説明

色素増感型太陽電池の製造方法

【課題】本発明は、塗布法を用いて固体電解質層を形成する場合に、発電特性や耐久性に優れた色素増感型太陽電池を得ることができる色素増感型太陽電池の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の色素増感型太陽電池1の製造方法は、導電性基材10上に、金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層を形成する前駆層形成工程と、前駆層の金属酸化物半導体微粒子に増感色素を担持させて多孔質層20を形成する多孔質層形成工程と、前駆層又は多孔質層20に、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時におこなう前駆層又は多孔質層改質工程と、多孔質層20上に、酸化還元対、固体化剤及び溶媒を含む塗工液を塗布して固体電解質層30を形成する固体電解質層形成工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型の太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素が原因とされる地球温暖化が世界的に問題となっている近年、環境にやさしくクリーンなエネルギー源として太陽光エネルギーを利用した太陽電池の積極的な研究開発が進められている。その中でも、高い光電変換効率を有する低コストの太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されている。
【0003】
色素増感型太陽電池は、例えば、光の入射側から、導電性基材、増感色素が担持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層、酸化還元対を含む電解質層、及び対向電極が順に配置されて構成されている。
【0004】
ここで、電解質層の一般的な形成方法として、酸化還元対などが溶媒に溶解ないし分散された塗工液を多孔質層上に塗布する方法(以下、「塗布法」と記載する。)と、多孔質層が配置された導電性基材及び対向電極を所定の間隙を有するようにシール剤などを用いて封止した後に、電解質液をその間隙に注入する方法(以下、「注入法」と記載する。)を挙げることができる。
【0005】
従来の色素増感型太陽電池では、電解質層として流動性の高い液体電解質層が用いられていたので、電解質層の形成方法として注入法が多く採用されていた。しかし、注入法は、作業が複雑なので、生産性の向上を図ることが難しいという問題があった。また、液体電解質層では、上記封止剤を用いて電解質層を封止したとしても、電解質層からの液漏れが発生するおそれがあるという問題があった。
【0006】
これに対して、液体電解質層の代わりに、固体電解質層を用いる色素増感型太陽電池が検討されている(例えば特許文献1)。固体電解質層は流動性を示さないので、電解質層の形成方法として塗布法を採用することが可能になる。塗布法を用いることで、電解質層の形成を容易におこなうことができ、生産性の向上を図ることができる。また、固体電解質層を用いることで、電解質層からの液漏れを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−193705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、塗布法では、酸化還元対などが溶媒に溶解ないし分散された塗工液を多孔質層上に塗布する。このとき、多孔質層の溶剤に対する耐久性が低いと、塗工液に含まれる溶媒によって多孔質層の金属酸化物半導体微粒子間の密着性が低下し、色素増感型太陽電池の発電特性や耐久性が低下してしまう。電解質層を固体化するために用いられる固体化剤を塗工液に溶解ないし分散させるためには溶媒の使用が必須であると考えられるので、多孔質層の溶剤に対する耐久性を改善することは、固体電解質層を用いる色素増感型太陽電池の製造方法で重要な課題である。
【0009】
また、塗布法を用いて固体電解質層を形成する場合に、多孔質層の固体電解質層形成用の塗工液に対する濡れ性が低いと、塗工液が多孔質層の孔奥まで浸透せず、色素増感型太陽電池の発電特性が不十分になるおそれがある。また、多孔質層の固体電解質層形成用の塗工液に対する濡れ性が低い場合には、多孔質層上に塗布された塗工液が多孔質層表面で十分に平滑化せずに固体化され、形成される固体電解質層の厚みが不均一になり、固体電解質層上に対向電極を配置した際に、固体電解質層と対向電極との密着が不十分な箇所が生じるおそれがある。固体電解質層はいったん固体化すると流動性を有さなくなるので、多孔質層の固体電解質層形成用の塗工液に対する濡れ性を改善することは、固体電解質層を用いる色素増感型太陽電池の製造方法で重要な課題である。
【0010】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、塗布法を用いて固体電解質層を形成する場合に、多孔質層の溶剤に対する耐久性や多孔質層の固体電解質層形成用の塗工液に対する濡れ性を改善して、発電特性や耐久性に優れた色素増感型太陽電池を得ることができる色素増感型太陽電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、下記を要旨とする。
