説明

船外機

【課題】エンジンの出力を向上させると共に、構造の複雑化を招くことなく、外気温が低いときにスロットルバルブが凍結して固着するのを防止するようにした船外機を提供する。
【解決手段】エンジン(内燃機関)46と、エンジンを被覆するエンジンカバー14とを備えると共に、エンジンの吸気通路84がエンジンカバー14で開口する船外機において、入口90aがエンジンカバー14の内部空間14aに設けられる一方、出口90bが吸気通路46においてスロットルバルブ86aよりも下流の位置で接続される2次空気通路90を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は船外機に関し、より詳しくは、搭載されるエンジンのスロットルバルブの凍結による固着を防止するようにした船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、搭載されるエンジンの吸気通路の入口をエンジンカバーの内部空間に設け、その内部空間の空気を吸入してエンジンを駆動させるようにした船外機は広く知られているが、そのように構成すると、エンジンの発熱などによって昇温させられた空気が吸気通路に流入するため、エンジンの充填効率が減少して出力が低下するなどの不都合が生じていた。
【0003】
そこで、吸気通路がエンジンカバーで開口するように構成し、温度が内部空間の空気に比して低い外気を直接吸入することで、充填効率を増加させて出力を向上させるようにした船外機が提案されており、その例として特許文献1記載の技術を挙げることができる。しかしながら、特許文献1記載の技術のように構成すると、例えば外気温が比較的低く、吸気通路のスロットルバルブを通過する吸気の温度が氷点下になった場合、空気に含まれる水分が凍結してスロットルバルブが固着する恐れがあった。
【0004】
その対策として特許文献2記載の技術にあっては、スロットルバルブの近傍にエンジンの排熱によって昇温させられた冷却水を流通させる流路を設置し、スロットルバルブ(正確にはスロットルボディ)を加熱することで凍結による固着を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−88881号公報
【特許文献2】特開平10−331621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の技術の如く構成すると、冷却水の流路をスロットルバルブの近傍まで配設する必要が生じ、その分だけ船外機の構造の複雑化を招くという不具合があった。
【0007】
従って、この発明の目的は上記した課題を解決し、エンジンの出力を向上させると共に、構造の複雑化を招くことなく、外気温が低いときにスロットルバルブが凍結して固着するのを防止するようにした船外機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、エンジンと、前記エンジンを被覆するエンジンカバーとを備えると共に、前記エンジンの吸気通路が前記エンジンカバーで開口する船外機において、入口が前記エンジンカバーの内部空間に設けられる一方、出口が前記吸気通路においてスロットルバルブよりも下流の位置で接続される2次空気通路を備える如く構成した。
【0009】
請求項2に係る船外機にあっては、前記2次空気通路の入口は、前記エンジンカバーの内部空間であって前記エンジンのクランクシャフトの回転を前記エンジンのカムシャフトに伝達するタイミングベルトを被覆するベルトカバーの近傍に設けられる如く構成した。
【0010】
請求項3に係る船外機にあっては、前記2次空気通路に配置される2次空気用バルブと、前記2次空気用バルブを開閉するアクチュエータと、前記エンジンの運転状態に基づいて前記2次空気用バルブの目標開度を算出する目標開度算出手段と、前記算出された目標開度を前記エンジンの吸気温度と前記エンジンのスロットル開度に基づいて補正する補正手段と、前記補正された目標開度となるように前記アクチュエータの動作を制御するアクチュエータ制御手段とを備える如く構成した。
【0011】
請求項4に係る船外機にあっては、前記補正手段は、前記吸気温度が所定温度以下で、かつ前記スロットル開度が所定開度以下のとき、前記算出された目標開度を第1所定値増加するように補正する如く構成した。
【0012】
