芳香族ポリエーテルコポリマーおよびポリマーブレンドならびにこれを含む燃料電池
ピリジンおよびテトラメチルビフェニル部分を有する高温ポリマー電解質膜を、提供する。好ましいポリマーは、良好な機械的特性、高い熱安定性および酸化安定性ならびに強酸での高いドーピング能力を示し得る。さらに提供するのは、PEMFCタイプの単一の電池上のMEAである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2006年9月11日出願の米国仮出願第60/843,801号についての優先権およびこの利益を請求し、この内容全体を参照により本出願中に導入する。
【0002】
背景
1.発明の分野
本発明は、ピリジンおよび/またはテトラメチルビフェニル部分を含む新規なポリマー材料に関する。本発明の好ましいポリマー材料は、高いガラス転移温度(例えば>200℃、例えば280℃まで)、高い熱安定性および酸化安定性(例えば>300℃または400℃、例えば450℃まで)を示し得、例えばリン酸でのドーピングは好ましいシステムにおいて高い酸吸収をもたらし得る。
【0003】
従来技術での材料の特徴づけに続いて、膜・電極一体構造が、これらの燃料電池性能を研究するために構築された。調製されたMEAは、単一の電池において170℃までの温度にて試験された。システムの長期間安定性は、−500mVの定電圧における1000時間にわたる電流出力を測定することにより、研究された。
【背景技術】
【0004】
2.背景
90℃にて作動するポリマー電解質膜燃料電池(PEMFC)は、現在固定物および自動車用途において用いるための最良の候補である。現在まで、Nafionは、ほぼ専らポリマー電解質として用いられている。しかし、電池作動温度を100℃より低く限定する一方、この伝導性は、このように供給ガスの加湿を要求している水の存在に依存する。当該温度範囲において、一酸化炭素などの不純物が水素中に存在することにより、電解触媒に対して有害な影響が及ぶ。80℃の典型的な作動温度用に新たな電解触媒が開発されても、50〜100ppmの一酸化炭素により、触媒が失活し得る。加湿したガスに対する必要性および高純度の水素の要求により、作業費は十分増大する。
【0005】
150℃より高い温度における燃料電池の作動により、増大した触媒活性、燃料電池の流れにおける不純物による毒作用に対するアノード触媒の低下した影響の受けやすさ、慣用のPEM燃料電池よりも容易な温度管理などの特定の利点が得られる。高温電解質として用いるためのポリマーについての基本的な必要条件は、熱安定性および酸化安定性、優れた機械的特性、これと組み合わせて強酸でのドーピングの後の高いプロトン伝導性である。十分確立された高温ポリマー電解質であるポリベンズイミダゾールに加えて、上記の要件を満たす数種の新規なポリマー材料の開発に対する顕著な努力がある。
【0006】
PBIと熱可塑性エラストマー(Macromolecules 2000, 33, 7609, WO特許01/18894 A2)とから構成されるポリマーブレンドを用いて、PBIの酸ドーピング能力を熱可塑性エラストマーの別格の機械的特性と組み合わせることにより、PBIの機械的特性を改善するための種々の試行が、なされた。さらに、PBIと、主鎖中にピリジン単位を含む芳香族ポリエーテルコポリマーとのブレンドもまた調製され、優れた機械的特性および優れた酸化安定性を有する容易にドーピングされた膜が得られた(Journal of the Membrane Science 2003, 252, 115)。150℃よりも高い温度にて作動する燃料電池における用途のために望ましい特性をすべて兼ね備える、低価格のポリマー系を開発するためのある努力もまた、なされた。
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明者らはここで、1)1つもしくは2つ以上のテトラメチルビフェニル基または2)1つもしくは2つ以上の主鎖ピリジン単位を含む、1種または2種以上の芳香族ポリエーテルポリマーを含む新規なポリマー材料を提供する。本発明のポリマーは、燃料電池膜材料として特に有用である。
【0008】
本発明の特に好ましいポリマーは、以下の式(I)および/または(II):
【化1】
これらの式中、各々のXは、独立して、化学結合、随意に置換されたアルキレン、随意に置換された芳香族基、ヘテロ結合(O、SもしくはNH)、カルボキシルまたはスルホンであり;
各々のYは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位であり;
nは、正の整数である、
の構造を含み得る。
【0009】
本発明の好適なポリマー材料は、ブロック、ランダム、周期的および/または交互ポリマーの形態での1種または2種以上のポリマーを含んでいてもよい。
特定の態様において、ポリマーの混合物(例えば燃料電池膜として存在する)、即ち、2種または3種以上の別個のポリマーのブレンド、例えば上記の式(II)で表される構造を有する第2のポリマーとブレンドされた上記の式(I)で表される構造を有する第1のポリマーを提供する。
【0010】
本発明のポリマーを、1種または2種以上の芳香族二フッ化物類を含む物質の反応により、好適に提供することができる。
燃料電池の用途のために、本明細書中に開示する1種または2種以上のポリマーは、1種または2種以上のイオン伝導体、特に1種または2種以上の酸類、例えば硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、ヘテロポリ酸類、アンチモン酸、ホスファトアンチモン酸(phosphatooantimonic acid)およびこれらの組み合わせとの混合物(ドープされた)で存在し得る。リン酸は、好ましいドーピング剤であり得る。
【0011】
本発明の特に好ましいポリマーに、このようなイオン伝導体を、高いレベルでドープさせることができ、例えばここで、1種または2種以上のポリマー(燃料電池膜の形態であり得る):1種または2種以上のイオン伝導体(例えば1種または2種以上の酸類)の重量比は、100%以上、150%以上、200重量%以上、または250もしくは300重量%以上である。
【0012】
本発明はまた、本明細書中に開示した1種または2種以上のポリマーを含む燃料電池組立部または燃料電池を包含する。好適な燃料電池は、アノード−膜−カソードサンドイッチの膜電極組立部を含む。例えば、ここで、サンドイッチ構造中の各々の電極は、(i)基材層、(ii)ガス拡散層および(iii)反応層を含む別個の層を含む。
本発明の好ましい燃料電池は、水素をベースとする系を含む。
本発明の他の観点を、以下に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ポリマー1(▲)、コポリマー2(■)およびポリマー1/コポリマー2 50/50(○)の蓄電(E’)および損失(E”)係数の温度依存性を示す図である。
【図2】図2は、H2O2で処理した後のコポリマー2(■)、ポリマー1/コポリマー2 25/75ブレンド(○)およびポリマー1/コポリマー2 50/50ブレンド(●)の蓄電(E’)および損失(E”)係数の温度依存性を示す図である。
【0014】
【図3】図3は、H2O2で処理した後のポリマー1/コポリマー2 25/75ブレンド(○)およびポリマー1/コポリマー2 50/50ブレンド(●)のTGAサーモグラムである。
【図4】図4は、25℃(○)、65℃(●)、80℃(□)および100℃(■)におけるコポリマー2のドーピングレベル(重量%)の時間依存性を示す図である。
【図5】図5は、190重量%のドーピングレベルを有するコポリマー2の70%相対湿度における伝導率の温度依存性を示す図である。
【0015】
【図6A】図6(A)は、H2/O2下での150℃、160℃および170℃におけるコポリマー2のI−V曲線である。
【図6B】図6(B)は、150℃におけるH2/O2(■)、H2(1%CO)/O2(●)、H2(2%CO)/O2(▲)についてのコポリマー2のI−V曲線である。
【図6C】図6(C)は、150℃におけるH2/空気(■)、H2(1%CO)/空気(●)、H2(2%CO)/空気(▲)についてのコポリマー2のI−V曲線である。
【図6D】図6(D)は、160℃におけるH2/空気(■)、H2(1%CO)/空気(●)、H2(2%CO)/空気(▲)についてのTPS系のI−V曲線である。
【0016】
【図7A】図7(A)は、コポリマー2膜の試験全体についての、一定の電池電圧である−500mVにおいて作動する負荷においての、時間の関数としての電流密度を示す図である。電池温度、150℃。酸素:70cc/分、周囲圧。水素:80cc/分、周囲圧。
【図7B】図7(B)は、コポリマー2の温度サイクリング(150℃−40℃−150℃)を示す図である。印加電圧:0.5V。
【0017】
詳細な説明
本発明は、ピリジンおよび/またはテトラメチルビフェニル部分を有する純粋なコポリマーまたはポリマーブレンドのいずれかで構成されている新規なポリマー材料の開発、特徴づけおよび燃料電池用途に関する。
【0018】
本発明のポリマーを、種々の方法により好適に調製することができ、これには、芳香族求核置換が含まれる(R. Viswanathan, B.C. Johnson, J.E.Mc Grath, Polymer 1984, 25, 1827)、(W.L. Harisson, F. Wang, J.B. Mecham, V.A. Bhanu, M. Hill, Y.S. Kim, J.E. McGrath, J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 41, 2003, 2264)、M. J. Sumner, W.L. Harrison, R.M. Weyers, Y.S. Kim, J.E. McGrath, J.S. Riffle, A. Brink, M.H. Brink, J. Membr. Sci., 239, 2004, 119)、US005387629(1993)、EP1611182A2(2004)、WO0225764A1(2002)。
【0019】
好適には、本明細書中に開示したポリマーを、芳香族二フッ化物類、例えばビス−(4−フルオロフェニル)スルホン、デカフルオロビフェニル,4,4’ジフルオロベンゾフェノン、ビス(4フルオロフェニル)フェニルホスフィンオキシドのテトラメチルビフェニルジオール類および/またはピリジンをベースとするジオール類での芳香族求核置換により、合成することができる。
【0020】
本明細書中に開示する膜を、ポリマー溶液のフィルム流延により好適に調製することができる。さらに具体的に、本明細書中に開示する1種または2種以上のポリマーを、好適な溶媒、例えば極性非プロトン性溶媒、例えばN,N−ジメチルアセトアミド中に、室温で開示し、一方ブレンドの場合においては、対応するポリマー溶液の混合を適切な比率で行う。溶液を、ガラス皿中に注入することができ、溶媒を、例えばオーブン中で80〜100℃にて、例えば約24時間にわたり蒸発させる。得られた膜を、減圧下で、および好ましくは高温、例えば100〜170℃にて、真空下でさらに乾燥して、残留溶媒を除去することができる。ポリマーが300℃までの融点を示す場合には、溶融押出を、連続的膜調製のために用いることができる。
【0021】
好ましい観点において、このポリマーは、第一鉄イオンの存在下で80℃にて72時間、H2O2(3〜30%)で処理した後に維持された良好な機械的完全性により示されるように、高い酸化安定性を示し得る(フェントンの試験)。酸化安定性は、IRおよびラマン分光法を用いてさらに変化し得る。
【0022】
