説明

航空機用地上衝突回避方法およびシステム

本発明は、航空機用の地上との衝突回避方法およびシステムに関する。このシステムは警告装置(3)と自動操縦装置(5)とからなり、この自動操縦装置(5)は、航空機用の最適勾配上昇指令を決定する手段(7)と、この最適勾配上昇指令を与えて地形起伏で得られた第1高度ゲインが、上記の地形起伏を越えるのに十分か否かを照合する手段(12)と、対応する高度ゲインが上記の地形起伏を越えるのに十分である少なくとも1つの飛行方向変更値の有無を発見する手段(11)と、上記の第1の高度ゲインが十分であれば、現在の飛行方向を維持するとの指令と共に最適勾配上昇指令を、そして上記の第1高度ゲインが不十分であれば、選択された飛行方向変更値に対応する飛行方向指令と共に、上記地形起伏を越えるのに十分な特定の上昇指令を航空機に与える手段(17、22)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は航空機用の地上衝突回避方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの航空機、特に民間輸送航空機は衝突警告装置を備えており、この装置により航空機が地上と衝突する危険があると警告信号を伝達することができる。この衝突警告装置としては、特に、EGPWS(改良地上感知近接警告システム)タイプあるいはGCAS(地上衝突回避システム)タイプのTAWS装置(地上衝突警告システム)がある。
【0003】
そのような衝突警告装置が警告信号を伝達する場合、全ての操作、特に、地上との衝突を避けるため航空機を手動で操縦するように、パイロットに送られる。
【0004】
米国特許第4,924,401号は航空機と地上との衝突を自動的に回避する目的を有する解決策を提案している。この解決策は航空機がそれより以下に降下してはいけない最小高度を決定し、この最小高度を航空機が降下中に通過すると自動操縦装置により航空機を自動操縦し、自動的に航空機を上昇するよう指示して地上との衝突を回避するようにすることからなる。
【特許文献1】米国特許第4,924,401号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然し、この既知の解決策は、特に、航空機が急降下している間パイロットがそれに気が付かない場合に採用される。このため、航空機の軌道内での行動を起こすのが遅くなるという短所を有し、この軌道上での作動は勿論遅くなればなるほど大きくなる。また、例えば多くの乗客用の航空機に適用されると、この既知の解決策は不快な状況、あるいは乗客に潜在的な危険をもたらす。更に、軌道での作動では航空機が地上との衝突を回避し得ないという危険はその作動が遅くなる故高い。
【0006】
本発明の目的は、これらの短所を克服することで、特に、航空機用の効果的な地上との衝突回避方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明による方法では、衝突警告装置が用いられており、この装置は、航空機を取り巻く地上に対するその航空機の飛行をモニターし、現在の飛行特性(速度、勾配等)を維持することにより航空機と地上の地形起伏(relief)との間に衝突の危険があれば警告信号を伝達することができるものであって、上記の衝突警告装置が警告信号を伝達すると、自動的に、
A) 航空機に対する最適の勾配上昇コマンドが決定され、
B) (上記の最適勾配上昇コマンドを、現在の飛行方向を維持するコマンドと共に航空機に与えると、航空機が、上記の地形起伏から得る)第1の高度ゲインが上記の地形起伏を越えるのに十分か否かを照合し、
C) この照合により、
a) 上記の第1の高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分であれば、上記の最適勾配上昇コマンドが、現在の飛行方向を維持するコマンドと共に航空機に与えられ、
b) 上記の第1の高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分でなければ、(最適勾配上昇コマンドを航空機に与えて)航空機が上記の地形起伏で得る、第2の高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分である、少なくとも1つの飛行方向の変更値が在るか否か見るため調査を行い、そうであれば、
α) 上記の地形起伏を超えさせることのできる飛行方向の変更値の1つを選択し、
