説明

船外機

【課題】エンジンの潤滑用オイルをトルクコンバータの循環回路に適切に供給するようにして,オイルタンク及びポンプを増設することなく,循環回路内のオイルの冷却を図る。
【解決手段】ケーシング1内に,トルクコンバータTと,それを介してエンジンEのクランク軸17に連結される出力軸20と,オイルタンク22とを配設した船外機において,オイルタンク22内の貯留オイル23を吸い上げる第1オイルポンプ24と,その吐出オイルをエンジンEの潤滑部に誘導する第1供給油路51と,潤滑部からオイルをオイルタンク22に還流させる第1戻し油路59と,前記オイルタンク22の貯留オイル23を吸い上げる第2オイルポンプ41と,その吐出オイルをトルクコンバータT内の循環回路28に誘導する第2供給油路52と,循環回路28からオイルをオイルタンク22側に還流させる第2戻し油路54とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エンジンを上部に搭載したケーシング内に,トルクコンバータと,このトルクコンバータを介して前記エンジンのクランク軸に連結される出力軸と,この出力軸により駆動されるように,その下方に配置されるプロペラ軸とを配設してなり,前記ケーシング内に配設されるオイルタンク,このオイルタンク内の貯留オイルを吸い上げる第1オイルポンプと,この第1オイルポンプの吐出オイルをエンジンの潤滑部に誘導する第1供給油路と,前記潤滑部からオイルを前記オイルタンクに還流させる第1戻し油路とを備える,船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを上部に搭載したケーシング内に,トルクコンバータと,このトルクコンバータを介して前記エンジンのクランク軸に連結される出力軸と,この出力軸により駆動されるように,その下方に配置されるプロペラ軸とを配設してなる船外機は,特許文献1に開示されるように既に知られている。
【特許文献1】米国特許第3,407,600号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示される船外機では,トルクコンバータは,内部の循環回路を密閉式に構成しているので,その循環回路の作動オイルは冷却性が悪く,劣化し易い欠点がある。
【0004】
本発明は,かゝる点に鑑みてなされたもので,エンジンの潤滑部とオイルタンクとの間を循環する潤滑用オイルを,作動オイルとしてトルクコンバータの循環回路に適切に供給するようにして,オイルタンクを増設することなく,循環回路内のオイルの冷却を促進してその劣化を防ぐことができる船外機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために,本発明は,エンジンを上部に搭載したケーシング内に,トルクコンバータと,このトルクコンバータを介して前記エンジンのクランク軸に連結される出力軸と,この出力軸により駆動されるように,その下方に配置されるプロペラ軸とを配設してなり,前記ケーシング内に配設されるオイルタンク,このオイルタンク内の貯留オイルを吸い上げる第1オイルポンプと,この第1オイルポンプの吐出オイルをエンジンの潤滑部に誘導する第1供給油路と,前記潤滑部からオイルを前記オイルタンクに還流させる第1戻し油路とを備える,船外機であって,前記オイルタンク内の貯留オイルを吸い上げる第2オイルポンプと,この第2オイルポンプの吐出オイルを前記トルクコンバータ内の循環回路に誘導する第2供給油路と,前記循環回路からオイルを前記オイルタンクに還流させる第2戻し油路とを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば,エンジンの潤滑部とオイルタンクとの間を循環する潤滑用オイルをトルクコンバータの循環回路に,作動オイルとして供給するようにしたので,循環回路及びオイルポンプ間でもオイルが循環することになり,循環回路内のオイルの冷却を促進してその劣化を防ぐことができる。しかも,循環回路へのオイルの供給のために,オイルタンクを特別に増設する必要がないから,船外機の大型化及び構造の複雑化を避けることができる。さらに,エンジンの潤滑部及びトルクコンバータにオイルを供給するために,第1及び第2オイルポンプを個別に設けたので,第1及び第2オイルポンプの容量を,潤滑部及び循環回路に対応したものに設定することができ,オイルの過剰供給に伴なう動力損失を容易に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態を,図面に示す本発明の好適な実施例に基づき以下に説明する。