請求項5に係る船外機にあっては、前記補正手段は、前記吸気温度が前記所定温度以下で、かつ前記スロットル開度が前記所定開度を超えるとき、前記算出された目標開度を前記第1所定値より大きい値に設定される第2所定値増加するように補正する如く構成した。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にあっては、エンジンとエンジンカバーを備えると共に、エンジンの吸気通路がエンジンカバーで開口する船外機において、入口がエンジンカバーの内部空間に設けられる一方、出口が吸気通路においてスロットルバルブよりも下流の位置で接続される2次空気通路を備えるように構成したので、温度がエンジンカバーの内部空間の空気に比して低い外気を吸気通路を介して直接取り入れることで、エンジンの充填効率を増加させて出力を向上させることができると共に、外気温が低いときはエンジンカバーの内部空間の空気、詳しくはエンジンの発熱などによって昇温させられた空気を2次空気通路を介してスロットルバルブ付近に供給することが可能となり、それによってスロットルバルブが加熱されて凍結による固着を防止することができる。また、特許文献2で用いられる冷却水の流路を不要にすることができるため、構造の複雑化を招くこともない。
【0014】
請求項2に係る船外機にあっては、2次空気通路の入口は、エンジンカバーの内部空間であってタイミングベルトを被覆するベルトカバーの近傍に設けられるように構成、即ち、2次空気通路の入口は、エンジンカバーの内部空間のうち、エンジンに近接して配置されるベルトカバーの近傍に設けられるように構成したので、上記した効果に加え、エンジンの発熱によって暖められた空気を効率良く2次空気通路を介してスロットルバルブ付近に供給でき、よってスロットルバルブが凍結して固着するのをより一層防止することができる。
【0015】
請求項3に係る船外機にあっては、2次空気通路に配置される2次空気用バルブと、2次空気用バルブを開閉するアクチュエータとを備えると共に、エンジンの運転状態に基づいて2次空気用バルブの目標開度を算出し、算出された目標開度をエンジンの吸気温度とエンジンのスロットル開度に基づいて補正し、補正された目標開度となるようにアクチュエータの動作を制御するように構成したので、上記した効果に加え、スロットルバルブ付近に供給される2次空気の流量を吸気温度やスロットル開度に応じた適切な値に制御でき、よって外気温が低いときにスロットルバルブが凍結して固着するのを確実に防止することができる。
【0016】
請求項4に係る船外機にあっては、補正手段は、吸気温度が所定温度以下で、かつスロットル開度が所定開度以下のとき、算出された目標開度を第1所定値増加するように補正するように構成したので、請求項3で述べた効果に加え、例えば所定温度と所定開度を、スロットルバルブを通過する空気が氷点下で凍結によって固着する可能性があるような値に設定することもできると共に、その可能性があるとき、2次空気バルブの目標開度を第1所定値増加するように補正、即ち、スロットルバルブ付近に供給される2次空気の流量を増加することで、スロットルバルブが凍結して固着するのをより確実に防止することができる。
【0017】
請求項5に係る船外機にあっては、補正手段は、吸気温度が所定温度以下で、かつスロットル開度が所定開度を超えるとき、即ち、スロットル開度が比較的大きく(換言すれば、スロットルバルブを通過する吸気の量が比較的多く)スロットルバルブに凍結による固着が特に発生し易い状態と推定されるとき、算出された目標開度を第1所定値より大きい値に設定される第2所定値増加するように構成、即ち、スロットルバルブ付近に供給される2次空気の流量をさらに増加するように構成したので、請求項4で述べた効果に加え、スロットルバルブが凍結して固着するのをより一層確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施例に係る船外機を船体も含めて全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す船外機の部分断面拡大側面図である。
【図3】図1に示す船外機の拡大側面図である。
【図4】図2に示すエンジンの平面図である。
【図5】図4に示すエンジンの側面図である。
【図6】図2のVI−VI線拡大断面図である。
【図7】図2のVII−VII線拡大断面図である。
【図8】図2などに示すエンジンの概略図である。
【図9】図1に示す電子制御ユニットによる2次空気用バルブの制御動作を示すフロー・チャートである。
【図10】図9フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に即してこの発明に係る船外機を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0020】
図1はこの発明の実施例に係る船外機を船体も含めて全体的に示す概略図である。
【0021】
図1において、符号1は船外機10が船体(艇体)12に搭載されてなる船舶を示す。 船外機10は、図示の如く、船体12の後尾(船尾)12aに装着される。
【0022】
