を追従させることで、回転抵抗の増加をより抑えることができる。
【0053】
また、この実施例では、リング部材50のリング本体52の厚みが、“回転しろ”の軸方向寸法Mからリング部材50のリング本体52の厚みNを差し引いた値が1mmより小さくなる値に設定されている。したがって、粒径が1mm以上の砂や土の“回転しろ”への侵入を確実に防止することができる。
【0054】
ここで、本願発明者等が行った、砂や土の粒径と、粒径毎のゴム輪34の損傷とを評価する実験によると、粒径が1mm〜1.44mmの砂や土をゴム輪34が噛み込んだ状態で受口継手12および差口継手14を回動させると、ゴム輪34が損傷して漏水が誘発されるが、粒径が1mm未満の砂や土をゴム輪34が噛み込んだ状態で受口継手12および差口継手14を回動させても、ゴム輪34はほとんど損傷せず、漏水が誘発されないことが確認された。このような実験結果から、自在継手10のゴム輪34の止水性能を保持するためには、粒径が1mm以上の砂や土の“回転しろ”への侵入を防止することが望ましいと言える。なお、粒径が1.44mmより大きい砂や土は、“回転しろ”の軸方向寸法を考慮すると、“回転しろ”への侵入が極めて発生しにくいので除外している。
【0055】
したがって、この実施例のように、“回転しろ”の軸方向寸法Mからリング部材50のリング本体52の厚みNを差し引いた値が1mmより小さくなるように設定して、粒径が1mm以上の砂や土の“回転しろ”への侵入を防止することにより、自在継手10はその止水性能をより長期間維持することができるようになる。
【0056】
ところで、粒径が1mm以上の砂や土の“回転しろ”への侵入を防止するために、予め受口継手12と差口継手14との“回転しろ”の軸方向寸法Mを1mm以下に設定して製造することも考えられるが、このような自在継手10では、“回転しろ”の軸方向寸法Mを変動させる要因として、差口先端面34から環状溝40(係止リング42)までの距離、環状溝40の軸方向寸法、傾斜面20から環状溝22までの距離、環状溝22の軸方向長寸法、および係止リング42の軸方向寸法の5つの要因が存在するため、各々を一般的な公差(たとえば、0.2〜0.3mm)で管理した場合であっても、それらが組み合わさることによって誤差が累積すると、結局、“回転しろ”の軸方向寸法Mが1mm以下になるか否かは不確実である。それに加えて、受口継手12の傾斜面20や差口継手14の差口先端面34は、厚さが不均一となる複雑な形状であるため、ヒケや反りが生じやすいので、受口継手12と差口継手14との摺動性も考慮すると、受口継手12と差口継手14との“回転しろ”の軸方向寸法Mを予め大きめに設定して製造しておいて、リング部材54のリング本体52の厚みによって調整する方法が確実であると言える。
【0057】
さらにまた、この実施例では、リング本体52の開口52aが、傾斜面20の開口20aや差口先端面34の開口34aと略同径かそれよりも大きい径の真円状に形成される。したがって、傾斜受口18がリング部材50を挟んで差口継手14を受容したときに、受口継手12と差口継手14との接続部分における内面の状態が凸部を有しない滑らかな連続した状態となり、澱や異物などが引っ掛かり滞留することなく、下排水などの流体がスムーズに流れる最適な流路となる。
【0058】
なお、上述の実施例では、傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間に1つのリング部材50を介在させるようにしたが、これに限定される必要はない。自在継手10の形状や寸法、ならびに成形時のヒケや反り等に対応させて、同じ厚みもしくは異なる厚みのリング部材50を複数用いることにより、“回転しろ”の個体差にも対応することが可能になる。
【0059】
また、上述した実施例では、傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間に平板状のリング部材50が介在されたが、図10および図11に示すように、リング部材50に、リング本体52の表面から突出して形成される凸部54を設けるようにしてもよい。
【0060】
図10に示すように、凸部54は、断面半円形状(または、断面半楕円形状)の突起であり、リング本体52の表面の一方側に当該リング本体52と一体的に形成される。そして、1または複数、この実施例では4つの凸部54がリング本体52の周方向に所定の間隔を隔てて設けられる。凸部54の軸方向寸法(つまり、高さ)は、たとえば0.1〜0.8mmである。なお、念のため付記すると、リング部材50のリング本体52の厚みNは、あくまでリング本体52の厚みを示す値であるので、リング部材50のリング本体52の厚みNには、凸部54の軸方向寸法は考慮されないことに留意されたい。
【0061】
そして、図11に示すように、凸部54が傾斜差口32の傾斜先端面34に対向するように、リング部材50が傾斜受口18の傾斜面20と傾斜差口32の差口先端面34との間に介在される。
【0062】
こうすることにより、傾斜受口18が傾斜差口32を受容した接続状態で、リング部材50の凸部54が傾斜先端面34に対して点接触となり、リング部材50と傾斜先端面34との接触面積を小さくすることができるので、受口継手12および差口継手14を回動させる際の摩擦抵抗を軽減させることが可能である。したがって、自在継手10の角度調整をよりスムーズに行うことができる。
【0063】
しかも、リング部材50と傾斜先端面34との接触面積を小さくして、受口継手12および差口継手14の摩擦抵抗を軽減することにより、傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”を小さくしても、受口継手12および差口継手14の摺動性を保持することが可能になる。すなわち、摩擦抵抗を軽減した分だけ傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”を小さくすることによって、“回転しろ”に侵入可能な砂や土のサイズをさらに制限することが可能である。
【0064】