【0008】
図1は本発明の縦型パワーユニットを含む船外機の側面図,図2は図1の2部拡大断面図,図3は図2の要部拡大図,図4は図1の4部拡大断面図,図5はオイルポンプを含む油圧回路図である。
【0009】
図1において,船外機Oのケーシング1は,上部に水冷多気筒4ストローク式エンジンEを搭載し,プロペラ2を後端に備えるプロペラ軸3を下部で支える。このケーシング1の直前には,アッパアーム4及びロアアーム5を介してケーシング1に取り付けられる鉛直方向のスイベル軸6が配設され,このスイベル軸6を回転自在に支持するスイベルケース7は,船体のトランサムBtにクランプされるスターンブラケット8に水平方向のチルト軸9を介して連結される。したがって,ケーシング1は,スイベル軸6周りに左右操向が可能であり,またチルト軸9周りに上下チルトが可能である。符号EfはエンジンEを覆う着脱可能のエンジンフードである。
【0010】
図2,図3及び図4において,上記ケーシング1は,エクステンションケース10と,このエクステンションケース10の上端にボルト結合されるマウントケース11と,エクステンションケース10の下端にボルト結合されるギヤケース12とよりなり,またエクステンションケース10は,アッパケース10aと,これにボルト結合されるロアケース10bとで構成され,そのアッパケース10aの上端面にマウントケース11が複数のボルト163 で結合される。
【0011】
ケーシング1は,更に,マウントケース11の上端に,順次重ねられる環状の下部ディスタンス部材13,軸受ブラケット14及び環状の上部ディスタンス部材15を備える。そして上部ディスタンス部材15上にエンジンEが,そのクランク軸17を鉛直方向に向け且つシリンダブロック18を後方に向けて搭載される。このエンジンEのシリンダブロック18及びクランクケース19の底壁には,軸受ブラケット14及び上部ディスタンス部材15が複数のボルト161 により固着され,また下部ディスタンス部材13,軸受ブラケット14及び上部ディスタンス部材15は,複数のボルト162 により相互に固着される。エンジンEのシリンダヘッドには,動弁カム軸57により駆動される第1オイルポンプ24が取り付けられている。
【0012】
図2及び図3において,環状の上部ディスタンス部材15内には縦置きのトルクコンバータTが配置され,このトルクコンバータTを介してクランク軸17に連結される出力軸20がエクステンションケース10に縦置きに配置される。
【0013】
またギヤケース12には,後方外端にプロペラ2を付設する前記プロペラ軸3が水平に支持されると共に,このプロペラ軸3に前記出力軸20を連結する前後進切換ギヤ機構21が収容される。
【0014】
而して,エンジンEの作動中,その動力は,クランク軸17からトルクコンバータTを介して出力軸20に,更に前後進切換ギヤ機構21を介してプロペラ軸3に伝達され,プロペラ2を駆動する。その際,プロペラ2の回転方向は,前後進切換ギヤ機構21により切り換え制御される。
【0015】
エクステンションケース10内において,エクステンションケース10のアッパケース10aには,マウントケース11に向かって開口するオイルタンク22が一体に形成され,エンジンEの潤滑,並びにトルクコンバータTの作動に共通に供されるオイル23がこのオイルタンク22に貯留される。またアッパケース10aには,エンジンEの排気路の下流端部90が一体に形成される。
【0016】
図3に明示するように,前記トルクコンバータTは,ポンプインペラ25と,その上方でそれに対向して配置されるタービンランナ26と,それらの内周部間に配置されるステータ27と,これら三翼車25〜27間に画成される,作動オイルのための循環回路28とで構成される。これら三翼車25〜27は,共通の軸線がクランク軸17及び出力軸20と同様に鉛直方向に向くように配置される。
【0017】
