説明

船舶積載コンテナの振動調整装置

【課題】船体振動を抑制可能であるとともに船舶に積載されるコンテナの振動を抑制して荷崩れを防止することができる船舶積載コンテナの振動調整装置を提供する。
【解決手段】複数のコンテナ10が積載される船舶に設けられる船舶積載コンテナの振動調整装置であって、コンテナ10が載置される複数のコンテナ支持台3、5の底部にそれぞれ設けられ、該コンテナ支持台3、5を弾性支持するバネ機構21、31を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に積載されるコンテナに用いられ、コンテナの振動を調整する船舶積載コンテナの振動調整装置に関し、特に、船体への波浪衝撃による起振力またはプロペラ変動圧等の推進装置に由来する起振力など、異なる複数の起振力に応じてコンテナの振動を調整することができる船舶積載コンテナの振動調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンテナ船においては、図8に示すように船体101の船首101Aから船尾101Bに亘って複数の貨物格納用ホールド102及びハッチカバー103が設けられている。ホールド102内には多数のセルガイドが配設されており、このセルガイド間に多数個のコンテナ110が密に複数段積載される。また、ハッチカバー103上には、コンテナ固縛材により、多数個のコンテナ110が複数段積み付けされる。このようなコンテナ船においては、通常、船尾101B側の船底に機関室105が配設されている。機関室105内には、推進用プロペラ107が連結される主機106や補機類が設置されている。さらに、機関室105の上部には、船員室や操舵室等を有する居住区108が設けられている。
【0003】
このような船舶においては、波浪衝撃やプロペラ変動圧等により低次の主船体節振動が励起される。これにより、船舶に積載されるコンテナに過大な慣性力が発生し、コンテナが荷崩れを起こす可能性がある。
そこで、従来はコンテナの荷崩れを防ぐため、コンテナの積載数を減らしたり、船舶の速度を下げて運航したりしていた。そのため、船舶の運搬効率が低下してしまうという問題があった。
【0004】
これに対して、荷崩れを発生させる船体の振動を抑制するために、従来から各種の制振装置が提案、実用化されている。例えば特許文献1(特開平7−291121号公報)にはエアクッション型高速船の衝撃吸収装置が開示されている。この衝撃吸収装置は、エアクッション型高速船の船首部下面に、内部に水が充填された偏平ゴム膜を貼着した構成となっている。これにより、波浪衝撃がゴム膜を介して船底に作用するため船体への衝撃を低減することができる。
また、他の制振装置を備えた船舶として、特許文献2(特開2003−205895号公報)には、多数の球体が収納されたケースを船体に固定した構成が開示されている。多数の球体は互いに接触してその摩擦により振動を減衰するようになっている。
【0005】
一方、船舶における船体振動を有効に利用した技術が特許文献3(特開2010−132112号公報)に開示されている。これは、船体の振幅発生部に、弾性支持装置により船体の節振動に共振するように支持された振動体を設け、この振動体の移動エネルギを誘導発電機により電気エネルギに変換するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−291121号公報
【特許文献2】特開2003−205895号公報
【特許文献3】特開2010−132112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、コンテナを積載した船舶においては、船体への波浪衝撃やプロペラ変動圧等によってコンテナが振動し、荷崩れが発生するおそれがあった。さらに、多数のコンテナが連動して振動することによって、逆にコンテナが船舶の起振源となり船体の揺動に影響を与えることもある。
そこで、特許文献1や特許文献2のように、船舶に制振装置を設けることによって船体の振動を抑制することが提案されているが、これらは新たに制振装置を設ける必要があり設備コストが増加するという問題があった。さらに、船舶においては、波浪衝撃やプロペラ変動圧等のように複数の異なる起振力が船体に与えられるため、船舶全体に適切な制振対策を施すことは困難であった。
【0008】
