説明

自走式防除機

【課題】車体の前側と後側に散布装置を設けた自走式防除機の作業効率の向上。
【解決手段】車体1前部に散布ブーム9を備えると共に左右前輪3,3及び左右後輪4,4で走行可能な自走式防除機において、車体1後部に後部散布装置50を設け、該後部散布装置50の左右ノズル53,53を前記左右後輪4,4の後方に配置し、前記後部散布装置50が作業状態では左右ノズル53,53は左右後輪4,4に接近する構成とし、後部散布装置50が非作業状態では左右ノズル53,53は左右後輪4,4から離れるように構成したことを特徴とする自走式防除機の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液を散布する自走式防除機に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、薬液を機体の前側と後側から圃場に散布する構成が開示されている。
【特許文献1】特開平10−229802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術では、薬液散布の作業中において、機体後側の薬液散布の有無に関わらず、後側の散布装置は後輪に対して移動しない構成である。このため、薬液を散布しない条件の場合においては、後輪に付着している泥等が後側の散布装置にかかってしまうという欠点がある。特に、ノズルに付着するとその後の散布に悪影響がある。また、後側の散布装置は、後輪幅の範囲を超えて散布する構成であるので、多重散布となってしまい薬液を無駄に消費してしまうという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、車体(1)前部に散布ブーム(9)を備えると共に左右前輪(3,3)及び左右後輪(4,4)で走行可能な自走式防除機において、車体(1)後部に後部散布装置(50)を設け、該後部散布装置(50)の左右ノズル(53,53)を前記左右後輪(4,4)の後方に配置し、前記後部散布装置(50)が作業状態では左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)に接近する構成とし、後部散布装置(50)が非作業状態では左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)から離れるように構成したことを特徴とする自走式防除機としたものである。
【0005】
散布作業を行うときは、車体(1)を走行させながら車体(1)前部の散布ブーム(9)と車体(1)後部の後部散布装置(50)で行う。特に、後部散布装置(50)の左右ノズル(53,53)は、左右後輪(4,4)の後方に配置しているので、左右後輪(4,4)通過後の部分を散布する。そして、後部散布装置(50)が作業状態では左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)に接近する。また、後部散布装置(50)が非作業状態では左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)から離れる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、前記後部散布装置(50)の非作業状態及び作業状態の検出は、車体(1)の前後進検出手段(62)で検出する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の自走式防除機としたものである。
【0007】
車体(1)の前後進検出手段(62)が後進状態を検出すると、後部散布装置(50)は非作業状態とし、左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)から離れる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の効果は、左右の後輪(4,4)が走行した部分も薬液が散布されるので、薬液散布の効果が増大する。また、薬液を散布しない条件の場合においては、後部散布装置(50)は後輪(4,4)から離れるので、後輪(4,4)に付着している泥等が後側の散布装置(50)にかかってしまうのを防止できるようになる。また、後側の散布装置(50)は、左右の後輪(4,4)が通過後の部分のみを散布するので、前側の散布ブーム(9)と多重散布となってしまのを防止できるようになる。
【0009】
請求項2の効果は、請求項1の効果に加え、後部散布装置(50)の非作業状態及び作業状態の検出は、車体(1)の前後進検出手段(62)で検出する構成としているので、操作性が向上するようになる。特に、前後進を繰り返す場合において、多重散布を避けるために後進作業では基本的に後部散布装置(50)は作動させない。このため、車体(1)の前後進検出手段(62)の操作のみの操作でよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、乗用型防除機を示すものである。
