説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法

【課題】 品質安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】 (A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、芳香族ポリカーボネート樹脂の見かけ密度に対して80〜110%の見かけ密度を有する(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂10〜150質量部と、(C)熱安定剤0.01〜1質量部を含有する成分を溶融混練する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の少なくとも一方に、粉砕品を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、優れた機械的性質を有しており、自動車分野、OA機器分野、電気・電子分野等の原材料として、工業的に広く利用されているが、一方で、流動性、耐薬品性、表面硬度が低い性質を有する。これらの性質を改善するため、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)等のスチレン系樹脂やポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂との樹脂組成物としたポリマーアロイが多数提案されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−3060号公報
【特許文献2】特開2007−169616号公報
【特許文献3】特開平10−298422号公報
【特許文献4】特開2008−24863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
芳香族ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂との樹脂組成物ペレットを混練溶融押し出しによって製造する場合、組成のばらつきを抑制するため、予めブレンダーで樹脂を十分に攪拌してから押出機に供給する。しかし、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂が比較的細かなフレーク状であり、他の熱可塑性樹脂が比較的大きなペレット状である場合のように、樹脂の粉体特性が大きく異なると、ブレンダーで十分攪拌しても、ブレンダーから押出機に至る経路(フィーダーやホッパーシュート)において分級が生じる。具体的には、ある製造バッチでみると、粒径の小さい材料の比率が当初は大きく、徐々に逆転していく。その結果、ペレット毎の組成にばらつきが生じ、樹脂組成物の品質が安定しないという問題が生じる。
【0005】
1つの成型品に使用されるペレットの数が多ければ、成型時にペレットが溶融された際にペレット毎の組成のばらつきが平均化されるため、ペレット毎の組成のばらつきが成型品の品質に与える影響は少ない。しかし、成型品に用いられるペレットの数が少なくなればなるほど、個々のペレットの組成のばらつきが成型品の性質に与える影響が大きくなる。
【0006】
このような問題を解決しようとした場合、粉体特性が大きく異なる樹脂をそれぞれ独立したフィーダーでホッパーシュートに供給すれば、フィーダーでの分級が生じないため、ペレット毎の組成のばらつきを抑制することが可能であろうと考えられる。
しかし、フィーダーを複数設ける場合、フィーダーのコストが上昇することはもとより、押出機の設置面積が非常に大きくなるといった問題がある。また、その押出機を複数のフィーダーを用いて製造する樹脂組成物にのみ用いる場合を除き、一方のフィーダーが用いられない場合もあり、稼働効率の点からも望ましくない。
【0007】
さらに、押出機によるペレット製造時には、樹脂だけでなく、各種の添加剤を用いることが多いが、添加剤は樹脂よりも小さい粉体のようなものも多い。このような添加剤を用いる場合には、樹脂を独立したフィーダーで供給しても、より細かな添加剤を均等に分散させることは困難であり、やはりペレット単位での組成のばらつきを抑制することが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、品質安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することが可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂との樹脂組成物を生成する際、一方の樹脂の見かけ密度が他方の樹脂の見かけ密度と特定の関係を満たすとともに、少なくとも一方の樹脂が粉砕品である場合に、混合してフィードしてもペレット毎の組成のばらつきが抑制可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上述の目的は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂10〜150質量部、(C)熱安定剤0.01〜1質量部を含有する成分からなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法であって、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の見かけ密度に対して80〜110%の見かけ密度を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂を用い、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の少なくとも一方に、粉砕品を用い、これらの成分を溶融混練することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、品質安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適かつ例示的な実施形態について具体的に説明する。
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂として使用可能な芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物(または芳香族ヒドロキシ化合物と少量のポリヒドロキシ化合物)を、ホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)または溶融法(エステル交換法)などの従来法によることができる。また、溶融法で製造され、末端基のOH基量を調整して製造された芳香族ポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0013】
本発明において使用可能な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−P−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAである。
【0014】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部に代えて、次に挙げる化合物を使用すればよい。化合物の具体例としては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどが挙げられる。これら化合物の使用量は、0.01〜10モル%の範囲であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、25℃の温度で測定した溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、10,000〜50,000の範囲のものが好適であり、15,000〜30,000の範囲のものがさらに好適であり、17,500〜27,000の範囲のものが最も好適である。粘度平均分子量が10,000未満では機械的強度に劣り、50,000を越えると成形加工性に劣るので好ましくない。