なお、必ずしも凸部54を断面半円形状の突起として形成する必要はなく、リング部材50と傾斜先端面34との接触面積を小さくすることで、受口継手12および差口継手14の摩擦抵抗を軽減できるのであれば、その形状は特に問わない。
【0065】
たとえば、図12に示すように、凸部54を断面半円形状(または、断面半楕円形状)の突起をリング本体52の周方向に連続させた突条として形成してもよい。この場合には、傾斜受口18が傾斜差口32を受容した接続状態で、リング部材50の凸部54が傾斜先端面34に対して線接触となり、リング部材50と傾斜先端面34との接触面積を小さくすることができる。こうすることにより、摩擦抵抗を軽減した分だけ傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”を小さくして、“回転しろ”に侵入可能な砂や土のサイズをさらに制限することが可能であるのみならず、砂や土の侵入を凸部54によって物理的に防止することもできる。
【0066】
また、図示は省略するが、凸部54を断面半円形状(または、断面半楕円形状)の突起や突条に形成するのみならず、凸部54を断面矩形状の突起や突条に形成するようにしてもよい。この場合には、リング部材50の凸部54が傾斜先端面34に対して面で接触するものの、リング部材50と傾斜先端面34との接触面積は小さくなるので、摩擦抵抗を軽減した分だけ傾斜受口18と傾斜差口32との“回転しろ”を小さくして、“回転しろ”に侵入可能な砂や土のサイズをさらに制限することが可能である。
【0067】
さらに、上述のいずれも、必ずしも凸部54が傾斜差口32の傾斜先端面34に対向するようにリング部材50を配置する必要はなく、凸部54を傾斜受口18の傾斜面20に対向するようにリング部材50を配置してもよいことは言うまでもない。
【0068】
さらにまた、図13に示すように、リング本体52の表面の両側に凸部54を形成するようにしてもよい。こうすることにより、受口継手12と差口継手14との“回転しろ”にリング部材50を設けたときに、図14に示すように、リング本体52の表面の一方側の凸部54が傾斜差口32の傾斜先端面34に対向するとともに、リング本体52の表面の他方側の凸部54が傾斜受口18の傾斜面20に対向することになるので、リング部材50が傾斜面20および傾斜先端面34のいずれか一方側に寄ってしまうことがなくなる。したがって、“回転しろ”をリング部材50によって適切に分割して、“回転しろ”に侵入可能な砂や土のサイズをより確実に制限することが可能である。
【0069】
なお、図13のリング部材50では、リング本体52の表面の両側かつ対称な位置に1つずつ凸部54を形成したが、これに限定される必要はない。たとえば、リング本体52の各表面の任意の位置に凸部54を形成するようにしてもよい。また、リング本体52の各表面において、複数の凸部54をたとえば同心円状に形成するようにしてもよい。
【0070】
さらに、上述の実施例では、受口継手12および差口継手14をリブ付管として構成するようにしているが、これら受口継手12および差口継手14は一般的なリブのないリブなし管として構成されてもよい。
【0071】
さらにまた、上述の実施例では、受口継手12の直管部16の他方端部は他の管との接続のための差口となったが、接続する管の端部構造に応じて受口を形成するようにしてもよい。また、差口継手14の直管部30の他方端部は他の管との接続のための受口となったが、同様に、差口を形成するようにしてもよい。
【0072】
また、上述の実施例では、傾斜受口18の傾斜面20の傾斜角度と傾斜差口32の差口先端面34の傾斜角度とが同一角度αに設定されたが、それらの傾斜角度は同一でなくても所定の角度で形成されていれば、上記同様の効果を得ることができる。たとえば、傾斜受口18の傾斜面20の傾斜角度をαとし、傾斜差口32の差口先端面34の傾斜角度をβとすれば、自在継手10は、受口継手12と差口継手14との相対的な位置を変えて接続することによって、(α−β)から(α+β)度までの範囲で角度調整することができる。
【0073】
さらにまた、この自在継手10に接続される他の管は、管継手その他の管路構造物であってよいことは勿論である。
【0074】
なお、上述した径や高さ等の具体的数値は、いずれも単なる一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 …自在継手
12 …受口継手
14 …差口継手
18 …傾斜受口
20 …傾斜面(接続端面)
24 …ゴム輪収容部
26 …ゴム輪
32 …傾斜差口
34 …差口先端面(接続端面)
50 …リング部材
54 …凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管どうしを所定の接続角度を有して接続するための自在継手であって、
第1角度で傾斜した接続端面を有する傾斜差口が設けられた差口継手、
第2角度で傾斜した接続端面を有する傾斜受口が設けられた受口継手、および
前記傾斜受口が前記傾斜差口との間をゴム輪によって密封しつつ所定寸法の回転しろを有して前記傾斜差口を受容した状態で、前記傾斜受口の前記接続端面と前記傾斜差口の前記接続端面との間に介在されるリング部材を備える、自在継手。
【請求項2】
前記リング部材の厚みは、数1の関係に基づいて設定される、請求項1記載の自在継手。
[数1]
M−N<1
ただし、M:回転しろの寸法(mm),N:リング部材の厚み(mm)である。
【請求項3】
前記リング部材の表面に突出して設けられる凸部をさらに備える、請求項1または2記載の自在継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−211605(P2012−211605A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76298(P2011−76298)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【Fターム(参考)】