説明

船外機の動力伝達装置

【課題】ベベルギアの製造コストを低減できると共に、動力伝達効率を向上できること。
【解決手段】エンジンにより駆動されるドライブシャフト21と、このドライブシャフト21によりベベルギア機構28を介して駆動されるプロペラシャフト23とを備えた船外機の動力伝達装置30において、ベベルギア機構28が、ドライブシャフト21に装着された駆動ベベルギア22と、プロペラシャフト23に装着されて駆動ベベルギア22に噛み合う前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25とを有し、駆動ベベルギア24、前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25が直歯型のベベルギアにて構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機(エンジンまたは電動モータ等)からの駆動力をドライブシャフトからプロペラシャフトへ伝達する、ベベルギア機構を備えた船外機の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機において、原動機(エンジンまたは電動モータ)の駆動力は、原動機の出力軸(エンジンの場合にはクランクシャフト)に連結されて下方に延びるドライブシャフトから、後端にプロペラが取り付けられて水平に延びるプロペラシャフトへ伝達する必要があるため、ドライブシャフトとプロペラシャフトとの間にベベルギア機構が介在されている。
【0003】
このベベルギア機構は、プロペラと共に水中に没するギアケース内に収容される。このギアケースは、航走中に水の抵抗が発生して動力損失になるため、水の抵抗を少なくするように、前方投影面積を小さくして小型に構成することが要請されている。
【0004】
従って、従来の船外機におけるベベルギア機構では、特許文献1に記載のように、歯形状がスパイラル(曲がり歯)形状のグリーソン歯型のベベルギアが採用されて、ギアを小径化してギアケースの小型化の要請に対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−25603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、スパイラルのグリーソン歯型を歯形状として採用したベベルギアは、ストレート歯形を歯形状とするベベルギアと比較して、互いに噛み合う歯間に生ずる摩擦による動力損失のために動力伝達効率が低くなり、動力性能の低下や燃費の悪化などの不具合が発生する恐れがある。この不具合は、特に小出力の船外機において大きな課題となっている。
【0007】
また、スパイラルのグリーソン歯型を歯形状として採用したベベルギアは、製作に専用設備が必要になるため、製造コストが上昇してしまう。
【0008】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、ベベルギアの製造コストを低減できると共に、動力伝達効率を向上できる船外機の動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、原動機により駆動されるドライブシャフトと、このドライブシャフトによりベベルギア機構を介して駆動されるプロペラシャフトとを備えた船外機の動力伝達装置において、前記ベベルギア機構が、前記ドライブシャフトに装着された駆動ベベルギアと、前記プロペラシャフトに装着されて前記駆動ベベルギアに噛み合う従動ベベルギアとを有し、前記駆動ベベルギア及び前記従動ベベルギアが直歯型のベベルギアにて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駆動ベベルギア及び従動ベベルギアが直歯型のベベルギアにて構成されたので、スパイラルのグリーソン歯型の場合に比べ、ベベルギアの製造コストを低減できると共に、摩擦による動力損失が減少するので動力伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る船外機の動力伝達装置における第1実施形態が適用されたエンジン駆動の船外機を示す左側面図。
【図2】図1のギアケース内を破断して動力伝達装置のベベルギア機構を示す断面図。
【図3】図2の駆動ベベルギアを示す断面図。
【図4】図2の前進側従動ベベルギアまたは後進側従動ベベルギアを示す断面図。
