説明

自転車用内装変速ハブ

【課題】平歯車に関連する不要なノイズを低減するギア歯を有する自転車用内装変速機を提供する。
【解決手段】この内装変速機は、ハブ軸20と、ハブ軸20によって回転可能に支持される駆動体22と、ハブ軸20によって回転可能に支持されるハブシェル24と、動力伝達機構28と、シフト機構26と、を備えている。動力伝達機構28は、駆動体22とハブシェル24との間に配置されて、回転力を駆動体22からハブシェル24へ複数の動力伝達経路を介して伝達する。また、動力伝達機構28は、太陽ギア38と、遊星ギア114と、リングギア118と、を有する少なくとも1つの遊星ギア機構113を有する。遊星ギア114は、キャリア116によって支持される。遊星ギア114は、ヘリカルギア歯120を有する。太陽ギア38及びリングギア118の少なくとも一方には、遊星ギア114のヘリカルギア歯120に噛み合うヘリカルギア歯が配置される。シフト機構26は、複数の動力伝達経路の1つを選択する機構である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用内装変速機、特に、遊星ギア機構を有する自転車用内装変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車に乗ることは、移動の手段であるとともに、レクレーションの形態としてもますます普及している。また、自転車に乗ることは、プロ、アマを問わず、競技スポーツとしても人気が高い。レクレーション、移動、競技の用途に関わらず、自転車産業において、種々の自転車コンポーネントは常に改良が続けられている。大きく設計が見直されている自転車コンポーネントの一つに内装変速機が挙げられる。内装変速機は、すべての変速機コンポーネントがハブシェル内に隠れて見えないので、普及している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の自転車用内装変速機は、一般的に遊星ギア機構を有する。そして、ある自転車用内装変速機は複数の遊星ギア機構を有している。遊星ギア機構は、一般的に、太陽ギアと、太陽ギアと係合し太陽ギア回りに回転する1つ以上の遊星ギアと、を有する。従来の遊星ギア機構において、太陽ギアと遊星ギアは、一般的には平歯車で形成されている。このような従来の自転車用内装変速機では、平歯車の噛み合いによってノイズが発生する。このようなノイズはサイクリストに聞こえることがあり、たとえ自転車用内装変速機に何ら異常がないような場合でも、サイクリストは内装変速機の動作に関して不安になることがある。
【0004】
また、平歯車は、自転車用内装変速機等の機械装置において使用される場合、概ね信頼性があるが、自転車用内装変速機の遊星ギア機構において用いられる場合、平歯車の噛み合いは、エネルギー伝達がともすれば非効率的となりうる。
【0005】
以上の点から、本開示によって、この技術分野において、動作時におけるノイズを取り除き、効率を改善する自転車用内装変速機の改良に対する要求があることが明らかである。本発明は、本技術におけるこの要求と同様に、本開示から当業者に対して明らかとなる他の要求に対してもなされたものである。
【0006】
本発明の目的は、一般的に平歯車に関連する不要なノイズを取り除くあるいは低減するギア歯を有する自転車用内装変速機を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、動作がスムーズで静かな自転車用内装変速機を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、ギア歯の噛み合いがより効率的である自転車用内装変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自転車用内装変速機は、ハブ軸と、ハブ軸によって回転可能に支持される駆動体と、ハブ軸によって回転可能に支持されるハブシェルと、動力伝達機構と、シフト機構と、を備えている。動力伝達機構は、駆動体とハブシェルとの間に配置されて、回転力を駆動体からハブシェルへ複数の動力伝達経路を介して伝達する。また、動力伝達機構は、太陽ギアと、遊星ギアと、リングギアと、を有する少なくとも1つの遊星ギア機構を有する。遊星ギアは、キャリアによって支持される。遊星ギアは、ヘリカルギア歯を有する。太陽ギア及びリングギアの少なくとも一方には、遊星ギアのヘリカルギア歯に噛み合うヘリカルギア歯が配置される。シフト機構は、複数の動力伝達経路の1つを選択する機構である。
【発明の効果】
【0010】
