船外機の潤滑構造
【課題】潤滑油の流れをスムーズにできるとともに、傘歯車機構の噛合部の潤滑を十分に行なうことができる船外機の潤滑構造を提供する。
【解決手段】前進用従動傘歯車18の回転に伴う遠心力を利用して前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部に潤滑油cを供給する潤滑油供給系50を備える。
【解決手段】前進用従動傘歯車18の回転に伴う遠心力を利用して前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部に潤滑油cを供給する潤滑油供給系50を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸とを備えた船外機に関し、詳細には傘歯車機構の噛合部の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶等に搭載される船外機は、エンジンの回転力をドライブ軸から傘歯車機構を介してプロペラ軸に伝達することにより推進力を発生させるようになっている。
【0003】
この種の船外機において、上記ドライブ軸,傘歯車機構及びプロペラ軸を収容保持するロワケースは、航走中の水の抵抗を直接受けることから、該ロワケースの船幅寸法をできるだけ小さくすることが要求されており、従って上記傘歯車機構等の配設スペースは限られたものとなる。
【0004】
このようなロワケース内の限られたスペース内に配置された傘歯車機構の噛合部や各軸受部の寿命をできるだけ延長するために潤滑油を循環させることにより冷却するようにしている。この循環系では、ロワケース内に形成された傘歯車機構収容室,ドライブ軸収容室,及びシフト軸収容室の間で潤滑油を循環させるのが一般的である。
【0005】
ところが、上記シフト軸収容室と傘歯車機構収容室との境界部には傘歯車機構の前進用傘歯車が配置されていることから、潤滑油が流れ難く、停滞するおそれがあり、循環がスムースに行なわれない場合がある。このため、特許文献1では、前進用傘歯車に、シフト軸収容室と傘歯車機構収容室とを連通するオイル通路を形成している。
【特許文献1】特開平5−321992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来構造のように、前進用傘歯車にシフト軸収容室と傘歯車機構収容室とを連通するオイル通路を形成しただけでは、潤滑油の流れはスムーズに行なわれるものの、傘歯車機構の噛合部の潤滑が不十分となっている。このため、噛合部の潤滑油温度が上昇し易く、場合によっては噛合部が磨耗して傘歯車の寿命が短くなるという懸念がある。特に、上記従来公報では、前,後進用傘歯車のオイル通路を通った潤滑油は傘歯車機構の噛合部を迂回する経路となっており、噛合部の歯面間に潤滑膜が形成され難い構造となっている。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、潤滑油の流れをスムーズにできるとともに、傘歯車機構の噛合部の潤滑を十分に行なうことができる船外機の潤滑構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸とを備えた船外機の潤滑構造において、上記傘歯車機構は、上記ドライブ軸に装着された駆動傘歯車と、上記プロペラ軸に装着され、上記駆動傘歯車に噛合する前進用従動傘歯車及び後進用従動傘歯車とを有し、上記前,後進用従動傘歯車の回転に伴う遠心力を利用して少なくとも何れか一方の従動傘歯車と上記駆動傘歯車との噛合部に、該一方の従動傘歯車に形成されたオイル導入通路を介して潤滑油を供給する潤滑油供給系を備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延びて歯面近傍に開口していることを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延び、さらに径方向に延びて歯底面に開口していることを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2又は3において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口は、上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から歯面側にいくほど回転軸線に対して外側に傾斜するように形成されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口には、パイプ部材が反歯面側に突出するように挿入されていることを特徴としている。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6において、上記パイプ部材の突出部は、該突出部の開口が上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る潤滑構造によれば、前,後進用従動傘歯車の遠心力を利用して傘歯車機構の噛合部に潤滑油を供給するようにしたので、潤滑油が、傘歯車の遠心力により傘歯車機構の噛合部に強制的に供給される。これにより噛合部の潤滑油温度が下がり、歯面間に潤滑膜が確実に形成されることとなる。その結果、噛合部の磨耗を抑制でき、傘歯車の寿命を延長できる。
【0016】
請求項2の発明では、従動傘歯車に、反歯面側端部から軸方向に延びて歯面近傍に開口するオイル導入通路を形成したので、従動傘歯車が、潤滑油をオイル導入通路を介して噛合部に移送する遠心ポンプとして機能することとなり、潤滑油の流れ及び噛合部の潤滑を確実に行なうことができる。
【0017】
請求項3の発明では、従動傘歯車に、反歯面側端部から軸方向に延び、さらに径方向に延びて歯底面に開口するオイル導入通路を形成したので、上記従動傘歯車が、潤滑油をオイル導入通路を介して噛合部に移送する遠心ポンプとして機能するため、潤滑油を歯底面に直接供給することができ、上記噛合部の潤滑をより確実に行なうことができる。
【0018】
請求項4の発明では、オイル導入通路の反歯面側端部の開口を、従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成したので、従動傘歯車の回転に伴う遠心力によって上記開口からの潤滑油の取り込みが促進されることとなり、潤滑油の流れ及び噛合部の潤滑性をより一層高めることができる。
【0019】
請求項5の発明では、従動傘歯車に、反歯面側端部から歯面側にいくほど回転軸線に対して外側に傾斜するオイル導入通路を形成したので、従動傘歯車の回転に伴う遠心力によって、オイル導入通路内を流れる潤滑油の流速が速くなり、潤滑油の流れ及び噛合部の潤滑をより確実に行なうことができる。
【0020】
請求項6の発明では、オイル導入通路の反歯面側端部の開口にパイプ部材を反歯面側に突出するように挿入したので、従動傘歯車の遠心力によるパイプ部材からの潤滑油の取り込みが促進されることとなる。
【0021】
請求項7の発明では、パイプ部材の突出部を従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成したので、上記潤滑油の取り込みをより一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1ないし図5は、本発明の第1実施形態による船外機の潤滑構造を説明するための図であり、図1は船体に搭載された船外機の側面図、図2は船外機の推進装置の断面図、図3は推進装置の潤滑部の断面図、図4,図5は従動傘歯車の正面図,断面側面図である。なお、本実施形態でいう前後,左右とは、船体の後方から見たときの前後,左右を意味している。
【0024】
図において、1は船体2の船尾2aに搭載された船外機を示している。この船外機1は、上記船尾2aに固定されたクランプブラケット3によりスイベルアーム4を介して上下に揺動可能に支持され、かつピボット軸5を介して左右に操舵可能に支持されている。
【0025】
上記船外機1は、推進装置6が収容されたロワケース7の上面にアッパケース8を結合し、該アッパケース8の上面にエンジン10を搭載するとともに、該エンジン10の外周部を囲むようにカウリング11を装着した概略構造を有している。このエンジン10は、水上走行時にクランク軸10aが略垂直をなすよう縦置きに配置されている。
【0026】
上記推進装置6は、上記クランク軸10aに同軸をなすよう連結され、該エンジン10により回転駆動されるドライブ軸12と、該ドライブ軸12に直交するよう略水平方向に向けて配置され、上記ドライブ軸12により傘歯車機構13を介して回転駆動されるプロペラ軸14と、該プロペラ軸14及びドライブ軸12を収容保持する上記ロワケース7と、上記プロペラ軸14の該ロワケース12から後方に突出する突出部14aに装着されたプロペラ15とを備えている。
