説明

花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の評価方法及びスクリーニング方法、並びに、花粉症の予防又は治療のための薬剤及びその製造方法

【課題】花粉症の発症メカニズムに関する新たな知見を利用し、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の、容易、かつ効率的な評価方法及びスクリーニング方法、並びに、効果的な花粉症の予防又は治療のための薬剤及びその効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】被検物質が、花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程、を少なくとも含む、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の評価方法及びスクリーニング方法、並びに、花粉症の予防又は治療のための薬剤の製造方法である。また、自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質を有効成分とする、花粉症の予防又は治療のための薬剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉症の発症メカニズムに関する本発明者らの新たな知見を利用した、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の評価方法及びスクリーニング方法、並びに、花粉症の予防又は治療のための薬剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スギ花粉等の花粉により引き起こされる花粉症のアレルギー症状は、IgE(抗体)を介した即時型アレルギー反応であると考えられている。即ち、スギ花粉中の抗原、Cryj1、Cryj2タンパク質が体内に侵入すると、その情報がマクロファージ等の抗原提示細胞からT細胞へと送られる。更に、T細胞からの指令により、これらの花粉抗原と反応するIgEがB細胞より産生される。産生されたIgEは、肥満細胞に受容体を介して結合する。このような状態で、再度スギ花粉中の抗原、Cryj1、Cryj2タンパク質が体内に侵入すると、肥満細胞上のIgEと結合し、その結果、肥満細胞が活性化され、ヒスタミンが遊離し、くしゃみや鼻水などの様々なアレルギー反応を引き起こす。花粉症のアレルギー症状は、このような獲得免疫機構を介して引き起こされると考えられている。
【0003】
また、花粉症用の薬剤としては、従来から、抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬などが広く使用されている。しかしながら、抗アレルギー薬は効果が現れるまでに時間がかかるという問題があり、また、抗ヒスタミン薬はくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった既に出てしまったアレルギー症状を緩和するのには即効性があるものの、重度の症状にはあまり効果が無く、更に副作用があるという問題があった。
これに対し、近年は、副作用の心配のない花粉症用の薬剤の開発についても広く研究が行われており、例えば、スフィンゴ脂質を有効成分としたIgE抗体産生抑制剤を含む花粉症の治療剤などが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、花粉症の発症メカニズムについては未だ完全な解明はなされておらず、また、症状に悩む患者数も多いことから、花粉症の発症メカニズムに関する新たな知見、及び、前記知見を利用した新たな花粉症用の薬剤の開発が望まれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開2004−43359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、花粉症の発症メカニズムに関する新たな知見を得ること、また、前記知見を利用し、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の、容易、かつ効率的な評価方法及びスクリーニング方法、並びに、効果的な花粉症の予防又は治療のための薬剤及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、花粉症の発症メカニズムに、自然免疫機構の活性化が関与しているという知見である。
【0008】
従来から、花粉症のアレルギー症状は、スギ花粉中の抗原、Cryj1、Cryj2タンパク質が血中のIgE(抗体)と結合し、その結果、肥満細胞が活性化され、その肥満細胞からヒスタミンが遊離し、くしゃみや鼻水などの様々なアレルギー反応を引き起こすと考えられていた。即ち、花粉症のアレルギー症状は、IgEを介した即時型アレルギー反応(獲得免疫機構を介したアレルギー反応)であると考えられていた。
【0009】
これに対し、本発明者らは、カイコ幼虫を用い、スギ花粉の内膜画分を投与したところ、カイコ幼虫が死亡することを見出し、更に、これらの死亡は、免疫抑制剤であるアザチオプリンにより改善されることなどを見出した(実施例、後述)。カイコは、獲得免疫機構を有さない自然免疫機構のみを有する生物であることから、前記結果は、獲得免疫機構を介さない花粉症の発症メカニズム、即ち、自然免疫機構を介した花粉症の発症メカニズムの存在を示唆するものである。
このことは、自然免疫機構の活性化を指標とした新たな評価系、スクリーニング系が、花粉症用の薬剤の開発に有用であることを示している。また、自然免疫機構の活性化を抑制し得る物質が、花粉症用の薬剤として有用であることを示している。
