説明

色素蛋白質及び蛍光蛋白質

【課題】本発明の目的は、新規な色素蛋白質並びに蛍光蛋白質を提供することである。
【解決手段】本発明によれば、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の所定の特性を有する色素蛋白質、並びにヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)及びアザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)由来の所定の蛍光特性を有する蛍光蛋白質が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な色素蛋白質、より詳細にはベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の新規な色素蛋白質及びその利用に関する。本発明はさらに、新規な蛍光蛋白質、より詳細には、ヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)及びアザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)由来の新規な蛍光蛋白質及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
クラゲのエクオレア・ビクトリア(Aequorea victoria)に由来する緑色蛍光蛋白質(GFP)は、生物系において多くの用途を有する。最近、ランダム突然変異誘発法および半合理的(semi-rational)突然変異誘発法に基づいて、色を変化させたり、折りたたみ特性を改善したり、輝度を高めたり、あるいはpH感受性を改変したといった様々なGFP変異体が作製されている。遺伝子組み換え技術により他の蛋白質をGFP等の蛍光蛋白質に融合させて、それらの発現および輸送のモニタリングを行うことが行われている。
【0003】
最もよく使用されるGFP変異体の一つとして黄色蛍光蛋白質(YFP)が挙げられる。YFPは、クラゲ(Aequorea)GFP変異体の中でも最長波長の蛍光を示す。大部分のYFPのεおよびΦは、それぞれ60,000〜100,000M-1cm-1および0.6〜0.8であり(Tsien, R. Y. (1998). Ann. Rev. Biochem. 67, 509-544)、これらの値は、一般的な蛍光団(フルオレセインおよびローダミンなど)の値に匹敵する。従ってYFPの絶対的輝度の改善は、ほぼ限界に達しつつある。
【0004】
また、GFP変異体の他の例として、シアン蛍光蛋白質(CFP)があり、ECFP(enhanced cyan fluorescent protein)が知られている。また、イソギンチャク(Discoma sp.)からは赤色蛍光蛋白質(RFP)も単離されており、DasRedが知られている。このように蛍光蛋白質は、緑色、黄色、シアン色、赤色の4種が次々と開発されスペクトルの範囲は大幅に広がっている。
【0005】
従来の蛍光蛋白質の量子収率を0に近づけたものが色素蛋白質である。色素蛋白質は、光エネルギーを他のエネルギーに変換する分子を細胞内に導入することができる点で様々な応用が可能である。しかしながら、色素蛋白質の吸収波長特性について報告されている例は少ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tsien, R. Y. (1998). Ann. Rev. Biochem. 67, 509-544
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)に由来する、ある特定の波長の光を吸収する新規な色素蛋白質を提供することを解決すべき課題とした。本発明はさらに、刺胞動物、特にはイシサンゴの一種であるヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)及びアザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)に由来する新規な一次構造を有する蛍光蛋白質を提供することを解決すべき課題とした。
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討し、既知の蛍光蛋白質のアミノ酸配列の情報に基づいて好適なプライマーを設計し、緑色を呈するベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)のcDNAライブラリーから上記プライマーを用いて新規な色素蛋白質をコードする遺伝子を増幅してクローニングすることに成功した。さらに本発明者らは、得られたベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の色素蛋白質の光吸収特性及びpH感受性を解析した。
【0009】
さらに、本発明者らは、ヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)及びアザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)由来のcDNAライブラリーを用いてから発現クローニングを行った結果、新規な蛍光蛋白質をコードする遺伝子をクローニングすることに成功した。さらに本発明者らは、得られた蛍光蛋白質の蛍光特性を調べた結果、当該蛍光蛋白質が独特の蛍光特性を有することを見出した。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
即ち、本発明によれば、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の下記の特性を有する色素蛋白質が提供される。
(1)吸収極大波長が605nmである;
(2)605nmにおけるモル吸光係数が47550である;
(3)光吸収特性のpH感受性がpH5〜10で安定である:
【0011】
本発明の別の側面によれば、以下の何れかのアミノ酸配列を有する色素蛋白質が提供される。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有するアミノ酸配列:
本発明の別の側面によれば、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の下記の特性を有する色素蛋白質が提供される。
(1)吸収極大波長が553nmである;
(2)553nmにおけるモル吸光係数が25300である;
(3)光吸収特性のpH感受性がpH5〜10で安定である:
【0012】
本発明の別の側面によれば、以下の何れかのアミノ酸配列を有する色素蛋白質が提供される。
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有するアミノ酸配列:
【0013】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明の蛋白質をコードするDNAが提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、以下の何れかのDNAが提供される。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードするDNA:
本発明のさらに別の側面によれば、以下の何れかのDNAが提供される。
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードするDNA:
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、以下の何れかの塩基配列を有するDNAが提供される。
(a)配列番号2に記載の塩基配列;又は、
(b)配列番号2に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードする塩基配列:
【0015】
本発明のさらに別の側面によれば、以下の何れかの塩基配列を有するDNAが提供される。
(a)配列番号4に記載の塩基配列;又は、
(b)配列番号4に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードする塩基配列:
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のDNAを有する組み換えベクターが提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、本発明のDNA又は組み換えベクターを有する形質転換体が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、本発明の色素蛋白質と他の蛋白質とから成る融合蛋白質が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、本発明の色素蛋白質をアクセプター蛋白質として用いてFRET(蛍光共鳴エネルギー転移)法を行うことを特徴とする、生理活性物質の分析方法が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、本発明の色素蛋白質、DNA、組み換えベクター、形質転換体、又は融合蛋白質を含む、吸光試薬キットが提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、ヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)由来の下記の特性を有する蛍光蛋白質が提供される。
(1)紫外線の照射により緑色から赤色に変化し、励起極大波長が508nm(緑)及び572nm(赤)であり、蛍光極大波長が518nm(緑)及び581nm(赤)である;
(2)508nmにおけるモル吸光係数(緑)が98800M−1cm−1であり、572nmにおけるモル吸光係数(赤)が60400M−1cm−1である;
(3)量子収率が0.80(緑)及び0.33(赤)である;及び
(4)緑色及び赤色のpH感受性についてのpKaは共に5.7である:
【0018】
本発明の別の態様によれば、以下の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が提供される。
(a)配列番号5に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ蛍光を有するアミノ酸配列:
本発明の別の態様によれば、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が提供される。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、アザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)由来の下記の特性を有する蛍光蛋白質が提供される。
(1)紫外線の照射により緑色から赤色に変化し、励起極大波長が508nm(緑)及び578nm(赤)であり、蛍光極大波長が518nm(緑)及び588nm(赤)である;
(2)508nmにおけるモル吸光係数(緑)が102250M−1cm−1であり、578nmにおけるモル吸光係数(赤)が76950M−1cm−1である;
(3)量子収率(蛍光)が0.43(緑)及び0.51(赤)である;及び
(4)緑色(508nm)のpH感受性についてpKaが5.8であり、赤色(578nm)のpH感受性についてpKaが6.5である。
【0020】
本発明の別の態様によれば、以下の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が提供される。
(a)配列番号9に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ蛍光を有するアミノ酸配列:
本発明の別の態様によれば、配列番号11、13、15又は17の何れかに記載のアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が提供される。
【0021】
本発明のさらに別の態様によれば、以下の何れかのDNAが提供される。
(a)配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
(c)配列番号6に記載の塩基配列を有するDNA;又は、