【0027】
上記傘歯車機構13は、上記ドライブ軸12の傘歯車機構装着部である下端部12aに共に回転するよう装着された駆動傘歯車17と、該駆動傘歯車17に常時噛合し、上記プロペラ軸14の傘歯車機構装着部である前端部14bに相対回転可能に装着された前進傘歯車18及び後進傘歯車19とを有している。
【0028】
上記前進傘歯車18は、まがり歯傘歯車構造を有し、図4,図5に示すように、上記プロペラ軸14が挿入された軸穴18aを有する軸部18bに傘部18cを形成し、該傘部18cに多数のまがり歯18dを周方向に所定間隔をあけて形成した構造のものである。
【0029】
上記各まがり歯18dは、該まがり歯18dの内端部18d′から外端部18d′′に行くほど回転方向Aの前進側に位置する曲線をなすよう延び、従って隣合うまがり歯18d,18dのピッチは内径側ピッチW2から外径側ピッチW1に行くほど大きくなるよう形成されている。なお、上記駆動傘歯車17,後進傘歯車19は、前進傘歯車18に対応したまがり歯傘歯車構造を有している。
【0030】
上記傘歯車機構13は前後進切替機構20を備えている。この前後進切替機構20は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に配置され、該プロペラ軸14に軸方向に移動可能にかつ共に回転するようスプライン嵌合されたドッグクラッチ21と、上記プロペラ軸14の前端部14bに軸方向に摺動自在に挿入されたシフトスリーブ22と、該シフトスリーブ22にシフトカム23を介して連結されシフト軸24と、該シフト軸24に連結され、上記船体2側に配置されたシフトレバー(不図示)とを備えている。上記シフトスリーブ22はピン25により上記ドッグクラッチ21に連結されている。該ピン25は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に形成されたピン穴14e内に配置されている。
【0031】
上記ドッグクラッチ21は、前,後進傘歯車18,19の何れにも噛合しないニュートラル位置と、前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する前後進クラッチイン位置との間で移動可能となっている。
【0032】
シフトレバーをニュートラル位置から前後進クラッチイン位置の何れかに切り換え操作を行なうと、シフト軸24が回動し、該シフト軸24の回動をシフトカム23がシフトスリーブ22の前後方向移動に変換させ、該ドッグクチック21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する。これによりドライブ軸12の回転力がプロペラ軸14に伝達される。
【0033】
上記ロワケース7は、ドライブ軸12と直交する断面視で略砲弾形をなすよう形成されている。該ロワケース7の前後方向略中央部には、上下方向に延び、かつ上方に開口するドライブ軸収容室7aが形成され、該ドライブ軸収容室7a内に上記ドライブ軸12が収容配置されている。
【0034】
上記ドライブ軸収容室7aの下端部には、前後方向に延び、かつ後方に開口する傘歯車機構収容室7bが形成され、該傘歯車機構収容室7b内に上記傘歯車機構13が収容配置されている。
【0035】
上記ドライブ軸収容室7aの上端開口部には、該収容室7aとの間を油密にシールする円筒状のベアリングハウジング30が挿着されている。該ハウジング30には、上記ドライブ軸12との間を油密にシールする上下一対のシール材31,31が配置されている。
【0036】
上記ドライブ軸12のロワケース7内における上端部12bは、ニードル軸受32を介して上記ハウジング30により軸支されており、下端部12aは、上記ドライブ軸収容室7aの下端開口部に配置されたニードル軸受33により軸支されている。
【0037】
上記傘歯車機構収容室7bの前端部には、前進傘歯車18を軸支する円錐ころ軸受35が配置され、後端開口部には、後述するギヤハウジング36を介して後進傘歯車19を軸支する玉軸受37が配置されている。
【0038】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの前側には、シフト室収容室7cが該ドライブ軸収容室7aと平行に延びるよう形成され、該シフト軸収容室7c内に上記シフト軸24が収容配置されている。該シフト軸収容室7cの下端部開口は上記傘歯車機構収容室7bの前端部に連通している。
【0039】
上記シフト軸収容室7cと傘歯車機構収容室7bとを連通する連通部7iに、上記前進傘歯車18及び円錐ころ軸受35が該連通部7iを略閉塞するように配置されている。上記シフト軸収容室7cの上端開口部には、シフト軸24との間を油密にシールするシール部材38が挿着されている。
【0040】
上記シフト軸収容室7cの前側には、冷却水吸込通路7dが該シフト軸収容室7cと平行に延びるよう形成されており、該冷却水吸込通路7dには、ロワケース7の左,右側壁部に形成された吸込口7gから冷却水が流入するようになっている。
【0041】
上記ロワケース7には、ドライブ軸収容室7aの外周部を囲む冷却水ジャケット7hが形成されており、該冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水によりドライブ軸収容室7a内の潤滑油が冷却される。また上記シフト軸収容室7c内の潤滑油は冷却水吸込通路7d及び冷却水ジャケット7hを流れる冷却水により冷却される。
【0042】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの後側には、排気ガス排出通路7eが形成されており、該排気ガス排出通路7eとドライブ軸収容室7aとの間に上記冷却水ジャケット7hが配置されている。該排出通路7eはロワケース7の後端面に形成された排出口7fに連通している。上記エンジン10からの排気ガスはアッパケース8内を通って上記排気ガス排出通路7eを介して排出口7fから水中に排出される。
【0043】
上記ロワケース7の傘歯車機構収容室7b内には、上記排気ガス排出通路7e内を通るよう配置された上述のギヤハウジング36が挿入されている。このギヤギヤハウジング36により排気ガス排出通路7eと傘歯車機構収容室7bとは画成されている。
【0044】
上記ギヤハウジング36は、プロペラ軸収容穴36aが形成された筒体部36bと、該筒体部36bの前端部に続いて外方に膨出形成された碗状の大径部36cと、上記筒体部36bの後端部に軸直角方向外方に放射状に延びるよう形成された複数のリブ36dと、該各リブ36dの外周面同士を連結する環状のフランジ部36eとを有している。
【0045】
上記フランジ部36eは、後方から挿入された複数のボルト40により上記ロワケース7の排出口7fの周縁部に固定されている。排気ガスは、排出口7fの各リブ36dの間から水中に排出される。
【0046】
上記大径部36cの外周面は、上記傘歯車機構収容室7bの後端開口部に油密に装着されており、該大径部36cの内周面に上記玉軸受37が装着されている。
【0047】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36a内に上記プロペラ軸14が挿入配置されている。該プロペラ軸14の前端部14bは、上記前,後進傘歯車18,19の軸穴18a,19aを挿通しており、該前進傘歯車18の軸穴18aに配置されたメタル軸受42を介して相対回転自在に支持されている。プロペラ軸12と後進傘歯車19の軸穴19aとの間には隙間が形成されている。
【0048】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aの後端部には、上記プロペラ軸12との間を油密にシールする前後一対のシール材44,44が配置されている。
【0049】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aのシール材44の前側には、上記プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43が配置されている。
【0050】
上記推進装置6は、ロワケース7内に充填された潤滑油を循環させるオイル循環系47を備えている。このオイル循環系47により、潤滑油がドライブ軸収容室7a,傘歯車機構収容室7b,シフト軸収容室7c,及びプロペラ軸収容穴36a内を循環するようになっている。該潤滑油の油面は、ドライブ軸収容室7a内の上側のニードル軸受32部分に位置しており、該油面はシフト軸収容室7c内においても同じ高さ位置となっている。
【0051】