【図5】図4における前進側従動ベベルギアの基準ピッチ円錐の母線に沿って切断した歯の断面図。
【図6】本発明に係る船外機の動力伝達装置における第2実施形態が適用された電動モータ駆動の船外機を示す縦断面図。
【図7】図6のギアケース内を破断して動力伝達装置を示す断面図。
【図8】図7の駆動ベベルギアを示す断面図。
【図9】図7の従動ベベルギアを示す断面図。
【図10】図9における従動ベベルギアの基準ピッチ円錐の母線に沿って切断した歯の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
[A]第1実施形態(図1〜図5)
図1は、本発明に係る船外機の動力伝達装置における第1実施形態が適用された船外機を示す左側面図である。この図1に示す船外機10はエンジンホルダ12を備え、このエンジンホルダ12に原動機としてのエンジン11が搭載される。エンジンホルダ12の下部にオイルパンブロック13、ドライブシャフトハウジング14及びギアケース15が順次組み付けられている。図中符号16は、エンジン11、エンジンホルダ12及びオイルパンブロック13を覆うエンジンカバーである。
【0014】
船外機10は、図示しないパイロットシャフトがスイベルブラケット17に枢支されることで水平方向に回動自在に支持され、このスイベルブラケット17がスイベルシャフト18を介してクランプブラケット19に対し鉛直方向に回動自在に支持され、クランプブラケット19が船体の船尾部20に固定される。これにより、船外機10は、船体に対し、水平方向及び鉛直方向に旋回可能に取り付けられる。
【0015】
この船外機10は、エンジン11により駆動されるドライブシャフト21と、このドライブシャフト21によりベベルギア機構28(後述の駆動ベベルギア22、前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25)を介して駆動されるプロペラシャフト23と、を備えた動力伝達装置30を有する。
【0016】
つまり、エンジン11は、そのクランクシャフト29を鉛直方向に向けて縦置きに設置される。このエンジン11におけるクランクシャフト29の回転力は、エンジンホルダ12、オイルパンブロック13、ドライブシャフトハウジング14及びギアケース15内を鉛直方向に延在するドライブシャフト21に伝達される。このドライブシャフト21の下端部には、図2に示すように駆動ベベルギア22が固定して装着される。この駆動ベベルギア22は、ギアケース15内で水平方向に配置されたプロペラシャフト23に互いに対向して回転自在に遊嵌された前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25に常時噛み合う。
【0017】
また、プロペラシャフト23には、一端部にプロペラ26が固定されると共に、ドッグクラッチ27が回転一体、且つ軸方向にスライド可能に嵌合される。即ち、ドッグクラッチ27は、プロペラシャフト23の軸方向に移動可能に、このプロペラシャフト23にスプライン結合されると共に、ドッグピン34を介してプロペラシャフト23と回転一体に設けられ、且つ軸方向両端にドッグ27Aを備える。
【0018】
ドッグクラッチ27はクラッチ機構として機能し、前進用従動ベベルギア24と後進用従動ベベルギア25をプロペラシャフト23に選択的に断続させる。つまり、ドッグクラッチ27のドッグ27Aが、前進用従動ベベルギア24のドッグ24Aまたは後進用従動ベベルギア25のドッグ25Aに択一に噛み合うことで、ドライブシャフト21及び駆動ベベルギア22を経て前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25に伝達されたエンジン11の回転力は、ドッグクラッチ27を介してプロペラシャフト23へ伝達され、プロペラ26が正転または逆転する。これにより、船体は前進(フォワード)側または後進(リバース)側の推進力を得る。
【0019】
船外機10は、このように、ドッグクラッチ27をフォワード位置(ドッグクラッチ27のドッグ27Aを前進用従動ベベルギア24のドッグ24Aに噛み合わせる位置)に切り換えてプロペラシャフト23(プロペラ26)を正転状態とし、またはドッグクラッチ27をリバース位置(ドッグクラッチ27のドッグ27Aを後進用従動ベベルギア25のドッグ25Aに噛み合わせる位置)に切り換えてプロペラシャフト23を逆転状態とし、またはドッグクラッチ27をニュートラル位置(ドッグクラッチ27のドッグ27Aを前進用従動ベベルギア24のドッグ24A及び後進用従動ベベルギア25のドッグ25Aに噛み合わせない位置)に切り換えてプロペラシャフト23をニュートラル状態とするシフト機構を有し、このシフト機構がドッグクラッチ作動部31を備える。
