説明

芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法

【課題】界面重合法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程で発生する、品質規格外品の有機溶媒溶液から、より効率的に樹脂原料を回収する、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法を提供する。
【解決手段】界面重合法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程で発生した品質規格外品の有機溶媒溶液から芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法であって、(a)該規格外品の有機溶媒溶液から水を除去し、水分含有率を3重量%以下とする工程、(b)該有機溶媒溶液の濃度を1〜20重量%に調整する工程、(c)該有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する工程、(d)分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させる工程、(e)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を含む反応混合物から有機溶媒を分離し、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する工程を含むことを特徴とする芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面重合法で芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際に、工程で発生する品質規格外品の芳香族ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液から芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、PCと略すことがある)は、優れた機械的性質、電気的性質、耐熱性、耐寒性、透明性等を有しており、レンズ、コンパクトディスク等の光ディスク、建築材料、自動車部品、OA機器のシャーシー、カメラボディー等様々な用途に利用されている材料であり、その需要は年々増加している。
このPCの需要の増加に伴い、PCの生産量も年々増加しており、製造に伴って発生する品質規格外品の量も増える傾向にある。
【0003】
品質規格外品はそのままでは製品として販売できないため、処理方法の一つとして産業廃棄物として廃棄されることがある。しかし、この方法では埋蔵量が有限である石油資源の浪費につながるため、資源の有効活用の観点からは好ましい方法と言うことが出来ない。さらに、処理費用の負担が必要であることから経済的にも好ましい方法とは言えず、どんな方法をしても有効活用が出来ない場合の最終的な方法として、極力使用を控えるのが好ましいといえる。
【0004】
そこで、これら品質規格外品を所定の割合で製造工程に添加し、精製、異物除去などの工程を経て品質規格に合致した製品に再生する方法が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、この方法では、多量に処理した際の製造工程への影響が大きく、かえって品質規格外品を増やす恐れがあるので、少量づつ処理する必要があり、処理に時間が掛かるのが欠点である。
また、PCの製造途中で目標とする分子量に到達せず、パウダーあるいはペレット化されなかった芳香族ポリカーボネート樹脂の溶液から溶媒を除去し、乾燥した固形物を再度溶媒に溶解し、解重合反応を経て原料を回収する方法が知られている(特許文献2)。
【0005】
この方法では、PCが目的の分子量に達成していないので、PCの溶液は充分な精製がされずに溶媒を回収し、固形物にされるので、得られる固形物が不純物を含有していたり、着色していたりすることがあり、原料の回収、再利用にとって大きな障害となる場合がある。
これらの理由より、ポリカーボネートの重合反応の際に発生した品質規格外品の効率的な回収方法の提供が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−319500号公報
【特許文献2】特開2006−131790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、界面重合法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程で発生する、品質規格外品の有機溶媒溶液から、より効率的に樹脂原料を回収する、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これらの問題を解決するために鋭意検討した結果、製造工程で発生した品質規格外品の有機溶媒溶液から水分を分離した後に、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いて解重合を行うことにより、高品質の樹脂原料が回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、
1.界面重合法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程で発生した品質規格外品の有機溶媒溶液から芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法であって、(a)該規格外品の有機溶媒溶液から水を除去し、水分含有率を3重量%以下とする工程、(b)該規格外品の有機溶媒溶液の濃度を1〜20重量%に調整する工程、(c)該規格外品の有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する工程、(d)分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させる工程、および(e)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を含む反応混合物から有機溶媒を分離し、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する工程、を含むことを特徴とする芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法、
2.有機溶媒がハロゲン化炭化水素化合物溶媒である前項1記載の回収方法、
3.(c)工程において、使用するアルカリ金属水酸化物と芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合とのモル比が4.1:1〜8:1の範囲である前項1記載の回収方法、
4.(c)工程において、分解の際の反応温度が30℃〜120℃である前項1記載の回収方法、
5.(c)工程において、分解の際に芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、酸化防止剤を0.05〜4.0重量部使用する前項1記載の回収方法、
6.前項1記載の回収方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液に酸を加え、芳香族ジヒドロキシ化合物を固体として単離する芳香族ジヒドロキシ化合物の回収方法、および