以上のような本発明では、遊星ギア機構を構成する遊星ギアはヘリカルギア歯を有するとともに、この遊星ギアに噛み合う太陽ギア及びリングギアの少なくとも一方はヘリカルギア歯を有しているので、平歯車に関連する不要なノイズを低減でき、噛み合いがスムーズになる。また、ギア歯の噛み合いがより効率的になる。
【0011】
本発明のこれら及び他の目的、特徴、態様、及び長所は、添付の図面と組み合わせて、本発明の好ましい態様を開示する以下の説明から当業者に明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
当開示の一部をなす添付の図面を参照しながら以下に説明を行う。
【0013】
本発明の選択的な実施形態を、図面を用いて、説明する。以下の本発明にかかる実施形態の説明は単なる例示であって、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物によって定義される本発明を限定するものではないことは、本開示から、当業者には明らかであろう。
【0014】
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態にかかるハブアッセンブリ12を有する自転車10を示す。以下に詳細に説明する通り、ハブアセンブリ12の一部に、ヘリカルギア歯が配置されており、これにより平歯車を用いた場合の問題を解消している。
【0015】
図1に示すように、自転車10は、フレームFと、リアホイールWと、フロントチェーンスプロケットSと、チェーンCと、ハブアセンブリ12と、を有する。図示しないが、この自転車は、従来の変速操作装置が装着されるハンドルバーを有する。変速操作装置には、ボーデンタイプケーブルTが接続されており、これにより、以下に詳細に説明する通り、動力伝達経路間でシフトを行う。リアホイールWは、ハブアセンブリ12によってフレームFに回転可能に支持される。チェーンCは、従来と同様に、回転力をフロントチェーンスプロケットSからリアチェーンスプロケット14へ伝達するよう構成される。以下に詳細に説明する通り、リアチェーンスプロケット14は、ハブアセンブリ12の一部に回転可能に支持される。
【0016】
図2から明らかなように、ハブアセンブリ12は、基本的に、固定軸20(ハブ軸)と、駆動体22と、ハブシェル24と、シフト機構26と、動力伝達機構28と、を備える。
【0017】
固定軸20は、自転車フレームFに装着するようネジが形成された端部を有し、好ましくは金属で形成されるシャフト部材である。また、固定軸20は、回転軸Aを定義し、リアホイールWは回転軸A回りに回転可能である。固定軸20は、基本的に、第1ベアリングサポート部30と、第2ベアリングサポート部32と、中央孔部34と、1組の一方向に延びる開口部36(一方のみが図2及び図4において見えている)と、太陽ギア38と、を有する。
【0018】
第1ベアリングサポート部30は、取り外し可能な保持部材40上に形成される。また、第2ベアリングサポート部32も、他の取り外し可能な保持する部材42上に形成される。図2に示すように、中央孔部34は、固定軸20の一端からおよそ中央部まで延びている。後述する通り、シフト機構は、少なくとも部分的に中央孔部34内に配置される。
【0019】
固定軸20の開口部36は、中央孔部34へと開口している。図4から明らかなように、開口部36は直線状であるが、回転軸Aに対して角度を付けて形成されており、これにより、螺旋状の外観を有する。開口部36及び中央孔部34の目的は、シフト機構26の説明とともに以下に説明する。
【0020】
図4に示すように、太陽ギア38の歯は、螺旋状に形成されている。太陽ギア38は、固定軸20の外側表面に好ましくは機械加工される。しかしながら、図面及びここでの説明から、あるいは太陽ギア38を、固定軸20に固定されるかそうでなければ固定軸20上で支持される別部材としての環状ギア部材上に形成することができる。
【0021】
図2に示すように、駆動体22は、固定軸20回りに回転可能に配置される環状部材である。また、リアチェーンスプロケット14は、駆動体22の外側表面に強固に固定される。駆動体22は、基本的に、内側ベアリングサポート部43と、外側ベアリングサポート部44と、爪サポート部46と、複数の爪47と、リングギアベアリングサポート部48と、内側に突出しているセットのギア50と、を有する。第1メインベアリング52は、駆動体22の内側ベアリングサポート部43と、固定軸20の取り外し可能な保持部材40の第1ベアリングサポート部30と、の間に配置される。このように、駆動体22は、第1メインベアリング52を介して固定軸20回りに回転可能に配置される。爪47は、従来と同様に、一方向クラッチとして機能し、爪サポート部46によって支持される。したがって、爪47の説明は、簡略化のために省略する。
