説明

航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置

【課題】航空機に搭載して高空の大気中の二酸化炭素濃度を連続的に測定する装置を提供する。
【解決手段】航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10は、ハニカムパネルでつくられる筐体100を有し、2本のタンク110,120を有する。タンク110,120には二酸化炭素の濃度が検定された2種類の標準ガスが充填される。筐体100内には図示しない二酸化炭素分析セルが装備され、大気中の二酸化炭素濃度を連続的に測定する。定期的に標準ガスを分析し、測定精度を向上する。二酸化炭素分析セルは断熱装置内に格納され、飛行中の温度変化の影響を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機に搭載して高空の大気中の二酸化炭素濃度を連続して自動的に測定する航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化を防止するために、国際的な環境保全の必要性が高まっている。特に、大気中に放出される二酸化炭素は、地球温暖化の原因物質としてその放出削減が急務となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
大気中の成分等の観測は、各地の地上観測所で行われている。しかしながら、地球的な大規模な観測は、長時間高々度を飛行する国際線の旅客機等により長期間にわたって行われることが望ましい。
本発明の目的は、大型の航空機に搭載して高空の大気中の二酸化炭素濃度を連続的に測定し、測定位置や高度等の情報を同時に記憶できる航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置は、基本的な手段として、ハニカムパネル製の中央パネルと中央パネルの上下部に中央部が固定される上部パネル及び下部パネルにより構成される筐体と、筐体の中央パネルの一方の壁面側に装備される二酸化炭素の濃度が予め検定された2種類の標準ガスが充填された2本のタンクと、筐体の中央パネルの他方の壁面側に装備される二酸化炭素の濃度を分析する二酸化炭素分析セルと、二酸化炭素分析セルを流れる気体の流量を一定に保つ流量調整器と、二酸化炭素分析セル内の圧力を一定に保つ圧力調整器と、2種類の標準ガスと外気とを交互に二酸化炭素分析セルに供給する電磁弁と、二酸化炭素分析セルを収容する断熱装置を備えるものである。
そして、タンクに装備されるバルブは、タンク内のガス圧力が所定の圧力を超えたときに破裂してガスを逃がす破裂板を有する安全弁機能を備え、破裂板は、日本の高圧ガス保安法と米国の高圧ガス法の規定を同時に満足する特性を有する
ものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置によれば、軽量で丈夫な筐体内に各機器が収容され、小型軽量化が図れる。また、二酸化炭素分析セルは断熱され、測定精度も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置を搭載する航空機の概要を示し、図2は図1のA部の断面を示す。
航空機の機体1の床部材2の下部には、収納スペース3が用意されており、例えば、機内で使用される真水用のタンク5等が装備される。
本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10は、この収納スペース3の空間を利用して搭載される。搭載に際しては、既存の機器等の干渉を避け、機体構造に影響を与えないように、適宜の取付部材を用意して床部材2に吊り下げる構造で搭載する。
航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10を搭載する機種は複数にまたがるので、各機種に適した位置に搭載する。
【0007】
図3は、航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置の概要を示す一方向からみた斜視図、図4は他方側からみた斜視図、図5は筐体の説明図である。
全体を符号10で示す航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置は、ハニカムパネルで構成される筐体100を有する。筐体100は、中央パネル102と、中央パネル102の上下部に中央部が固定される上部パネル104、下部パネル106を備える。
上部パネル104と下部パネル106は、中央パネル102に対してネジSにより固着される。中央パネル102は、測定機器等をとりつけるための開口部Hが予め用意される。
中央パネル102の一方の側には、予め二酸化炭素(CO)の濃度が検定された2種類の標準ガスを充填された2本のタンク110、120が搭載される。各タンク110、120は電磁弁220等により自動的に後述する二酸化炭素分析セル300へ送られる。
【0008】
航空機搭載型二酸化炭素連続測定器10は、この2種類の標準ガスと大気を交互に二酸化炭素測定装置へ送り込むための機器が装備されていて、採取した高空の大気を加圧するポンプ160、乾燥器140、フィルタ150、152、レギュレータ130等がタンク110、120側に装備される。
中央パネル102を挟んで反対側の筐体100内には、断熱装置400内に格納された二酸化炭素分析セル300が装備され、流量調整器170、172、圧力計180、182、圧力制御器132、流量制御器134等が設けられる。
電装部材としては、入力ボード200、RS232Cモジュール210、電磁弁220、ARINCコンバータ230、ARINCフィルタ240、ストレージモジュール250、データロガー260等が設けられる。
また、タンク110、120側には、DCコンバータ202が設けられ、機体側から供給される直流電源を航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10用の直流電源に交換する。
また、ラインにノイズが混入するのを防止するノイズフィルタ280等も設けられる。
【0009】
二酸化炭素分析セル300は、ケーシング310内に円筒形の分析室320を有する。