β) こうして選択された飛行方向の変更値に対応する (よって、航空機の飛行方向を変える) 飛行方向のコマンドと共に、上記の地形起伏を超えるのに十分な特定の上昇コマンドが航空機に与えられる。
【0008】
本発明の方法は、地上の地形起伏との衝突の危険が検知されるやいなや、航空機の軌道に作動するという利点を有し、この作動は自動的に、即ち、パイロットの介入なしに行なわれる。よって、警告信号が伝達されると、下記のような(航空機の飛行に対する)上昇コマンド、一般的には最適勾配上昇コマンドを与えることによって、地上に対する航空機の状況を改善するように自動作動が採られる。
【0009】
このため、本発明によれば、
・ そのような作動が地形起伏を超えるのに十分であれば、航空機の飛行方向を変えることなく単に最適勾配上昇コマンドが航空機に与えられ、簡単な回避操縦が行なえ、
・ ある状況(非常に高い地形起伏等)で起きる、上記の簡単な操縦が地形起伏を超えるのに十分でない場合、地形起伏がそれ程高くない方向に航空機を舵取りするため航空機の飛行方向を変え、その方向で上記の地形起伏を超えるのに十分な特定の上昇コマンドを(単に)航空機に与える。
【0010】
よって、本発明によれば、原則として航空機の前方に位置するどの地形起伏も越える可能性がある。
【0011】
本発明の要旨において、“勾配”は実際の勾配と航空機の姿勢角度との両方を意味する。
“飛行方向”は実際の飛行方向と航空機のルート(航路)との両方を意味する。
【0012】
更に、本発明の要旨において、最適勾配上昇コマンドは、勾配を最大にできるよう、連携する推進力コマンドを考慮して決定される。航空機の現在の推進力に対応する最大勾配は必ずしも最高である必要はないので、最大勾配は、可能なかぎり最高になる推進力コマンドが決定される。
【0013】
第1の簡単な実施例では、工程C、b、βで航空機に与えられる特定の上昇コマンドは最適勾配上昇コマンドに対応する。
【0014】
第2の実施例では、(非最大勾配での)特定の上昇コマンドとして、上記の地形起伏を超えるのに必要で十分な高度ゲインに対応する、高度ゲインが上記の地形起伏で生じる上昇コマンドが決定される。この第2の実施例では、本方法は先ず航空機の航路偏位を最小にできる飛行方向(あるいはルート)の値を決定し、(乗客の快適のために)勾配変化を最小にさせつつ、地形起伏を超えることのできる(非最大勾配での)上昇コマンドが決定される。この第2の実施例は、よって、上記の高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分であるため、航空機の安全を損なうことなく(その少ない勾配と低加速により)乗客の快適さを高めることができる。この第2の実施例は勿論地形起伏を超えるのに必要なゲインが、最適勾配上昇コマンドを航空機に与えると得られる高度ゲイン未満である場合のみに適用される。というのは、そうでなければ、最適勾配上昇コマンドが与えられるからである。
【0015】
更に、上記地形起伏を超えるのに十分な特定の上昇コマンドはその地形起伏に対する高度マージン(安全マージン)を考慮して計算されるのが好ましい。
【0016】
更に、工程C、b、αでは航空機を現在の飛行方向から、即ち当初予想された横方向の飛行航路から出来るだけすくなく航空機をそらせることのできる、絶対値での最小飛行方向変更値を(発見された全ての飛行方向の変更値から)選択するのが好ましい。
【0017】
本発明の要旨において、工程C、b、αで用いられる飛行方向の変更値の選択についてのその他の変形例を考えることも勿論できる。
特に、
・ 第1の変形例では、最小の地形起伏に対応し、航空機の現在の飛行方向の両側に形成される、所定の飛行方向の変更値範囲内にある飛行方向の変更値が決定され、
・ 第2の変形例では、対応する飛行方向の変化に必要なロール(横揺れ)角度が、航空機の上昇飛行性能(可能な最大勾配)をさほど悪化させないように、例えば45度未満の所定値の絶対値で飛行方向の変更値が選択される。
【0018】
特定の実施例では、工程C、b、βでは、最初、上記の特定の上昇コマンドが与えられ、次いで、飛行方向を変える飛行方向コマンドが与えられる。これによりできるだけ早く上昇コマンドが予想され、よって、地形起伏で得られる高度ゲインを最大にできる。
【0019】
