航跡割当装置
【課題】組合せ最適化問題を解くメタヒューリスティックス手法を用いて航跡割当問題の一つであるMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置を提供する。
【解決手段】測定して蓄積された移動体の航跡に関する観測データに基づき、予め定められた制約条件に違反しない複数の航跡候補を割当パターン群として生成し、この生成された割当パターン群を構成する各割当パターンに対し、航跡の始点に基づくグループに分類し、各グループの各割当パターンに対して一意の番号を付与する航跡候補群生成手段3,4と、各割当パターンに付与された番号に基づき、組合せ最適化を図るメタヒューリスティックス手法によって観測値を航跡に割り当てる航跡割当処理を行う航跡割当処理手段5〜10とを有することを特徴とする航跡割当装置にある。
【解決手段】測定して蓄積された移動体の航跡に関する観測データに基づき、予め定められた制約条件に違反しない複数の航跡候補を割当パターン群として生成し、この生成された割当パターン群を構成する各割当パターンに対し、航跡の始点に基づくグループに分類し、各グループの各割当パターンに対して一意の番号を付与する航跡候補群生成手段3,4と、各割当パターンに付与された番号に基づき、組合せ最適化を図るメタヒューリスティックス手法によって観測値を航跡に割り当てる航跡割当処理を行う航跡割当処理手段5〜10とを有することを特徴とする航跡割当装置にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、組合せ最適化問題を解くメタヒューリスティックス手法を用いて航跡割当問題の一つであるMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダの観測値から、飛行中の複数の航空機の航跡を推測する航跡追尾処理を構成する一つの処理として航跡割当処理がある。一回のレーダ観測で得られた観測値の集合を観測フレームと呼び、航跡割当は、観測フレーム内の観測値を複数ある航跡のいずれか一つに割り当てる処理である(新規航跡の始点とする場合もある)。例えば、下記特許文献1では、最新の一つの観測フレーム内の観測値を航跡に割り当てるMHT法を適用した目標追尾装置が提案されている。
【0003】
MHT法のように一つの観測フレームを用いた航跡割当では十分な航跡追尾精度が得られないため、より高い精度の航跡追尾処理が望まれている。このためには連続した複数の観測フレームを用いた航跡割当処理が必要であり、これは、連続した複数の観測フレームに対して航跡割当を行うMFA(Multiple Frame Assignment)問題を解くことで実現できる。しかし、MFA問題は、MHT法のような一つの観測フレームの割当処理に比べて考慮する航跡候補数が爆発的に増加するため、厳密に最適な解を求めようとすると処理に長時間を要し、実用面で問題を生じる。
【0004】
そこで、運用上問題ない解が求まれば必ずしも最適解でなくても良いという考えに立ち、組合せ最適化問題を高速に解くアルゴリズムの適用が提案されている。例えば非特許文献1では、ラグランジュ緩和法を適用することで解の探索空間の絞込みを行い処理の高速化を図っている。
【0005】
【特許文献1】特許第3145893号明細書
【非特許文献1】Aubrey B. Poore、”A New Multidimensional Data Association Algorithm for Multisensor-Multitarget Tracking”、Proc. of SPIE Vol. 2561、1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ラグランジュ緩和法は対象問題の次元数(MFA問題の場合はフレーム数)が大きくなると処理が煩雑になり、実装が難しくなるという問題がある。また、探索範囲を絞り込むための制約条件の緩和の仕方によっては効果的な絞込みが行えないという問題もある。
【0007】
ラグランジュ緩和法よりもアルゴリズムが単純で実装が容易であり、且つ、MFA問題を高速に解くことが期待できるアルゴリズムに組合せ最適化のメタヒューリスティクス手法がある。主要なアルゴリズムとしては、遺伝的アルゴリズム、タブーサーチ、シミュレーテッド・アニーリングなどが挙げられる。組合せ最適化のメタヒューリスティックス手法を適用することでより効率良くMFA問題を解くことが期待できるが、MFA問題の制約条件の一つであるゲート条件の存在により、効率的な探索が行えない可能性がある。
【0008】
図12は航跡割当例を示したものである。時刻t〜時刻t+3の4つの観測フレーム内の各観測点がX−Y平面上に分布している。これら4つの観測フレームの各観測値を重複が無いように結ぶことで4本の航跡への各観測値の割当が行われる。
【0009】
メタヒューリスティックス手法を用いて最適な航跡割当の探索を行う場合、一般的には現時点で得られている最良解の一部を変更した解(新規解と呼ぶ)を複数生成し、最良解よりも評価値の良い新規解が得られれば、その新規解を最良解とするという処理を繰り返し実行することで最適な割当を求める。例えば、図12に示した割当結果を現時点の最良解とし、最良解のフレームtの2番の観測値からフレームt+1の2番の観測値へのリンクと、フレームtの4番の観測値からフレームt+1の3番の観測値へのリンクを変更し、フレームtの2番の観測値からフレームt+1の3番の観測値へのリンクと、フレームtの4番の観測値からフレームt+1の2番の観測値へのリンクとすることで、図13に示す新規解を生成する。このような部分的な変更による新規解を複数生成し、現時点での最良解よりも良い解の探索を行う。
【0010】
しかし、MFA問題にはゲート条件と呼ばれる制約条件が存在し、上記のようなリンクの変更を行った際、ゲート条件違反が発生し、得られた解が実行不可能な解となってしまう場合がある。
【0011】
ここで、図14および図15を用いてゲート条件を説明する。ゲート条件とは、ある観測フレーム内の観測値から次の観測フレーム内の観測値に航跡を伸長する際に伸長可能な観測値をゲートと呼ばれる範囲内に含まれるものに限定するものであり、例えば、図14のフレームt+2の1番の観測点から伸長できる、フレームt+3内の観測値は、ゲート範囲内に含まれる1番と2番となる。なお、ゲート範囲はそれまでに得られている航跡によってその範囲が異なり、図15に示した航跡が得られている場合には、図14と同じフレームt+2の1番の観測点からのゲート範囲は図14のものとは異なり、伸長可能なフレームt+3の観測点は1番のみとなる。
【0012】
