説明

芳香族ハロスルホニルイソシアネート組成物及びそれから導かれるポリマー

本発明は、以下の構造I(式I)を有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートを含んでなるモノマー組成物を提供する。
【化1】


式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。芳香族ハロスルホニルイソシアネートIを含んでなるモノマー組成物は、やはり本発明によって提供される膜として有用なポリマー材料を製造するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ハロスルホニルイソシアネート化合物及び芳香族ハロスルホニルイソシアネート化合物を含むモノマー組成物に関する。さらに、本開示は芳香族ハロスルホニルイソシアネート化合物から導かれるポリマー組成物に関する。加えて、本開示はポリマー組成物の使用方法及びポリマー組成物を含む関連物品に関し、膜に関する実施形態を包含する。
【背景技術】
【0002】
膜は溶液の成分を分離するための使用に関して長い歴史を有していて、それはある物質を透過させながら別の物質は制止する一種のフィルターとして使用される。膜の性質及び特性は、少なくとも部分的には、膜を製造する材料の性質に依存する。経済的に実用可能であるためには、膜は十分な流束(膜の単位面積当たりの透過物の流量)及び分離力(ある成分を透過させながら別の成分は制止する膜の能力)を与えるものでなければならない。高い流束及び選択性並びに有用なレベルの親水性、湿潤性及び耐薬品性を有する膜は、限外濾過、ミクロ濾過、超濾過及び血液濾過をはじめとする用途で使用されている。化学物質、生物学的化合物、細菌及び細胞による膜の汚損は、多孔質膜の流束及び選択性に悪影響を及ぼすことがある。多孔質膜が体液に接触する用途では、免疫原性及び血栓形成が関心事である。
【0003】
半透膜としても知られる酢酸セルロース製の膜は、加水分解、細菌攻撃及び化学的攻撃に対して不良な性能を示す。その透過性を改善しようとすると、耐圧性や耐久性のような他の性質が犠牲になり、したがってその用途が制限される。
【0004】
かかる膜は、その細孔径に基づいて分類されることに加え、その構造によって(例えば、対称膜、非対称膜及び複合膜として)分類することもできる。対称膜は、膜材料全体にわたって均一な細孔構造を有することによって特徴づけられる。非対称膜は、膜材料全体にわたって不均一な細孔構造を有することによって特徴づけられる。複合膜は、多孔質支持膜上に成層された1以上の薄膜(マトリックス)を有するものとして定義される。多孔質支持膜は、ポリマーの限外濾過膜又はミクロ濾過膜であり得る。薄膜は、通常約1ミクロン未満の厚さを有するポリマーである。膜性能及び乾燥状態での貯蔵容易性を向上させる超薄膜を含む複合膜は、湿潤状態での貯蔵を必要とするセルロース膜に比べて性能上の利点を与える。しかし、これらの複合膜は、水中に溶解した有機物質及び無機物質に対する溶質排除、高い水流量並びに耐久性(例えば、耐熱性、耐圧性及び耐薬品性)のような良好な性質を示さないことが多い。
【0005】
現在の膜研究は、逆浸透(「RO」)、超濾過(「HF」)、ナノ濾過(「NF」)、限外濾過(「UF」)、パーベーパレーション(「PV」)、拡散透析(「DD」)、ガス分離(「GS」)及び他の膜分離プロセス用の膜の製造に集中しており、最適膜性能を追求する過程で各種の化学作用を使用する。
【0006】
RO膜及びNF膜のような膜は、水の脱塩及び軟化のような用途のために特定のイオン種を優先的に透過する選択透過膜として広く使用されている。膜のタイプは、特定の用途のために選択される動作条件に影響を及ぼす。例えば、海水の脱塩で使用されるらせん巻きRO膜は、一般に約40〜100気圧の圧力勾配及び好ましくは約99%の塩排除率で膜1m2当たり0.6m3/日以上の膜流束を要求する。通例は海水の約1/10の塩濃度を有する半塩水に関しては、最大約20気圧の圧力勾配及び約95%の塩排除率で0.8m/日以上の膜流束が要求される。しかし、NF膜の場合には、海水或いは半塩水又は飲料水の脱塩のために最小の圧力勾配及び0.8m/日以上の流束でのイオン排除を使用することができる。
【0007】
加えて、多くの用途で有用であるためには、膜は高い耐久性、生物付着に対する抵抗性、微生物付着に対する抵抗性、及び処理する流体中に存在することがあるオキシダントに対する抵抗性のような性質を示す必要がある。さらに、膜は化学物質によるpH変動及び汚損に対して抵抗性を示すべきである。
【0008】
薄膜複合型(「TFC」)選択透過膜を製造するためには、ポリアミドTFC膜、RO膜及びNF膜を使用する各種のアプローチが使用されてきた。一般に、ポリアミドTFC膜は、ジアミン及びジアシルクロリドの界面重合を用いて製造される。例えば、界面重合TFC膜は、ピペラジン又は1,3−フェニレンジアミン及び1,3,5−ベンゼントリカルボン酸クロライドの水溶液を無極性で揮発性で水と混和しない溶媒中において反応させることで製造できる。
【0009】
膜技術の大きな進歩にもかかわらず、膜を通しての透過流量の増加に関連して膜性能の低下が起こることが認められている。かかるタイプの性能低下はまた、市販のポリアミドナノ濾過(NF)膜及び逆浸透(RO)膜を用いて強酸性の供給液を処理する場合にも認められる。初期にはかかる膜の性能は所望の分離を達成するために十分であり得るが、性能は急速に悪化し、膜は溶解金属(例えば、陽イオン)及び/又は有機化合物を保持する能力を短時間で失う。酸に対して安定性を示すポリマー膜も知られている。しかし、ポリマー膜が多孔質で低密度の形態を有する特定の場合には、ポリマー膜は実質的な量の溶解酸を透過させることがあり、溶解金属陽イオン及び有機化合物を効果的に分離することができない。
【0010】
したがって、効率的かつ経済的であることに加えて高い選択性、流束及び化学的許容度の組合せを有する改良膜に対するニーズが存在している。さらに、無機材料及び有機材料の両方に対する向上した溶質排除率、水流量及び機械的耐久性と共に優れた親水性及び高い架橋密度を有する膜を可能にする新規ポリマー組成物に対するニーズも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
国際公開第01/89654号パンフレット
【発明の概要】
【0012】
一態様では、本発明は以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートを含んでなるモノマー組成物を提供する。
【0013】
【化1】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。
【0014】
別の態様では、本発明は、以下の構造IVを有する三価芳香族ハロスルホニルイソシアネート及び官能価2を有しかつ以下の構造VIを有するハロスルホニルイソシアネートを含んでなるモノマー組成物を提供する。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