【0020】
ドッグクラッチ作動部31は、ドッグクラッチ27を作動(直線移動)させるものであり、シフトロッド33、シフトカム36、プッシュロッド37及びクラッチスプリング38を有して構成される。
【0021】
シフトロッド33は、ギアケース15内に上下方向に移動可能に設けられる。このシフトロッド33は、図1に示すように、ドライブシャフトハウジング14とギアケース15との結合部付近でクラッチロッド32に直接連結される。このクラッチロッド32は、スイベルブラケット17に枢支されたパイロットシャフト(不図示)内に挿通されると共に、船体に設置されたシフト操作レバー(不図示)により昇降操作される。
【0022】
シフトカム36は、図2に示すようにシフトロッド33の下端部に結合され、カム面35(後述)を備える。また、プッシュロッド37は、プロペラシャフト23内で、このプロペラシャフト23の軸方向に移動可能に設けられ、シフトカム36のカム面35とドッグクラッチ27のドッグピン34との間に配設される。また、クラッチスプリング38は、プロペラシャフト23内に配設され、ドッグピン34を介してプッシュロッド37へ付勢力を付与し、このプッシュロッド37をシフトカム36のカム面35に当接させる。
【0023】
前記シフトカム36のカム面35には、上方から下方へ向かってフォワード位置35F、ニュートラル位置35N、リバース位置35Rが順次連続して形成され、シフトカム36はディテント機構39によってこれらの各位置に位置決めされる。このカム面35のフォワード位置35F、ニュートラル位置35N、リバース位置35Rは、それぞれドッグクラッチ27をフォワード位置、ニュートラル位置、リバース位置の各シフト位置に位置付けるものである。
【0024】
シフト操作レバー(不図示)が操作されて、クラッチロッド32を介しシフトロッド33が上下方向に移動することで、シフトカム36のカム面35に倣ってプッシュロッド37が軸方向に移動する。このプッシュロッド37がシフトカム36のカム面35のフォワード位置35Fに当接したときに、クラッチスプリング38の作用でドッグクラッチ27のドッグ27Aが前進用従動ベベルギア24のドッグ24Aに噛み合って、ドッグクラッチ27がフォワード位置に切り換えられる。これにより、ドライブシャフト21の駆動力が駆動ベベルギア22、前進用従動ベベルギア24及びドッグクラッチ27を経てプロペラシャフト23へ伝達され、プロペラ26が正転して船体が前進する。
【0025】
また、プッシュロッド37がシフトカム36のカム面35のリバース位置35Rに当接したときには、このプッシュロッド37の作用でドッグクラッチ27のドッグ27Aが後進用従動ベベルギア25のドッグ25Aに噛み合って、ドッグクラッチ27がリバース位置に切り換えられ。これにより、ドライブシャフト21の駆動力が駆動ベベルギア22、後進用従動ベベルギア25及びドッグクラッチ27を経てプロペラシャフト23へ伝達され、プロペラ26が逆転して船体が後進する。
【0026】
更に、プッシュロッド37がシフトカム36のカム面35のニュートラル位置35Nに当接したときには、プッシュロッド37またはクラッチスプリング38の作用で、ドッグクラッチ27のドッグ27Aが前進用従動ベベルギア24のドッグ24A及び後進用従動ベベルギア25のドッグ25Aのいずれにも噛み合わなくなり、ドッグクラッチ27がニュートラル位置に切り換えられる。これにより、ドライブシャフト21の駆動力はプロペラシャフト23及びプロペラ26へ伝達されず、プロペラ26は船体の推進を停止する。
【0027】
ところで、前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25は、図4に示すように、プロペラシャフト23が挿入される軸孔41を有する軸部42に傘部43が一体に設けられ、この傘部43に複数の歯44が、周方向に所定間隔で形成されている。これらの複数の歯44は、歯形がストレート形状の直歯型に構成され、基準ピッチ円錐45の母線Nが、従動ベベルギア24、25の軸線Xに対して角度αだけ傾斜して設けられている。これらの前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25に噛み合う駆動ベベルギア22も、後述のクラウニング部46を除き、図3に示すように従動ベベルギア24及び25と略同様に構成されている。
