説明

芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、重金属化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてアルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して芳香族カルボン酸(テレフタル酸を除く)を製造する方法において、液相酸化反応系における触媒成分の変動を低減し、安定な品質の芳香族カルボン酸を得る方法を提供する。
【解決手段】液相酸化して得られた酸化反応スラリーを冷却して芳香族カルボン酸結晶と酸化反応母液とに分離し、酸化反応母液の25〜95%をリサイクル母液として液相酸化反応系に循環使用し、残りの酸化反応母液をパージ母液として系外にパージして触媒成分を回収する際に、複数のピリジン環含有キレート樹脂塔を用い、溶離工程からの回収触媒液を回収触媒液槽に1.5〜6時間で滞留させた後、液相酸化反応系に導入する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、重金属化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてアルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して芳香族カルボン酸を製造する方法において、液相酸化反応系における触媒成分の変動を低減し、安定な品質の芳香族カルボン酸を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸は、アルキル基含有芳香族炭化水素の液相酸化反応により製造され、通常、酢酸溶媒の存在下、コバルト、マンガン等の重金属化合物、又はさらに臭素化合物、アセトアルデヒド等の促進剤を加えた触媒が用いられる。
かかる液相酸化反応により得られる芳香族カルボン酸を含有する酸化反応スラリーは、通常、晶析操作により、低圧、低温のスラリーとし、常圧に近い圧力の状態で固液分離操作を行い、芳香族カルボン酸の結晶が分離される。
【0003】
一方、固液分離して得られた酸化反応母液には、触媒由来の重金属イオン及び臭化物イオンなどの有用な触媒成分が含まれており、工業的に実施する場合、これらの触媒成分を循環使用することにより、製造コストを下げることが必要になる。
触媒成分の最も簡便な循環方法は、前記酸化反応母液をそのまま反応系に戻して再使用することであり、広く商業規模の芳香族カルボン酸製造プロセスにおいて行われている。
しかし、該酸化反応母液中には、液相酸化反応で副生する様々な有機不純物や装置の腐食に由来する無機不純物などが混在しており、該酸化反応母液をそのまま反応系に再使用すると、反応系におけるこれらの不純物の濃度が次第に高まり、一定濃度を超えると液相酸化反応に悪影響を与える。
【0004】
このため酸化反応母液の一部をパージ母液として系外に排出する必要がある。このパージ母液には液相酸化反応に使用された溶媒や触媒成分、副生物などが含まれており、溶媒は蒸留により回収されるが、触媒成分の回収にはピリジン環含有キレート樹脂を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1では、触媒由来の重金属イオン及び臭化物イオンをピリジン環含有キレート樹脂に連続的に吸着させ、しかる後に水分濃度20質量%以上の含水酢酸を用いて、吸着した重金属イオン及び臭化物イオンを溶離させて回収触媒液が得られる。該プロセスは、吸着−溶離工程を繰り返すバッチプロセスであり、複数のピリジン環含有キレート樹脂を切り替えながら触媒成分の回収が行われる。
【0006】
この回収触媒液は、いったんピリジン環含有キレート樹脂に吸着した触媒成分が溶離して該キレート樹脂より溶出するために、吸着工程−溶離工程のサイクルの中で濃度変動を起こす。これはイオン交換樹脂や合成吸着材に吸着した成分が、溶出時に濃度のピークを持った溶出パターンを示すことと同様の現象である。
このように濃度変動している回収触媒液を液相酸化反応系、より具体的には触媒調合槽に直接戻すと、例え回収触媒液を連続的に一定流量で送液したとしてもその中に含まれる触媒成分の量は変動しているため、触媒調合槽中の触媒濃度が変動することになる。
【0007】
液相酸化反応における触媒濃度の変動は、反応活性に影響を与え、生成する芳香族カルボン酸結晶の品質を不安定にすることが知られており、酸化反応槽中の水濃度とその抜き出し量にリンクされた相当量の酢酸を新たに酸化反応槽に供給する方法が提案されているが、触媒濃度をフィードフォワード制御して調整しており、複雑な制御系統を必要とするものである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2008/075572号
【特許文献2】特開2007−70254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、以上のような状況から、低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、重金属化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてアルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して芳香族カルボン酸を製造する方法において、液相酸化反応系における触媒成分の変動を低減し、安定な品質の芳香族カルボン酸を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、触媒成分を回収するピリジン環含有キレート樹脂塔からの回収触媒液を一定時間回収触媒液槽に滞留させた後、液相酸化反応系に導入することにより、簡易な方法で液相酸化反応系の触媒成分の濃度の変動が低減し、安定した品質の芳香族カルボン酸が得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、以下の芳香族カルボン酸の製造方法を提供する。