式中、R1は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1〜C20脂肪族基、C3〜C20脂環式基又はC3〜C20芳香族基であり、「a」は1〜4の整数であり、Xはハロゲンである。
【0017】
さらに別の実施形態では、本発明は、以下の構造Vを有する三価芳香族ハロスルホニルイソシアネート及び官能価2を有しかつ以下の構造VIを有するハロスルホニルイソシアネートを含んでなるモノマー組成物を提供する。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

式中、R1は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1〜C20脂肪族基、C3〜C20脂環式基又はC3〜C20芳香族基であり、「a」は1〜4の整数であり、Xはハロゲンである。
【0020】
別の態様では、本発明は、以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物を提供する。
【0021】
【化6】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。
【0022】
別の態様では、本発明は、以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含むポリマー組成物を含んでなる膜を提供する。
【0023】
【化7】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、複数の中空糸膜を含んでなる分離ユニットであって、複数の膜の1以上が以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含むポリマー組成物から形成される膜からなる分離ユニットを提供する。
【0025】
【化8】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。
【0026】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、以下の詳細な説明を参照することで一層容易に理解できよう。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲では多くの用語を用いるが、これらは以下の意味をもつものと定義される。
【0028】
“a”、“an”及び“the”を伴う単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかでない限り、複数の場合も含めて意味する。
【0029】
「任意の」又は「任意には」という用語は、その用語に続いて記載された事象又は状況が起きても起きなくてもよいことを意味しており、かかる記載はその事象が起こる場合と起こらない場合を包含する。
【0030】
本明細書中で使用する「溶媒」という用語は、ただ1種の溶媒又は溶媒の混合物を意味し得る。
【0031】
本明細書及び特許請求の範囲の全体を通じて使用される概略表現用語は、それが関係する基本機能の変化を生じることなしに変動することが許容される任意の数量表現を修飾するために適用できる。したがって、「約」のような用語で修飾された値は、明記された厳密な値に限定すべきでない。場合によっては、概略表現用語は値を測定するための計器の精度に対応することがある。
【0032】
本明細書中で使用する「芳香族基」という用語は、1以上の芳香族原子団を含む原子価1以上の原子配列をいう。1以上の芳香族原子団を含む原子価1以上の原子配列は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。本明細書中で使用する「芳香族基」という用語は、特に限定されないが、フェニル基、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、ナフチル基、フェニレン基及びビフェニル基を包含する。上述の通り、芳香族基は1以上の芳香族原子団を含む。芳香族原子団は常に4n+2(式中、「n」は1以上の整数である。)の「非局在化」電子を有する環状構造であり、フェニル基(n=1)、チエニル基(n=1)、フラニル基(n=1)、ナフチル基(n=2)、アズレニル基(n=2)、アントラセニル基(n=3)などで例示される。芳香族基はまた、非芳香族成分を含んでいてもよい。例えば、ベンジル基はフェニル環(芳香族原子団)及びメチレン基(非芳香族成分)からなる芳香族基である。同様に、テトラヒドロナフチル基は芳香族原子団(C63)が非芳香族成分−(CH2)4−に縮合してなる芳香族基である。便宜上、本明細書中での「芳香族基」という用語は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、ハロ芳香族基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含むものと定義される。例えば、4−メチルフェニル基はメチル基を含むC7芳香族基であり、メチル基がアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロフェニル基はニトロ基を含むC6芳香族基であり、ニトロ基が官能基である。芳香族基は、4−トリフルオロメチルフェニル、ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CF3)2PhO−)、4−クロロメチルフェン−1−イル、3−トリフルオロビニル−2−チエニル、3−トリクロロメチルフェン−1−イル(即ち、3−CCl3Ph−)、4−(3−ブロモプロプ−1−イル)フェン−1−イル(即ち、4−BrCH2CH2CH2Ph−)などのハロゲン化芳香族基を包含する。芳香族基のさらに他の例には、4−アリルオキシフェン−1−オキシ、4−アミノフェン−1−イル(即ち、4−H2NPh−)、3−アミノカルボニルフェン−1−イル(即ち、NH2COPh−)、4−ベンゾイルフェン−1−イル、ジシアノメチリデンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(即ち、−OPhC(CN)2PhO−)、3−メチルフェン−1−イル、メチレンビス(4−フェン−1−イルオキシ)(即ち、−OPhCH2PhO−)、2−エチルフェン−1−イル、フェニルエテニル、3−ホルミル−2−チエニル、2−ヘキシル−5−フラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(4−フェン−1−イルオキシ)(即ち、−OPh(CH2)6PhO−)、4−ヒドロキシメチルフェン−1−イル(即ち、4−HOCH2Ph−)、4−メルカプトメチルフェン−1−イル(即ち、4−HSCH2Ph−)、4−メチルチオフェン−1−イル(即ち、4−CH3SPh−)、3−メトキシフェン−1−イル、2−メトキシカルボニルフェン−1−イルオキシ(例えば、メチルサリチル)、2−ニトロメチルフェン−1−イル(即ち、2−NO2CH2Ph)、3−トリメチルシリルフェン−1−イル、4−t−ブチルジメチルシリルフェン−1−イル、4−ビニルフェン−1−イル、ビニリデンビス(フェニル)などがある。「C3〜C10芳香族基」という用語は、3以上で10以下の炭素原子を含む芳香族基を包含する。芳香族基1−イミダゾリル(C322−)はC3芳香族基を代表する。ベンジル基(C77−)はC7芳香族基を代表する。
【0033】