すなわち、最良解のリンクを一部張り替えることで航跡の構成が変更され、ゲート条件が変わってしまう。ゲート条件が変わるとゲート条件違反が発生してしまう可能性もある。ゲート条件が発生した場合はゲート条件違反を解消しなければならないが、現在の違反箇所を修正するようリンクの変更を行うと、また別の箇所でゲート条件違反が発生し、それを解消するとまた別の箇所で違反が発生するというように、ゲート条件違反の解消処理を何度も繰り返し行わなければならなくなる。
【0013】
メタヒューリスティクス手法による最適解探索は、最良解の部分的な変更を繰り返すことに特徴があり、上記のようにゲート条件違反の解消処理が繰り返されることは最良解の部分的な変更とはならず、効率的な探索が行えないという問題がある。
【0014】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、MFA問題を高速に解き、且つ、ラグランジュ緩和法に比べてアルゴリズムが単純で実装が容易である、組合せ最適化のメタヒューリスティックス手法を適用した航跡割当装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、測定して蓄積された移動体の航跡に関する観測データに基づき、予め定められた制約条件に違反しない複数の航跡候補を割当パターン群として生成し、この生成された割当パターン群を構成する各割当パターンに対し、航跡の始点に基づくグループに分類し、各グループの各割当パターンに対して一意の番号を付与する航跡候補群生成手段と、各割当パターンに付与された番号に基づき、組合せ最適化を図るメタヒューリスティックス手法によって観測値を航跡に割り当てる航跡割当処理を行う航跡割当処理手段とを有することを特徴とする航跡割当装置にある。
【発明の効果】
【0016】
この発明では、組合せ最適化問題を解くメタヒューリスティックス手法を用いて航跡割当問題の一つであるMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における航跡割当装置の構成を示すブロック図であり、例えばコンピュータとメモリにより構成される。図1において、観測データ収集部1は、レーダ等により観測された飛行物体等の移動体の観測値のデータを収集する装置である。観測データ蓄積部2は、観測データ収集部1により収集された観測値を観測データとして蓄積する装置である。航跡候補群生成部3は、観測データ蓄積部2に蓄積された観測値データ、および航跡平滑値格納部10に格納される平滑値情報より、ゲート条件と呼ばれる制約条件に違反しない航跡候補を全て生成し(航跡候補を割当パターンと呼ぶ場合もある)、航跡候補群を構成する航跡候補を、始点が同じものでグループ化する装置である。航跡候補群格納部4は、航跡候補群生成部3において生成された航跡候補群を格納する装置である。
【0018】
初期解生成部5は、航跡候補群格納部4に格納された航跡候補群の中から航跡グループ毎に一つずつ航跡候補を選択し、最適な航跡候補の組合せ(以降、航跡候補の組合せ「解」と呼ぶ)を探索するための初期解を生成する装置である。初期解格納部6は、初期解生成部5で生成された初期解を格納する装置である。
【0019】
最適解探索部7は、初期解格納部6に格納された初期解を最初の最良解とし、最良解の一部分を変更した複数の解を新たに生成する「新規解生成」と、現時点の最良解よりも評価値が良い新規解が存在する場合、評価値が最も良い新規解を新たな最良解とする「解更新」の2つの処理を、解の更新がされなくなるまで交互に繰り返すことで最適解の探索を行う装置である。最良解格納部8は、最適解探索部7における処理で最終的に得られた解を格納する装置である。航跡平滑化処理部9は、最良解格納部8に格納された解に示される航跡割当結果を用いて航跡平滑値を更新する装置である。航跡平滑値格納部10は、航跡平滑化処理部9の処理結果を格納する装置である。
【0020】
なお、観測データ収集部1と観測データ蓄積部2が観測データ収集手段を構成する。また、航跡候補群生成部3と航跡候補群格納部4が航跡候補群生成手段を構成する。一方、初期解生成部5と初期解格納部6が初期解生成手段を構成し、最適解探索部7と最良解格納部8が最適解探索手段を構成し、航跡平滑化処理部9と航跡平滑値格納部10が航跡平滑化処理手段を構成する。そして上記初期解生成手段、最適解探索手段及び航跡平滑化処理手段が航跡割当処理手段を構成する。
【0021】
次に図1の構成を有する航跡割当装置の一連の動作について説明する。まず、航跡割当装置は、例えばレーダ(図示省略)により観測された飛翔体、例えば航空機の航跡に関する観測値を観測データとして観測データ収集部1により収集し、観測データ蓄積部2に蓄積する。観測データは、観測時刻毎にまとめられ、一時刻分の観測データの集合を観測フレームと呼ぶ(以降、単にフレームと記述する場合もある)。図2は、観測フレームの例を示した図で、時刻t〜時刻t+3の間に観測された観測値を二次元平面上に表示したものである。フレームtの破線枠で囲まれているものは時刻tの観測フレームに含まれる観測値であり、フレームt+1〜t+3も同様である。なお、各フレーム内の観測値には1〜4の番号が振られているが、これは単に識別のために付けた番号であり、各フレームの同じ番号の観測値が同じ航跡に含まれるという意味ではない。観測データ収集部1では、図2に示したような観測データをフレーム単位に観測データ蓄積部2に蓄積する。なお、各観測値には、例えば、飛行物体の飛行速度、進行方向、位置などの情報が含まれる。
【0022】
次に、航跡候補群生成部3が、以下に示す手順に従って航跡候補群を生成し、航跡候補群格納部4に格納する。なお、航跡候補群とは、観測データを基に生成した、ゲート条件を満たす航跡候補(割当パターンとも呼ぶ)の集合である。
【0023】
以下に、航跡候補群生成の手順を示す。
<航跡候補群生成手順>
Step1. 航跡候補群生成部3は、観測データ蓄積部2から最新のNフレーム分(Nは正の整数で、Nの値は問題設定により変わる)のデータを取得し、さらに航跡平滑値格納部10より、前回の航跡割当処理後の航跡平滑値を取得する。航跡平滑値は、航跡毎に、割当が確定された部分(以降の処理で割当変更を行わない部分)を構成する複数の観測値の情報を平滑化し一つの観測値としてまとめたものである(以降、航跡平滑値は単に平滑値と呼ぶ)。図3は、時刻t〜t+3の4つの観測フレームに対して航跡割当を行う場合の取得データ例を示したものであり、最初に平滑値データ、以降に観測時刻順にフレームが並んでいる。
