説明

船底洗浄車

【課題】 補修等の為にドッグ入りして盤木の上に載置された船舶の船底外面に付着する貝殻等の付着物を除去して洗浄する船底洗浄車に於て、走行通路が狭くて低くても容易に洗浄作業が行える様にする。
【解決手段】 車体2、走行体3、回転駆動装置4、昇降体5、平行リンク6、昇降シリンダ7、洗浄装置8とで構成し、とりわけ車体2と昇降体5との間に昇降体5を昇降案内する平行リンク6を設けると共に、車体2と平行リンク6との間に平行リンク6を俯仰させる昇降シリンダ7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば補修等の為にドッグ入りして盤木の上に載置された船舶の船底外面に付着する貝殻等の付着物を除去して洗浄する船底洗浄車の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の船底洗浄車としては、例えば次の様なものが知られている。
(1) 車体の前側に昇降アームを介して洗浄装置が設けられているもの(特許文献1〜4参照)。
(2) 車体の上部に設けられた支柱に昇降アームを介して洗浄装置が設けられているもの(特許文献5〜6参照)。
【0003】
【特許文献1】実公昭51−14719号公報
【特許文献2】実開昭60−23497号公報
【特許文献3】特公平6−79706号公報
【特許文献4】特開2003−94394号公報
【特許文献5】実公平6−18879号公報
【特許文献6】実開昭63−166897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前者のものは、車体の前側に昇降アーム及び洗浄装置が設けられているので、全長が長くなり、前後のバランスと換向性が悪かった。
他方、後者のものは、洗浄装置の下降時にはこれが車体の前側に突出するので、前者と同様に全長が長くなり、前後のバランスと換向性が悪いと共に、車体の上部に支柱が設けられているので、全高をこれ以上低くする事ができず、低い通路での走行ができなかった。
要するに、従来の何れのものも、走行通路が狭くて低い場合には、容易に洗浄作業が行えなかった。
【0005】
本発明は、叙上の問題点に鑑み、これを解消する為に創案されたもので、その課題とする処は、走行通路が狭くて低くても容易に洗浄作業が行える様にした船底洗浄車を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の船底洗浄車は、車体と、車体に回転可能に設けられた左右の走行体と、車体に設けられて走行体を回転させる回転駆動装置と、車体の上部に昇降可能に設けられた昇降体と、車体と昇降体との間に設けられて昇降体を昇降案内する平行リンクと、車体と平行リンクとの間に設けられて平行リンクを俯仰させる昇降シリンダと、昇降体に設けられて洗浄液を噴射して船底外面を洗浄する洗浄装置と、から構成した事に特徴が存する。
【0007】
回転駆動装置が作動されると、走行体が回転されて車体が走行される。昇降シリンダが作動されると、平行リンクに依り昇降体及び洗浄装置が水平状態を保ったまま昇降される。洗浄装置が作動されると、船底外面に向けて洗浄液が噴射されて船底外面が洗浄される。
【0008】
平行リンクと昇降シリンダに依り昇降体及び洗浄装置が車体に近接した下降位置から車体に離間した上昇位置まで車体の上方で昇降されるので、全高を極力低くする事ができると共に、昇降体及び洗浄装置が車体の前側へ突出して全長が長くなる事がない。
この為、走行通路が狭くて低くても容易に走行できて、支障なく洗浄作業が行える。
【0009】
回転駆動装置と昇降シリンダと洗浄装置を無線制御する無線制御装置を備えているのが好ましい。この様にすれば、オペレータは、無線制御装置に依り船底洗浄車を遠隔操作する事ができるので、作業現場に直接立ち入らなくて良く、安全に作業が行なえる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に依れば、次の様な優れた効果を奏する事ができる。
(1) 車体、走行体、回転駆動装置、昇降体、平行リンク、昇降シリンダ、洗浄装置とで構成し、とりわけ車体と昇降体との間に昇降体を昇降案内する平行リンクを設けると共に、車体と平行リンクとの間に平行リンクを俯仰させる昇降シリンダを設けたので、走行通路が狭くて低くても容易に洗浄作業が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の船底洗浄車を示す側面図。図2は、図1の平面図。図3は、図1の正面図。図4は、図1の背面図。図5は、洗浄装置を上昇させた状態を示す図1と同様図。図6は、油圧及び配管系統図である。
【0012】
船底洗浄車1は、車体2、走行体3、回転駆動装置4、昇降体5、平行リンク6、昇降シリンダ7、洗浄装置8とからその主要部が構成されている。
【0013】
車体2は、船底洗浄車1の基本部分を為すもので、この例では、前後方向に長尺な箱状を呈している。
【0014】
