説明

自己移植のための方法、器具及びキット

【課題】関節表面の欠損に軟骨細胞/軟骨を有効に移植するための方法及び実施するための特定の器具、キットを提供する。
【解決手段】治療対象部表面に止血障壁1及び被覆パッチ2を用いて適切なマトリックス中の軟骨細胞を移植することにより関節表面軟骨を有効に治療するための方法であって、止血障壁1を治療対象部表面の近位に配置し、適切なマトリックス中の軟骨細胞を止血障壁1に対して遠位の治療部位表面上に配置し、かつ治療対象部表面を被覆パッチ2で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨細胞の移植、骨及び軟骨の移植、治癒、関節の修復並びに関節炎の予防の分野に関する。特には、移植部位の調製方法、そのような調製のための器具、及び調製された移植部位に細胞を自己移植するための器具に関する。
【背景技術】
【0002】
500,000件を超える関節形成術及び全関節置換が、毎年合衆国内で行われている。ほぼ同じ数の同様の処置が、欧州で行われている。これらの数字には、欧州における毎年約90,000件の全膝置換及び約50,000件の膝の欠損を修復する処置が含まれる。処置の数は、本質的に、合衆国においても同じである(Praemer A.,Furner S.,Rice,D.P.,Musculoskeletal conditions in the United States,American Academy of Orthopaedic Surgens,Park Ridge,Ill.,1992,125)。軟骨の再生治療のための方法が最も有用であり、これは関節損傷の初期段階で行うことができ、したがって、人工関節置換術を必要とする患者の数を減少させる。このような予防的治療法を用いることで、骨関節炎を発症する患者の数も減少する。
【0003】
関節における軟骨構造の再表面化に用いられる技術では、主として、軟骨下穿孔、擦過及び他の方法を用い、それにより患部軟骨及び軟骨下骨を切除し、露出した血管新生化海綿骨を除去することで軟骨の修復を誘発する試みがなされている(Insall,J.Clin.Orthop.1974,101,61;Ficat R.P.ら,Clin Orthop.1979,144,74;Johnson L.L.,In:Operative Arthroscopy,McGinty J.B編,Raven Press,New York,1991,341)。
【0004】
Conn及びCahn(Science 1966,153,1116)は、ニワトリ胚体節から細胞を合成する軟骨の培養技術を記述している。Later Cahn及びLasher(PNAS USA 1967,58,1131)は、軟骨の分化に必要なものとしてのDNA合成の関与を分析するためのシステムを用いた。軟骨細胞は、EFG及びFGFの両者に成長によって応答する(Gospodarowicz及びMescher,J.Cell Physiology 1977,93,117)が、最終的にはそれらの分化機能を喪失する(Benyaら,Cell 1978,15,1313)。軟骨細胞を成長させるための方法が記述されおり、これは、基本的に、Brittberg,M.らによる若干の調製(New Engl.J.Med.1994,331,889)を加えて用いられている。これらの方法を用いて成長した細胞は、患者の膝関節への自己移植物として用いられた。加えて、Kolettasら(J.Cell Science 1995,108,1991)は、長期化した細胞培養の下で、コラーゲン及びプロテオグリカンのような軟骨特異的分子の発現を試験した。彼らは、単層培養における培養中の形態学的変化にも関わらず(Aulthouse,A.ら,In Vitro Cell Dev.Biol.,1989,25,659;Archer,C.ら,J.Cell Sci.1990,97,361;Hanselmann,H.ら,J.Cell.Sci.1994,107,17;Bonaventure,J.ら,Exp.Cell Res.1994,212,97)、アガロースゲルで成長させる懸濁培養と比較した場合、様々な科学者によって試験されたアルギン酸ビーズ又は(丸い細胞形態を維持する)スピナ培養がII型及びIX型コラーゲンのような軟骨細胞発現マーカーを変化させず、かつ大凝集プロテオグリカン、アグレカン、バーシカン及び連結タンパク質が変化しないことを見出した(Kolettas,E.ら,J.Cell Science 1995,108,1991)。
【0005】
関節軟骨細胞は、軟骨においてのみ見出される特殊化間葉誘導細胞である。軟骨は、その物理的特性が軟骨細胞によって産生される細胞外マトリックスに依存する、無血管組織である。軟骨内骨化の過程で軟骨細胞は成熟し、これは、X型コラーゲンの発現の開始を特徴とする細胞肥大を導く(Upholt,W.B.及びOlsen,R.R.,In:Cartilage Molecular Asects(Hall,B & Newman,S編)CRC Boca Raton 1991,43;Reichenberger,E.ら,Dev.Biol.1991,148,562;Kirsch,Tら,Differentiation,1992,52,89;Stephens,Mら,J.Cell Sci.1993,103,1111)。
【0006】
骨関節炎により、関節の外層又は関節表面におけるII型コラーゲンの過剰分解も生じる。したがって、コラーゲン網が弱化し、引き続いて繊維形成が生じ、それによりプロテオグリカンのようなマトリックス物質が失われて、最終的に完全に置き換わる。このような弱化した骨関節炎軟骨の繊維形成は、石灰化軟骨及び軟骨下骨内にまで到達し得る(Kempson,G.E.ら,Biochim.Biophys.Acta 1976,428,741;Roth,V及びMow,V.C.,J.Bone Joint Surgery,1980,62A,1102;Woo,S.L.−Y.ら,in Handbook of Bioengineering(R.Skalak及びS.Chien編),McGraw−Hill,New York,1987,pp,4.1−4.44)。
【0007】