第1の発明は、導電性基材と、前記導電性基材上に配置され、増感色素が担持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層と、前記多孔質層に対向して配置された対向電極と、前記多孔質層及び前記対向電極の間に配置された固体電解質層とから構成される色素増感型太陽電池の製造方法であって、導電性基材上に、金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層を形成する前駆層形成工程と、前記前駆層の金属酸化物半導体微粒子に増感色素を担持させて多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、前記前駆層又は前記多孔質層に、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時におこなう前駆層又は多孔質層改質工程と、多孔質層上に、酸化還元対、固体化剤及び溶媒を含む塗工液を塗布して固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程とを備える色素増感型太陽電池の製造方法である。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記導電性基材がフレキシブル性を有する金属製基材である色素増感型太陽電池の製造方法である。
【0013】
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明において、前記前駆層が結着剤を含み、前記焼成処理を前記結着剤の熱分解開始温度以上でおこなう色素増感型太陽電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の色素増感型太陽電池の製造方法によれば、多孔質層の溶剤に対する耐久性や多孔質層の固体電解質層形成用の塗工液に対する濡れ性が改善されるので、多孔質層上に塗布法を用いて固体電解質層を形成した場合に、発電特性や耐久性に優れた色素増感型太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法で得られる色素増感型太陽電池の一つの実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の色素増感型太陽電池の製造方法の幾つかの実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明の色素増感型太陽電池の製造方法の幾つかの実施形態の各工程で形成される積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法によって得られる色素増感型太陽電池の例を、図1を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の製造方法で得られる色素増感型太陽電池の一つの実施形態を示す断面図である。この色素増感型太陽電池1は、導電性基材10と、導電性基材10上に配置され、増感色素が担持された金属酸化物半導体微粒子を有する多孔質層20と、多孔質層20に対向して配置された対向電極40と、多孔質層20及び対向電極40の間に配置された固体電解質層30とから概略構成されている。導電性基材10及び対向電極40の少なくとも一方は増感色素の励起波長に対して光透過性を有している。なお、本発明の色素増感型太陽電池は、直列又は並列に接続された二以上の発電領域を備えていてもよい。
【0018】
色素増感型太陽電池の発電機構としては、まず、光透過性を有する導電性基材10又は/及び対向電極40側から入射された太陽光は、多孔質層20の金属酸化物半導体微粒子に担持された増感色素を励起する。励起された電子は、金属酸化物半導体微粒子を介して導電性基材10及び対向電極40へ伝導される。その後、電解質層30の酸化還元対を介して増感色素の基底準位に電子が戻ることによって、色素増感型太陽電池1は発電する。
【0019】
本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、前駆層形成工程、多孔質層形成工程、前駆層又は多孔質層改質工程、及び固体電解質層形成工程から少なくとも構成される。図2及び図3は、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法の幾つかの実施形態を示すフローチャート及び各工程で形成される積層体の断面図である。図2(a)及び図3(b)に示す実施形態では、前駆層形成工程後に多孔質層改質工程のプレス処理及び焼成処理をこの順で行い、その後に多孔質層形成工程及び固体電解質層形成工程を行う。図2(b)及び図3(b)に示す実施形態では、前駆層形成工程後に多孔質層改質工程のプレス処理及び焼成処理を同時に行い、その後に多孔質層形成工程及び固体電解質層形成工程を行う。図2(c)及び図3(c)に示す実施形態では、前駆層形成工程後に多孔質層形成工程を行い、多孔質層形成工程後に多孔質層改質工程のプレス処理及び焼成処理をこの順で行い、その後に固体電解質層形成工程を行う。図2(d)及び図3(d)に示す実施形態では、前駆層形成工程後に多孔質層形成工程を行い、多孔質層形成工程後に多孔質層改質工程のプレス処理及び焼成処理を同時に行い、その後に固体電解質層形成工程を行う。図2(e)及び図3(e)に示す実施形態では、前駆層形成工程後、多孔質層改質工程のプレス処理が行われ、その後に多孔質層形成工程が行われた後、多孔質層改質工程のプレス処理を行う、その後に固体電解質層形成工程を行う。
以下、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法を詳細に説明する。
【0020】
<前駆層形成工程>
本工程は、導電性基材10上に、金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層を形成する工程である。なお、前駆層とは、多孔質層の前駆となる層である。前駆層に含まれる金属酸化物半導体微粒子に増感色素を担持させることで、多孔質層が形成される。
【0021】