また好ましい観点において、上記で検討したように、ポリマー電解質膜に、例えば好適には(a)強酸類、例えば硫酸、リン酸、塩酸、硝酸およびこれらの組み合わせ、(b)フッ素化スルホン酸、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロエタン1,2ジスルホン酸、1,2,3,4パーフルオロブタンテトラスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびこれらの組み合わせ、(c)H3PW12O40・nH2O(PWA)、H3PMo12O40・nH2O(PMoA)およびH4SiW12O40・nH2O(SiWA)を含む、一般式[PM12O40]+3を有するヘテロポリ酸類およびこれらの組み合わせ、(d)アンチモン酸およびホスファトアンチモン酸およびこれらの組み合わせ、をドープさせることができる。特に好まれる好ましいドーピング剤は、リン酸である。ポリマー膜は、200〜250重量%のドーピングレベルにおいてを含む高いレベルにてドープされている。
【0023】
本発明の好ましいポリマー膜系は、例えばACインピーダンスを用いて測定して、高い伝導性のレベルを示し得、すべての研究した膜において室温にて10−2S/cmの範囲内である。
本発明はまた、本明細書中に開示するポリマー電解質膜を含む燃料電池膜電極組立部を包含する。検討したように、高いドーピングレベルを、好ましいシステムにより提供することができ、これには、例えばイオン伝導体での150〜300重量パーセントのドーピングレベルが含まれる。
【0024】
好ましい膜電極組立部には、アノード−膜−カソードサンドイッチを含む、本明細書中では膜電極組立部(MEA)と呼ぶ層状のサンドイッチ構造が含まれる。このサンドイッチ構造中の各々の電極は、別個の層を含み得る。これらの層は、(i)基板層、(ii)ガス拡散層および(iii)反応層を含み得る。個々の構成要素は、商業的に入手でき、これらは、例えば(i)基材層またはガス拡散層用の材料および(iii)反応層中の触媒である。本発明の好ましいMEA構造により、高い出力密度(例えば1.5barの圧力、170〜200℃にて、H2/空気を用いて、300〜500mW/cm2)が可能になり得る。この高い出力密度を、(a)ガス拡散中の孔形成剤および触媒含有反応層を用いること、(b)フッ素化されたイオン伝導類似体を、他の非揮発性酸類(例えばリン酸およびポリリン酸)と共に用いて、触媒含有層における酸素溶解度およびプロトン伝導性を高めること、および/または(c)カーボン紙もしくは布バッキング層の疎水性を選択して、特にカソード電極における一層良好な水管理を可能にすることの1つまたは2つ以上により、達成することができる。
【0025】
好ましい膜電極組立部を含む水素燃料電池は、150℃および−500mVの定電圧において、周囲圧にて500時間乾燥水素および酸素を用いて作動し得ることが、見出された。
【0026】
繰り返し出現する主鎖ピリジンおよび/またはテトラメチルビフェニル部分を含む芳香族ポリエーテル類をベースとするコポリマーおよびポリマーの一般式を、以下に述べる。
【化2】
式中、Xは、同一であるかまたは異なっており、不存在、アルキレン鎖または芳香族基、酸素または硫黄などの原子、およびカルボニルまたはスルホン基などの基である。アルキレン基は、1〜10個の炭素原子を有する短鎖または長鎖である。
【0027】
芳香族単位は、5員環または6員環の芳香環または芳香族複素環である。芳香族基は、1〜4個の置換基により置換されていてもよい。好ましい置換基は、水素、ハロゲン原子、アミノ基、水酸基、シアノ基またはアルキル基、例えばメチルもしくはエチル基であってもよい;
【0028】
Yは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位である。
本発明の目的のために、繰り返し出現するピリジン単位を含む芳香族ポリエーテル類が、好ましい。さらに具体的に、膜は、構造1のポリマーおよび種々の組成における構造2のコポリマーまたはコポリマー2自体で構成されている。
【化3】
【0029】
特定の観点において、調製した膜は、高温電解質として用いるのに必要な特性を1つまたは2つ以上兼ね備える。これらは、高いTg値、高い熱安定性および酸化安定性、強酸での高いドーピング能力および高いイオン伝導率を有する。
【0030】
ポリマー1およびコポリマー2を、刊行された手順(Chemistry of Materials 2003, 15(46), 5044, Macromolecular Rapid Communications, 2005, 26, 1724)に従って合成した。ポリマー1は、260℃までの高いガラス転移温度およびポリマーの分子量を有する一方、コポリマー2は、コポリマー組成および分子量に依存して、250〜280℃の範囲内のガラス転移温度を有する。
【0031】
95−5〜0−100のブレンド組成におけるポリマー1とコポリマー2とのブレンドを、それぞれのポリマーのジメチルアセトアミド溶液を適切な比率で混合することにより、調製した。得られた溶液を、室温で3時間撹拌し、次にガラス皿上に流延させた。溶媒を、オーブン中で70〜120℃にて24時間蒸発させた。膜を、蒸留水で洗浄し、真空下で170℃にて72時間乾燥した。ブレンドの混和性挙動を、単一のガラス転移基準を用いて、動的機械的分析により試験した。試験したブレンドは、混和性であると見出された。
【0032】
例を、50/50ポリマー1/コポリマー2ブレンドについて図1に示し、ここで単一のTgが、このポリマー対の混和性を示す純粋なポリマーTgの間の温度において観察される。ブレンドおよび純粋な膜を、フェントンの試験を用いて、これらの酸化安定性に関して試験した。フェントンの試験は、膜がH2O2および第一鉄イオンにより作成された強度に酸化的な環境の下に置かれる加速試験である。膜はすべて、H2O2での処理の後にこれらの機械的完全性および柔軟性を保持し、これは、動的機械的分析により証明される通りである(図2)。さらに、H2O2で処理した後のブレンドの熱重量分析により、ブレンドの熱安定性における変化はないことが明らかになり、これは、図3に示す通りである。
【0033】
膜の組成に依存して、種々の温度にて、および種々のドーピング時間にわたり、膜にリン酸をドープさせた。コポリマー2で構成された膜のドーピング挙動の例を、図4に示す。ドーピング温度が上昇するに伴って、リン酸ドーピングレベルもまた増大し、一層高いドーピング時間について水平状態の値に達する。100重量%と300重量%との間のリン酸のドーピングレベルが望ましく、最も好ましくは180〜250重量%の酸吸収を、用いた。前述の程度においてドープされた膜はすべて、1*10−2S/cmの伝導率を示した。伝導率の温度依存性の例を、図5に示す。
【0034】
本発明者らが、本発明に記載したように新規なポリマー電解質を用いて、前述の改善を伴って膜電極組立部を履行するための方法を記載するのは、本発明である。膜電極組立部の履行は、(a)ガス拡散および電流採集電極素子、(b)触媒、イオン伝導要素を架橋剤と共に含む、新たに配合した反応層成分、ならびに(c)増大したCO許容値および酸素還元反応活性のためのPt合金電解触媒の選択を含む。
【0035】
ガス拡散電極素子
種々の材料を、電極素子として用いることができる。例えば、電気伝導性基材を、予めTFEをベースとする溶液(DuPont, USA)を用いてウェットプルーフした(wet-proofed)織った炭素布(例えば東レ繊維T−300)または紙(例えば東レTGP−H−120)の組み合わせから、好適に選択することができる。この炭素基板の典型的な多孔度は、75〜85%である。ウェットプルーフィングを、固定持続期間(30秒〜5分)にわたる浸漬塗布、続いて流動空気中での乾燥の組み合わせを用いて、達成する。このようなウェットプルーフされた基材を、選択カーボンブラックおよびPTFE懸濁液を含むガス拡散層で被覆する。この層において用いるカーボンブラックの選択は、Ketjenブラックから乱層カーボン(turbostratic carbon)、例えば250〜1000m2/gmの範囲内の典型的な表面積を有するVulcan XC-72 (Cabot Corp, USA)までの範囲にわたっていた。堆積は、Euclidコーティングシステム(Bay City, MI, USA)からのGravure塗工機などの塗布機械により付与される。
【0036】
カーボンブラックおよびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)水性懸濁液(例えばDupont TFE-30, Dupont USA)の組成物を含むスラリーを、カーボン紙または布基材上に、塗布機械の補助により、設定された厚さに塗布する。50〜500ミクロンの典型的な厚さを用いる。また、孔形成剤を用いて、この拡散層を炭素伝導性紙または布基材上に作成することが、述べられる。炭酸塩および重炭酸塩(例えばアンモニウムおよびナトリウム類似体)の種々の組み合わせからなる孔形成剤の注意深い制御により、反応帯域へのガスの接近の制御が得られる。これを、カーボンブラックおよびPTFE懸濁液を含むスラリー混合物中にこれらの剤を導入することにより、達成する。このようにして提供された典型的な多孔度は、アノードおよびカソード電極とは異なり、10〜90%の範囲内である。ガス拡散層を含む塗布した炭素基材を焼結して、成分の適切な結合を可能にした;これを、PTFEについてのガラス転移点よりも顕著に高い温度、通常100〜350℃の範囲内の温度に5〜30分間熱処理することを用いて、達成する。
【0037】
電解触媒およびイオン伝導成分を含む反応層の形成:
前述のガス拡散層の表面上に、炭素に担持された触媒、イオン伝導要素(例えばリン酸、ポリリン酸またはパーフルオロスルホン酸類似体)、孔形成剤および結合剤(例えばDupont, USAからのTFE−30分散体を用いたPTFE)を含む追加の層を、噴霧、圧延および/またはスクリーン印刷を含む種々の方法を用いて加える。
【0038】
典型的な段階は、先ずアノードまたはカソード電極に基づいて電解触媒を適切に選択することを含む。アノードについて、Ptを、他の遷移金属、例えばRu、Mo、Snと組み合わせて用いる。これは、一層低い電位でこれらの貴金属でない遷移金属の上で酸化物を形成することにより刺激されて、燃料改質装置(天然ガス、メタノールなどの蒸気改良)の出力供給における典型的な毒であるCOまたは他のC1部分の酸化を可能にする。電解触媒の選択は、Ptおよび、合金の、または混合酸化物の形態のいずれかの第2の遷移元素を含んでいた。選択は、燃料供給原料の選択に基づく用途に依存する。電解触媒は、ナノ構造の金属合金またはカーボンブラック上の混合酸化物分散体の形態である(乱層炭素支持材料、通常Ketjenブラックまたは同様の材料)。
【0039】
カソードにおいて、アニオン吸着および酸化物生成の影響を比較的受けない電解触媒が、好ましい。この場合において、合金化元素の選択は、入手可能な第1列の遷移元素、典型的にはNi、Co、Cr、Mn、Fe、V、Tiなど、の範囲にわたる。先の最近の研究により、これらの遷移元素のPtとの適切な合金化の結果、ほとんどの表面加工(表面仕事関数の低下)についてPtの非活性化がもたらされることが、示された(Mukerjee and Urian 2002; Teliska, Murthi et al. 2003; Murthi, Urian et al. 2004; Teliska, Murthi et al. 2005)。これにより、表面は、分子状酸素吸着およびその後の還元のために高度にありのままになる。リン酸をベースとするイオン伝導体についてのリン酸アニオンなどのアニオン吸着を低下させることは、増大した酸素還元動力学を可能にするために決定的である。
【0040】
合金の選択に加えて、単独で、または他のイオン伝導体とのブレンドとしてパーフルオロスルホン酸を用いることを用いて、酸素溶解度を高める。酸素溶解度が、リン酸をベースとする成分と比較して、これらのフッ素化類似体においては約8倍高いことは、十分知られている(Zhang, Ma et al. 2003)。選択された電解触媒は、商業的な製造供給元、例えばColumbian Chemicals (Marrietta, GA, USA)、Cabot Superior Micro-powders (Albuquerque, NM, USA)から得られる。炭素支持体上の触媒の典型的な重量比は、炭素上の金属の30〜60%である。
【0041】