(d)配列番号6に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、以下の何れかのDNAが提供される。
(a)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号8に記載の塩基配列を有するDNA。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、以下の何れかのDNAが提供される。
(a)配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
(c)配列番号10に記載の塩基配列を有するDNA;又は、
(d)配列番号10に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、以下の何れかのDNAが提供される。
(a)配列番号11、13、15又は17に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号12、14、16又は18に記載の塩基配列を有するDNA。
【0025】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のDNAを有する組み換えベクターが提供される。
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のDNA又は組み換えベクターを有する形質転換体が提供される。
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の蛍光蛋白質と他の蛋白質とから成る融合蛍光蛋白質が提供される。好ましくは、他の蛋白質は、細胞内に局在する蛋白質である。さらに、好ましくは、他の蛋白質は、細胞内小器官に特異的な蛋白質である。
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の融合蛍光蛋白質を細胞内で発現させることを特徴とする、細胞内における蛋白質の局在または動態を分析する方法が提供される。
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の蛍光蛋白質、DNA、組み換えベクター、形質転換体、又は融合蛍光蛋白質を含む、蛍光試薬キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明のベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の色素蛋白質(Be−G)の吸収スペクトルを測定した結果を示す。横軸は吸収光の波長を示し、縦軸は吸光度を示す。
【図2】図2は、本発明のベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の色素蛋白質(Be−G)の吸光スペクトルのpH感受性を示す。横軸はpH値を示し、縦軸は吸光度を示す。605nmは本発明のベリルイソギンチャク由来の色素蛋白質(Be−G)特有の吸光度を示し、277nmは一般的に蛋白質定量として使われる吸光度(芳香族アミノ酸の吸光)を示す。つまり、277nmの値で蛋白質量が一定である事を示し、605nmの値で本発明のベリルイソギンチャク由来の色素蛋白質(Be−G)特有の吸光度がpH5〜pH10においてほとんど変化しないことを示す。
【図3】図3は、本発明のベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の色素蛋白質(Be−R)の吸収スペクトルを測定した結果を示す。横軸は吸収光の波長を示し、縦軸は吸光度を示す。
【図4】図4は、本発明のベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の色素蛋白質(Be−R)の吸光スペクトルのpH感受性を示す。横軸はpH値を示し、縦軸は吸光度を示す。553nmは本発明のベリルイソギンチャク由来の色素蛋白質(Be−R)特有の吸光度を示し、277nmは一般的に蛋白質定量として使われる吸光度(芳香族アミノ酸の吸光)を示す。つまり、277nmの値で蛋白質量が一定である事を示し、553nmの値で本発明のベリルイソギンチャク由来の色素蛋白質(Be−R)特有の吸光度がpH5〜pH10においてほとんど変化しないことを示す。
【図5】図5は、本発明の蛍光蛋白質(Kaede)の吸収スペクトルを示す。
【図6】図6は、本発明の蛍光蛋白質(Kaede)の蛍光スペクトルを示す。
【図7】図7は、本発明の蛍光蛋白質(Kaede)の遺伝子を導入したHeLa細胞を470nmで励起して、510nmの蛍光で測定した結果を示す。
【図8】図8は、KaedeおよびKaede2の12.5%アクリルアミドでの電気泳動パターンを示す。Kaedeに比べ低い分子量としてKaede2のバンドが現れる。
【図9】図9は、HeLa細胞の形質膜にKaede(上図)及びKaede2(下図)をターゲティングされた時の発現パターンを示す。
【図10】図10は、紫(外)光照射依存的Kaedeタンパク質の切断を示す実験結果である。上段の図は、紫(外)光照射依存的ペプチド鎖切断の推移を、12.5%アクリルアミドゲルによる電気泳動像で示す。Kaede蛋白溶液に365 nm光照射を行い、20分ごとにサンプリングしてSDS/PAGEを行った。中段の図は、365 nm光照射前(0分)の吸収スペクトルを示す。下段の図は、365 nm光照射140分後の吸収スペクトルを示す。
【図11】図11は、本発明の蛍光蛋白質(Momiji)の励起スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。
【図12】図12は、本発明の蛍光蛋白質(Momiji)のpH感受性を示す。
【図13】図13は、本発明の蛍光蛋白質(Momiji)にUV365nmを照射した場合の蛍光スペクトルの変化を示す。
【図14】図14は、本発明の蛍光蛋白質(Momiji)にUV365nmを照射した場合の吸収スペクトルの変化を示す。
【図15】図15は、UV照射前後の吸収スペクトルの変化(Momiji2)を示す。
【図16】図16は、UV照射前後の吸収スペクトルの変化(Momiji4)を示す。
【図17】図17は、UV照射前後の吸収スペクトルピークのpHによる変化(Momiji)を示す。照射前(508 nm) 照射後(578 nm)
【図18】図18は、UV照射前後の吸収スペクトルピークのpHによる変化(Momiji2)を示す。照射前(508 nm) 照射後(576 nm)
【図19】図19は、UV照射前後の吸収スペクトルピークのpHによる変化(Momiji4)を示す。照射前(508 nm) 照射後(583 nm)
【図20】図20は、365 nm光照射時間による蛍光特性変化の推移(Momiji)を示す。6μg/mlの蛋白溶液で測定した。変異体との差を明確にするために非常に弱い365 nmの光で光変換を行い470 nmから650 nmまでの蛍光スペクトルを測定した。
【図21】図21は、365 nm光照射時間による蛍光特性変化の推移(Momiji2)を示す。6μg/mlの蛋白溶液で測定した。変異体との差を明確にするために非常に弱い365 nmの光で光変換を行い470 nmから650 nmまでの蛍光スペクトルを測定した。
【図22】図22は、365 nm光照射時間による蛍光特性変化の推移(Momiji4)を示す。6μg/mlの蛋白溶液で測定した。変異体との差を明確にするために非常に弱い365 nmの光で光変換を行い470 nmから650 nmまでの蛍光スペクトルを測定した。
【図23】図23は、HeLa細胞内での蛍光特性の推移を示す。 Exposure time 410 nm 100ms Green 400ms , Red 50ms DM 420DCLP Green Ex 475AF20, Em 530DF35 Red Ex 550DF35, Em 575ALP Object lens X40 Uapo/340 410 nm照射、緑蛍光測定、赤蛍光測定を3秒間隔で行った。 上記条件で測定を行い赤/緑の蛍光値をグラフ化した。
【図24】図24は、12.5%アクリルアミドゲル(Pseudo -native SDS/PAGE)での泳動パターンを青色光で励起してデジタルカメラで撮影した結果を示す。 WT(Momiji): 四量体 d16: 二量体 m16: 単量体
【図25】図25は、365 nm光照射前後の蛍光スペクトル(d16)を示す。 緑蛍光ピーク(518 nm) 赤蛍光ピーク(591 nm)
【図26】図26は、365 nm光照射前後の蛍光スペクトル(m16)を示す。 緑蛍光ピーク(518 nm) 赤蛍光ピーク(587 nm)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(1)本発明の色素蛋白質
本発明の第一の色素蛋白質は、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来のものであり、下記の特性を有することを特徴とする。
(1)吸収極大波長が605nmである;
(2)605nmにおけるモル吸光係数が47550である;
(3)光吸収特性のpH感受性がpH5〜10で安定である:
【0028】
本発明の第二の色素蛋白質は、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来のものであり、下記の特性を有することを特徴とする。
(1)吸収極大波長が553nmである;
(2)553nmにおけるモル吸光係数が25300である;
(3)光吸収特性のpH感受性がpH5〜10で安定である:
【0029】
ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)は、96本の触手を有し、規則正しく配列している。また、口盤は触手と同色で口のまわりが赤茶色に彩色されるのが本種の特徴である。体壁には98列の吸着イボが並び、体壁の下端付近まで分布する。体壁の色には大きな変異があり、褐色系、ブルー系、ピンク系が知られている。ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)は、北海道南部から九州に分布し、潮間帯付近に多産する。
【0030】
なお、本書中以下の実施例では、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)を出発材料として上記特性を有する色素蛋白質を単離したが、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)以外のイソギンチャクから本発明の色素蛋白質を取得することができる場合もあり、そのような色素蛋白質も本発明の範囲内である。
本発明の第一の色素蛋白質(Be−G)は、以下の実施例で示す通り、吸収極大波長が605nmであり、また、605nmにおけるモル吸光係数は47550である。
本発明の第二の色素蛋白質(Be−R)は、以下の実施例で示す通り、吸収極大波長が553nmであり、また、553nmにおけるモル吸光係数は25300である。
【0031】
モル吸光係数は蛍光分子1モルあたりの光子の吸収量を表す。量子収率は吸収した光子のどれだけを蛍光として発することができるかを表した数値である。本発明の色素蛋白質の量子収率は極めて低いため、蛍光は殆ど発しない。この性質から、本発明の色素蛋白質は、(1)FRETのアクセプター分子(エネルギー受容体)として用いたり、(2)照射した光のエネルギーを光以外のエネルギーに変換させるシステムの開発に利用したり、あるいは(3)蛋白質のアミノ酸配列に変異を導入して蛍光を発するように改変することなどに用いることができる。
【0032】
また、本発明の色素蛋白質は、光吸収特性のpH感受性がpH5〜10で安定であることを特徴とする。即ち、本発明の色素蛋白質では、pH5〜10の範囲において吸収スペクトルのピーク値の変動が少ない。従って、本発明の色素蛋白質は、広範囲のpH環境において同様の条件で使用することができ、生体内での使用に際しての制約は少ない。
【0033】
本発明の色素蛋白質の具体例としては、以下の何れかのアミノ酸配列を有する色素蛋白質が挙げられる。
(a)配列番号1又は3に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号1又は3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有するアミノ酸配列:
【0034】
本明細書で言う「1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