(導電性基材)導電性基材は、少なくとも一方の面が導電性を有する基材である。導電性基材としては、例えば、金属製基材などを用いることができ、あるいは、ガラス製基材や樹脂製基材などの絶縁性基材上に導電層を形成させたもの又はガラス製基材や樹脂製基材などの絶縁性基材上に金属製基材を貼り合わせたものなどを用いることができる。具体的には、金属として、チタン、クロム、タングステン、モリブデン、白金、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、及び鉄などの単体、ステンレス鋼などの前記金属の合金、並びに前記金属に他の前記金属を被覆させたものを挙げることができ、入手が比較的容易で低コストなので、好ましくはチタン、クロム、アルミニウム、ステンレス鋼を用いたものである。また、ガラスとして、ケイ酸塩やホウ酸塩を主成分としたものを挙げることができる。また、樹脂として、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、並びにポリイミドを挙げることができる。なお、導電性基材は、単独で使用しても良く、2種以上の異なる基材を積層して使用しても良い。
【0022】
導電性基材は、透明であっても不透明であっても良いが、光の受光面側に位置する場合には、増感色素の励起波長に対して光透過性を有することを要する。また、導電性基材は、フレキシブル性を有することが好ましい。フレキシブル性を有する導電性基材は、後述するプレス処理を高圧でおこなっても破損し難いからである。なお、フレキシブル性の有無は、採用する材料に応じてJIS R1601のファインセラミックスの曲げ試験方法又はJISZ2248の金属材料曲げ試験方法をおこなって、5×103Nの力をかけたときに曲がるか否で判断することができる。また、導電性基材は、耐熱性が高いことが好ましい。耐熱性が高い導電性基材は、後述する焼成処理を高温でおこなっても溶融や破損し難いからである。
【0023】
本発明では、金属製基材を用いることが好ましい。金属製基材は一般的にガラス製基材などよりも脆くないので、後述するプレス処理をより高圧でおこなうことができ、かつ金属製基材は一般的に樹脂製基材などよりも耐熱性が高いので、後述する焼成処理をより高温でおこなうことができ、そのため、色素増感型太陽電池の発電特性および耐久性をより向上させることができるからである。
【0024】
導電性基材の厚さとしては、導電性基材に要するフレキシブル性の程度や色素増感型太陽電池の用途などに応じて適宜選択することができるが、通常、5μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に10μm〜500μmの範囲内であることが好ましく、20μm〜200μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0025】
絶縁性基材上に形成される導電層の材料としては、導電性に優れたものであれば特に限定はされないが、光の受光面側に位置する導電層においては、光透過性に優れているものであることが好ましい。光透過性に優れた材料として、例えば、SnO2、ITO、FTO、ZnO、IZOなどを挙げることができる。中でも、FTO、ITOは、導電性及び光透過性の両方に優れているため特に好ましく用いられる。導電層の膜厚としては、0.1nm〜500nmの範囲内、好ましくは1nm〜300nmの範囲内である。
【0026】
このような導電層を形成する方法としては、特に限定はされないが、蒸着法、スパッタ法、CVD法などを挙げることができる。中でも、スパッタ法が好ましく用いられる。
【0027】
(金属酸化物半導体微粒子)金属酸化物半導体微粒子は、増感色素から発生した電子を導電性基材へ伝導させることができるものであれば特に限定はされない。具体的には、TiO2、ZnO、SnO2、ITO、ZrO2、SiO2、MgO、Al23,CeO2、Bi23、Mn34、Y23、WO3、Ta25、Nb25、La23などを挙げることができる。これらの金属酸化物半導体微粒子は、いずれか一種を使用しても良く、また、2種以上を混合して使用してもよい。中でも、TiO2を好ましく用いることができる。
【0028】
金属酸化物半導体微粒子の粒径としては、1nm〜10μmの範囲内、特に、10nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。また、粒径の異なる金属酸化物半導体微粒子を混合して用いてもよい。
【0029】
(結着剤)金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層には、結着剤を含有させることが好ましい。金属酸化物半導体微粒子と導電性基材の間や金属酸化物半導体微粒子間を結着剤がつなぐことで、前駆層及び多孔質層を安定的に保持することができ、特に、前駆層又は多孔質層の後述するプレス処理に対する耐久性を向上させることができる。
【0030】
このような結着剤としては、樹脂を好適に用いることができる。結着剤として用いられる樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、エステル系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、フェノール系樹脂 、アイオノマー樹脂などを挙げることができる。具体的には、ポリエーテル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、セルロースを主鎖に持つ高分子ないしはこれらのモノマー成分2種類以上を含む高分子共重合体等を好ましく用いることができる。
【0031】
前駆層中の結着剤の含有量は、金属酸化物半導体微粒子と結着剤の総和に対して1重量%〜50重量%の範囲内、なかでも5重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
【0032】
(前駆層の形成)導電性基材上に金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層を形成する方法としては、特に限定はされないが、塗布法により形成することが好ましい。塗布法では、例えば、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、プラネタリーミキサーなどの公知の分散機を用いて金属酸化物半導体微粒子を溶媒に分散させることで前駆層形成用の塗工液を調整し、その後、前駆層形成用の塗工液を導電性基材上に塗布し乾燥して、前駆層を形成する。