【0016】
本発明において使用可能な芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂に特に制限はない。例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶性ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性エラストマー等の公知の熱可塑性樹脂がいずれも使用できる。これらの樹脂は単独で使用することも、2種以上を併用することも可能である。
このような熱可塑性樹脂の中でも、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、液晶性ポリエステル等のポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0017】
好ましく用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン系単量体の単独重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルと他の共重合可能な単量体との共重合体、ゴム成分の存在下にスチレン系単量体等を重合させたスチレン系グラフト共重合体、及びゴムの存在下にスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体等が挙げられ、具体例としては、GPPS樹脂、AS樹脂、MS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、HIPS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂等が挙げられる。本発明におけるスチレン系共重合体の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0018】
スチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体としては、好ましくは、ゴム成分の存在下に少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体、およびゴム成分の存在下少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなるグラフト共重合体と少なくともスチレン系単量体と(メタ)アクリロニトリルとを重合してなる共重合体とからなるスチレン/(メタ)アクリロニトリル系共重合体等が挙げられる。
【0019】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンが挙げられる。スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられ、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。スチレン系単量体および(メタ)アクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、スチレン系単量体と共重合可能な単量体と同じものが使用できる。
【0020】
ゴム成分としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴムを用いることができる。ゴム成分の具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコンゴム等が挙げられ、好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられる。(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ブタジエン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体またはブタジエン/スチレン/(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルの割合は、ゴム成分の重量の30質量%以下であることが好ましい。
【0021】
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルゴムが挙げられ、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルエステルゴムの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステルゴムには、任意に、架橋性のエチレン性不飽和単量体が用いられていてもよく、架橋剤としては、例えば、アルキレンジオール、ジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
【0022】
本発明の製造方法によって製造する芳香族ポリカーボネート樹脂化合物において、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して10〜150質量部であることが好ましく、20〜120質量部であることがさらに好ましく、30〜100質量部が特に好ましい。
【0023】
上述の通り、本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂との樹脂組成物を生成する際、一方の樹脂の見かけ密度が他方の樹脂の見かけ密度と特定の関係を満たすとともに、少なくとも一方の樹脂に粉砕品を用いることを特徴とする。
【0024】
具体的には、JIS K7365に準じて測定した見かけ密度において、芳香族ポリカーボネート樹脂の見かけ密度に対する、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の樹脂の見かけ密度が80%以上、特には90%以上であることが好ましく、かつ、110%以下、特には105%以下であることが好ましい。見かけ密度が80%未満又は110%を超えると、混合材料の搬送経路(フィーダ、ホッパーシュート)での分級を抑制する効果が小さくなり、同一バッチ内での組成比のばらつきが大きくなる。その結果、ペレット化した際にペレット毎の組成がばらつくという従来技術の問題点を十分改善できない。
【0025】
また、本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂のいずれかが粉砕品であることを特徴とする。粉砕品とは、樹脂を粉砕によって所望の粒径に調整したものを意味する。粉砕前の樹脂の形状は特に制限されないが、例えばペレット形状やシート形状のものであってよい。また、粉砕方法にも特に制限はなく、例えば回転刃によって材料を粉砕する一般的な粉砕機を用いることができる。
【0026】
粉砕品は表面形状が複雑になるため表面積が大きく、添加剤などの微粉末が表面に付着しやすい。そのため、形状の均一性が高い樹脂を用いる場合に比べ、樹脂組成物ペレット中の添加剤の割合がばらつきにくいという効果が得られる。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂のいずれに粉砕品を用いても良いが、粉末状の添加剤の分散性などを考慮すると、粉砕前の形状が大きい樹脂を粉砕して用いることが好ましい。例えば、フレーク状の樹脂と、一般にフレークよりも大きなペレット状の樹脂から樹脂組成物を製造使用とする場合、ペレット状の樹脂組成物を粉砕して、上述の見かけ密度の関係を満たす粉砕品とすることが好ましい。もちろん、両方の樹脂について粉砕品を用いても良い。
【0028】