本明細書で言う「吸光特性」とは、ある波長の光を吸収できる特性を意味し、例えば、本明細書に示した色素蛋白質と同様に吸収極大波長が605nm又は553nmであってもよいし、あるいは吸収極大波長の値がシフトしたものであってもよい。なお、光吸収特性のpH感受性は、pH5〜10で安定であることが好ましい。
【0035】
上記した通り、本発明の配列表の配列番号1又は3に記載したアミノ酸配列を有する色素蛋白質は蛍光をほとんど発しないものである。本発明においては、配列番号1又は3に記載したアミノ酸配列に対して1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を導入することにより、より強い蛍光を発する蛋白質を作製してもよく、このような蛋白質も本発明の範囲内に含まれる。
本発明の色素蛋白質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換え蛋白質でもよい。
【0036】
組み換え蛋白質を作製する場合には、先ず当該蛋白質をコードするDNAを入手することが必要である。本明細書の配列表の配列番号1又は3に記載したアミノ酸配列並びに配列番号2又は4に記載した塩基配列の情報を利用することにより適当なプライマーを設計し、それらを用いて、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来のcDNAライブラリーを鋳型にしてPCRを行うことにより、本発明の色素蛋白質をコードするDNAを取得することができる。このDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明の色素蛋白質を産生することができる。発現系での発現については本明細書中後記する。
【0037】
(2)本発明の蛍光蛋白質
本発明の第一の蛍光蛋白質は、ヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)由来のものであり、下記の特性を有することを特徴とする。
(1)紫外線の照射により緑色から赤色に変化し、励起極大波長が508nm(緑)及び572nm(赤)であり、蛍光極大波長が518nm(緑)及び581nm(赤)である;
(2)508nmにおけるモル吸光係数(緑)が98800M−1cm−1であり、572nmにおけるモル吸光係数(赤)が60400M−1cm−1である;
(3)量子収率が0.80(緑)及び0.33(赤)である;及び
(4)緑色及び赤色のpH感受性についてのpKaは共に5.7である:
【0038】
ヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)は、刺胞動物イソギンチャクの1種で、非常にカラフルな蛍光を示すことを特徴とする。主として、本州中部以南に分布し、内湾の泥底などに生息し、夜間触手を伸ばしてプランクトンなどを捕獲する。色のバリエーションとしては、緑色、褐色又は赤色のものが存在する。
【0039】
本発明の第一の蛍光蛋白質は、以下の実施例で示す通り、紫外線の照射により緑色から赤色に変化し、励起極大波長が508nm(緑)及び572nm(赤)であり、蛍光極大波長は518nm(緑)及び581nm(赤)である。また、508nmにおけるモル吸光係数(緑)は98800M−1cm−1であり、572nmにおけるモル吸光係数(赤)は60400M−1cm−1である。
本発明の第一の蛍光蛋白質は、紫外光によって色が変わることを特徴とし、光によって特定の細胞や器官のマーキング(optical marking)が可能である。
【0040】
本発明の第一の蛍光蛋白質の具体例としては、以下の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が挙げられる。
(a)配列番号5に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ蛍光を有するアミノ酸配列:
本発明の第一の蛍光蛋白質の別の具体例としては、配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が挙げられる。
【0041】
本発明の第二の蛍光蛋白質は、アザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)由来のものであり、下記の特性を有することを特徴とする。
(1)紫外線の照射により緑色から赤色に変化し、励起極大波長が508nm(緑)及び578nm(赤)であり、蛍光極大波長が518nm(緑)及び588nm(赤)である;
(2)508nmにおけるモル吸光係数(緑)が102250M−1cm−1であり、578nmにおけるモル吸光係数(赤)が76950M−1cm−1である;
(3)量子収率(蛍光)が0.43(緑)及び0.51(赤)である;及び
(4)緑色(508nm)のpH感受性についてpKaが5.8であり、赤色(578nm)のpH感受性についてpKaが6.5である。
【0042】
アザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)は固着性の単体サンゴで、小型の個体は鉢型で円形であるが、大きくなると楕円形になる。サンゴ個体の中心には大きなスポンジ状の軸柱があり、莢壁から長い障壁がほぼ一定の傾斜で中心に伸びる。隔壁には大きな鋸歯があり、外からもその様子がうかがえる。昼間はポリプを開かない。色彩は普通暗緑色であるが赤色なども稀に見られる。アザミハナガタサンゴ属は約4種が知られているが、日本周辺海域には1種が分布している。
【0043】
本発明の第二の蛍光蛋白質は、以下の実施例で示す通り、紫外線の照射により緑色から赤色に変化し、励起極大波長が508nm(緑)及び578nm(赤)であり、蛍光極大波長は518nm(緑)及び588nm(赤)である。また、508nmにおけるモル吸光係数(緑)は102250M−1cm−1であり、578nmにおけるモル吸光係数(赤)は76950M−1cm−1である。
本発明の第二の蛍光蛋白質は、紫外光によって色が変わることを特徴とし、光によって特定の細胞、器官又は蛋白質のマーキング(optical marking)が可能である。
【0044】
本発明の第二の蛍光蛋白質の具体例としては、以下の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が挙げられる。
(a)配列番号9に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ蛍光を有するアミノ酸配列:
本発明の蛍光蛋白質の別の具体例としては、配列番号11、13、15又は17の何れかに記載のアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質が挙げられる。
【0045】
本明細書で言う「1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
本明細書で言う「蛍光を有する」とは、蛍光を発することができる全ての場合を包含し、蛍光強度、励起波長、蛍光波長、pH感受性などの諸特性は、配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質と比較して、変動していてもよいし、同様のままでもよい。
本発明の蛍光蛋白質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換え蛋白質でもよい。
【0046】
組み換え蛋白質を作製する場合には、先ず当該蛋白質をコードするDNAを入手することが必要である。本明細書の配列表の配列番号5、7、9、11、13、15又は17に記載したアミノ酸配列並びに配列番号6、8、10、12、14、16又は18に記載した塩基配列の情報を利用することにより適当なプライマーを設計し、それらを用いて上記したような各種の公知の蛍光蛋白質のcDNAクローンを鋳型にしてPCRを行うことにより、本発明の蛍光蛋白質をコードするDNAを取得することができる。本発明の蛍光蛋白質をコードするDNAの一部の断片を上記したPCRにより得た場合には、作製したDNA断片を順番に遺伝子組み換え技術により連結することにより、所望の蛍光蛋白質をコードするDNAを得ることができる。このDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明の蛍光蛋白質を産生することができる。発現系での発現については本明細書中後記する。
【0047】
(3)本発明のDNA
本発明によれば、本発明の色素蛋白質及び蛍光蛋白質をコードする遺伝子が提供される。
本発明の第一の色素蛋白質をコードするDNAの具体例としては、以下の何れかのDNAが挙げられる。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードするDNA:
【0048】
本発明の第一の色素蛋白質をコードするDNAの更なる具体例としては、以下の何れかの塩基配列を有するDNAが挙げられる。
(a)配列番号2に記載の塩基配列;又は、
(b)配列番号2に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードする塩基配列:
本発明の第二の色素蛋白質をコードするDNAの具体例としては、以下の何れかのDNAが挙げられる。
(a)配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードするDNA:
【0049】
本発明の第二の色素蛋白質をコードするDNAの更なる具体例としては、以下の何れかの塩基配列を有するDNAが挙げられる。
(a)配列番号4に記載の塩基配列;又は、
(b)配列番号4に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、吸光特性を有する蛋白質をコードする塩基配列:
【0050】
本発明の第一の蛍光蛋白質をコードするDNAの具体例としては、以下の何れかのDNAが挙げられる。
(a)配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
(c)配列番号6に記載の塩基配列を有するDNA;又は、
(d)配列番号6に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
【0051】
本発明の第一の蛍光タンパク質をコードするDNAの更なる具体例としては、以下の何れかのDNAが挙げられる。
(a)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号8に記載の塩基配列を有するDNA。
本発明の第二の蛍光蛋白質をコードするDNAの具体例としては、以下の何れかのDNAが挙げられる。
(a)配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
(c)配列番号10に記載の塩基配列を有するDNA;又は、
(d)配列番号10に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
【0052】
本発明の第二の蛍光蛋白質をコードするDNAの更なる具体例としては、以下の何れかのDNAが挙げられる。
(a)配列番号11、13、15又は17に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号12、14、16又は18に記載の塩基配列を有するDNA。
本発明のDNAは、例えばホスホアミダイト法などにより合成することができるし、特異的プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって製造することもできる。本発明のDNAの作製方法については、本明細書中上述した通りである。
【0053】
また、所定の核酸配列に所望の変異を導入する方法は当業者に公知である。例えば、部位特異的変異誘発法、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR、核酸を含む細胞の変異誘発剤又は放射線への露出等の公知の技術を適宜使用することによって、変異を有するDNAを構築することができる。このような公知の技術は、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989、並びにCurrent Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)に記載されている。