特許文献3は船体振動を利用して発電を行う構成となっているが、振動体の振動は、発電とは別の副次的な作用として動吸振作用を有している。しかし、特許文献3の振動体は発電を目的としたものであるため船体を制振する程の動吸振作用は得られず、また動吸振作用が十分に得られる程度の振動体を船舶に搭載すると船舶の積載重量が減ってしまい、やはり運搬効率の低下を招いてしまう。
したがって、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、船体振動を抑制可能であるとともに船舶に積載されるコンテナの振動を抑制して荷崩れを防止することができる船舶積載コンテナの振動調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る船舶積載コンテナの振動調整装置は、複数のコンテナが積載される船舶に設けられる船舶積載コンテナの振動調整装置であって、前記コンテナが載置される複数のコンテナ支持台の底部にそれぞれ設けられ、該コンテナ支持台を弾性支持するバネ機構を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、コンテナ支持台の底部にバネ機構を設け、このバネ機構によりコンテナが支持される構成としため、船体振動に対するコンテナの振動応答を小さくすることができ、多段に積載されたコンテナの荷崩れを防止できる。
また、船体に対してコンテナをバネ機構で支持する構成としているため、このコンテナとバネ機構とが、コンテナ自体(コンテナ支持台を含む)を振動体とし船体を制振対象とした動吸振器として作用し、船舶の振動を抑制することが可能となる。このとき、コンテナの質量は動吸振器として有効に活かされる。したがって、新たに振動体を設置する必要がなく設備コストの増大を防げるとともに、新たに振動体を設置する場合に比べて船舶の積載重量を大きくとることができる。
【0011】
また、上記の振動調整装置が、船体への異なる複数の起振力により各コンテナに生じる振動を調整する装置であり、前記コンテナの振動に主として影響を与える前記起振力に応じて、前記コンテナ支持台ごとに前記バネ機構のバネ定数が設定されており、前記船体の船首側に配置された前記コンテナ支持台においては、前記コンテナが積載された状態で該コンテナ支持台の固有振動数が前記起振力による船体振動数と同一又はこれに近づくように前記バネ機構のバネ定数が設定され、前記船体の船尾側に配置される前記コンテナ支持台においては、前記コンテナが積載された状態で該コンテナ支持台の固有振動数が前記起振力による船体振動数より小さくなるように前記バネ機構のバネ定数が設定されていることが好ましい。
【0012】
船体へは波浪衝撃やプロペラ変動圧等の異なる複数の起振力が与えられるが、本構成ではこれらの異なる複数の起振力に応じてコンテナ支持台ごとにバネ機構のバネ定数を設定しているため、船体のどの部位においても船体及びコンテナの振動に対して最適な振動抑制対策を講じることが可能となる。
ここで、船体の船首側には主として波浪衝撃による起振力が与えられる。波浪衝撃を起振力とした船体振動は、推進装置に由来する起振力で励起される船体振動より振幅が大きい。そこで本構成では、コンテナ支持台の固有振動数がこの起振力による船体振動数と同一又はこれに近づくようにバネ定数を設定することにより、コンテナを動吸振器として作用させることができる。よって、船体とコンテナとの振幅拡大を抑えてコンテナの振動応答を抑制可能であるとともに、複数のコンテナが動吸振器として作用することにより船体の制振が可能となる。
一方、船体の船尾側には主としてプロペラ変動圧等の推進装置に由来する起振力が与えられる。推進装置に由来する起振力で励起される船体振動は、波浪衝撃を起振力とした船体振動より振動数が高く、コンテナを動吸振器として作用させることは困難である。そこで、船尾側ではコンテナ支持台の固有振動数がこの起振力による船体振動数より小さくなるようにバネ定数を設定することにより、起振力に対してコンテナの共振を回避し、船体とコンテナとの振幅拡大を抑えてコンテナの振動応答を抑制することが可能となる。
【0013】
さらに、前記船舶は甲板上の上部コンテナ収容区域と甲板下の下部コンテナ収容区域とを有しており、前記上部コンテナ収容区域及び前記下部コンテナ収容区域の前記コンテナ支持台に前記バネ機構がそれぞれ設けられていることが好ましい。
このように、上部コンテナ収容区域と下部コンテナ収容区域との両方にバネ機構を設けることにより、船舶全体における制振効果を向上させることができる。
【0014】