上記オイル循環系47は、潤滑油aをドライブ軸12の駆動傘歯車17の装着部から上,下のニードル軸受32,33を経て前後進切換機構20を通るよう循環させるドライブ軸循環系48と、潤滑油bをプロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の装着部14bから該プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43を通るよう循環させるプロペラ軸循環系49を有する。さらにまた図3に示すように、潤滑油cを上記前進傘歯車18の回転に伴う遠心力を利用して該前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合面に供給する潤滑油供給系50が備えられている。
【0052】
上記ドライブ軸循環系48は、上記ドライブ軸12とロワケース7のドライブ軸収容室7aとの隙間に形成された軸方向に延びるオイル通路48aと、ドライブ軸12の軸方向中央部とドライブ軸収容室7aの内周壁とで形成されたねじポンプ部48bと、上記オイル通路48aの上端部のニードル軸受32部分とシフト軸収容室7cとを連通する戻り通路48cとを有している。
【0053】
上記ねじポンプ部48bは、ドライブ軸12の外周面に形成された上向き反時計回りに延びる螺旋溝12cと、ドライブ軸収容室7aの内周壁との間に僅かな隙間を設けることにより形成されたものであり、これによりオイル通路48a内の潤滑油を加圧して上方に移送するようになっている。
【0054】
上記ドライブ軸12が回転すると、ねじポンプ部48bが潤滑油を加圧しつつオイル通路48a内を上方に移送する。該オイル通路48aを上昇した潤滑油aは、ニードル軸受32を潤滑し、ここから戻り通路48cを通ってシフト軸収容室7c内に流入し、前後進切換機構20の各摺動部及び円錐ころ軸受35を潤滑した後、傘歯車機構収容室7b内に戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油aは、上記ねじポンプ部48bにより傘歯車機構13の噛合部及び下側のニードル軸受33を潤滑しつつ上方に移送される。
【0055】
上記ドライブ軸収容室7a,シフト軸収容室7c内を流れる潤滑油aは、冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水により冷却される。
【0056】
上記プロペラ軸循環系49は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の前端部14bから上記ニードル軸受43の近傍まで軸方向に延び、さらに直径方向に延びてニードル軸受43の近傍に開口するオイル通路49cと、上記プロペラ軸14とギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aとの隙間に形成された戻り通路49dとを有している。
【0057】
シフトレバーの切り換え操作によりドッククラッチ21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合するとプロペラ軸14が回転し、該プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの開口から潤滑油bが噴出し、該噴出した潤滑油bは、ニードル軸受43を潤滑し、ここから戻り通路49dを通って玉軸受37,傘歯車機構13の噛合部を潤滑し、傘歯車機構収容室7bに戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油bは、プロペラ軸14の回転によりオイル通路49c内に流入することとなる。
【0058】
上記潤滑油供給系50は、上記前進傘歯車18の軸部18bに、周方向に所定間隔をあけて形成されたオイル導入通路50aにより構成されている。この各オイル導入通路50aは、上記前進傘歯車18の回転軸線Cと平行に延びている。該オイル導入通路50aの流入口50bは、上記前進傘歯車18の反歯面側端面18eに開口しており、流出口50cは、歯面側端面18fに開口している。
【0059】
上記歯面側端面18fは、上記回転軸線Cに対して直角の垂直面をなすよう形成されている。また上記反歯面側端面18eは、回転軸線Cに対して内側にテーパ面をなすよう形成されており、該テーパ面に上記流入口50bが開口している。これにより流入口50bは前進傘歯車18の回転方向Aに略対向している。
【0060】
上記シフト軸収容室7c内の潤滑油aが、前進傘歯車18の回転に伴う遠心力により、オイル導入通路50aの流入口50bから取り入れられ、該取り入れられた潤滑油cはオイル導入通路50aを通って流出口50cから歯18dに向って流出する。この場合、各オイル導入通路50aから流出した潤滑油cは傘部18cの各歯18dに指向するよう放射状に噴出することとなる。該噴出した潤滑油cは前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部に供給され、該噛合部を通ってオイル通路48a側に流れる。
【0061】
本実施形態によれば、前進傘歯車18に、反歯面側端面18eから回転軸線Cと平行に延びて歯面側端面18fに開口するオイル導入通路50aを形成し、潤滑油cを上記前進傘歯車18の遠心力を利用して前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部に供給するようにしたので、潤滑油cを、シフト軸収容室7cから傘歯車機構収容室7b側にスムースに流入させることができ、かつ前進傘歯車18のと駆動傘歯車17との噛合部に供給することができる。これにより前進傘歯車18の噛合部の潤滑油温度が下がり、各歯18d面に潤滑膜が形成されることとなる。その結果、傘歯車機構13の磨耗を抑制でき、寿命を延長できる。
【0062】
ここで、上記オイル導入通路50aを、流出口50c側ほど回転軸Cから離れるように傾斜させても良い。このようにすれば遠心力により潤滑油をより確実に上記噛合部に供給することができる。
【0063】
本実施形態では、潤滑油供給系50を構成するオイル導入通路50aを前進傘歯車18の軸部18bに形成したので、該前進傘歯車18がオイル導入通路50a内に潤滑油cを取り込む遠心ポンプとして機能することとなり、潤滑油cの流れ及び噛合部の潤滑を確実に行なうことができる。
【0064】
本実施形態では、上記オイル導入通路50aの流入口50bを、前進傘歯車18の回転方向Aと略対向するようにテーパ状に形成したので、前進傘歯車18の回転に伴う遠心力により、流入口50bからの潤滑油cの取り込みが促進されることとなり、潤滑油cの流れ及び傘歯車機構13の噛合部の潤滑をより一層高めることができる。
【0065】
なお、上記実施形態では、オイル導入通路50aを前進傘歯車18側に設けたが場合を説明したが、本発明のオイル導入通路は、後進傘歯車側に設けてもよく、また前,後進傘歯車の両方に設けてもよい。
【0066】
図6は、上記第1実施形態の変形例を説明するための図である。図中、図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0067】
本実施形態の潤滑油供給系50は、前進傘歯車18の軸部18bに、周方向に所定間隔をあけて形成されたオイル導入通路50aにより構成されている。
【0068】
上記各オイル導入通路50aは、上記前進傘歯車18の軸部18bの反歯面側端面18eから回転軸線Cと平行に延びる軸穴50dと、該軸穴50dの先端部から径方向に延びる軸交差穴50eとから構成されている。この軸交差穴50eは傘部18cの隣り合う歯18d,18d間の底面に開口している。
【0069】
本実施形態によれば、前進傘歯車18に形成されたオイル導入通路50aを、反歯面側端面18eから回転軸線方向に延びる軸穴50dと、該軸穴50dから径方向に延びて歯底面に開口する軸交差穴50eとから構成したので、上記遠心ポンプとして機能する前進傘歯車18により、潤滑油cを歯18dの底面に直接供給することができ、前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部の潤滑をより確実に行なうことができる。
【0070】
なお、上記軸穴50dを、流出口側ほど回転軸Cから離れるよう傾斜させても良く、このようにすれば、遠心力により潤滑油をより確実に噛合部に供給することができる。
【0071】
図7ないし図11は、本発明の第2実施形態による船外機の潤滑構造を説明するための図であり、図7は船外機のロワケースの側面図、図8〜図11は傘歯車機構の前進傘歯車の正面図,背面図,断面図,要部断面図である。図中、図3〜図5と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0072】