【0054】
(4)本発明の組み換えベクター
本発明のDNAは適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明のDNAは、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜することができる。
【0055】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillusstearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスαアミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosldase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌の lac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0056】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータ、またはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2-4cプロモータなどが挙げられる。
糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。
【0057】
また、本発明のDNAは必要に応じて、例えばヒト成長ホルモンターミネータまたは真菌宿主についてはTPI1ターミネータ若しくはADH3ターミネータのような適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。本発明の組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)および翻訳エンハンサ配列(例えばアデノウイルス VA RNA をコードするもの)のような要素を有していてもよい。
本発明の組み換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
【0058】
本発明の組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。
本発明のDNA、プロモータ、および所望によりターミネータおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0059】
(5)本発明の形質転換体
本発明のDNA又は組み換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。
本発明のDNAまたは組み換えベクターを導入される宿主細胞は、本発明のDNA構築物を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。
【0060】
細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌又は大腸菌等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行なえばよい。
哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポーレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
【0061】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevis1ae)またはサッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)等が挙げられる。酵母宿主への組み換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。
【0062】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、蛋白質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors, A Laboratory Manua1;及びカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology, 6, 47(1988)等に記載)。
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
【0063】
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W. H. Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法又はリポフェクション法等を挙げることができる。
【0064】
上記の形質転換体は、導入されたDNA構築物の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明の蛋白質を単離精製するには、通常の蛋白質の単離、精製法を用いればよい。
例えば、本発明の蛋白質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の蛋白質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0065】
(6)本発明の色素蛋白質及びそれを含む融合蛋白質の利用
本発明の色素蛋白質は、他の蛋白質と融合させることにより、融合蛋白質を構築することができる。本発明の色素蛋白質に融合させる他の蛋白質の種類は特に限定されないが、他の分子と相互作用する蛋白質であることが好ましく、例えば、受容体蛋白質又はそのリガンド、あるいは抗原又は抗体などが挙げられる。
本発明の融合蛋白質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換え蛋白質でもよい。
【0066】
組み換え融合蛋白質を作製する場合には、先ず当該蛋白質をコードするDNAを入手することが必要である。本発明の色素蛋白質をコードするDNAおよびそれに融合すべき他の蛋白質をコードするDNAは、本明細書中上記した方法またはそれに準じてそれぞれ入手することができる。次いで、これらのDNA断片を順番に遺伝子組み換え技術により連結することにより、所望の融合蛋白質をコードするDNAを得ることができる。このDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明の融合蛋白質を産生することができる。
【0067】
分子間の相互作用を分析する手法の一つとして、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)が知られている。FRETでは、例えば、第一の蛍光蛋白質としてのシアン蛍光蛋白質(CFP)で標識した第一の分子と、第二の蛍光蛋白質としての黄色蛍光蛋白質(YFP)で標識した第二の分子とを共存させることにより、黄色蛍光蛋白質(YFP)をアクセプター分子として作用させ、シアン蛍光蛋白質(CFP)をドナー分子として作用させ、両者の間でFRET(蛍光共鳴エネルギー転移)を生じさせることにより、第一の分子と第二の分子との間の相互作用を可視化することができる。即ち、FRETでは2種類の分子にそれぞれ異なる色素を導入し、エネルギーレベルの高い方の色素(ドナー分子)を選択的に励起し、その色素の蛍光を測定し、もう一方の色素(アクセプター分子)からの長波長蛍光も測定して、それらの蛍光変化量によって分子間の相互作用を可視化する。両方の色素が、2種類の分子の相互作用によって近接したときのみドナー分子の蛍光の減少とアクセプター分子の蛍光の増加が1波長励起2波長測光法により観測される。しかし、アクセプター分子に色素蛋白質を用いた場合は、両方の色素が、2種類の分子の相互作用によって近接したときのみドナー分子の蛍光の減少を生じ1波長励起1波長測光法により観測することができる。即ち、測定機器の簡易化が可能となる。
【0068】
本発明の色素蛋白質は、特に、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)におけるアクセプター分子としての利用価値が高い。即ち、本発明の色素蛋白質と被験物質との融合体(第一の融合体)を作製する。次いで、該被験物質と相互作用する別の被験物質と別の蛍光蛋白質との融合体(第2の融合体)を作製する。そして、第一の融合体と第2の融合体とを相互作用させ、発する蛍光を分析することにより、上記2種類の被験物質間の相互作用を分析することができる。なお、本発明の色素蛋白質を用いたFRET(蛍光共鳴エネルギー転移)は、試験管内で行ってもよいし、細胞内で行ってもよい。
【0069】
(7)本発明の蛍光蛋白質及びそれを含む融合蛍光蛋白質の利用
本発明は蛍光蛋白質を他の蛋白質と融合させることにより、融合蛍光蛋白質を構築することができる。
本発明の融合蛍光蛋白質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換え蛋白質でもよい。
【0070】
組み換え蛋白質を作製する場合には、先ず当該蛋白質をコードするDNAを入手することが必要である。本明細書の配列表の配列番号5、7、9、11、13、15又は17に記載したアミノ酸配列及び配列番号6、8、10、12、14、16又は18に記載した塩基配列の情報を利用することにより適当なプライマーを設計し、本発明の蛍光蛋白質の遺伝子を含むDNA断片を鋳型にしてPCRを行うことにより、本発明の蛍光蛋白質をコードするDNAを構築するのに必要なDNA断片を作製することができる。また同様に、融合すべき蛋白質をコードするDNA断片も入手する。
次いで、これらのDNA断片を順番に遺伝子組み換え技術により連結することにより、所望の融合蛍光蛋白質をコードするDNAを得ることができる。このDNAを適当な発現系に導入することにより、本発明の融合蛍光蛋白質を産生することができる。
【0071】
本発明の蛍光蛋白質は、特に、標識としての利用価値が高い。即ち、本発明の蛍光蛋白質を被検アミノ酸配列との融合蛋白質として精製し、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入し、該融合蛋白質の分布を経時的に観察すれば、被検アミノ酸配列の細胞内におけるターゲッティング活性を検出することが可能である。
本発明の蛍光蛋白質を融合させる他の蛋白質(被検アミノ酸配列)の種類は特に限定されるものではないが、例えば、細胞内に局在する蛋白質、細胞内小器官に特異的な蛋白質、ターゲティングシグナル(例えば、核移行シグナル、ミトコンドリアプレ配列)等が好適である。なお、本発明の蛍光蛋白質は、マイクロインジェクション法などにより細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることも可能である。この場合には、本発明の蛍光蛋白質をコードするDNAが発現可能に挿入されたベクターが宿主細胞に導入される。
【0072】
また、本発明の蛍光蛋白質は、レポーター蛋白質としてプロモーター活性の測定に用いることも可能である。即ち、被検プロモーターの下流に、本発明の蛍光蛋白質をコードするDNAが配置されたベクターを構築し、これを宿主細胞に導入し、該細胞から発せられる本発明の蛍光蛋白質の蛍光を検出することにより、被検プロモーターの活性を測定することが可能である。被検プロモーターとしては、宿主細胞内で機能するものであれば、特に制限はない。
上記被検アミノ酸配列のターゲティング活性の検出やプロモーター活性の測定において用いられるベクターとしては、特に制限はないが、例えば、動物細胞用ベクターでは、「pNEO」(P. Southern, and P. Berg (1982) J. MOl. Appl. Genet. 1:327)、「pCAGGS」(H.Niwa,K.Yamamura,and J.Miyazaki. Gene 108,193-200(1991))、「pRc/CMV」(インビトロゲン社製)、「pCDM8」(インビトロゲン社製)などが、酵母用ベクターでは、「pRS303」,「pRS304」,「pRS305」,「pRS306」,「pRS313」,「pRS314」,「pRS315」,[pRS316](R.S.Sikorski and P.Hieter (1989) Genetics 122: 19-27)、「pRS423」,「pRS424」,「pRS425」,「pRS426」(T.W.Christianson, R.S.Sikorski, M.Dante, J.H.Shero, and P. Hieter (1992) Gene 110: 119-122)などが好適に用いられる。