船外機10は、エンジン(内燃機関。図1で見えず)と、エンジンを被覆するエンジンカバー14とを備える。エンジンカバー14の内部空間(即ちエンジンルーム)には、エンジンの他に、電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)16が配置される。ECU16はCPU,ROM,RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10の動作を制御する。
【0023】
船体12の操縦席20の付近には、操船者(図示せず)によって回転操作自在なステアリングホイール22が配置される。ステアリングホイール22のシャフト(図示せず)には操舵角センサ24が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール22の操舵角に応じた信号を出力する。
【0024】
また、操縦席20付近には、操船者によって操作自在なシフトレバー(シフト・スロットルレバー)26が設けられる。シフトレバー26は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示(フォワード/リバース/ニュートラル切り替え指示)と、エンジン回転数の調節指示を入力する。シフトレバー26の付近にはレバー位置センサ30が取り付けられ、シフトレバー26の位置に応じた信号を出力する。各センサ24,30の出力はECU16に入力される。
【0025】
図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図、図3は図1に示す船外機の拡大側面図である。また、図4は図2に示すエンジンの平面図、図5はその側面図(具体的には、エンジンを船外機10の後方側から見た側面図)である。
【0026】
船外機10は、図2に良く示すように、スイベルケース32、チルティングシャフト34およびスターンブラケット36を介して船体12に取り付けられる。
【0027】
スイベルケース32の付近には、スイベルケース32の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されるスイベルシャフト40を駆動する転舵用電動モータ(アクチュエータ)42が配置される。転舵用電動モータ42の回転出力は減速ギヤ機構(図で見えず)、マウントフレーム44を介してスイベルシャフト40に伝達され、よって船外機10はスイベルシャフト40を転舵軸として左右に(鉛直軸回りに)転舵される。
【0028】
船外機10の上部には、前記したエンジン46が搭載される。エンジン46は、クランクシャフト50が鉛直方向と平行に配置される。
【0029】
また、船外機10は、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト52を備える。ドライブシャフト52の上端にはエンジン46のクランクシャフト50が接続される一方、下端にはシフト機構54を介して水平軸回りに回転自在に支持されたプロペラシャフト56が接続される。
【0030】
プロペラシャフト56の一端には、プロペラ60が取り付けられる。シフト機構54は、ドライブシャフト52に接続されて回転させられる前進ベベルギヤ54aと後進ベベルギヤ54b、プロペラシャフト56を前進ベベルギヤ54aと後進ベベルギヤ54bのいずれかに係合自在とするクラッチ54cなどからなる。
【0031】
シフト機構54の付近には、シフト機構54を動作させてシフトチェンジを行うシフト用電動モータ(アクチュエータ)62が配置される。電動モータ62の出力軸は、減速ギヤ機構64を介してシフト機構54のシフトロッド54dの上端に接続される。従って、シフト用電動モータ62を駆動することにより、シフトロッド54dとシフトスライダ54eが適宜に変位させられ、それによってクラッチ54cを動作させてシフトポジションがフォワード、リバースおよびニュートラルの間で切り替え自在とされる。
【0032】
シフト機構54がフォワードポジションあるいはリバースポジションのとき、ドライブシャフト52の回転はシフト機構54を介してプロペラシャフト56に伝達され、よってプロペラ60は回転させられ、船体12を前進あるいは後進させる方向の推力(推進力)を生じる。
【0033】
次いで図2,4,5を参照してエンジン46について詳説する。
【0034】
エンジン46は火花点火式の水冷V型内燃機関からなり、具体的には各バンクに3気筒を備えた排気量3600ccのV型6気筒内燃機関からなる。エンジン46は、クランクシャフト50が鉛直方向と平行になるように配置されることから、船外機10の後方側が拡開された略V字形状を呈するように設置される。以下、船外機10の前方に向かって右側のバンクを「第1バンク46R」とし、他方のバンクを「第2バンク46L」とする。
【0035】