1.低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、重金属化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてアルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して芳香族カルボン酸(テレフタル酸を除く)を製造する方法において、液相酸化して得られた酸化反応スラリーを冷却して芳香族カルボン酸結晶と酸化反応母液とに分離し、酸化反応母液の25〜95%をリサイクル母液として液相酸化反応系に循環使用し、残りの酸化反応母液をパージ母液として系外にパージして該パージ母液から触媒成分を回収する際に、
(I)パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂と接触させて触媒に由来する重金属イオン及び臭化物イオンを吸着する吸着工程と、
(II)工程(I)により触媒成分を吸着したピリジン環含有キレート樹脂に含水酢酸又は水を接触させて該重金属イオン及び臭化物イオンを溶離して回収触媒液(A)を得る溶離工程を、
回分式により切り替え、
(III) 溶離工程からの回収触媒液(A)を回収触媒液槽で1.5〜6時間滞留させる工程
を有し、工程(III)からの回収触媒液(B)を、触媒調合槽を経て液相酸化反応系に導入することを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法。
2.工程(III)からの回収触媒液(B)と、リサイクル母液を予め混合して触媒調合槽に導入する上記1の芳香族カルボン酸の製造方法。
3.工程(III)からの回収触媒液(B)を触媒調合槽に戻した際の、触媒調合槽出口でのコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオン各濃度の変動係数が全て5%以下である上記1又は2の芳香族カルボン酸の製造方法。
4.芳香族カルボン酸が、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、メタトルイル酸、トリメシン酸、3,5−ジメチル安息香酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる少なくとも一種である上記1〜3の何れかの芳香族カルボン酸の製造方法。
5.芳香族カルボン酸が、イソフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸である上記1〜3の何れかの芳香族カルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ピリジン環含有キレート樹脂塔から溶出した回収触媒液を受け入れる回収触媒液槽を設け、該回収触媒液槽に一定量の回収触媒液を貯め、滞留した回収触媒液を連続的に触媒調合槽に戻す際に、回収触媒液槽での滞留時間を十分に取ることにより、該キレート樹脂塔から溶出した時点でのバッチプロセスによる触媒成分の濃度変動を緩和し、触媒調合槽出口における濃度変動を小さく抑え、液相酸化反応に影響を及ぼさないようにすることができ、簡易な方法で安定した品質の芳香族カルボン酸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、重金属化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてアルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して芳香族カルボン酸(テレフタル酸を除く)を製造する方法に関するものである。
該アルキル基含有芳香族炭化水素は、少なくとも一つのアルキル基が芳香環に置換した化合物であればよく、芳香族性環は、芳香族性炭化水素環、芳香族性複素環のいずれであっても良い。アルキル基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基及びヒドロキシメチル基等が挙げられるが、メチル基好ましい。又、アルキル基以外にホルミル基を用いることもできる。
アルキル基含有芳香族炭化水素の具体的な例としては、トルエン、オルソキシレン、メタキシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、2,4−ジメチルベンズアルデヒド、3,4−ジメチルベンズアルデヒド、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒド、1,5−ジメチルナフタレン、2,6−ジメチルナフタレン等を挙げることができる。
【0013】
該アルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して得られる芳香族カルボン酸の具体的な例としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、メタトルイル酸、トリメシン酸、3,5−ジメチル安息香酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。特にイソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0014】
液相酸化に溶媒に用いられる低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒としては水分1〜15質量%の含水酢酸が好ましく、水分3〜13質量%の含水酢酸がより好ましい。
液相酸化反応において、重金属化合物及び臭素化合物が触媒として用いられる。重金属化合物にはコバルト化合物及びマンガン化合物の少なくとも一種が含まれ、必要に応じて更にニッケル化合物、セリウム化合物、ジルコニウム化合物などが含まれる。これらのコバルト化合物、マンガン化合物及びその他の重金属化合物としては、各々その有機酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩などが例示されるが、特に酢酸塩及び臭化物が好適に用いられる。
【0015】
液相酸化触媒の臭素化合物としては、反応系で溶解し、臭化物イオンを発生するものであればいかなるものでもよく、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化コバルトなどの無機臭素化合物、及びブロモ酢酸、テトラブロムエタンなどの有機臭素化合物が例示され、特に臭化水素(臭化水素酸を含む)、臭化コバルトまたは臭化マンガンが好適に用いられる。
【0016】
触媒調合槽は、溶媒である低級脂肪族カルボン酸、液相酸化原料であるアルキル基含有芳香族炭化水素、触媒である重金属化合物及び臭素化合物を混合する槽であり、触媒調合槽内における内液の均一化を図るために、内液を混合する攪拌機を備えていることが好ましい。ここで均一に調合された混合液(フィードミックスと呼ぶ)は連続的に液相酸化反応器に送液され、酸化剤として用いられる分子状酸素含有ガスと接触することにより液相酸化反応が行われる。
この触媒調合槽に供給される溶媒及び触媒としてリサイクル母液を使用することが好ましい。そしてマテリアルバランス上不足する溶媒や触媒は新規供給分として補給される。
【0017】
液相酸化の温度は160〜230℃、好ましくは180〜210℃の範囲である。反応温度を160℃以上とすることにより反応中間体が多量に生成スラリー中に残存することがなく、230℃以下とすることにより溶媒である低級脂肪族カルボン酸の燃焼損失が小さくなる。
液相酸化における酸化反応器の圧力は、反応温度において反応系が液相を保持できる圧力であれば良く、通常0.8〜3.2MPaG、好ましくは1.0〜1.9MPaGである。
液相酸化において酸化剤として用いられる分子状酸素含有ガスとしては、空気、不活性ガス希釈された酸素、または酸素富化空気等が挙げられるが、設備面及びコスト面から通常は空気の使用が好ましい。
【0018】
酸化反応器で生成した粗芳香族カルボン酸結晶を含む酸化反応スラリーは、好ましくは直列に連結された次の酸化反応器へ送られて、更に酸素含有ガスによって仕上げの後酸化反応を経た後、必要に応じて直列に連結された2段以上の晶析槽を経由して落圧、冷却されて連続的多段階晶析が行われ、次の固液分離工程へ送られる。晶析槽の段数は2〜3段とすることが好ましい。
【0019】
例えば商業規模の装置によりイソフタル酸を製造する場合、含水酢酸中でメタキシレンを酢酸コバルト、酢酸マンガン、臭化水素酸の存在下、空気により反応温度200℃、反応圧力1.6MPaで液相酸化して粗イソフタル酸スラリー(イソフタル酸濃度33質量%、分散媒である含水酢酸の水分濃度14質量%)を得、直列に連結された晶析槽へ導いて順次落圧、冷却した後、固液分離工程に送られる。
【0020】
酸化反応スラリーを冷却して芳香族カルボン酸結晶を分離する固液分離工程では、酸化反応で生成した粗芳香族カルボン酸スラリーが固液分離機によって粗芳香族カルボン酸結晶と酸化反応母液に分離される。この固液分離は通常大気圧下で行われるが、加圧下であっても構わない。分離温度に特段の制約はないが、通常は大気圧下における溶媒の沸点より低い温度、例えば50〜115℃の範囲で行われる。加圧下においては分離温度の上限は150℃となる。固液分離機の形式としては遠心分離機、遠心濾過機、真空濾過機などを挙げることができる。
【0021】
粗芳香族カルボン酸結晶を分離した後の酸化反応母液には、触媒由来の重金属イオン及び臭化物イオンなどの有用な触媒成分が含まれており、酸化反応母液の25〜95%、好ましくは30〜90%がリサイクル母液として液相酸化反応系へ循環使用されるが、残りの酸化反応母液(パージ母液)は、液相酸化反応に影響を与える反応副生物や装置由来の腐食金属の濃縮を避けるために系外に排出される。該パージ母液には溶媒である酢酸が含まれているので、通常は酢酸を回収する工程に送られる。
しかし、この該パージ母液中には有用な触媒成分も含まれており、本発明では工程(I)で、ピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来する重金属イオン及び臭化物イオンを吸着し、触媒成分の回収を行う。
【0022】