また、本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の粒度分布の少なくとも一方はJIS K0069に準拠したふるい分け試験による粒度分布において、2.0mmオンの粒度が10%以下であることが好ましく、8%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが特に好ましい。また、1.68mmパスの粒度が50%以上であることが好ましく、55%以上であることが更に好ましい。
これらの範囲を満たすことにより、混合材料の搬送経路(フィーダ、ホッパーシュート)での分級を抑制することができ、同一バッチ内での組成比のばらつきが小さくなる。その結果、ペレット化した際のペレット毎の組成のばらつきも小さくなる。
【0029】
(熱安定剤)
本発明が製造する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、熱安定剤を用いる。熱安定剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.001〜1質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部配合する。配合量が0.001質量部未満の場合は熱安定剤としての効果が不十分であり、1質量部を超えると耐加水分解性が悪化する場合がある。
【0030】
本発明において用いることのできる熱安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系酸化防止剤から選ばれた少なくとも1種である。
(リン系安定剤の記載)
リン系安定剤としては、炭素数1〜25のアルキル基を有していてもよいフェノールでエステル化された亜リン酸エステル化合物、亜リン酸又はテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイトを用いるのが好ましい。
【0031】
亜リン酸エステル化合物の具体例としては、トリオクチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0032】
好ましくは、特にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどを用いる。
【0033】
(酸化防止剤)
本発明においては、必要に応じて酸化防止剤をさらに用いることができる。酸化防止剤に特に制限はないが、ヒンダードフェノール系化合物が好適に用いられる。代表的な例としてはペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3'、3",5,5',5"−ヘキサ−tert−ブチル−a,a',a"−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0034】
これらのうち、特にペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキ−シ−2,)5−メチルフェニル]プロピオニルオキシ}1,1−ジメチルエチル−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが好ましい。
【0035】
酸化防止剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.01〜1質量部であり、0.02〜0.5質量部が好ましい。配合量が0.01質量部より少ない場合には、酸化防止剤としての効果が不十分であり、1質量部を超えて添加しても酸化防止剤としての効果は上昇しない。
【0036】
本発明では、さらに、必要に応じて、離型剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料、染料、他のポリマー、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は一種または二種以上を配合してもよい。
【0037】
(離型剤)
離型剤を配合する場合は、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、ポリシロキサン系シリコーンオイルから選ばれた少なくとも1種の化合物等芳香族ポリカーボネート樹脂に使用されるものが用いられる。これらの中で、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステルから選ばれた少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0038】
脂肪族カルボン酸としては、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸、特に、脂肪族飽和モノカルボン酸が好ましい。脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコール、特に脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0039】
離型剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して2質量部以下であり、好ましくは1質量部以下である。2質量部を超えると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。離型剤は1種でも使用可能であるが、複数併用して使用することもできる。
【0040】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤を配合する場合は、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系などが配合できる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2,4−ジヒドロキジ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2',4,4'−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0041】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2'−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジターシャリブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−ターシャリブチル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0042】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例としては、フェニルサルチレート、2,4−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジターシャリ−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケートなどが挙げられる。
【0043】
紫外線吸収剤には、上に挙げた4種類の化合物類以外に紫外線の保有するエネルギーを、分子内で振動エネルギーに変換し、その振動エネルギーを、熱エネルギーなどとして放出する機能を有する化合物が含まれる。さらに、酸化防止剤または着色剤などと併用することによって相乗効果を発揮するもの、またはクエンチャーと呼ばれる、光エネルギー変換剤的に作用する光安定剤などを併用することもできる。
【0044】
紫外線吸収剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲で選ばれる。紫外線吸収剤が0.01質量部未満であると、その効果が不十分であり、2質量部を越えると成形品の黄味が強くなって調色性が劣ったり、また成形品表面にブリードアウトし易い傾向がある。紫外線吸収剤の好ましい配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.05〜1.5質量部であり、さらに好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0045】