更に、特定の実施例では、上記の衝突警告装置が警告信号を伝達すると、航空機の空力学的形態は地形起伏での高度ゲインを増加させるように変形し、工程Aで、(この変形から生じる)航空機の新たな空力学的形態を考慮して最適勾配上昇コマンドが決定される。この特定の実施例は地形起伏で得られる高度ゲインを増加することができ、特に、スラット、フラップおよび/またはスポイラなどの降着装置が着陸態勢用に展開される空港へのアプローチ(接近)中の航空機に適用できる。この場合、空力学的形態の変形は、時々、より良い上昇勾配を得るためこれらの機構を単に収縮させることからなる。然し、ある状況では、ある種の機構(特に、スラットあるいはフラップ)は少なくとも部分的に展開されたままにしておくことがより望ましい。事実、航空機の空力学的形態は、航空機の上昇飛行性能を最適にするように変形される。空力学的形態の変形は自動的に、あるいはパイロットにより(操縦手順により)行なわれる。
【0020】
飛行方向を変える飛行方向コマンドが工程C、b、βで与えられると、識別信号がこの(飛行方向変更)コマンドが与えられたことをパイロットに知らせるために操縦席に伝達される。このために、上記の飛行方向の変更コマンドと、上昇コマンドおよび地上との衝突回避関数とをパイロットに示すことができる。
【0021】
更に、衝突の危険が無くなると、航空機は操縦飛行範囲に戻るのが好ましい。
【0022】
本発明は航空機用の地上との衝突回避システムにも関する。
【0023】
本発明によれば、この種のシステムは、
− 衝突警告装置であって、航空機を取り巻く地上に対するその航空機の飛行をモニターし、現在の飛行特性を維持すれば、航空機と地上の地形起伏との間に衝突の危険があると、警告信号を伝達することができるものと、
− 航空機の自動操縦装置とからなり、
上記の自動操縦装置が少なくとも、
− 航空機に対する最適勾配上昇コマンド(指令)を決定する第1手段と、
− (現在の飛行方向を維持しつつ、上記の最適勾配上昇コマンドを航空機に与えて、航空機が、上記の地形起伏で得る)第1の高度ゲインが上記の地形起伏を越えるのに十分か否かを照合する第2手段と、
− 上記の第1の高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分でなければ、(最適勾配上昇コマンドを航空機に与えて)航空機が上記の地形起伏から得る第2の高度ゲインが、上記の地形起伏を超えるのに十分である、少なくとも1つの飛行方向の変更値が在るか否かを発見する第3手段と、
− 必要な場合、上記の地形起伏を超えさせることのできる飛行方向の変更値の1つを選択する第4手段と、
− 上昇コマンドおよび飛行方向コマンド、即ち、
・ 上記の第1高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分であれば、現在の飛行方向を維持するコマンドと共に上記の最適勾配上昇コマンドを、
・ 上記の高度ゲインが上記の地形起伏を超えるのに十分でなければ、上記の第4手段により選択された飛行方向変更値に対応する(よって、航空機の飛行方向を変更させる)飛行方向コマンドと共に、上記の地形起伏を超えるのに十分な特定の上昇コマンド
を航空機に与える第5手段とからなる。
【0024】
特定の実施例では、上記の回避システムは、又、
− 飛行方向を変える飛行方向コマンドが与えられ、その結果地形起伏を横方向に回避することを自動的に知らせる表示手段および/または
− 空力学的形態を最適にする手段とを備える。
【0025】
更に、上記の回避システムはパイロットが(その係合を)離脱できる手段を備えるのが望ましい。この場合、上記の回避システムは地形起伏を回避するのに必要な高度および飛行方向の変更の方法を(例えば、仮定高度と飛行方向を表示する高度および飛行方向表示器により)パイロットに知らせることができる。
【0026】
更に、上記の自動操縦装置は航空機の自動操縦装置の1部であることが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
添付図面により、本発明がどのように実施できるかが良く理解できる。これらの図中、同一符号は同一要素を示す。
図1に略示されている、本発明のシステム1は、航空機A、特に、大型輸送用航空機用の地上2との衝突回避システムである。
【0028】
このため、上記のシステム1は、
− 通常の衝突警告装置3であって、航空機Aを取り巻く地上2に対するその航空機Aの飛行をモニターし、現在の飛行特性(速度、勾配等)を維持すれば、航空機Aと地上2の地形起伏4との間に衝突の危険があると、警告信号を伝達することができるものと
− 航空機Aの自動操縦装置5であって、接続部6により上記の衝突警告装置3に接続されるもの
とからなるタイプのもである。
【0029】