第2の段階は、ポリマー基材(構造IおよびII)の可溶化形態、リン酸、ポリリン酸およびパーフルオロスルホン酸の類似体のブレンド、ならびに結合剤としてのPTFE(Dupont, USA)中のイオン伝導性要素を含む懸濁液中の電解触媒の組み合わせを用いるスラリーの調製を含む。さらに、炭酸塩類および重炭酸塩類の組み合わせをベースとする孔形成成分を、5〜10重量%の比率で加える。成分の比率は、0.3〜0.4mgのPtまたはPt合金/cm2の合計触媒負荷を可能にする各々の成分の選択の範囲内で、10〜30%の変動を有する。スラリーの適用を、圧延、スクリーン印刷もしくは噴霧を組み合わせて、または単独で適用することにより、達成する。
【0042】
反応層の形態でこのように達成された触媒の適用に、第3の段階が続き、これは、電極層を焼結させ、乾燥することを含む。この段階において、電極に、2段階プロセスを施し、これは、最初に160℃で30分間乾燥し、続いて150〜350℃の範囲内の温度にて、30分〜5時間の範囲内の時間にわたり焼結させることを含む。
【0043】
膜電極組立部の形成:
膜電極組立部の作成には、ダイスを用いることが必要であり、ここでアノード膜とカソード電極とのサンドイッチを、ガスケット材料、典型的にはポリイミドとポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Dupont, USA)との組み合わせの適切な配置中に、配置する。これに、液圧プレスを用いるホットプレスが続く。0.1〜10barの範囲内の圧力を、150〜250℃の範囲内の圧盤温度を用いて、典型的には10〜60分の範囲内の時間にわたり加える。このようにして作成した膜電極組立部は、75〜250マイクロメートルの範囲内の厚さを有する。これにより、膜電極組立部の最終的な組立部が得られる。
【0044】
背景として、膜電極組立部を作成するための従来の方法は、以下のことを含んでいた:(i)直接的な膜触媒化、(ii)被覆した電極基材の触媒化、(iii)均一のプロトン輸送のために結合している膜電極を生じる必要性、(iv)反応体ガス(特に酸素)の有効な溶解度、(v)電極構造内の有効なガス輸送のための孔形成剤の使用。これは、持続的な一層高い出力密度レベルにおいて物体輸送および燃料電池を作動させる能力を高める特定の目的を伴う。
【0045】
以下にページ順に整列させるこれらの従来技術の意味において、本出願において列挙した本発明者らの特許請求の範囲は、イオン性成分、即ちリン酸またはパーフルオロ化されたスルホン酸類(PFSA)の幅広い分類の下のその改善された類似体の溶解を防止し、最小化する一方、溶解した反応体、プロトンおよび電子の界面輸送の一層有効な制御を提供することが、本発明者らの論点である。
【0046】
従来技術の文脈において、膜の直接的な触媒化は、最も特にパーフルオロ化されたスルホン酸タイプの、主に水性ベースのポリマー電解質に関する種々の特許明細書および科学文献に記載されている。技術の現状において、現在の方法および従来の努力は、秩序立って再現性(バッチ対連続的)および費用を保持する大量の製造可能性に対するこの点について、開発を解釈する能力を伴って調節しなければならない。用いる堆積方法に依存して、貴金属負荷を低下させる方向の方法を、4つの広いカテゴリーに分類することができる。(i)炭素で担持された電解触媒での薄膜形成、(ii)貴金属(PtおよびPt合金)のパルス電着、(iii)スパッタ堆積、(iv)パルスレーザー堆積ならびに(v)イオンビーム蒸着。すべてのこれらの努力における主要な目的が界面における電荷移動効率を改善することにある一方、これらの方法のいくつかが反応帯域においてイオン、電子および溶解した反応体の効果的な移動を可能にする一層良好な界面接触を提供する一方、他の方法がさらに電解触媒表面(例えばスパッタリング、電着または他の堆積方法によって提供されるもの)の改質をもたらすことに注目することは、重要である。
【0047】
慣用の炭素で担持された電解触媒と関連した「薄膜」方法を用いる4つの広いカテゴリーの第1のものにおいて、いくつかの変法が報告されており、これらには、(a)電解触媒層を、PTFE空白箇所上に流延し、次に膜上にデカルするいわゆる「デカル」方法(Wilson and Gottesfeld 1992; Chun, Kim et al. 1998)が含まれる。あるいはまた、Nafion(登録商標)溶液、水、グリセロールおよび電解触媒を含む「インク」を、膜上に直接塗布する(Na+形態で)(Wilson and Gottesfeld 1992)。これらの触媒で被覆された膜を、その後乾燥し(真空下、160℃)、イオン交換して、H+形態とする(Wilson and Gottesfeld 1992)。この方法に対する改変は、溶媒および熱処理の選択(Qi and Kaufman 2003; Xiong and Manthiram 2005)ならびに異なる微細構造を有する炭素担体の選択(Uchida, Fukuoka et al. 1998)に対する変法と共に、報告されている。
【0048】
「薄膜」方法に対する他の変法もまた、報告されている。例えば、イオノマーブレンド(Figueroa 2005)、インク配合物(Yamafuku, Totsuka et al. 2004)、噴霧技術(Mosdale, Wakizoe et al. 1994; Kumar and Parthasarathy 1998)、孔形成剤(Shao, Yi et al. 2000)および種々のイオン交換プロセス(Tsumura, Hitomi et al. 2003)における変法を用いるものである。その核心部において、この方法は、膜から離れて電極構造にさらに反応帯域を拡張することを当てにしており、これにより電荷移動のために一層多くの三次元帯域が得られる。これにより、上記で報告した変法のほとんどにより、電解触媒の利用を改善する必要によって刺激されるこの「反応層」中で、イオン、電子ならびに溶解した反応体および生成物の改善された輸送が可能になる。Pt合金電解触媒を用いることと関連するこれらの試行により、PEM燃料電池技術における当該分野の現況の大部分が形成された。この方法の制限の中に、Pt粒径(炭素上の負荷は40%を超える)の制御、大規模な生産と費用(関係するいくつかの複雑なプロセスおよび/または工程のために)における堆積の均一性に関する問題がある。
【0049】
一層高い電解触媒利用を可能にするための代替の方法は、パルス電着を用いて試行された。Taylor et al., (Taylor, Anderson et al. 1992)、この方法を報告した最初の一は、電極表面上でイオン性および電子的接触の領域で電着を可能にする炭素担体上に薄いNafion(登録商標)フィルムを通してこれらの拡散を当てにするPt塩溶液を用いて、パルス電着を用いた。Taylor et al.,によるこの方法に関する最近の概説を参照。これには、触媒金属のパルス電着に対する種々の方法が記載されている(Taylor and Inman 2000)。
【0050】
原則として、この方法は、一層効果的な電解触媒利用を伴うが、上記の「薄膜」方法に類似している。その理由は、電解触媒の堆積が理論的に、イオン性および電子的経路について最も効果的な接触帯域において発生するからである。この方法に対する改善は、例えばAntoine and Durand (Antoine and Durand 2001)により、およびPopov et al., (Popov 2004)により報告されている。パルスアルゴリズムおよび電池設計の進展により、酸素還元についての高効率要因および塊運動を伴う狭い粒度範囲(2〜4nm)が可能になった。魅力的であるが、大規模製造のためのこの方法の拡張可能性について、懸念がある。
【0051】
炭素ガス拡散媒体上の金属のスパッタ堆積は、他の代替的な方法である。しかしここで、界面反応帯域は、膜との界面における電極の前面において一層多い。この場合における最初の方法は、従来のガス拡散電極を含む普通のPt/Cの最上部上に、スパッタ堆積の層を配置することであった。このような方法(Mukerjee, Srinivasan et al. 1993)は、膜のすぐ近くで界面反応帯域の一部を移動させることにより、性能における向上を示した。近年では、Hirano et al. (Hirano, Kim et al. 1997)は、ウェットプルーフされた触媒されていないガス拡散電極(0.01mgPt/cm2に等しい)の上でスパッタ堆積させたPtの薄い層による有望な結果を、商業的に得られる従来のPt/C(0.4mgPt/cm2)電極と比較して類似した結果と共に報告した。
【0052】
後に、Cha and Lee (Cha and Lee 1999)は、0.4mgPt/cm2を有する慣用の商業的な電極と同等の性能を示す、Nafion(登録商標)−カーボン−イソプロパノールインク(全体の負荷は0.043mgPt/cm2に相当する)が散在するPtの複数のスパッタ層(5nmの層)を用いる方法を用いた。Huag et al. (Haug 2002)は、スパッタした電極に対する基材の効果を研究した。
【0053】
さらに、O’Hare et al.は、スパッタ層の厚さの研究に関して、厚さ10nmの層で最良の結果を報告した。さらに、Witham et al. (Witham, Chun et al. 2000; Witham, Valdez et al. 2001)により、直接メタノール型燃料電池(DMFC)に適用されて、スパッタ堆積を用いて顕著な向上がなされ、ここで、支持されていないPtRu触媒を含む電極と比較して、DMFC性能における数倍の増強が報告された。260〜380mA/cm2の電流密度における2300mW/mgの触媒の利用が、報告された(Witham, Chun et al. 2000; Witham, Valdez et al. 2001)。スパッタリング手法により安価な直接的な堆積方法が得られる一方、主要な欠点は耐久性である。ほとんどの場合において、堆積は、基材への比較的乏しい接着を有し、負荷および温度の可変的な条件の下で、溶解および堆積物の焼結の一層大きい可能性がある。
【0054】
パルスレーザー堆積を用いる、直接の堆積を扱う代替の方法が最近報告された(Cunningham, Irissou et al. 2003)。PEMFCにおいて0.017mgPt/cm2の負荷で優れた性能が報告されたが、これはアノード電極を用いてのみであり、カソードを用いることは現在まで報告されていない。
【0055】
しかし、すべてのこれらの新規な直接的な堆積方法において、再現性に対する十分な制御を伴う大量製造可能性は、依然として最良でも不確実である。この点に関して、3M社により開発された方法は、特筆すべきであり、ここで、低い貴金属負荷を伴う電極の大量生産が報告されている(Debe, Pham et al. 1999; Debe, Poirier et al. 1999)。ここにおいては、一連の真空蒸着段階は、イオノマー−膜界面中に包埋されている炭素小繊維を含むナノ構造貴金属を生じる溶媒およびカーボンブラックの適切な選択を伴う(Debe, Haugen et al. 1999; Debe, Larson et al. 1999)。
【0056】
代替法は、イオンビーム技術を用いることであり、ここで、薄膜真空蒸着(電子ビーム)プロセスと同時に発生する低エネルギーイオン衝撃の利益が、高密度、接着性かつ強固な堆積物を達成するために利用される(Hirvonen 2004)。この方法は、トライボロジー、腐食防止コーティング、超伝導緩衝層およびポリマーなどの温度感性基材上のコーティングを含む特定の適用領域のために、種々のプロトコルの発達と同様に薄膜成長の間、イオン/固体相互作用の両方の機構に関して、最近概説された(Hirvonen 2004)。突出部および中空構造を含む三次元構造を作成するこの方法の改変もまた、最近報告されている(Hoshino, Watanabe et al. 2003)。大電流イオンビーム用途のための二重アノードイオン源を用いることもまた、最近報告され(Kotov 2004)、ここで、大量生産環境についての利益が討議されている。
【0057】