【0010】
花粉症の発症メカニズムに自然免疫機構の活性化が関与していること、更に、この新たに発見された発症メカニズムを利用し、花粉症用の薬剤の開発を容易、かつ効率的に行うことができることは、従来全く知られておらず、本発明者らの新たな知見である。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 被検物質が、花粉症に対する予防又は治療作用を有するか否かを評価する方法であって、
(a)自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び前記被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構を有する生物において、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する工程、並びに、
(c)前記被検物質が、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程
を含むことを特徴とする方法である。
<2> 花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構を有する生物において、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する工程、
(c)前記被検物質が、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程、並びに、
(d)前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制すると評価された物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法である。
<3> 自然免疫機構を有する生物が、自然免疫機構のみを有する生物である前記<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<4> 自然免疫機構のみを有する生物が、昆虫類に属する生物である前記<3>に記載の方法である。
<5> 昆虫類に属する生物が、カイコである前記<4>に記載の方法である。
<6> 花粉症の予防又は治療のための薬剤の製造方法であって、
(a)自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構を有する生物において、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する工程、
(c)前記被検物質が、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程、
(d)前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制すると評価された物質を選択する工程、
(e)前記工程(d)で選択された物質を生成する工程、並びに、
(f)前記工程(e)で生成された物質と、薬学的に許容され得る担体とを混合する工程
を含むことを特徴とする製造方法である。
<7> 自然免疫機構を有する生物が、自然免疫機構のみを有する生物である前記<6>に記載の製造方法である。
<8> 自然免疫機構のみを有する生物が、昆虫類に属する生物である前記<7>に記載の製造方法である。
<9> 昆虫類に属する生物が、カイコである前記<8>に記載の製造方法である。
<10> 花粉症の予防又は治療のための薬剤であって、自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質を有効成分とすることを特徴とする薬剤である。
<11> 自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質が、花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質である前記<10>に記載の薬剤である。
<12> 自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質が、アザチオプリンである前記<10>から<11>のいずれかに記載の薬剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、花粉症の発症メカニズムに関する本発明者らの新たな知見を利用し、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の、容易、かつ効率的な評価方法及びスクリーニング方法、並びに、効果的な花粉症の予防又は治療のための薬剤及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(評価方法、スクリーニング方法)
本発明の評価方法は、被検物質が、花粉症に対する予防又は治療作用を有するか否かを評価する方法であり、以下の工程(a)〜工程(c)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
また、本発明のスクリーニング方法は、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質をスクリーニングする方法であり、以下の工程(a)〜工程(d)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記評価方法及び前記スクリーニング方法(以下、単に、前記「方法」と称することがある)は、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質の評価乃至スクリーニングを、自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを指標として行うことを特徴とする。