Step2. 航跡候補群生成部3は、Step1において取得した観測データより、各平滑値を始点とする、ゲート条件に違反しない、割当パターンを全て生成する。生成された割当パターンの集合を航跡候補群と呼ぶ。図4に割当パターンの例を示す。図3に示した取得データにおいて、図4の航跡11がゲート条件に違反しない航跡候補の一つであるとすると、この航跡候補11に対して、割当パターン12を生成する。割当パターン12における数字は各フレームにおける航跡候補11を構成する観測値の番号であり、先頭は平滑値、2番目以降は観測時刻の早いフレーム順の並びとなっている。
Step3. Step2において抽出した航跡候補群を、始点を同じとする割当パターン同士をグルーピングする。図5に、図3に示した取得データに対する航跡候補群のグルーピング例を示す。先頭の数字が同じ割当パターンを同じグループとしている。
Step4. Step3においてグルーピングした航跡候補群に対して、グループ内の割当パターンが一意に識別できるように各割当パターンに番号を付与する。この番号を割当パターン番号と呼ぶ。図6に割当パターン番号付与の例を示す。図6では、各航跡グループ内の割当パターンに対して、1から順に番号を付与している。
Step5. Step4で割当パターン番号を付与した航跡候補群を、航跡候補群格納部4に格納する。
【0024】
次に、初期解生成部5が、メタヒューリスティックス手法による航跡割当処理のための初期解を生成し、初期解格納部6に生成した初期解を格納する。MFA問題の解は、航跡候補群の中から、航跡グループ毎に一つずつ割当パターンを選択することで構成されるが、この発明における航跡割当装置では、さらに前述の割当パターン番号を利用してMFA問題の解を間接的に表現することを特徴とする。図7に、航跡候補群からのMFA問題の解の構成と、メタヒューリスティックス手法を適用するための解表現の例を示す。図7の航跡候補群13は、航跡候補群生成部3により生成された航跡候補群である。MFA問題の解は、航跡候補群13から、航跡グループ毎に一つずつ割当パターンを選択した物となり、図7のMFAの解14が一つの解の例を示している。このMFAの解14は、横一列が一つの航跡を構成する各観測フレームの観測値を表している。なお、MFAの解14の右端にある丸で囲まれた数字は、割当パターン番号である。
【0025】
MFAの解14は直接的な表現であり、2次元の配列となっている。これを、よりメタヒューリスティックス手法が適用しやすい形の間接的な表現にしたものが、メタヒューリスティックスにおける解表現15である。メタヒューリスティックスにおける解表現15では、MFAの解14を構成する割当パターンの割当パターン番号の並びでMFA問題の解を表現する。
【0026】
初期解の生成方法には複数の方式が考えられるが、以下にGRASP(Greedy Randoized Adaptive Search Procedure)手法の初期解生成を応用した手順を示す。
<初期解生成手順>
Step1. 航跡候補群に含まれる割当パターンの最大コストCmaxと最小コストCminを求める。
Step2. 航跡候補群に含まれるi番目の割当パターンのコストをCiとし、式(1)を満たす割当パターンを全て選択候補リストに加える。
Cmin≦Ci≦Cmin+α(Cmax−Cmin) (1)
Step3. 選択候補リストの中からランダムに一つ割当パターンを選択し、解の構成要素とする。解が完成したら終了し、そうでなければStep4に進む。
Step4. 選択候補リストを空にし、解の構成要素となっている割当パターンおよびそれらと同じ航跡グループに属する割当パターン、更に解の構成要素となっている割当パターンと航跡を構成する観測値が重複する割当パターンを航跡候補群から除外し(航跡候補群の更新)、Step1に戻る。
【0027】
以上の手順のStep2〜Step4の概要を図8に示す。まず、初期解生成手順を実行する前に航跡候補群生成部3において生成された航跡候補群が航跡候補群13である。この航跡候補群13の中から、Step2の処理により求めたコストが式(1)を満たす割当パターンの集合が選択候補リスト16である。なお、選択候補リスト16の右端のG1やG2などの表記は、その割当パターンが属する航跡グループを示している。
【0028】
Step3では、この選択候補リスト16の中からランダムに一つ割当パターンを選択する。図8では、選択候補リスト16の上から3番目の航跡グループ2の割当パターン番号1の割当パターンが選択された場合を示している。従って、同じStep3の処理において、メタヒューリスティックスにおける解表現17には、航跡グループ2に対応する左から2番目の位置に割当パターン番号1が追加される。
【0029】
Step4では、Step3で選択された航跡グループ2の割当パターン番号1の割当パターンが選択されているので、航跡グループ2の全ての割当パターンを航跡候補群から除外する。さらに、初期解を構成する割当パターンと、同じ観測フレームの観測値が重複する割当パターンを航跡候補群から除外し、航跡候補群18を生成する。
【0030】
初期解生成の手順では、このような、選択候補リストの生成、割当パターンの選択・解の要素追加、航跡候補群の更新を、全ての解の要素が追加されるまで繰り返し行う。
【0031】
次に、最適解探索部7の動作について説明する。最適解探索部7は、初期解格納部6に格納された初期解を探索の開始点として、新規解の生成(最良解の一部を変更して新規解を複数生成すること)と、解の更新(現時点で得られている最良解を含めて最も評価値の良い解を新たな最良解とすること)を繰り返し実行することで最適解探索を実行する。探索終了後、最適解探索部7は、得られた最良解を最良解格納部8に格納する。
【0032】
図9および図10を用いて、最適解探索部7の動作例を説明する。図9は、タブーサーチや遺伝的アルゴリズムの突然変異処理等に代表される局所探索の例を示している。以下にn回目の探索処理後の最良解19が得られた状態における処理手順を示す。
<最適解探索部7の動作手順1>
Step1. n回目の探索処理後に得られた最良解19の変更点20を選択する。変更点20の選択方法は、例えば、ランダムでも良いし、対応する割当パターンのコストに比例した(コストが悪いものほど選択されやすくなる)選択確率を与えても良い。
Step2. 変更点を選択したら、その変更点を、取り得る値全てに置き換えた場合の解を新規解として生成し、新規解集合21を構成する。図9では、解の、左から5番目の要素が変更点として選択されている。
Step3. 新規解集合21およびn回目の探索処理に得られた最良解19を併せた中から最も評価値の良い解をn+1回目の探索処理後の最良解22とする。図9では、新規解集合21の下から2番目の解がn+1回目の探索処理後の最良解となっている。
最適解探索部7の動作手順1のStep1〜Step3の処理は、最良解が一定回数連続して変化しなくなるまで繰り返される。