この態様において、本発明者らは、イオン伝導要素(例えばリン酸、ポリリン酸およびパーフルオロスルホン酸の類似体)を吸収したポリマー電解質の界面において触媒利用を改善して、一層高い電力密度(即ち0.5V対RHEにおける400mW/cm2、170〜180℃、H2/空気)を可能にするようにする方法を記載する。さらに、この改善された出力密度が、0.5〜1.0mg/cm2の範囲内にある技術の現状と比較して低いPt負荷(0.3〜0.4mg/cm2)で達成され、これにより一層良好な重量計のエネルギー密度が提供されると述べられる。この態様のさらなる顕示は、反応層(電極と膜との間の界面における触媒含有帯域)内でイオン伝導要素(例えばリン酸、ポリリン酸およびパーフルオロスルホン酸の類似体)を保持する改善された能力である。これは、特に一層良好な許容値と同様に長期間保持された出力密度の観点から、負荷と温度サイクリング(特に凝縮帯域の下方への移行)との両方まで重要である。
【0058】
以下の非限定的例は、本発明を例示する。本明細書中で述べたすべての文献を、参照により本明細書中に完全に導入する。
【0059】
例1
0.5gのコポリマー2を、15mlのジメチルアセトアミドに、室温にて溶解した。この溶液を、ガラス綿を介して濾過し、直径95mmのガラス皿中に注入した。溶媒を、70℃にて24時間にわたりゆっくりと蒸発させ、膜を、水で洗浄し、170℃にて48時間にわたり真空下で乾燥した。膜を、85重量%のリン酸中に100℃にて10時間浸漬して、210重量%のドーピングレベルに到達させた。
【0060】
例2
0.5gのポリマー1を、10mlのクロロホルムに溶解し、また0.5gのコポリマー2を、10mlのクロロホルムに室温にて溶解した。2種の溶液を混合し、室温で3時間撹拌した。溶液を、ガラス綿を介して濾過し、直径100mmのガラス皿中に注入した。溶媒を、室温にて24時間にわたりゆっくりと蒸発させ、膜を、水で洗浄し、90℃にて48時間にわたり真空下で乾燥した。膜を、85重量%のリン酸中に80℃にて2時間浸漬して、240重量%のドーピングレベルに到達させた。
【0061】
例3
0.25gのポリマー1を、5mlのクロロホルムに溶解し、また0.75gのコポリマー2を、15mlのクロロホルムに室温にて溶解した。2種の溶液を混合し、室温で3時間撹拌した。溶液を、ガラス綿を介して濾過し、直径100mmのガラス皿中に注入した。溶媒を、室温にて24時間にわたりゆっくりと蒸発させ、膜を、水で洗浄し、90℃にて48時間にわたり真空下で乾燥した。膜を、85重量%のリン酸中に100℃にて2時間浸漬して、250重量%のドーピングレベルに到達させた。
【0062】
例4
カーボン紙(東レTGP H−120)を、最初にTFE−30分散体(Dupont, USA)中に浸漬することにより、ウェットプルーフした。このために、0.6〜1.5mg/cm2の典型的な負荷を用いた。ガス拡散層を、250m2/gmの表面積を有するKetjenブラック(Engelhard, USA)、TFE−30分散体(Dupont, USA) 、炭酸アンモニウムをそれぞれ60:30:10%の比率で含むスラリーを用いて設けた。このスラリーを、十分に撹拌した後に、50〜100マイクロメートルの厚さを提供する圧延機を用いて、ウェットプルーフしたカーボン紙上に圧延した(Euclidコーティングシステム(Bay City, MI, USA)からのGravureコーター)。次に、このようにして得られたガス拡散層を、空気中で十分な排気を伴うマッフル炉を用いて、100〜200℃の範囲内の温度にて10〜15時間焼結した。
【0063】
次に、反応層を、個々のアノードおよびカソード電解触媒の選択を用いて堆積させた。このために、別個のスラリーを調製し、これは、電解触媒、結合剤(TFE-30、Dupont, USAからの分散体)、重炭酸アンモニウム、ならびにポリマー電解質(構造IおよびII、単独または組み合わせた形態のいずれか)および揮発性酸と非揮発性酸との両方(即ち、リン酸との組み合わせでのポリフッ素化されたスルホン酸、PFSA)の可溶化形態の配合物を1:1〜1:5の範囲内の比率で含むものであった。このスラリーを、電極のガス拡散側上に圧延して、個々のアノードおよびカソード電極を塗布機械(Euclidコーティングシステム(Bay City, MI, USA)からのGravureコーター)の補助により、上記と同一の手順を用いて作成した。さらに、カソード電極において用いられる反応層はまた、5重量%の炭酸アンモニウムを含んで、孔形成を付与した。
【0064】
次に、先の例に記載した構造IおよびIIの組み合わせを有する酸がドープされたブレンドされたポリマー膜を用いて、膜電極組立部を作成した。このために、組み立てられたダイスをTeflon (Dupont, USA)と共に用い、ポリイミドガスケットを単一の電池における適切な圧縮および密閉のために用いた。用いたホットプレス条件は、25分にわたり150〜250℃および10barであった。
【0065】
このようにして作成された膜電極組立部を、電流ブースター(10A)と共に、ポテンシオスタット(Autolab PGSTAT-30)の補助により、5cm2の単一の電池(Fuel Cell technologies, Albuquerque, NM, USA)において試験した。分極の測定を、170〜200℃、1.5bar、H2/空気(2:2化学量論的流れ)にて行った。定常状態電流をまた、0.5V対RHEの一定の電位にて、1000時間までの安定性研究についてモニタリングした。
【0066】
例5
前述のように、組立部を、2×2cm2の単一の電池中に設置した。電流対電池電圧の曲線を、電池性能が定常状態に達した後に、各々の温度にて測定した。乾燥水素および酸素を、大気圧下で供給した。図6A)は、150〜170℃の温度におけるI−Vプロットを示す。170℃において、630mA/cm2の電流密度が、500mVの電池電圧において得られた。図6(B)〜6(D)は、H2/O2およびH2/空気の下でのIVプロットおよび性能に対するCO影響を示す。
【0067】
例6:安定性試験
予備的な安定性試験を、周囲圧にて乾燥水素および酸素を用いて、−500mVの定電圧および150℃の電池温度にて、5×5cmの単一の電池上でコポリマー2膜について行った(図7(A))。MEAを最初に起動させた後、480mA/cm2の定常的な電流密度が、650時間にわたり達成された。安定性試験の完了まで、MEA劣化は観察されなかった。図7(B)は、温度サイクリング試験を示し、ここで、連続的なシャットオフおよびターンオンにより、初期の高性能に影響は及ばない。
【0068】
引用文献
以下の文献を、上記で参照した。
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2006年9月11日出願の米国仮出願第60/843,801号についての優先権およびこの利益を請求し、この内容全体を参照により本出願中に導入する。
【0002】
背景
1.発明の分野
本発明は、ピリジンおよび/またはテトラメチルビフェニル部分を含む新規なポリマー材料に関する。本発明の好ましいポリマー材料は、高いガラス転移温度(例えば>200℃、例えば280℃まで)、高い熱安定性および酸化安定性(例えば>300℃または400℃、例えば450℃まで)を示し得、例えばリン酸でのドーピングは好ましいシステムにおいて高い酸吸収をもたらし得る。
【0003】
従来技術での材料の特徴づけに続いて、膜・電極一体構造が、これらの燃料電池性能を研究するために構築された。調製されたMEAは、単一の電池において170℃までの温度にて試験された。システムの長期間安定性は、−500mVの定電圧における1000時間にわたる電流出力を測定することにより、研究された。
【背景技術】
【0004】
2.背景
90℃にて作動するポリマー電解質膜燃料電池(PEMFC)は、現在固定物および自動車用途において用いるための最良の候補である。現在まで、Nafionは、ほぼ専らポリマー電解質として用いられている。しかし、電池作動温度を100℃より低く限定する一方、この伝導性は、このように供給ガスの加湿を要求している水の存在に依存する。当該温度範囲において、一酸化炭素などの不純物が水素中に存在することにより、電解触媒に対して有害な影響が及ぶ。80℃の典型的な作動温度用に新たな電解触媒が開発されても、50〜100ppmの一酸化炭素により、触媒が失活し得る。加湿したガスに対する必要性および高純度の水素の要求により、作業費は十分増大する。
【0005】
150℃より高い温度における燃料電池の作動により、増大した触媒活性、燃料電池の流れにおける不純物による毒作用に対するアノード触媒の低下した影響の受けやすさ、慣用のPEM燃料電池よりも容易な温度管理などの特定の利点が得られる。高温電解質として用いるためのポリマーについての基本的な必要条件は、熱安定性および酸化安定性、優れた機械的特性、これと組み合わせて強酸でのドーピングの後の高いプロトン伝導性である。十分確立された高温ポリマー電解質であるポリベンズイミダゾールに加えて、上記の要件を満たす数種の新規なポリマー材料の開発に対する顕著な努力がある。
【0006】
PBIと熱可塑性エラストマー(Macromolecules 2000, 33, 7609, WO特許01/18894 A2)とから構成されるポリマーブレンドを用いて、PBIの酸ドーピング能力を熱可塑性エラストマーの別格の機械的特性と組み合わせることにより、PBIの機械的特性を改善するための種々の試行が、なされた。さらに、PBIと、主鎖中にピリジン単位を含む芳香族ポリエーテルコポリマーとのブレンドもまた調製され、優れた機械的特性および優れた酸化安定性を有する容易にドーピングされた膜が得られた(Journal of the Membrane Science 2003, 252, 115)。150℃よりも高い温度にて作動する燃料電池における用途のために望ましい特性をすべて兼ね備える、低価格のポリマー系を開発するためのある努力もまた、なされた。
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明者らはここで、1)1つもしくは2つ以上のテトラメチルビフェニル基または2)1つもしくは2つ以上の主鎖ピリジン単位を含む、1種または2種以上の芳香族ポリエーテルポリマーを含む新規なポリマー材料を提供する。本発明のポリマーは、燃料電池膜材料として特に有用である。
【0008】
本発明の特に好ましいポリマーは、以下の式(I)および/または(II):
【化1】
これらの式中、各々のXは、独立して、化学結合、随意に置換されたアルキレン、随意に置換された芳香族基、ヘテロ結合(O、SもしくはNH)、カルボキシルまたはスルホンであり;
各々のYは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位であり;
nは、正の整数である、
の構造を含み得る。
【0009】
本発明の好適なポリマー材料は、ブロック、ランダム、周期的および/または交互ポリマーの形態での1種または2種以上のポリマーを含んでいてもよい。
特定の態様において、ポリマーの混合物(例えば燃料電池膜として存在する)、即ち、2種または3種以上の別個のポリマーのブレンド、例えば上記の式(II)で表される構造を有する第2のポリマーとブレンドされた上記の式(I)で表される構造を有する第1のポリマーを提供する。
【0010】
本発明のポリマーを、1種または2種以上の芳香族二フッ化物類を含む物質の反応により、好適に提供することができる。
燃料電池の用途のために、本明細書中に開示する1種または2種以上のポリマーは、1種または2種以上のイオン伝導体、特に1種または2種以上の酸類、例えば硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、ヘテロポリ酸類、アンチモン酸、ホスファトアンチモン酸(phosphatooantimonic acid)およびこれらの組み合わせとの混合物(ドープされた)で存在し得る。リン酸は、好ましいドーピング剤であり得る。
【0011】
本発明の特に好ましいポリマーに、このようなイオン伝導体を、高いレベルでドープさせることができ、例えばここで、1種または2種以上のポリマー(燃料電池膜の形態であり得る):1種または2種以上のイオン伝導体(例えば1種または2種以上の酸類)の重量比は、100%以上、150%以上、200重量%以上、または250もしくは300重量%以上である。