本明細書中で使用する「脂環式基」という用語は、環状であるが芳香族でない原子配列を含む原子価1以上の基をいう。本明細書中で定義される「脂環式基」は、芳香族原子団を含まない。「脂環式基」は1以上の非環式成分を含んでいてもよい。例えば、シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)は、シクロヘキシル環(環状であるが芳香族でない原子配列)及びメチレン基(非環式成分)からなる脂環式基である。脂環式基は、窒素、硫黄、セレン、ケイ素及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。便宜上、本明細書中での「脂環式基」という用語は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含むものと定義される。例えば、4−メチルシクロペント−1−イル基はメチル基を含むC6脂環式基であり、メチル基がアルキル基である官能基である。同様に、2−ニトロシクロブト−1−イル基はニトロ基を含むC4脂環式基であり、ニトロ基が官能基である。脂環式基は、同一のもの又は相異なるものであってよい1以上のハロゲン原子を含み得る。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1以上のハロゲン原子を含む脂環式基には、2−トリフルオロメチルシクロヘキス−1−イル、4−ブロモジフルオロメチルシクロオクト−1−イル、2−クロロジフルオロメチルシクロヘキス−1−イル、ヘキサフルオロイソプロピリデン−2,2−ビス(シクロヘキス−4−イル)(即ち、−C610C(CF3)2610−)、2−クロロメチルシクロヘキス−1−イル、3−ジフルオロメチレンシクロヘキス−1−イル、4−トリクロロメチルシクロヘキス−1−イルオキシ、4−ブロモジクロロメチルシクロヘキス−1−イルチオ、2−ブロモエチルシクロペント−1−イル、2−ブロモプロピルシクロヘキス−1−イルオキシ(例えば、CH3CHBrCH2610O−)などがある。脂環式基のさらに他の例には、4−アリルオキシシクロヘキス−1−イル、4−アミノシクロヘキス−1−イル(即ち、H2NC610−)、4−アミノカルボニルシクロペント−1−イル(即ち、NH2COC58−)、4−アセチルオキシシクロヘキス−1−イル、2,2−ジシアノイソプロピリデンビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(即ち、−OC610C(CN)2610O−)、3−メチルシクロヘキス−1−イル、メチレンビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(即ち、−OC610CH2610O−)、1−エチルシクロブト−1−イル、シクロプロピルエテニル、3−ホルミル−2−テトラヒドロフラニル、2−ヘキシル−5−テトラヒドロフラニル、ヘキサメチレン−1,6−ビス(シクロヘキス−4−イルオキシ)(即ち、−OC610(CH2)6610O−)、4−ヒドロキシメチルシクロヘキス−1−イル(即ち、4−HOCH2610−)、4−メルカプトメチルシクロヘキス−1−イル(即ち、4−HSCH2610−)、4−メチルチオシクロヘキス−1−イル(即ち、4−CH3SC610−)、4−メトキシシクロヘキス−1−イル、2−メトキシカルボニルシクロヘキス−1−イルオキシ(2−CH3OCOC610O−)、4−ニトロメチルシクロヘキス−1−イル(即ち、NO2CH2610−)、3−トリメチルシリルシクロヘキス−1−イル、2−t−ブチルジメチルシリルシクロペント−1−イル、4−トリメトキシシリルエチルシクロヘキス−1−イル(例えば、(CH3O)3SiCH2CH2610−)、4−ビニルシクロヘキセン−1−イル、ビニリデンビス(シクロヘキシル)などがある。「C3〜C10脂環式基」という用語は、3以上で10以下の炭素原子を含む脂環式基を包含する。脂環式基2−テトラヒドロフラニル(C47O−)はC4脂環式基を代表する。シクロヘキシルメチル基(C611CH2−)はC7脂環式基を代表する。
【0034】
本明細書中で使用する「脂肪族基」という用語は、環状でない線状又は枝分れ原子配列からなる原子価1以上の有機基をいう。脂肪族基は1以上の炭素原子を含むものと定義される。脂肪族基をなす原子配列は、窒素、硫黄、ケイ素、セレン及び酸素のようなヘテロ原子を含んでいてもよく、或いは炭素及び水素のみから構成されていてもよい。便宜上、本明細書中での「脂肪族基」という用語は、「環状でない線状又は枝分れ原子配列」の一部として、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロアルキル基、共役ジエニル基、アルコール基、エーテル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボン酸基、アシル基(例えば、エステルやアミドのようなカルボン酸誘導体)、アミン基、ニトロ基などの広範囲の官能基を含むものと定義される。例えば、4−メチルペント−1−イル基はメチル基を含むC6脂肪族基であり、メチル基がアルキル基である官能基である。同様に、4−ニトロブト−1−イル基はニトロ基を含むC4脂肪族基であり、ニトロ基が官能基である。脂肪族基は、同一のもの又は相異なるものであってよい1以上のハロゲン原子を含むハロアルキル基であり得る。ハロゲン原子には、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素がある。1以上のハロゲン原子を含む脂肪族基には、ハロゲン化アルキルであるトリフルオロメチル、ブロモジフルオロメチル、クロロジフルオロメチル、ヘキサフルオロイソプロピリデン、クロロメチル、ジフルオロビニリデン、トリクロロメチル、ブロモジクロロメチル、ブロモエチル、2−ブロモトリメチレン(例えば、−CH2CHBrCH2−)などがある。脂肪族基のさらに他の例には、アリル、アミノカルボニル(即ち、−CONH2)、カルボニル、2,2−ジシアノイソプロピリデン(即ち、−CH2C(CN)2CH2−)、メチル(即ち、−CH3)、メチレン(即ち、−CH2−)、エチル、エチレン、ホルミル(即ち、−CHO)、ヘキシル、ヘキサメチレン、ヒドロキシメチル(即ち、−CH2OH)、メルカプトメチル(即ち、−CH2SH)、メチルチオ(即ち、−SCH3)、メチルチオメチル(即ち、−CH2SCH3)、メトキシ、メトキシカルボニル(即ち、CH3OCO−)、ニトロメチル(即ち、−CH2NO2)、チオカルボニル、トリメチルシリル(即ち、(CH3)3Si−)、t−ブチルジメチルシリル、3−トリメトキシシリルプロピル(即ち、(CH3O)3SiCH2CH2CH2−)、ビニル、ビニリデンなどがある。さらに他の例としては、C1〜C10脂肪族基は1以上で10以下の炭素原子を含む。メチル基(即ち、CH3−)はC1脂肪族基の例である。デシル基(即ち、CH3(CH2)9−)はC10脂肪族基の例である。
【0035】
上述の通り、一実施形態では、本発明は以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートを含んでなるモノマー組成物を提供する。
【0036】
【化9】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。一実施形態では、「m」は2である。別の実施形態では、「m」は3である。さらに別の実施形態では、「n」は1であり、別の実施形態では、「n」は2である。
【0037】
一般構造Iによって包括される代表的な芳香族ハロスルホニルイソシアネートを表1に例示する。当業者であれば、一般構造Iと表1の項目1a〜1hの個別構造との関係は容易に理解されよう。例えば、項目1aの構造は、一般構造Iによって包括される化学種であって、ArがC6芳香環(ベンゼン環)であり、変数「n」が1であり、「m」が3であり、Xが塩素である化学種を表している。
【0038】
【表1】