【0033】
前駆層形成用の塗工液の溶媒としては、金属酸化物半導体微粒子を分散できるものであれば特に限定はされない。具体的には、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒、及び純水などを挙げることができる。
【0034】
その他、必要に応じて、前駆層形成用の塗工液の塗工適性を向上させるために、各種添加剤を用いてもよい。添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、分散助剤、pH調節剤などを用いることができる。pH調整剤としては、例えば、硝酸、塩酸、酢酸、アンモニアなどを挙げることができる。
【0035】
前駆層形成用の塗工液を塗布する方法としては、公知の塗布方法であれば特に限定はされないが、具体的には、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷などを挙げることができる。このような塗布方法を用いて、一回又は複数回、塗布及び乾燥を繰り返すことにより、前駆層を所望の膜厚になるよう調整して形成する。
【0036】
<多孔質層形成工程>
本工程は、前駆層の金属酸化物半導体微粒子に増感色素を担持させて多孔質層20を形成する工程である。
【0037】
(増感色素)増感色素は、光を吸収し起電力を生じさせることが可能なものであれば、特に限定はされない。具体的には、有機色素又は金属錯体色素を使用することができる。例えば、有機色素としては、アクリジン系、アゾ系、インジゴ系、キノン系、クマリン系、メロシアニン系、フェニルキサンテン系、インドリン系、スクアリウム系、カルバゾール系の色素が挙げられる。特に、インドリン系の色素及びカルバゾール系の色素が好適に用いられる。また、金属錯体色素としては、ルテニウム系色素、特にルテニウムビピリジン色素及びルテニウムターピリジン色素が好ましく用いられる。このような増感色素を金属酸化物半導体微粒子に担持させることにより、可視光の範囲まで効率的に取り込んで光電変換を生じさせることができる。
【0038】
(多孔質層の形成)増感色素を前駆層の金属酸化物半導体微粒子に担持させる方法としては、例えば、金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層を増感色素の溶液に浸漬させた後で乾燥させる方法や、増感色素の溶液を金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層上に塗布し浸透させた後で乾燥させる方法などを挙げることができる。増感色素の溶液に使用する溶媒は、用いる色素増感剤の種類に応じて、公知の溶媒から適宜選択することができる。
【0039】
多孔質層中の金属酸化物半導体微粒子の含有量としては、40重量%〜99.9重量%の範囲内、中でも、85重量%〜99.5重量%の範囲内であることが好ましい。また、多孔質層の膜厚としては、1μm〜100μmの範囲内、その中でも、5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、多孔質層の膜抵抗を小さくすることができ、また、多孔質層による光吸収が十分に行われるからである。
【0040】
<前駆層又は多孔質層改質工程>
本工程は、前駆層又は多孔質層に、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時におこなう工程である。本発明では、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時に少なくとも1回ずつ以上おこなうことで、前駆層又は多孔質層を改質し、塗布法を用いて固体電解質層を形成させるのに適した多孔質層を得ることができる。そのため、後述する固体電解質層形成工程にて多孔質層上に塗布法を用いて固体電解質層を形成し、優れた発電特性と耐久性を有する色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0041】
すなわち、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時にで少なくとも1回ずつ以上おこなうことで、金属半導体微粒子間を十分に結合させることができるので、多孔質層の固体電解質形成用の塗工液に対する溶剤耐久性が向上する。
【0042】
また、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時にで少なくとも1回ずつ以上おこなうことで、金属半導体微粒子表面に付着した有機物成分を蒸散させ、多孔質層の固体電解質形成用の塗工液に対する濡れ性を向上させることができるので、塗工液が多孔質層の孔奥まで浸透するようになる。さらに、多孔質層の固体電解質形成用の塗工液に対する濡れ性を向上させると、多孔質層上に塗布された塗工液が十分に平滑化して、形成される固体電解質層の厚みが均一になり、固体電解質層上に対向電極を配置した際に、固体電解質層と対向電極を均等に密着させることができる。
【0043】
本発明では、焼成処理の前にプレス処理をおこなうか、プレス処理と焼成処理を一緒におこなうことが重要である。最初に焼成処理のみをおこなうと、その後にプレス処理をおこなった際に、前駆層又は多孔質層にひび割れや剥離が発生してあるいは前駆層又は多孔質層が細粒化して、前駆層又は多孔質層が破壊されるおそれがあるからである。
【0044】
本発明では、プレス処理及び焼成処理をこの順でおこなうことがより好ましい。最初にプレス処理のみをおこなって、その後に焼成処理をおこなう方が、プレス処理と焼成処理を同時におこなうよりも、プレス処理の効果をより確実に発現させることができるからである。
【0045】
プレス処理及び焼成処理は、この順又は同時にで少なくとも一回ずつ以上おこなうのであれば、複数回おこなってもよい。また、プレス処理及び焼成処理は、前駆層又は多孔質層のいずれに対しておこなってもよく、例えば、前駆層又は多孔質層にプレス処理と焼成処理の両方をおこなってもよいし、前駆層にプレス処理のみをおこない多孔質層に焼成処理をおこなってもよい。
