説明

船舶運航管理システム

【課題】所属している船舶保有グループの船舶だけでなく、他のグループの船舶の位置、移動方向を予測でき、同時に各船舶保有グループごとの独自情報も付加することができて、各保有グループごとの船舶の運航管理を可能とする。
【解決手段】各船舶には、GPS測位装置等と、パソコンおよび海図データと、データ通信端末を配置して、各船舶のパソコンと管理センターのコンピュータシステムとを相互にデータ通信可能に連絡すると共に、各船舶からは位置のデータ、時刻のデータ、方向のデータを管理センターのコンピュータシステムに送信する。管理センターには、海図データを備えたコンピュータシステムを配置し、各船舶保有グループには、それぞれパソコンおよび海図データとネットワーク機器を配置し、当該保有グループに所属する各船舶の位置のデータ、時刻のデータ、方向のデータを管理センターのコンピュータシステムから受信可能な船舶運航管理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海域を航行する複数のグループに所属する船舶の位置を把握でき、かつそれぞれのグループに所属する船舶のグループごとに必要な情報を、当該グループで把握して管理することができる船舶運航管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海上の埋立工事等では、埋立用の土砂を埋立工区まで運搬し、埋立海域に投入する作業が繰り返し行なうことになるが、その場合、埋立の進捗に応じて埋立海域内の水深が徐々に浅くなる。
【0003】
したがって、水深が浅くなった海域には土運船が進入しないようにするため、その埋立作業の進捗に合わせて水深が浅いことを示す旗やブイを適宜設置して、作業船が旗やブイを避けて航行することにより、座礁を防止して安全をはかっていた。
【0004】
しかしながら、上記のごとき旗やブイの設置による方法の場合、埋立海域が広大で多数の作業船が行き交う状況では、作業船の安全を確保するためには埋立作業の効率を犠牲にせざるを得ないという問題があった。
【0005】
そこで、上記の問題点を考慮して、多数の作業船が埋立海域内で航行している状況であっても、埋立効率を低下させることなく衝突や座礁を未然に防止可能にしていること(例えば、特許文献1参照。)が従来知られている。
【0006】
上記の公知の発明の航行水域管理システムについて、図2のシステム全体図および図3のこの航行水域管理システム1を用いて海上埋立造成を行なっている作業領域全体の斜視図によって説明すると、この航行水域管理システム1は、作業船2、測量船4にそれぞれ搭載された作業船側コンピュータ3、測量船側コンピュータ5と、作業船2及び測量船4から離間設置される管理側コンピュータ6とから概ね構成してあり、作業船側コンピュータ3や測量船側コンピュータ5にはGPS測量装置7を接続してある。測量船側コンピュータ5には、測量船4下方の水深を計測する超音波測深機10を接続してある。一方、管理側コンピュータ6は、測量船側コンピュータ5から受信した水深データ及びGPS測量データに基づいて水深マップを作成してデータ送信し、かかる水深マップを作業船側コンピュータ3や測量船側コンピュータ5にて自船位置とともに画像表示するようになっている。
【0007】
また、図2および図3のこの航行水域管理システム1は、土運船等の作業船2に搭載された作業船側コンピュータ3と、測量船4に搭載された測量船側コンピュータ5と、作業船2及び測量船4から離間した管理センター21内に設置される管理側コンピュータ6とから概ね構成してある。
【0008】
ここで、作業船側コンピュータ3や測量船側コンピュータ5には、干渉測位方式の一種であるRTK−GPS(リアルタイムキネマティックGPS)方式で作動するGPS測量装置7を接続してあり、GPSアンテナ9で受信されたGPS信号と固定局22から送信され図示しない無線機で受信されたRTK補正データとを用いて作業船2や測量船4の位置を高精度に計測できるようになっている。
【0009】
測量船側コンピュータ5には、測量船4下方の水深を計測する超音波測深機10を接続してあり、計測した水深データを測量船側コンピュータ5に出力するようになっている。
【0010】
これら作業船側コンピュータ3及び測量船側コンピュータ5にはパケット通信専用端末8を接続してあり、GPS測量装置7で得られたGPS測量データや超音波測深機10で計測された水深データをパケット通信専用端末8からデータ送信するようになっている。
【0011】