ここで、本発明で使用するピリジン環含有キレート樹脂とは、4−ビニルピリジンとジビニルベンゼンを主たる原料として重合して得られる、ピリジン環を有する陰イオン交換型のキレート樹脂のことである。また、キレート樹脂は、一般的に、金属イオンに配位して錯体を形成する配位子を持ち、水に不溶性の高分子基体であり、特定の金属イオンを選択的に吸着分離する機能を有するものであり、特にピリジン環を含有することで、重金属イオンを効率良く吸着するという利点を有する。このようなピリジン環含有キレート樹脂は市販されているものを使用してもよく、市販品としては、例えば「REILLEX(登録商標)425Polymer」(商品名、Vertellus社製)、「スミキレート(登録商標)CR−2」(商品名、住友ケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
このキレート樹脂を用いる方法は、主に吸着工程と溶離工程からなる。吸着工程はパージ母液をピリジン環含有キレート樹脂に接触させて触媒由来のコバルトイオン、マンガンイオンなどの重金属イオン及び臭化物イオンを吸着させる工程であり、溶離工程は該キレート樹脂に吸着した触媒成分を含水酢酸又は水を用いて溶離させる工程である。この吸着工程と溶離工程を繰り返すことにより、パージ母液中の触媒成分を回収することができる。
吸着工程と溶離工程における液と樹脂の接触は、液とキレート樹脂を同時に容器中に入れて吸着操作と溶離操作を行うバッチ方式、もしくは該キレート樹脂を塔に充填して液を供給する連続流通方式で行なわれる。ただし、系外にパージされるパージ母液は液相酸化反応工程から連続的に排出されるので、パージ母液と該キレート樹脂との接触は連続流通方式であることが好ましい。
【0024】
連続流通方式は、複数のピリジン環含有キレート樹脂塔を用い、吸着工程と溶離工程を切り替えながら触媒成分を回収する方法であり、例えば2塔(仮にA塔とB塔と呼ぶ)の場合は、A塔が吸着工程の時はB塔が溶離工程であり、A塔に触媒成分が十分に吸着されたら(吸着容量を超えて破過する前に)塔を切り替えてA塔が溶離工程、B塔が吸着工程となる。
ピリジン環含有キレート樹脂は吸着成分の溶離が比較的簡単であり、吸着と溶離に要する時間の関係は(1)式のようになる。
吸着工程時間≧溶離工程時間 (1)
よってパージ母液の吸着処理はA塔、B塔を切り替えながら連続的に行うことができる。
吸着時のパージ母液の供給速度は、空間速度(SV)で1.0〜10.0[1/hr]が好ましい。吸着工程時間は、ピリジン環含有キレート樹脂が破過する前であれば良く、1.0〜6.0[hr]が好ましい。また、溶離時の溶離液の供給速度は、空間速度(SV)で1.0〜10.0[1/hr]が好ましく、溶離工程時間は(1)式を満たしつつ、0.5〜6.0[hr]が好ましい。
【0025】
ピリジン環含有キレート樹脂とパージ母液を接触させてパージ母液中に含まれる触媒成分(コバルトイオン、マンガンイオン、臭化物イオンなど)を該キレート樹脂に吸着させる際に、パージ母液のブロム比(パージ母液中の臭化物イオンの物質量/パージ母液中のコバルトイオンとマンガンイオンの合計物質量)を調整することが好ましい。これはブロム比が高い方が、コバルトイオンとマンガンイオンの吸着率が高く、且つ反応副生物であるカルボン酸類の吸着率が低下する傾向にあるためである。このブロム比としては、0.7〜3.5が好ましく、0.9〜3.0がさらに好ましい。特に吸着工程でパージ母液のブロム比を高くしておくことで、反応副生物であるカルボン酸類とコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオンからなる触媒成分との分離を効率良く行なうことができる。ブロム比の調整方法としては、パージ母液に、例えば臭化水素酸等の、前記臭素化合物の水溶液をブロム源として添加する方法を挙げることができる。
【0026】
キレート樹脂を用いる触媒回収方法の溶離工程では、溶離液を供給しているキレート樹脂塔からの流出液を回収することになるが、流出液中に常に樹脂から溶出する触媒成分があるわけではなく、触媒成分が含まれる部分のみを回収触媒液として回収触媒液槽に送るようにする必要がある。これは水分濃度の高い溶離液由来の水分をできるだけ回収せず、水分を酸化反応系に持ち込まないためである。また、樹脂からの触媒成分の溶出はピークを持ったパターンを持ち、溶出中の触媒成分濃度は刻々と変動しており、有効な触媒成分を回収することが重要である。
【0027】
本発明において、工程(I)が吸着工程に相当し、酸化反応母液の残りをピリジン環含有キレート樹脂と接触させ、触媒に由来する重金属イオン及び臭化物イオンを吸着する。また、工程(II)が前記の溶離工程に相当し、溶離液として含水酢酸又は水を使用する。
また、このようなキレート樹脂塔を用いる触媒回収方法では、吸着工程の後、副生カルボン酸を回収する回収工程が設けることが好ましい。
即ち、前記吸着工程を経た後のピリジン環含有キレート樹脂に水分濃度1〜15質量%、好ましくは水分濃度1〜14質量%、より好ましくは水分濃度1〜9質量%の含水酢酸を接触させて副生カルボン酸混合物を選択的に溶離する回収工程を経た後、含水酢酸又は水を接触させて触媒由来の重金属イオン及び臭化物イオンを回収する溶離工程を経るようにすることが好ましい。工程(II)の溶離工程の前に回収工程を有することにより、ピリジン環含有キレート樹脂に他の有機不純物や金属不純物が殆ど吸着していないため、溶離液として水分濃度20質量%以上の含水酢酸、好ましくは水分濃度20〜70質量%、より好ましくは水分濃度25〜50質量%の含水酢酸をピリジン環含有キレート樹脂に接触させることによって、そのまま液相酸化反応に再使用可能な重金属イオン及び臭化物イオンなどを含有する含水酢酸、即ち「回収触媒液」が得られる。