図2に示すように、第1バンク46Rは、シリンダブロック46Raと、シリンダブロック46Raに固定されたシリンダヘッド46Rbと、シリンダヘッド46Rbに固定されたヘッドカバー46Rcとから構成される。
【0036】
シリンダブロック46Raの内部に形成されたシリンダ46Rdには、ピストン46Reが摺動自在に収容される。ピストン46Reは、コネクティングロッド46Rfを介してクランクシャフト50に接続される。また、シリンダヘッド46Rbには、クランクシャフト50と平行に配置されたカムシャフト46Rgが回転自在に支持される。尚、上記した第1バンク46Rに関する説明は、第2バンク46Lにも妥当する。
【0037】
図2および図4に示す如く、クランクシャフト50の上端にはクランクタイミングプーリ66が取り付けられる。また、第1バンク46Rのカムシャフト46Rgの上端にはカムプーリ70Rが取り付けられると共に、第2バンク46Lのカムシャフト46Lg(図4に示す)にもカムプーリ70Lが取り付けられる。
【0038】
クランクタイミングプーリ66とカムプーリ70R,70Lには、1本のタイミングベルト72が巻き掛けられる。各プーリ66,70R,70Lの間には、タイミングベルト72の軌道を形成するためのアイドルプーリ74a,74bと,タイミングベルト72に所望の張力を与えるテンショナプーリ76が設けられる。
【0039】
これにより、クランクシャフト50の回転はタイミングベルト72を介してカムシャフト46Rg,46Lgに伝達され、それによってカムシャフト46Rg,46Lgは回転し、各シリンダの燃焼室(第1バンク46Rのそれを符号46Rhで示す)を望む位置に配置された吸気バルブと排気バルブ(第1バンク46Rのそれらを符号46Riと46Rjで示す)が開閉駆動される。
【0040】
エンジン46の上面には、タイミングベルト72などを被覆するベルトカバー80が取り付けられる。
【0041】
次いで、エンジン46の吸気系について説明する。図6は図2のVI−VI線拡大断面図、図7は図2のVII−VII線拡大断面図である。
【0042】
図6に示すように、エンジンカバー14の左右の側面の適宜位置には、空気取入口82が複数個開口される。複数個の空気取入口82には、それぞれフィン82aが近接して設けられ、外部からエンジンカバー14内への水の浸入などを防止する。この空気取入口82は、吸気通路84を介してエンジン46に接続される。
【0043】
吸気通路84は、空気取入口82を介してエンジンカバー14の外部空間と連通する入口流路84a(図2,6にのみ表れる)と、入口流路84aに接続されると共に、空気取入口82から入口流路84aに流入した空気(吸気)を鉛直方向下向きに下降させる下降流路84b(図2,6にのみ表れる)と、下降流路84bの下端84b1に接続されると共に、下降流路84bから流入した空気を反転(詳しくは、船外機10の前方から後方に向けて流れていた空気を、後方から前方に向くように反転)させる反転流路84c(図2,7にのみ表れる)と、反転流路84cに接続される吸気サイレンサ84d(図2,7にのみ表れる)と、吸気サイレンサ84dにスロットルボディ86を介して接続されるインテークマニホールド84e(図2にのみ表れる)などから構成される。このように、エンジン46の吸気通路84はエンジンカバー14の空気取入口82で開口するように構成される。
【0044】
図7に示す如く、反転流路84cは、船外機10の左右方向に分岐すると共に、エンジンカバー14に沿うような形状に形成される。吸気サイレンサ84dは、斜め後方に向けて開口された2箇所の吸気口84d1,84d2と、2箇所の吸気口84d1,84d2の間に配置された排出口84d3を備え、反転流路84cの出口側が吸気口84d1,84d2に接続される。
【0045】
吸気サイレンサ84dの排出口84d3には、スロットルボディ86の入口側が接続される。スロットルボディ86はその内部にスロットルバルブ86a(図2に示す)を備えると共に、スロットルバルブ86aを開閉するスロットル用電動モータ(アクチュエータ)86b(図7に示す)が一体的に取り付けられる。
【0046】
スロットル用電動モータ86bの出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットルバルブ86aに接続され、スロットル用電動モータ86bを動作させることでスロットルバルブ86aが開閉され、エンジン46の吸気量が調整される。
【0047】
スロットルボディ86の出口側には、インテークマニホールド84eの入口側が接続される。インテークマニホールド84eの出口側は、各バンク46R,46Lのシリンダに連通する吸気管46Rk,46Lk(図5に示す)に接続される。
【0048】
図8は図2などに示すエンジン46の概略図である。
【0049】