分析室320の一方の端部には赤外線発光ランプ340を有し、他方の端部には赤外線受光素子350が設けられる。赤外線受光素子350の前方には光学フィルタ360が設けられる。
分析室320の赤外線発光ランプ340の近傍には、計測対象となるガスGの供給口330が設けられ、赤外線受光素子350側には、ガスの排出口が設けられる。
【0010】
供給されるガスG中に含まれる二酸化炭素分子COは、赤外線発光ランプ340から照射される波長4.26μm等の赤外線IRを吸収する。ガスG中に含まれる他の分子M,Mは赤外線IRを吸収しない。
そこで、赤外線発光ランプ340から照射される赤外線IRの量に比べて、赤外線受光素子350が受光する赤外線IRの量を計測することにより、CO濃度を測定することができる。
【0011】
二酸化炭素分析セル300から出力される二酸化炭素濃度の値は、二酸化炭素濃度以外に、周辺温度によって大きく影響を受ける。そのため、周辺温度の変化に影響を受けない対策として、セル温度を50℃に一定に保つように、ヒーターが取付けられている。しかし、急激な周囲温度の低下が起きた場合には、セル温度を一定に保つことができない。そのため、急激な周囲温度の低下が起きた場合の対策として、セルの断熱が必要とされる。周囲の温度低下が起きた場合、二酸化炭素濃度の値は実際よりも低く指示する。また急激な変化は、標準ガスによる校正では補うことが出来ず、計測値の精度が悪くなる。
【0012】
航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10が搭載される前方貨物室は、与圧され、かつ一部温度制御されているものの、客室内と違い機外温度の変化を受けやすい場所である。航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10が取付けられている場所は、最低温度が5℃ぐらいになることがある。
【0013】
航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10を搭載する前方貨物室内の温度変化を測定したところ、最大で±0.6℃/min(上昇中が−0.6℃/min、下降中+0.6℃/min)の変化があることがわかった。
そこで、温度変化の目安を±0.6℃/minと設定し、断熱装置400を設計し、二酸化炭素分析セル300を覆う構造とした。
【0014】
図7は、断熱装置400の部品構成を示す斜視図である。
断熱装置400は、二酸化炭素分析セル300を収納するケース410と、ケース410を相手部材に固定するための支持部材420を有し、ねじ部材Fにより固定される。二酸化炭素分析ボード430には、コネクター432等が装備される。
二酸化炭素分析セル300は、ケース410内に4個の断熱材450、452、454、456で覆われた状態で収容され、ケース410の蓋412が閉じられる。
第1の断熱材450は、二酸化炭素分析セル300の下面及び両端部を覆う形状を有する。
第2の断熱材452と第3の断熱材454は、板状のものであって、二酸化炭素分析セル300の裏面と正面を覆う。そして、第4の断熱材456は、二酸化炭素分析セル300の上面を覆う形状を有する。
上述した構造を備えた断熱装置400内に二酸化炭素分析セル300を収容することにより、所定の断熱効果を得ることが実験により確認された。
【0015】
次に、2種類の標準ガスが充填されたタンク110,120は高圧ガス容器(シリンダーと呼ばれる)であって、日本の高圧ガス保安法と米国の高圧ガス法の両方に適合することが必要である。
本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10に搭載されるタンク110,120は上述した条件に適合する性能を備えている。
また、タンク110,120の頂部にとりつけられるバルブ500も日本及び米国の法制度に適合するものが新たに開発された。
【0016】
図8は、バルブ500の構造を示す断面図である。
バルブ500は、弁本体510を有し、ねじ部511によりタンクの頂部に螺合される。弁本体510は、タンクに通ずる通路512と、ラインL,Lに通ずる通路514を有し、両通路512,514の間に弁座513が設けられる。
弁座513に対向して弁本体510内に挿入される弁体520は、パッキン材524を有し、弁座513に当接される。弁本体510にねじ部531を介してとりつけられるキャップ部材530は、内ねじ部534を有し、ねじ部材550が螺合される。ねじ部材550は、ノブ540により回動操作される。
【0017】
ねじ部材550は、受け部材554を介して弁体520を押圧する。弁体520の外側には戻しスプリング522が配設され、弁体520を常時開弁方向に付勢する。弁本体510のタンクに連通する通路512と弁本体510の外部を結ぶバイパス通路516が設けられ、袋ナット部材560で覆われる。バイパス通路516の出口は破裂板570で封止される。
【0018】
この破裂板570は、タンク内のガス圧が所定の値以上に上昇したときに破裂してガスを通路562から外部へ放出する安全弁として機能する。
この破裂板570が破壊される圧力は、日本の高圧ガス保安法と米国の高圧ガス法の規定に基いて設定される。
具体的には、破裂板の破裂圧が今回採用したタンク110、120の耐圧試験圧力23.0MPaの80%を超えないこと、かつ、その90%より小さくないことが要求される。
そこで、定格圧力を23.0MPaの0.8倍に相当する18.4MPaと設定し、16.6MPa(18.4MPa×0.9)から18.4MPaで破裂する破裂板570を製作した。
【0019】
図9は、本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置の作用を示す説明図である。
本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置にあっては、予め二酸化炭素濃度を既知の値に検定してある2種類の標準ガスが用意されている。そして、大気の測定中の一定間隔毎にその標準ガスを二酸化炭素分析セルに流して、二酸化炭素を測定する。測定した標準ガスの二酸化炭素濃度を基準として、測定した大気中の二酸化炭素濃度を補正することで、精度の高い測定値が得ることができるように全体の装置が構成されている。