ポンプインペラ25には,タービンランナ3の上面を覆う伝動カバー29が一体的に連設される。伝動カバー29の外周面には,始動用のリングギヤ30が固着され,このリングギヤ30には,クランク軸17の下端にボルト321 で固着される駆動板31がボルト322 で固着される。トルクコンバータTは,この駆動板31を介してクランク軸17に吊持されることになる。
【0018】
伝動カバー29の中心部には,クランク軸17の下端面中心部に開口する支持孔33に嵌合するカップ状の支持筒34が固着される。前記出力軸20は,上端部をこの支持筒34内まで延ばしており,その上端部は,軸受ブッシュ35を介して支持筒34内で支承され,この出力軸20にタービンランナ26のハブがスプライン結合される。この出力軸20の外周には,これにニードルベアリング36を介して支承される中空のステータ軸37が配置され,このステータ軸37とステータ27のハブとの間に公知のフリーホイール38が介装される。
【0019】
ステータ軸37の外周には,ポンプインペラ25に一体に連設されて下方に延びる中空のポンプ軸39が配置される。このポンプ軸39は,その外周側で上部ボールベアリング43を介して前記軸受ブラケット14に支承され,このポンプ軸39の下端部で駆動される第2オイルポンプ41が,軸受ブラケット14の下面に形成されるポンプハウジング40に装着され,この第2オイルポンプ41の下面を覆うポンプカバー42が軸受ブラケット14の下面にボルト結合される。また軸受ブラケット14の上端部には,ボールベアリング43の直上でポンプ軸39の外周面にリップを密接させるオイルシール45が装着される。
【0020】
ステータ軸37は,その下端部に拡径部37aを有しており,その拡径部37aの外周には,前記ポンプカバー42にボルト46で固着されるフランジ37bが一体に形成され,その内周には,出力軸20を支承する下部ボールベアリング44が装着される。
【0021】
而して,ポンプ軸39が上部ボールベアリング43を介して軸受ブラケット14に支承されると共に,出力軸20が下部ボールベアリング44を介してステータ軸37の拡径部37aに支承されることで,ポンプ軸39,ステータ軸37及び出力軸20の支持が合理的となり,トルクコンバータT及び出力軸20を含む縦型流体伝動装置のコンパクト化を図ることができる。
【0022】
また第2オイルポンプ41は,上部及び下部ボールベアリング43,44間のスペースを利用して軸受ブラケット14に取り付けられるので,第2オイルポンプ41付きの縦型流体伝動装置をコンパクトに構成することができる。
【0023】
ポンプインペラ25及びステータ27のハブ間には,スラストニードルベアリング47が介装され,またタービンランナ26のハブと伝動カバー29との間にもスラストニードルベアリング48が介装される。
【0024】
前記第1オイルポンプ24(図1参照)は,オイルタンク22内のオイルを汲み上げてエンジンEの潤滑部に供給するものであり,また前記第2オイルポンプ41は,同じくオイルタンク22内のオイルを汲み上げて,トルクコンバータTの循環回路28に供給するものであり,こゝで,これら第1及び第2オイルポンプ24,41の吐出オイルの経路について図5により説明する。
【0025】
単一のオイルタンク22から延出する吸入油路50は,第1及び第2分岐吸入油路50a,50bの二手に分かれており,これら第1及び第2分岐吸入油路50a,50bに第1及び第2オイルポンプ24,41がそれぞれ接続される。第1オイルポンプ24は,第1分岐吸入油路50aを通してオイルタンク22から吸い上げたオイルを第1供給油路51へ吐出する。第1供給油路51に吐出されたオイルは,第1供給油路51の途中に設けられるオイルフィルタ53で濾過された後,エンジンEの潤滑部に供給される。その潤滑後のオイルは,エンジンEのクランクケース19底部に流下し,そして第1戻し油路59を経てオイルタンク22へと還流する。
【0026】
一方,第2オイルポンプ41は,第2分岐吸入油路50bを通して同一のオイルタンク22から吸い上げたオイルを第2供給油路52に吐出し,そのオイルは作動オイルとしてトルクコンバータTの循環回路28に供給され,その循環回路28で仕事を終えたオイルは,第2戻し油路54を経て吸入油路50もしくはオイルタンク22に還流する。
【0027】