他の例としては、表1の項目1bは、Arがナフタレンであり、「n」が1であり、「m」が2であり、Xが塩素である芳香族ハロスルホニルイソシアネートを表している。表1の項目1cは、Arがフェノキシベンゼンであり、「n」が1であり、「m」が2であり、Xが塩素である芳香族ハロスルホニルイソシアネートを表している。
【0039】
一実施形態では、本発明は、基ArがC6〜C20芳香族基である構造Iの芳香族ハロスルホニルイソシアネートを提供する。若干の実施形態では、基Arは以下の構造IIを有する三価芳香族基である。
【0040】
【化10】

例えば、項目1eの構造は、一般構造Iによって包括される化学種であって、Arが構造IIを有する(即ち、少なくとも2つの置換基が互いに「メタ」の環位置にある三置換フェニル環である)化学種を表している。
【0041】
一実施形態では、本発明は、基Arが以下の構造IIIを有する三価芳香族基である構造Iの芳香族ハロスルホニルイソシアネートを提供する。
【0042】
【化11】

例えば、表1の項目1bは、Arが三置換ナフタレン環である芳香族ハロスルホニルイソシアネートを表している。
【0043】
別の実施形態では、本発明によって提供される芳香族ハロスルホニルイソシアネート組成物は以下の構造IVを有している。
【0044】
【化12】

さらに別の実施形態では、本発明によって提供される芳香族ハロスルホニルイソシアネート組成物は以下の構造Vを有している。
【0045】
【化13】

一実施形態では、芳香族ハロスルホニルイソシアネート組成物は、さらに2以上の官能価を有するC3〜C40芳香族モノマーを含んでいる。別の実施形態では、芳香族ハロスルホニルイソシアネート組成物はさらに官能価2を有するC3〜C40芳香族モノマーを含んでいる。本明細書中で使用される「官能価2を有する」という語句は、芳香族モノマーが1つのハロスルホニル(SO2X)基及び1つのイソシアネート(NCO)基を含むことを意味する。一実施形態では、官能価2を有するハロスルホニルイソシアネートは以下の構造VIを有している。
【0046】
【化14】

式中、R1は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、C1〜C20脂肪族基、C3〜C20脂環式基又はC3〜C20芳香族基であり、「a」は1〜4の整数であり、Xはハロゲンである。
【0047】
一実施形態では、本発明は、官能価2を有しかつXが塩素である構造VIを有するハロスルホニルイソシアネートと共に構造Iのハロスルホニルイソシアネートを含んでなるハロスルホニルイソシアネート組成物を提供する。一実施形態では、構造VIのR1は求電子基(例えば、クロロカルボニル基)である。本明細書中で定義されるクロロカルボニル基は、C1脂肪族基(COCl)を表している。基R1の追加の非限定的な例には、カルボニルハライド、α−ハロケト、ハロホルメート、酸無水物基、ホスホリルハライド及びグリシジルエーテルがある。
【0048】
別の実施形態では、本発明は、構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネート及び官能価2を有しかつ以下の構造VIIを有する第2の芳香族ハロスルホニルイソシアネートを含んでなるハロスルホニルイソシアネート組成物を提供する。
【0049】
【化15】

式中、Xはハロゲンである。
【0050】
さらに別の実施形態では、本発明は、構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネート及び官能価2を有しかつ以下の構造VIIIを有する第2の芳香族ハロスルホニルイソシアネートを含んでなるハロスルホニルイソシアネート組成物を提供する。
【0051】
【化16】