本実施形態のオイル循環系47は、図7に示すように、潤滑油aをドライブ軸12の駆動傘歯車17の装着部12aと、上,下のニードル軸受32,33と、前後進切換機構20との間で循環させるドライブ軸循環系48と、潤滑油bをプロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の装着部14bと、該プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43との間で循環させるプロペラ軸循環系49と、潤滑油cを前,後進傘歯車18,19の回転に伴う遠心力を利用して該前,後進傘歯車18,19と駆動傘歯車17との噛合面に供給する潤滑油供給系51とを備えており、基本的な構造は第1実施形態と略同様である。
【0073】
本実施形態の潤滑油供給系51は、前,後進傘歯車18,19にそれぞれ周方向に所定間隔をあけて形成されたオイル導入通路51a,51bにより構成されている。
【0074】
上記前進傘歯車18の各オイル導入通路51aは、該前進傘歯車18の反歯面側端面18eから歯面側端面18fにいくほど回転軸線Cに対して外側に位置するよう傾斜させ(図10(a))、かつ回転方向A上流側に位置するよう傾斜させて(図10(b))形成されている。
【0075】
上記オイル導入通路51aの流入口51cは反歯面側端面18eに開口しており、流出口51dは歯面側端面18fに開口している。これにより流出口51dは、上記流入口51cに対して半径方向外側に偏位し、かつ回転方向上流側に偏位した位置に位置している。
【0076】
上記後進傘歯車19のオイル導入通路51bは、該後進傘歯車19の回転軸線に対して概ね60度の角度をなすよう起立させて形成されている。該オイル導入通路51bの流入口51eは軸穴19aに開口しており、流出口51fは歯底面に開口している(図7参照)。
【0077】
本実施形態によれば、前進傘歯車18に、反歯面側端面18eから歯面側端面18fにいくほど回転軸線Cに対して外側に傾斜するオイル導入通路51aを形成したので、前進傘歯車18の回転によるオイル導入通路51aの流出口51d側の回転速度は流入口51c側より高くなり、従って流出口51d側の遠心力も流入口51c側より大きくなる。これによりオイル導入通路51a内を流れる潤滑油cの流速は流出口51d側ほど速くなり、潤滑油cの流れ及び前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部の潤滑をより一層高めることができる。
【0078】
また後進傘歯車19に上記同様に外側に傾斜するオイル導入通路51bを形成し、該オイル導入通路51bの流出口51fを歯底面に開口させたので、流速の速い潤滑油cを後進傘歯車19と駆動傘歯車17との噛合部に直接供給することができる。
【0079】
図12及び図13は、本発明の第3実施形態による船外機の潤滑構造を説明するための図である。図中、図10,図11と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0080】
本実施形態のオイル導入通路51aは、前進傘歯車18の反歯面側端面18eから歯面側端面18fにいくほど回転軸線Cに対して外側に傾斜するように形成されており、基本的な構造は第2実施形態と同様である。
【0081】
そして上記オイル導入通路51aの反歯面側端面18eに開口する流入口51cには、パイプ部材52が反歯面側端面18eから前方に突出するよう挿入されている。該パイプ部材52の突出部52aは、前進傘歯車18の前端面18′より後側に位置している。
【0082】
本実施形態では、オイル導入通路51aの流入口51c側にパイプ部材52を反歯面側端面18eから前方に突出するように挿入したので、前進傘歯車18の回転に伴う遠心力による潤滑油cの取り込みが促進されることとなる。
【0083】
図14は、上記第3実施形態の第1変形例を示している。
【0084】
この第1変形例では、パイプ部材52の突出部52aは、これの開口52bが前進傘歯車18の回転方向に対向するように内側に屈曲されている。このように開口52bを回転方向に対向させたので、パイプ部材52による潤滑油cの取り込みをより一層確実にすることができる。
【0085】
図15は、上記第3実施形態の第2変形例を示している。
【0086】
この第2変形例は、オイル導入通路51aの流入口51c側及び流出口51d側にそれぞれパイプ部材52,53を挿入した例である。そして流入口側のパイプ部材52の突出部52aは、これの開口52bが前進傘歯車18の回転方向に対向するように内側に屈曲され、流出側のパイプ部材53の突出部52aは、これの開口52bが前進傘歯車18の回転方向に沿うように屈曲されている。本変形例では、潤滑油の取り込み及び吐き出しの両方とも確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態による船外機の側面図である。
【図2】上記船外機の推進装置の断面図である。
【図3】上記推進装置の傘歯車機構潤滑部の断面図である。
【図4】上記傘歯車機構の前進傘歯車の歯面側から見た図である。
【図5】上記前進傘歯車の断面図である。
【図6】上記第1実施形態の変形例を示す傘歯車機構潤滑部の断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による推進装置が収容されたロワケースの側面図である。
【図8】上記推進装置の前進傘歯車の歯面側から見た図である。
【図9】上記前進傘歯車の反歯面側から見た図である。
【図10】上記前進傘歯車の断面図である。
【図11】上記前進傘歯車のオイル導入通路の要部断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による前進傘歯車の断面図である。
【図13】上記前進傘歯車のオイル導入通路の要部断面図である。
【図14】上記第3実施形態の第1変形例を示す前進傘歯車の断面図である。
【図15】上記第3実施形態の第2変形例を示す前進傘歯車の断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 船外機
10 エンジン
12 ドライブ軸
13 傘歯車機構
14 プロペラ軸
17 駆動傘歯車
18 前進傘歯車
19 後進傘歯車
50,51 潤滑油供給系
50a,51a,51b オイル導入通路
50b,51a 流入口(反歯面側開口)
50c,51d 流出口(歯面側開口)
52,53 パイプ部材
52a,53a 突出部
52b,53b 開口
A 前進傘歯車の回転方向
C 回転軸線
c 潤滑油
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸とを備えた船外機に関し、詳細には傘歯車機構の噛合部の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶等に搭載される船外機は、エンジンの回転力をドライブ軸から傘歯車機構を介してプロペラ軸に伝達することにより推進力を発生させるようになっている。
【0003】
この種の船外機において、上記ドライブ軸,傘歯車機構及びプロペラ軸を収容保持するロワケースは、航走中の水の抵抗を直接受けることから、該ロワケースの船幅寸法をできるだけ小さくすることが要求されており、従って上記傘歯車機構等の配設スペースは限られたものとなる。
【0004】
このようなロワケース内の限られたスペース内に配置された傘歯車機構の噛合部や各軸受部の寿命をできるだけ延長するために潤滑油を循環させることにより冷却するようにしている。この循環系では、ロワケース内に形成された傘歯車機構収容室,ドライブ軸収容室,及びシフト軸収容室の間で潤滑油を循環させるのが一般的である。
【0005】
ところが、上記シフト軸収容室と傘歯車機構収容室との境界部には傘歯車機構の前進用傘歯車が配置されていることから、潤滑油が流れ難く、停滞するおそれがあり、循環がスムースに行なわれない場合がある。このため、特許文献1では、前進用傘歯車に、シフト軸収容室と傘歯車機構収容室とを連通するオイル通路を形成している。