【0022】
ハブシェル24は、固定軸20回りに回転可能に配置されるとともに、駆動体22の一部の回りに回転可能に配置される。ハブシェル24は、基本的に、第1サイドベアリングサポート部60と、第2サイドベアリングサポート部62と、従来のスポークフランジ64,66と、爪ギア歯68と、クラッチ爪ギア歯70と、を有する。第2メインベアリング72は、駆動体22の外側ベアリングサポート部44と、ハブシェル24の第1サイドベアリングサポート部60と、の間に配置される。さらに、第3メインベアリング74は、取り外し可能な保持部材42の第2ベアリングサポート部32と、ハブシェル24の第2サイドベアリングサポート部62と、の間に配置される。こうして、ハブシェル24は、第3メインベアリング74を介して固定軸20回りに回転可能に配置されるとともに、第2ベアリングサポート部32を介して駆動体22の一部の回りに回転可能に配置される。従って、ハブシェル24は回転軸A回りに回転可能である。
【0023】
次に、図2及び図4を参照してシフト機構26を説明する。第1実施形態において、シフト機構26は、動力伝達機構28を以下に詳細に説明する3つの動力伝達経路間でシフトするよう構成される。シフト機構26は、基本的に、プッシュロッド80と、シフトキー82と、第1コイルスプリング84と、第2コイルスプリング86と、第3コイルスプリング88と、コイルスプリング保持器90と、クラッチリング92と、を有する。シフト機構26は、米国特許5,928,103号に記載された従来のシフト機構の動作に対応する方法で、動作する。したがって、シフト機構26の説明は、簡略化のために最小限に留める。
【0024】
プッシュロッド80は、固定軸20の中央孔部34内に配置される。プッシュロッド80は、従来と同様に、図1に示すボーデンタイプケーブルTに機能的に連結される。プッシュロッド80とボーデンタイプケーブルTとの間の連結が従来のものであるので、説明は簡略化のため省略する。しかしながら、ボーデンタイプケーブルTが自転車10に乗るサイクリストの操作によって移動されると、プッシュロッド80は、同様に、回転軸Aに沿って移動され、これによりシフトキー82を移動させる。
【0025】
シフトキー82は、好ましくは、1組の開口部36を通って延びる、回転軸A及びプッシュロッド80に垂直な金属ブロック状の材料である。シフトキー82は、プッシュロッド80の一端に強固に固定され、プッシュロッド80とともに移動する。プッシュロッド80が図2及び図8に示す位置の間で移動されるにしたがって、シフトキー82は、開口部36の表面との当接により回転軸A回りに回転する。シフトキー82の両端は、開口部36から延出しており、そして、以下に詳細に説明する通り、クラッチリング92の一部と係合する凸部82aを有している。
【0026】
図4に示すように、第1コイルスプリング84は、プッシュロッド80の周囲に配置される。米国特許5,928,103号に記載されている通り、第1コイルスプリング84は、シフトキー82を図2に示す位置に向かって移動するよう付勢する。言いかえれば、第1コイルスプリング84は、シフトキー82とプッシュロッド80とを図2に示す位置に向かって移動するよう付勢する。
【0027】
図2に示すように、第2コイルスプリング86は、さらに以下に説明する通り、固定シャフト20回りに配置されるとともに、さらにクラッチリング92内に配置される。第3コイルスプリング88は、固定軸20回りに配置されるが、シフトキー82とコイルスプリング保持器90との間で圧縮されている。コイルスプリング保持器90は、図2及び図4に示すように、固定軸20に固定されるカップ状の部材である。第3コイルスプリング88は一端がコイルスプリング保持器90によって閉じ込められるので、第3コイルスプリング88は、シフトキー82とクラッチリング92とを図2の右側に向かって移動するよう付勢する。言いかえれば、第3コイルスプリング88は、シフトキー82とクラッチリング92とを図8に示す位置に向かって移動するよう付勢する。
【0028】
図2及び図4に示すように、クラッチリング92は、固定軸20を取り囲んでいるが、固定軸20に沿って回転軸Aと平行な方向にスライドするように構成されている環状リング状の部材である。図8、図9及び図10がよく示しているように、クラッチリング92は、図8に示す第1位置と、図9に示す第2位置と、図10に示す第3位置と、の間で移動するよう構成される。図8は第1動力伝達経路に対応し、図9は第2動力伝達経路に対応し、図2及び図10は第3動力伝達経路に対応する。
【0029】