【0046】
プレス処理の方法は、所望の圧力で前駆層又は多孔質層をプレス処理できる方法であれば、特に限定されず、例えば、板プレス機やロールプレス機を用いてプレス処理をおこなうことができる。ロールプレス機は、高圧でのプレスを簡易におこなうことができるので好ましく用いることができる。ロールプレス機を用いる場合には、破損を防ぐために、フレキシブル性を有する導電性基材を用いることが好ましい。なお、加熱しながらプレスできる熱プレス機を用いることで、プレス処理と後述する焼成処理を同時におこなうことができる。また、プレス処理において、後述する焼成処理の温度未満の温度かつ前駆層又は多孔質層が破壊されない程度の温度で加熱しながらプレスすることができる。
【0047】
プレス処理の圧力は、5×103N/m〜1×106N/mの線圧力で行うことが好ましい。5×103N/m以上でプレスをおこなうことで、プレス処理の効果を確実に発現させることができる。また、1×106N/m以下でプレスをおこなうことで、導電性基材の破損や前駆層又は多孔質層の破壊を防ぐことができる。
【0048】
焼成処理の方法は、所望の温度で前駆層又は多孔質層を焼成処理できる方法であれば、特に限定されない。
【0049】
焼成処理の温度は、導電性基材の耐熱温度未満とすることが好ましい。導電性基材の耐熱温度とは、色素増感型太陽電池の導電性基材として用いることができない程の変形が見られる温度である。導電性基材の耐熱温度は、樹脂製基材では樹脂のガラス転移温度から推定することができ、金属製基材やガラス製基材では金属又はガラスの融解温度から推定することができる。
【0050】
また、前駆層に結着剤を含有させた場合には、前駆層に含有させている結着剤の熱分解開始温度以上で焼成処理をおこなうことが好ましい。前駆層に結着剤を含有させることで、上述のように前駆層及び多孔質層を安定的に保持することができ、プレス処理に対する耐性を向上させることができるが、他方で多孔質層に結着剤が残存すると、固体電解質層の成分によって結着剤が経時的に劣化し、色素増感型太陽電池の耐久性が低くなるおそれがある。そのため、結着剤の熱分解開始温度以上で焼成処理をおこない、前駆層から結着剤を蒸散させることで、結着剤による色素増感型太陽電池の耐久性の低下を防止することができる。なお、結着剤が蒸散したとしても、プレス処理と焼成処理をこの順又は同時に行うことで、金属酸化物半導体微粒子間結合が形成し、また、導電性基材と金属酸化物半導体微粒子の間の密着性も向上するので、前駆層及び多孔質層を安定的に保持することは可能である。なお、熱分解開始温度は、島津製作所の自動TG/DTA同時測定装置DTG-60Aを用いて熱分解温度を測定することにより求めることができる。
【0051】
さらに、金属酸化物半導体微粒子間結合を十分に形成させる観点からは、300℃〜700℃の範囲で焼成することが好ましい。
【0052】
<固体電解質層形成工程>
本工程は、多孔質層20上に、酸化還元対、固体化剤及び溶媒を含む塗工液を塗布して固体電解質層30を形成する工程である。なお、固体電解質層とは、流動性を示さない電解質層をいい、その限りにおいて、色素増感型太陽電池の技術分野で例えば高分子電解質層やゲル電解質層と称されているものが含まれる。
【0053】
(酸化還元対)酸化還元対としては、色素増感型太陽電池の電解質層において一般的に用いられているものから適宜選択することができる。具体的には、ヨウ素の酸化還元対、もしくは臭素の酸化還元対が好ましく用いられる。ヨウ素の酸化還元対としては、ヨウ素とヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、TPAI(テトラプロピルアンモニウムヨージド)、後述するヨウ化物系イオン性液体などのヨウ化物との組み合わせを挙げることができる。また、臭素の酸化還元対としては、臭素と臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウムなどの臭化物との組み合わせを挙げることができる。
【0054】
固体電解質層中の酸化還元対の濃度は、酸化還元対の種類によっても異なり特に限定されるものではないが、ヨウ素あるいは臭素の酸化還元対を用いる場合、ヨウ素もしくは臭素が0.001mol/l〜0.5mol/l、ヨウ化物もしくは臭化物が0.1mol/l〜5mol/lとすることが好ましく、一般的にはヨウ素もしくは臭素とヨウ化物もしくは臭化物とのモル比が1:10程度となるように設定する。
【0055】
(固体化剤)固体化剤とは、酸化還元対を保持して固体電解質層を形成させるものである。固体化剤としては、例えば、各種のオリゴマー化合物や高分子化合物、及び酸化チタン粒子やシリカ粒子などの無機粒子を挙げることができる。本発明においては、樹脂を用いることが好ましい。樹脂は、溶媒に溶解ないし分散することが比較的容易なので、塗布法による固体電解質層の形成方法に適しているからである。
【0056】
樹脂としては、セルロース系樹脂、エステル系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、カーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、フェノール系樹脂 、アイオノマー樹脂などを挙げることができる。具体的には、ポリエーテル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、セルロースを主鎖に持つ高分子ないしはこれらのモノマー成分2種類以上を含む高分子共重合体等を好ましく用いることができる。
【0057】