骨、軟骨及び他のそのような結合組織の基本的な発達、組織学的及び顕微鏡的解剖の説明は、例えば、Wheater,Burkitt及びDanils,Functional Histology,第2版,(Churchill Livingstone,London,1987,第4章)に見出すことができる。また、骨、軟骨及び他の結合組織の欠損の基本的な解剖の説明は、例えば、Wheater,Burkitt,Stevens及びLowe,Basic Histopathology,(Churchill Livingstone,London,1985,第21章)に見出すことができる。
【0008】
軟骨細胞の培養並びに骨及び軟骨の操作に関する進歩にも関わらず、損傷を受けた関節表面を修復するために軟骨又は軟骨細胞を移植する試みにおいては、大きな成功はなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の教示は、関節又は他の軟骨被覆骨表面における欠損への軟骨及び/又は軟骨細胞の移植を促進し、それにより軟骨を再生させてその欠損を処置する有効かつ効率的な手段を提供する。本発明はまた、移植部位を準備(調製)してその移植部位への移植物質の効率的な一体化が容易になるように設計された、手術用器具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、適切なマトリックス中の軟骨細胞を治療しようとする表面に止血障壁及び細胞非含有被覆パッチを用いて移植することにより関節表面軟骨を有効に治療するための方法であって、まず止血障壁を治療しようとする表面の近位に配置し、適切なマトリックス中の軟骨細胞をこの止血障壁に対して末端(遠位)部の治療しようとする表面上に配置し、治療しようとする表面を細胞非含有被覆パッチで被覆することを包含する方法を提供する。以下にさらに説明される止血障壁は、移植した物質への血管新生化細胞及び組織の浸透を抑制もしくは阻止する障壁である。特には、本方法は、その障壁を貫通する血管浸潤を抑制もしくは阻止する、再吸収可能な半透性物質である止血障壁を提供する。一実施態様において、止血障壁はコラーゲンを含んでいる。細胞非含有(セルフリー)は、ここでは当該技術分野におけるものと同様に用いられ、さらに細胞分裂し広がり、又は生物学的に活性であり得る無傷の細胞を実質的に含まない物質を意味する。好ましい実施態様において、細胞非含有物質は無傷の有核細胞を一切含まない。一実施態様において、本方法は、半透性コラーゲンマトリックスを含む細胞非含有被覆パッチの使用を包んでいる。本方法の好ましい実施態様の1つにおいては、細胞非含有被覆パッチの多孔性表面が移植片物質に向けられている。
【0011】
本発明は、移植部位へのコラーゲン又は軟骨細胞の自己移植をさらに提供し、ここでは、移植物質をより良好に受容するように、その移植部位が外科的操作により最初に準備されている。一実施態様においては、移植部位が、移植物質がその移植部位に配置されて移植部位壁に接触するように広げられたときにその移植部位からの全移植片の除去又は排除に抵抗するように、その移植部位の壁がゆるやかに起伏するパターンの外形を有するように彫刻される。本発明は、移植部位を本発明の方法によって教示される通りに彫刻するように設計された手術器具をさらに提供する。
【0012】
本発明は、関節の表面上への軟骨及び/又は軟骨細胞移植のためのキットであって、止血障壁、細胞非含有半透性被覆パッチ、及び有機グルーを具備するキットをさらに提供する。さらなる実施態様において、このキットは、移植部位を本発明の方法に従って彫刻するのに用いることができる1以上の手術器具を、任意にさらに提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、本発明の特定の特性を図示する以下の図を考察することによって、より良く理解されるであろう。
【0014】
本発明は、軟骨における欠損に軟骨細胞を自己移植するプロセスの過程で、血管組織、例えば、形成されつつある軟骨内に突出する毛管ループの形成を抑制する、特定の手順の使用に関する。下層をなす骨からの血管組織の形成は、形成させようとする新しい軟骨内に突出する傾向にあり、これは所望の間葉特殊化軟骨細胞以外の細胞の出現を導く。
【0015】
血管新生によって導入された混入細胞は、移植した軟骨細胞によって形成しようとする軟骨への浸触及び過剰成長を生じる可能性がある。本発明において用いることができる市販製品の一つのタイプは、Surgicel(R)(Ethicon Ltd.、UK)であり、これは7〜14日後に吸収され得る。本発明の方法におけるこの物質の使用は、Ethicon Ltd.の包装挿入物に記述されるSurgicel(R)のような止血装置の標準的な使用に反するものである。
【0016】
驚くべきことに、軟骨内への再血管新生化を阻止しようとする状況において、止血材料がゲル様人工凝固剤と同様に作用することが見出されている。そのような止血障壁によって蓋をされる関節軟骨の完全厚欠陥内に赤血球細胞が存在しなければならない場合、これらの血液細胞はヘマチンに化学的に変化して、それにより血管の成長を誘導することを不可能にする。したがって、フィブリンの付着を伴い、又はそれを伴わずに再血管新生抑制障壁として用いられる止血性生成物、例えば、Surgicel(R)は、本発明の教示に従って想起される方法に有効である。本発明の別の部分は、細胞非含有構成要素の使用であり、これは、移植用の自己軟骨細胞を用いて培養軟骨成分/軟骨が移植される関節の欠損領域を被覆するパッチとして用いられる。また、本発明の方法は、軟骨の欠損の修復への適切な同種軟骨細胞又は異種軟骨細胞の使用をも考慮する。
【0017】
このように、本発明は、関節骨表面における軟骨の欠損を有効に修復し、又は治療するための方法であって、修復しようとする軟骨部位への血管の浸潤を遮断する薬剤又は装置を投入し、かつ修復部位を孤立させて移植された細胞を適所に保持する細胞非含有障壁を提供することをも包含する方法を教示する。したがって、本発明は、修復しようとする部位への血管新生が有効に抑制されるように修復しようとする部位に挿入するための止血障壁構成要素;及び、ひとたび移植しようとする軟骨細胞が修復しようとする部位に配置されたら、移植された軟骨細胞を適所に保持するけれども依然として栄養分は得られるように修復部位全体に蓋をする細胞非含有半透性障壁を具備するキットをも提供する。