【0014】
<工程(a)>
前記方法においては、まず、自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び被検物質を投与する(工程(a))。
【0015】
−自然免疫機構を有する生物−
前記「自然免疫機構を有する生物」としては、特に制限はなく、任意の多細胞生物の中から目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、「自然免疫機構のみを有する生物」を使用することが、後述する工程(b)における自然免疫機構の活性化の検出を容易かつ効率的に行うことができる点で、好ましい。
【0016】
前記「自然免疫機構」とは、獲得免疫(後天性免疫)機構によらない免疫的生体防御機構(先天性免疫機構)を意味する。脊椎動物は、病原体の侵入に対し、抗体などの侵入者を特異的に認識する分子を利用して生体を防御する獲得免疫機構を有するが、無脊椎動物や植物はこのような獲得免疫機構を有しない。即ち、前記「自然免疫機構のみを有する生物」とは、換言すれば、獲得免疫機構を有しない無脊椎動物及び植物である。
したがって、前記「自然免疫機構のみを有する生物」としては、無脊椎動物及び植物の中から目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、昆虫類に属する生物が好ましい。前記「昆虫類」とは、節足動物門大顎亜門の一網であって、カマアシムシ類、トビムシ類、無翅昆虫類及び有翅昆虫類の4亜綱からなる綱を意味する。前記「昆虫類に属する生物」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、取り扱いの便宜性の点で、幼虫であることが好ましい。前記幼虫としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鱗翅目(ガやチョウを含む)、甲虫目(カブトムシを含む)の幼虫などが挙げられる。なお、前記幼虫は、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分や前記被検物質の投与のし易さの点で、大型の幼虫であることが好ましい。前記「大型の幼虫」とは、体長が1cm以上である幼虫を指す。前記幼虫としては、例えば、カイコ(カイコガ)の幼虫などが挙げられる。
また、前記昆虫類に属する生物以外の自然免疫機構のみを有する生物としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クモ、サソリ等の昆虫類以外の節足動物、ナメクジ、カタツムリ等の軟体動物、ミミズ等の環形動物、ヒトデ、ウニ等のキョク皮動物、ギョウ虫、回虫等の線形動物、ヒドラ、イソギンチャク、クラゲ等の腔腸動物、イネ、ダイコン等の全ての植物などが挙げられる。
また、脊椎動物ではあるが、獲得免疫機構を有さない変異体(例えば、T細胞やB細胞を有さない免疫不全(SCID)マウス)等も、前記自然免疫機構のみを有する生物として挙げられる。
【0017】
また、前記自然免疫機構のみを有する生物のみならず、自然免疫機構及び獲得免疫機構の両方を有する生物であっても、前記方法に使用することができる。例えば、哺乳動物は自然免疫機構及び獲得免疫機構の両方を有するが、哺乳動物の脳は獲得免疫機構を有さず、自然免疫機構のみで感染防御を行っている。したがって、前記方法に哺乳動物の脳を使用することも、後述する工程(b)における自然免疫機構の活性化の検出を容易かつ効率的に行うことができる点で、好ましい。
【0018】
−花粉若しくはその自然免疫活性化成分−
前記「花粉若しくはその自然免疫活性化成分」としては、体内に侵入して花粉症のアレルギー症状を引き起こす原因となる花粉の全体又は一部分であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する参考例に記載の調製方法により得られるような花粉内膜画分などが挙げられる。
また、前記花粉の種類としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スギ、ヒノキ、スズメノテッポウ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ等の花粉などが挙げられる。
【0019】
−被検物質−
前記「被検物質」としては、特に制限はなく、花粉症に対する予防又は治療作用を有するか否かを評価したい任意の物質を用いることができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製蛋白質、粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、人工的に合成された化合物、天然由来の化合物、既存の免疫抑制剤、既存の花粉症用の薬剤などが挙げられる。
【0020】
−投与−
前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分や前記被検物質の、前記自然免疫機構を有する生物への投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入、飼料(餌)への添加などが挙げられる。
また、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分や前記被検物質の前記自然免疫機構を有する生物への投与量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
<工程(b)>