図2及び図4から明らかなように、クラッチリング92は、基本的に、内部カム面94と、スプリング保持部96(図2のみ)と、外部カム面98と、第1ギア歯100と、第2ギア歯102と、保持器104と、を有する。
【0030】
図2に示すように、内部カム面94は、上述の米国特許5,928,103号によく記載されている通り、シフトキー82の一部と当接し、これにより、プッシュロッド80及びシフトキー82の移動に応じてクラッチリング92のポジショニングを行う。スプリング保持部96は第2コイルスプリング86の一端を保持する。また、第2コイルスプリング86の他端はシフトキー82と当接する。従って、第2コイルスプリング86は、シフトキー82を、クラッチリング92に対して相対的に図2の左側に向かって移動するよう付勢する。言いかえれば、第2コイルスプリング86は、シフトキー82を、保持器104に向かって移動して当接するよう付勢する。米国特許5,928,103号に記載されている通り、シフトキー82は、最初にクラッチリング92を移動させずに、図2の右側に向かって移動することができる。例えば、サイクリストはボーデンタイプケーブルTを移動させることができ、これにより、プッシュロッド80を図2の右側に向かってさらに移動させる。シフトキー82は、一時的に、クラッチリング92の保持器104から離れることができる。しかしながら、第3コイルスプリング88の付勢力が、結局は、クラッチリング92を付勢し、シフトキー82の移動に従う。
【0031】
図2及び図4を再び参照して、外部カム面98は、以下に詳細に説明する通り、動力伝達機構28の一部上に支持されるクラッチ爪110と当接するよう寸法付けられる一定の直径を有する環状の面である。クラッチリング92の第1ギア歯100は、クラッチリング92が図2及び図10の両方に示す第3動力伝達経路位置にあるとき、駆動体22の内側に突出しているセットのギア50と当接し係合する。第2ギア歯102は、外部カム面98と隣接して配置されており、後述する通り、クラッチリング92が図2及び図10の両方に示す第3動力伝達経路位置にあるとき、動力伝達機構28の内側に突出しているセットのギア歯112と当接し係合する。
【0032】
クラッチリング92の保持器104は、径方向内側に延びており、シフトキー82の回転軸Aに沿ったクラッチリング92に対して相対的な移動を制限する。具体的には、シフトキー82の両端が開口部36から延出しているので、凸部82aがさらに径方向外側に延びており、これにより、凸部82aの一方側は、クラッチリング92の保持器104の対向面と当接することができる。より具体的には、図2に示すように、シフトキー82は、左側が保持器104によって閉じ込められ、第2コイルスプリング86の力によって保持器104に当接したままとなるよう付勢される。従って、シフトキー82が左側に移動されるとき、クラッチリング92も、また、図2における左側に移動する。シフトキー82が図2における右側に移動されるとき、クラッチリング92は、第2コイルスプリング86の圧縮によって右側に付勢される。
【0033】
次に、特に図2、図3及び図6〜図10を参照して、動力伝達機構28を説明する。動力伝達機構28は、駆動体22とハブシェル24との間に配置されて、回転力を駆動体22からハブシェル24へ、図8、図9及び図10に示す複数の動力伝達経路を介して、伝達する。動力伝達機構は、基本的に、太陽ギア38と、キャリア116によって支持される複数の遊星ギア114と、リングギア118と、を有する遊星ギア機構113を有する。
【0034】
図6に、キャリア116によって回転可能に支持されている複数の4つの遊星ギア114のうちの3つを示している。この実施形態では4つの遊星ギア114が配置されているが、2つ、3つ、4つあるいは5つの遊星ギア114、あるいは遊星ギアの他の設計上適正な数を用いることができることはもちろんである。図6に示すように、遊星ギア114は、ヘリカルギア歯120を有する。遊星ギア114のヘリカルギア歯は、固定軸20の太陽ギア38と噛み合うよう形成される。また、太陽ギア38は、遊星ギア114のヘリカルギア歯120と噛み合うよう形成される。
【0035】
図2、図6及び図8〜図10に示すように、キャリア116は、固定軸20まわりに回転可能に配置されて回転軸A回りに回転する環状の部材である。図6に示すように、キャリア116は、爪サポート部122と、複数のシャフト124(図2及び図8〜図10は1つのみを示しており、図6では見えていない)と、複数の爪126(図2は1つのみを示しており、図6は2つを示している)と、外側ベアリングサポート部128と、内側ベアリングサポート部130(図2参照)と、上述の内側に突出しているセットのギア歯112(図8参照)と、を有する遊星ギアサポート部材である。