【特許文献1】特開平5−321992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来構造のように、前進用傘歯車にシフト軸収容室と傘歯車機構収容室とを連通するオイル通路を形成しただけでは、潤滑油の流れはスムーズに行なわれるものの、傘歯車機構の噛合部の潤滑が不十分となっている。このため、噛合部の潤滑油温度が上昇し易く、場合によっては噛合部が磨耗して傘歯車の寿命が短くなるという懸念がある。特に、上記従来公報では、前,後進用傘歯車のオイル通路を通った潤滑油は傘歯車機構の噛合部を迂回する経路となっており、噛合部の歯面間に潤滑膜が形成され難い構造となっている。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、潤滑油の流れをスムーズにできるとともに、傘歯車機構の噛合部の潤滑を十分に行なうことができる船外機の潤滑構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸とを備えた船外機の潤滑構造において、上記傘歯車機構は、上記ドライブ軸に装着された駆動傘歯車と、上記プロペラ軸に装着され、上記駆動傘歯車に噛合する前進用従動傘歯車及び後進用従動傘歯車とを有し、上記前,後進用従動傘歯車の回転に伴う遠心力を利用して少なくとも何れか一方の従動傘歯車と上記駆動傘歯車との噛合部に、該一方の従動傘歯車に形成されたオイル導入通路を介して潤滑油を供給する潤滑油供給系を備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延びて歯面近傍に開口していることを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延び、さらに径方向に延びて歯底面に開口していることを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項2又は3において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口は、上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から歯面側にいくほど回転軸線に対して外側に傾斜するように形成されていることを特徴としている。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口には、パイプ部材が反歯面側に突出するように挿入されていることを特徴としている。
【0014】
請求項7の発明は、請求項6において、上記パイプ部材の突出部は、該突出部の開口が上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る潤滑構造によれば、前,後進用従動傘歯車の遠心力を利用して傘歯車機構の噛合部に潤滑油を供給するようにしたので、潤滑油が、傘歯車の遠心力により傘歯車機構の噛合部に強制的に供給される。これにより噛合部の潤滑油温度が下がり、歯面間に潤滑膜が確実に形成されることとなる。その結果、噛合部の磨耗を抑制でき、傘歯車の寿命を延長できる。
【0016】
請求項2の発明では、従動傘歯車に、反歯面側端部から軸方向に延びて歯面近傍に開口するオイル導入通路を形成したので、従動傘歯車が、潤滑油をオイル導入通路を介して噛合部に移送する遠心ポンプとして機能することとなり、潤滑油の流れ及び噛合部の潤滑を確実に行なうことができる。
【0017】
請求項3の発明では、従動傘歯車に、反歯面側端部から軸方向に延び、さらに径方向に延びて歯底面に開口するオイル導入通路を形成したので、上記従動傘歯車が、潤滑油をオイル導入通路を介して噛合部に移送する遠心ポンプとして機能するため、潤滑油を歯底面に直接供給することができ、上記噛合部の潤滑をより確実に行なうことができる。
【0018】
請求項4の発明では、オイル導入通路の反歯面側端部の開口を、従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成したので、従動傘歯車の回転に伴う遠心力によって上記開口からの潤滑油の取り込みが促進されることとなり、潤滑油の流れ及び噛合部の潤滑性をより一層高めることができる。
【0019】
請求項5の発明では、従動傘歯車に、反歯面側端部から歯面側にいくほど回転軸線に対して外側に傾斜するオイル導入通路を形成したので、従動傘歯車の回転に伴う遠心力によって、オイル導入通路内を流れる潤滑油の流速が速くなり、潤滑油の流れ及び噛合部の潤滑をより確実に行なうことができる。
【0020】
請求項6の発明では、オイル導入通路の反歯面側端部の開口にパイプ部材を反歯面側に突出するように挿入したので、従動傘歯車の遠心力によるパイプ部材からの潤滑油の取り込みが促進されることとなる。
【0021】
請求項7の発明では、パイプ部材の突出部を従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成したので、上記潤滑油の取り込みをより一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1ないし図5は、本発明の第1実施形態による船外機の潤滑構造を説明するための図であり、図1は船体に搭載された船外機の側面図、図2は船外機の推進装置の断面図、図3は推進装置の潤滑部の断面図、図4,図5は従動傘歯車の正面図,断面側面図である。なお、本実施形態でいう前後,左右とは、船体の後方から見たときの前後,左右を意味している。
【0024】
図において、1は船体2の船尾2aに搭載された船外機を示している。この船外機1は、上記船尾2aに固定されたクランプブラケット3によりスイベルアーム4を介して上下に揺動可能に支持され、かつピボット軸5を介して左右に操舵可能に支持されている。
【0025】
上記船外機1は、推進装置6が収容されたロワケース7の上面にアッパケース8を結合し、該アッパケース8の上面にエンジン10を搭載するとともに、該エンジン10の外周部を囲むようにカウリング11を装着した概略構造を有している。このエンジン10は、水上走行時にクランク軸10aが略垂直をなすよう縦置きに配置されている。
【0026】
上記推進装置6は、上記クランク軸10aに同軸をなすよう連結され、該エンジン10により回転駆動されるドライブ軸12と、該ドライブ軸12に直交するよう略水平方向に向けて配置され、上記ドライブ軸12により傘歯車機構13を介して回転駆動されるプロペラ軸14と、該プロペラ軸14及びドライブ軸12を収容保持する上記ロワケース7と、上記プロペラ軸14の該ロワケース12から後方に突出する突出部14aに装着されたプロペラ15とを備えている。
【0027】
上記傘歯車機構13は、上記ドライブ軸12の傘歯車機構装着部である下端部12aに共に回転するよう装着された駆動傘歯車17と、該駆動傘歯車17に常時噛合し、上記プロペラ軸14の傘歯車機構装着部である前端部14bに相対回転可能に装着された前進傘歯車18及び後進傘歯車19とを有している。
【0028】
上記前進傘歯車18は、まがり歯傘歯車構造を有し、図4,図5に示すように、上記プロペラ軸14が挿入された軸穴18aを有する軸部18bに傘部18cを形成し、該傘部18cに多数のまがり歯18dを周方向に所定間隔をあけて形成した構造のものである。
【0029】
上記各まがり歯18dは、該まがり歯18dの内端部18d′から外端部18d′′に行くほど回転方向Aの前進側に位置する曲線をなすよう延び、従って隣合うまがり歯18d,18dのピッチは内径側ピッチW2から外径側ピッチW1に行くほど大きくなるよう形成されている。なお、上記駆動傘歯車17,後進傘歯車19は、前進傘歯車18に対応したまがり歯傘歯車構造を有している。
【0030】
上記傘歯車機構13は前後進切替機構20を備えている。この前後進切替機構20は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に配置され、該プロペラ軸14に軸方向に移動可能にかつ共に回転するようスプライン嵌合されたドッグクラッチ21と、上記プロペラ軸14の前端部14bに軸方向に摺動自在に挿入されたシフトスリーブ22と、該シフトスリーブ22にシフトカム23を介して連結されシフト軸24と、該シフト軸24に連結され、上記船体2側に配置されたシフトレバー(不図示)とを備えている。上記シフトスリーブ22はピン25により上記ドッグクラッチ21に連結されている。該ピン25は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に形成されたピン穴14e内に配置されている。
【0031】
上記ドッグクラッチ21は、前,後進傘歯車18,19の何れにも噛合しないニュートラル位置と、前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する前後進クラッチイン位置との間で移動可能となっている。
【0032】
シフトレバーをニュートラル位置から前後進クラッチイン位置の何れかに切り換え操作を行なうと、シフト軸24が回動し、該シフト軸24の回動をシフトカム23がシフトスリーブ22の前後方向移動に変換させ、該ドッグクチック21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する。これによりドライブ軸12の回転力がプロペラ軸14に伝達される。
【0033】
上記ロワケース7は、ドライブ軸12と直交する断面視で略砲弾形をなすよう形成されている。該ロワケース7の前後方向略中央部には、上下方向に延び、かつ上方に開口するドライブ軸収容室7aが形成され、該ドライブ軸収容室7a内に上記ドライブ軸12が収容配置されている。