【0028】
前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25は、駆動ベベルギア22よりも前記角度αが大きく設定されて鍛造成形されやすいため、精密鍛造工程にて製造される。また、駆動ベベルギア22は歯切り加工工程、または前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25と同様に精密鍛造工程にて製造される。
【0029】
更に、前進用従動ベベルギア24と後進用従動ベベルギア25は、図5に示すように、歯44の側面(一側面47Aと他側面47B)における歯筋方向の形状、即ち歯44の側面を歯筋方向の中間部で歯幅方向外方へ膨らませるクラウニング部46の形状が、異なる諸元(クラウニング部46無しも含む)に形成されている。本実施形態では、例えば前進用従動ベベルギア24の歯44のみにクラウニング部46が形成され、更にこのクラウニング部46は、前進用従動ベベルギア24における歯44の一側面47Aにのみ形成され、他側面47Bには形成されていない。歯44の一側面47Aにのみクラウニング部46を設けるのは、この一側面47Aのみが駆動ベベルギア22の歯44に当接するからである。
【0030】
図5における符号48は、歯44の基本歯形状である。前進用従動ベベルギア24の歯44における他側面47Bと、後進用従動ベベルギア25の歯44の一側面47A及び他側面47Bと、駆動ベベルギア22の歯44における一側面47A及び他側面47Bは、上記基本歯形状48で形成されている。
【0031】
また、前進用従動ベベルギア24の歯44における一側面47Aに形成されるクラウニング部46は、半径Rの単一の円弧で形成され、その円弧中心(クラウニング中心O)が前進用従動ベベルギア24の小径端44B側に片寄って設定されている。即ち、クラウニング中心Oを含み歯幅方向に平行な直線Mが、歯44の大径端44A、小径端44Bからの距離をそれぞれa、bとしたとき、a>bに設定される。尚、直線Mと、前進用従動ベベルギア24のギア中心P(即ち前記基準ピッチ円錐の頂点)との距離L(図4、図5)は、前進用従動ベベルギア24のギア中心Pを基準とした「クラウニング中心位置」として設定される。
【0032】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)〜(6)を奏する。
【0033】
(1)駆動ベベルギア22、前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25が直歯型のベベルギアにて構成されたので、スパイラルのグリーソン歯型の場合に比べ、ベベルギアの製造コストを低減できると共に、駆動ベベルギア22の歯44と従動ベベルギア24及び25の歯44との間に生ずる摩擦による動力損失が減少するので動力伝達効率を向上させることができる。
【0034】
(2)本第1実施形態の前進用従動ベベルギア24では、歯44の一側面47Aにクラウニング部46が設けられているため、以下の効果を有する。
【0035】
つまり、駆動ベベルギア22から前進用従動ベベルギア24、後進用従動ベベルギア25に駆動力を伝達する際、これらの前進用従動ベベルギア24、後進用従動ベベルギア25から駆動ベベルギア22に作用する駆動反力(駆動力の反力)は、駆動ベベルギア22の軸線Xに沿うスラスト方向分力の他、ラジアル方向分力となって駆動ベベルギア22に作用する。直歯型のベベルギアでは、グリーソン歯型のベベルギアに比べ上述のラジアル方向分力が大きいので、このラジアル方向分力によって駆動ベベルギア22は、前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25からラジアル方向に離間して位置ずれする。
【0036】
このとき、駆動ベベルギア22の歯44と前進用従動ベベルギア24、後進用従動ベベルギア25の歯44においては、小径端44B側の接触面積が少なくなって、歯44の全体の接触面積が減少し、このため特に大径端44A側の接触面圧が増大して、駆動ベベルギア22、前進用従動ベベルギア24、後進用従動ベベルギア25の耐久性が低下してしまう。