前記方法においては、次いで、前記自然免疫機構を有する生物における前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する(工程(b))。
検出する自然免疫機構の活性化の種類としては、特に制限はなく、前記自然免疫機構を有する生物の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば、前記自然免疫機構を有する生物の、殺傷、メラニン色素の生産、炎症反応、体毛の逆立ち、自然免疫担当細胞からのサイトカインや活性酸素種(ROS)の放出などが挙げられる。
また、前記自然免疫機構の活性化の検出方法としては、特に制限はなく、検出したい自然免疫機構の活性化の種類に応じて、例えば、公知の検出方法の中から適宜選択することができる。
【0022】
<工程(c)>
前記方法においては、次いで、前記被検物質が前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する(工程(c))。
前記被検物質が自然免疫機構の活性化を抑制するか否かの評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記工程(a)と並行して、前記被検物質を投与せずに前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分のみを投与したコントロール(対照)を準備し、この対照と比較して、前記工程(a)で前記被検物質を投与した場合には、前記自然免疫機構を有する生物における前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化の程度が低減乃至阻止されたときに、前記被検物質は、花粉症に対する予防又は治療作用を有すると評価することができる。
以上、前記工程(a)〜工程(c)により、前記評価方法を行うことができる。前記評価方法により、容易に、かつ効率的に、前記被検物質が花粉症の予防又は治療作用を有するか否かを評価することができる。
【0023】
<工程(d)>
また、前記スクリーニング方法においては、更に、前記工程(c)で前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制すると評価された物質を選択する(工程(d))。
種々の被検物質を用いて前記工程(a)〜工程(c)による評価を行い、次いで、本工程(d)において、種々の被検物質の中から前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制する物質を選択することにより、容易に、かつ効率的に、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0024】
前記方法により評価乃至スクリーニングされた、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質は、例えば、化学合成や、分離精製などの手法により適宜生成することができる。前記物質の使用用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、そのまま、花粉症の予防又は治療に使用してもよいし、花粉症用の薬剤開発のための実験などに使用してもよい。また、後述する本発明の製造方法により製造される薬剤や、後述する本発明の薬剤の有効成分として使用してもよい。
【0025】
(製造方法)
本発明の製造方法は、花粉症の予防又は治療のための薬剤の製造方法であり、以下の工程(a)〜工程(f)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0026】
<工程(a)〜工程(d)>
前記製造方法における工程(a)〜工程(d)は、前記した本発明の評価方法及び本発明のスクリーニング方法における工程(a)〜工程(d)とそれぞれ同様である。前記工程(a)〜(d)により、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質を容易、かつ効率的に選択することができる。
【0027】
<工程(e)>
前記製造方法においては、次いで、前記工程(a)〜(d)で選択された、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質を生成する(工程(e))。
前記生成の手段としては、特に制限はなく、例えば、前記物質の構造や由来などに応じて、化学合成や、分離精製などの公知の生成手段から適宜選択することができる。
【0028】
<工程(f)>
前記製造方法においては、次いで、前記工程(e)で生成された物質を、薬学的に許容され得る担体と混合する(工程(f))。
−薬学的に許容され得る担体−
前記薬学的に許容され得る担体としては、特に制限はなく、例えば、製造する薬剤の所望の剤型等に応じて適宜選択することができる。また、前記剤型としても、特に制限はなく、例えば、後述する本発明の薬剤の項目で列挙される剤型などが挙げられる。
【0029】
−混合−
前記工程(e)で生成された物質と前記薬学的に許容され得る担体との混合方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記物質に前記薬学的に許容され得る担体を添加してもよいし、前記薬学的に許容され得る担体に前記物質を添加してもよいし、双方を同時に容器内に添加し混合してもよい。また、前記混合方法としては、例えば、公知の薬剤の製造方法における各成分の混合方法から適宜選択することができる。
また、前記混合時の、前記物質と前記薬学的に許容され得る担体との使用量比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記工程(f)で得られた混合物を成形する成形工程、などが挙げられる。
