説明

芳香族シクロプロパンエステル及びアミドの化学的製造法

本発明は、医薬品中間体として有用な化合物、前記中間体の製造法、前記製造法に使用される中間体、及び医薬品製造における前記中間体の使用に関する。特に、本発明は、鏡像異性体的に純粋なトランス−シクロプロパンカルボン酸誘導体、前記カルボン酸誘導体の製造法及び医薬品製造におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として有用な化合物、前記中間体の製造法、前記製造法に使用される中間体、及び医薬品製造における前記中間体の使用に関する。特に、本発明は、鏡像異性体的に純粋なトランス−シクロプロパンカルボン酸誘導体、前記カルボン酸誘導体の製造法及び医薬品製造におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物[1S−(1α,2α,3β(1S,2R),5β)]−3−[7−[2−(3,4−ジフルオロフェニル)−シクロプロピル]アミノ]−5−(プロピルチオ)−3H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−d]ピリミジン−3−イル)−5−(2−ヒドロキシエトキシ)−シクロペンタン−1,2−ジオール(化合物A)、及び類似のそのような化合物がWO00/34283及びWO99/05143に開示されている。これらの化合物は、P2T(現在は通常P12と呼ばれる)受容体アンタゴニストとして開示されている。そのようなアンタゴニストは、とりわけ血小板の活性化、凝集又は脱顆粒の阻害薬として使用できる。
【0003】
我々はこの度、化合物Aの製造に使用できる鏡像異性体的に純粋なトランス−シクロプロパンカルボン酸誘導体を製造するための有利な方法を見出した。該方法は、次のような利点、すなわち、ジアステレオ選択性、エナンチオ選択性、高収率、製造可能性(例えば大規模生産に適切な試薬及び手順、無害な試薬、少ない廃棄物)を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO00/34283
【特許文献2】WO99/05143
【発明の概要】
【0005】
本発明の第一の側面によれば、式IV:
【0006】
【化1】

【0007】
の化合物を提供する。式中、Rはアルキル基である。
【0008】
Rの適切な意義(value)は、(1〜6C)アルキル、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、及びtert−ブチルなどである。Rの特定の意義はエチルである。
【0009】
式IVの化合物は式II:
【0010】
【化2】

【0011】
の化合物から製造できる。
【0012】
本発明の更なる側面によれば、式Iの化合物から式IIの化合物を製造する方法を提供する。
【0013】
【化3】

【0014】
式Iの化合物を還元すると式IIの化合物になる。還元は適切な還元剤を用いて実施される。適切な還元剤は、式Iの化合物中のカルボニル基を式IIのヒドロキシル基に還元でき、式IIに示した立体化学を有する式IIの化合物の鏡像異性体過剰をもたらすことができる還元剤を含む。
適切な条件の例は、例えば接触還元又はキラルリガンドを有する遷移金属の使用などである。
【0015】
適切な還元剤の特定の例は、トリメトキシボランとS−ジフェニルプロリノールを混合し、次いでボランジメチルスルフィドを添加することによって形成できるオキサザボロリジンである。これは一般的にトルエンのような不活性溶媒中で実施される。温度は25〜45℃、例えば35〜40℃の範囲の温度に維持されるのが好都合である。
【0016】
このようにして形成された還元剤で式Iの化合物を処理する。これは一般的にトルエンのような不活性溶媒中で実施される。温度は25〜45℃、例えば35〜40℃の範囲の温度に維持されるのが好都合である。
【0017】
式IVの化合物は、式III:
【0018】
【化4】

【0019】
の化合物を式:
【0020】
【化5】

【0021】
の化合物で処理することによって製造できる。上記式中、R及びRは(C1〜6C)アルキルのようなアルキルから独立して選ばれる。好適な薬剤はトリエチルホスホノアセテートである。
【0022】
反応は一般的にトルエンのような不活性溶媒中で実施される。反応は一般的に30〜80℃の範囲の温度、都合よくは40〜60℃、例えば40℃で実施される。反応は塩基の存在下で都合よく実施できる。適切な塩基の例は、水素化ナトリウム及びアルカリ金属(例えばカリウム又はナトリウム)アルコキシド(例えばt−ブトキシド)などである。具体例は、カリウム及びナトリウムt−ブトキシドである。
【0023】
式IIIの化合物は、式IIの化合物をアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウムのような塩基で処理することによって製造できる。これは水のような適切な溶媒中で都合よく実施される。
【0024】
式IIの化合物は、式IIIの化合物を経由して式IVの化合物に変換できる。この変換は式IIIの化合物を単離することなく行われる。
【0025】
【化6】