上記のうち、セルロース系樹脂を特に好ましく用いることができる。セルロース系樹脂は、耐熱性が高いので、セルロース系樹脂で固体化した電解質層は、高温下でも液漏れが起こらず熱安定性が高いからである。セルロース系樹脂として、具体的には、セルロース及びセルロース誘導体を挙げることができ、セルロース誘導体として、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース等のセルロースアセテート(CA)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、硝酸セルロース等のセルロースエステル類、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、シアノエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類を挙げることができる。また、セルロース又はセルロース誘導体の水酸基にカチオン化剤を反応させてカチオン化したカチオン性セルロース誘導体を挙げることができる。これらのセルロース系樹脂は、いずれかを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0058】
固体化剤として用いられる樹脂の分子量は、樹脂の種類によって異なり特に限定されないが、電解質層を形成する際に良好な造膜性を得る観点から、重量平均分子量が10,000以上(ポリスチレン換算)、特に100,000〜200,000の範囲であることが好ましい。また、樹脂のガラス転移温度は、電解質層の十分な熱安定性を得るために、80℃〜150℃であることが好ましい。
【0059】
固体電解質層中の固体化剤の含有量は、低過ぎると電解質層の熱安定性が低下し、逆に高過ぎると太陽電池の光電変換効率が低下するため、これらを考慮して適宜設定される。具体的には、電解質層中に5重量%〜60重量%含有させることが好ましい。
【0060】
(イオン性液体)固体電解質層には、イオン性液体を含有させることが好ましい。イオン性液体を含有することで、固体電解質層中のイオンの伝導性を改善して光電変換効率を向上させるからである。イオン性液体としては、アニオンが、フッ素イオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロボレート、及びトリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロアセテートなどのフッ素系、ヨウ素イオン、臭素イオン、塩素イオン、シアネート系、並びにチオシアネート系であるものを挙げることができ、また、カチオンが、イミダゾリウム系、ピリジウム系、ホスホニウム系、スルホニウム系、脂環式アミン系、及び脂肪族アミン系であるものを挙げることができる。これらのイオン液体は、いずれか一種を単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0061】
また、ヨウ素イオンをアニオンとするヨウ化物系イオン性液体を用いることが好ましい。ヨウ化物系イオン性液体は、ヨウ素イオンの供給源であり上記の酸化還元対としても機能させることができるからである。具体的には、例えば、1,2−ジメチル−3−n−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−メチル−3−n−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、及び1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイドを挙げることができる。
【0062】
電解質層中のイオン性液体の濃度は、イオン性液体の種類によっても異なり特に限定されるものではないが、電解質層中に5重量%〜95重量%、特に10重量%〜85重量%含有させることが好ましい。なお、ヨウ化物系イオン性液体のように、酸化還元対としても機能するイオン性液体については、上記の電解質層中のイオン性液体の濃度を決するにあたってイオン性液体ではなく酸化還元対として含有させることとし、上記の酸化還元対について述べた濃度とすることが好ましく、すなわち電解質層中に0.1mol/l〜5mol/l含有させることが好ましい。
【0063】
(添加剤)その他、固体電解質層には、耐久性の向上、開放電圧値の向上などを目的として、種々の添加剤を含有させることができる。添加剤の具体例としては、グアニジウムチオシアネート、ターシャリーブチルピリジン、N−メチルベンゾイミダゾールなどを挙げることができる。
【0064】
(固体電解質層の形成)固体電解質層の形成方法としては、まず、酸化還元対、固体化剤及び溶媒を少なくとも含む塗工液を作成する。本発明では、塗工液に固体化剤を溶解ないし分散させる目的で、溶媒の使用が必須である。溶媒を用いて塗工液に流動性を付与することで、多孔質層上に塗布した酸化還元対及び固体化剤を含む塗工液を多孔質層に浸透させることができる。なお、本発明では、溶媒は、酸化還元対又は/及び固体化剤を溶解させる媒質だけでなく、酸化還元対又は/及び固体化剤を分散させる媒質も含むものとする。
【0065】
溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタンなどの塩素系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテートなどのエステル系溶媒、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒、及び純水などを挙げることができる。このうち、塗工液の安定性や多孔質層への浸透性の観点から、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどの低級アルコールや、水、N−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒を好適に用いることができる。
【0066】
その他、必要に応じて、固体電解質層形成用の塗工液の塗工適性を向上させるために、各種添加剤を用いてもよい。添加剤としては、界面活性剤、粘度調整剤、分散助剤、pH調節剤などを用いることができる。pH調整剤としては、例えば、硝酸、塩酸、酢酸、アンモニアなどを挙げることができる。