【0031】
以上、前記工程(a)〜工程(f)により、本発明の製造方法を行うことができ、これにより、花粉症の予防又は治療のための薬剤を効率的に製造することができる。
前記製造方法により得られた花粉症の予防又は治療のための薬剤の使用形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する本発明の薬剤と同様に使用することができる。
【0032】
(薬剤)
本発明の薬剤は、花粉症の予防又は治療のための薬剤であって、自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質を有効成分として含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。なお、前記薬剤は、前記した本発明の製造方法により製造された薬剤であってもよい。
【0033】
−自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質−
前記自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質としては、自然免疫機構を有する生物における、自然免疫機構の活性化を抑制し得る物質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アザチオプリン、FK506、ステロイド系薬物等の免疫抑制剤などが挙げられる。また、前記自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質としては、花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質が好ましく、中でも、アザチオプリンが特に好ましい。なお、前記「自然免疫機構」、「自然免疫機構の活性化」、「自然免疫機構を有する生物」、「花粉若しくはその自然免疫活性化成分」については、前記した本発明の評価方法、本発明のスクリーニング方法の項目で記載した通りである。
【0034】
なお、前記自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質としては、前記自然免疫機構のみの活性化を抑制する作用を有する物質であってもよいし、前記自然免疫機構とともに、獲得免疫機構の活性化をも抑制する作用を有する物質であってもよい。前記「獲得免疫機構」については、前記した本発明の評価方法、本発明のスクリーニング方法の項目で記載した通りである。
また、前記自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質としては、例えば、前記した本発明の評価方法、本発明のスクリーニング方法により、花粉症に対する予防又は治療作用を有すると評価乃至スクリーニングされた物質を使用することもできる。
【0035】
前記薬剤中の、前記自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質(有効成分)の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、前記薬剤は、前記有効成分そのものであってもよい。
また、前記自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質(有効成分)は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の、前記薬剤中の各々の有効成分の含有量比にも、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容され得る担体などが挙げられる。前記担体としても、特に制限はなく、例えば、後述する前記薬剤の剤型等に応じて適宜選択することができる。また、前記薬剤中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0037】
−剤型−
前記薬剤の剤型としては、特に制限はなく、例えば、後述するような所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、軟膏剤、貼付剤、ゲル剤、クリーム剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤などが挙げられる。
【0038】
前記経口固形剤としては、例えば、前記有効成分に、賦形剤、更には必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0039】
前記経口液剤としては、例えば、前記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0040】
前記注射剤としては、例えば、前記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0041】
前記軟膏剤としては、例えば、前記有効成分に、公知の基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等を配合し、常法により混合し、製造することができる。
前記基剤としては、例えば、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィンなどが挙げられる。前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。
【0042】
前記貼付剤としては、例えば、公知の支持体に前記軟膏剤としてのクリーム剤、ゲル剤、ペースト剤等を、常法により塗布し、製造することができる。前記支持体としては、例えば、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルム、発泡体シートなどが挙げられる。