【0033】
探索アルゴリズムとして遺伝的アルゴリズムを適用した場合、交叉という処理による探索が行われる。図10を用いて、遺伝的アルゴリズムの交叉処理の手順を示す。なお、遺伝的アルゴリズムでは最良解を含む複数の解を保持している。
<最適解探索部7の動作手順2>
Step1. n回目の探索処理後に得られた最良解を含む解の集合であるn回目の探索後の最良解集合23の中から2つの解を選択する。図10では、n回目の探索後の最良解集合23の中の、上から2番目と下から2番目の解が選択されている。
Step2. Step1で選択された2つの解に対して交叉処理24を行う。この交叉処理では、選択された2つの解をそれぞれ同じ位置で2つに分割して繋ぎかえることで新規解を2つ生成する。図10では、新規解集合25が交叉により生成された新規解である。
Step3. n回目の探索後の最良解集合23および新規解集合25を併せた中から、解の評価値の良い順に一定個数選択し、n+1回目の探索後の最良解集合26を生成する。図10では、n回目の探索後の最良解集合23の上から1番目〜4番目までの4つの解と、新規解集合25の上の解をn+1回目の探索後の最良解集合26としている。
最適解探索部7の動作手順2のStep1〜Step3の処理は、最良解が一定回数連続して変化しなくなるまで繰り返される。
【0034】
最適解探索部7の動作手順1と最適解探索部7の動作手順2は、常に両方が実行されるわけではなく、適用するアルゴリズムによって、どちらか一方、あるいは、両方が実行される。
【0035】
次に、図11を用いて航跡平滑化処理部9の動作について説明する。図11は、観測フレームt〜t+3に対する航跡割当処理が確定した後の航跡平滑化処理について示している。航跡平滑化処理部9は、観測フレームt〜t+3の航跡割当確定後に、航跡平滑値と最も古い時刻の観測フレームであるフレームtの間の航跡割当結果と、航跡平滑値と、フレームtの観測値から新規の航跡平滑値を求め、航跡平滑値格納部10に格納する。
【0036】
フレームt〜フレームt+3の航跡割当処理を終え、新規航跡平滑値が求まると、航跡割当処理は、新規航跡平滑値とフレームt+1〜フレームt+4の各観測値を用いて、フレームt+1〜t+4の航跡割当処理を実行する。
また、航跡平滑化処理部9は航跡割当処理結果等を外部に出力する、又は例えば表示部(図示省略)に表示することができる。
【0037】
以上のように、この発明では、航跡割当問題の一つであるMFA問題の解の表現方法を、図7のメタヒューリスティックスにおける解表現15のような形で定義することにより、MFA問題に対して、最適解探索部7の動作説明に示したような、組合せ最適化問題を解く様々なメタヒューリスティックス手法による最適解探索手順を容易に実現でき、これによりMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置を実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施の形態1における航跡割当装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明における観測フレームの例を示した図である。
【図3】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図4】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図5】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図6】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図7】この発明における初期解生成部の動作を説明するための図である。
【図8】この発明における初期解生成部の動作を説明するための図である。
【図9】この発明における最適解探索部の動作を説明するための図である。
【図10】この発明における最適解探索部の動作を説明するための図である。
【図11】この発明における航跡平滑化処理部の動作を説明するための図である。
【図12】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【図13】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【図14】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【図15】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【符号の説明】
【0039】
1 観測データ収集部、2 観測データ蓄積部、3 航跡候補群生成部、4 航跡候補群格納部、5 初期解生成部、6 初期解格納部、7 最適解探索部、8 最良解格納部、9 航跡平滑化処理部、10 航跡平滑値格納部、11 航跡(候補)、12 割当パターン、13 航跡候補群、14 解、15 解表現、16 選択候補リスト、17 解表現、18 航跡候補群、19 最良解、20 変更点、21 新規解集合、22 最良解、23 最良解集合、24 交叉処理、25 新規解集合、26 最良解集合。
【技術分野】
【0001】
この発明は、組合せ最適化問題を解くメタヒューリスティックス手法を用いて航跡割当問題の一つであるMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダの観測値から、飛行中の複数の航空機の航跡を推測する航跡追尾処理を構成する一つの処理として航跡割当処理がある。一回のレーダ観測で得られた観測値の集合を観測フレームと呼び、航跡割当は、観測フレーム内の観測値を複数ある航跡のいずれか一つに割り当てる処理である(新規航跡の始点とする場合もある)。例えば、下記特許文献1では、最新の一つの観測フレーム内の観測値を航跡に割り当てるMHT法を適用した目標追尾装置が提案されている。
【0003】
MHT法のように一つの観測フレームを用いた航跡割当では十分な航跡追尾精度が得られないため、より高い精度の航跡追尾処理が望まれている。このためには連続した複数の観測フレームを用いた航跡割当処理が必要であり、これは、連続した複数の観測フレームに対して航跡割当を行うMFA(Multiple Frame Assignment)問題を解くことで実現できる。しかし、MFA問題は、MHT法のような一つの観測フレームの割当処理に比べて考慮する航跡候補数が爆発的に増加するため、厳密に最適な解を求めようとすると処理に長時間を要し、実用面で問題を生じる。
【0004】