【0034】
上記ドライブ軸収容室7aの下端部には、前後方向に延び、かつ後方に開口する傘歯車機構収容室7bが形成され、該傘歯車機構収容室7b内に上記傘歯車機構13が収容配置されている。
【0035】
上記ドライブ軸収容室7aの上端開口部には、該収容室7aとの間を油密にシールする円筒状のベアリングハウジング30が挿着されている。該ハウジング30には、上記ドライブ軸12との間を油密にシールする上下一対のシール材31,31が配置されている。
【0036】
上記ドライブ軸12のロワケース7内における上端部12bは、ニードル軸受32を介して上記ハウジング30により軸支されており、下端部12aは、上記ドライブ軸収容室7aの下端開口部に配置されたニードル軸受33により軸支されている。
【0037】
上記傘歯車機構収容室7bの前端部には、前進傘歯車18を軸支する円錐ころ軸受35が配置され、後端開口部には、後述するギヤハウジング36を介して後進傘歯車19を軸支する玉軸受37が配置されている。
【0038】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの前側には、シフト室収容室7cが該ドライブ軸収容室7aと平行に延びるよう形成され、該シフト軸収容室7c内に上記シフト軸24が収容配置されている。該シフト軸収容室7cの下端部開口は上記傘歯車機構収容室7bの前端部に連通している。
【0039】
上記シフト軸収容室7cと傘歯車機構収容室7bとを連通する連通部7iに、上記前進傘歯車18及び円錐ころ軸受35が該連通部7iを略閉塞するように配置されている。上記シフト軸収容室7cの上端開口部には、シフト軸24との間を油密にシールするシール部材38が挿着されている。
【0040】
上記シフト軸収容室7cの前側には、冷却水吸込通路7dが該シフト軸収容室7cと平行に延びるよう形成されており、該冷却水吸込通路7dには、ロワケース7の左,右側壁部に形成された吸込口7gから冷却水が流入するようになっている。
【0041】
上記ロワケース7には、ドライブ軸収容室7aの外周部を囲む冷却水ジャケット7hが形成されており、該冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水によりドライブ軸収容室7a内の潤滑油が冷却される。また上記シフト軸収容室7c内の潤滑油は冷却水吸込通路7d及び冷却水ジャケット7hを流れる冷却水により冷却される。
【0042】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの後側には、排気ガス排出通路7eが形成されており、該排気ガス排出通路7eとドライブ軸収容室7aとの間に上記冷却水ジャケット7hが配置されている。該排出通路7eはロワケース7の後端面に形成された排出口7fに連通している。上記エンジン10からの排気ガスはアッパケース8内を通って上記排気ガス排出通路7eを介して排出口7fから水中に排出される。
【0043】
上記ロワケース7の傘歯車機構収容室7b内には、上記排気ガス排出通路7e内を通るよう配置された上述のギヤハウジング36が挿入されている。このギヤギヤハウジング36により排気ガス排出通路7eと傘歯車機構収容室7bとは画成されている。
【0044】
上記ギヤハウジング36は、プロペラ軸収容穴36aが形成された筒体部36bと、該筒体部36bの前端部に続いて外方に膨出形成された碗状の大径部36cと、上記筒体部36bの後端部に軸直角方向外方に放射状に延びるよう形成された複数のリブ36dと、該各リブ36dの外周面同士を連結する環状のフランジ部36eとを有している。
【0045】
上記フランジ部36eは、後方から挿入された複数のボルト40により上記ロワケース7の排出口7fの周縁部に固定されている。排気ガスは、排出口7fの各リブ36dの間から水中に排出される。
【0046】
上記大径部36cの外周面は、上記傘歯車機構収容室7bの後端開口部に油密に装着されており、該大径部36cの内周面に上記玉軸受37が装着されている。
【0047】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36a内に上記プロペラ軸14が挿入配置されている。該プロペラ軸14の前端部14bは、上記前,後進傘歯車18,19の軸穴18a,19aを挿通しており、該前進傘歯車18の軸穴18aに配置されたメタル軸受42を介して相対回転自在に支持されている。プロペラ軸12と後進傘歯車19の軸穴19aとの間には隙間が形成されている。
【0048】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aの後端部には、上記プロペラ軸12との間を油密にシールする前後一対のシール材44,44が配置されている。
【0049】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aのシール材44の前側には、上記プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43が配置されている。
【0050】
上記推進装置6は、ロワケース7内に充填された潤滑油を循環させるオイル循環系47を備えている。このオイル循環系47により、潤滑油がドライブ軸収容室7a,傘歯車機構収容室7b,シフト軸収容室7c,及びプロペラ軸収容穴36a内を循環するようになっている。該潤滑油の油面は、ドライブ軸収容室7a内の上側のニードル軸受32部分に位置しており、該油面はシフト軸収容室7c内においても同じ高さ位置となっている。
【0051】
上記オイル循環系47は、潤滑油aをドライブ軸12の駆動傘歯車17の装着部から上,下のニードル軸受32,33を経て前後進切換機構20を通るよう循環させるドライブ軸循環系48と、潤滑油bをプロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の装着部14bから該プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43を通るよう循環させるプロペラ軸循環系49を有する。さらにまた図3に示すように、潤滑油cを上記前進傘歯車18の回転に伴う遠心力を利用して該前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合面に供給する潤滑油供給系50が備えられている。
【0052】
上記ドライブ軸循環系48は、上記ドライブ軸12とロワケース7のドライブ軸収容室7aとの隙間に形成された軸方向に延びるオイル通路48aと、ドライブ軸12の軸方向中央部とドライブ軸収容室7aの内周壁とで形成されたねじポンプ部48bと、上記オイル通路48aの上端部のニードル軸受32部分とシフト軸収容室7cとを連通する戻り通路48cとを有している。
【0053】
上記ねじポンプ部48bは、ドライブ軸12の外周面に形成された上向き反時計回りに延びる螺旋溝12cと、ドライブ軸収容室7aの内周壁との間に僅かな隙間を設けることにより形成されたものであり、これによりオイル通路48a内の潤滑油を加圧して上方に移送するようになっている。
【0054】
上記ドライブ軸12が回転すると、ねじポンプ部48bが潤滑油を加圧しつつオイル通路48a内を上方に移送する。該オイル通路48aを上昇した潤滑油aは、ニードル軸受32を潤滑し、ここから戻り通路48cを通ってシフト軸収容室7c内に流入し、前後進切換機構20の各摺動部及び円錐ころ軸受35を潤滑した後、傘歯車機構収容室7b内に戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油aは、上記ねじポンプ部48bにより傘歯車機構13の噛合部及び下側のニードル軸受33を潤滑しつつ上方に移送される。
【0055】
上記ドライブ軸収容室7a,シフト軸収容室7c内を流れる潤滑油aは、冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水により冷却される。
【0056】
上記プロペラ軸循環系49は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の前端部14bから上記ニードル軸受43の近傍まで軸方向に延び、さらに直径方向に延びてニードル軸受43の近傍に開口するオイル通路49cと、上記プロペラ軸14とギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aとの隙間に形成された戻り通路49dとを有している。
【0057】