オイルフィルタ53より上流の第1供給油路51からは,吸入油路50に達するリリーフ油路55が分岐しており,このリリーフ油路55には,第1供給油路51の油圧が規定値以上になると開弁するリリーフ弁56が設けられる。
【0028】
第2戻し油路54には,常閉型の圧力応動弁58が設けられ,この圧力応動弁は第2第2戻し油路54の上流側の油圧が所定値以上になると開弁するようになっている。
【0029】
上記第1及び第2オイルポンプ24,41は,エンジンEの循環部及びトルクコンバータTの循環回路28の各要求特性に応じた容量に構成されるもので,図示例では,第2オイルポンプ41は,第1オイルポンプ24よりも小容量に構成される。
【0030】
再び,図2及び図3において,前記吸入油路50は,軸受ブラケット14に吊持されてオイルタンク22内に下端部を突入させる吸い上げ管50で構成され,第1分岐吸入油路50aは,上記吸い上げ管50に連通するように軸受ブラケット14に接続される導管50aで構成され,また第2分岐吸入管50bは,軸受ブラケット14に設けられて吸い上げ50aを第2オイルポンプ41の吸入ポート41aに連通する横方向油路50bで構成される。
【0031】
また前記第2供給油路52は,出力軸20の上端面に開口するように,その中心部に設けられる有底の縦孔52bと,ポンプカバー42,ステータ軸37及び出力軸20の三者の嵌合部を貫通するように設けられて第2オイルポンプ41の吐出ポート41bを縦孔52bの下部に連通する入口油路52aと,縦孔52bの上部を前記スラストニードルベアリング48周辺部を通しての伝動カバー29内に連通するように出力軸20に設けられる横孔52cとで構成される。
【0032】
また前記第2戻し油路54は,出力軸20及びステータ軸37間に画成されると共にポンプインペラ25のハブ上部のスラストニードルベアリング47の周辺部を通して循環回路28に連通する円筒状油路54aと,この円筒状油路54aの下端部に連通するようポンプカバー42に設けられる横方向の出口油路54bとを備え,この出口油路54bは,圧力応動弁58を介して横方向油路50bに連通される。
【0033】
圧力応動弁58は,ポンプカバー42に設けられる水平方向のシリンダ状弁室60と,この弁室60に摺動自在に嵌装されるピストン状の弁体61とを備え,弁室60の内端面に前記出口油路54bが開口し,弁室60の内側面には,横方向油路50bもしくはオイルタンク22に連なる弁孔62が開口する。弁体61は,その頂面即ち受圧面を出口油路54bに向けて配置され,出口油路54b側への前進時に弁孔62を閉鎖し,後退時に弁孔62を開放するようになっている。この弁体61を前進方向,即ち閉弁方向に所定のセット荷重で付勢する弁ばね63が弁体61の背面と,弁室60の開口に螺着されるねじ栓64との間に縮設される。したがって,弁体61は,通常,弁ばね63のセット荷重により閉弁位置に保持されることで,第2戻し油路54を遮断することになり,第2戻し油路54の上流側に油圧が発生し,それが所定値以上に上昇すると,その油圧を頂面に受けた弁体61が弁ばね63のセット荷重に抗して後退し,開弁することで,第2戻し油路54を導通状態にする。
【0034】
エンジンEのクランクケース19の底壁には,エンジンEの潤滑を終えたオイルを流出させる開口部66(図2参照)が設けられ,この開口部66は,上部ディスタンス部材15及び軸受ブラケット14の外周部に設けられる縦方向の一連の通孔67と,環状の下部ディスタンス部材13の内側部とを通してマウントケース11の上面に開放される。このマウントケース11には,オイルタンク22に向かって開口する開口部68が設けられる。したがってエンジンEの潤滑し終えてクランクケース19内の底部に流下したオイルは,開口部66,通孔67及び開口部68を経てオイルタンク22に還流することになる。上記開口66,通孔67及び開口68により前記第1戻し油路59が構成される。
【0035】
図3において,ステータ軸37の外周には,ポンプ軸39の内周面に相対回転可能に密接する第1シール部材701 が装着され,トルクコンバータT内のオイルが,ポンプ軸39下方へ流出することをを防ぐようになっている。
【0036】