【0036】
シャフト124には、遊星ギア114を支持する2セットのベアリング132が配置されており、これにより、遊星ギア114は、シャフト124うちのそれぞれのシャフトの回りにスムーズに回転可能である。ベアリング132は、種々のベアリング構造のうちのいずれか、たとえばボールベアリングとすることができるが、ニードルベアリングや他のローラタイプのベアリングとすることもできる。キャリア116が固定軸20回りに回転するので、遊星ギア114は、シャフト124回りに回転し、太陽ギア38とさらに噛み合い、これにより、固定軸20回りを公転する。爪126は従来のエレメントであるので、爪126の説明を簡略化のため省略する。内側ギア歯112は、クラッチリングが図2及び図10に示す第3動力伝達経路位置にあるとき、クラッチリング92の第2ギア歯102と噛み合うよう構成される。
【0037】
図7に示すように、遊星ギア機構113のリングギア118は、クラッチ爪110を支持し、固定軸20及びキャリア116回りに、したがって遊星ギア114回りに回転するよう構成される環状の部材である。リングギア118は、第1ベアリングサポート部140と、第2ベアリングサポート部142と、1セットの爪ギア歯144(図2のみ)と、1セットのヘリカルギア歯146(図2及び図7)と、を有する。爪ギア歯144は、従来と同様に、爪47とともに動作するよう構成される。ヘリカルギア歯146は、遊星ギア114のヘリカルギア歯120と噛み合うよう形成されている。従って、遊星ギア114はヘリカルギア歯120を有し、固定軸20は螺旋状である太陽ギア38を有し、そして、リングギア118はヘリカルギア歯146を有する。ヘリカルギア歯120、太陽ギア38及びヘリカルギア歯146は、すべて、図7に示すように、回転軸Aに対する測定で螺旋角度αをなす螺旋形状である。螺旋角度αは、回転軸Aに対しておよそ20度である。
【0038】
本実施形態の変速機は、複数のベアリングアッセンブリを有しており、これにより、種々のパーツのスムーズな回転を保証する。リングギア118の第2ベアリングサポート部142及びキャリア116の外側ベアリングサポート部128は、キャリア116とリングギア118との間のスムーズな回転を保証する第1ベアリングアッセンブリ160を有する。第1ベアリングサポート部140及び駆動体22のリングギアベアリングサポート部48は、駆動体22とリングギア118との間のスムーズな回転を保証する第2ベアリングアッセンブリ162を有する。添付の特許請求の範囲において、キャリア116のシャフト124上の遊星ギア114を支持するベアリング132は、第3ベアリングアッセンブリに対応する。キャリア116の内側ベアリングサポート部130は、固定軸20とキャリア116との間のスムーズな回転を保証する第4ベアリングアッセンブリ150を有する。
【0039】
例示の実施形態の種々の動力伝達経路の説明を、図8、図9及び図10において、より明確に示す。具体的には、図8、図9及び図10のそれぞれにおいて、動力伝達経路を太線で示す。図8に示す第1動力伝達経路(低速ギア比)においては、サイクリストの操作によって、クラッチリング92は第1動力伝達経路位置へ(図8の右側へ)シフトされる。第1動力伝達経路位置において、クラッチリング92の外部カム面98は、リングギア118のクラッチ爪110の内側の部分と当接する。クラッチリング92の外部カム面98とクラッチ爪110との間の当接は、クラッチ爪110を径方向内側に引っ込ませ、これにより、クラッチ爪110はハブシェル24のクラッチ爪ギア歯70と当接できない。また、駆動体22上の爪47は、リングギア118の爪ギア歯144と係合し、これにより、リングギア118を駆動体22とともに回転させる。リングギア118のヘリカルギア歯146は、遊星ギア114のヘリカルギア歯120と噛み合う。遊星ギア114のヘリカルギア歯120は、さらに、固定軸20の太陽ギア38と噛み合わされ、これにより、遊星ギア114が固定軸20回りに回転する。遊星ギア114を支持するシャフト124が、キャリア116と協同して回転される。キャリア116の回転により、爪126がハブシェル24の爪ギア歯68と係合し、これにより、ハブシェル24を回転させる。リアホイールWがスポークフランジ64,66によって支持されているので、リアホイールWは低速で回転する。
【0040】