式中、Xはハロゲンである。
【0052】
別の態様では、本発明は、以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物を提供する。
【0053】
【化17】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物は、ピペラジンとモノマーVとの重合によって製造されるポリスルホンアミド−ポリ尿素ポリマー、ピペラジンとモノマー1c(表1)との重合によって製造されるポリスルホンアミド−ポリ尿素ポリマー、及びピペラジンとモノマー1d(表1)との重合によって製造されるポリスルホンアミド−ポリ尿素ポリマーがある。一実施形態では、構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物はさらに、2以上の官能価を有するC3〜C40芳香族モノマーから導かれる構造単位を含んでいる(例えば、ハロスルホニルイソシアネートV及びハロスルホニルイソシアネートVIIをハロスルホニルイソシアネート組成物を反応させることで製造されるポリマー組成物)。別の実施形態では、本発明によって提供されるポリマーは、ハロスルホニルイソシアネートIから導かれる構造単位及び1種以上の追加の求電子性モノマー(例えば、テレフタロイルクロライド、トルエンジイソシアネート、無水トリメリット酸クロライド、5−イソシアナトイソフタロイルクロライド、イソフタロイルクロライド、トリメソイルクロライド及びこれらの組合せ)から導かれる構造単位を含んでいる。
【0054】
一実施形態では、本発明は、構造Iを有するハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位、並びにイソフタロイルクロライド、テレフタロイルクロライド、トリメソイルクロライド、トリメリット酸トリクロライド、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸ハライド、キノリン酸ジクロライド、ジピコリン酸ジクロライド、無水トリメリット酸ハライド、ピロメリット酸テトラクロライド、ピロメリット酸二無水物、ピリジントリカルボン酸ハライド、セバシン酸ハライド、アゼライン酸ハライド、アジピン酸ハライド、ドデカン二酸ハライド、トルエンジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)、ナフタレンジイソシアネート、ビトリルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、イソシアナトベンゼンジカルボン酸ハライド、ハロホルミルオキシベンゼンジカルボン酸ハライド、ジハロスルホニルベンゼン、ハロスルホニルベンゼンジカルボン酸ハライド、シクロブタンジカルボン酸ハライド、ピペラジン−N,N’−ジホルミルハライド、ジメチルピペラジン−N,N’−ジホルミルハライド、キシリレングリコールジハロホルメート、ベンゼンジオールジハロホルメート、ベンゼントリオールトリハロホルメート、ホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲン、N,N’−カルボニルジイミダゾール、イソシアヌル酸−N,N’,N”−トリアセチルハライド、イソシアヌル酸−N,N’,N”−トリプロピオニルハライド、シクロペンタンテトラカルボン酸ハライド及びこれらの組合せからなる群から選択される1種以上の追加の求電子性モノマーから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物を提供する。
【0055】
一実施形態では、本発明は、構造Iを有するハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位及び酸ハライド末端停止オリゴマーから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物を提供する。酸ハライド末端停止オリゴマーは、ピペラジンを、イソフタロイルクロライド、イソフタロイルクロライド、テレフタロイルクロライド、トリメソイルクロライド、トリメリット酸トリクロライド、キノリン酸ジクロライド、ジピコリン酸ジクロライド、無水トリメリット酸ハライド、ピロメリット酸テトラクロライド、ピロメリット酸二無水物、ピリジントリカルボン酸ハライド、トルエンジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)、ナフタレンジイソシアネート、ビトリルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、イソシアナトベンゼンジカルボン酸ハライド、ハロホルミルオキシベンゼンジカルボン酸ハライド、ジハロスルホニルベンゼン、ハロスルホニルベンゼンジカルボン酸ハライド、キシリレングリコールジハロホルメート、ベンゼンジオールジハロホルメート、ベンゼントリオールトリハロホルメート、ホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲン及びN,N’−カルボニルジイミダゾールの1種以上の過剰量と反応させて得られる生成物によって例示される。
【0056】
本発明によって提供されるポリマー組成物は、芳香族ハロスルホニルイソシアネートIに由来する構造単位当たり1以上のウレイドNH基を含んでいる。ウレイドNH基の存在は、ポリマー組成物と水性液体との相互作用を高めると共に、ウレイドNH基とハロスルホニル基から導かれる基(例えば、スルホンアミド基)との水素結合によって本発明のポリマー組成物を含む物品において追加レベルの構造健全性をもたらすと考えられる。ウレイドNH基の存在は、ポリマー組成物が(例えば、ピペラジンのように)第二アミン基のみを含む1種以上のジアミンを用いて製造される実施形態において特に重要であると考えられる。
【0057】
一実施形態では、本発明によって提供されるポリマー組成物は、構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位及び以下の構造IXを有するポリアミン化合物から導かれる構造単位を含んでいる。
【0058】
【化18】