【0037】
そこで、本実施形態では、前進用従動ベベルギア24の歯44における一側面47Aにクラウニング部46を形成することによって、駆動ベベルギア22の歯44と前進用従動ベベルギア24の歯44との接触面積を増大させることができ、従って、これらの駆動ベベルギア22の歯44と前進用従動ベベルギア24の歯44との接触面圧を減少させることができる。この結果、駆動ベベルギア22と前進用従動ベベルギア24の耐久性を向上させることができる。
【0038】
これにより、駆動ベベルギア22の位置ずれを防止するために駆動ベベルギア22、前進用従動ベベルギア24及び後進用従動ベベルギア25を収容するギアケース15の剛性を高める必要がなく、従ってこのギアケース15を大型化する必要がない。
【0039】
(3)前進用従動ベベルギア24の歯44における一側面47Aに形成されるクラウニング部46は、クラウニング中心Oを歯44の小径端44B側に片寄らせて設定されている。これにより、前進用従動ベベルギア24の歯44における一側面47Aの大径端44A側を大きくクラウニングして、この一側面47Aにおける大径端44A側の接触面積を増大させることができる。この結果、この歯44の一側面47Aにおける大径端44A側の接触面圧を減少させることができ、前進用従動ベベルギア24の耐久性を向上させることができる。
【0040】
(4)本第1実施形態では、従動ベベルギア(特に前進用従動ベベルギア24)における歯44の側面(一側面47A)にクラウニング部46が形成されている。前進用従動ベベルギア24は、基準ピッチ円錐45の母線Nが軸線Xに対してなす角度αが、駆動ベベルギア22の場合に比べて大きく設定されているので鍛造成形し易い。しかも、前進用従動ベベルギア24を精密鍛造する場合には、歯型を容易に調整できるので、この前進用従動ベベルギア24の歯44の側面にクラウニング部46を形成し易く、このクラウニング部46を含めた歯型の成形精度を向上させることができる。
【0041】
(5)本第1実施形態では、前進用従動ベベルギア24と後進用従動ベベルギア25とで、歯44の側面における歯筋方向の形状が異なる諸元、つまり、前進用従動ベベルギア24の歯44の側面(一側面47A)にクラウニング部46が形成され、後進用従動ベベルギア25の歯44の側面がクラウニング部46のない基本歯形状48で形成されている。このため以下の効果を有する。
【0042】
つまり、船外機10の前進時と後進時における駆動力の伝達トルク(最大トルク)は、前進時が後進時よりも圧倒的に大きい。前進用従動ベベルギア24、後進用従動ベベルギア25と駆動ベベルギア22との歯44における接触面積の不均一(歯44の側面における小径端44B側の接触面積が減少する不均一)は、駆動反力(駆動力の反力)によって生ずる駆動ベベルギア22と前進用従動ベベルギア24、後進用従動ベベルギア25との相互の位置ずれによって発生するので、駆動力の伝達トルクが大きい程大きくなる。また、クラウニング部46は、歯44の基本歯形状48に対して歯厚を薄くすることになる。
【0043】
そこで、従動ベベルギアの歯44において、伝達トルクの小さな後進用従動ベベルギア25を、伝達トルクの大きな前進用従動ベベルギア24よりも歯厚の減少量が少ない基本歯形状48を有する側面に形成することで、従動ベベルギア24、25の全体的な歯強度の低下を防止できる。
【0044】
(6)前進用従動ベベルギア24は、歯44の一側面47Aのみが駆動ベベルギア22の歯44に接触するので、この一側面47Aにのみクラウニング部46が形成されている。このクラウニング部46は、歯44の歯厚を薄くすることになるので、前進用従動ベベルギア24において歯44の一側面47Aのみにクラウニング部46を設け、他側面47Bを基本歯形状48とすることで、この歯44の歯厚を良好に確保して前進用従動ベベルギア24の強度低下を防止できる。
【0045】
更に、前進用従動ベベルギア24の歯44における一側面47Aのみにクラウニング部46を設けることで、前進用従動ベベルギア24における歯44の加工工数を半減でき、前進用従動ベベルギア24の製造コストを低減できる。
【0046】
尚、本第1実施形態では、従動ベベルギア76の歯44における一側面77Aにクラウニング部46を形成するものを述べたが、後進用従動ベベルギア25の歯44において、駆動ベベルギア22の歯44に当接する一側面47Aにも、前進用従動ベベルギア24のクラウニング部46と同一または異なる諸元のクラウニング部46を設けてもよい。