シフトレバーの切り換え操作によりドッククラッチ21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合するとプロペラ軸14が回転し、該プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの開口から潤滑油bが噴出し、該噴出した潤滑油bは、ニードル軸受43を潤滑し、ここから戻り通路49dを通って玉軸受37,傘歯車機構13の噛合部を潤滑し、傘歯車機構収容室7bに戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油bは、プロペラ軸14の回転によりオイル通路49c内に流入することとなる。
【0058】
上記潤滑油供給系50は、上記前進傘歯車18の軸部18bに、周方向に所定間隔をあけて形成されたオイル導入通路50aにより構成されている。この各オイル導入通路50aは、上記前進傘歯車18の回転軸線Cと平行に延びている。該オイル導入通路50aの流入口50bは、上記前進傘歯車18の反歯面側端面18eに開口しており、流出口50cは、歯面側端面18fに開口している。
【0059】
上記歯面側端面18fは、上記回転軸線Cに対して直角の垂直面をなすよう形成されている。また上記反歯面側端面18eは、回転軸線Cに対して内側にテーパ面をなすよう形成されており、該テーパ面に上記流入口50bが開口している。これにより流入口50bは前進傘歯車18の回転方向Aに略対向している。
【0060】
上記シフト軸収容室7c内の潤滑油aが、前進傘歯車18の回転に伴う遠心力により、オイル導入通路50aの流入口50bから取り入れられ、該取り入れられた潤滑油cはオイル導入通路50aを通って流出口50cから歯18dに向って流出する。この場合、各オイル導入通路50aから流出した潤滑油cは傘部18cの各歯18dに指向するよう放射状に噴出することとなる。該噴出した潤滑油cは前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部に供給され、該噛合部を通ってオイル通路48a側に流れる。
【0061】
本実施形態によれば、前進傘歯車18に、反歯面側端面18eから回転軸線Cと平行に延びて歯面側端面18fに開口するオイル導入通路50aを形成し、潤滑油cを上記前進傘歯車18の遠心力を利用して前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部に供給するようにしたので、潤滑油cを、シフト軸収容室7cから傘歯車機構収容室7b側にスムースに流入させることができ、かつ前進傘歯車18のと駆動傘歯車17との噛合部に供給することができる。これにより前進傘歯車18の噛合部の潤滑油温度が下がり、各歯18d面に潤滑膜が形成されることとなる。その結果、傘歯車機構13の磨耗を抑制でき、寿命を延長できる。
【0062】
ここで、上記オイル導入通路50aを、流出口50c側ほど回転軸Cから離れるように傾斜させても良い。このようにすれば遠心力により潤滑油をより確実に上記噛合部に供給することができる。
【0063】
本実施形態では、潤滑油供給系50を構成するオイル導入通路50aを前進傘歯車18の軸部18bに形成したので、該前進傘歯車18がオイル導入通路50a内に潤滑油cを取り込む遠心ポンプとして機能することとなり、潤滑油cの流れ及び噛合部の潤滑を確実に行なうことができる。
【0064】
本実施形態では、上記オイル導入通路50aの流入口50bを、前進傘歯車18の回転方向Aと略対向するようにテーパ状に形成したので、前進傘歯車18の回転に伴う遠心力により、流入口50bからの潤滑油cの取り込みが促進されることとなり、潤滑油cの流れ及び傘歯車機構13の噛合部の潤滑をより一層高めることができる。
【0065】
なお、上記実施形態では、オイル導入通路50aを前進傘歯車18側に設けたが場合を説明したが、本発明のオイル導入通路は、後進傘歯車側に設けてもよく、また前,後進傘歯車の両方に設けてもよい。
【0066】
図6は、上記第1実施形態の変形例を説明するための図である。図中、図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0067】
本実施形態の潤滑油供給系50は、前進傘歯車18の軸部18bに、周方向に所定間隔をあけて形成されたオイル導入通路50aにより構成されている。
【0068】
上記各オイル導入通路50aは、上記前進傘歯車18の軸部18bの反歯面側端面18eから回転軸線Cと平行に延びる軸穴50dと、該軸穴50dの先端部から径方向に延びる軸交差穴50eとから構成されている。この軸交差穴50eは傘部18cの隣り合う歯18d,18d間の底面に開口している。
【0069】
本実施形態によれば、前進傘歯車18に形成されたオイル導入通路50aを、反歯面側端面18eから回転軸線方向に延びる軸穴50dと、該軸穴50dから径方向に延びて歯底面に開口する軸交差穴50eとから構成したので、上記遠心ポンプとして機能する前進傘歯車18により、潤滑油cを歯18dの底面に直接供給することができ、前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部の潤滑をより確実に行なうことができる。
【0070】
なお、上記軸穴50dを、流出口側ほど回転軸Cから離れるよう傾斜させても良く、このようにすれば、遠心力により潤滑油をより確実に噛合部に供給することができる。
【0071】
図7ないし図11は、本発明の第2実施形態による船外機の潤滑構造を説明するための図であり、図7は船外機のロワケースの側面図、図8〜図11は傘歯車機構の前進傘歯車の正面図,背面図,断面図,要部断面図である。図中、図3〜図5と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0072】
本実施形態のオイル循環系47は、図7に示すように、潤滑油aをドライブ軸12の駆動傘歯車17の装着部12aと、上,下のニードル軸受32,33と、前後進切換機構20との間で循環させるドライブ軸循環系48と、潤滑油bをプロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の装着部14bと、該プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43との間で循環させるプロペラ軸循環系49と、潤滑油cを前,後進傘歯車18,19の回転に伴う遠心力を利用して該前,後進傘歯車18,19と駆動傘歯車17との噛合面に供給する潤滑油供給系51とを備えており、基本的な構造は第1実施形態と略同様である。
【0073】
本実施形態の潤滑油供給系51は、前,後進傘歯車18,19にそれぞれ周方向に所定間隔をあけて形成されたオイル導入通路51a,51bにより構成されている。
【0074】
上記前進傘歯車18の各オイル導入通路51aは、該前進傘歯車18の反歯面側端面18eから歯面側端面18fにいくほど回転軸線Cに対して外側に位置するよう傾斜させ(図10(a))、かつ回転方向A上流側に位置するよう傾斜させて(図10(b))形成されている。
【0075】
上記オイル導入通路51aの流入口51cは反歯面側端面18eに開口しており、流出口51dは歯面側端面18fに開口している。これにより流出口51dは、上記流入口51cに対して半径方向外側に偏位し、かつ回転方向上流側に偏位した位置に位置している。
【0076】
上記後進傘歯車19のオイル導入通路51bは、該後進傘歯車19の回転軸線に対して概ね60度の角度をなすよう起立させて形成されている。該オイル導入通路51bの流入口51eは軸穴19aに開口しており、流出口51fは歯底面に開口している(図7参照)。
【0077】
本実施形態によれば、前進傘歯車18に、反歯面側端面18eから歯面側端面18fにいくほど回転軸線Cに対して外側に傾斜するオイル導入通路51aを形成したので、前進傘歯車18の回転によるオイル導入通路51aの流出口51d側の回転速度は流入口51c側より高くなり、従って流出口51d側の遠心力も流入口51c側より大きくなる。これによりオイル導入通路51a内を流れる潤滑油cの流速は流出口51d側ほど速くなり、潤滑油cの流れ及び前進傘歯車18と駆動傘歯車17との噛合部の潤滑をより一層高めることができる。
【0078】
また後進傘歯車19に上記同様に外側に傾斜するオイル導入通路51bを形成し、該オイル導入通路51bの流出口51fを歯底面に開口させたので、流速の速い潤滑油cを後進傘歯車19と駆動傘歯車17との噛合部に直接供給することができる。
【0079】
図12及び図13は、本発明の第3実施形態による船外機の潤滑構造を説明するための図である。図中、図10,図11と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0080】
本実施形態のオイル導入通路51aは、前進傘歯車18の反歯面側端面18eから歯面側端面18fにいくほど回転軸線Cに対して外側に傾斜するように形成されており、基本的な構造は第2実施形態と同様である。