【0018】
本発明のある局面は、血管組織の形成を抑制する特定の生成物又は特定の生成物の組み合わせと接触したときの軟骨細胞の挙動を研究するためのイン・ビトロシステムを用いて例証されている。このイン・ビトロ試験は、軟骨の欠損内に軟骨細胞を自己移植するプロセスの過程で、形成されつつある軟骨に毛管ループが突出する場合にイン・ビボで起こるような、血管新生を抑制する特定の試験物質の能力を予測する。
【0019】
適切な止血生成物は、血管組織、骨組織、線維芽細胞等の成長又は発達する軟骨への浸潤を抑制する能力を有していることを特徴とする。適切な止血性物質は、本発明の方法の目的を達成するものであり、軟骨の形成を最適化するために、発達する軟骨への血管及び細胞の浸潤が阻止されなければならず、関節の軟骨における完全厚のあらゆる欠損の修復が達成される。理想的には、止血障壁は、完全な軟骨の修復を可能にするのに十分な長期間安定であり、その後には再吸収され、又は他の方法で自然に分解する。適切であると認められる物質の1つは、Surgicel(R)W1912(酸化再生無菌セルロースを含む吸収性止血剤:ロットGG3DH.Ethicon Ltd.UK)と呼ばれるものである。
適切な物質の他の例は、BioGide(R)(商業的に入手可能なI型コラーゲンマトリックスパッド;Gistlich Shne、スイス)である。
【0020】
適切な有機接着(グルー)物質は、商業的に見出すことが可能であり、例えば、Tisseel(R)もしくはTissucol(R)(フィブリンベースの接着剤;Immuno AG、オーストリア)、Adhesive Protein(カタログ#A−2707、Sigma Chemical、USA)、及びDow Cornign Medical Adhesive B(カタログ#895−3、Dow Corning、USA)がある。
【0021】
本発明が意図する手術器具は、シングルユースの使い捨ての、もしくは複数回使用の再利用可能な手術器具を作製するのに適する金属及び/又はプラスチックを用いて製造することができる。カッティング器具は、カッティング歯を有することができ、これは完全に環状であるか、平坦であるか、又はその間のいずれかである。軟骨は、比較的柔らかい物質であるため、骨に損傷を与えることなく軟骨を彫刻することができるような硬化プラスチックのカッティングエッジを製造することが好ましい。このようなカッティング器具は、流体の導入、切削屑及び流体の吸引除去、並びに欠損部位を照射及び可視化するための光ファイバ繊維のための開口部を組み込むように製造することができる。
【0022】
本発明の特定の側面は、以下の例により説明されることで更に理解することができ、これらは説明を目的とするものであって限定を意味するものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1
自己移植した軟骨又は軟骨細胞への血管の発達を阻止する目的でSurgicel(R)を本発明に従って用いるため、最初にSurgicel(R)を無水グルタル酸のような固定剤で処理した。簡単に述べると、Surgicel(R)を0.6%無水グルタル酸で1分間処理した後、数回洗浄して、その他の点で組織に対して毒であり得る残留グルタル酸を除去した。あるいは別のやり方としては、実施例2に記述されるように、グルタル酸で処理する前に、Surgicel(R)をTisseel(R)と呼ばれるフィブリン接着剤で処理した。例えばグルタル酸のような固定剤で固定し、無菌の生理食塩水(0.9%)で洗浄し、かつ冷蔵庫で保存したSurgicel(R)は、1〜2ヶ月間溶解しないことが見出された。一般には、Surgical(R)は7〜14日間で再吸収される。移植した軟骨細胞が硬い軟骨層に成長してその栄養必要物を隣接する軟骨から獲得する前に、移植した軟骨への骨構造からの血管もしくは血管新生そのものの発達を阻止するためには、もっと長い時間が必要であるため、この期間は短すぎるであろう。換言すると、血管新生の十分な抑制は、より長い時間、例えば1ヶ月の間必要である。したがって、この生成物は、この期間よりも著しく早く吸収されるべきではない。他方、最終的な再吸収は必要である。したがって、抑制障壁として用いられる有機物質は、これらの要請に応えうるものであるべきであり、上記のように処理されたSurgicel(R)が、その機能を提供することが見出されている。
【0024】
実施例2
Surgicel(R)を、また、有機グルーで被覆した。この例では、用いたグルーはTisseel(R)であったが、他のものを用いることもできる。
この生成物は、Surgicel(R)と共に、本発明の特定の目的に用いることができる障壁を形成する。他のいかなる止血もしくは血管抑制障壁を用いることもできる。Tisseel(R)を、以下に説明するようにして混合した。次に、Surgicel(R)を、その両面が十分に湿るまでSurgical(R)材料に噴霧することにより、Tisseel(R)で被覆した。その後、Tisseel(R)フィブリングルー)を室温で固化させた。固化が完了する直前に、被覆したSurgicel(R)を0.6%グルタルアルデヒド中に1分間入れ、次いで無菌の生理学的(0.9%)食塩水で洗浄した。次に、pH値が7.2〜7.4で安定するまで、PBS及び/又はNaOHでpHを調整した。
その後、このように処理したSurgicel(R)を組織培養培地、例えば、15mM Hepesバッファを含む最小必須培地/F12で洗浄した。
【0025】
この例において述べられるように、我々は、Surgicel(R)を被覆するフィブリン接着剤として、Tisseel(R)を用いている。さらに、このフィブリン接着剤もしくはグルーは、Surgicel(R)を接着する病変の骨に向かう底部に直接塗布することもできる。イン・ビボ試験の代わりに用いたイン・ビトロ系は、細胞研究作業用のNUNCLONTMデルタ6−ウェル無菌ディスポーザブルプレート(NUNC、InterMed、ロスキルド(Roskilde)、デンマーク)から構成されるものであった。各々のウェルの直径は、約4cmである。