走行体3は、車体2に回転可能に設けられた左右のもので、この例では、クローラにしてあり、車体2の後側に回転可能に設けられた左右の駆動輪9と、車体2の前側に回転可能に設けられた左右の従動輪10と、車体2の中程の上下に回転可能に適数づつ設けられた左右の転輪11と、これらに掛渡された左右の履帯12等を備えて居り、履帯12の全長と全高が車体2の全長と全高と略同じになる様にしてある。
【0015】
回転駆動装置4は、車体2に設けられて走行体3を回転させるもので、この例では、車体2の内部に設けられたエンジン13と、これに依り駆動される前後の可変油圧ポンプ14と、車体2の後側に設けられて可変油圧ポンプ14に依り油圧駆動されて走行体3の駆動輪9を回転させる左右の油圧モータ15と、可変油圧ポンプ14に接続された油タンク16等を備えている。
【0016】
而して、走行体3と回転駆動装置4とは、所謂走行装置を為している。
【0017】
昇降体5は、車体2の上部に昇降可能に設けられたもので、この例では、平板状を呈し、船底洗浄車1の全幅と略同じ幅で且つ全長の略半分の長さを有して居り、車体2の前半上方に近接した下降位置から車体2の中程上方に離間した上昇位置まで水平状態を保ったまま昇降し得る様になっている。
【0018】
平行リンク6は、車体2と昇降体5との間に設けられて昇降体5を昇降案内するもので、この例では、左右一対のものから成り、夫々離間した前後のリンク17,18を備えて居り、これら二つのリンク17,18と車体2と昇降体5とで四節リンクを為している。
前リンク17は、車体2の中程上部と昇降体5の前側下部との間に介設されて両端が横軸廻りに回動可能に枢結されている。後リンク18は、車体2の後側上部と昇降体5の後側下部との間に介設されて両端が横軸廻りに回動可能に枢結されている。左右のリンク同士は、適宜の連結材19に依り連結されている。
【0019】
昇降シリンダ7は、車体2と平行リンク6との間に設けられて平行リンク6を俯仰させるもので、この例では、左右一対のものにしてあり、夫々車体2の前側上部と平行リンク6の前リンク17の中程下部との間に介設されて両端が横軸廻りに回動可能に枢結されている。
昇降シリンダ7は、制御弁20と荷役ポンプ21を介して油タンク16に接続されて居り、制御弁20が操作される事に依り伸縮作動される。
【0020】
洗浄装置8は、昇降体5に設けられて洗浄液を噴射して船底外面Aを洗浄するもので、この例では、船底外面Aに当合されて洗浄液(水)の飛散を防止すると共に洗浄後の廃液を収集する本体22と、これに設けられて洗浄液を噴射する噴射手段23と、これに洗浄液を供給する供給手段24と、本体22にて収集した廃液を吸引する吸引手段25とを備えている。
【0021】
本体22は、上方が開放した容器状を呈して側方には排出管26を備えて居り、昇降体5に対して前後軸廻りに搖動可能に設けられている。本体22の搖動軸は、車体2の中心線より一側に偏心されていると共に、排出管26がこれとは反対側に延出され、両者の合計幅が昇降体5の幅と略同じにしてある。
【0022】
噴射手段23は、本体22の内部に縦軸廻りに回転可能に設けられた適数(三つ)の回転体27と、これに設けられて洗浄液を上方に噴射する適数(四つ)のノズル28と、回転体27を回転させる油圧モータ29と、回転体27と油圧モータ29の間に設けられた減速機30と、回転体27に設けられたスイベル継手31と、これとノズル28を連通する通路(図示せず)とを備えている。油圧モータ29は、制御弁20と荷役ポンプ21を介して油タンク16に接続されて居り、制御弁20が操作される事に依り回転作動される。
【0023】
供給手段24は、洗浄液を貯溜する洗浄液タンク32と、洗浄液を加圧する高圧ポンプ33と、これからの洗浄液を噴射手段23のスイベル継手31に導く供給ホース34と、洗浄液タンク32と高圧ポンプ33を搭載して船底洗浄車1に牽引される台車35とを備えている。
【0024】
吸引手段25は、廃液を吸引する吸引(真空)ポンプ36と、これからの廃液を貯溜する廃液タンク37と、本体22の排出管26からの廃液を吸引ポンプ36に導く吸引ホース38と、吸引ポンプ36と廃液タンク37を搭載して前記台車35と一緒に船底洗浄車1に牽引される台車39とを備えている。
【0025】
而して、回転駆動装置4と昇降シリンダ7と洗浄装置8は、無線制御装置40に依り無線制御される。
無線制御装置40は、回転駆動装置4のエンジン13と可変油圧ポンプ14と制御弁20と洗浄装置8の油圧モータ29と高圧ポンプ33と吸引ポンプ36を制御する制御回路(図示せず)と、これに接続されて車体2の後側上部に設けられた受信機41と、オペレータが所持して受信機41に無線信号を送る送信機(図示せず)等を備えている。
【0026】
因みに、船舶を載置する盤木に依り形成される走行通路の高さは、1800mmであり、船底洗浄車1の最小全高は、1600mmであると共に、最大全高は、2100mmにしてある。
【0027】
次に、この様な構成に基づいてその作用を述解する。
無線制御装置41に依り回転駆動装置4と昇降シリンダ7と洗浄装置8が無線制御(ラジオコントロール)される。
回転駆動装置4のエンジン13及び可変油圧ポンプ14が作動されると、油圧モータ15に依り走行体3が回転されて車体2が走行される。