図8などを参照しつつエンジン46の吸気系の説明を続けると、エンジン46の吸気通路84には、吸気通路84(正確にはスロットルバルブ86a付近)に供給されるべき2次空気(吸気)を流通させる2次空気通路90が接続される。
【0050】
2次空気通路90は、空気を取り入れる入口90aがエンジンカバー14の内部空間14aに設けられる、正確には図7に示す如く、エンジンカバー14の内部空間14aであって前記したベルトカバー80の近傍(より詳しくはベルトカバー80によって形成される内部空間80a)に設けられる。
【0051】
他方、2次空気通路90の出口90bは、吸気通路84においてスロットルバルブ86aよりも下流の位置で接続される。また、2次空気通路90は、図8に良く示す如く、2次空気通路90から流出する空気がスロットルバルブ86aに直接当たるようにするため、その出口90bまでの流路90cはスロットルバルブ86a側に向くように僅かに傾斜する如く形成される。
【0052】
2次空気通路90の途中には、エンジン46がアイドル状態などにあるときの吸入空気量を調整する、あるいは後述する如く外気温が比較的低いときにスロットルバルブ86a付近に供給される2次空気の流量を調整するための2次空気用バルブ(2次空気量調整バルブ)92が配置される。2次空気用バルブ92には、2次空気量調整用電動モータ(アクチュエータ)94が図示しない減速ギヤ機構を介して接続され、電動モータ94を動作させることで2次空気用バルブ92が開閉されて2次空気通路90の空気量が調整される。尚、船外機10はエンジン46に取り付けられたバッテリなどの電源(図示せず)を備え、それから各電動モータなどに動作電源が供給される。
【0053】
ここで、上記の如く構成されたエンジン46の吸気の流れについて説明する。エンジンカバー14に設けられた空気取入口82から流入した吸気は、図2,6,7に矢印で示す如く、入口流路84a、下降流路84bおよび反転流路84cを介して吸気口84d1,84d2から吸気サイレンサ84dに流入する。吸気サイレンサ84dに流入した吸気は、そこで消音された後、排出口84d3を介してスロットルボディ86に流入する。スロットルボディ86に流入した吸気は、スロットルバルブ86aで調量されつつインテークマニホールド84eに流入する。
【0054】
また、エンジンカバー14の内部空間14aの空気は、入口90aから2次空気通路90に流入する。尚、この内部空間14aの空気は比較的暖かい空気である。即ち、図7において一点鎖線で囲まれる部分(空間)の空気は、外気を直接取り込んだ吸気通路84であるため、温度が比較的低い。他方、二点鎖線で囲まれる部分は、吸気通路外であるため、エンジン46の発熱などによってその温度は比較的高くなる。
【0055】
前述したように2次空気通路90の入口90aは、その二点鎖線で囲まれる部分(具体的には、エンジンカバー14の内部空間であってベルトカバー80の近傍(ベルトカバー80の内部空間80a))に設けられるため、2次空気通路90には暖かい空気が流入することとなる。
【0056】
2次空気通路90に流入した空気は、2次空気用バルブ92で調量されつつ出口80bからスロットルバルブ86aの下流側に流れ込み、そこからインテークマニホールド84eに流入する。インテークマニホールド84eに流入した吸気は、さらに吸気管46Rkを介して各シリンダの吸気バルブ46Riに至る。
【0057】
図8に示すように、吸気バルブ46Riの付近にはインジェクタ96が配置され、スロットルバルブ86aおよび2次空気用バルブ92で調整された吸入空気にガソリン燃料を噴射する。噴射された燃料は吸入空気と混合して混合気を形成し、混合気は、吸気バルブ46Riが開弁されるとき、燃焼室46Rhに流入する。
【0058】
燃焼室46Rhに流入した混合気は、点火プラグ(図示せず)で点火されて燃焼し、ピストン46Reを図8において下方に駆動してクランクシャフト50を回転させる。燃焼によって生じた排ガスは、排気バルブ46Rjが開弁されるとき、排気管98を流れてエンジン46の外部に排出される。
【0059】
船外機10の説明を続けると、図3に示すように、スロットルバルブ86aの付近にはスロットル開度センサ100が配置され、スロットル開度を示す出力を生じると共に、2次空気用バルブ92の付近にも開度センサ102が配置され、2次空気用バルブ92の開度を示す信号を出力する。
【0060】
エンジン46のクランクシャフト50の付近にはクランク角センサ104が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。また、図3,8に示す如く、エンジン46の吸気通路86のスロットルバルブ86aの配置位置の下流には吸気温度センサ106と絶対圧センサ108が設けられる。吸気温度センサ106は、スロットルバルブ86aの下流側を流れる吸気の温度(即ち、エンジン46の吸気温度)TAを示す信号を、絶対圧センサ108は吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