【0043】
−使用−
前記薬剤は、例えば、花粉症の患者に投与することにより使用することができる。
前記薬剤の投与対象動物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サルなどが挙げられる。
また、前記薬剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、前記薬剤の剤型等に応じ、適宜選択することができ、経口投与、腹腔内投与、血液中への注射、腸内への注入、飼料(餌)への添加、軟膏塗布による鼻腔内への投与、スプレーによる鼻腔内への投与などが挙げられる。
また、前記薬剤の投与量としては、特に制限はなく、投与対象である患者の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、成人への1日の投与あたり、有効成分の量として、1μg〜1gが好ましく、1μg〜1mgがより好ましい。
また、前記薬剤の投与時期としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、花粉症のアレルギー症状の発症前に予防的に投与されてもよいし、花粉症のアレルギー症状の発症後に治療的に投与されてもよい。
なお、前記薬剤の予防又は治療対象となる花粉症の、原因となる前記花粉の種類としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スギ、ヒノキ、スズメノテッポウ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ等の花粉などが挙げられる。
【0044】
[効果]
本発明の評価方法及びスクリーニング方法によれば、自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを指標として、容易に、かつ効率的に、花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質を評価乃至スクリーニングすることができる。また、本発明の製造方法によれば、前記評価乃至スクリーニングされた花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質を有効成分とする、花粉症の予防又は治療のための薬剤を効率的に製造することができる。したがって、前記評価方法、スクリーニング方法、及び製造方法は、新たな花粉症用の薬剤の開発に非常に有用である。
また、前記評価方法、スクリーニング方法、及び製造方法においては、好ましくは、カイコ幼虫などの自然免疫機構のみを有する生物を用いることにより、より容易に、かつ、より効率的に、花粉症の予防又は治療作用を有する物質を評価乃至スクリーニングすることができ、また、より効率的に、花粉症の予防又は治療のための薬剤を製造することができる。前記自然免疫機構のみを有する生物は、低コストであり、扱いやすい。そのため、実験経費や実験スペースを節減することもでき、即ち、より低コストで、かつ、より簡便に、花粉症用の薬剤の開発を行うことが可能となる。
また、本発明の薬剤は、自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質を有効成分として含むので、本発明の薬剤によれば、自然免疫機構を有する生物、即ち、任意の多細胞生物における、花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制することができ、花粉症の発症を抑制することができる。したがって、前記薬剤は、花粉症の予防又は治療に非常に有用である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(参考例:スギ花粉内膜の超音波処理による破壊とスギ花粉内膜画分の調製)
従来から、鼻水等のアルカリ性条件下で花粉が形態変化を起こすという現象は、当該技術分野において知られており、この現象は、花粉の外膜(細胞壁)が割れ、内膜(細胞膜)に覆われた原形質が放出されることから、花粉の「破壊」、「破裂」等とも呼ばれている。目や鼻に侵入し、「破壊」、「破裂」した花粉は、アレルゲンである抗原Cryj1、Cryj2等を放出し、くしゃみや鼻水などの花粉症のアレルギー症状を引き起こすことが知られている。
本参考例では、アルカリ性条件下(pH7〜)でスギ花粉が「破壊」、「破裂」し、内膜が現れることを確認し、更に、その内膜画分を調製した。
【0047】
蒸留水(pH6)、LB10(細菌培地、pHおよそ7)、及び、25mMリン酸緩衝液各種(KHPO(pH4.7)、KHPO(pH8.9)、NaHPO(pH4.6)、NaHPO(pH9.2))にスギ花粉を懸濁し、室温にて2時間放置した。蒸留水をはじめ、酸性の液に懸濁した花粉は形態変化を起こさなかったが、アルカリ性(pH7〜)の液に懸濁した場合には形態変化を起こし、内膜構造が現れていることが確認された(図1A〜B、超音波処理前、左側のパネル)。次いで、花粉を3,000rpm、5分の遠心により集め、蒸留水に懸濁した後、超音波処理(Branson社製超音波処理器)を施し、位相差顕微鏡により観察した。形態変化を起こし、内膜構造が現れていた花粉については、超音波処理により、内膜構造が破壊された(図1A〜B、超音波処理後、右側のパネル)。
【0048】
超音波処理後の各破砕物を、超遠心(45,000rpm、30分、Beckman超遠心機、ローター50.2Ti)により集め、0.9%NaClに懸濁し、スギ花粉内膜画分とした。得られた各スギ花粉内膜画分を、以下の実施例1〜4に使用した。
【0049】