【0073】
また、使用可能な細胞の種類も特に限定されず、各種の動物細胞、例えば、L細胞、BalbC-3T3細胞、NIH3T3細胞、CHO(Chinese hamster ovary)細胞、HeLa細胞、NRK(normal rat kidney)細胞、「Saccharomyces cerevisiae」などの酵母細胞や大腸菌(E. coli)細胞などを使用することができる。ベクターの宿主細胞への導入は、例えば、リン酸カルシウム法やエレクトロポレーション法などの常法により行うことができる。
上記のようにして得た、本発明の蛍光蛋白質と他の蛋白質(蛋白質Xとする)とを融合させた融合蛍光蛋白質を細胞内で発現させ、発する蛍光をモニターすることにより、細胞内における蛋白質Xの局在や動態を分析することが可能になる。即ち、本発明の融合蛍光蛋白質をコードするDNAで形質転換またはトランスフェクトした細胞を蛍光顕微鏡で観察することにより細胞内における蛋白質Xの局在や動態を可視化して分析することができる。
【0074】
例えば、蛋白質Xとして細胞内オルガネラに特異的な蛋白質を利用することにより、核、ミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、分泌小胞、ペルオキソームなどの分布や動きを観察できる。
また、例えば、神経細胞の軸索、樹状突起などは発生途中の個体の中で著しく複雑な走向の変化を示すので、こういった部位を蛍光ラベルすることにより動的解析が可能になる。
本発明の蛍光蛋白質の蛍光は、生細胞のまま検出することが可能である。この検出は、例えば、蛍光顕微鏡(カールツァイス社 アキシオフォト フィルターセット09)や画像解析装置(ATTO デジタルイメージアナライザー)などを用いて行うことが可能である。
【0075】
顕微鏡の種類は目的に応じて適宜選択できる。経時変化を追跡するなど頻回の観察を必要とする場合には、通常の落射型蛍光顕微鏡が好ましい。細胞内の詳細な局在を追及したい場合など、解像度を重視する場合は、共焦点レーザー顕微鏡の方が好ましい。顕微鏡システムとしては、細胞の生理状態を保ち、コンタミネーションを防止する観点から、倒立型顕微鏡が好ましい。正立顕微鏡を使用する場合、高倍率レンズを用いる際には水浸レンズを用いることができる。
フィルターセットは蛍光蛋白質の蛍光波長に応じて適切なものを選択できる。
【0076】
本発明の第一の蛍光蛋白質の場合、励起極大波長が508nm、蛍光極大波長が518である緑色を検出する場合は、励起光490〜510nm、蛍光510〜530nm程度のフィルターを使用することが好ましい。また、励起極大波長が572nmであり、蛍光極大波長が581nmである赤色を検出する場合は、励起光560〜575nm、蛍光575〜590nm程度のフィルターを使用することが好ましい。
本発明の第二の蛍光蛋白質の場合、励起極大波長が508nm、蛍光極大波長が518である緑色を検出する場合は、励起光490〜510nm、蛍光510〜530nm程度のフィルターを使用することが好ましい。また、励起極大波長が578nmであり、蛍光極大波長が588nmである赤色を検出する場合は、励起光570〜580nm、蛍光580〜595nm程度のフィルターを使用することが好ましい。
【0077】
また、蛍光顕微鏡を用いた生細胞での経時観察を行う場合には、短時間で撮影を行うべきなので、高感度冷却CCDカメラを使用する。冷却CCDカメラは、CCDを冷却することにより熱雑音を下げ、微弱な蛍光像を短時間露光で鮮明に撮影することができる。
【0078】
(8)本発明のキット
本発明によれば、本明細書に記載した色素蛋白質、融合蛋白質、DNA、組み換えベクター又は形質転換体から選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする、吸光試薬キットが提供される。さらに本発明によれば、本明細書に記載した蛍光蛋白質、融合蛍光蛋白質、DNA、組み換えベクター又は形質転換体から選択される少なくとも1種以上を含むことを特徴とする、細胞内成分の局在の分析及び/又は生理活性物質の分析のためのキットが提供される。本発明のキットは、それ自体既知の通常用いられる材料及び手法で調製することができる。
【0079】
色素蛋白質、蛍光蛋白質又はDNAなどの試薬は、適当な溶媒に溶解することにより保存に適した形態に調製することができる。溶媒としては、水、エタノール、各種緩衝液などを用いることができる。
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
実施例A−1:イソギンチャクからの新規色素蛋白遺伝子の単離
(1)total RNAの抽出
イソギンチャクより色素蛋白遺伝子の単離を行った。材料には緑色を呈する1個体のベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)を用いた。凍結したベリルイソギンチャクを乳鉢で砕き、湿重量1グラムに"TRIzol"(GIBCO BRL)を7.5ml加えてホモジナイズし、1500xgで10分間遠心した。上清にクロロホルム1.5mlを加え、15秒間攪拌した後、3分間静置した。7500xgで15分間遠心した。上清にイソプロパノール3.75mlを加え、15秒間攪拌した後、10分間静置した。17000xgで10分間遠心した。上清を捨て70%エタノールを6ml加えて17000xgで10分間遠心した。上清を捨て沈殿をDEPC水200μlで溶解した。DEPC水で溶解したtotal RNAを100倍に希釈してO.D.260とO.D.280の値を測定してRNA濃度を測った。2.2mgのtotal RNAを得た。
【0081】
(2)First strand cDNAの合成
total RNA 4μgを使用し、First strand cDNAの合成キット"Ready To Go"(Amersham Pharmacia)によりcDNA(33μl)を合成した。
【0082】
(3)Degenerated PCR
合成したFirst strand cDNA(33μl)のうち3μlを鋳型としてPCRを行った。
プライマーのデザインは既知の蛍光蛋白のアミノ酸配列を見比べて、似ている部分を抜き出し、塩基配列に変換し直し作製した。
使用プライマー
5'- GAAGGRTGYGTCAAYGGRCAY -3' (primer1)(配列番号19)
5'- ACVGGDCCATYDGVAAGAAARTT -3'(primer2)(配列番号20)
Iはイノシン、RはA又はG、YはC又はT、VはA,C 又はG、DはA,G又は T、 SはC又はG、HはA, T又は C を示す。
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3μl
X10 taq バッファー 5μl
2.5mM dNTPs 4μl
100μM primer1 1μl
100μM primer2 1μl
ミリQ 35μl
taq polymerase(5U/μl) 1μl
【0083】
PCR反応条件
94℃ 1分(PAD)
94℃ 30秒 (変性)
52℃ 30秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72℃ 1分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行い、アニーリング温度を1サイクルごとに0.3℃下げた。30サイクル時の温度は43℃。
72℃ 7分 (最後の伸長)
4℃で保持
一回目のPCR反応で得られた増幅産物1μlをテンプレートとして、もう一度同じ条件でPCRを行った。アガロースゲル電気泳動で、350bpを切り出し、精製した。
【0084】
(4)サブクローニング及び塩基配列の決定
精製したDNA断片をpT7-blue vector(Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。得られた塩基配列を他の蛍光蛋白遺伝子の塩基配列と比較してそのDNA塩基配列が蛍光蛋白由来のものであるかを判断した。蛍光蛋白遺伝子の一部であると判断したものに関して、5'-RACE法および3'-RACE法による遺伝子全長のクローニングを行った。
【0085】
(5)5'-RACE法
Degenerated PCRで得られたDNA断片の5'側の塩基配列を決定するために5'-RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends,Version 2.0(GIBCO BRL)を用いて、5'-RACE法を行った。鋳型として(1)で調製したtotal RNAを4μg使用した。
dC-tailed cDNAの一回目の増幅には
5'-ggccacgcgtcgactagtacgggiigggiigggiig-3' (primer3)(配列番号21)
5'- AAGAGACTCCTTGAAGTAATCGGGA -3' (primer4)(配列番号22)
のプライマーを用いた。
Iはイノシンを示す。
二回目の増幅には
5'-ggccacgcgtcgactagtac-3' (primer5)(配列番号23)
5'- AAAATATCGTACGCAAAGGG -3' (primer6)(配列番号24)
のプライマーを用いた。PCR反応条件等はキットのプロトコールに準じた。
アガロースゲル電気泳動で、増幅された200bpのバンドを切り出し、精製した。精製したDNA断片をpT7-blue vector(Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。
【0086】
(6)3'-RACE法
Degenerated PCRで得られたDNA断片の3'側部分は、(4)の塩基配列決定で得られた情報を基に作製したプライマーとオリゴdTプライマーのPCRで得た。鋳型として(2)で調製したfirst strand cDNAを3μl使用した。
作成したプライマーは、
5'- AGGAGGTCCGCTACCCTTTG -3' (primer7)(配列番号25)
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3μl
X10 taq バッファー 5μl
2.5mM dNTPs 4μl
20μM primer7 1μl
10μM オリゴdTprimer 1μl
ミリQ 35μl
taq polymerase(5U/μl) 1μl
【0087】
PCR反応条件
94℃ 1分(PAD)
94℃ 30秒(変性)
52℃ 30秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72℃ 1分 (プライマ伸長)
上記3ステップを30サイクル行った。
72℃ 7分 (最後の伸長)
4℃で保持
アガロースゲル電気泳動で、増幅された約1000bpのバンドを切り出し、精製した。精製したDNA断片をpT7-blue vector(Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。得られた全長の塩基配列を配列表の配列番号2に示し、全長のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。
【0088】
実施例A−2:大腸菌での蛋白発現
得られた全長の塩基配列より、蛋白のN末端に相当する部分でプライマーを作製し、C末端側はオリゴdTプライマーを使用して、実施例A−1の(2)で調製したFirst strand cDNAを鋳型としてPCRを行った。
使用プライマー
5'- CCCGGATCCGACCATGGCTACCTTGGTTAAAGA -3' (primer8)(配列番号26)
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3μl
X10 pyrobest バッファー 5μl
2.5mM dNTPs 4μl
100μM primer8 1μl
100μM オリゴdTプライマー 1μl
ミリQ 35μl
pyrobest polymerase(5U/μl) 1μl
【0089】
PCR反応条件
94℃ 1分(PAD)
94℃ 30秒 (変性)
52℃ 30秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72℃ 1分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行った。