また、前記バネ機構はコイルバネを含むことが好ましい。
これにより、簡単な構成でコンテナの振動調整が可能となり、設備コストも安価にできる。
さらに、前記バネ機構は全長の異なる複数のコイルバネを含み、該バネ機構のたわみ量に応じてバネ定数が段階的に変化する構成とすることが好ましい。
これにより、コンテナの重量が変化しても常に最適なバネ定数に調整することが可能となる。また、コイルバネは使用時における制御が不要であるため取り扱いが容易となる。
【0015】
さらにまた、前記バネ機構はコイルバネと空気バネとを含むことが好ましい。
このように、コイルバネと空気バネとを併用したバネ機構とすることにより、空気バネで微細なバネ定数の調整ができ、且つ空気バネに不具合があった場合においてもコイルバネにより確実にコンテナを支持することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上記載のように本発明によれば、コンテナ支持台の底部にバネ機構を設け、このバネ機構によりコンテナが支持される構成としため、船体振動に対するコンテナの振動応答を小さくすることができ、多段に積載されたコンテナの荷崩れを防止できる。
また、コンテナとバネ機構とが、コンテナ自体(コンテナ支持台を含む)を振動体とし船体を制振対象とした動吸振器として作用するため、船舶の振動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る振動調整装置を備えたコンテナ船の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態におけるバネ機構の第1構成例を示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるバネ機構の第2構成例を示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるバネ機構の第3構成例を示す側面図である。
【図5】船体とコンテナの振動モデルを示す図であり、(A)は動吸振器の場合のモデル、(B)は共振回避の場合のモデルを示す。
【図6】コンテナの上下方向加速度を示すグラフである。
【図7】バネ機構と起振力の振動数比とコンテナ上下振動の船体振動に対する振幅拡大率の関係を示すグラフである。
【図8】従来のコンテナ船を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0019】
まず最初に、図1を用いて本発明の実施形態に係る振動調整装置を備えたコンテナ船の全体構成を説明する。
コンテナ船は、船体1の船首1Aから船尾1Bに亘って複数のコンテナ収容区域が設けられている。また、船尾1B側の船底に機関室6が配設されている。機関室6内には、推進用プロペラ8が連結される主機7や補機類が設置されている。さらに、機関室6の上部には、船員室や操舵室等を有する居住区9が設けられている。
【0020】
コンテナ収容区域は、甲板上に設けられた複数の上部コンテナ収容区域2と、甲板下に設けられた複数の下部コンテナ収容区域4とを有する。そして、上部コンテナ収容区域2及び下部コンテナ収容区域4にはそれぞれコンテナ支持台3、5が設けられている。コンテナ支持台3、5はいずれも剛性の高い材料、例えば鋼材で形成される。
具体的には、上部コンテナ収容区域2はハッチカバー上方に形成されている。このとき、上部コンテナ収容区域2におけるコンテナ支持台3はハッチカバー自体としてもよいし、ハッチカバーの上部にこれとは別にコンテナ支持台3を設けてもよい。上部コンテナ収容区域2のコンテナ支持台3上には、多数個のコンテナ10が複数段積み付けされて、これらのコンテナ10は固縛部材により固定される。
下部コンテナ収容区域4は隔壁によって仕切られた空間からなり、例えば貨物格納用ホールドである。下部コンテナ収容区域4の底部にはコンテナ支持台5が設けられている。このコンテナ支持台5上には、多数個のコンテナ10が複数段積載され、これらのコンテナ10は不図示のガイドによって隔壁に固定される。
【0021】
このような構成を有する船舶においては、波浪衝撃やプロペラ変動圧等のように、異なる複数の起振力が船体1に与えられる。これらの起振力により船体が振動し、これにともないコンテナ10が振動する。
本発明の実施形態に係る振動調整装置は、船体1への異なる複数の起振力により各コンテナ10に生じる振動を調整するものである。