【0026】
本発明の特定の態様において、式IIの化合物は、式IIの化合物を水素化ナトリウムのような塩基で処理することによって式IVの化合物に変換される。これは一般的にトルエンのような不活性溶媒中で実施される。これはトリエチルホスホノアセテートで処理される。これは一般的に30〜80℃の範囲の温度、都合よくは40〜60℃、例えば40℃で実施される。
【0027】
本発明はまた、式VIIの化合物の製造法も提供する。該方法は、式IVの化合物を適切な塩基の存在下、アンモニアで処理することを含む。適切な塩基は、カリウムメトキシド又はナトリウムメトキシドのようなアルカリ金属アルコキシドなどである。ギ酸メチルのような薬剤が存在してもよい。反応は一般的にアルコールのような適切な溶媒中で実施される。一態様において、反応はトルエン及びメタノール中で実施される。
【0028】
【化7】

【0029】
式IVの化合物は、塩基で処理され、次いでアンモニアで処理されうる。好ましくは、反応はアンモニアでの処理中は圧力下である。適切な圧力の例は2〜10バールである。反応は40〜70℃のような高めた温度、例えば約60℃で実施されうる。
【0030】
本発明は式IV及びVIIの化合物にも関する。
【0031】
本発明は式II、III又はVIIの新規中間体も提供する。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を以下の実施例を参照しながらさらに説明する。
実施例1
2−クロロ−1−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノンの製造
三塩化アルミニウム(210.2g)を1,2−ジフルオロベンゼン(200.0g)に室温で加えた。得られたスラリーを50℃に加熱した後、塩化クロロアセチル(198.0g)を50分間かけて加えた。反応混合物をさらに60分間撹拌した後、氷(786.0g)、水(196.0g)及び37wt%塩酸(297.0g)の混合物に徐々に加えた。この添加中、温度は60℃未満に維持した。添加後、反応混合物を60℃に加熱し、層を分離させた。有機層を20w/v%塩化ナトリウム溶液(200.0mL)で2回洗浄した。有機層の減圧蒸留により2−クロロ−1−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノン(270.2g)を得た。
スペクトルデータ:
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2
2−クロロ−1−S−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノールの製造
トリメトキシボラン(2.7g)を室温でトルエン(128.6mL)中S−ジフェニルプロリノール(4.7g)の撹拌溶液に加えた。この混合物を40℃で90分間撹拌後、ボランジメチルスルフィド(22.3g)を、温度を35〜45℃に維持しながら15分間かけて加えた。この混合物を40℃で60分間撹拌後、トルエン(184.1mL)中2−クロロ−1−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノン(70.0g)の溶液を、温度を35〜45℃に維持しながら120分間かけて添加した。添加完了後、反応混合物を40℃でさらに60分間撹拌し、次いで10℃に冷却した。メタノール(69.7g)をガス生成及び最大35℃に温度を制御しながら20分間かけて加えた。添加後、混合物を20℃に冷却した後、その温度で30分間撹拌した。次に、得られた溶液を、減圧下、最大45℃で、残留メタノール及びトリメトキシボランが2wt%未満になるまで蒸留した。次に、得られたトルエン溶液を45〜55℃の10wt%HOAc水溶液(280.0mL)で4回洗浄し、得られた水層をトルエン(140.0mL)で逆抽出した。両有機層を合わせ、水(140.0mL)で洗浄した。得られた有機層を水分0.4wt%未満になるまで共沸した。トルエンで補正後、2−クロロ−1−S−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノールの33wt%溶液を得た(理論的収量214.4g)。
【0035】
溶液中の生成物を質量分析(EI)によって特徴付けした。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例3
エチル(1R,2R)−トランス2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルカルボキシレートの製造
水素化ナトリウム(13.4g)をトルエン(119.9mL)中に懸濁させ、得られたスラリーを40℃に加熱し、次いでトルエン(60.0mL)中トリエチルホスホノアセテート(38.4g)の溶液を温度を40〜45℃に維持しながら60分間かけて加えた。添加が完了したら、反応混合物を40℃でさらに60分間撹拌し、次いで90.9gのトルエン中2−クロロ−1−S−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノールの33wt%溶液を、温度を最大60℃まで上昇させながら35分間かけて加えた。添加が完了したら、得られた混合物を60℃でさらに14時間撹拌し、次いで水(155.8mL)を加え、60℃で相分離させた。エチル(1R,2R)−トランス2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルカルボキシレートを含有するトルエン溶液をそのまま次のステップで使用した。
【0038】
溶液中の生成物を質量分析(EI)によって特徴付けした。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例4
(1R,2R)−トランス2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルカルボキサミドの製造
2−クロロ−1−S−(3,4−ジフルオロフェニル)エタノール(30.9g)から出発して、エチル(1R,2R)−トランス2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルカルボキシレートを実施例3のようにして製造した。溶媒を蒸留し、得られた油にメタノール(109.0mL)、ギ酸メチル(7.2g)及びメタノール中30wt%ナトリウムメトキシド(11.5g)を室温で加えた。該混合物を閉反応器中で60℃に加熱し、次いで2バールのNH圧を印加した。4時間にわたって温度を60℃及び圧力を2バールに維持し、その後反応器を室温に冷却して換気した。反応混合物を60℃に加熱し、水(277.2mL)を1時間かけて添加した(温度は60℃に維持した)。得られた溶液を室温に冷却し、次いでろ過し、1/1のメタノール/水(69.3mL)、次に水(49.5mL)、最後にDiPE(49.5mL)で洗浄した。得られた結晶を真空オーブン中50℃で乾燥させた。
乾燥後、(1R,2R)−トランス2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルカルボキサミド(22.8g)を得た。
スペクトルデータ:
【0041】
【表4】