上記の衝突警告装置3に関しては、特に、TAWS(地上感知および警告システム)装置、特に、EGPWS(改良地上近接警告システム)タイプあるいはGCAS(地上衝突回避システム)タイプのもである。
【0030】
本発明によれば、上記の自動操縦装置5は少なくとも、特に、上記の衝突警告装置3が警告信号を伝達すると作動する以下の手段、即ち、
− 上記の航空機Aの実際の飛行に対する航空機Aの最適勾配上昇コマンドを通常の方法で決定する手段7と、
− 接続部9により上記の手段7に接続されている手段8であって、(図2から図4中ライン10によって図示されている現在の飛行方向を維持するコマンドと同時に、上記の手段7によって決定された上記の最適勾配上昇コマンドを航空機に与えると、航空機Aが、上記の地形起伏4から得る)第1の高度ゲインΔH0が上記の地形起伏を越えるのに十分か否かを照合するものと、
− 接続部12によって上記の手段8に接続される手段11であって、
上記の高度ゲインΔH0が上記の地形起伏4を超えるのに十分でない場合、(最適勾配上昇コマンドを航空機に与えると、航空機Aが上記の地形起伏4から得る)対応する高度ゲインΔH1が上記の地形起伏を超えるのに十分である、少なくとも1つの飛行方向の変更値ΔCiであって、iは1以上の整数であるものが在るか否かを発見するものと、
− 接続部14により上記の手段11に接続されている手段13であって、上記の手段11により発見された色々の飛行方向の変更値ΔCiから1つの飛行方向変更値を以下に記載の方法で選択し、上記手段11が唯一の可能な飛行方向変更値しか発見しない場合は、上記の手段13は勿論この1つの値を選択するものと、
− 接続部16によって上記の手段13に接続されている手段15であって、以下に記載の特定の上昇コマンドと、上記手段13によって選択された飛行方向変更値に従って航空機Aの飛行方向を変更できる飛行方向コマンドとを決定するものと、
− 手段17、例えばスイッチ手段であって、図1中一点鎖線で示されている接続部18を介して図示されているように手段8により制御され、その目的がこの制御に従って上昇および飛行方向コマンドを伝達するものとからなる。
【0031】
即ち、上記の手段17は接続部19および20により上記の手段7および15にそれぞれ接続されており、接続部21を介して、
− 上記の高度ゲインΔH0が上記の地形起伏4を超えるのに十分であれば、航空機Aの現在の飛行方向を維持するコマンドと共に、上記の手段7により決定された上記の最適勾配上昇コマンドに対応し、
− 上記の高度ゲインΔH0が上記の地形起伏4を超えるのに十分でなければ、上記の手段15により決定されたコマンド、即ち、上記の地形起伏4を超えるのに十分な特定の上昇コマンドに対応するものと、上記の手段13によって選択された飛行方向変更値に対応する飛行方向コマンドに対応する、上昇コマンドと飛行方向コマンドとを伝達する。
【0032】
本発明の要旨において、最適勾配上昇コマンドは勾配を最大できるように連携されている推進力コマンドを考慮して決定される。航空機Aの現在の推進力に対応する最大勾配は必ずしも最高である必要はないので、システム1は最大勾配が可能な限り最高となる推進力コマンドを決定する。
【0033】
更に、本発明の要旨では、高度ゲインは地形起伏4で得られる高度と航空機Aの現在の高度との差に対応する。
【0034】
更に、最適勾配上昇コマンドは以下のように決定される。
第1の時間中では、航空機Aは最大の迎角で上昇せられ、ついで、最大の勾配で上昇される。この第1の時間は地形起伏4を超えれる高さを最大にするように選択されるのが好ましい。
【0035】
上記の地上衝突回避システム1は勿論又(例えば、自動操縦装置5に少なくとも部分的に統合できる)手段22を備え、この手段22は通常の方法で上記の航空機Aに上記の接続部21を介して受け取った上昇コマンドと飛行方向コマンドとを与える。このため、通常のタイプのこの手段22は、例えば、上記の上昇コマンドと飛行方向コマンドとに基づき制御面設定コマンドを決定するための計算手段と、この制御面設定コマンドを受け取り、上記の上昇コマンドと飛行方向コマンドとを航空機Aに与えるために対応する方法で上記制御面を移動させる、少なくとも1つの制御面を作動させる少なくとも1つの作動手段とからなる。
【0036】
特定の実施例では、上記の自動操縦装置5は航空機Aの自動操縦装置の1部である。
【0037】