そこで、運用上問題ない解が求まれば必ずしも最適解でなくても良いという考えに立ち、組合せ最適化問題を高速に解くアルゴリズムの適用が提案されている。例えば非特許文献1では、ラグランジュ緩和法を適用することで解の探索空間の絞込みを行い処理の高速化を図っている。
【0005】
【特許文献1】特許第3145893号明細書
【非特許文献1】Aubrey B. Poore、”A New Multidimensional Data Association Algorithm for Multisensor-Multitarget Tracking”、Proc. of SPIE Vol. 2561、1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ラグランジュ緩和法は対象問題の次元数(MFA問題の場合はフレーム数)が大きくなると処理が煩雑になり、実装が難しくなるという問題がある。また、探索範囲を絞り込むための制約条件の緩和の仕方によっては効果的な絞込みが行えないという問題もある。
【0007】
ラグランジュ緩和法よりもアルゴリズムが単純で実装が容易であり、且つ、MFA問題を高速に解くことが期待できるアルゴリズムに組合せ最適化のメタヒューリスティクス手法がある。主要なアルゴリズムとしては、遺伝的アルゴリズム、タブーサーチ、シミュレーテッド・アニーリングなどが挙げられる。組合せ最適化のメタヒューリスティックス手法を適用することでより効率良くMFA問題を解くことが期待できるが、MFA問題の制約条件の一つであるゲート条件の存在により、効率的な探索が行えない可能性がある。
【0008】
図12は航跡割当例を示したものである。時刻t〜時刻t+3の4つの観測フレーム内の各観測点がX−Y平面上に分布している。これら4つの観測フレームの各観測値を重複が無いように結ぶことで4本の航跡への各観測値の割当が行われる。
【0009】
メタヒューリスティックス手法を用いて最適な航跡割当の探索を行う場合、一般的には現時点で得られている最良解の一部を変更した解(新規解と呼ぶ)を複数生成し、最良解よりも評価値の良い新規解が得られれば、その新規解を最良解とするという処理を繰り返し実行することで最適な割当を求める。例えば、図12に示した割当結果を現時点の最良解とし、最良解のフレームtの2番の観測値からフレームt+1の2番の観測値へのリンクと、フレームtの4番の観測値からフレームt+1の3番の観測値へのリンクを変更し、フレームtの2番の観測値からフレームt+1の3番の観測値へのリンクと、フレームtの4番の観測値からフレームt+1の2番の観測値へのリンクとすることで、図13に示す新規解を生成する。このような部分的な変更による新規解を複数生成し、現時点での最良解よりも良い解の探索を行う。
【0010】
しかし、MFA問題にはゲート条件と呼ばれる制約条件が存在し、上記のようなリンクの変更を行った際、ゲート条件違反が発生し、得られた解が実行不可能な解となってしまう場合がある。
【0011】
ここで、図14および図15を用いてゲート条件を説明する。ゲート条件とは、ある観測フレーム内の観測値から次の観測フレーム内の観測値に航跡を伸長する際に伸長可能な観測値をゲートと呼ばれる範囲内に含まれるものに限定するものであり、例えば、図14のフレームt+2の1番の観測点から伸長できる、フレームt+3内の観測値は、ゲート範囲内に含まれる1番と2番となる。なお、ゲート範囲はそれまでに得られている航跡によってその範囲が異なり、図15に示した航跡が得られている場合には、図14と同じフレームt+2の1番の観測点からのゲート範囲は図14のものとは異なり、伸長可能なフレームt+3の観測点は1番のみとなる。
【0012】
すなわち、最良解のリンクを一部張り替えることで航跡の構成が変更され、ゲート条件が変わってしまう。ゲート条件が変わるとゲート条件違反が発生してしまう可能性もある。ゲート条件が発生した場合はゲート条件違反を解消しなければならないが、現在の違反箇所を修正するようリンクの変更を行うと、また別の箇所でゲート条件違反が発生し、それを解消するとまた別の箇所で違反が発生するというように、ゲート条件違反の解消処理を何度も繰り返し行わなければならなくなる。
【0013】
メタヒューリスティクス手法による最適解探索は、最良解の部分的な変更を繰り返すことに特徴があり、上記のようにゲート条件違反の解消処理が繰り返されることは最良解の部分的な変更とはならず、効率的な探索が行えないという問題がある。
【0014】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、MFA問題を高速に解き、且つ、ラグランジュ緩和法に比べてアルゴリズムが単純で実装が容易である、組合せ最適化のメタヒューリスティックス手法を適用した航跡割当装置を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、測定して蓄積された移動体の航跡に関する観測データに基づき、予め定められた制約条件に違反しない複数の航跡候補を割当パターン群として生成し、この生成された割当パターン群を構成する各割当パターンに対し、航跡の始点に基づくグループに分類し、各グループの各割当パターンに対して一意の番号を付与する航跡候補群生成手段と、各割当パターンに付与された番号に基づき、組合せ最適化を図るメタヒューリスティックス手法によって観測値を航跡に割り当てる航跡割当処理を行う航跡割当処理手段とを有することを特徴とする航跡割当装置にある。
【発明の効果】
【0016】
この発明では、組合せ最適化問題を解くメタヒューリスティックス手法を用いて航跡割当問題の一つであるMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における航跡割当装置の構成を示すブロック図であり、例えばコンピュータとメモリにより構成される。図1において、観測データ収集部1は、レーダ等により観測された飛行物体等の移動体の観測値のデータを収集する装置である。観測データ蓄積部2は、観測データ収集部1により収集された観測値を観測データとして蓄積する装置である。航跡候補群生成部3は、観測データ蓄積部2に蓄積された観測値データ、および航跡平滑値格納部10に格納される平滑値情報より、ゲート条件と呼ばれる制約条件に違反しない航跡候補を全て生成し(航跡候補を割当パターンと呼ぶ場合もある)、航跡候補群を構成する航跡候補を、始点が同じものでグループ化する装置である。航跡候補群格納部4は、航跡候補群生成部3において生成された航跡候補群を格納する装置である。
【0018】