【0047】
[B]第2実施形態(図6〜図10)
図6は、本発明に係る船外機の動力伝達装置における第2実施形態が適用された電動モータ駆動の船外機を示す縦断面図である。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同様な部分は、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0048】
図6に示す船外機50は最上部に箱状のモータカバー52を有し、その内部に形成されたモータルーム53に、原動機としての可逆回転可能な電動モータ51が収納される。モータカバー52は例えば上下に分割可能に形成され、例えば船外機50に固定されるロアモータカバー55と、このロアモータカバー55に上方から着脱自在に覆い被さるアッパーモータカバー56とから構成される。
【0049】
ロアモータカバー55の前下部(図6における左側)からは操舵ハンドル57が前方(図6における左方)に向かって延び、その先端に電動モータ51の出力調整用のスロットルグリップ58が設けられる。また、操舵ハンドル57には電動モータ51の正・逆転を切り替えるシフトスイッチ59が設置されている。
【0050】
ロアモータカバー55の下部にはエクステンションケース60が下方に向かって延設され、このエクステンションケース60の下部にギアケース61が設けられる。このギアケース61の内部にはプロペラシャフト62が軸支され、その後端にプロペラ63が設けられる。
【0051】
モータルーム53内において、エクステンションケース60の上部に一体または一体的に形成されたモータマウント64に電動モータ51が、その出力軸65を略鉛直方向に向けて縦置き(バーティカル)に設けられ、例えばボルト66によって固定される。
【0052】
この船外機50は、電動モータ51により駆動されるドライブシャフト68と、このドライブシャフト68によりベベルギア機構69を介して駆動される前記プロペラシャフト62とを備えた動力伝達装置70を有する。
【0053】
つまり、エクステンションケース60内には、電動モータ51の出力軸65の下端にカップリング67を介して連結されたドライブシャフト68が下方に向かって延びる。このドライブシャフト68の下端は、ベベルギア機構69を介してプロペラシャフト62に連結される。電動モータ51の出力、すなわち出力軸65の回転(正転、逆転)は、ドライブシャフト68及びベベルギア機構69を経てプロペラシャフト62に伝達され、プロペラ63を回転(正転、逆転)させる。プロペラ63の正転時に船体が前進し、逆転時に船体が後進する。
【0054】
モータルーム53内には電動モータ51の他に、この電動モータ51に電力を供給する例えば充電式のバッテリ71と、電動モータ51の回転数等を制御する制御ユニット72とが配置される。更に、アッパーモータカバー56の前面に、バッテリ71の残量等を示す表示パネル73が設けられ、この表示パネル73にメイン電源スイッチ74が設置される。
【0055】
前記ベベルギア機構69は、図7に示すように、ドライブシャフト68の下端に固定して装着された駆動ベベルギア75と、プロペラシャフト62に固定して装着されて駆動ベベルギア75に常時噛み合う従動ベベルギア76とを有してなる。これらの駆動ベベルギア75及び従動ベベルギア76は、前記第1実施形態と同様に、歯44の歯形がストレート形状に形成された直歯型に構成されている。そして、図9に示すように、基準ピッチ円錐45の母線Nと軸線Xとの角度αが大きな従動ベベルギア76が精密鍛造工程にて製造され、図8に示す駆動ベベルギア75は歯切り加工工程、または従動ベベルギア76と同様な精密鍛造工程にて製造される。尚、駆動ベベルギア75も、後述のクラウニング部46を除き、図8に示すように従動ベベルギア76と略同様に構成されている。
【0056】
更に、図10に示すように、精密鍛造工程で製造される従動ベベルギア76の歯44における一側面77A(前進側側面)と他側面77B(後進側側面)に、異なる諸元のクラウニング部46が形成されている。つまり、従動ベベルギア76の歯44における一側面77Aは、電動モータ51の正転時に駆動ベベルギア75の歯44の前進側側面に当接し、他側面77Bは、電動モータ51の逆転時に駆動ベベルギア75の歯44の後進側側面に当接する。そこで、従動ベベルギア76の歯44において、後進時の伝達トルクの小さな駆動力が作用する他側面77Bには、前進時の伝達トルクの大きな駆動力が作用する一側面77Aよりも歯厚の減少量が少なくなる諸元のクラウニング部46が形成されている。