【0012】
本発明はまた、本明細書中に開示した1種または2種以上のポリマーを含む燃料電池組立部または燃料電池を包含する。好適な燃料電池は、アノード−膜−カソードサンドイッチの膜電極組立部を含む。例えば、ここで、サンドイッチ構造中の各々の電極は、(i)基材層、(ii)ガス拡散層および(iii)反応層を含む別個の層を含む。
本発明の好ましい燃料電池は、水素をベースとする系を含む。
本発明の他の観点を、以下に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ポリマー1(▲)、コポリマー2(■)およびポリマー1/コポリマー2 50/50(○)の蓄電(E’)および損失(E”)係数の温度依存性を示す図である。
【図2】図2は、H2O2で処理した後のコポリマー2(■)、ポリマー1/コポリマー2 25/75ブレンド(○)およびポリマー1/コポリマー2 50/50ブレンド(●)の蓄電(E’)および損失(E”)係数の温度依存性を示す図である。
【0014】
【図3】図3は、H2O2で処理した後のポリマー1/コポリマー2 25/75ブレンド(○)およびポリマー1/コポリマー2 50/50ブレンド(●)のTGAサーモグラムである。
【図4】図4は、25℃(○)、65℃(●)、80℃(□)および100℃(■)におけるコポリマー2のドーピングレベル(重量%)の時間依存性を示す図である。
【図5】図5は、190重量%のドーピングレベルを有するコポリマー2の70%相対湿度における伝導率の温度依存性を示す図である。
【0015】
【図6A】図6(A)は、H2/O2下での150℃、160℃および170℃におけるコポリマー2のI−V曲線である。
【図6B】図6(B)は、150℃におけるH2/O2(■)、H2(1%CO)/O2(●)、H2(2%CO)/O2(▲)についてのコポリマー2のI−V曲線である。
【図6C】図6(C)は、150℃におけるH2/空気(■)、H2(1%CO)/空気(●)、H2(2%CO)/空気(▲)についてのコポリマー2のI−V曲線である。
【図6D】図6(D)は、160℃におけるH2/空気(■)、H2(1%CO)/空気(●)、H2(2%CO)/空気(▲)についてのTPS系のI−V曲線である。
【0016】
【図7A】図7(A)は、コポリマー2膜の試験全体についての、一定の電池電圧である−500mVにおいて作動する負荷においての、時間の関数としての電流密度を示す図である。電池温度、150℃。酸素:70cc/分、周囲圧。水素:80cc/分、周囲圧。
【図7B】図7(B)は、コポリマー2の温度サイクリング(150℃−40℃−150℃)を示す図である。印加電圧:0.5V。
【0017】
詳細な説明
本発明は、ピリジンおよび/またはテトラメチルビフェニル部分を有する純粋なコポリマーまたはポリマーブレンドのいずれかで構成されている新規なポリマー材料の開発、特徴づけおよび燃料電池用途に関する。
【0018】
本発明のポリマーを、種々の方法により好適に調製することができ、これには、芳香族求核置換が含まれる(R. Viswanathan, B.C. Johnson, J.E.Mc Grath, Polymer 1984, 25, 1827)、(W.L. Harisson, F. Wang, J.B. Mecham, V.A. Bhanu, M. Hill, Y.S. Kim, J.E. McGrath, J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 41, 2003, 2264)、M. J. Sumner, W.L. Harrison, R.M. Weyers, Y.S. Kim, J.E. McGrath, J.S. Riffle, A. Brink, M.H. Brink, J. Membr. Sci., 239, 2004, 119)、US005387629(1993)、EP1611182A2(2004)、WO0225764A1(2002)。
【0019】
好適には、本明細書中に開示したポリマーを、芳香族二フッ化物類、例えばビス−(4−フルオロフェニル)スルホン、デカフルオロビフェニル,4,4’ジフルオロベンゾフェノン、ビス(4フルオロフェニル)フェニルホスフィンオキシドのテトラメチルビフェニルジオール類および/またはピリジンをベースとするジオール類での芳香族求核置換により、合成することができる。
【0020】
本明細書中に開示する膜を、ポリマー溶液のフィルム流延により好適に調製することができる。さらに具体的に、本明細書中に開示する1種または2種以上のポリマーを、好適な溶媒、例えば極性非プロトン性溶媒、例えばN,N−ジメチルアセトアミド中に、室温で開示し、一方ブレンドの場合においては、対応するポリマー溶液の混合を適切な比率で行う。溶液を、ガラス皿中に注入することができ、溶媒を、例えばオーブン中で80〜100℃にて、例えば約24時間にわたり蒸発させる。得られた膜を、減圧下で、および好ましくは高温、例えば100〜170℃にて、真空下でさらに乾燥して、残留溶媒を除去することができる。ポリマーが300℃までの融点を示す場合には、溶融押出を、連続的膜調製のために用いることができる。
【0021】
好ましい観点において、このポリマーは、第一鉄イオンの存在下で80℃にて72時間、H2O2(3〜30%)で処理した後に維持された良好な機械的完全性により示されるように、高い酸化安定性を示し得る(フェントンの試験)。酸化安定性は、IRおよびラマン分光法を用いてさらに変化し得る。
【0022】
また好ましい観点において、上記で検討したように、ポリマー電解質膜に、例えば好適には(a)強酸類、例えば硫酸、リン酸、塩酸、硝酸およびこれらの組み合わせ、(b)フッ素化スルホン酸、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロエタン1,2ジスルホン酸、1,2,3,4パーフルオロブタンテトラスルホン酸、トリフルオロ酢酸およびこれらの組み合わせ、(c)H3PW12O40・nH2O(PWA)、H3PMo12O40・nH2O(PMoA)およびH4SiW12O40・nH2O(SiWA)を含む、一般式[PM12O40]+3を有するヘテロポリ酸類およびこれらの組み合わせ、(d)アンチモン酸およびホスファトアンチモン酸およびこれらの組み合わせ、をドープさせることができる。特に好まれる好ましいドーピング剤は、リン酸である。ポリマー膜は、200〜250重量%のドーピングレベルにおいてを含む高いレベルにてドープされている。
【0023】
本発明の好ましいポリマー膜系は、例えばACインピーダンスを用いて測定して、高い伝導性のレベルを示し得、すべての研究した膜において室温にて10−2S/cmの範囲内である。
本発明はまた、本明細書中に開示するポリマー電解質膜を含む燃料電池膜電極組立部を包含する。検討したように、高いドーピングレベルを、好ましいシステムにより提供することができ、これには、例えばイオン伝導体での150〜300重量パーセントのドーピングレベルが含まれる。
【0024】
好ましい膜電極組立部には、アノード−膜−カソードサンドイッチを含む、本明細書中では膜電極組立部(MEA)と呼ぶ層状のサンドイッチ構造が含まれる。このサンドイッチ構造中の各々の電極は、別個の層を含み得る。これらの層は、(i)基板層、(ii)ガス拡散層および(iii)反応層を含み得る。個々の構成要素は、商業的に入手でき、これらは、例えば(i)基材層またはガス拡散層用の材料および(iii)反応層中の触媒である。本発明の好ましいMEA構造により、高い出力密度(例えば1.5barの圧力、170〜200℃にて、H2/空気を用いて、300〜500mW/cm2)が可能になり得る。この高い出力密度を、(a)ガス拡散中の孔形成剤および触媒含有反応層を用いること、(b)フッ素化されたイオン伝導類似体を、他の非揮発性酸類(例えばリン酸およびポリリン酸)と共に用いて、触媒含有層における酸素溶解度およびプロトン伝導性を高めること、および/または(c)カーボン紙もしくは布バッキング層の疎水性を選択して、特にカソード電極における一層良好な水管理を可能にすることの1つまたは2つ以上により、達成することができる。
【0025】
好ましい膜電極組立部を含む水素燃料電池は、150℃および−500mVの定電圧において、周囲圧にて500時間乾燥水素および酸素を用いて作動し得ることが、見出された。
【0026】
繰り返し出現する主鎖ピリジンおよび/またはテトラメチルビフェニル部分を含む芳香族ポリエーテル類をベースとするコポリマーおよびポリマーの一般式を、以下に述べる。
【化2】
式中、Xは、同一であるかまたは異なっており、不存在、アルキレン鎖または芳香族基、酸素または硫黄などの原子、およびカルボニルまたはスルホン基などの基である。アルキレン基は、1〜10個の炭素原子を有する短鎖または長鎖である。
【0027】
芳香族単位は、5員環または6員環の芳香環または芳香族複素環である。芳香族基は、1〜4個の置換基により置換されていてもよい。好ましい置換基は、水素、ハロゲン原子、アミノ基、水酸基、シアノ基またはアルキル基、例えばメチルもしくはエチル基であってもよい;
【0028】
Yは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位である。
本発明の目的のために、繰り返し出現するピリジン単位を含む芳香族ポリエーテル類が、好ましい。さらに具体的に、膜は、構造1のポリマーおよび種々の組成における構造2のコポリマーまたはコポリマー2自体で構成されている。
【化3】
【0029】
特定の観点において、調製した膜は、高温電解質として用いるのに必要な特性を1つまたは2つ以上兼ね備える。これらは、高いTg値、高い熱安定性および酸化安定性、強酸での高いドーピング能力および高いイオン伝導率を有する。
【0030】
ポリマー1およびコポリマー2を、刊行された手順(Chemistry of Materials 2003, 15(46), 5044, Macromolecular Rapid Communications, 2005, 26, 1724)に従って合成した。ポリマー1は、260℃までの高いガラス転移温度およびポリマーの分子量を有する一方、コポリマー2は、コポリマー組成および分子量に依存して、250〜280℃の範囲内のガラス転移温度を有する。
【0031】
95−5〜0−100のブレンド組成におけるポリマー1とコポリマー2とのブレンドを、それぞれのポリマーのジメチルアセトアミド溶液を適切な比率で混合することにより、調製した。得られた溶液を、室温で3時間撹拌し、次にガラス皿上に流延させた。溶媒を、オーブン中で70〜120℃にて24時間蒸発させた。膜を、蒸留水で洗浄し、真空下で170℃にて72時間乾燥した。ブレンドの混和性挙動を、単一のガラス転移基準を用いて、動的機械的分析により試験した。試験したブレンドは、混和性であると見出された。
【0032】
例を、50/50ポリマー1/コポリマー2ブレンドについて図1に示し、ここで単一のTgが、このポリマー対の混和性を示す純粋なポリマーTgの間の温度において観察される。ブレンドおよび純粋な膜を、フェントンの試験を用いて、これらの酸化安定性に関して試験した。フェントンの試験は、膜がH2O2および第一鉄イオンにより作成された強度に酸化的な環境の下に置かれる加速試験である。膜はすべて、H2O2での処理の後にこれらの機械的完全性および柔軟性を保持し、これは、動的機械的分析により証明される通りである(図2)。さらに、H2O2で処理した後のブレンドの熱重量分析により、ブレンドの熱安定性における変化はないことが明らかになり、これは、図3に示す通りである。
【0033】
膜の組成に依存して、種々の温度にて、および種々のドーピング時間にわたり、膜にリン酸をドープさせた。コポリマー2で構成された膜のドーピング挙動の例を、図4に示す。ドーピング温度が上昇するに伴って、リン酸ドーピングレベルもまた増大し、一層高いドーピング時間について水平状態の値に達する。100重量%と300重量%との間のリン酸のドーピングレベルが望ましく、最も好ましくは180〜250重量%の酸吸収を、用いた。前述の程度においてドープされた膜はすべて、1*10−2S/cmの伝導率を示した。伝導率の温度依存性の例を、図5に示す。