また前記入口油路52aの下方でステータ軸37及びポンプカバー42の当接部に第2シール部材702 が介裝され,入口油路52aのオイルがステータ軸37及びポンプカバー42の当接部下方へ流出することをを防ぐようになっている。
【0037】
さらに出力軸20及びステータ軸37の嵌合部において,出力軸20の外周には,入口油路52aの上下に並んでステータ軸37の内周面に相対回転可能に密接する第3及び第4シール部材703 ,704 が装着され,これら第3及び第4シール部材703 ,704 は,協働して入口油路52aのオイルが,出力軸20及びステータ軸37の嵌合部外へ流出することを防ぎ,また上部の第3シール部材703 は,前記円筒状油路54aのオイルが,下方の出力軸20及びステータ軸37の嵌合部へ流出することを防ぐようになっている。
【0038】
図3〜図4に示すように,前記出力軸20は,前記縦孔52bを有して前記下部ボールベアリング44により支持される上部出力軸20aと,前記前後進切換ギヤ機構21(図1参照)に連結する下部出力軸20bとに分割され,その下部出力軸20bの上端部は,前記オイルタンク22外側に一体に形成される支持筒71にブッシュ72を介して支承される。上部出力軸20aには,ステータ軸37の拡径部37a内周に装着されるボールベアリング44のインナレースの上端面に当接するフランジ73を有しており,また上記ボールベアリング44のアウタレースの下端面を支承する止環74が拡径部37aの内周面に係止される。したがって,止環74を外さない限り,上部出力軸20aは,トルクコンバータT中心部から下方への抜け出しが阻止される。
【0039】
上部出力軸20aは,前記縦孔52bの他に,縦孔52bの下端に連なる栓孔76と,この栓孔76の下端に連なり上部出力軸20aの下端面に開口するスプライン孔77とが設けられ,栓孔76には,縦孔52bの底壁を構成する栓体78が螺着される。この栓体78には,栓孔76の内周面に密接する第5シール部材705 が装着される。
【0040】
尚,入口油路52aは,栓体78を避けてこれを形成することもできる。
【0041】
一方,下部出力軸20bの上端部にはスプライン軸80が形成され,これを前記スプライン孔77に嵌合することにより,上部及び下部出力軸20a,20bが相互に連結される。
【0042】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0043】
エンジンEの作動中,動弁カム軸57により駆動される第1オイルポンプ24は,前述のように第1分岐吸入油路50aを通してオイルタンク22内のオイル23を吸い上げ,第1供給油路51に吐出するので,そのオイルはエンジンEの潤滑部に供給される。その潤滑後のオイルは,エンジンEのクランクケース19底部に流下し,そして第1戻し油路59を経てオイルタンク22に還流する。
【0044】
一方,ポンプ軸39により駆動される第2オイルポンプ41は,前述のように同一のオイルタンク22内のオイル23を第2分岐吸入油路50bを通して吸い上げ,第2供給油路52に作動オイルとして吐出するので,その作動オイルは,入口油路52aを経て上部出力軸20aの縦孔52bを上り,横孔52cを出てスラストニードルベアリング48を潤滑しながら伝動カバー29内に移り,次いでタービンランナ26の外周側から循環回路28に流入する。
【0045】
循環回路28内のオイルは,ポンプインペラ25の回転に伴ない矢印のように循環回路28を循環し,これによりポンプインペラ25の回転トルクをタービンランナ26に伝達し,出力軸20を駆動する。このとき,ポンプインペラ25及びタービンランナ26間でトルクの増幅作用が生じていれば,それに伴う反力がステータ27に負担され,ステータ27は,フリーホイール38のロック作用により固定される。トルクコンバータTのこのようなトルク増幅作用によりプロペラ2を強力に駆動し得るので,船の発進及び加速性を効果的に高めることができる。
【0046】
トルク増幅作用を終えると,ステータ27は,これが受けるトルク方向の反転により,フリーホイール38を空転させながらポンプインペラ25及びタービンランナ26と共に同一方向へ回転するようになる。
【0047】
循環回路28で仕事を終えた作動オイルは,ポンプインペラ25のハブ上部のスラストニードルベアリング47を潤滑しながら円筒状油路54aを下り,出口油路54bから圧力応動弁58の弁室へと移る。