初期解生成部5は、航跡候補群格納部4に格納された航跡候補群の中から航跡グループ毎に一つずつ航跡候補を選択し、最適な航跡候補の組合せ(以降、航跡候補の組合せ「解」と呼ぶ)を探索するための初期解を生成する装置である。初期解格納部6は、初期解生成部5で生成された初期解を格納する装置である。
【0019】
最適解探索部7は、初期解格納部6に格納された初期解を最初の最良解とし、最良解の一部分を変更した複数の解を新たに生成する「新規解生成」と、現時点の最良解よりも評価値が良い新規解が存在する場合、評価値が最も良い新規解を新たな最良解とする「解更新」の2つの処理を、解の更新がされなくなるまで交互に繰り返すことで最適解の探索を行う装置である。最良解格納部8は、最適解探索部7における処理で最終的に得られた解を格納する装置である。航跡平滑化処理部9は、最良解格納部8に格納された解に示される航跡割当結果を用いて航跡平滑値を更新する装置である。航跡平滑値格納部10は、航跡平滑化処理部9の処理結果を格納する装置である。
【0020】
なお、観測データ収集部1と観測データ蓄積部2が観測データ収集手段を構成する。また、航跡候補群生成部3と航跡候補群格納部4が航跡候補群生成手段を構成する。一方、初期解生成部5と初期解格納部6が初期解生成手段を構成し、最適解探索部7と最良解格納部8が最適解探索手段を構成し、航跡平滑化処理部9と航跡平滑値格納部10が航跡平滑化処理手段を構成する。そして上記初期解生成手段、最適解探索手段及び航跡平滑化処理手段が航跡割当処理手段を構成する。
【0021】
次に図1の構成を有する航跡割当装置の一連の動作について説明する。まず、航跡割当装置は、例えばレーダ(図示省略)により観測された飛翔体、例えば航空機の航跡に関する観測値を観測データとして観測データ収集部1により収集し、観測データ蓄積部2に蓄積する。観測データは、観測時刻毎にまとめられ、一時刻分の観測データの集合を観測フレームと呼ぶ(以降、単にフレームと記述する場合もある)。図2は、観測フレームの例を示した図で、時刻t〜時刻t+3の間に観測された観測値を二次元平面上に表示したものである。フレームtの破線枠で囲まれているものは時刻tの観測フレームに含まれる観測値であり、フレームt+1〜t+3も同様である。なお、各フレーム内の観測値には1〜4の番号が振られているが、これは単に識別のために付けた番号であり、各フレームの同じ番号の観測値が同じ航跡に含まれるという意味ではない。観測データ収集部1では、図2に示したような観測データをフレーム単位に観測データ蓄積部2に蓄積する。なお、各観測値には、例えば、飛行物体の飛行速度、進行方向、位置などの情報が含まれる。
【0022】
次に、航跡候補群生成部3が、以下に示す手順に従って航跡候補群を生成し、航跡候補群格納部4に格納する。なお、航跡候補群とは、観測データを基に生成した、ゲート条件を満たす航跡候補(割当パターンとも呼ぶ)の集合である。
【0023】
以下に、航跡候補群生成の手順を示す。
<航跡候補群生成手順>
Step1. 航跡候補群生成部3は、観測データ蓄積部2から最新のNフレーム分(Nは正の整数で、Nの値は問題設定により変わる)のデータを取得し、さらに航跡平滑値格納部10より、前回の航跡割当処理後の航跡平滑値を取得する。航跡平滑値は、航跡毎に、割当が確定された部分(以降の処理で割当変更を行わない部分)を構成する複数の観測値の情報を平滑化し一つの観測値としてまとめたものである(以降、航跡平滑値は単に平滑値と呼ぶ)。図3は、時刻t〜t+3の4つの観測フレームに対して航跡割当を行う場合の取得データ例を示したものであり、最初に平滑値データ、以降に観測時刻順にフレームが並んでいる。
Step2. 航跡候補群生成部3は、Step1において取得した観測データより、各平滑値を始点とする、ゲート条件に違反しない、割当パターンを全て生成する。生成された割当パターンの集合を航跡候補群と呼ぶ。図4に割当パターンの例を示す。図3に示した取得データにおいて、図4の航跡11がゲート条件に違反しない航跡候補の一つであるとすると、この航跡候補11に対して、割当パターン12を生成する。割当パターン12における数字は各フレームにおける航跡候補11を構成する観測値の番号であり、先頭は平滑値、2番目以降は観測時刻の早いフレーム順の並びとなっている。
Step3. Step2において抽出した航跡候補群を、始点を同じとする割当パターン同士をグルーピングする。図5に、図3に示した取得データに対する航跡候補群のグルーピング例を示す。先頭の数字が同じ割当パターンを同じグループとしている。
Step4. Step3においてグルーピングした航跡候補群に対して、グループ内の割当パターンが一意に識別できるように各割当パターンに番号を付与する。この番号を割当パターン番号と呼ぶ。図6に割当パターン番号付与の例を示す。図6では、各航跡グループ内の割当パターンに対して、1から順に番号を付与している。
Step5. Step4で割当パターン番号を付与した航跡候補群を、航跡候補群格納部4に格納する。
【0024】
次に、初期解生成部5が、メタヒューリスティックス手法による航跡割当処理のための初期解を生成し、初期解格納部6に生成した初期解を格納する。MFA問題の解は、航跡候補群の中から、航跡グループ毎に一つずつ割当パターンを選択することで構成されるが、この発明における航跡割当装置では、さらに前述の割当パターン番号を利用してMFA問題の解を間接的に表現することを特徴とする。図7に、航跡候補群からのMFA問題の解の構成と、メタヒューリスティックス手法を適用するための解表現の例を示す。図7の航跡候補群13は、航跡候補群生成部3により生成された航跡候補群である。MFA問題の解は、航跡候補群13から、航跡グループ毎に一つずつ割当パターンを選択した物となり、図7のMFAの解14が一つの解の例を示している。このMFAの解14は、横一列が一つの航跡を構成する各観測フレームの観測値を表している。なお、MFAの解14の右端にある丸で囲まれた数字は、割当パターン番号である。
【0025】
MFAの解14は直接的な表現であり、2次元の配列となっている。これを、よりメタヒューリスティックス手法が適用しやすい形の間接的な表現にしたものが、メタヒューリスティックスにおける解表現15である。メタヒューリスティックスにおける解表現15では、MFAの解14を構成する割当パターンの割当パターン番号の並びでMFA問題の解を表現する。
【0026】
初期解の生成方法には複数の方式が考えられるが、以下にGRASP(Greedy Randoized Adaptive Search Procedure)手法の初期解生成を応用した手順を示す。
<初期解生成手順>
Step1. 航跡候補群に含まれる割当パターンの最大コストCmaxと最小コストCminを求める。