式中、R2はC1〜C20脂肪族基、C3〜C20脂環式基又はC3〜C20芳香族基であり、R3及びR4は各々独立に水素原子、C1〜C20脂肪族基、C3〜C20脂環式基又はC3〜C20芳香族基であり、「c」は1〜10の整数である。構造IXは、R2がR3及びR4と共に環状構造を形成し得る事例を含んでいる。例えば、「c」が1であり、R2が−CH2CH2−であり、R3及びR4がそれぞれ−CH2−であり、R3が炭素−炭素単結合によってR4に結合した場合、構造IXはC4−ジアミンピペラジンを表す。
【0059】
一実施形態では、構造IXを有するポリアミン化合物は1分子当たり2つのアミノ基を有し得る(即ち、「c」が1である)。一般構造IXによって包括されるポリアミン化合物の非限定的な例には、ポリエチレンアミン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン又はピペラジン、フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロヘキサントリアミン、キシリレンジアミン、クロロフェニルジアミン、ベンゼントリアミン、ビス(アミノベンジル)アニリン、テトラアミノベンゼン、テトラアミノビフェニル、テトラキス(アミノメチル)メタン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、アミノベンズアミド、アミノベンズヒドラジド、ビス(アミノベンジル)アニリン、N,N’−ジアルキル−1,3−フェニレンジアミン、N−アルキル−1,3−フェニレンジアミン及びメラミンがある。一実施形態では、構造IXを有するポリアミンは1,3,5−トリアミノベンゼン、ピペラジン、4−アミノメチルピペリジン、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン又は上述したポリアミン化合物の2種以上の組合せである。
【0060】
一実施形態では、本発明のポリマー組成物の好適な分子量は約1000g/molを超える。若干の実施形態では、組成物の分子量は約200000g/mol未満である。一実施形態では、本発明のポリマー組成物の好適な分子量は約1000〜約200000g/molの範囲内にある。一実施形態では、ポリマー組成物の分子量は約1000〜約40000g/mol、約40000〜約80000g/mol、約80000〜約120000g/mol、又は約120000〜約200000g/molの範囲内にある。一実施形態では、ポリマー組成物は、構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネート及び官能価2を有するC3〜C40芳香族モノマーから導かれる構造単位を含むコポリマーである。様々な実施形態では、本発明によって提供されるポリマー組成物はホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーである。
【0061】
一実施形態では、ポリマー組成物は1種以上の添加剤を含んでいる。添加剤は、組成物から作製される物品の特性及び性質に影響を与えるように選択できる。添加剤の混合物も使用できる。かかる添加剤は、組成物を調製するための成分の混合に際して適当な時点で混合できる。例示的な添加剤には、増量剤、潤滑剤、流れ調整剤、充填剤、難燃剤、顔料、染料、着色剤、紫外線安定剤、滴下防止剤、可塑剤、離型剤、核生成剤、蛍光増白剤、防炎剤、帯電防止剤、発泡剤などがある。存在する場合、添加剤は組成物の総重量を基準にして約0.1〜約40重量%の範囲内で存在し得る。
【0062】
若干の実施形態では、本発明によって提供されるポリマー組成物はイオン交換膜を形成するために使用される。若干の他の実施形態では、ポリマー組成物は、物品を形成するための各種の手段(例えば、射出成形、押出成形、回転成形、発泡成形、カレンダー成形、吹込成形、熱成形、圧縮成形、溶融紡糸など)によって有用な物品に成形される。一実施形態では、ポリマー組成物は延伸又は紡糸によって繊維、シート又はフィルムに形成できる。別の実施形態では、ポリマー組成物は延伸又は紡糸によって膜を画成する複数の繊維に形成できる。かかる繊維は弾性を有すると共に、比較的高い機械的性質を有することができる。好適な繊維は中空糸であり得る。一実施形態では、繊維はマット又は膜を画成するように配列される。さらに、それ自体は本発明の実施形態をなす組成物から形成されていない第2の膜上にかかる膜を支持することもできる。
【0063】
一実施形態では、本発明によって提供されるポリマー組成物は、有孔性又は多孔性であり得るフィルム又はシートに使用される。一実施形態では、フィルム又はシートは連続した不透過性のものである。好適なシート及びフィルムは、一方又は両方の手段面上に表面トポロジーを有することができる。かかるトポロジーは、利用可能な表面積又は利用可能な接触面積を増加させるためのパターン化ミクロ構造及び/又はリッジを含み得る。若干の実施形態では、シート又はフィルムは、流体を通過又は流通させ得るような多孔性又は透過性を有することができる。かかるシート又はフィルムは膜の一種である。膜は、例えば、穴あけ、延伸、膨張、バブリング及び抽出の1以上によって透過性にすることができる。膜を製造するための好適な方法には、フォーミング、スカイビング又はキャスティングがある。一実施形態では、膜は織布又は不織布から形成される。一実施形態では、本発明によって提供される膜は、多孔質基体(例えば、多孔質ポリマーフィルム)の表面上に形成される。
【0064】
当技術分野では、膜を製造するための数多くの技法が知られている。例えば、溶解したポリマーを十分な量の溶媒の蒸発により沈殿させて膜構造を形成する乾式相分離膜形成プロセス、溶解したポリマーを非溶媒浴中への浸漬により沈殿させて膜構造を形成する湿式相分離膜形成プロセス、乾式及び湿式相分離膜形成プロセスの組合せである乾式−湿式相分離膜形成プロセス、或いは溶解したポリマーを制御冷却により沈殿又は凝固させて膜構造を形成する熱誘起相分離膜形成プロセスを用いて膜を形成できる。さらに、分離用途における膜の使用に先立ち、膜に膜コンディショニングプロセス又は前処理プロセスを施すことができる。代表的なプロセスには、応力を除去するための熱アニール、及び膜が接触する供給液流に類似した溶液中での予備平衡化がある。
【0065】