7.前項1記載の回収方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液を、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程に導入して再利用し、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工程で発生する品質規格外品の芳香族ポリカーボネート樹脂有機溶媒溶液から効率的に原料である芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収し、再度原料として使用することができることから、本発明の奏する工業的効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、使用される工程で発生する品質規格外品の芳香族ポリカーボネート樹脂は、界面重合法で製造される際に発生するもので、分子量は粘度平均分子量で5×10〜1×10のものが好ましい。ここで、芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0012】
該芳香族ポリカーボネート樹脂は、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、1,4−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4′−ジヒドロキシジフェニルエステル等のジヒドロキシ化合物の単独または2種以上の混合物から製造されたものである。
【0013】
また、末端停止剤(分子量調節剤)としては、1価のフェノール化合物が好ましく用いられ、フェノール、p−クレゾール、p−エチルフェノール、p−イソプロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−キシレノール、p−メトキシフェノール、p−ヘキシルオキシフェノール、p−デシルオキシフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ペンタクロロフェノール、p−フェニルフェノール、p−イソプロペニルフェノール、2,4−ジ(1’−メチル−1’−フェニルエチル)フェノール、β−ナフトール、α−ナフトール、p−(2’,4’,4’−トリメチルクロマニル)フェノール、2−(4’−メトキシフェニル)−2−(4’’−ヒドロキシフェニル)プロパン等のフェノール類等の単独または2種以上の混合物が用いられる。
【0014】
本発明において、まず、品質規格外品(品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂)の有機溶媒溶液と水分との分離が行われる。
この方法としては、有機溶媒相と水相をデカンター等の液液分離器で分離して有機溶媒相を回収する方法が好ましく採用される。液液分離器において分離が不十分であると、有機溶媒相に混入した水分が次の工程で解重合反応に悪影響を及ぼすので、水分を可能な限り除去することが好ましい。この方法には、デカンターの他に遠心分離機など、公知の方法が使用できる。
【0015】
この工程で分離後の有機溶媒中の水分含有率は、3重量%以下とすることが必要である。好ましくは2重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下とすることが好ましい。水分の含有量が3重量%より大きくなると、解重合反応の反応率低下や反応時間の遅延を引き起こすため、好ましくない。
【0016】
解重合反応において、品質規格外品の有機溶媒溶液は、その芳香族ポリカーボネート樹脂濃度が1〜20重量%の範囲であり、5〜18重量%の範囲が好ましく、8〜15重量%の範囲がより好ましい。有機溶媒溶液の濃度が1重量%より少ない場合、反応に必要な樹脂の濃度が低いため、分解反応終了までの時間が長くなったり、反応が完結しなくなったりすることがあり好ましくない。また20重量%より高い場合、反応によって析出する樹脂原料の量が多くなり、混合が不十分になりやすいため、反応率が低下する傾向にあり好ましくない。
【0017】
反応工程で生成するものから水を分離した溶液の芳香族ポリカーボネート樹脂濃度が1〜20重量%の範囲を外れる場合は、固体の芳香族ポリカーボネート樹脂や、芳香族ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液を混合することで最適な樹脂溶液濃度にすることが出来る。
【0018】
また、樹脂溶液中に含まれる有機溶媒不溶物は、ろ過して除去することが好ましい。除去せずに分解反応を行った場合、これらの不純物も分解され、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液に混入する恐れがある。不純物の分解物が混ざったまま芳香族ポリカーボネート樹脂製造工程に該水溶液を使用すると、製品の芳香族ポリカーボネート樹脂の品質に悪影響を及ぼす可能性があるので、あらかじめ不溶物を除去することが好ましい。
【0019】
本発明の規格外品の有機溶媒溶液に使用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素化合物溶媒が好ましく、具体的にはジクロロメタン(塩化メチレン)、ジクロロエタンおよびクロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒が好適であり、特にジクロロメタン(塩化メチレン)が好適である。これらの溶媒は、芳香族ポリカーボネート樹脂の良溶媒で、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程において反応溶媒として用いられており、分解、回収した芳香族ジヒドロキシ化合物に溶媒が残留していても、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に悪影響を及ぼさない利点がある。
【0020】
次に、規格外品の有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する。
芳香族ポリカーボネート樹脂の分解剤として使用されるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましく使用され、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0021】
アルカリ金属水酸化物の使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対し4.1〜8.0モルが好ましい。使用量が4.1モルより少ないと分解反応が非常に遅く、8.0モルより多いとコストが高くなり、かつ、芳香族ジヒドロキシ化合物を単離、回収する際に使用する酸水溶液の量が多くなったり、回収した原料水溶液を反応工程に直接、導入して使用する際に過剰分のアルカリに応じた余分の薬剤を使用することとなる場合があり、経済的に好ましくない。
【0022】
分解反応に使用するアルカリ金属水酸化物は水溶液の状態で使用する。アルカリ金属水酸化物の濃度は、35〜55重量%が好ましい。35重量%より低いと分解速度が遅くなり、55重量%を超えるとアルカリ金属水酸化物が析出しスラリーになりやすく、スラリーになった場合かえって反応が遅くなる。