更に、好ましい実施例では、上記の地上衝突回避システム1は更に、上記の自動操縦装置5に、例えば、接続部24によって接続されている表示手段23を備え、この手段の目的は、航空機Aのパイロットに、上記手段15によって決定された飛行方向変更コマンドを与えて、警告することである。この情報は、航空機Aのコックピットに据えられている表示スクリーンにより目で見えるように、あるいは図示されていない通常の手段を用いて聞こえるようになされている。
【0038】
図2に示されている例では、現在の飛行方向(ライン10)での航空機Aの前方にある地形起伏4で得られる高度ゲインΔH0は上記の地形起伏4の対応するピーク4Aを超えるのに十分である。この例では、手段17が上記の手段7からくるコマンド、即ち最適勾配上昇コマンドと航空機Aの現在の飛行方向を維持するコマンドとを手段22に伝達する。この場合、地上2との衝突の回避はよって、(現在の飛行方向を維持しながら)その側方向の飛行経路を変更しないで航空機Aを単に上昇させるだけで、簡単に行なわれる。
【0039】
他方、図3と図4との例では、飛行方向(ライン10)を維持しながら最適勾配上昇コマンドを航空機Aに与えることによって地形起伏から得られる高度ゲインΔH0は上記の地形起伏4の対応するピーク4Bを超えるのに十分ではない。この場合、手段17が、手段15によって決定される上昇コマンドと飛行方向コマンドとを伝達する。
【0040】
前記のように、手段15により生じる飛行方向コマンドは、手段11によって発見された複数個の可能な飛行方向変更値ΔCiから手段13により選択された飛行方向変更値に従って航空機Aの飛行方向を変える目的をもっている。
【0041】
好ましい実施例では、上記の手段13は(発見された飛行方向変更値ΔCi全てから)航空機Aの現在の飛行方向(ライン10)から、即ち当初予想された側方の飛行経路から出来るだけ少なく航空機Aをそらせられる、絶対値での最小飛行方向変更値を選択する。図3の例では、手段11は2つの飛行方向変更値ΔC1とΔC2とを発見した。この好ましい実施例では、手段13は、この例では最小の絶対値を有する飛行方向変更値ΔC1を選択する。
【0042】
本発明の要旨内では、勿論、上記の手段13によって為される飛行方向変更値の選択については、その他の変形例を考えることができる。
− 第1変形例では、上記の手段13は航空機Aの現在の飛行方向(ライン10)の両側で形成され、線分26および27により制限される所定の飛行方向変更範囲(図3ではΔCL1+ΔCL2)内にある最低の地形起伏に対応する飛行方向変更値を選択する。図3の例では、飛行方向変更値ΔC2によって決定される飛行方向28にある地形起伏4の部分4Cは、飛行方向変更値ΔC1によって決定される飛行方向29にある地形起伏4の部分4Dより低いので、手段13はこの変形例では飛行方向変更値ΔC2を選択する。
− 第2の変形例では、対応する飛行方向の変化に必要なロール(横揺れ)角度が、航空機Aの上昇飛行性能をあまり悪化させないように、絶対値で、所定値未満、例えば45度である飛行方向変更値を選択する。
【0043】
更に、上記手段15は、又、前記の方法で決定された飛行方向変更コマンドと連携する特定の上昇コマンドを決定する。
【0044】
第1の簡単な実施例では、手段15によって決定される上記の特定の上昇コマンドは単に最適勾配上昇コマンドに対応する。同じ最適上昇コマンドについては、地形起伏4からほぼ等距離では、飛行方向変更用に得られる高度ゲインΔH2とΔH1とは、勿論飛行方向変更無しに得られる高度ゲインΔH0より低く、それは、飛行方向変更(図3)を行なうために航空機Aによって用いられるエネルギーのせいである。
【0045】
第2の実施例では、図4に示されているように、上記の手段15は特定の上昇コマンドとして、地形起伏4で高度ゲインΔHRを生じる(非最大勾配での)上昇コマンドを決定し、このコマンドは地形起伏4の対応部分4Dを超えるのに必要であると共に、通常の規定安全マージンを考慮しても十分であり、最大勾配上昇に関連する高度ゲインΔH1未満である。この第2実施例では、第1工程で、航空機Aの経路偏位を最小にすることができる飛行方向(経路)変更値を決定し、ついで、(乗客の快適さのため)勾配の変化を最小にしながら地形起伏4を超えることのできる(非最大勾配での)上昇コマンドを決定するのが好ましい。
【0046】
よって、この実施例は、対応する高度ゲインΔHRが地形起伏4(部分4D)を越すのに十分なので、航空機Aの安全を損なうことなく(低勾配および低加速ゆえ)乗客の快適さを向上することができる。この第2実施例は、地形起伏を越えるのに必要な高度ゲインが、最適勾配上昇コマンドを航空機に与えた際得られる高度ゲインΔH1未満である場合にのみ適用される。
【0047】