【0026】
本発明において、フィブリン接着剤は、フィブリン成分と共にヒトに耐容性のあるグルーを生じうる、いかなる接着剤でもよい(Ihara,Nら,Burns Incl.Therm.Inj.,1984,10,396)。また、本発明では、フィブリン接着剤の代わりに用いることができるあらゆる他のグルー成分の使用をも予定している。本発明において、我々は、Tisseel(R)又はTissucol(R)(Immuno AG、ウィーン、オーストリア)を用いた。Tisseel(R)キットは以下の成分からなる:
Tisseel(R)、凍結乾燥ウイルス不活性化シーラー、それらの凝固性タンパク質を含む;
フィブリノーゲン、血漿フィブロネクチン(CIG)及び第XIII因子、及びプラスミノーゲン。
【0027】
アプロチニン溶液(ウシ)
トロンビン4(ウシ)
トロンビン500(ウシ)
塩化カルシウム溶液
このTisseel(R)キットは、DUPLOJECT(R)塗布システムを含む。フィブリン接着剤又はTisseel(R)キットを用いる2成分シーラントを、Immuno AG製品のインサートシートに従い、以下の方法で組み合わせる。
【0028】
実施例3
HAM F12及び15mM Hepesバッファ及び5〜7.5%自己血清を含む最小必須培養培地において、COインキュベータ内、軟骨細胞を37℃で成長させ、デンマーク、コペンハーゲンのVerigen Europe A/S、シンビオン・サイエンス・パーク(Symbion Science Park)のクラス100実験室で扱った。他の培養培地成分を軟骨細胞の培養に用いることもできる。これらの細胞を、トリプシンEDTAを用いて5〜10分間トリプシン処理し、Burker−Turkチャンバにおいてトリパンブルー生存度染色を用いてカウントした。細胞総数をml当たり7.5×10細胞に調整した。NUNCLONTMプレートの1つを、クラス100実験室で開封した。
【0029】
Surgicel(R)止血障壁を、NUNCLONTM組織培養トレーのウェルの底部にぴったり合う適切なサイズに切断した。この場合、約4cmのサイズの円であり(しかし、いかなる可能なサイズのものであってもよい)、無菌条件下で細胞研究作業用のNUNCLONTMデルタ6−ウェル無菌使い捨てプレート(NUNC、InterMed、ロスキルド、デンマーク)のウェルの底部に置いた。ウェルの底部に置く止血障壁は、実施例1に記述したように予備処理をしたものである。この処理は、Surgicelの吸収を十分に遅らせる。次に、この止血障壁を蒸留水で数回洗浄し、引き続き未反応グルタルアルデヒドが洗い流されるまで数回洗浄した。血清を含む少量の細胞培養培地を塗布してこの止血障壁に吸収させ、同時にこの止血障壁をウェルの底部で湿った状態に保った。
【0030】
培養培地1ml中約10個の細胞を止血障壁の頂部に直接置き、上述のように0.4%グルタルアルデヒドで予備処理した止血障壁の表面全体にわたって分散させた。次に、このプレートをCOインキュベータ内、37℃で60分間インキュベートした。5〜7.5%の血清を含む組織培養培地2〜5mlを、細胞を有するウェルに、この培地放出の際にピペットの先端をウェルの側面に対して接線方向に保持するようにして細胞が跳ねるのを回避しながら、注意深く添加した。培地のpHは低すぎる(pH〜6.8)ように思われた。次いで、pHを7.4〜7.5に調整した。翌日、幾つかの軟骨細胞が止血障壁上で成長し始め、クラスター状に配列した。細胞の幾らかは、pHを調整する前の低pHへの露出により死んでいた。このプレートを、第3日に培地を交換しながら、3〜7日間インキュベートした。
【0031】
このインキュベーション期間の最後に培地をデカントし、電子顕微鏡観察用に後で行う調製に備えて細胞及び支持体(止血障壁)を調製するため、ジメチルアルシン酸の0.1Mナトリウム塩(カコジル酸ナトリウムとも呼ばれる、pHはHClで7.4に調整)を含む冷蔵2.5%グルタルアルデヒドを固定剤として添加した。
【0032】
実施例4
HAM F12及び15mM Hepesバッファ及び5〜7.5%自己血清を含む最小必須培養培地において、COインキュベータ内、軟骨細胞を37℃で成長させ、Verigen Europe A/S、シンビオン・サイエンス・パーク(コペンハーゲン、デンマーク)のクラス100実験室で扱った。他の培養培地成分を軟骨細胞の培養に用いることもできる。これらの細胞を、トリプシンEDTAを用いて5〜10分間トリプシン処理し、Burker−Turkチャンバにおいてトリパンブルー生存度染色を用いてカウントした。細胞総数をml当たり7.5×10細胞に調整した。1つのNUNCLONTMプレートをクラス100実験室で開封した。
【0033】
(止血障壁として用いる)Surgicel(R)を、実施例1で説明したように0.6%グルタルアルデヒドで1分間処理し、0.9%無菌塩化ナトリウム溶液、又は、好ましくは、PBSバッファのようなバッファもしくはMEM/F12のような培養培地で洗浄した。これは、グルタルアルデヒド処理後のpHが6.8であり、好ましくは7.0〜7.5でなければならないためである。Tisseel(R)を、DUPLOJECT(R)システムを用いてSurgicel(R)の両面に塗布し、それにより、Surgicel(R)の両面と用いようとするパッチをフィブリン接着剤で被覆した。このグルーを、無菌条件下で少なくとも3〜5分間放置して乾燥させる。この“被覆”止血障壁を、細胞研究作業用のNUNCLONTMデルタ6−ウェル無菌使い捨てプレートのウェルの底部に置いた。血清を含む少量の組織培養培地を塗布して止血障壁に吸収させた。血清を含む組織培養培地1ml中約10個の細胞をこの止血剤の頂部に直接置き、止血障壁の表面全体に分散させた。次に、このプレートをCOインキュベータ内、37℃で60分間インキュベートした。5〜7.5%の血清を含む組織培養培地2〜5mlを、細胞を有するウェルに、この培地放出の際にピペットの先端をウェルの側面に対して接線方向に保持することにより細胞が跳ねるのを回避しながら、注意深く添加した。3〜6日後、顕微鏡検査により、細胞がSurgicel(R)に満足のいくように付着し、かつそこで成長していることが判明した。これは、Surgicel(R)が軟骨細胞に対する毒性を示さず、軟骨細胞が満足のいく様式でSurgicel(R)に接着したことを示唆する。