上述の成分を押出機で溶融混練して芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する際、
各成分の混合は押出機に投入される前の任意の段階で配合することができる。例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー、ブレンダーによって全成分を配合したのち、必要に応じてフィーダーを介してホッパーシュートに投入し、押出機に供給してもよい。押出機には一軸押出機、二軸押出機などが使用出来る。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例に使用した原材料は以下の通りである。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
PC1:芳香族ポリカーボネート樹脂(ユーピロン(登録商標)S−3000FN、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)、界面重合法で得られたフレーク、見かけ密度 0.565g/cm3 、安息角 37°
(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂
ABS1:ABS樹脂(日本エイ アンド エル社製「商品名:サンタック UT−61B」)、塊状重合法で得られたペレット、見かけ密度 0.679g/cm3 、安息角 25°
ABS2:ABS1をホーライ社製粉砕機(BO−360)を用い、130kg/hrで処理したもの、見かけ密度 0.562g/cm3 、安息角 42°
熱可塑性エラストマー:ローム&ハース社製「商品名:パラロイドEXL2603」、粉末状、見かけ密度 0.469g/cm3 、安息角 31°
なお、見かけ密度は、JIS K7365に準拠して測定した。安息角はJIS R9301―2―2に準拠して測定した。
(C)熱安定剤:ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チバ社製「商品名:イルガノックス1010」、粉末状
(D)離型剤:ペンラエリスリトールジステアリレート、日油社製「商品名:ユニスターH476D」、粉末状
【0047】
上述の成分のうち、芳香族ポリカーボネート樹脂及び、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の粒度分布を表1に示す。なお、粒度分布はJIS K0069に準拠して測定した。
【表1】

【0048】
上記の成分を、表2に示した配合組成で合計650kgとなるよう一括してコンテナに投入し20分間ブレンド後、定量フィーダーに供給する。57mm二軸押出機(大阪精機製)によりバレル設定温度240℃で混練し、160kg/hで押し出してペレット状の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
このペレットを、生産開始後5分後に最初のサンプリングを行い、その後30分間隔でサンプリングし、100℃で5時間乾燥した後、射出成形機SG75−サイキャップ・MII(住友重機械工業(株)製)によりシリンダ温度250℃、金型温度60℃、成形サイクル1分間の条件で各種試験片を射出成形し、引張伸びの評価を行った。
また、同様にサンプリングしたペレットを用いて、MVR及びMVRのばらつきの評価を行った。
さらに、また、得られたペレットを用いて、焼け異物の数の評価を行った。
【0049】
(1)引張伸びおよび引張伸びのばらつき:ISO 527に準拠してn=10で測定し、平均値および標準偏差を計算した。
(2)MVRおよびMVRのばらつき:ISO 1133に準拠して250℃、2160g荷重で測定した。得られた値について平均値および標準偏差を計算した。
(3)焼け異物の数
生産開始3時間後にサンプリングしたペレット100gを、熱風循環式乾燥機を用いて100℃で5時間乾燥し、260℃の条件で直径約20mmの円盤状にプレスしたもの4枚(1枚25g相当)の両面について、最大長さが0.25mm以上の異物数を目視でカウントした。表2には、異物数の合計を記載した。
【0050】
実施例および比較例の配合組成及び評価結果を表2に示す。
【表2】

【0051】
表2、特に引張伸びのばらつき及びMVRのばらつきの値から明らかなように、本発明の製造方法によれば、時間経過によらず、安定した組成のペレットを製造することが可能である。
【0052】
また、本発明の製造方法によれば、焼け異物の数も非常に少なくできることがわかった。これは、ペレット形状の樹脂は粉砕品よりも溶融するまでの時間が長く、シリンダに溶融しない状態で残って焼け異物の元になりやすいこと、溶融するまでの比較的堅い状態でシリンダに残った焼け異物をそぎ落としやすいことに対し、粉砕品を用いた場合には速やかに溶融するため、焼け異物の元になりにくく、さらに焼け異物をそぎ落とすことも少ないからであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂10〜150質量部、(C)熱安定剤0.01〜1質量部を含有する成分からなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法であって、
(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の見かけ密度に対して80〜110%の見かけ密度を有する芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂を用い、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の少なくとも一方に、粉砕品を用い、
前記成分を溶融混練することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂及び(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂の少なくとも一方の粒度分布が、以下の(1)(2)を満たすことを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
(1)2.0mmオンの粒度が10%以下
(2)1.68mmパスの粒度が50%以上
【請求項3】
(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂として、少なくともスチレン系樹脂を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
(B)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂として、少なくともABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)系樹脂を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕品が、塊状重合法で製造されたペレット形状品を粉砕して製造されたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、さらにエラストマー(D)1〜20質量部を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法で得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる芳香族ポリカーボネート樹脂成形品。

【公開番号】特開2011−1407(P2011−1407A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143675(P2009−143675)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】