【0034】
本発明者らが、本発明に記載したように新規なポリマー電解質を用いて、前述の改善を伴って膜電極組立部を履行するための方法を記載するのは、本発明である。膜電極組立部の履行は、(a)ガス拡散および電流採集電極素子、(b)触媒、イオン伝導要素を架橋剤と共に含む、新たに配合した反応層成分、ならびに(c)増大したCO許容値および酸素還元反応活性のためのPt合金電解触媒の選択を含む。
【0035】
ガス拡散電極素子
種々の材料を、電極素子として用いることができる。例えば、電気伝導性基材を、予めTFEをベースとする溶液(DuPont, USA)を用いてウェットプルーフした(wet-proofed)織った炭素布(例えば東レ繊維T−300)または紙(例えば東レTGP−H−120)の組み合わせから、好適に選択することができる。この炭素基板の典型的な多孔度は、75〜85%である。ウェットプルーフィングを、固定持続期間(30秒〜5分)にわたる浸漬塗布、続いて流動空気中での乾燥の組み合わせを用いて、達成する。このようなウェットプルーフされた基材を、選択カーボンブラックおよびPTFE懸濁液を含むガス拡散層で被覆する。この層において用いるカーボンブラックの選択は、Ketjenブラックから乱層カーボン(turbostratic carbon)、例えば250〜1000m2/gmの範囲内の典型的な表面積を有するVulcan XC-72 (Cabot Corp, USA)までの範囲にわたっていた。堆積は、Euclidコーティングシステム(Bay City, MI, USA)からのGravure塗工機などの塗布機械により付与される。
【0036】
カーボンブラックおよびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)水性懸濁液(例えばDupont TFE-30, Dupont USA)の組成物を含むスラリーを、カーボン紙または布基材上に、塗布機械の補助により、設定された厚さに塗布する。50〜500ミクロンの典型的な厚さを用いる。また、孔形成剤を用いて、この拡散層を炭素伝導性紙または布基材上に作成することが、述べられる。炭酸塩および重炭酸塩(例えばアンモニウムおよびナトリウム類似体)の種々の組み合わせからなる孔形成剤の注意深い制御により、反応帯域へのガスの接近の制御が得られる。これを、カーボンブラックおよびPTFE懸濁液を含むスラリー混合物中にこれらの剤を導入することにより、達成する。このようにして提供された典型的な多孔度は、アノードおよびカソード電極とは異なり、10〜90%の範囲内である。ガス拡散層を含む塗布した炭素基材を焼結して、成分の適切な結合を可能にした;これを、PTFEについてのガラス転移点よりも顕著に高い温度、通常100〜350℃の範囲内の温度に5〜30分間熱処理することを用いて、達成する。
【0037】
電解触媒およびイオン伝導成分を含む反応層の形成:
前述のガス拡散層の表面上に、炭素に担持された触媒、イオン伝導要素(例えばリン酸、ポリリン酸またはパーフルオロスルホン酸類似体)、孔形成剤および結合剤(例えばDupont, USAからのTFE−30分散体を用いたPTFE)を含む追加の層を、噴霧、圧延および/またはスクリーン印刷を含む種々の方法を用いて加える。
【0038】
典型的な段階は、先ずアノードまたはカソード電極に基づいて電解触媒を適切に選択することを含む。アノードについて、Ptを、他の遷移金属、例えばRu、Mo、Snと組み合わせて用いる。これは、一層低い電位でこれらの貴金属でない遷移金属の上で酸化物を形成することにより刺激されて、燃料改質装置(天然ガス、メタノールなどの蒸気改良)の出力供給における典型的な毒であるCOまたは他のC1部分の酸化を可能にする。電解触媒の選択は、Ptおよび、合金の、または混合酸化物の形態のいずれかの第2の遷移元素を含んでいた。選択は、燃料供給原料の選択に基づく用途に依存する。電解触媒は、ナノ構造の金属合金またはカーボンブラック上の混合酸化物分散体の形態である(乱層炭素支持材料、通常Ketjenブラックまたは同様の材料)。
【0039】
カソードにおいて、アニオン吸着および酸化物生成の影響を比較的受けない電解触媒が、好ましい。この場合において、合金化元素の選択は、入手可能な第1列の遷移元素、典型的にはNi、Co、Cr、Mn、Fe、V、Tiなど、の範囲にわたる。先の最近の研究により、これらの遷移元素のPtとの適切な合金化の結果、ほとんどの表面加工(表面仕事関数の低下)についてPtの非活性化がもたらされることが、示された(Mukerjee and Urian 2002; Teliska, Murthi et al. 2003; Murthi, Urian et al. 2004; Teliska, Murthi et al. 2005)。これにより、表面は、分子状酸素吸着およびその後の還元のために高度にありのままになる。リン酸をベースとするイオン伝導体についてのリン酸アニオンなどのアニオン吸着を低下させることは、増大した酸素還元動力学を可能にするために決定的である。
【0040】
合金の選択に加えて、単独で、または他のイオン伝導体とのブレンドとしてパーフルオロスルホン酸を用いることを用いて、酸素溶解度を高める。酸素溶解度が、リン酸をベースとする成分と比較して、これらのフッ素化類似体においては約8倍高いことは、十分知られている(Zhang, Ma et al. 2003)。選択された電解触媒は、商業的な製造供給元、例えばColumbian Chemicals (Marrietta, GA, USA)、Cabot Superior Micro-powders (Albuquerque, NM, USA)から得られる。炭素支持体上の触媒の典型的な重量比は、炭素上の金属の30〜60%である。
【0041】
第2の段階は、ポリマー基材(構造IおよびII)の可溶化形態、リン酸、ポリリン酸およびパーフルオロスルホン酸の類似体のブレンド、ならびに結合剤としてのPTFE(Dupont, USA)中のイオン伝導性要素を含む懸濁液中の電解触媒の組み合わせを用いるスラリーの調製を含む。さらに、炭酸塩類および重炭酸塩類の組み合わせをベースとする孔形成成分を、5〜10重量%の比率で加える。成分の比率は、0.3〜0.4mgのPtまたはPt合金/cm2の合計触媒負荷を可能にする各々の成分の選択の範囲内で、10〜30%の変動を有する。スラリーの適用を、圧延、スクリーン印刷もしくは噴霧を組み合わせて、または単独で適用することにより、達成する。
【0042】
反応層の形態でこのように達成された触媒の適用に、第3の段階が続き、これは、電極層を焼結させ、乾燥することを含む。この段階において、電極に、2段階プロセスを施し、これは、最初に160℃で30分間乾燥し、続いて150〜350℃の範囲内の温度にて、30分〜5時間の範囲内の時間にわたり焼結させることを含む。
【0043】
膜電極組立部の形成:
膜電極組立部の作成には、ダイスを用いることが必要であり、ここでアノード膜とカソード電極とのサンドイッチを、ガスケット材料、典型的にはポリイミドとポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Dupont, USA)との組み合わせの適切な配置中に、配置する。これに、液圧プレスを用いるホットプレスが続く。0.1〜10barの範囲内の圧力を、150〜250℃の範囲内の圧盤温度を用いて、典型的には10〜60分の範囲内の時間にわたり加える。このようにして作成した膜電極組立部は、75〜250マイクロメートルの範囲内の厚さを有する。これにより、膜電極組立部の最終的な組立部が得られる。
【0044】
背景として、膜電極組立部を作成するための従来の方法は、以下のことを含んでいた:(i)直接的な膜触媒化、(ii)被覆した電極基材の触媒化、(iii)均一のプロトン輸送のために結合している膜電極を生じる必要性、(iv)反応体ガス(特に酸素)の有効な溶解度、(v)電極構造内の有効なガス輸送のための孔形成剤の使用。これは、持続的な一層高い出力密度レベルにおいて物体輸送および燃料電池を作動させる能力を高める特定の目的を伴う。
【0045】
以下にページ順に整列させるこれらの従来技術の意味において、本出願において列挙した本発明者らの特許請求の範囲は、イオン性成分、即ちリン酸またはパーフルオロ化されたスルホン酸類(PFSA)の幅広い分類の下のその改善された類似体の溶解を防止し、最小化する一方、溶解した反応体、プロトンおよび電子の界面輸送の一層有効な制御を提供することが、本発明者らの論点である。
【0046】
従来技術の文脈において、膜の直接的な触媒化は、最も特にパーフルオロ化されたスルホン酸タイプの、主に水性ベースのポリマー電解質に関する種々の特許明細書および科学文献に記載されている。技術の現状において、現在の方法および従来の努力は、秩序立って再現性(バッチ対連続的)および費用を保持する大量の製造可能性に対するこの点について、開発を解釈する能力を伴って調節しなければならない。用いる堆積方法に依存して、貴金属負荷を低下させる方向の方法を、4つの広いカテゴリーに分類することができる。(i)炭素で担持された電解触媒での薄膜形成、(ii)貴金属(PtおよびPt合金)のパルス電着、(iii)スパッタ堆積、(iv)パルスレーザー堆積ならびに(v)イオンビーム蒸着。すべてのこれらの努力における主要な目的が界面における電荷移動効率を改善することにある一方、これらの方法のいくつかが反応帯域においてイオン、電子および溶解した反応体の効果的な移動を可能にする一層良好な界面接触を提供する一方、他の方法がさらに電解触媒表面(例えばスパッタリング、電着または他の堆積方法によって提供されるもの)の改質をもたらすことに注目することは、重要である。
【0047】
慣用の炭素で担持された電解触媒と関連した「薄膜」方法を用いる4つの広いカテゴリーの第1のものにおいて、いくつかの変法が報告されており、これらには、(a)電解触媒層を、PTFE空白箇所上に流延し、次に膜上にデカルするいわゆる「デカル」方法(Wilson and Gottesfeld 1992; Chun, Kim et al. 1998)が含まれる。あるいはまた、Nafion(登録商標)溶液、水、グリセロールおよび電解触媒を含む「インク」を、膜上に直接塗布する(Na+形態で)(Wilson and Gottesfeld 1992)。これらの触媒で被覆された膜を、その後乾燥し(真空下、160℃)、イオン交換して、H+形態とする(Wilson and Gottesfeld 1992)。この方法に対する改変は、溶媒および熱処理の選択(Qi and Kaufman 2003; Xiong and Manthiram 2005)ならびに異なる微細構造を有する炭素担体の選択(Uchida, Fukuoka et al. 1998)に対する変法と共に、報告されている。
【0048】
「薄膜」方法に対する他の変法もまた、報告されている。例えば、イオノマーブレンド(Figueroa 2005)、インク配合物(Yamafuku, Totsuka et al. 2004)、噴霧技術(Mosdale, Wakizoe et al. 1994; Kumar and Parthasarathy 1998)、孔形成剤(Shao, Yi et al. 2000)および種々のイオン交換プロセス(Tsumura, Hitomi et al. 2003)における変法を用いるものである。その核心部において、この方法は、膜から離れて電極構造にさらに反応帯域を拡張することを当てにしており、これにより電荷移動のために一層多くの三次元帯域が得られる。これにより、上記で報告した変法のほとんどにより、電解触媒の利用を改善する必要によって刺激されるこの「反応層」中で、イオン、電子ならびに溶解した反応体および生成物の改善された輸送が可能になる。Pt合金電解触媒を用いることと関連するこれらの試行により、PEM燃料電池技術における当該分野の現況の大部分が形成された。この方法の制限の中に、Pt粒径(炭素上の負荷は40%を超える)の制御、大規模な生産と費用(関係するいくつかの複雑なプロセスおよび/または工程のために)における堆積の均一性に関する問題がある。
【0049】