【0061】
上記した各センサの出力はECU16に入力され、ECU16は入力された各センサ出力に基づいて船外機10の動作を制御する。具体的にECU16は、入力された操舵角センサ24の出力に基づいて転舵用電動モータ42の動作を制御し、船外機10の転舵を行う。
【0062】
また、ECU16は、入力されたレバー位置センサ30の出力などに基づいてスロットル用電動モータ86bや2次空気量調整用電動モータ94の動作を制御し、スロットルバルブ86aや2次空気用バルブ92を開閉させて吸入空気量を調整してエンジン回転数を制御すると共に、シフト用電動モータ62の動作を制御してシフト機構54を駆動させ、シフトチェンジを行う。
【0063】
さらに、ECU16は、スロットル開度センサ100や吸気温度センサ106の出力などに基づいて2次空気量調整用電動モータ94の動作を制御し、2次空気の流量を調整するが、それについては後に詳説する。
【0064】
上記した如く、この実施例に係る船外機の制御装置は、操作系(ステアリングホイール22やシフトレバー26)と船外機10の機械的な接続が断たれたDBW(Drive By Wire)方式の制御装置である。
【0065】
図9は、ECU16の動作のうち、2次空気用バルブ92の制御動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU16によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
【0066】
以下説明すると、先ずS(ステップ)10において、エンジン46の始動が完了したか否か判断する。始動が完了したか否かの判断は、具体的にはクランク角センサ104の出力パルスをカウントしてエンジン回転数NEを検出(算出)し、検出されたエンジン回転数NEが完爆回転数に達したか否か判断することで行う。
【0067】
S10で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS12に進み、2次空気用バルブ92の目標開度THcを算出する。S12では、具体的にはエンジン46の運転状態(より具体的には、エンジン46がアイドル状態や暖機運転状態にあるか。またエンジン回転数NEや吸気管内絶対圧PBAなど)に基づいて目標開度THcを算出する。
【0068】
次いでS14に進み、吸気温度センサ106の出力から検出(算出)されるエンジン46の吸気温度TAが所定温度TA1以下か否か判断する。所定温度TA1は、吸気温度TAがそれ以下のときにスロットルバルブ86aを通過する空気(吸気)の水分が凍結してスロットルバルブ86aが固着する可能性があると判断できるような値、具体的には氷点下を示す値(例えば0℃)に設定される。従って、S14は、スロットルバルブ86aが凍結による固着を生じるような運転状態か否か判断する処理である。
【0069】
S14で肯定されるときはS16に進み、スロットル開度センサ100の出力からスロットル開度THaを検出(算出)し、検出されたスロットル開度THaが所定開度THa1以下か否か判断する。所定開度THa1は、スロットル開度THaがそれ以下のときはスロットルバルブ86aを通過する吸気の流量が比較的少ないと判断できるような値(例えば30°)に設定される。
【0070】
S16で肯定されるとき、即ち、スロットルバルブ86aを通過する吸気の流量が比較的少ないため、前記したスロットルボディ86の入口側の温度が−10℃以下程度であると推定されるときはS18に進み、S12で算出された目標開度THcを第1所定値THc1増加補正、即ち、目標開度THcに第1所定値THc1を加算する。第1所定値THc1は、例えば2次空気用バルブ92の開度の10%、詳しくは2次空気用バルブ92の全閉時を0%(具体的には0°)、全開時を100%(具体的には90°)と規定した場合の10%に相当する開度、より具体的には9°とされる。
【0071】
他方、S16で否定されるとき、即ち、スロットル開度THaが所定開度THa1を超えるときは、スロットルバルブ86aを通過する吸気の流量が比較的多く、スロットルボディ86の入口側の温度が−15℃以下程度であると推定されるため、S20に進み、目標開度THcに第2所定値THc2増加補正(加算)する。この第2所定値THc2は第1所定値THc1より大きい値に設定され、例えば第1所定値THc1の2倍の値(具体的には2次空気用バルブ92の開度の20%に相当する開度(即ち18°))に設定される。
【0072】
このように、S18,S20においては、S12で算出された目標開度Thcをエンジン46の吸気温度TAとエンジン46のスロットル開度THaに基づいて補正するようにした。