図9に第2動力伝達経路を示す(中速ギア比、ダイレクトギア比)。第2動力伝達経路において、サイクリストの操作によって、クラッチリング92は第2動力伝達経路位置へ(図9における中央位置へ)シフトされる。第2動力伝達経路位置においては、クラッチリング92の外部カム面98は、リングギア118のクラッチ爪110と当接しない。従って、クラッチ爪110は、フリーであり、ハブシェル24のクラッチ爪ギア歯70と係合する。また、駆動体22の爪47は、リングギア118の爪ギア歯144と係合し、これにより、リングギア118を駆動体22とともに回転させる。クラッチ爪110はギア歯70と係合しているので、ハブシェル24が回転する。リアホイールWがスポークフランジ64,66によって支持されているので、リアホイールWは、第2動力伝達経路を介して伝達されたトルクによって回転する。第2動力伝達経路においては、ハブシェル24がキャリア116より速く回転しているので、爪126は動力を伝えない。
【0041】
図10に第3動力伝達経路を示す(高速ギア比)。第3動力伝達経路において、サイクリストの操作によって、クラッチリング92は第3動力伝達経路位置へ(図10の左側へ)シフトされる。第3動力伝達経路位置においては、クラッチリング92の外部カム面98は、リングギア118のクラッチ爪110と当接しない。従って、クラッチ爪110は、フリーであり、ハブシェル24のクラッチ爪ギア歯70と係合する。さらに、クラッチリング92が第3動力伝達経路位置にあるとき、クラッチリング92の第2ギア歯102が、キャリア116の内側に突出しているセットのギア歯112と噛み合っており、また、クラッチリング92の第1ギア歯100が、駆動体22の内側に突出するセットのギア50と噛み合っている。ここでは、リングギア118が駆動体22より速く回転しているので、駆動体22の爪47は、リングギア118の爪ギア歯144に対して動力を伝えない。代わりに、トルクは、駆動体22の内側のギア50からクラッチリング92の第1ギア歯100へ伝達される。クラッチリング92の第2ギア歯102は、トルクをキャリア116の内側に突出しているセットのギア歯112へ伝達し、これにより、キャリア116を回転させる。
【0042】
キャリア116が回転しているので、シャフト124が回転し、これにより、遊星ギア114のヘリカルギア歯120を固定軸20回りに回転させる。遊星ギア114の回転により、さらにリングギア118が回転する。リングギア118のクラッチ爪110は、ギア歯70と係合しているので、これによりハブシェル24が回転する。リアホイールWがスポークフランジ64,66によって支持されているので、リアホイールWは、以上のような第3動力伝達経路を介して伝達されたトルクによって回転する。第3動力伝達経路においては、ハブシェル24がキャリア116より速く回転しているので、爪126は動力を伝えない。
【0043】
本発明の螺旋状のギア歯(ヘリカルギア歯120、太陽ギア38及びヘリカルギア歯146)は、従来の内装変速機設計よりも優れた利点を実現するのに役立つ。例えば、ヘリカルギアは、太陽ギア38と遊星ギア114との間、及び遊星ギア114とリングギア118との間にギアの噛み合いの(従って動力伝達の)効率を向上する。また、螺旋状のギア歯は、螺旋状のギア歯にはなく平歯車の歯の端部には存在するであろうストレスを低減する。
【0044】
図面及びここでの説明から、上述のヘリカルギア歯及びそれに関連するベアリング構成を、例えば以下に説明する第2実施形態のように3つを超える動力伝達経路を有する内装変速機アッセンブリに適用することができることは、理解されよう。
第2実施形態
次に、図11を参照して、本発明の第2実施形態にかかるハブアッセンブリ212を説明する。第1実施形態と第2実施形態との類似点を考慮して、第1実施形態の部材と同一の第2実施形態の部材には、第1実施形態の部材と同じ参照符号を付している。また、説明の簡略化のために、第1実施形態の部材と同一の第2実施形態の部材の説明を省略する。
【0045】
ハブアセンブリ212は、米国特許6,607,465号におけるものと同じ多くの特徴を有する。さらに、ハブアセンブリ212は、米国特許6,607,465号に記載されている装置と整合性のある方法で、シフトを行い、トルクを伝達する。したがって、ハブアセンブリ212のシフト及び動力伝達経路の説明は省略する。
【0046】
ハブアセンブリ212は、基本的に(他の特徴やエレメントの中でも)、固定軸220と、駆動体222と、ハブシェル224と、シフト機構226と、動力伝達機構228と、を備える。
【0047】
駆動体222及びハブシェル224は、固定軸220回りに回転するよう構成される。動力伝達機構228は、トルクを駆動体222からハブシェル224へ複数の動力伝達経路を介して伝達するよう構成される。動力伝達機構228は、(他のものの中でも、)第1太陽ギア230と、第2太陽ギア232と、第3太陽ギア234と、第4太陽ギア236と、第1セットの遊星ギア238と、第2セットの遊星ギア240と、第1リングギア242と、第2リングギア244と、を有する。