この振動調整装置は、コンテナ支持台3、5の底部に配置されるバネ機構21、31を有している。このバネ機構21、31によりコンテナ支持台3、5は船体1に対して弾性支持される。バネ機構21、31は、複数のバネ部材から構成されるものである。
さらに振動調整装置は、コンテナ10の振動に主として影響を与える起振力に応じて、コンテナ支持台3、5ごとにバネ機構21、31のバネ定数が設定されている。ここでいうバネ定数とは、複数のバネ部材の合成バネ定数である。
【0022】
上記構成によれば、コンテナ支持台3、5の底部にバネ機構21、31を設け、このバネ機構21、31によりコンテナ10が支持される構成としため、船体振動に対するコンテナ10の振動応答を小さくすることができ、多段に積載されたコンテナ10の荷崩れを防止できる。
また、船体1に対してコンテナ10をバネ機構21、31で支持する構成としているため、このコンテナ10とバネ機構21、31とが、コンテナ10自体(コンテナ支持台を含む)を振動体とし船体を制振対象とした動吸振器として作用し、船舶の振動を抑制することが可能となる。このとき、コンテナ10の質量は動吸振器として有効に活かされる。したがって、新たに振動体を設置する必要がなく設備コストの増大を防げるとともに、新たに振動体を設置する場合に比べて船舶の積載重量を大きくとることができる。
さらに、船体1へは波浪衝撃やプロペラ変動圧等の異なる複数の起振力が与えられるが、本発明ではこれらの異なる複数の起振力に応じてコンテナ支持台3、5ごとにバネ機構21、31のバネ定数を設定しているため、船体1のどの部位においても船体1及びコンテナ10の振動に対して最適な振動抑制対策を講じることが可能となる。
【0023】
なお、本実施形態の振動調整装置において、バネ機構21、31は上部コンテナ収容区域2及び下部コンテナ収容区域4のコンテナ支持台3、5の少なくとも一方に設けられるが、好ましくは、図示したように上部コンテナ収容区域2及び下部コンテナ収容区域4のコンテナ支持台3、5の両方にバネ機構21、31が設けられているとよい。これにより船舶全体における制振効果をより一層向上させることができる。
【0024】
図2乃至図5を用いて、バネ機構31の具体的な構成例を説明する。
これらの図では、上部コンテナ収容区域2及び下部コンテナ収容区域4のコンテナ支持台3、5の両方にバネ機構21、31を設けた場合を示しているが、これに限定されるものではない。また、バネ機構の説明においては、下部コンテナ収容区域4のバネ機構31を例に挙げて説明するが、これと同様のバネ機構を上部コンテナ収容区域2のコンテナ支持台3にも適用できる。
【0025】
図2は本発明の実施形態におけるバネ機構の第1構成例を示す側面図である。
第1構成例のバネ機構31は、コンテナ10が載置されるコンテナ支持台5の底部に設けられた複数のコイルバネ32、32を含む。コイルバネ32は、例えばヘリカルコイルバネが用いられる。このコイルバネ32は、コンテナ収容区域4の底部とコンテナ支持台5との間に鉛直方向に架設され、バネ上端がコンテナ支持台5底面に固定され、バネ下端がコンテナ収容区域4の底部に固定される。ここで、コイルバネ32は鉛直方向に立設するようにコンテナ収容区域4の底部に固定されている場合は、バネ上端を固定しなくてもよい。
【0026】
このようにバネ機構31がコイルバネ32を含むことにより、簡単な構成でコンテナ10の振動調整が可能となり、設備コストも安価にできる。また、コイルバネ32は使用時における制御が不要であるため取り扱いが容易となる。
さらに、コイルバネ32は、対数減衰率の大きなバネであることが好ましい。これにより、コンテナ10の振動の減衰を促進でき、コンテナ10の振動応答をより一層低減することができる。
【0027】
図3は本発明の実施形態におけるバネ機構の第2構成例を示す側面図である。
第2構成例のバネ機構31は、コンテナ10が載置されるコンテナ支持台5の底部に設けられた全長の異なる複数のコイルバネ32a、32b、32cを含む。このバネ機構31は、そのたわみ量に応じてバネ定数が段階的に変化する構成となっている。
コイルバネ32a、32b、32cは、コンテナ収容区域4の底部とコンテナ支持台5との間に鉛直方向に立設され、バネ下端がコンテナ収容区域4の底部に固定されている。バネ上端は、水平方向に板状部材が設けられ、コンテナ支持台5の底面に面接触可能なように形成されている。なお、最も全長の長いコイルバネ32aにおいては、バネ上端がコンテナ支持台5の底面に固定されていてもよい。
【0028】