【0048】
弁室60に流入したオイルは,その圧力により圧力応動弁58の弁体61を,弁ばね63のセット荷重に抗して押圧するので,弁体61は開弁して弁孔62を開くので,上記オイルは弁室60から弁孔62を経て吸入油路50もしくはオイルタンク22に還流する。
【0049】
かくして,トルクコンバータTの循環回路28と,その下方に配置されるオイルタンク22との間で,第2供給油路52及び第2戻し油路54を通してオイルが循環するので,トルクコンバータTにはオイル溜めを設ける必要がなく,したがってトルクコンバータTのコンパクト化を図ることができると共に,循環回路28内のオイルの冷却を促進し,その劣化を防ぐことができる。
【0050】
特に,トルクコンバータTの下方に配置されるオイルタンク22は,エンジンEから離隔されることで,エンジンEによる加熱が少ないこと,エンジンE及びトルクコンバータTに干渉されることなく比較的大容量に構成することが可能で循環回路28へのオイル流量を多くし得ること等により,循環オイルの冷却を一層促進することができる。しかもエンジンE,トルクコンバータT及びオイルタンク22は,その順で上下に配置されること,トルクコンバータTを,オイルタンク22に干渉されることなくコンパクトに構成し得ること等により,これらを備える船外機Oのスリム化及び軽量化を図ることができる。
【0051】
また共通のオイルタンク22から第1及び第2オイルポンプ24,41が汲み上げたオイルがエンジンEの潤滑部とトルクコンバータTの循環回路28とにそれぞれ供給されるので,トルクコンバータTの循環回路28のための専用のオイルタンクを増設する必要がなく,船外機の大型化及び構造の複雑化を避けることができ,しかも第1及び第2オイルポンプ24,41の容量を,エンジンEの潤滑部及びトルクコンバータTの循環回路28の各要求特性に対応したものに設定することができ,オイルの過剰供給に伴なう動力損失を容易に防ぐことができる。
【0052】
ところで,長尺の出力軸20は,互いに抜き差し可能にスプライン結合される上部出力軸20a及び下部出力軸20bとに二分割され,上部出力軸20aは,ステータ軸37に,下部ボールベアリング44及び止環74を介して軸方向に連結されるので,トルクコンバータT,軸受ブラケット14,ポンプカバー42及び上部出力軸20aを縦型流体伝動装置として,下部出力軸20bに邪魔されることなく,コンパクトにユニット化することができ,縦型流体伝動装置の組立性,並び船外機Oへの装着性を良好にすることができる。
【0053】
また例えば前後進切換ギヤ機構21のメンテナンスのために,ギヤケース12をエクステンションケース10から分離する場合には,下部出力軸20bのスプライン軸80が上部出力軸20aのスプライン孔77から抜け出すことで,上部出力軸20aをトルクコンバータT側に残したまゝ,下部出力軸20bをギヤケース12と共に下方へ分離することができる。これにより前後進切換ギヤ機構21のメンテナンスを容易に行うことができるのみならず,縦型流体伝動装置の分解を回避できて,ギヤケース12の再組み付けを容易に行うことができる。
【0054】
しかも,縦型流体伝動装置に残る上部出力軸20aには,第2供給油路52の一部である縦孔52bの底壁,即ち栓体78が螺着されているので,下部出力軸20bの分離時でも,縦孔52bから上部出力軸20a下方へのオイルの流出を防ぐことができる。この場合,縦孔52bの底壁を上部出力軸20aに一体に形成することもできるが,栓体78を使用する場合には,縦孔52b,栓孔76及びスプライン孔77が上部出力軸20aを軸方向に貫通するように設けられるので,これら孔の加工後,洗浄により切粉の残留を確実に防ぐことができて有利である。
【0055】
またエンジンE及びトルクコンバータTをマウントケース11から取り外す場合も同様であり,したがって,それらのメンテナンスも容易に行うことができる。
【0056】
さらにエンジンEは,トルクコンバータTのポンプ軸39を支持する軸受ブラケット14と,この軸受ブラケット14の上端に連なってトルクコンバータTを囲繞する上部ディスタンス部材15と,軸受ブラケット14の下端に連なる下部ディスタンス部材13とを介してマウントケース11に取り付けられるので,トルクコンバータTに干渉されることなくエンジンEをマウントケース11に簡単に取り付けることができ,組立性が良好である。