この車体1の前部にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケ−ス2内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を左右の前輪3,3と左右の後輪4,4とに伝えるように構成している。機体後部には薬液を収容している薬液タンク5が設置され、該薬液タンク5の前側に運転席6が、その前方にはステアリングハンドル7が装備されている。前記運転席6の両側には、薬液タンク5が張り出している構成である。17はエンジン回転数の表示や各種警告灯を設けているパネルである。
【0011】
薬液タンク5内の薬液は、ポンプ8により後述する散布ブーム9に設けられた散布ホース10の各ノズル11から噴出される構成である。ポンプ8は、エンジンEからベルトプーリ伝動系8aで駆動される構成である。
【0012】
機体の左右両側には散布ブーム9を収納支持するためのブーム収納支持枠13,13が立設され、受け具14によって係止保持されるように構成されており、収納時の於ける高速走行時の振動吸収のために受け具14には弾性体が設けられている。
【0013】
散布ブーム9について説明する。中央の散布ブーム(センタブーム)9aは機体の横幅に略一致し、その左右両側に連結される左右散布ブーム(サイドブーム)9b,9bは前記中央の散布ブ−ム(センタブーム)9aよりも長さが長く構成されている。
【0014】
サイドブーム9bは、中央のセンターブーム9aに対し回動自在に連結され、サイドブーム上下シリンダ15により上方へ回動させて収納状態に保持させたり、或いは地面と略平行となる散布作業姿勢状態に回動させて支持させたりすることができる。なお、16は散布ブーム全体を昇降させるブーム昇降シリンダである。
【0015】
次に、図3と図4に基づいて乗用型防除機のブームスプレーヤ(薬液散布装置)の散布回路12について説明する。
操作盤20及び防除操作盤21や、手動で開閉できる各ブーム9a,9bの噴霧コックC1,C2,C3等が運転席6の側部に設置されている。
【0016】
また、操作盤20を備えた防除操作盤21には、中央上部のディスプレイ22の左側に上位から散布設定23、圧力24、流量25、流量累計26等の表示部が表示されていて、ディスプレイ22の左端部に点灯される三角マークによって、このディスプレイに表示されるデータ内容が指示される。ディスプレイ22の右側には表示切替手段である表示切替ボタン28が設けられている。また、これらの下方には、自動押しボタン(スイッチ)29が設けられ、この自動押しボタン(スイッチ)29の入り状態をパイロットランプ30で表示するようになっている。更に、散布設定ボタンスイッチ31、増減ボタンスイッチ32,33、累計リセットスイッチ34等が設けられている構成である。
【0017】
散布回路12の薬液吸込吐出経路は、薬液タンク5からポンプ8間に至る低圧吸水経路35と、ポンプ8から流量制御弁36を経て各散布ブーム9a,9b間に至る高圧吐水経路37とから構成されており、ホース等で連結されている。9cは延長ブームであり、散布ブーム9bに連結する構成としており、作業状態に合わせて着脱する構成としている。仮に、延長ブーム9cを常時連結している場合においては、延長ブーム9cを使用して噴霧場合はコック9dを開いて散布を行い、延長ブーム9cを使用しない場合はコック9dを閉じて散布を行わないようにしてもよい。
【0018】
高圧吐水経路37には、一定圧以上の液圧を逃がす安全弁38を有した余水戻し経路40が設けられており、薬液タンク5に還元できるようになっている。また、この薬液タンク5の底部との間には撹拌経路41が連通されて、一部の薬液をタンク内へ常時噴出還元させて、この薬液タンク5内の薬液を撹拌する構成としている。前記流量制御弁36と各ブーム9a,9bへの噴霧コックC1,C2,C3間における高圧吐水経路37には、この液圧を検出する圧力センサ42と、流量を検出する第1流量センサ43が設けられる。なお、流量制御弁36は制御モータによって開度が制御される。39はエアチャンバである。
【0019】
噴霧コックC1,C2,C3からそれぞれ左サイドブーム9b、センターブーム9a、右サイドブーム9bへの薬液の流れは、配管D1,D2,D3で接続されている構成である。
【0020】
また、前記低圧吸水経路35には、薬液タンク5とポンプ8との間においてサクションフィルタ44が設けられ、更に、このサクションフィルタ44とポンプ8との間には吸水経路内の流量を検出する第2流量センサ45が設けられる。
【0021】
前述のごとく構成した乗用型防除機において、図1に示しているように後部散布装置50を設ける構成としている。この後部散布装置50は、車体1後部の支持体51に対して回動支点52を支点として、前後方向に回動可能に構成している。この前後方向に回動については、油圧シリンダ54で作動する構成としている。また、後部散布装置50の左右のノズル部53,53については、左右の後輪4,4の後方に位置する構成としている。