【0023】
本発明において、分解反応を行う温度は30℃〜120℃が好ましく、30℃〜50℃がより好ましい。30℃未満の場合は分解反応時間が長くなり、処理効率が著しく劣ることがある。また、120℃を越えると、加熱のエネルギーが多く必要となり、さらに分解処理中に溶液の色が褐色に着色し易くなり、品質の良い芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水溶液が得られなくなることがある。また、沸点以上においての反応は圧力容器が必要となり、設備費がかかり経済的に不利となる。
【0024】
分解反応中に生成した芳香族ジヒドロキシ化合物は、塩基性条件下では酸化されやすいので、反応溶液中に酸化防止剤を添加することが好ましい。また、工程内の酸素濃度を不活性ガスにより、低減しておくことも有効である。
【0025】
酸化防止剤として、重亜硫酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na)等が挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いても差し支えない。酸化防止剤の使用量は芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.05〜4.0重量部が好ましい。0.05〜4.0重量部の範囲であると酸化防止効果があり、また、コスト的に有利で、分解反応速度が低下せず好ましい。
不活性ガスの種類として、窒素、アルゴン等が挙げられる。窒素がコスト的に有利であり好ましい。
【0026】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂の分解反応は、界面反応であり、有機溶媒に溶解している芳香族ポリカーボネート樹脂がアルカリ金属水酸化物水溶液と攪拌され、界面で接触して分解される。この反応は不可逆であり、芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合が切れ、芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩と炭酸金属塩に分解する。
【0027】
解重合反応後、生成する芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩と炭酸金属塩が金属水酸化物水溶液に溶解せず、固形分として析出しており、解重合反応後の反応液に水を加えて析出した固形分の溶解を行う。かかる方法としては、解重合反応後の反応液に水を加えて攪拌し、析出した芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩と炭酸金属塩を溶解させる方法が好ましく採用される。加える水の量は、完全に固形分が溶解する量以上を投入するが、多く投入しすぎると水溶液中の芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩濃度が低下し、芳香族ポリカーボネート樹脂製造工程において反応速度の低下、廃液処理コスト増となるので、完全に固体が溶解する量の最小量が好ましい。分解液に水を加え固形分を溶解させると、有機溶媒相と芳香族ジヒドロキシ化合物金属塩の水溶液相との2つの相に分離する。
【0028】
次に、有機溶媒相とアルカリ金属水酸化物水溶液相とを分液し、アルカリ金属水酸化物水溶液相を回収する。
この方法としては、有機溶媒相とアルカリ金属水酸化物水溶液相をデカンター等の液液分離器で分離して水相を回収する方法が好ましく採用される。液液分離器において分離が不十分であると、水相に粒状に浮遊している重液相が次の工程に混入し、製品に悪影響を及ぼすので、水相をさらに有機溶媒と接触させ、可能な限り除去することが好ましい。この方法は、洗浄塔による接触、撹拌機、液液分離器による分離、遠心分離機など、公知の方法が使用できる。
【0029】
本発明の方法で得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液は、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程に再使用することができる。再使用する方法としては、界面重合法ではそのまま、あるいは所望の濃度に調整して、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に使用することが可能である。また、酸を加えて芳香族ジヒドロキシ化合物を単離し、溶融重合法で使用することができる。
【0030】
また、本発明の方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物と市販の芳香族ジヒドロキシ化合物とを一緒に芳香族ポリカーボネートの製造に使用しても構わない。回収した芳香族ジヒドロキシ化合物と市販の芳香族ジヒドロキシ化合物を混合する方法は、固体同士、固体と液体、液体同士を混合する方法のどの方法であってもよい。
【0031】
本発明の方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として用いて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、色相および熱安定性に優れることから、例えば光磁気ディスク、各種追記型ディスク、デジタルオーディオディスク(いわゆるコンパクトディスク)、光学式ビデオディスク(いわゆるレーザディスク)、デジタル・バーサイル・ディスク(DVD)等の光学ディスク基板用の材料として、あるいはシリコンウエハー等の精密機材収納容器の材料として好適に使用でき、殊に光学ディスク基板用の材料として好適に採用される。また、一般的なOA機器用途、自動車部品用途などについても問題なく使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に断り書きのない場合、部は重量部を表す。なお、評価は次に示す方法で行った。
【0033】
(1)反応率
実施例で得られた、ビスフェノールAの濃度(水溶液中のビスフェノールA濃度)を、Waters社製高速液体クロマトグラフィを用い、サンプル1mLにアセトニトリル1mLを加えて希釈し、アセトニトリル/0.2%酢酸水溶液を展開溶媒としてクロマトグラフを得、あらかじめ作成した検量線により、ビスフェノールAの濃度を求め、これと水溶液の量とから回収できたビスフェノールAの量を求め、反応率を算出した。
【0034】
(2)ビスフェノールAの色相
実施例で得られたビスフェノールAのアルカリ水溶液(ビスフェノールAの濃度7重量%)をJIS K 0071に準拠してAPHAを求めた。
【0035】
(3)水分含有率
芳香族ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液中の水分含有率は、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定して求めた。
【0036】
[実施例1]