【0028】
また、上記溶離工程を経たピリジン環含有キレート樹脂に、触媒成分の吸着効率の観点から、置換工程を設け、水分濃度1〜15質量%、好ましくは水分濃度1〜14質量%、より好ましくは水分濃度1〜9質量%の含水酢酸を置換液として接触させ、ピリジン環含有キレート樹脂を再生することが好ましい。こうして再生されるピリジン環含有キレート樹脂が吸着工程に再使用できる。
このような置換工程により、キレート樹脂の周りに存在する含水酢酸の水分濃度を置換液の水分濃度まで下げて、次の吸着工程にて重金属イオン及び臭化物イオンが速やかに吸着される状態になる。一方、該置換工程を設けない場合、溶離工程の直後は該キレート樹脂層の周りが高い水分濃度の含水酢酸で覆われているため、吸着工程における母液との接触初期において、触媒成分の吸着効率が悪くなり、触媒成分の回収率が低下し、経済的に不利となる。
さらにピリジン環含有キレート樹脂に重金属イオン及び臭化物イオンを吸着し易くするため、置換液としては水分濃度が1〜15質量%であり且つ臭化物イオンを1〜1000質量ppm含む含水酢酸を用いることがより好ましい。
なお、吸着工程で得られる母液残液、回収工程で得られる回収液及び上記の置換工程で使用した置換液から水を留去する際に蒸留塔のボトムから得られる回収酢酸(水分濃度4〜12質量%、臭化物イオン濃度1〜50質量ppm)を、置換液として用いることもできる。
【0029】
本発明は工程(III)で、触媒成分の濃度変動を小さくするため、該樹脂塔から流出する回収触媒液(A)を回収触媒液槽に一旦貯め、一定の滞留時間を保った後に触媒調合槽を経て液相酸化反応系に戻すものである。
回収触媒液槽の有効容積をV[m3]、回収触媒液(A)の流量をQ[m3/hr]とすると、回収触媒液槽における滞留時間T[hr]は(2)式のように定義される。
滞留時間:T=V/Q (2)
本発明での回収触媒液槽における回収触媒液の滞留時間は1.5〜6時間であり、好ましくは1.5〜4時間である。滞留時間を1.5時間以上とすることにより触媒成分の濃度変動を緩和し、触媒調合槽出口における濃度変動を小さく抑えことができる。
【0030】
溶離工程における該キレート樹脂塔からの流出液は、触媒成分が溶出している時は回収触媒液槽に送液されるが、前記の回収工程や置換工程などで触媒成分が溶出していない時の流出液は別に設置したパージ液槽に送液され、必要に応じて溶媒や副生カルボン酸の回収が行われる。また、触媒成分が溶出している時もその濃度は変動しているので本発明により回収触媒液槽を設置して一定の滞留時間とすることにより濃度変動を緩和する。
回収触媒液槽から液相酸化の触媒調合槽に送液される回収触媒液(B)は、液相酸化における触媒成分を安定化させるために一定量で連続的に液相酸化系に供給することが必要である。滞留時間を長くするには回収触媒液槽の有効容積を大きくする必要があり、これは設備投資額の増大につながるために限界がある。回収触媒液(B)の濃度変動を小さくするためには、ある程度の滞留時間を取ることが必要であり、これらのことを勘案すると、回収触媒液槽の滞留時間は1.5〜6時間の範囲が好ましい。
【0031】
溶離工程において該キレート樹脂塔より流出する回収触媒液(A)は、回収触媒液槽に送液され、所定の滞留時間を経てから濃度変動を抑えた回収触媒液(B)として液相酸化の触媒調合槽にリサイクルされる。滞留時間の調節は回収触媒液槽の液面の上げ下げにて行う。回収触媒液槽内における触媒組成の均一化を図るために、内液を混合する攪拌機を備えていることが好ましい。
回収触媒液(B)は通常は触媒調合槽に直接リサイクルされるが、リサイクル母液と予め混合して触媒調合槽にリサイクルすることも可能である。リサイクル母液と予め混合するとは、リサイクル母液が循環している配管に回収触媒液(B)を添加することであり、そのまま添加しても良いし、スタティックミキサー等の混合器を用いることも行われる。回収触媒液(B)をリサイクル母液と混合することにより触媒成分の濃度変動の振れ幅が小さくなり、触媒調合槽に戻した時の戻し口近傍での濃度変動を抑えることができる。
【0032】
回収触媒液の濃度変動に起因する液相酸化反応の状態変動を抑えるためには、濃度変動幅を管理することが必要となる。管理点としては回収触媒液槽や触媒調合槽が好適である。液相酸化反応に直接影響が出やすいという点では触媒調合槽が重要である。ここで実際に管理する触媒成分は重金属イオン及び/または臭化物イオンであり、具体的にはコバルトイオン濃度、マンガンイオン濃度、臭化物イオン濃度を対象として、それらの濃度変動の変動係数で管理することになる。
ここで、変動係数は(3)式のように定義される。
変動係数=(標準偏差/平均値)×100[%] (3)
コバルトイオン濃度、マンガンイオン濃度、臭化物イオン濃度の測定は、回収触媒液槽又は触媒調合槽において通常3回/日以上行い、測定数が15点以上で変動係数を管理することが好ましい。
触媒調合槽出口におけるコバルトイオン、マンガンイオン、臭化物イオンの各濃度の変動係数は全て5.0%以下であることが好ましく、より好ましくは3.0%以下である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例等により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。また、以下に実施例で用いた分析法について説明する。