バネ機構31は、コンテナ10の重量に比例してたわみ量が大きくなる。このたわみ量に応じてバネ定数が段階的に変化することにより、コンテナ重量に応じて支持剛性を高くし、コンテナ重量変化によるたわみ量の変化を少なくする。
本第2構成例によれば、コンテナ10の重量が変化してもバネ機構31を常に最適なバネ定数に調整することが可能となる。
【0029】
図4は本発明の実施形態におけるバネ機構の第3構成例を示す側面図である。
第3構成例のバネ機構31は、コンテナ10が載置されるコンテナ支持台5の底部に設けられたコイルバネ32と空気バネ33とを含む。コイルバネ32と空気バネ33とは、コンテナ収容区域4の底部とコンテナ支持台5との間に鉛直方向に架設されている。
このように、コイルバネ32と空気バネ33とを併用したバネ機構31とすることにより、空気バネ33で微細なバネ定数の調整ができ、且つ空気バネ33に不具合があった場合においてもコイルバネ31により確実にコンテナ10を支持することができる。
【0030】
図1に戻り、本実施形態の振動調整装置の別の態様として、船体1の船首1A側と船尾1B側とでバネ機構31のバネ定数を変えてもよい。
船体1の船首1A側には主として波浪衝撃による起振力が与えられる。波浪衝撃を起振力とした船体振動は、推進装置の振動を起振力とした船体振動より振幅が大きい。そこで、船体1の船首1A側に配置されたコンテナ支持台5Aにおいては、コンテナ10が積載された状態で該コンテナ支持台5Aの固有振動数が波浪起振力による船体振動数と同一又はこれに近づくように、バネ機構31のバネ定数を設定する。
これにより、コンテナ10を動吸振器として作用させることができる。よって、船体1とコンテナ10との振幅拡大を抑えてコンテナ10の振動応答を抑制可能であるとともに、複数のコンテナ10が動吸振器として作用することにより船体1の制振が可能となる。
【0031】
具体例として、船首1A側のバネ機構31Aにおけるバネ定数の設定方法を説明する。
図5は船体とコンテナの振動モデルを示す図であり、(A)は動吸振器の場合のモデル、(B)は共振回避の場合のモデルを示す。

この振動モデルにおいて、波浪起振力による船体の振動数と、コンテナ(コンテナ支持台を含む)の振動数とを同じ振動数に調整して、船体とコンテナの振幅拡大を抑える。
ここで、制振対象である船体1の質量をM、バネ定数をK、減衰係数をCとし、動吸振器として作用するコンテナの総質量をm、バネ定数をkとし、さらに船体の絶対変位をX、コンテナの絶対変位をx、船体に与えられる起振力をFjΩtとする。
【0032】
コンテナの固有振動数fc、及び波浪起振振動数fEは以下のようになる。
【数1】

この振動モデルの運動方程式は以下の式となる。
【数2】

上記式から図6に示すグラフが得られる。図6はコンテナの加速度を示すグラフである。比較例としてコンテナをバネ機構で支持していない場合、つまり船体と一体となって移動する場合についても示している。このグラフから、バネ機構で支持したコンテナは、バネ機構で支持していないコンテナに比べて振幅が0.5倍以下であることがわかる。すなわちバネ支持により船体振動に対するコンテナの振幅拡大率を0.5以下とすることができる。
【0033】
一方、船体1の船尾1B側には主として推進用プロペラ変動圧による起振力が与えられる。推進用プロペラ変動圧を起振力とした船体振動は、波浪衝撃を起振力とした船体振動より振動数が高く、コンテナを動吸振器として作用させることは困難である。そこで、船体1の船尾1B側に配置されるコンテナ支持台5Bにおいては、コンテナ10が積載された状態で該コンテナ支持台5Bの固有振動数がプロペラ起振力による船体振動数より小さくなるように、バネ機構31Bのバネ定数を設定する。
これにより、プロペラ起振力に対してコンテナ10の共振を回避し、船体1とコンテナ10との振幅拡大を抑えてコンテナ10の振動応答を抑制することが可能となる。
【0034】
船尾1B側のバネ機構31Bにおけるバネ定数の設定方法を説明する。
コンテナ(コンテナ支持台を含む)の振動数が、プロペラ起振力による船体の振動数より小さくなるように調整して、起振力による船体の振動とコンテナの振動とが共振することを回避し、船体とコンテナの振幅拡大を抑える。
【0035】
ここで、コンテナの総質量をm、バネ定数をkとする。
コンテナの固有振動数fc、及びプロペラ起振力振動数fEは以下のようになる。
【数3】

又、コンテナの応答は以下の運動方程式から次のようになる。
【数4】