一層高い電解触媒利用を可能にするための代替の方法は、パルス電着を用いて試行された。Taylor et al., (Taylor, Anderson et al. 1992)、この方法を報告した最初の一は、電極表面上でイオン性および電子的接触の領域で電着を可能にする炭素担体上に薄いNafion(登録商標)フィルムを通してこれらの拡散を当てにするPt塩溶液を用いて、パルス電着を用いた。Taylor et al.,によるこの方法に関する最近の概説を参照。これには、触媒金属のパルス電着に対する種々の方法が記載されている(Taylor and Inman 2000)。
【0050】
原則として、この方法は、一層効果的な電解触媒利用を伴うが、上記の「薄膜」方法に類似している。その理由は、電解触媒の堆積が理論的に、イオン性および電子的経路について最も効果的な接触帯域において発生するからである。この方法に対する改善は、例えばAntoine and Durand (Antoine and Durand 2001)により、およびPopov et al., (Popov 2004)により報告されている。パルスアルゴリズムおよび電池設計の進展により、酸素還元についての高効率要因および塊運動を伴う狭い粒度範囲(2〜4nm)が可能になった。魅力的であるが、大規模製造のためのこの方法の拡張可能性について、懸念がある。
【0051】
炭素ガス拡散媒体上の金属のスパッタ堆積は、他の代替的な方法である。しかしここで、界面反応帯域は、膜との界面における電極の前面において一層多い。この場合における最初の方法は、従来のガス拡散電極を含む普通のPt/Cの最上部上に、スパッタ堆積の層を配置することであった。このような方法(Mukerjee, Srinivasan et al. 1993)は、膜のすぐ近くで界面反応帯域の一部を移動させることにより、性能における向上を示した。近年では、Hirano et al. (Hirano, Kim et al. 1997)は、ウェットプルーフされた触媒されていないガス拡散電極(0.01mgPt/cm2に等しい)の上でスパッタ堆積させたPtの薄い層による有望な結果を、商業的に得られる従来のPt/C(0.4mgPt/cm2)電極と比較して類似した結果と共に報告した。
【0052】
後に、Cha and Lee (Cha and Lee 1999)は、0.4mgPt/cm2を有する慣用の商業的な電極と同等の性能を示す、Nafion(登録商標)−カーボン−イソプロパノールインク(全体の負荷は0.043mgPt/cm2に相当する)が散在するPtの複数のスパッタ層(5nmの層)を用いる方法を用いた。Huag et al. (Haug 2002)は、スパッタした電極に対する基材の効果を研究した。
【0053】
さらに、O’Hare et al.は、スパッタ層の厚さの研究に関して、厚さ10nmの層で最良の結果を報告した。さらに、Witham et al. (Witham, Chun et al. 2000; Witham, Valdez et al. 2001)により、直接メタノール型燃料電池(DMFC)に適用されて、スパッタ堆積を用いて顕著な向上がなされ、ここで、支持されていないPtRu触媒を含む電極と比較して、DMFC性能における数倍の増強が報告された。260〜380mA/cm2の電流密度における2300mW/mgの触媒の利用が、報告された(Witham, Chun et al. 2000; Witham, Valdez et al. 2001)。スパッタリング手法により安価な直接的な堆積方法が得られる一方、主要な欠点は耐久性である。ほとんどの場合において、堆積は、基材への比較的乏しい接着を有し、負荷および温度の可変的な条件の下で、溶解および堆積物の焼結の一層大きい可能性がある。
【0054】
パルスレーザー堆積を用いる、直接の堆積を扱う代替の方法が最近報告された(Cunningham, Irissou et al. 2003)。PEMFCにおいて0.017mgPt/cm2の負荷で優れた性能が報告されたが、これはアノード電極を用いてのみであり、カソードを用いることは現在まで報告されていない。
【0055】
しかし、すべてのこれらの新規な直接的な堆積方法において、再現性に対する十分な制御を伴う大量製造可能性は、依然として最良でも不確実である。この点に関して、3M社により開発された方法は、特筆すべきであり、ここで、低い貴金属負荷を伴う電極の大量生産が報告されている(Debe, Pham et al. 1999; Debe, Poirier et al. 1999)。ここにおいては、一連の真空蒸着段階は、イオノマー−膜界面中に包埋されている炭素小繊維を含むナノ構造貴金属を生じる溶媒およびカーボンブラックの適切な選択を伴う(Debe, Haugen et al. 1999; Debe, Larson et al. 1999)。
【0056】
代替法は、イオンビーム技術を用いることであり、ここで、薄膜真空蒸着(電子ビーム)プロセスと同時に発生する低エネルギーイオン衝撃の利益が、高密度、接着性かつ強固な堆積物を達成するために利用される(Hirvonen 2004)。この方法は、トライボロジー、腐食防止コーティング、超伝導緩衝層およびポリマーなどの温度感性基材上のコーティングを含む特定の適用領域のために、種々のプロトコルの発達と同様に薄膜成長の間、イオン/固体相互作用の両方の機構に関して、最近概説された(Hirvonen 2004)。突出部および中空構造を含む三次元構造を作成するこの方法の改変もまた、最近報告されている(Hoshino, Watanabe et al. 2003)。大電流イオンビーム用途のための二重アノードイオン源を用いることもまた、最近報告され(Kotov 2004)、ここで、大量生産環境についての利益が討議されている。
【0057】
この態様において、本発明者らは、イオン伝導要素(例えばリン酸、ポリリン酸およびパーフルオロスルホン酸の類似体)を吸収したポリマー電解質の界面において触媒利用を改善して、一層高い電力密度(即ち0.5V対RHEにおける400mW/cm2、170〜180℃、H2/空気)を可能にするようにする方法を記載する。さらに、この改善された出力密度が、0.5〜1.0mg/cm2の範囲内にある技術の現状と比較して低いPt負荷(0.3〜0.4mg/cm2)で達成され、これにより一層良好な重量計のエネルギー密度が提供されると述べられる。この態様のさらなる顕示は、反応層(電極と膜との間の界面における触媒含有帯域)内でイオン伝導要素(例えばリン酸、ポリリン酸およびパーフルオロスルホン酸の類似体)を保持する改善された能力である。これは、特に一層良好な許容値と同様に長期間保持された出力密度の観点から、負荷と温度サイクリング(特に凝縮帯域の下方への移行)との両方まで重要である。
【0058】
以下の非限定的例は、本発明を例示する。本明細書中で述べたすべての文献を、参照により本明細書中に完全に導入する。
【0059】
例1
0.5gのコポリマー2を、15mlのジメチルアセトアミドに、室温にて溶解した。この溶液を、ガラス綿を介して濾過し、直径95mmのガラス皿中に注入した。溶媒を、70℃にて24時間にわたりゆっくりと蒸発させ、膜を、水で洗浄し、170℃にて48時間にわたり真空下で乾燥した。膜を、85重量%のリン酸中に100℃にて10時間浸漬して、210重量%のドーピングレベルに到達させた。
【0060】
例2
0.5gのポリマー1を、10mlのクロロホルムに溶解し、また0.5gのコポリマー2を、10mlのクロロホルムに室温にて溶解した。2種の溶液を混合し、室温で3時間撹拌した。溶液を、ガラス綿を介して濾過し、直径100mmのガラス皿中に注入した。溶媒を、室温にて24時間にわたりゆっくりと蒸発させ、膜を、水で洗浄し、90℃にて48時間にわたり真空下で乾燥した。膜を、85重量%のリン酸中に80℃にて2時間浸漬して、240重量%のドーピングレベルに到達させた。
【0061】
例3
0.25gのポリマー1を、5mlのクロロホルムに溶解し、また0.75gのコポリマー2を、15mlのクロロホルムに室温にて溶解した。2種の溶液を混合し、室温で3時間撹拌した。溶液を、ガラス綿を介して濾過し、直径100mmのガラス皿中に注入した。溶媒を、室温にて24時間にわたりゆっくりと蒸発させ、膜を、水で洗浄し、90℃にて48時間にわたり真空下で乾燥した。膜を、85重量%のリン酸中に100℃にて2時間浸漬して、250重量%のドーピングレベルに到達させた。
【0062】
例4
カーボン紙(東レTGP H−120)を、最初にTFE−30分散体(Dupont, USA)中に浸漬することにより、ウェットプルーフした。このために、0.6〜1.5mg/cm2の典型的な負荷を用いた。ガス拡散層を、250m2/gmの表面積を有するKetjenブラック(Engelhard, USA)、TFE−30分散体(Dupont, USA) 、炭酸アンモニウムをそれぞれ60:30:10%の比率で含むスラリーを用いて設けた。このスラリーを、十分に撹拌した後に、50〜100マイクロメートルの厚さを提供する圧延機を用いて、ウェットプルーフしたカーボン紙上に圧延した(Euclidコーティングシステム(Bay City, MI, USA)からのGravureコーター)。次に、このようにして得られたガス拡散層を、空気中で十分な排気を伴うマッフル炉を用いて、100〜200℃の範囲内の温度にて10〜15時間焼結した。
【0063】
次に、反応層を、個々のアノードおよびカソード電解触媒の選択を用いて堆積させた。このために、別個のスラリーを調製し、これは、電解触媒、結合剤(TFE-30、Dupont, USAからの分散体)、重炭酸アンモニウム、ならびにポリマー電解質(構造IおよびII、単独または組み合わせた形態のいずれか)および揮発性酸と非揮発性酸との両方(即ち、リン酸との組み合わせでのポリフッ素化されたスルホン酸、PFSA)の可溶化形態の配合物を1:1〜1:5の範囲内の比率で含むものであった。このスラリーを、電極のガス拡散側上に圧延して、個々のアノードおよびカソード電極を塗布機械(Euclidコーティングシステム(Bay City, MI, USA)からのGravureコーター)の補助により、上記と同一の手順を用いて作成した。さらに、カソード電極において用いられる反応層はまた、5重量%の炭酸アンモニウムを含んで、孔形成を付与した。
【0064】
次に、先の例に記載した構造IおよびIIの組み合わせを有する酸がドープされたブレンドされたポリマー膜を用いて、膜電極組立部を作成した。このために、組み立てられたダイスをTeflon (Dupont, USA)と共に用い、ポリイミドガスケットを単一の電池における適切な圧縮および密閉のために用いた。用いたホットプレス条件は、25分にわたり150〜250℃および10barであった。
【0065】
このようにして作成された膜電極組立部を、電流ブースター(10A)と共に、ポテンシオスタット(Autolab PGSTAT-30)の補助により、5cm2の単一の電池(Fuel Cell technologies, Albuquerque, NM, USA)において試験した。分極の測定を、170〜200℃、1.5bar、H2/空気(2:2化学量論的流れ)にて行った。定常状態電流をまた、0.5V対RHEの一定の電位にて、1000時間までの安定性研究についてモニタリングした。
【0066】
例5
前述のように、組立部を、2×2cm2の単一の電池中に設置した。電流対電池電圧の曲線を、電池性能が定常状態に達した後に、各々の温度にて測定した。乾燥水素および酸素を、大気圧下で供給した。図6A)は、150〜170℃の温度におけるI−Vプロットを示す。170℃において、630mA/cm2の電流密度が、500mVの電池電圧において得られた。図6(B)〜6(D)は、H2/O2およびH2/空気の下でのIVプロットおよび性能に対するCO影響を示す。
【0067】
例6:安定性試験
予備的な安定性試験を、周囲圧にて乾燥水素および酸素を用いて、−500mVの定電圧および150℃の電池温度にて、5×5cmの単一の電池上でコポリマー2膜について行った(図7(A))。MEAを最初に起動させた後、480mA/cm2の定常的な電流密度が、650時間にわたり達成された。安定性試験の完了まで、MEA劣化は観察されなかった。図7(B)は、温度サイクリング試験を示し、ここで、連続的なシャットオフおよびターンオンにより、初期の高性能に影響は及ばない。