【0073】
S18またはS20の処理後、S22に進んで2次空気用バルブ92の開度THbが補正された目標開度THcとなるように2次空気量調整用電動モータ94の動作を制御する。これにより、エンジンカバー14の内部空間14aの暖かい空気が、スロットルバルブ86aを流れる吸気の温度に応じた流量で、2次空気通路90を介してスロットルバルブ86a付近に供給されてその周辺が暖められることとなる。それによってスロットルバルブ86aにおいては凍結による固着が発生するのを防ぐことができる。
【0074】
また、S14で否定されるときは、スロットルバルブ86aに凍結による固着が生じる恐れがないことから、S24に進んで2次空気用バルブ92の目標開度THcを補正しないようにし、次いでS22に進み、前述した処理を実行してプログラムを終了する。
【0075】
図10は上記した処理を説明するタイム・チャートである。
【0076】
図10に示すように、先ず時刻t0からt1の間、吸気温度TAは所定温度TA1より高い状態であるため、2次空気用バルブ92の凍結防止補正は実行されない(S24)。時刻t1において所定温度TA1以下で、かつスロットル開度THaが所定開度THa1以下になると、2次空気用バルブ92の目標開度THcを第1所定値THc1増加するように補正する(S18)。これにより、2次空気用バルブ92は第1所定値THc1の分だけ開弁方向に駆動される(S22)。
【0077】
次いで時刻t2において吸気温度TAが所定温度TA1以下で、かつスロットル開度THaが所定開度THa1を超えると、2次空気用バルブ92の目標開度THcを第2所定値THc2増加するように補正する(S20)。これにより、2次空気用バルブ92は、第1所定値THc1増加したときに比してさらに開弁方向に駆動される(S22)。
【0078】
その後スロットルバルブ86aが閉弁されて時刻t3でスロットル開度THaが所定開度THa1以下なるとき、2次空気用バルブ92の目標開度THcを第1所定値THc1増加する補正に戻し(S18)、それに応じて2次空気用バルブ92は閉弁方向に駆動される(S22)。
【0079】
以上の如く、この発明の実施例にあっては、エンジン(内燃機関)46と、前記エンジンを被覆するエンジンカバー14とを備えると共に、前記エンジンの吸気通路84が前記エンジンカバー14で開口する船外機10において、入口90aが前記エンジンカバー14の内部空間14aに設けられる一方、出口90bが前記吸気通路46においてスロットルバルブ86aよりも下流の位置で接続される2次空気通路90を備える如く構成した。
【0080】
このように、温度がエンジンカバー14の内部空間14aの空気に比して低い外気を吸気通路84を介して直接取り入れることで、エンジン46の充填効率を増加させて出力を向上させることができると共に、外気温が低いときはエンジンカバー14の内部空間14aの空気、詳しくはエンジン46の発熱などによって昇温させられた空気を2次空気通路90を介してスロットルバルブ86a付近に供給することが可能となり、それによってスロットルバルブ86aが加熱されて凍結による固着を防止することができる。また、エンジンの冷却水の流路を用いてスロットルバルブを加熱する構成ではないため、構造の複雑化を招くこともない。
【0081】
また、前記2次空気通路90の入口90aは、前記エンジンカバー14の内部空間14aであって前記エンジン46のクランクシャフト50の回転を前記エンジン46のカムシャフト46Rgに伝達するタイミングベルト72を被覆するベルトカバー80の近傍に設けられる如く構成、即ち、2次空気通路90の入口90aは、エンジンカバー14の内部空間14aのうち、エンジン46に近接して配置されるベルトカバー80の近傍に設けられるように構成したので、エンジン46の発熱によって暖められた空気を効率良く2次空気通路90を介してスロットルバルブ86a付近に供給でき、よってスロットルバルブ86aが凍結して固着するのをより一層防止することができる。
【0082】
また、前記2次空気通路90に配置される2次空気用バルブ92と、前記2次空気用バルブを開閉するアクチュエータ(2次空気量調整用電動モータ)94と、前記エンジンの運転状態に基づいて前記2次空気用バルブの目標開度THcを算出する目標開度算出手段と(ECU16。S12)、前記算出された目標開度THcを前記エンジンの吸気温度TAと前記エンジンのスロットル開度THaに基づいて補正する補正手段と(ECU16。S18,S20)、前記補正された目標開度THcとなるように前記アクチュエータ94の動作を制御するアクチュエータ制御手段と(ECU16。S22)を備える如く構成したので、スロットルバルブ86a付近に供給される2次空気の流量を吸気温度TAやスロットル開度THaに応じた適切な値に制御でき、よって外気温が低いときにスロットルバルブ86aが凍結して固着するのを確実に防止することができる。