一実施形態では、膜は複数のフィブリルによって相互連結された複数のノードを含む三次元マトリックスであるか、或いは格子型の構造を有する。ノード及びフィブリルの表面は、膜に複数の細孔を画成できると共に、曲がりくねった経路に沿って相対する主面の一方から他方まで膜を貫通する多数の相互連絡通路又は細孔を画成できる。一実施形態では、膜は、膜の相対する主面に隣接した環境と流体流通可能に連絡する多数の相互連結細孔を画成できる。液体材料(例えば、水性液体材料)が細孔をウェットアウトしてそれを通過することを可能にする膜材料の性向は、1以上の性質の関数として表すことができる。かかる性質には、膜の表面エネルギー、液体材料の表面張力、膜材料と液体材料との間の相対接触角、細孔のサイズ又は有効流路面積、及び膜材料と液体材料との適合性がある。膜は複数の二次層を有し得る。二次層は互いに同一であっても異なっていてもよい。一態様では、1以上の二次層が本発明の実施形態を含む一方、別の二次層が例えば補強、選択濾過、たわみ性、支持、流量調整などの性質を提供することができる。本発明の実施形態に係る膜は様々な寸法を有していて、一部は用途に特有の基準に従って選択される。各膜は複数のシート又はフィルムから形成でき、繊維の織物又はマットから形成でき、非発明層を含むことができ、或いは上記のものの2以上を含むことができる。
【0066】
本発明の実施形態に従って製造された膜は、1以上の所定の性質を有することができる。かかる性質には、乾燥輸送膜の湿潤性、湿潤/乾燥循環能力、極性液体又は溶液の濾過、水性液体又は溶液の流量、表面電気陰性度、低pH条件下での流量及び/又は耐久度、高pH条件下での流量及び/又は耐久度、室温条件下での流量及び/又は耐久度、高温条件下での流量及び/又は耐久度、所定波長のエネルギーに対する透明度、音響エネルギーに対する透明度並びに触媒材料に対する支持の1以上がある。耐久度とは、例えば2日以上又は2サイクル以上(湿潤/乾燥、高温/低温、高pH/低pHなど)にわたって連続的に機能を維持するコーティング材料の能力をいう。一実施形態では、膜は例えばオートクレーブ処理操作に際しての約100〜約125℃の範囲内の温度変化に対する抵抗性を有する。
【0067】
膜を通しての流体流量は1以上の因子に依存することがあり、例えば、膜の物理的及び/又は化学的性質、流体の性質(例えば、粘度、pH、溶質など)、環境特性(例えば、温度、圧力など)などに依存し得る。
【0068】
一実施形態では、膜は水を濾過するために使用される。濾過膜は、膜の両側における圧力差に応答して相対的に溶質濃度の高い溶液から相対的に溶質濃度の低い溶液に水流を通過させる。このように、一実施形態では、膜は材料の少なくとも一部を通して所定方向の液体又は流体の流れを有するように機能し得る。駆動力は浸透作用又は灯心作用であるか、或いは濃度勾配、圧力勾配、温度勾配などの1以上であり得る。別の実施形態では、膜は75%を超える塩排除率を有している。一実施形態では、膜は水処理システム中の逆浸透膜である。別の実施形態では、膜はそれを通してのイオンの流れを遮断する。かかるイオンには金属イオンがある。
【0069】
他の好適な用途には、液体濾過、極性に基づく化学的分離、パーベーパレーション、ガス分離、工業用電気化学(例えば、クロロアルカリ製造用途及び電気化学用途)、超酸触媒、及び酵素固定化での媒体としての使用がある。
【0070】
ミクロ濾過膜は、約20〜約10000nmの範囲内の線寸法を有する微粒子又はコロイド粒子の懸濁液を濾過できる。限外濾過膜は平均して約100nm未満の細孔径を有することができ、約300〜約500000ダルトンの分子量範囲内の化学種を保持できる。好適な排除化学種には、糖、生体分子、ポリマー及びコロイド粒子がある。ナノ濾過膜は、低圧水脱塩においてますます注目を集めている。これらの膜はしばしば負に帯電しており、電荷反発(ドナン排除)によって塩類を排除する。加えて、約200〜約500ダルトンの範囲内の分子量を有する有機化学種が排除される。超濾過及び逆浸透(RO)では、比較的緻密な膜が使用できる。かかる緻密な膜は、塩類及び低分子量有機物のような小分子を膜表面に接触する水と異なるやり方で処理するのに十分なサイズ又は化学的活性の細孔又は穿孔を有し得る。本発明の実施形態に係る好適なRO膜には、海水脱塩用の高圧RO膜(駆動圧力約5〜約10MPa)、半塩水脱塩用の中圧RO膜(駆動圧力1〜約5MPa)、及び水の部分脱塩用のナノ濾過膜又は「緩い」RO膜(駆動圧力0.3〜約1MPa、NaCl排除率0〜20%)がある。限外濾過膜及びミクロ濾過膜の両方が薄膜複合膜中の中間支持体として使用されてきた。これらの膜は、多数の水浄化用途(最も注目すべきは、ナノ濾過、逆浸透、薄膜メンブラン及び超濾過)のために使用できる。
【0071】
一実施形態では、本発明は多孔質支持材の少なくとも一面上に配置された本発明のポリマー組成物を含んでなる複合膜を提供する。「複合膜」という用語は、多孔質支持材の少なくとも一面上にマトリックスが成層又は被覆された複合体を意味する。「支持材」という用語は、その上にマトリックスを適用し得る任意の基体を意味する。特にミクロ濾過及び限外濾過タイプの半透膜、織物、濾過材料なども含まれる。一実施形態では、多孔質支持材は、特に限定されないが、紙、改質セルロース、ガラス繊維織物、及びポリマー繊維の多孔質又は織物シートを含む任意適宜の多孔質材料から構成できる。多孔質支持材は、ポリマー(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、セルロースエステル、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアリールエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリベンゼンスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン又はこれらの組合せ)、セラミック膜、多孔質ガラス、多孔質金属、或いは上述のポリマー、ガラス及び金属の2種以上の組合せからなり得る。複合膜は、シート、中空管、薄膜、或いはフラット型又はスパイラル型膜濾過装置として形成できる。別の実施形態では、支持材はポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、メラミン、熱硬化性ポリマー、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン又はポリフェニレンスルフィドである。一実施形態では、多孔質支持材は、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリスルホンアミド、ポリアミン、ポリスルフィド、メラミンポリマー及びこれらの組合せからなる群から選択される。
【0072】
一実施形態では、本発明は、本発明の芳香族ハロスルホニルイソシアネート化合物から導かれる膜を含む水処理装置を含んでなる脱塩ユニットを提供する。別の実施形態では、本発明は、本発明の芳香族ハロスルホニルイソシアネート化合物から導かれる限外濾過膜を提供する。別の実施形態では、本発明は、ある生物学的液体成分を別の生物学的液体成分から分離できる膜を含んでなる生物分離装置を提供する。
【0073】
別の態様では、本発明は、複数の中空糸膜を含んでなる分離ユニットであって、複数の膜の1以上が以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含むポリマー組成物から形成される膜を含んでなる分離ユニットを提供する。
【0074】
【化19】