【0034】
このプレートを、第3日に培地を交換しながら、3〜7日間インキュベートした。このインキュベーション期間の最後に培地をデカントし、電子顕微鏡観察用に後で行う調製に備えて細胞及び支持体(止血障壁)を調製するため、ジメチルアルシン酸の0.1Mナトリウム塩(カコジル酸ナトリウムとも呼ばれ、pHはHClで7.4に調整)を含む冷蔵2.5%グルタルアルデヒドを、固定剤として添加した。
【0035】
実施例5
HAM F12及び15mM Hepesバッファ及び5〜7.5%自己血清を含む最小必須培養培地において、COインキュベータ内、軟骨細胞を37℃で成長させ、Verigen Europe A/S、シンビオン・サイエンス・パーク(コペンハーゲン、デンマーク)のクラス100実験室で扱った。これらの細胞を、トリプシンEDTAを用いて5〜10分間トリプシン処理し、Burker−Turkチャンバにおいてトリパンブルー生存度染色を用いてカウントした。細胞総数を、ml当たり7.5×10〜2×10細胞に調整した。
NUNCLONTMプレートの1つをクラス100実験室で開封した。
【0036】
止血障壁に加えて培養軟骨細胞が移植される関節の欠損領域を被覆するパッチ又は帯具として用いられる二層膜として、Bio−Gide(R)を用いることができることが見出されている。Bio−Gide(R)は、(E.D.Geistlich Sohne AG、CH−6110ボルフーゼン(Wolhusen)による)標準化され制御された製造プロセスによって得られる純粋なコラーゲン膜である。このコラーゲンは、獣医学的に認定されたブタから抽出され、抗原反応を回避するように注意深く精製され、二重ブリスター内でγ線照射により殺菌される。このブリスター膜は、多孔性表面及び高密度表面を有する。この膜は、I型及びIII型コラーゲンから、さらなる架橋もしくは化学処理なしに作製される。このコラーゲンは、24週以内に再吸収される。この膜は、その構造的統合性を湿潤したときでさえ保持し、縫合糸又は爪で固定することができる。また、この膜は、縫合糸の代わりに、又は縫合糸と共にTisseel(R)のようなフィブリン接着剤を用いて隣接する軟骨又は組織に“接着”させることもできる。
【0037】
Bio−Gide(R)をクラス100実験室で開封し、細胞研究作業用のNUNCLONTMデルタ6−ウェル無菌使い捨てプレートのウェルの底部に、無菌条件下で、その二層膜の多孔性表面を上向きにして、又は高密度表面を上向きにして置いた。血清を含む組織培養培地1ml中の約10個の細胞をBio−Gide(R)の頂部に直接置き、Bio−Gide(R)の多孔性もしくは高密度表面全体に分散させた。次に、このプレートをCOインキュベータ内、37℃で60分間インキュベートした。5〜7.5%の血清を含む組織培養培地2〜5mlを、細胞を有するウェルに、この培地放出の際にピペットの先端をウェルの側面に対して接線方向に保持して細胞が跳ねるのを回避しながら、注意深く添加した。
【0038】
Bio−Gide(R)を有するウェルに軟骨細胞を入れた2日後に、細胞をNikon倒立顕微鏡で検査した。幾つかの軟骨細胞がBio−Gide(R)の縁に付着していることが認められた。もちろん、この顕微鏡を用いて、Bio−Gide(R)それ自体から通して見ることは不可能であった。
【0039】
このプレートを、第3日に培地を交換しながら、3〜7日間インキュベートした。このインキュベーション期間の最後に培地をデカントし、細胞と、多孔性表面もしくは高密度表面のいずれかで細胞が培養されたBio−Gide(R)支持体とを調製するため、ジメチルアルシン酸の0.1Mナトリウム塩(カコジル酸ナトリウムとも呼ばれ、pHはHClで7.4に調整)を含む冷蔵2.5%グルタルアルデヒドを、固定剤として添加した。次に、このBio−Gide(R)パッチを電子顕微鏡検査のためデンマーク、ハーレブ病院(Herlev Hospital)病理学部に送付した。
【0040】
電子顕微鏡検査により、Bio−Gide(R)の高密度表面上で培養した軟骨細胞は、Bio−Gide(R)のコラーゲン構造内に成長することはないが、多孔性表面上で培養した細胞は、実際にコラーゲン構造内に成長することが示され、さらにプロテオグリカンの存在が示されたが、線維芽細胞構造の徴候は示されなかった。この結果は、コラーゲンパッチ、例えばBio−Gide(R)パッチが軟骨の欠損を被覆するパッチとして縫合される場合には、培養軟骨細胞を注入しようとする欠損に向けて多孔性表面を下向きにすべきであることを示す。それにより、それらがコラーゲンに浸透することが可能となり、無傷の表面に沿って滑らかな軟骨表面が生じて、この領域にプロテオグリカンの滑らかな層が積層する。これに対し、コラーゲンの高密度表面が欠損に向けられている場合、移植しようとする軟骨細胞がコラーゲンと一体化せず、細胞が上述のものと同じ滑らかな表面を生成することはない。
【0041】
実施例6
HAM F12及び15mM Hepesバッファ及び5〜7.5%自己血清を含む最小必須培養培地において、COインキュベータ内、軟骨細胞を37℃で成長させ、Verigen Europe A/S、シンビオン・サイエンス・パーク(コペンハーゲン、デンマーク)のクラス100実験室で扱った。これらの細胞をトリプシンEDTAを用いて5〜10分間トリプシン処理し、Burker−Turkチャンバにおいて、トリパンブルー生存度染色を用いてカウントした。細胞総数をml当たり7.5×10〜2×10細胞に調整した。NUNCLONTMプレートの1つを、クラス100実験室で開封した。
【0042】
再吸収性二層膜としてのBio−Gide(R)は、製品インサートに記述されているように、Tisseel(R)に標準的に見出されるものよりもかなり高い含量のさらなるアプロチニンを含むTisseel(R)のような有機グルーと共に用いることもできる。アプロチニンの含量を25,000KIU/mlに高めることにより、この物質の再吸収が、数日という通常の期間に代わり数週間遅れる。