【0067】
固体電解質形成用の塗工液を塗布する方法としては、公知の塗布方法であれば特に限定はされないが、具体的には、ダイコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、リバースロールコート、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアナイフコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート、マイクロバーコート、マイクロバーリバースコートや、スクリーン印刷などを挙げることができる。このような塗布方法を用いて、一回又は複数回、塗布及び乾燥を繰り返すことにより、固体電解質層を所望の膜厚になるよう調整して形成する。
【0068】
<色素増感型太陽電池の作製>
導電性基材10の多孔質層20側と、対向電極40を貼り合わせることにより、本発明の色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0069】
(対向電極)対向電極としては、導電性基材は、少なくとも一方の面が導電性を有する基材である。導電性基材としては、例えば、金属製基材などを用いることができ、あるいは、ガラス製基材や樹脂製基材などの絶縁性基材上に導電層を形成させたもの又はガラス製基材や樹脂製基材などの絶縁性基材上に金属製基材を貼り合わせたものなどを用いることができる。具体的には、金属として、チタン、クロム、タングステン、モリブデン、白金、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、及び鉄などの単体、ステンレス鋼などの前記金属の合金、並びに前記金属に他の前記金属を被覆させたものを挙げることができ、入手が比較的容易で低コストなので、好ましくはチタン、クロム、アルミニウム、ステンレス鋼である。また、ガラスとして、ケイ酸塩やホウ酸塩を主成分としたものを挙げることができる。また、樹脂として、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、並びにポリイミドを挙げることができる。なお、対向電極は、単独で使用しても良く、2種以上の異なる基材を積層して使用しても良い。
【0070】
対向電極は、透明であっても不透明であっても良いが、光の受光面側に位置する場合には、増感色素の励起波長に対して光透過性を有することを要する。また、導電性基材がフレキシブル性を有する場合には、対向電極もフレキシブル性を有することが好ましい。
【0071】
対向電極の厚さとしては、対向電極に要するフレキシブル性の程度や色素増感型太陽電池の用途などに応じて適宜選択することができるが、通常、5μm〜2000μmの範囲内であることが好ましく、特に10μm〜500μmの範囲内であることが好ましく、20μm〜200μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0072】
対向電極に用いられる導電層の材料としては、導電性に優れたものであれば特に限定はされないが、光の受光面側に位置する導電層においては、光透過性に優れているものであることが好ましい。光透過性に優れた材料として、例えば、SnO2、ITO、FTO、ZnO、IZOなどを挙げることができる。中でも、FTO、ITOは、導電性及び光透過性の両方に優れているため特に好ましく用いられる。導電層の膜厚としては、0.1nm〜500nmの範囲内、好ましくは1nm〜300nmの範囲内である。
【0073】
このような導電層を形成する方法としては、特に限定はされないが、蒸着法、スパッタ法、CVD法などを挙げることができる。中でも、スパッタ法が好ましく用いられる。
【0074】
対向電極上又は対向電極の導電層上に触媒層を形成することにより、色素増感型太陽電池の発電効率をより向上させることができる。上記触媒層の例としては、Ptを蒸着した層や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機物からなる触媒層を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、これに限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
【0077】
(前駆層形成工程)導電性基材として厚さ50μmのチタン製基材を用意した。また、酸化物半導体微粒子として酸化チタン(日本アエロジル社製P25)をエタノールに分散させた分散液に、結着剤としてエチルセルロース(日新化成製ST−100、熱分解開始温度300℃)を添加し、攪拌することにより、前駆層形成用の塗工液を調製した。その前駆層形成用の塗工液をチタン製基材上に、ドクターブレードで10mm×10mmの面積で塗布し、120℃で乾燥し、前駆層を得た。なお、前駆層中のエチルセルロースの含有量は、酸化チタン及びエチルセルロースの総和に対して5重量%とした。
【0078】
(前駆層又は多孔質層改質工程)チタン製基材上に形成された前駆層に、プレス機で9.8×104N/mの線圧力を加えてプレス処理をおこなった後、500℃で30分間の焼成処理をおこなった。
【0079】
(多孔質層形成工程)増感色素としてルテニウム錯体(Solaronix社製;RuI2(NCS)2)を無水エタノール中に3.0×10-4mol/lの濃度となるように溶解させた色素溶液に、上述の前駆層改質工程後の前駆層を20時間浸漬させた。浸漬後に、前駆層を色素溶液から引き上げ、アセトニトリルで洗浄し、風乾した。これにより、導電性基材上に厚み8μmの多孔質層を形成させた。
【0080】