更に、特定の実施例では、上記の自動操縦装置5(あるいは上記の手段22)は最初に上記の特定上昇コマンドを、次いで、飛行方向を変える飛行方向コマンドを航空機Aに与える。これにより、できるだけ早く上昇コマンドを予想でき、よって、地形起伏4で得られる高度ゲインを最大にすることができる。
【0048】
更に、特定の実施例では、上記の衝突警告装置3が警告信号を発すると、システム1は航空機Aの空力学的形態を地形起伏4での高度ゲインを増加させるように変形し、そして手段7は、(この変形から生じる)航空機Aの新たな空力学的形態を考慮して最適な勾配上昇コマンドを決定する。この特定の実施例は地形起伏4で得られる高度ゲインを増加させることが出来、特に、スラット、フラップ、および/またはスポイラ等の降着装置が(着陸態勢用に)展開される航空機の空港へのアプローチ中に適用できる。この場合、空力学的形態の変形は、時々、より高い上昇勾配を得るため、これら色々の機構(スラット、フラップ、および/またはスポイラ等の降着装置)を単に収縮させることからなる。然し、ある状況では、ある種の機構(特に、スラットあるいはフラップ)を少なくとも部分的に展開したままにしておくことがより望ましい。事実、航空機Aの空力学的形態は航空機Aの上昇飛行性能を最適にするように変形される。この空力学的形態の変形は自動的にあるいはパイロットにより(操作手順により)行なわれる。
【0049】
本発明による地上との衝突回避システム1は、地上2の地形起伏4との衝突の危険が検知されるやいなや航空機Aの飛行経路に作動し、この作動は自動的に、即ち、パイロットを介することなく行なわれる。よって、警告信号が衝突警告装置3によって伝達されるやいなや、上記のシステム1は、(航空機Aの飛行に対する)、上昇コマンド、一般には、最適勾配上昇コマンドを航空機に与えて、地上2に対する航空機Aの状況を改善するように作動する。
【0050】
このようにするために、本発明によれば、
− そのような作動が上記の地形起伏4を超えるのに十分であれば、システム1は航空機Aの飛行方向を変えないで、航空機Aに最適勾配上昇コマンドを単に与え、これにより簡単に回避操縦(図2)を行なえる。
− (地形起伏4が非常に高いとかの)ある状況で起こりうる、上記の簡単な操縦では上記の地形起伏4を越すことができなければ、システム1は上記の地形起伏4があまり高くない方向に航空機を舵取りするために航空機Aの飛行方向を変え、航空機Aに、その方向(図3および図4)の地形起伏4を超えるのに少なくとも十分な特定の上昇コマンドを与える。
【0051】
従って、本発明によるシステム1によれば、航空機Aは、その前方にあるどの地形起伏4も超えることができる。
【0052】
衝突から脱する(警告信号が無くなる)と、上記のシステム1は航空機Aを操縦飛行範囲に戻すのが好ましい。
【0053】
システム1はパイロットが(その係合を)離脱させることのできる手段(図示略)を備える。この場合、このシステム1は、(例えば、仮定高度および飛行方向を示す通常の高度および方向表示器により)地形起伏4を回避するために必要な高度および飛行方向変更をどのように行なうかを知らせることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のシステムのブロック図である。
【図2】本発明によるシステムの必須の特徴を良く説明することが出来る、色々の飛行状況の略図である。
【図3】本発明によるシステムの必須の特徴を良く説明することが出来る、色々の飛行状況の略図である。
【図4】本発明によるシステムの必須の特徴を良く説明することが出来る、色々の飛行状況の略図である。
【符号の説明】
【0055】
1…衝突回避システム、2…地上、3…衝突警告装置、4…地形起伏、4C…最低地形起伏、5…自動操縦装置、7…第1手段、10…飛行方向、12…第2手段、11…第3手段、13…第4手段、17・22…第5手段、23…飛行方向を変更させる飛行方向コマンドを与えたことを自動的に知らせる手段、A…航空機、ΔH0…第1高度ゲインΔH1・ΔH2…第2高度ゲイン、ΔC1・ΔC2…飛行方向の変更値、ΔHR…超えるのに必要充分な高度ゲイン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機(A)用の地上との衝突回避方法であって、この方法によれば、
衝突警告装置(3)であって、航空機(A)を取り巻く地上(2)に対するその航空機(A)の飛行をモニターし、現在の飛行特性を維持すれば、航空機(A)と地上(2)の地形起伏(4)との間に衝突の危険があると、警告信号を伝達することができるものが用いられており、上記の衝突警告装置(3)が警告信号を発すると、自動的に、