【0042】
実施例5
(1R,2S)2−(3,4−ジフルオロフェニル)−シクロプロパンアミンの製造
(1R,2R)−トランス2−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロプロピルカルボキサミド(25.0g)及び157.4gの30wt%NaOH溶液を混合し、20〜25℃に加熱した。26wt%NaOCl水溶液(89.5g)を、温度を33℃未満に維持しながら30分間かけて添加した。添加が終了したら、反応混合物を30〜33℃でさらに3時間撹拌した。次に得られた混合物を60℃に加熱し、この温度でさらに20分間撹拌した。
5℃に冷却後、反応混合物のpHを、37wt%のHCl(99.1g)で8.5〜9.5のpHになるまで補正した。iPrOAc(153.3mL)及びMeOH(85.0mL)、次いで水(33.8mL)を加え、撹拌及びデカンテーション後、相分離させた。得られた水層をiPrOAcで2回抽出した(それぞれ75.0及び55.0mL)。そして合わせた有機相を濃度5wt%になるまで希釈した。得られた溶液は(1R,2S)2−(3,4−ジフルオロフェニル)−シクロプロパンアミンを含有する(360.4gの溶液中18.0g)。
【0043】
溶液中の生成物を質量分析(APCI)によって特徴付けした。
【0044】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IV:
【化1】

[式中、Rはアルキル基である]の化合物の製造法であって、
式III:
【化2】

の化合物を式3:
【化3】

[式中、R及びRはアルキルから独立して選ばれる]の化合物で処理することを含む方法。
【請求項2】
式3の化合物がトリエチルホスホノアセテートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式IIIの化合物を製造するステップを含み、該ステップは、式II:
【化4】

の化合物を塩基で処理することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
式IV:
【化5】

の化合物の製造法であって、該方法は、
(a)式I:
【化6】

の化合物を還元して、式II:
【化7】

の化合物を得、
(b)式IIの化合物を塩基で処理して式III:
【化8】

の化合物を得、
(c)式IIIの化合物をトリエチルホスホノアセテートのような式3:
【化9】

の化合物で処理することを含む方法。
【請求項5】
式IV:
【化10】

の化合物の製造法であって、
a)式II:
【化11】

の化合物を、式IIの化合物を水素化ナトリウムのような塩基で処理することによって式IVの化合物に変換し、
b)ステップa)の生成物をトリエチルホスホノアセテートのような式3:
【化12】

の化合物で処理することを含む方法。
【請求項6】
式IVの化合物を式VII:
【化13】

の化合物に変換するステップも含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
式IVの化合物が適切な塩基の存在下でアンモニアで処理される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
R、R及びRが、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、及びtert−ブチルから独立して選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
式VII:
【化14】

の化合物の製造法であって、式IV:
【化15】

の化合物を適切な塩基の存在下でアンモニアで処理することを含む方法。
【請求項10】
塩基がナトリウムメトキシドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
塩基がカリウムメトキシドである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
式II、III又はVIIの化合物。

【公表番号】特表2010−500343(P2010−500343A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523744(P2009−523744)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/SE2007/000706
【国際公開番号】WO2008/018822
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】