【0043】
この特徴をイン・ビトロで試験するため、Tisseel(R)をNUNCLONTMのウェル底部に塗布し、不完全に固化させる。次に、Bio−Gide(R)のようなパッチをTisseel(R)上に貼り、ウェルの底部に接着する。このBio−Gide(R)とTisseel(R)との組み合わせは、軟骨移植領域への血管の発達又は浸潤を抑制又は阻止する止血障壁となるように設計される。この混成パッチは、病変の底部での止血障壁(修復しようとする表面に対して最も近位)としてだけではなく、軟骨形成の支持体としても用いることができる。これは、末端(遠位)表面がコラーゲンパッチの多孔性側であって、軟骨細胞及び軟骨マトリックスの浸潤を促進することがあり得るためである。したがって、この混成コラーゲンパッチは、移植した軟骨細胞及びその頂部を形成する障壁に向けてその多孔性表面を下向きにして、移植物の頂部を被覆するのに用いることもできる。また、アプロチニン成分が増加しているこのコラーゲンパッチは、Tisseel(R)のようないかなる有機グルーをも必要とせずに用いることができ、欠損内に直接配置して天然の力で付着させることができる。したがって、このコラーゲンパッチは、その多孔性表面を移植した軟骨細胞/軟骨に向けて、止血障壁及び修復/移植部位の細胞非含有被覆の両者として用いることができる。他の変更例では、II型コラーゲンからなるコラーゲンパッチ(すなわち、Geistlich Sohne AG、CH−6110ボルフーゼンのもの)を用いることができる。
【0044】
したがって、本発明は、有機マトリックスグルーを用いる、アプロチニン成分の濃度が好ましくは約25,000KIU/mlに上昇しているコラーゲンマトリックスである混成コラーゲンパッチであって、コラーゲン成分がBio−Gide(R)再吸収性二層材料又はII型コラーゲンに類似し、かつ有機グルーがTisseel(R)材料に類似する混成コラーゲンパッチを提供する。別の実施態様においては、この混成パッチを修復部位に付着させるのに、いかなる有機グルーをも用いない。
【0045】
実施例7
骨関節炎の軟骨の構造が弱まっているため、欠損軟骨の移植部位に移植される培養自己軟骨細胞の付着が抑制され、それにより新たに移植された軟骨/軟骨細胞とそれを取り巻く確立された軟骨との間に辺縁帯(境界帯)が生じることがある。この辺縁帯は、直線状に切断された真っ直ぐの滑らかな壁を創出することにより移植物のための移植部位を調製する場合に、最も顕著である。(図3Aに示されているような)このような辺縁帯を横切る剪断及び圧縮力は、移植部位が直線状に切断される場合に、その移植物を取り除こうとする大きな力を発揮する。
この辺縁帯、及びこの帯域に沿う物質の差動は、移植された物質とそれを取り巻く物質との間の集密的な治癒を抑制する。この辺縁帯剪断は、隣接する物質の硬度が異なる場合に悪化する。多くの場合、移植物質はそれを取り巻く物質よりも柔らかいが、骨関節炎疾患の中には、周囲の軟骨が実際には移植された軟骨細胞/軟骨より柔らかいことがある。
【0046】
したがって、この問題を解決するため、本発明の方法は、移植部位の壁を非直線的になるように彫刻し、それにより辺縁帯剪断を減少させる波打つような(ゆるやかに起伏する)表面を提供し、かつ移植された物質の足場を提供する手術器具の使用を教示する。また、骨表面に対して近位の部位の直径が骨に対して遠位の開口部よりも大きな寸法となるように、及び軟骨の表面に“逆漏斗”効果が存在するように移植部位を成形することも可能である。表面が狭まった開口部は、辺縁帯剪断及び移植部位からの移植物質の排除を減少させる助けとなる。好ましい実施態様では、移植部位の壁を(図3Bに示されるように)ボルト又はネジを受容するためのネジが切られた開口部に類似する方式で彫刻し、それにより、圧縮に対する機械的な抵抗力、及び/又は、“オス”及び“メス”ネジとして説明することができる移植部位からの移植物質の排出、が提供されることが記述される。
【0047】
本発明が意図する手術器具は、一回使用の使い捨ての、もしくは複数回使用の再利用可能な手術器具を作製するのに適した金属及び/又はプラスチックから製造することができる。軟骨は比較的柔らかい物質であるため、骨に損傷を与えることなく軟骨を彫刻することが可能である硬化プラスチックのカッティングエッジを製造することが有利であり得る。このようなカッティング器具は、流体の導入、切削屑及び流体の吸引除去、並びに欠損部位を照射及び可視化するための光ファイバ繊維のための開口部を組み込むように製造することができる。本発明の特定の実施態様においては、この器具の底部は、その器具を移植部位に導いてそこに配置する手助けをする突出点もしくはピン様構造を有していてもよい。もちろん、このようなピンは下層をなす骨に与える損傷を最小にするように設計される。
【0048】
この器具のカッティング表面は、単一の歯であっても複数の歯であってもよく、又は金属部材にネジ切り穴を作製するのに用いられる金属タップにおけるもののようなネジ様パターンを描いていてもよいが、このカッティング器具に要求される特徴は、生じる移植部位の彫刻された側面がゆるやかに起伏しており、非直線的であることである。例えば、特定の実施態様において、この器具のカッティングエッジは、図4A又は図4Bに示されるものに類似する形状であり得る。カッティングエッジは、平坦であっても、そのカッティング器具のほぼ直径を覆う円形であってもよい。界面を創出し、その界面が移植された物質とそれを取り巻く物質とに加わる圧縮及び剪断力に対する異なる反応に対する機械的抵抗力を提供する、という本発明の方法の目的を達成するため、多くの他の形状を設計することができる。
【0049】
実施例8
4ヶ月齢の混合ヨークシャー種ブタに全身麻酔をかけ、仰向けにした。このブタを、アリゾナ州フェニックスのハリントン関節炎研究センター(Harrington Arthritis Reaseach Center)の手術室で洗浄し、布で覆った。全ての手術手順は無菌的に行った。左後肢並びに隣接する腹部及び鼠径部領域をヨウ素で清浄化した。膝関節を探り出し、膝蓋を探り出した。医学的切開を膝蓋の後部から約3cm行い、内側大腿関節丘を扱うために幾らかの皮下組織、筋肉層及び靱帯を大まかに切断した。円形カッターを用いて、内側関節丘の内側部分の白色軟骨に、その関節丘の後部内側部分を覆う軟骨の縁まで0.5〜1cmを余して病変を作製した(左関節丘、図6A)。内側関節丘の後部重量支持部分に0.5〜1cmの欠損を配置した。全ての手術手順は、左大腿に止血帯を用いることなく行った。異なる層及び皮膚を適切に縫合した。