(実施例1:スギ花粉内膜画分のカイコ幼虫に対する毒性)
前記参考例で調製した各スギ花粉内膜画分50μl(タンパク質量としておよそ250μg、スギ花粉25mg相当分)を、カイコ幼虫(5齢2日目(4齢眠後餌を与えない)、体重1g)の体液に注射したところ、内膜が現れる条件(アルカリ性(pH7〜))で調製した内膜画分は、カイコ幼虫に対して毒性を示し、33時間後には、ほぼ全数のカイコ幼虫が死滅した。一方、内膜が現れない条件(酸性)で調製した内膜画分に対しては、カイコ幼虫は耐性を示し、注射後61時間後でも、大部分が生存していた。図2の左側の写真は、無処理の正常なカイコを示し、図2の右側の写真は、スギ花粉内膜画分を体液内に注射され死亡したカイコ幼虫を示す。また、図3は、スギ花粉を懸濁させた溶液の種類、各溶液中で2時間放置した際の内膜出現の有無、また、各内膜画分投与後33時間、61時間でのカイコの生存数(括弧内は生存率)を示す。
【0050】
カイコは、獲得免疫機構を有さない、自然免疫機構のみを有する生物である。したがって、スギ花粉内膜画分の投与によりカイコ幼虫が死亡したという本実施例1の結果から、スギ花粉が、自然免疫機構に作用して、花粉症の症状を引き起こすことが示された。
従来は、花粉が体内に侵入した後、IgEの産生を介して、即ち、獲得免疫機構を介して、花粉症の症状を引き起こすメカニズムのみが知られていた。したがって、スギ花粉が、獲得免疫機構を介さず、自然免疫機構のみを介して、花粉症の症状を引き起こすメカニズムが存在することは、従来全く知られておらず、本発明者らによる新たな知見である。
【0051】
(実施例2:スギ花粉内膜画分のカブトムシ幼虫に対する毒性)
前記参考例で調製したスギ花粉内膜画分(内膜が現れる条件で調製した内膜画分)100μl(タンパク質量としておよそ500μg、スギ花粉50mg相当分)を2頭のカブトムシ幼虫(終齢幼虫(ふ化後およそ5ヶ月が経過したもの)、体重30g)の背中側血液中に注射した。2日後、1頭は全身が黒色化した(図4、上段左)。他の一頭は注射部位が黒色化した(図4、上段右)。生理食塩水を注射した他の2頭はいずれも黒色化反応を示さなかった(図4、下段)。この黒色化はメラニン色素が生産されたためであり、メラニンの生産は、昆虫の自然免疫反応としてよく知られている。したがって、前記実験の結果からも、スギ花粉が自然免疫機構に作用することが示された。
【0052】
(実施例3:スギ花粉内膜画分のマウスに対する毒性)
−脳内注射−
MCH(ICR)マウス(メス、8週齢)の脳内に、前記参考例で調製したスギ花粉内膜画分(内膜が現れる条件で調製した内膜画分)50μl(タンパク質量としておよそ250μg、スギ花粉25mg相当分)を注射した。対照群には同量の生理食塩水を注射した。注射後少なくとも2時間までは、見かけ上いずれのマウスにも異常は認められなかった。14時間後には、生理食塩水を注射したマウスには異常は認められなかったが(図5、上段左側)、スギ花粉内膜画分を注射したマウスは死亡した(図5、上段右側)。
【0053】
哺乳動物は獲得免疫機構を有する生物であるが、脳には獲得免疫機構がなく、自然免疫機構だけで感染防御を行っている。前記実験の結果、マウスの脳にスギ花粉内膜画分を注射すると、数時間後にマウスが死亡した。スギ花粉内膜画分はマウスの自然免疫機構(脳内にあるミクログリア細胞)を何らかのメカニズムで刺激し、その刺激が過敏になってしまい、その結果として神経活動に重大な影響を与えていると考えられる。したがって、前記実験からも、スギ花粉が自然免疫機構に作用することが示された。
【0054】
−免疫不全マウスへの静脈注射−
SCIDマウスの静脈内に、前記参考例で調製したスギ花粉内膜画分(内膜が現れる条件で調製した内膜画分)100μl(タンパク質量としておよそ500μg、スギ花粉50mg相当分)を注射し、対照群には同量の生理食塩水を注射し、9時間後の様子を観察した。生理食塩水を注射したマウスでは特に異常は見られなかったが(図5、下段左側)、スギ花粉内膜画分を注射したマウスでは、全身の体毛が逆立つ様子が観察された(図5、下段右側)。
【0055】
SCIDマウスは、T細胞、B細胞といった、獲得免疫機構で働く免疫系細胞を全く有さない免疫不全マウスである。このマウスにスギ花粉内膜画分の静脈内注射を試みたところ、全身の毛が逆立ち、つまり全身性の炎症反応が見られた。したがって、前記実験からも、スギ花粉が自然免疫機構に作用することが示された。
【0056】
(実施例4:スギ花粉内膜画分の毒性に対する免疫抑制剤アザチオプリンの効果)
乳鉢を用いて、カイコ幼虫の人工餌(シルクメイト、日本農産社製)に、アザチオプリン原末(田辺製薬社製)を図6に記載の各濃度で混ぜ、餌を調製した。調製した餌をカイコ幼虫に与え、前記参考例で調製したスギ花粉内膜画分(内膜が現れる条件で調製した内膜画分)50μl(タンパク質量としておよそ250μg、スギ花粉25mg相当分)をカイコ幼虫(5齢2日目(4齢眠後餌を与えない)、体重1g)の体液に注射した後、26時間後の生存数を調べた。アザチオプリン非投与群(0mg)では全数が死亡したが、餌1gあたり0.98mg、及び、1.83mgのアザチオプリンを加えた場合には、全数のカイコ幼虫が生存していた(図6)。
【0057】
アザチオプリンを投与したカイコ幼虫は、投与しないカイコ幼虫に比べ、より少ない菌数の黄色ブドウ球菌やO157などの感染症菌で死亡する。即ち、アザチオプリンはカイコの幼虫に対して、免疫抑制効果を示す。前記実験の結果、花粉のカイコ幼虫に対する殺傷は、ヒトの免疫抑制剤のアザチオプリンの投与により治療できるとわかった。カイコの幼虫には獲得免疫機構はなく、自然免疫機構しか存在しないため、アザチオプリンは自然免疫機構に作用していると考えられる。したがって、前記実験からも、スギ花粉が自然免疫機構に作用することが示された。また、アザチオプリン等の自然免疫機構の活性化を抑制し得る免疫抑制剤が、花粉症の予防又は治療のための薬剤となり得ることが示唆された。