Step2. 航跡候補群に含まれるi番目の割当パターンのコストをCiとし、式(1)を満たす割当パターンを全て選択候補リストに加える。
Cmin≦Ci≦Cmin+α(Cmax−Cmin) (1)
Step3. 選択候補リストの中からランダムに一つ割当パターンを選択し、解の構成要素とする。解が完成したら終了し、そうでなければStep4に進む。
Step4. 選択候補リストを空にし、解の構成要素となっている割当パターンおよびそれらと同じ航跡グループに属する割当パターン、更に解の構成要素となっている割当パターンと航跡を構成する観測値が重複する割当パターンを航跡候補群から除外し(航跡候補群の更新)、Step1に戻る。
【0027】
以上の手順のStep2〜Step4の概要を図8に示す。まず、初期解生成手順を実行する前に航跡候補群生成部3において生成された航跡候補群が航跡候補群13である。この航跡候補群13の中から、Step2の処理により求めたコストが式(1)を満たす割当パターンの集合が選択候補リスト16である。なお、選択候補リスト16の右端のG1やG2などの表記は、その割当パターンが属する航跡グループを示している。
【0028】
Step3では、この選択候補リスト16の中からランダムに一つ割当パターンを選択する。図8では、選択候補リスト16の上から3番目の航跡グループ2の割当パターン番号1の割当パターンが選択された場合を示している。従って、同じStep3の処理において、メタヒューリスティックスにおける解表現17には、航跡グループ2に対応する左から2番目の位置に割当パターン番号1が追加される。
【0029】
Step4では、Step3で選択された航跡グループ2の割当パターン番号1の割当パターンが選択されているので、航跡グループ2の全ての割当パターンを航跡候補群から除外する。さらに、初期解を構成する割当パターンと、同じ観測フレームの観測値が重複する割当パターンを航跡候補群から除外し、航跡候補群18を生成する。
【0030】
初期解生成の手順では、このような、選択候補リストの生成、割当パターンの選択・解の要素追加、航跡候補群の更新を、全ての解の要素が追加されるまで繰り返し行う。
【0031】
次に、最適解探索部7の動作について説明する。最適解探索部7は、初期解格納部6に格納された初期解を探索の開始点として、新規解の生成(最良解の一部を変更して新規解を複数生成すること)と、解の更新(現時点で得られている最良解を含めて最も評価値の良い解を新たな最良解とすること)を繰り返し実行することで最適解探索を実行する。探索終了後、最適解探索部7は、得られた最良解を最良解格納部8に格納する。
【0032】
図9および図10を用いて、最適解探索部7の動作例を説明する。図9は、タブーサーチや遺伝的アルゴリズムの突然変異処理等に代表される局所探索の例を示している。以下にn回目の探索処理後の最良解19が得られた状態における処理手順を示す。
<最適解探索部7の動作手順1>
Step1. n回目の探索処理後に得られた最良解19の変更点20を選択する。変更点20の選択方法は、例えば、ランダムでも良いし、対応する割当パターンのコストに比例した(コストが悪いものほど選択されやすくなる)選択確率を与えても良い。
Step2. 変更点を選択したら、その変更点を、取り得る値全てに置き換えた場合の解を新規解として生成し、新規解集合21を構成する。図9では、解の、左から5番目の要素が変更点として選択されている。
Step3. 新規解集合21およびn回目の探索処理に得られた最良解19を併せた中から最も評価値の良い解をn+1回目の探索処理後の最良解22とする。図9では、新規解集合21の下から2番目の解がn+1回目の探索処理後の最良解となっている。
最適解探索部7の動作手順1のStep1〜Step3の処理は、最良解が一定回数連続して変化しなくなるまで繰り返される。
【0033】
探索アルゴリズムとして遺伝的アルゴリズムを適用した場合、交叉という処理による探索が行われる。図10を用いて、遺伝的アルゴリズムの交叉処理の手順を示す。なお、遺伝的アルゴリズムでは最良解を含む複数の解を保持している。
<最適解探索部7の動作手順2>
Step1. n回目の探索処理後に得られた最良解を含む解の集合であるn回目の探索後の最良解集合23の中から2つの解を選択する。図10では、n回目の探索後の最良解集合23の中の、上から2番目と下から2番目の解が選択されている。
Step2. Step1で選択された2つの解に対して交叉処理24を行う。この交叉処理では、選択された2つの解をそれぞれ同じ位置で2つに分割して繋ぎかえることで新規解を2つ生成する。図10では、新規解集合25が交叉により生成された新規解である。
Step3. n回目の探索後の最良解集合23および新規解集合25を併せた中から、解の評価値の良い順に一定個数選択し、n+1回目の探索後の最良解集合26を生成する。図10では、n回目の探索後の最良解集合23の上から1番目〜4番目までの4つの解と、新規解集合25の上の解をn+1回目の探索後の最良解集合26としている。
最適解探索部7の動作手順2のStep1〜Step3の処理は、最良解が一定回数連続して変化しなくなるまで繰り返される。
【0034】
最適解探索部7の動作手順1と最適解探索部7の動作手順2は、常に両方が実行されるわけではなく、適用するアルゴリズムによって、どちらか一方、あるいは、両方が実行される。
【0035】
次に、図11を用いて航跡平滑化処理部9の動作について説明する。図11は、観測フレームt〜t+3に対する航跡割当処理が確定した後の航跡平滑化処理について示している。航跡平滑化処理部9は、観測フレームt〜t+3の航跡割当確定後に、航跡平滑値と最も古い時刻の観測フレームであるフレームtの間の航跡割当結果と、航跡平滑値と、フレームtの観測値から新規の航跡平滑値を求め、航跡平滑値格納部10に格納する。
【0036】
フレームt〜フレームt+3の航跡割当処理を終え、新規航跡平滑値が求まると、航跡割当処理は、新規航跡平滑値とフレームt+1〜フレームt+4の各観測値を用いて、フレームt+1〜t+4の航跡割当処理を実行する。
また、航跡平滑化処理部9は航跡割当処理結果等を外部に出力する、又は例えば表示部(図示省略)に表示することができる。
【0037】
以上のように、この発明では、航跡割当問題の一つであるMFA問題の解の表現方法を、図7のメタヒューリスティックスにおける解表現15のような形で定義することにより、MFA問題に対して、最適解探索部7の動作説明に示したような、組合せ最適化問題を解く様々なメタヒューリスティックス手法による最適解探索手順を容易に実現でき、これによりMFA問題の解を高速に求める航跡割当装置を実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施の形態1における航跡割当装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明における観測フレームの例を示した図である。