【0057】
しかも第2オイルポンプ41は,軸受ブラケット14の下面に形成されるポンプハウジング40に装着され,ポンプカバー42が保持されるので,軸受ブラケット14は,トルクコンバータTの支持のみならず第2オイルポンプ41をも支持することになり,第2オイルポンプ41の支持構造の簡略化を図ることができる。
【0058】
エンジンEの運転が停止されると,第2オイルポンプ41の作動も停止するため,圧力応動弁58では,弁室60の圧力が低下し,弁体61は弁ばね63のセット荷重により閉弁する。これにより出口油路54bは遮断状態とされるので,トルクコンバータTの循環回路28からオイルタンク22へのオイル流出を防いで,循環回路28をオイルで満たした状態に保持することができる。したがってトルクコンバータTの作動応答性を高めることができる。
【0059】
また第2供給油路52の一部が,上部出力軸20aの中心部に形成されて上端部を前記循環回路28に連通させる縦孔52bで構成されることで,第2供給油路52の構成の簡素化を図ることができると共に,エンジンEの運転停止時には,この縦孔52bにより,循環回路28から第2オイルポンプ41へのオイルの逆流を防ぐことができる。
【0060】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,第1オイルポンプ24も,第2オイルポンプ41と同様にポンプ軸39により駆動されるように配置することもできる。また第1及び第2オイルポンプ24,41は,他の回転軸により駆動されるように配置することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の縦型パワーユニットを含む船外機の側面図。
【図2】図1の2部拡大断面図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】図1の4部拡大断面図。
【図5】オイルポンプを含む油圧回路図。
【符号の説明】
【0062】
E・・・・・・エンジン
O・・・・・・船外機
T・・・・・・トルクコンバータ
1・・・・・・ケーシング
3・・・・・・プロペラ軸
17・・・・・クランク軸
20・・・・・出力軸
22・・・・・オイルタンク
23・・・・・オイル
24・・・・・第1オイルポンプ
28・・・・・循環回路
41・・・・・第2オイルポンプ
51・・・・・第1供給油路
52・・・・・第2供給油路
54・・・・・第2戻し油路
59・・・・・第1戻し油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)を上部に搭載したケーシング(1)内に,トルクコンバータ(T)と,このトルクコンバータ(T)を介して前記エンジン(E)のクランク軸(17)に連結される出力軸(20)と,この出力軸(20)により駆動されるように,その下方に配置されるプロペラ軸(3)とを配設してなり,前記ケーシング(1)内に配設されるオイルタンク(22),このオイルタンク(22)内の貯留オイル(23)を吸い上げる第1オイルポンプ(24)と,この第1オイルポンプ(24)の吐出オイルをエンジン(E)の潤滑部に誘導する第1供給油路(51)と,前記潤滑部からオイルを前記オイルタンク(22)に還流させる第1戻し油路(59)とを備える,船外機であって,
前記オイルタンク(22)内の貯留オイル(23)を吸い上げる第2オイルポンプ(41)と,この第2オイルポンプ(41)の吐出オイルを前記トルクコンバータ(T)内の循環回路(28)に誘導する第2供給油路(52)と,前記循環回路(28)からオイルを前記オイルタンク(22)側に還流させる第2戻し油路(54)とを更に備えることを特徴とする船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−315495(P2007−315495A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145966(P2006−145966)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】