式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。
【0075】
芳香族ハロスルホニルイソシアネート化合物及び本発明のハロスルホニルイソシアネート化合物から導かれるポリマー組成物は、本開示の実験セクションに示されるものを含む各種の方法によって製造できる。
【実施例】
【0076】
すべての材料はAldrich Chemical社から入手した。1H−NMRは400MHz Bruker NMR分光計で実施した。
【0077】
実施例1
2,4−ビス(クロロスルホニル)−6−イソシアナトナフタレン1の製造
【0078】
【化20】

磁気撹拌機、窒素バブラー、窒素入口及び温度プローブを備えた500mL丸底フラスコに、トリホスゲン(19.57g、65.94mmol)、2−アミノナフタレン−6,8−ジスルホン酸(10.0g、32.96mmol)及び無水クロロベンゼン(100mL)を仕込み、冷却浴で冷却した。ピリジン:イミダゾール触媒(0.625gピリジン:0.125gイミダゾール)を無水クロロベンゼン(50mL)に溶解した別の溶液を15分かけてゆっくりと添加した。次いで、反応物を5〜10℃でさらに30分間撹拌した。この時点で、温度を4時間にわたり55℃に上昇させ、さらに5時間にわたり135℃に上昇させた。次いで、混合物を周囲温度に冷却し、減圧下で濃縮することで、ビスクロロスルホニルイソシアネート化合物を黄色の固体として得た。1H NMR(CDCl3):8.90(m,1H);8.88(d,J=2.0,1H);8.54(d,J=1.8,1H);8.25(d,J=8.8,1H);7.66(dd,J=8.9,2.0,1H)。
【0079】
実施例2
ビスクロロスルホニルイソシアネート化合物1から導かれる構造単位を含む微孔質膜の製造
水中に2重量%のピペラジン及び0.1重量%のN,N−ジメチルアミノピリジンを含む水溶液に、実験用の微孔質ポリエーテルスルホン超濾過膜(「支持体」)を室温で1分間浸漬した。支持体を取り出し、残留水滴をぬぐい取ることで、ピペラジン水溶液を含浸させた微孔質ポリエーテルスルホン支持体を得た。他の商業的に入手可能な微孔質限外濾過膜、例えばGE Water社(トレボース、米国ペンシルヴェニア州)から入手できるPシリーズ系列のポリエーテルスルホン限外濾過膜を、支持体として使用することもできる。
【0080】
ビスクロロスルホニルイソシアネート化合物のISOPAR−G溶液を約100℃に加熱し、次いで含浸支持体の表面上に注いだ。ビスクロロスルホニルイソシアネート化合物の溶液と含浸支持体との接触を2分間維持し、その間に有機溶液の温度は約40℃に低下した。有機溶液を支持体からデカントし、処理支持体を120℃のオーブン内で6分間硬化させ、次いで室温に冷却することで、ビスクロロスルホニルイソシアネート及びピペラジンから導かれる構造単位を含むポリスルホンアミド−ポリ尿素で被覆された微孔質ポリエーテルスルホン支持体を含む微孔質膜を得た。
【0081】
実施例3
実施例2で製造した膜の評価
実施例2で製造した微孔質膜から試験クーポン(5”×3”)を切り出し、直交流型細胞膜試験ベンチに固定した。脱イオン水中に2000ppmのNaClを含む塩溶液を用いて、試験クーポンを800psi及び20℃で1時間処理した。その後、各試験片からの透過液を記録時間にわたって集め、集めた容量を計測し、Oakton Acorn CON6導電率計を用いて透過液の導電率を測定して塩通過率を求めた。圧力、膜面積、記録時間及び透過液容量を含むデータから膜の透過度(A値)を算出した。膜が試験装置内に存在する間に、脱イオン水中に次亜塩素酸ナトリウム(70ppm)を含む水溶液を用いて膜を225psi及び20℃で30分間処理した。次亜塩素酸ナトリウム溶液で処理した後、膜を脱イオン水で30分間洗浄し、次いで脱イオン水中に2000ppmのNaClを含む塩溶液を用いて800psi及び20℃で1時間処理した。透過液を記録時間にわたって集め、この時間内での透過液の容量を計測し、前回と同様にして透過液の導電率を測定することで、次亜塩素酸ナトリウム溶液で処理した後の膜の塩通過率を求めた。再び膜の透過度(A値)を算出した。
【0082】
データは実施例2で製造した微孔質膜が逆浸透膜として効果的に機能することを表しており、下記表2にまとめて示す。データは、膜性能が再生段階における次亜塩素酸ナトリウム処理後にも低下しないことを示している。比較例1のデータはさらに、実施例3の膜が、実施例3で使用したものと同様にして製造されかつピペラジン及び2,4,6−トリス(クロロスルホニル)ナフタレンから導かれる構造単位を含む公知の微孔質膜と少なくとも同等な性能を示すことを例示している。当業者には理解される通り、比較例1の微孔質膜には、本発明によって提供される微孔質膜の総合性能を向上させると考えられる構造的特徴であるウリドNH基が欠如している。
【0083】
【表2】

上記の実施例は単に例示的なものであって、本発明の若干の特徴のみを例示するために役立つ。添付の特許請求の範囲は考えられる限り広い範囲で本発明を特許請求するものであり、本明細書に記載した実施例は多種多様なすべての可能な実施形態から選択された実施形態を例示している。したがって、添付の特許請求の範囲は本発明の特徴を例示するために利用される実施例の選択によって限定されべきでないというのが出願人の意図するところである。特許請求の範囲で使用される「含む」という用語及びその文法的変形語は、論理的に言って、例えば特に限定されないが「から本質的になる」及び「からなる」のような様々に定義範囲の異なる語句も含めて意味する。必要な場合には範囲が示されているが、これらの範囲はその中に入るすべての部分範囲を包含する。これらの範囲内での変動は当業者には自明であろうし、また未だ公表されていなくてもこれらの変動は可能であれば添付の特許請求の範囲によってカバーされると解すべきである。また、科学及び技術の進歩により、言語の不正確さのために現在では想定されていない同等例及び置換例が可能になることも予想されるが、これらの変形例も可能であれば添付の特許請求の範囲によってカバーされると解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートを含んでなるモノマー組成物。
【化1】

(式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。)
【請求項2】
Arが以下の構造IIを有する三価芳香族基である、請求項1記載のモノマー組成物。
【化2】

【請求項3】
Arが以下の構造IIIを有する三価芳香族基である、請求項1記載のモノマー組成物。
【化3】

【請求項4】
以下の構造IVを有する、請求項1記載のモノマー組成物。
【化4】

【請求項5】
以下の構造Vを有する、請求項1記載のモノマー組成物。
【化5】

【請求項6】
以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含んでなるポリマー組成物。
【化6】

(式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。)
【請求項7】
Arが以下の構造IIを有する三価芳香族基である、請求項6記載のポリマー組成物。
【化7】

【請求項8】
Arが以下の構造IIIを有する三価芳香族基である、請求項6記載のポリマー組成物。
【化8】

【請求項9】
さらに、以下の構造IXを有するポリアミン化合物から導かれる構造単位を含む、請求項6記載のポリマー組成物。
【化9】

(式中、R2、R3及びR4は各々独立に水素原子、C1〜C20脂肪族基、C3〜C20脂環式基又はC3〜C20芳香族基であり、「c」は1〜10の整数である。)
【請求項10】
以下の構造Iを有する芳香族ハロスルホニルイソシアネートから導かれる構造単位を含むポリマー組成物を含んでなる膜。
【化10】

(式中、「m」は2〜5の整数であり、「n」は1〜5の整数であり、Arは脂肪族炭素−水素結合を含まないC3〜C40芳香族基であり、Xはハロゲンである。)

【公表番号】特表2011−522058(P2011−522058A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501886(P2011−501886)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/036718
【国際公開番号】WO2009/120492
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】