(固体電解質層形成工程)酸化還元対としてヨウ素(I2)0.24g、及び1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド(PMIm−I)10.0gを、イオン性液体である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMIm−TCB)3.64gに加えて、攪拌して溶解させた。この溶液に、固体化剤としてカチオン性ヒドロキシセルロース(ダイセル化学製ジェルナーQH−200)のメタノール5w%溶液28gを添加し、攪拌することにより、固体電解質層形成用の塗工液を調製した。次に、導電性基材上の多孔質層上に、上述の固体電解質層形成用の塗工液をドクターブレードで塗布し、100℃で乾燥することにより、多孔質層上に厚み4μmの固体電解質層を形成させた。
【0081】
(色素増感型太陽電池の作製)透明なポリエチレンナフタレート(PEN)製基材上に透明な導電層としてインジウムドープ酸化スズ(ITO)が形成された基材を用意した。その導電層上にポリチオフェン系導電性樹脂(スタルク社製BaytronPAI4083)をワイヤーバーで塗布し、120℃で5分間乾燥することで、厚さ0.1μの触媒層を形成させることにより、対向電極を得た。次いで、固体電解質層及び多孔質層を形成した導電性基材と対向電極とを、導電性基材の固体電解質層と対向電極の触媒層とが接するように貼り合わせ、クリップで圧着した。これにより、色素増感型太陽電池を作製した。
【0082】
(比較例1)
前駆層又は多孔質層改質工程をおこなわなかった以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を作製した。
【0083】
(比較例2)
前駆層又は多孔質層改質工程で焼成処理のみをおこないプレス処理をおこなわなかった以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を作製した。
【0084】
(比較例3)
前駆層又は多孔質層改質工程でプレス処理のみをおこない焼成処理をおこなわなかった以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池を作製した。
【0085】
(比較例4)
前駆層又は多孔質層改質工程で先に焼成処理をおこない次にプレス処理をおこなった以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池の作製を試みた。しかし、プレス処理によって、前駆層にひび割れと剥離が発生し、前駆層の一部が細粒化し、前駆層が破壊されてしまったため、色素増感型太陽電池を作製することができなかった。
【0086】
(発電性能の評価方法)
太陽電池の発電性能の評価は、擬似太陽光(AM1.5、入射光強度100mW/cm2)を光源として、対向電極側から入射させ、ソースメジャーユニット(ケースレー社製、2400型)を用いて電圧を印加して、太陽電池の電流電圧特性を測定し、光電変換効率を求めた。なお、測定に用いた多孔質層の面積は1cm2(10mm×10mm)である。
【0087】
(耐久性の評価方法)
太陽電池の耐久性は、加速劣化試験により評価した。加速劣化試験では、温度を65℃に設定し湿度を無制御としたオーブン内に、200時間保存した後の太陽電池について、上記の発電性能の評価方法と同様の方法で、光電変換効率を求めた。そして、保存後の光電変換効率の値を保存前の光電変換効率の値で除して、性能維持率を求めた。
【0088】
(評価結果)
表1、表2に上記の実施例及び比較例で作製した色素増感型太陽電池の評価結果を示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1にて、前駆層又は多孔質層改質工程にてプレス処理と焼成処理とをこの順又は同時に行い、その後、多孔質層上に固体電解質層を塗布法で形成させることで、光電変換効率等の発電特性及び耐久性に優れた色素増感型太陽電池が得られたことがわかる。
【符号の説明】
【0091】
1 色素増感型太陽電池
10 導電性基材
20 多孔質層
30 電解質層
40 対向電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、前記導電性基材上に配置され、増感色素が担持された金属酸化物半導体微粒子を含む多孔質層と、前記多孔質層に対向して配置された対向電極と、前記多孔質層及び前記対向電極の間に配置された固体電解質層とから構成される色素増感型太陽電池の製造方法であって、
導電性基材上に、金属酸化物半導体微粒子を含む前駆層を形成する前駆層形成工程と、
前記前駆層の金属酸化物半導体微粒子に増感色素を担持させて多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、
前記前駆層又は前記多孔質層に、プレス処理及び焼成処理をこの順又は同時におこなう前駆層又は多孔質層改質工程と、
多孔質層上に、酸化還元対、固体化剤及び溶媒を含む塗工液を塗布して固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と
を備える色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記導電性基材がフレキシブル性を有する金属製基材であることを特徴とする請求項1に記載された色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記前駆層が結着剤を含み、前記焼成処理を前記結着剤の熱分解開始温度以上でおこなうことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された色素増感型太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−124164(P2011−124164A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282483(P2009−282483)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】