【0050】
第3日にこの動物を再度手術室に連れていき、手術台の上に上述の通りに乗せ、全身麻酔をかけた。左後肢、腹部及び鼠径部領域を上述の通りにイオン化した。縫合糸を切断し、その領域を開いた。膝関節に中程度の血腫が存在することが認められた。この血餅を除去し、欠損を点検した。欠損内に血餅が存在していたのでそれを除去した。病変の外周に相当する、又はそれよりも僅かに大きいサイズを有する、オスのネジ切りカッティングエッジを備えるように設計された無菌の手術器具を、欠損内に注意深くねじ込んだ。BioGide(R)パッドを欠損の底部と等しいサイズに切断した。Adhesive Protein(A−2707、Sigma Chemical、USA)と呼ばれる第1のグルーを、切り込んだ止血障壁パッドの高密度側に塗布し、そのパッドを高密度側を下にして病変の底部に配置して、上述の通りに障壁として用いた。このグルーは非常に迅速に乾燥するようではないことが見出された。欠損の底部からの僅かな出血が直ちに停止した。第2のBioGide(R)を病変より幾らか大きい外周で切断し、上述の通り高密度側を上にして(したがって、多孔性側を移植物に向けて下にして)配置した。
【0051】
次に、この非細胞性被覆パッドを、縁の1つを開けたまま腔の上部で縫合した。外殖しようとする軟骨細胞は、この開けたままの縁から移植部位に注入することができる。このパッドの縁を取り巻く部分を第2のグルー、Dow Corning Medical Adhesive B(カタログ#895−3、Dow Corning、USA)で被覆した。この第2のグルーは、非常に迅速に乾燥し、第1のグルーより効率的であった。この特定の手順の間、第1のグルーが、この蓋の縫合を試みる際に止血障壁を適所に保持するのに十分なほど乾燥していないことが見出された。移植部位の近位表面上に形成される主要障壁は、そのグルー自体によるものであった。
【0052】
1mlシリンジ及び16ゲージ針を用いて、軟骨細胞懸濁液(約0.6ml)をシリンジの外筒内に吸い上げた。16ゲージ針を23ゲージ短針に切り替え、縫合した被覆パッチの下の移植部位内に細胞懸濁液を注入した(約10×10細胞)。その後、針を取り除く前に蓋の開口縁を接着し、針を注意深く引き抜いた。細胞の漏出は見られなかった。傷口を縫合したところ、上述のように止血帯を用いることはなかったが出血は観察されなかった。最終皮膚層を縫合した。縫合の後に皮膚の隆起が生じることはなく、これは、血腫が存在しないことを示していた。術後の回復は順調であった。
【0053】
予想されるように、移植した軟骨細胞は、試験ブタの膝関節の関節軟骨表面に作製した欠損を修復するのに十分な軟骨マトリックスを生成した。図6Aは、ブタの膝のMRI画像であって、その膝(左関節丘、内側関節丘)に作製した軟骨の欠損を示すものであり、図6Bは治療の3ヶ月後の同じブタの膝のMRI画像であって、欠損の修復を示すものである。
【0054】
実施例9
本発明の実施に有用な構成要素を具備するキットでは、外科的な設定における本発明の方法の簡便な実施が考慮される。好ましい実施態様においては、本発明のキットは、手術環境における簡便な使用に適する無菌の構成要素を提供し、かつ適切な止血障壁、適切な被覆パッチ、及び、必要であれば、有機グルーを提供する。また、本発明のキットは、関節表面の欠損内に移植しようとする自己軟骨細胞を支持するのに適する無菌の細胞非含有マトリックス物質をも提供する。一実施態様において、本発明のキットは、Surgicel(R)止血障壁及びTisseel(R)有機グルーで適切に覆われているBio−Gide(R)被覆パッチを備え、このSurgicel(R)及びBio−Gide(R)は、本発明の教示に従って、再吸収までの時間が延びるように処理されている。Tisseel(R)が予め被覆されている場合には、一実施態様において、再吸収までの時間が延びるように、このTisseel(R)にさらなるアプロチニンが補充されている。
【0055】
別の好ましい実施態様においては、止血障壁及び被覆パッチは両者とも、その再吸収までの時間が延びるように処理されている半透性コラーゲンマトリックスである。また、修復/移植手順毎に固有の可変性及び独自の状況に遭遇するため、Tisseel(R)グルーを、エンハンスされた形態で、必要に応じて塗布する分離成分として提供することもできる。
【0056】
本発明のキットのさらなる実施態様は、上記実施例7で説明される手術器具又はそれらの適切な変形を含む。
【0057】
当該技術分野における熟練者は、これらの特定の実施態様に示される本発明に対し、記述された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変形及び/又は修正を行うことができることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1A】図1Aは、典型的な骨の関節形成末端を示す図である。一般的には、この骨の物質は、関節形成表面が軟骨で覆われている。
【図1B】図1Bは、軟骨キャップに対する欠損又は損傷が生じる場所(軟骨における間隙)の例を示し、そのような欠損は直接治療するか、僅かに拡張させるか、又は治療に先立って外科的手順により移植物質を受容するように彫刻することができる。
【図1C】図1Cは、止血障壁(番号1)を軟骨キャップの欠損内に配置して、下層の骨から再生する軟骨への血管新生を抑制し、又は阻止する方法を示す。欠損腔に移植しようとする軟骨細胞は、次に、止血障壁の頂部に積層される。
【図2】図2は、欠損部位を覆うキャップ/パッチ又は帯具を形成するのに用いられる細胞非含有半透性物質(番号2)で覆われた、軟骨キャップの処置済みの欠損(軟骨における間隙)を示す図である。このキャップは、腔の縁から健常な軟骨に縫合して、又は他の方法で取り付けて、適所に固定される。このキャップは、培養軟骨細胞/軟骨移植片が配置されている関節の欠損領域を被覆し、又は部分的に取り付けられたキャップの下に配置される。