パケット通信専用端末8は、例えばNTT移動通信網株式会社から市販されているDoPa(登録商標)対応端末を用いることが可能である。なお、その場合、後述するパケット通信ネットワークは、やはりNTT移動通信網株式会社が提供する通信サービスネットワークであるDoPa網となる。
【0012】
一方、管理側コンピュータ6は、測量船側コンピュータ5からのGPS測量データ及び水深データ並びに作業船側コンピュータ3からのGPS測量データを、パケット通信専用端末8及びパケット通信ネットワーク11を介してデータ受信し、該GPS測量データ及び水深データに基づいて作成された情報を管理側データとして測量船側コンピュータ5や作業船側コンピュータ3に送信するようになっており、かかる構成により、管理側コンピュータ6と作業船側コンピュータ3及び測量船側コンピュータ5は、相互にデータ通信可能な状態となる。
【0013】
具体的には、パケット通信専用端末8からデータ送信されたGPS測量データや水深データは、パケット通信ネットワーク11の一部を構成する基地局12でそれぞれ受信された後、ルータ13、ルータ14及びこれらのルータ13,14をLAN接続する通信回線15を介して管理側ネットワーク16へと送信され、次いで、該管理側ネットワークの一部を構成する管理側コンピュータ6にて受信されるとともに、受信されたGPS測量データ及び水深データは、該管理側コンピュータ6で処理される。
【0014】
しかしながら、上記従来の航行水域管理システム1は、基本的には一つの埋立範囲23の埋立工事区間内における各作業船それぞれの航行を把握して管理しようとするものであり、広い海域にはそれぞれ複数のグループに所属する各種の作業船、海運会社の船舶、フェリー運航会社の船舶、地域ごとの漁業共同組合の漁船等が運航しており、この管理システム以外の他のグループの船舶の位置の把握と移動方向の予測はできず、そのために発生する事故を未然に防ぐことはできないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−319300号公報(第2−7頁、第1図及び第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、所属している船舶保有グループの船舶だけでなく、他のグループの船舶の位置、移動方向を予測でき、事故を未然に防止でき、同時に各船舶保有グループごとの独自情報も付加することができて、各保有グループごとの船舶の運航管理が可能となる船舶運航管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、各船舶には、1台のGPS測位装置または2台のGPS測位装置または1台のGPS測位装置とジャイロコンパスと、パソコンおよび海図データと、データ通信端末を配置して、各船舶からは位置のデータ、時刻のデータ、および/または方向のデータを管理センターのコンピュータシステムに送信し、管理センターには、海図データを備えたコンピュータシステムを配置し、このコンピュータシステムにおいて全船舶の位置のデータ、時刻のデータ、および/または方向のデータを記憶し、各船舶保有グループには、それぞれパソコンおよび海図データとネットワーク機器を配置し、上記各船舶のパソコンと管理センターのコンピュータシステムとを相互にデータ通信可能に連絡すると共に、上記各船舶保有グループと管理センターのコンピュータシステムとを相互にデータ通信可能に連絡し、管理センターのコンピュータシステムにおいて記憶した全船舶の位置のデータ、時刻のデータおよび/または方向のデータを各船舶のパソコンに送信し、かつ各船舶から各船舶保有グループで定めた諸情報を送信し、各船舶保有グループから当該保有グループに所属する各船舶の位置のデータ、時刻のデータおよび/または方向のデータを管理センターのコンピュータシステムから受信可能な船舶運航管理システムからなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所属している船舶保有グループの船舶だけでなく他のグループの船舶の位置、方向が船舶側で把握できるので、船舶の移動方向を予測でき、事故を未然に防ぐことができる。また、同時に各船舶保有グループごとの独自情報も付加することができ、各保有グループごとの船舶の運航管理が可能となる。
万一、事故が発生した場合には、管理センター側で航跡を把握することが可能であり、第三者として事故を起こした船舶を特定することが可能である。