【0081】
そして上記オイル導入通路51aの反歯面側端面18eに開口する流入口51cには、パイプ部材52が反歯面側端面18eから前方に突出するよう挿入されている。該パイプ部材52の突出部52aは、前進傘歯車18の前端面18′より後側に位置している。
【0082】
本実施形態では、オイル導入通路51aの流入口51c側にパイプ部材52を反歯面側端面18eから前方に突出するように挿入したので、前進傘歯車18の回転に伴う遠心力による潤滑油cの取り込みが促進されることとなる。
【0083】
図14は、上記第3実施形態の第1変形例を示している。
【0084】
この第1変形例では、パイプ部材52の突出部52aは、これの開口52bが前進傘歯車18の回転方向に対向するように内側に屈曲されている。このように開口52bを回転方向に対向させたので、パイプ部材52による潤滑油cの取り込みをより一層確実にすることができる。
【0085】
図15は、上記第3実施形態の第2変形例を示している。
【0086】
この第2変形例は、オイル導入通路51aの流入口51c側及び流出口51d側にそれぞれパイプ部材52,53を挿入した例である。そして流入口側のパイプ部材52の突出部52aは、これの開口52bが前進傘歯車18の回転方向に対向するように内側に屈曲され、流出側のパイプ部材53の突出部52aは、これの開口52bが前進傘歯車18の回転方向に沿うように屈曲されている。本変形例では、潤滑油の取り込み及び吐き出しの両方とも確実に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の第1実施形態による船外機の側面図である。
【図2】上記船外機の推進装置の断面図である。
【図3】上記推進装置の傘歯車機構潤滑部の断面図である。
【図4】上記傘歯車機構の前進傘歯車の歯面側から見た図である。
【図5】上記前進傘歯車の断面図である。
【図6】上記第1実施形態の変形例を示す傘歯車機構潤滑部の断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による推進装置が収容されたロワケースの側面図である。
【図8】上記推進装置の前進傘歯車の歯面側から見た図である。
【図9】上記前進傘歯車の反歯面側から見た図である。
【図10】上記前進傘歯車の断面図である。
【図11】上記前進傘歯車のオイル導入通路の要部断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態による前進傘歯車の断面図である。
【図13】上記前進傘歯車のオイル導入通路の要部断面図である。
【図14】上記第3実施形態の第1変形例を示す前進傘歯車の断面図である。
【図15】上記第3実施形態の第2変形例を示す前進傘歯車の断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 船外機
10 エンジン
12 ドライブ軸
13 傘歯車機構
14 プロペラ軸
17 駆動傘歯車
18 前進傘歯車
19 後進傘歯車
50,51 潤滑油供給系
50a,51a,51b オイル導入通路
50b,51a 流入口(反歯面側開口)
50c,51d 流出口(歯面側開口)
52,53 パイプ部材
52a,53a 突出部
52b,53b 開口
A 前進傘歯車の回転方向
C 回転軸線
c 潤滑油
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸とを備えた船外機の潤滑構造において、
上記傘歯車機構は、上記ドライブ軸に装着された駆動傘歯車と、上記プロペラ軸に装着され、上記駆動傘歯車に噛合する前進用従動傘歯車及び後進用従動傘歯車とを有し、
上記前,後進用従動傘歯車の回転に伴う遠心力を利用して少なくとも何れか一方の従動傘歯車と上記駆動傘歯車との噛合部に、該一方の従動傘歯車に形成されたオイル導入通路を介して潤滑油を供給する潤滑油供給系を備えたことを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項2】
請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延びて歯面近傍に開口していることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項3】
請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延び、さらに径方向に延びて歯底面に開口していることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項4】
請求項2又は3において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口は、上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項5】
請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から歯面側にいくほど回転軸線に対して外側に傾斜するように形成されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項6】
請求項5において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口には、パイプ部材が反歯面側に突出するように挿入されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項7】
請求項6において、上記パイプ部材の突出部は、該突出部の開口が上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項1】
エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸とを備えた船外機の潤滑構造において、
上記傘歯車機構は、上記ドライブ軸に装着された駆動傘歯車と、上記プロペラ軸に装着され、上記駆動傘歯車に噛合する前進用従動傘歯車及び後進用従動傘歯車とを有し、
上記前,後進用従動傘歯車の回転に伴う遠心力を利用して少なくとも何れか一方の従動傘歯車と上記駆動傘歯車との噛合部に、該一方の従動傘歯車に形成されたオイル導入通路を介して潤滑油を供給する潤滑油供給系を備えたことを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項2】
請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延びて歯面近傍に開口していることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項3】
請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から軸方向に延び、さらに径方向に延びて歯底面に開口していることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項4】
請求項2又は3において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口は、上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項5】
請求項1において、上記一方の従動傘歯車に形成された上記オイル導入通路は、該従動傘歯車の反歯面側端部から歯面側にいくほど回転軸線に対して外側に傾斜するように形成されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項6】
請求項5において、上記オイル導入通路の反歯面側端部の開口には、パイプ部材が反歯面側に突出するように挿入されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【請求項7】
請求項6において、上記パイプ部材の突出部は、該突出部の開口が上記従動傘歯車の回転方向に略対向するように形成されていることを特徴とする船外機の潤滑構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−25603(P2008−25603A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195404(P2006−195404)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】
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