【0022】
左右のノズル53,53については、それぞれ支持部57,57で支持されており、さらに、支持部57,57は連結プレート58で接続されているので、油圧シリンダ54は左側のみに設けられている。もちろん、右側に設けてもよい。
【0023】
このように、左右の後部散布装置50のノズル53については、1個の油圧シリンダ54で前後移動可能に構成しているので、廉価で簡素な構成となる。
また、左右の後部散布装置50のノズル53は、後輪4,4のトレッドの延長線上に位置する構成としているので、作物とノズル53の干渉を防止できるようになる。油圧シリンダ54についても同様で、後輪4(左側)の延長線上に位置する構成としているので、油圧シリンダ54と作物との干渉を防止できるようになる。
【0024】
図3と図5に示しているように、後部散布装置50への薬液の流れは、噴霧コックC2からセンターブーム9aへの配管D2の途中に分岐金具55を設け、この分岐金具55から配管D4を経由して後部散布装置50へ接続している構成である。前記配管D4の途中には、コック56を設けている。
【0025】
前記後部散布装置50については、左右の後輪4,4(左右前輪3,3)が通過後の部分にも充分な薬液の散布を行うことを目的としており、防除効果が良好に得られるようになる。
【0026】
図1に示しているように、後部散布装置50のノズル53が後輪4に接近しているときは散布を行い、ノズル53が後輪4から離れているときは散布をしないように構成する。具体的には、図5に示しているように、前記支持部57に案内プレート59を設け、この案内プレート59はコック56に連結する構成としている。
【0027】
即ち、油圧シリンダ54が伸長してノズル53が後輪4から遠ざかると、案内プレート59はコック56を閉じるように構成している。また、油圧シリンダ54が縮小してノズル53が後輪4に近づくと、案内プレート59はコック56を開くように構成している。
【0028】
また、後部散布装置50からの散布については、後部散布装置50の前後方向の動きと連動して自動的に散布の入り切りが行われるので、操作性が向上するようになる。また、ポンプ8については作業中常時駆動する構成としているので、前記コック56の上流側は高圧(30Kg/cm2)となっている。このため、後部散布装置50が後輪4に接近してノズル53から散布するときには、高圧の薬液が一気に噴霧されるようになり、無散布域の発生を防止できるようになる。薬液散布の入り切りについては、図3に示す制御弁64で電気的に行う構成としてもよい。
【0029】
図6には副変速レバー60を示している。この副変速レバー60はパネル17後方のステアリングハンドル7の側方(左側)に設ける構成としている。副変速レバー60は、作業速、中立、及び後進の3段変速となっている。該副変速レバー60の基部にはポジションセンサ61を設けており、このポジションセンサ61が副変速レバー61の後進位置を検出すると、制御手段(CPU)100は前記油圧シリンダ54のソレノイドに信号を送信して、前記後部散布装置50のノズル53を後輪4から離れる側、即ち、後側に移動するようにする。ノズル53からの散布も停止するようにする。図7には、そのブロック図を示している。
【0030】
これにより、操作性が向上するようになる。また、旋回時における多重散布を防止できると共に、後輪4の泥等がノズル53に付着するのを防止できるようになる。副変速レバー61の変速位置に後進を設けることで、前後進作業が速やかに実行できるようになる。
【0031】
もちろん、副変速レバー60を作業速に戻すと、後部散布装置50のノズル53を後輪4に接近する側、即ち、前側に移動するようにして、散布も再開するようにする。このように、副変速レバー61を操作するのみでノズル53の前後移動と散布の入り切りができるので、作業効率が向上するようになる。
【0032】
また、本実施例の乗用型防除機は、油圧式無段変速装置(HST)で前後進の走行を行う構成であり、この前後進操作を行うHSTレバー62をステアリングハンドル7に近傍に設ける構成としている。そして、このHSTレバー62を後進操作すると、後部散布装置50のノズル53を後輪4から離れる側、即ち、後側に移動するようにして、散布も停止するようにする。これにより、操作性が向上するようになる。また、旋回時における多重散布を防止できると共に、後輪4の泥等がノズル53に付着するのを防止できるようになる。
【0033】
このように、HSTレバー62を操作するのみでノズル53の前後移動と散布の入り切りができるので、作業効率が向上するようになる。
また、HSTレバー62を前進操作すると、後部散布装置50のノズル53を後輪4に接近する側、即ち、前側に移動するようにして、散布も再開するようにする。
【0034】
後部散布装置50のノズル53の前側移動(散布位置)については、前記防除ポンプ8が駆動状態で副変速レバー60が作業速位置においてのみ移動するように構成してもよい。
【0035】