異常発生時のみに、データの送信間隔を短縮することができるので、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して本発明の船舶運航管理システムの実施の形態について説明するが、図1はその一実施形態におけるシステム構成図である。
【0019】
まず、この船舶運航管理システムは、複数のグループに所属する船舶20の位置を把握でき、かつそれぞれのグループに所属する船舶の各グループごとに必要な情報を、当該グループで把握して管理するものであり、このシステムは、各船舶20と、管理センター21と、各船舶保有グループ27とから構成されている。
【0020】
最初に、各船舶20には、1台のGPS測位装置17または2台のGPS測位装置17または1台のGPS測位装置17とジャイロコンパス18と、パソコン19および図示されていない海図データ(CD−R)とデータ通信端末の船側搭載設備を配置している。
【0021】
次に管理センター21には、データベースサーバ22を核としたコンピュータシステムが配置され、これはデータサーバ、パソコンおよび海図データ(CD−R)、船舶20用の配信サーバ24と、(フェリー運航会社、貨物船運航会社、作業船保有会社、漁業共同組合等の)船舶保有グループ27用の配信サーバ25を配置しており、データベースサーバ22と各配信サーバ24,25および管理パソコン26を連絡している。
【0022】
さらに、各船舶保有グループ27には、それぞれパソコン28および海図データ(CD−R)とネットワーク機器を配置している。
【0023】
上記の各船舶20のパソコン19と管理センター21の配信サーバ24とは、図2の従来例と同様なパケット通信によりLAN接続し、このパケット通信では、各船舶20からのデータを無線で基地局31へ送信し、基地局31側のルータ30を経由して、通信回線32を通じて管理センター21側のルータ33を経由して管理センター21のコンピュータシステムに送り、管理センター21からのデータは、上記と逆のルートにより送られる。
【0024】
また、各船舶保有グループ27のパソコン28と船舶保有グループ27用の配信サーバ25とはインターネットで接続するが、このインターネットに代えて前記のパケット通信によるLAN接続も可能である。
【0025】
さらにこの実施形態におけるシステムでは、船舶20から船舶20用の配信サーバ24への送信データの送信の際は、船舶20側の電話番号と船舶20側のパソコン19のIPアドレスを対にして当該船舶20のデータであることを認証している。
【0026】
また、この実施形態のシステムでは、船舶保有グループ27から船舶保有グループ27用の配信サーバ25へアクセスする際は、一般的な認証手段を設けている。
【0027】
上記の船舶20からは、パケット通信によって通常は5から10分間隔で、当該船舶20の位置と方向の情報(1台のGPS測位装置17のみを配置した時は、方向の情報は得られない)と共に、その船舶20が所属している船舶保有グループ27で定めた(航行中、接岸中、荷役中、待機中、避難中、異常発生等の)情報を時刻と共に船舶20用の配信サーバ24へ送信するようになっている。 なお、時刻は、GPS時刻(国際標準時間)を使用し、各船舶20からの情報を管理センター21へ送信するタイミングは、全ての船舶20同時の方がより好ましいが、同時に膨大な情報が送られてくるので大容量の設備が必要になる。船舶20の位置は、かなり遠方から目視で確認できるので、船舶20がランダムに送信しても運用上問題はなく、ランダムに送信した方が設備に要する費用が少なくてすむ。
【0028】
管理センター21からは、所定時間(5〜10分)ごとに船舶用の配信サーバ24から当該船舶20の位置と方向(1台のGPS測位装置17のみを配置したときは、方向の情報は得られない。)の情報と他の全船舶20の位置と方向の情報(1台のGPS測位装置17のみを配置したときは、方向の情報は得られない。)を船舶20のパソコン19に送信し、船舶20に配置したパソコン19の画面に海図と共にこれらを表示する。また、管理センター21からは必要に応じ、工事中の海域等、航行できない海域の情報、気象情報等を各船舶20のパソコン19に送信することも可能である。
【0029】