【0058】
以上のように、本発明者らは、花粉症の発症メカニズムに自然免疫機構の活性化が関与していることを世界で初めて見出した。このことは、自然免疫機構の活性化を指標とした、新たな評価系、スクリーニング系が、花粉症用の薬剤の開発に有用であることを示している。また、従来には全く考えられたことのない、自然免疫機構の活性化を抑制し得る物質が、花粉症用の薬剤として有用であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の評価方法、本発明のスクリーニング方法、及び本発明の製造方法は、新たな花粉症用の薬剤の開発に非常に有用であり、また、本発明の薬剤は、花粉症の予防又は治療に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】図1Aは、スギ花粉内膜の超音波処理による破壊を示した図である。
【図1B】図1Bは、スギ花粉内膜の超音波処理による破壊を示した図である。
【図2】図2は、スギ花粉内膜画分のカイコ幼虫に対する毒性を示した図である。
【図3】図3は、各溶液に懸濁したスギ花粉内膜画分の、カイコ幼虫に対する毒性の違いを示した図である。
【図4】図4は、スギ花粉内膜画分のカブトムシ幼虫に対する影響を示した図である。
【図5】図5は、スギ花粉内膜画分のマウスに対する毒性を示した図である。
【図6】図6は、スギ花粉内膜画分を投与されたカイコ幼虫に対する、アザチオプリン投与の効果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質が、花粉症に対する予防又は治療作用を有するか否かを評価する方法であって、
(a)自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び前記被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構を有する生物において、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する工程、並びに、
(c)前記被検物質が、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
花粉症に対する予防又は治療作用を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構を有する生物において、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する工程、
(c)前記被検物質が、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程、並びに、
(d)前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制すると評価された物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
自然免疫機構を有する生物が、自然免疫機構のみを有する生物である請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
自然免疫機構のみを有する生物が、昆虫類に属する生物である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
昆虫類に属する生物が、カイコである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
花粉症の予防又は治療のための薬剤の製造方法であって、
(a)自然免疫機構を有する生物に、花粉若しくはその自然免疫活性化成分、及び被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構を有する生物において、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を検出する工程、
(c)前記被検物質が、前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制するか否かを評価する工程、
(d)前記花粉若しくはその自然免疫活性化成分による自然免疫機構の活性化を抑制すると評価された物質を選択する工程、
(e)前記工程(d)で選択された物質を生成する工程、並びに、
(f)前記工程(e)で生成された物質と、薬学的に許容され得る担体とを混合する工程
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
花粉症の予防又は治療のための薬剤であって、自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質を有効成分とすることを特徴とする薬剤。
【請求項8】
自然免疫機構の活性化を抑制する作用を有する物質が、アザチオプリンである請求項7に記載の薬剤。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−128819(P2008−128819A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314247(P2006−314247)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(501481492)株式会社ゲノム創薬研究所 (25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】