【0057】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(7)〜(11)を奏する。
【0058】
(7)駆動ベベルギア75及び従動ベベルギア76が直歯型のベベルギアにて構成されたので、スパイラルのグリーソン歯型の場合に比べ、ベベルギアの製造コストを低減できると共に、駆動ベベルギア75の歯44と従動ベベルギア76の歯44との間に生ずる摩擦による動力損失が減少するので動力伝達効率を向上させることができる。
【0059】
(8)本第2実施形態では、従動ベベルギア76における歯44の一側面77A及び他側面77Bにクラウニング部46が設けられているため、以下の効果を有する。
【0060】
つまり、駆動ベベルギア75から従動ベベルギア76に駆動力を伝達する際、従動ベベルギア76から駆動ベベルギア75に作用する駆動反力(駆動力の反力)は、駆動ベベルギア75の軸線Xに沿うスラスト方向分力の他、ラジアル方向分力となって駆動ベベルギア75に作用する。直歯型のベベルギアでは、グリーソン歯型のベベルギアに比べ上述のラジアル方向分力が大きいので、このラジアル方向分力によって駆動ベベルギア75は、従動ベベルギア76からラジアル方向に離間して位置ずれする。
【0061】
このとき、駆動ベベルギア75の歯44と従動ベベルギア76の歯44においては、小径端44B側の接触面積が少なくなって、歯44の全体の接触面積が減少し、このため特に大径端44A側の接触面圧が増大して、駆動ベベルギア75及び従動ベベルギア76の耐久性が低下してしまう。
【0062】
そこで、本第2実施形態では、従動ベベルギア76の歯44における一側面77A及び他側面77Bにクラウニング部46を形成することによって、駆動ベベルギア75の歯44と従動ベベルギア76の歯44との接触面積を増大させることができ、従って、これらの駆動ベベルギア75の歯44と従動ベベルギア76の歯44との接触面圧を減少させることができる。この結果、駆動ベベルギア75と従動ベベルギア76の耐久性を向上させることができる。
【0063】
これにより、駆動ベベルギア75の位置ずれを防止するために駆動ベベルギア75及び従動ベベルギア76を収容するギアケース61の剛性を高める必要がなく、従って、このギアケース61を大型化する必要がない。
【0064】
(9)従動ベベルギア76の歯44における一側面77A及び他側面77Bに形成されるクラウニング部46は、クラウニング中心Oを歯44の小径端44B側に片寄らせて設定されている。これにより、従動ベベルギア76の歯44における一側面77A及び他側面77Bの大径端44A側を大きくクラウニングして、これらの一側面77A及び他側面77Bにおけるそれぞれの大径端44A側の接触面積を増大させることができる。この結果、この歯44の一側面77A及び他側面77Bにおけるそれぞれの大径端44A側の接触面圧を減少させることができ、従動ベベルギア76の耐久性を向上させることができる。
【0065】
(10)本第2実施形態では、従動ベベルギア76における歯44の側面(一側面77A及び他側面77B)にクラウニング部46が形成されている。従動ベベルギア76は、基準ピッチ円錐45の母線Nが軸線Xに対してなす角度αが、駆動ベベルギア75の場合に比べて大きく設定されているので鍛造成形し易い。しかも、従動ベベルギア76を精密鍛造する場合には、歯型を容易に調整できるので、この従動ベベルギア76の歯44の一側面77A及び他側面77Bにクラウニング部46を形成し易く、このクラウニング部46を含めた歯型の成形精度を向上させることができる。
【0066】
(11)本第2実施形態では、従動ベベルギア76の歯44において、一側面77Aと他側面77Bとで異なる諸元のクラウニング部46が形成されている。このため、以下の効果を有する。
【0067】