72℃ 7分 (最後の伸長)
4℃で保持
アガロースゲルの電気泳動で、増幅された約1100bpのバンドを切り出し、精製してpRSET vector(Invitrogen)のBamHI、EcoRI部位にサブクローニングして、大腸菌株(JM109-DE3)で発現させた。発現蛋白はN末端にHis-tagが付くようにコンストラクトしたので発現蛋白はNi-Agarose gel(QIAGEN)で精製した。精製の方法は付属のプロトコールに準じた。この色素蛋白質をBe−Gと命名する。以下の実施例3では、精製した蛋白の性質を解析した。
【0090】
実施例A−3:色素蛋白質(Be−G)の性質
(1)光吸収特性の解析
20μM色素蛋白(Be−G)、50mM HEPES pH7.9溶液を用いて吸収スペクトルを測定した。このスペクトルのピークの値よりモル吸光係数を計算した。緑色個体由来色素蛋白(Be−G)では605nmに吸収のピークが認められた(表1、図1)。
【0091】
【表1】

【0092】
(2)pH感受性の測定
50mMの下記の緩衝液中で蛋白質の吸収スペクトルを測定した(図2)。
各pHの緩衝液は次の通り、
pH4、5 : 酢酸バッファー
pH6 : リン酸バッファー
pH7、8 : HEPESバッファー
pH9、10 : グリシンバッファー
図2の結果から分かるように、pH5〜10でピークの値は安定していた。
【0093】
実施例B−1:イソギンチャクからの新規色素蛋白遺伝子の単離
(1)total RNAの抽出
イソギンチャクより色素蛋白遺伝子の単離を行った。材料には赤色を呈する1個体のベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)を用いた。凍結したベリルイソギンチャクを乳鉢で砕き、湿重量1グラムに"TRIzol"(GIBCO BRL)を7.5ml加えてホモジナイズし、1500xgで10分間遠心した。上清にクロロホルム1.5mlを加え、15秒間攪拌した後、3分間静置した。7500xgで15分間遠心した。上清にイソプロパノール3.75mlを加え、15秒間攪拌した後、10分間静置した。17000xgで10分間遠心した。上清を捨て70%エタノールを6ml加えて17000xgで10分間遠心した。上清を捨て沈殿をDEPC水200μlで溶解した。DEPC水で溶解したtotal RNAを100倍に希釈してO.D.260とO.D.280の値を測定してRNA濃度を測った。3mgのtotal RNAを得た。
【0094】
(2)First strand cDNAの合成
total RNA 4μgを使用し、First strand cDNAの合成キット"Ready To Go"(Amersham Pharmacia)によりcDNA(33μl)を合成した。
【0095】
(3)Degenerated PCR
合成したFirst strand cDNA(33μl)のうち3μlを鋳型としてPCRを行った。プライマーのデザインは既知の蛍光蛋白のアミノ酸配列を見比べて、似ている部分を抜き出し、塩基配列に変換し直し作製した。
使用プライマー
5'- GAAGGRTGYGTCAAYGGRCAY -3' (primer1)(配列番号19)
5'- ACVGGDCCATYDGVAAGAAARTT -3'(primer2)(配列番号20)
Iはイノシン、RはA又はG、YはC又はT、VはA,C 又はG、DはA,G又はT、SはC又はG、HはA, T又はCを示す。
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3μl
X10 taq バッファー 5μl
2.5mM dNTPs 4μl
100μM primer1 1μl
100μM primer2 1μl
ミリQ 35μl
taq polymerase(5U/μl) 1μl
【0096】
PCR反応条件
94℃ 1分(PAD)
94℃ 30秒 (変性)
52℃ 30秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72℃ 1分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行い、アニーリング温度を1サイクルごとに0.3℃下げた。30サイクル時の温度は43℃。
72℃ 7分 (最後の伸長)
4℃で保持
一回目のPCR反応で得られた増幅産物1μlをテンプレートとして、もう一度同じ条件でPCRを行った。アガロースゲル電気泳動で、350bpを切り出し、精製した。
【0097】
(4)サブクローニング及び塩基配列の決定
精製したDNA断片をpT7-blue vector(Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。得られた塩基配列を他の蛍光蛋白遺伝子の塩基配列と比較してそのDNA塩基配列が蛍光蛋白由来のものであるかを判断した。蛍光蛋白遺伝子の一部であると判断したものに関して、5'-RACE法および3'-RACE法による遺伝子全長のクローニングを行った。
【0098】
(5)5'-RACE法
Degenerated PCRで得られたDNA断片の5'側の塩基配列を決定するために5'-RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends,Version 2.0(GIBCO BRL)を用いて、5'-RACE法を行った。鋳型として(1)で調製したtotal RNAを4μg使用した。
赤色の個体由来のDC-tailed cDNAの一回目の増幅には
5'-ggccacgcgtcgactagtacgggiigggiigggiig-3' (primer3)(配列番号21)
5'- AAGAGACTCCTTGAAGTAATCGGGA -3' (primer4)(配列番号22)
のプライマーを用いた。
Iはイノシンを示す。
二回目の増幅には
5'-ggccacgcgtcgactagtac-3' (primer5)(配列番号23)
5'- AAAATATCGTACGCAAAGGG -3' (primer6)(配列番号24)
のプライマーを用いた。PCR反応条件等はキットのプロトコールに準じた。
アガロースゲル電気泳動で、増幅された200bpのバンドを切り出し、精製した。精製したDNA断片をpT7-blue vector(Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。
【0099】
(6)3'-RACE法
Degenerated PCRで得られたDNA断片の3'側部分は、(4)の塩基配列決定で得られた情報を基に作製したプライマーとオリゴdTプライマーのPCRで得た。鋳型として(2)で調製したfirst strand cDNAを3μl使用した。
作成したプライマーは
5'- AGGAGGTCCGCTACCCTTTG -3' (primer7)(配列番号25)
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3μl
X10 taq バッファー 5μl
2.5mM dNTPs 4μl
20μM primer7 1μl
10μM オリゴdTprimer 1μl
ミリQ 35μl
taq polymerase(5U/μl) 1μl
【0100】
PCR反応条件
94℃ 1分(PAD)
94℃ 30秒(変性)
52℃ 30秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72℃ 1分 (プライマ伸長)
上記3ステップを30サイクル行った。
72℃ 7分 (最後の伸長)
4℃で保持
アガロースゲル電気泳動で、増幅された約1000bpのバンドを切り出し、精製した。精製したDNA断片をpT7-blue vector(Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。得られた全長の塩基配列を配列表の配列番号4に示し、全長のアミノ酸配列を配列表の配列番号3に示す。
【0101】
実施例B−2:大腸菌での蛋白発現
得られた全長の塩基配列より、蛋白のN末端に相当する部分でプライマーを作製し、C末端側はオリゴdTプライマーを使用して、実施例B−1の(2)で調製したFirst strand cDNAを鋳型としてPCRを行った。
使用プライマー
5'- CCCGGATCCGACCATGGCTACCTTGGTTAAAGA -3' (primer8)(配列番号26)
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3μl
X10 pyrobest バッファー 5μl
2.5mM dNTPs 4μl
100μM primer8 1μl
100μM オリゴdTプライマー 1μl
ミリQ 35μl
pyrobest polymerase(5U/μl) 1μl
【0102】
PCR反応条件
94℃ 1分(PAD)
94℃ 30秒 (変性)
52℃ 30秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72℃ 1分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行った。
72℃ 7分 (最後の伸長)
4℃で保持
アガロースゲルの電気泳動で、増幅された約1100bpのバンドを切り出し、精製してpRSET vector(Invitrogen)のBamHI、EcoRI部位にサブクローニングして、大腸菌株(JM109-DE3)で発現させた。発現蛋白はN末端にHis-tagが付くようにコンストラクトしたので発現蛋白はNi-Agarose gel(QIAGEN)で精製した。精製の方法は付属のプロトコールに準じた。この色素蛋白質をBe−Rと命名する。以下の実施例3では、精製した蛋白の性質を解析した。
【0103】
実施例B−3:色素蛋白質(Be−R)の性質
(1)光吸収特性の解析
20μM色素蛋白、50mM HEPES pH7.9溶液を用いて吸収スペクトルを測定した。このスペクトルのピークの値よりモル吸光係数を計算した。赤色の個体由来色素蛋白(Be−R)では553nmに吸収のピークが認められた(表2、図3)。
【0104】
【表2】

【0105】
(2)pH感受性の測定
50mMの下記の緩衝液中で蛋白質の吸収スペクトルを測定した(図4)。
各pHの緩衝液は次の通り、
pH4、5 : 酢酸バッファー
pH6 : リン酸バッファー
pH7、8 : HEPESバッファー
pH9、10 : グリシンバッファー
図4の結果から分かるように、pH5〜10でピークの値は安定していた。
【0106】
実施例C−1:サンゴからの新規蛍光蛋白遺伝子(Kaede)の単離
色彩に富む蛍光を放つヒユサンゴTrachyphyllia geoffroyi から、蛍光蛋白遺伝子を以下の手順で単離した。
(1)total RNAの抽出
Acid Guanidium-Phenol-Chroloform法でtotal RNAを抽出した。
凍結したヒユサンゴをMulti-Beads Shocker(安井器械)を用いて変性溶液中で砕き、フェノール/クロロホルムを加え、遠心して蛋白質、DNAとRNAを分離する。RNAを含む水層をisopropanolに加え遠心すると、沈殿としてtotal RNAが得られる。
【0107】
(2)RNAの精製
Oligotex-dT30 (Roche社製)を用いて、total RNAからmRNAを分離した。
total RNA にOligotex-dT30<super> を加え、加熱してRNAの2次構造を壊してから、37℃でRNAとOligotex-dTを結合させる。洗浄後、加熱、遠心すると、mRNAが溶出された上清が得られる。Oligotex-dTを取り除いた上、ethanolとNaClでmRNA沈殿させ、水に溶した。
【0108】
(3)cDNA の作製
TimeSaverとDirectional Cloning Toolbox(共にAmersham pharmacia社製)を用いてcDNA 断片を作製した。
mRNAを加熱して2次構造を壊した後、First-Strand Reaction MixにDTTとNotI-dT primerと共に加え、first-strandを合成する。更にそれをSecond-Strand Reaction Mixに加え、second-strandを合成し、付属のスパンカラムで精製する。精製したdouble-stranded cDNAの両端にEcoRI adaptor を付け、NotIで3'側のみカットする。もう一度スパンカラムで精製して、cDNA 断片(EcoRI- NotI)を得た。