昇降シリンダ7が作動されると、平行リンク6に依り昇降体5及び洗浄装置8が車体2に近接した下降位置(図1参照)から車体2に離間した上昇位置(図5参照)まで水平状態を保ったまま昇降される。
洗浄装置8の高圧ポンプ33が作動されると、洗浄液タンク32の洗浄液が高圧ポンプ33→供給ホース34→スイベル継手31→回転体27内の通路(図示せず)→ノズル28から船底外面Aに向けて噴射され、ここに付着する貝殻等の付着物が除去されて洗浄される。洗浄後の廃液は、本体22で収集されて出口から排出管26へ排出される。
洗浄装置8の吸引ポンプ36が作動されると、排出管26からの廃液が吸引されて吸引ホース38→吸引ポンプ36→廃液タンク37へ回収される。
【0028】
洗浄装置8の本体22は、前後軸廻りに搖動可能に設けられているので、その上部が船底外面Aに応じて当合され、ノズル28から噴射された洗浄液が本体22の外部へ飛散される事がない。
洗浄装置8の本体22は、船底洗浄車1の車幅方向の片側に寄せて配置されているので、盤木に近い船底外面Aを容易に洗浄する事ができる。
洗浄装置8は、ノズル28が回転体27に設けられているので、回転体27の回転に依って洗浄液が満遍なく噴射されて効果的に付着物を除去する事ができる。
【0029】
昇降体5及び洗浄装置8は、平行リンク6と昇降シリンダ7に依り車体2に近接した下降位置から車体2に離間した上昇位置まで車体2の上方で昇降されるので、全高を極力低くする事ができると共に、車体2の前側へ突出して全長が長くなる事がない。
この為、走行通路が狭くて低くても容易に走行できて、支障なく洗浄作業が行える。
オペレータは、無線制御装置40に依り船底洗浄車1を遠隔操作する事ができるので、作業現場に直接立ち入らなくて良く、安全に作業が行なえる。
【0030】
尚、走行体3は、先の例では、クローラであったが、これに限らず、例えば4輪以上のタイヤであっても良い。
昇降シリンダ7は、先の例では、左右一対のものであったが、これに限らず、例えば単一のものでも良い。
洗浄装置8は、先の例では、前後軸廻りに搖動可能であったが、これに限らず、例えば前後軸廻り及び左右方向軸廻りに搖動可能であっても良い。
洗浄装置8は、先の例では、噴射手段23が船底洗浄車1の車幅より小さかったが、これに限らず、例えば船底洗浄車1の車幅と略同等にしても良い。この様にすれば、一回の走行により車幅と略同等の範囲に亘って洗浄作業が行え、洗浄作業の効率化を図る事ができる。
洗浄装置8は、先の例では、排出管26が側方に向けていたが、これに限らず、例えば後方に向けたり、旋動可能に設けても良い。この様にすれば、排出管26に接続される吸引ホース38が盤木等に接触して損傷する惧れがない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の船底洗浄車を示す側面図。
【図2】図1の平面図。
【図3】図1の正面図。
【図4】図1の背面図。
【図5】洗浄装置を上昇させた状態を示す図1と同様図。
【図6】油圧及び配管系統図。
【符号の説明】
【0032】
1…船底洗浄車、2…車体、3…走行体、4…回転駆動装置、5…昇降体、6…平行リンク、7…昇降シリンダ、8…洗浄装置、9…駆動輪、10…従動輪、11…転輪、12…履帯、13…エンジン、14…可変油圧ポンプ、15…油圧モータ、16…油タンク、17…前リンク、18…後リンク、19…連結材、20…制御弁、21…荷役ポンプ、22…本体、23…噴射手段、24…供給手段、25…吸引手段、26…排出管、27…回転体、28…ノズル、29…油圧モータ、30…減速機、31…スイベル継手、32…洗浄液タンク、33…高圧ポンプ、34…供給ホース、35…台車、36…吸引ポンプ、37…廃液タンク、38…吸引ホース、39…台車、40…無線制御装置、41…受信機、A…船底外面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、車体に回転可能に設けられた左右の走行体と、車体に設けられて走行体を回転させる回転駆動装置と、車体の上部に昇降可能に設けられた昇降体と、車体と昇降体との間に設けられて昇降体を昇降案内する平行リンクと、車体と平行リンクとの間に設けられて平行リンクを俯仰させる昇降シリンダと、昇降体に設けられて洗浄液を噴射して船底外面を洗浄する洗浄装置と、から構成した事を特徴とする船底洗浄車。
【請求項2】
回転駆動装置と昇降シリンダと洗浄装置を無線制御する無線制御装置を備えている請求項1に記載の船底洗浄車。
【請求項3】
洗浄装置が車体前後方向軸回りに船底の左右の傾斜に回動する請求項1又は2に記載の船底洗浄車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−273170(P2006−273170A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96800(P2005−96800)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】