A) 航空機(A)に対する最適勾配上昇コマンドが決定され、
B) 現在の飛行方向を維持するコマンドと共に、上記の最適勾配上昇コマンドを航空機(A)に与えて、航空機(A)が、上記の地形起伏(4)で得る第1の高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を越えるのに十分か否かが照合され、
C) この照合により、上記の第1の高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分でなければ、最適勾配上昇コマンドを航空機(A)に与えて航空機(A)が上記の地形起伏(4)から得た第2の高度ゲイン(ΔH1、ΔH2)が、上記の地形起伏(4)を超えるのに十分である少なくとも1つの飛行方向の変更値(ΔC1、ΔC2)が在るか否か分かるために調査がなされるものにおいて、工程 C)で、
a) 上記の第1高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分であれば、現在の飛行方向を維持するコマンドと共に上記の最適勾配上昇コマンドを、自動的に航空機に与え、
b) 上記の第1高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分でなければ、最適勾配上昇コマンドを航空機(A)に与えて航空機(A)が上記の地形起伏(4)から得た第2の高度ゲイン(ΔH1、ΔH2)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分となる少なくとも1つの飛行方向の変更値(ΔC1、ΔC2)があれば、
α) 上記の地形起伏(4)を越えさせることができる上記の飛行方向の変更値(ΔC1、ΔC2)の1つが自動的に選択され、
β) こうして選択された飛行方向変更値に対応する飛行方向コマンドと共に、上記の地形起伏(4)を超えるのに十分な特定の上昇コマンドを航空機(A)に自動的に与えることを特徴とするもの。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、工程C、b、βで航空機(A)に与えられる上記の特定の上昇コマンドが最適勾配上昇コマンドに対応することを特徴とするもの。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、工程C、b、βで航空機(A)に与えられる上記の特定の上昇コマンドとして、上記の地形起伏(4)を越えるのに必要で十分な高度ゲインに対応する高度ゲイン(ΔHR)を地形起伏で生じる上昇コマンドが決定されることを特徴とするもの。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、工程C、b、αにおいて、絶対値で最小である飛行方向変更値(ΔC1)が選択されることを特徴とするもの。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、工程C、b、αにおいて、最低地形起伏(4C)に対応し、航空機(A)の現在の飛行方向(10)の両側に形成される所定の飛行方向変更範囲内にある飛行方向変更値(ΔC2)が選択されることを特徴とするもの。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、工程C、b、αにおいて、対応する飛行方向変更に必要なロール(横揺れ)角度が、絶対値で、所定値未満である、飛行方向変更値が選択されることを特徴とするもの。
【請求項7】
請求項項1〜6のいずれか1項に記載の方法であって、工程C、b、βにおいて、最初に、上記の特定の上昇コマンドが与えられ、次いで、飛行方向を変更する飛行方向コマンドが与えられることを特徴とするもの。
【請求項8】
請求項項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、上記の衝突警告装置(3)が警告信号を伝達すると、航空機(A)の空力学的形態が、地形起伏(4)での高度ゲインを増加させるように変形され、工程Aで、航空機(A)の新たな空力学的形態を考慮して最適勾配上昇コマンドが決定されることを特徴とするもの。
【請求項9】
請求項項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、工程C、b、βにおいて、飛行方向を変更させる飛行方向コマンドが与えられると、航空機(A)のコックピットにその飛行方向コマンドが与えられたことをパイロットに知らせる表示信号が伝達されることを特徴とするもの。