【0109】
(4)Expression Cloning
pRSETB (Invitrogen社製)にEcoRI、NotIサイトを設け、作製したcDNAを挿入、大腸菌のJM109 DE3株に導入して、LAプレートで培養した。この株では蛋白が合成されるため、UVを照射した時に蛍光を発するコロニーを単離した。
その結果、約13万個から2個の蛍光を持つコロニーを得た。塩基配列をDNAシークエンサーにより決定し、このクローンをKaedeと命名した。Kaedeのアミノ酸配列を配列表の配列番号5に記載し、塩基配列を配列表の配列番号6に記載する。
【0110】
(5)蛍光特性の解析
(a)蛋白の発現と精製
得られた全長cDNAのN末端にBamHIサイトを、C末端にEcoRIサイトを設け、pRSETB(Invitrogen社製)にin frameでサブクローニングして、大腸菌のJM109 DE3株で発現させた。発現蛋白はN末端のHis-tagを利用して、Ni-Agarose gel(QIAGEN社製)を用いて精製した。
(b)吸収スペクトルとモル吸光係数、蛍光スペクトルと量子収率
この蛍光蛋白質は、UVを照射することで吸収及び蛍光スペクトルが緑から赤に長波長シフトする。図5は、精製蛋白のUV照射前後の吸収スペクトルを示す(実線が前、点線が後)。モル吸光係数は、蛋白濃度と吸収極大での吸光度より求めた(表3)。
蛍光スペクトルは、UV照射前後を480nmで励起して測定し(図6)、量子収率をFluorescein (Molecular Probes社製)と比較して算出した(表3)。
Kaedeの蛍光特性を以下の表3に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
(c)pH 感受性の特性
緑、赤それぞれにつきpH4〜11のバッファー中での吸収スペクトルを測定した。緑、赤共にpH9を境に吸収は徐々に落ちてくる。吸収極大の変化から算出したpKaを上記の表3中に示した。
【0113】
実施例C−2:哺乳類細胞への新規蛍光蛋白の遺伝子導入
HeLa細胞にLIPOFECTIN Reagent (Gibco社)を用いてKaedeの遺伝子を導入した。図7は、470nmで励起して510nmの蛍光で測定したもので、導入後9時間前後で蛍光が確認できる。哺乳類細胞中でも、UVを照射すると蛍光が長波長にシフトする。
【0114】
実施例C−3:Kaedeの二量体化
Kaedeは四量体を形成するため、他の蛋白質を融合させた際に発現パターンに異常が見られる場合がある。そこで、Kaedeの158番目のトレオニン(T)をアルギニン(R)に、160番目のアラニン(A)をグルタミン酸(E)に置換し、二量体変異体を作製した。この変異体をKaede2とした。Kaede2のアミノ酸配列及び塩基配列を配列表の配列番号7及び8にそれぞれ示す。12.5%アクリルアミドゲルのサンプルを煮沸しない電気泳動(Pseudonative SDS/PAGE)において、Kaede2はKaedeよりも低分子としてバンドが検出された(図8)。また、HeLa細胞の細胞形質膜にKaede、Kaede2を発現させたとき、Kaedeは明らかに正常でない発現パターンを示した。しかし、Kaede2に於いては正常に細胞形質膜にターゲティングされた発現パターンを示した(図9)。
【0115】
実施例C−4:紫(外)光照射依存的Kaedeタンパク質の切断
紫(外)光照射によるKaedeの緑から赤への蛍光特性変換はタンパク質の切断を伴う。12.5%アクリルアミドゲルの電気泳動の結果は、365 nm光照射により27kDaのKaede分子が17kDaと10kDaのペプチド鎖に切断される事を示し(図10上段)、且つ、365 nm光照射により508 nmの吸収値が減少し、572 nmの吸収値が増加するという緑から赤への蛍光特性変換と一致することを示した(図10中段、下段)。この性質はタンパク質の切断を光によりコントロールする技術となる。タンパク質を光によって切断する技術はこれまでに報告されていない。またこの切断はタンパク質内でのβ脱離反応であるが、タンパク質内のβ脱離反応、あるいはアミド基が脱離基となるβ脱離反応はこれまでに報告されていない。
【0116】
実施例D−1:珊瑚からの新規蛍光蛋白遺伝子(Momiji)の単離
(1)total RNAの抽出
蛍光を放つ珊瑚より蛍光蛋白遺伝子の単離を行った。材料にはアザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)を用いた。アザミハナガタサンゴをハンマーで砕き、砕いたサンゴ10グラムに"TRIzol"(GIBCO BRL)を15 ml加えて攪拌し、1500 x gで10分間遠心した。上清にクロロホルム3 mlを加え、15秒間攪拌した後3分間静置した。7500 x gで15分間遠心した。上清にイソプロパノール7.5 mlを加え、15秒間攪拌した後10分間静置した。17000 x gで10分間遠心した。上清を捨て70%エタノールを6 ml加えて、17000 x gで10分間遠心した。上清を捨て沈殿をDEPC水200 μlで溶解した。DEPC水で溶解したtotal RNAを100倍に希釈してO.D. 260とO.D. 280の値を測定してRNA濃度を測った。230 μgのtotal RNAを得た。
【0117】
(2)First strand cDNAの合成
total RNA 3 μgを使用し、First strand cDNAの合成キット"Ready To Go" (Amersham Pharmacia)によりcDNA(33 μl)を合成した。
【0118】
(3)Degenerated PCR
合成したFirst strand cDNA (33 μl)のうち3 μlを鋳型としてPCRを行った。プライマーのデザインは既知の蛍光蛋白のアミノ酸配列を見比べて、似ている部分を抜き出し、塩基配列に変換し直し作製した。
使用プライマー
5'- ATCAAGNTNWRYATGGAAGG -3' (primer1)(配列番号27)
5'- acVggDccatYDgVaagaaaRtt-3' (primer2)(配列番号28)
RはA又はGを示し、YはC又はTを示し、VはA,C又はGを示し、DはA,G又はTを示す。
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3 μl
X 10 taq バッファー 5 μl
2.5m M dNTPs 4 μl
100 μM primer1 1 μl
100 μM primer2 1 μl
ミリQ 35 μl
taq polymerase(5 U/μl) 1 μl
【0119】
PCR反応条件
94 ℃ 1分(PAD)
94 ℃ 30 秒 (変性)
52 ℃ 30 秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72 ℃ 1 分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行い、アニーリング温度を1サイクルごとに0.3 ℃下げた。30サイクル時の温度は43 ℃。
72 ℃ 7 分 (最後の伸長)
4 ℃で保持
一回目のPCR反応で得られた増幅産物1 μlをテンプレートとして、もう一度同じ条件でPCRを行った。アガロースゲル電気泳動で予想された大きさの350 bpのバンドを切り出し、精製した。
【0120】
(4)サブクローニング及び塩基配列の決定
精製したDNA断片をpT7-blue vector (Novagen)にライゲーションした。大腸菌株 (TG1)にトランスフォーメーションしてX-gal存在下でブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。得られた塩基配列を他の蛍光蛋白遺伝子の塩基配列と比較してそのDNA塩基配列が蛍光蛋白由来のものであるかを判断した。蛍光蛋白遺伝子の一部であると判断したものに関して、5'-RACE法および3'-RACE法による遺伝子全長のクローニングを行った。
【0121】
(5)5'-RACE法
Degenerated PCRで得られたDNA断片の5'側の塩基配列を決定するために5'-RACE System for Rapid Amplification of cDNA Ends,Version 2.0 (GIBCO BRL)を用いて、5'-RACE法を行った。鋳型として1)で調整したtotal RNAを3 μg使用した。DC-tailed cDNAの一回目の増幅には
5'-ggccacgcgtcgactagtacgggiigggiigggiig-3' (primer3)(配列番号29)
5'- AGTTCACACCATGATATTCAATATCATA -3' (primer4)(配列番号30)
のプライマーを用いた。
Iはイノシンを示す。
二回目の増幅には
5'-ggccacgcgtcgactagtac-3' (primer5)(配列番号31)
5'-TCTTCGTAAGTCATGCTTCGTTC-3' (primer6)(配列番号32)
のプライマーを用いた。PCR反応条件等はキットのプロトコールに準じた。
アガロースゲル電気泳動で、増幅された400 bpのバンドを切り出し、精製した。精製したDNA断片をpT7-blue vector (Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてX-gal存在下でブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。
【0122】
(6)3'-RACE法
Degenerated PCRで得られたDNA断片の3'側部分は、(4)の塩基配列決定で得られた情報を基に作製したプライマーとオリゴdTプライマーのPCRで得た。鋳型として(2)で調整したfirst strand cDNAを3 μl使用した。
作成したプライマーは 5'- GGTATTCGCCAAATACCCAAA -3'(primer7)(配列番号33)
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3 μl
X 10 taq バッファー 5 μl
2.5 mM dNTPs 4 μl
20 μM primer3 1 μl
10 μM oligo dT primer 1 μl
ミリQ 35 μl
taq polymerase(5 U/μl) 1 μl
【0123】
PCR反応条件
94 ℃ 1 分(PAD)
94 ℃ 30 秒(変性)
52 ℃ 30 秒(プライマーの鋳型へのアニーリング)
72 ℃ 1 分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行った。
72 ℃ 7 分 (最後の伸長)
4 ℃で保持
【0124】
アガロースゲル電気泳動で、増幅された500 bpのバンドを切り出し、精製した。精製したDNA断片をpT7-blue vector (Novagen)にライゲーションした。大腸菌株(TG1)にトランスフォーメーションしてX-gal存在下でブルーホワイトセレクションを行い、白いコロニーの大腸菌よりplasmid DNAを精製して、挿入されたDNA断片の塩基配列をDNAシークエンサーにより決定した。
【0125】
(7)全長cDNAの取得
得られた全長の塩基配列より蛍光蛋白質をコードするオープンリーディングフレームを決定した。N末端、C末端に相当する部分でプライマーを作製し、(2)で調製したFirst strand cDNAを鋳型としてPCRを行って全長のcDNAを得た。このクローンをMomijiと命名した。Momijiのアミノ酸配列を配列表の配列番号9に記載し、塩基配列を配列表の配列番号10に記載する。
使用プライマー
5'- CCCGGATCCGACCATGGTGAGTGTGATTAAGGACGAAATG -3'(primer8)(配列番号34)
5'- CCGCTCGAGTTGTTGTTGTTTCTCTTTGTCCTG -3' (primer9)(配列番号35)
PCR反応液組成
テンプレート(first strand cDNA) 3 μl
X 10 pyrobest バッファー 5 μl
2.5 mM dNTPs 4 μl
20 μM primer4 1 μl
20 μM primer5 1 μl
ミリQ 35 μl