つまり、船外機50の前進時と後進時における駆動力の伝達トルク(最大トルク)は、前進時が後進時よりも圧倒的に大きい。従動ベベルギア76と駆動ベベルギア75との歯接触面積の不均一(歯44の一側面77A、他側面77Bにおける小径端44B側の接触面積が減少する不均一)は、駆動反力(駆動力の反力)によって生ずる駆動ベベルギア75と従動ベベルギア76の相互のラジアル方向の位置ずれによって発生するので、駆動力の伝達トルクが大きい程大きくなる。また、クラウニング部46は、歯44の基本歯形状48に対して歯厚を薄くすることになる。
【0068】
そこで、従動ベベルギア76の歯44において、伝達トルクの小さな他側面77B(後進用側面)に、伝達トルクの大きな一側面77A(前進用側面)よりも歯厚の減少量が少ない諸元のクラウニング部46を形成することで、従動ベベルギア76の歯強度の低下を極力を防止することができる。
【0069】
尚、本第2実施形態では、従動ベベルギア76の歯44における一側面77A及び他側面77Bにクラウニング部46を形成するものを述べたが、従動ベベルギア76の歯44における一側面77Aのみにクラウニング部46を形成し、他側面77Bを基本歯形状48に形成してもよい。後進時には前進時に比べて駆動力の伝達トルクが低いので、従動ベベルギア76の歯44における他側面77Bと駆動ベベルギア75の歯44との間で、小径端44B側の接触面積が減少するという接触面積の不均一が発生しにくい。例えこの不均一が生じたとしても、後進の使用頻度が少ないので、従動ベベルギア76の耐久性が著しく低下することがないからである。
【0070】
また、本第2実施形態では、従動ベベルギア76にクラウニング部46を設けることに加え、駆動ベベルギア75の歯44における前進側側面及び後進側側面に異なる諸元のクラウニング部46が、または駆動ベベルギア75の歯44における前進側側面のみにクラウニング部46が、それぞれ形成されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 船外機
11 エンジン(原動機)
21 ドライブシャフト
22 駆動ベベルギア
23 プロペラシャフト
24 前進用従動ベベルギア
25 後進用従動ベベルギア
27 ドッグクラッチ(クラッチ機構)
28 ベベルギア機構
30 動力伝達装置
44A 大径端
44B 小径端
46 クラウニング部
47A 一側面
47B 他側面
50 船外機
51 電動モータ(原動機)
59 シフトスイッチ
62 プロペラシャフト
68 ドライブシャフト
69 ベベルギア機構
70 動力伝達装置
75 駆動ベベルギア
76 従動ベベルギア
77A 一側面
77B 他側面
O クラウニング中心
R 半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動されるドライブシャフトと、このドライブシャフトによりベベルギア機構を介して駆動されるプロペラシャフトとを備えた船外機の動力伝達装置において、
前記ベベルギア機構が、前記ドライブシャフトに装着された駆動ベベルギアと、前記プロペラシャフトに装着されて前記駆動ベベルギアに噛み合う従動ベベルギアとを有し、
前記駆動ベベルギア及び前記従動ベベルギアが直歯型のベベルギアにて構成されたことを特徴とする船外機の動力伝達装置。
【請求項2】
前記ベベルギアは、歯の少なくとも一側面が、歯筋方向の中間部を歯幅方向外方に膨らませるクラウニング部を有して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の船外機の動力伝達装置。
【請求項3】
前記クラウニング部は単一の円弧で形成され、円弧中心をベベルギアの小径端側に片寄らせて構成されたことを特徴とする請求項2に記載の船外機の動力伝達装置。
【請求項4】
前記クラウニング部が、従動ベベルギアにのみ形成されたことを特徴とする請求項2に記載の船外機の動力伝達装置。
【請求項5】
前記従動ベベルギアは、歯の一側面と他側面とでクラウニング部の諸元を異ならせて構成されたことを特徴とする請求項4に記載の船外機の動力伝達装置。
【請求項6】
前記クラウニング部は、従動ベベルギアの歯における一側面のみに形成されたことを特徴とする請求項4に記載の船外機の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172838(P2012−172838A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38904(P2011−38904)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】