副変速レバー60については、作業速(低速)に加え走行速(路上高速)に変速可能に構成してもよい。このような構成においては、防除ポンプ8が駆動状態であっても副変速レバー60の位置が走行速位置にあるときは、後部散布装置50のノズル53を前側移動(散布位置)しないように構成する。
【0036】
これにより、作業環境以外では散布牽制することで、無駄な薬液散布を防止できるようになる。また、ノズル53の破損も防止できるようになる。要するに、制御弁64を制御することで、ノズル53からの散布の入り切りも自動的に行うように構成することで、ノズル53の前後移動と散布の入り切りが自動的に行われるようになり、操作性が向上するようになる。
【0037】
図3に示すように、後部散布装置50に向かう配管D4には別のコック63を設ける構成としている。そして、前述したような後部散布装置50の作動条件に、前記コック63が開いていることを条件にすることで、無散布状態になることを防止できるようになる。
【0038】
図8については、図3の回路図に示している圧力センサ42と流量センサ43の位置を示している。手動操作する噴霧コックC1,C2,C3の後方であって、操作盤20の下方に近接して圧力センサを設けているので、圧力センサ42の保守管理作業が容易となる。
【0039】
また、流量センサ43についても、噴霧コックC1,C2,C3に比較的近くであって、操作盤20を外すと認識可能な位置にもうけているので、保守管理作業が容易となる。
図3の構成では、後部散布装置50への配管D4については、センターブーム9aへの配管D2の途中から分岐する構成としていたが、図9に示すように、後部散布装置50への配管D4を独立させて設けるように構成してもよい。この場合、コック63については、噴霧コックC1,C2,C3の横に並列的に設ける構成とする。これにより、噴霧コックC1,C2,C3及びコック63が集中配置されるので、操作性が向上するようになる。
【0040】
図10はパネル17の詳細構成を示している。
中央部に速度とエンジン回転数と使用時間を表示する複合表示計65、この複合表示計65の左側に燃料計66、複合表示計65の右側にエンジンの水温系67を設けている。69は各種警告を表示する警告灯群である。68は防除ポンプ8から吐出している薬液の量を表示する液晶パネルである。
【0041】
このようなパネル17の構成において、前記警告灯群69の上方には、前記噴霧コックC1,C2,C3及びコック63が入り状態のときに点灯する表示灯を設ける構成としている。
【0042】
70は噴霧コックC1入り状態表示灯、71は噴霧コックC2入り状態表示灯、72は噴霧コックC3入り状態表示灯、73は噴霧コック63の入り状態表示灯である。このように、作業者は前方を見ながら噴霧の入り状態を確認できるようになるので、圃場内での走行運転が容易となる。従来は前方から視線を外してコックの位置を視認していたので、特に直進走行の安定性に欠けていたが、このような不具合を防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】乗用型防除機の側面図
【図2】乗用型防除機の正面図
【図3】散布装置の配管図
【図4】防除操作盤の平面図
【図5】後部散布装置の配管図
【図6】操作部の一部側面図
【図7】ブロック図
【図8】操作盤の断面図
【図9】散布装置の一部の配管図
【図10】メータパネルの平面図
【符号の説明】
【0044】
1 車体
3 前輪
4 後輪
9 散布ブーム
50 後部散布装置
53 後部散布装置ノズル
63 前後進検出手段(HSTレバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体(1)前部に散布ブーム(9)を備えると共に左右前輪(3,3)及び左右後輪(4,4)で走行可能な自走式防除機において、車体(1)後部に後部散布装置(50)を設け、該後部散布装置(50)の左右ノズル(53,53)を前記左右後輪(4,4)の後方に配置し、前記後部散布装置(50)が作業状態では左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)に接近する構成とし、後部散布装置(50)が非作業状態では左右ノズル(53,53)は左右後輪(4,4)から離れるように構成したことを特徴とする自走式防除機。
【請求項2】
前記後部散布装置(50)の非作業状態及び作業状態の検出は、車体(1)の前後進検出手段(62)で検出する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の自走式防除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−295378(P2008−295378A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145612(P2007−145612)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】