pyrobest polymerase(5 U/μl) 1 μl
【0126】
PCR反応条件
94 ℃ 1 分(PAD)
94 ℃ 30 秒 (変性)
52 ℃ 30 秒 (プライマーの鋳型へのアニーリング)
72 ℃ 1 分 (プライマー伸長)
上記3ステップを30サイクル行った。
72 ℃ 7 分(最後の伸長)
4 ℃で保持
【0127】
実施例D−2:大腸菌での蛋白発現
実施例D−1(7)で増幅された700 bpのバンドをアガロースゲルの電気泳動で、切り出し、精製してpET28 vector (Novagen)のNcoI、XhoI部位に挿入して、大腸菌株(JM109-DE3)で発現させた。C末端にHis-tagが付くようにコンストラクトし、産生させた蛋白はNi-Agarose gel (QIAGEN)で精製した。精製の方法は付属のプロトコールに準じた。以下、実施例D−3で、精製した蛋白(Momiji)の性質を解析した。
【0128】
実施例D−3:蛍光蛋白の解析
(1)蛍光特性の解析
蛍光蛋白(Momiji)20 μM、50 mM HEPES pH 7.4、150 mM KCl溶液を用いて、吸収スペクトルを測定した。さらに上記の緩衝液で20倍希釈し、蛍光スペクトル及び励起スペクトルを測定した。別にBradford法で求めた蛋白質濃度と吸収スペクトルのピークの値より、508 nmと578 nmにおけるモル吸光係数を計算した。450 nmの吸収が0.002となるように蛍光蛋白を同緩衝液で希釈し、450 nmで励起した時の蛍光スペクトルを測定した。EGFP (CLONTECH)を同様に450 nmの吸収が0.002となるようにして蛍光スペクトルを測定し、両スペクトルの面積比から今回クローニングされた蛍光蛋白の蛍光の量子収率を求めた。EGFPの蛍光の量子収率を0.6とした。測定結果等は表4及び図11に示す。
【0129】
【表4】

【0130】
(2)UVによるスペクトル変化の測定
本発明の蛍光蛋白(Momiji)はUV(365 nm付近)の照射により、蛍光、及び、吸収スペクトルが変化するため、その変化を測定した。蛍光蛋白を50 mM HEPES pH 7.4、150 mM KCl溶液で希釈して、365 nmの光を照射し、365 nmで励起した時の蛍光スペクトルを測定した。また蛍光蛋白20 μM、50 mM HEPES pH 7.4、150 mM KCl溶液を用いて、365 nmの光を照射した後の吸収スペクトルを測定した。測定結果等は図13及び図14に示す。なお、蛍光スペクトルと吸収スペクトルの測定を行ったときの365 nmの光量が違うため、蛍光スペクトルと吸収スペクトルの変化と時間は一致しない。
【0131】
(3)pH感受性の測定
pH 4から11の緩衝液で吸収スペクトルをとりpH感受性(pKa)を測定した。
各pHの緩衝液は次の通り、
pH 4、5 : 酢酸バッファー
pH 6、11 : リン酸バッファー
pH 7、8 : HEPESバッファー
pH 9、10 : グリシンバッファー
測定結果等は表4及び図12に示す。
【0132】
実施例D−4:Momijiの蛍光特性の改良
Momijiの86番目のグルタミン酸(E)をリジン(K)に111番目のアスパラギン酸(D)をグルタミン酸(E)に、142番目のグルタミン(Q)をプロリン(P)に、203番目のアルギニン(R)をヒスチジン(H)にアミノ酸置換する事によりモル吸光係数の値が102250(508nm)から127200(505nm)に上昇し、緑から赤への紫(外)光照射依存的に蛍光特性が変わる性質を保持したまま、緑の蛍光が明るくなった(表5、図15及び21)。また、紫(外)光照射依存的に蛍光特性が変わった赤い蛍光を放つ分子は、野生型(Momiji)のそれにくらべて低いpHに抵抗性をもった(図17及び18)。この変異体をMomiji2とした。Momiji2のアミノ酸配列及び塩基配列を配列表の配列番号11及び12にそれぞれ示す。
【0133】
【表5】

【0134】
実施例D−5:Momijiの光照射依存的な蛍光特性の改良
Momijiの197番目のイソロイシン(I)をメチオニン(M)にアミノ酸置換した。この変異体をMomiji4とした。Momiji4のアミノ酸配列及び塩基配列を配列表の配列番号13及び14にそれぞれ示す。紫(外)光照射依存的な緑から赤への蛍光変化が365 nm光照射後1分からMomiji4では観測されたが、野生型(Momiji)に於いては365 nm光照射後10分がMomiji4の1分間照射に相当し、明らかにMomiji4が野生型(Momiji)より光照射依存的蛍光特性変換効率が高いことを示した(図16、20及び22)。HeLa細胞にMomiji、Momiji4を発現させて、細胞内での410 nm光照射による緑から赤への蛍光特性の変化(Red/Green)を測定した結果も、光照射依存的蛍光特性変換効率がMomiji4のほうが良いことを示した。紫(外)光照射依存的に蛍光特性が変わった赤い蛍光を放つ分子は、野生型(Momiji)のそれにくらべて低いpHに抵抗性を持ち、特性変換光照射前の緑の蛍光を放つ分子は低いpHに感受性となった(図17及び19)。
【0135】
実施例D−6:Momijiの二量体の作製
12.5%アクリルアミドゲルを用いてMomijiを煮沸せずに電気泳動(Pseudonative SDS/PAGE)を行うとMomijiは四量体を形成していることを示した。Momijiの11番目のアスパラギン(N)をアルギニン(R)に、29番目のロイシン(L)をトレオニン(T)に、122番目のチロシン(Y)をグルタミン酸(E)に、136番目のリジン(K)をアスパラギン(N)に、138番目のグルタミン(Q)をロイシン(L)に、142番目のグルタミン(Q)をプロリン(P)に、159番目のアスパラギン(N)をアスパラギン酸(D)に、161番目のアラニン(A)をセリン(S)に、190番目のチロシン(Y)をトレオニン(T)に、192番目のフェニルアラニン(F)をチロシン(Y)に、196番目のシステイン(C)をセリン(S)にアミノ酸置換し、224番目から229番目までの6アミノ酸を削除する事により二量体となった(図24)。Momijiと同様に緑から赤への紫(外)光照射依存的に蛍光特性が変わる性質を保持していた(図25)。この変異体をd16とした。d16のアミノ酸配列及び塩基配列を配列表の配列番号15及び16にそれぞれ示す。
【0136】
実施例D−7:Momijiの単量体の作製
Momijiの11番目のアスパラギン(N)をアルギニン(R)に、29番目のロイシン(L)をトレオニン(T)に、95番目のイソロイシン(I)をトレオニン(T)に、101番目のイソロイシン(I)をバリン(V)に、103番目のイソロイシン(I)をトレオニン(T)に、122番目のチロシン(Y)をグルタミン酸(E)に、124番目のバリン(V)をトレオニン(T)に、138番目のグルタミン(Q)をロイシン(L)に、142番目のグルタミン(Q)をプロリン(P)に、159番目のアスパラギン(N)をアスパラギン酸(D)に、161番目のアラニン(A)をセリン(S)に、174番目のフェニルアラニン(F)をメチオニン(M)に、190番目のチロシン(Y)をトレオニン(T)に、192番目のフェニルアラニン(F)をチロシン(Y)に、196番目のシステイン(C)をセリン(S)に、212番目のフェニルアラニン(F)をチロシン(Y)にアミノ酸置換し、224番目から229番目までの6アミノ酸を削除する事により単量体となった(図24)。Momijiと同様に緑から赤への紫(外)光照射依存的に蛍光特性が変わる性質を保持していた(図26)。この変異体をm16とした。m16のアミノ酸配列及び塩基配列を配列表の配列番号17及び18にそれぞれ示す
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明により、ベリルイソギンチャク(Anthopleura inornata)由来の新規な色素蛋白質が提供されることになった。本発明の色素蛋白質は所定の吸光特性を有し、またpH感受性が低いことから、分子生物学的分析において有用である。また、本発明の色素蛋白質の吸収度(モル吸光係数)は著しく大きいため、光エネルギーの高効率な変換が可能である。また、遺伝子改変技術によって本発明の色素蛋白質の量子収率を1に近づけることも可能であり、その場合、新規な蛍光蛋白質を作製することができる。
【0138】
また本発明により、ヒユサンゴ(Trachyphyllia geoffroyi)に由来する新規な一次構造を有する蛍光蛋白質を提供される。本発明の蛍光蛋白質は、紫外光によって色が緑色から赤色に変わることを特徴とし、光によって特定の細胞や器官をマーキング(optical marking)することが可能である。さらに本発明により、アザミハナガタサンゴ(Scolymia Vitiensis)に由来する新規な一次構造を有する蛍光蛋白質を提供される。本発明の蛍光蛋白質は、紫外光によって色が緑色から赤色に変わることを特徴とし、光によって、特定の細胞、器官又は蛋白質をマーキング(optical marking)することが可能である。また、本発明の蛍光蛋白質によれば、紫外光によって非常に簡単に効率よく特異的に緑色から赤色への色変換が可能であり、色変換の前後の緑色及び赤色の両状態が非常に安定で明るいため実用的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の何れかのアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質。
(a)配列番号5に記載のアミノ酸配列;又は、
(b)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列を有し、かつ蛍光を有するアミノ酸配列:
【請求項2】
配列番号7に記載のアミノ酸配列を有する蛍光蛋白質。
【請求項3】
以下の何れかのDNA。
(a)配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するアミノ酸配列をコードし、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
(c)配列番号6に記載の塩基配列を有するDNA;又は、
(d)配列番号6に記載の塩基配列において1から数個の塩基の欠失、置換及び/又は付加を有する塩基配列を有し、かつ蛍光蛋白質をコードするDNA:
【請求項4】
以下の何れかのDNA。
(a)配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;又は、
(b)配列番号8に記載の塩基配列を有するDNA。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のDNAを有する組み換えベクター。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のDNA又は請求項5に記載の組み換えベクターを有する形質転換体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の蛍光蛋白質と他の蛋白質とから成る融合蛍光蛋白質。
【請求項8】
他の蛋白質が細胞内に局在する蛋白質である、請求項7に記載の融合蛍光蛋白質。
【請求項9】
他の蛋白質が細胞内小器官に特異的な蛋白質である、請求項7又は8に記載の融合蛍光蛋白質。
【請求項10】
請求項7から9の何れかに記載の融合蛍光蛋白質を細胞内で発現させることを特徴とする、細胞内における蛋白質の局在または動態を分析する方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の蛍光蛋白質、請求項3又は4に記載のDNA、請求項5に記載の組み換えベクター、請求項6に記載の形質転換体、又は請求項7から9の何れかに記載の融合蛍光蛋白質を含む、蛍光試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−35558(P2010−35558A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231168(P2009−231168)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【分割の表示】特願2004−530602(P2004−530602)の分割
【原出願日】平成15年8月22日(2003.8.22)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】