なお、以下の実施例において、ピリジン環含有キレート樹脂の前処理、重金属イオン(コバルトイオン、マンガンイオン)の測定、および臭化物イオンの濃度の測定を次にように行った。
【0034】
<ピリジン環含有キレート樹脂の前処理>
ピリジン環含有キレート樹脂〔「REILLEX(登録商標)425Polymer」:商品名、Vertellus社製〕にHBr含有量が1.2質量%である臭化水素酸水溶液を通液させて該キレート樹脂を水溶媒(Br-形)とし、次いで含水率が7.0質量%である酢酸溶媒を通液させて該キレート樹脂を酢酸溶媒(Br-形)とした。
【0035】
<重金属イオンの濃度の測定>
以下の仕様の原子吸光分析装置を用いて、重金属イオンの濃度を測定した。
機種:偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2300(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)
波長:コバルトイオン240.7nm、マンガンイオン279.6nm
フレーム:アセチレン−空気
測定方法:100mlガラス製容器にサンプルを電子天秤にて質量を計り適量入れ、精密分析用20質量%塩酸(定沸点、無鉄塩酸)約2ml及び純水を加えて測定対象の重金属イオンが約1ppmの濃度になるように電子天秤にて希釈サンプルの質量を計って希釈する。0ppm、1ppm、2ppmの標準サンプルにより検量線を作成し、希釈サンプルの濃度を測定する。希釈サンプルの濃度に希釈倍率を掛けて重金属イオンの濃度を求める。
【0036】
<臭化物イオンの濃度の測定>
臭化物イオンの濃度は、以下の条件で測定した。
滴定装置:電位差自動滴定装置 AT−510(京都電子工業株式会社製)
滴定液:1/250規定硝酸銀水溶液
検出電極:複合ガラス電極 C−172
銀電極 M−214
温度補償電極 T−111
測定方法:200mlビーカーにテフロン(登録商標)製攪拌子を入れ、サンプルを適量入れる(天秤にてサンプル重量を計る)。純水を加えてビーカー内の液量を約150mlとし、更に60質量%の硝酸を約2ml加える。上記自動滴定装置にて沈殿滴定を行い、臭化物イオン濃度を求める。
【0037】
<実施例1>
水分濃度9質量%の含水酢酸中で、m−キシレンをコバルトイオン650ppm、マンガンイオン420ppm及び臭化物イオン700ppmの存在下、空気により連続2段で液相酸化(反応温度200℃、反応圧力1.6MPaG)させることにより、粗イソフタル酸スラリー(イソフタル酸濃度33質量%、分散媒である含水酢酸の水分濃度14質量%)を得、直列に連結された2段の晶析槽へ導いて順次落圧して大気圧下の粗イソフタル酸スラリーとした。このスラリーを固液分離し、粗イソフタル酸ケーキと酸化反応母液を得た。また、触媒回収プロセスおよび回収触媒液(B)を用いる次回の液相酸化を行うのに十分な量の酸化反応母液を準備した。該酸化反応母液の触媒組成を表−1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
酸化反応母液の70%をリサイクル母液として反応系へ循環し、リサイクルしない30%のパージ母液を、セラミックフィルターを用いてクロスフロー濾過し、イソフタル酸を主成分とする微細結晶を除去して濾過液を得た。触媒回収工程における触媒成分の回収率を向上させるため、該濾過液に臭化水素酸水溶液を添加した。この臭素添加パージ母液の触媒成分の組成を表−2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
前記の前処理を行ったピリジン環含有キレート樹脂50[L]をガラス製二重管に充填したピリジン環含有キレート樹脂塔のジャケットに、80℃の熱水を循環させて、ピリジン環含有キレート樹脂を80℃に保温した。
上記の臭素添加パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂塔の上部から下方へ流速125[L/hr]で120分間通液した[吸着工程]。
その後、水分濃度7.0質量%の含水酢酸を塔の上部から下方へ流速100[L/hr]で10分間通液した[回収工程]。
回収工程の後、水分濃度35.0質量%の含水酢酸を、塔の上部から下方へ流速90[L/hr]で100分間通液した[溶離工程]。
溶離工程が終了したら置換液(水分濃度7.0質量%の含水酢酸)を塔の上部から下方へ流速100[L/hr]で10分間通液した[置換工程]。
この吸着工程→回収工程→溶離工程→置換工程→(吸着工程)のサイクルを240分/1サイクルで繰り返した。
また、該キレート樹脂塔からの流出液は、溶離工程にて溶出する触媒成分を回収触媒液槽に回収する時間を110分、触媒成分の溶出がほとんどないために該キレート樹脂塔からの流出液をパージ液槽に送る時間を130分とした。
【0042】
溶離工程で得られた回収触媒液(A)を攪拌機付きの回収触媒液槽に送液した。送液される回収触媒液(A)の平均流量は90[L/hr]であり、回収触媒液槽の平均液面を50%(この時の平均有効容積180[L])とした。滞留時間は2[hr]となる。回収触媒液(A)の触媒成分の濃度変動幅を表−3に示す。触媒成分などの測定は24回/2時間行い、48点の濃度変動幅を示したものである。
【0043】
【表3】