【請求項10】
請求項項1〜9のいずれか1項に記載の方法であって、衝突の危険が無くなると、航空機(A)は操縦飛行範囲に戻されることを特徴とするもの。
【請求項11】
航空機(A)用の地上との衝突回避システム(1)であって、
航空機(A)を取り巻く地上(2)に対するその航空機(A)の飛行をモニターし、現在の飛行特性を維持すれば、航空機(A)と地上(2)の地形起伏(4)との間に衝突の危険があると、警告信号を伝達する衝突警告装置(3)と
・ 航空機(A)の自動操縦装置(5)とからなり、
・ 上記の自動操縦装置(5)が少なくとも、
航空機(A)に対する最適勾配上昇コマンドを決定する第1手段(7)と、
現在の飛行方向を維持しつつ、上記の最適勾配上昇コマンドを航空機(A)に与えると、航空機(A)が、上記の地形起伏(4)で得る第1の高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を越えるのに十分か否かを照合する第2手段(12)と、
・ 上記の第1の高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分でなければ、最適勾配上昇コマンドを航空機(A)に与えて航空機(A)が上記の地形起伏(4)から得られる第2の高度ゲイン(ΔH1、ΔH2)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分である、少なくとも1つの飛行方向の変更値(ΔC1、ΔC2)が在るか否かを発見する第3手段(11)とからなるものであって、
上記の自動操縦装置(5)が更に、
必要な場合、上記の地形起伏(4)を超えさせることのできる、飛行方向の変更値(ΔC1、ΔC2)の1つを自動的に選択する第4手段(13)と、
上昇コマンドおよび飛行方向コマンド、即ち、
・ 上記の第1高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分であれば、現在の飛行方向を維持するコマンドと共に上記の最適勾配上昇コマンドを、
・ 上記の高度ゲイン(ΔH0)が上記の地形起伏(4)を超えるのに十分でなければ、上記の第4手段(13)により選択された飛行方向変更値に対応する飛行方向コマンドと共に、上記の地形起伏を超えるのに十分な特定の上昇コマンドを、
航空機(A)に自動的に与える第5手段(17、22)とを備えることを特徴とするもの。
【請求項12】
請求項11に記載した衝突回避システムであって、更に、飛行方向を変更させる飛行方向コマンドを与えたことを自動的に知らせる手段(23)を備えることを特徴とするもの。
【請求項13】
請求項11あるいは12に記載の衝突回避システムであって、更に、空力学的形態を最適にする手段を備えることを特徴とするもの。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載の衝突回避システムであって、更に、パイロットが(その係合を)離脱できる手段を備えることを特徴とするもの。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれか1項に記載の衝突回避システムであって、更に、上記の自動操縦装置(5)が航空機(A)の自動操縦装置の一部であることを特徴とするもの。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載の衝突回避システム(1)を備えることを特徴とする航空機。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法を実施することの出来るシステム(1)を備えることを特徴とする航空機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−536736(P2008−536736A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501350(P2008−501350)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000457
【国際公開番号】WO2006/097592
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(506355257)エアバス フランス (117)
【Fターム(参考)】