【0068】
引用文献
以下の文献を、上記で参照した。
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)1つもしくは2つ以上のテトラメチルビフェニル基または2)1つもしくは2つ以上の主鎖ピリジン単位を含む、1種または2種以上の芳香族ポリエーテルポリマーを含む、ポリマー材料。
【請求項2】
ポリマーが1つまたは2つ以上のテトラメチルビフェニル基を含む、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項3】
ポリマーが、以下の式(I):
【化1】
式中、各々のXは、独立して、化学結合、随意に置換されたアルキレン、随意に置換された芳香族基、ヘテロ結合(O、SもしくはNH)、カルボキシルまたはスルホンであり;
各々のYは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位であり;および
nは、正の整数である、
で表される構造を含む、請求項1または2に記載のポリマー材料。
【請求項4】
ポリマーが、以下の式(II):
【化2】
式中、各々のXは、独立して、化学結合、随意に置換されたアルキレン、随意に置換された芳香族基、ヘテロ結合(O、SもしくはNH)、カルボキシルまたはスルホンであり;
各々のYは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位であり;
nは、正の整数である、
で表される構造を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー材料。
【請求項5】
アルキレン基が、1〜10個の炭素原子を有し、芳香族基が、5員環または6員環の炭素環式アリールまたは芳香環もしくは芳香族複素環であり、これが随意に、1〜4個の部分、例えば水素、ハロゲン原子、アミノ基、水酸基、シアノ基またはアルキル基、例えばメチルもしくはエチル基により置換されていてもよい、請求項3または4に記載のポリマー。
【請求項6】
ブロック、ランダム、周期的および/または交互ポリマーの形態の1種または2種以上のポリマーを含む、請求項1〜5のいずれかに記載のポリマー。
【請求項7】
2種または3種以上の別個のポリマーを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー。
【請求項8】
式(I)で表される構造を有する第1のポリマー、および式(II)で表される構造を有する第2のポリマーを含む、請求項4に記載のポリマー。
【請求項9】
芳香族求核置換反応により得られる、請求項1〜8のいずれかに記載のポリマー。
【請求項10】
ポリマーが、1種または2種以上の芳香族二フッ化物類を含む物質の反応により得られる、請求項9に記載のポリマー。
【請求項11】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体がドープされている、請求項1〜10のいずれかに記載のポリマー。
【請求項12】
ポリマーに、1種または2種以上の酸がドープされている、請求項1〜10のいずれかに記載のポリマー。
【請求項13】
1種または2種以上の酸が、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、ヘテロポリ酸類、アンチモン酸、ホスファトアンチモン酸およびこれらの組み合わせから選択される、請求項12に記載のポリマー。
【請求項14】
1種または2種以上の酸がリン酸を含む、請求項12に記載のポリマー。
【請求項15】
ポリマーが膜の形態である、請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー。
【請求項16】
膜が、ACインピーダンスを用いて測定して、室温で10−2S/cmの範囲内のイポ伝導性を有する、請求項15に記載のポリマー。
【請求項17】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約100重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項18】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約150重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項19】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約200重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項20】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約250または300重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載のポリマーを含む、燃料電池膜組立部。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載のポリマーまたは組立部を含む、燃料電池。
【請求項23】
アノード−膜−カソードサンドイッチの膜電極組立部を含む、請求項21または22に記載の組立部または燃料電池。
【請求項24】
サンドイッチ構造中の各々の電極が、(i)基板層、(ii)ガス拡散層および(iii)反応層を含む別個の層を含む、請求項23に記載の組立部または燃料電池。
【請求項25】
組立部または燃料電池が、水素燃料電池または燃料電池組立部である、組立部または燃料電池。
【請求項1】
1)1つもしくは2つ以上のテトラメチルビフェニル基または2)1つもしくは2つ以上の主鎖ピリジン単位を含む、1種または2種以上の芳香族ポリエーテルポリマーを含む、ポリマー材料。
【請求項2】
ポリマーが1つまたは2つ以上のテトラメチルビフェニル基を含む、請求項1に記載のポリマー材料。
【請求項3】
ポリマーが、以下の式(I):
【化1】
式中、各々のXは、独立して、化学結合、随意に置換されたアルキレン、随意に置換された芳香族基、ヘテロ結合(O、SもしくはNH)、カルボキシルまたはスルホンであり;
各々のYは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位であり;および
nは、正の整数である、
で表される構造を含む、請求項1または2に記載のポリマー材料。
【請求項4】
ポリマーが、以下の式(II):
【化2】
式中、各々のXは、独立して、化学結合、随意に置換されたアルキレン、随意に置換された芳香族基、ヘテロ結合(O、SもしくはNH)、カルボキシルまたはスルホンであり;
各々のYは、同一であるかまたは異なっており、スルホン、カルボニルまたはフェニルホスフィンオキシド単位であり;
nは、正の整数である、
で表される構造を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー材料。
【請求項5】
アルキレン基が、1〜10個の炭素原子を有し、芳香族基が、5員環または6員環の炭素環式アリールまたは芳香環もしくは芳香族複素環であり、これが随意に、1〜4個の部分、例えば水素、ハロゲン原子、アミノ基、水酸基、シアノ基またはアルキル基、例えばメチルもしくはエチル基により置換されていてもよい、請求項3または4に記載のポリマー。
【請求項6】
ブロック、ランダム、周期的および/または交互ポリマーの形態の1種または2種以上のポリマーを含む、請求項1〜5のいずれかに記載のポリマー。
【請求項7】
2種または3種以上の別個のポリマーを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー。
【請求項8】
式(I)で表される構造を有する第1のポリマー、および式(II)で表される構造を有する第2のポリマーを含む、請求項4に記載のポリマー。
【請求項9】
芳香族求核置換反応により得られる、請求項1〜8のいずれかに記載のポリマー。
【請求項10】
ポリマーが、1種または2種以上の芳香族二フッ化物類を含む物質の反応により得られる、請求項9に記載のポリマー。
【請求項11】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体がドープされている、請求項1〜10のいずれかに記載のポリマー。
【請求項12】
ポリマーに、1種または2種以上の酸がドープされている、請求項1〜10のいずれかに記載のポリマー。
【請求項13】
1種または2種以上の酸が、硫酸、リン酸、塩酸、硝酸、ヘテロポリ酸類、アンチモン酸、ホスファトアンチモン酸およびこれらの組み合わせから選択される、請求項12に記載のポリマー。
【請求項14】
1種または2種以上の酸がリン酸を含む、請求項12に記載のポリマー。
【請求項15】
ポリマーが膜の形態である、請求項1〜14のいずれかに記載のポリマー。
【請求項16】
膜が、ACインピーダンスを用いて測定して、室温で10−2S/cmの範囲内のイポ伝導性を有する、請求項15に記載のポリマー。
【請求項17】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約100重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項18】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約150重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項19】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約200重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項20】
ポリマーに、1種または2種以上のイオン伝導体が、約250または300重量パーセント以上の量でドープされている、請求項11〜16のいずれかに記載のポリマー。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに記載のポリマーを含む、燃料電池膜組立部。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載のポリマーまたは組立部を含む、燃料電池。
【請求項23】
アノード−膜−カソードサンドイッチの膜電極組立部を含む、請求項21または22に記載の組立部または燃料電池。
【請求項24】
サンドイッチ構造中の各々の電極が、(i)基板層、(ii)ガス拡散層および(iii)反応層を含む別個の層を含む、請求項23に記載の組立部または燃料電池。
【請求項25】
組立部または燃料電池が、水素燃料電池または燃料電池組立部である、組立部または燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【公表番号】特表2010−502809(P2010−502809A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527229(P2009−527229)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004294
【国際公開番号】WO2008/038162
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(509069272)アドヴェント テクノロジーズ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004294
【国際公開番号】WO2008/038162
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(509069272)アドヴェント テクノロジーズ (2)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]