【図3】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図4】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図5】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図6】この発明における航跡候補群生成部の動作を説明するための図である。
【図7】この発明における初期解生成部の動作を説明するための図である。
【図8】この発明における初期解生成部の動作を説明するための図である。
【図9】この発明における最適解探索部の動作を説明するための図である。
【図10】この発明における最適解探索部の動作を説明するための図である。
【図11】この発明における航跡平滑化処理部の動作を説明するための図である。
【図12】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【図13】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【図14】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【図15】一般的な航跡割当を説明するための図である。
【符号の説明】
【0039】
1 観測データ収集部、2 観測データ蓄積部、3 航跡候補群生成部、4 航跡候補群格納部、5 初期解生成部、6 初期解格納部、7 最適解探索部、8 最良解格納部、9 航跡平滑化処理部、10 航跡平滑値格納部、11 航跡(候補)、12 割当パターン、13 航跡候補群、14 解、15 解表現、16 選択候補リスト、17 解表現、18 航跡候補群、19 最良解、20 変更点、21 新規解集合、22 最良解、23 最良解集合、24 交叉処理、25 新規解集合、26 最良解集合。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定して蓄積された移動体の航跡に関する観測データに基づき、予め定められた制約条件に違反しない複数の航跡候補を割当パターン群として生成し、この生成された割当パターン群を構成する各割当パターンに対し、航跡の始点に基づくグループに分類し、各グループの各割当パターンに対して一意の番号を付与する航跡候補群生成手段と、各割当パターンに付与された番号に基づき、組合せ最適化を図るメタヒューリスティックス手法によって観測値を航跡に割り当てる航跡割当処理を行う航跡割当処理手段とを有することを特徴とする航跡割当装置。
【請求項2】
航跡割当処理手段が、初期解生成手段、最適解探索手段、航跡平滑化処理手段を含み、
前記航跡候補群生成手段が、蓄積された観測データと前記航跡平滑化処理手段で求められ格納されている航跡平滑値より、制約条件に違反しない航跡候補を割当パターン群として全て生成し、さらに生成された割当パターン群を構成する割当パターンを同じ始点のグループに分類し、グループ毎に各割当パターンに対して一意の番号を付与して格納し、
前記初期解生成手段が、前記航跡候補群生成手段に格納された割当パターン群の中から航跡割当結果を各割当パターンに付与した番号で表現して、割当パターン群の中からグループ毎に一つずつ割当パターンを選択し、最適な航跡候補の組合解を探索するための初期解を生成して格納し、
前記最適解探索手段が、前記初期解生成手段に格納された初期解を最初の最良解とし、最良解の一部分を変更した複数の解を新たに生成する新規解生成と、現時点の最良解よりも評価値が良い新規解が存在する場合、評価値が最も良い新規解を新たな最良解とする解更新の2つの処理を、解の更新がされなくなるまで交互に繰り返して最適解の探索を行い、最終的に得られた最適解を格納し、
前記航跡平滑化処理手段が、前記最適解探索手段に格納された最適解に示される航跡割当結果に基づき航跡平滑値を更新して格納する、
ことを特徴とする請求項1に記載の航跡割当装置。
【請求項1】
測定して蓄積された移動体の航跡に関する観測データに基づき、予め定められた制約条件に違反しない複数の航跡候補を割当パターン群として生成し、この生成された割当パターン群を構成する各割当パターンに対し、航跡の始点に基づくグループに分類し、各グループの各割当パターンに対して一意の番号を付与する航跡候補群生成手段と、各割当パターンに付与された番号に基づき、組合せ最適化を図るメタヒューリスティックス手法によって観測値を航跡に割り当てる航跡割当処理を行う航跡割当処理手段とを有することを特徴とする航跡割当装置。
【請求項2】
航跡割当処理手段が、初期解生成手段、最適解探索手段、航跡平滑化処理手段を含み、
前記航跡候補群生成手段が、蓄積された観測データと前記航跡平滑化処理手段で求められ格納されている航跡平滑値より、制約条件に違反しない航跡候補を割当パターン群として全て生成し、さらに生成された割当パターン群を構成する割当パターンを同じ始点のグループに分類し、グループ毎に各割当パターンに対して一意の番号を付与して格納し、
前記初期解生成手段が、前記航跡候補群生成手段に格納された割当パターン群の中から航跡割当結果を各割当パターンに付与した番号で表現して、割当パターン群の中からグループ毎に一つずつ割当パターンを選択し、最適な航跡候補の組合解を探索するための初期解を生成して格納し、
前記最適解探索手段が、前記初期解生成手段に格納された初期解を最初の最良解とし、最良解の一部分を変更した複数の解を新たに生成する新規解生成と、現時点の最良解よりも評価値が良い新規解が存在する場合、評価値が最も良い新規解を新たな最良解とする解更新の2つの処理を、解の更新がされなくなるまで交互に繰り返して最適解の探索を行い、最終的に得られた最適解を格納し、
前記航跡平滑化処理手段が、前記最適解探索手段に格納された最適解に示される航跡割当結果に基づき航跡平滑値を更新して格納する、
ことを特徴とする請求項1に記載の航跡割当装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−162615(P2009−162615A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524(P2008−524)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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