回収触媒液槽に2時間滞留させた後の回収触媒液(B)を予めリサイクル母液と共に混合して触媒調合槽へ送液し、液相酸化を行い、イソフタル酸を製造した。回収触媒液(B)の流量は回収触媒液(A)の平均流量と同じ90[L/hr]とした。この回収触媒液(B)の触媒組成の平均値を表−4に示す。触媒成分などの測定は24回/2時間行い、48点の濃度変動幅を示したものである。
【0044】
【表4】

【0045】
触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗イソフタル酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−5に示す。なお、ここでいう品質とは、イソフタル酸をアルカリに溶解した溶液の波長340nmにおける吸光度(色相値、OD340と称す)と酸化反応中間体である3−カルボキシベンズアルデヒド(3−CBAと略す)含有量である。
【0046】
【表5】

【0047】
<実施例2>
回収触媒液槽の平均有効容積を360[L]とし、滞留時間を4[hr]とした以外は実施例1と同様に運転を行った。回収触媒液(B)の触媒組成変動幅を表−6に、触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗イソフタル酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−7に示す。液相酸化反応、特に後酸化反応の酸素消費量に大きな変動は見られなかった。粗イソフタル酸結晶の品質にも変動は見られなかった。
【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
<比較例1>
回収触媒液槽の平均有効容積を90[L]とし、滞留時間を1[hr]とした以外は実施例1と同様に運転を行った。回収触媒液(B)の触媒組成変動幅を表−8に、触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗イソフタル酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−9に示す。液相酸化反応、特に後酸化反応の酸素消費量に変動が見られた。また、粗イソフタル酸結晶の品質が大きく変動した。
【0051】
【表8】

【0052】
【表9】

【0053】
<実施例3>
水分濃度5質量%の含水酢酸中で、2,6−ジメチルナフタレンをコバルトイオン3000ppm、マンガンイオン1500ppm及び臭化物イオン5000ppmの存在下、空気により連続1段で液相酸化(反応温度200[℃]、反応圧力1.37[MPaG])させることにより、粗2,6−ナフタレンジカルボン酸スラリー(2,6−ナフタレンジカルボン酸濃度15質量%、分散媒である含水酢酸の水分濃度8質量%)を得、直列に連結された2段の晶析槽へ導いて順次落圧して大気圧下の粗2,6−ナフタレンジカルボン酸スラリーとした。このスラリーを固液分離し、粗2,6−ナフタレンジカルボン酸ケーキと酸化反応母液を得た。また、触媒回収プロセスおよび回収触媒液(B)を用いる次回の液相酸化を行うのに十分な量の酸化反応母液を準備した。該酸化反応母液の触媒組成を表−10に示す。
【0054】
【表10】

【0055】
酸化反応母液の50%をリサイクル母液として反応系へ循環し、リサイクルしない50%のパージ母液を、セラミックフィルターを用いてクロスフロー濾過し、2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とする微細結晶を除去して濾過液を得た。触媒回収工程における触媒成分の回収率を向上させるため、該濾過液に臭化水素酸水溶液を添加した。この臭素添加パージ母液の触媒成分の組成を表−11に示す。
【0056】
【表11】

【0057】
前記の前処理を行ったピリジン環含有キレート樹脂150[L]をガラス製二重管に充填したピリジン環含有キレート樹脂塔のジャケットに、80℃の熱水を循環させて、ピリジン環含有キレート樹脂を80℃に保温した。
上記の臭素添加パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂塔の上部から下方へ流速125[L/hr]で120分間通液した[吸着工程]。
その後、水分濃度7.0質量%の含水酢酸を塔の上部から下方へ流速100[L/hr]で10分間通液した[回収工程]。
回収工程の後、水分濃度35.0質量%の含水酢酸を、塔の上部から下方へ流速90[L/hr]で100分間通液した[溶離工程]。
溶離工程が終了したら置換液(水分濃度7.0質量%の含水酢酸)を塔の上部から下方へ流速100[L/hr]で10分間通液した[置換工程]。
この吸着工程→回収工程→溶離工程→置換工程→(吸着工程)のサイクルを240分/1サイクルで繰り返した。
また、該キレート樹脂塔からの流出液は、溶離工程にて溶出する触媒成分を回収触媒液槽に回収する時間を110分、触媒成分の溶出がほとんどないために該キレート樹脂塔からの流出液をパージ液槽に送る時間を130分とした。
【0058】
溶離工程で得られた回収触媒液(A)を攪拌機付きの回収触媒液槽に送液した。送液される回収触媒液(A)の平均流量は90[L/hr]であり、回収触媒液槽の平均液面を50%(この時の平均有効容積180[L])とした。滞留時間は2[hr]となる。回収触媒液(A)の触媒成分の濃度変動幅を表−12に示す。触媒成分などの測定は24回/2時間行い、48点の濃度変動幅を示したものである。
【0059】
【表12】