船舶保有グループ27からは、認証によって当該船舶保有グループ27に所属する船舶20だけの情報を船舶保有グループ27用配信サーバ25から受信できる。船舶保有グループ27では、この情報をパソコン28に表示してその船舶保有グループ27に所属する全船舶20の位置、方向(1台のGPS測位装置17のみを配置したときは、方向の情報は得られない。)、作業内容の管理を行なう。 船舶20から航路逸脱や進入禁止場所への侵入など異常発生の情報が管理センター21に送信されたときには、以下のような対応が可能である。(パケット通信は送信データ量に対して課金されるため、データ送信間隔を短縮すると料金が高くなるので、費用を負担する船舶保有グループが適宜選定できるようにする。)なお、異常発生の情報は、異常発生を入力すると直ちに管理センター21へ送信するように設定することも可能である。
【0030】
管理センター21から自動的に当該船舶保有グループ27へ異常状態であることが送信され、設定により自動的に船舶20からのデータ送信間隔が短縮(例えば1分間隔)する。
【0031】
管理センター21から自動的に当該船舶保有グループ27へ異常状態であることが送信され、当該船舶保有グループ27から当該船舶20からのデータ送信間隔を短縮(例えば1分間隔)できる。
【0032】
管理センター21のデータサーバ24は、全船舶20の時刻、位置、方向(1台のGPS測位装置17のみを配置したときは、方向の情報は得られない。)の情報を保存するので、万が一システムを搭載した船舶20が衝突事故を起こしたときには、これらの情報から全船舶20の航跡を管理センター21のパソコンに表示することが可能であり、どの船舶20が衝突したのかを調査・立証することができる。
【0033】
台船等の無人の船舶20には、パソコン19は配置せずにプロトコル変換器のみを配置し、太陽電池を搭載することで、位置、方向、時刻のデータを管理センター21へ送信し、船舶保有グループ27で管理することが可能である。これにより、海象条件が悪いときに台船が漂流してしまったときに、漂流状況を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の船舶運航管理システムの一実施形態におけるシステム構成図である。
【図2】従来における航行水域管理システムを示した全体図である。
【図3】図1のシステムを用いて海上埋立造成を行なっている様子を示した作業領域全体の斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
17GPS測位装置
18ジャイロコンパス
19パソコン
20船舶
21管理センター
22データベースサーバ
24配信サーバ
25配信サーバ
26管理用パソコン
27船舶保有グループ
28パソコン
30ルータ
31基地局
33ルータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各船舶には、1台のGPS測位装置または2台のGPS測位装置または1台のGPS測位装置とジャイロコンパスと、パソコンおよび海図データと、データ通信端末を配置して、各船舶からは位置のデータ、時刻のデータ、および/または方向のデータを管理センターのコンピュータシステムに送信し、管理センターには、海図データを備えたコンピュータシステムを配置し、このコンピュータシステムにおいて全船舶の位置のデータ、時刻のデータ、および/または方向のデータを記憶し、各船舶保有グループには、それぞれパソコンおよび海図データとネットワーク機器を配置し、上記各船舶のパソコンと管理センターのコンピュータシステムとを相互にデータ通信可能に連絡すると共に、上記各船舶保有グループと管理センターのコンピュータシステムとを相互にデータ通信可能に連絡し、管理センターのコンピュータシステムにおいて記憶した全船舶の位置のデータ、時刻のデータおよび/または方向のデータを各船舶のパソコンに送信し、かつ各船舶から各船舶保有グループで定めた諸情報を送信し、各船舶保有グループから当該保有グループに所属する各船舶の位置のデータ、時刻のデータおよび/または方向のデータを管理センターのコンピュータシステムから受信可能な船舶運航管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−226259(P2008−226259A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97839(P2008−97839)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【分割の表示】特願2003−43811(P2003−43811)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【Fターム(参考)】