【0020】
本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10は、2種類の標準ガスGK、GKが充填されたタンク110、120を備える。第1のタンク110には、測定対象の大気中に含まれる二酸化炭素濃度の上限値より高いと想定される二酸化炭素濃度に検定された第1の標準ガスGKを充填する。
【0021】
この第1の標準ガスGKは、例えば二酸化炭素濃度が390ppmに検定される。
第2のタンク120には、測定対象の大気中の二酸化炭素濃度の下限値よりも低いと想定される二酸化炭素濃度に検定された第2の標準ガスGKを充填する。
この第2の標準ガスGKは、例えば二酸化炭素濃度が340ppmに検定される。測定開始時には、電磁弁220は、まず、第1の標準ガスGKが流れる第1のラインLを開き、第1の標準ガスGKを二酸化炭素分析セル300へ送る。この時間は例えば50秒に設定される。二酸化炭素分析セル300は、この第1の標準ガスGKを分析し、その二酸化炭素濃度の測定結果Kを390ppmとして記録する。
【0022】
次に、電磁弁220は第1のラインLの回路を閉じ、第2の標準ガスGKを供給する第2のラインLを開く。二酸化炭素分析セルは第2の標準ガスGKを分析し、その測定結果Kを340ppmとして記録する。
この標準ガスの分析が完了すると、電磁弁220は、第1のラインL、第2のラインLの回路を閉じ、航空機外から採取した大気を二酸化炭素分析セル300へ送る第3のラインLを開く。
【0023】
第3のラインL中には、採取した大気中の水分を除去する乾燥器140や大気を加圧するポンプ160等が挿入される。大気が供給された二酸化炭素分析セル300は、大気中の二酸化炭素濃度を連続的に分析し、その測定結果Mを記録する。
その連続測定時間は、例えば10分間とする。この連続測定が終了すると、航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10は、再度標準ガスを分析するサイクルに戻り、標準ガスの二酸化炭素濃度の基準値を記録する。
この標準ガス測定サイクルの後に、大気の二酸化炭素濃度の連続測定サイクルに戻る。
【0024】
本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10は、上述したサイクルをくり返すことにより、航空機が飛行するルート上の大気のCO濃度を連続的に測定することができる。
飛行ルートや高度のデータは、ARINCコンバータ230を介して、航空機のARINCバスから航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置10内にとり込まれる。
本発明によれば、航空機の全飛行ルート上の大気中の二酸化炭素濃度を連続的に測定し、記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置を搭載する航空機の概要を示す説明図。
【図2】図1のA部の断面図。
【図3】本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置の概要を示す一方向からみた斜視図。
【図4】本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置の概要を示す他方側からみた斜視図。
【図5】筐体の説明図。
【図6】二酸化炭素分析セルの概要を示す説明図。
【図7】断熱装置の部品構成を示す斜視図。
【図8】バルブの構造を示す断面図。
【図9】本発明の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置の作用を示す説明図。
【符号の説明】
【0026】
1 航空機
10 航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置
100 筐体
110 第1のタンク
120 第2のタンク
200 入力ボード
230 ARINCコンバータ
300 二酸化炭素分析セル
400 断熱装置
500 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の収納スペース内に着脱自在に搭載される航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置であって、
ハニカムパネル製の中央パネルと中央パネルの上下部に中央部が固定される上部パネル及び下部パネルにより構成される筐体と、筐体の中央パネルの一方の壁面側に装備される二酸化炭素の濃度が予め検定された2種類の標準ガスが充填された2本のタンクと、筐体の中央パネルの他方の壁面側に装備される二酸化炭素の濃度を分析する二酸化炭素分析セルと、二酸化炭素分析セルを流れる気体の流量を一定に保つ流量調整器と、二酸化炭素分析セル内の圧力を一定に保つ圧力調整器と、2種類の標準ガスと外気とを交互に二酸化炭素分析セルに供給する電磁弁と、二酸化炭素分析セルを収容する断熱装置を備えることを特徴とする航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置。
【請求項2】
タンクに装備されるバルブは、タンク内のガス圧力が所定の圧力を超えたときに破裂してガスを逃がす破裂板を有する安全弁機能を備え、破裂板は、日本の高圧ガス保安法と米国の高圧ガス法の規定を同時に満足する特性を有する請求項1記載の航空機搭載型二酸化炭素連続測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−92630(P2009−92630A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266386(P2007−266386)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(501273886)独立行政法人国立環境研究所 (30)
【出願人】(592175704)気象庁長官 (7)
【出願人】(000132013)株式会社ジャムコ (53)
【Fターム(参考)】