回収触媒液槽に2時間滞留させた後の回収触媒液(B)を予めリサイクル母液と共に混合して触媒調合槽へ送液し、液相酸化を行い、2,6−ナフタレンジカルボン酸を製造した。回収触媒液(B)の流量は回収触媒液(A)の平均流量と同じ90[L/hr]とした。この回収触媒液(B)の触媒組成の平均値を表−13に示す。触媒成分などの測定は24回/2時間行い、48点の濃度変動幅を示したものである。
【0060】
【表13】

【0061】
触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−13に示す。なお、ここでいう品質とは、2,6−ナフタレンジカルボン酸をアルカリに溶解した溶液の波長400nmにおける吸光度(色相値、OD400と称す)と酸化反応中間体であるホルミルナフトエ酸(FNAと略す)含有量である。
【0062】
【表14】

【0063】
<実施例4>
回収触媒液槽の平均有効容積を360[L]とし、滞留時間を4[hr]とした外は実施例3と同様に運転を行った。回収触媒液(B)の触媒組成変動幅を表−15に、触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−16に示す。液相酸化反応の酸素消費量に大きな変動は見られなかった。粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の品質にも変動は見られなかった。
【0064】
【表15】

【0065】
【表16】

【0066】
<比較例2>
回収触媒液槽の平均有効容積を90[L]とし、滞留時間を1[hr]とした以外は実施例3と同様に運転を行った。回収触媒液(B)の触媒組成変動幅を表−17に、触媒調合槽出口の触媒組成および得られた粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の品質における標準偏差と変動係数を表−18に示す。液相酸化反応の酸素消費量に変動が見られた。また、粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶の品質が大きく変動した。
【0067】
【表17】

【0068】
【表18】

【0069】
以上のように、芳香族カルボン酸の製造装置において、本発明の方法により触媒成分を回収・リサイクルすることにより、粗イソフタル酸結晶における3−CBA含有量や、粗2,6−ナフタレンジカルボン酸結晶におけるFNA含有量などの品質に関連する物質や、色相値OD340やOD400の変動係数を抑えることができ、安定した品質の芳香族カルボン酸を製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、安定した品質の芳香族カルボン酸を、容易に、効率良く、工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級脂肪族カルボン酸を含む溶媒中、重金属化合物及び臭素化合物からなる触媒の存在下、分子状酸素含有ガスを用いてアルキル基含有芳香族炭化水素を液相酸化して芳香族カルボン酸(テレフタル酸を除く)を製造する方法において、液相酸化して得られた酸化反応スラリーを冷却して芳香族カルボン酸結晶と酸化反応母液とに分離し、酸化反応母液の
25〜95%をリサイクル母液として液相酸化反応系に循環使用し、残りの酸化反応母液をパージ母液として系外にパージして該パージ母液から触媒成分を回収する際に、
(I)パージ母液をピリジン環含有キレート樹脂と接触させて触媒に由来する重金属イオン及び臭化物イオンを吸着する吸着工程と、
(II)工程(I)により触媒成分を吸着したピリジン環含有キレート樹脂に含水酢酸又は水を接触させて触媒に該重金属イオン及び臭化物イオンを溶離して回収触媒液(A)を得る溶離工程を、
回分式により切り替え、
(III) 溶離工程からの回収触媒液(A)を回収触媒液槽で1.5〜6時間滞留させる工程
を有し、工程(III)からの回収触媒液(B)を、触媒調合槽を経て液相酸化反応系に導入することを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
工程(III)からの回収触媒液(B)と、リサイクル母液を予め混合して触媒調合槽に導入する請求項1に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
工程(III)からの回収触媒液(B)を触媒調合槽に戻した際の、触媒調合槽出口でのコバルトイオン、マンガンイオン及び臭化物イオン各濃度の変動係数が全て5%以下である請求項1又は2に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
芳香族カルボン酸が、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、メタトルイル酸、トリメシン酸、3,5−ジメチル安息香酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜3の何れかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
芳香族カルボン酸が、イソフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸である請求項1〜3の何れかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−153610(P2012−153610A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11404(P2011−11404)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】