【0048】
第1太陽ギア230は外側ギア歯250を有する。第2太陽ギア232は外側ギア歯252を有する。第3太陽ギア234は外側ギア歯254を有する。第4太陽ギア236は外側ギア歯256を有する。
【0049】
第1セットの遊星ギア238は、小径のギア歯260と、大径のギア歯262と、を有する。
【0050】
第2セットの遊星ギア240は、小径のギア歯266と、中程度の直径のギア歯268と、大径のギア歯270と、を有する。
【0051】
第1リングギア242は内側ギア歯274を有する。また、第2リングギア244は内側ギア歯276を有する。
【0052】
第1太陽ギア230の外側ギア歯250は、第1セットの遊星ギア238の小径のギア歯260と噛み合うよう構成される。
【0053】
第2太陽ギア232の外側ギア歯252は、第2セットの遊星ギア240の小径のギア歯266と噛み合うよう構成される。第2セットの遊星ギア240の小径のギア歯266は、第2リングギア244の内側ギア歯276と噛み合うよう構成される。
【0054】
第3太陽ギア234の外側ギア歯254は、第2セットの遊星ギア240の中程度の直径のギア歯268と噛み合うよう構成される。
【0055】
第4太陽ギア236の外側ギア歯256は、第2セットの遊星ギア240の大径のギア歯270と噛み合うよう構成される。
【0056】
ハブアセンブリ212の具体的な構成及びあらゆる様々な設計基準に応じて、種々のセットのギアに、平歯車の歯の代わりにヘリカルギア歯を配置することができる。たとえば、第1太陽ギア230の外側ギア歯250、及び第1セットの遊星ギア238の小径のギア歯260を、ヘリカルギア歯として形成することができる。
【0057】
追加的に、あるいは代替的に、第1セットの遊星ギア238の大径のギア歯262、及び第1リングギア242の第1ギア歯274を、ヘリカルギア歯として形成することができる。
【0058】
追加的に、あるいは代替的に、第2太陽ギア232の外側ギア歯252、第2セットの遊星ギア240の小径のギア歯266、及び第2リングギア244の内側ギア歯276を、ヘリカルギア歯として形成することができる。
【0059】
追加的に、あるいは代替的に、第3太陽ギア234の外側ギア歯254、及び第2セットの遊星ギア240の中程度の直径のギア歯268を、ヘリカルギア歯として形成することができる。
【0060】
追加的に、あるいは代替的に、第4太陽ギア236の外側ギア歯256、及び第2セットの遊星ギア240の大径のギア歯270を、ヘリカルギア歯として形成することができる。
【0061】
第2実施形態において用いられるヘリカルギア歯は、第1実施形態と同じ利点及び長所を提供する。
【0062】
[用語の概括的な説明]
本発明の範囲の理解において、ここで用いられる用語「備える」及びその派生語は、記載された特徴、エレメント、コンポーネント、群、構成要素、及び/またはステップがあることを明記しているオープンエンドの用語を意味するのであって、記載されていない特徴、エレメント、コンポーネント、群、構成要素、及び/またはステップがあることを排除するものではない。上記は、用語「有する」、「含む」及びそれらの派生語など同様の意味を持つ語にも当てはまる。また、単数形的に用いられる用語「パート」、「セクション」、「部」、「部材」あるいは「エレメント」は、単一のパートあるいは複数のパーツの2つの意味を持ちうる。ここで、本発明を説明するために用いられる、次の用語、「前方、後方、上、下向き、垂直、水平、下、横」同じく他の同様な方向を示す用語が、本発明の自転車の方向を示す用語として使用されている。このように、本発明において用いられるこれらの用語は、通常のライディングポジションにおいて用いられるような、本発明が適用される自転車に対して相対的な意味で用いられる。さらには、ここでは、「ほぼ」、「約」、「およそ」といった程度を示す用語は、最終結果が大きく変わらないような、妥当な変形の条件の変更量を意味するものとして用いる。
【0063】
本発明の説明のためにいくつかの実施例が選択されたに過ぎず、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を逸脱することがない範囲で、種々の変更、変形ができることは、本開示から当業者には明らかであろう。さらに、前述の本発明にかかる実施例の説明は単なる例示であって、添付の特許請求の範囲及びそれらの均等物によって決められる本発明を限定するものではないことは、本開示から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態による内装変速機を有する自転車のリア側半分の側面図。