芳香族ポリカーボネート樹脂を重合する際に発生した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液を分液ロートに入れ、2時間静置して水層と有機溶媒層に分離させた。この水分を分離した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部(分析の結果、芳香族ポリカーボネート樹脂38重量部と塩化メチレン225重量部の混合物で樹脂濃度14.4%、水分含有率0.8%)を、温度計、撹拌機及び還流冷却器、水浴付き反応槽に入れ、そこにハイドロサルファイトナトリウム0.6部を投入し攪拌した。水浴は40℃に調整した。そこへ、50%水酸化ナトリウム水溶液71部を添加した。添加開始後、反応槽の内温は徐々に上昇し還流が始まった。内温は最終的に43℃まで上昇した。12時間反応後、内部は固体が析出しており、固体を一部取り分析したところ、ビスフェノールAナトリウム塩と炭酸ナトリウムであった。反応槽の温度調節を止めて、504部の純水を投入し、1時間攪拌を継続して固体を溶解し、分液ロートで有機溶媒層と水溶液層を分離して、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。
【0037】
[実施例2]
芳香族ポリカーボネート樹脂を重合する際に発生した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液を分液ロートに入れ、1時間静置して水層と有機溶媒層に分離させた。この水分を分離した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部(分析の結果、芳香族ポリカーボネート樹脂38重量部と塩化メチレン225重量部の混合物で樹脂濃度14.4%、水分含有率1.3%)を用いて、実施例1の条件で解重合反応を行い、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。
【0038】
[実施例3]
芳香族ポリカーボネート樹脂を重合する際に発生した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液を分液ロートに入れ、2時間静置して水層と有機溶媒層に分離させた。この水分を分離した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液に塩化メチレンを添加し、品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液380部(分析の結果、芳香族ポリカーボネート樹脂38重量部と塩化メチレン342重量部の混合物で樹脂濃度10.0%、水分含有率0.8%)を用いて、実施例1の条件で解重合反応を行い、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。
【0039】
[比較例1]
実施例1において、水分を分離した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液を60℃で加熱して溶媒を除去し固形分を得た。得られた固形分38重量部を塩化メチレン225重量部に溶解した有機溶媒溶液263重量部(水分含有率0.5%)を使用して実施例1の条件で解重合反応を行い、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。
【0040】
[比較例2]
芳香族ポリカーボネート樹脂を重合する際に発生した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部(樹脂濃度14.4%、水分含有率4.1%)をそのまま使用して実施例1の条件で解重合反応を行い、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。
【0041】
[比較例3]
実施例1において、水分を分離した品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液を40℃で加熱し塩化メチレンを蒸発させ、品質規格外の芳香族ポリカーボネート樹脂溶液133部(樹脂濃度28.5%、水分含有率1.1%)を得た。この溶液を使用して実施例1の条件で解重合反応を行い、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として用いて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、光学ディスク基板用の材料等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面重合法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程で発生した品質規格外品の有機溶媒溶液から芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法であって、(a)該規格外品の有機溶媒溶液から水を除去し、水分含有率を3重量%以下とする工程、(b)該規格外品の有機溶媒溶液の濃度を1〜20重量%に調整する工程、(c)該規格外品の有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する工程、(d)分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させる工程、および(e)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を含む反応混合物から有機溶媒を分離し、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する工程、を含むことを特徴とする芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法。
【請求項2】
有機溶媒がハロゲン化炭化水素化合物溶媒である請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
(c)工程において、使用するアルカリ金属水酸化物と芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合とのモル比が4.1:1〜8:1の範囲である請求項1記載の回収方法。
【請求項4】
(c)工程において、分解の際の反応温度が30℃〜120℃である請求項1記載の回収方法。
【請求項5】
(c)工程において、分解の際に芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、酸化防止剤を0.05〜4.0重量部使用する請求項1記載の回収方法。
【請求項6】
請求項1記載の回収方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液に酸を加え、芳香族ジヒドロキシ化合物を固体として単離する芳香族ジヒドロキシ化合物の回収方法。
【請求項7】
請求項1記載の回収方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ水溶液を、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程に導入して再利用し、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−102363(P2011−102363A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257979(P2009−257979)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】