対数減衰率2πζが0.3以下の場合、図7に示す振動数比(fE/f)と振幅拡大率|x/X|の関係を示すグラフから、プロペラ起振力による船体振動に対する振幅拡大率が0.5以下となるのは、fE/f>1.73のときである。
よって、以下の式によりバネ機構31Bのバネ定数が求められる。対数減衰率が0.3以上の場合も、振幅拡大率が0.5以下となる振動数比を計算することで同様にバネ定数を求められる。
【数5】

【0036】
上記したように本実施形態によれば、コンテナ支持台3、5の底部にバネ機構21、31を設け、このバネ機構21、31によりコンテナ10が支持される構成としため、船体振動に対するコンテナ10の振動応答を小さくすることができ、多段に積載されたコンテナ10の荷崩れを防止できる。
また、コンテナ10とバネ機構21、31とが、コンテナ10自体(コンテナ支持台を含む)を振動体とし制振対象を船体1とした動吸振器として作用するため、船舶の振動を抑制することが可能となる。
さらに、船体1への異なる複数の起振力に応じてコンテナ支持台3、5ごとにバネ機構21、31のバネ定数を設定しているため、船体1のどの部位においても船体1及びコンテナ10の振動に対して最適な振動抑制対策を講じることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1 船体
1A 船首
1B 船尾
2 上部コンテナ収容区域
3 コンテナ支持台
4 下部コンテナ収容区域
5 コンテナ支持台
7 推進用プロペラ
10 コンテナ
21、31 バネ機構
32、32a、32b、32c コイルバネ
33 空気バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコンテナが積載される船舶に設けられる船舶積載コンテナの振動調整装置であって、
前記コンテナが載置される複数のコンテナ支持台の底部にそれぞれ設けられ、該コンテナ支持台を弾性支持するバネ機構を有することを特徴とする船舶積載コンテナの振動調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動調整装置が、船体への異なる複数の起振力により各コンテナに生じる振動を調整する装置であり、
前記コンテナの振動に主として影響を与える前記起振力に応じて、前記コンテナ支持台ごとに前記バネ機構のバネ定数が設定されており、
前記船体の船首側に配置された前記コンテナ支持台においては、前記コンテナが積載された状態で該コンテナ支持台の固有振動数が前記起振力による船体振動数と同一又はこれに近づくように前記バネ機構のバネ定数が設定され、
前記船体の船尾側に配置される前記コンテナ支持台においては、前記コンテナが積載された状態で該コンテナ支持台の固有振動数が前記起振力による船体振動数より小さくなるように前記バネ機構のバネ定数が設定されていることを特徴とする船舶積載コンテナの振動調整装置。
【請求項3】
前記船舶は甲板上の上部コンテナ収容区域と甲板下の下部コンテナ収容区域とを有しており、
前記上部コンテナ収容区域及び前記下部コンテナ収容区域の前記コンテナ支持台に前記バネ機構がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶積載コンテナの振動調整装置。
【請求項4】
前記バネ機構はコイルバネを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の船舶積載コンテナの振動調整装置。
【請求項5】
前記バネ機構は全長の異なる複数のコイルバネを含み、該バネ機構のたわみ量に応じてバネ定数が段階的に変化する構成としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の船舶積載コンテナの振動調整装置。
【請求項6】
前記バネ機構はコイルバネと空気バネとを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の船舶積載コンテナの振動調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−140071(P2012−140071A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293397(P2010−293397)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】