【図2】本発明の第1実施形態によるハブシェルと、ハブ軸と、クラッチリングと、キャリアと、リングギアと、を有する遊星ギア機構の詳細を示す内装変速機の断面図。
【図3】第1実施形態によるハブ軸の一部と、キャリアの一部と、リングギアと、を示す、内装変速機の側面図。
【図4】第1実施形態によるハブ軸の一部と、クラッチリングと、を示す、内装変速機の斜視図。
【図5】第1実施形態によるハブ軸を示す、図3と同様な内装変速機の側面図。
【図6】第1実施形態によるキャリアの側面図。
【図7】第1実施形態によるリングギアの斜視図。
【図8】第1実施形態による第1動力伝達経路を示す内装変速機の断面図。
【図9】第1実施形態による第2動力伝達経路を示す内装変速機の断面図。
【図10】第1実施形態による第3動力伝達経路を示す内装変速機の断面図。
【図11】本発明の第2実施形態を示す内装変速機の断面図。
【符号の説明】
【0065】
10 自転車
12,212 ハブアセンブリ
20,220 固定軸(ハブ軸)
22,222 駆動体
24,224 ハブシェル
26,226 シフト機構
28,228 動力伝達機構
38 太陽ギア
72 第2メインベアリング
113 遊星ギア機構
114 遊星ギア
116 キャリア
118 リングギア
120,146 ヘリカルギア歯
132 ベアリング
160 第1ベアリングアッセンブリ
162 第2ベアリングアッセンブリ
150 第4ベアリングアッセンブリ
230 第1太陽ギア
232 第2太陽ギア
234 第3太陽ギア
236 第4太陽ギア
238 第1セットの遊星ギア
240 第2セットの遊星ギア
242 第1リングギア
244 第2リングギア
A 回転軸
α 螺旋角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ軸と、
前記ハブ軸によって回転可能に支持される駆動体と、
前記ハブ軸によって回転可能に支持されるハブシェルと、
前記駆動体と前記ハブシェルとの間に配置され前記駆動体から前記ハブシェルへ回転力を伝達する複数の動力伝達経路を有するとともに、太陽ギア、遊星ギア及びリングギアを有する少なくとも1つの遊星ギア機構を有しており、前記遊星ギアはキャリアによって支持されるとともにヘリカルギア歯を有しており、前記太陽ギア及び前記リングギアの少なくとも一方には前記遊星ギアのヘリカルギア歯と噛み合うヘリカルギア歯を有している、動力伝達機構と、
前記複数の動力伝達経路の1つを選択するシフト機構と、
を備えた自転車用内装変速機。
【請求項2】
前記キャリアと前記リングギアとの間に機能的に配置された第1ボールベアリングアッセンブリをさらに備えた請求項1に記載の自転車用内装変速機。
【請求項3】
前記駆動体と前記リングギアとの間に機能的に配置された第2ボールベアリングアッセンブリをさらに備えた請求項1に記載の自転車用内装変速機。
【請求項4】
前記キャリアと前記遊星ギアとの間に機能的に配置された第3ボールベアリングアッセンブリをさらに備えた請求項1に記載の自転車用内装変速機。
【請求項5】
前記キャリアと前記ハブ軸との間に機能的に配置された第4ボールベアリングアッセンブリをさらに備えた自転車用内装変速機。
【請求項6】
前記ハブシェルは、前記ハブ軸を通って延びる回転軸回りに回転し、前記遊星ギアのヘリカルギア歯は、前記回転軸に対して20度の螺旋角度で角度付けられている、請求項1に記載の自転車用内装変速機。
【請求項7】
前記太陽ギアが、前記遊星ギアのヘリカルギア歯と噛み合うヘリカルギア歯を有している、請求項1に記載の自転車用内装変速機。
【請求項8】
前記リングギアが、前記遊星ギアのヘリカルギア歯と噛み合うヘリカルギア歯を有している、請求項1に記載の自転車用内装変速機。
【請求項9】
前記太陽ギアが、前記遊星ギアのヘリカルギア歯と噛み合うヘリカルギア歯を有している、請求項8に記載の自転車用内装変速機。
【請求項10】
前記太陽ギアは、前記ハブ軸の外表面上に形成されている、請求項1に記載の自転車用内装変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−161168(P2009−161168A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323211(P2008−323211)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】