【0083】
また、前記補正手段は、前記吸気温度TAが所定温度TA1以下で、かつ前記スロットル開度THaが所定開度THa1以下のとき、前記算出された目標開度THcを第1所定値THc1増加するように補正する如く構成したので(S18)、例えば所定温度TA1と所定開度THc1を、スロットルバルブ86aを通過する空気が氷点下で凍結によって固着する可能性があるような値に設定することもできると共に、その可能性があるとき、2次空気バルブ92の目標開度THcを第1所定値THc1増加するように補正、即ち、スロットルバルブ86a付近に供給される2次空気の流量を増加することで、スロットルバルブ86aが凍結して固着するのをより確実に防止することができる。
【0084】
また、前記補正手段は、前記吸気温度TAが前記所定温度TA1以下で、かつ前記スロットル開度THaが前記所定開度THaを超えるとき、前記算出された目標開度THcを前記第1所定値THc1より大きい値に設定される第2所定値THc2増加するように補正する如く構成した。
【0085】
このように、スロットル開度THaが比較的大きく(換言すれば、スロットルバルブ86aを通過する吸気の量が比較的多く)スロットルバルブ86aに凍結による固着が特に発生し易い状態と推定されるとき、算出された目標開度THcを第1所定値THc1より大きい値に設定される第2所定値THc2増加するように構成、即ち、スロットルバルブ86a付近に供給される2次空気の流量をさらに増加するように構成したので、スロットルバルブ86aが凍結して固着するのをより一層確実に防止することができる。
【0086】
尚、上記において、船外機を例にとって説明したが、船内外機についても本発明を適用することができる。また、所定温度TA1、所定開度THa1、第1、第2所定値THc1,THc2やエンジン46の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0087】
10 船外機、14 エンジンカバー、14a (エンジンカバーの)内部空間、16 ECU(電子制御ユニット)、46 エンジン(内燃機関)、46Rg カムシャフト、50 クランクシャフト、72 タイミングベルト、80 ベルトカバー、84 吸気通路、86a スロットルバルブ、90 2次空気通路、90a (2次空気通路の)入口、90b (2次空気通路の)出口、92 2次空気用バルブ、94 2次空気量調整用電動モータ(アクチュエータ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンを被覆するエンジンカバーとを備えると共に、前記エンジンの吸気通路が前記エンジンカバーで開口する船外機において、入口が前記エンジンカバーの内部空間に設けられる一方、出口が前記吸気通路においてスロットルバルブよりも下流の位置で接続される2次空気通路を備えることを特徴とする船外機。
【請求項2】
前記2次空気通路の入口は、前記エンジンカバーの内部空間であって前記エンジンのクランクシャフトの回転を前記エンジンのカムシャフトに伝達するタイミングベルトを被覆するベルトカバーの近傍に設けられることを特徴とする請求項1記載の船外機。
【請求項3】
前記2次空気通路に配置される2次空気用バルブと、前記2次空気用バルブを開閉するアクチュエータと、前記エンジンの運転状態に基づいて前記2次空気用バルブの目標開度を算出する目標開度算出手段と、前記算出された目標開度を前記エンジンの吸気温度と前記エンジンのスロットル開度に基づいて補正する補正手段と、前記補正された目標開度となるように前記アクチュエータの動作を制御するアクチュエータ制御手段とを備えることを特徴とする請求項1または2記載の船外機。
【請求項4】
前記補正手段は、前記吸気温度が所定温度以下で、かつ前記スロットル開度が所定開度以下のとき、前記算出された目標開度を第1所定値増加するように補正することを特徴とする請求項3記載の船外機。
【請求項5】
前記補正手段は、前記吸気温度が前記所定温度以下で、かつ前記スロットル開度が前記所定開度を超えるとき、前記算出された目標開度を前記第1所定値より大きい値に設定される第2所定値増加するように補正することを特徴とする請求項4記載の船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−100793(P2013−100793A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245979(P2011−245979)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】