【図3A】図3Aは、連続した境界帯域を有するより硬い軟骨とより柔らかい軟骨とによる、圧縮及び剪断力に対する弁別的応答を示す図である。
【図3B】図3Bは、ゆるやかに起伏する壁を有するように欠損が彫刻された後の移植部位を示す。
【図3C】図3Cは、止血障壁(1)、移植物質(3)、及び細胞非含有被覆パッチ(2)を関節表面軟骨(4)内の適所に備える、彫刻された移植部位を示す。
【図4A】図4Aは、カッティング歯(5)及び突出配置ピン(6)を表した、本発明の手術器具の一実施態様を示す。右の断面図は、カッティング刃の2つの可能な形状を示す。
【図4B】図4Bは、本発明の手術器具の第2の実施態様を示す。
【図5】図5は、移植部位を彫刻した後のより硬い軟骨とより柔らかい軟骨とによる、圧縮及び剪断力に対する修正された弁別的応答を示す図である。
【図6A】図6Aは、左(内側)関節丘における軟骨の欠損を示す、ブタの膝のMRI画像である。
【図6B】図6Bは、同じブタの膝の、治療の3ヶ月後のMRI画像である。
【符号の説明】
【0059】
1 止血障壁
2 細胞非含有被覆パッチ
3 移植物質
4 間接表面軟骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療対象部表面に止血障壁及び被覆パッチを用いて適切なマトリックス中の軟骨細胞を移植することにより関節表面軟骨を有効に治療するための方法であって、止血障壁を治療対象部表面の近位に配置し、適切なマトリックス中の軟骨細胞を前記止血障壁に対して遠位の治療部位表面上に配置し、かつ治療対象部表面を被覆パッチで被覆することを包む方法。
【請求項2】
移植部位を被覆する軟骨の表面にまず前記被覆パッチを付着し、次いで前記軟骨細胞を前記被覆パッチの下の前記移植部位内に配置する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被覆パッチが半透性コラーゲンマトリックスを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記被覆パッチが多孔性表面を有する半透性コラーゲンマトリックスを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔性表面が移植された軟骨細胞と接触する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記被覆パッチが無傷の細胞を実質的に含まない半透性コラーゲンマトリックスを含む請求項3、4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記止血障壁がこの障壁を貫通する血管の浸潤を抑制又は阻止する再吸収性半透性物質である請求項1から6に記載の方法。
【請求項8】
前記止血障壁がコラーゲンを含む請求項1から7に記載の方法。
【請求項9】
治療対象部表面に、移植部位、止血障壁及び被覆パッチを用いて、適切なマトリックス中の軟骨細胞を移植するための方法であって、まず移植部位を、その移植部位の壁が非直線的になり、及び/又は、ゆるやかに起伏するように彫刻し、彫刻された移植部位内の治療対象部表面に対して近位に止血障壁を配置し、適切なマトリックス中の軟骨細胞を移植部位内の前記止血障壁上に配置し、そして治療対象部表面を被覆パッチで被覆することを包む方法。
【請求項10】
軟骨細胞を配置する前に、前記被覆パッチが移植部位内の止血障壁上に部分的に付着される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記止血障壁がこの障壁を貫通する血管の浸潤を抑制又は阻止する再吸収性半透性物質である請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記止血障壁がコラーゲンを含む請求項9から11に記載の方法。
【請求項13】
前記被覆パッチが細胞非含有半透性コラーゲンマトリックスである請求項9から12に記載の方法。
【請求項14】
関節の表面上に軟骨細胞及び、任意に軟骨を移植するためのキットであって、再吸収に抗するように予備処理された、前記表面上への配置に適合可能な止血障壁、再吸収に抗するように予備処理された、前記表面の被覆に適合可能な被覆パッチ、及び前記止血障壁及び/又は前記被覆パッチの前記表面への付着に適合可能な有機グルーを備えたキット。
【請求項15】
請求項1から13に記載の方法を実施するためのキットであって、再吸収を抑制するように処理された止血障壁、再吸収を抑制するように処理された被覆パッチ、有機グルー、及び任意に、移植部位の壁を彫刻するための手術器具、及び任意に、前記移植部位内に配置される軟骨細胞を支持するのに適するマトリックス物質を備えたキット。
【請求項16】
関節骨軟骨表面内に壁及び底部を有する移植部位を彫刻するための手術器具であって、ロッド又は柄に取り付けられた切刃であって、前記移植部位内で円方向に回転又はスクライブされたときに前記移植部位がその壁が非直線的であるか又は任意にゆるやかに起伏するように彫刻されるようになっている切刃を備えた手術器具。
【請求項17】
前記刃が図4A又は4Bに表されたような形状である請求項16に記載の手術器具。
【請求項18】
前記刃が、管状又は環状ロッドの表面を螺旋状に上がっていく螺旋状の刃の形状である請求項16に記載の手術器具。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2007−296371(P2007−296371A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−155993(P2007−155993)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【分割の表示】特願2002−316043(P2002−316043)の分割
【原出願日】平成9年8月29日(1997.8.29)
【出願人】(502042159)ベリーゲン アーゲー (1)
【Fターム(参考)】